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【事件名】「超時空要塞マクロス」の著作権確認事件B(2)
【年月日】平成15年9月25日
 東京高裁 平成15年(ネ)第1107号 著作権確認等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成13年(ワ)第6447号)
 (平成15年9月25日 口頭弁論終結)

判決
控訴人 株式会社スタジオぬえ
控訴人 株式会社ビックウエスト
上記2名訴訟代理人弁護士 新保克芳
同 國廣正
同 五味祐子
被控訴人 株式会社竜の子プロダクション
訴訟代理人弁護士 大野幹憲


主文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 当審における訴訟費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人ら
(1) 原判決中、控訴人ら敗訴の部分を取り消す。
(2) 上記部分に係る被控訴人の請求をいずれも棄却する。
2 被控訴人
 主文と同旨。
第2 事案の概要
 控訴人株式会社スタジオぬえ(以下「控訴人スタジオぬえ」という。)は、作家、画家、漫画家等のための渉外、経理事務、取材等の代行業務等を行う企画会社である。
 控訴人株式会社ビックウエスト(以下「控訴人ビックウエスト」という。)は、テレビ、ラジオの宣伝映画等の企画及び製作等を業とする会社である。
 被控訴人は、昭和40年ころから「宇宙エース」、「マッハGoGoGo」、「おらぁグズラだど」、「ハクション大魔王」、「昆虫物語みなしごハッチ」、「科学忍者隊ガッチャマン」などのアニメーションを製作し、公表してきた、アニメーション製作会社である。
 被控訴人は、「超時空要塞マクロス」と題する、別紙目録記載1ないし36のアニメーション映画(以下「本件テレビアニメ」という。)につき、主位的には、著作権法15条1項により著作者人格権及び著作権を取得したと主張し、予備的には、同法29条1項により著作権を取得したと主張して、これらの主張を認めず、本件テレビアニメの著作者人格権及び著作権を有するのは自分達であると主張して争う控訴人らを相手に、@被控訴人が本件テレビアニメの著作者人格権及び著作権を有することを確認する裁判、及び、A控訴人らに、被控訴人が本件テレビアニメを公に上映すること等を妨害しないよう命じる裁判を求めた。
 原判決は、被控訴人は、著作権法15条1項により本件テレビアニメについての著作者人格権及び著作権を取得したとはいえないとして主位的主張を排斥した上で、被控訴人は、著作権法29条1項により本件テレビアニメについての著作権を取得した、として予備的主張を認め、被控訴人の確認請求を、被控訴人が本件テレビアニメの著作権(著作者人格権を除く。)を有することの確認を求める限度で認容し、著作者人格権の確認請求を棄却した。妨害行為の差止めの請求については、控訴人らに被控訴人の著作権の行使を妨害する行為があったとは認められない、として、これを棄却した。
 控訴人らは、原判決が被控訴人の著作権(著作者人格権を除く。)確認請求を認容したことを不服として控訴した。
 当事者間に争いのない事実等並びに争点及び当事者の主張は、次のとおり付加するほか、原判決の事実及び理由「第2 事案の概要」、「第3 争点に関する当事者の主張」記載のとおりであるから、これを引用する。
1 当審における控訴人の主張の要点
(1) 原判決は、被控訴人は、著作権法29条1項の映画製作者に該当するから、映画の著作権を有する、と判断した。
 著作権法2条1項10号は、「映画製作者」の定義として、「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者」と規定している。原判決は、被控訴人が「映画製作者」に該当する理由として、@株式会社毎日放送(以下「毎日放送」という。)と製作契約を締結することにより本件テレビアニメの製作意思を有するに至ったこと(著作権法2条1項10号の「発意」を想定していると思われる。)、A自ら製作費用を負担して自己の計算により本件テレビアニメの製作を行い、本件テレビアニメの製作の発注者である毎日放送に対して、その製作の進行管理及び完成についての責任を負っていたこと(著作権法2条1項10号の「責任」を想定していると思われる。)を挙げる。しかし、この判断は誤りである。
