判例全文 | ||
【事件名】保険医登録取消し処分のホームページ掲載事件 【年月日】平成15年9月12日 名古屋地裁 平成14年(ワ)第879号 損害賠償請求事件(国家賠償法1条) 判決 主文 1 被告は、原告に対し、金30万円及びこれに対する平成14年1月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを50分し、その1を被告の負担とし、その余は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告に対し、金2500万円及びこれに対する平成14年1月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、歯科医師である原告が、被告に対し、原告の保険医の登録取消処分等の記事を保険医の再登録等が可能となった後も厚生省(厚生労働省)のホームページに掲載し続けられたことにより、名誉及び社会的信用を著しく傷つけられ精神的苦痛を被ったとして、国家賠償法1条1項に基づき、慰謝料2500万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成14年1月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 1 前提事実(関係証拠及び弁論の全趣旨により明らかな事実) (1) 原告は、岡山市ab丁目c番d号において医療法人A歯科医院(以下「本件医院」という。)を開設していた歯科医師である。 静岡県知事は、原告に対し、平成2年10月6日、健康保険法(以下「法」という。)43条の5に基づき保険医の登録を行い、岡山県知事は、原告を開設者とする本件医院に対し、平成9年11月1日、法43条の3に基づき保険医療機関の指定を行った。 (2) 岡山県知事は、平成10年7月1日、法43条の12及び43条の13に基づき、本件医院の保険医療機関の指定取消及び原告の保険医の登録取消の各処分(以下「本件各取消処分」という。)を行い(甲4の1・2)、同月7日付けの岡山県広報に、告示第410号として本件各取消処分について告示を行った(乙2)。 保険医療機関の指定取消及び保険医の登録取消の各処分が行われた場合、都道府県知事(平成12年4月1日からは厚生労働大臣)は、処分の日から2年間(ただし、法改正により平成10年8月1日以降の処分については5年間)は当該保険医療機関及び当該医師からの登録を拒むことができることになる(法43条の5第2項等)(以下、上記登録を拒むことができる期間を「欠格期間」という。)から、本件各取消処分によって、原告は、平成12年6月30日までの2年間は保険医の再登録等ができないことになった。 本件各取消処分の後しばらくして、原告は、本件医院を閉鎖した(甲2)。 (3) 厚生省(平成13年1月6日からは厚生労働省)は、平成11年12月11日、本件各取消処分を含む、平成10年度に行われた全国の保険医登録取消処分等に係る情報をとりまとめ、報道発表資料として報道関係者に発表するとともに、同資料を「平成10年度における保険医療機関等の指導及び監査の実施状況について」の中の「平成10年度保険医療機関等取消状況」として、厚生省(厚生労働省)の運営するホームページ(以下「本件ホームページ」という。)に掲載した。 かかる掲載のうち、本件各取消処分に関する記事(以下「本件記事」という。)の内容は、下記のとおりである(甲1)。 記 都道府県名 岡山県 医療機関(薬局)名 A歯科医院 取消年月日 平成10年7月1日 保険医等名 B(歯) 返還額/事故内容 1,752千円/付増、振替、重複 なお、平成10年度に行われた保険医登録取消処分等については、上記(2)のとおり法改正がなされた関係で、欠格期間が2年の処分(同年7月31日まで)と欠格期間が5年の処分(同年8月1日以降)が混在していたが、本件ホームページ上では両者が区別されることなく掲載されていた。また、本件ホームページにおいて、保険医登録取消処分等の根拠となる法律、条文や欠格期間等については、何ら掲載がなかった(甲1)。 (4) 愛知社会保険事務局長は、原告に対し、欠格期間経過後の平成12年9月1日、法43条の5に基づき保険医の登録を行い、岡山社会保険事務局長は、原告を開設者とするC歯科医院に対し、平成13年8月1日、法43条の3に基づき保険医療機関の指定を行った。 そして、原告は、平成13年8月28日、本件医院と同一の住所地においてC歯科医院を開設して、歯科診療業務を再開した(甲2、原告本人)。 (5) 厚生省(厚生労働省)は、本件各取消処分について欠格期間が経過した平成12年7月1日以降も、本件記事を本件ホームページに掲載し続けた。 (6) 原告は、平成13年12月ころ、親戚からの電話によって、本件ホームページに原告の実名を挙げて本件各取消処分の内容等が掲載されていることを知った(甲2、原告本人)。 (7) 原告から相談を受けた原告代理人が、平成14年1月23日、厚生労働省保険局医療課医療指導監査室に対し、本件記事を削除されたい旨電話で抗議をしたところ、厚生労働省担当者は、翌24日、本件記事を含む「平成10年度における保険医療機関等の指導及び監査の実施状況について」の掲載全部を削除した。 2 争点 (1) 厚生省(厚生労働省)の担当者が欠格期間経過後も本件記事を本件ホームページに掲載し続けたことについての国家賠償法上の違法性の有無 (原告の主張) 厚生省(厚生労働省)は、インターネットという不特定多数の者が容易に閲覧することのできる媒体を使って、本件ホームページ上に、本件各取消処分の欠格期間経過後も、原告の実名を挙げて原告が受けた本件各取消処分の内容を公開し、公然と事実を摘示して、原告の名誉及び社会的信用を著しく傷つけた。かかる行為は、原告の人格権を侵害するものとして違法である。 欠格期間が経過したにもかかわらず、原告が本件各取消処分を受けた事実を本件ホームページ上に掲載し続ける必要性及び合理性がないことは、以下のア、イからも明らかである。 ア 法が取消処分につき欠格期間を設けた趣旨は、その期間中謹慎に付するという制裁的な意味合いであると思われ、欠格期間が経過すれば行政上の制裁を受け終わったものと解される。すなわち、取消処分は、保険診療を行うための資格を永久に剥奪したものではないから、取消処分を受けた事実及びその内容を公表し得る期間も、少なくとも欠格期間中に限定される。 イ 本件ホームページの閲覧可能性 過去に一度新聞各紙で報道されたこととホームページ上に日々掲載され続けていることとは、決定的に性質が異なる。すなわち、過日に報道された新聞記事は、図書館等に行って新聞のバックナンバーの中から探して読む等しない限り、その後一般読者の目に触れることはないが、ホームページに掲載された情報は、世界中の者が誰でもいつでも容易に閲覧できる。 また、情報公開請求は、開示を求める者がその文書を特定して一定の手続を踏み、かつ手数料を支払って行うものである。このように、請求を待ってする情報公開と誰でも閲覧できるホームページへの掲載とは情報へのアクセスの難易が決定的に異なる。 そもそも、情報公開法5条1号イ「公にされている情報」とは、開示請求時点で何人でも知り得る状態におかれている情報をいい、一度は公にされてもその後の時間の経過により開示請求時点では必ずしも何人でも知り得る状況になかった場合はこれに当たらないと解されるから、本件各取消処分は、情報公開法5条1号の個人識別情報として開示が許されないものである。また、情報公開法には、第三者保護手続が規定され、第三者の情報の開示請求があったときは当該第三者にその旨告知し、第三者の意見を求める意見聴取手続を定め、かつ第三者に不服申立をする権利を付与している(情報公開法13条、18条等)。 被告は、情報公開法によっても公開してはならない個人識別情報であった本件各取消処分を公開し、かつその公開に先立ち、情報公開法ですら定めている第三者保護手続を一切とらなかったものであり、その違法性は明白である。 なお、インターネットでは、例えば原告の氏名をキーワードとして検索するだけで、本件ホームページがヒットして、インターネット利用者は、原告が本件各取消処分を受けた事実とその内容を閲覧できることになる。 (被告の主張) 本件ホームページへの掲載は、取消処分そのものとは異なる非権力的な事実行為であり、国家賠償法上の違法性の有無は、公表の必要性や合理性の有無及び公表方法の相当性等の事情を考慮して判断すべきであるところ、以下のア、イからしても、欠格期間経過後も本件記事を本件ホームページに掲載し続けたことについて違法性はない。 ア 本件ホームページへの掲載の目的について 平成9年に、いわゆる安田系3病院における診療報酬不正請求事件が明るみになったことを契機に、厚生省は、毎年度ごとに、当該年度に行った保険医療機関等の指導及び監督の実施状況を報道発表資料として各報道機関に提供するとともに、同資料をそのまま厚生省のホームページ(本件ホームページ)に掲載することとしたものであり、本件ホームページへの掲載は、健康保険法上の制度や運用に関する事項を国民に説明し、また保険医療機関等に関しては、違法行為を行わないよう啓発するとともに、究極的には法制度及び取消処分等の運用に対する国民の信頼を確保することを目的とするものである。制裁ないし強制手段として行ったものではない。 