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【事件名】“出入禁止”名誉毀損事件
【年月日】平成15年7月17日
 岐阜地裁 平成14年(ワ)第508号 慰謝料等請求事件

判決


主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は各原告に対し、一人当たり20万円及びこれに対する平成14年5月22日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
2 被告は原告らに対し、岐阜市ab丁目c番地所在のカラオケステージ「A」の店舗入口に別紙記載の謝罪広告を1週間掲示せよ。
第2 事案の概要
 本件は、被告を代表者とする有限会社高良が経営するカラオケステージ「A」(以下「本件店舗」という。)において、被告が原告らに対して出入禁止にすると告知したことが原告らに対する名誉毀損又は侮辱であると主張して、慰謝料及び謝罪広告の掲示を請求している事件である。
1 当事者間に争いがない事実
 被告を代表者とする有限会社高良は、岐阜市ab丁目c番地所在の本件店舗において、いわゆるカラオケ店を経営しており、原告らは、本件店舗に顧客としてしばしば来店していた。
 平成14年5月11日夜、原告Bは本件店舗に来店し、他の顧客であるCに対してカラオケのデュエットをするよう勧誘したが、歌う前にCが店を離れ、デュエットは実現しなかった。同日午後11時ころ、本件店舗のステージに上がっていた原告Bに対して、被告がステージに上がってきて、原告Bを出入禁止にすると告げた。すると、原告Bは、手にしていたマイクを通じて自分が出入禁止にされたと言った。このとき、本件店舗内には約10名の顧客がおり、原告Bは、本件店舗の利用料金の前払式の証票(以下「チケット」という。)を所持し、未使用分が残っていた。原告Bは被告に対し、同月15日付けの通知書(甲第1号証)を送り、同月28日付けで原告Bの代理人名義で原告らの訴訟代理人が被告に対して通告書(甲第2号証の1)を送付した。
 平成14年5月21日夜、原告Dは本件店舗に来店し、いわゆるカラオケで歌唱してから帰宅した。その後、同日深夜(日付は同月22日)、被告は原告D方に電話をかけ、原告Dを今後本件店舗への出入禁止にすると告げた。同日夜、原告Dが本件店舗に来店したため、被告は原告Dに対して、再度出入禁止にすると告げ、さらに、被告は警察を呼ぶと告げたが、原告Dが構わないと答えたため、被告は警察署に連絡し、警察官が本件店舗に駆けつけた。その後、原告Dの夫であるEも本件店舗に駆けつけた。
2 原告Bの主張
 平成14年5月11日夜、本件店舗に約10名の顧客がいる面前で、被告が原告Bに対して、出入禁止にすると告げた行為は、原告Bに対する名誉毀損又は侮辱である。原告Bは、チケットの未使用分に相当する財産的損害を被ったが、この額は僅少であるので独立の損害としては請求せず、精神的損害を算定する上での事情として主張する。よって、原告Bは、慰謝料20万円及び遅延損害金の支払い並びに本件店舗の店頭に被告が別紙記載の謝罪広告を掲示することを請求する。
3 原告Dの主張
 平成14年5月21日深夜(日付は同月22日)、被告は原告D方に電話をかけ、原告Dに対し、原告Dを今後本件店舗への出入禁止にすると告げた。同日夜、原告Dが本件店舗に来店したため、被告は原告Dに対して、顧客がいる面前で再度出入禁止にすると告げた行為は、原告Dに対する名誉毀損又は侮辱である。原告Dは、チケットの未使用分に相当する財産的損害を被ったが、この額は僅少であるので独立の損害としては請求せず、精神的損害を算定する上での事情として主張する。よって、原告Dは、慰謝料20万円及び遅延損害金の支払い並びに本件店舗の店頭に被告が別紙記載の謝罪広告を掲示することを請求する。
4 被告の主張
(1) 原告Bについて
 平成14年5月11日午後11時過ぎころ、原告Bは、本件店舗において、他の顧客であるCに対してカラオケのデュエットをするよう強要しようとし、店内の雰囲気を害し、営業を妨害したから、本件店舗のステージに上がっていた原告Bに対して、被告がステージに上がって行き、原告Bを出入禁止にすると告げた。被告は、原告Bのみに聞こえるように出入禁止と告げたが、原告Bが自らマイクを通じて、自分が出入禁止にされたことを他の顧客に知らせたのであり、被告の行為は名誉毀損における公然性を満たさない。
(2) 原告Dについて
 平成14年5月21日深夜(日付は同月22日)、被告は原告D方に電話をかけ、原告Dに対し、原告Dを今後本件店舗への出入禁止にすると告げたのは、同日以前に原告Dが来店した際、他の顧客に対し、本件店舗以外の店に行くよう誘っていたからである。
 同月22日夜、原告Dが本件店舗に来店したため、被告は原告Dに対して、顧客がいる面前で出入禁止にすると告げたはずだと主張したときも、原告Dのみに聞こえるように話したのであり、被告の行為は名誉毀損における公然性を満たさない。
5 争点
 被告が原告らを出入禁止にした行為は、原告らに対する不法行為(名誉毀損又は侮辱)に当たるか否か。
第3 判断
1 原告Bについて
(1) 前記第2の1記載のとおり、次の事実は、当事者間に争いがない。
