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【事件名】便箋等のイラスト類似事件
【年月日】平成15年7月11日
 東京地裁 平成14年(ワ)第12640号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結の日 平成15年3月20日)

判決
原告 株式会社ジー・シー
訴訟代理人弁護士 林浩二
同 秋田一惠
訴訟復代理人弁護士 松田恭子
被告 株式会社学研トイホビー
訴訟代理人弁護士 小杉丈夫
同 奥野泰久
同 西村光治
被告 A
訴訟代理人弁護士 長浜隆


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 原告の請求
1 被告株式会社学研トイホビーは、原告に対し、2817万円及びこれに対する平成14年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告Aは、原告に対し、197万4000円及びこれに対する平成14年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 訴えの要旨
(1) 著作権侵害を理由とする請求
 原告は、別紙原告著作物目録記載の各絵柄を付した便箋及び封筒等を製造・販売している(以下、同目録記載の絵柄を、その番号及び枝番号に従って「原告著作物(1)」、「原告著作物(5)の1」などといい、これらを総称して「原告著作物」ということがある。さらに、原告著作物(1)を付した原告の商品を「原告商品(1)」などといい、これらの商品を総称して「原告商品」ということがある。)。
 他方、被告株式会社学研トイホビー(以下「被告学研トイホビー」という。)は、別紙被告著作物目録記載の各絵柄を付した便箋及び封筒等を製造・販売している(以下、同目録記載の絵柄を、その番号及び枝番号に従って「被告著作物(1)の1」、「被告著作物(2)の4」などといい、これらを総称して「被告著作物」ということがある。さらに、被告著作物(1)を付した被告の商品を「被告商品(1)」などといい、これらの商品を総称して「被告商品」ということがある。)。被告Aは、被告学研トイホビーの委託を受けて、同目録(1)〜(3)、(7)の1、2、(8)の1、2記載の各絵柄を作成したものである。
 原告は、被告学研トイホビーが被告商品を製造・販売する行為は、原告が上記各絵柄について有する著作権(複製権)を侵害する行為に当たると主張して、同被告に対して、著作権法114条1項に基づく損害賠償を請求している(第1、1)。
 また、原告は、被告Aが別紙被告著作物目録記載(1)〜(3)、(7)の1、2、(8)の1、2記載の各絵柄を作成した行為は、それぞれ、原告が別紙原告著作物目録記載の(1)〜(3)、(7)の1、2、(8)記載の各絵柄について有する著作権(複製権)を侵害する行為に当たると主張して、同被告に対して、著作権法114条1項に基づく損害賠償を請求している(第1、2)。
(2) 不正競争行為を理由とする請求
 原告は、被告著作物(1)、(2)、(7)の1、2を付した各被告商品は、それぞれ、原告著作物(1)、(2)、(7)の1、2を付した原告の各商品の形態を模倣したものであるとし、不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為の成立を主張し、被告学研トイホビーに対し、同法5条1項に基づく損害賠償を請求している(第1、1)。
 また、原告は、被告A及び訴外Bは、原告会社に在職中、デザイナーとして原告著作物の製作に関与し、製作過程を知ると共に、原告著作物及びこれを付した商品がいわゆる売れ筋のデザインであることを知っていたものであるところ、これらは原告の営業秘密(不正競争防止法2条4項)に該当するものであって、被告Aらは、被告著作物を作成するに際し、上記原告の営業秘密を開示使用したものであり、被告学研トイホビーは、開示された営業秘密を不正の利益を得る目的で使用したものであるとし、不正競争防止法2条1項7号所定の不正競争行為の成立を主張して、被告学研トイホビー(第1、1)及び被告A(第1、2)に対し、それぞれ同法5条1項に基づく損害賠償を請求している。
2 争いのない事実
(1) 原告は、文房具等の企画・製造・販売及び絵本出版等を業とする株式会社であり、社員として雇用したデザイナーが作成した絵柄を付した文房具等を製造し、百貨店や文具・書籍店に販売している。
(2) 被告Aは、平成5年3月から平成11年9月まで原告会社に社員として在職したデザイナーであり、原告会社在職当時の平成7年3月ころに原告著作物(1)、(2)の作成に、平成9年4月ころに同(3)の作成に、同年6月ころに同(8)の作成に、さらに、平成11年2月ころに同(7)の1、2の作成にそれぞれ関与した(別紙原告著作物一覧表参照)。
 また、訴外Bは、被告Aと同様、原告会社在職当時の平成11年3月ころに原告著作物(4)の作成に関与し、現在も原告会社の社員である訴外Cは、平成11年2月ころに原告著作物(6)の作成に、同年3月ころに同(5)の1の作成にそれぞれ関与した。
(3) 原告は、被告A、訴外B及び訴外C作成に係る別紙原告著作物目録記載の各絵柄を付した便箋及び封筒等(原告商品)を、それぞれ、別紙原告著作物及び商品一覧表「商品の発売開始時」欄記載のとおりの日時ころから、製造・販売している(なお、原告著作物(1)、(2)を付した各商品の発売開始時期については、後記のとおり争いがあり、また、原告著作物(5)の2、3については、作成関与者、作成時期及び商品の発売開始時に関する明確な主張がなく、証拠上も不明である。)。
(4) 被告Aは、平成11年9月に原告会社を退職した後、被告学研トイホビーの委託を受けて、被告著作物(1)の1、2、同(2)の1ないし4、同(3)、同(7)の1、2、同(8)の1、2の各絵柄を作成した。
(5) 被告学研トイホビーは、文具の販売等を業とする株式会社であるが、遅くとも平成14年4月ころから、別紙被告著作物目録記載の各絵柄を付した便箋及び封筒等(被告商品)を製造・販売している。
3 争点
(1) 原告主張に係る著作権侵害の成否(争点1)。
ア 原告著作物の著作物性(争点1ア)。
イ 原告著作物の著作権の帰属(争点1イ)。
ウ 原告著作物と被告著作物の類否(争点1ウ)。
(2) 原告主張に係る不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為の成否(争点2)。
(3) 原告主張に係る不正競争防止法2条1項7号所定の不正競争行為の成否(争点3)。
(4) 原告の損害額(争点4)。
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1ア(原告著作物の著作物性)について
(原告の主張)
ア 原告は、他社商品との差別化を図るため、美的観点から洗練されたデザインを創り出す努力をしており、美術大学の卒業生の中から原告のテイストにあったデザインを創る能力のある者を社員として採用し、社内で訓練を施した上で、商品に付する絵柄を作成させる。絵柄作成は、専ら美の表現の追求という観点からなされ、美術的に完成されたものが創作されており、各絵柄においては、対象となるものの形状・色彩に工夫を凝らし、可愛らしさ、面白さ、キュートさ、涼感、暖かみ、親しみ等の表情が表現され、見る者の感性に呼びかける物語性を持たせている。
 このようにして作成された原告著作物は、いずれも独立して美的鑑賞の対象となり得るものであり、著作権法10条1項4号の「絵画」として、同法上の著作物に該当する。
 ちなみに、原告著作物は、ポストカード、便箋、封筒、カレンダー等の絵柄として用いられるものであるが、かかる著作物がそれぞれ独立した絵画として扱われるべきことは、昭和41年4月20日付け著作権制度審議会の文部大臣に対する答申の付属書として提出された答申説明書に、「ポスター、絵はがき、カレンダー等として作成され、あるいはこれらのグラフィックな作品に利用された絵画、写真等については、形式的には意匠法との重複の問題はあるが、その性質上、図案等におけるような問題の生ずる余地はないと考えられるので、単純に著作物あるいは著作物の複製として取り扱うこととした」と記載されていることからも、明らかというべきである。
イ ところで、裁判実務上、いわゆる純粋美術と応用美術を区別し、後者については、独立して美的鑑賞の対象となり得るもので、客観的に見て純粋美術としての性質を有すると評価できるものに限って、美術の著作物として著作権上の保護を与えるとの考え方が存在する(東京高判平成3年12月7日・判例時報1418号120頁〔木目化粧版事件〕等参照)。
 しかしながら、純粋美術か応用美術か(すなわち、実用目的か否か。)で区別する形式的な基準を採ると、芸術的訓練を経て、芸術を専門とする人が描いた絵柄が、会社の商品の絵柄として描いたという理由だけで、著作物性を認められない場合がある一方で、芸術的素養のない素人が一枚の紙に描いたデザインに即座に著作物性が認められるという不都合な結果になりかねない。
 原告は、上記のような考え方は、知的財産権を文化的資産と考える現代社会に適合しなくなっていると考えるが、仮に純粋美術と応用美術を区別する立場に立ったとしても、原告著作物は、過去の裁判例(東京地判平成12年9月28日・判例時報1731号111頁〔ロゴ・タイプフェイス事件〕)において応用美術にあたるとされた、実用に供され、あるいは産業上利用されることが予定されている図案やひな形、単なる模様と異なり、独立した絵柄そのものである。したがって、原告著作物は、そもそも、裁判所がいう応用美術の範疇に入らないと考えられるし、仮に、実用目的であることを理由に応用美術であると考えたとしても、前述のとおり、それ自体が独立した鑑賞の対象となり得るように創作され、客観的にも美的表現であり、鑑賞の対象となるものであるから、著作権法上の著作物性を備えた応用美術というべきである。
(被告らの主張)
ア 原告は、原告著作物が、他社製品と区別される特徴のある色合いと図柄を持ち、純粋美術の観点から美的創作性を認め得るものであるから、著作権法上保護される著作物(同法2条1項1号)に当たると主張する。
 しかし、かかる原告の主張については、これを争う。原告著作物の多くは、封筒及び便箋に描かれたデザインである。このようなデザインは、到底純粋美術と同視できるものではないから、著作権は成立しない。
イ 仮に著作物性が肯定されるとしても、例えば、原告著作物(1)及び(2)において、著作権は、金魚と水草(緑色の点状の図柄)の具体的配置や、表現の特徴的部分についてのみ成立するものであって、個別の金魚のデザイン一般につき成立するものではない。なぜなら、これら著作物の個別の構成要素である金魚、緑色の点状の水草及び桶については、同種・類似のデザインが無数に存在するのであり、これらについても原告に著作権が成立すると解するのは不当だからである。