上記の目的は、特定の保険医等について欠格期間が経過したことによって、直ちになくなるとか変じるという性質のものではない。 イ 手段の相当性について 本件ホームページに掲載された内容の大部分は告示されたものであり、また既に報道機関等に対して報道関係資料として公表されたものをそのまま掲載しているものである。そして、上記報道関係資料は、現在においても、情報公開法3条によって「何人も開示を請求することができ」、不特定多数人に閲覧可能な状態にあるし、開示請求がなされた場合には、むしろ開示を義務づけられる情報である。このように、何人にも閲覧可能な状態にあり、かつ開示することが予定された情報であることからすると、本件ホームページへの掲載を続けたことが不相当とはいえない。 また、厚生省(厚生労働省)のホームページ(本件ホームページ)で「保険医療機関等取消状況」を開くためには、相当時間を要する一定の手順を経る必要があり、本件ホームページを開けば瞬時に「保険医療機関等取消状況」が分かるわけではなく、本件ホームページにおける掲載自体が、他の手段と比して格段に閲覧容易なものとはいえない。 (2) 原告の損害 (原告の主張) 原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料額は2500万円を下らない。 (被告の主張) 争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)について 原告においても、本件記事を本件ホームページに掲載したことが掲載時点において違法であったとまで主張するものではなく、本件の争点は、欠格期間経過後における掲載についての国家賠償法上の違法性の有無である。 本件記事は、前記第2の1(3)のとおり、厚生省(平成13年1月6日からは厚生労働省)が全国の保険医登録取消処分等に係る情報を年度ごとに取りまとめて、報道関係者に発表するとともに、本件ホームページに掲載したものの一部で、この掲載自体は、権力性とは直接関係なく、国民に対する説明ないし情報公開をその本質とするものであり、行政上の規制に従わない者等に対する制裁や強制手段としての性格を有するものではないことからすると、非権力的な事実行為であると認められる。 もっとも、保険医登録取消処分等の内容を被処分者の実名を挙げて本件ホームページに掲載する行為は、被処分者等の名誉や社会的信用を傷つける可能性のある行為であるから、担当省庁において全くの自由裁量で掲載するか否かあるいは掲載方法を決定できるとすることは許されず、掲載の必要性ないし合理性の有無、掲載方法の相当性などの事情を吟味し、掲載の必要性や合理性が認められず、あるいは掲載方法が不相当であって、その結果被処分者等の名誉や社会的信用を傷つけ、人格権を侵害した場合には、当該掲載が担当者(国家賠償法1条1項の公権力の行使に当たる公務員と解される。)の職務上通常尽くすべき注意義務に違反したものとして、国家賠償法上違法と評価されると考えるのが相当である。 以下、その見地から本件記事の欠格期間経過後の本件ホームページへの掲載についての違法性の有無を検討する。 (1) 掲載の必要性、合理性について 証拠(乙4の1・2、5の1・2、6、13ないし15)及び弁論の全趣旨によれば、平成9年、安田系3病院における診療報酬不正請求事件が社会的に問題となったことを契機に、国会等において保険医療機関に対する指導監督の強化が論じられ、指導監督に関する健康保険法の運用のあり方、指導監督に関する行政の説明のあり方についても議論がなされ、かかる社会的状況を背景として、厚生省は、平成9年12月25日から平成8年以降の当該年度に行った保険医療機関等取消状況を「厚生省ホームページ運用基準内規」に従ってホームページへ掲載し始めたものであり、平成8年度と平成9年度の取消状況については「報道発表資料」として上記内規によりホームページへの掲載期間は3か月とされたが、その後、国民に対し行政情報を積極的に公開することを望む声が高まり、省内部局からも掲載期間延長の申出が多かったことなどを踏まえて、平成11年12月1日に上記内規を改正して「報道発表資料」のホームページへの掲載期間を「期限設定なし」として、具体的な掲載期間は担当部局の判断によることとされたことが認められる。 そうすると、本件ホームページへの保険医療機関等取消状況の掲載は、被告主張のとおり、健康保険法上の制度や運用に関する事項を国民に説明ないし情報公開し、また保険医療機関等に関しては、違法行為を行わないよう啓発するとともに、究極的には法制度及び保険医登録取消処分等の運用に対する国民の信頼を確保することを目的とするものと認められる。 