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【事件名】日立金属元社員の“発明の対価”請求事件 【年月日】平成15年8月29日 東京地裁 平成14年(ワ)第16635号 「窒素磁石」に係る発明の対価請求事件 (口頭弁論終結日 平成15年5月26日) 判決 原告 A 被告 日立金属株式会社 同訴訟代理人弁護士 飯田秀郷 同 栗宇一樹 同 早稲本和徳 同 七字賢彦 同 鈴木英之 主文 1 被告は、原告に対し、金1128万8000円及びこれに対する平成14年8月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は、これを8分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告に対し、金8974万9000円及びこれに対する平成14年7月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 争いのない事実等(証拠を示した事実以外は、当事者間に争いがない。) (1) 当事者 被告は、磁性材料等の研究・開発、製造、販売等を業とする株式会社である。被告は、昭和46年2月21日、磁性材料等に関する研究を専門的に行う研究所である磁性材料研究所(以下「被告研究所」という。)を設立した。 原告は、昭和45年4月1日、被告に入社し、被告本社研究部に配属されたが、被告研究所が設立された後は、同研究所において、主に磁性材料の研究及び開発等に従事してきた。原告は、平成6年1月21日、株式会社日立金属テクノクス(同社は、平成12年4月1日、株式会社日立金属インテックに商号を変更した。)に出向した。原告は、平成13年7月20日、被告を退職して株式会社日立金属インテックに転属となり、平成14年3月20日、同社を退職した。 (2) 本件各発明 原告は、昭和58年11月ころ、別紙特許権目録1ないし3記載の各特許権(以下、それぞれ「本件特許1」、「本件特許2」、「本件特許3」といい、併せて「本件各特許」という。)に係る各発明(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」、「本件発明3」といい、併せて「本件各発明」という。)をした。本件各発明は、その性質上被告の業務範囲に属し、かつ、本件各発明に至った行為が被告における原告の職務に属するものであって、特許法35条1項所定の職務発明に当たる。 (3) 従業員の発明に関する被告の定め 被告においては、本件各発明がされた当時、その従業員がした職務発明に関して、「発明考案等取扱規程」(以下「被告規程」という。)が定められていた。 被告規程には、その従業員の職務発明について特許を受ける権利が被告に承継されること、被告は、職務発明をした従業員に対し、発明報奨及び実績報奨等の報奨並びに戦略特許賞及び貢献特許賞等の表彰を行うこと等の定めがある。発明報奨は、特許を受ける権利が被告に承継された時に支払われ、実績報奨は、被告において実施し実施成績が顕著であり業績向上に貢献したと認められたとき又は第三者に実施権を許諾し実施料収入を得たときに支払われる。また、戦略特許賞は、活用の可能性が大きく企業的意義が大であると認められる発明をなした従業員を表彰する制度であり、貢献特許賞は、被告の業績向上に顕著な貢献をした特許権の発明者を表彰する制度である(乙1の1ないし4、弁論の全趣旨)。 (4) 特許を受ける権利の譲渡及び特許権の設定登録 被告は、被告規程に基づいて、原告から本件各発明について特許を受ける権利を承継した。 被告は、昭和58年12月19日、本件各発明につき特許出願し、平成4年11月20日、同特許出願の一部である本件発明2及び同3を分割出願した。本件特許1は、平成9年6月20日に、本件特許2は、同年7月25日に、本件特許3は、平成10年7月31日に、それぞれ設定登録された。 (5) 第三者の実施状況等 ア 被告は、平成10年9月4日、B株式会社(以下「B」という。)との間で、同社に対して本件各特許の通常実施権を許諾し、その対価として、一時金及びランニングロイヤルティの支払を受ける旨のライセンス契約を締結した(以下「本件ライセンス契約(1)」という。)。 イ 被告は、平成11年8月30日、C株式会社(以下「C」という。)との間で、同社に対して本件各特許の通常実施権を許諾し、その対価として、一時金及びランニングロイヤルティの支払を受ける旨のライセンス契約を締結した(以下「本件ライセンス契約(2)」という。)。 ウ 被告は、株式会社D(以下「D」という。)との間で、平成14年5月14日、同社に対して本件各特許の通常実施権を許諾し、その対価として、一時金の支払を受ける旨のライセンス契約を締結した。 エ 被告は、上記アないしウの各ライセンス契約(以下、併せて「本件各ライセンス契約」という。)に基づき、一時金合計1億1500万円の支払を受け、本件ライセンス契約(1)及び(2)に基づき、ランニングロイヤルティとして平成14年5月末までに合計824万8637円の支払を受けた(弁論の全趣旨)。 (6) 被告の原告に対する報奨金等の給付 原告は、被告から、本件各発明に関して、後記アないしエのとおり、被告規程に基づく報奨金等として合計103万円の支払を受け、オのとおり月間MVP表彰として7000円の支払を受けた。 ア 発明報奨 3万円 被告は、原告に対し、本件各特許の出願時に、本件各発明の発明報奨として、各1万円(合計3万円)を支払った。 イ 戦略特許賞 5万円 被告は、原告に対し、平成9年10月、本件各発明の当初出願の戦略特許賞として、5万円を支払った。 ウ 貢献特許賞 15万円 被告は、原告に対し、平成11年10月、本件各発明を対象に、貢献特許賞として、15万円を支払った。 エ 実績報奨 80万円 被告は、原告に対し、平成10年から平成13年までの毎年10月に、本件各発明の実績報奨として、それぞれ20万円(合計80万円)を支払った。 オ 月間MVP表彰 7000円 被告は、平成10年8月、本件ライセンス契約(1)の締結に関し、原告を月間MVPとして表彰し、原告に対し、7000円を支払った。 2 事案の概要 本件は、被告の元従業員であった原告が、被告に対し、本件各発明が職務発明であり、被告に特許を受ける権利を承継させたとして、特許法35条3項に基づき、その相当の対価として不足額8974万9000円の支払を求める事案である。 3 本件の争点 (1) 被告規程により支払われた金員が特許法35条3項所定の「相当の対価」といえるか。 (2) 特許法35条3項の「相当の対価」の額はいくらか。 第3 争点に関する当事者の主張 〔原告の主張〕 1 争点(1)(被告規程により支払われた金員と相当の対価)について 特許法35条3項は、使用者等が契約や勤務規則その他の定めにおいて、職務発明について特許を受ける権利を使用者等に承継させた対価として従業者等が受けるべき金額について条項を設けたとしても、従業者等が、当該条項に基づいて算出された額に拘束されることなく、特許法の規定の趣旨に従った「相当の対価」を請求する旨規定しているものである。したがって、原告は、本件各発明に対する「相当の対価」がこれまで原告に支払われた金員では十分でない場合には、不足分の支払を受けることができるものというべきである。 2 争点(2)(相当の対価の額)について (1) 相当の対価の算定方法 特許法35条4項は、相当の対価の額について「その発明により使用者等が受けるべき利益の額及びその発明がされるについて使用者等が貢献した程度を考慮して定めなければならない」と規定している。 