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【事件名】「新しい歴史教科書をつくる会」書籍の廃棄処分事件
【年月日】平成15年9月9日
 東京地裁 平成14年(ワ)第17648号 損害賠償請求事件

判決


主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 被告らは、各原告に対し、各自金300万円及びこれに対する平成13年8月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、平成13年8月10日から同月26日にかけて、船橋市西図書館に勤務していた被告A司書(以下「被告A」という。)が、船橋市図書館資料除籍基準に該当しないにもかかわらず、同図書館に所蔵されていた原告新しい歴史教科書をつくる会(以下「原告つくる会」という。)及びその会員の著書を中心として合計107冊の著書(原告らの著書は30冊)を除籍し廃棄したため、原告らが、被告Aに対しては不法行為に基づき、被告船橋市に対しては国家賠償法に基づき、原告らそれぞれに対して慰謝料等300万円の損害賠償を請求している事案である。
1 前提事実
 以下の事実は、当事者間に争いがないか、後掲の証拠によって容易に認定することができる事実である。
(1) 原告B、原告C、亡D(なお、同人は、平成14年10月29日に死亡し、その妻である原告Eが本件訴訟手続を受継した。)、原告F、原告G、原告H、原告I及び原告Jは、それぞれ、別紙1「除籍図書目録」1〜10、13〜30記載の各書籍を執筆ないし編集した。
(2) 原告つくる会は、平成9年1月30日の設立総会を経て設立された権利能力なき社団であり、「新しい歴史・公民教科書およびその他の教科書の作成を企画・提案し、それらを児童・生徒の手に渡すこと」を目的としており(弁論の全趣旨)、別紙1「除籍図書目録」11及び12記載の書籍を編集した。
(3) 被告船橋市は、船橋市中央図書館、船橋市東図書館、船橋市西図書館(以下「西図書館」という。)及び船橋市北図書館を設置しており、被告Aは、平成13年8月当時(以下「本件当時」という。)、西図書館に司書として勤務していた(甲9号証)。
(4) 別紙2「関連図書蔵書・除籍数一覧表」記載のとおり、平成13年8月10日から同月26日にかけて、西図書館において、別紙1「除籍図書目録」記載の書籍を含む合計107冊の書籍(一般図書)が、コンピュータ上の蔵書リストから除籍する処理がなされた上で、廃棄処分された(以下、これらの処分を「本件除籍等」という。)。
(5) 平成14年4月12日付けの産経新聞(全国版)において、平成13年8月ころ、西図書館に所蔵されていたK氏の著書44冊のうち43冊、L氏の著書58冊のうち25冊の合計68冊が廃棄処分されていたなどと報道され、これをきっかけとして本件除籍等が発覚した。
(6) 被告船橋市の教育委員会(以下「市教育委員会」という。)は、同月13日から23日にかけて、臨時職員や退職者を含め合計22名の職員から事情聴取をするなどして本件除籍等について調査したところ、最終的には被告Aが本件除籍等を行ったものと判断した。市教育委員会は、調査結果をもとに、同年5月10日、司書職員1人が除籍したことを認めている、本件除籍等で廃棄された合計107冊について除籍すべき理由を見い出すことはできなかったなどと発表した(甲1、3、13号証)。
 市教育委員会は、平成14年5月29日付けで本件除籍等に関する処分を行い、被告Aを、減給10分の1(6か月)の懲戒処分とした(甲7号証、弁論の全趣旨)。
(7) 本件除籍等の対象となった書籍のうち、合計103冊については、平成14年7月4日までに、被告Aを含む市教育委員会生涯学習部の職員5名からの寄付という形で再び西図書館に配架された。また、残り4冊については入手困難であったため、上記5名が、同一著者の執筆した書籍を代替図書として寄付し、配架された(なお、上記4冊のうち1冊については、同年8月30日に、除籍された図書と同一の書籍が寄付され、配架された)。
2 争点及び当事者の主張
(1) 争点1(本件除籍等を行ったのは被告Aか否か)
(原告らの主張)
ア 本件除籍等がなされた平成13年8月当時は、原告らの多くが執筆に関わった『新しい歴史教科書』が日本各地の教育委員会において採択されるかどうかが、国内外から注目されており、原告つくる会の事務所に対する放火テロ攻撃事件があった時期であった。
イ 被告Aは、このような状況に刺激されるなどして、原告つくる会に思想的な関係があると自ら調べた著者の著作物を、その思想内容や表現内容を理由として、公的に保障された「表現の自由」市場(著者と読者とを媒介とする場)たる公立図書館の書棚から一方的に排除・追放し、自らの思想・信条と異なる意見の書かれた著書が図書館利用者の目に触れることのないようにするため、船橋市図書館資料除籍基準に該当せず、本来であれば除籍することができないにもかかわらず、主にパート職員に指示して、本件除籍等の対象となった書籍合計107冊を西図書館に集めた上、密かにこれらの書籍を除籍して廃棄した。
