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【事件名】国語副教材への作品無断使用事件(教材出版6社D) 【年月日】平成15年3月28日 東京地裁 平成11年(ワ)第5265号 出版差止請求事件 (口頭弁論終結の日 平成15年1月28日) 判決 原告 エズラ・ジャック・キーツ財団 訴訟代理人弁護士 藤原宏高 訴訟復代理人弁護士 九石拓也 同 平岡敦 被告 青葉出版株式会社 被告 株式会社教育同人社 被告 株式会社日本標準 被告 株式会社光文書院 被告 株式会社新学社 上記被告ら5名訴訟代理人弁護士 岡邦俊 同 前田哲男 同 近藤夏 被告株式会社日本標準訴訟代理人弁護士 斉藤義雄 同 朝倉正幸 被告 株式会社文溪堂 訴訟代理人弁護士 石田英遠 同 高橋明人 主文 1(1) 被告株式会社教育同人社、被告株式会社文溪堂は、別紙文書目録1記載の 文書を印刷、出版、販売又は頒布してはならない。 (2) 被告株式会社日本標準、被告株式会社新学社、被告株式会社光文書院は、別紙文書目録2記載の文書を印刷、出版、販売又は頒布してはならない。 (3) 被告青葉出版株式会社は、別紙文書目録3記載の文書を印刷、出版、販売又は頒布してはならない。 2 原告に対し、被告青葉出版株式会社は金2万2810円、被告株式会社教育同人社は金4万8765円、被告株式会社光文書院は金3万1374円、被告株式会社新学社は金1万4419円、被告株式会社日本標準は金8万6553円、被告株式会社文溪堂は金5万8891円及びこれらに対する別紙遅延損害金目録記載の金員を支払え。 3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用はこれを100分し、その1を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。 5 この判決は第2項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1(1) 被告株式会社教育同人社、被告株式会社文溪堂は、別紙文書目録1記載の 文書を印刷、出版、販売又は頒布してはならない。 (2) 被告青葉出版株式会社、被告株式会社日本標準、被告株式会社新学社、被告株式会社光文書院は、別紙文書目録2記載の文書を印刷、出版、販売又は頒布してはならない。 2 被告らは、原告に対し、連帯して金1億6120万9152円及び内金1259万7466円に対する昭和56年3月31日から、内金1217万8538円に対する昭和57年3月31日から、内金1143万2603円に対する昭和58年3月31日から、内金1301万5032円に対する昭和59年3月31日から、内金1270万6752円に対する昭和60年3月31日から、内金1231万6762円に対する昭和61年3月31日から、内金1023万0461円に対する昭和62年3月31日から、内金974万2763円に対する昭和63年3月31日から、内金756万2684円に対する平成元年3月31日から、内金614万8515円に対する平成2年3月31日から、内金578万8656円に対する平成3年3月31日から、内金629万0312円に対する平成4年3月31日から、内金609万0947円に対する平成5年3月31日から、内金584万9704円に対する平成6年3月31日から、内金662万4749円に対する平成7年3月31日から、内金570万3719円に対する平成8年3月31日から、内金425万5376円に対する平成9年3月31日から、内金415万7168円に対する平成10年3月31日から、内金459万3647円に対する平成11年3月31日から、内金392万3298円に対する平成12年3月31日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 争いのない事実等(括弧内に証拠等を掲記しない事実は争いがない。争いがある事実は、括弧内に掲記した証拠等により認められる。) (1) 原告は、アメリカ合衆国の国籍を有した画家であるA(以下「A」という。)により設立された財団である。 Aは、「ピーターのいす」という童話(以下「本件著作物1」という。)及び挿し絵(以下「本件各著作物2」といい、本件著作物1と合わせて「本件各著作物」という。)を著作し、本件各著作物に対する著作権を有していたが、原告が上記著作権を承継した(甲1、弁論の全趣旨)。 (2) 本件各著作物は、日本書籍株式会社発行の小学校1年生用国語科検定教科書に掲載されている。 (3) 被告らは、教科書に準拠した別紙文書目録1ないし3記載の国語テスト(以下「本件国語テスト」という。)を印刷、出版、販売している。 2 事案の概要 本件は、本件各著作物の著作権者である原告が、本件各著作物を掲載した本件国語テストの被告らによる印刷、出版、販売は、原告の本件各著作物に対する複製権、著作者人格権を侵害すると主張し、複製権及び著作者人格権に基づく被告による本件国語テストの印刷、出版、販売及び頒布の差止め(ただし、被告青葉出版株式会社に対しては複製権に基づく請求のみ)並びに複製権侵害を理由とする損害賠償又は不当利得返還を求める事案である。 3 争点 (1) 被告らが、本件各著作物を本件国語テストに掲載することが、著作権法32条1項にいう「引用」に当たるかどうか (2) 被告らが、本件各著作物を本件国語テストに掲載することが、著作権法36条1項にいう「試験問題」としての複製に当たるかどうか (3) 著作者人格権侵害の有無(被告青葉出版株式会社を除く。) (4) 原告は被告株式会社文溪堂に対し本件各著作物の利用を許諾したかどうか (5) 消滅時効の成否 (6) 本件請求が権利濫用に当たるかどうか (7) 故意又は過失の有無 (8) 損害の発生及び数額 4 争点に関する当事者の主張 (1) 争点(1)について 【被告らの主張】 被告らは、次のとおり、公表された著作物を、公正な慣行に合致し、かつその引用の目的上正当な範囲内で引用して利用しているのであるから、原告の複製権を侵害するものではない。 ア 公表された著作物について 本件各著作物は、いずれも公表されたものである。 イ 公正な慣行について 被告らは、約50年以上にわたって本件国語テストと同様の教科書に準拠したテスト又はドリルを制作販売してきており、次のウ、オ、キで述べる事情も総合すると、今日においては、学校に納品して担任教師による利用に供する教科書準拠のテスト、ドリル等の作成に当たって、必然的に当該教科書に掲載された著作物の一部又は全部を出題文とし引用することは、公正な慣行として広く承認されている。 ウ 引用の目的上正当な範囲について 本件国語テストにおいては、教科書に対する児童の内容理解を促進してこれを修得、習熟させ、又は理解度を測定するという目的のために設けられた設問を解答させるのに必要不可欠な範囲のみを取り上げて本件国語テストの出題文としているのであるから、引用の目的上正当な範囲内である。 エ 明瞭区別性について 本件国語テストにおいては、教科書から引用された出題文が四角の枠の中に囲まれており、被告らの著作物である問題文部分とは明瞭に区別されている。 オ 引用の必然性について (ア) 教科書は、学校及び家庭において、児童に学習させることを目的として著作されるものであるから、その学習の指導及び学習効果の測定のために補助教材が必要であるといえる。そして、補助教材においては、教科書に準拠していること及び教科書に取り上げられている作品に対する児童の理解を深め、その理解度を測定するものであることが不可欠である。したがって、被告らによる本件国語テストの制作において、出題文として教科書掲載作品を引用することには必然性がある。 (イ) 本件国語テストにおいては、出題文の一部を隠しておいてその穴埋め等をさせる設問方法や、出題文に用いられている漢字をひらがな表記しておいて書取りをさせる設問方法が多く用いられるが、これらの設問のためには、教科書掲載作品を引用した上で、その一部を隠さないと設問として成立しない。また、出題文に出てくる指示語が何を指すのかを答えさせる問題では、出題文中に傍線を引いてその箇所を児童に指示する必要がある。さらに、本件国語テストが試験に用いられる場合には、児童に教科書を直接参照させたのでは、児童が教科書に掲載された出題文以外の情報に接することになり、学力を正確に測定できないことになる。したがって、教科書に準拠した本件国語テストにおいては、教科書掲載作品を出題文として引用しなければならない必然性がある。 カ 主従関係について (ア) 引用する著作物の性質・内容・創作性 本件国語テストは、教科書に対する児童の理解を深め、その内容を修得、習熟させ、又は学習効果を測定することを目的として、創意工夫をこらした著作物である。本件国語テストの創作に当たっては、@学習指導要領によって定められている各教材の基礎学力の分析、A教科書の単元毎の学習の到達目標や方向目標の分析とそれぞれの目標に到達させるための教材の構造と内容の研究、B教材作りの理論・方法を駆使し、学力を科学的につけさせ、評価する構造と内容の研究、C児童が教師・保護者の力を借りずに自学・自習もできる構造と内容を持ち、児童が使いやすく学習成果を上げられるような工夫、以上の4つの観点からの研究成果の上に、教科書掲載作品の中からどの部分を出題対象として取り上げるか、出題対象範囲からどのような設問を作成するか、児童にわかりやすい設問の方法はどのようなものであるか、その設問をどのような順序で配列するか、全体的な構成をどのようにするか等の点について創意工夫を重ねている。 これに対し、引用される本件各著作物は、児童による修得、習熟又は理解度の測定の対象となっても、本件国語テスト自体の創作性とは無関係である。 (イ) 引用の目的・理由 本件国語テストに出題文として教科書掲載作品を引用する理由は、本件国語テストの主たる部分である設問において何が問われているのかを児童に理解させ、解答させるためであって、本件国語テストの性質上、児童の手元にある教科書を直接参照させることができないためにこれに代えて教科書掲載作品の一部を引用しているに過ぎない。 (ウ) 引用の範囲・量 教科書に掲載されたすべてが本件国語テストの出題文として引用されているのではなく、設問に必要な範囲が選択され、その目的のために必要な限度において引用されているに過ぎない。 (エ) それ自体鑑賞性を持つものとして利用される性質のものか 本件国語テストを使用する教師及び児童は、本件国語テストの出題文によってはじめて本件各著作物に接するというものではなく、既に教科書自体により既に繰り返し読了し、玩味、鑑賞しているのであって、本件国語テストにおける出題部分は、利用される具体的場面において、設問の理解及び解答のために利用されることを超えて、利用者である児童又は教師にとって、それ自体鑑賞性を有する性質のものとして引用されているのではない。 また、本件国語テストに引用された箇所のみでは、物語は完結しておらず、それ自体鑑賞の対象となるものではない。 (オ) したがって、本件国語テストは、設問部分及びテストを実施するために教師に必要な情報である「実施時間」等の記載部分が「主たる部分」であり、本件各著作物の引用部分は、「従たる部分」である。 キ 通常の利用方法との代替性・経済的損失 (ア) 積極損害のないこと 本件国語テストは、既に掲載教科書を手元に所有している教師及び児童のみが使用するものであり、その引用箇所も設問に必要な範囲に限られていることから、本件国語テスト自体が本件各著作物の通常の利用方法に代替したり、これに競合するものではなく、一般書籍の販売に悪影響を及ぼすことはない。 (イ) 得べかりし利益の喪失のないこと 本件国語テストは、教師がテスト又は宿題等に用いるものであるところ、国語教育の現場では、教科書に準拠したテスト及びドリルが必要不可欠であるから、仮に被告らが本件国語テストを供給しないのであれば、教師自らがテスト及びドリルを作成することになり、その際に教科書から出題文を引用することにならざるを得ない。著作権法35条は担任教師が複製の主体となることを要求しているが、本件国語テストは一般に市販されるものではなく、児童数に合わせて学校に納入され、教師自らが保管しておき、教師が学習の進捗状況に合わせて児童らに学習用補助教材を使用させ、教師自らが評価を行うという利用に供するものであって、担任教師に代わって教材を作成し、その労を軽減することを目的とする。したがって、本件国語テストの制作頒布により担任教師の負担を軽減したからといって、本来ならば行われないはずの複製が行われたのではなく、担任教師の段階では著作者の許諾を得ることも対価を支払うこともなく行われることとなる出題文としての複製が被告らの段階で行われたに過ぎない。よって、本件国語テストにおける出題文としての引用は、著作権者に得べかりし利益の喪失を生じさせるものではない。 【原告の主張】 ア 明瞭区別性について 本件国語テストは、教科書に掲載された本件各著作物が上段囲いの中に、そのままあるいは作品に変更を加えて掲載され、下段部分は、その作品を題材とした小問形式の問題が掲載され、問題文に続く括弧内に解答を記入する形式となっている。本件各著作物は、問題文として下段で用いられているのであるから、本件国語テスト全体、特に下段部分においては、いかなる部分に本件各著作物が用いられ、いかなる部分が被告らのオリジナルであるかが区別し難い。 イ 主従関係について 本件国語テストにおいて、使用されている分量を単純に比較しても、主たる部分は、上段に問題文の題材として掲載されている作品であり、従たる部分は、当該作品に依拠して作成された下段問題文と解答欄等である。