同項所定の「使用者等が受けるべき利益の額」とは、使用者等が特許を受ける権利を承継したことに由来して発生した利益又は不利益を考慮して算定すべきものである。 また、同項所定の「使用者等が貢献した程度」とは、特許法35条4項の趣旨からすれば、相対的な比率ではなく、その金銭的価値を算定することにより、「相当の対価の額」を決定するに当たり考慮されるべきである。すなわち、発明とは、技術的思想の創作、換言すると、発明者の精神作用であり、精神作用というものは、独立してそれ自体の金銭的価値を算定しにくい性質のものであるから、その発明がされるについて従業者等が貢献した程度の金銭的価値は算定しにくい。他方、その発明がされるについて使用者等が貢献した程度は、種々の貢献があるにせよ、一応は金銭的価値を算定し得る性質のものである場合が多いことから、個々の項目の算定値を積み上げていくことによってその金銭的価値を相当程度まで合理的に算定することが可能である。以上のことから、同項は、金銭的価値を算定しにくい従業者等が貢献した程度の代わりに、その算定がしやすい使用者等が貢献した程度をもって「相当の対価の額」を定める旨規定しているのであると解される。仮に、使用者等が貢献した程度と従業者等が貢献した程度の相対的な比率を考えようとするならば、その計算が先験的・恣意的なものではなく、確たる根拠に基づいてなされるためには、使用者等が貢献した程度のみならず、従業者等が貢献した程度の金銭的価値もまた必要とされてしまうことになるが、このようになれば、その算定がしにくいためにあえて使用者等の貢献した程度を算出することとした同項の趣旨を害することとなる。したがって、「相当の対価の額」を決定するに当たり、被告の貢献については、個々の貢献要因を積み上げることによってその金銭的価値を算定することにより考慮されるべきである。 (2) 被告の主張に対する反論 被告は、特許を受ける権利の承継時においてその経済的価値を予測する手法によるべきである旨主張するが、本件においては、特許権の経済的価値が既に実績として明確にかつ具体的に明らかになっているのであるから、被告主張の手法による必要はない。また、被告は、「相当の対価」の算定時期は特許を受ける権利の承継時であることを前提として主張しているが、これは、特許法35条3項の解釈を誤るものであり、失当である。 さらに、被告は、被告における自己実施のための実用化に要した費用や窒素磁石に関連する特許の権利化及び維持のために支出した費用を被告が受けるべき利益の額から控除すべきであると主張するが、当該費用は、本件各特許の特許を受ける権利の承継の有無にかかわらず、専ら被告が窒素磁石を実用化・事業化するために支出することとなった費用であるから、被告が受けるべき利益の額から控除すべきではない。また、原告は、本件各発明を実用化するための被告における研究活動等には、一切参画させられておらず、発言する機会さえも与えられていなかったのであるから、かかる研究から成果が出ていないとしても、その責めは専ら被告が負うべきであって、そのために原告が特許法35条3項、4項による救済を受けられないことになるとするならば、同条項の趣旨を完全に没却し、特許法の目的に反するだけでなく、社会正義に反し、衡平の理念にもとる結果となる。 (3) 本件各発明についての相当の対価の額 本件各発明の相当の対価の不足額は、被告が本件各ライセンス契約により得た利益(後記ア及びイ)から、被告が貢献した程度の金銭的価値及び原告が被告から支払を受けた金員(後記ウないしク)を控除した8974万9000円である。 ア 被告が本件各ライセンス契約に基づき支払を受けた一時金 合計1億1500万円 イ 被告が本件ライセンス契約(1)及び(2)に基づき平成14年3月末までに支払を受けたランニングロイヤルティ 合計831万8000円 ウ 本件各特許の出願・維持費用 合計600万円 通常の特許出願・維持費用を高めに見積もって、1件あたり40万円とし、本件各特許については、すべてについて特許異議の申立てを受けるな どしたので、特許庁による審査・審理に対応するための労力は、通常より 多くを要したと思われるため、5倍の費用を要するものとして算定した。 40万円×3件×5=600万円 エ ライセンス契約締結費用(千円未満切り上げ) 1233万2000円 被告が本件各ライセンス契約より得た利益の約10パーセントを本件各ライセンス契約締結のために被告が要した費用とした。 1億2331万8000円×0.1=1233万2000円 オ 本件各発明のための研究活動費 528万円 本件各発明は、被告の業務を行う傍ら、自己の責任において検討を進めた結果、3か月間で完成したものである。そして、この3か月間の研究に係る原告の人件費(給与、賞与、社会保険費用等)、実験設備の償却費用及び原材料その他の消耗品等費用として、高めに見積もって1時間当たり1人1万円として算出すると、528万円となる。 1万円/時間・人×1人×8時間/日×稼働22日/月×3か月=528万円 カ 本件各特許以外の特許の出願・維持費用 533万1000円 原告が在職中に行った発明の中には、被告において特許出願を行ったが、被告に利益をもたらす結果となっていないものがあり、その分は、衡平の理念の観点から、原告の貢献から控除し、被告の貢献として考慮することにする。そして、原告が発明者となっている特許出願99件のうち、有用でないものは正味17.77件あり、1件当たりの費用を30万円として算定すると、533万1000円となる。 30万円×17.77件=533万1000円 キ 本件各発明の発明者として評価した部分に係る給与及び賞与 358万9000円 被告の主張4(2)エのとおり、被告は、原告に対し、原告を本件各発明の発明者として評価した部分に係る給与・賞与として、合計358万9000円を支払った旨主張するから、同金員を請求額から控除することとする。 ク 原告が受けた報奨金等 103万7000円 前記第2の1(6)のとおり、原告は、被告から、被告規程に基づき、合計103万円の報奨金の支払を受け、また、原告は、被告から、平成10年8月、月間MVPとして表彰され、7000円の支払を受けた。 1億1500万円+831万8000円−600万円−1233万2 000円−528万円−533万1000円−358万9000円− 103万7000円=8974万9000円 〔被告の主張〕 1 争点(1)(被告規程により支払われた金員と相当の対価)について 職務発明について特許を受ける権利を使用者に承継させた対価として補償金を支払う旨の規程が存在し、この規程に基づいて、使用者が発明者に補償金を支払った場合において、この規程が発明により使用者等が受けるべき利益と発明がなされるについて使用者等が貢献した程度を考慮して補償金を算定することを目的としており、かつ、同補償規程の内容が、特許法35条の趣旨に照らして合理的であると認められる場合には、こうした補償規程を適用して算出された補償金は、使用者等と従業者等の利益の調和を図った特許法35条の趣旨に照らして相当の対価といい得る。 そして、被告規程は、発明者に対する本来的な補償であるべき給与等の金員を補完する形で、特に相当の対価が、特許を受けるべき権利の譲渡時点では算定し難い特質及び被告における発明の奨励と実質的な公平性に配慮して、その価値が具体的に確認できる時点まで待って、利益と貢献度を考慮して、上限を定めず、報奨金を算定することを規定している。被告規程は、その内容、水準も特許法35条の趣旨に照らして合理的かつ有効であるから、被告規程に基づき原告に対して支払われた金員は、相当な対価といい得る。 