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【事件名】新聞社の“広告掲載基準”事件
【年月日】平成15年9月11日
 札幌地裁 平成14年(ワ)第122号 損害賠償請求事件

判決


主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告に対し3000万円及びこれに対する平成14年2月9日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、広告代理店を通じて、被告の発行する日刊新聞「北海道新聞」の朝刊1面下段書籍広告スペースに、原告の発行する月刊雑誌「北方ジャーナル」の記事見出しを内容とする広告(以下「記事広告」という。)の掲載を申し込んだところ、被告が、字句を伏せ字に変更した記事広告を掲載し、また広告を掲載しなかったことにつき、原告が、被告に対し、原被告間の広告掲載契約上の債務不履行又は不法行為に当たるとして、損害賠償として3000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成14年2月9日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 争いのない事実等(特に記載のない限り、月日は平成13年である。)
(1) 原告は、月刊雑誌「北方ジャーナル」(以下「北方ジャーナル」という。)を毎月1回発行している。北方ジャーナルの発行部数は、月約2万5000部である。被告は、日刊新聞「北海道新聞」(以下「道新」という。)を毎日発行している。道新の朝刊の発行部数は約123万部である(弁論の全趣旨)。
(2) 株式会社パブリックセンター(以下「訴外会社」という。)は、広告宣伝の企画製作及び実施等を含む広告代理業務を行うことを主たる目的とする会社である。なお、訴外会社と被告との間に株式の相互保有や役員・従業員の出向その他いわゆる関連会社としての関係は存在しない(乙11)。
(3) 被告は、訴外会社との間で、以下の内容のとおり、広告取引契約を締結している(以下「基本契約」という。甲21、乙10)。
@ 被告は、訴外会社に対して、被告の発行する広告媒体に掲載する広告の取扱いを委託する。
A 広告の掲載は広告関係法令によるほか、被告の定める北海道新聞広告掲載基準及び広告倫理綱領等の諸規定に基づくものとする。
B 訴外会社が被告に広告の掲載を申し込むときは、被告の定める申込書及び広告料金表によるものとする。訴外会社は掲載された広告の料金を全責任をもって被告に支払い、被告は訴外会社に所定の手数料を支払う。
C 被告が訴外会社から広告の申込みを受け、それを承諾した後であっても、不可抗力により広告の掲載が不可能となった場合、若しくは報道上の理由及び広告の紙面制作上必要と認められる場合には、被告は契約の趣旨どおりに履行しなくても免責されるものとする。その場合は、すみやかに被告と訴外会社は協議の上、掲載日・掲載面の変更を行うものとする。
D 被告又は訴外会社の責めによる理由のため、契約の趣旨どおりの広告の掲載がされなかった場合は、両者協議の上適切な措置をとるものとする。
E 契約の有効期間は契約成立の日から1年間とする。被告又は訴外会社が、本契約の期間の満了する30日以前に別段の意思表示をしないかぎり、本契約と同一の条件で自動的に更新されるものとする。
F 掲載される広告の選択及び整理は、紙面計画に基づき被告が行うものとする。訴外会社は、決算期ごとに営業報告書を被告に提出する。
(4) 日本新聞協会は、新聞社は新聞広告の及ぼす社会的影響を考え、不当な広告を排除し、読者の利益を守り、新聞広告の信用を維持、高揚するための原則をもつ必要があるとの趣旨で、新聞広告倫理綱領(1958年10月7日制定、1976年5月19日改正)を定め、新聞広告は、@真実を伝えるものでなければならない。A紙面の品位を損なうものであってはならない。B関係諸法規に違反するものであってはならないとの3原則を掲げている。また、同協会の新聞広告掲載基準は、新聞各社が独自の掲載基準を作成する際のモデルとして、前記昭和51年の新聞広告倫理綱領の改正に併せて作られたもので、掲載してはならない広告として、虚偽又は誤認されるおそれがあるもの、名誉毀損、プライバシーの侵害、信用毀損、業務妨害となるおそれがある表現のものなど21項目を列挙している(乙9)。
 被告においても、読者に損害を与えるおそれのある広告を排除するとともに、質のよい広告を掲載することによって紙面の品位を維持し、媒体としての自己の価値を高める目的で北海道新聞広告掲載基準(以下「被告広告掲載基準」という。)を定めている。これによれば、虚偽、誇大又は不正確で誤認を与えるおそれのある出版広告や信用、名誉毀損、業務妨害、差別、セクシャルハラスメント、プライバシー侵害になるおそれのある出版広告は掲載できないとされ、後者については、具体的には、他を中傷・誹謗するもの等が挙げられている(乙1)。
(5) 原告は、昭和47年5月、道新朝刊1面下段の書籍広告スペース(以下「広告スペース」という。)に、北方ジャーナルの記事広告を掲載して以来、ほぼ毎月1回、北方ジャーナル発売日(概ね各月15日)前後に、北方ジャーナルの記事広告を掲載していた。原告は、当初、株式会社協同広告に対して、北方ジャーナルの記事広告を道新の広告スペースに掲載することを申し込んでいたが、同社倒産後の平成9年3月からは、訴外会社に対して申し込んでいた。