(2) 「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者」とは、当該映画の「製作主体」であり、当該映画の製作について、法律上の権利・義務が帰属する主体であって、経済的な収入・支出の主体になる者のことである。
ア 製作主体について
 控訴人ビックウエストの前の代表者であったA(以下「A」という。)は、本件テレビアニメにつき、製作費を調達し、放送枠を確保し、アニメーション化作業を行うプロダクションを選定してテレビアニメ化を進めた。このような行為を行った控訴人ビックウエストをこそ、本件テレビアニメの「製作主体」というべきである。
イ「発意」について
 原判決の判断は、控訴人スタジオぬえからの働きかけを受けて、本件テレビアニメ作品を完成させようとしてスポンサー探しや放送枠の獲得などに奔走し、さらに、アートランドだけでは不安なので、アニメ製作に関して被控訴人にも声をかけた控訴人ビックウエストの存在を全く考慮していない点において、誤りである。控訴人ビックウエストは、本件テレビアニメの国内商品化権や番組のリピート販売に際して、手数料を受けるほか、商品化権では収益の30パーセント、リピート販売では50パーセントの分配を受けることとなっている(本件テレビアニメからの収益の分配を定めた覚書である甲第4号証参照)。控訴人ビックウエストが単なる代理店にとどまらないことは、明らかである。
 本件は、控訴人スタジオぬえからの働きかけを受けて、本件テレビアニメを完成させようとした控訴人ビックウエストが「発意」し、そこに、アニメ製作会社である被控訴人が「参加」しているとみるべきである。
 本件テレビアニメの完成、供給については、控訴人ビックウエストが毎日放送と契約したものであり、この基本的な枠組みの中で、被控訴人と毎日放送との契約が存在するにすぎない。このような形式的な事実のみでは、被控訴人が本件テレビアニメの製作を「発意」したとみることはできないというべきである。
ウ「責任」について
 原判決は、「原告が毎日放送から制作費の支払を受けたのは、昭和57年10月以降であること(甲2)、前記認定のとおり、原告は、同年5月に本件テレビアニメの製作を始めた直後から、制作作業に従事したスタッフに対し報酬を支払っているのであるから、約5か月間、原告の製作費用の支払が先行していること、毎日放送の制作費の支払は、後払いであるから、本件テレビアニメの制作については、常に原告の支払が先行していること、原告が毎日放送を通じて受け取る放映料分(その原資は、被告ビックウエストが広告主などから支払を受ける広告料)だけでは、原告が負担する制作費用として十分でないため、原告は被告らとの間で前記商品化権等に関する覚書(甲4)を締結し、制作費用の回収を図ろうとしていること等の事実に照らすならば、本件テレビアニメの制作に関して経済的な危険を負担しているのは原告であると判断するのが相当である。」(18頁下から3行〜19頁10行)と判断した。
 しかし、この論理によれば、実質的な負担者にかかわりなく、前払を受けずに製作された物、あるいは、常に立替払が先行して製作された物は、後に代金が支払われても、いつまでも製作者の物であるということになる。この結論はおかしい。
 著作権法29条1項は、著作者との関係では、著作権の帰属に関する特則となっている。その理由の一つは、映画製作者が資金負担をしているということである。したがって、映画について、その権利の帰属主体がだれであるかは、建築物の請負などの場合と同様に、資金の実質的な負担者がだれであるかによって決せられるべきである。
 本件では、毎日放送に対する毎月4275万7400円の支払義務を負っているのは控訴人ビックウエストであり、その支払の中から被控訴人に製作費が支払われ、被控訴人は、その中から製作スタッフに支払を行う。
 控訴人ビックウエストと毎日放送との約束では、スポンサーからの取立ての有無にかかわらず、上記金額を支払うことが義務とされており(乙第6号証)、その支払を保証するため、5000万円が控訴人ビックウエストの負担で預託されている。控訴人ビックウエストは、スポンサーからの収入がなくなっても、本件製作費を含む毎日放送への支払を行う義務があり、その支払の担保も提供していたのであるから、資金を実質的に負担していたということができる。
 控訴人ビックウエストが被控訴人に依頼した経緯や、同控訴人が被控訴人に対し製作費の不足を後の配分で支払うことまで約束していたことからすれば、仮に本件テレビアニメが10月になって放送されないことになった場合でも、被控訴人が前払した製作費は、最終的には控訴人ビックウエストが負担したはずである。被控訴人は、控訴人ビックウエストが最終的に資金を負担することを約束しているからこそ、前払を受けないで一時的な立替払をしているにすぎない。控訴人ビックウエストが最終的な資金負担の約束をしていなければ、被控訴人がアニメーション化の作業を引き受けるはずがない。