2 争点(2)(相当の対価の額)について (1) 相当の対価の算定方法 ア 特許法35条3項所定の「相当の対価」は、特許を受ける権利の承継時における一定の額として算定されるべきものであることからすれば、本来的には、当該権利の他社排他力(代替技術の存在又は登場可能性)、予想市場規模及びその成長性、予想事業利益、並びに権利としての成立可能性等、不確実な要素を考慮し、上記の不確実な要素を定量的に評価し、その評価に基づいて算定される発明の経済的価値に準拠し、算定されるべきものである。しかし、それは極めて困難な作業になるため、これまでの実務では、こうした不確実な要素を定量化する際に、その困難さと評価者の恣意が入り込む危険性を考慮して、特許を受ける権利の使用者への承継後に発生した事由も加味して、事後的に「相当の対価」が決定されてきた。もっとも、今日では、上記の不確実な要素を考慮しながら、知的財産権の経済的価値を評価する手法が一般化しつつあるから、かなりの客観性を備えた形で、特許を受ける権利の承継時における「相当の対価」を決定し得る。 そして、上記手法のうち、知的財産権の経済的価値評価の手法の一つであり、特許を受ける権利の承継時の知的財産権の経済的価値の算定に最も適した手法である割引キャッシュフローアプローチを本件各発明に当てはめて「相当の対価」を試算すると、以下の@ないしFを乗じて得られた75万円となる。 @ 予想市場規模 最大12億円/年 A 予想収益率 最大10パーセント B 発明の事業利益に対する貢献度 25パーセント C 収益期待期間 最大5年 D 権利成立可能性 50パーセント E 代替技術登場可能性リスク 10パーセント F 事業化リスク 10パーセント 12億円/年×10%×25%×5年×50%×10%×10%=75万円 イ 仮に、「相当の対価」の算定において、特許を受ける権利の承継後に独占的実施又は実施許諾によって使用者が得た利益を考慮し得るとしても、それはあくまで、権利承継時の特許を受ける権利の客観的な価値を算定するための資料として考慮することができるというにすぎない。そうすると、「相当の対価」の算定においては、権利承継後に発明の独占的実施又は実施許諾によって使用者が得た利益は、権利承継時に想定された収益(受けるべき利益)であると仮定し直し、このような収益(受けるべき利益)を実現するための確率(リスク)を考慮して、割引率を決定し、権利承継時の時価額に割り戻すという手法によるべきである。特許を受ける権利又は特許権の承継時における収益の実現性の確率(リスク)を考慮しないとすると、たまたま実現した収益であるにもかかわらず、これが必ず実現するものとして承継時に決定できたとする極めて非現実な仮定をすることになり、また、あたかも使用者と発明者とで実現した利益を持分権を有するがごとき状態で分配する結果を容認することとなり、特許法35条が規定する職務発明における特許を受ける権利の移転を容認する法制と矛盾することになる。また、上記のリスクは考慮すべき要素に該当しないということであれば、発明者と使用者の利益の均衡を図った特許法35条3項の趣旨に照らし、あまりに片手落ちの評価となる。 そして、上記の事後的な発明の独占的実施又は実施許諾によって得た利益を、割引率を決定して権利譲渡時の時価額に割り戻すという考え方に従って、割引率を年15パーセントとし、発明者の貢献度を10パーセントとして原告に極めて有利に本件各発明の相当の対価を試算すると、124万4217円となる。 (2) 「使用者等が受けるべき利益の額」について 「使用者等が受けるべき利益の額」の算定に当たっては、被告が受けた利益を実現するため必要不可欠であった費用を控除すべきであり、以下の被告が支出した費用を控除すれば、被告の受けるべき利益は存しない。 すなわち、被告は、本件各発明の実用化・事業化のために、後記アないしキの合計4億9939万1356円を支出した。被告が本件各発明の実用化・事業化のために支出した上記費用は、本件各発明に内包する事情によって生じたものであるから、「使用者等が受けるべき利益の額」の算定において自己実施の収益がある場合にはその収益が加味されるのと同様に、自己実施によって損失が発生している場合には、損益通算することが発明者と使用者との間の公平を定めた特許法35条3項の趣旨に合致するというべきである。 また、被告は、窒素磁石に関連する特許の権利化及び維持のために後記クないしサの合計1130万円を負担しており、上記費用は「使用者が受けるべき利益の額」の算定に当たり控除されるべきである。 ア 本件各特許の出願・維持費用 600万円 イ ライセンス契約締結費用 1233万2000円 ウ 本件各発明のための研究活動費 528万円 エ 本件各特許以外の特許の出願・維持費用 533万1000円 オ Bとのライセンス契約が締結されるまでの発明実用化費用 1億5000万円 カ 本件各発明の被告における事業化費用(上記オを除いたもの) 2億9000万円 キ E株式会社(以下「E」という。)へのライセンス料 支払 3044万8356円 ク 国内出願費用(40万円×13件) 520万円 ケ 外国出願費用(100万円×2件) 200万円 コ 国内特許の権利維持管理等の費用(50万円×5件) 250万円 サ 外国特許の権利維持管理等の費用(80万円×2件) 160万円 (3) 「発明がされるについて使用者等が貢献した程度」について 原告は、本件各発明により被告の受けた利益から、本件各特許の出願・維持費用、ライセンス契約締結費用、本件各発明のための研究活動費及び本件各特許以外の特許の出願・維持費用等を控除した金額をもって「相当の対価」と主張しているが、上記金額は「使用者等の受けるべき利益」そのものにほかならない。そして、「相当の対価」を決定するためには、本件特許によって利益を得るための必要経費を控除した後、次の検討手順として、使用者等が貢献した程度を考慮する必要があるが、原告は一切これを行っておらず、原告の主張は失当である。 仮に、被告が受けるべき利益が残存していると認定された場合、本件においては、被告の貢献として以下の事情が考慮されるべきであり、以下の事情を考慮すると、被告の貢献度は、少なくとも90パーセントを下回るものではない。 ア 本件各発明に至る被告の貢献について 原告は、被告の従業者であり、磁性材料の専門家として入社以降、被告研究所の研究員として新規磁性材料の開発・発明をすることを期待されていた。また、原告は、本件各発明の特許出願の前後、被告研究所の研究員として新磁石材料を開発・発明をすることを職務としており、被告研究所においては、永久磁石材料の研究が以前から行われていたのであって、本件各発明は、職務遂行の過程で得られたものであり、また、被告の蓄積された経験等を(少なくともその一部を原告が吸収したことによって)利用し、被告研究所の設備、機器、資材等を活用してなされたものである。 イ 本件各発明の権利化に至る被告の貢献について 本件各発明を特許として成立させるに当たり、審査請求、分割出願、異議申立てへの対応、特許庁審査官・審判官との応答について、被告の指導や協力がなければ、本件各発明を特許として成立させ、その登録を維持することは不可能であった。すなわち、被告においては、特許出願等に当たり、特許部門の担当者と発明者の協議の上で、特許部門の担当者において最終的な特許庁に対する提出書類等を作成している。 本件特許1については、出願公告後、多くの異議申立てがあり、被告の特許部門の担当者や原告の奮闘により答弁書を提出したが、拒絶査定となってしまった。