(6) 原告は、7月11日、訴外会社に対して、「道銀『ラピッド』は庶民を欺く金融麻薬商品」との記載のある北方ジャーナル8月号記事広告を、7月16日付道新の広告スペースに掲載することを申し込んだ(弁論の全趣旨)。訴外会社から、上記広告掲載の申込みを受けた被告は、7月16日付道新の広告スペース上に「金融○○商品」と表現し、「麻薬」の2文字を「○○」と伏せ字にして、北方ジャーナル8月号記事広告を掲載した(以下「本件○○記事広告」という。)。
(7) 原告は、8月8日、訴外会社に対して、「大量広告の“麻薬”打たれ道新が言論弾圧」「3度目の本誌広告削除に抗議する!」との記載のある北方ジャーナル9月号記事広告を、8月15日付道新の広告スペースに掲載することを申し込んだ(弁論の全趣旨)。被告は、訴外会社から上記広告掲載の申込みを受けたが、8月15日付道新の広告スペース上に北方ジャーナル9月号記事広告を掲載しなかった(以下「9月号不掲載」という。)。
(8) 原告は、9月10日、訴外会社に対して、「道新の暴挙!本誌の広告掲載を全面拒否」「過去4度にわたる言論抑圧で本誌が提訴へ」の記載のある北方ジャーナル10月号記事広告を、9月15日付道新の広告スペースに掲載することを申し込んだ(弁論の全趣旨)。被告は、訴外会社から上記広告掲載の申込みを受けたが、9月15日付道新の広告スペース上に北方ジャーナル10月号記事広告を掲載しなかった(以下「10月号不掲載」という。)。
(9) 原告は、10月11日、訴外会社に対して、「『道銀』『クレ・サラ』の大量広告にひれ伏す道新のモラルハザード」「本誌の広告掲載拒否続け表現の自由奪う」との記載のある北方ジャーナル11月号記事広告を、10月15日付道新の広告スペースに掲載することを申し込んだ(弁論の全趣旨)。被告は、訴外会社から上記広告掲載の申込みを受けたが、10月15日付道新の広告スペース上に北方ジャーナル11月号の記事広告掲載しなかった(以下「11月号不掲載」という。)。
(10) 原告は、11月12日、訴外会社に対して、「社告 本誌の広告掲載拒否をめぐる道新の言論弾圧行為について」との記載のある北方ジャーナル12月号記事広告を、11月15日付道新の広告スペースに掲載することを申し込んだ(弁論の全趣旨)。被告は、訴外会社から上記広告掲載の申込みを受けたが、11月15日付道新の広告スペース上に北方ジャーナル12月号記事広告を掲載しなかった(以下「12月号不掲載」という。9月号不掲載ないし12月号不掲載を併せて「本件各不掲載」という。)。
2 争点
(1) 被告は、原告に対し、道新広告スペース上に北方ジャーナルの記事広告を掲載する内容の債務を負うか否か。
(原告の主張)
ア 訴外会社は、広告代理店として被告のために被告の発行する道新等の広告媒体に掲載する広告を取り扱っており、被告の代理人たる地位にある。原告は、被告の代理人である訴外会社を通じて、1年の年単位で毎月1回北方ジャーナルの発売日前後に、道新の広告スペースを買い取る内容の広告掲載契約を締結していたのであるから、被告は、原告に対し、上記の広告掲載契約に基づき、道新広告スペース上に北方ジャーナルの記事広告を掲載する内容の債務を負うというべきである。
イ 原告は、昭和47年5月以降現在に至るまで、毎月1回、道新の広告スペースに北方ジャーナルの記事広告を継続的に掲載してきたのであるから、原被告間に商慣習が成立していた。これに基づき、被告は、原告に対し、道新広告スペース上に北方ジャーナルの記事広告を掲載する内容の債務を負うというべきである。
ウ しかしながら、被告は、正当な理由がないにもかかわらず、無断で本件○○記事広告を掲載し、さらに、本件各不掲載に及んだのであるから、広告掲載契約又は商慣習に基づく債務の不履行責任を負う。
(被告の主張)
 原告と被告の間には何ら契約関係は存在しない。被告は、その掲載に係る新聞広告をすべて広告代理店を介して受け容れるという仕組みをとっており、被告と継続的取引契約を締結していた約40数社の広告代理店と同様に、訴外会社との間で、被告の発行する道新等の広告媒体に掲載する広告の取扱いを委託する基本契約を締結しているのであって、訴外会社は、被告の代理人たる法的地位にはない。また、原告が主張するような商慣習も一切存在しない。したがって、被告は、原告に対し、道新朝刊広告スペース上に北方ジャーナルの記事広告を掲載する内容の債務を負うものではない。
(2) 被告が、本件○○記事広告を掲載したことが不法行為に当たるか否か。
(原告の主張)