 そもそも、原告著作物に描かれている金魚、スイカ、蓮の葉、花火、犬及び猫等は、グリーティングカード、封筒及び便箋等に描かれるデザインとして極めてありふれたものであり、また、表現されたものの背後にあるアイデア、画風、タッチなどは著作権の対象外である。
 したがって、原告が著作権侵害として権利行使できる範囲は、ごく限られたものである。
2 争点1イ(原告著作物の著作権の帰属)について
(原告の主張)
 原告著作物は、いずれも、@原告の発意に基づき、A原告の業務に従事する者が職務上作成し、B原告の著作名義で公表されるものであり、C就業規則その他の別段の定めもないので、著作権法15条1項の要件をすべて充たしており、いわゆる職務著作として、その著作権はすべて原告に帰属する。
 そのことは、商品に社員デザイナーの名前を表示した場合でも、著作権自体は原告会社に帰属することを確認する旨の被告A(甲17)、訴外B(甲18)及び訴外C(甲23)各作成名義の確認書に照らし、明らかである。また、原告会社に8年以上在職する社員デザイナーらも、いずれも、著作権が原告会社に帰属することを明確に認識し、それを当然の前提にしている(甲22の1〜3)。
 仮に、原告著作物の著作権が職務著作の規定により原告に帰属していないとしても、上記のとおり、原告著作物の作成に関与したデザイナーはいずれも原告著作物の著作権が原告に帰属する旨を原告との間で約諾しているのであるから、著作者たるデザイナーから原告に譲渡されている。
(被告らの主張)
 仮に、原告著作物が著作権法上の保護を受ける著作物であったとしても、それが職務著作(著作権法15条1項)の要件を充たし、その著作権が原告に帰属する旨の原告の主張については、これを争う。
3 争点1ウ(原告著作物と被告著作物の類否)について
(1) 原告著作物(1)と被告著作物(1)の1及び2の類否
(原告の主張)
 原告著作物(1)の主たるデザインのテーマは金魚であるが、金魚には様々な種類と形があるところ、原告は小さな赤色のものを選び、ふっくらとした楕円の胴体に左右のひれと尾びれを描くという単純化を施し、金魚のキュートさ、可愛さ、面白さを表現している。被告著作物(1)の1及び2の金魚においても、これらの点は同一である。また、原告著作物(1)においては、数匹の金魚が池の中で泳ぐ様子を、淡い緑色の水面に浮く水草との配置で描いているところ、被告著作物(1)の1及び2においても、その点は同様である。さらに、左下に3匹(原告著作物(1)及び被告著作物(1)の1)ないし2匹(被告著作物(1)の2)の金魚と水草を配し、それ以外の空間を広くした配置も類似している。
 なお、原告著作物(1)には、日本画の画材である岩絵具が用いられているところ、この絵具を用いると、にかわで縁をとるので絵の輪郭がはっきりし、かつ、奥行きのある色彩と立体感を出すことができ、濃淡も独特の風合いが出る。被告著作物(1)の1及び2も同様の風合いを醸し出していることから、岩絵具もしくはその使用を模していることは明らかであり、極めて特徴的な類似性を示している。
 被告は、原告著作物(1)に創作性のないことを立証する趣旨で、従前から存在する金魚のデザイン例(乙3の1〜10)を書証として提出するが、これらの証拠は、図らずも、同じ金魚でも実に多様なデザインがあり、その多様性によって創作性が付加されることを示している。それと同時に、一見して明らかなとおり、これらのデザイン例は、原告著作物とも被告著作物とも類似しておらず、その一方で、原告著作物の特徴をほぼそのまま備えたデザイン例は、被告著作物のほかにない。
 以上によれば、被告著作物(1)の1及び2は、原告著作物(1)に類似するというべきである。
(被告らの主張)
 原告著作物(1)と被告著作物(1)の1及び2を比較すると、@金魚及び水草を配置した全体の構図が全く異なる、A原告著作物(1)における金魚は、被告著作物(1)の1及び2における金魚よりも一層単純化・デフォルメされている、B被告著作物(1)の1及び2における金魚には、目玉が描かれていない、C原告著作物(1)における水草が丸い緑の点状のデザインとして描かれている一方で、被告著作物(1)の1及び2における水草は、切れ込みの入った蓮の葉をデザインしたものである、以上のような相違点がある。
 上記によれば、被告著作物(1)の1及び2は、原告著作物(1)とは明らかに別個の表現であって、これを複製したものということはできない。
(2) 原告著作物(2)と被告著作物(2)の1ないし4の類否
(原告の主張)
 原告著作物(2)と被告著作物(2)の1ないし4は、小さな赤色の金魚を選んだ上、ふっくらとした楕円の胴体に左右のひれと尾びれを描くという単純化を施し、金魚のキュートさ、可愛さ、面白さを表現していること、数匹の金魚が泳ぐ様を、淡い緑色の水面に浮く水草との配置で描いていること、岩絵具を使用して独特の風合いを出していることにおいて共通している(これらは、被告著作物(1)と被告著作物(1)の1及び2について前述したところと同様である。)。
 また、原告著作物(2)の特徴は、丸い桶の中に、丸くデフォルメされた胴体を持つ金魚を配置し、円形と円形を重ねて、それを上から見る視点で表現し、より可愛く見せる視覚的効果を狙ったことであるが、被告著作物(2)の1ないし4は、いずれもこの点を剽窃している。
 以上によれば、被告著作物(2)の1ないし4は、いずれも原告著作物(2)に類似するというべきである。
(被告らの主張)
 原告著作物(2)と被告著作物(2)の1ないし4を比較すると、@金魚及び水草を配置した全体の構図が全く異なる、A原告著作物(2)における金魚は、被告著作物(2)の1ないし4におけるそれよりも一層単純化・デフォルメされている、B被告著作物(2)の1ないし4における金魚には、目玉が描かれていない、C原告著作物(2)における水草が丸い緑の点状のデザインとして描かれている一方で、被告著作物(2)の1ないし4における水草は、切れ込みの入った蓮の葉をデザインしたものである、以上のような相違点がある(これらは、原告著作物(1)と被告著作物(1)の1及び2について前述した相違点と全く同様である。)。
 したがって、被告著作物(2)の1ないし4は、原告著作物(2)と別個の表現であって、これを複製したものということはできない。
(3) 原告著作物(3)と被告著作物(3)の類否
(原告の主張)
 原告著作物(3)においては、岩絵具を用い、実も皮も色を淡くした上で、切り分けられたスイカとともに、食べ終わったスイカ及び種を並べて描き、夏の楽しさや過ぎ去った夏の日の楽しい思い出を表現している。被告著作物(3)においても、これらの点は全く同一であるから、被告著作物(3)は原告著作物(3)に類似するというべきである。
 なお、被告Aは、原告著作物(3)におけるスイカ(以下「原告スイカ」という。)を作成するに際しては、訴外D創作に係る既存デザインのスイカ(以下「Dスイカ」という。)を参考にしたものであり、したがって、原告スイカについて独立した著作権が成立するものではない旨主張するが、原告スイカとDスイカについては、@原告スイカが、岩絵具の使用による淡い色合いを基調にしているのに対し、Dスイカは、夏を意識した強い赤と緑の対照を用いていること、A原告スイカが、切り分けられたスイカから種までを並べているのに対し、Dスイカは、切り分けられる前のスイカをも並べていること、B原告スイカにおけるコンセプトが、過ぎゆく夏に込められたある種の悲しみやヒューモアといった静的な世界であるのに対し、Dスイカにおけるコンセプトは、乙4の1及び2(D「日本の暮らしと小物たち」ブロンズ新社)の本文から分かるとおり、夏の太陽礼賛であり、元気溌剌とした動的な世界であること、以上のような相違点がある。
 したがって、被告の上記主張は採用するに値しない。
(被告らの主張)
 被告Aは、原告スイカを作成するに際し、既に出版されていた訴外D創作に係る前記Dスイカを参考にしたものであるから、そもそも、原告スイカについて独立した著作権が成立するものではない。
 仮に著作権が成立するとしても、原告スイカと被告著作物(3)におけるスイカ(以下「被告スイカ」という。)には、@原告スイカが縦に配列されているのに対し、被告スイカは横に配列されていること、A被告スイカにおいては、スイカの皮の白い部分がはっきり描かれていること、B被告スイカを付した被告商品(封筒)においては、その裏側に、切り分ける前のスイカ全体の絵柄も描かれていること、C原告スイカにおいては、食べ終わったスイカの皮と種が近接して配置されているのに対し、被告スイカにおいては、皮と種が離れて配置されていること、以上のような相違点がある。
 したがって、被告著作物(3)は、原告著作物(3)と明らかに別個の表現であって、これを複製したものということはできない。
(4) 原告著作物(4)と被告著作物(4)の1ないし4の類否
(原告の主張)
 原告著作物(4)は、何種類かの色の金魚及び水草で構成されているが、赤い金魚には、白い斑点を持ったものと単色のものとの2種類があり、いずれも、左右のひれ、尾びれとも切り込み状の形態で描かれている。赤い金魚においては、目が黒い点として描かれ、青い金魚においては、突き出た目が描かれている。水面は淡い水色で、切り込みのある大きめの水草が浮いている様や、金魚が泳いだときにできる円形の小さな波が表現されている。とりわけ、上記水面と水草については、岩絵具の使用により独特の風合いが醸し出されている。
 被告著作物(4)の1ないし4は、上記創作性のある表現をいずれも模倣しており、原告著作物(4)に類似するというべきである。
(被告らの主張)
 訴外Bは、原告著作物(4)を作成する際、西洋(特にフランス)のバタくさい池のイメージを出すため、金魚の目に白目を描き、赤い金魚も青い(黒い)金魚も、すべて真上から観察した形態を前提に、全体にコロコロした感じで描いた。水の波紋らしき紋様は、それが水面であるという説明的な役割を持たせるために、便箋の全面に薄く書き加えたにすぎない。
 これに対し、被告著作物(4)の1ないし4を作成する際には、夏の朝と夕方の清涼感を出すために、金魚の存在が強くなりすぎないように、個性や感情を表現しやすい白目を描かず(ただし、青い(黒い)金魚については、目玉と体を区別するため白目を描かざるを得なかった。)、全体の構図も、やや側面からの構図にしてあり、そこに横向きの金魚が配置されている。さらに、製品企画の当初から、水の波紋上にエポキシ加工(光の反射により華やかな印象を与える特殊な樹脂加工であるが、その反面、表面に文字を筆記することはできなくなる。)を施すという前提があったため、レターセットという商品の機能上、かかる波紋を中心に配置することはせず、それにあわせて金魚等の配置も決められている。
 以上から分かるとおり、被告著作物(4)の1ないし4は、作成のコンセプトも具体的な表現方法も原告著作物(4)と異なっており、いずれも原告著作物(4)と類似するものではない。
(5) 原告著作物(5)の1及び3と被告著作物(5)の類否
(原告の主張)
