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【事件名】「週刊ダイヤモンド」掲載記事のコピー事件
【年月日】平成15年7月18日
 東京地裁 平成14年(ワ)第27910号 著作権に基づく差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成15年6月10日)

判決
原告 株式会社ダイヤモンド社
同訴訟代理人弁護士 浅倉隆顕
被告 株式会社合人社計画研究所
同訴訟代理人弁護士 石田天洋
同 西島良尚


主文
1 被告は、別紙目録記載の記事を複製し又はその複製物を頒布してはならない。
2 被告は、上記1記載の複製物を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、金1万0500円及びこれに対する平成14年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用は、原告に生じた費用の3分の2を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。
6 この判決は、第1ないし第3項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 主文第1、2項と同旨
2 被告は、原告に対し、金201万0500円及びこれに対する平成14年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 争いのない事実等
(1) 原告は、雑誌、図書の発行及び販売等の事業を営む株式会社であり、ビジネス情報週刊誌「週刊ダイヤモンド」を発行している。
 被告は、ビル・マンション等不動産の総合管理等を目的とする株式会社である。
(2) 原告は、別紙書面目録記載の記事(以下「本件記事」という。甲4)の著作権を有している。原告は、被告に対し、本件記事の複製について、明示的な許諾を与えたことはない。
(3) 原告が発行する「週刊ダイヤモンド」2000年2月19日号に、被告が、管理を委託されている管理組合の理事長を名誉毀損で訴え、係争中であるとの記事が掲載された(乙11)。同2001年3月31日特大号には、「マンションが危ない!」と題する記事が掲載され、その中で、被告は、「大手マンション管理会社ベスト・ランキング」の37位に位置づけられていた(乙12)。同2001年9月8日号では、被告が管理組合の理事長を名誉毀損で訴えた前記訴訟において被告の請求が棄却され、マンション管理組合の資金が被告の社長名義の口座を通っていたことが明らかになったとする記事が掲載された(以下「別件記事」という。乙13)。
 被告は、被告の系列会社であるウェンディ企画株式会社(以下「ウェンディ企画」という。)が発行する月刊マンション通信誌「ウェンディ」第148号(平成13年9月15日発行)において、「週刊ダイヤモンド マンション関連記事の丸投げ・デッチ上げ判明」という見出しで、別件記事は、致命的な事実誤認に基づいた資料や原資料の図表を改ざんするなどして構成されているという反論記事を掲載した(甲13、乙14)。さらに、同記事は、インターネット上のウェブサイトWendy−netにおいても、掲載された(甲14)。
 その後、「週刊ダイヤモンド」2002年2月16日特大号には、「沈むマンション市場」と題する特集に本件記事が掲載され、その中で、被告は、「2002年版大手マンション管理会社ベスト・ランキング」の4位に位置づけられた(甲4)。
 原告は、平成14年3月13日、ウェンディ企画に対し、「ウェンディ」の上記記事が原告の名誉を毀損すると主張して損害賠償等請求訴訟を提起した(東京地方裁判所平成14年(ワ)第5176号事件)。
 これを受けて、被告は、同年9月20日、原告に対し、別件記事が被告の名誉を毀損するとして損害賠償等請求訴訟を提起した(東京地方裁判所平成14年(ワ)第20513号事件)。
(4) 被告は、平成14年5月23日ころ、東京都杉並区(以下略)(以下「本件マンション」という。)の管理組合の平成14年度理事長であるA(以下「A」という。)から、被告のマンション管理に関する参考資料の請求を受けた。なお、Aは、原告の社員であった。
 被告担当者B(以下「B」という。)は、Aに対し、被告の経歴書や毎月の管理に関する書類の見本一式等に加え、本件記事の複製物1部を郵送した。