ア 新聞は、事実の報道、論評及び広告の三要素から成り立つ。新聞社は、報道機関であるとともに、広告主に紙面の広告スペースを販売して広告料を得るという営利企業でもある。しかしながら、国民の多くは、出版物に関する情報を新聞、雑誌などの広告媒体に掲載された出版物の記事広告によって得ている。記事広告は、国民に対して、出版物の記事内容を明らかにするものであり、同時に記事テーマの公共性、公益性を認識させる役割をもつ。広告媒体が特定の出版広告の掲載を拒否すると、当該出版物の著者、出版社の出版の自由を拒否されたのにも等しい大きな痛手を受けることになる。日本新聞協会策定の新聞広告倫理綱領においても、「言論・表現の自由を守り、広告の信用をたかめるために広告に関する規制は、法規制や行政介入を避け広告関係者の協力、合意に基づき自主的に行うことが望ましい」等と定められており、また、日本新聞協会策定の新聞倫理綱領(1946年7月23日制定、1955年5月15日補正)は、新聞の使命として、正確で公正な記事と責任ある論評で、公益性、文化的使命を果たすこと、新聞人の責務をまっとうするため、言論・出版の自由を守り抜くこと、独立と寛容、品格と節度等を定めている。そうだとすれば、出版広告についても憲法21条において規定された言論、出版の自由の厚い保護を受けるというべきであって、新聞社は、このことを認識、尊重すべきであり、広告主である出版物の筆者、出版社の言論、出版の自由を侵害しないよう最大限の配慮をすべきである。広告媒体である新聞社が出版広告の内容に過度に立ち入り、チェック審査して広告内容に干渉するのは、広告主の表現の自由を侵害するものであり、原則として許されるべきではない。新聞社が広告主から出稿された出版広告内容に対し削除、修正を求めたり、掲載を拒否することは、その内容が公序良俗に反しない限り、広告主の表現の自由を侵害するもので違法であるというべきである。
 また、広告主の原稿に新聞社が勝手に解釈を加えて、変更又は掲載を拒否することは、制作物という広告主の商品を毀損することにもなり、出版事業の手段として出版広告を行う営業の自由、財産権の手段の侵害にも当たり、許されるものではないというべきである。
イ 原告は、北海道銀行の金融商品を「金融麻薬商品」と表現した北方ジャーナル8月号記事広告の掲載を申し込んだ。ところが、被告は、大きな広告収入が期待できる北海道銀行の立場に配慮して、「麻薬」の2文字が不適切であると判断し、原告に変更を迫った。しかし、原告がこれに応じなかったことから、被告は、原告に無断で本件○○記事広告を掲載した。このように、原告が作成した記事広告の一部を被告が正当な理由がないのに伏せ字に変更して掲載したのは、原告の表現の自由を侵害し、かつ、原告の制作物を毀損するものであって、不法行為に当たる。「麻薬」の表現は、被告広告掲載基準に抵触しないものであって、変更の必要性はない。むしろ被告が原告の広告掲載を拒否したり変更を求めることは、新聞社が基本的に遵守すべき公益性・文化的使命を果たすべき責務を放棄するものである。なお、原告は、被告が主張するような伏せ字とすることの同意をしていない。
(被告の主張)
ア 新聞広告については原則として広告主が責任を負うべき立場にあるが、広告媒体としての新聞社もその発行にかかる新聞上に広告を掲載するに当たっては、その表現又は内容がそれ自体人の名誉、信用を毀損する等民刑事上の法規に抵触することのないよう注意すべき義務を負っている。新聞社が広告主に対し広告内容の修正を求めることができるのは、出稿広告内容が公序良俗違反の場合に限られるものではない。そして、記事広告は広告主が制作した内容を有料で掲載するという点に特質があるから、広告主の了解なしに広告原稿の内容に手を加えることはできず、媒体側に最終的に残されている唯一の途は掲載を断ることだけである。
イ 被告は、北方ジャーナル8月号記事広告につき、「麻薬」の表現が被告広告掲載基準に抵触すると判断し、直接又は訴外会社を通じて、原告に対し広告の記載内容を変更するよう何度か交渉の機会を持った。その交渉過程で、原告に対し被告広告掲載基準を示して説明を尽くした。以上のような交渉の結果、被告は、訴外会社から、原告が「麻薬」という2文字を「○○」と伏せ字にすることに同意したと報告を受け、本件○○記事広告を掲載した。したがって、字句の修正は原告の意思に基づくものであって不法行為には当たらない。
(3) 被告が、本件各不掲載に及んだことが不法行為に当たるか否か。
(原告の主張)
 原告が作成した北方ジャーナル9月号ないし12月号の各記事広告の内容も、同8月号と同様、被告広告掲載基準に抵触しない。北方ジャーナル9月号ないし12月号の各記事広告が被告を糾弾する内容であったことから、被告が本件各不掲載に及んだことは明らかである。このように、被告による本件各不掲載は、正当な理由がなく、原告の表現の自由を侵害する違法なものであって、不法行為に当たると言うほかはない。
(被告の主張)
 被告は、原告の北方ジャーナル9月号ないし12月号の各記事広告には被告広告掲載基準に抵触する表現があったと判断し、直接又は訴外会社を通じて、原告に対し広告の記載表現の修正を求め、そのために何度か交渉の機会を持っており、その交渉過程で、原告に対し被告広告掲載基準を示して説明を尽くした。しかしながら、原告は最後まで表現の修正に応じず、あくまで原告が作成した原稿どおりの掲載を求めた。そこで、被告は、広告主の同意なしに広告内容を削除、変更することはできないことから、これらの記事広告全部を掲載しなかった。このように、本件各不掲載については正当な理由がある。
(4) 損害
(原告の主張)
 被告による本件○○記事広告掲載及び本件各不掲載によって、原告は有力な販売手段を喪失し、また、原告の表現の自由が侵害される等の財産的精神的損害を被った。その損害額は合計3000万円を下らない。