 平成14年5月11日夜、原告Bは本件店舗に来店し、他の顧客であるCに対してカラオケのデュエットをするよう勧誘したが、歌う前にCが店を離れ、デュエットは実現しなかった。同日午後11時ころ、本件店舗のステージに上がっていた原告Bに対して、被告がステージに上がってきて、原告Bを出入禁止にすると告げた。すると、原告Bは、手にしていたマイクを通じて自分が出入禁止にされたと言った。
(2) 名誉毀損とは、公然と事実を摘示して人の外部的名誉を害することであり、侮辱とは、事実の摘示以外の方法で、公然と人の外部的名誉を害することである。
 原告Bは、被告が原告Bに対して出入禁止を告げると、原告B自らカラオケ用のマイクを通じて、自分が出入禁止にされたと言ったのであるから、本件店舗にいた顧客が、原告Bが出入禁止にされたことを認識したのは、原告Bがそのことをマイクを通じて述べたからであると認められる。したがって、公然性は、原告Bの行為によって生じたものであって、被告の行為によったものではないから、名誉毀損又は侮辱における公然性がない。
(3) また、「出入禁止」との表現は、原告Bの外部的名誉を毀損するものとはいえない。理由は次のとおりである。
 いわゆるカラオケ店の営業は場屋営業であり、対価を得て一定の場所や歌唱用設備を利用させる契約であり、顧客が場屋の利用を申し込み、これに対する店主の承諾があると契約が成立し、顧客に場屋を利用させる義務及び顧客が対価を支払う義務が生ずる。前記の脈絡の中で言われた「出入禁止」とは、店主(被告)側が当時利用中の原告Bとの契約を将来に向かって解約するとともに、将来、原告Bから本件店舗を利用することの申込みがあったとしても、被告は承諾しないことを、先行的に宣言したものであると解される。契約自由の原則からみて、カラオケ店を利用するための契約の申込みがあった場合において、店主が特に理由なくこの申込みに対する承諾をしなかったとしても、顧客に対する不法行為となるものではない。契約の申込みを受けた者が承諾をしなければならない義務を負う場合であれば、「出入禁止」は不法行為となる可能性があるものの、いわゆるカラオケ店の利用について、店主側に承諾義務があると解すべき法的根拠は全くない。顧客としては、ある店舗において契約が成立しなければ、代替し得る他の店舗において契約の申込みをすればよいのである。
 原告Bは、チケットを購入しているが、証人Fの証言及び被告本人尋問の結果によれば、このチケットは、予め購入しておき、1曲歌唱するごとに1枚使用するものであり、原告Bは、被告から出入禁止を告げられた時点で歌唱を申し込んでいた曲については歌い終え、更に数曲歌唱して帰ったことが認められる。したがって、原告Bは、未使用分のチケットの対価相当分についてのみ被告に対し返還を請求することができる。しかし、原告Bは、この損害について独立して請求の対象としないことを明らかにしており、あくまで慰謝料を請求することとしているから、原告Bの請求を一部認容する余地はない。
(4) 以上のとおり、被告が原告Bに対してした行為は、原告Bの外部的名誉を毀損するものではない。
2 原告Dについて
(1) 前記第2の1記載のとおり、次の事実は、当事者間に争いがない。
 平成14年5月21日夜、原告Dは本件店舗に来店し、いわゆるカラオケで歌唱してから帰宅した。その後、同日深夜(日付は同月22日)、被告は原告D方に電話をかけ、原告Dを今後本件店舗への出入禁止にすると告げた。同日夜、原告Dが本件店舗に来店したため、被告は原告Dに対して、再度出入禁止にすると告げ、さらに、被告は警察を呼ぶと告げたが、原告Dが構わないと答えたため、被告は警察署に連絡し、警察官が本件店舗に駆けつけた。その後、原告Dの夫であるEも本件店舗に駆けつけた。
(2) 名誉毀損又は侮辱は、公然と人の外部的名誉を害することである。
 被告が原告Dに出入禁止を告げたのは、原告D宅へ電話する方法によったのであり、公然性がない。
 平成14年5月22日夜、原告Dは、出入禁止にされたことを認識していながら本件店舗に来店したことは、当事者間に争いがなく、原告D本人尋問の結果によれば、原告Dは、出入禁止の理由を問い質すために本件店舗に赴いたと述べながら、被告に面会を求めることもなく、歌唱を始めたことが認められる。原告Dの行動は、本件店舗の利用契約の申込みに対して、先行的に承諾しないことを宣言している被告が駆けつけてくることを意図して行われた挑発であり、被告が原告Dに対して出入禁止にしたはずだと主張し、退去を求める行動に出ることを予想して行われたものである。原告Dが本件店舗で歌唱していれば、出入禁止になったことが他の客にも明らかになることは、十分に予想することができたものであり、そのことは原告D自身が容認していたものと認められる。したがって、名誉毀損又は侮辱における公然性がない。
(3) 「出入禁止」との表現は、原告Dの外部的名誉を毀損するものとはいえない。理由は原告Bについて判示したとおりであり、原告Dが購入していたチケットの未使用分についても、原告Bにおけるのと同様に、原告Dの主張がない以上、損害とは認められない。
(4) 以上のとおり、被告が原告Dに対してした行為は、原告Dの外部的名誉を毀損するものではない。
3 よって、原告らの請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第61条、第65条第1項本文を適用して、主文のとおり判決する。

岐阜地方裁判所民事第2部
 裁判官 古閑裕二


別紙 省略
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