 Bは、同年8月24日、A宅を訪れ、本件マンションの管理組合理事会に対して、被告のマンション管理の方針、方法などについて説明及び質疑応答を行い、この際、本件記事の複製物を理事の人数分である4部頒布した。
 Bは、同年9月1日、高井戸社会教育会館において、本件マンションの区分所有権者に対して、被告のマンション管理の方針、方法などについて説明及び質疑応答を行い、この際、本件記事の複製物を30部頒布した。
2 本件は、原告が、被告が著作権者である原告に無断で本件記事を複製し複製物を頒布したことが複製権の侵害に当たると主張して、被告に対し、著作権法112条1項、2項に基づき、本件記事の複製及び複製物の頒布の差止め並びに複製物の廃棄を求めるとともに、民法709条に基づき、著作権侵害による損害賠償を求める事案である。
3 争点
(1) 本件記事の複製に関して、原告の黙示の承諾があったか。
(2) 被告による本件記事の頒布行為は、正当防衛に該当するか。
(3) 原告の本訴提起は権利濫用に当たるか。
(4) 損害の発生の有無及びその額
(5) 過失相殺の有無
4 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(黙示の承諾)について
〔被告の主張〕
 原告の発行する「週刊ダイヤモンド」のような雑誌における取材記事については、取材源である当事者の協力がないと作成できないものである。このような場合、少なくとも取材協力した記事に関しては、その取材源である当事者は、著作権の一部を担っているといえる。本件のように、取材に協力した被告が、その協力した記事の部分について、35部だけ複製・頒布した行為は、軽微な態様で、しかも、逆に「週刊ダイヤモンド」の宣伝になりこそすれ到底損害を与えるとは考えられない態様であるから、社会通念上及び信義則上、記事作成者の黙示の承諾があるか、承諾が推定される。
〔原告の主張〕
 取材源である当事者が、著作権の一部を担っているとの被告の主張は、法律的な根拠がなく、主張自体失当である。
(2) 争点(2)(正当防衛)について
〔被告の主張〕
 原告は、別件記事等の事実に反する記事により、被告の名誉を毀損し、現在も同記事をCD−ROMや「D−VISION」というインターネットサービス上で掲載することにより、被告の名誉を毀損し続けている。被告は、このような原告の行為により、管理委託契約の解約を迫られたり、契約が締結されそうになる間際にマンションの管理組合理事等から別件記事を示されて契約が頓挫するなどの損害を被っていた。
 被告担当者Bは、原告による名誉毀損行為が継続しておりこれによって被告の社会的評価が害されるおそれを避けるため、必要かつ相当な名誉回復手段として、本件記事の複製・頒布をしたものである。すなわち、Bが、同じ「週刊ダイヤモンド」が被告をランキングの比較的上位に掲載した本件記事を35部だけ複製・頒布したのは、原告の名誉毀損による不法行為に対し、被告の名誉を防衛するためにやむを得ずなした行為であって、正当防衛(民法720条)として、違法性が阻却される。
〔原告の主張〕
 正当防衛が認められるには、@侵害の急迫性、A他人の不法行為の存在、B自己又は第三者の権利を防衛するためであること、Cやむことを得ずしてなした行為であることが必要であるところ、被告の行為は、いずれの要件も欠くから、正当防衛に当たらない。
 仮に、別件記事について名誉毀損が成立するとしても、同記事が掲載された雑誌の発売日である平成13年9月1日から相当期間経過することによって、侵害の急迫性は失われ、被告に正当防衛が成立する余地はない。
 また、他人の不法行為が成立するためには、客観的に明白な不法行為がなければならないが、別件記事が不法行為に該当するかどうかは裁判所の判断を待たなければ分からないのであるから、客観的に明白な不法行為があったとはいえない。
 防衛するためとは、権利侵害との因果関係及び防衛の認識のことをいうが、本件記事の複製物の頒布は、被告の営業の一環であって、被告が主張する名誉毀損とは因果関係もなければ、防衛の認識もない。
 本来、被告は、名誉を毀損されたと考えるのであれば、司法手続による救済を求めるべきであり、しかも、被告は、平成13年9月下旬ころから現在に至るまで、「ウェンデイ」の前記記事を掲載し、逆に原告の名誉を毀損することによって防衛行為を行っているのであるから、さらに複製権侵害という客観的に明白な違法行為をする必要はなく、やむことを得ずしてなした行為とはいえない。
(3) 争点(3)(権利濫用)について
〔被告の主張〕