(被告の主張)
 争う。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)について
(1) 上記争いのない事実等及び証拠(かっこ内に掲記したもののほか、甲28、乙17、証人A、同B、同C)を総合すると、次の事実が認められる。
ア 被告は、訴外会社を含む広告会社40数社との間で継続的な広告取引契約を締結しており、被告の発行する広告媒体に掲載する広告はすべて広告会社から申し込むこととし、直接広告主とは契約していない。
イ 原告は、訴外会社との間で、平成9年3月以降、毎月15日前後に、北方ジャーナルの記事広告を道新の広告スペースに掲載することを委託する内容の契約を締結してきた。原告と訴外会社との間では、1年を単位にしたり、期限を定めて合意したことはなく、訴外会社にとって原告は毎月1回のレギュラーの広告主という認識であった。
ウ 被告と訴外会社との間における広告掲載に至る実際の手順は次のとおりであった。
 広告主から被告の発行する新聞上に広告掲載を委託された訴外会社は、基本契約に基づき、被告の定めるスペース申込書によって被告に広告掲載を申し込む。被告は希望の掲載日や掲載面の確保等の可否を審査し、訴外会社に受付確認票を交付してその許否を伝える。また、訴外会社は、広告主の持ち込んだ広告原稿をフィルム化し、この広告原稿フィルム及びこの内容を紙片に反映させた事前ゲラとともに受付確認票を被告に送付する。被告は、広告表現の審査を経た上で紙面に掲載する(甲9の1及び2、乙13)。
 原告を広告主とする訴外会社からの広告掲載申込みについても、原告が自ら広告原稿フィルムを作成し、スペース申込みが通常掲載希望日の約2か月前であり、事前ゲラは広告掲載日の4、5日前に被告の審査担当者に提出され、被告による事前ゲラの審査終了後に原告から広告原稿フィルムが訴外会社に提出されていたなどの他と異なる取扱いがあったほかは、上記の取扱いと同様であった。
エ 広告主から訴外会社の営業担当者に対して広告掲載の申出があった場合、訴外会社の媒体窓口担当者において一応審査されるが、さらに被告も訴外会社から事前ゲラの提出を受け、被告の広告局広告整理部の審査担当者も審査をしている。審査については、広告関係法令によるほか、被告広告掲載基準(乙1)、広告倫理綱領等に基づくものとしている。被告は、基本契約に基づき、訴外会社に対し被告広告掲載基準を予め交付し内容について説明を施すなどした上、広告主からの個別的な広告掲載の申込みにあたっては同基準に沿って広告原稿を審査するよう指示していた。被告広告掲載基準に抵触することが明らかな広告の類は訴外会社において広告主に対して表現の変更を求めるが、明確な判断が困難な場合は、被告の広告局広告整理部の審査担当者に照会し判断を仰ぐことにしている。なお、被告は、被告広告掲載基準が改定された場合、訴外会社に対して改定された被告広告掲載基準を交付して内容について説明を施している。
オ 被告の審査担当者が、審査の結果、広告表現に問題があると判断した場合、訴外会社の媒体窓口担当者に対して、問題の箇所を指摘し理由を説明して、広告主への説明等の対応を要請していた。広告主との交渉は、訴外会社の営業担当者が行うことが通常であり、被告の審査担当者や営業担当者が直接広告主と交渉したり、訴外会社の営業担当者に付き添って直接広告主と交渉することはなかった。交渉の結果広告主の理解が得られた場合は、訴外会社から再度広告原稿フィルム、事前ゲラ及び受付確認票の提出を受け、紙面掲載に及ぶ。他方で、広告主の理解が得られない場合には、訴外会社に対して当該広告の申込みを承諾しないことにしている。なお、被告は、訴外会社に対して、必要に応じて広告主に対しても被告広告掲載基準を説明するように指示していた。
カ 被告は、訴外会社から掲載申込みのあった広告を媒体に掲載した場合、訴外会社に対し、被告の定める広告料金表に従い算出した広告掲載料金から、所定の委託手数料を差し引いた金額を請求していた。
(2) 上記認定事実によれば、訴外会社は、被告との間で成立した基本契約に基づき、自己の名で被告に広告の掲載を申し込み、掲載された広告の料金を全責任をもって被告に支払う債務を負っていたということができる。他方、訴外会社は、自己の名と責任をもって、広告主との間で広告媒体に対して広告の掲載を取り次ぐことを契約していることが認められる。したがって、訴外会社が広告主から被告の発行する広告媒体に広告を掲載するよう申し込まれたときでも、基本契約に従って訴外会社と被告との間で個別の広告掲載契約が成立しない限り、結局、広告主の申込みどおり広告掲載に至らないことになる。原告がこれまで道新の広告スペースに北方ジャーナルの記事広告を掲載していたのは、原告が訴外会社に広告掲載を依頼する旨契約し、訴外会社が被告に対して基本契約に基づき北方ジャーナルの記事広告を道新の広告スペースに掲載することを申し込み、被告がその都度これを承諾して広告掲載契約が成立するという2段階の契約が逐次成立していたことによるものであったにすぎない。したがって、原告と被告との間においては何ら直接の契約関係は認められず、また、被告が訴外会社に対し道新の広告スペースにおける記事広告掲載に関する代理権を授与していたとも認めることはできない。