そこで、被告はこれに対して審判請求を行い、当時の特許部門の担当者が中心となって拒絶査定理由を精細に検討して説得力のある審判請求理由書を作成し、原告の了解を得て提出し、これにより、登録審決を得ることとなったものである。 また、本件特許2については、登録後、特許異議の申立てを受けたため、被告は、特許庁審判官からの問い合わせに対して、対策会議を設け、外部の弁理士に受任を依頼するとともに、特許部門の担当者を本件の担当とし、最終的に登録を維持することができたものである。 本件特許3についても、登録後、特許異議の申立てを受けたため、被告は、外部の弁理士に受任を依頼するとともに、特許部門の担当者を本件の担当とし、最終的に登録を維持することができたものである。 ウ 本件各ライセンス契約締結に至る被告の貢献について 本件各ライセンス契約締結の交渉の申入れは、ライセンシー側からされたものであるが、これは、被告のライセンス契約部門の担当者が、B等に対し、早くから本件各発明の存在を告知するとともに、被告が市場を独占するべく窒素磁石の実用化検討を行っていたことについても告知していたこと、本件特許1について、拒絶査定を受けた後、被告の特許部門の担当者の貢献によりこれを覆して登録審決を得たことなどによるものである。また、ライセンス契約交渉においても、契約締結に至るには、特にライセンス対価をめぐる部分において、被告のライセンス契約部門の担当者による専門的な交渉力が不可欠であった。さらに、被告が、ライセンス交渉を開始する時点までに、自社の独占的な実施のための実用化に向けた具体的な研究開発を進めていたために、ライセンシーは、事業化の目途も事業規模も不明な本件分野に高額な支払をしてまで参入してきたものであり、少なくとも被告が本件ライセンス契約(1)を締結する時点までに支出した約1億5000万円の研究開発費用は、本件各ライセンス契約において一時金を受け取る上で大きな貢献を果たした。 エ 給与等の支払 被告は、原告に対し、研究に従事する職務の対価として適切な給与・賞与等を支払ってきたものであり、原告の在職中における原告の雇用に係る費用は、少なくとも給与・賞与等約2億9000万円及び福利厚生費用約1億5000万円にのぼり、原告が本件各発明をした時までにおける原告の雇用に係る費用は、少なくとも給与・賞与等約4000万円及び福利厚生費用約2000万円にのぼる。また、被告は、本件各発明の価値が被告において客観的に認識され出した以降は、本件各発明の発明者として原告を社内人事的にも十分に評価し、被告が給与制度の根幹として定めている職群制度上で短期間に2階級昇級させて従業員としての実質的な最高位である参事にするなど高い処遇を行っており、原告を本件各発明の発明者として評価した部分に係る給与・賞与を算定すると、その金額は合計358万9000円になる。 さらに、原告の主張2(3)クのとおり、被告は、原告に対し、本件各発明について合計103万円の報奨金を、平成10年8月の月間MVPとして表彰したことにより7000円を支給した。 オ 本件各発明のための研究活動費 原告の主張2(3)オのとおり、被告は、本件各発明の研究開発費用として528万円を支出した。 カ 本件各特許以外の特許の出願・維持費用 原告の主張2(3)カのとおり、被告は、本件各発明以外の原告の発明についての特許出願・維持費用として合計533万1000円を支出した。 第4 当裁判所の判断 1 争点(1)について 被告は、被告規程に基づいて支払われた金員が特許法35条4項所定の「相当の対価」に当たる旨主張する(被告の主張1)。 しかしながら、勤務規則等により職務発明について特許を受ける権利等を使用者等に承継させた従業者等は、当該勤務規則等に、使用者等が従業者等に対して支払うべき対価に関する条項がある場合においても、これによる対価の額が特許法35条4項の規定に従って定められる対価の額に満たないときは、同条3項の規定に基づき、その不足する額に相当する対価の支払を求めることができると解するのが相当である(最高裁平成13年(受)第1256号同15年4月22日第三小法廷判決・裁判所時報1338号5頁参照)。 したがって、被告の上記主張は、これを直ちに採用することができない。そこで、以下、「相当の対価」の額について検討する。 2 争点(2)について 前記争いのない事実等に証拠(甲1ないし4、6ないし16、18ないし23、24の1及び2、27、28の1及び2、29、30、31、31の2、32、32の2、34、36、36の2、乙1の1ないし4、2、4、5の1及び2、6ないし18、20)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。 (1) 原告の職務内容 原告は、名古屋大学大学院工学研究科応用物理学専攻修士課程修了後、昭和45年4月1日、被告に入社し、本社研究部に配属となり、被告研究所が設立された昭和46年2月21日以降は、同研究所の研究所員となった。原告は、昭和47年8月21日、被告研究所において金属系磁性材料の研究を主任務とする第一部MOユニット員となり、昭和50年9月21日、技師・主任職に相当する研究員に昇格し、昭和56年1月21日、同研究所の職制改正に伴い第二研究室研究員となった。そして、同年9月21日、同研究所の第五研究室研究員となり、昭和58年7月21日、課長職に相当する主任研究員に昇格し、昭和59年2月21日、同研究所の基礎技術部主任研究員に異動となった。昭和60年7月21日、同研究所の第一研究室主任研究員となり、平成2年1月21日、同研究所において、研究室制を廃止し、グループ制となったことに伴い、磁石グループ主任研究員となり、同年4月1日、職制改正に伴い、研究開発グループ磁石グループ主任研究員となった。原告は、平成6年1月21日、株式会社日立金属テクノクスに出向し、平成13年7月20日、被告を退職し、株式会社日立金属インテックに転属となり、平成14年3月20日、同社を退職した。 原告は、入社以降、株式会社日立金属テクノクスに出向するまで、基礎技術部に在籍していた1年余の期間を除き、一貫して磁性材料の研究に従事し、そのうち昭和56年9月21日以降第五研究室に在籍していた間は、希土類磁石の研究に従事していた。 また、被告においては、昭和49年ころから、業務遂行に伴う職位と、処遇の基礎となる職群等級を分離し、それぞれ独立した体系で運用してきたところ、原告は、職群制度において、昭和57年4月21日、副参事に、平成11年4月21日、参事補に、平成13年4月21日、参事に、それぞれ任用された。参事は、従業員として最高位の参与に次ぐ等級であり、参事への昇格は、被告の昇級対象者約750名中、11ないし19名程度の実績しかないところ、原告については、昇級に要する在任年数にこだわらず、特例扱いとして短期間に参事に昇格したものである。 原告は、被告に在職中、永久磁石合金等合計99件の発明をした。 (2) 本件各発明がされた経緯 ア 希土類磁石について 本件各発明は、希土類磁石のうち、希土類−鉄−窒素(R−Fe−N)系永久磁石に関するものである。希土類磁石とは、ネオジウム(Nd)やサマリウム(Sm)等の希土類元素(以下「R」と表記することがある。)を材料とする磁石である。永久磁石は、歴史的には、鋳造磁石、フェライト磁石、希土類磁石の順で開発され、希土類磁石においては、昭和45年ころからサマリウム−コバルト(Sm−Co)系磁石が開発され、実用化されていた。 