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【事件名】RGB体感ムービーキャラクター事件(3)
【年月日】平成15年4月11日
 最高裁(二小) 平成13年(受)第216号 著作権使用差止請求事件
 (二審・東京高裁平成11年(ネ)第4341号/一審・東京地裁平成9年(ワ)5200号)

判決


主文
 原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
 前項の部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由
 上告代理人奥野雅彦、同丸山敦朗の上告受理申立て理由第2の2ないし4について
1 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
(1) 上告人は、アニメーション等の企画、撮影等を業とする株式会社である。被上告人は、中華人民共和国国籍のデザイナーである。
(2) 被上告人は、平成4年ころから、アニメーションの製作スタジオを経営する香港の会社に在職しており、日本のアニメーション製作技術を習得することを希望していた。上告人の代表者は、同社に出資していたことが契機となって被上告人を知り、被上告人の希望の実現に協力することにした。
 被上告人は、平成5年7月15日に来日して同年10月1日に出国した後、同月31日に来日して同6年1月29日に出国し、さらに、同年5月15日に来日し、それ以降我が国に滞在した。この1回目及び2回目の来日はいわゆる観光ビザによるもの、3回目の来日はいわゆる就労ビザによるものであった(以下、それぞれの来日を「1回目の来日」などという。)。
(3) 被上告人は、1回目の来日の直後から、上告人の従業員宅に賄い付きで居住し(その費用は上告人が負担した。)、上告人のオフィスにおいて作業をした。被上告人は、上告人から、1回目及び2回目の来日期間並びに各来日の後に帰国した期間を含む平成5年8月分から同6年2月分までとして、毎月、基本給名目で12万円(これに加え、同5年8月分は特別手当名目で5万円)の支給を受けた。ただし、雇用保険料、所得税等の控除はされていなかった。上告人は、上記各支払の都度、その内訳を明記した給料支払明細書を被上告人に交付していた。なお、この当時、被上告人につきタイムカードや欠勤届、外出届等による勤務管理はされていなかった。
(4) 被上告人は、1回目の来日をした平成5年7月ころから3回目の来日後である同6年11月ころまでの間、上告人が企画したアニメーション作品等のキャラクターとして用いるために、原判決別紙物件目録記載の図画を作成した。このうち、同目録中の番号一ないし六、八、九及び一九ないし二三の各図画(以下「本件図画」と総称する。)は3回目の来日前に作成されたものである。
 上告人は、本件図画を使用して、70ミリ・シージー・ステイション・シミュレーション・ライド・フィルム「アール・ジー・ビー・アドベンチャー」(以下「本件アニメーション作品」という。)を製作し、これを日本国内のテーマパークにおいて上映した。被上告人の氏名は、本件アニメーション作品に本件図画の著作者として表示されていない。
(5) 被上告人は、上告人に対し、平成8年6月6日付けで退職届を提出した。
2 本件は、被上告人が、本件図画についての著作権及び著作者人格権に基づいて、上告人に対し、本件アニメーション作品の頒布等の差止め及び損害賠償を求めた訴訟である。上告人は、本件図画は被上告人が上告人との間の雇用契約に基づいて職務上作成したものであるから、著作権法15条1項の規定により、その著作者は上告人であると主張した。
3 原審は、次のとおり判断して、被上告人の請求を一部認容した。
 1回目と2回目の来日には、被上告人がいわゆる就労ビザを取得していなかったこと、上告人が被上告人に対し就業規則を示して勤務条件を説明したと認められないこと、雇用契約書の存在等の雇用契約の成立を示す明確な客観的証拠がないこと、雇用保険料、所得税等が控除されていなかったこと、タイムカード等による勤務管理がされていなかったことに照らすと、3回目の来日前に、上告人と被上告人との間に雇用契約が成立したと認めることはできない。したがって、本件図画は被上告人が上告人の業務に従事する者として作成したものではなく、上告人がその著作者であるとすることはできないから、上告人による本件アニメーション作品の製作等は、被上告人の著作権及び著作者人格権の侵害に当たる。
4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
(1) 著作権法15条1項は、法人等において、その業務に従事する者が指揮監督下における職務の遂行として法人等の発意に基づいて著作物を作成し、これが法人等の名義で公表されるという実態があることにかんがみて、同項所定の著作物の著作者を法人等とする旨を規定したものである。同項の規定により法人等が著作者とされるためには、著作物を作成した者が「法人等の業務に従事する者」であることを要する。そして、法人等と雇用関係にある者がこれに当たることは明らかであるが、雇用関係の存否が争われた場合には、同項の「法人等の業務に従事する者」に当たるか否かは、法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに、法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり、法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを、業務態様、指揮監督の有無、対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して、判断すべきものと解するのが相当である。
(2) これを本件についてみると、上述のとおり、被上告人は、1回目の来日の直後から、上告人の従業員宅に居住し、上告人のオフィスで作業を行い、上告人から毎月基本給名目で一定額の金銭の支払を受け、給料支払明細書も受領していたのであり、しかも、被上告人は、上告人の企画したアニメーション作品等に使用するものとして本件図画を作成したのである。これらの事実は、被上告人が上告人の指揮監督下で労務を提供し、その対価として金銭の支払を受けていたことをうかがわせるものとみるべきである。ところが、原審は、被上告人の在留資格の種別、雇用契約書の存否、雇用保険料、所得税等の控除の有無等といった形式的な事由を主たる根拠として、上記の具体的事情を考慮することなく、また、被上告人が上告人のオフィスでした作業について、上告人がその作業内容、方法等について指揮監督をしていたかどうかを確定することなく、直ちに3回目の来日前における雇用関係の存在を否定したのである。そうすると、原判決には、著作権法15条1項にいう「法人等の業務に従事する者」の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ず、論旨は理由がある。
5 以上によれば、原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり、原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして、前記の点につき更に審理を尽くさせるため、上記部分につき本件を原審に差し戻すこととする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

最高裁判所第二小法廷
 裁判長裁判官 梶谷玄
 裁判官 福田博
 裁判官 北川弘治
 裁判官 亀山継夫
 裁判官 滝井繁男            
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