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【事件名】国語副教材への作品無断使用事件(教材出版6社C) 【年月日】平成15年3月28日 東京地裁 平成11年(ワ)第13691号 出版差止請求事件、平成15年(ワ)第3673号 独立当事者参加申出事件 (口頭弁論終結の日 平成15年2月25日) 判決 原告 A 原告 B 原告 C 原告 D 原告 E 原告 F 原告 G 原告 H 原告・被参加人(以下「原告」という。) I 上記9名訴訟代理人弁護士 藤原宏高 同 堀籠佳典 同訴訟復代理人弁護士 九石拓也 同 平岡敦 被告・被参加人(以下「被告」という。) 青葉出版株式会社 被告・被参加人(以下「被告」という。) 株式会社教育同人社 被告・被参加人(以下「被告」という。) 株式会社日本標準 被告・被参加人(以下「被告」という。) 株式会社光文書院 被告・被参加人(以下「被告」という。) 株式会社新学社 上記5名訴訟代理人弁護士 岡邦俊 同 前田哲男 同 近藤夏 被告株式会社日本標準訴訟代理人弁護士 斉藤義雄 同 朝倉正幸 被告・被参加人(以下「被告」という。) 株式会社文溪堂 訴訟代理人弁護士 石田英遠 同 高橋明人 訴訟復代理人弁護士 上村明 参加人 J 訴訟代理人弁護士 小澤正史 同 棚橋栄蔵 同 鵜野篤成 主文 1 被告らは、別紙著作物目録3記載の各原告に係る欄に記載された各著作物の文章の全部又は一部を、上段枠内に抜粋して又は一部変更を加えて複製し、下段に上段枠内の文章を題材とした設問と解答欄を設ける(解答欄に模範解答を記入しているものを含む。)形式により、小学校用国語副教材として、小学校において配布することを目的として作成される文書の印刷、出版、販売又は頒布をしてはならない。 2(1) 原告Aに対し、被告青葉出版株式会社は金157万2442円、被告株式会社教育同人社は金198万1169円、被告株式会社光文書院は金235万0625円、被告株式会社新学社は金101万9019円、被告株式会社日本標準は金346万3203円、被告株式会社文溪堂は金239万3820円及びこれらに対する別紙遅延損害金目録記載の金員を支払え。 (2) 原告Bに対し、被告青葉出版株式会社は金173万1410円、被告株式会社教育同人社は金184万0657円、被告株式会社光文書院は金242万7552円、被告株式会社新学社は金137万5521円、被告株式会社日本標準は金356万0886円、被告株式会社文溪堂は金305万2305円及びこれらに対する別紙遅延損害金目録記載の金員を支払え。 (3) 原告Cに対し、被告青葉出版株式会社は金312万7969円、被告株式会社教育同人社は金329万7977円、被告株式会社光文書院は金401万6412円、被告株式会社新学社は金219万1640円、被告株式会社日本標準は金589万5766円、被告株式会社文溪堂は金646万6419円及びこれらに対する別紙遅延損害金目録記載の金員を支払え。 (4) 原告Dに対し、被告青葉出版株式会社は金101万1856円、被告株式会社教育同人社は金112万1905円、被告株式会社光文書院は金120万8050円、被告株式会社新学社は金60万6039円、被告株式会社日本標準は金167万9813円、被告株式会社文溪堂は金166万3447円及びこれらに対する別紙遅延損害金目録記載の金員を支払え。 (5) 原告Eに対し、被告青葉出版株式会社は金142万8386円、被告株式会社教育同人社は金169万5015円、被告株式会社光文書院は金203万1352円、被告株式会社新学社は金125万9346円、被告株式会社日本標準は金284万0214円、被告株式会社文溪堂は金266万5075円及びこれらに対する別紙遅延損害金目録記載の金員を支払え。 (6) 原告Fに対し、被告青葉出版株式会社は金195万9429円、被告株式会社教育同人社は金212万5935円、被告株式会社光文書院は金275万2561円、被告株式会社新学社は金176万9100円、被告株式会社日本標準は金418万4428円、被告株式会社文溪堂は金388万7722円及びこれらに対する別紙遅延損害金目録記載の金員を支払え。 (7) 原告Gに対し、被告青葉出版株式会社は金143万0795円、被告株式会社教育同人社は金172万5063円、被告株式会社光文書院は金179万4061円、被告株式会社新学社は金93万7728円、被告株式会社日本標準は金245万9303円、被告株式会社文溪堂は金244万7180円及びこれらに対する別紙遅延損害金目録記載の金員を支払え。 (8) 原告Iに対し、被告青葉出版株式会社は金59万5024円、被告株式会社教育同人社は金71万8554円、被告株式会社光文書院は金66万8288円、被告株式会社新学社は金38万6324円、被告株式会社日本標準は金111万3764円、被告株式会社文溪堂は金94万5043円及びこれらに対する別紙遅延損害金目録記載の金員を支払え。 (9) 原告Hに対し、被告青葉出版株式会社は金106万7232円、被告株式会社教育同人社は金113万2129円、被告株式会社光文書院は金139万0531円、被告株式会社新学社は金76万8737円、被告株式会社日本標準は金178万1616円、被告株式会社文溪堂は金178万3586円及びこれらに対する別紙遅延損害金目録記載の金員を支払え。 3(1) 原告Iと参加人との間において、Kの別紙著作物目録2の8−1記載の著作物についての被告らに対する著作権侵害に基づく損害賠償請求権の2分の1が参加人に帰属することを確認する。 (2) 参加人に対し、被告青葉出版株式会社は金59万5024円、被告株式会社教育同人社は金71万8554円、被告株式会社光文書院は金66万8288円、被告株式会社新学社は金38万6324円、被告株式会社日本標準は金111万3764円、被告株式会社文溪堂は金94万5043円及びこれらに対する別紙遅延損害金目録記載の金員を支払え。 4 原告ら及び参加人のその余の請求をいずれも棄却する。 5 訴訟費用については、原告らに生じた費用の5分の4と被告らに生じた費用の50分の39を原告らの負担とし、原告らに生じたその余の費用と被告らに生じた費用の5分の1を被告らの負担とし、被告らに生じた費用の50分の1を参加人の負担とし、参加人に生じた費用の5分の1を原告Iの負担とし、参加人に生じた費用の5分の1を被告らの負担とし、参加人に生じたその余の費用を参加人の負担とする。 6 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 原告ら (1) 被告らは、別紙著作物目録1記載の各著作物の文章の全部又は一部を、上段枠内に抜粋して又は一部変更を加えて複製し、下段に上段枠内の文章を題材とした設問と解答欄を設ける(解答欄に模範解答を記入しているものを含む。)形式により、小学校用国語副教材として、小学校において配布することを目的として作成される文書の印刷、出版、販売又は頒布をしてはならない。 (2)ア 被告らは、原告A(以下「原告A」という。)に対し、連帯して金2億3593万4615円及び内金271万2491円に対する昭和56年3月31日から、内金271万5174円に対する昭和57年3月31日から、内金414万6459円に対する昭和58年3月31日から、内金1006万2065円に対する昭和59年3月31日から、内金984万6338円に対する昭和60年3月31日から、内金969万3636円に対する昭和61年3月31日から、内金1117万0555円に対する昭和62年3月31日から、内金1066万0198円に対する昭和63年3月31日から、内金992万5205円に対する平成元年3月31日から、内金635万3674円に対する平成2年3月31日から、内金791万2131円に対する平成3年3月31日から、内金793万3665円に対する平成4年3月31日から、内金1784万9107円に対する平成5年3月31日から、内金1745万4740円に対する平成6年3月31日から、内金1609万1710円に対する平成7年3月31日から、内金1555万7251円に対する平成8年3月31日から、内金1546万0302円に対する平成9年3月31日から、内金1371万7206円に対する平成10年3月31日から、内金1591万3089円に対する平成11年3月31日から、内金1684万8330円に対する平成12年3月31日から、内金1391万1289円に対する平成12年12月31日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 イ 被告らは、原告B(以下「原告B」という。)に対し、連帯して金1億6867万4043円及び内金665万1149円に対する昭和56年3月31日から、内金677万8149円に対する昭和57年3月31日から、内金679万2473円に対する昭和58年3月31日から、内金814万1897円に対する昭和59年3月31日から、内金764万3874円に対する昭和60年3月31日から、内金728万5862円に対する昭和61年3月31日から、内金734万0958円に対する昭和62年3月31日から、内金711万6411円に対する昭和63年3月31日から、内金692万0900円に対する平成元年3月31日から、内金751万4959円に対する平成2年3月31日から、内金785万2035円に対する平成3年3月31日から、内金674万4020円に対する平成4年3月31日から、内金1040万8212円に対する平成5年3月31日から、内金1028万3285円に対する平成6年3月31日から、内金937万7916円に対する平成7年3月31日から、内金874万1321円に対する平成8年3月31日から、内金797万6752円に対する平成9年3月31日から、内金659万7874円に対する平成10年3月31日から、内金843万2794円に対する平成11年3月31日から、内金946万5213円に対する平成12年3月31日から、内金1060万7989円に対する平成12年12月31日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 ウ 被告らは、原告C(以下「原告C」という。)に対し、連帯して金2億4974万7322円及び内金1291万3065円に対する昭和56年3月31日から、内金1343万4446円に対する昭和57年3月31日から、内金1359万5663円に対する昭和58年3月31日から、内金1382万0061円に対する昭和59年3月31日から、内金1327万0169円に対する昭和60年3月31日から、内金1257万0182円に対する昭和61年3月31日から、内金1213万8248円に対する昭和62年3月31日から、内金1179万2957円に対する昭和63年3月31日から、内金1145万8833円に対する平成元年3月31日から、内金1112万3827円に対する平成2年3月31日から、内金1166万4287円に対する平成3年3月31日から、内金1165万1998円に対する平成4年3月31日から、内金1034万6166円に対する平成5年3月31日から、内金1215万6455円に対する平成6年3月31日から、内金1022万8159円に対する平成7年3月31日から、内金981万7643円に対する平成8年3月31日から、内金1055万6834円に対する平成9年3月31日から、内金1045万7314円に対する平成10年3月31日から、内金1137万0991円に対する平成11年3月31日から、内金1385万3560円に対する平成12年3月31日から、内金1152万6464円に対する平成12年12月31日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 エ 被告らは、原告D(以下「原告D」という。)に対し、連帯して金4937万9739円及び内金10万8024円に対する昭和62年3月31日から、内金10万6796円に対する昭和63年3月31日から、内金10万6344円に対する平成元年3月31日から、内金20万1317円に対する平成2年3月31日から、内金19万3638円に対する平成3年3月31日から、内金49万2728円に対する平成4年3月31日から、内金406万3505円に対する平成5年3月31日から、内金410万6989円に対する平成6年3月31日から、内金378万4776円に対する平成7年3月31日から、内金343万3386円に対する平成8年3月31日から、内金571万1166円に対する平成9年3月31日から、内金648万0828円に対する平成10年3月31日から、内金587万9646円に対する平成11年3月31日から、内金955万5543円に対する平成12年3月31日から、内金515万5053円に対する平成12年12月31日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 オ 被告らは、原告EことE(以下「原告E」という。)に対し、連帯して金1億3929万0954円及び内金313万3617円に対する昭和56年3月31日から、内金314万0240円に対する昭和57年3月31日から、内金303万5817円に対する昭和58年3月31日から、内金268万1386円に対する昭和59年3月31日から、内金255万5603円に対する昭和60年3月31日から、内金249万5068円に対する昭和61年3月31日から、内金375万6329円に対する昭和62年3月31日から、内金362万0194円に対する昭和63年3月31日から、内金331万5973円に対する平成元年3月31日から、内金139万1496円に対する平成2年3月31日から、内金181万0827円に対する平成3年3月31日から、内金426万0203円に対する平成4年3月31日から、内金1283万9269円に対する平成5年3月31日から、内金1218万2996円に対する平成6年3月31日から、内金1214万1506円に対する平成7年3月31日から、内金1157万0017円に対する平成8年3月31日から、内金1203万4622円に対する平成9年3月31日から、内金1172万6951円に対する平成10年3月31日から、内金1204万7638円に対する平成11年3月31日から、内金1626万2525円に対する平成12年3月31日から、内金328万8677円に対する平成12年12月31日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 カ 被告らは、原告FことF(以下「原告F」という。)に対し、連帯して金1億5006万1327円及び内金694万9374円に対する昭和56年3月31日から、内金712万0098円に対する昭和57年3月31日から、内金737万6946円に対する昭和58年3月31日から、内金729万0845円に対する昭和59年3月31日から、内金731万9625円に対する昭和60年3月31日から、内金710万4601円に対する昭和61年3月31日から、内金653万6619円に対する昭和62年3月31日から、内金622万1864円に対する昭和63年3月31日から、内金634万1788円に対する平成元年3月31日から、内金645万4130円に対する平成2年3月31日から、内金652万0149円に対する平成3年3月31日から、内金633万3665円に対する平成4年3月31日から、内金773万5445円に対する平成5年3月31日から、内金726万1844円に対する平成6年3月31日から、内金790万2072円に対する平成7年3月31日から、内金758万6701円に対する平成8年3月31日から、内金759万3786円に対する平成9年3月31日から、内金697万4897円に対する平成10年3月31日から、内金788万7843円に対する平成11年3月31日から、内金1231万5609円に対する平成12年3月31日から、内金323万3426円に対する平成12年12月31日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 キ 被告らは、原告G(以下「原告G」という。)に対し、連帯して金1億2608万4357円及び内金952万2751円に対する昭和56年3月31日から、内金951万6818円に対する昭和57年3月31日から、内金918万0401円に対する昭和58年3月31日から、内金869万2825円に対する昭和59年3月31日から、内金830万7395円に対する昭和60年3月31日から、内金810万8720円に対する昭和61年3月31日から、内金784万1741円に対する昭和62年3月31日から、内金742万3437円に対する昭和63年3月31日から、内金721万0594円に対する平成元年3月31日から、内金821万9072円に対する平成2年3月31日から、内金927万0097円に対する平成3年3月31日から、内金714万0549円に対する平成4年3月31日から、内金301万9693円に対する平成5年3月31日から、内金281万1446円に対する平成6年3月31日から、内金282万2570円に対する平成7年3月31日から、内金270万2221円に対する平成8年3月31日から、内金262万7930円に対する平成9年3月31日から、内金253万0762円に対する平成10年3月31日から、内金256万9877円に対する平成11年3月31日から、内金518万4487円に対する平成12年3月31日から、内金138万0971円に対する平成12年12月31日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 ク 被告らは、原告I(以下「原告I」という。)