また、本件国語テスト自体、全面的に本件各著作物に依拠して作成されているのであり、本件各著作物が存在しなければ、被告らが作成した問題文そのものが成り立たない。こうした依存性の強さから判断しても、主たる部分は本件各著作物であり、従たる部分は下段問題文である。 ウ その他被告らの主張について (ア) 引用の目的 上段の本件各著作物の引用がなくても、下段問題文は、問題文自体として成り立つのであり、引用の目的は、下段問題文を解答する際に、上段作品を参照することができるという単なる便宜上のものに過ぎない。 (イ) 引用の必要性 被告らは、下段問題文を作成するに当たっては、教科書を参照する形式とすることが可能であり、生徒が解答するに際して教科書を参照しても不都合はない。穴埋め問題や漢字の書き取り問題等は、その部分のみを教科書から転記すれば足りる。実際、教育担当者らがテスト等の問題を作成する場合においては、教科書掲載作品をあえて問題用紙の上段半分を利用して大々的に転記することは行わず、問題との関係で漢字書取問題や穴埋め問題に必要な部分のみ転記するのが一般的である。 (ウ) 本件国語テストの創作性について 本件国語テストの上段は本件各著作物がそのまま複製されており、被告らの創作性を認めることはできない。被告らが創作しているのは下段の数問の問題文と解答欄の括弧であるところ、括弧には創作性が認められないし、下段の設問は上段に掲載する本件各著作物の存在なくして成り立たないものであり、本件各著作物を利用する以上、その設問内容も限定されるから、独自の創作性があるとは認められない。 (エ) 鑑賞性について 被告らは、本件各著作物を転載することによって鑑賞性を減殺している。 (オ) 損害について 一般的には教科書に掲載されれば本件各著作物の売れ行きに影響するのが通常であり、その損失は教科書に掲載されたことに対する補償金によって補填される。しかし、補償金は教科書に掲載することの対価として支払われるのみであり、教科書に準拠して利用される副教材その他学習書に掲載されることに対する対価は含んでいない。原告は、副教材その他に掲載される場合には、その掲載の対価を受領できなければその対価相当額の損害を被ることとなる。 エ よって、本件各著作物の本件国語テストへの複製は、適法な引用であると認めることはできない。 (2) 争点(2)について 【被告らの主張】 ア 著作権法36条の適用を受ける複製は、「試験の目的上必要と認められる限度」のものでなければならないところ、被告らの複製の態様は上記(1)【被告らの主張】ウのとおり上記限度を超えるものではないし、本件国語テストが本件各著作物の通常の利用方法に代替したり、これに競合するものではなく、一般書籍の販売に悪影響を及ぼす余地がないことからすると、上記要件を満たす。 イ 次に、@同条2項が「営利の目的として試験を行なう者」と書かずに、「営利を目的として試験問題の複製を行なう者」と規定していること、A同条の「試験」は厳格な秘密性が求められない校内試験や予備校等が行う模擬テスト等を想定しており、入学試験に類するものに限られないし、本件国語テストも、現行著作権法制定当時から広く小学校の教育現場で利用されており、そのような本件国語テストの存在を前提として、同条の適用対象とすることを意図して現行著作権法が制定されたこと、B本件国語テストは、一般に市販されておらず、専ら小学校に対してのみ納入され、担任教師により保管され、教師が学習の進捗状況に合わせ、事前に児童にテスト用紙を開示することなくこれをテストとして実施するという意味で秘密性があること、C本件国語テストは小学校に備えておくべき児童の正式な学習の記録である指導要録に記載すべき評価・評定を行うためのものであって、同条の「人の学識技能に関する試験又は検定」の内実を備えていること、D本件国語テストの利用は、著作物の通常の利用と衝突せず、そのような利用を行う教育上の必要も高いこと等の理由から、本件国語テストのような校内で行われる試験の問題として本件各著作物が複製される場合にも同条の「試験又は検定」に当たるものとして同条が適用されるというべきである。 【原告の主張】 ア 学校内で試験を行う場合は試験問題としてある著作物を使用しても同法35条の適用により著作権の制限が可能であるから、著作権法36条は、学外において行われる試験又は検定に限って適用されるべきである。本件国語テストは、学外で行われるものではないから、同法36条の「試験又は検定」に当たらない。 イ 同法36条の立法趣旨は、人の実力を評価する材料として試験又は検定を行う場合には、事前に問題が漏洩されればその公正を保てず、試験に用いる度に著作権者の許諾を得なければならないとすると、秘密性が保てなくなるということにあるから、同条の「試験」はこのような秘密性を保ち公正な評価を要求されている試験を指す。@本件国語テストは、出題範囲が当該単元に限定されること、A被告らは教科書で学習する内容に即した家庭用学習教材や塾用教材を制作、販売していること、B被告らは年度ごとに掲載問題を変更していないこと等からすると、本件国語テストには試験の公正さを保つための秘密性がない。 また、同条によって著作権が制限を受けるには事前に著作権者から許諾を受けることが困難という事情が必要となるが、本件国語テストの著作者は教科書に明記され、出所が明確であるから、事前に著作者に許諾を得ることは何の支障もない。 ウ 同条は、試験として著作物を利用する場合は通常一回的利用で終わり、反復継続して同一の問題が用いられることはないから、著作物の通常の利用を害さないので、著作権制限を認めても差し支えないという点にある。しかし、本件国語テストは教科書に作品が掲載されている期間は、全く同一の作品を問題文として掲載し、問題自体にも差異はないから、同一作品が毎年同じ形で本件国語テストに使用されており、著作物の通常の利用を侵害されてきた以上、同条を適用することはできない。 エ 本件国語テストは、小学校中高学年において、生徒が学習目標に到達したかどうかを測定し、その結果から教師が生徒への指導の方法に改善を加えるために使用されるだけであり、特に小学校低学年においては、児童生徒の評定にさえ使用されていないから、「試験又は検定」に該当することはない。 (3) 争点(3)について 【原告の主張】 被告ら(被告青葉出版株式会社を除く。)は、本件国語テストの印刷、販売において、本件各著作物中の文章を別紙対比表記載のとおり、切除の上、接続する等、著作者の意に反し、本件各著作物に改変を加えて複製しており、著作者人格権(同一性保持権)を侵害している。 【被告ら(被告青葉出版株式会社を除く。)の主張】 争う。 (4) 争点(4)について 【被告株式会社文溪堂の主張】 原告は、ペンギン・パトナム・インク(以下「ペンギン社」という。)との間で、本件各著作物の利用を許諾する旨の契約を締結し、その中でペンギン社が第三者に対してさらに本件各著作物の利用を許諾する権利を有することを認めている。そして、被告株式会社文溪堂は、ペンギン社との間で、本件各著作物に関する利用許諾契約を締結し、ペンギン社から本件各著作物の利用許諾を受けている。 なお、本件各著作物の本件国語テストへの掲載に当たっては、必要最低限の改変が行われることが前提とされており、被告株式会社文溪堂は、本件国語テストを送付し、ペンギン社においてその内容を確認することを可能な状態にしたが、ペンギン社から抗議、請求等はなかったから、本件著作物1に改変を加えて複製したことが上記契約違反となることはない。 【原告の主張】 原告は、ペンギン社との間で利用許諾契約を締結しているが、当該契約においては、ペンギン社にサブライセンス権を付与していない。したがって、被告株式会社文溪堂がペンギン社と上記契約を締結しているとしても、当該契約の効力は原告には及ばない。 また、被告株式会社文溪堂は、本件著作物1に改変を加えて複製しているところ、このことは、被告株式会社文溪堂とペンギン社との上記契約に違反するから、同被告は、許諾に基づいて利用しているとはいえない。 (5) 争点(5)について 【被告らの主張】 民法724条にいう「損害及び加害者を知った時」というためには、損害を発生させる加害行為及び加害者を認識すれば足り、具体的な損害の金額等を知る必要はないところ、本件において自己の作品が教科書に掲載されることにより、それに対応した被告ら発行の本件国語テストの出題文として引用される事実を知れば、「損害及び加害者を知った」ということができる。そして、@原告は、著作権法33条2項により教科書出版会社から通知を受けて補償金を受領しているから、本件各著作物が教科書に掲載されることを教科書出版前に知っていたこと、A本件国語テストは教科書に対応したものとして全国の小学校で長年にわたり広く利用されており、教科書に掲載されるとその教科書に対応した本件国語テストにも出題文として引用されることは公知の事実であること、B被告らは国語テスト発行会社として実績のある会社であり、全国の小学校に対してその販売活動を展開すると共に、本件国語テストにも発行会社名を記載しており、平穏かつ公然と、本件国語テストの発行を継続してきたこと、C被告らによる各学期分の本件国語テストの発行、頒布の時期は小学校における各学期の使用開始の前であること、以上の事実によると、原告は遅くとも本件著作物を掲載した教科書の使用が小学校において各学期に開始され、それに伴って各学期分の本件国語テストの利用が開始された時点で損害及び加害者を知ったものといえる。したがって、原告が損害賠償請求を追加した平成11年9月3日から3年以上前に発行された本件国語テストの利用に基づく損害賠償請求権については消滅時効が成立するので、これを援用する。 【原告の主張】 @本件国語テストが学校教育現場に限定して使用されていたこと、A学校への納入も被告らの代理店を通じて行われる仕組みであったこと、B一般書店での店頭販売は行われず、一般人向けの広告、宣伝が行われる性質の商品でもないこと、Cしたがって、本件国語テストは一般の人の目に触れることはなく、本件国語テストを一般人が入手することは著しく困難であったこと、D原告の所在地はアメリカ合衆国であること、以上の事実からすると、原告が損害及び加害者を具体的に認識していたとはいえない。 原告が本件国語テストによる著作権侵害の事実を知ったのは、原告の顧問弁護士が日本ビジュアル著作権協会理事長から本件国語テストの一部を見せられた平成10年9月である。原告は平成11年3月に本件訴訟を提起し、同年9月3日には損害賠償の請求を行っているから、消滅時効は完成していない。 (6) 争点(6)について 【被告ら(被告株式会社文溪堂を除く。)の主張】 @被告らは教科書出版会社に対し、謝金を支払うことで教科書掲載作品の利用について、著作権を含む権利処理が行われたものと信じて30年余にわたり支払い続け、業界慣行が維持されていたこと、A被告らの業界団体である社団法人日本図書教材協会(以下「日図協」という。)と小学校国語教科書著作者の会、社団法人日本児童文学者協会及び社団法人日本児童文芸家協会との間で協定が結ばれたこと、B本件国語テストにおいては、教科書に準拠する必要があり、教科書に掲載されている著作物を出題文として利用する必要があること、C本件国語テストが本件各著作物の通常の利用方法に代替したり、これに競合したりするものではなく、一般書籍の販売に悪影響を及ぼす余地がないこと、D原告が被告らによる本件著作物の利用を許諾しない場合、図書教材の内容及びこれを用いる教育現場に重大な影響を及ぼすこと、以上の事情からすると、原告の請求は権利の濫用に当たる。 【原告の主張】 @謝金には著作権料が含まれず、仮にそれを誤信したとしても原告の権利行使を制限する理由にならないこと、A被告ら主張の合意は原告を拘束するものではないこと、B小学校においては教師が児童の教育を担当しており、自ら副教材を制作すれば足り、教育現場において本件国語テストを用いる必然性はないこと、C被告らは、原告の許諾を得ることが可能な状況にありながら無断複製を行った上で過去50年間にわたり出版していたこと、以上の事情からすると、被告らの主張は理由がない。 (7) 争点(7)について 【原告の主張】 被告らが本件国語テストへの作品の複製を適法引用と考えた根拠とする被告らを含む教材出版社と教科書出版社との間の紛争経過及び両当事者間の一連の合意は、いずれも教材出版社と教科書出版社との間の紛争に関するものであり、教科書掲載作品の著作権者とは無関係に行われていたものであるし、教科書掲載作品の著作権者の権利処理を含むものではない。また、他人の著作物を引用する際には、事前に著作権者に確認の問合せを行うのが一般的であるが、被告らはそれを行っていない。したがって、被告らの主張する事情は、いずれも被告らの故意又は過失を否定する根拠とはならず、被告らには、故意又は過失がある。 【被告らの主張】 別紙「争点(7)に関する被告らの主張」記載のとおり。 (8) 争点(8)について 【原告の主張】 ア 特許法102条1項の類推適用(主位的主張)について (ア) 特許法102条1項は、知的財産権侵害事件における逸失利益の立証の負担の軽減により、権利者の被害回復を容易にしたものであり、この要請からすると、著作権のみ特段区別して権利者に不利益に扱うべき理由はない。したがって、著作権侵害の損害賠償請求事件においても、権利者が被った損害の算出に当たり、同項を類推適用することができると解するべきである。 (イ) 譲渡数量 著作権侵害の場合は、著作権が著作物の複製自体を制限する権利であることから、同項にいう「譲渡」を「複製」に読み替え、複製された数量を基準に損害を算出するのが相当である。 (ウ) 単位数量当たりの利益額 権利者である原告の単位数量当たりの利益額は、本件各著作物の複製を許諾している単行本を基準に算出される。原告において当該単行本により得られる利益の額は、その印税相当額を下回ることはなく、単位数量当たりの利益額は、単行本の価格に単行本の印税率を乗じた額を下回ることはない。 (エ) 以上から、損害額の算出は、別紙原告損害計算表1、2記載のとおり、単行本価格×印刷部数×全体比率(100パーセント)×印税率(単行本)によって行うのが相当である。 イ 著作権法114条2項に基づく主張(予備的主張)について (ア) 原告は、被告らが原告に無断で本件各著作物を複製し作成していたことを知らず、本件国語テストに本件各著作物の使用を許諾することは全く想定していなかったのであるから、原則として複製を認めてきた単行本の価格を基準とするのが相当である。本件国語テストの本体価格を基準とすることは、@本件紛争後、被告らによって作られた基準を適用するのは適当ではないこと、A本件国語テストの価格は無断複製という違法な条件下に成立したものに過ぎないこと、B本件国語テストについて本体価格を基準とする方法が一般的合意を得られるとは考えられないこと、C結果的にも著しく低額の使用料での作品使用を強いるに等しいことからすると、相当ではない。 (イ) 以上から、損害額の算出は、別紙原告損害計算表1、2記載のとおり、単行本価格×印刷部数×全体比率(100パーセント)×印税率(単行本)によって行うのが相当である。 ウ 著作権侵害に対する慰謝料 (ア) 何人に著作物の利用を許諾するかを決定する自由は法的に保護されるべき人格上の利益であり、著作権者のこうした権利が法的に保護されるべきものであることは明らかである。したがって、これを侵害された場合には、財産権侵害による損害賠償請求とは別に、精神的損害に対する慰謝料の請求が可能と解される。 (イ) 原告は、その使用を許諾していないにもかかわらず、被告らによって長年にわたり本件各著作物を本件国語テストに複製されたことにより、多大な精神的苦痛を被っているが、こうした著作権侵害が行われた場合における慰謝料の算定に際しては、著作物の性質、侵害の態様、侵害後の対応、権利者の主観的事情等を総合的に評価して、社会的に相当と認められる額を算定すべきである。そして、@本件各著作物は童話であり、著作者の人格的要素を色濃く反映した文芸作品であり、何人に著作物の利用を許諾するかを決定する自由を特に尊重すべき性質のものであること、A被告らによる著作権侵害行為は長年継続されたきたものであり、その侵害態様も前記のとおり著作者人格権侵害を伴っているものであり悪質であること、B被告による著作権侵害行為は、原告が発見した後も継続されたこと、C本件訴訟提起のために原告及びその関係者が費やした労力は多大であること、以上の事実からすると、原告の慰謝料は、少なくとも被告らによる著作権侵害行為により原告が被った財産的損害の額と同額とするのが相当である。 エ 被告らの共同不法行為 被告らは、いずれも日図協の加盟社であるところ、被告らは日図協の指導の下、本件国語テストへの本件著作物の複製については、著作権者本人の許諾を得る必要がないとの専断的判断により、相互に意を通じて一連の無断複製行為を行ってきたものであるから、被告らは共同して不法行為を行ってきたものである。 オ 弁護士費用 原告は、被告に対する本件訴訟の提起を余儀なくされたところ、本件における弁護士費用は少なくとも原告の被った損害の10%を下らない。 カ 遅延損害金の起算点 不法行為に基づく損害賠償請求権は、その発生と同時に履行期が到来するから、遅延損害金の起算点は損害が発生した不法行為時である。本件国語テストはそれが使用される小学校の年度毎に作成されるものであるから、各年度分の副教材は、それぞれ少なくとも当該年度の最終日までには作成され、その過程で原告の著作権を侵害する不法行為が行われている。したがって、被告らの著作権侵害の不法行為による損害賠償請求権は、各年度における本件国語テスト分につき、当該年度の最終日までには遅くとも発生しており、遅延損害金も同時点から起算される。 キ 以上により、原告が被告らに対して求める主位的請求及び予備的請求に かかる損害賠償の額は以下のとおりであり(各年度ごとの内訳は別紙原告 損害集計表及び別紙原告損害計算表1、2記載のとおりである。)、そのうち、原告らの請求額は1億6120万9152円である。 @ 著作権侵害に対する損害 8527万3211円 A 著作権侵害に対する慰謝料 8527万3211円 B 弁護士費用 1705万4642円 【被告らの主張】 ア 主位的主張について 特許法102条1項は、権利者の実施能力の限度において、侵害者の譲渡数量=権利者の喪失した販売数量としているものであるところ、原告は財団であって、本件国語テストと同種の商品を自ら製造販売することのできる実施の能力を有しない。また、同項にいう「侵害の行為がなければ権利者が販売することができた物」とは、侵害者の製品と代替可能性のある製品で、権利者が販売する予定のあるものを指すところ、単行本には設問が掲載されているわけではないし、児童や教師が保有する教科書には本件国語テストよりもはるかに多い分量の本件著作物が掲載されていることからすると、単行本は本件国語テストと代替性があるとはいえないし、単行本は、原告から出版権等の設定を受けた出版社が販売している商品であって、原告が販売している物ではない。したがって、同項を類推適用することはできない。 イ 予備的主張について (ア) 「通常受けるべき金銭の額」の算定に当たっては、@本件国語テストは、小学校に納品され、小学校において教師が実施する国語テストとして用いられるものであって、学校教育の現場において極めて重要な教育的役割を果たしていること、A教科書に掲載された作品をいわば二次的に利用せざるを得ないこと、B本件国語テストは、児童の学習到達度を測定するためのものであり、主として下段に配置されている設問部分が本質的部分であり、教科書掲載作品は設問のために、かつそれに必要な限度で引用して利用しているに過ぎないこと、C本件国語テストが引用するのは教科書掲載作品の一部分に過ぎず、その範囲は設問に限られており、作品全体が掲載されているわけではないこと、D本件国語テストの出題文は、引用部分の鑑賞自体を目的として提供されるものではないこと、E単行本の発行が本件各著作物の一次的利用であるとすると、教科書の掲載は二次的利用であり、本件国語テストへの利用は三次的利用であり、しかも被告らによる本件国語テストへの本件著作物の利用はその本来の利用方法である単行本の発行を阻害するものではないこと、F本件国語テストに接する者は既に教科書を持っており、その接する前により全文に近い形で教科書において当該作品を読んでいるから、教科書に掲載されている作品を本件国語テストに部分引用したからといって、単行本の売上が減少することは考えられないこと、以上の本件国語テストの特徴を勘案の上、妥当な金額を算定する必要がある。 (イ) 基礎となる価格について a 単行本と本件国語テストとでは、@作品の利用目的、A掲載の分量、B掲載態様、C複製物の用途・使用態様等が全く異なっており、著作物の利用方法として全く別個のものであること、本件国語テストにおける作品利用については、既に大多数の著作者から許諾が得られており、既に許諾ルールについて標準が形成されているところ、その際本件国語テストの本体価格を基準としていること、以上の事実からすると、「通常受けるべき金銭の額」は、被告らが学校に納入した際の価格を基準とすべきである。 b 基礎となる価格は、消費税を除いた価格によるべきである。消費税は、国又は地方公共団体に納付すべき金銭であって、被告らは本件国語テストを販売するに当たって消費税を本体価格に上乗せして受領するが、このうち消費税は売上金となるのではなく、国又は地方公共団体に納付するための預かり金となる。このような消費税は、被告らが消費者から預かっているだけであり、被告らの収入を構成するものではないから、印税相当額の計算において消費税部分を基礎に含めることはできない。 (ウ) 印税率について 本件国語テストにおける本件著作物の利用についての相当な印税率は、原著作者分と翻訳者分を合わせても本件国語テストの本体価格の5%を超えることはなく、原著作者分の印税率は2.5%を超えることはない。 平成12年の著作権法改正は、同法114条2項の「通常受けるべき金銭の額」の文言から「通常」の二文字を削除したものであるが、これは、既存の使用料規程等が参酌され、侵害者が事前に許諾を受けた者と同じ額を賠償すればよい結果となっていたことから、これを改めるために「通常」という文言を削除したものである。そうすると、少なくとも同改正法の施行前における侵害事実については、現実に広く使用されている印税率と大きく異なる額を認める余地はないというべきである。 (エ) 作品掲載比率について 本件国語テストにおいて、本件各著作物は表面の上段部分(2分の1頁)に引用、掲載されているのみであり、それ以外に本件各著作物の著作権侵害となり得る部分はないから、作品の利用率は当該2分の1頁が全体に占める割合を超えることはない。 (オ) 印刷部数について 本件国語テストにおいては、採択部数のみが被告らにとって売上収入を生み出すものであり、それ以外のものはおよそ商品として販売代金を生み出す性質のものではないところ、販売されることが予定されていない@見本品、A教師用、破損・損傷等及び転入生等のための予備、B製造過程において生じる剰余部数を、販売価格に乗じる部数に算入して印税相当額の発生を認めることはできないから、著作権法114条2項にいう「通常受けるべき金銭に相当する額」は、採択部数によって算定されるべきであり、印刷部数によるべきではない。 (カ) 以上により、著作権法114条2項の通常受けるべき金銭の額に相当する額は、教材本体価格(消費税を除く)×作品掲載率(教材中占有率)×採択部数×印税率(5%。ただし、原告は翻訳物の原著作者であるので2.5%)によって算定されるべきである。 ウ 著作権侵害による慰謝料について 著作権法においては、同一の著作物に対する財産的権利である著作権と、人格的利益を保護する著作者人格権との双方が区分されて認められているから、著作者人格権侵害と別個に著作権侵害による慰謝料を請求する余地はない。 エ 共同不法行為について 本件において仮に著作権侵害が成立するとしても、被告ごとに別個の加害行為が存在し、結果もそれぞれに発生している場合であり、1つの加害行為及び結果発生に複数の者が加担している場合ではないから、共同不法行為は成立しない。 オ 遅延損害金の遅滞時期について 不法行為に基づく損害賠償債務は、期限の定めのない債務であるから、民法412条3項の原則どおり、損害を受けた者からの請求によって遅滞に陥ると解するべきである。 第3 当裁判所の判断 1 本件国語テストにおける本件各著作物の掲載態様について 証拠(甲3の1、2、甲4ないし6、甲7の1、2、甲8、17、乙1の1ないし5、丙2)と弁論の全趣旨によると、本件国語テストにおける本件各著作物の掲載態様は次のとおりであると認められる。 (1) 本件著作物1は、本件国語テスト中において、同著作物の表題によって特定される単元のうち、「よんで こたえましょう。」と指示された見開きページに掲載されている。本件著作物1の掲載されている部分は、各テストによって異なっている。 (2) 本件国語テストには、本件著作物1が、(1)の見開きページ上段のほぼ全面に罫線によって四角で囲まれた中に掲載されており、これらの掲載行数は、20行以上ある。そのため、本件国語テストに掲載されている本件著作物1は、それ自体で、表現されている登場人物の言動やその心理、場面の状況等を理解することができる。なお、末尾には教科書からの引用であることが明示されている。 (3) 別紙対比目録記載1の本件国語テストには、(2)のように掲載された本件著作物1の一部に傍線が付され、そこに番号が付されている。 別紙対比目録記載2の本件国語テストには、(2)のように掲載された本件著作物1の一部に傍線又は波線が付されている。 別紙対比目録記載5の本件国語テストには、(2)のように掲載された本件著作物1の一部を罫線によって四角で囲んでいる。 (4) 本件国語テストには、(1)の見開きページ下段のほぼ全面に、4個ないし7個の選択式又は記述式の問題が設けられており、これらは、(3)のように特定された著作物の部分や掲載された著作物全体についての読解力を問うものである。問題の数・内容・配列、解答の形式は、各テストによって異なっている。 (5) 別紙対比目録記載1、4の本件国語テストには、(2)のように罫線によって四角で囲まれた中に本件著作物2がそれぞれ2点掲載されている。 2 争点(1)について (1) 公表された著作物を引用して利用することが許容されるためには、その引用が公正な慣行に合致し、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行わなければならないとされている(著作権法32条1項)ところ、この規定の趣旨に照らすと、ここでいう「引用」とは、報道、批評、研究その他の目的で、自己の著作物中に、他人の著作物の原則として一部を採録するものであって、引用する著作物の表現形式上、引用する側の著作物と引用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができるとともに、両著作物間に、引用する側の著作物が「主」であり、引用される側の著作物が「従」である関係が存する場合をいうものと解するべきである。 (2) 前記1のような本件各著作物の掲載態様に照らすと、引用される側の著作物である本件各著作物の全部又は一部と引用する側の著作物である本件国語テストを明瞭に区別して認識することができるというべきである。 また、本件国語テストの設問部分には、本件各著作物からの本件国語テストに収録する部分の選定、設問部分における問題の設定及び解答の形式の選択、その配列、問題数の選択等に、被告ら各社の創意工夫があることが認められる。 しかし、これらの設問は、本件各著作物に表現された思想、感情等の理解を問うものであって、上記問題の設定、配列等における被告の創意工夫も、児童に本件各著作物をいかに正確に読みとらせ、それをいかに的確に理解させるかということにあり、本件各著作物の著作物としての創作性を度外視してはあり得ないものである(この点について、被告らは、内容それ自体の創作性を利用しているかどうかは引用の判断に関係ない旨主張するが、ここでいう読みとらせ、理解させる対象は、内容それ自体のみならず、表現を含むものであるから、本件国語テストは、本件各著作物の著作物としての創作性を度外視してはあり得ないということができる。また、被告らは、本件国語テストは、児童に本件各著作物をいかに正確に読みとらせ、また、それをいかに的確に理解させるかではなく、正確に読みとっているか、的確に理解しているかを評価測定するものである旨主張するところ、後記3認定の事実からすると、本件国語テストは上記のとおり評価測定するという目的を有するものと認められるが、それとともに、児童に解答をするに当たって考えさせたり、採点返却すること等を通じて、児童に本件各著作物についての理解を深めさせるという目的を有するものと認められるから、上記評価測定のみが本件国語テストの目的であるとは認められない。)。そして、このことに、前記認定の本件国語テストにおける本件各著作物とそれ以外の部分の量的な割合等を総合すると、引用される側の著作物である本件各著作物が「従」であり、引用する側の著作物である本件国語テストが「主」であるという関係が存するということはできない。 (3) そうである以上、本件国語テストにおける本件各著作物の掲載が、著作権法32条1項にいう「引用」に当たると認めることはできない。 3 争点(2)について (1) 証拠(甲18の1ないし13、甲44、45、乙2、3、乙11の1ないし5、乙12の1ないし3、乙13ないし16、24、乙28ないし34(枝番をすべて含む))と弁論の全趣旨によると、本件国語テストについて、次の事実が認められる。 ア 本件国語テストは、小学校において、教科用図書(教科書)とともに使用することができるとされている「教科用図書以外の図書その他の教材で、有益適切なもの」(学校教育法21条2項)として用いられているものの1つであり、各小学校ごとに設けられる教材採択委員会等において、特定の制作会社が制作したものが採択され、地方教育行政の組織及び運営に関する法律33条1項に基づいて制定された各教育委員会規則(学校管理規則)に従い、学校長から教育委員会に対して届出がされたうえ、購入、使用されるものである。その購入代金は、児童の保護者又は行政が負担とする。 本件国語テストは、国語教科書の各単元に対応して1回分が制作されており(それ以外に、各学期の「まとめのテスト」がある。)、通常、各学期に6ないし8回、これを用いたテストが実施されるものであって、各回ごとに、児童数に余部1、2部を加えた部数がまとめられ、学期の初めに、その学期で実施される分が各教師に届けられる。 イ 本件国語テストを用いたテストは、学習の進捗状況等に従い、通常は国語教科書の各単元を終了する際に、当該単元に係る分が実施される(学期末、学年末に実施されることもある。)ものであって、教師が、各学級の通常の授業時間内に、1回分を各児童に配布して行わせる。そのため、同一の本件国語テストを用いる同一の小学校の同一学年であっても、各学級によって、その実施日、時間が異なることがある。 実施した国語テストは、教師が回収して採点をした後、児童毎に学習上のコメント等を付す等したうえ、各児童に返還される。 ウ 小学校において児童ごとに作成される小学校児童指導要録(平成3年3月20日文初小第124号の各都道府県教育委員会宛て文部省初等中等局長通知による改訂後のもの)は、児童の学籍並びに指導の過程及び結果の要約を記録し、指導及び外部に対する証明等に役立たせるための原簿としての性格を有するものである。そして、その「各教科の学習の記録」のうちの「観点別学習状況」欄には、小学校学習指導要領に示す各教科の目標に照らして、その実現の状況を観点ごとに評価し、A(十分満足できると判断されるもの)、B(おおむね満足できると判断されるもの)、C(努力を要すると判断されるもの)の記号により、各学年ごとに記入するものとされており、国語については、「国語への関心・意欲・態度」、「表現の能力」、「理解の能力」、「言語についての知識・理解・技能」の各観点が設定されている。 しかるところ、本件国語テストと共に教師に配布される被告ら各制作会社作成の「得点集計表」等の名称が付された一覧表は、児童ごとに、特定の回の国語テストの得点(又はそのうちのある部分の設問に対する得点)を集計することにより、その合計点数によって、「観点別学習状況」欄の各観点(少なくとも「国語への関心・意欲・態度」を除く各観点)のA、B、Cの評価に割り振る仕組みとなっている。 (2) 公表された著作物は、入学試験その他人の学識技能に関する試験又は検定の目的上必要と認められる限度において、当該試験又は検定の問題として複製することができるとされ(著作権法36条1項)、また、営利を目的として、複製を行うものは、通常の使用料の額に相当する額の補償金を著作権者に支払わなければならない(同条2項)とされているところ、これらの規定は、入学試験等の人の学識技能に関する試験又は検定にあっては、それを公正に実施するために、問題の内容等の事前の漏洩を防ぐ必要性があるので、あらかじめ著作権者の許諾を受けることは困難であること、及び著作物を上記のような試験、検定の問題として利用したとしても、一般にその利用は著作物の通常の利用と競合しないと考えられることから、試験、検定の目的上必要と認められる限度で、著作物を試験、検定の問題として複製するについては、一律に著作権者の許諾を要しないものとするとともに、その複製が、これを行う者の営利の目的による場合には、著作権者に対する補償を要するものとして、利益の均衡を図ることとした規定であると解される。 そうすると、同条1項によって、著作権者の許諾を要せずに、問題として著作物の複製をすることができる試験又は検定とは、公正な実施のために、試験、検定の問題として利用する著作物が何であるかということ自体を秘密にする必要性があり、それ故に当該著作物の複製について、あらかじめ著作権者の許諾を受けることが困難であるような試験、検定をいうものであって、そのような困難性のないものについては、複製につき著作権者の許諾を不要とする根拠を欠くものであり、同条1項にいう「試験又は検定」に当たらないものと解するのが相当である。 (3) 上記(1)で認定した事実に証拠(乙11の1ないし5、乙12の1ないし3、乙13ないし16、乙28ないし34(枝番をすべて含む))と弁論の全趣旨を総合すると、本件国語テストが児童の学習の進捗状況に応じた適宜の段階において、教師が、各児童ごとにその学力の到達度を把握するものとして利用し、本件国語テストの結果(得点)が、教師の児童に対する評価の参考となり得るものであると認められる。 しかしながら、教科書に掲載されている本件各著作物が本件国語テストに利用されることは、当然のこととして予測されるものであるから、本件国語テストについて、いかなる著作物を利用するかということについての秘密性は存在せず、そうすると、そのような秘密性の故に、著作物の複製について、あらかじめ著作権者の許諾を受けることが困難であるような事情が存在するということもできない。 また、証拠(乙30の4ないし7、10、乙33の9、12ないし14、17、20、25、27)には、小学校の教師等が本件国語テストを用いるテストの実施に当たって秘密の保持を配慮し、又は配慮していたとの趣旨を述べる記載があり、その具体的内容としては、当該テストの実施を学年の各クラスで同じ時期にしていたことと、テストの内容が漏れないように各クラスが当該テストを終了するまでは答案用紙を返却しないという点にある。しかし、学年の各クラスで同一時期に実施するとしても、同一時間に実施するのでなければ秘密保持とはならないし、実施の時間が異なるとすると、他のクラスにおいて当該テストが実施されるまで答案用紙の返却をしないとしても、秘密保持の上でさしたる効果がないといえる。さらに、上記の程度の配慮でさえ、どの小学校においても一律行っていたとまで認めるに足りる証拠はない。したがって、一般的に、本件国語テストについて秘密保持が図られていたと認めることはできない。 したがって、被告らが、本件各著作物を本件国語テストに複製することは、著作権法36条1項所定の「試験又は検定の問題」としての複製に当たるものではない。 なお、被告らは、@同条の「試験」は厳格な秘密性が求められない校内試験や予備校等が行う模擬テスト等を想定しており、入学試験に類するものに限られないし、本件国語テストも、現行著作権法制定当時から広く小学校の教育現場で利用されており、そのような本件国語テストの存在を前提として、同条の適用対象とすることを意図して現行著作権法が制定されたこと、A本件国語テストの利用は、著作物の通常の利用と衝突せず、そのような利用を行う教育上の必要も高いことを主張するが、予備校等の行う「模擬試験」や学校内での中間試験、期末試験等に同条の「試験」に当たるものがあるとしても、それは、上記認定の同条の趣旨からすると、上記認定のような秘密性を有するものに限られるというべきであるから、予備校等の行う「模擬試験」や学校内での中間試験、期末試験等に同条の「試験」に当たるものがあることは、上記認定を覆すに足りるものではない。また、本件国語テストを同条の適用対象とすることを意図して現行著作権法が制定されたことについては、そのような事実を認めるに足りる証拠はない(国立国会図書館調査立法考査局「著作権法改正の諸問題」(甲32)には、「営利を目的として学力テストの問題を作成するいわゆるテストも、補償金を著作者に支払うことを条件に、著作物の使用を認めている」との記載があるが、どのような学力テストかは明示されておらず、本件国語テストを作成する被告らを指すものとは認められない。)。さらに、本件国語テストの利用は、著作物の通常の利用と衝突せず、そのような利用を行う教育上の必要が高いとしても、上記認定の同条の趣旨からすると、上記認定のような秘密性を有しないものについて同条の適用を認めることはできないから、この事実も、上記認定を覆すに足りるものではない。 4 争点(3)について 著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができないから、原告が著作者人格権の主体となることはないというべきである。したがって、著作者人格権に基づく請求は理由がない。 5 争点(4)について (1) 証拠(甲21の1、2、甲61の2、丙1、3、4、丙5の2)と弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。 ア 被告株式会社文溪堂は、平成9年12月初旬、日本ユニ・エージェンシー(以下「ユニ」という。)に対し、本件各著作物を本件国語テストに掲載するために米国において本件各著作物の著作権を保有し又は管理する者との交渉を依頼した。 イ ユニは、同月26日、従前本件各著作物の管理を行っていたハーパー・コリンズ・チルドレンズ・ブックス社に対して、本件各著作物の利用許諾を得たいとの書簡を送信した。 ウ 上記ハーパー社は、平成10年1月8日、ユニに対して書簡(丙3)を送付した。同書簡には、本件各著作物に関する著作権は原告に返還したので、本件各著作物について利用許諾を得たいのであればユニは直接原告との間で交渉を行うべきであるとの記載がされていた。 エ ユニは、原告に対し、同月13日と同年2月16日、書簡(丙4、丙5の2)により、本件各著作物の利用の許諾を申し入れた。同書簡には、「日本語版選集の非独占的権利の取得に関して」「小学生向け問題集に掲載予定」などと記載されていた。 原告は、ユニの同年2月16日の書簡(丙5の2)を、ペンギン社に回付した。 オ 原告は、ペンギン社との間で、同年3月2日、本件各著作物に関する利用許諾契約を締結した。同契約には次の記載がある。 第1条a@ 原告はペンギン社に対し本件各著作物を含む原告作品の独占的、排他的な出版権を付与する。 第12条a ペンギン社は、以下の派生的な権利を持つ。 @ 他の出版業者を通じて増刷する。 カ ペンギン社は、ユニに対し、同年4月14日、ユニが原告に宛てて送付した上記書簡(丙5の2)を添付の上、必要箇所、貴出版物の形態、市販版・教科書版の別、初版部数、日本語・英語の別等を知らせるよう依頼する旨の書簡を送信した。 キ 被告株式会社文溪堂は、ペンギン社との間で、同年6月4日、本件各著作物に関する使用許諾契約を締結した。この使用許諾契約書には冒頭に「ペンギン・パトナム・インクは下記署名者(以下「被許諾者」という。)に対して、本契約書裏面記載の条件に従って、下記の作品(以下「本著作物」という。)を使用する非独占的権利を、出版から5年間付与する。」