そして、保険医登録取消処分等が保険医療という国民の健康、利益に直結する事項に関するものであり、また医師等の専門的資格を有する者に対する処分であることからすると、国民に対する情報公開の必要は高く、同取消処分等に関する情報公開の必要性が欠格期間の経過によって当然に消滅するとまではいい難いところである。 他方、前記第2の1(2)のとおり、欠格期間経過後には、被処分者等は、再び保険医の登録及び保険医療機関の指定を受けることが可能となることからすれば、被処分者等の中にも、新たに保険医の登録等を受けることによって保険医療業務を再開している者等もいると考えられ、とりわけ保険医療業務を再開した者にとって、過去に行政処分を受けた事実を公表され続けることによって名誉や社会的信用を著しく傷つけられることは、想像に難くない。 かかる被処分者等の被る不利益の大きさに鑑みると、前述の掲載目的や保険医登録取消処分等の特性を考慮してもなお、過去の保険医登録取消処分等の事実を欠格期間経過後においてまでホームページに掲載し続ける必要性、合理性がそれほど高いとは認められない。 なお、欠格期間経過後の保険医登録取消処分等のホームページへの掲載の必要性、合理性がそれほど高いとはいえないことは、前記第2の1(7)のとおり、本件各取消処分についての欠格期間経過後に、原告代理人から本件記事の掲載について抗議を受けると、その翌日に、厚生労働省担当者が、本件記事を含む「平成10年度における保険医療機関等の指導及び監査の実施状況について」の掲載全部を削除したこと自体からもうかがわれる。 (2) 掲載方法の相当性について 本件ホームページには、前記第2の1(3)のとおり、平成10年度に行われた保険医登録取消処分等について、欠格期間が2年の処分(同年7月31日まで)と欠格期間が5年の処分(同年8月1日以降)が混在していたにもかかわらず、両者が区別されることなく掲載されていたこと、また保険医登録取消処分等の根拠となる法律、条文や欠格期間について何ら掲載がなかったことが認められる。 国民の大部分は、保険医登録取消処分等の根拠となる法律、条文や欠格期間等についての正確な知識を有していないのが通常であることからすると、本件ホームページに本件記事が掲載されている以上は、被処分者等が欠格期間経過後に新たに保険医の登録等を受けていたとしても、本件記事を閲覧した者には、閲覧時点においても被処分者等がいまだ保険医療業務を行う資格がない状態にあるとの誤解を与える可能性が高いものと認められる。 前記(1)で検討したとおり、保険医登録取消処分等が公共性を有する過去の事実であって、情報公開の必要性が欠格期間の経過によって当然に消滅するとまではいい難いものであるとしても、保険医登録取消処分等の欠格期間経過後においても、「平成10年度保険医療機関等取消状況」として被処分者の実名を挙げてそのまま本件ホームページに掲載し続けることは、欠格期間経過後に適法に保険医資格を回復して医療業務を営む者についても、本件ホームページを閲覧した者において、当該被処分者が違法に保険医療業務を再開しているように誤解を招くおそれが強いものである。特に、平成10年度の保険医療機関等取消処分については、欠格期間が2年の処分(同年7月31日まで)と欠格期間が5年の処分(同年8月1日以降)が混在していたにもかかわらず、両者が区別されることなく同一のホームページに掲載されていたのであるから、本件ホームページを閲覧した者において、その両者を区別することなく、閲覧時の本件ホームページに掲載された被処分者等全員について、いまだ欠格期間が経過しておらず、保険医療業務を適法に行う資格がない状態にあると誤解するおそれが極めて強いのであるから、上記の記事の ホームページへの掲載継続は、欠格期間が経過した被処分者の名誉や社会的信用に対する配慮を著しく欠くものといわざるを得ない。 厚生省あるいは厚生労働省の担当者としては、本件ホームページのうち、欠格期間を経過した取消処分に関する記事を削除するか、本件ホームページ上で各取消処分の欠格期間を明示することによって、上記の誤解を容易に避けることができたというべきである(前記第2の1(7)のとおり、本件各取消処分についての欠格期間経過後である平成14年1月23日に、原告代理人から本件記事の掲載について抗議を受けると、その翌日に、厚生労働省担当者が、本件記事を含む「平成10年度における保険医療機関等の指導及び監査の実施状況について」の掲載全部を削除したことは、担当者が本件ホームページ中に欠格期間(平成10年7月31日以前の処分は2年間)を経過した処分の記事が含まれているとの自覚を欠いていたまま掲載を継続していた可能性をうかがわせるところである。)。 