 原告が侵害されたと主張する利益は、被告が複製した本件記事35部の使用料1万0500円相当にすぎない。他方、被告が、原告の別件記事により被った損害は、その比ではない。
 また、平成14年5月23日の時点で、既に原告は被告に対し、訴訟を提起していたのであるから、原告と信義則上同一視できる原告社員のAは、Bから本件記事の複製物を1部送付された時に、Bに注意するなどの対応ができたはずである。しかし、Aは、その後も約4か月間、Bに対し、多くの資料を作成させるように仕向け、2度もBに本件記事の複製物を持参させるに任せており、係争中の相手に対し、おとり捜査的で著しく不公正な対応を行ったものである。
 さらに、本件記事は、被告の原告に対する情報提供等の協力がないと成立しえなかった記事であり、取材協力者によるある程度の使用は、許容されていると信じても社会通念上やむを得ず、その侵害の程度・態様は軽微である。
 したがって、仮に、原告に軽微な損害賠償請求権があるとしても、当事者の客観的利益状況及び原告社員Aの意図から、原告の損害賠償請求は、権利の濫用である。
〔原告の主張〕
 本件で比較されるべきは、原告の複製権に基づく請求を認めることによって原告が得る利益と被告が被る直接的な損害であって、被告が主張する名誉毀損による損害は、間接的なものにすぎず、比較の対象足り得ない。
 Aは、被告に対し、管理の内容を説明する資料を請求したのであって、本件記事を違法に複製せよなどとは一言も言っていない。被告は、頼まれもしないのに、自ら本件記事の複製物を送付してきたのである。Aは、名誉毀損に関する原被告間の係争に関して、全く無関係であり、原告と信義則上同一視できるはずがない。したがって、原告の請求は、権利濫用とはいえない。
(4) 争点(4)(損害)について
〔原告の主張〕
ア 著作権法114条2項に基づく損害
 原告は、「D−VISION」というデータベースサービスをインターネット上で提供しており、その中で「週刊ダイヤモンド」の記事をPDFファイルで配信している。「D−VISION」の料金体系は、法人会員については、最低利用料金が月額2000円であり、月額の情報料金が2000円を超える場合は、最低利用料金は発生しないが、2000円未満の場合は、最低利用料金が発生する。そして、利用料金は、1頁100円、2頁150円、3頁200円、4頁250円、5頁300円、6頁350円、7頁以降一律400円である。
 被告が複製したのは5頁であるから、1部当たり300円である。そして、被告は、合計35部頒布したから、損害額は、1万0500円である(300円×35部=1万0500円)。
イ 懲罰的賠償(慰謝料)
 著作権法114条2項は、権利者に最低限の損害賠償額を保障するものと解されているが、侵害者は、当初から許諾を得て利用していた者と同等の負担をすれば済むので、いわゆる侵害得となってしまうおそれがある。
 被告は、原告との間の東京地方裁判所平成14年(ワ)第5176号事件において、「週刊ダイヤモンド」2001年3月31日特大号における「大手マンション管理会社ベスト・ランキング」で37位にランキングされたことに対して、「マンション業界の常識からすると、採点項目や配点が極めて不合理」、「ずさんな評価」、「マンション管理業界に対する知識のない者が短期間にデッチ上げた記事」と罵倒しておきながら、本件記事の「2002年版大手マンション管理会社ベスト・ランキング」において4位にランキングされるや、原告に無断で本件記事の複製を行い、自らの営業の手段として用いており、このような被告について、決して侵害得が許されてはならない。
 したがって、原告は、被告に対し、上記アに加え、慰謝料として200万円の支払を求める。
〔被告の主張〕
 原告の主張は、いずれも争う。
 懲罰的損害賠償なる我が国には存在しない制度を持ち出すのは失当である。また、財産的損害については特段の事情がない限り慰謝料が認められることはあり得ないことであり、本件においては、原告に悪質な誘因行為があり、被告担当者が原告の名誉毀損記事の影響を払拭するためやむを得ない状況の下でやむを得ない態様で複製したものであるから、慰謝料が認められるべき事情はない。 
(5) 争点(5)(過失相殺)について
〔被告の主張〕
