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【事件名】「角瓶」の商標登録事件B(2) 【年月日】平成15年8月29日 東京高裁 平成14年(行ケ)第581号 審決取消請求事件 (平成15年5月28日 口頭弁論終結) 判決 原告 サントリー株式会社 訴訟代理人弁護士 牧野利秋 同 鈴木修 同 小林邦聡 同弁理士 柳生征男 被告 特許庁長官今井康夫 指定代理人 瀧本佐代子 同 宮川久成 同 伊藤三男 主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 特許庁が不服2000−17141号事件について平成14年9月24日にした審決を取り消す。 第2 当事者間に争いのない事実 1 特許庁における手続の経緯 原告は、本判決別紙目録(以下「別紙目録」という。)のとおりの構成からなり、指定商品を第33類「ウイスキー」とする商標(以下「本願商標」という。)について、平成9年4月1日に立体商標として商標登録出願(商願平9−101566号)をし、平成12年10月6日に拒絶査定がされたので、同月26日、これに対する不服の審判を請求した。特許庁は、同請求を不服2000−17141号事件として審理した上、平成14年9月24日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年10月21日、原告に送達された。 2 審決の理由 審決は、別添審決(ただし、平成15年1月21日付け更正決定により、審決別掲に表示した本願商標は、別紙目録に表示したものに更正された。)謄本写し記載のとおり、本願商標は、別紙目録のとおりの構成よりなるものであるところ、これを指定商品「ウイスキー」に使用しても、これに接する取引者、需要者は、全体としてウイスキーの包装(収納容器)の形状を表示するにすぎないものと理解するにとどまり、自他商品の識別標識とは認識し得ないものと判断するのが相当であるから、商標法3条1項3号に該当し、また、その指定商品について使用された結果、自他商品の識別標識としての機能を有するに至っているとすることはできず、同条2項の適用により登録を受けることができる商標にも当たらないから、商標登録を受けることができないとした。 第3 原告主張の審決取消事由 審決は、立体商標である本願商標について、自他商品の識別標識性を誤認し、商標法3条1項3号にいう商品の包装(収納容器)の形状を表示するにすぎないとの誤った判断をし(取消事由1)、また、使用による自他商品の識別力の獲得を誤認し、同条2項の適用を誤って否定した(取消事由2)ものであるから、違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り) (1) 本願商標の形状は、全体が縦長の直方体で、上面の肩部から下方にかけて表面に亀甲型を浮き彫りにしたものであるが、四面に表された亀甲型の中央部分は肩部から下方にかけては亀甲部をなくし縦長の長方形(上部と下部は各々上下に山形形状にしてある)に切り欠き、その切り欠かれた部分の中央部分に、正面に当たる部分は縦長の楕円形を、背面に当たる部分は縦長のひし形を表してなるユニークな表面模様が表現されているものである。本願商標の形状は、昭和12年の発売開始以降現在に至るまで、原告製品ウイスキー「角瓶」(以下「本件製品」という。)に継続して使用されており、変更されていない。これは、同一銘柄でも多様な瓶形の製品を販売し、あるいは一定期間で瓶形を変更することも多いウイスキーを含む洋酒製品においては、極めてまれなことである。また、「亀甲模様」といわれるデザインは独特のものであり、これが瓶の一部ではなく全体に及ぼされている点においてもウイスキー製品の瓶において極めて珍しいものである。 (2) 原告が、本件製品に本願商標に係る形状を採用した理由は、審決が認定するように「商品の機能(持ちやすさ)や美感(見た目の美しさ)を効果的に際立たせるため」(審決謄本3頁最終段落)ではなく、本件製品発売の由来によるものである。原告は、現在では、国内ウイスキー市場において、圧倒的なシェアを持つ我が国最大のウイスキー製造者となったが、昭和12年に販売を開始した本件製品は、原告の国内製造のウイスキー製品としては、3番目の製品であった。原告は、昭和4年に、「白札」として最初の国内製造ウイスキーを発売したのであるが、この「白札」は、ウイスキーになじみのなかった当時の需要者には受け入れられず、販売成績は振るわなかった。その後、類似の形状の瓶に赤いラベルを使用して発売した「赤札」も、販売成績は、「白札」同様芳しくなかった。このようなウイスキービジネスの不振が続く中で、満を持して発売された本件製品は、原告の国産ウイスキーメーカーとしての命運をかけた、いわば最後の切り札であり、他の輸入品や「白札」及び「赤札」からは、完全に切り離された新たな製品である必要があった。そのために、このウイスキーには「白札」「赤札」などの愛称は付さず、単に社名と商品名を組み合わせただけの「SUNTORY WHISKY」との表示を付し、社運をかけた商品であることを鮮明とした。一方、瓶の形状については、他の輸入品及び「白札」「赤札」の瓶形のような、ウイスキー瓶として一般的かつありふれた形状とは全く異なる、ざん新な、その形状自体により顧客が他の商品と容易に区別することが可能であるような瓶の形状が求められたのである。このように、本件製品に本願商標に係る形状が採用されたのは、当初より自他識別力を発揮することを目的としたためであり、審決が認定するような理由により選択されたものではない。 (3) 昭和12年の販売開始当時、本件製品について、「角瓶」との名称は用いられていなかった。「角瓶」との名称は、需要者の間で自然発生的に用いられるようになり、日本国内で広く一般化するに至ったところから、原告も、遅くとも昭和28年には、これを亀甲模様が施された瓶に収納されたウイスキーを示す商標として用いるようになったものである。このことは、本件製品については、その瓶の形状そのものが商品の識別力として機能していたという事実を示している。「角瓶」との名称が、亀甲模様が施された「角型の瓶」あるいは「角張った瓶」に由来することは一見して明らかであるところ、需要者は、「SUNTORY WHISKY」とのみ表記された本件製品を他の商品から識別するために「角瓶」との名称を用いることを選択したのであるが、その前提として「角瓶」との名称が本件製品を識別できる標識となり得るための前提条件がなければならない。それは、亀甲模様が施された本件製品の瓶の独特な形状であり、この瓶の形状を需要者が商品の識別標識として認識していたという事実があって、初めて、「角瓶」との名称が、商品を識別する標識としての意味を持ち得るのである。なぜならば、「角瓶」との名称によって示そうとする商品それ自体のどこにも「角瓶」との文字の表示は存在しないから、「角瓶」と本件製品を結びつける要素は瓶の形状を置いては他に存在しないからである。