ウ 被告船橋市の図書館では、全館で1冊しかない本については、管理端末機のコンピュータ画面上に「最終本」というメッセージが表示されて誤って廃棄されないよう注意を促すシステムとなっているが、被告Aは、その管理上の自動システムを全て無視して、確信的な意図をもって上記107冊の書籍を除籍し、その一部分を実際に燃やすなどした上、故意に廃棄したものである。
(被告船橋市の主張)
 被告Aが本件除籍等を行ったことは認めるが、同人は書籍を燃やしたことはなく、その余の事実については否認する。また、本件除籍等が意図的もしくは故意によるものであるかについては不明である。
(被告Aの主張)
ア 本件除籍等があった事実は認めるが、その余の事実については否認する。被告Aは、被告船橋市が行った調査に対して、自らが除籍を行った旨述べたが、四囲の状況から自分以外に除籍を行った者はいないだろうと考えて、そのように述べたもので、除籍を行ったとの明確な記憶はない。また、本件除籍等の対象となった107冊の中には、除籍基準に該当するものがあったと考えられる。
イ 仮に、被告Aが本件除籍等を行ったとしても、被告Aには思想的な背景は全くない。
ウ 甲13号証(船橋市によるA事件事情聴取記録)は、原告らが情報公開請求権の行使など適法な手続を経て入手したものではなく、違法に入手された可能性も否定できない。また、事情聴取を受けた者の発言は公開されないことを前提とするものであるから、その者の同意なくして発言内容を知り、証拠として用いることを認めると、これらの者のプライヴァシー権を侵害する。さらに、一部を除き、作成者の署名捺印さえなく、記載されている氏名の者が真実記載されているとおりに述べたのか否か全く不明である。よって、甲13号証は、事実認定に供せられるべきではない。
(2) 争点2(本件除籍等の違法性の有無)
(原告らの主張)
 被告Aは、本件除籍等によって、原告らの以下の権利あるいは法的利益を侵害した。
ア 憲法19条違反
 原告らには、一般に内心の思想に基づいて公権力から不利益を課されないという憲法上の権利があり、そのコロラリーとして、「表現行為としての著書に対する図書館利用者からの反応・反響を通して自らの思想・信条を省み、あるいは深化させる機会を公権力によって妨げられない権利」がある。しかるに、被告Aは、原告つくる会に関係すると判断した特定の著作者(思想主体としての原告ら)の著作であることを理由としてこれらを排除するという意図的・計画的目的をもって、本件除籍等を行い、公立図書館から原告らの思想・信条の表現された著書を一方的に排除するという不利益を原告らに課し、上記権利を侵害した。
イ 憲法21条違反
(ア) 内心における思想は外部に表明され、他者に伝達されて初めて社会的効用を発揮する。そして、著書の流通及び公表がなされなければ、著作者にとって思想・信条を発表する権利が保障されたことにはならない。とりわけ、現在の日本社会におけるおびただしい書籍の出版状況とそれに伴う書籍流通状況を考えれば、思想・表現の自由が確保され、言論の自由が真に保障されているといえるためには、出版され自由な流通におかれた多様な種類の書籍が、公立図書館において適正に収集され、利用者たる国民一般に広く提供される必要があり、公立図書館には、思想・信条の主体である国民(送り手)が対外的に表現した著作物を同じく思想・信条の主体である国民(受け手)へ伝達するために存在し、「公の表現の場」たる役割を果たす義務がある。
(イ) したがって、書き手(著者)から読み手(読者)に至る表現行為ないし情報(書籍)の全流通過程において、公権力による妨害や制約によって著者の表現行為及び読者の知る権利が阻害されないという「表現の自由」の保障の本来の趣旨及び上記の公立図書館の役割からすると、現代社会においては、伝統的な旧来の表現の自由が保障されるにとどまるだけではなく、表現の自由(公表権)の内容として、「表現を公表する方法の1つである図書館内で公正な閲覧に供される利益を不当に奪われない権利」及び「公立図書館で購入された著書を適正・公正に(他の思想を表す著作と差別されることなく平等に)閲覧に供され保管・管理される権利」があるというべきである。そして、一旦、公立図書館において利用者に広く閲覧される状態となった書籍の著者は、表現の自由の上記の保障内容及び平等原則の保障内容として、他の書籍から差別されずに、かつ自己の書籍を不当に除籍されず図書館利用者への思想・表現等情報伝達を妨害されない具体的法的保護を受け得る地位を得たというべきである。
(ウ) この観点から、表現の自由を図書館において具体的に実現するため宣言され規範化されたものが、日本図書館協会において採択された「図書館の自由に関する宣言」であり、その内容から次の結論が導かれる。すなわち、本の著者を含めて国民は公立図書館に対して公平な資料収集を要求する権利を有する。そして一旦、公立図書館がある書籍を購入したとすれば、著者はその書籍を恣意的に廃棄されない具体的な権利を有する。そして除籍基準その他一定の裁量権を逸脱した恣意的な書籍の廃棄がなされた場合、図書館または公務員による検閲と同じ社会的効果を有するということができる。