 上に述べたとおり、被控訴人には資金負担の危険はない。原判決は、形式的な負担と実質的な負担とを取り違えている。
 作品完成の責任についても、毎日放送に対する被控訴人の義務だけでなく、スポンサー会社や本件企画を持ち込んだ控訴人スタジオぬえらに対する控訴人ビックウエストの義務も忘れてはならない。
 製作会社が前払を受けずに製作しているのに、著作権は当該製作会社にはない、ということは、事実として広く存在する。原判決の論理では、製作主体が実際の製作作業を第三者に委託する場合、著作権を確保するため、常に前払をしなければならなくなってしまう。これは、業界の実情に反する(乙第30号証)。
 以上のとおりであるから、本件テレビアニメについては、控訴人ビックウエストを、著作権法29条1項の「映画製作者」とすべきである。
2 当審における被控訴人の主張の要点
 本件テレビアニメの著作権の帰属についての原判決の判断に誤りはない。
 スポンサーが広告代理店である控訴人ビックウエストを通じて毎日放送に支払った金員が、毎日放送と被控訴人との間で締結された映画製作契約に基づき被控訴人に支払われたとしても、そのことだけでは、控訴人ビックウエストが費用負担をしたことにはならない、というべきである。
(1) 控訴人ビックウエストは、広告会社として、スポンサー会社とテレビ局である毎日放送との間に入って、スポンサー会社から預かった広告料及び電波料をテレビ局に納める。毎日放送は、スポンサー会社に対し、コマーシャルを放映する義務を負う。広告会社である控訴人ビックウエストは、その手数料を取得する。毎日放送は、映画製作会社である被控訴人との間で映画製作契約(甲第2、第3号証。以下「本件製作契約」という。)を締結し、被控訴人に製作費を支払って映画を製作させてこれを納入させ、映画を放映する。
 本件において、広告会社にすぎない控訴人ビックウエストがスポンサーを募る行為をしたからといって、そのことによって、同控訴人が本件テレビアニメの製作過程に法的に関与したことになるものではないことは、明らかである。
(2) 本件映画の製作は、被控訴人の代表者であるBが、被控訴人の従業員であるCをその製作のプロデューサーに選任し、現場での製作プロデューサーにアニメフレンドの従業員であるDを選任し、具体的な作業は、被控訴人の100パーセント子会社のアニメ・プロダクション(アニメフレンド)で行われた。映画製作のための延べ200名以上の製作スタッフの雇用も、これらのスタッフに対する報酬の支払も、映画の完成に向けてスタッフに指揮命令をするのも、すべて、被控訴人ないしC及びDが行った。
 本件テレビアニメの製作に当たっては、被控訴人のグループの従業員のほかにも、外部委託ないし下請の形式で多くの協力者の助けを借りてはいる。しかし、これらの依頼を行ったのも、資金を負担したのも、すべて被控訴人であった。
 毎日放送からは、本件製作契約に基づき、本件テレビアニメの製作費が支払われることになっていた。しかし、入金は、本件テレビアニメの放映後であって、それまでは、被控訴人が製作費を捻出し、その支払の危険を負担していた。
 控訴人らは、控訴人ビックウエストのAがスポンサーから資金を集めて、製作費を負担したと主張する。しかし、Aが集めた資金は、あくまで放送局に対して支払われる宣伝広告費(スポンサーの拠出金)であり、これは、製作現場で負担され、拠出された金員とはその性質が全く異なる。このような製作のための費用を控訴人ビックウエストが負担したとみる余地はない。
 放映後にその成功を確認して初めて出資するならば、これをリスクということはできない。毎日放送は、被控訴人に、このリスクと費用を負担する能力があるために、同人に対し、本件映画の製作の依頼を行ってきたのである。
 結果的に、本件テレビアニメは完成し放映後にヒットしたから、その製作費はスポンサーに宣伝広告費を拠出させた控訴人ビックウエストが負担した、という理屈がまかりとおるならば、映画製作のリスクを事実上負担することなく、控訴人ビックウエストが主張する簡単な「企画」だけで、その製作の結果である著作権を取得することができる、という本末転倒の議論を認めることになってしまうのである。
第3 当裁判所の判断