に対し、連帯して金8423万4707円及び内金430万7577円に対する昭和56年3月31日から、内金446万6720円に対する昭和57年3月31日から、内金455万2011円に対する昭和58年3月31日から、内金429万1977円に対する昭和59年3月31日から、内金414万9256円に対する昭和60年3月31日から、内金389万5081円に対する昭和61年3月31日から、内金393万2645円に対する昭和62年3月31日から、内金383万9492円に対する昭和63年3月31日から、内金391万4383円に対する平成元年3月31日から、内金353万6787円に対する平成2年3月31日から、内金384万6651円に対する平成3年3月31日から、内金372万9735円に対する平成4年3月31日から、内金500万9114円に対する平成5年3月31日から、内金535万3964円に対する平成6年3月31日から、内金481万2955円に対する平成7年3月31日から、内金446万5611円に対する平成8年3月31日から、内金488万3094円に対する平成9年3月31日から、内金468万2586円に対する平成10年3月31日から、内金316万9337円に対する平成11年3月31日から、内金305万2879円に対する平成12年3月31日から、内金34万2852円に対する平成12年12月31日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 ケ 被告らは、原告HことH(以下「原告H」という。)に対し、連帯して金8971万5094円及び内金377万4171円に対する昭和56年3月31日から、内金378万3964円に対する昭和57年3月31日から、内金366万3157円に対する昭和58年3月31日から、内金409万7895円に対する昭和59年3月31日から、内金390万5234円に対する昭和60年3月31日から、内金382万8251円に対する昭和61年3月31日から、内金800万6281円に対する昭和62年3月31日から、内金773万1257円に対する昭和63年3月31日から、内金759万7692円に対する平成元年3月31日から、内金867万7459円に対する平成2年3月31日から、内金903万9491円に対する平成3年3月31日から、内金905万2387円に対する平成4年3月31日から、内金193万1465円に対する平成5年3月31日から、内金198万0914円に対する平成6年3月31日から、内金179万7225円に対する平成7年3月31日から、内金165万0312円に対する平成8年3月31日から、内金102万2102円に対する平成9年3月31日から、内金99万7429円に対する平成10年3月31日から、内金125万7217円に対する平成11年3月31日から、内金512万2438円に対する平成12年3月31日から、内金79万8753円に対する平成12年12月31日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 参加人 (1) 主文第3項(1)と同旨 (2) 被告らは、各自、参加人に対し、4211万5000円及びこれに対する 被告株式会社日本標準と被告株式会社光文書院は、平成11年6月26日から、その余の被告らは、平成11年6月29日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 争いのない事実等(括弧内に証拠等を掲記しない事実は争いがない。争いが ある事実は、括弧内に掲記した証拠等により認められる。) (1) 原告Iを除く原告らは、いずれも詩人又は童話作家である。 原告I及び参加人は、童話作家であるKことKの相続人である(甲15の8、甲16の1、丁1、2)。 被告らは、いずれも小学校用の副教材制作販売会社である。 (2) 原告Iを除く原告らは、それぞれ別紙著作物目録1、2の各原告欄記載の著作物(以下「本件著作物1−1」等といい、これらの著作物を総称する場合は「本件各著作物」という。)を著作又は翻訳した者で、これらの著作物の著作権者である(創作年度、本のタイトル、出版社名及び定価は、弁論の全趣旨により認める。)。 原告I及び参加人は、別紙著作物目録1、2のK欄記載の著作物の各持分2分の1の著作権者である(甲15の8、甲16の1、丙1、2、弁論の全趣旨)。 (3) 本件各著作物は、いずれも小学生用国語科検定教科書に掲載されている。 (4) 被告らは、上記教科書に準拠した小学校用国語テスト(例えば別紙対比目録1ないし4記載のもの。以下「本件国語テスト」という。)を印刷、出版、販売している。 2 事案の概要 本件は、本件各著作物の著作権者である原告らと参加人が、本件各著作物を掲載した本件国語テストの被告らによる印刷、出版、販売は、原告らの本件各著作物に対する複製権、著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)を侵害すると主張し、別紙著作物目録1記載の各著作物の複製権に基づく被告らによる本件国語テストの印刷、出版、販売及び頒布の差止め(参加人を除く。)並びに別紙著作物目録2記載の各著作物の複製権、著作者人格権侵害を理由とする損害賠償又は複製権侵害を理由とする不当利得返還(ただし、原告Iと参加人は複製権侵害を理由とする請求のみ)を求める事案である。 3 争点 (1) 被告らが、本件各著作物を本件国語テストに掲載することが、著作権法32条1項にいう「引用」に当たるかどうか (2) 被告らが、本件各著作物を本件国語テストに掲載することが、著作権法3 6条1項にいう「試験問題」としての複製に当たるかどうか (3) 著作者人格権侵害の有無 ア 被告らによる本件国語テストの印刷、出版、販売が、原告A、同C、同D、同E、同F、同G及び同Hの著作者人格権(同一性保持権)を侵害するかどうか イ 被告らによる本件国語テストの印刷、出版、販売が、上記原告ら及び原告Bの著作者人格権(氏名表示権)を侵害するかどうか (4) 消滅時効の成否 (5) 本件請求が権利濫用に当たるかどうか (6) 故意又は過失の有無 (7) 損害の発生及び数額 4 争点に関する当事者の主張 (1) 争点(1)について 【被告らの主張】 被告らは、次のとおり、公表された著作物を、公正な慣行に合致し、かつその引用の目的上正当な範囲内で引用して利用しているのであるから、原告らの複製権を侵害するものではない。 ア 公表された著作物について 本件各著作物は、いずれも公表されたものである。 イ 公正な慣行について 被告らは、約50年以上にわたって本件国語テストと同様の教科書に準拠したテスト又はドリルを製作販売してきており、次のウ、オ、キで述べる事情も総合すると、今日においては、学校に納品して担任教師による利用に供する教科書準拠のテスト、ドリル等の作成に当たって、必然的に当該教科書に掲載された著作物の一部又は全部を出題文として引用することは、公正な慣行として広く承認されている。 ウ 引用の目的上正当な範囲について 本件国語テストにおいては、教科書に対する児童の内容理解を促進してこれを修得、習熟させ、又は理解度を測定するという目的のために設けられた設問を解答させるのに必要不可欠な範囲のみを取り上げて本件国語テストの出題文としているのであるから、引用の目的上正当な範囲内である。 エ 明瞭区別性について 本件国語テストにおいては、教科書から引用された出題文が四角の枠の中に囲まれており、被告らの著作物である問題文部分とは明瞭に区別されている。 オ 引用の必然性について (ア) 教科書は、学校及び家庭において、児童に学習させることを目的として著作されるものであるから、その学習の指導及び学習効果の測定のために補助教材が必要であるといえる。そして、補助教材においては、教科書に準拠していること及び教科書に取り上げられている作品に対する児童の理解を深め、その理解度を測定するものであることが不可欠である。したがって、被告らによる本件国語テストの制作において、出題文として教科書掲載作品を引用することには必然性がある。 (イ) 本件国語テストにおいては、出題文の一部を隠しておいてその穴埋め等をさせる設問方法や、出題文に用いられている漢字をひらがな表記しておいて書取りをさせる設問方法が多く用いられるが、これらの設問のためには、教科書掲載作品を引用した上で、その一部を隠さないと設問として成立しない。また、出題文に出てくる指示語が何を指すのかを答えさせる問題では、出題文中に傍線を引いてその箇所を児童に指示する必要がある。さらに、本件国語テストが試験に用いられる場合には、児童に教科書を直接参照させたのでは、児童が教科書に掲載された出題文以外の情報に接することになり、学力を正確に測定できないことになる。したがって、教科書に準拠した本件国語テストにおいては、教科書掲載作品を出題文として引用しなければならない必然性がある。 カ 主従関係について (ア) 引用する著作物の性質・内容・創作性 本件国語テストは、教科書に対する児童の理解を深め、その内容を修得、習熟させ、又は学習効果を測定することを目的として、創意工夫をこらした著作物である。本件国語テストの創作に当たっては、@学習指導要領によって定められている各教材の基礎学力の分析、A教科書の単元毎の学習の到達目標や方向目標の分析とそれぞれの目標に到達させるための教材の構造と内容の研究、B教材作りの理論・方法を駆使して、学力を科学的につけさせ、評価する構造と内容の研究、C児童が教師・保護者の力を借りずに自学・自習もできる構造と内容を持ち、児童が使いやすく学習成果を上げられるような工夫、以上の4つの観点からの研究成果の上に、教科書掲載作品の中からどの部分を出題対象として取り上げるか、出題対象範囲からどのような設問を作成するか、児童にわかりやすい設問の方法はどのようなものであるか、その設問をどのような順序で配列するか、全体的な構成をどのようにするか等の点について創意工夫を重ねている。 これに対し、引用される本件各著作物は、児童による修得、習熟又は理解度の測定の対象となっても、本件国語テスト自体の創作性とは無関係である。 (イ) 引用の目的・理由 本件国語テストに出題文として教科書掲載作品を引用する理由は、本件国語テストの主たる部分である設問において何が問われているのかを児童に理解させ、解答させるためであって、本件国語テストの性質上、児童の手元にある教科書を直接参照させることができないためにこれに代えて教科書掲載作品の一部を引用しているに過ぎない。 (ウ) 引用の範囲・量 教科書に掲載されたすべてが本件国語テストの出題文として引用されているのではなく、設問に必要な範囲が選択され、その目的のために必要な限度において引用されているに過ぎない。 (エ) それ自体鑑賞性を持つものとして利用される性質のものか 本件国語テストを使用する教師及び児童は、本件国語テストの出題文によってはじめて本件各著作物に接するということではなく、既に教科書自体により既に繰り返し読了し、玩味、鑑賞しているのであって、本件国語テストにおける出題部分は、利用される具体的場面において、設問の理解及び解答のために利用されることを超えて、利用者である児童又は教師にとって、それ自体鑑賞性を有する性質のものとして引用されているのではない。 また、本件国語テストに引用された箇所のみでは、物語は完結しておらず、それ自体鑑賞の対象となるものではない。 (オ) したがって、本件国語テストは、設問部分及びテストを実施するために教師に必要な情報である「実施時間」等の記載部分が「主たる部分」であり、本件各著作物の引用部分は、「従たる部分」である。 キ 通常の利用方法との代替性・経済的損失 (ア) 積極損害のないこと 本件国語テストは、既に掲載教科書を手元に所有している教師及び児童のみが使用するものであり、その引用箇所も設問に必要な範囲に限られていることから、本件国語テスト自体が本件各著作物の通常の利用方法に代替したり、これに競合するものではなく、一般書籍の販売に悪影響を及ぼすことはない。 (イ) 得べかりし利益の喪失のないこと 本件国語テストは、教師がテスト又は宿題等に用いるものであるところ、国語教育の現場では、教科書に準拠したテスト及びドリルが必要不可欠であるから、仮に被告らが本件国語テストを供給しないのであれば、教師自らがテスト及びドリルを作成することになり、その際に教科書から出題文を引用することにならざるを得ない。著作権法35条は担任教師が複製の主体となることを要求しているが、本件国語テストは一般に市販されるものではなく、児童数に合わせて学校に納入され、教師自らが保管しておき、教師が学習の進捗状況に合わせて児童らに学習用補助教材を使用させ、教師自らが評価を行うという利用に供するものであって、担任教師に代わって教材を作成し、その労を軽減することを目的とする。したがって、本件国語テストの制作頒布により担任教師の負担を軽減したからといって、本来ならば行われないはずの複製が行われたのではなく、担任教師の段階では著作者の許諾を得ることも対価を支払うこともなく行われることとなる出題文としての複製が被告らの段階で行われたに過ぎない。よって、本件国語テストにおける出題文としての引用は、著作権者に得べかりし利益の喪失を生じさせるものではない。 【原告ら及び参加人の主張】 ア 明瞭区別性について 本件国語テストは、教科書に掲載された本件各著作物が上段囲いの中に、そのままあるいは作品に変更を加えて掲載され、下段部分は、その作品を題材とした小問形式の問題が掲載され、問題文に続く括弧内に解答を記入する形式となっている。本件各著作物は、問題文として下段で用いられているのであるから、本件国語テスト全体、特に下段部分においては、いかなる部分に本件各著作物が用いられ、いかなる部分が被告らのオリジナルであるかが区別し難い。 イ 主従関係について 本件国語テストにおいて、使用されている分量を単純に比較しても、主たる部分は、上段に問題文の題材として掲載されている作品であり、従たる部分は、当該作品に依拠して作成された下段問題文と解答欄等である。また、本件国語テスト自体、全面的に本件各著作物に依拠して作成されているのであり、本件各著作物が存在しなければ、被告らが作成した問題文そのものが成り立たない。こうした依存性の強さから判断しても、主たる部分は本件各著作物であり、従たる部分は下段問題文である。 ウ その他被告らの主張について (ア) 引用の目的 上段の本件各著作物の引用がなくても、下段問題文は、問題文自体として成り立つのであり、引用の目的は、下段問題文を解答する際に、上段作品を参照することができるという単なる便宜上のものに過ぎない。 (イ) 引用の必要性 被告らは、下段問題文を作成するに当たっては、教科書を参照する形式とすることが可能であり、生徒が解答するに際して教科書を参照しても不都合はない。穴埋め問題や漢字の書き取り問題等は、その部分のみを教科書から転記すれば足りる。実際、教育担当者らがテスト等の問題を作成する場合においては、教科書掲載作品をあえて問題用紙の上段半分を利用して大々的に転記することは行わず、問題との関係で漢字書取問題や穴埋め問題に必要な部分のみ転記するのが一般的である。 (ウ) 本件国語テストの創作性について 本件国語テストの上段は本件各著作物がそのまま複製されており、被告らの創作性を認めることはできない。被告らが創作しているのは下段の数問の問題文と解答欄の括弧であるところ、括弧には創作性が認められないし、下段の設問は上段に掲載する本件各著作物の存在なくして成り立たないものであり、本件各著作物を利用する以上、その設問内容も限定されるから、独自の創作性があるとは認められない。 (エ) 鑑賞性について 被告らは、本件各著作物を転載することによって鑑賞性を減殺している。 (オ) 損害について 一般的には教科書に掲載されれば本件各著作物の売れ行きに影響するのが通常であり、その損失は教科書に掲載されたことに対する補償金によって補填される。しかし、補償金は教科書に掲載することの対価として支払われるのみであり、教科書に準拠して利用される副教材その他学習書に掲載されることに対する対価は含んでいない。原告らは、副教材その他に掲載される場合には、その掲載の対価を受領できなければその対価相当額の損害を被ることとなる。 エ よって、本件各著作物の本件国語テストへの複製は、適法な引用であると認めることはできない。 (2) 争点(2)について 【被告らの主張】 ア 著作権法36条の適用を受ける複製は、「試験の目的上必要と認められる限度」のものでなければならないところ、被告らの複製の態様は上記(1)【被告らの主張】ウのとおり上記限度を超えるものではないし、本件国語テストが本件各著作物の通常の利用方法に代替したり、これに競合するものではなく、一般書籍の販売に悪影響を及ぼす余地がないことからすると、上記要件を満たす。 