旨の記載があり、本契約条件として、「1事前にペンギン社の書面による承諾を得ずして、本著作物の削除、改変又は追加を行わないものとする。」との規定がある。 (2) 原告理事長作成の陳述書(甲61の2)には、上記原告とペンギン社との間の契約の規定は、ペンギン社が既に出版している著作物を完全な形で他の出版社が再版する許可権限を有するというものであり、ペンギン社が他の出版社に対し作品の引用文を出版することや異なる形で著作物を出版することを許可する権限を与えるものではない、原告からの書簡をペンギン社に転送したのは、ペンギン社が版権を持っていたために機械的に転送したものであるとの記載があるが、この記載が上記認定の事実から直ちに不自然であるということはできず、また、この記載に反するペンギン社の陳述書等の証拠はない。そうすると、いまだ、原告がペンギン社に対して、本件各著作物を本件国語テストのような形態で複製することを許諾する権限を付与したことの証明があるとは認められない。 したがって、被告文溪堂は原告から本件各著作物の利用の許諾を受けたものと認めることはできない。 6 争点(5)について (1) 民法724条にいう「損害及ヒ加害者ヲ知リタル時」とは、被害者において、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に、その可能な程度にこれらを知った時を意味するものと解され(最高裁昭和48年11月16日第二小法廷判決・民集27巻10号1374頁参照)、このうち同条にいう被害者が損害を知った時とは、被害者が損害の発生を現実に認識した時をいうとものと解される(最高裁平成14年1月29日第三小法廷判決・民集56巻1号218頁参照)。 (2) 証拠(甲60)には、原告が本件各著作物が本件国語テストに掲載されていることを知ったのは、日本ビジュアル著作権協会の理事長がアメリカ合衆国ニューヨーク市内のホテルで原告の顧問弁護士に対して本件国語テストの一部を見せた平成10年9月15日以降であるとの記載がある。 証拠(甲18の1ないし13、甲60、乙2)と弁論の全趣旨によると、原告は日本に支局や代理店を置いていないこと、本件国語テストは小学校のテスト教材として使用されるもので、被告らは直接又は販売代理店を通じて小学校に直接納入しており、一般書店等の店頭で販売していないこと、以上の事実が認められるから、原告は教科書出版会社から通知を受けて補償金を受領しており、本件国語テストは教科書に準拠するものとして日本全国の小学校において広く利用されてきた事実があったとしても、平成10年9月15日より前に原告が本件各著作物が本件国語テストに掲載されていることを知らなかったことは不自然ではないから、上記記載は信用することができる。したがって、原告は平成10年9月15日より前に本件各著作物が本件国語テストに掲載されていることを知っていたものと認めることはできない。 (3) よって、原告は、平成10年9月15日より前には、被告らが原告の著作権を侵害し、原告に損害が発生したことを現実に認識していたとは認められないから、民法724条の消滅時効が成立している旨の被告らの主張は認められない。 7 争点(6)について (1) 前記第2、4(6)【被告らの主張】中の@について 証拠(甲48の1、2、甲77の1ないし7、乙4の1、乙45の7ないし9、乙64)と弁論の全趣旨によると、被告らは、日図協及び教学図書協会を通じて、教科書出版会社に対して、教科書に準拠した教材を発行することについての謝金を支払っていたこと、これには、原著作者に対する著作権料は含まれておらず、謝金の一部でも原著作者に支払われた事実はないこと、以上の事実が認められる。この謝金の支払に関する基本契約書(乙4の1、乙45の8、9)には、原著作者に対する著作権料が含まれている旨の記載はなく、その他証拠(甲87、乙3、乙4の1ないし3、乙44の1ないし3、乙45の1ないし3、5ないし9、乙46の1ないし3、乙47、乙48の1、2、乙49、64)によって認められる経緯に照らしても、謝金支払に関する交渉経過等において原著作者に対する著作権料が含まれているかどうかが協議の対象となった事実は認められないから、被告らがこの謝金に原著作者に対する著作権料が含まれていると信じてもやむを得ないといえるような事実は認められない。他方、被告らが、原著作者に謝金の一部が支払われているかどうかを確認するのは極めて容易であったと考えられるが、被告らが何らかの確認をしたことを認めるに足りる証拠はない。したがって、被告らが、上記謝金が原著作者に支払われていなかったことを知らなかったとしても、そのことに過失があるものというべきである。 (2) 前記第2、4(6)【被告らの主張】中のAないしCについて 後記9(2)エ(ア)認定のとおり、小学校国語教科書著作者の会、社団法人日本児童文学者協会及び社団法人日本児童文芸家協会と被告ら及び日図協との間で平成11年9月30日に協定が締結されたことが認められる(上記【被告らの主張】中のA)が、この合意には、原告は含まれていない。また、各小学校において、国語教科書のうち本件各著作物が掲載された単元については本件各著作物を複製しないで制作された国語テストを利用するなどの方策を適宜採用することもできるものと考えられるから、本件国語テストにおいて教科書に掲載されている著作物を必ず出題文として利用する必要があるとまでは認められないし、このような事情は、そもそも被告らの側のみの事情である(上記【被告らの主張】中のB)。さらに、後記9(1)認定のとおり、本件国語テストと本件各著作物の単行本の間には、代替性がないものと認められる(上記【被告らの主張】中のC)が、そのことのみで、原告が権利を濫用していることが基礎付けられるということはできない。 (3) 前記第2、4(6)【被告らの主張】中のDについて 上記のとおり、教科書に掲載されている著作物を必ず出題文として利用する必要があるとまでは認められないし、他に原告が被告らによる本件各著作物の利用を許諾しないことによって教育現場に重大な影響を及ぼすことを認めるに足りる証拠はない。 (4) 以上述べたところからすると、原告の本件請求が権利濫用に当たるものということはできない。 8 争点(7)について (1) 原告は、第26回口頭弁論期日において、被告らに過失がないこと及びそれを否定する事情を主張し、それに関する証拠(乙44ないし50)を提出したことは時機に後れた攻撃防御方法(民訴法157条1項)に当たるとしてその却下を求めているが、その事情の一部は権利濫用の主張に係る事情として第9回口頭弁論期日において被告らが主張していたし、その余の事情に関しても、更に証拠調べ等の審理を要するものではないから、これによって訴訟の完結を遅延させるものではない。したがって、原告の主張は理由がない。 (2) 前記7のとおり、被告らは、謝金が原著作者に支払われていなかったことを知らなかったとしても、そのことに過失があるものというべきである。 被告らは本件国語テストへの複製が適法引用に当たると信じていたと主張する。確かに、証拠(乙45の4)によると、東京地方裁判所は、昭和40年7月23日、教科書会社を債権者、日本教育図書出版株式会社を債務者とする仮処分申請について、同申請を却下する決定を行ったこと、同申請の被保全権利は、@編集著作権又は編集著作物の出版権、A教科書の編集者自身の著作した部分の著作権又はその部分の出版権であること、同決定は、@債務者の出版物は債権者の編集著作権又は編集著作物の出版権を侵害しないこと、A教科書の編集者自身の著作した部分が特定されていないから、この点で既に失当であることを述べたうえで、「…債務者発行の学習書…では…の各文章が引用されている。しかしながら、これらの断片的な語句および文章の引用を見るだけでは…(教科書掲載作品の)全文をしのぶに由ないのみならず、その要旨を知ることさえできない。これらは、専ら、教科書の学習に資するため必要な範囲で、その一部を引用したものにすぎないものと認めることができる。」と述べたものであったこと、以上の事実が認められる。これに対し、本件国語テストにおける本件各著作物掲載の態様は、前記1認定のとおり本件各著作物の一部をそのまま掲載したものであって、「その要旨を知ることさえできない。」というようなものでないから、上記仮処分とは事案が異なり、この決定があるからといって、被告らが本件国語テストへの複製が適法引用に当たると信じていたことに相当の理由があるとはいえない。また、被告らは、教科書掲載作品の一部をテスト等に利用することは「適法引用」であり、著作者の許諾を要しないという見解は、裁判所、検察庁、監督行政庁、双方の訴訟代理人であった著作権法の権威者たちが、明示的・黙示的に支持してきたとも主張するが、教科書掲載作品を本件国語テストのような態様で利用することが「適法引用」に当たり著作者の許諾を要しないという見解を、裁判所、検察庁、監督行政庁、訴訟代理人であった著作権法の権威者(教材会社訴訟代理人のB弁護士(甲87、乙50)を除く)が支持してきた事実を認めるに足りる証拠はない(乙45の1の裁判所の見解についての記載は、日図協発行の書籍に記載されているのみであるから、直ちに採用できず、また、乙47の文部省著作権課の話は、「業界の公正妥当な慣行がつくられているなら、それはそれでよい」と述べたにとどまるから、これらの証拠は、裁判所や監督行政庁が、教科書掲載作品を本件国語テストのような態様で利用することが「適法引用」に当たり著作者の許諾を要しないという見解を支持したことを認めるに足りるものではない。)。 弁論の全趣旨によると、著作者の側から、長年にわたって、本件国語テストについて権利主張されてこなかったことが認められるが、権利主張がないからといって違法行為をしてもよいことにならないことは明らかである。 以上述べたところからすると、被告らには、本件各著作物を本件国語テストに掲載して、原告の本件各著作物に対する著作権を侵害したことについて過失があるものというべきである。 9 争点(8)について (1) 主位的主張について 原告は、特許法102条1項を類推適用すべきと主張するが、同項は、特許法の規定であって、直ちに同様の規定が設けられていない著作権侵害行為の損害額の算定に類推適用することはできないものというべきである。 また、特許法102条1項を類推適用することができたとしても、同項にいう「侵害の行為がなければ権利者が販売することができた物」とは、侵害者の製品と代替性のある製品でなければならないところ、証拠(甲1、17)と弁論の全趣旨によると、原告主張に係る単行本は、本件各著作物の全部が掲載されており、一般の書店等で販売されるものであると認められるのに対し、本件国語テストは、前記1認定のような態様で、本件各著作物の一部と設問が掲載され、設問に答えるようになっている小学校のテスト教材で、前記5(2)認定のとおり、被告らは直接又は販売代理店を通じて小学校に直接納入しているのであるから、単行本は本件国語テストと代替性があるとはいえないことは明らかであって、原告が主張するように、単行本が同項にいう「侵害の行為がなければ権利者が販売することができた物」に当たるとして、同項を類推適用することはできない。 そこで、予備的主張に係る著作権法114条2項による損害賠償請求について判断することとする。 (2) 予備的主張について ア 部数等について (ア) 原告は、複製権の侵害による損害賠償を求めているのであるから、使用料相当額を算定するに当たっては、採択部数(本件国語テストが実際に各小学校において採用され、購入対象となった部数)ではなく印刷部数を基礎とすることが相当である。 被告らは、印刷部数には、@見本品、A教師用、破損・損傷等及び転入生等のための予備、B製造過程において生じる剰余部数が含まれていると主張するが、このようなものについても複製が行われていることには変わりがないから、使用料算定の基礎とすることができるというべきである。 (イ) 証拠(甲63ないし68、71ないし74)と弁論の全趣旨によると、被告株式会社日本標準は昭和63年度から平成11年度まで、被告株式会社新学社と同株式会社文溪堂は平成元年度から平成11年度まで、被告青葉出版株式会社、同株式会社教育同人社及び同株式会社光文書院は平成2年度から平成11年度までの間に、それぞれ別紙損害計算表1の印刷部数欄記載の部数の本件各著作物が掲載された本件国語テストを印刷し、出版販売したこと、それらの年度における採択部数は、別紙損害計算表1の採択部数欄記載のとおりであること、被告青葉出版株式会社は、昭和63年度と平成元年度に、被告株式会社光文書院と被告株式会社新学社は、平成元年度に、それぞれ本件各著作物が掲載された本件国語テストを印刷出版販売したところ、その採択部数は、別紙損害計算表1記載の採択部数欄記載の部数であること、以上の事実が認められる。上記の採択部数のみが明らかな年度について、原告は、採択部数の1.2倍を印刷部数とすべきであると主張するが、別紙損害計算表1の記載から明らかなように、各年度毎に比べた場合には、印刷部数が採択部数を必ず一定数上回るということはなく、印刷部数が採択部数を下回る場合やほぼ同数である場合もあるから、原告の主張は採用できず、採択部数のみが明らかな年度については、採択部数によることとする。 (ウ) また、弁論の全趣旨によると、本件各著作物は、昭和55年以前から別紙書籍目録記載の各小学校用教科書に掲載されているものと認められること、被告らが上記(イ)認定の各年度より前の時期において本件各著作物を掲載した本件国語テストを販売していなかった事実をうかがわせる証拠がないことからすると、被告らは、上記(イ)認定の各年度より前で昭和55年度以降の時期においても、本件各著作物を掲載した本件国語テストを印刷出版販売していたものと認められる。