ア 原告著作物(5)の1は、夜空に美しい花火が上がった様子を描いた絵柄であり、花火の美しさと一瞬のきらめきを太い線と細い線で書き分け、飛び散る火の粉を何色かの点ないし星の形で書き分けた独創性のあるデザインである。それも、ただ単に美しく描いたのではなく、花火のコミカルな面も表現し、夏の暑さの中でウキウキした楽しさを訴えかける絵柄になっている。そして、黒地に描いた上記絵柄を、透明なビニール表紙を通じて浮かび上がらせ、表紙に印刷された「花火夕涼み」という文字と重なるように工夫されており、見る者をして、花火を見上げているときの情景を思い浮かばせ、暑さの中に涼しさを感じさせる文字と柄の組み合わせになっている。
 被告著作物(5)は、原告著作物(5)の1と同様の色使いや点と線によって飛び散る火の粉を描いた花火の絵柄を、上記「花火夕涼み」とほぼ同一と言ってよい「夕涼花火」という文字を印刷した透明なビニール表紙に重ねて、浮かび上がるように表現したものであり、@飛び散る火の粉と残光を淡い色で描いて花火を表現したこと、A「花火」や「夕涼み」という文字自体をデザインに使用したこと、B透明のビニール表紙を用いることにより、これらの文字と花火柄と一体のデザインとして表現したことの独創的な諸点において、原告著作物(5)の1と共通している。
 したがって、被告著作物(5)は、原告著作物(5)の1に類似するというべきである。
イ 原告著作物(5)の3は、背景が淡い色であるほかは、原告著作物(5)の1とほぼ同様の絵柄である。
 したがって、上記アで原告著作物(5)の1について述べたところがそのまま当てはまり、被告著作物(5)は、原告著作物(5)の3に類似するというべきである。
(被告らの主張)
ア 原告著作物(5)の1は、黒地の背景に、花火の残光を太い線と細い線で、飛び散る火の粉を何色かの点や星の形で、それぞれ書き分けた絵柄である。
 これに対し、被告著作物(5)は、和風の柔らかいタッチを基調に、徐々に暮れていく夕方の空を表すため、グラデーションの手法を用い、空の色を水色から紫色(すなわち、薄い色から濃い色)に変えて描いている。また、前項で被告著作物(4)について述べたのと同様に、製品企画の当初から、花火にエポキシ加工を施すという前提があったため、レターセットという商品の機能上、花火を中心に配置しておらず、その結果、原告著作物とは、全体の構図が異なっている。
 以上によれば、被告著作物(5)が原告著作物(5)の1に類似するということはできない(なお、原告は、レターセットにおける透明なビニール表紙に印刷された文字まで含めて著作物の類否を論じているが、原告がどの部分を著作物として特定して論じているのか必ずしも明らかでないし、商品の特定としても問題のあることを指摘しておく。)。
イ 原告著作物(5)の3は、背景が淡い色であるほかは、原告著作物(5)の1とほぼ同様の絵柄である。
 したがって、上記アで述べたのと同様の理由により、被告著作物(5)は原告著作物(5)の3に類似しない。
(6) 原告著作物(5)の2及び(6)と被告著作物(6)の類否
(原告の主張)
ア 原告著作物(5)の2は、淡い色を背景に、花火の残光を太い線と細い線で、飛び散る火の粉を何色かの点ないし星の形で、それぞれ書き分けた独創性のある絵柄である(なお、原告著作物(5)の1及び3と異なり、「花火夕涼み」の文字が印刷された透明のビニール表紙は付されていない。)。
 そして、被告著作物(6)は、原告著作物(5)の2と同様の色使いや点と線の使い分けにより、花火の残光と飛び散る火の粉を描いた絵柄であるから、原告著作物(5)の2に類似するというべきである。
イ 原告著作物(6)は、上記原告著作物(5)の2と同様、淡い色を背景に、花火の残光を太い線と細い線で書き分け、飛び散る火の粉を何色かの点ないし星の形で書き分けた独創性のある絵柄である。
 したがって、上記アで述べたのと同様の理由により、被告著作物(6)は、原告著作物(6)に類似するというべきである。
(被告らの主張)
ア 原告著作物(5)の2は、淡い単色を背景に、花火の残光を太い線と細い線で、飛び散る火の粉を何色かの点ないし星の形で、それぞれ書き分けた絵柄であるところ、被告著作物(6)は、背景の空の色を何色かに変えて描いている上に、中央部に花火を配置しておらず、その結果、原告著作物(5)の2とは全体の構図が異なっている。
 したがって、被告著作物(6)は、原告著作物(5)の2に類似しない。
イ 原告著作物(6)は、原告著作物(5)の2と同様、淡い単色を背景に、花火の残光を太い線と細い線で、飛び散る火の粉を何色かの点ないし星の形で、それぞれ書き分けた絵柄であるから、原告著作物(5)の2と被告著作物(6)の類否につき上記アで述べたところが、そのままあてはまる。
 したがって、被告著作物(6)は、原告著作物(6)に類似しない。
(7) 原告著作物(7)の1と被告著作物(7)の1の類否
(原告の主張)
 原告著作物(7)の1においては、左向きの犬とリボンをかけた鏡餅が描かれているところ、犬については、顔の形をやや四角めの楕円とし、鼻を黒い丸で、目を白丸とその中の黒点でそれぞれ表現し、顔の横に濃い色で丸を描くことにより、これを耳と認識させる表現方法を採っている。胴体は、やや太めのコロッとしたした形であり、脚は短く、足の先は前に出た形に、また、尻尾は上にピョンと突き出た形に描かれている。全体に、色は単色であるが、暖かみを出すため、濃淡を付けて縁取りをぼんやりとした感じに仕上げてあり、このような犬の左横に、リボンをかけた鏡餅を配置している。
 被告著作物(7)の1は、これらの特徴をすべて備えた犬及びリボンをかけた箱からなる絵柄であり、原告著作物(7)の1に類似することは明らかというべきである。
(被告らの主張)
 原告著作物(7)の1は、商品が子供っぽくなりすぎないために、比較的実物に近い写実的なデザインに基づいて作成されており、他方、被告著作物(7)の1及び2は、ストーリー性を持たせるために、写実的ではなく漫画的な作風にして、犬の動作や表情をより人間に近いものに表現している。
 上記のようなコンセプトの違いから、被告著作物(7)の1における犬には、原告著作物(7)の1における犬との比較において、@色彩は全体に黄土色であり、色調変化を特に強調してはいないこと、A足を2本の直線で描き、腹部も直線に近いずん胴であるなど、漫画風の単純な表現にしていること、B漫画的な口を描くことで、愛嬌のある表情を表現していること、C漫画表現特有の動作を表す二重線を書き添えて、鼻をクンクン動かす様子を表現していること、以上の相違点が存在する。
 したがって、被告著作物(7)の1が原告著作物(7)の1に類似するということはできない。
(8) 原告著作物(7)の2と被告著作物(7)の2の類否
(原告の主張)
 原告著作物(7)の2においては、正面を向いた犬とリボンをかけた箱が描かれているところ、鼻を黒い丸で、目を白丸及びその中の黒点で、濃い色の丸で耳をそれぞれ表現している点は、原告著作物(7)の1について前述したところと同様である。また、この犬はリボンの端をくわえており、その尻尾は体の横に出ている。
 被告著作物(7)の2は、これらの特徴をすべて備えた犬を描いた絵柄であり、原告著作物(7)の2に類似するというべきである。
(被告らの主張)
 被告著作物(7)の2における犬には、原告著作物(7)の2における犬との比較において、@色彩は全体に黄土色であり、色調変化を特に強調してはいないこと、A漫画的な口を描くことで、愛嬌のある表情を表現していること、B漫画表現特有の動作を表す二重線を書き添えて、尻尾を振る様子を表現していること、以上の相違点が存在する。
 したがって、被告著作物(7)の2が原告著作物(7)の2に類似するということはできない。
(9) 原告著作物(8)と被告著作物(8)の1及び2の類否
(原告の主張)
 原告著作物(8)においては、耳、顔の中央部、足先及び尻尾が黒く、その他の部分が白っぽい灰色のシャム猫が描かれている。その耳は三角にとがっており、顔からは3本のひげが飛び出していて、他との違いを主張しながら自己を見つめる静的・内的な雰囲気が表現されている。
 被告著作物(8)の1及び2においては、上記の特徴をすべて備えたシャム猫が描かれており、これらは、いずれも原告著作物(8)に類似する。
(被告らの主張)
 原告著作物(8)は、実物のシャム猫に近い写実的なデザインに基づいて作成されており、他方、被告著作物(8)の1及び2は、ストーリー性を持たせるために、写実的ではなく漫画的な作風にして、猫の動作や表情をより人間に近いものに表現している。
 上記のようなコンセプトの違いから、被告著作物(8)の1及び2の猫には、原告著作物(8)の1の猫との比較において、@毛足の短いシャム猫を表現するために、通常のコピー用紙にアクリル絵の具とマーカーを用いて描いており、これにより、比較的平坦で、漫画のような簡潔な表現になっていること、A鏡の前に座っている猫と鏡に映っている猫が描かれているところ、前者は明らかに怒ったような表情をしている一方、後者は笑ったような表情をしているなど、顔の表情を漫画風にデフォルメしていること、以上の相違点が存在する。
 したがって、被告著作物(8)の1及び2は、いずれも原告著作物(8)に類似するものではない。
4 争点2(不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為の成否)について
(原告の主張)
 被告著作物を付した被告商品は、いずれも、対応する原告著作物を付した原告商品とその形態が類似しており、その類似性は、第3項で著作物の類否について述べたところと同様である。原告は、上記原告商品のうち、その販売開始日が本訴提起時から数えて3年以内である(別紙原告著作物及び商品一覧表参照)原告商品(1)、(2)、(7)の1及び2につき、不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為の成立を主張する。すなわち、被告商品(1)の1及び2はいずれも原告商品(1)の、被告商品(2)の1ないし4はいずれも原告商品(2)の、被告商品(7)の1は原告商品(7)の1の、被告商品(7)の2は原告商品(7)の2の、それぞれ形態を模倣したものである。
 したがって、被告学研トイホビーにつき、不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為が成立する。
(被告らの主張)
ア 被告学研トイホビー及び被告Aの主張
 原告の上記主張は、争う。
イ 被告学研トイホビーの主張
 原告は、原告商品(1)及び(2)を遅くとも平成7年春ころから販売しているから、これらの商品については、不正競争防止法2条1項3号を理由とする請求はできない。
5 争点3(不正競争防止法2条1項7号所定の不正競争行為の成否)について
(原告の主張)
 被告A及び訴外Bは、原告会社に在職中、原告著作物及び原告商品の製作に社員デザイナーとして関与し、その製作過程を知っており、かつ、これらの著作物及び商品がいわゆる売れ筋のデザインないし商品であることを知っていた。すなわち、社員は、会社の売上集計や、社員の日報、デザイナー会議において、その時々の売れ筋デザインが何なのかを知り得るし、特にデザイナーであれば、自分に追加デザイン製作の指示があるから、どのデザインの売れ行きが好調なのかを認識できる。このようにして得られた情報はすべて社外秘に属するもので、競業他社が多い業界では厳重に管理されているから、原告の営業秘密に属する事項である。
