判例全文 line
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【事件名】映画のビデオ化事件(2)
【年月日】平成15年3月31日
 東京高裁 平成13年(ネ)第1908号 損害賠償等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成10年(ワ)第543号)
 (平成14年12月2日口頭弁論終結)

判決
控訴人 有限会社ユタカインダストリー
訴訟代理人弁護士 林正紀
被控訴人 株式会社東北新社
被控訴人 A
両名訴訟代理人弁護士 宇都宮秀樹
同 大毅
同 渡邊肇
同 田淵智久
同 末吉亙
同 三好豊
同 松村祐土
同 野口祐子


主文
 本件控訴を棄却する。
 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは、控訴人に対し、各自8000万円及びこれに対する平成10年2月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人らの負担とする。
第2 事案の概要
 控訴人は、別紙映画著作物目録一〜二八記載の映画の著作物(以下、順に「本件映画著作物一〜二八」といい、併せて「本件映画著作物」という。)の著作権(以下「本件著作権」という。)又はその一部であるビデオグラムの複製権及び頒布権を取得した者であり、被控訴人らが、本件映画著作物をビデオグラムに複製し、これを頒布して控訴人の上記権利を侵害し、ビデオカセット等の販売価格相当の損害を被らせ、又は法律上の原因なく利益を受け、控訴人に損失を被らせたとして、被控訴人らに対し、40億円のうち8000万円につき、不法行為に基づく損害賠償請求又は不当利得返還請求をしている事案である。
 原審は、控訴人が本件著作権を取得したとは認められないとして、控訴人の請求をいずれも棄却した。
1 控訴人の主張
1−1 原審の訴訟手続の法律違反
 原審の訴訟手続は、記録上、平成12年11月22日午後2時に準備手続室において弁論準備手続が開かれ、裁判長は口頭弁論期日を同日時と指定し、その旨双方代理人に口頭で告知され、同日時、第2回口頭弁論が法廷で公開されて開かれ、従前の口頭弁論の結果陳述及び弁論準備手続の結果陳述がされて、弁論が終結されたとある。しかし、当日の訴訟手続は、準備手続室において弁論準備手続が開かれ、引き続き、その場で弁論が終結されたものであって、「不特定かつ相当数の者が自由に裁判を傍聴しうる状態」(東京地裁昭和62年2月12日判決・判例時報1222号28頁参照)にある公開法廷に関係者が移動した事実はない。したがって、原審の第2回口頭弁論期日における訴訟手続は、口頭弁論の公開の原則に違反した違法があり、原判決は取り消されるべきである。
1−2 控訴人の本件著作権の取得
(1) 前提事実
 RKO・ラジオ・ピクチャーズ・インク(その後「RKO・ジェネラル・インク」に商号変更、以下「アール・ケー・オー」という。)は、1955年(昭和30年)当時、本件著作権を有していた。
 1955年(昭和30年)12月22日、アール・ケー・オーとC&Cテレビジョンコープ(以下「シー・アンド・シー」という。)は、本件著作権ないし本件映画著作物に関して、同日付け契約(乙11−1、乙36、以下「55年契約」という。)を締結した。
 シー・アンド・シーを承継したテレビジョン・インダストリーズ・インク(以下「インダストリーズ社」という。)を更に承継したトランスベアコン(以下「破産会社」ともいう。)が破産したところ、その破産手続(以下「本件破産手続」という。)において、1971年(昭和46年)6月1日付けの米国ニューヨーク州南部連邦地方裁判所ライアン破産判事(以下「ライアン破産判事」という。)の決定に基づき、同月2日付けで、破産会社のアル・ブランバーグ破産管財人によってバンクラプシー・セール(以下「本件バンクラプシー・セール」という。)がされた。
 控訴人は、以下の理由により、本件著作権又はその一部であるビデオグラムの複製権及び頒布権を取得した。
(2) 「司法売買の原則」から生ずる国家行為の承認
ア 55年契約は、アール・ケー・オーがシー・アンド・シーに対し、本件著作権ないし本件映画著作物に関する一定の物権的権利を譲渡することを内容とするものである。本件破産手続が開始される前にアール・ケー・オー外1名が破産前のトランスベアコン及びフィルムズ・インコーポレイテッドに対し提起した本件映画著作物一一及び一六に係る著作権侵害訴訟(米国ニューヨーク州南部連邦地方裁判所1969CIV.3648、以下「フィルムズ訴訟」という。)におけるアール・ケー・オーの訴状(甲70、乙44)の「全世界のすべてのテレビ放映権はトランスベアコン社に許諾されている」(甲70訳文2頁)との記載からすれば、55年契約の解釈に当たって、テレビ放映のための一時固定物は16ミリフィルム及び35ミリフィルムに限定されないことは明らかである。また、55年契約においては、シー・アンド・シーに訴訟提起権が与えられ、著作権更新登録及び映画著作物の頒布権の維持のために必要となる音楽著作物及び言語著作物のライセンスの維持について、いずれもシー・アンド・シー70%、アール・ケー・オー30%の費用負担で、第1次的にアール・ケー・オーの名義、第2次的にシー・アンド・シーの名義で行う等の忠実的法律関係(fiduciary relationship)が、シー・アンド・シーとアール・ケー・オーとの間で生じており、信託的法律関係を生じさせるものである。そして、同契約は、これを前提に、アール・ケー・オーとシー・アンド・シーとの間で、「独占的、排他的な」(sole and exclusive)頒布権を配分していた。また、アール・ケー・オーは、形式的に著作権者の地位にあったとしても、受益者(beneficiary)であるシー・アンド・シーに対し、信託的法律関係を崩壊させるような行動をしてはならない義務を負っていた。
イ 1962年(昭和37年)11月17日、インダストリーズ社とオリエント・テレビジョン・インダストリーズ・インク(以下「オリエント社」という。)は、本件映画著作物に関して、インダストリーズ社がオリエント社に対して一定の権利を許諾する旨の同日付け契約(乙18、40−3、以下「62年契約」という。)を締結した。
 1966年(昭和41年)1月28日、インダストリーズ社とオリエント社は、62年契約で規定されていた許諾期間を1977年(昭和52年)1月1日まで延長すること等を内容とする同日付け契約(乙40−4、以下「66年契約」という。)を締結した。
ウ 1971年(昭和46年)6月2日付けでされた本件バンクラプシー・セールにおいて、控訴人は、譲渡証書(甲5、乙43、以下「本件譲渡証書」という。)に基づき、本件映画著作物を含む742作の長編映画及び900作の短編映画からなるアール・ケー・オー・ライブラリーの日本、沖縄、韓国及び台湾における複製権、放送権、有線送信権、上映権、頒布権、その他本件著作権を含むすべての著作権を譲り受けた。
 本件破産手続において、破産管財人が控訴人にどのような権利を譲渡したかを判断するに当たっては、破産財団に何が存在するかについての破産管財人の認識を基準とすべきである。本件譲渡証書には、「日本、沖縄、韓国、台湾又はこれらが現在構成する地域を領域として、テレビジョン・インダストリーズ・インクとオリエント・テレビジョン・インダストリーズ・インクとの間の1962年11月17日付け契約に記載され特定された映画著作物の初期著作権、更新著作権に基づく唯一かつ独占的権利及びライセンスにおけるすべての権利、資格、利益」(甲5訳文)として、ビデオグラムの複製権及び頒布権を含む完全な著作権が譲渡される旨が記載されている。したがって、本件バンクラプシー・セールにおいて、破産管財人は、本件映画著作物に関する日本における本件著作権を譲渡する意思を有していたことは明らかである。
エ 仮に、55年契約により、シー・アンド・シーが権利の一部のみを譲り受けていたとしても、本件破産手続において控訴人が本件著作権を取得したことは、以下の法理によって保護を受ける。
 まず、本件バンクラプシー・セールにおいて、フリー・アンド・クリアー(free and clear)の法理の適用がある。本件では、フリー・アンド・クリアーの適切な手続が行われ、ショー・コーズ・オーダー(order to show cause、甲31、乙40−1)に「免責証書を取り交し、特定の契約を承認する」(exchanging release and to affirm a certain contract)との記載がされている。これにより、承認された契約書に書かれた内容の権利が移転し、それ以外の債権債務関係がすべて消滅する。裁判所により特定の契約を承認する許可が与えられた以上、その契約にフリー・アンド・クリアーの趣旨を盛り込むことができる。本件バンクラプシー・セールは、申立て後、権利の排除される第三者に対して通知が行われるというフリー・アンド・クリアーの形式に沿っている。アール・ケー・オーは、このような機会を与えられながら異議を述べなかった。その結果、事件は既に確定し、従前の法律関係は、本件バンクラプシー・セールにおける本件譲渡証書(甲5)の契約条項で上書き(override)されている。したがって、被控訴人らは、国家によって上書きされる以前の消滅した法律関係を前提に主張を展開できる立場にはない。