イ 次に、@同条2項が「営利の目的として試験を行なう者」と書かずに、「営利を目的として試験問題の複製を行なう者」と規定していること、A同条の「試験」は厳格な秘密性が求められない校内試験や予備校等が行う模擬テスト等を想定しており、入学試験に類するものに限られないし、本件国語テストも、現行著作権法制定当時から広く小学校の教育現場で利用されており、そのような本件国語テストの存在を前提として、同条の適用対象とすることを意図して現行著作権法が制定されたこと、B本件国語テストは、一般に市販されておらず、専ら小学校に対してのみ納入され、担任教師により保管され、教師が学習の進捗状況に合わせ、事前に児童にテスト用紙を開示することなくこれをテストとして実施するという意味で秘密性があること、C本件国語テストは小学校に備えておくべき児童の正式な学習の記録である指導要録に記載すべき評価・評定を行うためのものであって、同条の「人の学識技能に関する試験又は検定」の内実を備えていること、D本件国語テストの利用は、著作物の通常の利用と衝突せず、そのような利用を行う教育上の必要も高いこと等の理由から、本件国語テストのような校内で行われる試験の問題として本件各著作物が複製される場合にも同条の「試験又は検定」に当たるものとして同条が適用されるというべきである。 【原告ら及び参加人の主張】 ア 学校内で試験を行う場合は試験問題としてある著作物を使用しても同法35条の適用により著作権の制限が可能であるから、著作権法36条は、学外において行われる試験又は検定に限って適用されるべきである。本件国語テストは、学外で行われるものではないから、同法36条の「試験又は検定」に当たらない。 イ 同法36条の立法趣旨は、人の実力を評価する材料として試験又は検定を行う場合には、事前に問題が漏洩されればその公正を保てず、試験に用いる度に著作権者の許諾を得なければならないとすると、秘密性が保てなくなるということにあるから、同条の「試験」はこのような秘密性を保ち公正な評価を要求されている試験を指す。@本件国語テストは、出題範囲が当該単元に限定されること、A被告らは教科書で学習する内容に即した家庭用学習教材や塾用教材を制作、販売していること、B被告らは年度ごとに掲載問題を変更していないこと等からすると、本件国語テストには試験の公正さを保つための秘密性がない。 また、同条によって著作権が制限を受けるには事前に著作権者から許諾を受けることが困難という事情が必要となるが、本件国語テストの著作者は教科書に明記され、出所が明確であるから、事前に著作者に許諾を得ることは何の支障もない。 ウ 同条は、試験として著作物を利用する場合は通常一回的利用で終わり、反復継続して同一の問題が用いられることはないから、著作物の通常の利用を害さないので、著作権制限を認めても差し支えないという点にある。しかし、本件国語テストは教科書に作品が掲載されている期間は、全く同一の作品を問題文として掲載し、問題自体にも差異はないから、同一作品が毎年同じ形で本件国語テストに使用されており、著作物の通常の利用を侵害されてきた以上、同条を適用することはできない。 エ 本件国語テストは、小学校中高学年において、生徒が学習目標に到達したかどうかを測定し、その結果から教師が生徒への指導の方法に改善を加えるために使用されるだけであり、特に小学校低学年においては、児童生徒の評定にさえ使用されていないから、「試験又は検定」に該当することはない。 (3) 争点(3)について 【原告ら(原告Iを除く。)の主張】 被告らは、本件国語テストの印刷、出版、販売において、本件各著作物中の文章を別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)(2)各記載のとおり切除の上接続する等、著作者の意に反し本件各著作物に改変を加えたり、原告らの氏名を表示せずに複製しており、原告らの著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)を侵害している。 具体的な改変箇所については、別紙著作者人格権に関する原告らの主張一覧表(1)(2)記載のとおりである。 【被告らの主張】 ア 原告ら主張の同一性保持権侵害部分の大半は、「削除」、「(削除の上)接続」、「一文に改変」、「抜粋」という態様である。他の改変も、削除等によって児童にとって意味が不明になるおそれがある箇所について、主語等を「加筆・付加」し、簡単な説明を「挿入」するという程度のものである。 被告らは試験問題としての複製という利用の目的及び態様に照らし、部分的な引用の場合において当然のこととして認められている「公正な慣行」に従い、教科書掲載作品の一部を省略したに過ぎないから、本件各著作物を改変するものではないし、仮に改変に当たるとしても、被告らは本件各著作物に本件国語テストへの利用の目的及び態様に照らし「やむを得ないと認められる改変」(20条2項4号)を加えたものであるから、同一性保持権を侵害することはない。 原告らの主張に対する具体的な認否反論は、別紙著作者人格権に関する被告らの主張一覧表記載のとおりである。 イ 氏名表示権侵害の主張については争う。 【原告らの反論】 「やむを得ないと認められる改変」に該当するというためには、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らし、著作物の改変につき、同項1号ないし3号に掲げられた例外的場合と同様の強度の必要性が存在することを要するところ、被告らは、改変を加えずに複製することは十分に可能であったから、「やむを得ないと認められる改変」に当たらない。 (4) 争点(4)について 【被告らの主張】 民法724条にいう「損害及び加害者を知った時」というためには、損害を発生させる加害行為及び加害者を認識すれば足り、具体的な損害の金額等を知る必要はないところ、本件において自己の作品が教科書に掲載されることにより、それに対応した被告ら発行の本件国語テストの出題文として引用される事実を知れば、「損害及び加害者を知った」ということができる。そして、@原告らは、著作権法33条2項により教科書出版会社から通知を受けて補償金を受領しているから、本件各著作物が教科書に掲載されることを教科書出版前に知っていたこと、A本件国語テストは教科書に対応したものとして全国の小学校で長年にわたり広く利用されており、教科書に掲載されるとその教科書に対応した本件国語テストにも出題文として引用されることは公知の事実であること、B被告らは国語テスト発行会社として実績のある会社であり、全国の小学校に対してその販売活動を展開すると共に、本件国語テストにも発行会社名を記載しており、平穏かつ公然と、本件国語テストの発行を継続してきたこと、C被告らによる各学期分の本件国語テストの発行、頒布の時期は小学校における各学期の使用開始の前であること、以上の事実によると、原告は遅くとも本件著作物を掲載した教科書の使用が小学校において各学期に開始され、それに伴って各学期分の本件国語テストの利用が開始された時点で損害及び加害者を知ったものといえる。したがって、原告らが損害賠償請求を追加した平成11年10月8日から3年以上前に発行された本件国語テストの利用に基づく損害賠償請求権については消滅時効が成立するので、これを援用する。 また、不当利得返還請求についても、民法167条1項による消滅時効を援用する。 【原告ら及び参加人の主張】 @本件国語テストが学校教育現場に限定して使用されていたこと、A学校への納入も被告らの代理店を通じて行われる仕組みであったこと、B一般書店での店頭販売は行われず、一般人向けの広告、宣伝が行われる性質の商品でもないこと、Cしたがって、本件国語テストは一般の人の目に触れることはなく、本件国語テストを一般人が入手することは著しく困難であったこと、以上の事実からすると、原告ら及び参加人が損害及び加害者を具体的に認識していたとはいえない。 原告らが本件国語テストによる著作権侵害の事実を知ったのは、平成10年に日本ビジュアル著作権協会理事長Lから知らされてからであった。原告らは平成11年6月に本件訴訟を提起し、同年10月8日には損害賠償の請求を行っているから、消滅時効は完成していない。 (5) 争点(5)について 【被告ら(被告株式会社文溪堂を除く。)の主張】 @被告らは教科書出版会社に対し、謝金を支払うことで教科書掲載作品の利用について、著作権を含む権利処理が行われたものと信じて30年余にわたり支払い続け、業界慣行が維持されていたこと、A被告らの業界団体である社団法人日本図書教材協会(以下「日図協」という。)と小学校国語教科書著作者の会、社団法人日本児童文学者協会及び社団法人日本児童文芸家協会との間で協定が結ばれたこと、B本件国語テストにおいては、教科書に準拠する必要があり、教科書に掲載されている著作物を出題文として利用する必要があること、C本件国語テストが本件各著作物の通常の利用方法に代替したり、これに競合したりするものではなく、一般書籍の販売に悪影響を及ぼす余地がないこと、D原告らが被告らによる本件著作物の利用を許諾しない場合、図書教材の内容及びこれを用いる教育現場に重大な影響を及ぼすこと、E本件訴訟は、日本ビジュアル著作権協会理事長Lによって円満な業界秩序の形成を妨げる目的で提起されたものであること、以上の事情からすると、原告らの請求は権利濫用に当たる。 【被告株式会社文溪堂の主張】 上記【被告ら(被告株式会社文溪堂を除く。)の主張】@ないしDの事情からすると、原告らの請求は権利濫用に当たる。 【原告ら及び参加人の主張】 @謝金には著作権料が含まれず、仮にそれを誤信したとしても原告らの権利行使を制限する理由にならないこと、A被告ら主張の合意は原告を拘束するものではないこと、B小学校においては教師が児童の教育を担当しており、自ら副教材を制作すれば足り、教育現場において本件国語テストを用いる必然性はないこと、C被告らは、原告の許諾を得ることが可能な状況にありながら無断複製を行った上で過去50年間にわたり出版していたこと、D本件訴訟は原告ら童話作家らが、自らの著作権を主張して提起したものであること、以上の事情からすると、被告らの主張は理由がない。 (6) 争点(6)について 【原告ら及び参加人の主張】 被告らが本件国語テストへの作品の複製を適法引用と考えた根拠とする被告らを含む教材出版社と教科書出版社との間の紛争経過及び両当事者間の一連の合意は、いずれも教材出版社と教科書出版社との間の紛争に関するものであり、原告ら教科書掲載作品の著作権者とは無関係に行われていたものであるし、教科書掲載作品の著作権者の権利処理を含むものではない。また、他人の著作物を引用する際には、事前に著作権者に確認の問い合わせを行うのが一般的であるが、被告らはそれを行っていない。したがって、被告らの主張する事情は、いずれも被告らの過失を否定する根拠とはならない。 【被告らの主張】 別紙争点(6)に関する被告らの主張の事情からすると、被告らが本件国語テ ストの製作販売行為を適法と信じたことについて過失はない。 (7) 争点(7)について 【原告らの主張】 ア 著作権法114条1項に基づく主張(主位的主張)について 著作権法114条1項には「著作権者が自らその権利を用いて事業を行っている」との要件は付されていないし、この要件を付加すると同項の適用場面が著しく限定されるから、上記要件を付加すべきではない。 したがって、著作権法114条1項により、被告らが原告らの本件各著作物に対する著作権を侵害したことによって得た利益額が原告らの被った損害額と推定されるべきである。 損害額の算出は、別紙原告損害計算表1、2記載のとおり、教材本体価格×採択部数×利益率(40%)×作品掲載率によって行うのが相当である。 なお、作品掲載率は、総枚数中本件各著作物が掲載されている枚数によって計算することとし、仮に本件各著作物が本件国語テスト中の1枚の一部に掲載されているとしても、1枚のその余の部分も、本件各著作物に依拠して製作されているのであるから、1枚全体を基準として計算すべきである。 イ 特許法102条1項の類推適用に基づく主張(予備的主張@)について (ア) 特許法102条1項は、知的財産権侵害事件における逸失利益の立証の負担の軽減により、権利者の被害回復を容易にしたものであり、この要請からすると、著作権のみ特段区別して権利者に不利益に扱うべき理由はない。したがって、著作権侵害の損害賠償請求事件においても、権利者が被った損害の算出に当たり、同項を類推適用することができると解するべきである。 (イ) 譲渡数量 著作権侵害の場合は、著作権が著作物の複製自体を制限する権利であることから、同項にいう「譲渡」を「複製」に読み替え、複製された数量を基準に損害を算出するのが相当である。 (ウ) 単位数量当たりの利益額 権利者である原告らの単位数量当たりの利益額は、本件各著作物の複製を許諾している単行本を基準に算出される。原告らにおいて当該単行本により得られる利益の額は、その印税相当額を下回ることはなく、単位数量当たりの利益額は、単行本の価格に単行本の印税率を乗じた額を下回ることはない。 (エ) 以上から、損害額の算出は、単行本価格×印刷部数×全体比率(単行本中の本件各著作物が掲載されている割合)×印税率(単行本)によって行うのが相当である。 もっとも、本件各著作物の中には単行本が発行されていないものがあるので、それらについては、例外的に、教材本体価格×印刷部数×作品掲載率×印税率(教材)によって行うのが相当である。 また、原告らは、著作物の学習教材への複製使用を許諾するに当たり、1年分の使用料の額が1使用当たり1万円に満たない場合には、これを1万円とする使用料の最低限度額を定めているので、最低額は1万円とすべきである。 よって、別紙原告損害計算表1、2記載のとおりとなる。 ウ 著作権法114条2項に基づく主張(予備的主張A)について (ア) 原告らは、被告らが原告らに無断で本件各著作物を複製し作成していたことを知らず、本件国語テストに本件各著作物の使用を許諾することは全く想定していなかったのであるから、原則として複製を認めてきた単行本の価格を基準とするのが相当である。本件国語テストの本体価格を基準とすることは、@本件紛争後、被告らによって造られた基準を適用するのは適当ではないこと、A本件国語テストの価格は無断複製という違法な条件下に成立したものに過ぎないこと、B本件国語テストについて本体価格を基準とする方法が一般的合意を得られるとは考えられないこと、C結果的にも著しく低額の使用料での作品使用を強いるに等しいことからすると、相当ではない。 (イ) 損害額の算出は、上記イ(エ)のとおりである。 エ 不当利得返還請求について 被告らは、法律上の原因がないにも関わらず、本件各著作物を本件国語テストに複製の上、販売し、収益を上げていたのであり、これにより、原告らは使用料相当額の損失を被り、他方、被告らは使用料相当額の利得を受けているのであるから、被告らの受けた利得は原告らに返還されるべきである。 オ 著作権侵害に対する慰謝料 (ア) 何人に著作物の利用を許諾するかを決定する自由は法的に保護されるべき人格上の利益であり、著作権者のこうした権利が法的に保護されるべきものであることは明らかである。したがって、これを侵害された場合には、財産権侵害による損害賠償請求とは別に、精神的損害に対する慰謝料の請求が可能と解される。 (イ) 原告らは、その使用を許諾していないにもかかわらず、被告らによって長年にわたり本件各著作物を本件国語テストに複製されたことにより、多大な精神的苦痛を被っているが、こうした著作権侵害が行われた場合における慰謝料の算定に際しては、著作物の性質、侵害の態様、侵害後の対応、権利者の主観的事情等を総合的に評価して、社会的に相当と認められる額を算定すべきである。そして、@本件各著作物は童話であり、著作者の人格的要素を色濃く反映した文芸作品であって、何人に著作物の利用を許諾するかを決定する自由を特に尊重すべき性質のものであること、A被告らによる著作権侵害行為は長年継続されてきたものであり、その侵害態様も前記のとおり著作者人格権侵害を伴っているものであり悪質であること、B被告による著作権侵害行為は、原告らが発見した後も継続されたこと、C本件訴訟提起のために原告ら及びその関係者が費やした労力は多大であること、以上の事実からすると、原告らの慰謝料は少なくとも被告らによる著作権侵害行為により原告らが被った財産的損害の額と同額とするのが相当である。 カ 著作者人格権侵害に対する慰謝料 原告ら(原告Iを除く。本項目においては、以下同じ。)は、被告らによる長年にわたる著作者人格権侵害行為により多大な精神的苦痛を被っているが、このような著作者人格権侵害が行われた場合における慰謝料の算定に際しては、@本件各著作物は、著作者である原告らの人格的要素が強く反映されたものであって、原告らの本件各著作物への思入れが深いこと、A被告らの改変の態様は、前記のとおり文芸作品である本件各著作物の同一性を大きく損なうものであること、B原告らの権利保護の措置にも被告らは誠意ある対応をとらず、そのことが紛争の長期化を招いたこと等の事情を総合的に評価すると、慰謝料としては、氏名表示権の侵害を受けた原告Bについては100万円、同一性保持権及び氏名表示権の侵害を受けたその余の原告らについては各500万円が相当である。 