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【事件名】「角川映画」の著作権帰属事件 【年月日】平成15年4月23日 東京地裁 平成13年(ワ)第13484号 著作権確認請求事件 (口頭弁論終結日 平成15年2月24日) 判決 原告 X 訴訟代理人弁護士 河合弘之 同 松村昌人 同 蓮見和也 同 久保健一郎 被告 株式会社角川書店 訴訟代理人弁護士 前田哲男 同 池田靖 同 矢嶋慶 同 相羽利昭 同 若林剛 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 原告が、別紙映画目録記載の映画について、著作権(共有持分権を含む。)を有することを確認する。 第2 事案の概要 本件は、原告が、被告に対して、別紙映画目録記載の各映画(以下「本件各映画」と総称する。個々の映画を示すときは、本文においては「本件映画」の後に同目録の番号を付して表記し、別紙A及び別紙Bにおいては別紙映画目録の「題名」欄記載の題名により表記する。)の著作権(本件各映画のうちの一部については少なくともその共有持分権)を有することの確認を求めている事案である。 1 争いのない事実 (1) 被告は、昭和29年に設立された出版社である。 原告は、昭和50年から平成5年まで被告の代表取締役であった。また、原告は、昭和51年に映画等の製作等を目的として設立された株式会社角川春樹事務所(以下「春樹事務所」という。)の代表取締役を兼務していた。被告は、平成元年に、春樹事務所を吸収合併し、春樹事務所の権利義務をすべて承継した。なお、現在、被告ないし春樹事務所とは別に、「株式会社角川春樹事務所」という商号の会社が存在する。 (2) 本件各映画は、昭和51年ころから平成5年ころまでの間に製作され、それぞれ映画館において上映された。 2 争点 (1) 原告は、本件各映画の制作、監督等を担当して、その映画の全体的形成に創作的に寄与した者か(著作権法16条)。 (2) 原告は、本件各映画についての映画製作者か(著作権法29条1項)。 3 争点及び当事者の主張 (1) 争点(1) 原告は、本件各映画の制作、監督等を担当して、その映画の全体的形成に創作的に寄与した者か(著作権法16条)。 (原告の主張) 本件各映画は、その発案、出資者との交渉、選定、映画の制作過程の指揮監督、作成された映画の頒布に関する第三者との交渉等あらゆる面で、原告の才能に依拠した制作・頒布形態が採られた。原告が本件各映画の著作者であることについての詳細は、別紙A「著作権法16条の適用に関する原告の主張」記載のとおりである。したがって、原告は、制作、監督として、本件各映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与したといえる。なお、本件映画17、27、38、49、59は、原告自身が監督を務めている。 また、本件各映画には、その原作品のスタッフロールに、原告の氏名が掲載されているので、原告は本件各映画の著作者と推定される。 以上のとおり、原告は、本件各映画の制作、監督等を担当して、その映画の全体的形成に創作的に寄与した者であるから、本件各映画について著作権を取得した。本件映画17、27、38、49、59については単独の、その余のものは各映画の監督との共有持分相当の、それぞれ著作権を有している。 (被告の反論) 否認する。原告が本件各映画の全体的形成に創作的に寄与した事実はない(なお、本件各映画のうち、原告自身が監督を担当したものは、数点にすぎない。)。 (2) 争点(2) 原告は、本件各映画についての映画製作者か(著作権法29条1項)。 (原告の主張) 本件各映画は、その発案、出資者との交渉、選定、映画の製作過程の指揮監督、作成された映画の頒布に関する第三者との交渉等あらゆる面で、原告の才能に依拠した製作・頒布形態が採られた。原告が本件各映画の著作者であることについての詳細は、別紙B「著作権法29条1項の適用に関する原告の主張」記載のとおりである。したがって、本件各映画の製作に発意と責任を有していた者は原告であり、本件各映画の映画製作者は原告である。なお、原告は、本件映画59の製作に当たり、1億円を出資した。 確かに、乙1ないし59(枝番号は省略する。以下同じ。)の各契約書には、各契約の当事者として春樹事務所の記名捺印が存在する。しかし、春樹事務所は、当時被告の代表者であった原告が、被告とは区別するために対外的な便宜のために設立したにすぎず、春樹事務所には、法形式上は法人格が存するが、同法人格は形骸化しており、春樹事務所は原告と同一と評価されるべきである。