 控訴人は、裁判所の決定によるバンクラプシー・セールで権利を取得したものであるから、ボナファイド・パーチェサー(bona fide purchaser)である。ボナファイド・パーチェサーとは、「裁判所の決定に基づくバンクラプシー・セールで権利を取得した者」を意味し、「裁判所の決定の部分が上訴で破棄されたとしても、バンクラプシー・セールで購入した権利は保護される」という米国判例法上で確立した法理を意味する。なお、本件では、バンクラプシー・セールを許可した決定が確定して既判力が生じ、破産手続は対物手続(in rem proceeding)であり対世的効力を生じた。したがって、控訴人は、ボナファイド・パーチェサーか否かを問題とするまでもなく、既判力を有する米国破産裁判所の決定に基づく本件バンクラプシー・セールで本件著作権を取得したと主張することで十分である。
 また、62年契約及び66年契約は、破産者とオリエント社との間で免責証書(甲4)を取り交わすことによって免責されて消滅している。
 我が国の裁判所は、本件著作権が破産会社に帰属していたか、また、これが本件バンクラプシー・セールの対象とされていたかについて判断することはできない。破産手続の係属中はもちろん、破産手続が終結した後においても、破産者の資産に対しては破産裁判所に専属管轄がある。したがって、本件バンクラプシー・セールにおいて権利を取得する際の控訴人のボナファイドネスの有無を判断する専属管轄は、バンクラプシー・セールの前後を通じてニューヨーク州南部連邦地方裁判所の破産裁判所にある。この裁判管轄の問題は、国際私法上、外国国家政府によってその管轄権に基づいてされた国家行為を、日本国政府が承認するかという問題に帰結するので、国際的協調の観点を尊重しなければならない。
(3) ニューヨーク州法による無条件の権利の取得
 55年契約は第16.6項において、62年契約は第13.8項において、いずれも準拠法をニューヨーク州法と指定しているから、契約関係者間において、上記各契約の解釈、運用に基づく法的効果の実現については、ニューヨーク州法が適用され、「忠実的法律関係」(fiduciary relationship)、「信託的法律関係」(trust relationship)、「解釈上の信託」(constructive trust)、「探索責任(burden of tracing)」「衡平法上の禁反言」(equitable estoppel)、「権利失効の原則」(laches)及び「拘束力のない不能な条件」(impossibillium nulla obligatio est)等の法理の適用がある。
 上記各契約は、いずれも信託的法律関係であるから、55年契約に基づく条件及び限界は、控訴人の権利を制限する約款としては、遅くとも1971年(昭和46年)には、禁反言及び権利失効の原則によって、無効となった。
 また、電波によりテレビ放送を行うには、音声と映像のかい離を回避するために電磁記録媒体であるビデオテープに一時固定する必要があり、これが許されないのであれば、控訴人が取得した権利は全く意味がなく実効性のない権利となってしまう。したがって、上記各契約の「16ミリフィルム又は35ミリフィルムを用いて」との文言は、遵守することが不可能な制約であり、拘束力がない。
(4) 時効取得
 仮に、控訴人の本件バンクラプシー・セールによる本件著作権の取得に瑕疵があったとしても、控訴人は、1971年(昭和46年)6月1日付けのライアン破産判事の決定に基づく、同月2日付け本件バンクラプシー・セールにより、本件著作権を取得したと過失なく信じ、以後、次の@〜Fのとおり、本件著作権を、劇場上映、テレビ放映及び劇場以外の頒布により、少なくとも10年間以上、反復継続して行使したから、10年を経過した昭和56年6月2日には本件著作権を時効取得した。そこで、控訴人は、被控訴人らに対し、平成13年6月6日の当審口頭弁論期日において、上記時効を援用する旨の意思表示をした。
@ 控訴人は、昭和46年ころから昭和50年ころまで、その関連会社を通じ、被控訴人株式会社東北新社(以下「被控訴人会社」という。)に本件映画著作物を含む少なくとも200作以上のアール・ケー・オー・ライブラリーを構成する映画についてライセンスし、被控訴人会社は、そのころ、これらの映画を我が国の各テレビ局で放送させた。
A そのころ、控訴人は、テレビ東京に対し、アール・ケー・オー・ライブラリーである「キングコング」(本件映画著作物一一)をライセンスし、テレビ東京は、これを放送した。
B その後、控訴人及びその関連会社であるワールドワイドフィルム有限会社は、控訴人の協力者であるインターナショナルプロモーションに対し、「市民ケーン」(本件映画著作物一六)の劇場上映権をライセンスした。
C また、インターナショナルプロモーションに対する個別の承諾に応じて、劇場上映権、テレビ放映権及び劇場以外の頒布権について、頒布した。
D 控訴人は、ワールドワイドフィルムを通じて、株式会社東京ダビングに対し、テレビ放映権を許諾し、そのころ同権利は日本放送協会(NHK)に売却され、NHKはこれを放送した。
E インターナショナルプロモーションが、控訴人の許諾なく「市民ケーン」(本件映画著作物一六)外の映画を日本テレビにライセンスし、平成2年11月3日、日本テレビがこれを放送するという事件が発生した際、控訴人は、著作権者として紛争処理に奔走した。
F 控訴人は、昭和46年6月2日から現在に至るまで、フィルムズ訴訟に係る本件映画著作物一一及び一六について、美術館の要望及び問い合わせに従い、その上映、頒布につき許諾を行ってきた。
(5) 対抗要件の欠缺について
 被控訴人会社は、控訴人の本件著作権の譲受けについて、対抗要件の欠缺を主張するが、米国倒産手続において権利の譲渡を受けた控訴人には、双方申請を原則とする我が国の著作権の登録を受ける手段はないのみならず、著作権の登録制度は、外国著作物について方式主義による登録を義務付けることになり、ベルヌ条約の無法式主義の履行義務に反する。したがって、米国著作物について米国の取引法に基づいて帰属が決められた著作権については我が国著作権法77条の適用はなく、対抗要件欠缺の主張は許されない。
 また、著作権の登録制度は、現実の利用者が少なく、制度として機能していないから、対抗要件欠缺の主張を適用することは、条理に反する。
 さらに、本件バンクラプシー・セールには、既判力があり、アール・ケー・オーに対しても効力が及ぶ以上、被控訴人会社が、アール・ケー・オーから権利を承継したと主張することは許されない。加えて、被控訴人会社は、昭和47年ころより、「キングコング」(本件映画著作物一一)を除いたアール・ケー・オー・ライブラリーを構成する200作余りの映画著作物について、控訴人の関連会社を通じて、控訴人からライセンスを受けていた。それにもかかわらず、控訴人が我が国の著作権の登録制度の欠陥から登録を得ることができないことにより、アール・ケー・オーから本件映画著作物について権利を取得したと主張することは、信義則に反し、被控訴人会社は背信的悪意者に当たるから、控訴人の対抗要件の欠缺を主張することはできない。
1−3 被控訴人らの著作権侵害行為
 被控訴人会社は、本件映画著作物をビデオグラムに複製し、これを第三者に頒布し、被控訴人A(以下「被控訴人A」という。)は、被控訴人会社の代表取締役として、上記行為を行った。被控訴人らのこれらの行為は、控訴人の有する本件著作権又はその一部であるビデオグラムの複製権及び頒布権の侵害に当たる。
1−4 控訴人の損害ないし損失
(1) ビデオカセットのレンタル市場における損害
 平成元年11月1日当時、社団法人日本映像ソフト協会に加盟するレンタル許諾店は7606店であり、レンタルショップにおける本件映画著作物に係るビデオカセットの販売価格は、1本当たり1万5800円である(甲56)。1店舗につき、「市民ケーン」(本件映画著作物一六)は2本、その余の27作は少なくとも各1本は販売できたから、その販売価格相当の損害額は34億8506万9200円となり、レンタル市場に控訴人が参入できなかった損害は相当の金額に上る。そこで、その損害額は、合計36億0524万4000円又は裁判所が適正に評価するこれに準ずる金額とする。
(2) ビデオカセット及びレーザーディスクのセル市場における損害
 平成11年11月1日当時、ビデオカセット及びレーザーディスク市場における販売価格は1本当たり3800円である(甲60)ところ、本件映画著作物は、過去5年間、平均3万本以上は販売できたことが推認されるから、その販売価格相当の損害額は、合計5億7000万円となる。