キ 被告らの共同不法行為 被告らは、いずれも日図協の加盟社であるところ、被告らは日図協の指導の下、本件国語テストへの本件各著作物の複製については、著作権者本人の許諾を得る必要がないとの専断的判断により、相互に意を通じて一連の無断複製行為を行ってきたから、被告らは共同して不法行為を行ってきたものである。 ク 弁護士費用 原告らは、被告らに対する本件訴訟の提起を余儀なくされたところ、本件における弁護士費用は少なくとも原告らの被った損害の10%を下らない。 ケ 遅延損害金の起算点 不法行為に基づく損害賠償請求権は、その発生と同時に履行期が到来するから、遅延損害金の起算点は損害が発生した不法行為時である。本件国語テストはそれが使用される小学校の年度毎に作成されるものであるから、各年度分の副教材は、それぞれ少なくとも当該年度の最終日までには作成され、その過程で原告らの著作権を侵害する不法行為が行われている。したがって、被告らの著作権侵害の不法行為による損害賠償請求権は、各年度における副教材分につき、当該年度の最終日までには遅くとも発生しており、遅延損害金も同時点から起算される。 コ 以上により、原告らが被告らに対して求める主位的請求及び予備的請求にかかる各損害賠償の額は別紙原告損害集計表記載のとおりであり、各年度ごとの内訳は別紙原告損害計算表1の1ないし2の9記載のとおりである。そのうち、原告らの請求額は次のとおりである。 原告A 2億3593万4615円 原告B 1億6867万4043円 原告C 2億4974万7322円 原告D 4937万9739円 原告E 1億3929万0954円 原告F 1億5006万1327円 原告G 1億2608万4357円 原告I 8423万4707円 原告H 8971万5094円 【参加人の主張】 ア 【原告らの主張】アないしオ及びキ、クに同じ。 イ 参加人は、被告らに対して、原告Iの著作権侵害に基づく損害賠償請求額のほぼ2分の1に当たる4211万5000円を請求する。 【被告らの主張】 ア 主位的主張について (ア) 原告らは、自ら本件各著作物について出版を行っているわけではなく、本件国語テストと同種の国語テストの制作販売を行っているわけではない。また、原告らは、本件各著作物を一般書籍として出版し又は国語テストを制作販売するために必要な設備、技術及び能力を有しておらず、原告らにおいて、機会があれば、自ら本件各著作物の出版を行い、又は本件国語テストと同種の国語テストを制作販売することが可能な状況にはない。 (イ) @本件各著作物の引用部分はあくまでも本件国語テスト中における素材に過ぎず、本件国語テスト中において主たる地位を占めるのは試験問題部分であること、A本件国語テストの出版は原告らの本件各著作物の通常の利用形態と競合するものでなく、本件国語テストの制作販売は原告らが当該著作物を一般書籍として販売頒布する場合とはその目的が異なること、B被告らによる販売網の構築等の営業努力なしには本件国語テストによる被告らの利益を上げることができないこと、以上の事情からすると、本件国語テストの制作販売により被告らが得た利益は、専ら本件国語テストの内容及びその制作販売に対する被告らの技術及び能力に基づくものである。 以上からすると、著作権法114条1項を適用することはできないものというべきである。 イ 予備的主張@について 特許法102条1項は、権利者の実施能力の限度において、侵害者の譲渡数量=権利者の喪失した販売数量としてのものであるところ、原告らは、上記のとおり本件国語テストと同種の商品を自ら製造販売することのできる実施の能力を有しない。また、同項にいう「侵害の行為がなければ権利者が販売することができた物」とは、侵害者の製品と代替可能性のある製品で、権利者が販売する予定のあるものを指すところ、単行本には設問が掲載されているわけではないし、児童や教師が保有する教科書には本件国語テストよりもはるかに多い分量の本件著作物が掲載されていることからすると、単行本は本件国語テストと代替性があるとはいえないし、単行本は、原告らから出版権等の設定を受けた出版社が販売している商品であって、原告らが販売している物ではない。したがって、同項を類推適用することはできない。 ウ 予備的主張Aについて (ア) 「通常受けるべき金銭の額」の算定に当たっては、@本件国語テストは、小学校に納品され、小学校において教師が実施する国語テストとして用いられるものであって、学校教育の現場において極めて重要な教育的役割を果たしていること、A教科書に掲載された作品を利用せざるを得ないこと、B本件国語テストは、児童の学習到達度を測定するためのものであり、主として下段に配置されている設問部分が本質的部分であり、教科書掲載作品は設問のために、かつそれに必要な限度で引用して利用しているに過ぎないこと、C本件国語テストが引用するのは教科書掲載作品の一部分に過ぎず、その範囲は設問に限られており、作品全体が掲載されているわけではないこと、D本件国語テストの出題文は、引用部分の鑑賞自体を目的として提供されるものではないこと、E単行本の発行が本件著作物の一次的利用であるとすると、教科書の掲載は二次的利用であり、本件国語テストへの利用は三次的利用であり、しかも被告らによる本件国語テストへの本件各著作物の利用はその本来の利用方法である単行本の発行を阻害するものではないこと、F本件国語テストに接する者は既に教科書を持っており、その接する前により全文に近い形で教科書において当該作品を読んでいるから、教科書に掲載されている作品を本件国語テストに部分引用したからといって、単行本の売上げが減少することは考えられないこと、以上の本件国語テストの特徴を勘案の上、妥当な金額を算定する必要がある。 (イ) 基礎となる価格について a 単行本と本件国語テストとでは、@作品の利用目的、A掲載の分量、B掲載態様、C複製物の用途・使用態様等が全く異なっており、著作物の利用方法として全く別個のものであること、本件国語テストにおける作品利用については、既に大多数の著作者から許諾が得られており、既に許諾ルールについて標準が形成されているところ、その際本件国語テストの本体価格を基準としていること、以上の事実からすると、「通常受けるべき金銭の額」は、被告らが学校に納入した際の価格を基準とすべきである。 b 基礎となる価格は、消費税を除いた価格によるべきである。消費税は、国又は地方公共団体に納付すべき金銭であって、被告らは本件国語テストを販売するに当たって消費税を本体価格に上乗せして受領するが、このうち消費税は売上金となるのではなく、国又は地方公共団体に納付するための預かり金となる。このような消費税は、被告らが消費者から預かっているだけであり、被告らの収入を構成するものではないから、印税相当額の計算において消費税部分を基礎に含めることはできない。 (ウ) 印税率について 本件国語テストにおける本件著作物の利用についての相当な印税率は、本件国語テストの本体価格の5%を超えることはなく、翻訳者分の印税率は2.5%を超えることはない。 平成12年の著作権法改正は、同法114条2項の「通常受けるべき金銭の額」の文言から「通常」の二文字を削除したものであるが、これは、既存の使用料規程等が参酌され、侵害者が事前に許諾を受けた者と同じ額を賠償すればよい結果となっていたことから、これを改めるために「通常」という文言を削除したものである。そうすると、少なくとも同改正法の施行前における侵害事実については、現実に広く使用されている印税率と大きく異なる額を認める余地はないというべきである。 (エ) 作品掲載比率について 本件国語テストにおいて、本件著作物は表面の上段部分(2分の1頁)に掲載されているのみであり、それ以外に本件各著作物の著作権侵害となり得る部分はないから、作品の利用率は当該2分の1頁が全体に占める割合を超えることはない。そして、本件国語テストの中で、本件各著作物が掲載されている2分の1頁が占める割合は別紙損害計算表1、2中の「教材中占有率」記載のとおりである。 (オ) 印刷部数について 本件国語テストにおいては、採択部数のみが被告らにとって売上収入を生み出すものであり、それ以外のものはおよそ商品として販売代金を生み出す性質のものではないところ、販売されることが予定されていない@見本品、A教師用、破損・損傷等及び転入生等のための予備、B製造過程において生じる剰余部数を、販売価格に乗じる部数に算入して印税相当額の発生を認めることはできないから、著作権法114条2項にいう「通常受けるべき金銭に相当する額」は、採択部数によって算定されるべきであり、印刷部数によるべきではない。 (カ) 以上により、著作権法114条2項により通常受けるべき金銭の額に相当する額は、教材本体価格(消費税を除く)×作品掲載率(教材中占有率)×採択部数×使用料率(5%)によって算定されるべきである。 エ 不当利得返還に関する主張は否認ないし争う。 オ 著作権侵害による慰謝料について 著作権法においては、同一の著作物に対する財産的権利である著作権と、人格的利益を保護する著作者人格権との双方が区分されて認められているから、著作者人格権侵害と別個に著作権侵害による慰謝料を請求する余地はない。 カ 共同不法行為について 本件において仮に著作権侵害が成立としても、被告ごとに別個の加害行為が存在し、結果もそれぞれに発生している場合であり、1つの加害行為及び結果発生に複数の者が加担している場合ではないから、共同不法行為は成立しない。 キ 遅延損害金の起算点について 不法行為に基づく損害賠償債務は、期限の定めのない債務であるから、民法412条3項の原則どおり、損害を受けた者からの請求によって遅滞に陥ると解するべきである。 ク 原告Iの請求について 原告Iの損害賠償請求は、その2分の1について失当である。 第3 当裁判所の判断 1 本件国語テストにおける本件各著作物の掲載態様について 証拠(甲57の1ないし4)と弁論の全趣旨によると、本件国語テストにおける本件各著作物の掲載態様は次のとおりと認められる。 (1) 本件各著作物は、本件国語テスト中において、同著作物の表題によって特定される単元のうち、「よんでこたえましょう。」、「物語を読んで答えましょう。」、「次の文章を読んで、問題に答えなさい。」等と指示された見開きページに掲載されている。 (2) 本件国語テストには、本件各著作物が、(1)の見開きページ上段のほぼ全面に罫線によって四角で囲まれた中に挿し絵又は写真とともに掲載されており、これらの掲載行数は、おおむね15行以上ある(もっとも、それに満たないものも一部存する)。そして、上記各書籍に掲載されている本件各著作物は、それ自体で、表現されている登場人物の言動やその心理、場面の状況等を理解することができる。なお、末尾には教科書からの引用であることが明示されている。 (3) 本件国語テストには、(2)のように掲載された本件各著作物の一部に傍線若しくは波線又は点線が付されているもの、(2)のように掲載された本件各著作物の一部に番号又は記号とともに傍線、波線又は点線が付されているもの、イのように掲載された本件各著作物の各行の上又は下に記号又は番号が付されているものが存する。 (4) 本件国語テストには、(2)のように掲載された本件各著作物の一部を省略し、その部分に四角又は中に番号を付した四角を挿入し、合うことばを児童に書かせる形式となっているものが存する。 (5) 本件国語テストには、(1)の見開きページ下段の半面(別紙対比目録記載171)又はほぼ全面に、3個ないし10個の選択式又は記述式の問題が設けられており、これらは、(3)のように特定された著作物の部分や掲載された著作物全体についての読解力を問うものである。 2 争点(1)について (1) 公表された著作物を引用して利用することが許容されるためには、その引用が公正な慣行に合致し、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行わなければならないとされている(著作権法32条1項)ところ、この規定の趣旨に照らすと、ここでいう「引用」とは、報道、批評、研究その他の目的で、自己の著作物中に、他人の著作物の原則として一部を採録するものであって、引用する著作物の表現形式上、引用する側の著作物と引用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができるとともに、両著作物間に、引用する側の著作物が「主」であり、引用される側の著作物が「従」である関係が存する場合をいうものと解するべきである。 (2) 前記1のような本件各著作物の掲載態様に照らすと、引用される側の著作物である本件各著作物の全部又は一部と引用する側の著作物である本件国語テストを明瞭に区別して認識することができるというべきである。 また、前記1認定の事実に証拠(甲57の1ないし4)と弁論の全趣旨を総合すると、本件国語テストの設問部分には、本件各著作物からの本件国語テストに収録する部分の選定、設問部分における問題の設定及び解答の形式の選択、その配列、問題数の選択等に、被告らの創意工夫があることが認められる。 しかし、これらの設問は、本件各著作物に表現された思想、感情等の理解を問うものであって、上記問題の設定、配列等における被告の創意工夫も、児童に本件各著作物をいかに正確に読みとらせ、それをいかに的確に理解させるかということにあり、本件各著作物の著作物としての創作性を度外視してはあり得ないものである(この点について、被告らは、内容それ自体の創作性を利用しているかどうかは引用の判断に関係ない旨主張するが、ここでいう読みとらせ、理解させる対象は、内容それ自体のみならず、表現を含むものであるから、本件国語テストは、本件各著作物の著作物としての創作性を度外視してはあり得ないということができる。また、被告らは、本件国語テストは、児童に本件各著作物をいかに正確に読みとらせ、また、それをいかに的確に理解させるかではなく、正確に読みとっているか、的確に理解しているかを評価測定するものである旨主張するところ、後記3認定の事実からすると、本件国語テストは上記のとおり評価測定するという目的を有するものと認められるが、それとともに、児童に解答をするに当たって考えさせたり、採点返却すること等を通じて、児童に本件各著作物についての理解を深めさせるという目的を有するものと認められるから、上記評価測定のみが本件国語テストの目的であるとは認められない。)。そして、このことに、前記1認定の本件国語テストにおける本件各著作物とそれ以外の部分の量的な割合等を総合すると、引用される側の著作物である本件各著作物が「従」であり、引用する側の著作物である本件国語テストが「主」であるという関係が存するということはできない。 3 争点(2)について (1) 証拠(甲2、甲27の1ないし13、甲36、37、51ないし53、乙2、3、21、乙22の1ないし5、乙23の1ないし3、乙30ないし32、35、71ないし77(枝番をすべて含む))と弁論の全趣旨によると、本件国語テストについて、次の事実が認められる。 ア 本件国語テストは、小学校において、教科用図書(教科書)とともに使用することができるとされている「教科用図書以外の図書その他の教材で、有益適切なもの」(学校教育法21条2項)として用いられているものの1つであり、各小学校ごとに設けられる教材採択委員会等において、特定の制作会社が制作したものが採択され、地方教育行政の組織及び運営に関する法律33条1項に基づいて制定された各教育委員会規則(学校管理規則)に従い、学校長から教育委員会に対して届出がされたうえ、購入、使用されるものである。その購入代金は、児童の保護者又は行政が負担する。 本件国語テストは、国語教科書の各単元に対応して1回分が制作されており(それ以外に、各学期の「まとめのテスト」がある。)、通常、各学期に6ないし8回、これを用いたテストが実施されるものであって、各回ごとに、児童数に余部1、2部を加えた部数がまとめられ、学期の初めに、その学期で実施される分が各教師に届けられる。 イ 本件国語テストを用いたテストは、学習の進捗状況等に従い、通常は国語教科書の各単元を終了する際に、当該単元に係る分が実施される(学期末、学年末に実施されることもある。)ものであって、教師が、各学級の通常の授業時間内に、1回分を各児童に配布して行わせる。そのため、同一の本件国語テストを用いる同一の小学校の同一学年であっても、各学級によって、その実施日、時間が異なることがある。 実施した国語テストは、教師が回収して採点をした後、児童毎に学習上のコメント等を付す等したうえ、各児童に返還される。 ウ 小学校において児童ごとに作成される小学校児童指導要録(平成3年3月20日文初小第124号の各都道府県教育委員会宛て文部省初等中等局長通知による改訂後のもの)は、児童の学籍並びに指導の過程及び結果の要約を記録し、指導及び外部に対する証明等に役立たせるための原簿としての性格を有するものである。そして、その「各教科の学習の記録」のうちの「観点別学習状況」欄には、小学校学習指導要領に示す各教科の目標に照らして、その実現の状況を観点ごとに評価し、A(十分満足できると判断されるもの)、B(おおむね満足できると判断されるもの)、C(努力を要すると判断されるもの)の記号により、各学年ごとに記入するものとされており、国語については、「国語への関心・意欲・態度」、「表現の能力」、「理解の能力」、「言語についての知識・理解・技能」の各観点が設定されている。 