 当裁判所も、原判決と同じく、被控訴人の著作権(著作者人格権を除く。)確認請求は理由がある、と判断する。その理由は、次のとおり付加するほか、原判決の事実及び理由「第3 当裁判所の判断」(判決注・「第3」は「第4」の誤記であると認める。)記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決の判断の骨子
 著作権法16条は、「映画の著作物の著作者は、その映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者を除き、制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする。」と規定し、
 著作権法29条1項は、「映画の著作物(第一五条一項、次項又は第三項の適用を受けるものを除く。)の著作権は、その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、当該映画製作者に帰属する。」と規定し、
 同法2条1項10号は、「映画製作者」につき、「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者をいう。」と規定している。
 原判決は、@本件テレビアニメにつき、その「製作に発意と責任を有する者」である「映画製作者」に該当するのは被控訴人であること、A本件テレビアニメの全体的形成に創作的に寄与したのは、総監督を担当したE(以下「E」という。)であり、Eは、映画製作者である被控訴人に対し、本件テレビアニメの製作に参加することを約束していたものであること、を理由として、被控訴人は、著作権法29条1項の規定により本件テレビアニメについての著作権を取得した、と判断した。
2 被控訴人の「映画製作者」該当性について
 控訴人らは、本件テレビアニメにつき、その「製作に発意と責任を有する者」である「映画製作者」は被控訴人である、とした原判決の上記判断は、誤りである、と主張する。
(1) 映画の著作物の「著作権」(著作者人格権を除く。)は、「映画製作者」に帰属する、とする著作権法29条が設けられたのは、主として劇場用映画における映画会社ないしプロダクションを映画製作者として念頭に置いた上で、@従来から、映画の著作物の利用については、映画製作者と著作者との間の契約によって、映画製作者が著作権の行使を行うものとされていたという実態があったこと、A映画の著作物は、映画製作者が巨額の製作費を投入し、企業活動として製作し公表するという特殊な性格の著作物であること、B映画には著作者の地位に立ち得る多数の関与者が存在し、それらすべての者に著作権行使を認めると映画の円滑な市場流通を阻害することになることなどを考慮すると、そのようにするのが相当であると判断されたためである(当裁判所に顕著な事実)。
 「映画製作者」の定義である「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者」(著作権法2条1項10号)とは、その文言と著作権法29条の上記の立法趣旨からみて、映画の著作物を製作する意思を有し、同著作物の製作に関する法律上の権利・義務が帰属する主体であって、そのことの反映として同著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者のことである、と解すべきである。
(2) 被控訴人は、放送事業者である毎日放送との間で、本件テレビアニメの第1話ないし第21話の製作と放送について、昭和57年9月30日付けで次の内容を含む契約を締結し(甲第2号証)、昭和58年3月10日付けで、第22話ないし第36話の製作と放送について同様の契約を締結した(甲第3号証)。
ア「乙(判決注・被控訴人。以下同じ。)は甲(判決注・毎日放送。以下同じ。)の放送のため甲の台本、配役、音楽に関する意見を尊重し、且つ、台本およびラッシュフィルムに関しては予めその考査を得ることを条件として放送時間30分枠21回分を16ミリカラートーキーフイルムにより制作する。」(第1条)
イ「甲は本映画を日本国内において独占的にテレビジョン放送(他局販売を含む)(以下放送という。)する権利を取得する。」(第2条1項)
ウ「甲は乙に対し本映画の制作費として1本につき、金5、500、000円也を、乙が甲に毎月20日までに納品した本数分に相当する金額を翌月15日に支払うものとする。」(第3条)
エ「本映画の乙から甲への納品及び甲から乙への支払いのスケジュールは次の通りとする。
 月別 納品本数
 昭和57年 9月 2本
   57年10月 4本
   57年11月 4本
   57年12月 4本
   58年 1月 3本
   58年 2月 3本