 なお、本件の場合、図書館資料除籍基準という明確で客観的な基準が存在するのであって、第三者たる裁判所が侵害の有無を容易に判断することができ、法的権利性を認めるに足りる十分な許容性がある。
(エ) 被告Aは、原告つくる会やその運動に関与し、あるいは賛同している保守的な思想家の本につき、その思想的な立場ゆえに西図書館から排除しようとして本件除籍等を行ったものであり、これにより原告らは、上記権利を侵害され、図書館利用者への思想・表現等情報伝達を妨害されない地位を侵害されたことは明らかである。
ウ 憲法13条、14条、23条違反
 本件除籍等は、表現活動という著作者の人格的自己実現の展開によりもたらされたかけがえのない成果物としての著書を排除・抹殺するものであるから、憲法13条の保障する「個人の尊重」原理及び「幸福追求権」を直接に侵害するものである。また、原告らは、自らの著作物の学問内容のゆえに、執筆・編集した書籍を除籍・廃棄されており、かかる処分は、憲法14条の保障する法の下の平等に反するとともに、憲法23条の学問の自由を侵害するものである。
エ 名誉毀損・人格権等の侵害
 原告らは、本件除籍等により、図書館から与えられていた「読むに値する良識ある作品」という評価を一方的に撤回され、原告らは、文筆家としての社会的地位の低下を被るとともに、表現者・文化人としての誇りを傷つけられ、名誉を毀損されるとともに、名誉感情や人格的利益を著しく侵害された。また、被告Aによる本件除籍等は、著作者として自らの著作を公衆に広く提供し、または提示する権利その他著作者人格権(著作権法18条〜20条、50条、113条3項、82条等)の根底を形成する著作者の人格権(著作者が自己の著作物について有する人格的利益)を侵害するものである。
(被告船橋市の主張)
 争う。
(被告Aの主張)
 およそ不法行為が成立するためには、裁判上保護の対象となる権利あるいは法的利益の存在が必要である。しかし、以下のとおり、原告らには、かかる権利ないし法的利益が存在せず、本件除籍等が違法性を有するとして不法行為が成立することはない。
ア そもそも、西図書館と市内の各図書館及び公民館図書室との間を巡回車が走っているので、他の図書館から書籍を取り寄せることができ、その取り寄せは早ければ即日にも可能である。また、被告船橋市では、県立図書館や県内の他の公共図書館、国会図書館を始め県外の公共図書館や大学図書館からの取り寄せも行っている。そして、どの図書館にどのような書籍があるのかということは、同一地区町村内の図書館であれば、互いにデータを共有して業務を行っているし、多くの図書館がインターネットやCD−ROMで蔵書を公開するなどしているので、瞬時に調べることができる。
 図書館から書籍が除籍される場合、その図書館の利用者には、その場で直ちに閲覧できないという不都合が生じるかもしれないが、その場合でも、上記のような図書館のネットワークを通じて、容易に目的の書籍を閲覧し、取り寄せて読むことが可能である。したがって、本件除籍等が書籍の著者に与える不利益なるものを観念することはできず、仮にそのようなものがあるとしても、法的保護に値する権利として裁判上承認され得るものではない。
イ その上、原告らが主張する「図書館利用者からの反応・反響を通して自らの思想・信条を省み、深化させる機会を公権力によって妨げられない権利」というものは存在せず、著者には、図書館に対して、著書の購入を要求する権利もない。図書館がある書籍を購入し、利用者が閲覧できる状態になったとしても、それは図書館が当該図書を購入した結果であり、著者には、図書館での閲覧ができるよう要求する権利はない。そうである以上、原告らが主張するような権利・利益は存在しない。
ウ また、選書は、図書館利用者のために行われるものであって、著者のために行われるものではなく、選書によって著者に何らかの法的利益が生ずることはあり得ず、選書されたからといって、著者に書籍を廃棄処分されない法的利益が生じることもない。
エ 原告らは、本件除籍等によって憲法23条などの憲法上の権利が侵害されたと主張するが、これら憲法上の権利は、自己の著作物が特定の図書館の蔵書として置かれることを保障するものではない。また、名誉毀損とは、表現行為により他人の社会的評価を低下させる場合をいうところ、本件除籍等は、そもそも表現行為に該当せず、名誉権侵害は問題となり得ない。
オ さらに、原告らの主張する「著作者人格権の根底を形成する著作者の人格権」は、あまりにも抽象的かつ曖昧であり、法的利益として裁判上保護に値するものではない。
(3) 争点3(被告Aの被告適格の有無)
(被告Aの主張)
 判例は、国家賠償法1条に該当する場合、国または公共団体が被害者に対して賠償責任を負うのであって、公務員個人は直接責任を負わないとしている。したがって、原告らの被告Aに対する請求は被告適格を欠く者に対する請求であり、不適法なものとして却下されるべきである。