(3) 弁護士費用
 本件訴訟において、被控訴人らに負担させるべき弁護士費用は、8000万円又は認容額の10%のいずれか多い金額が相当である。
(4) 損害賠償請求
 以上のとおり、控訴人の損害は40億円を下らないが、その一部である8000万円について損害賠償請求する。
(5) 不当利得返還請求
 また、被控訴人らは、法律上の原因なくして上記著作権侵害行為により利益を受け、これにより控訴人は損失を被ったが、その額は、上記のとおり40億円を下らないから、その一部である8000万円について不当利得返還請求する。
1−5 消滅時効について
 被控訴人らの消滅時効の主張は、時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきである。
 仮にそうでないとしても、被控訴人会社の許諾に基づいて「セル・オア・レント」方式で市場に流通させたビデオカセットについては、被控訴人らが市場からリコールを行う義務を負う。そして、継続的不法行為においては、損害が継続して発生する限り、日々新たな不法行為として、各損害を知ったときから各別に消滅時効が進行するものであるところ、被控訴人らは、昭和59年以来、現在に至るまで、「セル・オア・レント」方式で違法にビデオカセットを市場に流通させ、控訴人の頒布権を侵害しているから、被控訴人らの消滅時効の主張は理由がない。
2 被控訴人らの主張
2−1 原審の訴訟手続の法律違反について
 原審の第2回口頭弁論の方式は、当該期日の口頭弁論調書に記載のとおりであり、控訴人の主張は失当である。
2−2 控訴人の本件著作権の取得について
 控訴人が本件著作権又はその一部であるビデオグラムの複製権及び頒布権を取得した事実はない。
(1) 「司法売買の原則」から生ずる国家行為の承認について
ア 控訴人主張のフィルムズ訴訟は、域外地域に関するものではなく、ビデオグラムに関する解釈が争われたものでもないから、本件とは無関係であるのみならず、同訴訟に係る訴状においても、非劇場上映権については16ミリフィルムのみを使用するものに限定されることを明確に述べている。また、控訴人が根拠とする本件バンクラプシー・セールにおける本件譲渡証書の存在自体が疑わしい上、本件譲渡証書に記載されている1万ドルの破産管財人に対する支払は実際には行われておらず、破産管財人も、本件譲渡証書は記載された作成日より後に作成されたものであると言明している。破産裁判所は、オリエント社に対する譲渡を許可したのであって、本件譲渡証書に記載された控訴人に対して許可したものではない。債権者への通知も、オリエント社に対する譲渡についての同意を求めている。したがって、控訴人が、本件破産手続において、本件譲渡証書に基づき、本件映画著作物に関して何らかの権利を取得したことはない。
イ 破産会社が、本件著作権又はその一部であるビデオグラムの複製権及び頒布権を取得していないことは、以下の経緯からも明らかである。すなわち、1909年米国著作権法の下では、著作権は不可分のものとされ、著作権全体としてでなければ移転できなかったところ、シー・アンド・シーは、アール・ケー・オーの有する権利の一部のみについて権利の設定を受けたのであるから、著作権を取得したものと解する余地はなく、ライセンシーの地位を取得したにすぎない。55年契約の第3.1項に「第3.02項、第3.03項及び第3.04項に基づいてC&Cに対し明確に付与されていないすべての権利は・・・RKOに明確に留保されている」(乙36訳文23頁)と規定されているとおり、本件映画著作物の著作権はアール・ケー・オーに留保され、アール・ケー・オーは、現在も留保された本件著作権を有しており、ライセンサーとしての立場にある。このように、シー・アンド・シーは、本件映画著作物についてアール・ケー・オーが有する権利の一部について、55年契約により許諾を受けた単なるライセンシーの地位、すなわち、@35ミリフィルム及び16ミリフィルムを用いた劇場上映権、A35ミリフィルム及び16ミリフィルムを用いたテレビ放映権及びB16ミリフィルムを用いた非劇場上映権という極めて限定された権利をライセンスされた者にすぎず、アール・ケー・オーとの間において、控訴人主張の忠実的法律関係ないし信託的法律関係が成立する余地はない。55年契約の第12条は、映画の著作権の更新費用をアール・ケー・オーとシー・アンド・シーとの間において分担することを規定するが、この規定の目的は、本件映画著作物の劇場上映権、テレビ放映権及び非劇場上映権のライセンシーの地位にあったシー・アンド・シーも、著作権の更新につき利益を享受する立場にあったことから、更新費用の一部負担を求めたものにすぎない。
 55年契約において、非劇場上映権の許諾は、16ミリフィルムを使用するもののみについて行われ、非劇場上映権からはホームユース権(家庭で上映する権利)が除外されているのであるから、シー・アンド・シーは、55年契約によって、家庭用ビデオグラムの複製権及び頒布権を取得したことはない。そして、62年契約は、55年契約の条項が組み入れられており、55年契約の範囲内でのみ再許諾することが明記されている以上、インダストリーズ社は、62年契約により、オリエント社に対し、自己の有する16ミリフィルムを使用する非劇場上映権(ホームユース権は含まない。)のみを再許諾したにすぎない。したがって、破産会社もまた、家庭用ビデオグラムの複製権及び頒布権を取得したことはない。
ウ 仮に、控訴人が、本件バンクラプシー・セールによって一定の権利を取得したとしても、本件バンクラプシー・セールの対象には、本件著作権は含まれておらず、また、本件破産手続に適用される1898年米国破産法上、破産管財人が破産手続の中で第三者に対して売却できる財産は、当該破産手続の破産財団を構成する財産だけであり、破産管財人は破産者の有していた財産に関する権原を承継するにすぎない。また、上記のとおり、1909年米国著作権法の下では著作権は不可分であったから、破産会社が一部の権利しか取得していない以上、本件著作権はアール・ケー・オーに留保され、本件バンクラプシー・セールにより控訴人に本件著作権が移転することはない。
エ 本件バンクラプシー・セールにおいて、控訴人主張のフリー・アンド・クリアーの法理の適用はない。フリー・アンド・クリアーの法理は、売却対象の資産に負担(lien)が付着している場合において、一定の要件を満たす譲渡により、この負担が除去され、譲受人が負担の付着のない完全な権利を取得するという理論にすぎない。そして、この法理が破産手続中の売却について適用されるためには、破産管財人が、当該売却において対象資産の負担を除去したい旨を明示した許可申請書を提出し、破産裁判所が、負担を除去する旨の売却許可決定をする必要がある。本件において、アール・ケー・オーが留保していた権利は、本件著作権そのものであり、負担ではない。また、本件バンクラプシー・セールの売却許可決定には、負担を除去する旨の記載はない。
オ 控訴人は、ボナファイド・パーチェサーではない。控訴人主張に係るボナファイド・パーチェサーの法理は、権原の瑕疵について善意無過失である第三者は、その瑕疵が治癒されたものとして、売買の対象物について前主が有していた権利以上の権利を取得することがあり得るとのボナファイド・パーチェサー・フォア・バリュー・ウィズアウト・ノーティス(bona fide purchaser for value without notice)の理論をいうものと解されるが、アール・ケー・オーが留保した権利は、上記のとおり本件著作権そのものであり、瑕疵ではなく、また、控訴人は、62年契約の実質的な当事者であり、契約内容について悪意であったから、善意者として保護されることはなく、契約内容以上のものを要求することは公序良俗違反である。日本における本件著作権の譲渡の準拠法は、日本法であるが、我が国の著作権法の下では、著作権の善意取得は認められていない。
カ 控訴人の主張する相互免責は、1971年4月20日付け「契約及び譲歩を確認することを検討する債権者集会のためのショー・コーズ・オーダー」添付の破産管財人の許可申請書における「権利放棄(release)を取り交わすことによって」をいうものと解されるが、同文言は、破産管財人がオリエント社に対して有していた請求権を放棄することを意味するにすぎず、当該和解の当事者ではない第三者の権利に影響を与えるものではない。
キ 既判力は、当事者となっていない者に及ばず、また、審理の対象となっている権利以外には及ばないが、被控訴人らは、本件破産手続の当事者ではなく、本件著作権は審理の対象となっていない。また、控訴人及び被控訴人会社は東京に本店を有する日本法人であり、被控訴人Aは被控訴人会社の代表者であるから、原審裁判所に本件訴訟の管轄があることは明らかである。
(2) ニューヨーク州法による無条件の権利の取得について