   58年 3月 1本」(第4条)
オ「本映画の放送開始予定は昭和57年10月第1週とし、原則として毎週1回放送するものとする。
 乙は前条所定のスケジュールに従って本映画のプリント各1本を放送の10日前までに甲に納入する。」(第5条1項、2項)
カ「本映画の制作・放送および前条の上映にかかわる著作権、監督、声優等一切の諸権利に対する処理については、すべて乙の責任と負担において行う。」(第8条)
キ「甲または乙のいずれか一方が本契約に違反したときは相手方に催告のうえ本契約を解約し、且つ、被った損害の賠償を請求することができる、
 前項の乙の契約違反により第5条1項に規定する甲の放送が不能になった場合、乙は甲に対する前項の損害賠償の責に任ずる。」(第15条1項、2項)
(3) 上に認定した本件製作契約の契約内容によれば、毎日放送は、被控訴人に対し、本件テレビアニメの製作費用として、1話につき550万円を支払う義務を負うものとされていること、被控訴人は、毎日放送に対し、本件テレビアニメを約定の期限までに作成して納品する義務を負い、この義務に違反した場合には、損害賠償の責を負うものとされていることが明らかである。
 甲第7、第8号証及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人は、本件テレビアニメの製作に参加してからは、製作作業をしたアニメフレンド、控訴人スタジオぬえ、アートランド等に対し、製作作業に対する報酬を支払っていた(アニメフレンド以外の者に対しては、アニメフレンドを通じて支払っていた。)ことが認められる。
 上に述べたところによれば、被控訴人は、本件テレビアニメの製作意思の下に、毎日放送に対し、本件テレビアニメを製作する法律上の義務を負っており、かつ、本件テレビアニメの製作を行う法的主体として製作に関する収入・支出を被控訴人の計算において行っているということができるから、本件テレビアニメの「製作につき発意と責任を有する者」である「映画製作者」に該当すると認めるのが相当である。
3 控訴人らの主張について
(1) 「製作主体」の主張について
 控訴人らは、控訴人ビックウエストの前の代表者であったAが、本件テレビアニメにつき、製作費を調達し、放送枠を確保し、アニメーション化作業を行うプロダクションを選定してテレビアニメ化を進めた行為を行ったことを根拠に、控訴人ビックウエストが、本件テレビアニメの「製作主体」であって、「映画製作者」に当たると解すべきである、と主張する。
 しかしながら、本件テレビアニメの「製作主体」であるか否かは、その製作意思を有するか否か、その製作自体についての法律上の権利義務の主体であると認められるか否か、製作自体についての法律上の権利義務の主体であることの反映として、製作自体につき経済的な収入・支出の主体ともなる者であると認められるか否かによって決せられるべきであることは前述のとおりである。このことを離れて、「製作主体」か否かを論じることは意味のないことである。
(2) 「発意」の主張について
 控訴人らは、「発意」の点について、控訴人スタジオぬえからの働きかけを受けて、本件テレビアニメを完成させようとしてスポンサー探しや放送枠の獲得のために奔走し、アニメーションの製作について被控訴人に参加するよう働きかけをしたた控訴人ビックウエストが「発意」し、そこに、アニメ製作会社である被控訴人が「参加」しているとみるべきである、と主張する。
 前記原判決引用に係る認定事実(以下、単に「前記引用認定事実」という。)によれば、控訴人ビックウエストが控訴人スタジオぬえの働きかけを受けて本件テレビアニメを完成させようとして、スポンサー探しや放送枠の獲得をし、アニメーションの製作について被控訴人に参加を働きかけたことは、控訴人らの主張のとおりであり、本件テレビアニメの企画を最初に立案したのは控訴人スタジオぬえないし控訴人ビックウエストであるということができる。
 しかしながら、映画の製作に「発意」を有すると認められるのは、最初にその映画を自ら企画、立案した場合に限られると解すべき理由はなく、他人からの働きかけを受けて製作意思を有するに至った場合もこれに含まれると解するのが相当である。被控訴人は、最初に本件テレビアニメの企画を立案した者ではないものの、控訴人ビックウエストからの働きかけに基づいて、毎日放送に対し、本件テレビアニメの製作義務を負うことを内容とする上記契約を締結することにより、本件テレビアニメの製作意思を有するに至ったものであるということができる。この意味において、被控訴人が本件テレビアニメの製作に「発意」を有するということができることは、明らかである。