しかるところ、本件国語テストと共に教師に配布される被告ら各制作会社作成の「得点集計表」等の名称が付された一覧表は、児童ごとに、特定の回の国語テストの得点(又はそのうちのある部分の設問に対する得点)を集計することにより、その合計点数によって、「観点別学習状況」欄の各観点(少なくとも「国語への関心・意欲・態度」を除く各観点)のA、B、Cの評価に割り振る仕組みとなっている。 (2) 公表された著作物は、入学試験その他人の学識技能に関する試験又は検定の目的上必要と認められる限度において、当該試験又は検定の問題として複製することができるとされ(著作権法36条1項)、また、営利を目的として、複製を行うものは、通常の使用料の額に相当する額の補償金を著作権者に支払わなければならない(同条2項)とされているところ、これらの規定は、入学試験等の人の学識技能に関する試験又は検定にあっては、それを公正に実施するために、問題の内容等の事前の漏洩を防ぐ必要性があるので、あらかじめ著作権者の許諾を受けることは困難であること、及び著作物を上記のような試験、検定の問題として利用したとしても、一般にその利用は著作物の通常の利用と競合しないと考えられることから、試験、検定の目的上必要と認められる限度で、著作物を試験、検定の問題として複製するについては、一律に著作権者の許諾を要しないものとするとともに、その複製が、これを行う者の営利の目的による場合には、著作権者に対する補償を要するものとして、利益の均衡を図ることとした規定であると解される。 そうすると、同条1項によって、著作権者の許諾を要せずに、問題として著作物の複製をすることができる試験又は検定とは、公正な実施のために、試験、検定の問題として利用する著作物が何であるかということ自体を秘密にする必要性があり、それ故に当該著作物の複製について、あらかじめ著作権者の許諾を受けることが困難であるような試験、検定をいうものであって、そのような困難性のないものについては、複製につき著作権者の許諾を不要とする根拠を欠くものであり、同条1項にいう「試験又は検定」に当たらないものと解するのが相当である。 (3) 上記(1)で認定した事実に証拠(乙22の1ないし5、乙23の1ないし3、乙30ないし32、35、乙71ないし77(枝番をすべて含む))と弁論の全趣旨を総合すると、本件国語テストは、児童の学習の進捗状況に応じた適宜の段階において、教師が、各児童ごとにその学力の到達度を把握するものとして利用し、本件国語テストの結果(得点)が、教師の児童に対する評価の参考となり得るものであると認められる。 しかしながら、教科書に掲載されている本件各著作物が本件国語テストに利用されることは、当然のこととして予測されるものであるから、本件国語テストについて、いかなる著作物を利用するかということについての秘密性は存在せず、そうすると、そのような秘密性の故に、著作物の複製について、あらかじめ著作権者の許諾を受けることが困難であるような事情が存在するということもできない。 また、証拠(乙73の4ないし7、10、乙76の9、12ないし14、17、20、25、27)には、小学校の教師等が本件国語テストを用いるテストの実施に当たって秘密の保持を配慮し、又は配慮していたとの趣旨を述べる記載があり、その具体的内容は、当該テストの実施を学年の各クラスで同じ時期にしていたことと、テストの内容が漏れないように各クラスが当該テストを終了するまでは答案用紙を返却しないということにある。しかし、学年の各クラスで同一時期に実施するとしても、同一時間に実施するのでなければ秘密保持とはならないし、実施の時間が異なるとすると、他のクラスにおいて当該テストが実施されるまで答案用紙の返却をしないとしても、秘密保持の上でさしたる効果がないといえる。さらに、上記の程度の配慮でさえ、どの小学校においても一律行っていたとまで認めるに足りる証拠はない。したがって、一般的に、本件国語テストについて秘密保持が図られていたと認めることはできない。 よって、被告らが、本件各著作物を本件国語テストに複製することは、著作権法36条1項所定の「試験又は検定の問題」としての複製に当たるものではない。 なお、被告らは、@同条の「試験」は厳格な秘密性が求められない校内試験や予備校等が行う模擬テスト等を想定しており、入学試験に類するものに限られないし、本件国語テストも、現行著作権法制定当時から広く小学校の教育現場で利用されており、そのような本件国語テストの存在を前提として、同条の適用対象とすることを意図して現行著作権法が制定されたこと、A本件国語テストの利用は、著作物の通常の利用と衝突せず、そのような利用を行う教育上の必要も高いことを主張するが、予備校等の行う「模擬試験」や学校内での中間試験、期末試験等に同条の「試験」に当たるものがあるとしても、それは、上記認定の同条の趣旨からすると、上記認定のような秘密性を有するものに限られるというべきであるから、予備校等の行う「模擬試験」や学校内での中間試験、期末試験等に同条の「試験」に当たるものがあることは、上記認定を覆すに足りるものではない。また、本件国語テストを同条の適用対象とすることを意図して現行著作権法が制定されたことについては、そのような事実を認めるに足りる証拠はない(国立国会図書館調査立法考査局「著作権法改正の諸問題」(甲35)には、「営利を目的として学力テストの問題を作成するいわゆるテストやに補償金を支払うことを条件に、著作物の使用を認めている」との記載があるが、どのような学力テストかは明示されておらず、本件国語テストを作成する被告らを指すものとは認められない。)。さらに、本件国語テストの利用は、著作物の通常の利用と衝突せず、そのような利用を行う教育上の必要が高いとしても、上記認定の同条の趣旨からすると、上記認定のような秘密性を有しないものについて同条の適用を認めることはできないから、この事実も、上記認定を覆すに足りるものではない。 4 争点(3)(著作者人格権侵害)について (1) 同一性保持権侵害について ア 原告Cに関するものについて (ア) 本件著作物3−2について @ 被告株式会社文溪堂について 証拠(甲57の2)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録2記載119、120の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 A 被告青葉出版株式会社について 証拠(甲57の2)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録2記載123ないし125の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 B 被告株式会社日本標準について 証拠(甲57の2)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録2記載127ないし129の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 C 被告株式会社新学社について 証拠(甲57の2)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録2記載の135、136の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 D 被告株式会社光文書院について 証拠(甲57の2)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録2記載の139ないし141の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 (イ) 本件著作物3−3について @ 被告株式会社文溪堂について 証拠(甲57の3)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録3記載の143の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 A 被告青葉出版株式会社について 証拠(甲57の3)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録3記載の157の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 B 被告株式会社日本標準について 証拠(甲57の3)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録3記載の170の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 C 被告株式会社新学社について 証拠(甲57の3)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録3記載の197の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 D 被告株式会社光文書院について 証拠(甲57の3)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録3記載の210の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)記載のとおり「改変」されているものと認められる(なお、削除された主人公の言葉に関する部分は、「『ヒロ子ちゃん、これなんだか知ってる?』と、聞きました。」であり、「わたしたちは、・・・帰りました。」の前の言葉は、「お母さんが心配するといけないから、といって、」である。)。 イ 原告Eに関するもの (ア) 本件著作物5−1について 証拠(甲57の3)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録3記載の186の被告株式会社教育同人社の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 (イ) 本件著作物5−2について @ 被告株式会社文溪堂について 証拠(甲57の2、4)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録2記載の122、同4記載の226の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)(2)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 A 被告青葉出版株式会社について 証拠(甲57の4)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録4記載の234の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(2)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 B 被告株式会社日本標準について 証拠(甲57の4)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録4記載の241の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(2)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 C 被告株式会社光文書院について 証拠(甲57の2、4)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録2記載の142、同4記載の258の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)(2)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 (ウ) 本件著作物5−3について @ 被告株式会社日本標準について 証拠(甲57の3)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録3記載174の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 A 被告株式会社新学社について 証拠(甲57の3)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録3記載200の本件国語テストとを対比すると、「(リョウは言います。)」を加筆したこと、「ああ、それも知らないのか」を削除したことが認められ、以上のとおり「改変」されているものと認められる。 ウ 原告Dに関するもの (ア) 本件著作物4−3について @ 被告株式会社文溪堂について 証拠(甲57の3)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録3記載の145の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 A 被告青葉出版株式会社について 証拠(甲57の3)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録3記載の158の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 B 被告株式会社日本標準について 証拠(甲57の3)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録3記載172の本件国語テストを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 C 被告株式会社光文書院について 証拠(甲57の3)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録3記載の211の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 (イ) 本件著作物4−5について @ 被告青葉出版株式会社について 証拠(甲57の4)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録4記載の233の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(2)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 A 被告株式会社教育同人社について 証拠(甲57の4)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録4記載の248の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(2)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 B 被告株式会社光文書院について 証拠(甲57の4)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録4記載の257の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(2)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 エ 原告Fに関するもの (ア) 本件著作物6−3について @ 被告株式会社文溪堂について 証拠(甲57の3)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録3記載の148の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 A 被告青葉出版株式会社について 証拠(甲57の3)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録3記載の161の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 B 被告株式会社日本標準について 証拠(甲57の3)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録3記載の175の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 C 被告株式会社新学社について 証拠(甲57の3)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録記載の201の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 (イ) 本件著作物6−4について @ 被告株式会社文溪堂について 証拠(甲57の4)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録記載の227の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(2)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 A 被告青葉出版株式会社について 証拠(甲57の4)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録4記載235の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(2)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 B 被告株式会社新学社について 証拠(甲57の4)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録4記載の254の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(2)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 (ウ) 本件著作物6−5について @ 被告株式会社文溪堂について 証拠(甲57の3)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録3記載の149の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 A 被告青葉出版株式会社について 証拠(甲57の3)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録3記載162の本件国語テストを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 B 被告株式会社日本標準について 証拠(甲57の3)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録3記載176の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 C 被告株式会社新学社について 証拠(甲57の3)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録3記載の202の本件国語テストとを対比すると、「くるときにまわり道をしたことはすっかりわすれて、たんぼのあぜ道をかえってきたのだが、思いがけないことに、」、「こんどは、面と向かって歩いてきただけにさけようもなく、少女はしかたなく、そのままちかづいていった。」を削除したこと、「このあたりのたんぼにきなれている鳥なのか、人をおそれるようすもなく、しきりにどろのなかをつついている。」を削除したこと、「思いきって」を削除したこと、「なんだかひょうしぬけした思いできくと、」を削除したこと、「−また!」を削除したことが認められ、以上のとおり「改変」されているものと認められる。 D 被告株式会社光文書院について 証拠(甲57の3)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録3の215の本件国語テストとを対比すると、「少女は」を加筆したこと、「このあたりのたんぼにきなれている鳥なのか、人をおそれるようすもなく、しきりにどろのなかをつついている。」を削除したことが認められ、以上のとおり「改変」されているものと認められる。 (エ) 本件著作物6−6について @ 被告青葉出版株式会社について 証拠(甲57の4)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録4記載の236の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(2)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 A 被告株式会社日本標準について 証拠(甲57の4)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録4記載243の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(2)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 オ 原告Gに関するものについて (ア) 本件著作物7−2について @ 被告株式会社文溪堂について 証拠(甲57の3)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録3記載の150ないし153の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 A 被告青葉出版株式会社について 証拠(甲57の3、4)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録3記載の163ないし166、同4記載237の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)(2)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 B 被告株式会社日本標準について 証拠(甲57の3、4)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録3記載の177ないし180、同4記載244の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)(2)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 C 被告株式会社教育同人社について 証拠(甲57の3)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録3記載の192の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 D 被告株式会社新学社について 証拠(甲57の3)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録3記載の203ないし206の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 E 被告株式会社光文書院について 証拠(甲57の3、4)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録3記載216ないし218、同4記載261の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)(2)記載のとおり「改変」されているものと認められる(なお、別紙対比目録3記載216、218についての冒頭一文についての改変は、「かぜがでてきて、」、「みちばたに」を削除したことである。)。 (イ) 本件著作物7−5について 証拠(甲57の4)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と被告株式会社光文書院の別紙対比目録4記載の259の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(2)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 カ 原告Hに関するもの (ア) 本件著作物9−2について @ 被告青葉出版株式会社について 証拠(甲57の3)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録3記載の167の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)記載のとおり「改変」されているものと認められる(なお、「キキはいばって言いました。」という部分は、「キキは、いいました。」、「ウーフが、子どものくまだからか、いばっていいました。」という二文を一文にしたものである。)。 A 被告株式会社日本標準について 証拠(甲57の3)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録3記載181の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 B 被告株式会社新学社について 証拠(甲57の3)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録3記載207の本件国語テストとを対比すると、「ミミの家には、」から「帰りました。」までの部分を削除したこと、「きいきい声で」を削除したこと、「ミミちゃんちの井戸は、小さいんだもの。」を削除したことが認められ、以上のとおり「改変」されているものと認められる。 C 被告株式会社光文書院について 証拠(甲57の3)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録3記載220の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 (イ) 本件著作物9−3について @ 被告株式会社文溪堂について 証拠(甲57の3)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録3記載の154の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 A 被告青葉出版株式会社について 証拠(甲57の3)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録3記載の168の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 B 被告株式会社新学社について 証拠(甲57の3)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録3記載の208の本件国語テストとを対比すると、「ころころりん」を削除したこと、「じいさまころりんすっとんとん」から「ざしきでした。」までの部分を削除したこと、「じいさま、ようこそいらっしゃいました。」「さあさあ、こちらへいらっしゃい。」を削除したこと、「おさけや」、「そのまに、」から「きれいな」までの部分を削除したこと、「百になっても二百になってもにゃあごのこえはききたくない」を削除したことが認められ、以上のとおり「改変」されているものと認められる。 C 被告株式会社光文書院について 証拠(甲57の3)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録3記載221の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 (ウ) 本件著作著作物9−4について @ 被告株式会社文溪堂について 証拠(甲57の3)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録3記載の156の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 A 被告青葉出版株式会社について 証拠(甲57の3)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録3記載の169の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 B 被告株式会社日本標準について 証拠(甲57の3)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録3記載の183の本件国語テストとを対比すると、「うなりました。それから、」を削除したこと、「ずくんずくんうそつきだい。ずくんずくん足はちからをいれて、そういっているようでした。」を削除したことが認められ、以上のとおり「改変」されているものと認められる。 C 被告株式会社新学社について 証拠(甲57の3)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録3記載の209の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 D 被告株式会社光文書院について 証拠(甲57の3)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録3記載の222の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(1)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 (エ) 本件著作物9−5について @ 被告株式会社日本標準について 証拠(甲57の4)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録4記載の245の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(2)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 A 被告株式会社光文書院について 証拠(甲57の4)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録4記載の262の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(2)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 キ 原告Aに関するものについて (ア) 本件著作物1−6について @ 被告株式会社文溪堂について 証拠(甲57の4)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録4記載の224の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(2)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 A 被告青葉出版株式会社について 証拠(甲57の4)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録4記載232の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(2)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 B 被告株式会社日本標準について 証拠(甲57の4)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録4記載の239の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(2)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 C 被告株式会社教育同人社について 証拠(甲57の4)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録4記載の247の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(2)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 D 被告株式会社光文書院について 証拠(甲57の4)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録4記載の256の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(2)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 (イ) 本件著作物1−22について @ 被告株式会社文溪堂について 証拠(甲57の4)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録4記載223の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(2)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 A 被告青葉出版株式会社について 証拠(甲57の4)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録4記載の231の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(2)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 B 被告株式会社光文書院について 証拠(甲57の4)と弁論の全趣旨によると、上記著作物と別紙対比目録4記載255の本件国語テストとを対比すると、別紙著作者人格権に関する原告の主張一覧表(2)記載のとおり「改変」されているものと認められる。 