 アール・ケー・オーとシー・アンド・シーとの間に信託的法律関係が成立する余地がないことは上記のとおりである。また、被控訴人らに禁反言ないし権利失効の原則などが適用される余地もなく、テレビ放映の問題は、本件と関係がない。
(3) 時効取得について
 本件著作権の時効取得をいう控訴人の主張は失当である。すなわち、まず、本件譲渡証書によって控訴人に対し譲渡された権利は、日本、沖縄、韓国及び台湾における、本件映画著作物に関する、@35ミリフィルム及び16ミリフィルムを用いた劇場上映権、A35ミリフィルム及び16ミリフィルムを用いたテレビ上映権、B16ミリフィルムのみを用いた非劇場上映権のライセンス権であり、控訴人の主張に係る行為は、いずれも上記ライセンス権の行使にすぎず、本件映画著作物の著作権者としての著作権の独占的、排他的行使には当たらない。また、著作権の時効取得が認められるためには、「自己ノ為ニスル意思」(民法163条)を有していることが必要であり、自主占有か否かは、財産権行使の原因となる事実によって外形的、客観的に定められるべきであるが(最高裁平成9年7月17日第一小法廷判決・民集51巻6号2714頁)、控訴人はライセンス権を有する者にすぎず、控訴人の主張に係る行為がいずれもライセンス権の行使にすぎないことは上記のとおりであるから、控訴人は、「自己ノ為ニスル意思」を欠く。さらに、本件バンクラプシー・セールの経緯から、控訴人が本件映画著作物の著作権者になり得ないことは一見して明白であるから、控訴人は、昭和46年6月2日当時、自己が著作権者ではないことについて悪意であり、仮に善意であったとしても、過失があったというべきである。
(4) 対抗要件の欠缺
 仮に、控訴人が本件著作権の譲渡を受けたとしても、被控訴人会社は、本件映画著作物の著作権者であるアール・ケー・オーからそのビデオグラムの複製権及び頒布権の再許諾を受けており、対抗要件の欠缺を主張できる法的利害関係を有する第三者であるから、控訴人が本件著作権の譲渡について移転登録を経ていない以上、被控訴人会社に対し、その譲受けを対抗することができない。控訴人は、被控訴人会社が背信的悪意者に当たるとも主張するが、映画について、テレビ放映権と家庭用ビデオグラムの複製権及び頒布権が別の者に帰属することは通常のことであり、被控訴人会社が、家庭用ビデオカセットを複製、頒布する権利について背信的悪意者ということはできない。
2−3 被控訴人らの著作権侵害行為について
 控訴人は、上記のとおり、本件著作権を取得していないから、被控訴人らの行為は、控訴人の著作権侵害行為には当たらない。
2−4 控訴人の損害ないし損失について
 控訴人の損害ないし損失の主張は争う。
2−5 消滅時効
 仮に、控訴人が本件著作権を取得し、被控訴人らの行為が著作権侵害の不法行為に当たるとしても、控訴人は、昭和62年6月15日までには、不法行為の損害及び加害者を知っていたから、本訴提起(平成10年1月14日)より3年以前に発生した不法行為に基づく損害賠償請求権については、3年の消滅時効期間が満了した。そこで、被控訴人らは、控訴人に対し、平成11年11月19日の原審弁論準備手続期日において、上記時効を援用する旨の意思表示をした。
第3 当裁判所の判断
1 原審の訴訟手続の法律違反について
 控訴人は、平成12年11月22日午後2時に開かれた原審の第2回口頭弁論期日における訴訟手続は、口頭弁論の公開の原則に違反した違法があると主張する。しかし、原審の第2回口頭弁論調書には、「場所及び公開の有無」欄に「東京地方裁判所民事第二九部法廷で公開」と記載され、同口頭弁論調書は権限ある書記官によって法定の形式を具備して作成されたことが記録上明らかである。そして、口頭弁論の公開・非公開は、口頭弁論の方式に関するものであり、口頭弁論の方式に関する規定の遵守は調書によってのみ証明することができる(民事訴訟法160条3項本文)事項であるところ、控訴人の上記主張は、口頭弁論調書の上記記載に反するものであるから、それ自体失当というほかない。
2 控訴人の本件著作権の取得原因1(「司法売買の原則」から生ずる国家行為の承認)について
(1) アール・ケー・オーが1955年(昭和30年)当時本件著作権を有していたこと、シー・アンド・シーを承継したインダストリーズ社を更に承継したトランスベアコンが破産したこと、その破産手続(本件破産手続)において、1971年(昭和46年)6月1日付けの米国ニューヨーク州南部連邦地方裁判所ライアン破産判事の決定に基づき、同月2日付けで、破産会社のアル・ブランバーグ破産管財人によって本件バンクラプシー・セールがされたことは当事者間に争いがない。
(2) 控訴人は、1955年(昭和30年)12月22日にアール・ケー・オーとシー・アンド・シーが締結した55年契約(乙11−1、乙36)は、アール・ケー・オーがシー・アンド・シーに対して、本件著作権ないし本件映画著作物に関する一定の物権的権利を譲渡することを内容とするものであったと主張する。
 そこで、55年契約の内容について検討するに、55年契約の契約書(乙11−1、乙36)には、「第1条 定義 1.0 本契約において、また本契約中に用いられる場合において: 1.01 『域内地域』という用語は、以下の地形上の地域のみを含むとみなされるものとする:アメリカ合衆国48州、アラスカ準州及びハワイ準州、カナダ自治領、その大西洋岸地域、ニューファンドランド島、並びにバハマ諸島。 1.02 『域外地域』という用語は、『域内地域』という用語により包含される地形上の地域以外の、世界のすべての地形上の地域を含むとみなされるものとする。 1.03 『無料テレビ』という用語は、家庭で受信又は視聴する特権について何らの料金も徴収されない番組についての、正規に許可されたテレビ局の施設を用いた、現在知られているか又は将来発見される手段による、テレビという媒体のみを通じた本契約に基づく映画の放送をいうものとみなされるものとする。 1.04 『有料テレビ』という用語は、家庭で受信又は視聴する特権について料金が徴収される番組についての、テレメーター、スカイアトロン、フォーンビジョン、又はその他の類似の開発品による、いわゆる加入テレビという媒体のみを通じた本契約に基づく映画の放送をいうものとみなされるものとする。・・・1.08 映画に関する『テレビ向け翻案権』という用語は、(a)ライブベースによるか、フィルム、エレクトロニカム又は磁気テープによるか、あるいは現在知られているか又は将来発見されるその他いかなる記録手段によるかを問わず、テレビ放送での使用のみを目的とした映画の新バージョン又は映画に基づくプレゼンテーション(かかる新バージョン又はプレゼンテーションは、映画そのもの、映画に含まれない部分を含む映画のベースとしての文芸作品及び/又は脚本並びにかかる文芸作品及び/又は脚本の翻案、再アレンジ、改変、又は修正に基づくものであり得る)を作成し、かかる作成を行う権限を他者に付与する独占的で永続的な権利、並びにかかる新バージョン又はプレゼンテーションに関連して当該映画のタイトル又は当該映画に含まれる音楽を使用し、かかる使用を行う権限を他者に付与する権利、並びに(b)かかる新バージョン又はプレゼンテーションをテレビ局で放送し、かつ、かかる放送を行うライセンス及び権限を他者に付与する独占的で永続的な権利を意味する。・・・1.11 映画に関する『16ミリによる非劇場上映権』という用語は、16ミリフィルムのみを使用して、各映画を上映し、配給し、その他利用する独占的で世界規模の権利及びかかる映画を上映し、配給し、その他利用する権限を他者に付与する独占的で世界規模の権利を意味する。ただし、映画館での上映、テレビ放送、家庭内使用(ホームユース)の目的で、若しくは硬貨投入式機械のために使用する権利、又はかかる権利を他者に付与する権利を明確に除外する。・・・1.13『リメイク』という用語は、従前の映画版において描写されたものと実質上同一のストーリーを異なる形又は方法で伝える映画を意味し、RKOは、かかるリメイクに関連して、従前の映画版に含まれる音楽、従前の映画のベースとしての文芸作品及び/又は脚本(従前の映画版において使用されなかった部分を含む)、並びに従前の映画のベースとしてのかかる文芸作品及び/又は脚本の翻案、再アレンジ、改変、又は修正を使用する権利を有するものとする」(乙36の訳文2頁〜6頁)、「第2条 映画 2.0 A、B、C−1、C−2、D及びEとしてそれぞれ指定される別表は、本契約に添付され本契約の一部をなす。・・・別表A:この別表は、RKOが完全所有する長編映画(以下『A映画』という)(かかる映画について、いかなる第三者も下記の『別表B』という表題のもとで記載される性格を有する参加利益を持たない)のリストを記載するものである。 別表B:この別表は、RKOが完全所有する長編映画(以下『B映画』という)(かかる映画に関して、第三者が、かかる各映画の配給から得られる純受取高、純収益、若しくは純利益に関する特定の支払、又はかかる各映画の配給の際に若しくはそれに関連して発生するその他の何らかの形による支払を受領する権限を有するか、あるいはかかる権限を有することになることがある)のリストを記載するものである。 