 控訴人らは、本件テレビアニメの完成、供給については、控訴人ビックウエストが毎日放送と契約したものであり、この基本的な枠組みの中で被控訴人と毎日放送との契約が存在するにすぎない、と主張する。しかしながら、本件全証拠を検討しても、控訴人ビックウエストが、毎日放送との間で本件テレビアニメの完成、供給についての契約を締結したと解すべき根拠となる資料を見いだすことはできない。
 控訴人らの主張は採用することができない。
(3) 「責任」について
 前記引用認定事実及び乙第37号証によれば、控訴人ビックウエストは、毎日放送との間で締結したラジオ・テレビ広告放送に関する「覚書」(乙第37号証)に基づき、本件テレビアニメの放映期間中、放送の翌月末日に、月額4800万円(同金額から同控訴人の手数料524万2600円を控除した4275万7400円)を、放映料(制作費、電波料、マイクロ費)として支払う義務を負っていたこと、その支払の担保として5000万円を毎日放送に提供していたこと、控訴人ビックウエストは、上記放映料を、広告主(スポンサー)から回収した広告料から支払うことを予定していたものの、毎日放送に対しては、広告主からの広告料の回収の有無にかかわらず、上記放映料を支払う義務を負担していたこと、毎日放送は、被控訴人との間で締結した本件製作契約に基づき、被控訴人に対し、本件テレビアニメの製作費として1話につき550万円ずつを納品の翌月に支払う義務を負っていたこと、が認められる。
 控訴人らは、上記事実を根拠に、「映画の製作につき責任を有する者」であるか否かは、当該映画についての実質的な資金の負担者がだれであるかによって決せられるべきであり、本件テレビアニメの製作について実質的に資金を負担しているのは、被控訴人ではなく、控訴人ビックウエストであるから、同控訴人が本件テレビアニメの著作権の帰属主体である「映画製作者」に該当する、と主張する。
 確かに、上記事実によれば、本件テレビアニメの製作費については、控訴人ビックウエストは、広告主から広告料を回収し、この回収した金員を原資として毎日放送に放映料4275万7400円を支払い、毎日放送は、この支払を受けた放映料を原資として被控訴人に製作費550万円を支払うことが予定されていた、ということができる。
 しかしながら、そのことは、毎日放送がどのようにして被控訴人への支払の原資を取得しようとするかに係ることであって、本件テレビアニメの製作自体についての、被控訴人の法的立場にも、控訴人らの法的立場にも、かかわりのないことである。毎日放送と控訴人ビックウエストとの間に上記のような関係があるにせよ、ないにせよ、被控訴人は、本件テレビアニメを自己の責任において製作して毎日放送に納め、毎日放送から製作費の支払を受ける立場にあることに何の変わりもない(例えば、製作に要する費用、製作できなかった場合の毎日放送への損害賠償、何らかの理由により毎日放送から支払を受けられなくなった場合の損失などは、上記のいずれであるにせよ、被控訴人の負担となるのであり、これらを控訴人ビックウエストが負担することはない。)。
 控訴人ビックウエストは、広告主から広告料を回収することができない事態が生じた場合にも、同控訴人は、毎日放送に対し放映料を支払う義務を負っており、そのための担保も提供することによって、資金負担の危険を負っていたことを、同控訴人が本件テレビアニメの製作についての実質的な資金負担者に当たる、とする根拠として挙げる。しかし、控訴人ビックウエストがこのような危険を負っていたとしても、それは、毎日放送に被控訴人との契約を成立させる上で貢献することはあっても、被控訴人と毎日放送との契約が成立した後の、本件テレビアニメの製作自体についての被控訴人の立場にも、控訴人ビックウエストの立場にも、何らの変更をもたらすものではない。
 控訴人らは、本件テレビアニメが製作された後に、放送されないことになった場合でも、被控訴人が前払した製作費は、最終的には控訴人ビックウエストが資金を負担することを約束している、と主張する。しかしながら、本件全資料によっても、このような資金負担の約束があったことを認めるに足りる証拠を見いだすことはできない。
 控訴人らは、原判決の論理では、映画の製作主体が実際の製作作業を第三者に委託する場合には、著作権を確保するため、常に前払をしなければならなくなってしまう、と主張する。しかしながら、原判決は、被控訴人が前払を受けずに製作資金を負担したことだけを根拠に、被控訴人を「映画製作者」と認めたものでないことは、原判決の記載自体から明らかである。控訴人らの主張は、原判決の正しい理解に基づくものとはいえない。