 被告A及び訴外Bは、被告学研トイホビーの委託を受けて被告商品のデザインを作成するに際し、この営業秘密を開示使用し、被告学研トイホビーは不正の利益を得る目的でこれを使用した。
 したがって、被告らにつき、不正競争防止法2条1項7号所定の不正競争行為が成立する。
(被告らの主張)
ア 被告学研トイホビー及び被告Aの主張
 原告の上記主張は、争う。
イ 被告学研トイホビーの主張
 いわゆる売れ筋のデザインは、同業者もしくは調査会社の市場調査によって容易に調査できる。また、商品のデザインの製作過程は、製品の企画製作過程の一環であり、営業秘密に属するものではない。原告は、これらを不正競争防止法上の「営業秘密」であると主張するが、主張自体失当である。
 また、原告は、被告学研トイホビーに対し、不正競争防止法2条1項7号に基づき本訴請求をしているが、なぜ同項8号ではなく、7号に基づいて請求するのか、疑問である。
ウ 被告Aの主張
 被告Aが原告会社に在職した当時、原告会社製作に係る商品の売上ランキング、営業担当の売上報告書等の情報が文書で回覧されていたが、特に秘密扱いにはされておらず、秘密として管理されてはいなかった。また、商品企画・製作段階においては、割り当てられた商品アイテム数に応じて、社員デザイナーがそれぞれデザインを製作しており、その過程で特に営業秘密として保護されるようなものは存在しない。
 したがって、原告の主張には理由がない。
6 争点4(原告の損害額)について
(原告の主張)
ア 被告学研トイホビーの行為により生じた損害
 被告学研トイホビーは、被告商品をそれぞれ少なくとも3万点販売しているところ、これらの商品の原価から考えて、上代価格の少なくとも30パーセントが同被告の利益である。したがって、同被告が前記著作権侵害行為及び不正競争行為により得た利益は、下記のとおり、合計2817万円となる。
 被告商品(符号)/上代価格/販売数量/同被告が得た利益
 (1)の1及び2/250(円)/3万点/225万(円)
 (2)の1及び2/200/3万点/180万
 (2)の3及び4/400/3万点/360万
 (3)/400/3万点/360万
 (4)の1及び2/250/3万点/225万
 (4)の3及び4/200/3万点/180万
 (5)及び(6)/400/3万点/360万
 (7)の1及び2/580/3万点/522万
 (8)の1/200/3万点/180万
 (8)の2/250/3万点/225万
  合計2817万(円)
 原告は、被告学研トイホビーに対し、著作権法114条1項及び不正競争防止法5条1項に基づき、上記2817万円を損害としてその賠償を請求するとともに、これに対する不法行為の後の日である平成14年4月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
イ 被告Aの行為により生じた損害
 被告Aは、被告学研トイホビーからの委託を受けて、フリーデザイナーとして、被告著作物(1)の1、2、同(2)の1ないし4、同(3)、同(7)の1及び2並びに同(8)の1、2の各絵柄を作成したところ、このような場合のデザインロイヤリティーは、1つの商品につき上代売上の3.5パーセントを下らない。
 したがって、被告Aが前記著作権侵害行為及び不正競争行為により得た利益は、下記のとおり、合計197万4000円となる。
 被告商品(符号)/上代売上/同被告が得た利益
 (1)/750万(円)/26万2500(円)
 (2)/600万/21万
 (3)/1200万/42万
 (7)/1740万/60万9000
 (8)の1/600万/21万
 (8)の2/750万/26万2500
  合計197万4000(円)
 原告は、被告Aに対し、著作権法114条1項及び不正競争防止法5条1項に基づき、上記197万円4000円を損害としてその賠償を請求するとともに、これに対する不法行為の後の日である平成14年4月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告らの主張)
 損害額に関する原告の上記主張は、争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点1ア(原告著作物の著作物性)について
 著作権法2条の規定や意匠法等の工業所有権制度の存在に照らせば、実用に供され、あるいは産業上利用されることが予定されている図案やひな形など、いわゆる応用美術の領域に属するものについては、著作権法上の著作物として同法による保護の対象となるものの範囲が問題となる。しかし、ポスター、絵はがき、カレンダー等の商品の分野においては、当該商品の需要者は、専らこれらの商品に付された絵柄等を美術的な感情を満足させるために鑑賞することを目的として商品を購入し、使用するものであり、このような点から、既存の著名な美術作品である絵画や写真の複製物を用いて商品を製作することが、従来から広く一般的に行われている。このような点に照らせば、その複製物をこれらの分野の商品の絵柄等として用いることを予め想定して作成される作品であっても、当該作品が独立して美的鑑賞の対象となり得る程度の美的創作性を備えている場合には、著作権法上の著作物として同法による保護の対象となり得るものと解するのが相当である。
 本件において、原告著作物は、いずれも、便箋、封筒、カレンダー等の絵柄として用いることを予め想定して作成されたものであるが、これらは、いずれも原告会社のデザイナーによって通常の絵画と同様の方法によって作成されたものであり、その具体的な表現内容を見ても、@水面に模した淡い緑色の背景に、デフォルメして形を単純化した赤い金魚と、水草に模した緑色の円を配置したもの(原告著作物(1)、(2))、A切ったスイカ、食べかけのスイカ及び食べ終わった後の皮と種を一列に配したもの(同(3))、Bいずれもやや写実的に描いた、蓮の葉や蓮の花、蓮の葉の上の蛙及び赤色ないし黒色の金魚を配置したもの(同(4))、C黒地(同(5)の1)あるいは白地に近い淡い黄色(同(5)の2、3、(6))の背景に、上から下に垂れ下がるように緩やかに湾曲した複数の曲線と、その先に散りばめた円形ないし星形の点を配置して、夏の夜空に花火が広がる様子を描いもの、D鏡餅の右側に、愛嬌のある丸みを帯びた形にデフォルメし、エプロンをかけさせた犬を左向きに配置し(同(7)の1)、あるいは、リボンをかけた贈り物の箱の右側に、上記同様のデフォルメを施し、箱を結ぶリボンの端をくわえた犬を正面向きに配置したもの(同(7)の2)、E顔、耳、足先及び尻尾が黒く、その他は灰色系の色をした、顔を正面に向けて座るシャム猫を描いた(同(8))ものであって、いずれも、素材の選択・配置、配色、具体的な表現方法等において、独立して美的鑑賞の対象となり得る美的創作性を備えたものと認められる。
 上記によれば、原告著作物は、いずれも、著作権法上の著作物(同法2条1項1号)として、同法による保護の対象になるものというべきである。
2 争点1イ(原告著作物の著作権の帰属)について
 証拠(甲17、18、22の1ないし3、23)及び弁論の全趣旨によれば、原告著作物は、いずれも、原告会社の従業員であるデザイナーらによってその職務上作成されたものであり、いわゆる職務著作としてその著作権は原告に帰属するものと認められる。
3 争点1ウ(原告著作物と被告著作物の類否)について
(1) 原告著作物(1)と被告著作物(1)の1及び2の類否
ア 原告著作物(1)は、水面に模した淡い緑色の縦長長方形を背景として、その下部に、丸い胴体に左右のひれと尾びれを付けて形を単純化した赤い金魚3匹を、緩やかな右回りの円を描くように配置した上、これら金魚が並ぶ円周上のさらに外側に、緩やかな右回りの円を描くように、上記金魚の胴体とほぼ同じ程度の大きさの、水草に模した合計4つの緑色円形を配置している。そして、長方形の上部には、右斜め下向きの上記金魚1匹を配置した上、その外側に金魚を緩やかに囲むようにして、合計3つの上記緑色円形を配置している。
イ これに対し、被告著作物(1)の1は、淡い緑色に縦線が入った方形を背景として、その左下部に、丸い胴体に左右のひれと尾びれを付けて形を単純化した赤い金魚3匹を、概ね左回りの円を描くように配置した上、その内側に、上記金魚の数倍の大きさの、水草に模した切れ込みの入った緑色円形を2つ配している。
 上記によれば、原告著作物(1)と被告著作物(1)の1は、淡い緑色の背景に、丸い胴体に左右のひれと尾びれを付けて形を単純化した赤い金魚、及び、水草に模した緑色の円形を配置した限りにおいて共通する。しかしながら、赤い金魚と緑色の水草を点在させる表現方法は、通常の部類に属する手法であると考えられる上に、デフォルメを施したといっても、金魚を上記のように単純化して描くことは、多くの絵画に見られるありふれた表現方法というべきであるから、このような点が共通するからといって、被告著作物(1)の1から、原告著作物(1)の創作的特徴が直ちに感得できるとはいえない。その一方で、これらの著作物は、全体の構図・配置が全く異なる上に、金魚の数、向き及び配置が異なっており、また、水草に模した緑色円形の数、形、大きさ及び配置も異なる。すなわち、原告著作物(1)においては、縦長長方形の背景の下部に、合計3匹の金魚を右回りの円を描くように配した上、その外側に金魚とほぼ同じ大きさの緑色円形を合計4つ配し、さらに、上記長方形の上部には、金魚1匹を右斜め下向きに配置した上、その外側に合計3つの上記緑色円形を配置している。これに対し、被告著作物(1)の1においては、そもそも、上記金魚及び切れ込みの入った緑色の円形が配されているのは、背景の左下部のみである上に、金魚の数は3匹で、左回りの円を描くようにいずれも右(ないし上)を向いている。また、緑色円形の数は2つで、切れ込みが入っている上に、その大きさは原告著作物のそれに比して数倍大きく、このような緑色円形が3匹の金魚が緩やかに描く円周の内側に配置されている。
 上記によれば、被告著作物(1)の1から原告著作物(1)の創作的特徴が感得できるということはできず、これらの著作物が類似すると認めることはできない。
ウ また、被告著作物(1)の2は、淡い緑色の縦長長方形を背景として、その下部に、丸い胴体に左右のひれと尾びれを付けて形を単純化した赤い金魚2匹を、いずれもほぼ右向きに配置した上、これら金魚の左下に、金魚の数倍の大きさの水草に模した緑色円形を、また、右横及び右下に、金魚の数倍の大きさの水草に模した切れ込みの入った緑色円形を、それぞれ配している。