(原告らの主張)
 被告Aが行った本件除籍等は、政治的確信に基づいてなされた極めて偏向した差別的なもので、公務としての特別の保護を何ら必要としないほど明白に違法な公務というべきであり、かつ、行為時に被告Aもその違法性を認識していたから、被告Aについて個人責任が当然に認められるべきである。
(4) 争点4(原告らの損害額)
(原告らの主張)
 原告らは、被告Aによる本件除籍等によって、上記の憲法上の権利、人格権などの諸権利・法的利益を侵害され、被告らによる差別的取扱いによって、それぞれ著しい損害及び筆舌に尽くせぬ精神的苦痛を被った。それらの損害を回復し、被った精神的苦痛を慰謝するためには、原告らそれぞれに対して300万円の慰謝料等が支払われる必要がある。
(被告船橋市、被告Aの主張)
 争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件除籍等を行ったのは被告Aか否か)に対する判断
(1) 本件では、冒頭の前提事実で記載したように、被告船橋市の西図書館で原告らの書籍30冊を含む合計107冊の図書が除籍されたことは明らかであり、その主な争点は、被告Aが本件除籍等を行ったのか否か(争点1)、本件除籍等は原告らとの関係で違法なものということができるか否か(争点2)、の点である。
 そこで、まず、本件除籍等を行ったのは被告Aか否かについて判断するに、冒頭に前提事実として記載したところのほか、以下の事実が認められる。
ア 被告船橋市には、中央図書館、東図書館、西図書館及び北図書館の4つの図書館が設置されており、本件除籍等が行われた平成13年8月当時、被告Aは西図書館に司書として勤務していた(甲9号証)。
イ 本件当時、船橋市図書館資料除籍基準(以下「本件除籍基準」という。)には、除籍の対象となる資料として、以下のようなものが挙げられていた(甲4号証の13)。
(ア) 蔵書点検の結果、所在が不明となったもので、3年経過してもなお不明のもの。
(イ) 貸出資料のうち督促等の努力にもかかわらず、3年以上回収不能のもの。
(ウ) 利用者が汚損・破損・紛失した資料で弁償の対象となったもの。
(エ) 不可抗力の災害・事故により失われたもの。
(オ) 汚損・破損が著しく、補修が不可能なもの。
(カ) 内容が古くなり、資料的価値のなくなったもの。
(キ) 利用が低下し、今後も利用される見込みがなく、資料的価値のなくなったもの。
(ク) 新版・改訂版の出版により、代替が必要なもの。
(ケ) 雑誌は、図書館の定めた保存年限を経過したものも除籍対象とする。
ウ 本件当時、被告船橋市の図書館における図書の除籍手順は、以下のとおりであった(甲3号証、甲4号証の14、甲13号証。なお、同号証の証拠能力については後述する。)。
(ア) 船橋市北図書館に共同書庫があり、利用頻度が低下した図書はそこで保管されていた。図書等の除籍については、上記認定のとおり、除籍基準が定められおり、汚損や破損が著しい図書などは実際に除籍されて廃棄されていたが、利用頻度が低下しただけの図書は上記共同書庫で保管される扱いとなっていた。
(イ) 船橋市では、図書を除籍するか否かの実質的な判断は、図書館司書が行うものとされていた。本件当時、西図書館には被告Aを含めて3人の司書が在職していたが、除籍の判断については、最も経験年数の長い被告Aの意見が尊重されていた。
(ウ) 除籍に関する最終的な図書館長の決裁は、実際には、除籍手続がなされ、図書が廃棄された後、事後的に行われていた。
エ 西図書館における図書の除籍状況は、以下のとおりである。
(ア) 平成11年度に除籍等がなされた図書は合計6968冊で、平成12年度は合計6288冊、平成13年度は合計4787冊であった(丙1ないし3号証)。
(イ) 西図書館では、平成13年8月に合計541冊の書籍(一般図書170冊、児童図書17冊、雑誌354冊)が除籍・廃棄された。そして、この一般図書のうち63冊、児童図書及び雑誌のすべては、除籍基準に基づき除籍したものであったが、別紙1「除籍図書目録」記載の書籍を含む本件除籍等の対象となった合計107冊の図書については、除籍基準に基づいて除籍されたものと認めるに足りる証拠はない(これに反する被告Aの主張は採用しない。)。
(ウ) 本件除籍等の対象となった合計107冊の図書が除籍された日は、別紙2「関連図書蔵書・除籍数一覧表」記載のとおりであって、平成13年8月10日、14日、15日、16日、25日、26日と6日間にわたっていた(甲3、4号証)。
オ 平成14年4月に本件除籍等が発覚した後に被告船橋市の教育委員会が関係者らから事情を聴取した際に担当者によって作成されたと推認される資料(甲13号証)には、以下のような記載がある(なお、被告Aが甲13号証は事実認定に供せられるべきではないと主張しているので付言すると、原告らが同号証を入手した経緯は不明であるが、違法収集証拠としてこれを証拠資料から排除しなければならないような特段の事情は認められない上、同号証は、その形式、体裁などから判断して教員委員会による事情聴取の際に作成されたものと推認され、しかも、その原本を確認しうる被告船橋市において、特にその成立や内容を否定したり争ったりしていないことを考慮すると、その形式的証拠力や信用性を排除しなければならないものではないと認められる。)。