 控訴人らの主張は、いずれも採用することができない。
(4) 控訴人らは、本件テレビアニメから発生する諸権利の帰属及びその権利から発生する利益の配分について控訴人ら及び被控訴人との間で締結された覚書(甲第4号証)において、控訴人ビックウエストが本件テレビアニメの国内商品化権や番組のリピート販売において、少なくない収益の分配を受けるとされていること(@商品化権については、控訴人ビッグウエストが手数料及び残額の30%、被控訴人が33%、控訴人スタジオぬえが12%、毎日放送が25%、A出版物については、控訴人ビックウエストが30%、被控訴人が40%、控訴人スタジオぬえが30%。ただし、中学生以上を対象とする出版物については、控訴人ビックウエストが30%、被控訴人が30%、控訴人スタジオぬえが40%、B音楽に関する諸権利については、控訴人ビックウエストが40%、被控訴人が60%、C国内におけるリピートの番組販売については、控訴人ビックウエストが50%、被控訴人が50%。)を、同控訴人に本件テレビアニメの著作権を認めるべきであるとの主張の根拠として挙げる。
 しかしながら、上記合意は、本件テレビアニメの著作権の帰属について定めたものではないことは明らかである。控訴人ビックウエストが、本件テレビアニメの商品化権等について、上記のとおり被控訴人とほぼ同程度の利益の分配を受けるとされていることは、本件テレビアニメの製作及び放映の実現について同控訴人が重要な役割を果たしたことを示すものであるとはいえても、そのことだけで、同控訴人が本件テレビアニメの製作自体について法律上の権利義務の主体となることを示すものではないことは、明らかである。
(5) 控訴人らの主張は、要するに、控訴人ビックウエストが、控訴人スタジオぬえの企画を取り上げ、本件テレビアニメの製作を実現するために、広告主と交渉して広告費の支払を了承させ、毎日放送と交渉して本件テレビアニメの放映を約束させ、控訴人ビックウエスト自身が毎日放送に対し放映料の支払義務を負う旨の契約を締結し、放映料支払義務の担保として保証金を毎日放送に提供するという一連の行為を行ったからこそ、被控訴人と毎日放送との間で本件製作契約が締結され、本件テレビアニメの製作及び放映が実現したのであるから、このような重要な役割を果たした控訴人ビッグウエストにこそ本件テレビアニメの著作権を認めるべきである、ということに帰する。
 控訴人ビックウエストが本件テレビアニメの製作及び放映を実現するについて、重要な役割を果たしたことは、控訴人らの主張するとおりである。しかしながら、映画の著作権の帰属主体である「映画製作者」の要件である「映画の製作につき責任を有する者」に該当するか否かは、その製作自体についての法律上の権利義務の主体であると認められるか否か、製作自体についての法律上の権利義務の主体であることの反映として、製作自体につき経済的な収入・支出の主体ともなる者であると認められるか否かによって決せられるべきであること、このような法律上の権利義務の主体となるのは本件製作契約の当事者である被控訴人であり、控訴人ビックウエストが本件テレビアニメの製作について法律上の権利義務の主体となることはないことは、前に述べたとおりである。控訴人ビックウエストが本件テレビアニメの製作、放映について果たした役割は、本件テレビアニメの製作の責任主体との関係でいえば、結局のところ、本件製作契約の成立という形で、本件テレビアニメを製作すること、及び、その製作の責任の主体を被控訴人とすることが確定するに至るまでのいきさつにおけるものであるにすぎない、とみるほかなく、そのことによって、控訴人ビックウエストが本件製作契約締結後において映画の製作につき責任を有する映画製作者に当たると認めることはできないというべきである。
第4 結論
 以上のとおりであるから、被控訴人の著作権(著作者人格権を除く。)確認請求を認容した原判決は正当であるから、本件控訴をいずれも棄却することとし、当審における訴訟費用の負担につき、民事訴訟法67条、61条、65条を適用して、主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第6民事部
 裁判長裁判官 山下和明
 裁判官 阿部正幸
 裁判官 高瀬順久
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日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/