したがって、上記各契約の主体は、実質的には原告である(ただし、乙第27号証の3の契約を除く。)。また、仮に、春樹事務所の法人格が否認されなかったとしても、上記各契約の締結に際して、春樹事務所の取締役会決議を経ていないから、上記各契約は効力を有さない。 また、春樹事務所の法人格が認められたとしても、上記各契約書には、本件各映画の著作者である原告が春樹事務所に対して本件各映画の製作に参加することを約する旨の合意についての記載はない。本件各映画の著作権法(以下「法」という。)16条による著作者である原告が本件各映画の製作に参加した事実はない。 したがって、原告は、本件各映画についての映画製作者に当たり、法29条1項の規定により著作権を取得した。 (被告の反論) 映画製作者とは、「映画の製作に発意と責任を有する者」であり、映画の製作につき、「法律上の権利・義務が帰属する主体であって経済的な収入・支出の主体になる者」である。そして、乙1ないし59の各契約書から明らかなように、本件各映画はいずれも、被告が当事者となって、原作者に対価を支払って映画化権の譲受又は映画化許諾を受けたり、脚本家に対価を支払って脚本作成及び映画利用許諾等を受けたり、監督に対価を支払って監督としての役務提供を受けるなどの契約を締結して、映画を製作し、また、映画配給会社との間で配給契約を締結して、被告が製作、完成させた映画フィルム等を配給会社に納品する法的義務を負い、かつ、その配給の対価を取得する権利を有していた。したがって、本件各映画の製作に発意と責任を有していた者は、被告ないし春樹事務所であるといえる。原告は、被告ないし春樹事務所の代表取締役として、本件各映画の製作について関与したにすぎない。なお、原告は、被告に対して、本件映画59の製作に関して1億円を提供したが、これは、本件映画59の製作に対する出資であるから、これにより原告が本件映画59の製作者となるものではない。 以上のとおり、本件各映画の映画製作者は被告ないし春樹事務所である。 なお、著作権法29条の「参加することを約束し」とは、映画の著作物を製作する行為に参加する意思があったということであり、本件各映画のように通常の劇場用映画の場合であれば、その製作に参加した者は当然にこのような認識を有しているといえる。 第3 当裁判所の判断 1 争点(2)について 原告が法29条1項所定の本件各映画の映画製作者に該当するか否かについて検討する。 (1) 事実認定 証拠(乙1ないし59)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。 ア 本件各映画は、昭和51年から平成5年までの間に、「角川映画」と銘打って、劇場で上映されたが、その製作及び配給等に関する経緯は、以下のとおりである。 イ 春樹事務所は、昭和51年から平成元年までの間に、映画の配給会社と、@春樹事務所が契約の相手方である各配給会社に対して、本件映画1ないし44、46ないし49の配給を許諾すること、A春樹事務所と上記各配給会社は、上記各映画の配給収入を一定の割合により分配すること、B春樹事務所は、上記各配給会社に対して、一定の期限までに上記各映画を固定したものを引き渡し、上記各配給会社は、春樹事務所から引渡を受けた上記各映画を固定したものを、その配給期間が終了したら速やかに春樹事務所に返還すること等を内容とする契約をそれぞれ締結した。また、被告は、平成3年1月、映画の配給会社と、@被告は同配給会社に対して、本件映画50の配給を許諾すること、A被告と上記配給会社は、本件映画50の配給収入を一定の割合により分配すること、B被告は、上記配給会社に対して、一定の期限までに本件映画50を固定したものを引き渡し、上記配給会社は、被告から引渡を受けた上記各映画を固定したものを、その配給期間が終了したら速やかに被告に返還すること等を内容とする契約を締結した。さらに、被告は、平成3年から平成5年までの間に、映画の配給会社と、@被告は配給会社に対して、本件映画51ないし57、59の各映画を一定の期限までに完成すること、A被告は上記各配給会社に対し、上記各映画の配給等を委託すること、B被告と上記各配給会社は、上記各映画の配給収入を一定の割合により分配すること等を内容とする契約をそれぞれ締結した。そして、春樹事務所及び被告は、前記各契約に基づく債務を履行し、前記各契約を春樹事務所ないし被告と締結した上記各映画配給会社は、当該契約の対象となった本件各映画を実際に配給し、これにより、本件各映画は劇場で上映された。