(ア) 被告Aは、本件当時、被告Aと同じ西図書館に勤務していたM副主査(以下、役職は本件当時のもの。)に対し、「K氏、L氏らの著書が沢山ある。」「歴史教科書をつくる会の冊数が多い。」などと言ったことがあった。また、同じくN主任技労員は、被告Aが、平成13年8月ころ、児童室の端末画面を見ながら、「こんな本は図書館に置いておくべきではない。」と言っているのを聞いたことがあった。
(イ) 同じく西図書館に勤務していたO臨時職員は、被告Aから、L氏の本について、「こんな本ばかり書いてねぇ。」などと言われたことがあるほか、本件当時、被告AがL氏の書籍を除籍しているところを目撃したことがあった。
(ウ) 同じくP臨時職員は、平成13年8月11日、被告Aからリストを渡され、北図書館へメールして同図書館の共同書庫にある図書を大量に取り寄せるよう指示されたが、その際、被告Aから、「西図書館所蔵の本を希望と必ず書いてね。」と言われた。また、P職員は、そのころ、原告つくる会ほかが執筆した『国民の道徳』が除籍対象の図書を入れる段ボール箱の中にあるのを目撃した。
(エ) 同じくQ主任主事は、被告Aから、「K、Rの本が偏っているので抜こうと思っている。」と聞かされたことがあったほか、20冊ほどの図書が付箋を貼られ、バーコードにマジックで線が引かれたうえで籠に入れられているのを目撃したことがあったが、この時は、被告AからQ主任に対して除籍理由の説明があった。
 また、本件当時、Q主任は、被告Aから、「こっち(右とか左の意味。)の本も多くしなくちゃいけないね。」と言われたことがあった。
(オ) S臨時職員は、平成13年夏ころ、被告Aから、L氏らの書籍を書棚から抜いてくるよう指示され、これに応じて、合計数十冊の書籍を書棚から抜いてきたことがあった。
カ 被告Aは、上記の教育委員会による事情聴取に対して、当初は、自分が除籍したことを否定するとともに、「何で右の本が多いのか。左からの反対の声も上がるのではないか。したがって、選書のあり方も問題だろう。」などと述べたが、最終的には、自分が本件除籍等を行ったことを認め、平成14年5月10日には、船橋市教育委員会委員長に宛てて、本件除籍等の対象となった図書合計107冊については自分が除籍した旨の上申書を書き、署名・押印した(甲13号証)。
(2) 上記認定事実によれば、被告Aは、本件除籍等の対象となったK氏らの著書について批判的な態度を示していたほか、日頃から西図書館における購入図書の選択(選書)に偏りがあると主張していたことが窺われるのであって、原告つくる会及びその賛同者に対して否定的評価を抱いていたことや、他の職員に対して原告らの著書を書棚から抜いてくるよう指示して手元に集めた上、自分でこれらの書籍を除籍したこと、また、被告船橋市による事情聴取に対して本件除籍等を行ったことを自認して、その旨の上申書を提出していることなどが認められるほか、被告Aに対して本件除籍等を行うように指示したような職員は見あたらないことなどの事実に照らし考えれば、本件除籍等は、原告つくる会らを嫌悪していた被告Aが単独で行ったものと認めるのが相当である。
(3) もっとも、本件訴訟において、被告Aは、自分が本件除籍等をしたのか否か記憶がないと主張して、実質的にこれを争う姿勢を示している。しかし、上記認定のところからも明らかなように、本件除籍等の対象となった書籍は1冊や2冊ではなく、合計107冊にも上るものであるほか、図書館が所蔵している原告らの書籍のすべてを除籍したわけではなく、被告A自身で1冊1冊その内容を確認し、自分の独断で内容的に不適切と考えたものだけを除籍の対象としたと推認されること、しかも、別の図書館の共同書庫に保管されていたものをもわざわざ取り寄せ、数日にわたってパソコンを操作して蔵書リストから当該書籍を除籍した上で廃棄処分にしていることなどの事実にかんがみれば、本件除籍等は、決して一時の偶発的な行為ではなく、周到な準備をした上で計画的に実行された行為であることが明らかであり、単にパソコンの操作ミスなどで誤って除籍されたようなものではないのであるから、自分が本件除籍等をしたか否か記憶がないなどという被告Aの弁解は、到底採用することができない。
2 争点2(本件除籍等の違法性の有無)に対する判断
(1) 被告Aは、被告船橋市の図書館に勤務するベテランの司書であり、図書館で市民の閲覧に供され保管されている書籍を除籍して廃棄するには、同市が定めた除籍基準に従って行うべき義務があることは熟知していたはずであるのに、前記認定のとおり、市が定めた除籍基準を無視し、個人的な好き嫌いの判断によって大量の図書館の蔵書を除籍し廃棄して船橋市の公有財産を不当に損壊したものであって、そのような本件除籍等が被告船橋市に対する関係で違法なものであることは明らかである。