そして、その部数については、上記印刷部数が明らかな年度における本件国語テストの印刷部数のうち部数が最も少ない年度の印刷部数(平成10年度以降の2種類の国語テストを印刷している場合は、その合算部数による。ただし、最も少ない年度の印刷部数が採択部数より少ない場合は採択部数)によるのが相当である。 原告は、上記(イ)認定の各年度より前で昭和55年度以降の時期の印刷部数については、@昭和55年度から昭和63年度までの各年度の学年毎、教科書会社毎の教科書発行部数を算出し、A平成3年度の各教科書の発行部数に対する本件国語テストの被告らのシェアを算出し、B@の発行部数にAの比率を乗じて採択部数とし、それを1.2倍した数値によるべきであると主張する。しかし、証拠(乙54)と弁論の全趣旨によると、被告らの間における本件国語テストのシェアは各年度において異なっているものと認められ、ましてや、教科書発行部数に対する本件国語テストのシェアが各年度において一定である保証はないから、教科書発行部数とシェアによる上記算定方法を採用することはできない。 イ 基礎となる価格について 基礎となる価格について、原告は本件各著作物の単行本の価格によるべきであると主張するが、原告が主張しているのは本件各著作物を複製した本件国語テストの印刷出版販売行為に係る使用料相当額であり、前記ア認定のとおり、単行本と本件国語テストは大きく異なるもので、代替性もないから、本件各著作物の単行本の価格によることはできない。 弁論の全趣旨によると、被告らは、本件国語テストを販売する場合には、見本本や教師用、予備用等を学校に提供しており、これらについては、特に代金を得ていないものと認められるが、証拠(甲22の1ないし6)によると、被告らは、1冊当たりの価格(消費税を含む)を表示して、それを学校納入価格又は学校納入定価として販売しているものと認められるから、その価格を基礎として、使用料相当額を算定することができるというべきである。また、被告らは、本件国語テストの価格は消費税分を控除した本体価格によるべきであると主張するが、消費税相当額も販売価格の一部としてそれに含まれているから、基礎となる価格として消費税相当額を控除すべき理由はない。 証拠(甲22の3、乙53)と弁論の全趣旨によると、被告株式会社日本標準の本件国語テストの学校納入定価は昭和55年度が140円、平成11年度が270円(日書A、Sとも。なお「日書」は教科書出版社である日本図書株式会社の略である、以下同じ。)であり、その間は段階的に価格は上がっていたものと認められる。以上の事実に弁論の全趣旨を総合すると、上記価格は、昭和56年度が150円、昭和58年度が160円、昭和59年度が170円、昭和61年度が180円、昭和62年度が190円、平成元年度が200円、平成3年度は220円、平成4年度は240円、平成5年度は250円、平成8年度は260円、平成9年度は270円と認めるのが相当である。また、証拠(甲22の1、2、4ないし6)と弁論の全趣旨によると、その余の被告らの平成11年度の国語テストの学校納入価格又は学校納入定価は、被告青葉出版株式会社が260円、被告株式会社教育同人社が270円(日書A)、250円(日書B)、被告株式会社新学社が270円、被告株式会社光文書院が270円、被告株式会社文溪堂が270円(日書A)、260円(日書B)であると認められる。そして、弁論の全趣旨によると、これらの国語テストについても上記被告株式会社日本標準の国語テストと同様の推移で価格が上がっていたものと認められる(なお、被告株式会社教育同人社、同株式会社日本標準及び同株式会社文溪堂において国語テストの種類が2種類となるのは平成10年度以降である。)。以上の事実に弁論の全趣旨を総合すると、被告株式会社日本標準を除く被告らの、昭和55年度以降の学校納入価格又は学校納入定価は、別紙損害計算表1、2のとおりであると認めるのが相当である。 ウ 使用率について 前記2(2)で認定したとおり、本件国語テストの設問は、本件各著作物の著作物としての創作性を度外視してはあり得ないものであるが、本件各著作物の「複製」がされている部分は、前記1認定のとおり、本件国語テストの上段の部分に限られるから、使用頁数は、本件各著作物が掲載されている各ページについて50%とするのが相当である。 したがって、使用率として、上記のような意味での使用頁数を総頁数で除した別紙損害計算表1、2記載の教材中占有率を用いることとする。 エ 使用料率について (ア) 証拠(乙9、乙10の1、2)によると、小学校国語教科書著作者の会、社団法人日本児童文学者協会及び社団法人日本児童文芸家協会と被告ら及び日図協との間で平成11年9月30日に締結された協定書では、被告らは、教科書掲載著作物の原著作者に対して、平成12年度の教材から、ページ割により5%の使用料を支払う旨定められている。また、証拠(乙35の1、2)と弁論の全趣旨によると、社団法人日本文藝家協会と日図協との間で平成13年3月27日に締結された協定書では、平成14年度以降に教科書に掲載された文芸著作物を図書教材等に使用する場合の取扱いが定められ、その運用細則によると、使用料は、ページ割により5%とされているものと認められる。これらは、将来における使用料の支払についての協定であって、過去の著作権侵害に対する使用料相当額を定めたものでない。さらに、証拠(乙41、42、57、58、乙59の1、2、乙60ないし63)によると、日図協では、平成14年3月25日に、小学校国語教科書著作者の会と社団法人日本文藝家協会に対して、過去10年分につき、上記各協定と同じ基準で補償する旨の申入れをしたこと、小学校国語教科書著作者の会と社団法人日本文藝家協会では、この申入れを受け入れ、個々の原著作者に対して、この申入れに沿った提案をすることを了承したこと(もっとも、社団法人日本文藝家協会については、予測されない事態(訴訟と著しい差が生じた場合など)には、誠意をもって協議するとされている。)、原著作者の中には、この申入れに沿った解決をすることに異議を唱える者がいたこと、以上の事実が認められる。他方、証拠(甲75、76)によると、教材会社と教科書掲載著作物の原著作者との間で締結された協定書又は合意書には、教材会社は、教科書掲載著作物の原著作者に対して、著作物が掲載されている頁を上下段に分けずに1頁と計算して8%の使用料を支払う旨定められているものが存することが認められる。 そして、これらの事実に、本件で問題となっているのは、将来における使用料ではなく、過去の著作権侵害に対する使用料相当額を算定するための使用料率であること、証拠(乙63)と弁論の全趣旨によると、文芸作品の単行本の印税率は通常10%とされていること、弁論の全趣旨によると、児童文学作家が単行本について受領している印税率は4ないし5%程度が多いものと認められるが、児童文学の単行本の場合には、文章のほか挿し絵が占める部分も大きいと考えられること、証拠(甲17)によると、本件国語テストの上段には、本件各著作物のほか、一部に挿し絵も掲載されているが、このうち、別紙対比目録記載1、4の本件国語テストに掲載されている挿し絵は本件著作物2であること、その他本件に現れた諸事情を総合すると、使用料率は、8%(被告株式会社文溪堂の別紙対比目録記載1の本件国語テスト及び被告株式会社教育同人社の別紙対比目録記載4の本件国語テストについては、10%)が相当であると認める。 なお、教科書利用における補償金の印税率が実質3.60%であること(乙38)、大学入試問題を集めた問題集等について社団法人日本文芸著作権保護同盟と出版社との間で締結された協定書では、印税率が3.5%ないし4%であること(乙37の1、2)が認められるが、それらの教科書や問題集等における利用形態は、本件国語テストとは必ずしも同じであるとはいえないうえ、これらも将来における使用料を定めたものであるから、これらの印税率をもって、直ちに、本件の過去の著作権侵害に対する使用料相当額を算定することはできない。また、証拠(乙66)によると、日本文芸著作権保護同盟使用料規程においては、図書教材等に著作物を利用する場合の利用料率は、販売価格の5%に発行部数を乗じた額を上限とすると定められているものと認められるが、これは、将来における利用を許諾する場合の基準を示したものであって、直ちに、個別事情を考慮して算定すべき過去の著作権侵害に対する使用料相当額の算定に用いることはできない。 (イ) 被告らは、平成12年著作権法改正前の著作権法114条2項のもとでは、現実に広く使用されている使用料率と大きく異なる額を認める余地はないと主張する。 しかし、平成12年著作権法改正(平成12年5月8日法律第56号)により改正前の著作権法114条2項から「通常」の文言が削除された趣旨は、既存の使用料規程等に拘束されることなく、当事者間の具体的な事情を参酌した妥当な損害額の認定を可能にすることにあるし、同規定については経過措置の規定が設けられていないのであるから、本件において改正後の著作権法114条2項を適用することができるというべきであるし、上記(ア)で認定したところによると、同認定の使用料率が現実に広く使用されている使用料率と大きく異なるということもできない。 (ウ) 被告らは、原告は、翻訳物の原著作者であるから、使用料率も半分とすべきであると主張するが、翻訳によって利用されたとしても、原著作を利用していることには変わりがないから、原著作者が取得すべき使用料を減額すべき理由を見出し難い。したがって、使用料率を半分にするべきであるとの被告らの主張は認められない。 オ 以上により、原告が被告らに対して請求することができる損害額は、別紙損害計算書1、2記載のとおり、印刷部数×価格(学校納入価格又は学校納入定価)×使用率(教材中占有率)×使用料率(8%又は10%)によるのが相当である。 (3) 著作権侵害に対する慰謝料について 原告は、著作権侵害を理由に慰謝料の請求をしているが、財産権の侵害に基づく慰謝料を請求し得るためには、侵害の排除又は財産上の損害の賠償だけでは償い難い程の大きな精神的苦痛を被ったと認めるべき特段の事情がなければならないものと解されるところ、甲88(別件における矢崎節夫の証言調書)などの本件全証拠をもってしても、上記特段の事情が存するとまでは認められないから、上記請求を認めることはできない。 (4) 弁護士費用について 原告が、本件訴訟の提起、遂行のために原告訴訟代理人を選任したことは、当裁判所に顕著であるところ、本件訴訟の事案の性質、内容、審理の経過、認容額等の諸事情を考慮すると、被告らの著作権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用の額としては、著作権侵害に対する損害の10パーセントが相当である。 (5) 共同不法行為について 本件国語テストの印刷出版販売行為は、被告ら各社がそれぞれ行っているもので、それらの行為自体に関連共同性はない。 証拠(甲85ないし87、乙64)と弁論の全趣旨によると、日図協は、これまで本件国語テストの出版に関して適法引用に当たる又は教科書会社への謝金の支払により著作権者に関する権利処理は済んでいるとの立場から、著作権者への権利処理は不要との立場をとっていたこと、被告らは日図協の加盟社であること、現在被告株式会社日本標準以外の被告らの代表者は同協会の理事であること、過去にも被告らの関係者が同協会の役員であったこと、以上の事実が認められる。以上の事実からすると、被告らが、これまで原告に対して本件各著作物の使用許諾を得る等の権利処理を行って来なかったことについては、日図協の上記方針を参考にしていたものと認められる。しかし、被告らは、日図協の上記方針に従う義務があったとはいえない(内部的に従う義務があったかどうか明らかでないし、仮に内部的に従う義務があったとしても脱退することは自由である。)から、被告らは、基本的には、各社がその判断に基づいて権利処理を行わなかったものというべきである。 そうすると、被告らが共同して本件国語テストの印刷出版販売行為を行い、本件各著作物に対する著作権を侵害したとまで認めることはできないから、共同不法行為が成立するということはできない。 (6) 遅延損害金の起算点について 不法行為に基づく損害賠償債務(弁護士費用を含む)の遅延損害金の起算点は不法行為時であると解される(最高裁第三小法廷昭和37年9月4日判決・民集16巻9号1834頁、同昭和58年9月6日判決・民集37巻7号901頁)ので、本件国語テストの各発行年度ごとに遅延損害金が発生するものと認められ、これに反する被告らの主張は採用できない。 (7) 以上によると、損害額は次のとおりとなる。 ア 被告青葉出版 (ア) 著作権侵害に対する損害 2万0743円 (イ) 弁護士費用 2067円 (ウ) 合計 2万2810円 イ 被告教育同人社 (ア) 著作権侵害に対する侵害 4万4340円 (イ) 弁護士費用 4425円 (ウ) 合計 4万8765円 ウ 被告光文書院 (ア) 著作権侵害に対する損害 2万8527円 (イ) 弁護士費用 2847円 (ウ) 合計 3万1374円 エ 被告新学社 (ア) 著作権侵害に対する損害 1万3114円 (イ) 弁護士費用 1305円 (ウ) 合計 1万4419円 オ 被告日本標準 (ア) 著作権侵害に対する損害 7万8692円 (イ) 弁護士費用 7861円 (ウ) 合計 8万6553円 カ 被告文溪堂 (ア) 著作権侵害に対する損害 5万3549円 (イ) 弁護士費用 5342円 (ウ) 合計 5万8891円 9 結論 以上により、原告の請求のうち差止請求については理由があるものと認め、損害賠償請求については主文の限度で理由がある。