イ 被告研究所の研究方針 本件各発明がされた昭和58年ころ、被告研究所においては、新しい磁石の開発等を課題としており、同年の所長方針として、「独創性の発揮」「ニーズ発掘、確実な商品化」を掲げ、原告が当時所属していた第五研究室では、同年1月7日の新年朝礼において、グループ長であるFから「基本と独創」を基本方針とし、@古くて新しい永久磁石材料の基本を見直そう、A10ないし20年の永久磁石の歴史にとらわれない独創性を発揮しよう、B新材料を考えていこう、という3点を運営方針として研究を進めていくことが原告を含む第五研究室のグループ員に伝えられた。第五研究室においては、希土類磁石の研究として、希土類−鉄−α(R−Fe−α)合金を構成する第3元素(α)を探索する研究等を行っていたが、希土類としては当時の磁石市場で主流だったサマリウム(Sm)を想定しており、αに該当する元素としてはボロン(B)を用いて実験を行っていたため、適切な保磁力を得られないでいた。 このような中、住友特殊金属株式会社は、昭和58年6月、新たな希土類磁石として、ネオジウム−鉄−ボロン(Nd−Fe−B)系磁石の開発に成功したことを発表し、同社の上記磁石を発明したGは、同年10月4日に日本金属学会において、焼結型新磁石「NEOMAX」の具体的組成が上記のものであることを発表し、大きな反響を呼んだ。 そこで、被告研究所においては、同年10月、これに対抗するためのプロジェクトである「Nプロジェクト」を開始し、同プロジェクトでは、@ネオジウム−鉄−ボロン(Nd−Fe−B)系磁石の製造方法の解明と磁気特性のキャッチアップ、A上記磁石の欠点解消、B上記磁石の新製造方法、C新磁石探索が研究テーマとなり、原告も、このプロジェクトに参加することとなった。 ウ 本件各発明がされた経緯 昭和58年当時、希土類−鉄(R−Fe)系磁石については、永久磁石材料として要求される保磁力等の磁石特性が得られておらず、また、製造には、高価な雰囲気ガスの使用が不可欠であり、高性能化及び製造コストの改善が必要とされ、実用化には至っておらず、磁性材料開発の点からは、むしろ、窒素(N)は有害な不純物として除去されていた。 このような状況の下で、原告は、以前東北大学のH教授の論文において、鉄−窒素(Fe−N)化合物が高飽和磁気モーメントを持つことが発表されていたことや、被告研究所において原告も発明者の1人として行った鉄−クロム−コバルト(Fe−Cr−Co)磁石に関する研究において、窒素(N)が吸収されたことをもとにして、昭和58年11月初めころ、本件各発明の着想を得た。すなわち、原告は、希土類−鉄(R−Fe)化合物に窒素(N)を侵入させることができ、格子間隔を拡がることができれば磁化を上げることができるのではないか、そして、窒素(N)を格子間に侵入させることは、気体として反応させることにより可能であるのではないかということを思いついた。そこで、原告は、被告の測定装置等を使用してその実験を行ったところ、飽和磁化が増加し、かつ保磁力が得られることを確認した。このようにして、原告は、原告自身の着想により本件各発明に至ったものであり、他の研究員は本件各発明に直接関与していない。 エ 本件各発明の意義 本件各発明は、前記のような当時の状況において、希土類−鉄(R−Fe)化合物に窒素(N)を含有させることにより、磁気特性を改善するとともに製造コストを低減させ、新たな永久磁石材料として、希土類−鉄−窒素(R−Fe−N)系磁石を提供するという意義を有するものである。この希土類−鉄(R−Fe)化合物に窒素(N)を侵入させて磁化を上げるというアイデアが、当時としては全く新しいものであったことは、慶応義塾大学のI教授によっても日本応用磁気学会の研究会資料に記され、評価されている。 本件各発明は、希土類−鉄−窒素(R−Fe−N)系磁石を包括的に含む基本的な特許である。なお、原告は、本件各発明に係る窒素磁石における希土類元素(R)として、ネオジウム(Nd)を想定していたが、本件各発明に係る窒素磁石が実用的な磁石として成立するために有効な希土類元素は、サマリウム(Sm)であることは、後記オのEやJ教授らの研究等によって明らかにされた。 オ サマリウムの有用性 Eは、昭和61年から窒化鉄系の永久磁石材料の研究を行い、昭和62年に、サマリウム−鉄(Sm−Fe)系合金を窒化して大きな磁気異方向性を有する材料が得られることを見出した。また、アイルランドのJ教授らは、平成2年に論文を発表し、希土類元素のうち、サマリウム−鉄−窒素(Sm−Fe−N)磁石により、高い磁気特性を得られることを解明したことを明らかにした。 これらの研究を契機に、希土類−鉄−窒素(R−Fe−N)化合物についての研究が急速に広がるようになった。そして、新しい磁石材料であるサマリウム−鉄−窒素(Sm−Fe−N)磁石は、平成11年ころから、被告の外、被告から本件各特許のライセンスを受けたB、C及びDにおいて、ボンド磁石の原料として窒素磁石粉を製造販売することで、実用化されるに至った。もっとも、現在においても、ボンド磁石の主流は、ネオジウム−鉄−ボロン(Nd−Fe−B)磁石である。 (3) 本件各発明の権利化に至る経緯 ア 当初明細書 被告は、昭和58年12月19日、本件各発明について特許出願した。出願時の明細書は、原告が作成したが、当初明細書記載の特許請求の範囲は、次のとおりであった。 「1 材料の組成が次式の関係にあることを特徴とする鉄−希土類−窒素系永久磁石。(Fe1−XRX)1−yNy ただし、RはY、Thおよびすべてのランタノイド元素から成る群 の中から選ばれた1種または2種以上の元素、0.07≦x≦0.30 0.001≦y≦0.20 2 特許請求の範囲第1項記載の鉄−希土類−窒素系永久磁石において、 RがNd、Pr、Ce、Laから選ばれた1種または2種以上の元素である ことを特徴とする鉄−希土類−窒素系永久磁石。 3 特許請求の範囲第2項記載の鉄−希土類−窒素系永久磁石において、 RがNd、Prの1種またはこれらの組み合せであることを特徴とする鉄 −希土類−窒素系永久磁石。」 イ 特許出願の経緯 被告は、平成2年12月20日、上記アの特許出願について、審査請求をした。被告は、平成4年11月20日、上記アの特許出願の一部を本件発明2及び同3に分割して特許出願をした。原告は、当初、本件各発明における希土類元素(R)として、ネオジウム(Nd)を想定し、当初明細書の実施例としてもサマリウム(Sm)を記載していなかったが、前記(2)オのとおり、本件各発明における希土類元素としては、サマリウム(Sm)こそが有効であることが判明したため、被告は、本件特許3の明細書の請求項2及び実施例における希土類元素としてサマリウム(Sm)を追加した。また、同月24日付けの補正書において本件特許1について上記と同様の補正をした。なお、分割出願を行った際の明細書や上記補正書は、原告の了解を得て被告の特許部門の担当者が作成した。 ウ 設定登録に至るまでの経緯 本件特許1については、被告は、出願公告の決定がされるまで、被告の特許部門の担当者が補正書及び意見書を作成し、原告の了解を得た上で、特許庁に提出した。また、平成5年8月24日、本件特許1について出願公告の決定がされたが、その後、6件の特許異議の申立てを受けたため、被告の特許部門の担当者及び原告は、異議申立て理由について検討し、答弁書を作成し、特許庁に提出したものの、平成8年7月2日、拒絶査定を受けた。これに対し、被告は、同年8月2日、拒絶査定不服審判請求を行い、被告の特許部門の担当者を中心に拒絶査定理由を精細に検討し、審判請求理由書を作成し、原告の了解を得て、特許庁に提出した。特許庁は、平成9年6月3日、本件特許1の出願について、拒絶査定を取り消し、特許をすべきものとする旨の決定をし、同月20日、設定登録された。 本件特許2については、平成4年11月20日、被告によって、上記のとおり分割出願され、同日、審査請求された。