ク 被告らは試験問題としての複製という利用の目的及び態様に照らし、部分的な引用の場合において当然のこととして認められている「公正な慣行」に従い、教科書掲載作品の一部を省略したに過ぎないから、本件各著作物を改変するものではないと主張するが、上記認定のとおり本件国語テストに本件各著作物を掲載することは、著作権法36条1項所定の「試験又は検定の問題」としての複製に当たらないうえ、本件国語テストのような著作物に他の著作物を掲載する場合には、上記認定のような改変が許されるとの「公正な慣行」があるというべき事実も認められない。 著作権法20条2項4号は、同一性保持権による著作者の人格的利益の保護を例外的に制限する規定であり、かつ、同じく改変が許される例外的場合として同項1号ないし3号の規定が存することからすると、同項4号にいう「やむを得ないと認められる改変」に該当するというためには、著作物の性質、利用の目的及び態様に照らし、当該著作物の改変につき、同項1号ないし3号に掲げられた例外的場合と同程度の必要性が存在することを要するものと解される。しかるところ、本件国語テストが同項1号で定める場合に当たらないことは明らかであり、本件国語テストについて同項1号で定める場合と同程度の必要性が存在すると認めることもできない。そして、その他の被告ら主張の事情をもってしても、本件国語テストの発行に当たり上記各著作物に改変を加えるにつき、上記のような必要性が存在すると認めることはできない。したがって、著作権法20条2項4号が定める「やむを得ないと認められる改変」に該当するとは認められない。 ケ よって、上記アないしキ認定の各改変がされたことによって、原告Bを除くその余の原告らが本件各著作物について有する同一性保持権が侵害されたものと認められる。 (2) 氏名表示権侵害について 証拠(甲57の1ないし4)と弁論の全趣旨によると、別紙対比目録記載の本件国語テスト(同目録の3、23、25、41、43、64、66、82、101、103、144、223ないし226記載の国語テストは除く。)において、原告Iを除くその余の原告らの氏名が表示されていないものと認められるから、原告Iを除くその余の原告らが本件各著作物について有する氏名表示権が侵害されたものと認められる。 5 争点(5)について (1) 民法724条にいう「損害及ヒ加害者ヲ知リタル時」とは、被害者において、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に、その可能な程度にこれらを知った時を意味するものと解され(最高裁昭和48年11月16日第二小法廷判決・民集27巻10号1374頁参照)、このうち同条にいう被害者が損害を知った時とは、被害者が損害の発生を現実に認識した時をいうとものと解される(最高裁平成14年1月29日第三小法廷判決・民集56巻1号218頁参照)。 (2) 原告B、同E、同G、同I、同Hの各陳述書(甲25の1ないし5、甲75)には、これらの原告が本件各著作物が本件国語テストに掲載されていることを知ったのは、本件訴訟を提起する前の平成10年1月ないし10月であること、被告らからテスト・ドリル等における本件各著作物の使用について許諾を求められたり使用料を受け取ったりしたことがないこと、教科書会社から、教科書掲載作品の使用料について国が定める補償金以外の金員を受領したことがないこと、以上の記載がある。また、原告Dの陳述書(甲101)には、数年前に日本ビジュアル著作権協会理事長Lから知らされるまでは、本件国語テストに本件各著作物が掲載されていることを知らなかった旨の記載があり、原告Dは、本人尋問においても、同旨の供述をしている。 証拠(甲27の1ないし13)と弁論の全趣旨によると、本件国語テストは小学校のテスト教材として使用されるもので、被告らは直接又は販売代理店を通じて小学校に直接納入しており、一般書店等の店頭で販売していないことが認められる。そうすると、原告らが教科書発行会社から通知を受けて補償金を受領しており、本件国語テストは教科書に準拠するものとして日本全国の小学校に広く利用されてきたとしても、原告らが上記陳述書記載の時期より前に本件各著作物が本件国語テストに掲載されていることを知らなかったことは不自然ではないから、上記記載及び供述は信用することができる。よって、原告ら及び参加人は、平成10年より前には、被告らが原告ら及び参加人の著作権並びに原告ら(原告Iを除く)の著作者人格権を侵害し、原告ら及び参加人に損害が発生したことを現実に認識していたとは認められない。 (3) 以上により、民法724条の消滅時効が成立している旨の被告らの主張は認められない。 6 争点(6)について (1) 前記第2、4(5)【被告ら(被告株式会社文溪堂を除く)の主張】中の@に ついて 証拠(甲22、甲25の1ないし5、甲28の1、2、甲56の1、2、乙4の1、乙48の7ないし9、乙67、調査嘱託の結果)と弁論の全趣旨によると、被告らは、日図協及び教学図書協会を通じて、教科書出版会社に対して、教科書に準拠した教材を発行することについての謝金を支払っていたこと、これには、原著作者に対する著作権料は含まれておらず、謝金の一部でも原著作者に支払われた事実はないこと、以上の事実が認められる。この謝金の支払に関する基本契約書(乙4の1、乙48の8、9)には、原著作者に対する著作権料が含まれている旨の記載はなく、その他証拠(乙3、乙4の1ないし3、乙47の1ないし3、乙48の1ないし3、5ないし9、乙49の1ないし3、乙50、乙51の1、2、乙52、67、証人N)によって認められる経緯に照らしても、謝金支払に関する交渉経過等において原著作者に対する著作権料が含まれているかどうかが協議の対象となった事実は認められないから、被告らがこの謝金に原著作者に対する著作権料が含まれていると信じてもやむを得ないといえるような事実は認められない。他方、被告らが、原著作者に謝金の一部が支払われているかどうかを確認するのは極めて容易であったと考えられるが、被告らが何らかの確認をしたことを認めるに足りる証拠はない。したがって、被告らが、上記謝金が原著作者に支払われていなかったことを知らなかったとしても、そのことに過失があるものというべきである。 (2) 前記第2、4(5)【被告ら(被告株式会社文溪堂を除く)の主張】中のAな いしCについて 後記8(3)エ(ア)認定のとおり、小学校国語教科書著作者の会、社団法人日本児童文学者協会及び社団法人日本児童文芸家協会と被告ら及び日図協との間で平成11年9月30日に協定が締結されたことが認められる(上記【被告らの主張】中のA)が、この合意には、原告らは含まれていない。また、各小学校において、国語教科書のうち本件各著作物が掲載された単元については本件各著作物を複製しないで制作された国語テストを利用するなどの方策を適宜採用することもできるものと考えられるから、本件国語テストにおいて教科書に掲載されている著作物を必ず出題文として利用する必要があるとまでは認められないし、このような事情は、そもそも被告らの側のみの事情である(上記【被告らの主張】中のB)。さらに、後記8(2)認定のとおり、本件国語テストと本件各著作物の単行本の間には、代替性がないものと認められる(上記【被告らの主張】中のC)が、そのことのみで、原告らが権利を濫用していることが基礎付けられるということはできない。 (3) 前記第2、4(5)【被告ら(被告株式会社文溪堂を除く)の主張】中のDについて 上記のとおり、教科書に掲載されている著作物を必ず出題文として利用する必要があるとまでは認められないし、他に原告らが被告らによる本件各著作物の利用を許諾しないことによって教育現場に重大な影響を及ぼすことを認めるに足りる証拠はない。 (4) 前記第2、4(5)【被告ら(被告株式会社文溪堂を除く)の主張】中のEについて 本件訴訟は、原告ら著作権者が原告となって提起しているものであって、日本ビジュアル著作権協会理事長Lによって円満な業界秩序を妨げる目的で提起されたものであるとは認められない。 (5) 以上述べたところからすると、原告らの本件請求が権利濫用に当たるものということはできない。 7 争点(7)について (1) 原告らは、第20回口頭弁論期日において、被告らが過失がないこと及びそれを否定する事情を主張し、それに関する証拠(乙47ないし49の1、乙49の3ないし乙53)を提出したことは時機に後れた攻撃防御方法(民訴法157条1項)に当たるとしてその却下を求めているが、その事情の一部は権利濫用の主張に係る事情として第5回口頭弁論期日において被告らが主張していたし、また、第20回口頭弁論期日の時点では、いまだ原告ら申請の原告Dの本人尋問も行われておらず、それらと並行して上記主張を審理することが可能であったから、訴訟の完結を遅延させるものということはできない。したがって、原告らの主張は理由がない。 (2) 前記6のとおり、被告らは、謝金が原著作者に支払われていなかったことを知らなかったとしても、そのことに過失があるものというべきである。 被告らは本件国語テストへの複製が適法引用に当たると信じていたと主張する。確かに、証拠(乙48の4)によると、東京地方裁判所は、昭和40年7月23日、教科書会社を債権者、日本教育図書出版株式会社を債務者とする仮処分申請について、同申請を却下する決定を行ったこと、同申請の被保全権利は、@編集著作権又は編集著作物の出版権、A教科書の編集者自身の著作した部分の著作権又はその部分の出版権であること、同決定は、@債務者の出版物は債権者の編集著作権又は編集著作物の出版権を侵害しないこと、A教科書の編集者自身の著作した部分が特定されていないから、この点で既に失当であることを述べたうえで、「…債務者発行の学習書…では…の各文章が引用されている。しかしながら、これらの断片的な語句および文章の引用を見るだけでは…(教科書掲載作品の)全文をしのぶに由ないのみならず、その要旨を知ることさえできない。これらは、専ら、教科書の学習に資するため必要な範囲で、その一部を引用したものにすぎないものと認めることができる。」と述べたものであったこと、以上の事実が認められる。これに対し、本件国語テストにおける本件各著作物掲載の態様は、前記1認定のとおり本件各著作物の一部をそのまま掲載したものであって、「その要旨を知ることさえできない。」というようなものでないから、上記仮処分とは事案が異なり、この決定があるからといって、被告らが本件国語テストへの複製が適法引用に当たると信じていたことに相当の理由があるとはいえない。また、被告らは、教科書掲載作品の一部をテスト等に利用することは「適法引用」であり、著作者の許諾を要しないという見解は、裁判所、検察庁、監督行政庁、双方の訴訟代理人であった著作権法の権威者たちが、明示的・黙示的に支持してきたとも主張するが、教科書掲載作品を本件国語テストのような態様で利用することが「適法引用」に当たり著作者の許諾を要しないという見解を、裁判所、検察庁、監督行政庁、訴訟代理人であった著作権法の権威者(教材会社訴訟代理人のM弁護士(乙53、証人N)を除く)が支持してきた事実を認めるに足りる証拠はない(乙48の1の裁判所の見解についての記載は、日図協発行の書籍に記載されているのみであるから、直ちに採用できず、また、乙50の文部省著作権課の話は、「業界の公正妥当な慣行がつくられているなら、それはそれでよい」と述べたにとどまるから、これらの証拠は、裁判所や監督行政庁が、教科書掲載作品を本件国語テストのような態様で利用することが「適法引用」に当たり著作者の許諾を要しないという見解を支持したことを認めるに足りるものではない。)。 弁論の全趣旨によると、著作者の側から、長年にわたって、本件国語テストについて権利主張されてこなかったことが認められるが、権利主張がないからといって違法行為をしてもよいことにならないことは明らかである。 以上述べたところからすると、被告らには、本件各著作物を本件国語テストに掲載して、原告ら及び参加人の本件各著作物に対する複製権を侵害したことについて過失があるものというべきであるし、また、著作者人格権の侵害についても過失があるものと認められる。 8 争点(8)について (1) 主位的主張(著作権法114条1項による損害の主張)について 著作権法114条1項は、当該著作物を利用して侵害者が現実にある利益を得ている以上、著作権者が同様の方法で著作物を利用する限り同様の利益を得られる蓋然性があることに基づく規定と解される。証拠(甲15の1ないし9、甲75、77)と弁論の全趣旨によると、原告ら及び参加人は、作家、翻訳家又はその相続人であって、自ら本件各著作物の出版を行っていないものと認められるから、原告らが、被告らと同様の方法で著作物を利用して利益を得られる蓋然性はないものと認められる。したがって、本件においては、同法114条1項の適用の余地はないものというべきである。 (2) 予備的主張@(特許法102条1項の類推適用の主張)について 特許法102条1項は、特許法の規定であって、直ちに同様の規定が設けられていない著作権侵害行為の損害額の算定に類推適用することはできないものというべきである。 また、特許法102条1項を類推適用することができたとしても、同項にいう「侵害の行為がなければ権利者が販売することができた物」とは、侵害者の製品と代替性のある製品でなければならないところ、証拠(甲57の1ないし4)と弁論の全趣旨によると、原告ら主張に係る単行本は、本件各著作物の全部が掲載されており、一般の書店等で販売されるものであると認められるのに対し、本件国語テストは、前記1認定のような態様で、本件各著作物の一部と設問が掲載され、設問に答えるようになっている小学校のテスト教材で、前記5(2)認定のとおり、被告らは直接又は販売代理店を通じて小学校に直接納入しているのであるから、単行本は本件国語テストと代替性があるとはいえないことは明らかであって、原告が主張するように、単行本が同項にいう「侵害の行為がなければ権利者が販売することができた物」に当たるとして、同項を類推適用することはできない。 そこで、予備的主張Aに係る著作権法114条2項による損害賠償請求について判断することとする。 (3) 予備的主張Aについて ア 部数等について (ア) 原告らは、複製権の侵害による損害賠償を求めているのであるから、使用料相当額を算定するに当たっては、採択部数(本件国語テストが実際に各小学校において採用され、購入対象となった部数)ではなく印刷部数を基礎とすることが相当である。 被告らは、印刷部数には、@見本品、A教師用、破損・損傷等及び転入生等のための予備、B製造過程において生じる剰余部数が含まれていると主張するが、このようなものについても複製が行われていることには変わりがないから、使用料算定の基礎とすることができるというべきである。 (イ) 証拠(甲57の1ないし4、甲81ないし91、95ないし97)と弁論の全趣旨によると、被告株式会社日本標準は昭和63年度から平成12年度まで、被告株式会社文溪堂は平成元年度から平成12年度まで、被告株式会社新学社は平成9年度3学期から平成12年度まで、被告青葉出版株式会社、同株式会社教育同人社及び同株式会社光文書院は平成2年度から平成12年度までの間に、それぞれ別紙損害計算表1の印刷部数欄記載の部数の本件各著作物が掲載された本件国語テストを印刷し、出版販売したこと、それらの年度における採択部数は、別紙損害計算表1の採択部数欄記載のとおりであること、被告青葉出版株式会社は、昭和63年度と平成元年度に、被告株式会社光文書院は平成元年度に、被告株式会社新学社は平成元年度から平成9年度2学期までの間に、それぞれ本件各著作物が掲載された本件国語テストを印刷出版販売したところ、その採択部数は、別紙損害計算表1記載の採択部数欄記載の部数であること、以上の事実が認められる。上記の採択部数のみが明らかな年度について、原告は、採択部数の1.2倍を印刷部数とすべきであると主張するが、別紙損害計算表1の記載から明らかなように、各年度毎に比べた場合には、印刷部数が採択部数を必ず一定数上回るということはなく、印刷部数が採択部数を下回る場合やほぼ同数である場合もあるから、原告らの主張は採用できず、採択部数のみが明らかな年度については、採択部数によることとする。 (ウ) また、証拠(甲92ないし94)と弁論の全趣旨によると、本件各著作物は、昭和55年度以降に別紙教科書目録1ないし8記載の各小学校用教科書に掲載されているものと認められること、被告らが上記(イ)認定の各年度より前の時期において本件各著作物を掲載した本件国語テストを販売していなかった事実をうかがわせる証拠がないことからすると、被告らは、上記(イ)認定の各年度より後の時期に本件国語テストに掲載していた著作物については、それより前で昭和55年度以降の時期においても、小学校用教科書に掲載されている限り、本件国語テストに掲載していたものと認められる。