 上記によれば、原告著作物(1)と被告著作物(1)の2は、淡い緑色の背景に、丸い胴体に左右のひれと尾びれを付けて形を単純化した赤い金魚、及び、水草に模した緑色円形を配置した限りにおいて共通する。しかし、前記イにおいて述べたとおり、これらは多くの絵画に見られるありふれた表現方法というべきであるから、このような共通点があるからといって、被告著作物(1)の2から、原告著作物(1)の創作的特徴が直ちに感得できるとはいえない。その一方で、これらの著作物は、全体の構図・配置が全く異なる上に、金魚の数、向き及び配置が異なっており、また、水草に模した緑色円形の数、形、配置及び大きさも異なる。すなわち、原告著作物(1)においては、縦長長方形の背景の下部に、合計3匹の金魚を右回りの円を描くように配した上、その外側に金魚とほぼ同じ大きさの緑色円形を合計4つ配し、さらに、上記長方形の上部には、金魚1匹を右斜め下向きに配置した上、その外側に合計3つの上記緑色円形を配置している。これに対し、被告著作物(1)の2においては、そもそも、上記金魚及び緑色の円形が配されているのは、背景の下部のみである上に、金魚の数は2匹で、いずれも右を向いている。また、緑色円形の数は3つで、そのうち2つには切れ込みが入っており、その大きさは原告著作物のそれに比して数倍大きい。
 上記によれば、被告著作物(1)の2から原告著作物(1)の創作的特徴が感得できるということはできず、これらの著作物が類似すると認めることはできない。
エ なお、原告は、原告著作物(1)と被告著作物(1)の1、2をそれぞれ比較すると、@小さな赤色の金魚を選び、ふっくらとした楕円の胴体に左右のひれと尾びれを描くという単純化を施した点、A数匹の金魚が池の中で泳ぐ様子を、淡い緑色の水面に浮く水草との配置で描いた点、B左下に3匹(原告著作物(1)及び被告著作物(1)の1)ないし2匹(被告著作物(1)の2)の金魚と水草を配し、それ以外の空間を広くした点が共通しており、金魚に関する他のデザイン例(乙3の1〜10)に照らしても、原告著作物の特徴をほぼそのまま備えたデザイン例は、被告著作物の他にないなどと主張する(第3、3(1))。
 しかしながら、前記アで述べたとおり、上記@の単純化は、多くの絵画に見られるありふれた表現方法というべきであるから、原告著作物(1)において創作性の存する特徴的な部分は、あくまで金魚と水草(緑色円形)の具体的配置や、細部の表現方法にあるというべきである。また、原告著作物(1)と被告著作物(1)の1、2は、いずれも、封筒及び便箋に用いるためのデザインという性質上、中央部に筆記用の空白をとらざるを得ないという制約を有するものである。上記によれば、上記@ないしBの点は、原告著作物(1)と被告著作物(1)の1、2の類似性を肯定する根拠となるものではない。
 したがって、原告の上記主張は採用できない。
(2) 原告著作物(2)と被告著作物(2)の1ないし4の類否
ア 原告著作物(2)は、水を張った大きな木製のたらい(桶)の左下部に、丸い胴体に左右のひれと尾びれを付けて形を単純化した赤い金魚2匹と、金魚とほぼ同じ大きさの、水草に模した3つの緑色円形を配置し、右下部には、上記同様の金魚1匹と緑色円形2つを配置した上、右縁の中央部には上記同様の金魚1匹を、右縁の上部付近には上記同様の緑色円形1つを、それぞれ配置している。また、上記たらいの右下の傍らには、露草に模した草花が2本添えられている。
イ 被告著作物(2)の1は、白地の方形の左上隅部と右下隅部を淡い色で丸く形取った上、左上隅部には、丸い胴体に左右のひれと尾びれを付けて形を単純化した右向きの赤い金魚1匹と、金魚の数倍の大きさの、水草に模した切れ込みのある緑色円形1つを配し、右下隅部には、上記同様の金魚2匹と、それぞれその右横に、金魚よりやや大きい、切れ込みのある緑色円形1つずつ(合計2つ)を配している。
 上記によれば、原告著作物(2)と被告著作物(2)の1は、形を単純化した赤い金魚、及び、水草に模した緑色円形が存在する限りにおいて共通する。しかしながら、このような共通点があるからといって、被告著作物(2)の1から、原告著作物(2)の創作的特徴が直ちに感得できるとはいえないことは、前記(1)イで述べたとおりである。その一方で、これら著作物は、全体の構図・配置が全く異なる上に、金魚の数、向き及び配置が異なり、また、水草に模した緑色の円形の数、形、大きさ及び配置も異なる。すなわち、原告著作物(2)においては、大きなたらい(桶)の左下部に、形を単純化した赤い金魚2匹と、金魚の胴体とほぼ同じ大きさの、水草に模した3つの緑色円形を、右下部には、上記同様の金魚1匹と緑色円形2つを、右縁の中央部には上記同様の金魚1匹を、右縁の最上部付近には上記同様の緑色円形1つを、それぞれ配置した上(したがって、たらいの中に、合計4匹の金魚と合計6つの緑色円形が存在する。)、たらいの右下の傍らには、露草に模した草花を2本配置している。これに対し、被告著作物(2)の1においては、そもそも、たらいや草花は描かれておらず、上記金魚及び切れ込みの入った緑色の円形が配されているのも、構図全体の中の左上隅部及び右下隅部に限られるから、全体の構図から受ける視覚的な印象が、一見して大きく異なっている。その上、金魚の数は合計3匹で、緑色円形の数は合計3つであり、これら円形の大きさは、原告著作物(2)のそれよりもやや大きめで、いずれも切れ込みが入っている。
 上記によれば、被告著作物(2)の1から原告著作物(2)の創作的特徴が感得できるということはできず、これらの著作物が類似すると認めることはできない。
ウ 被告著作物(2)の2は、白地の縦長長方形の左縁中央部と右縁下部を淡い色で丸く形取った上、左縁中央部には、丸い胴体に左右のひれと尾びれを付けて形を単純化した右向きの赤い金魚1匹を配し、右縁下部には、上記同様の金魚2匹と、その右横に、金魚とほぼ同じ大きさの、切れ込みのある緑色円形合計3つを縦に並べて配している。
 上記によれば、原告著作物(2)と被告著作物(2)の2は、形を単純化した赤い金魚、及び、水草に模した緑色円形が存在する限りにおいて共通する。しかしながら、このような共通点があるからといって、被告著作物(2)の2から、原告著作物(2)の創作的特徴が直ちに感得できるとはいえないことは、前述のとおりである。その一方で、これらの著作物は、全体の構図・配置が全く異なる上に、金魚の数や配置が異なり、また、水草に模した緑色円形の数、形及び配置も異なる。すなわち、原告著作物(2)においては、大きなたらい(桶)の左下部に、形を単純化した赤い金魚2匹と、金魚とほぼ同じ大きさの、水草に模した3つの緑色円形を、右下部には、上記同様の金魚1匹と緑色円形2つを、右縁中央部には上記同様の金魚1匹を、右縁最上部付近には上記同様の緑色円形1つを、それぞれ配置した上(したがって、たらいの中に、合計4匹の金魚と合計6つの緑色円形が存在する。)、たらいの右下の傍らに、露草に模した草花を2本配置している。これに対し、被告著作物(2)の2においては、そもそも、たらいや草花は描かれておらず、上記金魚及び切れ込みの入った緑色円形が配されているのも、構図全体の中の左縁中央部及び右縁下部に限られるから、全体の構図から受ける視覚的な印象が、一見して大きく異なっている。その上、金魚の数は合計3匹で、緑色円形の数は合計3つであり、これら円形には、いずれも切れ込みが入っている。
 上記によれば、被告著作物(2)の2から原告著作物(2)の創作的特徴が感得できるということはできず、これらの著作物が類似すると認めることはできない。
エ 被告著作物(2)の3は、淡い緑色の円形を背景として、円の縁の部分に水草に模した緑色円形1つを配し、そこから弧角にして概ね120度開いた位置の円の縁に、形を単純化した赤い金魚1匹及び金魚の数倍の大きさの切れ込みのある緑色円形3つを、さらにそこから弧角にして概ね120度開いた位置の円の縁に、形を単純化した赤い金魚4匹及び金魚の数倍の大きさの緑色円形3つを、それぞれ配している。
 上記によれば、原告著作物(2)と被告著作物(2)の3は、@形を単純化した赤い金魚と、水草に模した緑色円形を配置した点のほか、A円形を背景として、円周を概ね3等分する円周上の各位置のある箇所に、緑色円形1つを配した上、残りの2箇所に、それぞれ一群の金魚及び緑色円形を配した点において共通する。しかしながら、上記@の点が直ちに著作物の類似性の根拠になるものでないことは、既に述べたとおりであるし、上記Aの点も、いわば著作物全体の大まかなレイアウト(構図)に関する事柄であり、それ自体が類似性の根拠になるものではない。その一方で、被告著作物(2)の3においては、そもそも、背景となる円形をはっきり形づくるたらいが描かれておらず、この点において、原告著作物(2)との対比において、見る者に相当異なった印象を与える上に、金魚の数や配置が異なり、水草に模した緑色円形の数、形及び配置も異なる。すなわち、原告著作物(2)に描かれた金魚が合計4匹で緑色円形が合計6つであるのに対し、被告著作物(2)の3に描かれた金魚は合計5匹で緑色円形は合計7つである。また、2箇所に配された一群の金魚及び緑色円形は、原告著作物(2)においては、2匹の金魚と3つの緑色円形の組み合わせと、2匹の金魚と2つの緑色円形の組み合わせからなるのに対し、被告著作物(2)の3においては、4匹の金魚と3つの緑色円形の組み合わせと、1匹の金魚と3つの緑色円形の組み合わせからなる。さらに、原告著作物(2)における緑色円形は、金魚とほぼ同じ大きさの単純な円形であるのに対して、被告著作物(2)の3におけるそれは、金魚の数倍の大きさがあり、その多くは切れ込みを伴った円形である。
 上記によれば、被告著作物(2)の3から原告著作物(2)の創作的特徴が感得できるということはできず、これらの著作物が類似すると認めることはできない。
オ 被告著作物(2)の4は、横長長方形の右下角付近と左上角付近を淡い色で楕円形に形取った上、右下角部分付近には、形を単純化した金魚1匹及び切れ込みのある緑色円形1つを配し、左上角部分付近には、上記同様の金魚3匹及び切れ込みのある緑色円形合計3つを配している。
 上記によれば、原告著作物(2)と被告著作物(2)の4は、形を単純化した赤い金魚、及び、水草に模した緑色円形が存在する限りにおいて共通する。しかしながら、このような共通点があるからといって、被告著作物(2)の4から、原告著作物(2)の創作的特徴が直ちに感得できるとはいえないことは、既に述べたとおりである。その一方で、これら著作物は、全体の構図・配置が全く異なる上に、金魚の数や配置が異なり、また、水草に模した緑色円形の数、形及び配置も異なる。すなわち、原告著作物(2)においては、大きなたらい(桶)の左下部に、形を単純化した赤い金魚2匹と、金魚の胴体とほぼ同じ大きさの、水草に模した3つの緑色円形を、右下部には、上記同様の金魚1匹と緑色円形2つを、右縁中央部には上記同様の金魚1匹を、右縁最上部付近には上記同様の緑色円形1つを、それぞれ配置した上(したがって、たらいの中に、合計4匹の金魚と合計6つの緑色円形が存在する。)、たらいの右下の傍らに、草花を2本配置している。これに対し、被告著作物(2)の4においては、そもそも、たらいや草花は描かれておらず、上記金魚及び切れ込みの入った緑色円形が淡い色の背景と共に配されているのも、構図全体の中の左上部及び右下部に限られるから、全体の構図から受ける視覚的な印象が、一見して大きく異なっている。また、金魚の数は合計4匹で同じであるが、原告著作物(2)と異なり、被告著作物(2)の4の金魚のうち3匹は、左上部で左回りの円を描くようにまとまりをもって配置されているのに対し、残りの1匹は、右下部に右を向いて独立した配置で描かれている。さらに、緑色円形の数は合計4つであり、これらにはいずれも切れ込みが入っている。