なお、被告は、本件記事の内容の大部分は告示されたものであり、報道機関等に対しても既に報道関係資料として公表されたものであること、現在も情報公開制度によって不特定多数人に閲覧可能な状態にあること等からすると、欠格期間経過後も本件ホームページへの掲載を続けたことが不相当とはいえない旨主張する。 しかし、過去に告示や新聞報道等がなされたことがあることとホームページ上に日々掲載され続けるのとでは、当該情報が一般国民の目に触れる蓋然性が大きく異なることは明らかであり、告示されたり新聞等で報道されたりしたことがあったとしても、その情報をホームページに掲載することが当然に違法性を欠くことにはならない。ましてや、実際に情報公開制度を利用して原告らの本件各取消処分にかかる情報の公開を請求するのは極めて少数の者に限られると考えられるから、たとえ、開示請求がなされた場合に開示を義務づけられる情報であるとしても、ホームページへの掲載が当然に相当ともいうことができない。 また、被告は、本件ホームページにおいて本件記事を開くためには、相当時間を要する一定の手順を経る必要があることを理由に、本件ホームページにおける掲載自体が、他の手段と比して格段に閲覧容易なものとはいえない旨主張する。 しかし、弁論の全趣旨によれば、本件ホームページに本件記事が掲載されていた当時、原告の氏名をキーワードとしてインターネットの検索サイトにより検索すれば、本件記事が検索結果として出てくる蓋然性が極めて高かったものと認められる。そうすると、インターネット利用者は、本件ホームページの冒頭のページから本件記事が掲載されたページまで順に開いていかなくとも、上記検索をすることによって、本件記事に直接アクセスして、原告が本件各取消処分を受けた事実とその内容を閲覧することは容易であり、原告の知人や原告の歯科診療を受けようとする患者らがそのような検索をすることも十分あり得ることであるから、被告の上記主張は相当でない。 (3) 以上検討したところによれば、厚生省あるいは厚生労働省の担当者は、平成10年7月1日の原告の本件各取消処分から2年間の欠格期間経過後である平成12年7月1日以降においては、本件記事を本件ホームページから削除するか、もしくは、掲載を継続するのであれば、2年の欠格期間をホームページ上で明示するなど原告の処分について既に欠格期間を経過していることが閲覧者に分かるような態様で掲載すべき注意義務があったにもかかわらず、かかる注意義務を怠って、漫然と本件記事の本件ホームページへの掲載を継続したものといわざるを得ない。 そうすると、厚生省あるいは厚生労働省の担当者が平成10年7月1日の原告の本件各取消処分から2年間の欠格期間経過後である平成12年7月1日以降においても本件記事を本件ホームページに欠格期間を明示することなくそのまま掲載し続けた行為は、原告の名誉や社会的信用を傷つけ、人格権を侵害するものとして国家賠償法上違法であると評価できる。 したがって、被告は、国家賠償法1条1項に基づき原告の被った損害を賠償する責に任ずべきである。 2 争点(2)について 原告は、前記第2の1(4)のとおり、欠格期間経過後の平成12年9月1日に適法に保険医の登録を行い、平成13年8月28日には岡山県内で歯科診療業務を再開している者であり、同1(6)のとおり、同年12月ころ、親戚からの電話によって本件ホームページに原告の実名を挙げて本件各取消処分の内容等が掲載されていることを知った際の原告の精神的ショックが大きかったことも容易に推認できるところである。 厚生省あるいは厚生労働省の担当者の前記違法行為により原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料の額は、上記の事実のほか、本件記事の本件ホームページへの掲載の態様、欠格期間経過後の本件記事の掲載期間など本件に現れた一切の事情を考慮して、これを30万円と定めるのが相当である。 3 結論 以上によれば、原告の本訴請求は、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償(慰謝料)として金30万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成14年1月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法64条本文、61条を適用し、仮執行の宣言については相当でないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第6部 裁判長裁判官 氣賀澤耕一 裁判官 岡田治 裁判官 東千香子 |
日本ユニ著作権センター http://jucc.sakura.ne.jp/ |