被告は、設定登録に至るまで、被告の特許部門の担当者が2通の意見書及び1通の補正書を作成し、原告の了解を得た上で、特許庁に提出した。本件特許2については、平成9年7月25日に設定登録されたが、設定登録後、特許異議の申立てを受けた。被告は、同特許異議の申立てについて、被告の特許部門の担当者に担当させるとともに、外部の弁理士に委任し、同弁理士を中心に意見書及び訂正書を作成し、原告の了解を得て、特許庁に提出した。また、原告は、被告の特許部門の担当者及び前記弁理士の指示・助言を受けた上で、平成10年9月11日付けの面接資料を作成して、特許庁審判官と面接し、説明を行った。特許庁は、平成11年4月20日、本件特許2について特許を維持すべき旨の決定をした。 本件特許3については、平成4年11月20日、被告によって、上記のとおり分割出願され、同日、審査請求された。被告は、設定登録に至るまで、被告の特許部門の担当者が3通の意見書及び補正書を作成し、原告の了解を得た上で、特許庁に提出した。本件特許3については、平成10年7月31日、設定登録されたが、設定登録後、3件の特許異議の申立てを受けた。被告は、同特許異議の申立てについて、被告の特許部門の担当者に担当させるとともに、外部の弁理士に委任し、同弁理士を中心に意見書、訂正書を作成し、原告の了解を得て、特許庁に提出した。特許庁は、平成13年3月2日、特許を維持すべき旨の決定をした。 特許が維持された本件特許2及び同3の最終的な明細書の内容は、原告が作成した当初明細書の実施例2ないし4を削除するなどの大幅な訂正がされたものである。 エ 本件各特許の出願・維持費用 原告は、本件各特許の出願・維持費用につき、通常より高めに見積もった上、さらにその5倍を要したものとして、合計600万円にのぼる旨主張し、これを被告が援用した。 (4) 本件各発明の事業化の経緯について ア 被告は、原告の本件各発明の後まもなく、その実用化を試みたが、希土類−鉄−窒素(R−Fe−N)磁粉の保磁力を発生させるためには微粉砕をしなければならないところ、粉砕して大気中に曝しておくと、磁気特性が急激に劣化してしまうことが判明した。このような不安定な物質であったので、被告は、いったん磁石材料としての開発を断念した。 イ その後、サマリウム(Sm)の有用性が明らかになったこともあって、被告は、平成11年ころから、サマリウム−鉄−窒素(Sm−Fe−N)磁石の販売を開始した。本件各特許を事業化してサマリウム−鉄−窒素(Sm−Fe−N)磁石粉等を製造販売するためには、Eが保有する、磁気異方性材料及びその製造方法に関する特許等について実施許諾を得ることが必要であった。そのため、被告は、平成11年9月16日、Eとの間で、上記特許等についての実施許諾契約を締結し、実施料3044万8356円を同社に支払った。 ウ また、被告は、窒素磁石に関連する特許の権利化のための出願費用として、国内出願13件分(40万円×13=520万円)、外国出願2件分(100万円×2=200万円)、権利維持管理等の費用として、国内特許5件分(50万円×5=250万円)、外国特許2件分(80万円×2=160万円)の合計1130万円を負担した。その他、被告は、窒素磁石の研究開発費用ないし実用化のための費用として、約4億4000万円を支出した。 エ 被告におけるサマリウム−鉄−窒素(Sm−Fe−N)磁石の売上げは、年間数百万円であり、材料費が上回る状態であって、それ以外の変動費や固定費を控除すると、年間数千万円の損失を計上し、サマリウム−鉄−窒素(Sm−Fe−N)磁石について未だ利益を上げるには至っていない。 (5) 本件各ライセンス契約締結の経緯について ア 本件各発明は、希土類−鉄−窒素(R−Fe−N)系磁石を包括的に含むものであり、被告以外の者がサマリウム−鉄−窒素(Sm−Fe−N)磁石を実施するには、被告から本件各特許について実施許諾を得る必要があることから、B、C及びDは、被告との間で、それぞれ第2の1(5)のとおり、本件各ライセンス契約を締結した。本件各ライセンス契約締結や実施許諾の対価の決定は、被告のライセンス契約部門の担当者により行われたものであり、原告は何ら関与していない。 本件各ライセンス契約の締結及び実施許諾の対価の決定に当たっては、被告において窒素磁石の実用化のために上記(4)ウのとおり多額の研究開発費用を支出しており、本件ライセンス契約(1)締結に至るまでに既に約1億3000万円を支出したことや、被告が窒素磁石市場の独占を企図していることなどが考慮された。なお、被告が本件ライセンス契約(1)を締結するに当たっては、Bとの間で対価をめぐって主張が対立し、約7か月間の交渉を要した。 イ 本件各ライセンス契約締結以降、B、C及びDは、ボンド磁石の原料として窒素磁石粉を製造販売した。 ウ 原告は、被告において、本件各ライセンス契約締結のための費用として、実施料収入の約10パーセントに当たる1233万2000円を要した旨主張し、これを被告が援用した。 (6) 原告に支払った給与等について ア 原告は、本件各発明のための研究活動費として、528万円を要した旨主張し、これを被告が援用した。 イ 被告は、原告に対し、原告が退職に至るまで、給与・賞与等として約2億9000万円及び福利厚生費用として約1億5000万円を支払い、そのうち、原告が本件各発明をした時までに支払った額は、給与・賞与等として約4000万円及び福利厚生費用として約2000万円に相当する。 ウ 前記(1)のとおり、被告は、本件ライセンス契約(1)が締結された平成10年以降、原告を、参事補に、更に参事に任用するなど、本件各発明の発明者としての評価を反映して一定の処遇をしてきた。原告について、このような職群制度上の昇級をせず、人事査定についても被告社内の平均値で評価したと仮定した場合の給与等と、実際に原告に対して支給された金額とを比較すると、その差額は合計358万9000円と試算され、原告もこれを自認している。 3 前記2認定の事実を基礎として、以下、「相当の対価」の額について判断する。 (1) 特許法35条4項は、同条3項所定の「相当の対価」の額について「その発明により使用者等が受けるべき利益の額及びその発明がされるについて使用者等が貢献した程度を考慮して定めなければならない」旨規定している。したがって、特許を受ける権利の承継についての相当の対価を定めるに当たっては、「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」及び「その発明がされるについて使用者等が貢献した程度」という2つの要素を考慮すべきであるが、これのみならず、使用者等が特許を受ける権利を承継して特許を受けた結果、特許発明を排他的独占的に実施することによって現実に利益を受けた場合には、使用者等が上記利益を受けるについて使用者等が貢献した程度、すなわち、具体的には発明を権利化し、独占的に実施し又はライセンス契約を締結するについて使用者等が貢献した程度その他証拠上認められる諸般の事情を総合的に考慮して、相当の対価を算定することができるものというべきである。 (2) 「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」について ア 特許法35条1項によれば、従業者等の職務発明について使用者等は無償の通常実施権を取得するのであるから、「その発明により使用者等が受けるべき利益」とは、使用者等が、従業者等から特許を受ける権利を承継して特許を受けた結果、特許発明の実施を排他的に独占することによって得られる利益をいうものである。