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 森義之 裁判官 内藤裕之 裁判官 上田洋幸 (別紙)文書目録1 「ピーターのいす」の文章の全部又は一部及び「ピーターのいす」のイラストの全部又は一部を上段枠内に抜粋して又は一部変更を加えて複製し、下段に上段枠内の文章を題材とした設問と解答欄を設け(解答欄に模範解答を記入しているものを含む。)る形式により、小学校1年生用副教材として小学校において配布することを目的として作成される文書 (別紙)文書目録2 「ピーターのいす」の文章の全部又は一部を上段枠内に抜粋して又は一部変更を加えて複製し、下段に上段枠内の文章を題材とした設問と解答欄を設け(解答欄に模範解答を記入しているものを含む。)る形式により、小学校1年生用副教材として小学校において配布することを目的として作成される文書 (別紙)文書目録3 「ピーターのいす」の文章の全部又は一部を上段枠内に抜粋して複製し、下段に上段枠内の文章を題材とした設問と解答欄を設け(解答欄に模範解答を記入しているものを含む。)る形式により、小学校1年生用副教材として小学校において配布することを目的として作成される文書 (別紙)遅延損害金一覧表 下記遅延損害金の利率はいずれも年5分である。 1 被告青葉出版株式会社 内金464円に対する昭和56年3月31日から支払済みまで 内金497円に対する昭和57年3月31日から支払済みまで 内金497円に対する昭和58年3月31日から支払済みまで 内金531円に対する昭和59年3月31日から支払済みまで 内金564円に対する昭和60年3月31日から支払済みまで 内金564円に対する昭和61年3月31日から支払済みまで 内金597円に対する昭和62年3月31日から支払済みまで 内金630円に対する昭和63年3月31日から支払済みまで 内金1250円に対する平成元年3月31日から支払済みまで 内金1679円に対する平成2年3月31日から支払済みまで 内金1613円に対する平成3年3月31日から支払済みまで 内金1250円に対する平成4年3月31日から支払済みまで 内金2069円に対する平成5年3月31日から支払済みまで 内金2659円に対する平成6年3月31日から支払済みまで 内金1723円に対する平成7年3月31日から支払済みまで 内金1742円に対する平成8年3月31日から支払済みまで 内金1144円に対する平成9年3月31日から支払済みまで 内金1486円に対する平成10年3月31日から支払済みまで 内金1089円に対する平成11年3月31日から支払済みまで 内金762円に対する平成12年3月31日から支払済みまで 2 被告株式会社教育同人社 内金1270円に対する昭和56年3月31日から支払済みまで 内金1361円に対する昭和57年3月31日から支払済みまで 内金1361円に対する昭和58年3月31日から支払済みまで 内金1453円に対する昭和59年3月31日から支払済みまで 内金1543円に対する昭和60年3月31日から支払済みまで 内金1543円に対する昭和61年3月31日から支払済みまで 内金1634円に対する昭和62年3月31日から支払済みまで 内金1724円に対する昭和63年3月31日から支払済みまで 内金1724円に対する平成元年3月31日から支払済みまで 内金1816円に対する平成2年3月31日から支払済みまで 内金1816円に対する平成3年3月31日から支払済みまで 内金2444円に対する平成4年3月31日から支払済みまで 内金2964円に対する平成5年3月31日から支払済みまで 内金3153円に対する平成6年3月31日から支払済みまで 内金4862円に対する平成7年3月31日から支払済みまで 内金3807円に対する平成8年3月31日から支払済みまで 内金3697円に対する平成9年3月31日から支払済みまで 内金3158円に対する平成10年3月31日から支払済みまで 内金3342円に対する平成11年3月31日から支払済みまで 内金4093円に対する平成12年3月31日から支払済みまで 3 被告株式会社光文書院 内金358円に対する昭和56年3月31日から支払済みまで 内金385円に対する昭和57年3月31日から支払済みまで 内金385円に対する昭和58年3月31日から支払済みまで 内金410円に対する昭和59年3月31日から支払済みまで 内金435円に対する昭和60年3月31日から支払済みまで 内金435円に対する昭和61年3月31日から支払済みまで 内金462円に対する昭和62年3月31日から支払済みまで 内金487円に対する昭和63年3月31日から支払済みまで 内金487円に対する平成元年3月31日から支払済みまで 内金2052円に対する平成2年3月31日から支払済みまで 内金2898円に対する平成3年3月31日から支払済みまで 内金2663円に対する平成4年3月31日から支払済みまで 内金2509円に対する平成5年3月31日から支払済みまで 内金3669円に対する平成6年3月31日から支払済みまで 内金4128円に対する平成7年3月31日から支払済みまで 内金2752円に対する平成8年3月31日から支払済みまで 内金1907円に対する平成9年3月31日から支払済みまで 内金1981円に対する平成10年3月31日から支払済みまで 内金2476円に対する平成11年3月31日から支払済みまで 内金495円に対する平成12年3月31日から支払済みまで 4 被告株式会社新学社 内金247円に対する昭和56年3月31日から支払済みまで 内金265円に対する昭和57年3月31日から支払済みまで 内金265円に対する昭和58年3月31日から支払済みまで 内金282円に対する昭和59年3月31日から支払済みまで 内金300円に対する昭和60年3月31日から支払済みまで 内金300円に対する昭和61年3月31日から支払済みまで 内金319円に対する昭和62年3月31日から支払済みまで 内金336円に対する昭和63年3月31日から支払済みまで 内金336円に対する平成元年3月31日から支払済みまで 内金1514円に対する平成2年3月31日から支払済みまで 内金1178円に対する平成3年3月31日から支払済みまで 内金1185円に対する平成4年3月31日から支払済みまで 内金1556円に対する平成5年3月31日から支払済みまで 内金1269円に対する平成6年3月31日から支払済みまで 内金1947円に対する平成7年3月31日から支払済みまで 内金1301円に対する平成8年3月31日から支払済みまで 内金631円に対する平成9年3月31日から支払済みまで 内金297円に対する平成10年3月31日から支払済みまで 内金891円に対する平成11年3月31日から支払済みまで 5 被告株式会社日本標準 内金2550円に対する昭和56年3月31日から支払済みまで 内金2732円に対する昭和57年3月31日から支払済みまで 内金2732円に対する昭和58年3月31日から支払済みまで 内金2915円に対する昭和59年3月31日から支払済みまで 内金3097円に対する昭和60年3月31日から支払済みまで 内金3097円に対する昭和61年3月31日から支払済みまで 内金3279円に対する昭和62年3月31日から支払済みまで 内金3461円に対する昭和63年3月31日から支払済みまで 内金3742円に対する平成元年3月31日から支払済みまで 内金3939円に対する平成2年3月31日から支払済みまで 内金4050円に対する平成3年3月31日から支払済みまで 内金6232円に対する平成4年3月31日から支払済みまで 内金5536円に対する平成5年3月31日から支払済みまで 内金5365円に対する平成6年3月31日から支払済みまで 内金5238円に対する平成7年3月31日から支払済みまで 内金5764円に対する平成8年3月31日から支払済みまで 内金4737円に対する平成9年3月31日から支払済みまで 内金5408円に対する平成10年3月31日から支払済みまで 内金5942円に対する平成11年3月31日から支払済みまで 内金6737円に対する平成12年3月31日から支払済みまで 6 被告株式会社文溪堂 内金1219円に対する昭和56年3月31日から支払済みまで 内金1306円に対する昭和57年3月31日から支払済みまで 内金1306円に対する昭和58年3月31日から支払済みまで 内金1393円に対する昭和59年3月31日から支払済みまで 内金1480円に対する昭和60年3月31日から支払済みまで 内金1480円に対する昭和61年3月31日から支払済みまで 内金1567円に対する昭和62年3月31日から支払済みまで 内金1655円に対する昭和63年3月31日から支払済みまで 内金1655円に対する平成元年3月31日から支払済みまで 内金4935円に対する平成2年3月31日から支払済みまで 内金4376円に対する平成3年3月31日から支払済みまで 内金5355円に対する平成4年3月31日から支払済みまで 内金5650円に対する平成5年3月31日から支払済みまで 内金3578円に対する平成6年3月31日から支払済みまで 内金5017円に対する平成7年3月31日から支払済みまで 内金4274円に対する平成8年3月31日から支払済みまで 内金2982円に対する平成9年3月31日から支払済みまで 内金2831円に対する平成10年3月31日から支払済みまで 内金4395円に対する平成11年3月31日から支払済みまで 内金2437円に対する平成12年3月31日から支払済みまで (別紙)争点(7)に関する被告らの主張 1 自習書類について (1) 戦後間もなく設立された教科書懇話会(教科書出版社の団体で後に社団法人教科書協会に吸収)は、「…教科書が発行されない以前に店頭に現れ…自習書というよりも教科書類似といったものが発売される有様」(「教科書懇話会の歴史」(以下「歴史」という)228頁)という混乱期の対策として、昭和24年11月以降、教科書の奥付に「発行者の許諾なくして本教科書に関する自習書・解釈書・練習書もしくはこれに類するものを発行することを禁ずる」(「歴史」230頁)という警告文を掲載することを決定し実行した。 これは、教科書出版社側が、教科書準拠型の図書教材については当該教科書出版社が著作権処理の包括的な許諾権限を有するという見解を、最初に公に表明するものであった。 (2) その後、教科書懇話会は、許諾を申し出た自習書協会(後の学習教材協会)加盟の自習書出版社20社と示談するとともに、昭和25年2月、「教科書取次供給所各位」宛に「大部分の業者…との間に昭和25年度に限って示談が成立しました。示談の成立した発行元とその書目は別紙のとおりであります。この目録にある書目は教科書発行元の発行する自習書と同様に安心してお仕入れできますから、御諒承願います。これら示談成立発行元の自習書には、奥付に上記のような図案の検印紙が貼ってあります。」(「歴史」234頁)と告知した 。 この告知は、教科書出版社側の主張する包括的な許諾権限及び許諾手続を「検印紙」という簡潔な形態で具体化したものであった。 (3) 昭和25年7月1日、教科書出版社7社及び著者(社外の編集者)11名は、示談を拒否した自習書出版社7社(被告株式会社光文書院を含む)に対する自習書出版差止請求訴訟を東京地裁に提起した。 (4) 昭和27年9月2日、同事件について訴訟上の和解が成立した(10月10日「協定書」調印、(以下「昭和27年協定」という)「歴史」356頁)。その要旨は、被告ら自習書出版社が「原告の著作権並びに出版権」を無視したことを陳謝するとともに、自習書出版社(自習書協会会員に限る)が、 ・企画と同時に当該教科書の発行所に対し、発行企画書を提出して事前に 書面による承諾を受けること ・自習書発行の都度、教科書発行所に対して、別に定める率の処理費を納入すること という著作権処理手続を遵守することを約するものであった。 2 テスト・ワーク・ドリル類について (1) テスト・ワーク・ドリル類(この項では以下「テスト等」という)は、当初、学校直販型、店頭販売型を問わず昭和27年協定からは除外されていた。その理由は、自習書(いわゆる「虎の巻」)が教科書を完全に「まる写し」するものであるのに対し、テスト・ワーク・ドリル類は教科書の記載の一部を利用するものであることから、和解に関与した裁判所が、権利侵害が明白な自習書類のみについて権利処理手続を定め、テスト類の処理は今後の双方の話し合いに委ねるという方針を示したからである(社団法人日本図書教材協会「創立30周年記念誌」(以下「30年誌」という)16頁)。この自習書とテスト等を峻別するという観点は、図書教材の中でテスト等における利用のみを「適法引用」とする図書教材業界の基本的主張へと発展する。 しかし、学校直販型の教材出版社は、協定成立の直後から大挙して自習書協会に加入し、処理費の納入を開始した。このため、教科書出版社の加盟する「自習書等対策会」による許諾の範囲は、テスト等にまで事実上拡張された。これを受けて、自習書協会の内部は、「自習書部会」(自習書及び店頭販売型のテスト等を専門とする出版社向け)と「テスト部会」(学校直販型のテスト等を専門とする出版社向け)の2部会制となった。 (2) 昭和29年、「憂うべき教科書」問題が、日教組中心の「偏向教育」からの「正常化」の動きの一環として国会で取り上げられた際、本件国語テストその他の学校直販型のテスト等の内容、販売方法(とくに教師へのリベート問題)が批判の対象となった。しかし、昭和32年、文部省がいわゆる「観点別評価」を義務教育に導入したことを契機として、この評価法をいち早く採用した学校直販型テスト等の売れ行きは大幅に増大した(「30年誌」28頁)。 (3) 昭和36年5月10日、自習書等対策会(教科書出版社側の団体)と自習書協会(図書教材会社側の団体)とは、昭和27年協定を「ワーク・テスト類」にまで正式に拡張することを内容とする「覚書」(以下「昭和36年覚書」という)を締結した(「30年誌」158頁)。 その第1条は、「自習書、ワーク・テスト類」を「自習書等」と総称した上で、自習書協会(乙)に「自習書等の出版について、当該教科書の著作権並びに出版権を尊重すべき旨を、乙の会員および会員以外の出版社に徹底させ、もって無断出版の根絶をはかること」を義務づけている。第2条は許諾手続を、第3条は「処理費」の金額の決定及び支払手続を定めている。すなわち、本件国語テストを含む学校直販型のテスト類は、この覚書の手続を履行することによって当該教科書の著作権並びに出版権の権利処理を完了したものとなることが、教科書出版社側により、正式に確認されたのである。 (4) しかし、学校直販型のテスト等の販売数の伸張に目を着けた一部の教科書出版社は、自社発行の教科書に準拠した学校直販型のテスト等を自ら製作・発行するようになり、教科書業界と図書教材業界との摩擦が生じ、昭和36年覚書の合意は事実上凍結され、自習書協会からの日図協加盟社分の処理費の受領は拒絶されるに至った。その後、教科書と教科書準拠型テストの抱き合わせ販売が問題化し、昭和38年、教科書出版社のテストの強制販売は違法との公正取引委員会審決が出された(「30年誌」39頁)。 (5) このような業界間の対立抗争の中で、昭和40年3月、教科書出版社7社は、日本教育図書出版株式会社(日図協加盟の図書教材会社)を債務者とし、同社発行の学校直販型ワーク・テスト「毎日の国語の勉強」の出版差止の仮処分を東京地方裁判所に申請した(「30年誌」50頁)。図書教材業界にとって、この訴訟は教材が発行できるかできないかがかかっており、まさに命がけの戦いであった(「30年誌」53頁)。 (6) 東京地方裁判所は、同年7月23日、仮処分申請を却下する決定(以下「昭和40年決定」という)を下した(「30年誌」159頁)。 ・却下決定の摘示によれば、債権者らの主張する被保全権利は以下のとおりである。 @ 編集著作権又は編集著作物の出版権 A 編集者自身の著作した部分の著作権又はその部分の出版権 ・債権者は教科書会社のみで、編集者、作品著作者は含まれていない。 ・却下決定の「引用」に関する部分は次のとおりである。 「…債務者発行の学習書…では…の各文章が引用されている。しかしながら、これらの断片的な語句および文章の引用を見るだけでは…(注記・教科書掲載作品の)全文をしのぶに由ないのみならず、その要旨を知ることさえできない。これらは、専ら、教科書の学習に資するため必要な範囲で、その一部を引用したものにすぎないものと認めることができる。」 (7) 昭和40年決定が判断の対象とした「毎日の国語の勉強」の6年生用及び1年生用における教科書掲載作品の利用態様は、同決定理由に摘示されたとおりであり、本件国語テストと比較して「節録引用」の抗弁が成立することがより明白な利用態様であるといえる。しかし、日図協は「裁判所の判断は下されたけれど、…処理費(謝金)は今後も引き続き支払う」ことにより、教科書出版社側との紛争の解決を図った(「30年誌」52頁)。 (8) 「新版光文の国語」訴訟 昭和42年8月、教科書出版社の学校図書株式会社は、編集著作物及び掲載作品の二次的著作物としての同社発行の教科書「小学校国語」(1年生用ないし6年生用)の著作権侵害を理由として、被告株式会社光文書院に対し、教科書準拠型・学校直販型国語テスト「新版光文の国語」(1年生用ないし6年生用)の複製・頒布の差止め及び損害賠償300万円の支払を求める訴訟を提起した。 「新版光文の国語」の内容及び教科書掲載作品の利用態様は本件国語テストとほぼ同一であり、また、その頒布方法も「表紙をつけて1冊として綴込んであるものではなく、教師が担当するクラス児童数に相応した枚数の同一テスト用紙を、バラにして、それぞれ袋に入れて納入するもの」であって、本件国語テストと全く同一である。被告訴訟代理人は、それまでの研究成果及び1965年決定に即した「節録引用」論を積極的に展開した。 (9) 東京地裁は、職権により和解を勧告し、昭和43年12月13日、原告及び原告側参加人26社、被告及び被告側参加人19社の間に訴訟上の和解が成立した(以下「昭和43年和解」という、「30年誌」164頁)。その要旨は次のとおりである。 ・原告側は「本件教科書に準拠して本件テスト用紙等を出版した謝礼」として昭和39年度から昭和42年度まで4か年分計2000万円、昭和43年度分として金1500万円を日図協を通じて支払う。 ・原告側は、昭和43年度までの「本件教科書を利用した本件テスト用紙等出版の対価」としては、それ以外何ら請求しない。 ・昭和44年度以降の「本件テスト用紙等出版の際の本件教科書利用の条件」は別途協議して定める。 昭和43年和解の趣旨は、図書教材会社側が、教科書準拠型のテスト等の発行が教科書出版社の法的な許諾の対象であると解される文言の使用を注意深く避けながらも、「出版の対価」という実質的な許諾料を教科書出版社に毎年支払うことによって、教科書利用に伴う一切の紛争を終結させようとするものであった。 (10) 前記「毎日の勉強」仮処分事件の債権者(教科書出版社7社)は、昭和43年2月、債務者(日本教育図書出版株式会社)を被告訴人とする著作権法違反告訴を東京地方検察庁にしていたが、担当検察官の勧告により、「昭和36年覚書」を尊重し、金銭的問題は協議により解決するという和解が成立し、同告訴は取り下げられた(30年誌54頁)。 (11) 昭和43年和解の成立後、教学図書協会(教科書業界の任意団体、以下「教学協」という)及び日図協は以後のテスト等の発行手続について協議を重ね、まず昭和44年度について「基本契約書」(「30年誌」167頁)に調印した。双方は、新著作権法の施行に伴ない協議を継続し、昭和51年2月、テスト類の種類及び使用学校の範囲を大幅に拡張するなどの変更を加えた新たな「基本契約書」(「30年誌」168頁)に調印した。その内容は次のとおりである。 ・教材 教科書を参考とするテスト、ワーク、ドリル、プリント、学習帳、書き方練習帳、ノート等の図書教材類およびトラペン、スライド、フィルム、VTR等の視聴覚教材類など小・中・高児童、生徒の学習程度の評価および知識を習得または習熟させることを目的とするもの…をいい、もっぱら教科書の解説、解答、翻訳などいわゆる「虎の巻」もしくはこれに準ずるものは含まない。 ・謝金 昭和46年度3800万円 ・契約期間 1年(自動延長条項付) (12) 昭和45年の著作権法改正により、著作権認識が高まってきたことなどを受け教科書出版社側から国語・英語の教科書からの引用率が問題として提起された。教学協と日図協が協議した結果、「教科書本文の1/3または30%を目途に教材への引用をする。ただし、これはあくまでも一つの目途であって抱束力はない。しかしこれに著しく違反するものについては双方で協議し、一定のペナルティをとることにする。」といった方針が決められた。その後、日図協会員以外の例では、昭和50年以降、店頭販売型の国語または英語の家庭学習用教材や塾用教材について教科書の本文の引用率が3割を越え、50〜70%を引用するものが発行されたため、1点10万円から20万円のペナルティ(特別謝金)を教学協を通し、当該教科書会社に納入するといったケースがいくつかあった。特に平成7年以降は教材出版社1社あたり数千万円というペナルティが支払われることもあった。 3 掲載作品の著作者側の対応 (1) 前述のとおり、教科書に掲載された作品の著作者側は、この団体間合意の形成に関与しなかった。 (2) 第一の原因は、これまでに述べた教科書業界側の対応にある。すなわち、教科書業界は、図書教材業界との交渉の過程で、あるいは訴訟上の和解を含む合意締結の前提として、教科書準拠型の図書教材の著作権問題に関しては、学校直販型、店頭販売型を問わず、当該教科書出版社(または教科書業界団体)が包括して処分権限を有するとの見解に立った対応を50余年にわたり一貫してとってきたのである。 (3) 第二の原因は、図書教材業界側の「適法引用」論にある。すなわち、図書教材業界は、自習書に関する昭和27年協定の成立の直後から、教科書掲載作品の一部をテスト等に利用することは「適法引用」であり、著作者の許諾を要しないという見解を一貫して取り続けてきた。そして、業界秩序の形成に関与した裁判所、検察庁等も、双方の訴訟代理人であった著作権法の権威者たちも、監督行政庁も、この見解を明示的・黙示的に支持してきたのである。 ちなみに、昭和56年11月、英語教科書の編集者が図書教材出版社(日図協非会員)に対し教科書準拠型の英語ワークブックの出版等の差止仮処分を提起した。その際、文化庁著作権課は、新聞社の取材に対し、教科書業界と図書教材業界との「謝金」を中心とする団体間合意(慣行)について、「…著作権法は骨格的なことしか書いていないので、法の趣旨にもとらない形で、業界の公正妥当な慣行が作られているなら、それはそれでよいと思う。」と答えている。このことは、監督行政庁の黙示的な支持を示す一例である。 (4) 第三の原因は、著作者自身の消極的な対応にある。前述のとおり、昭和29年に「憂うべき教科書」問題が国会で取り上げられた際、学校直販型のテスト等が批判の対象となった。また、昭和40年から昭和43年にかけて、模擬テスト、通信添削テストなどによる「テスト教育」に対する社会的批判が噴出した中で、毎日新聞は、数年にわたり連載した「教育の森」において、学校直販テストの実態を批判的に報道し、大きな社会的反響を呼んだ。さらに、日本教職員組合(日教組)は、昭和47年の「教育闘争」の一つの重点として「市販テスト不使用」運動を全国的に展開し、本件国語テストのような教科書準拠型・学校直販型のテストを批判の対象として取り上げた。日教組編集・発行の「中教審路線黒書V・市販テスト・その内容と実態」の「第4章市販テストの内容 2国語テストの分析」では、本件国語テストの例が全部転載され、批判的な分析の対象とされている。これらの社会情勢から、著作者側は、教科書掲載作品が本件国語テスト等の教科書準拠型・学校直販型教材に使用されている事実を現実に知り、または容易に知ることが可能であったが、個々の著作者から異議や疑義の声が上がることはなかった。また、著作者団体も、文学作品の副読本(非準拠型・学校直販型教材)への利用問題については、作品著作権保護の見地からさまざまな運動を展開し、教科書業界団体や図書教材業界団体とも、直接、間接に協議することが多かったが、学校直販教材の著作権問題に関するかぎり、教科書業界や図書教材業界に釈明を求めることもなかった。 4 結論 (1) このように被告ら図書教材会社は、これまで約30年間、教科書出版業界との間に成立した団体間の合意に基づき、教科書の編集著作権・出版権に関する権利処理を行う一方、教科書掲載作品のテスト類への利用は適法な「引用」であり掲載作品の著作権者の許諾は不要であるという一貫した立場をとってきた。 (2) 本件訴訟は、教科書掲載作品の著作者らが、著作者を除外する形で形成された業界秩序に初めて明示的に異を唱えるものであり、被告ら図書教材会社は、遅くとも平成12年度3学期分以降については、原告の作品の図書教材への利用をすべて中止している。また、図書教材業界は、本件訴訟提起の数年前から、児童文学者団体などとの間に教科書掲載作品の図書教材への利用に関する協議を行った結果、平成13年までに日図協と日本児童文学者協会、日本文芸家協会等の著作者団体との間に教科書掲載作品の図書教材への利用に関する団体間合意が成立している。これによって、被告ら図書教材会社は、将来の利用について現在までに約600名の著作者・著作権者(原告その他の訴訟当事者16名は含まれない)との間に団体間合意に基づく利用許諾契約を締結するに至っている。 (3) 以上の経緯から、被告らは、平成11年6月、原告によって本件訴訟に先行する仮処分が申請されるまで、自らの行為が適法な引用行為であること、あるいは「謝金」の支払先の教科書出版社が掲載作品の著作者の著作権を含むすべての権利処理の包括的権限を有することを前提として、原告の許諾を得ずに本件国語テストを長期間発行し続けてきたのである。 たしかに、昭和40年決定および昭和43年和解を契機とする団体間合意の成立から相当年数が経過し、権利者の著作権意識や著作権法解釈が変化することにより、現在までに、被告らの行為が適法な「引用」として容認される巾が次第に狭められてきているとも考えられよう。しかし、仮に本件訴訟において引用の抗弁が採用されず、あるいは教科書出版社に権利処理の包括的な権限がないものと認定されたとしても、被告らが、当初適法とされた行為が現在もなお適法であると信じたことについて、被告らには何ら過失がない。 (その他の別紙) 原告損害計算表1、2 原告損害集計表(以上、平成14年12月10日付け原告準備書面(20)添付のもの) 対比目録(甲17添付のもの) 対比表(平成12年7月18日付け原告準備書面(8)添付のもの) |
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