 上記によれば、被告著作物(2)の4から原告著作物(2)の創作的特徴が感得できるということはできず、これらの著作物が類似すると認めることはできない。
カ なお、原告は、原告著作物(2)と被告著作物(2)の1ないし4をそれぞれ比較すると、@小さな赤色の金魚を選び、ふっくらとした楕円の胴体に左右のひれと尾びれを描くという単純化を施した点、A数匹の金魚が池の中で泳ぐ様子を、淡い緑色の水面に浮く水草との配置で描いた点、B丸い桶の中に、丸くデフォルメされた胴体を持つ金魚を配置し、円形と円形を重ねて、それを上から見る視点で表現し、より可愛く見せる視覚的効果を狙った点などが共通していることを根拠に、被告著作物(2)の1ないし4が、いずれも原告著作物(2)に類似すると主張する(第3、3(2))。
 しかしながら、上記@及びAの点が、直ちに類似の根拠となるものではないことは、前記(1)エで述べたとおりであるし、上記Bの点も、それ自体はアイデアに類するものであり、仮に、被告著作物(2)の1ないし4に、淡色の背景を丸く形取っている点において、円形と円形を重ねた表現方法が見て取れるとしても、具体的に表現されたものが相当に異なっていることは、上記イないしオで述べたとおりである。したがって、この点も、直ちに著作物としての類似性を肯定する根拠となるものではない。
 以上によれば、原告の上記主張は採用できない。
(3) 原告著作物(3)と被告著作物(3)の類否
 原告著作物(3)は、白地の縦長長方形を背景として、切り分けた三角形のスイカ片、僅かに実の部分が残ったスイカ片、及び、すぐ左横に5つの種を伴った皮だけのスイカ片を、上から下に縦1列に並べて描いている。
 これに対し、被告著作物(3)は、白地の横長長方形を背景として、切り分けた半円形のスイカ片、切り分けた三角形のスイカ片、僅かに実の部分が残ったスイカ片、及び、1つの種からやや離れた場所に4つの種が位置して配された合計5つの種を、左から右に横1列に並べて描いている。
 上記によれば、原告著作物(3)と被告著作物(3)は、切り分けた三角形のスイカ片、僅かに実の部分が残ったスイカ片及び合計5つの種を、この順序で並べて描いた限りにおいて共通する。しかしながら、これらの素材をこのように並べること自体は、Dスイカ(乙4の1、2)等の既存の著作物において既に見られる表現方法であるし、切り分けた三角形のスイカ片等の個々の素材についても、特に特徴的な表現方法が見られるものではなく、むしろ、スイカ片や種の描写としては、一般的な表現方法が採られている。したがって、上記の点が共通するからといって、被告著作物(3)から、原告著作物(3)の創作的特徴が直ちに感得できるとはいえない。その一方で、原告著作物(3)は、3つの素材(三角形のスイカ片、僅かに実の残ったスイカ片及びすぐ左横に5つの種を伴った皮だけのスイカ片)を縦1列に配列しているのに対し、被告著作物(3)は、4つの素材(半円形のスイカ片、三角形のスイカ片、わずかに実の残ったスイカ片及びやや間隔を置いて配された合計5つの種)を横1列に配列している上に、原告著作物(3)における種が、皮だけになったスイカ片のすぐ左横に5つまとまって配置されているのに対し、被告著作物(3)における種は、僅かに実の部分が残ったスイカ片から少し離れた位置に1つ、そこから更に少し離れた位置に4つというように、さほどのまとまりを感じさせない間隔を保って配置されているから、これらの著作物は、一見して、素材の選択・配列において異なった印象を与える。
 上記によれば、被告著作物(3)から原告著作物(3)の創作的特徴が感得できるということはできず、これらの著作物が類似すると認めることはできない。
(4) 原告著作物(4)と被告著作物(4)の1ないし4の類否
ア 原告著作物(4)は、淡色の縦長長方形を背景として、その中央部を大きく空けた上、周辺部に、丸い胴体に目玉、左右のひれ及び尾びれを付けた金魚数匹と、金魚に比べて非常に大きい蓮の葉及び蓮の花を配したことを基本的な構成とし、@その左上角部には、写実的に描かれた蓮の葉4枚(ただし、そのうち2枚は、背景を形取る上記長方形の辺にかかって切れており、完全な形ではなく、また、別の1枚の上には蛙が描かれている。)と蓮の花2つ(1つは白色で、もう1つは薄い赤色。)が、A右下角部には、写実的に描かれた蓮の葉3枚(ただし、そのうち1枚は、背景を形取る上記長方形の辺にかかって切れており、完全な形ではない。)と蓮の花2つ(1つは薄い青色で、もう1つは薄い赤色。)が、それぞれ配されている。また、B右辺上部から中央部にかけて、上記の金魚3匹(2匹は赤色で、1匹は黒色。)が、C左下部には、上記の金魚2匹(いずれも赤色。)が、それぞれ配されている。
イ 被告著作物(4)の1は、淡色の方形を背景として、その中央部分を広く空けた上、同心円を重ねて水紋が広がる様子を表現し、また、斜視図的な構図で描かれるなど、写実的に表現された金魚数匹や、金魚に比べて非常に大きい蓮の葉、さらには、金魚の胴体程度の大きさの緑色円形で表現された水草を配したことを、基本的な構成とする。その右上角部には白斑を伴う赤い金魚1匹、右下部には白斑を伴う赤い金魚及び黒い金魚が各1匹、左辺中央部には白斑を伴う赤い金魚が1匹と、合計4匹の金魚が配されており、左下部には上記蓮の葉が2枚と緑色円形が1つ、右辺中央部には緑色円形1つが、それぞれ配されている。
 上記によれば、原告著作物(4)と被告著作物(4)の1は、水面に模した淡色の背景の中央部を大きく空けた上、数匹の金魚と大きな蓮の葉を配した限りにおいて共通する。しかしながら、中央部を大きく空けることは、便箋に用いるためのデザインという性質から必然的に生ずる制約である上に、水面に数匹の金魚と大きな蓮の葉を配すること自体はありふれた表現方法であり、原告著作物(4)に描かれた金魚及び蓮の葉も、いずれもそれほど特徴的なものではないから、上記の点が共通するからといって、被告著作物(4)の1から、原告著作物(4)の創作的特徴が直ちに感得できるとはいえない。その一方で、これらの著作物は、素材の基本的な配置が異なる上に、個々の素材に関する表現方法も異なる。すなわち、原告著作物(4)は、縦長長方形の周辺部に、丸い胴体に目玉、左右のひれ及び尾びれを付けた金魚数匹と、金魚に比べて非常に大きい蓮の葉及び蓮の花を配したことを基本的な構成とするのに対し、被告著作物(4)の1は、方形の背景に、水紋が広がる様子を表現した同心円を描き、写実的に表現された金魚数匹、大きい蓮の葉、金魚の胴体程度の大きさの緑色円形を配したことを基本的な構成とするところ、被告著作物(4)の1には、原告著作物(4)の左上部及び右下部に配された複数の蓮の葉及び蓮の花が存在せず、その左下部に蓮の葉が配されているのみであり、また、原告著作物(4)に存在しない水紋を表す同心円が存在するから、構図上、一見して異なった印象を与える。また、被告著作物(4)の1には、原告著作物(4)に存在する蓮の葉の上の蛙が存在せず、逆に、原告著作物(4)に存在しない小さな緑色円形が配されているほか、原告著作物(4)における金魚が、いずれも真上から見た視点で平面図的に描かれているのに対し、被告著作物(4)の1における金魚は、前記のとおり、斜視図的な視点から立体的に描かれるなど、写実的に表現されている。
 上記によれば、被告著作物(4)の1から原告著作物(4)の創作的特徴が感得できるということはできず、これらの著作物が類似すると認めることはできない。
ウ 被告著作物(4)の2は、淡色の方形を背景として、その中央部分を広く空けた上、同心円を重ねて水紋が広がる様子を表現し、また、斜視図的な構図で描かれるなど、写実的に表現された金魚数匹、金魚に比べて非常に大きい蓮の葉、さらには、金魚の胴体より小さな緑色円形で表現された水草を配したことを、基本的な構成とする。その右上部分及び左下部分には上記水紋が、左下部分の水紋の中には赤い金魚及び黒い金魚各1匹が、右下部には白斑を伴う赤い金魚1匹及び小さな緑色円形1つが、そして、底辺中央部には大きな蓮の葉1枚及び小さな緑色円形1つが、それぞれ配されている。
 上記によれば、原告著作物(4)と被告著作物(4)の2は、水面に模した淡色の背景の中央部を大きく空けた上、数匹の金魚と大きな蓮の葉を配した点において共通する。しかしながら、前記イで述べたとおり、中央部を大きく空けることは、便箋に用いるためのデザインという性質から必然的に生ずる制約である上に、水面に数匹の金魚と大きな蓮の葉を配すること自体はありふれた表現方法であり、しかも、原告著作物(4)に描かれた金魚及び蓮の葉は、それほど特徴的なものではないから、上記の点が共通するからといって、被告著作物(4)の2から、原告著作物(4)の創作的特徴が直ちに感得できるとはいえない。その一方で、これらの著作物は、素材の基本的な配置が異なる上に、個々の素材に関する表現方法も異なる。すなわち、原告著作物(4)は、縦長長方形の周辺部に、丸い胴体に目玉、左右のひれ及び尾びれを付けた金魚数匹と、金魚に比べて非常に大きい蓮の葉及び蓮の花を配したことを基本的な構成とするのに対し、被告著作物(4)の2は、方形の背景に、水紋が広がる様子を表現した同心円を描き、写実的に表現された金魚数匹、大きい蓮の葉、金魚の胴体より小さな緑色円形を配したことを基本的な構成とするところ、被告著作物(4)の2には、原告著作物(4)の左上部及び右下部に配された複数の蓮の葉及び蓮の花が存在せず、その底辺中央部に蓮の葉1枚が配されているのみであり、また、原告著作物(4)には存在しない水紋を表す同心円2つが存在するから、構図上、一見して異なった印象を与える。また、被告著作物(4)の2には、原告著作物(4)に存在する蓮の葉の上の蛙が存在せず、逆に、原告著作物(4)に存在しない小さな緑色円形が配されているほか、原告著作物(4)における金魚が、いずれも真上から見た視点で平面図的に描かれているのに対し、被告著作物(4)の2における金魚は、斜視図的な視点から立体的に描かれるなど、写実的に表現されている。
 上記によれば、被告著作物(4)の2から原告著作物(4)の創作的特徴が感得できるということはできず、これらの著作物が類似すると認めることはできない。
エ 被告著作物(4)の3は、水色の縦長長方形を背景として、その上半分を広く空けた上、同心円を重ねて水紋が広がる様子を表現し、また、斜視図的な構図で描かれるなど、写実的に表現された金魚数匹、金魚に比べて非常に大きい蓮の葉、さらには、金魚の胴体より小さな緑色円形で表現された水草を配したことを基本的な構成とする。右下部分には大きな水紋、中央部分には小さな水紋がそれぞれ配され、左下部分には大きな蓮の葉2枚及び小さな緑色円形1つが、左辺中央部には白斑を伴う赤い金魚1匹が、そして右下角部には黒い金魚1匹が、それぞれ配されている。