 これに対し、原告は、広告代理店の立場にある訴外会社は代理商であって、被告のために取引の代理又は媒介を行うものである以上、被告の代理人たる法的地位にあったと主張する。しかし、被告と訴外会社との間で成立した基本契約によれば、訴外会社は、自己の名と責任をもって広告主から広告媒体に対して広告の掲載を取り次ぐことを業とする広告代理店であって、法的には準問屋であるというべきであるから、被告の代理人ではない。したがって、原告の上記主張は理由がない。
(3) また、原告は、平成9年3月以降から現在に至るまで、訴外会社を通じて1年契約で毎月1回道新の広告スペースを買い取っていた以上、商慣習を根拠として原告と被告との間で広告掲載契約が成立したとも主張する。
 しかし、上記認定事実を前提としても、原告と訴外会社との間において、1年契約で毎月1回道新の広告スペースを買い取る契約が成立したことをうかがわせる事情を認めることはできない。また、広告主である原告が広告代理店である訴外会社に長年にわたって広告掲載の申込み依頼を継続したことは認められるものの、そのことをもって、原告と被告との間にも、被告が直接原告に対し法的義務を負うような商慣習が成立した、と認められるものでもない。
(4) 以上のとおりであるから、被告は、原告に対し、毎月1回道新朝刊広告スペース上に北方ジャーナルの記事広告を掲載する内容の債務を負っていたものと認めることは到底できず、この債務の存在を前提する債務不履行に基づく損害賠償請求も理由がない。
2 争点(2)について
(1) 上記争いのない事実等、1で認定した事実及び証拠(かっこ内に掲記したもののほか、甲27、乙17、証人A、同B、同C)を総合すると、本件○○記事広告に関して、以下の事実が認められる。
ア 原告は、訴外会社に対し、7月16日付道新の広告スペースに北方ジャーナル8月号記事広告を掲載するよう依頼した。そこで、訴外会社は、7月12日、被告に対し同掲載を申し込み、事前ゲラを提出した。北方ジャーナル8月号は、北海道銀行の金融商品ラピッドの問題性を指摘し、北海道銀行の経営姿勢を批判した記事を掲載しており、事前ゲラには「道銀『ラピッド』は庶民を欺く金融麻薬商品」との広告記載があった。被告の審査担当者であった広告局広告整理部審査担当部長のD及びその上司の広告局次長兼広告整理部長のEは、合法的な北海道銀行の金融商品であるラピッドについて、中毒症状を連想させ社会悪を連想させる「麻薬」という文言を使用して金融麻薬商品と表現することは、被告広告掲載基準に規定する「他を中傷・誹謗するもの」に該当するので、他の表現への修正を求める必要があると判断した(甲1、甲6)。
イ 被告の営業担当者であった広告局営業本部営業第1部部長のCは、同部のFが訴外会社にその旨を説明要請していたことを再度行うため、同日夕方、訴外会社に赴き、訴外会社の媒体部窓口担当であったGにその旨をあらためて説明し、原告に表現を修正するよう交渉してほしいと依頼した。訴外会社の営業担当者であって原告会社の広告を担当していたAは、Gの指示を受け、同日中に原告方を訪れ、「麻薬」の文言のままでは紙面に掲載できない可能性があるから変更してもらいたいとの被告の意向を伝えた。これに対して、当時原告の編集長であったBは、Aに対して、被告において文書もしくは面談により掲載できない理由を直接明らかにするとともに、被告の広告掲載内規を公開するよう申し入れた。Aは、7月13日午前9時30分ころ、原告方に赴き、被告は広告表現上の問題で広告主と面談することも文書によって理由を説明することもしていないし、広告掲載内規の公開にも応じられない旨を伝えた。Bは、Aに対し、被告が面談を拒否し文書による理由の説明もしない以上、原告としては表現を変更する必要はないと判断せざるを得ないとして、原告が作成した北方ジャーナル8月号記事広告のフィルム原稿を手渡し、原文どおり掲載するよう依頼した。このやりとりの過程で、Aは、原告が修正に応じないことを明確にしている以上、被告がこのまま掲載することはできないから、白丸にするか、黒丸にするか、伏せ字にするかしないと掲載にはならず、麻薬の2文字が変更されて掲載される可能性がある旨の話をした。
ウ 同日午前11時ころ、Aと訴外会社の媒体部部長であったHは被告方を訪れ、Cが応対した。その席上、Aから、「北方ジャーナルさんの了解も何とか取り付けた。麻薬を白丸2つに訂正してください。それに合わせて、原稿はもうできているので、そちらで訂正をお願いしたい。」との申し出があったので、Cはこれらを了承し、Aに対し、修正指示ゲラで修正内容を書面上明らかにするよう指示した。その後、訴外会社媒体部から、被告の広告局広告整理部に「金融○○商品」という表現について「広告内の『麻薬』の2文字を『○○』に直しをお願いします。」と記載のある修正指示ゲラが届けられた(乙2)。Cは、Aに対して、原告が広告表現の変更を同意しているか否かを再度確認したところ、Aは、「北方ジャーナル社側も、それならそれでしょうがないと了承している。」と回答した。そこで、被告は、本件○○記事広告を掲載した(甲2)。
エ B及び原告代表者であるIは、7月19日、被告本社を訪ね、本件○○記事広告を掲載するに至った経緯と理由の説明を求めた。被告は、訴外会社から、原告も了承しているとの回答を得ていたことから、原告は同意していたものと考えたと説明した。なお、原告は、Aや訴外会社に対してクレームを入れるようなことはなく、訴外会社に対して北方ジャーナル8月号記事広告の料金を支払った(甲26)。