要するに、本願商標に係る形状は、上記のような短期間で「角瓶」との名称が自然発生的に需要者の間で広く用いられるようになるほどの、強力な自他商品識別力を有していたのである。 (4) 需要者による自然発生的な「角瓶」名称の使用は、本件製品が爆発的にヒットして、需要者の間で広く知れ渡ったことによるものであり、もとより、特定の地方あるいはごく少数の需要者の範囲でそのような名称が使用されていたのではない。そして、ウイスキーとしての品質の高さだけではなく、その亀甲模様が施されたユニークでざん新な瓶の形状が、その爆発的な売上げに決定的に寄与したことは明らかであり、正に、「あの形だから売れた」のである。このことからも、本願商標に係る形状が、発売当初から、本来的に自他商品識別力を有していたことは明らかである。本件製品の需要者は、発売当初から、亀甲模様が施された角張った瓶形という独特な瓶の形状によって、他の製品と区別して認識し、本件製品を選択し購入していたのである。 (5) 商標法3条1項3号により、指定商品の形状(包装の形状を含む。)を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標が、本来は商標登録を受けることができないとされている趣旨は、そのような商標が、商品の特性を表示記述する標章であって、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占的使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものであることによるものと解される。しかし、本願商標がそれ自体識別力を有しており、本来的に単なる記述的な商標ではないことは上記のとおりである上、本願商標に係る形状と同一又は類似の形状を採用したウイスキー製品は、日本国内において、過去においても現在においても、存在しないのであるから、本願商標について原告による独占的使用を認めたとしても、誰にも何ら障害は生じないのである。 (6) 以上のとおり、本願商標が、需要者により商品等の形状の範囲を超えないものと認識されるということはなく、自他商品の識別力を有するから、本願商標は、指定商品の包装(収納容器)の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標に当たるとして、商標法3条1項3号に該当するとした審決の判断は、誤りである。 2 取消事由2(商標法3条2項該当性の判断の誤り) (1) 審決は、「商品等の形状に係る立体商標が、商標法第3条第2項に該当するものとして登録を認められるのは、原則として使用に係る商標が出願に係る商標と同一の場合であって、かつ、使用に係る商品と出願に係る指定商品も同一のものに限られる」(審決謄本4頁第4段落)とした。確かに、使用により自他識別力を獲得した商標を保護するという商標法3条2項の趣旨から、使用による特別顕著性が認められる場合の多くは、原則として出願商標と使用商標が同一の場合である。しかし、立体商標が保護されるのは自他商品の識別力を獲得したことにその根拠があるから、例えば、類似の商標の使用によりそれが自他商品の識別力を獲得し、ひいては当該商標も自他商品の識別力を獲得するということも十分に考えられる。また、出願商標と比較対照する使用商標については、これを形式的にとらえるのではなく、使用商標のどの部分が需要者に対して識別力を有しているのかを判断した上で、これと出願商標とが同一であるかどうかを吟味する必要があるというべきである。使用により自他識別力を獲得した商標の保護という商標法3条2項の趣旨からは、現実に使用されている商標に付加された識別力のない部分については保護の必要はない一方、識別力のある部分だけを保護すれば目的を達する。また、取引社会において、特定の標章のみが、それ単独で用いられるという場合は極めて限られているのであって、例えば「サントリー+オールド+響マーク」のように、ある商品において「A+B+C」というような複数の標章が合わせて用いられることの方がむしろ通常である。この場合に、需要者がいずれかの標章により商品を識別し、他の標章では識別していないときもあれば、いずれの標章をも識別標識としているときもあるが、どの標章が識別機能を発揮しているかは、事実の問題として需要者が商品の識別をどの標章により行っているかにより決まるものである。この点を看過し、出願商標を含む複数の標章が使用されていることを理由に、使用商標と出願商標が異なるとして、商標法3条2項の適用を否定することは、形式審査の利便性を重視する余り、本来の特別顕著性の有無の判断を放棄したものというほかはなく、商標法3条2項の趣旨に反することは明らかである。 (2) 審決は、出願商標と使用商標が形式的には同一でない場合においても、使用に係る商標の形状の全体を観察した場合、@その立体的形状部分と出願に係る商標とが同一であり、Aその立体的形状が識別標識として機能するには、そこに付された平面標章部分が不可欠であるとする理由が認められず、むしろ平面標章部分よりも立体的形状に施された変更、装飾等をもって需要者に強い印象、記憶を与えるものと認められ、Bかつ、需要者が何人かの業務に係る商品等であることを認識することができるに至っていることの客観的な証拠の提出があったときには、提出された証拠から、使用に係る商標の立体的形状部分のみが独立して、自他商品又は役務を識別するための出所表示としての機能を有するに至っていると認められるか否かについて判断する必要があるとした(審決謄本4頁第6段落)が、上記@〜Bの基準の具体的な適用において、出願商標と使用商標との同一性を厳密に要求するのと同じ結果とならないようにしなければ、例外を設けた意味がない。しかし、審決は、「使用に係る商標は、本願商標と同一の態様からなる立体的形状部分に、請求人(注、原告)の取扱いに係る商品 『ウイスキー』等を表示するものとして著名な『SUNTORY』の文字が大きく書され、他にそれ自体独立して自他商品の識別機能を果たし得る図形などが表示されているところ、使用に係る商標に接する取引者、需要者は、これらの文字若しくは図形又はこれらの組合せによって、自他商品を識別する標識として捉え、取引に当たる場合が多いとみるのが相当であり、立体的形状部分は、商品『ウイスキー』の包装(収納容器)そのものを表したと認識するにとどまる」(審決謄本5頁第3段落)として、上記Aの要件を満たさないとするが、誤りである。 第1に、本件製品は、その亀甲模様が施された角張った瓶形という瓶の形状に由来して自然発生的にその「角瓶」との名称が生じたものであり、また、需要者から熱烈な支持を受けた理由も、その瓶の形状に多くを負うことは、上述したとおりである。そして、「角瓶」との名称が生じ、本件製品が不動の地位を築いた後においても、常に需要者はその亀甲模様が施された角張った瓶形により本件製品を識別しているのである。 第2に、本件製品には、ごく小さな変更はされているものの、本願商標に係る形状が、昭和12年の発売開始より現在まで、一貫して使用されている。