 上記によれば、原告著作物(4)と被告著作物(4)の3は、水面に模した淡色の背景を大きく空けた上、数匹の金魚と大きな蓮の葉を配した点において共通する。しかしながら、前記イで述べたとおり、大きな余白をとることは、封筒に用いるためのデザインという性質から必然的に生ずる制約である上に、水面に数匹の金魚と大きな蓮の葉を配すること自体はありふれた表現方法であり、しかも、原告著作物(4)に描かれた金魚及び蓮の葉は、それほど特徴的なものではないから、上記の点が共通するからといって、被告著作物(4)の3から、原告著作物(4)の創作的特徴が直ちに感得できるとはいえない。その一方で、これらの著作物は、素材の基本的な配置が異なる上に、個々の素材に関する表現方法も異なる。すなわち、原告著作物(4)は、縦長長方形の周辺部に、丸い胴体に目玉、左右のひれ及び尾びれを付けた金魚数匹と、金魚に比べて非常に大きい蓮の葉及び蓮の花を配したことを基本的な構成とするのに対し、被告著作物(4)の3は、縦長長方形の背景に、水紋が広がる様子を表現した同心円を描き、写実的に表現された金魚、大きい蓮の葉、金魚の胴体より小さな緑色円形を配したことを基本的な構成とするところ、被告著作物(4)の3には、原告著作物(4)の左上部及び右下部に配された複数の蓮の葉及び蓮の花が存在せず、その左下部に蓮の葉2枚が配されているのみであり、その一方で、原告著作物(4)には存在しない水紋を表す同心円を含めて、背景全体の下半分に表現の対象となる素材が集中して存在するから、構図上、一見して異なった印象を与える。また、被告著作物(4)の3には、原告著作物(4)に存在する蓮の葉の上の蛙が存在せず、原告著作物(4)における金魚が、いずれも真上から見た視点で平面図的に描かれているのに対し、被告著作物(4)の3における金魚は、斜視図的な視点から立体的に描かれるなど、写実的に表現されている。
 上記によれば、被告著作物(4)の3から原告著作物(4)の創作的特徴が感得できるということはできず、これらの著作物が類似すると認めることはできない。
オ 被告著作物(4)の4は、水色の縦長長方形を背景として、中央部分を広く空けた上、下部に同心円を配して水紋が広がる様子を表現し、その水紋の中に、斜視図的な構図で写実的に描かれた黒い金魚及び赤い金魚各1匹、及び、金魚の胴体より小さな緑色円形で表現された水草1つを配し、また、上辺中央部に上記同様の水草1つを配している。
 上記によれば、原告著作物(4)と被告著作物(4)の4は、水面に模した縦長長方形の背景の中央部を大きく空けた上、数匹の金魚を配した点において共通する。しかしながら、既に述べたとおり、中央部を大きく空けることは、封筒に用いるためのデザインという性質から必然的に生ずる制約である上に、水面に数匹の金魚を配すること自体はありふれた表現方法であり、しかも、原告著作物(4)に描かれた金魚は、それほど特徴的なものではないから、上記の点が共通するからといって、被告著作物(4)の4から、原告著作物(4)の創作的特徴が直ちに感得できるとはいえない。その一方で、これらの著作物は、素材の基本的な配置が異なる上に、個々の素材に関する表現方法も異なる。すなわち、原告著作物(4)は、縦長長方形の周辺部に、丸い胴体に目玉、左右のひれ及び尾びれを付けた金魚数匹と、金魚に比べて非常に大きい蓮の葉及び蓮の花を配したことを基本的な構成とするのに対し、被告著作物(4)の4は、縦長長方形の背景に、水紋が広がる様子を表現した同心円を描き、写実的に表現された金魚、及び、金魚の胴体より小さな緑色円形を配したことを基本的な構成とするところ、被告著作物(4)の4には、原告著作物(4)に描かれた複数の大きな蓮の葉及び蓮の花が存在せず、その一方で、原告著作物(4)には存在しない水紋を表す同心円を含めて、表現の対象となる素材が背景全体の下半分に集中して存在するから、構図上、一見して異なった印象を与える。また、被告著作物(4)の4には、原告著作物(4)に存在する蓮の葉の上の蛙が存在せず、原告著作物(4)における金魚が、いずれも真上から見た視点で平面図的に描かれているのに対し、被告著作物(4)の3における金魚は、斜視図的な視点から立体的に描かれており、写実的に表現されている。
 上記によれば、被告著作物(4)の4から原告著作物(4)の創作的特徴が感得できるということはできず、これらの著作物が類似すると認めることはできない。
(5) 原告著作物(5)の1及び3と被告著作物(5)の類否
ア 原告著作物(5)の1は、夜空に模した黒地の縦長長方形を背景として、放射線状に広がる薄い黄色や橙色の何本もの曲線と、これらの線の先付近に配した点や星形を1つのまとまりにして、花火が飛び散る様を表現したことを基本的な構成とする。上記まとまりの大きさは大小様々であるが、背景の上半分に5つ、中央部に2つ、さらに右下部に1つと、合計8つのまとまりが、空白部分をほとんど残さず、背景のほぼ全面にわたるように配されている。そして、背景の中央部には、濃い黄色で「花火」及び「夕涼み」の文字が縦2列に表記されている。
イ 原告著作物(5)の3は、白色に近い淡色の縦長長方形を背景として、原告著作物(5)の1と同様、放射線状に広がる黄色や橙色の何本もの曲線と、これらの線の先付近に配した点や星形を1つのまとまりにして、花火が飛び散る様を表現したことを基本的な構成とする。上記まとまりの大きさは大小様々であるが、背景の上半分に複数のまとまりが配され、中央部から下部にかけては4つのまとまりが、さらに右下部に1つのまとまりが、空白部分をほとんど残さず、背景のほぼ全面にわたるように配されている。そして、背景の中央部には、黒色の「花火」及び「夕涼み」の文字が縦2列に表記されている。
ウ これに対し、被告著作物(5)は、上部及び下部の色が濃く、中央部の色が薄い縦長長方形を背景に、放射線状に広がる黄色や赤色の何本もの太い曲線と、その中心付近に存在する黄色、赤色ないし白色の同心円と、上記太い曲線の先付近に配した点や星形を1つのまとまりにして、花火が飛び散る様を表現したことを基本的な構成とする。上記まとまりの大きさは大小様々であるが、背景の上部に3つないし4つのまとまりが、下部に2つのまとまりが(ただし、1つは濃い紫色でシルエットのように描かれている。)配され、その一方で、中央部には、右辺部及び左辺部に小さなまとまりが各1つ配されているだけで、背景の中央部分が大きく空いている。そして、背景の中央部には、黒い枠で囲まれた黒色の「夕涼花火」の文字が縦1列に表記されている。
エ 上記によれば、原告著作物(5)の1と被告著作物(5)、原告著作物(5)の3と被告著作物(5)は、いずれも、そもそも著作物としての基本的な構成を異にする。すなわち、原告著作物(5)の1、3は、いずれも、縦長長方形を背景として、放射線状に広がる薄い黄色や橙色の何本もの曲線と、これらの線の先付近に配した点や星形を1つのまとまりにして、これらのまとまりを、空白部分をほとんど残さず、背景のほぼ全面にわたるように配したものであり、その中央部には「花火夕涼み」の文字が縦2列に大きく表記されている。これに対し、被告著作物(5)は、縦長長方形を背景に、放射線状に広がる黄色や赤色の何本もの太い曲線と、その中心付近に存在する黄色、赤色ないし白色の同心円と、上記太い曲線の先付近に配した点や星形を1つのまとまりにして、これらのまとまりを、背景の中央部分が大きく空くように配したものであり、背景の中央部には、黒い枠で囲まれた黒色の「夕涼花火」の文字が縦1列に表記されている。したがって、被告著作物(5)は、見る者に、原告著作物(5)の1とも、また、原告著作物(5)の3とも、一見して異なった印象を与える。また、原告著作物(5)の1及び3における放射線状の曲線に比して、被告著作物(5)におけるそれは線がやや太く、配色も異なる上に、被告著作物(5)における曲線のまとまりの中心付近には同心円が描かれており、そのことによって、原告著作物(5)の1及び3にない丸みとまとまりが付加されている。
 上記によれば、被告著作物(5)は、原告著作物(5)の1にも、原告著作物(5)の3にも類似するということはできない。
(6) 原告著作物(5)の2及び(6)と被告著作物(6)の類否
ア 原告著作物(5)の2は、白色に近い淡色の縦長長方形を背景にして、放射線状に広がる何本もの細い曲線と、これらの線の先付近に配した点や星形を1つのまとまりにして、花火が飛び散る様を表現したことを基本的な構成とする。上記まとまりの大きさは大小様々であるが、背景の上半分に5つ、中央部に2つ、さらに右下部に1つと、合計8つのまとまりが、空白部分をほとんど残さず、背景のほぼ全面にわたるように配されている。また、上記曲線は赤色、橙色及び紫色等で、上記点や星形はレモン色、緑色及び水色等でそれぞれ描かれており、全体に、薄い色合いを基調にした非常にカラフルな配色がされている。
イ 原告著作物(6)は、白色の縦長長方形を背景にして、放射線状に広がる何本もの細い曲線と、これらの線の先付近に配した点や星形を1つのまとまりにして、花火が飛び散る様を表現したものであるが、これらのまとまりは、背景の左下部に集中して合計5つ配されているのみであり、したがって、背景の他の部分は大きく空いている。また、上記曲線は黄色、紫色及び水色等で、上記点や星形はレモン色、緑色及び水色等でそれぞれ描かれており、全体に、薄い色合いを基調に非常にカラフルな配色がされている。
ウ これに対し、被告著作物(6)は、上部がピンク色、下部が水色に染め分けられ、中央部は無色に近い縦長長方形を背景として、放射線状に広がる黄色や赤色の太い曲線と、その中心付近に存在する白色の円と、上記太い曲線の先付近に配した点を1つのまとまりにして、花火が飛び散る様を表現したことを基本的な構成とするものであるが、上記まとまりは、ピンク色の上部に2つ(ただし、そのうち1つは数本の曲線等のみからなり、完全なまとまりを形成していない。)、水色の下部に合計3つ配されており、背景の中央部分は大きく空いている。
エ 上記によれば、原告著作物(5)の2と被告著作物(6)、原告著作物(6)と被告著作物(6)は、いずれも、そもそも著作物としての基本的な構成を異にする。すなわち、原告著作物(5)の2は、放射線状に広がる何本もの細い曲線と、これらの線の先付近に配した点や星形を1つのまとまりにして、薄い色合いを基調に非常にカラフルな配色をした上、これらのまとまりを背景のほぼ全面に配したものである。また、原告著作物(6)は、白色の縦長長方形を背景に、原告著作物(5)の2と同様、放射線状に広がる細い曲線と、これらの線の先付近に配した点や星形を1つのまとまりにして、薄い色合いを基調に非常にカラフルな配色をした上、合計5つの上記まとまりを、背景の左下部に集中して配したものであり、背景の他の部分は大きく空いている。これに対し、被告著作物(6)は、縦長長方形を背景に、放射線状に広がる黄色や赤色の太い曲線と、その中心付近に存在する白色の円と、上記太い曲線の先付近に配した点を1つのまとまりとして、これらのまとまりを、ピンク色の上部及び水色の下部にのみ配したものである。このように、被告著作物(6)は、背景の色彩、飛び散る花火を表す線と点のまとまりの具体的な表現、背景全体におけるこれらまとまりの配列等、ほとんどすべての点において、原告著作物(5)の2とも、また、原告著作物(6)とも異なっており、一見して異なった印象を与える。また、原告著作物(5)の2及び(6)における放射線状の曲線に比して、被告著作物(6)におけるそれは線がやや太く、配色も異なる上に、被告著作物(6)における曲線のまとまりの中心付近には同心円が描かれており、そのことによって、原告著作物(5)の2及び(6)にはない丸みとまとまりが付加されている。