別表C−1:この別表は、RKOが完全所有する短編映画(以下「C−1映画」という)(ただし例外として、この別表の最終頁に記載の“Humanettes”と題される12本のワンリーラーの場合は、RKOはかかる各映画についての未分割の2分の1の持分のみを所有する)のリストを記載するものである」(同6頁、7頁)、「第3条 付与 3.0 本契約に記載の条件及び条項に従い、RKOは、RKOが以下の権利並びに以下の権利を付与する権利及び権限を有している限りにおいて、以下の権利をC&Cに対し売却し付与する。・・・3.02 長編映画について−域外地域: RKOは、各A映画及び各B映画についてのみの以下の権利を、RKOがかかる権利並びにかかる権利を付与する権利及び権限を有する限りにおいて、かかる映画が米国で最初に公開されたシーズンに続く5シーズンの間公開された後にC&Cに対し売却し付与する・・・(a)かかる各映画を、16ミリフィルム又は35ミリフィルムを用いて、域外地域内の映画館において上映し、上映する権限を他者に付与する、著作権に基づく(又はその更新に基づく)単独で独占的かつ永続的な権利、ライセンス及び特権(かかる目的のためにのみ、かかる各映画をかかる域外地域において配給し、ライセンスし、利用する権利、及びかかる権利を他者に付与する権利を含む);並びに (b)無料テレビ及び有料テレビの双方において、又は域外地域に所在するテレビ局において、16ミリフィルム又は35ミリフィルムを用いて、かかる映画を放送し、配信する権利、及びかかる権利を他者に付与する、著作権に基づく(又はその更新に基づく)単独で独占的かつ永続的な権利、ライセンス及び特権(かかる目的のためにのみ、かかる各映画をかかる域外地域において配給し、ライセンスし、利用し、上映する権利、及びかかる権利を他者に付与する権利を含む)。 本第3.02項においてC&Cに付与される権利は、次の各項目に従うものである:・・・3.04 長編映画についての16ミリによる非劇場上映権: RKOは、A映画及びB映画に関する以下の権利のみを、RKOがかかる権利並びにかかる権利を付与する権利及び権限を有する限りにおいて、C&Cに対し永続的に売却し付与する: 3.041 域内地域におけるかかる各映画の16ミリフィルムによる非劇場上映権(ただし、C&Cが第3.03項に基づいてかかる映画をテレビ放送のため使用する権利を有する場合に限る)。・・・3.042 域外地域におけるかかる各映画の16ミリフィルムによる非劇場上映権(ただし、C&Cが第3.02項に基づいてかかる映画を使用する権利を有する場合に限る)。・・・3.1 A映画及びB映画に関し、第3.02項、第3.03項及び第3.04項に基づいてC&Cに対し明確に付与されていないすべての権利は、使用者の世界中における時期を問わない単独で独占的かつ永続的な権利とともにRKOに明確に留保されている。かかるすべての権利には、当該映画についての一切のリメイク権・・・一切のテレビ向け翻案権・・・一切の舞台向け翻案権・・・一切のラジオ権・・・並びに当該映画の著作権・・・が含まれるがこれらに限られない。・・・域内地域における・・・劇場上映権(再上映権を含む)を・・・明確に留保する。 3.2 RKOは、第3.1項に基づいて各A映画及びB映画を世界中における配給のためリメイクする権利(リメイク版のタイトルとしてかかる各映画の現行タイトルを使用する権利を含む)を明確に留保している」(同8頁〜23頁)との記載がある。また、同契約書に添付された別表A(乙11−2)には、本件映画著作物九、一一〜一四、一六、二二〜二五、二七及び二八が、別表B(同)には、本件映画著作物一〜八、一〇、一五、一七〜二一及び二六が、それぞれ記載されている。
 上記記載によれば、55年契約において、@本件映画著作物九、一一〜一四、一六、二二〜二五、二七及び二八は、長編映画中の「A映画」に、本件映画著作物一〜八、一〇、一五、一七〜二一及び二六は、同「B映画」に分類していること(別表A、B)、A我が国は「域外地域」に含まれること(第1.01項、第1.02項)、B「域外地域」において、「A映画」及び「B映画」について、アール・ケー・オーがシー・アンド・シーに付与した権利は、16ミリフィルム又は35ミリフィルムを用いて、域外地域内の映画館において上映し、上映する権限を他者に付与する、著作権に基づく(又はその更新に基づく)単独で独占的かつ永続的な権利、ライセンス及び特権(劇場上映権)、無料テレビ及び有料テレビの双方において、又は域外地域に所在するテレビ局において、16ミリフィルム又は35ミリフィルムを用いて、映画を放送し、配信する権利及びこの権利を他者に付与する、著作権に基づく(又はその更新に基づく)単独で独占的かつ永続的な権利、ライセンス及び特権(テレビ放映権)、並びに16ミリフィルムのみを使用して、映画を上映し、配給し、その他利用する独占的で世界規模の権利及びこの映画を上映し、配給し、その他利用する権限を他者に付与する独占的で世界規模の権利(非劇場上映権)であること(第1.11項、第3.02項、第3.042項)、C「A映画」及び「B映画」に関し、第3.02項、第3.03項及び第3.04項に基づいてシー・アンド・シーに明確に付与されていないすべての権利は、アール・ケー・オーに留保され(第3.1項、第3.2項)、特に、本件映画著作物を含む映画の著作権は明示的にアール・ケー・オーに留保される旨が規定されていること(第3.1項)が認められる。
 以上のとおり、55年契約は、本件映画著作物を含む長編映画について、日本を含む域外地域においては、劇場上映権、テレビ放映権及び非劇場上映権のみを付与する旨明確に規定し、この三つの権利の内容についても、「16ミリフィルム又は35ミリフィルムを用いて」「16ミリフィルムによる」との文言の点も含め、詳細かつ具体的に規定しており、シー・アンド・シーに明確に付与されていないすべての権利がアール・ケー・オーに留保される旨の権利留保規定を明示的に定めている。また、長編映画に関するテレビ放映権の定義規定において、域外地域と域内地域を比較すると、域外地域に関する規定のみ「16ミリフィルム又は35ミリフィルムを用いて」という媒体の限定文言が付加されていることに照らすと、同契約における「16ミリフィルム又は35ミリフィルムを用いて」という文言は、厳密に媒体を限定したものと解するのが相当である。
 控訴人は、フィルムズ訴訟におけるアール・ケー・オー外1名の訴状(甲70、乙44)の「全世界のすべてのテレビ放映権はトランスベアコン社に許諾されている」(甲70訳文2頁)との記載からすれば、55年契約の解釈に当たって、テレビ放映のための一時固定物は16ミリフィルム及び35ミリフィルムに限定されないと主張する。しかし、同訴状には、「C&C契約(注、55年契約)において、RKOはトランスベアコンに対し、当該映画及びその他の映画の『16ミリによる非劇場上映権』を付与した。当該映画に適用される『16ミリによる非劇場上映権』という文言(以下において単に『非劇場上映権』ともいう。)は、『16ミリフィルムのみを使用して、【当該映画を】上映し、頒布し、その他利用する独占的で世界規模の権利及びかかる権利を他者に付与する独占的で世界規模の権利(ただし、映画館での上映、テレビ放送、家庭内使用(ホーム・ユース)の目的で、若しくは硬貨投入式機械のために【当該映画を】使用する権利、又はかかる権利を他者に付与する権利を明確に除外する。)』を意味するものとして、C&C契約・・・に定義されている」(乙44訳文3頁)との記載もあり、この記載に照らせば、アール・ケー・オーは、上記訴状において、「16ミリによる非劇場上映権」は「16ミリフィルムのみを使用して・・・上映し、頒布し・・・権利」と主張していることが明らかであるから、55年契約の解釈についての控訴人の上記主張は理由がない。
 ところで、55年契約には、ビデオグラムの複製及び頒布について、直接に規定するところはないが、アール・ケー・オーに留保された権利の一つとしての「テレビ向け翻案権」を規定した第1.08項には、上記のとおり「磁気テープ」「現在知られているか又は将来発見されるその他いかなる記録手段」との記載があり、これらの記録媒体を「フィルム」とは明確に区別している。そして、出版ニュース社発行の社団法人著作権情報センター編「新版著作権事典」(乙38)によれば、ビデオグラム(videogram)は、「影像または影像と音の記録物の一種を指すものとして、音声レコードを意味するフォノグラムに対しヨーロッパなどから使われだした用語で、フィルムが光化学的方法によるのに対し、電磁的または光学的方法により記録するもの」(324頁)であることが認められ、宍戸一彦著「VTRの設計の変遷」(設計工学1996年12月号、乙39)の「VTRの歴史・・・1951年ごろ米国ビングクロスビー・エンタープライズ社から固定ヘッド式周波数分割方式VTRの試作発表があり、ほぼ同時期にRCA社、英国放送協会BBCなどから固定ヘッド方式VTRの研究発表があった」(450頁)との記載を併せ考えれば、55年契約が締結された1955年(昭和30年)当時、米国内の、少なくとも映画の制作、供給にかかわる者の間において、フィルムとは別に、磁気テープを記憶媒体とする映画の記録方法が知られていたことが推認できる。加えて、55年契約においては、上記のとおり、「フィルム」と「磁気テープ」とが明確に区別されていることに照らすと、同契約にいう「16ミリフィルム又は35ミリフィルム」にはビデオグラムが含まれないものと解すべきことは、明らかというべきである。