 仮に、上記被告の(3)の主張が認められないとしても、本件マンションの管理組合の責任者としての権限を持ち、常に被告担当者との連絡窓口となっていた原告社員のAが、被告担当者から最初の複製物1部の交付を受けたときに警告を発するなどしてそれ以降の損害を防止できるにもかかわらず、あえて以後も2度にわたり、部数を増やすような状況を作出し、本件記事の複製物を交付させ続けたことは、損害の拡大に被害者側が寄与した過失がある。このようなおとり捜査的で不公正な態様での被害者側の寄与があったことからすれば、損害の公平な分担の観点から、相当程度の過失相殺が認められるべきである。
〔原告の主張〕
 被告の主張は、争う。
第3 当裁判所の判断
1 前記争いのない事実に証拠(甲3、5、6、10、15、16、乙1ないし8、10)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
(1) 本件マンションの管理組合の平成14年度理事長であるAは、原告の出版事業局第一編集部に所属する社員であった(甲15)。出版事業局は、書籍(単行本)の企画を行っている部署であり、「週刊ダイヤモンド」の企画・編集・制作等は、ビジネス情報事業局の週刊ダイヤモンド編集部及び同制作部において行われている(甲16)。
 Aは、平成14年(以下、特に断らない限り、月日は平成14年のものである。)5月23日ころ、被告に架電し、本件マンションの管理委託業務の見積りを依頼すると同時に、被告の管理に関する参考資料を請求した。
 被告の東京本店一課課長代理Bは、そのころ、Aに対し、被告の経歴書や毎月の管理に関する書類の見本一式等に加え、本件記事の複製物1部(表紙についてA4のもの1枚、50頁ないし53頁については、50頁と51頁が見開きでA3のもの1枚、52頁と53頁が見開きでA3のもの1枚の合計3枚で、上から表紙、50頁・51頁、52頁・53頁の順番で左詰で並べられ、左上の部分がホチキスで留められたもの。甲3)を郵送した。
 Aは、5月29日、Bに対し、上記見積りに必要な書類を送付し、6月15日の理事会までに見積りや被告の管理業務仕様書を用意するよう依頼した(乙1)。
 Aは、6月14日、Bに対し、見積りをファックスするよう依頼し(乙2の1)、Bは、概算見積書を提出した(乙2の2)。
 Bは、7月2日ころ、Aに対し、「管理に関するご提案書」と題する書面を提出した(乙3)。
 Aは、7月22日、Bに対し、今後の予定を連絡するとともに、居住者にアンケート調査をするための資料の追加送付を依頼した。この依頼書には、「アンケートの際の居住者用参考資料として、御社の資料(パンフレット)を2セット(含提案書A3版)下記まで御送付いただきたく存じます。」と記載されている(乙4)。
(2) Aは、8月14日、Bに対し、理事会との面談及びプレゼンテーション会への出席及び管理業務仕様書の作成を依頼した(乙5の1ないし7)。
 Aは、8月19日、Bに対し、同月24日の理事会との面談の案内をした。この連絡書面には、「御用意いただきたいもの:先日のファックスでお願いした改訂版管理委託内容、仕様書、お見積り。」との記載がある(乙6)。
 Bは、理事会との面談のために概算見積書の修正版を作成し(乙7)、同月24日、A宅における理事会において、理事らとの間で、被告のマンション管理の方針、方法などについて説明及び質疑応答を行った。Bは、この際、理事4名各自に対し、概算見積書等の説明資料を渡したが、その中に本件記事の複製物も入っていた。
(3) Aは、8月26日、Bに対し、プレゼンテーション会の連絡をするとともに、プレゼンテーション会用資料についてどの程度のものを用意できるか尋ね、「仕様、点検回数等については他社とあまり変わらないので、御社の特徴や他社と特に違う点の資料をご用意いただくのがいいかと思いますが、いかがでしょうか。」と提案した(乙8の1ないし5)。
 Bは、これを受けて、8月31日、最終の「管理に関するご提案書」を作成し(甲10、乙10)、9月1日、高井戸社会教育会館において、本件マンションの居住者に対して、被告のマンション管理の方針、方法などについて説明及び質疑応答を行い、この際、最終提案書とともに本件記事の複製物を30部頒布した。本件マンションの戸数は30戸であるが、このときの参加者は13世帯17名だったため、その場で配られなかった残りは理事会が預かった。
2 争点(1)(黙示の承諾)について
 本件記事の複製について明示的な許諾がなかったことは当事者間に争いがなく、また、本件全証拠によっても、原告が被告に対し、本件記事の複製を黙示に承諾したと認めるに足りる証拠はない。