原告らが主張しているもののうち、原告Aの本件著作物1−8、10、18、20、21、原告Bの本件著作物2−6、原告Cの本件著作物3−9ないし11、原告Fの本件著作物6−11、原告Gの本件著作物7−4が、それぞれ上記(イ)認定の各年度より後の時期に本件国語テストに掲載されていた事実を認めるに足りる証拠はなく、原告Hの本件著作物9−2が上記(イ)認定の各年度より後の時期に日本図書版教科書に準拠する本件国語テストに掲載されていた事実を認めるに足りる証拠はなく、原告Hの本件著作物9−4が上記(イ)認定の各年度より後の時期に光村図書版教科書に準拠する本件国語テストに掲載されていた事実を認めるに足りる証拠はないので、これらについては、上記(イ)認定の各年度より前で昭和55年度以降の時期において本件国語テストに掲載されていたとは認められないが、その余については、原告ら主張のとおり掲載されていたものと認められる。 そして、その部数については、上記印刷部数が明らかな年度における本件国語テストの印刷部数のうち部数が最も少ない年度の印刷部数(平成10年度以降の2種類又は3種類の国語テストを印刷している場合は、その合算部数による。ただし、最も少ない年度の印刷部数が採択部数より少ない場合は採択部数)によるのが相当である。 原告らは、上記(イ)認定の各年度より前で昭和55年度以降の時期の印刷部数については、@昭和55年度から昭和63年度までの各年度の学年毎、教科書会社毎の教科書発行部数を算出し、A平成3年度の各教科書の発行部数に対する本件国語テストの被告らのシェアを算出し、B@の発行部数にAの比率を乗じて採択部数とし、それを1.2倍した数値によるべきであると主張する。しかし、証拠(乙57)と弁論の全趣旨によると、被告らの間における本件国語テストのシェアは各年度において異なっているものと認められ、ましてや、教科書発行部数に対する本件国語テストのシェアが各年度において一定である保証はないから、教科書発行部数とシェアによる上記算定方法を採用することはできない。 イ 基礎となる価格について 基礎となる価格について、原告らは本件各著作物の単行本の価格によるべきであると主張するが、原告らが主張しているのは本件各著作物を複製した本件国語テストの印刷出版販売行為に係る使用料相当額であり、前記(2)認定のとおり、単行本と本件国語テストは大きく異なるもので、代替性もないから、本件各著作物の単行本の価格によることはできない。 弁論の全趣旨によると、被告らは、本件国語テストを販売する場合には、見本本や教師用、予備用等を学校に提供しており、これらについては、特に代金を得ていないものと認められるが、証拠(甲3の1ないし6)によると、被告らは、1冊当たりの価格(消費税を含む)を表示して、それを学校納入価格又は学校納入定価として販売しているものと認められるから、その価格を基礎として、使用料相当額を算定することができるというべきである。また、被告らは、本件国語テストの価格は消費税分を控除した本体価格によるべきであると主張するが、消費税相当額も販売価格の一部としてそれに含まれているから、基礎となる価格として消費税相当額を控除すべき理由はない。 証拠(甲3の3、乙56)と弁論の全趣旨によると、被告株式会社日本標準の本件国語テストの学校納入定価は昭和55年度が140円、平成11年度が270円(Aテスト、Sテスト)であり、その間は段階的に価格は上がっていたものと認められる。以上の事実に弁論の全趣旨を総合すると、上記価格は、昭和56年度が150円、昭和58年度が160円、昭和59年度が170円、昭和61年度が180円、昭和62年度が190円、平成元年度が200円、平成3年度が220円、平成4年度がAテストとBテスト共に240円、平成5年度が250円、平成8年度が260円、平成9年度が270円、平成10年度と平成12年度がAテストとSテスト共に270円と認めるのが相当である(被告株式会社日本標準において本件国語テストの種類が2種類となるのは平成4年度と平成10年度以降である。)。また、証拠(甲2、甲3の1、2、4ないし6)と弁論の全趣旨によると、その余の被告らの平成11年度の本件国語テストの学校納入価格又は学校納入定価は、被告青葉出版株式会社が260円、被告株式会社新学社が270円、被告株式会社光文書院が260円(6回)、270円(8回)、被告株式会社文溪堂が260円(Aテスト)、270円(Bテスト)であると認められる。そして、弁論の全趣旨によると、これらの本件国語テストについても上記被告株式会社日本標準の本件国語テストと同様の推移で価格が上がっていたものと認められる(被告株式会社教育同人社及び同株式会社文溪堂において本件国語テストの種類が2種類となるのは平成10年度以降であり、被告株式会社光文書院において本件国語テストの種類が2種類となるのは平成11年度以降である。)。また、弁論の全趣旨によると、被告株式会社新学社の本件国語テストは、平成12年度から2種類になり、その学校納入定価は260円(Aテスト)、250円(Bテスト)であること、被告青葉出版株式会社の本件国語テストは、平成12年度から3種類になり、その学校納入定価は260円(Aテスト)、250円(Bテスト、Cテスト)であること、被告株式会社教育同人社の本件国語テストは、平成10年度に2種類となり、その学校納入価格は270円(Aテスト)、250円(Bテスト)、平成11年度に上記2テストに新テストを加え3種類となり、その学校納入価格は260円であり、平成12年度には再び2種類となり、その学校納入価格は、260円(Aテスト)、250円(Bテスト)であること、以上の事実が認められる。以上の事実に弁論の全趣旨を総合すると、被告株式会社日本標準を除く被告らの、昭和55年度以降の学校納入価格又は学校納入定価は、別紙損害計算表1、2のとおりであると認めるのが相当である。 ウ 使用率について 前記2(2)で認定したとおり、本件国語テストの設問は、本件各著作物の著作物としての創作性を度外視してはあり得ないものであるが、本件各著作物の「複製」がされている部分は、前記1認定のとおり、本件国語テストの上段の部分に限られるから、使用頁数は、本件各著作物が掲載されている各ページについて50%とするのが相当である。 したがって、使用率として、上記のような意味での使用頁数を総頁数で除した別紙損害計算表1、2記載の教材中占有率を用いることとする。 エ 使用料率について (ア) 証拠(乙1、乙14の1、2)によると、小学校国語教科書著作者の会、社団法人日本児童文学者協会及び社団法人日本児童文芸家協会と被告ら及び日図協との間で平成11年9月30日に締結された協定書では、被告らは、教科書掲載著作物の原著作者に対して、平成12年度の教材から、ページ割により5%の使用料を支払う旨定められている。また、証拠(乙39の1、2)と弁論の全趣旨によると、社団法人日本文藝家協会と日図協との間で平成13年3月27日に締結された協定書では、平成14年度以降に教科書に掲載された文芸著作物を図書教材等に使用する場合の取扱いが定められ、その運用細則によると、使用料は、ページ割により5%とされているものと認められる。これらは、将来における使用料の支払についての協定であって、過去の著作権侵害に対する使用料相当額を定めたものでない。さらに、証拠(乙44、45、60、61、乙62の1ないし3、乙64ないし66)によると、日図協では、平成14年3月25日に、小学校国語教科書著作者の会と社団法人日本文藝家協会に対して、過去10年分につき、上記各協定と同じ基準で補償する旨の申入れをしたこと、小学校国語教科書著作者の会と社団法人日本文藝家協会では、この申入れを受け入れ、個々の原著作者に対して、この申入れに沿った提案をすることを了承したこと(もっとも、社団法人日本文藝家協会については、予測されない事態(訴訟と著しい差が生じた場合など)には、誠意をもって協議するとされている。)、原著作者の中には、この申入れに沿った解決をすることに異議を唱える者がいたこと、以上の事実が認められる。他方、証拠(甲45、79、80)によると、教材会社と原告らを含む教科書掲載著作物の原著作者との間で締結された協定書等には、教材会社は、教科書掲載著作物の原著作者に対して、著作物が掲載されている頁を上下段に分けずに1頁と計算して8%の使用料を支払う旨定められているものが存することが認められる。 そして、これらの事実に、本件で問題となっているのは、将来における使用料ではなく、過去の著作権侵害に対する使用料相当額を算定するための使用料率であること、証拠(乙66)と弁論の全趣旨によると、文芸作品の単行本の印税率は通常10%とされているものと認められること、弁論の全趣旨によると、児童文学作家が単行本について受領している印税率は4ないし5%程度が多いものと認められるが、証拠(甲6の1ないし12、甲7の1ないし4、甲8の1ないし3、甲9ないし11の各1ないし3、甲12の1、2、甲13、甲14の1ないし3、甲57の1ないし4)によると、児童文学の単行本の場合には、文章のほか挿し絵が占める部分も大きいと認められること、証拠(甲57の1ないし4)によると、本件国語テストの上段には、本件各著作物のほか、一部に挿し絵又は写真も掲載されていること、その他本件に現れた諸事情を総合すると、使用料率は、8%(本件著作物1−1、2、4、6、12、22、5−2については翻訳なので4%)が相当であると認める。 なお、教科書利用における補償金の印税率が実質3.60%であること(乙42)、大学入試問題を集めた問題集等について社団法人日本文芸著作権保護同盟と出版社との間で締結された協定書では、印税率が3.5%ないし4%であること(乙41の5ないし8)が認められるが、それらの教科書や問題集等における利用形態は、本件国語テストとは必ずしも同じであるとはいえないうえ、これらも将来における使用料を定めたものであるから、これらの印税率をもって、直ちに、本件の過去の著作権侵害に対する使用料相当額を算定することはできない。また、証拠(乙69)によると、日本文芸著作権保護同盟使用料規程においては、図書教材等に著作物を利用する場合の利用料率は、販売価格の5%に発行部数を乗じた額を上限とすると定められているものと認められるが、これは、将来における利用を許諾する場合の基準を示したものであって、直ちに、個別事情を考慮して算定すべき過去の著作権侵害に対する使用料相当額の算定に用いることはできない。 (イ) 被告らは、平成12年著作権法改正前の著作権法114条2項のもとでは、現実に広く使用されている使用料率と大きく異なる額を認める余地はないと主張する。 しかし、平成12年著作権法改正(平成12年5月8日法律第56号)により改正前の著作権法114条2項から「通常」の文言が削除された趣旨は、既存の使用料規程等に拘束されることなく、当事者間の具体的な事情を参酌した妥当な損害額の認定を可能にすることにあるし、同規定については経過措置の規定が設けられていないのであるから、本件において改正後の著作権法114条2項を適用することができるというべきであるし、上記(ア)で認定したところによると、同認定の使用料率が現実に広く使用されている使用料率と大きく異なるということもできない。 オ 以上により、原告らが被告らに対して請求することができる損害額は、別紙損害計算表1、2記載のとおり、印刷部数×価格(学校納入価格又は学校納入定価)×使用率(教材中占有率)×使用料率(8%又は4%)によるのが相当である。 原告らは、著作物の学習教材への複製使用を許諾するに当たり、1年分の使用料の額が1使用当たり1万円に満たない場合には、これを1万円とする使用料の最低限度額を定めているので、最低額は1万円となると主張し、上記認定の教材会社と教科書掲載著作物の原著作者との間で締結された協定書(甲79)においては、使用料の最低限度額が定められていることが認められるが、これは将来における使用料の支払方法を定めるに当たって約定されたものであって、過去の著作権侵害に対する損害賠償を算定するに当たって同様の算定方法によるべき理由はない。 (4) 著作権侵害に対する慰謝料について 原告らは、著作権侵害を理由に慰謝料の請求をしているが、財産権の侵害に基づく慰謝料を請求し得るためには、侵害の排除又は財産上の損害の賠償だけでは償い難い程の大きな精神的苦痛を被ったと認めるべき特段の事情がなければならないものと解されるところ、原告Dの本人尋問における供述及び同原告の陳述書(甲77)の記載などの本件全証拠をもってしても、上記特段の事情が存するとまでは認められないから、上記請求を認めることはできない。 (5) 著作者人格権侵害に対する慰謝料 前記4(1)認定のとおり、原告A、同C、同D、同E、同F、同G、同Hは、本件各著作物を本件各書籍へ掲載する際に改変がされ、同原告らの同一性保持権が侵害されたものと認められる。また、前記4(2)認定のとおり、原告Iを除くその余の原告らの氏名表示権が侵害されたものと認められる。そして、証拠(甲77、原告D)と弁論の全趣旨によると、上記原告らは、これらの著作者人格権侵害行為により精神的苦痛を受けたものと認められる。 そして、前記4(1)認定に係る改変の態様からすると、改変された箇所は、いずれも文章の意味内容を直接変更するものではない箇所も多いこと、前記4(2)認定のとおり氏名は表示されていないが、上記原告らの氏名は、教科書によって容易に認識することができるものと考えられるから、著作者を誤解するおそれは少ないこと、その他本件に現れた諸事情を考慮すると、著作者人格権侵害行為に対する慰謝料の額は、被告らそれぞれに対して、原告Bにつき15万円、その余の原告らにつき30万円(ただし、同一性保持権侵害を主張していない被告に対しては15万円)が相当である。 (6) 弁護士費用について 原告らが、本件訴訟の提起、遂行のために訴訟代理人を選任したことは、当裁判所に顕著であるところ、本件訴訟の事案の性質、内容、審理の経過、認容額等の諸事情を考慮すると、被告らの著作権及び著作者人格権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用の額としては、損害額の10%が相当である。 (7) 共同不法行為について 本件国語テストの印刷出版販売行為は、被告ら各社がそれぞれ行っているもので、それらの行為自体に関連共同性はない。 証拠(甲102の1、2、甲109、110、乙67)と弁論の全趣旨によると、日図協は、これまで本件国語テストの出版に関して適法引用に当たる又は教科書会社への謝金の支払により著作権者に関する権利処理は済んでいるとの立場から、著作権者への権利処理は不要との立場をとっていたこと、被告らは日図協の加盟社であること、現在被告株式会社日本標準以外の被告らの代表者は同協会の理事であること、過去にも被告らの関係者が同協会の役員であったこと、以上の事実が認められる。以上の事実からすると、被告らが、これまで原告らに対して本件各著作物の使用許諾を得る等の権利処理を行って来なかったことについては、日図協の上記方針を参考にしていたものと認められる。しかし、被告らは、日図協の上記方針に従う義務があったとはいえない(内部的に従う義務があったかどうか明らかでないし、仮に内部的に従う義務があったとしても脱退することは自由である)から、被告らは、基本的には、各社がその判断に基づいて権利処理を行わなかったものというべきである。 そうすると、被告らが共同して本件国語テストの印刷出版販売行為を行い、本件各著作物に対する著作権を侵害したとまで認めることはできないから、共同不法行為が成立するということはできない。 (8) 遅延損害金の起算点について 不法行為に基づく損害賠償債務(弁護士費用を含む)の遅延損害金の起算点は不法行為時であると解される(最高裁第三小法廷昭和37年9月4日判決・民集16巻9号1834頁、同昭和58年9月6日判決・民集37巻7号901頁)ので、本件国語テストの各発行年度ごとに遅延損害金が発生するものと認められ、これに反する被告らの主張は採用できない。 (9) 以上によると、原告らの損害額は別紙損害集計表記載のとおりであり、具体的内訳は別紙損害計算表1、2記載のとおりである。 原告Iと参加人は、別紙著作物目録2の8−1の著作物に対する著作権侵害に基づく損害賠償請求権について、それぞれ2分の1の割合による損害賠償請求権を有しているものと認められる。 9 差止請求について 別紙著作物目録1記載の各著作物のうち、原告Aの本件著作物1ー7ないし11については、本件国語テストに掲載された事実を認めるに足りる証拠がないので、これらに基づく差止請求は認められない。 10 結論 以上により、原告らの請求及び参加人の請求はいずれも主文の限度で理由がある。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 森義之 裁判官 内藤裕之 裁判官 上田洋幸 |
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