 また、スタンフォード大学ポール・ゴールドスティン教授作成の「著作権について」と題する意見書(乙37)及び甲33によれば、1976年(昭和51年)の改正前の1909年米国著作権法においては、著作権には「不可分性の原則」が適用され、著作権の一部の移転は、譲渡ではなく、ライセンスとしての効果を有するにすぎないとされていたことが認められる。そうすると、同法による「不可分性の原則」が適用される55年契約において、上記のとおり、アール・ケー・オーの有していた権利のうち一部のみがシー・アンド・シーに売却又は付与する旨明示的に規定されている点にかんがみれば、同契約に基づきアール・ケー・オーがシー・アンド・シーに対して付与した権利は、使用許諾権(ライセンス)と解するのが相当であって、同契約中にライセンスという語が多数用いられていることもこれを裏付けるものである。
 以上によれば、控訴人主張のように、55年契約によって、シー・アンド・シーがアール・ケー・オーから本件著作権ないし一定の物権的権利の譲渡を受け、又は本件著作権の一部であるビデオグラムの複製権及び頒布権の譲渡を受けたものと認めることはできない。
(3) 控訴人は、55年契約においては、シー・アンド・シーに訴訟提起権が与えられ、著作権更新登録及び映画著作物の頒布権の維持のために必要となる音楽著作物及び言語著作物のライセンスの維持について、いずれもシー・アンド・シー70%、アール・ケー・オー30%の費用負担で、第1次的にアール・ケー・オーの名義、第2次的にシー・アンド・シーの名義で行うこととなっていること等を根拠として、シー・アンド・シーとアール・ケー・オーとの間に忠実的法律関係ないし信託的法律関係を生じさせるものであると主張する。その趣旨とするところは、必ずしも明らかでないが、55年契約の契約書(乙11−1、乙36)の第12.0項には、「(b)C&Cが本契約に基づいて権利を付与されるA映画及びB映画に関して、(1)かかる映画に関する原著作権が・・・満了し・・・更新可能である場合・・・かかる著作権更新を獲得する費用の70%をC&Cが支払い、30%をRKOが支払うものとする・・・かかる映画権の譲渡又は映画権についてのライセンスの更新を獲得する費用の70%をC&Cが支払い、30%をRKOが支払うものとすることが了解されている。・・・RKOが上記本第12.0項(b)に記載の更新権を行使する権利を有し、かつC&Cがかかる更新権を行使することに関心を持っており、RKOはかかる行使に関心を持っていない場合、RKOは、C&Cの要請に応じて、C&Cの単独の費用負担により、C&Cの利益のためにかかる更新権を行使するものとし、RKOは、これに関してC&Cに協力するものとする」(乙36訳文55頁〜57頁)、第12.1項には、「C&Cは、C&Cが本契約に基づいて権利を付与されている長編映画又は短編映画の、C&Cにより認められていない使用であって、かかる長編映画又は短編映画についてのC&Cの権利を侵害する使用を防止する法的行為又は手続を、自らの名、又はRKOの名、又はその両方の名において提起する権利を有するものとする」(同57頁〜58頁)との記載があり、控訴人の上記主張は、これらの記載を根拠とするかのごとくである。しかし、上記条項は、「A映画」及び「B映画」の著作権の更新費用の負担並びに一定の場合にシー・アンド・シーが単独で上記著作権の更新ができること、シー・アンド・シーが55年契約により権利を付与された映画についての自己の権利が侵害された場合に、シー・アンド・シーは自らの名、アール・ケー・オーの名又は両者の名で訴訟を提起できることを規定したものであって、これらの条項によっては、シー・アンド・シーとアール・ケー・オーとの間に控訴人主張の忠実的法律関係ないし信託的法律関係を生じさせるものとは解し難く、他にその主張を基礎付けるに足りる根拠を見いだすことはできない。
(4) 控訴人は、本件バンクラプシー・セールにおいて、本件譲渡証書に基づき、本件映画著作物を含むアール・ケー・オー・ライブラリーの日本、沖縄、韓国及び台湾における複製権、放送権、有線送信権、上映権、頒布権、その他本件著作権を含むすべての著作権を譲り受けたと主張する。
 シー・アンド・シーを承継したインダストリーズ社を更に承継したトランスベアコンが破産したこと、その破産手続(本件破産手続)において、1971年(昭和46年)6月1日付けの米国ニューヨーク州南部連邦地方裁判所ライアン破産判事の決定に基づき、同月2日付けで、破産会社のアル・ブランバーグ破産管財人によって本件バンクラプシー・セールがされたことは上記のとおりである。
 しかし、55年契約によって、シー・アンド・シーがアール・ケー・オーから本件著作権の譲渡を受け、又は本件著作権の一部であるビデオグラムの複製権及び頒布権の譲渡を受けたものと認めることができないことは上記のとおりであるから、シー・アンド・シーを承継したインダストリーズ社を更に承継したトランスベアコン(破産会社)は、上記権利を有していなかったものである。そして、カリフォルニア大学ダニエル・J・バッセル教授作成の「トランスベアコン社の件について」と題する意見書(乙41、以下「バッセル意見書」という。)によれば、本件バンクラプシー・セール当時に施行されていた1898年米国連邦破産法(その後の修正を含む。)の下において、破産管財人は、破産者の財産に関する権原を承継し、破産手続においてこれを売却することができるが、破産者に属さない財産は、否認訴訟のような法的手続による場合を除き、破産管財人においてその権原を取得するものではないとされている(訳文10頁以下)ことが認められるところ、本件映画著作物に関して上記の例外的な法的手続が執られたことを認めるに足りる証拠はない。したがって、トランスベアコンの破産に伴う本件破産手続において、破産管財人が上記権利を処分する権原を有していなかったことは明らかである。
 控訴人は、本件破産手続において、破産管財人が控訴人にどのような権利を譲渡したかを判断するに当たっては、破産財団に何が存在するかについての破産管財人の認識を基準とすべきであり、本件譲渡証書の記載からも、本件バンクラプシー・セールにおいて、破産管財人は、本件映画著作物に関する日本における本件著作権を譲渡する意思を有していたことは明らかであると主張するが、後記(5)認定の本件破産手続の一連の経緯に照らすと、破産管財人がその主張のような認識なり意思を有していたとは到底認め難く、控訴人の主張は採用の限りではない。
(5) 控訴人は、さらに、仮に、55年契約により、シー・アンド・シーが権利の一部のみを譲り受けていたとしても、フリー・アンド・クリアーの法理により、本件バンクラプシー・セールにおいて本件譲渡証書(甲5)の契約条項で上書き(override)され、被控訴人らは、上書きされる以前の消滅した法律関係を前提に主張を展開できる立場にはなく、控訴人は本件破産手続において本件著作権を取得したと主張するので更に検討する。
 上記(1)の争いのない事実及び証拠(甲5、27、31、32、乙40〜43、枝番を含む)によれば、本件バンクラプシーセールの経緯について、次のとおり認めることができる。
ア 破産管財人作成の破産会社の双務契約リスト(甲27)には、破産会社が破産宣告前に締結し、破産宣告後も承継すべき双務契約として、55年契約が掲載されている。また、破産管財人が提出した財産目録中には、55年契約には、16ミリカラーフィルム、35ミリ白黒フィルム及び35ミリカラーフィルムも含まれていたが、これらは財団に含まれない旨の記載がある。