これに対し、ラベル部分については、過去数度にわたりデザインが変更されてきた。すなわち、発売当初のラベルは、ラベル上に、「向かい獅子」といわれる図形(以下「向かい獅子マーク」という。)が表示され、その下に「SPECIAL」「VERY RARE OLD」「SUNTORY」「Liqueur Whisky」「KOTOBUKIYA LTD」と表示されていた。その後、遅くとも昭和34年には、黄色地に金色の縁取りがされたラベル上に「VERY RARE OLD」「SPECIAL」「向かい獅子マーク」「SUNTORY」「Liqueur Whisky」「KOTOBUKIYA LTD」という順序で表示がされていた。次に、遅くとも昭和47年ころには、上から「GENUINE QUALITY」「SPECIAL」「向かい獅子マーク」「SUNTORY WHISKY」「SUNTORY LTD」と表示が変更された。そして、平成元年ころからは、黄色地のラベル上に上から、「SPECIAL QUALITY」「Est.1899」、「響」の漢字をデザインした図形(原告の社章、以下「響マーク」という。)、「SUNTORY WHISKY」「SUNTORY LTD」との表示が使用されるようになり、現在に至っている。このように、本件製品のラベル上の標章は、図柄、文字いずれについてもしばしば変更がされており、内容は一貫したものではなかったから、識別標識としての機能は、瓶の形状ほどは強くないものといえる。 第3に、現在の本件製品に使用されているラベルを見ても、「SUNTORY」の文字は一見して識別が必ずしも容易ではない字体で書かれていることに加え、上記のように「向かい獅子マーク」から「響マーク」に途中で変更されているだけでなく、この「響マーク」は原告の社章であって、原告の製品一般に広く用いられているものにすぎず、「SUNTORY」「サントリー」を超えた何らかのイメージを需要者に与えるものではない。しかし、「SUNTORY」「サントリー」という商標が著名であることは疑いがないとしても、これは、「ウイスキー」を表示するものとして有名なだけでなく、ビール、ブランデー、ワイン、その他の洋酒といった酒類だけでなく、さらには、缶コーヒー、清涼飲料水を表示するものとしても有名である。要するに、「SUNTORY」「サントリー」という商標は、その著名さとは相反し、原告の取扱い製品の多様さのために、かえって、個々の商品を識別する標識としての機能は低いものである。 第4に、自他識別力という場合、特定の商品を他の商品から識別する標識としての機能が問題にされるべきであると解されるところ、原告のウイスキー製品は、国産製品に限定したとしても、銘柄だけで18銘柄、これに熟成年度の違い等による区別も加えると35種類にも上る。その全18銘柄35種類のすべてに、文字形態の違いはあるものの「SUNTORY」との表示がされており、また、15銘柄32種類には、「響マーク」が表示されている。したがって、ある商品に「SUNTORY」という表示があり、「響マーク」という表示があるだけでは、たとえその範囲をウイスキーに限定したとしても、需要者が原告ウイスキー製品の中から特定の一製品を識別することは不可能である。本件製品以外の原告ウイスキー製品には、すべての製品について銘柄が表示されている。例えば、オールドの場合は横書きで2段に「SUNTORY OLD」「WHISKY」、山崎の場合は縦書きで「山崎」、ローヤルの場合は横書きで2段に「SUNTORY WHISKY」「ROYAL」、リザーブの場合は横書きで2段に「SPECIAL」「RESERVE」というように、その銘柄がそのラベル上に表示されている。したがって、需要者は瓶の形状だけでなく、ラベル上の銘柄名を認識して「サントリーのウイスキー」というカテゴリーからある特定の製品を選択することが可能である。これに対し、本件製品の場合には、ラベルその他いかなる部位にも、銘柄の表示はされていない。本件製品のラベル上には、「角瓶」という文字は一切表示されていない。ラベル上には、「SUNTORY WHISKY」との表示があるのみであり、これは他の原告ウイスキー製品にもある表示にすぎず、「著名なサントリーの製品である」という以上の特段の識別力を果たしようもないものなのである。本件製品においては、亀甲模様の施されたその瓶の形状こそが自他識別標識である。 以上のように、需要者は本件製品を、原告製品を含めた他のウイスキー製品から、瓶の形状により識別しているのであって、ラベル上の「SUNTORY WHISKY」の文字や「響マーク」により識別しているものではない。したがって、平面標章部分が不可欠であるとする理由は認められないのであって、むしろ、平面標章部分よりも立体的形状部分に施された装飾等がその需要者に強い印象、記憶を与えるものというべきである。本件製品においては、その亀甲模様が施された角張った瓶形という瓶の形状、立体的形状部分こそが、昭和12年以来65年もの長きにわたって需要者に強い印象、記憶を与え続けてきた枢要部分であり、最大の識別標識であるというべきである。 (3) 原告は、我が国最大のウイスキーメーカーであり、本件製品は、常に60パーセント以上の市場占有率を有する原告のウイスキー製品の中でも、「オールド」「ローヤル」等と並ぶ主力製品であり、原告の国産ウイスキー販売高において、本件製品と同一の形状を有する姉妹品である「白角」「味わい角瓶」と合計して二十数パーセント、本件製品単独でも20パーセント近くの割合を占めている。昭和12年から平成9年までの販売数量は、延べ6000万ケース(1ケース12本入り)を超えており、平成元年から平成9年までの間を見ても、毎年約300万ケース前後が販売されている。 原告は、本件製品の販売開始以降、新聞、雑誌、テレビ、交通広告等あらゆる媒体において、継続して大々的な広告活動を行ってきており、投下される毎年の広告費もばく大である。また、本件製品の広告の大部分には、瓶の形状が表示されている。本件製品は、その製品広告においても、常にその形状をもって需要者にアピールされてきたのであり、一方で需要者もその特異な形状を他製品との識別機能を果たすものであると認識しているからこそ、原告もその広告上に瓶の形状を表示する宣伝活動を行ってきたのである。 審決は、原告が本願商標が使用により特別顕著性を獲得していることの証拠として提出した平成10年7月30日株式会社社会調査研究所(平成13年4月1日、「株式会社インテージ」に商号変更)作成の「銘柄想起調査(CLT)結果報告書」(甲29、以下「甲29調査報告書」という。)について、「調査対象者が200人と少ないこと及びアンケート用紙の配布方法等が明確に示されていないこと等からして、これをもって本願商標が使用をされた結果、需要者により請求人の取り扱いにかかる商品『ウイスキー』を表示する商標であるとの認識がされる状態に至っているとの直接的証左とはいえない」(審決謄本5頁最終段落〜6頁第1段落)とした。