 しかしながら、被告Aによってなされた本件除籍等が原告らに対する関係でも違法なものといえるか否かは、別問題といわなければならない。なぜなら、被告Aによって除籍等がなされた図書は、すべて被告船橋市が購入して所有し管理していたものであって、原告らの所有・管理に属するものではなく、これらの蔵書をどのように取り扱うかは、原則として被告船橋市の自由裁量にまかされているところであり、仮に、これを除籍するなどしたとしても、それが直ちにその著者との関係で違法になることはないと考えられるからである。
 そうすると、被告Aによってなされた本件除籍等がその著者である原告らに対する関係でも違法となるためには、原告らに、法的権利ないし法的保護に値する利益が存在することが必要であるといわなければならない。以下、これらの主張について検討する。
(2) 憲法19条違反について
ア まず、原告らは、憲法19条が思想良心の自由を保障していることから、そのコロラリーとして、「著書に対する図書館利用者からの反応・反響を通して自らの思想・信条を省み、深化させる機会を公権力により妨げられない権利」が存在すると主張している。
イ しかし、そもそも憲法19条は、「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。」として、人間の内心領域における自由権を保障したものであるから、同条による権利保護は、人間の精神的活動が外部に対して表現するには至らない範囲の領域で成立するものであるところ、原告らが主張している図書館利用者からの反応などを通して自らの思想・信条を省み、深化させる機会を妨げられない権利というものは、人間の精神活動が外部に対して発表された後に観念しうるものであって、同条による保護の範囲に含まれるものではないことが明らかであるから、原告らのこの点の主張は、その余の点について判断するまでもなく、採用することができない。
ウ 原告らの上記憲法19条違反の主張は理由がない。
(3) 憲法21条違反について
ア また、原告らは、憲法21条が表現の自由を保障していることを根拠として、@表現を公表する方法の1つである図書館内で公正な閲覧に供される利益を不当に奪われない権利、A公共図書館で購入された著書を適正・公正に閲覧に供され保管・管理される権利、B公立図書館がある書籍を購入した場合、その書籍を恣意的に廃棄されず、図書館利用者への思想・表現等の伝達を妨害されない権利を有しており、本件除籍等はこれらの権利・利益を違法に侵害したものであるなどとも主張しているので、以下、この点について検討する。
イ 図書館法(昭和25年4月30日法律118号)によれば、図書館は、図書等の資料を収集、整理、保存して、一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に資することを目的とする施設(同法2条1項)であるが、現代社会における図書館は、いわゆる国民の知る権利の実効性を確保するための有力な施設の1つであると考えられるに至っている。すなわち、印刷技術の飛躍的進歩により大量の書籍等が発行される現代の出版事情の下では、個々の国民は、その個人の力のみで書籍等を収集して閲読することは事実上不可能となっているのが実情であって、様々な図書館に所蔵されているものを利用して初めて幅広い種類の書籍等を閲読することが可能となっている。そして、これを著者の側からみると、その著作が様々の図書館に所蔵され、一般読者等の閲覧に供せられることは、その思想や信条などの表現行為が広く社会の構成員である市民に知られ理解される機会を得ることであり、重要な表現伝達の手段であるということができる。
 しかし、このことは、図書館の存在意義を明らかにするものではあっても、直ちに著者の図書館に対する権利を導くようなものではない。仮に、わが国で書籍を執筆した著者にそのような権利を認めるとするならば、地方自治体の図書館は、本国内で発行されたすべての書籍を購入するなどして市民の閲覧に供しなければならないということになるであろうが、毎年膨大な量の書籍が出版されているわが国の実情にかんがみれば、そのようなことは、社会的、経済的、物理的に不可能であるばかりでなく、相当でもないことが明らかである。
ウ また、文部科学省の生涯学習審議会が定めた「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準」(文部科学省告示132号)によれば、公立図書館は「資料及び情報の収集に当たっては、住民の学習活動等を適切に援助するため、住民の高度化・多様化する要求に十分配慮するものとする」(同(4)@)と定められており、購入図書の選定については、上記の基準などを参考としながら、各図書館(各図書館を設置している団体等)において、それぞれの役割や地域の実情や予算の状況など諸般の事情を総合的に勘案して、その責任と判断でなされるべきものであることは、言うまでもないことである。ちなみに、前記の図書館法はもとより、現在効力を有する法令において、ある書籍を執筆した著者が、公立図書館を設置する地方自治体に対して、その図書館で市民の閲覧に供するために自分の著書を購入するよう法的に要求する権利を有することを定めた条項は存在しない。