イ 債権者集会に対するライアン破産判事の理由開示命令である1971年4月20日付け「契約及び譲歩を確認することを検討する債権者集会のためのショー・コーズ・オーダー」(甲31、乙40−1)添付の破産管財人の破産裁判所に対する許可申請書(乙40−2)には、以下のとおりの記載がある。すなわち、「2.破産者は、破産者とRKOとの間の契約で特定される一定の本数からなるRKOフィルムライブラリーを頒布し上映する権利を取得していた。破産者は上記フィルムライブラリーに関する様々な権利を第三者に移転したが、その中には、上記映画著作物を日本、韓国、沖縄及び台湾において1976年末まで頒布、上映する権利のオリエント社への移転も含まれていた。同契約書は本書に添付されている。3.同契約において、オリエント社は、破産者から当該権利を期限の制限なく利用する選択権を付与された。この選択権は価額2万1000ドルとされ、その行使期限は1971年12月末日まで延長された。・・・5.オリエント社は、申請人(注、破産管財人)に対し、破産者のオリエント社との契約を、当該契約に基づいて破産管財人が何らの責任を負わない形で上記権利を期間の制限なくオリエント社に譲渡する(破産者により取得された権利の譲渡を除く。)ことのみを範囲として承認するよう要求している。オリエント社は買取価額1万ドルを提示しているが、申請人は・・・この買取価額が公正かつ合理的であると考えている。6.しかしながら、オリエント社側の上記提示は、申請人が、上記契約に基づいてオリエント社に対して有する総額1万3250ドルのロイヤルティー支払請求権からオリエント社を免責することを条件としている。・・・オリエント社は、上記契約に基づく様々な懈怠行為について主張し、これにより上映プリントを販売できなかったため損害を被ったと主張した。・・・申請人は、免責の取り交わしが、少なくとも1万ドル(免責の取り交わしがなければ取得できない可能性が高いと考えられるもの。)を本破産財団のために最も得策であると真に考えいている」(甲31訳文2、3頁)。
ウ そして、上記許可申請書添付の62年契約の契約書(乙18、40−3)には、「本契約は、1962年11月17日にテレビジョン・インダストリーズ・インク(『インダストリーズ』)とテレビジョン・インダストリーズ・インクの一部門であるC&Cインターナショナル・フィルム(“C&C”)、(以下総じて『ライセンサー』という。)とオリエント・テレビジョン・インダストリーズ(『ディストリビューター』という。)の間で締結された。・・・1.4 本契約の目的のために『フィルム』又は『フィルム群』とは、本契約添付の別表1に記載された短編映画及び別表2に記載された長編映画を意味する。フィルム群は、1955年12月22日付けのC&C Television Corp.(現C&C Films)とRKOとの間の契約(注、55年契約)により取得されたものであり、その契約の条項は、参照により本契約の一部を構成している。・・・本契約における付与及びライセンスは、前記契約に記載されている制限及び条件に従う。・・・3.1 本契約の条項に従い、ライセンサーはそれぞれ本書をもってディストリビューターに対し、本契約に定める期間、ライセンサーが当該権利を所有している限りにおいて、下記に定める単独かつ独占的権利を許諾する。 3.1.1 著作権又は更新著作権に基づいて、35ミリフィルム又は16ミリフィルムの形式で、現在周知であるか又は将来において発見され考案される手段、方法、手順で、本件映画著作物のテレビ放映権及び劇場以外での頒布権を利用し、頒布し、上映する権利、かつ、上記権利を第三者に再譲渡する権利・・・4 ライセンス期間と領域 4.1 本契約の追加条文に従うことを条件として本契約に基づく許諾及びライセンスは、映画著作物の著作権及び更新著作権に基づいて本契約締結日から10年間とする。 4.2 本契約に基づいて許諾された権利をディストリビューターが行使できる領域は、以下の国及び領域(それが現在構成するもの)からなる:日本、沖縄、韓国及び台湾」(甲31訳文5、6頁、乙18)と記載され、同添付の1966年(昭和41年)1月28日付けインダストリーズ社、シー・アンド・シー及びオリエント社間の66年契約(乙40−4)には、「ライセンス契約(注、62年契約)・・・のライセンス期間は・・・1977年12月31日まで延長される」(訳文4頁)と記載されている。また、上記ショー・コーズ・オーダー(甲31、乙40−1)には、破産管財人の上記許可申請について検討するため、1971年(昭和46年)5月14日午前10時、ニューヨーク州ニューヨーク市フォリースクエアの米国裁判所236号法廷において、債権者集会を開催することを命ずる旨が記載されている。
エ 破産管財人の上記許可申請及び債権者集会に基づいて行われた同年6月1日付けライアン破産判事の売却許可決定(甲32、乙42)には、「破産管財人に対し、破産者とオリエント社との間で免責を取り交わすことにより破産者とオリエント社との間の様々な請求について譲歩を行う権限、日本、韓国、沖縄及び台湾において特定のRKOフィルムライブラリーを永続的に頒布する権利をオリエント社に譲渡する範囲において破産者とオリエント社との間で締結された特定の契約を承認する権限、破産管財人への1万ドルの買取価額の支払をもって譲渡を実行するために必要な証書をオリエント社に交付する権限を付与し、かつ、上記の譲渡、承認及び交付を行うことを許可する」(乙42訳文)と記載され、許可申請書に記載された上記範囲で62年契約を承認することが許可されている。
オ 同月2日付け破産管財人の本件譲渡証書(甲5、乙43)には、「アル・ブランバーグ(第一当事者)は、破産者トランスベアコンの財団の破産管財人として、有限会社ユタカインダストリー(第二当事者)(注、控訴人)により手渡しにて自らに支払われた1万ドル(その受領は本証書において確認される。)を対価とし、かつ、米国ニューヨーク州南部連邦地方裁判所エドワード・J・ライアン破産判事の1971年6月1日付けの決定に基づいて、日本、沖縄、韓国及び台湾の地域及び国々について、テレビジョン・インダストリーズ・インクとオリエント・テレビジョン・インダストリーズ・インクとの間で締結された1962年11月17日付け契約書(注、62年契約)並びに破産者が破産申立てを行った時点において有していた一切の補足及び修正に記載された特定の映画の著作権又は著作権の更新に基づく単独で独占的な権利及びライセンスに関する一切の権利、権原及び利益、並びに第一当事者が破産管財人として譲渡する権限を有していたそれらに記載の一切の財産を、第二当事者並びに現在指名されているその承継人及び譲受人に対し取引し売却しており、かつ、本証書によりそれらを期間の制限なく付与し譲渡する」(乙43訳文)と記載されている。
 なお、本件譲渡証書により譲り受けた当事者は、オリエント社ではなく、控訴人であったが、これは、両者の特別の関係から、両者の協議の下に、破産手続の最終段階で、控訴人がオリエント社に代わって当事者になったものと推認される。
 以上の事実によれば、破産管財人は55年契約の存在及び内容を十分認識していたこと、買受申出人であるオリエント社は、破産管財人に対し、破産会社がオリエント社に対して62年契約によって許諾した本件映画著作物に関する権利を期間の制限のないものとして利用する権利をオリエント社に譲渡する範囲でのみ、62年契約を承認することを求めていたものであること、破産管財人は、オリエント社の上記買受申出を妥当なものと認め、承認の前提として債権者集会の開催等を破産裁判所に求めたこと、ライアン破産判事のショー・コーズ・オーダーや売却許可決定は、破産管財人の求めた上記範囲で62年契約を承認することの許可申請についてされたものであって、本件譲渡証書も、このことを前提として、その譲渡対象となる権利の範囲を規定していることが明らかである。
 そうすると、上記一連の本件バンクラプシー・セールの経緯に照らせば、本件譲渡証書により控訴人に対して譲渡された権利の内容は、55年契約によりシー・アンド・シーの承継人である破産会社に付与された権利の範囲内で、かつ、62年契約によりオリエント社に対して既に再許諾したことに基づく破産会社の法的地位ないし権利というべきである。
 進んで、控訴人主張のフリー・アンド・クリアー(free and clear)の法理の適用について検討するに、バッセル意見書(乙41訳文13頁以下)を参酌すると、米国判例法において認められているフリー・アンド・クリアーの法理は、一般に、「売却対象の資産に負担が付着している場合において、一定の要件を満たす譲渡により、当該負担が除去され、譲受人が負担の付着のない完全な権利を取得する」との法理をいうところ、これが破産手続中の売却について適用されるためには、破産管財人が当該売却において対象資産の負担を除去したい旨の許可申請書を提出し、破産裁判所が、権利の排除される第三者に対する告知、聴聞を経た上、当該売却に関して、負担を除去する旨を規定した売却許可決定を行うことを要することが認められる。しかし、本件破産手続において、アール・ケー・オー又はその承継人が、本件映画著作物についてアール・ケー・オーに留保された権利を移転することについて、破産管財人から告知を受けるなど、フリー・アンド・クリアーの法理の適用を前提とする上記各手続が執られたことを認めるに足りる証拠はないばかりでなく、本件映画著作物についてアール・ケー・オーに留保された権利は上記のとおりであって、これを同法理によって除去される「負担」ということはできない(乙41訳文14頁以下)。
 したがって、控訴人の上記フリー・アンド・クリアーの法理を理由とする主張は採用することができない。