しかし、平成15年1月7日株式会社インテージのマーケティング情報事業部営業企画部A作成の報告書(甲30、以下「甲30報告書」という。)に示すように、この種の調査において調査対象者は200人で十分というべきであり、対象者をこれ以上増やしたからといって調査結果の精度が特段向上するわけではない。また、アンケート用紙の記載事項及び配布方法においても、偏向的回答を招くような要素は一切含まれていない。甲29調査報告書に示された質問事項から明らかなように、質問内容に「ウイスキー」や「サントリー」というような暗示的な記載は一切存在しないところ、本願商標を調査対象者に見せて、それからどのような商品を想起するかを調査した結果、89パーセントの調査者が本願商標を「ウイスキー」であると回答し、74パーセントが「サントリー」、さらに、65パーセントが「角瓶」「角」(本件製品の略称)及び「白角」(本件製品の姉妹品)のいずれかと回答したというものであって、また、20代から50代までの広範な年齢層において満遍なくそのように認識されたものであり、これは驚くべき高識別率といえる。 (4) 以上のとおり、原告以外に、本願商標に係る形状を本件指定商品に使用している者は、過去にも現在にも存在しないのであり、本願商標は、極めて長年にわたり使用されてきたことによる特別顕著性があることは疑いがなく、自他商品の識別力を獲得したものであるから、本願商標が商標法3条2項に該当しないとした審決の判断は、誤りである。 第4 被告の反論 審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。 1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)について (1) 本願商標のような角型形状の酒類等の瓶は、各種存在しており、角型の瓶の形状自体はありふれたものというべきであり、また、商品(商品の包装ないし収納容器を含む。以下「商品等」という。)の形状として、ユニーク、独特のデザイン、珍しいものであるとしても、その形状に自他商品の識別機能があるとはいえない。そもそも、立体商標として登録されるか否かは、その商品等の形状が、商品等の機能又は美感とは関係のない特異な形状を呈することにより、自他商品識別性を有するか否かによるのであるから、本願商標が、原告のいう上記の形状を有するものであっても、そのことにより自他商品の識別性を備えているとすることはできない。しかも、原告は、「亀甲模様の施された包装容器」について平成8年7月8日に意匠登録第964441号の意匠登録を受けているところ、当該亀甲模様の容器がこのように意匠登録を得たのは、その形状が視覚を通じて美感を起こさせ、他に類のない独特のデザインであったからにほかならず、このことが商標登録の要件となり得るものではないことは明らかである。 (2) 本願商標の形状が採択された理由は、審決の違法性とは直接かかわりはない。原告は、本件製品に本願商標に係る形状が採択されたのは、当初より自他識別力を発揮することを目的としたためであると主張するが、それは原告の主観的な思惑にすぎず、取引者、需要者が、その形状から自他商品の識別力を認識するかどうかとは別のことといわなければならない。 (3) 本件製品の瓶の形状から、自然に「角瓶」と呼ばれるようになったとしても、それは、原告の商品が四角い形状であったからであって、この名称が、次第に自他商品識別機能を果たすようになっていったとはいえても、亀甲模様が施された瓶の形状そのものが、需要者により商品の識別標識として認識され、自他商品の識別力を備えているとの根拠とはいえない。むしろ、この亀甲模様の角型の瓶から、需要者は、ある種の「美感」を看取したのであって、自他商品の識別性を認識するのではないというべきである。 (4) 原告は、本件製品が「あの形だから売れた」と主張するが、主観的なものにすぎず、それが事実か否かは確認のしようがない。本件製品が売れたのが事実であるとしても、そのことから、本来的に自他商品識別力を有していたとの結論を導くことは、何らの証拠に基づかないものであり、失当というべきである。 (5) 本願商標の形状は、その美感を発揮させるために施されたものであって、自他商品識別機能を有していないのであり、そのような形状について、他に存在しないとの理由で、商標権という半永久的な独占権を付与することは、商標制度本来の目的に反するばかりでなく、形状や機能を保護するための他の産業財産権制度との整合性を損なうものである。 2 取消事由2(商標法3条2項該当性の判断の誤り)について (1) 商標法3条2項は、本来的には自他商品等の識別力のない商標が特定の商品・役務に使用された結果、識別力を有するに至った場合に適用する規定であり、その適用に当たっては、厳格に解釈し適用しなければならないのであって、使用に係る標章と出願に係る商標とは原則として同一でなければならないのは当然の前提というべきである。これを本件について見れば、本件製品には、「SUNTORY」の文字や図形などが付されており、使用商標は、本願商標とは構成において同一のものとは認められない。さらに、原告提出の証拠によっては、本件製品の形状には、亀甲模様と楕円形状が形成されていることは把握できるが、これらには、「本願商標に施されているひし形模様」が形成されていることが確認できないから、本願商標と使用商標の同一性が認定できず、本願商標の登録要件を判断する前提に欠けるものである。使用に係る商標に接する取引者、需要者は、「SUNTORY」などの文字若しくは図形又はこれらの組合せによって、自他商品を識別する標識としてとらえ、取引に当たる場合が多いと見るのが相当であり、立体的形状部分は、商品「ウイスキー」の包装の形状(収納容器)そのものを表していると認識するにとどまるものである。 (2) 本願商標の指定商品であるウイスキーが、そこに付されているラベルの形状や「SUNTORY」などの商標で識別されていることはまぎれのない事実であるし、まして、本件製品は、「角瓶」の商標によっても識別されているのであるから、指定商品であるウイスキーが、本願商標の形状のみで識別されているものではない。原告は、本件製品のほかに、これと品質を変えた「白角」、「特角」、「端麗辛口」、「新・白角」、「味わい角瓶」等の商品を販売しており、原告も品質が異なるから、あえて「角瓶」とは違う標章を使用しているのであろう。そうであれば、これらの商品の場合、瓶の形状のみによっては、需要者が原告ウイスキー製品の中から特定の一製品を識別することは不可能である。したがって、瓶の形状こそが自他識別標識であるとの原告の主張は、原告商品との関係においても妥当しない。 さらに、原告は、本件製品と同一品質のものと推認できる、ジャンボボトル、ダブルサイズ、半角ボトル、キングサイズなど販売容量の異なるウイスキーを、「角瓶」と称して販売しているが、それらの商品中には、容器の形状が異なっているものがある。したがって、本件製品は、本願商標の立体形状が使用されていないものもあるから、亀甲模様の施されたその瓶の形状こそが自他識別標識であるとはいえない。