 上記によれば、被告著作物(6)が原告著作物(5)の2と類似するということはできないし、また、原告著作物(6)と類似するということもできない。
(7) 原告著作物(7)の1と被告著作物(7)の1の類否
 原告著作物(7)の1は、白色の方形を背景として、左側に台に乗せられた鏡餅を、右側に漫画風に形を単純化した左向きの犬を配したことを基本的な構成とする。上記鏡餅には黄色のミカンが乗せられ、赤いリボンがかけられている。上記犬は、ずん胴で耳や足先も丸い形で表現されるなど、全体に丸みを帯びた形に単純化されており、ずん胴には黄色いエプロンがかけられている。
 これに対し、被告著作物(7)の1は、白色の方形を背景として、左側に赤いリボンをかけたピンク色の箱を、右側に漫画風に形を単純化した左向きの犬を配したことを基本的な構成とする。この犬は、ずん胴で耳や足先も丸い形で表現されるなど、全体に丸みを帯びた形に単純化されており、この点は原告著作物(7)の1における犬と同じであるが、全体の色調が異なる上に、エプロンはかけられておらず、顔の向きも、原告著作物(7)の1における犬と異なり下向きである。また、鼻の側には、漫画表現特有の動作を表す二重線が書き添えられ、鼻をクンクン動かす様子が表現されている。
 上記によれば、これらの著作物は、白色の方形を背景に、左側にリボンをかけた物体を、右側に丸みを帯びて形を単純化した犬を配した限りにおいて共通するが、このような構図自体は一般的なものである上に、上記形を単純化した犬も、丸みを基調にした漫画風のもので、女性や若年層を対象にしたいわゆるファンシーグッズ等においては、よく見られる表現方法であり、それほど特徴的なものとはいえない。また、そもそも、左側に配置された物体が、台に乗せられた鏡餅(原告著作物(7)の1)とピンク色の箱(被告著作物(7)の1)とで異なっている上に、右側に配された犬にも前記のとおりの違いがあり、見る者に相当に異なった印象を与えている。
 したがって、被告著作物(7)の1から、原告著作物(7)の1における創作的特徴が感得できるということはできず、これらの著作物が類似すると認めることはできない。
(8) 原告著作物(7)の2と被告著作物(7)の2の類否
 原告著作物(7)の2は、白色の方形を背景に、左側にリボンをかけた黄色い箱を、中央にこの箱から伸びているリボンをくわえ、正面を向いて座った犬を、右側にはリボンをかけた小さな箱をそれぞれ配したものであり、これ以外の対象物は描かれていない。
 これに対し、被告著作物(7)の2は、白色の方形を背景に、その中央上部に、包装を開いたバースデーケーキと、包装から伸びたリボンをくわえ、正面を向いて座った犬を配し、さらに、中央下辺付近には、「おめでとう」の文字カードを添えたリボンをくわえるなどした合計5匹の犬を配したものである。
 以上から分かるとおり、原告著作物(7)の2と被告著作物(7)の2は、そもそも、描かれた対象物やその配列、全体の構図が大きく異なっている。その点をさておいて、共通する部分にのみ注目しても、リボンをくわえ、正面を向いて座った犬が存在するにとどまり、このような表現方法はそれほど特徴的なものとはいえない上に、犬の色調や表情、耳の立て方や尻尾の動かし方など、具体的な表現方法には相違点も少なくない。
 したがって、被告著作物(7)の2が原告著作物(7)の2に類似するといえないことは、明らかというべきである。
(9) 原告著作物(8)と被告著作物(8)の1及び2の類否
 原告著作物(8)は、白色の横長長方形を背景にして、その右端部に、顔の中央部、耳、足先及び尻尾が黒く、その他の部分が白っぽい灰色のシャム猫が正面を向いて座っている様子が描かれている。
 これに対し、被告著作物(8)の1は、黄色の横長長方形を背景にして(ただし、その上端と下端は茶色に近い濃い色になっている。)、その右下部に、顔の中央部、耳、足先及び尻尾が黒く、その他の部分が白っぽい灰色のシャム猫が正面を向いて座っている様子が描かれており、猫の前には枠付きの鏡が立てられていて、猫の半身がこの鏡に映っている。また、被告著作物(8)の2は、黄色の長方形を背景にして、その右上部に、上記同様のシャム猫と鏡が描かれている。
 上記によれば、原告著作物(8)にはシャム猫だけが描かれているのに対し、被告著作物(8)の1及び2には、いずれも、シャム猫とシャム猫が姿を映した鏡が描かれており、そもそも、表現の対象となる素材の選択が異なっている。原告著作物(8)におけるシャム猫と、被告著作物(8)の1及び2におけるシャム猫は、顔の中央部、耳、足先及び尻尾が黒く、その他の部分が白っぽい灰色で、正面を向いて座っている点において共通するが、顔の表情が異なる上に、被告著作物(8)の1及び2におけるシャム猫の首には赤いリボンが巻かれているなどの相違点がある。また、これらの点をさておいても、そもそも、シャム猫を描く場合に、顔の中央部、耳、足先及び尻尾を黒く、その他の部分が白っぽい灰色にするのは、通常の表現方法であるから、このような猫が正面を向いて座っている点が共通するからといって、そのことによって、直ちに創作的特徴が共通して感得できるといえないことは明らかである。
 したがって、被告著作物(8)の1が原告著作物(8)に類似するとは認められないし、また、被告著作物(8)の2が原告著作物(8)に類似するものとも認められない。
4 争点1(著作権侵害の成否)に関するまとめ
 上記3によれば、被告著作物は、いずれも、対応する原告著作物に類似するものではないから、著作権侵害をいう原告の主張は、理由がない。
5 争点2(不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為の成否)について
 原告は、原告著作物を付した原告商品のうち、原告商品(1)、(2)、(7)の1、2につき、これらにそれぞれ対応する被告商品(1)の1、2、(2)の1ないし4、(7)の1、2は、いずれも上記原告商品の形態を模倣したものであるとして、不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為の成立を主張している。
 原告は、原告商品の絵柄をもって不正競争防止法2条1項3号にいう「商品の形態」と主張しているものと解されるが、一般的に、著作物の複製物ないしこれを付したものを商品として販売する場合にあっては、当該複製物に該当する部分については、専ら著作権法上の規定による著作権者の権利保護に委ねられているものであって、これらの部分が不正競争防止法2条1項3号所定の「商品の形態」として同法の保護の対象となるものではない。
 また、この点をさておいても、前記3において認定したところによれば、上記の各被告商品は、いずれも、これと対応するものとして原告が主張する上記各原告商品に類似するものとは認められない。したがって、上記の各被告商品が原告主張に係る対応の各原告商品の形態を、それぞれ模倣したものということはできない。
 上記によれば、不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為の成立をいう原告の主張は、理由がない。
6 争点3(不正競争防止法2条1項7号所定の不正競争行為の成否)について
 原告は、被告A及び訴外Bは、原告会社に在職中、原告著作物及び原告商品の製作に社員デザイナーとして関与し、原告商品の製作過程や、その時々の売れ筋デザインが何なのかを知り得る立場にあったところ、このような情報は、競業他社が多い業界では厳重に管理されているから、原告の営業秘密に属する事柄であって、 被告A及び訴外Bは、被告学研トイホビーの委託を受けて被告商品のデザインを作成するに際し、この営業秘密を開示使用し、被告学研トイホビーは不正の利益を得る目的でこれを使用したから、被告らにつき、不正競争防止法2条1項7号所定の不正競争行為が成立すると主張する。
 しかしながら、原告著作物はいずれも原告会社の従業員であるデザイナーらにより通常の絵画と同様の方法によって作成されたものであり、証拠上、原告商品の製作過程において、不正競争防止法上の「営業秘密」(同法2条4項)として保護に値する工程が具体的に存在するとは認められない。また、いわゆる売れ筋のデザインは、被告らが指摘するとおり、同業者もしくは調査会社の市場調査によって容易に調査できるものである上に、このような情報が、原告会社において、不正競争防止法上の秘密管理性の要件(同法2条4項)を充たす態様で管理されていたと認めることもできない。
 上記によれば、原告主張に係る営業秘密は、不正競争防止法上の「営業秘密」に該当するものとは認められないから、不正競争防止法2条1項7号所定の不正競争行為の成立をいう原告の主張は、理由がない。なお、被告学研トイホビーの行為に対する関係では、同被告の行為につき同項7号所定の不正競争行為の成立をいう原告の主張はそれ自体失当であり、同被告の行為については、本来、同項8号の適用を主張すべきものであるが、上記に判示したところに照らせば、同被告の行為について同項8号の不正競争行為が成立すると認めることもできない。
7 結論
 以上によれば、本訴において原告が主張するところはいずれも採用することができず、原告の被告らに対する請求は、いずれも理由がない。
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 三村量一
 裁判官 青木孝之
 裁判官 吉川泉


(別紙)原告著作物及び商品一覧表
 著作物/作成年月日/発売開始時
 原告著作物(1)/平成7年3月ころ/(争いあり)
 同(2)/平成7年3月ころ/(争いあり)
 同(3)/平成9年4月ころ/平成9年5月ころ
 同(4)/平成11年3月ころ/平成11年4月ころ
 同(5)の1/平成11年3月ころ/平成11年4月ころ
 同(5)の2/(不明)/(不明)
 同(5)の3/(不明)/(不明)
 同(6)/平成11年2月ころ/平成11年4月ころ
 同(7)の1/平成11年2月ころ/平成13年7月ころ
 同(7)の2/平成11年2月ころ/平成13年7月ころ
 同(8)/平成9年6月ころ/平成9年7月ころ

(別紙)被告著作物一覧表
 著作物/各著作物を付した商品
 被告著作物(1)の1/便箋
 同(1)の2/封筒
 同(2)の1/封筒
 同(2)の2/便箋
 同(2)の3/便箋(丸型)
 同(2)の4/封筒
 同(3)/封筒
 同(4)の1/便箋
 同(4)の2/便箋
 同(4)の3/封筒
 同(4)の4/封筒
 同(5)/レターセット(便箋、封筒及び外袋)
 同(6)/封筒
 同(7)の1/バースデーカード
 同(7)の2/バースデーカード
 同(8)の1/封筒
 同(8)の2/便箋
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