 甲第4号証によれば、本件記事のうち、「2002年版大手マンション管理会社ベスト・ランキング」は、大手マンション管理会社のアンケート回答結果をもとに得点化して作成されたものであり、本件記事は、取材源である当事者から情報提供を受けているものの、原告が独自の観点から情報を整理し記述したものであって、被告が著作した部分は存在しないことが認められる。被告も、原告が本件記事の著作権者であることは認めているのであるから、被告が取材に協力したというその一事をもって、著作権の一部を担っているといえないことは明らかである。
 また、被告は、取材に協力したこと及び本件記事の複製部数が比較的少ないことから、原告の承諾が推定される旨主張するが、これより原告の承諾を推定することはできないし、違法性を欠くということもできない。
 したがって、黙示の承諾があったとする被告の主張は、理由がない。
3 争点(2)(正当防衛)について
 被告は、本件記事の複製及び頒布行為が原告の別件記事に対する正当防衛行為である旨主張する。
 しかしながら、そもそも本件記事は、別件記事とは全く無関係な記事であり、本件記事を複製・頒布することにより、別件記事の内容が覆ったり、被告の名誉が回復されるわけではないから、本件記事の複製行為をもって、被告が主張する原告の名誉毀損行為に対する防衛行為ということはできない。また、前記1で認定した事実からすると、Bは、本件記事を被告の営業活動のために使用したものであり、別件記事に対する防衛の意思があったということもできない。
 さらに、別件記事が平成13年9月8日発売号に掲載されたものであるのに対し、本件における被告の複製行為は、それから8か月余り経った平成14年5月23日ころに行われているのであるから、侵害の急迫性は既に失われているというべきである。
 被告は、別件記事に対しては、実際に被告が行ったように、名誉毀損に基づく謝罪広告等を請求する訴えを提起して公の救済を求めることも、別件記事に対する反論記事を書いて名誉の回復を図ることもできたのであり、別件記事と無関係な本件記事を複製し頒布する必要性は認められず、やむを得ない行為であったということはできない。たとえ、早急に被告の名誉を回復する措置が必要であったとしても、別件記事とは無関係な本件記事を複製するという間接的な行為をもって、民法720条所定の正当防衛行為とはいい得ない。
 したがって、被告の行為は、正当防衛行為とは認められず、被告の主張は理由がない。
4 争点(3)(権利濫用)について
 本件全証拠によっても、原告の本件損害賠償請求が権利濫用であると認めるに足りない。
 被告が本件記事を複製した部数は、合計35部であり、本件マンションの理事ないし居住者に頒布されていることから、その著作権侵害の程度は必ずしも重大なものとはいえないものの、侵害の程度・態様が軽微であるからといって、直ちに違法性が阻却されるわけではない。被告は、原告の主張する利益に比して原告の名誉毀損により被った被告の損害が過大である旨主張するが、前記3のとおり、被告の行為は正当防衛行為とは認められず、本件記事の複製物は当該名誉毀損記事とは無関係であるから、そもそも名誉毀損の点は利益衡量の対象足り得ない。
 また、被告は、AがBに対し、損害を拡大するよう仕向けた旨主張するが、前記1で認定したとおり、AがBに請求した資料は、見積書、提案書、管理業務仕様書、被告会社の資料(パンフレット)及び管理委託内容等であり、いずれも管理会社の選択に当たって必要な資料であって、管理組合の理事長として当然請求すべきものであった。また、AがBに対し、ことさら本件記事の複製物を再度請求したとの事実を認めるに足りる証拠はない。そうすると、Bは、自らの判断で本件記事を複製し、頒布したものであり、AがBに対し、損害を拡大するよう仕向けたということはできない。
 前記1認定の事実によれば、Aは、原告の社員ではあるが、役員ではなく、「週刊ダイヤモンド」の編集・制作とも無関係な出版事業局第一編集部に所属しており、原告社員としての立場を離れて、本件マンションの管理組合の理事長という個人的な立場においてBと交渉していたということができる。そうすると、Aに、本件記事の複製頒布につき原告の承諾があったか否かを確認し、Bに対し注意を与えるべき法律上の義務があったということもできない。
5 争点(4)(損害)について
(1) 著作権法114条2項に基づく損害について