(6) 控訴人は、55年契約により、シー・アンド・シーが権利の一部のみを譲り受けていたとしても、控訴人は裁判所の決定によるバンクラプシー・セールで権利を取得したボナファイド・パーチェサーであり、また、本件バンクラプシー・セールを許可した破産裁判所の売却許可決定が確定して既判力及び対世的効力が生じ、本件破産手続において控訴人が本件著作権を取得したことは保護を受け、我が国の裁判所は、本件著作権が破産会社に帰属していたか、また、これが本件バンクラプシー・セールの対象とされていたかについて判断する管轄権を有しないと主張する。
 しかし、まず、ボナファイド・パーチェサーをいう点についてみるに、バッセル意見書(乙41)によれば、米国法におけるボナファイド・パーチェサーの法理は、「特定の登録のない権原の瑕疵について何ら知らされていない善意の第三者が、売却対象とされた財産に関して、従前の所有者が保有していた権限以上の権原を取得する」との法理をいうものであって(乙41訳文21頁以下)、売買の目的物に瑕疵があることを前提とする法理であると解される。本件バンクラプシー・セールについて同法理の適用をいう控訴人の上記主張は、結局、本件バンクラプシー・セールにおいて、本件著作権がライアン破産判事の売却許可決定に基づく破産管財人による売却の対象となったことを前提とするところ、本件著作権が本件バンクラプシー・セールの対象となったことが認められないことは上記のとおりであるから、控訴人の上記主張は、前提を欠き、それ自体失当というほかない。
 また、米国破産裁判所の売却許可決定は、民事訴訟法118条にいう「外国裁判所の確定判決」には当たらない上、被控訴人らは、同売却許可決定の当事者ではないから、控訴人主張の既判力及び対世的効力が及ぶものとは解し難いところであって、本件訴訟の原告である控訴人及び被告である被控訴人会社はいずれも東京に本店を有する日本法人、共同被告である被控訴人Aは被控訴人会社の代表者であり、東京地方裁判所がその第1審の管轄権を有する以上、本件著作権が本件バンクラプシー・セールの対象とされていたか否かについて判断する民事裁判権が当庁にも存在することは明らかである。
(7) さらに、控訴人は、62年契約及び66年契約は、破産者とオリエント社との間で免責証書(甲4)を取り交わすことによって免責されて消滅したとも主張するが、バッセル意見書(乙41訳文9頁)も指摘するとおり、上記免責証書は、破産管財人が、本件譲渡証書と同じ1971年(昭和46年)6月2日付けで、オリエント社に対して有していた一切の請求権を放棄する旨記載したものにすぎないことは、その文言上明らかであるから、これによって62年契約及び66年契約が消滅したと認めることはできず、控訴人の主張は採用の限りではない。
3 控訴人の本件著作権の取得原因2(ニューヨーク州法による無条件の権利取得)について
(1) 控訴人は、55年契約及び62年契約にはニューヨーク州法が適用されるから、「忠実的法律関係」(fiduciary relationship)、「信託的法律関係」(trust relationship)、「解釈上の信託」(constructive trust)、「探索責任」(burden of tracing)、「衡平法上の禁反言」(equitable estoppel)、「権利失効の原則」(laches)及び「拘束力のない不能な条件」(impossibillium nulla obligatio est)等の法理の適用があると主張する。55年契約の契約書(乙36)には「16.6 本契約の有効性、解釈又は履行についての疑義には、ニューヨーク州法が適用されるものとする」(訳文63、64頁)と記載され、62年契約の契約書(乙40−3)には「13.8 本契約はニューヨーク州の法律及び手続に準拠し、それらに従って解釈され執行されるものとする」と記載されている。しかし、上記各契約にニューヨーク州法が適用されるとしても、控訴人主張に係る上記各法理は、いかなる要件の下にいかなる法律効果が生ずるものであるのか、その法理の具体的内容が明らかではない上、これらの法理が適用される根拠も明らかではなく、到底採用することができない。
(2) また、控訴人は、上記各契約は、いずれも信託的法律関係であるから、55年契約に基づく条件及び限界は、控訴人の権利を制限する約款としては、遅くとも1971年(昭和46年)には、禁反言及び権利失効の原則によって、無効となったと主張する。しかし、上記各契約が信託的法律関係を生じさせるものとは解し難いことは上記のとおりであり、本件全証拠によっても、被控訴人らに禁反言及び権利失効の原則の適用を基礎付けるに足りる事情を認めことができない。
(3) さらに、控訴人は、電波によりテレビ放送を行うには、音声と映像のかい離を回避するために電磁記録媒体であるビデオテープに一時固定する必要があり、これが許されないのであれば、控訴人が取得した権利は全く意味がなく実効性のない権利となってしまうから、上記各契約の「16ミリフィルム又は35ミリフィルムを用いて」との文言は、遵守することが不可能な制約であり、拘束力がないとも主張するが、16ミリフィルム及び35ミリフィルムの使用が不可能な制約であるとは認め難く、採用することができない。
4 控訴人の本件著作権の取得原因3(時効取得)について
 控訴人は、1971年(昭和46年)6月1日付けのライアン破産判事の決定に基づく同月2日付け本件バンクラプシー・セールにより本件著作権を取得したと過失なく信じ、以後、著作権を少なくとも10年間以上反復継続して行使したから、本件著作権を時効取得したと主張する。しかし、民法163条にいう「自己ノ為メニスル意思」は、財産権行使の原因となる事実によって外形的、客観的に定められるものであって、準占有者がその性質上自己のためにする意思のないものとされる権原に基づいて財産権を行使しているときは、その財産権行使は自己のためにする意思を欠くものというべきである(最高裁平成9年7月17日第一小法廷判決・民集51巻6号2714頁)。これを本件についてみるに、本件バンクラプシー・セールにおいて破産管財人が本件譲渡証書により控訴人に売却した権利は、62年契約に基づきオリエント社が有していた権利であり、62年契約は、シー・アンド・シーが55年契約に基づいて取得した権利を前提に、シー・アンド・シーとオリエント社が締結したものであるところ、55年契約に基づきシー・アンド・シーが本件映画著作物について取得した権利は、16ミリフィルム又は35ミリフィルムを用いる劇場上映権及びテレビ放映権並びに16ミリフィルムを用いる非劇場上映権であって、著作権ではないことは上記認定のとおりである。加えて、著作権は、物権類似の排他的権利であるから、時効取得の要件としての継続的行使があるというためには、外形的に著作権者と同様に著作権を独占的、排他的に行使する状態が継続していたことを要するところ(上記最高裁判決)、控訴人について、このような事実を認めるに足りる証拠はない。かえって、本件著作権が、55年契約後も、アール・ケー・オーに留保されていたことは上記のとおりであり、現に、フィルムズ訴訟におけるアール・ケー・オー外1名の1969年(昭和44年)8月15日付け訴状(甲70、乙44)によれば、アール・ケー・オーは、同訴状において、本件映画著作物一一及び一六の著作権者であると主張していること、1999年(平成11年)4月8日付けアール・ケー・オーのヴァイスプレジデント兼顧問弁護士補インゲヴァンヘルレの書簡(甲161)によれば、アール・ケー・オーは、上記書簡により、近代美術館ナショナルフィルムセンターに対し、本件映画著作物二三及び二六について著作権を主張していることが認められ、これらの事実によれば、アール・ケー・オーは、55年契約後も、本件映画著作物について、著作権者として行動していたことが推認される。
 したがって、控訴人は、本件著作権の時効取得を基礎付ける事実として主張する本件映画著作物の利用行為を自ら行っていたとしても、いずれも本件映画著作物について著作権者として自己のためにする意思を欠くものというべきであり、かつ、外形的に著作権者と同様に本件著作権を独占的、排他的に行使する状態が継続していたということもできないから、控訴人の時効取得の主張は理由がない。
5 結論
 以上検討したところによれば、控訴人が本件著作権又はその一部であるビデオグラムの複製権及び頒布権を取得したことを認めることはできないから、控訴人の被控訴人らに対する請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。
 よって、控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第13民事部
 裁判長裁判官 篠原勝美
 裁判官 岡本岳
 裁判官 宮坂昌利
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