(2) 原告が「金融麻薬商品」を「金融○○商品」とし、「麻薬」の2文字を○○と伏せ字に変更することに同意していたか否かであるが、上記認定事実によれば、原告の認識は、「麻薬」の表現が被告の定める広告掲載基準等に抵触しないものであって、被告から納得できる理由の説明がない限り、表現を変更する必要はないというものであったということがうかがわれる。これに対し、Aの証言中には、7月13日のBとAとのやりとりの過程で、原告が修正に応じないことを明確にしている以上、被告はこのまま掲載することはできないから、白丸にするか、黒丸にするか、伏せ字にするかでないと掲載にはならず、麻薬の2文字が変更されて掲載される可能性があるという話となり、Bから白丸よりは黒丸の方が目立ってよいといった発言もあったので、おそらく何らかの形で麻薬の2文字が変更されて掲載される可能性があるという話をしたと証言する部分があるものの、Bから伏せ字につき同意を得たと明確に証言するものではない。かえって、Bも、B自身、白丸、黒丸、伏せ字という言葉を出したが、白丸よりは黒丸の方が目立ってよいという一般的な広告の話をしたにすぎず、北方ジャーナル8月号の記事広告を白丸にすることも、黒丸にすることも、伏せ字にすることもいずれも同意することはなかったと証言しているのである。他に、原告が本件○○記事広告掲載を同意していたと認めるに足りる証拠はない。
(3) 以上を前提に、被告が、本件○○記事広告の掲載に及んだことが不法行為に当たるか否かについて判断する。
ア 新聞社は、正確で公正な報道活動を通じて国民の知る権利に奉仕する社会的使命を有しているが、新聞における出版広告の掲載は、報道そのものとは異なり、広告の媒体を提供する新聞社と、広告の掲載を求める広告主、あるいは広告代理店との間で締結される広告掲載のための契約により規律される収益活動であって、原則として、契約の自由が適用される事項である。そうすると、新聞社が、特定の出版広告の掲載自体の諾否を判断することも、あるいはその出版広告の表現内容について修正等を求め、修正等を条件に広告の掲載を承諾するという対応を採ることも、原則として当該新聞社の判断にゆだねられており、その判断、対応は、相手方との合意によって締結される契約により規律されることになる。新聞社が、自主的に広告掲載についてのあるべき基準を定め、これを個々の広告掲載契約の締結の可否や継続的な契約内容に反映させることは、契約当事者の自主的な判断として当然許されるものであって、新聞社に前記の社会的使命があることをもって、締結された広告掲載契約の内容とは別に新聞社が特定の出版物の広告を無条件に掲載する義務が生じるといったような制約を受けるものではないというべきである。したがって、新聞社が直接に広告主との間で広告掲載契約を締結する際に、特定の広告掲載の申込みを拒絶したり、あるいは、申し込まれた広告の表現に一定の修正が加えられることを条件として掲載する旨の内容を定め、同契約に基づきそのような対応を採ったとしても、それが締結された契約に従うものである以上、違法となるものではない。そして、広告掲載が、広告主と広告代理店との広告掲載委託契約、広告代理店と新聞社との広告掲載契約という2段階の契約に基づく場合に、新聞社が、広告代理店との間の広告掲載契約に基づき、特定の広告の掲載を拒絶したり、広告の表現、内容が修正されることを条件に広告掲載に応じる対応を採ったとしても、新聞社及び広告代理店が著しく恣意的な契約解釈に基づき、広告主に損害を与える意図で行ったものである等の特段の事情が認められない限り、公序良俗に反するものではなく、広告代理店との間において債務不履行にはならないことはもちろんのこと、直接の契約関係にはない広告主に対する関係においても、不法行為となるものではないというべきである。
 この点につき、原告の主張が、出版社が、新聞社との間で直接の契約関係がない場合であっても、特定の出版物の広告を掲載することにつき固有の権利ないし利益をもっており、新聞社が広告主から出稿された広告の表現、内容に対し削除、修正を求めたり、掲載を拒否することは、広告主の表現の自由を侵害するもので違法であるから許されないというものであるとすれば、原告の主張は、その前提を欠く独自の見解であり、採用できない。
イ 上記2(1)で認定したとおり、被告は、北方ジャーナル8月号記事広告につき、「麻薬」の表現が被告広告掲載基準に抵触すると判断し、訴外会社の担当者であったAから、原告が「金融麻薬商品」という表現を「金融○○商品」という表現に変更することに同意してくれたのでそのように掲載してほしい、原告が作成した広告原稿フィルムを原告において再作成させる時間的余裕もないから、原告が既に訴外会社に提出していた同フィルムを被告において修正してほしい旨の申し出を受け、さらに、訴外会社から「金融○○商品」という表現に変更する内容の修正指示ゲラの提出を受けて、「麻薬」の2文字を「○○」と伏せ字に変更するに至ったという経緯によれば、被告は、最終的に原告が本件○○記事広告になることを同意したとの認識だったのであって、このような経緯、被告の認識に照らせば、前記特段の事情は何らうかがわれないから、被告が広告表現を変更したことが違法になるものではない。