加えて、原告は、本件製品の場合には、ラベルその他いかなる部位にも、銘柄の表示はされていない、ラベル上には、「角瓶」という文字は一切表示されていないと主張するが、本件製品には、「角瓶」の文字が中央部分に表示されているものもあり、原告の上記主張は事実に反する。 本件製品の販売、広告により、本願商標の形状が使用された結果、自他商品識別機能を獲得するに至ったいうことはできない。原告提出の各甲号証に表示された本件製品の写真は、商品の普通の宣伝・表示方法にすぎないものであって、これらの証拠によって、本願商標が使用された結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるものと認めるには十分とはいえず、また、これらの写真からは、意匠としての美的価値(美感)が印象付けられ、これが顧客吸引力になる場合があるとしても、本願商標の自他商品識別標識としての機能獲得の根拠とはなり得ない。 (3) 甲29調査報告書は、調査の実施時期が本件登録出願後の平成10年7月25日ないし27日であることから、その調査の目的に指向性があるというべきであり、また、男性のみをアンケートの対象とし、女性を対象としていない点でも、アンケートとしての客観性が乏しいといえるものである。そして、このアンケートの結果、提示された容器の形状から、本件製品を想起する者が多いとしても、それは、当該容器の形状が高度の美的価値(美感)を発揮し、その結果生じた顧客吸引力により認知度が高くなったと見ることもできるのであって、このアンケート結果の認知度を根拠に本願商標の登録要件を肯定することは、容器の有する美的価値(美感)について本来的に保護すべき意匠法との整合性が保てなくなることが明らかである。したがって、同調査結果から、直ちに、本願商標が自他商品識別機能を有するという原告の主張は、意匠制度と商標制度との整合性を考慮しない一面的な主張であるといわざるを得ない。 第5 当裁判所の判断 1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)について (1) 立体商標としての商品又は商品の包装の形状の意義 商標法3条1項3号が、記述的商標は商標登録を受けることができない旨規定する趣旨は、記述的商標が商品の特性を表示記述する標章であって、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占的使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものであることによると解される(最高裁昭和54年4月10日第三小法廷判決・裁判集民事126号507頁参照)。商品又は商品の包装(収納容器を含む。以下「商品等」という。)の形状は、本来、その商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり、その商品等から得られる美感をより優れたものにするなどの目的で選択されるものである。したがって、商品等の形状そのものからなる立体商標は、その形状に変更又は装飾が施されても、商品等の形状を記述するものであって、原則として、取引に際し必要適切な表示として特定人によるその独占的使用を認めるのを公益上適当とせず、また、多くの場合自他商品識別力を欠くという記述的商標の特徴を具備するものであるから、商品等の用途、機能から予測し難いような特異な形態や特別な印象を与える装飾的形状等を備えている場合を除き、同号に掲げる「商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」として登録を受けることができない商標というべきである。もっとも、商品等の形状は、一次的には商品等の特性そのものであるが、二次的には商品の出所を表示する機能をも併有し得るというべきであり、商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる立体商標も、当該形状を有する商品等の販売、広告、宣伝等がされた結果、自他商品識別力を獲得するに至り、商標法3条2項により商標登録を受け得る場合のあることは、記述的商標一般について、その使用をされた結果自他商品識別力を獲得した場合と異なるところはない。 一般に、商品等の形状は、商品等の機能により相当程度の制約を受けるが、同一の機能を保持しつつも、なお、選択し得る形状に一定の幅があるのが通常である。しかしながら、商標法3条1項3号は、記述的商標が登録を受けることができない旨規定しており、当該記述的商標の表示する商品等の形状等が他者の販売する商品等と識別可能なものであること、又は現に出願人が販売する商品等の形状等を記述するものであることを記述的商標の除外事由としていない。その趣旨は、上記のとおり、取引に際し必要適切な表示として特定人によるその独占的使用を認めるのを公益上適当とせず、また、多くの場合自他商品識別力を欠くという記述的商標の特徴が、他者の販売する商品等と識別可能かどうか、又は現に出願人が販売する商品等の形状等を記述するものかどうかにかかわらないからである。そうすると、指定商品の取引者、需要者が、指定商品に係る商品等に使用された商標に接した場合、これを当該商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であると認識するようなものである限り、その形状が特徴的であり、又は装飾が施されていても、記述的商標に当たることを否定すべき理由はない。 また、上記のとおり、取引者、需要者により指定商品に係る商品等の形状そのものと認識される立体的形状をもって構成される商標は、原則として、商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として記述的商標に該当し、商標登録を受けることができないものと解すべきである。商品等の用途、機能から予測し難いような特異な形状や特別な印象を与える装飾的形状等は、指定商品に係る商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標ということはできないから、記述的商標に当たらない上、商標法は、記述的商標であっても、使用をされた結果自他商品識別力を獲得した場合には、同法3条2項により登録されることを予定しているのであるから、上記の解釈が同法の趣旨に反するということはできない。 そうすると、指定商品に係る商品等の形状として、その商品等の機能をより効果的に発揮させたり、美感をより優れたものにするなどの目的で同種の商品等が一般的に採用し得る範囲内のものについては、商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として登録を受けることはできないが、その範囲を超えるような特異な形状や特別な印象を与える装飾的形状のものであるか、又は使用をされた結果自他商品識別力を獲得したものであれば、商標登録を受けることができるというべきである。 (2) 本願商標の識別性の判断 審決は、「本願商標は、別掲(注、別紙目録)のとおりの構成よりなるものであるところ、縦長の直方体の立体的な全体形状は、液体等を収納する容器そのものを表したものである。そして、容器の四方側面に施された線と面で構成される切り欠け状の模様は、商品の機能(持ち易さ)、美感(注、「美観」とあるのは誤記と認める。)を効果的に高めるための範囲内のものにすぎないというべきである。してみると本願商標は、これをその指定商品(ウイスキー)に使用しても、取引者・需要者は、全体としてウイスキーの包装(収納容器)の形状を表示するにすぎないものと理解するに止まり、自他商品の識別標識とは認識し得ない」(審決謄本3頁第4段落)と判断するところ、原告は、本願商標は、亀甲模様が施された角張った瓶形という独特な瓶の形状によって、それ自体自他商品識別力を有している旨主張する。 確かに、商品等の形状は、二次的には商品の出所を表示する機能をも併有し得るから、商品等の形状が商品等の機能又は美感をより発揮させるため施されたものであることから、直ちに、他の同種商品との自他商品識別力が否定されるものではないが、登録出願された立体商標の形状が同種商品において従来にない特異な形状をしており、その形状が他の同種商品と識別可能であるとしても、それだけでは当該商標が記述的商標であることは否定されないのであって、指定商品に係る商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標である以上は、記述的商標として登録を受けることができないというべきである。 本願商標は、別紙目録のとおりの構成よりなるものであるところ、同構成は、全体形状が、縦長の直方体の上部に首状部を、最上部に口部を設けた液体を収容する容器の形状であり、その4側面には、上面の肩部から下方にかけて表面に亀甲型を浮き彫り状に施し、4側面に表された亀甲型の各中央部分は、肩部から下方にかけては亀甲部をなくし、上部と下部を各々上下に山形形状にした縦長の6角形に切り欠き、その切り欠かれた部分の中央部分に、正面に当たる部分は縦長の楕円形を表した表面模様(以下「表面楕円形部」という。)を、背面に当たる部分は縦長のひし形を表した表面模様(以下「裏面ひし形部」という。)を施してなるものであると認められる。 平成13年11月20日講談社発行の「世界の名酒事典2002年版」(甲17)、新聞記事データベース情報「G-Search」の平成6年5月11日付け朝日新聞東京朝刊13頁(乙10−2)及び同平成14年11月25日付け朝日新聞大阪地方版26頁(乙10−5)によれば、ウイスキーの包装(収納容器)である瓶(以下「ウイスキー瓶」という。)として、全体形状が、縦長の直方体の上部に首状部を、最上部に口部を設けた形状のものは多数存在し、また、包装容器の表面に浮き彫り状の模様を施したものも多数存在することが認められるところ、亀甲模様自体は、ありふれた模様であるから、本願商標を構成するウイスキー瓶の特徴は、ウイスキー瓶としての機能をより効果的に発揮させたり、美感をより優れたものにするなどの目的で同種商品が一般的に採用し得る範囲内のものであって、ウイスキー瓶として予測し難いような特異な形状や特別な印象を与える装飾的形状であるということはできない。したがって、本願商標は、その指定商品であるウイスキーに使用された場合、指定商品の取引者、需要者は、ウイスキー瓶の形状そのものと認識するにとどまるというべきであるから、本願商標は、指定商品の包装の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として、記述的商標に当たるというべきである。 原告は、本件製品に本願商標に係る形状を採用した理由は、当初より自他識別力を発揮することを目的としたためであり、審決が認定するように「商品の機能(持ちやすさ)や美感(見た目の美しさ)を効果的に際立たせるため」(審決謄本3頁最終段落)ではない旨主張する。しかしながら、審決の上記説示は、原告が本願商標を採用した理由について述べたものではなく、「商品の機能(持ちやすさ)や美感(見た目の美しさ)を効果的に際立たせるための範囲内のもの」として、上記のとおりウイスキー瓶として予測し難いような特異な形状や特別な印象を与える装飾的形状であるということはできないことについて述べたものであることが、その記載から明らかであるところ、原告が本願商標を採用した理由は、本願商標が記述的商標に該当するとの上記判断を何ら左右するものではないから、原告の上記主張は当を得ない。 また、原告は、本件製品の「角瓶」との名称は、需要者の間で自然発生的に用いられるようになったものであり、同名称は、本願商標の形状である「角型の瓶」あるいは「角張った瓶」に由来するものであることを理由に、本願商標に係る形状は自他商品識別力を有すると主張する。しかしながら、本件製品の「角瓶」との名称が需要者の間で自然発生的に用いられるようになったものであり、同名称が本願商標の形状に由来するものであるとしても、このことから、「角瓶」との名称が、需要者の間に広く認識されるようになり、自他商品識別機能を果たすようになったということはできても、本願商標の形状自体が、直ちに自他商品識別機能を有するということはできず、上記判断を左右しない。 さらに、原告は、商標法3条1項3号の趣旨が、記述的商標は、特定人によるその独占的使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものであることによるものであるとしても、本願商標がそれ自体識別力を有しており、本来的に単なる記述的な商標ではない上、本願商標に係る形状と同一又は類似の形状を採用したウイスキー製品は、日本国内において、過去においても現在においても、存在しないのであるから、本願商標について原告による独占的使用を認めたとしても、誰にも何ら障害は生じないと主張し、原告の商品以外に本願商標の形状と同様の形状のウイスキー瓶が存在しない旨の酒販業者作成の証明書(甲31−1〜125)を提出する。しかしながら、本願商標が、指定商品の取引者、需要者は、ウイスキー瓶の形状そのものと認識するにとどまるというべきであり、指定商品の包装の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として、記述的商標に当たることは上記のとおりである。また、この記述的商標に該当するというためには、必ずしも当該形状が現実に特定の商品等に使用されていることを要せず、取引者、需要者によって、当該形状が指定商品に係る商品等に用いられるであろうと一般的に認識されることをもって足りる(最高裁昭和61年1月23日第一小法廷判決・判例時報1186号131頁参照)から、本願商標に係る形状と同一又は類似の形状を採用したウイスキー製品が、現在まで日本国内において存在しないとしても、指定商品の包装の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標について特定人による独占的使用を認めることが、公益上適当としないものであることに変わりがない。