被告は、平成3年11月、KADOKAWA PRODUCTIONS U.S. INC(以下「KADOKAWA U.S. 」という。)との間で、@KADOKAWA U.S.は、被告の指図に従い本件映画58を制作し、完成し、被告に引き渡すこと、A被告はKADOKAWA U.S.に対し、本件映画58の制作料を支払うこと、B本件映画58の著作権は被告が有することを確認すること、C被告は、KADOKAWA U.S.に対し、本件映画58の配給を許諾すること、C本件映画58の配給収入は被告が受領すること等を内容とする契約が締結された。そして、被告及びKADOKAWA U.S. は、それぞれ、上記契約の債務を履行し、これにより本件映画58は劇場で上映された。 ウ 春樹事務所は、本件映画1、7、8、16、19、25、28、30、32、35、37ないし41、43ないし49の各原作の著作権者との間で、春樹事務所は、上記各著作権者から上記各原作についての映画化権、上映権等を譲り受け、その対価を支払うことなどを内容とする契約を締結し、上記各原作についての映画化権及び上映権等を譲り受けた。また、被告は、本件映画51、53、55ないし57について、その原作の著作権者との間で、上記と同様の内容の契約を締結し、上記各映画の各原作についての映画化権及び上映権等を譲り受けた。 エ 春樹事務所は、脚本家ないし脚本家を擁する法人との間で、本件映画1、4ないし7、11、13、16ないし20、22、23、26ないし28、34、37、38、43、46、47、49ないし52について、上記各脚本家は、春樹事務所のために上記各映画の脚本を作成し、春樹事務所は、上記各脚本家等に対してその対価を支払うこと等を内容とする契約を締結し、同各契約に基づき、上記各映画の脚本が作成された。また、被告は、本件映画53、55ないし57について、脚本家との間で、上記と同様の内容の契約を締結し、同契約に基づき、上記各映画の脚本が作成された。 オ 春樹事務所は、映画監督ないし映画監督を擁する法人との間で、本件映画5ないし7、10、11、13、16、18、20、22、23、26ないし28、37、43について、上記各映画監督は春樹事務所に対し上記各映画の監督としての役務を提供し、春樹事務所は上記各映画監督等に対してその対価を支払うこと等を内容とする契約を締結し、同契約に基づき、上記各映画監督はそれぞれ上記各映画の監督をした。また、被告は、本件映画51、52について、映画監督との間で、上記と同様の内容の契約を締結し、同契約に基づき、上記各映画について監督としての役務が提供された(なお、本件映画27については、原告が映画監督としての上記契約の一方当事者となった。)。 カ 春樹事務所は、株式会社博報堂(以下「博報堂」という。)との間で、本件映画46及び47について、博報堂が春樹事務所に対して協賛金を支払い、春樹事務所は博報堂に対して、上記各映画の配給収入等の利益のうち、当該契約に規定した計算方法により算定した金額を支払うこと等を内容とする契約を締結した。 キ 被告は、株式会社IMAGICA(以下「IMAGICA」という。)との間で、本件映画50、52ないし57について、IMAGICAは上記各映画の製作費の一部を負担すること、被告は上記各映画を製作、完成し、上記各映画の著作権は被告が有することを確認すること、被告はIMAGICAに対して、上記各映画の配給収入の分配金を支払うこと等を内容とする契約を締結した。また、被告は、松竹株式会社との間でも、本件映画51及び59について、上記と同様の内容の各契約を締結した。また、被告は、原告から、被告に対して、本件映画59の製作のために、1億円の出資を受ける契約をした。 (2) 判断 ア 上記認定した事実を基礎として、法29条1項所定の映画製作者が誰であるか等について検討する。 法2条1項10号は、映画製作者について、「映画の製作について発意と責任を有する者」と規定している。すなわち、映画製作者とは、自己の危険と責任において映画を製作する者を指すというべきである。映画の製作は、企画、資金調達、制作、スタッフ及びキャスト等の雇い入れ、スケジュール管理、プロモーションや宣伝活動、並びに配給等の複合的な活動から構成され、映画を製作しようとする者は、映画製作のために様々な契約を締結する必要が生じ、その契約により、多様な法律上の権利を取得し、又、法律上の義務を負担する。したがって、自己の危険と責任において製作する主体を判断するためには、これらの活動を実施する際に締結された契約により生じた、法律上の権利、義務の主体が誰であるかを基準として判断すべきことになる。 