 確かに、上記認定事実によると、被告は、訴外会社のAから、原告が広告の修正に関して被告の直接の説明を求め、また、広告掲載内規の開示を求めていることを知っており、原告が相当強硬な態度に出ることをうかがい知り得たものといえる。しかしながら、被告としては、訴外会社に対して原告に広告の修正依頼をするよう申し入れ、訴外会社のAから原告が広告の修正を了解したとして、修正された広告掲載の申入れがあったのであるし、また、被告のCは改めてそのことをAに再確認しているのである。その上、被告は、訴外会社との関係で広告を掲載する債務を負っているから、訴外会社から修正した広告掲載の申入れがあれば、これに応じる必要があったのである。他方、広告主との交渉は、正に広告代理店である訴外会社が自己の責任で行うという契約関係に立っているのである。このような状況下で、被告が、原告と訴外会社との間の交渉で原告の上記強硬な態度が解消したものと受け止めたのも肯首できるものであって、原告の意思に反することを知った上で、殊更本件○○記事広告を掲載したものでもないし、原告にその意思を確認すべき特別の状況があったとも認められず、その他、被告が広告表現の変更に応じるのが違法になることをうかがわせる特段の事情も認められない。
(4) 以上のとおりであるから、被告が、本件○○記事広告を掲載したことが不法行為に当たるとは認められない。
3 争点(3)について
 上記争いのない事実等、1及び2で認定した事実及び証拠(かっこ内に掲記したもののほか、甲28、乙17、証人A、同B、同C)によれば、本件各不掲載に関して、次の各事実が認められる。
(1) 9月号不掲載について
ア 原告は、訴外会社に対し、8月15日付道新の広告スペースに北方ジャーナル9月号記事広告の掲載を申し込んだ。訴外会社は、8月8日、被告に対し同掲載を申し込み、原告の作成した事前ゲラを被告に提出した。北方ジャーナル9月号の内容は、公共的な報道機関であるマスメディアが北海道銀行の金融商品ラピッドの広告を掲載することの問題性を指摘するもので、事前ゲラには、「大量広告の“麻薬”打たれ道新が言論弾圧」「3度目の本誌広告削除に抗議する!」との記載があった。被告の審査担当者は、「大量広告の“麻薬”打たれ」「道新が言論弾圧」「広告削除」の表現は事実に反し、被告広告掲載基準の「虚偽」に該当し、「他を誹謗・中傷する」広告に該当すると判断した(甲8の11、甲10、甲11)。
イ 被告の営業担当者は、8月8日午後5時ころ、9日午前11時ころ及び午後2時40分ころの3回にわたって訴外会社のAにその旨を説明し、他の表現へ修正するよう要請した。訴外会社を介して被告の意向を知った原告は、広告の変更に応じず、広告内容の正当性を訴え、被告が広告内容の変更を求める根拠を示すよう要求した。被告の広告局広告整理部次長であったJ及び広告局営業本部営業第1部次長であったKは、8月10日、訴外会社のAとともに、原告本社を訪れ、原告代表者であるI、当時北方ジャーナル編集長であったL、当時営業部長であったBと面談した。その際、被告の前記J及びKは、「大量広告の“麻薬”打たれ」「道新が言論弾圧」の表現については、被告が北海道銀行に特別に配慮して原告の言論を弾圧したとの表現に受け取ることができるが、そのような事実はなく、「広告削除」の表現についても、被告が一方的に勝手に変更して削除した事実はないので、いずれも被告広告掲載基準中の「虚偽」に該当するとして修正を求めた。この面談の席上、原告から、「麻薬」を「注射」に、「言論弾圧」を「言論抑圧」に修正し、その余は修正せずに掲載するとの提案があった。しかし、被告側は、同提案をいったん持ち帰って再度検討したが、原告が提案した広告表現の修正案についても被告広告掲載基準に抵触すると判断し、Aに対して結論を伝え、新たな修正案が有れば検討することを原告に伝達するよう要請した。
ウ 被告は、原告から新たな対応がなかったため、同日夕方、原告に対し、北方ジャーナル9月号の記事広告は掲載できないと通知し、8月15日付道新の広告スペースに北方ジャーナル9月号の記事広告を掲載しなかった。
(2) 10月号不掲載について
ア 原告は、訴外会社に対し、9月15日付道新の広告スペースに北方ジャーナル10月号記事広告の掲載を申し込んだ。訴外会社は、9月10日、被告に対し同掲載を申し込み、原告の作成した事前ゲラを被告に提出した。北方ジャーナル10月号の内容は、北方ジャーナルの記事広告が不掲載となった事実経過を明らかにして被告の対応を批判するもので、事前ゲラには、「道新の暴挙!本誌の広告掲載を全面拒否」「過去4度にわたる言論抑圧で本誌が提訴へ」との記載があった。被告は、「暴挙」「全面拒否」「言論抑圧」の表現が、被告広告掲載基準中の「虚偽」に該当すると判断し、訴外会社にその旨を申し入れた(甲8の12、甲12、甲13)。
イ 被告の申入れを受けた訴外会社のAは、9月11日、原告本社に赴き面談したところ、原告代表者は、「暴挙」を「横暴」に変更しても構わないが、その余については修正せずに掲載してほしい、だめな場合は伏せ字でも空白でも致し方ないと発言した(甲28)。9月13日、被告の審査担当者と営業担当者が、Aとともに原告本社を訪れ、再度、広告表現の変更を求める理由を説明した。しかし、原告は、さらに納得できる理由と説明を求め、これまでの経緯及び原告の主張を記載した確認書(甲22)を提出した。被告は、Aに対し、9月14日、再度修正交渉を求めた(乙14、乙15)。