 これらのことから明らかなように、ある地方自治体の図書館において、ある著者の執筆した書籍を購入し、一般市民の閲覧に供せられることになったとしても、それは、当該図書館がたまたまその書籍を購入して閲覧に供することを決定したことによって生じた事実上の利益にすぎないものであって、その著者が当該図書館またはこれを設置している地方自治体等に対して、その著書の購入を要求する権利を有していたからではない。
エ 次に、地方自治体の図書館が購入して現に市民の閲覧に供している図書を除籍してその閲覧を中止し、廃棄した場合に、当該書籍の著者の権利ないし法的利益を侵害することになるのか否かについて検討する。
(ア) 原告らは、地方自治体の図書館で現に書籍が閲覧に供されたりしている場合には、その著者には、公正な閲覧に供せられる利益を不当に奪われない権利や、適正・公正に閲覧に供せられ保管・管理される権利や、書籍を恣意的に廃棄されず、図書館利用者への思想・表現等の伝達を妨害されない権利などがあると主張している。
(イ) しかし、原告らがその根拠の一つとしている「図書館の自由に関する宣言」(甲8号証)は、日本図書館協会という私的団体が採択した宣言文書であり、その内容は何ら法的規範性を有するものではなく、この宣言によって地方自治体の図書館が原告らが主張するような法的義務を課されるものではない。
(ウ) また、原告らがその根拠として援用している本件除籍基準は、被告船橋市が、自ら設置している公立図書館においてその公有財産である図書などの資料を取り扱っている職員に対し、市民の閲覧に供したり保管したりしている図書などの資料のうち除籍や廃棄を相当とするものの基準を示すために定めた図書館管理の内部基準の一つにすぎないものであり、それ以上のものではない。すなわち、本件除籍基準は、被告船橋市が図書館の職員に対して図書管理上の義務を課すものではあっても、被告船橋市自身や図書館の職員に、図書館において保管・管理している書籍の著者との関係で何らかの法的義務を負わせたり、その著者に対して何らかの権利を付与したりするものではない。したがって、被告船橋市の設置する図書館において、仮に、この除籍基準に違反して図書などの資料が除籍されたり廃棄されたりした場合には、そのような行為は被告船橋市に対する違法行為となり、そのような行為をした職員は被告船橋市によって懲戒処分がなされる可能性があるとしても、除籍されたり廃棄された書籍の著者との関係において、直ちに違法として法的責任を追及されたりすることにはならないというべきである。
(エ) これらのことから明らかなように、被告船橋市やその図書館の職員は、原告らが執筆した書籍を購入しなければならない法的義務を負うものではないし、仮に、原告らの書籍を購入したとしても、原告らとの関係で必ずこれを市民に閲覧に供しなければならない法的義務を負うわけでもない(公費で購入した図書を市民の閲覧に供しなければ、市民との関係で、公費の使途としての適切性に問題が生じることは別論である。)。結局、原告らが本件除籍等により侵害されたと主張する原告らの表現の自由ないしはそこから派生する権利や法的利益は、いずれも、被告船橋市の図書館が、その自由裁量に基づいて自らの責任と判断で原告らの書籍を購入し、市民の閲覧に供することとしたことによって反射的に生じる事実上の利益にすぎないものであって、法的に保護された権利や利益ということはできない。したがって、本件除籍等により原告らがこれらの事実上の利益を失ったとしても、何ら違法ということはできないから、原告らのこれらの主張は理由がない。
オ なお、原告らは、本件除籍等が憲法21条2項が禁止している検閲あるいはこれに類する行為に該当するもので違法であるとも主張しているが、そもそも「検閲」とは、対象とされる一定の表現物につき網羅的・一般的に発表前にその内容を審査した上、不適当と認めるものの発表を禁止することを指すものであるところ、本件除籍等は、既に一般に発売されている書籍について、被告船橋市の西図書館での閲覧を中止し、あるいは閲覧中止とともに廃棄したものであり、原告らによる書籍の出版行為などを事前に制限したものではないことが明らかであるから、本件除籍等が検閲に該当するとの原告らの主張は、その余の点について判断するまでもなく、失当なものである。
(4) 憲法13条、14条、23条違反について
 原告らは、上記のほか、本件除籍等が、憲法13条が保障する個人の尊厳や幸福追求権を直接に侵害するものであるとか、憲法14条が保障する平等原則に違反するものであるとか、憲法23条が保障している学問の自由を侵害するものであるなどとも主張しているが、これらの主張は、いずれも主張自体抽象的なものにとどまり、個別具体的な内容を有するものではないばかりでなく、結局、原告らが前記の憲法19条あるいは憲法21条違反のところで主張している権利や法的利益とを言い換えたものに過ぎないと認められることや、本件除籍等は被告Aの個人的な行為であって被告船橋市の組織的な行為ではないことなどの事情を考慮すると、憲法13条、14条、23条違反の主張は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないというべきである。