そして、上記の判断基準に照らすと、当裁判所は、以下の(ア)ないし(ウ)のとおり、本件各映画のすべてについて、その映画製作者は春樹事務所又は被告であると認定するのが相当であると判断した。確かに、証拠(甲6、乙1ないし59)並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、本件各映画の製作に携わったことが認められるけれども、その際に関係者と締結された契約における当事者は、前記(1)及び後記(ウ)のとおり、すべて春樹事務所又は被告であるから、そうである以上、法律上の権利、義務の主体、すなわち、法的な観点からの危険と責任の主体は、原告ではなく、春樹事務所又は被告というべきである。 (ア) 本件映画1ないし44、46ないし57、59については、春樹事務所又は被告は、上記各映画の配給をした配給会社との間で、同配給会社に対し、上記各映画を一定の期限までに完成する債務を負担し、上記各映画の配給を許諾し、上記各配給会社と上記各映画の配給収入を一定の割合により分配することを内容とする契約を締結し、上記各契約の各債務はいずれも履行され、これにより、上記各映画が上映されるに至ったのであるから、上記各映画の製作に発意と責任を有していた者が春樹事務所又は被告であったことは明らかである。 (イ) 本件映画58については、被告は、KADOKAWA U.S.との間で、KADOKAWA U.S.が、被告の指図に従い本件映画58を制作し、完成し、被告に引き渡すこと、被告がKADOKAWA U.S.に対し、本件映画58の制作料を支払うこと、本件映画58の著作権は被告が有することを確認すること、被告は、KADOKAWA U.S.に対し、本件映画58の配給を許諾すること、本件映画58の配給収入は被告が受領すること等を内容とする契約を締結し、上記契約の各債務はいずれも履行され、これにより本件映画58は劇場で上映されるに至ったのであるから、本件映画58の製作に発意と責任を有していた者が被告であったことは明らかである。 (ウ) 本件映画45については、春樹事務所又は被告と、配給会社、監督、脚本家との間の契約書が存在しない。しかし、@本件映画45について、春樹事務所が、契約主体となって、原作に関する映画化権及び上映権等を取得していること、A上記のとおり、本件映画1ないし44、46ないし59は、春樹事務所又は被告が製作者となって、昭和51年ころから平成5年ころまでの間に製作され、「角川映画」として劇場上映されており、本件映画45についても、上記期間の間に「角川映画」として劇場上映されていたこと等の事実に照らすならば、映画の製作や利益分配等に関する配給会社、監督、脚本家等との契約内容は、本件映画45の場合もその余の本件映画の場合とほぼ同様であったと推認される。そうすると、本件映画45についても、その製作に発意と責任を有していた者は春樹事務所であり、その映画製作者は春樹事務所であったというべきである。 この点について、原告は、春樹事務所の法人格は形骸化しており、春樹事務所は原告と同一である旨主張する。しかし、本件全証拠によっても、上記事実を認めるに足りない(前記(1)のとおり、本件映画27の監督の役務の提供についての契約は、春樹事務所と原告とで締結しており、このことからも原告の上記主張が失当であることは明らかである。)。 その他、原告は、原告が本件各映画の製作者であることについて縷々主張するが、前記認定に照らし、いずれも理由がない。 イ 次に、前記認定した本件各映画の製作の経緯からすると、本件各映画の著作者は、春樹事務所又は被告に対して、本件各映画の製作に参加することを約束していたものと認められ、本件証拠中、これに反する証拠はない。 ウ 以上のとおり、本件各映画については、春樹事務所又は被告が映画製作者に該当するから、本件各映画の著作権は、春樹事務所又は被告が取得したことになる。本件各映画の著作権は、被告に帰属する(前記争いのない事実で判示したように、被告は春樹事務所の権利義務をすべて承継した。)。なお、著作権法29条の規定により、被告らが著作権者であると認められる以上、同法16条についての判断は必要がない。 2 よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 榎戸道也 裁判官 佐野信 別紙映画目録 省略 別紙A「著作権法16条の適用に関する原告の主張」 (省略) 別紙B「著作権法29条1項の適用に関する原告の主張」 (省略) |
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