ウ 被告は、原告から「全面拒否」「言論抑圧」について修正の申し出もなかったことから、9月15日付道新の広告スペースに北方ジャーナル10月号の記事広告を掲載しなかった。
(3) 11月号不掲載について
ア 原告は、訴外会社に対し、10月15日付道新の広告スペースに北方ジャーナル11月号記事広告の掲載を申し込んだ。訴外会社は、10月11日、被告に対し同掲載を申し込み、原告の作成した事前ゲラを被告に提出した。北方ジャーナル11月号の内容も、北方ジャーナルの記事広告が不掲載となった事実経過や被告の対応に対する批判であり、事前ゲラには「『道銀』『クレ・サラ』の大量広告にひれ伏す道新のモラルハザード」「本誌の広告掲載拒否続け表現の自由奪う」との記載があった。被告は、「ひれ伏す」「広告掲載拒否続け」「表現の自由奪う」の各表現は、事実に反するのでこのままでは広告掲載できないと判断し、訴外会社にその旨を申し入れた(甲8の13、甲14、甲15)。
イ 被告の申入れを受けた訴外会社のAは、原告に対し、被告が「大量広告」とは考えていないし、「ひれ伏す」こともしていない、被告としては「広告掲載拒否続け」「表現の自由奪う」認識はないとして、事実誤認があるとの申入れをしているとして、表現を再検討して欲しいと求めた。これに対して、原告は、Aに対して、原告の認識を前提とすれば、上記の表現はいずれも事実に反することはなく、変更の要請は、被告の都合による解釈を原告に押しつけるものであって、広告主である原告の掲載権を制限し、表現の自由を侵害するものである等と回答した(甲23、甲24)。
ウ 被告は、原告から被告が要請した表現部分の修正の申し出がなかったことから、10月15日付道新の広告スペースに北方ジャーナル11月号の記事広告を掲載しなかった。
(4) 12月号不掲載について
ア 原告は、訴外会社に対し、11月15日付道新の広告スペースに北方ジャーナル12月号記事広告の掲載を申し込んだ。訴外会社は、11月12日、被告に対し同掲載を申し込み、原告の作成した事前ゲラを被告に提出した。北方ジャーナル12月号記事広告の事前ゲラには、「社告 本誌の広告掲載拒否をめぐる道新の言論弾圧行為について」との記載があったところ、被告の審査担当者は、「広告掲載拒否」「言論弾圧行為」は事実に反すると判断し、訴外会社にその旨を申し入れた(甲8の14、甲16、甲17)。
イ 被告の依頼を受けた訴外会社のAは、11月12日、原告に対し、被告が「広告掲載拒否」も「言論弾圧行為」もしておらず、これらの表現は事実に反するから、そのままでは広告掲載はできないと申し入れているので変更して欲しいと申し入れた。これに対して、原告は、被告によって「広告掲載拒否」「言論弾圧行為」を受けたのは事実であり、この表現は原告の見解であるからこのとおり掲載してもらいたいと回答した。同月14日にも、被告は、訴外会社を通じて再検討を申し入れたが、原告の対応は変わらないので、被告は、訴外会社を通じて「広告掲載拒否」「言論弾圧行為」は事実に反するからそのままでは広告掲載できないと原告に伝えた。
ウ 被告は、原告から修正の申し出がなかったことから、11月15日付道新の広告スペースに北方ジャーナル12月号の記事広告を掲載しなかった。
(5) 以上の認定によれば、被告による本件各不掲載は、被告広告掲載基準に照らし許容できない表現があると判断したためであるところ、前記の問題となった各表現部分が、「虚偽、誇大、又は不正確で誤認を与えるおそれのあるもの」、「他を中傷・誹謗するもの」等被告広告掲載基準によれば掲載できないものに該当するとした被告の判断は、著しく恣意的な解釈に基づくとはいえないものである。また、被告は、各表現部分の修正を再三にわたり原告側に申入れ、交渉の機会をもった等の経緯に照らすと、被告は、前記各記事広告を掲載できるようにするために期限の間際まで対応し、相応の努力をしていたことがうかがえる。しかしながら、原告が、被告の意向や見解に納得せず、最後まで原告の見解と異なることを理由に被告が許容しうる表現の修正に応じず、原告が作成した原稿どおりの広告掲載を求め続けたため、前記各記事広告の掲載が実現できなかったのであって、被告において、原告に損害を与える意図をもって殊更記事広告の掲載を拒否したことをうかがわせるような事情を認めることはできない。そうすると被告が前記各記事広告を掲載しなかったことにつき、原告に対する不法行為を構成するような特段の事情は認められないというべきである。
(6) 以上のとおりであるから、被告による本件各不掲載が不法行為に当たるとは認められない。
4 結論
 以上によれば、その余について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないので、主文のとおり判決する。

札幌地方裁判所民事第3部
 裁判長裁判官 生野考司
 裁判官 川口泰司
 裁判官 大淵茂樹
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