したがって、原告の上記主張も採用することができない。 (3) 以上によれば、本願商標が商標法3条1項3号に該当するとした審決の判断に誤りはなく、原告の取消事由1の主張は理由がない。 2 取消事由2(商標法3条2項該当性の判断の誤り)について (1) 出願に係る商標が、指定商品に係る商品等の形状を表示するものとして商標法3条1項3号の記述的商標に該当する場合に、それが同条2項に該当し、登録が認められるかどうかは、使用に係る商標及び商品等、使用開始時期及び使用期間、使用地域、当該商品等の販売数量等並びに広告宣伝の方法及び回数等を総合考慮して、出願商標が使用をされた結果、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるものと認められるかどうかによって決すべきものであり、その場合に、使用に係る商標及び商品は、原則として出願に係る商標及び指定商品に係る商品等と同一であることを要するものというべきである。 (2) 原告が、我が国における代表的なウイスキーメーカーであることは公知の事実というべきところ、平成7年1月1日小学館発行の「世界のロングセラー」(甲4)、平成15年1月6日原告東京広報部課長B作成の報告書(甲5)、原告作成の「WHISKY BOOK」と題する冊子(甲6)、平成8年原告作成の「我ら角瓶党」と題する冊子(甲7)、平成7年ワールドフォトプレス発行の「モノ・マガジン300号記念特大号」(甲8)、平成4年成美堂出版発行の「国産ウイスキー&ビールオールカタログ」(甲9)、昭和28年1月10日付け日本経済新聞掲載の広告(甲10)、同年2月28日付け日本経済新聞掲載の広告(甲11)、同年3月5日付け讀賣新聞掲載の広告(甲12)、同年4月4日付け毎日新聞夕刊掲載の広告(甲13)、同年12月1日付け毎日新聞掲載の広告(甲14)、平成13年11月20日講談社発行の「世界の名酒事典2002年版」(甲17)、昭和44年6月1日原告発行の「みとくんなはれ サントリーの70年U」と題する冊子(甲18)、昭和34年ないし昭和52年の原告作成の新聞広告(甲19〜25)、平成8年ころ原告作成の製品広告(甲26)、平成14年4月1日原告作成の「サントリー製品一覧」(甲27)、平成10年8月10日原告法務部課長C作成の報告書(甲28)、平成15年4月2日原告作成のコマーシャルフィルムキャプチャー画像(甲34−1〜3)、同年4月4日原告制作部課長D作成の報告書(甲35)、平成12年ころ原告撮影のペットボトル入り本件製品の写真(甲36−1、2)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。 ア 本件製品は、原告が昭和12年に販売を開始した商品であり、販売当初は「角瓶」の表示を用いてはいなかったが、容器として角型の瓶を使用していたことから、次第に需要者の間で本件製品を「角瓶」と呼び慣わされるようになり、原告自身においても、遅くとも昭和28年には、広告宣伝中で本件製品を特定するために「角瓶」の表示を用い、また、一般の刊行物においても、本件製品を指称するのに「角瓶」の表記を用いるようになって現在に至っている。 イ 本件製品のウイスキー瓶には、昭和12年の発売開始より現在まで、主として、立体的形状は、本願商標と同一と認められるものが使用されているが、その表面楕円形部には、口部を除く瓶全高の約2分の1の大きさの楕円形黄色地に金色の縁取りがされたラベル(以下「表面ラベル」という。)が、肩部には、弦を上向きにした丸みを帯びた三日月形黄色地に金色の縁取りがされたラベル(以下「肩部ラベル」という。)が、裏面ひし形部には、ひし形黄色地のラベル(以下「裏面ラベル」という。)が、それぞれ貼付されている(以下、「使用に係る本件ウイスキー瓶」という。)。表面ラベルは、発売当初においては、ラベル上に上から順に、「向かい獅子マーク」、その下に「SPECIAL」「VERY RARE OLD」「SUNTORY」「Liqueur Whisky」「KOTOBUKIYA LTD」と表示されていた(甲18)が、その後、遅くとも昭和34年には、「VERY RARE OLD」「SPECIAL」「向かい獅子マーク」「SUNTORY」「Liqueur Whisky」「KOTOBUKIYA LTD」と表示されるようになり(甲19〜22)、遅くとも昭和47年ころには、「GENUINE QUALITY」「SPECIAL」「向かい獅子マーク」「SUNTORY WHISKY」「SUNTORY LTD」と表示されるようになり(甲23〜25)、平成元年ころからは、「SPECIAL QUALITY」「Est.1899」、原告の社章である「響マーク」「SUNTORY WHISKY」「SUNTORY LTD」と表示されるようになり、現在に至っている(甲26−1、2)。肩ラベルは、現在のもの(甲26−1、2)には、上から「ウイスキー」、綴りの判別し難い筆記体の欧文字等が表示され、裏面ラベルは、現在のもの(甲34−1、3)には、バーコード等の表示がされているが、両ラベルの詳細な構成は証拠上判別することができず、その変遷の経緯等も証拠上明らかでない。 ウ 本件製品のウイスキー瓶には、本願商標と同一と認められる立体的形状のもののほか、本願商標とは明らかに異なる立体的形状のもの(甲12左から3番目の「ポケット瓶」、甲18の3枚目右下段の右から2番目及び4番目のもの、甲36−1の2.7リッター瓶、甲36−2の4リッター瓶)も存在する。 エ 本件製品の販売数量(ただし、「白角」「味わい角瓶」等の姉妹品を含む。)は、昭和12年から平成9年までの61年間の合計が6000万ケース(1ケースは12本)を超え、平成元年から平成3年までは毎年200万ケース以上、平成4年から平成9年までは毎年300万ケース以上であり、また、本件製品は全国において販売されている。そして、原告は、本件製品の販売開始以降、新聞、雑誌、テレビ、交通広告等、多くの媒体において、継続して広告活動を行ってきているところ、本件製品の広告の多くには、瓶の形状が表示されている。 (3) そこで、本願商標と使用に係る本件ウイスキー瓶を対比すると、両者の立体的形状は、同一と認められる範囲内のものであると認められる。しかしながら、本願商標は、立体的形状のみからなるのに対し、使用に係る本件ウイスキー瓶には、透明なガラス瓶の表面楕円形部に表面ラベルが、肩部に肩部ラベルが、裏面ひし形部に裏面ラベルが付され、これらはいずれも黄色地の目立つものであり、特に表面ラベルには、上から順に、ラベル全高の約5分の1、全幅の2分の1の大きさの金色の「向かい獅子マーク」(発売当初から平成元年ころまで)又は「響マーク」(平成元年ころから現在まで)、ほぼラベル全幅の装飾された大きく太めの書体で、冒頭の「S」「W」を赤色に、他を黒色又は青色にした「SUNTORY」(発売当初から昭和47年ころまで)又は「SUNTORY WHISKY」(昭和47年ころから現在まで)の欧文字、黒色ないし濃紺色の活字体で「KOTOBUKIYA LTD」(発売当初から昭和47年ころまで)又は「SUNTORY LTD」(昭和47年ころから現在まで)の欧文字が表示されている。