 甲第12号証及び弁論の全趣旨によれば、原告が、インターネット上で提供している「D−VISION NET」というデータベースサービスでは、「週刊ダイヤモンド」の記事をPDFファイルで配信するにあたって、法人会員のサービス料金が定められており、その法人会員・料金表によると、最低利用料金が月額2000円(ただし、月額の情報料金が2000円を超える場合は発生しない。)であり、利用料金は、1頁100円、2頁150円、3頁200円、4頁250円、5頁300円、6頁350円、7頁以降一律400円であることが認められる。
 したがって、原告は、「週刊ダイヤモンド」の記事の複製を許諾するにあたって、上記の金額を受けているのであるから、著作権法114条2項に規定される「その著作権の行使につき受けるべき金銭の額」として、上記料金表に基づき算定するのが相当である。
 本件において、被告が複製したのは、5頁であるから、1部当たり300円である。そして、被告は、これを合計35部複製し頒布したのであるから、300円に35を乗じて得られた1万0500円が、原告が受けた損害額と認められる。
(2) 懲罰的賠償(慰謝料)について
 我が国の不法行為に基づく損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し、加害者にこれを賠償させることにより、被害者が被った不利益を補てんして、不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり、加害者に対する制裁や、将来における同様の行為の抑止、すなわち一般予防を目的とするものではない。したがって、不法行為の当事者間において、被害者が加害者から、実際に生じた損害の賠償に加えて、制裁及び一般予防を目的とする賠償金の支払を受け得るとすることは、我が国における不法行為に基づく損害賠償制度の基本原則ないし基本理念と相いれないものである(最高裁平成5年(オ)第1762号同9年7月11日第二小法廷判決・民集51巻6号2573頁参照)。したがって、原告の懲罰的賠償を求める主張は、我が国の公の秩序に反するから、理由がない。
 原告は、上記賠償金を慰謝料として請求するが、本件において、原告は、複製権という財産権の侵害のみを主張しているところ、本件複製権侵害行為によって原告が著しい精神的苦痛を被り、その結果、財産的損害の賠償に加えて、さらに慰謝料を認めなければならないような事情が存するとは認められない。したがって、この点に関する原告の主張は理由がない。
(3) したがって、原告の受けた損害は、前記(1)の額をもって填補するのが相当であり、それ以上の賠償額を請求する原告の主張は、理由がない。
6 争点(5)(過失相殺)について
 Aは、原告の役員ではなく、「週刊ダイヤモンド」の編集・制作とは無関係の部署に所属していた上、原告社員としての立場を離れて、本件マンションの管理組合の理事長という個人的な立場において交渉したことは、前記4で認定したとおりである。たとえ、原告が主張するとおり、Aが原告社員という立場から、原告とウェンディ企画との係争を知っていたとしても、本件マンションの管理組合の理事長という個人的な立場において交渉したAに、本件記事の複製頒布につき原告の承諾を得たか否かを確認し、Bに対し注意を与えるべき法律上の義務があるということはできず、AがBに対し、無断複製物と知りながら、ことさら本件記事の複製物を再度請求した事実も認められないから、Aの対応が不公正な態様であるとまではいえない。Bが本件記事の複製物を交付したのは、B自身の判断であり、Aがそれに対し、異議を唱えなかったからといって、損害の拡大に寄与したということはできない。したがって、被告の過失相殺の主張は、理由がない。
7 結論
 よって、原告の請求は、著作権法112条1項、2項に基づき、本件記事の複製及び複製物の頒布の差止め及び廃棄を求め、民法709条に基づき、著作権侵害による損害賠償として1万0500円及びその遅延損害金の損害賠償を求める限度において、理由があるからこれを認容し、その余は棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 部眞規子
 裁判官 東海林保
 裁判官 瀬戸さやか


(別紙)目録
 雑誌の名称 「週刊ダイヤモンド」2002年2月16日特大号
 発行所 株式会社ダイヤモンド社
 発行日 平成14年2月16日
 対象範囲 表紙及び50頁ないし53頁
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日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/