(5) 名誉権や人格権等の侵害について
ア 原告らは、本件除籍等により、著作権法によって保護されている原告らの著作者人格権が侵害されたなどとも主張しているが、この著作者人格権は、有体物としての書籍(本)そのものを保護の対象としているわけではなく、その書籍に文字や写真やイラストなどをもって固定されている表現内容などが著者に無断で変更されたり、使用されたりしないよう保護しているものであるところ、本件では、有体物としての書籍(本)そのものを除籍して廃棄したもので、その書籍の表現内容などに変更を加えたりしたものではないから、原告らの著作者人格権ないしは著作者の人格権そのものを侵害したという事案ではない。したがって、原告らのこの点の主張も採用することができない。
イ また、原告らは、本件除籍等によって原告らの著書が図書館で「読むに値する良識ある作品」との評価を一方的に撤回され、原告らの名誉や名誉感情が侵害されたとも主張している。
 しかしながら、そもそも、図書館の自由に関する宣言(甲8号証)の第1の2(5)で、「図書館の収集した資料がどのような思想や主張をもっていようとも、それを図書館および図書館員が支持することを意味するものではない。」と明記されているように、地方自治体が設置する図書館による図書等の購入は、もともと価値中立的なものであって、購入され閲覧に供されている書籍について、一定の肯定的または否定的な社会的評価を与える行為ではないと解されるのであって、ある図書が図書館によって購入されたことをもって、図書館がその図書について「読むに値する良識ある作品」であるとの肯定的な評価を与えたものということはできないから、原告らの上記主張は、その前提を欠くものであり、採用することができない。
ウ また、名誉毀損による不法行為責任が成立するためには、加害者が不特定多数の者に対してした言動などによって原告らの社会的評価が低下させられることが必要であるとするのが一般的な理解であるところ、本件においては、被告Aは、外形上は図書の通常の除籍等と何ら変わらない方法で、原告らの書籍について除籍等をしたものであって、その行為自体は、公然性を欠くものであり、原告らの社会的評価を低下させるようなものではなかったといわざるをえない(仮に、被告Aが、原告らの書籍を図書館前に積み上げて公衆の面前で燃やしたような場合であれば、公然性などの要件を満たし、原告らとの関係でも違法と評価できる場合も考えられるが、本件では、そのような事実は認められない。)。結局のところ、被告Aの内心における独断的な評価はともかく、本件除籍等そのものによって原告らの社会的評価が低下したということはできない。したがって、本件について、被告Aについて、原告らに対して名誉毀損が成立するということはできない。
エ また、本件で提出されている証拠によれば、本件除籍等は、被告Aの個人的な行為であって、被告船橋市や同市の中枢を担う幹部職員が関与してなされたものとは認められないから、被告船橋市の独自の法的責任が生じることはないというべきである。
(6) これまでに認定し、説示したところを総合すれば、本件における被告Aには、公務員として当然に有すべき中立公正や不偏不党の精神が欠如していたことは明らかであるといわざるをえない。また、被告船橋市は、本件除籍等が発覚すると、被告Aを含む教育委員会の職員に費用を支出させて除籍等がなされた書籍を図書館に寄付させて事態の収束を図ろうとしたり、本件訴訟においても、被告Aによる本件除籍等の経緯について関係者から事情を聴取して把握しているにもかかわらず、その内容を明らかにしようとせず、結果的に責任の所在を曖昧にしたまま幕を引こうとしており、このような被告船橋市の姿勢に原告らが強く反発するのも理解し得ないではない。
 しかし、これまで縷々説示したとおり、原告らは、その著書が被告船橋市が設置している図書館で閲覧に供されていたとしても、被告船橋市に対して閲覧に供することを求める法的権利までは認められていないのであるから、このような状況の下においては、被告Aが単独でした本件除籍等の行為は、被告船橋市の定める除籍基準に反したものとして、被告船橋市との関係において違法となることはあっても、その著者である原告らとの関係において違法となることはない。被告船橋市の法的責任が生じないことも前述のとおりである。したがって、原告らの本件請求は、いずれも理由がない。
第4 結論
 以上によれば、原告らの本件請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法65条1項本文、61条を適用して、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第48部
 裁判長裁判官 須藤典明
 裁判官 鳥居俊一
 裁判官 野上誠一
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