また、表面ラベルの上記平面標章部分は、上記のとおり変遷が認められるものの、表面ラベルの形、大きさ及び楕円形黄色地に金色の縁取りがされている点は同一であると認められ、さらに、「向かい獅子マーク」又は「響マーク」、「SUNTORY」又は「SUNTORY WHISKY」の欧文字及び「KOTOBUKIYA LTD」又は「SUNTORY LTD」の欧文字は、全体の配置、色彩、デザイン等はほぼ同一の印象を与えるものと認められる。そして、ウイスキー瓶として、全体形状が、縦長の直方体の上部に首上部を、最上部に口部を設けた形状であるものは多数存在し、また、包装容器の表面に浮き彫り状の模様を施したものも多数存在することが認められるところ、亀甲模様自体は、ありふれた模様であること、本願商標を構成するウイスキー瓶の特徴は、ウイスキー瓶としての機能をより効果的に発揮させたり、美感をより優れたものにするなどの目的で同種商品が一般的に採用し得る範囲内のものであって、ウイスキー瓶として予測し難いような特異な形状や特別な印象を与える装飾的形状であるということはできないことは上記のとおりであるから、使用に係る本件ウイスキー瓶の立体的形状それ自体は、独立して、自他商品識別力を有するものではないばかりでなく、表面ラベルの平面標章部分を含む全体的な構成の中において、立体的形状の識別力は相対的に小さいものといわざるを得ない。これに対し、表面ラベルは、透明なガラス瓶の表面に口部を除く瓶全高の約2分の1の大きさの楕円形黄色地に金色の縁取りがされたものであり、そこには、ラベル全高の約5分の1、全幅の2分の1の大きさの金色の「向かい獅子マーク」又は原告の社章である「響マーク」及び原告の会社名を表すものと認められる「SUNTORY」の欧文字がラベル全幅の装飾された大きく太めの書体で、冒頭の「S」を赤色に、他を黒色又は青色で表示され、ウイスキーの欧文字の冒頭の「W」も赤色で表示されているのであるから、このような平面標章部分は、上記立体的形状に比べて、看者の注意をひく程度が著しく強く、商品の自他商品識別力が強い部分であると認められる。したがって、本願商標と使用に係る本件ウイスキー瓶とは、その立体的形状は同一と認められる範囲内のものであると認められるものの、両者は、立体的形状よりも看者の注意をひく程度が著しく強く商品の自他商品識別力が強い平面標章部分の有無において異なっているから、全体的な構成を比較対照すると、同一性を有しないというべきである。 原告は、使用に係る本件ウイスキー瓶は、その亀甲模様が施された角張った瓶形という瓶の形状、立体的形状部分こそが、昭和12年以来65年もの長きにわたって需要者に強い印象、記憶を与え続けてきた最大の識別標識であるというべきであり、需要者は、原告製品を含めた他のウイスキー製品から、瓶の形状により識別しているのであって、ラベル上の「SUNTORY WHISKY」の文字や「響マーク」により識別しているものではないから、平面標章部分よりも立体的形状部分に施された装飾等がその需要者に強い印象、記憶を与えるものというべきであると主張するが、上記認定及び判断に照らし、採用することができない。 (4) 原告は、本件製品の「角瓶」との名称は、需要者の間で自然発生的に用いられるようになったものであり、同名称は、本願商標の形状である「角型の瓶」あるいは「角張った瓶」に由来するものであること、また、甲29調査報告書の調査結果によれば、89パーセントの調査者が本願商標を「ウイスキー」であると回答し、74パーセントが「サントリー」、さらに、65パーセントが「角瓶」「角」(本件製品の略称)及び「白角」(本件製品の姉妹品)のいずれかと回答したというものであって、本願商標は、極めて長年にわたり使用されてきたことによる特別顕著性がある旨主張する。しかしながら、本件製品の「角瓶」との名称が需要者の間で自然発生的に用いられるようになったものであり、同名称が本願商標の形状に由来するものであるとしても、このことから、「角瓶」との名称が、需要者の間に広く認識されるようになり、自他商品識別機能を果たすようになったということはできても、本願商標の形状自体が、直ちに自他商品識別機能を有するということはできないことは、上記のとおりである。また、甲29調査報告書及び甲30報告書によれば、株式会社社会調査研究所が、平成10年7月25日から同月27日までの間、東京都内及び大阪市内において、男性の通行人200人に別紙目録上下段各右側の図とほぼ同一と認められる図を示して連想する、@商品ジャンル(種類)、Aメーカー(製造者)及びBブランド(銘柄)を質問したところ、その回答は、@については、89%がウイスキー、Aについては、74%が「サントリー」、Bについては、29%が「角瓶」、28%が「角」、8%が「白角」であったことが認められる。しかしながら、甲29調査報告書の対象者は、すべて男性であるところ、本願商標の指定商品の取引者、需要者は男性に限られないから、対象者の選定には適切を欠くものがあるといわざるを得ない。さらに、甲29調査報告書の調査は、上記のとおり瓶の形状を表した図面から連想する商品ジャンル(種類)、メーカー(製造者)及びブランド(銘柄)について質問したものであるから、その回答に当たって、回答者は、同調査の趣旨を推測しながら、正解が何であるかについて熟慮した上で回答したことが推認されるところ、それにもかかわらず、対象者の26%が原告を想起しなかったものである。そして、本願商標の指定商品はウイスキーであり、その需要者には主婦等の一般の消費者が含まれること、また、酒販店のほかスーパーマーケットの店頭等で大量に販売されることも多く、需要者が短時間のうちに購入商品を決定する場合もまれではないことは当裁判所に顕著であって、その需要者がこれを購入するに際して払う注意力もさほど高いものとはいえないことを考慮すれば、上記調査結果は、立体的形状のみからなる本願商標の特別顕著性を認めるに十分ではないというべきである。 (5) したがって、本願商標は、その指定商品について使用された結果、自他商品の識別力を獲得し、商標法3条2項の適用を受けることができる商標には当たらないとした審決の判断に誤りはなく、原告の取消事由2の主張も理由がない。 3 以上のとおり、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。 よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第13民事部 裁判長裁判官 篠原勝美 裁判官 岡本岳 裁判官 早田尚貴 |
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