そして、従業者等から特許を受ける権利を承継してこれにつき特許を受けた使用者が、この特許発明を第三者に有償で実施許諾し、実施料を得た場合は、その実施料は、職務発明の実施を排他的に独占することによって得られる利益にほかならないというべきである。 イ 前記第2の1(5)のとおり、被告は、本件各特許について本件各ライセンス契約を締結し、実施料として、一時金1億1500万円及び平成10年9月から平成14年5月までのランニングロイヤルティ824万8637円の合計1億2324万8637円の支払を受けた。 なお、その後存続期間終了までのランニングロイヤルティの収入も見込まれるが、他方その後の実績報奨も見込まれることにも照らし、ここでは計上しない。また、被告が本件各発明を実施するには、通常実施権があれば足り、本件において被告が本件各発明を独占的に実施しているわけではなく、その実施により利益を上げるに至っていないことに照らし、自己実施に関し受けるべき利益は、計上しない。 ウ 被告は、「使用者等が受けるべき利益の額」を定めるに当たり、本件各発明の実用化・事業化のために支出した費用や、窒素磁石に関連する特許の権利化及び維持のために支出した費用を控除すべきである旨主張する(被告の主張2(2))。 これらの費用のうち、例えば、被告の主張2(2)ウ(本件各発明のための研究活動費)は、「その発明がされるについて使用者等が貢献した」ものである。また、これらの費用は、被告の主張2(2)キ(Eへのライセンス料支払)を除き、いずれも金銭的価値の算定が極めて困難なものである。前記のとおり、「使用者等が貢献した程度」には、「その発明がされるについて」のもののみならず、被告の主張2(2)ア(本件各特許の出願・維持費用)やイ(ライセンス契約締結費用)等、その発明により使用者等が利益を受けるについて使用者等が貢献したものも含まれるものと解すべきであるから、被告が控除すべきであると主張するこれらの費用については、「相当の対価」の額を定めるに当たり、「使用者等が貢献した程度」として考慮される場合があることは格別、「その発明について使用者等が受けるべき利益の額」を定めるに当たっては、考慮しないこととする。 エ よって、「使用者等が受けるべき利益の額」は、1億2324万8637円である。 (3) 「使用者等が貢献した程度」について ア 特許法35条4項には「その発明がされるについて使用者等が貢献した程度」を考慮すべきである旨規定されているが、前記(1)のとおり、特許を受ける権利の承継後に使用者が現実に得た実施料をもって「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」として「相当の対価」を算定する場合においては、考慮されるべき「使用者等が貢献した程度」には、「その発明がされるについて」貢献した程度のほか、使用者等がその発明により利益を受けるについて貢献した程度も含まれるものと解するのが相当である。すなわち、「使用者等が貢献した程度」として、具体的には、その発明がされるについての貢献度のほか、その発明を出願し権利化するについての貢献度、実施料を受ける原因となった実施契約を締結するについての貢献度、その他諸般の事情が含まれるものと解するのが相当である。 イ 原告は、「使用者等が貢献した程度」とは、使用者等の貢献を金銭的価値として算定した上で、その金額を控除することにより、「相当の対価」を定めるに当たり、考慮されるべきものである旨主張する(原告の主張2(1))。 しかしながら、職務発明に対する使用者等の貢献には、有形無形のものがあり、金銭的に評価できるものに限らず労力の負担等様々な形態があって、客観的に金銭的に評価することが困難なものも多いところ、特許法35条4項が使用者が貢献した「程度」と規定しているのも、このような趣旨に基づくものと解される。そして、特許法35条の趣旨が職務発明について特許を受ける権利が当該発明をした従業員等に原始的に帰属することを前提に、職務発明について特許を受ける権利及び特許権の帰属及びその利用に関して、使用者等と従業者等のそれぞれの利益を保護するとともに、両者間の利害を調整して衡平を図ることにあることからすれば、結局、「相当の対価」の額は、「使用者等が受けるべき利益の額」について、「使用者等が貢献した程度」を割合的に認定することにより定められるものと解するのが相当である。仮に原告の主張のように解すると、「使用者等が受けるべき利益」が存する場合においても、同利益より使用者等の貢献を金銭的価値に算定したものが高額となる場合には、従業者等は何らの支払も受けることができないということになり、上記のような同条の趣旨に反する結果となりかねない。 ウ 本件につき被告が貢献した程度については、前記2(1)認定の原告の職務内容、同(2)認定の本件各発明がされた経緯、同(3)認定の本件各発明を権利化するに至る経緯、同(4)認定の本件各発明の事業化の経緯、同(5)認定の本件各ライセンス契約締結の経緯及び同(6)認定の原告に対する給与等の支払状況等の諸事情を総合的に判断して、定められるべきである。 上記各事情、ことに、@ 原告が入社以降本件各発明に至るまでの間、磁性材料の研究に従事し、特に昭和56年9月21日以降、第五研究室に在籍していた間は希土類磁石の研究に従事していたこと、A 本件各発明当時、原告も参加した被告研究所のプロジェクトにおいて新磁石探索が研究テーマの一つとされ、新規磁性材料の開発・発明をすることが期待されており、原告はその中で本件各発明を行ったこと、B 本件各発明の着想に至った基礎の一つに、被告研究所において行った鉄−クロム−コバルト(Fe−Cr−Co)磁石に関する研究において、窒素(N)が吸収されたことが挙げられること、C 本件各発明は、原告の着想、とりわけ希土類−鉄(R−Fe)化合物に窒素(N)を侵入させ磁性材料としての可能性を示したことによるものであり、このアイデアが、当時としては全く新しいものであり、新たな永久磁石材料として、希土類−鉄−窒素(R−Fe−N)系磁石を提供するという意義を有するものであること、D 本件各発明に被告の他の研究員は直接関与していないこと、E 本件各発明の実験等は、被告の測定装置等を利用して行われたこと、F 本件各特許は、希土類−鉄−窒素(R−Fe−N)系磁石を包括的に含む基本的な発明であるが、本件各発明を実用化するために必要な希土類はサマリウム(Sm)であったところ、原告は発明の時点でこの事実を見出しておらず、これを本件特許1及び同3の各請求項に含めたのは、被告の特許部門の担当者において行ったものであること、G 本件各発明が権利化されるに至るには、被告の特許部門の担当者や委任した外部の弁理士が、意見書、補正書及び特許異議申立てに対する答弁書等を作成し提出すること等相当の労力を費やし、被告においても、出願費用や権利維持管理等の費用を含め相当の費用を費やし、その額が600万円にのぼることを原告も自認していること、H 本件各ライセンス契約の締結のための交渉は、専ら被告の特許ライセンス部門の担当者により行われ、その経費が1233万2000円にのぼることを原告も自認しており、本件各ライセンス契約の締結及び実施許諾の対価の決定に当たっては、被告において窒素磁石の実用化のために多額の開発費を支出していたこと等も考慮されたものであること、I 被告は、本件各発明の自社における実施により利益を上げるに至っていないこと、J 被告は、Bとの本件ライセンス契約(1)が締結された後、原告を本件各発明の発明者として社内人事上も評価し職群制度上の昇級をさせ、その結果、原告について、このような職群制度上の昇級をせず、人事査定についても被告社内の平均値で評価したと仮定した場合の給与等と、実際に原告に対して支給された金額とを比較すると、その差額が合計358万9000円になり、これを原告も自認していること、以上の諸事情を併せ総合的に考慮すると、被告が本件各発明がされるについて貢献しまた前記利益を受けるについて貢献した程度としては、全体の約90パーセントと認めるのが相当である。 (4) 「相当の対価」の額 ア 以上によれば、本件各発明に対する「相当の対価」の額は、被告が受けるべき利益の額1億2324万8637円のうち被告の貢献した程度約90パーセントを控除した残額1232万5000円となる(1000円未満四捨五入)。 1億2324万8637円×(1−0.9)≒1232万5000円 イ 前記第2の1(6)のとおり、原告は、被告から本件各発明に係る特許について、被告規程に基づき合計103万円の報奨金を受領したほか、本件ライセンス契約(1)の締結に関し、原告を月間MVPとして表彰して7000円を支払ったことが認められ、これらはいずれも「相当の対価」の一部の支払に当たるものである。そこで、アの「相当の対価」の額から上記支払済みの金額を控除すると、「相当の対価」の不足額は、1128万8000円となる。 1232万5000円−103万円−7000円=1128万8000円 なお、平成14年8月5日、本件訴状が被告に対し送達されたから、被告は、上記金員の支払債務につき同日の翌日である同月6日から遅滞の責めを負う。 (5) 被告の主張2(1)について ア 被告は、特許を受ける権利の承継時の知的財産権の経済的価値の算定に最も適した手法である割引キャッシュフローアプローチを本件各発明に当てはめた金額が「相当の対価」である旨主張する(被告の主張2(1)ア)。 しかしながら、特許法35条4項は、同条3項所定の「相当の対価」の額について「その発明により使用者等が受けるべき利益の額及びその発明がされるについて使用者等が貢献した程度を考慮して定めなければならない」旨規定しているところ、割引キャッシュフローアプローチという手法によった場合に同項に規定された「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」及び「その発明がされるについて使用者等が貢献した程度」を考慮したといえるか否か疑問がある上、特許を受ける権利の承継後実際に第三者から実施料の支払を受けた本件の場合において、これを直ちに採用することは困難である。なお、仮に割引キャッシュフローアプローチという手法が特許を受ける権利の承継時における同権利の経済的価値の算定に最も適した手法であるとしても、被告の主張する計算式において用いられた各数値が相当なものであると認めるに足りる証拠はない。 イ また、被告は、権利承継時の対価を算定するに当たり仮に権利承継後の独占的実施又は実施許諾によって得た利益を考慮し得るとしても、これを権利承継時の時価額に割り戻すため、割引率を年15パーセントとして算定すべきであるなどと主張する(被告の主張2(1)イ)。 特許法35条4項所定の「使用者等が受けるべき利益」は、特許を受ける権利の承継の時より後に生じた事情も認定の資料とすることができ、当該職務発明を第三者に実施許諾した結果、実施料収入が現実に得られている以上、これを考慮要素の一つである「使用者等が受けるべき利益」とし、さらに使用者等の貢献度を考慮して「相当の対価」を算定することは、使用者と従業者との衡平を図るという同項の趣旨に沿うものである。被告自身、「使用者等が貢献した程度」に関しては、権利承継の時より後に生じた事情も基礎として算定することを前提とした主張をしていること、被告規程において、実績報奨は、実施料収入を得たとき等に実績を1年単位で把握して行う旨定められていること(乙1の1ないし4)、したがって、実績報奨については被告が実施料収入を得る時まで権利を行使することができないものであり消滅時効もその時まで進行しないこと(前掲最高裁平成15年4月22日第三小法廷判決参照)、不法行為の時から遅滞に陥る不法行為に基づく損害賠償請求権と異なり、相当の対価の請求権は、その履行の請求を受けた時から遅滞に陥ること等に照らすと、本件において上記実施料収入を権利承継時の時価に割り戻して算定するのは相当でない。 4 結論 よって、原告の請求は、1128万8000円及びこれに対する平成14年8月6日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は棄却することとする。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 高部眞規子 裁判官 上田洋幸 裁判官 浅香幹子は、特別休暇中につき署名押印することができない。 裁判長裁判官 高部眞規子 (別紙)特許権目録 1 特許第2130245号 発明の名称 鉄−希土類−窒素系永久磁石 発明者 原告 出願日 昭和58年12月19日 出願番号 特願昭58−239090 出願公告日 平成5年11月17日 登録日 平成9年6月20日 特許請求の範囲 「1(Fe1−XRX)1−yNy(ただし、RはY、Thおよびすべてのランタノイド元素から成る群の中から選ばれた1種または2種以上の元素、 0.07≦x≦0.3 0.001≦y≦0.2 で表されることを特徴とする鉄−希土類−窒素系永久磁石。 2 希土類元素がNd、Ce、Pr、La、Smの1種または2種以上である請求項1に記載の鉄−希土類−窒素系永久磁石。」 2 特許第2677498号 発明の名称 鉄−希土類−窒素系永久磁石材料の製造方法 発明者 原告 出願日 昭和58年12月19日 出願番号 特願平4−310697 公開日 平成5年10月22日 登録日 平成9年7月25日 特許請求の範囲 「1 主構成元素としてNを含む永久磁石材料の製造方法であって、予めN含有量が最終組成よりは少ない原材料を作成し、前記原材料を粉砕して粉体を得て、前記粉体をNを含む気体中で処理することによりNを侵入させて最終組成とすることを特徴とする鉄−希土類−窒素系永久磁石材料の製造方法。 2 永久磁石材料の組成式;(Fe1−XRX)1−yNy(ただし、RはY、Thおよびすべてのランタノイド元素から成る群の中から選ばれた1種または2種以上の元素、 0.07≦x≦0.3 0.001≦y≦0.2 で表される請求項1に記載の鉄−希土類−窒素系永久磁石材料の製造方法。 3 Nを含む気体がN2、NH3、またはNH3とH2の混合ガスである請求項1または2に記載の鉄−希土類−窒素系永久磁石材料の製造方法。」 3 特許第2809946号 発明の名称 鉄−希土類−窒素系永久磁石粉末 発明者 原告 出願日 昭和58年12月19日 出願番号 特願平4−310698 公開日 平成5年10月22日 登録日 平成10年7月31日 特許請求の範囲 「1 鉄と、希土類元素(Y、Thおよびすべてのランタノイド元素から成る群の中から選ばれた1種または2種以上の元素)と、鉄の結晶格子に侵入して存在する窒素から実質的になる鉄−希土類−窒素系永久磁石粉末であって、 組成式;(Fe1−XRX)1−yNy(ただし、RはY、Thおよびすべてのランタノイド元素から成る群の中から選ばれた1種または2種以上の元素、 0.07≦x≦0.3 0.001≦y≦0.2 で表されることを特徴とする鉄−希土類−窒素系永久磁石粉末。 2 希土類元素がNd、Ce、Pr、La、Smの1種または2種以上である請求項1に記載の鉄−希土類−窒素系永久磁石粉末。」 |
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