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【事件名】類似ダイエット食品の販売差止め事件
【年月日】平成15年2月20日
 東京地裁 平成13年(ワ)第2721号 不正競争行為差止等請求事件
 (口頭弁論終結の日 平成14年11月18日)

判決
原告 サニーヘルス株式会社
原告 日本ユニバイト株式会社
原告両名訴訟代理人弁護士 山崎順一
同 熊谷信太郎
同 布村浩之
同 吉村洋文
同 新井由紀
被告 株式会社ホルス
被告 コスメディコ株式会社
被告 株式会社日本天然物研究所
被告三名訴訟代理人弁護士 小川敏夫
同 藤田尚子


主文
1 被告らは、別紙被告標章目録1ないし6記載の各標章を加工食品の容器、包装、宣伝用カタログ、宣伝用チラシ及び宣伝用ポスターに付し、又はこれらの標章を容器・包装に付した加工食品を販売し、若しくは販売のために展示してはならない。
2 被告らは、別紙被告標章目録1ないし6記載の各標章を付した加工食品の容器、包装、宣伝用カタログ、宣伝用チラシ及び宣伝用ポスターを廃棄せよ。
3 被告らは、原告らに対し、連帯して8000万円及びこれに対する平成13年2月28日から(ただし、被告株式会社ホルス及び被告株式会社日本天然物研究所は同年3月2日から)支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は、被告らの連帯負担とする。
5 この判決は、第1項及び第3項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 原告らの請求
 主文と同じ。
第2 事案の概要
1 訴えの要旨
 原告らは、粉末タイプの超低カロリー栄養食品の製造・販売に際し、その容器、包装等に別紙原告標章目録1、2記載の各標章(以下、それぞれ「原告標章1」及び「原告標章2」といい、これらを総称して「原告標章」という。)を付して使用している。
 被告らは、原告商品と同種の粉末タイプの超低カロリー栄養食品の製造・販売に際し、その容器、包装等に別紙被告標章目録1ないし6各記載の標章(以下、それぞれその番号に従って「被告標章1」などといい、これらを総称して「被告標章」という。)を付して使用している。
 原告らは、原告標章は著名商品等表示又は周知商品等表示に該当するものであり、被告らがこれと類似する被告標章を使用する行為は、不正競争防止法2条1項2号又は1号所定の不正競争行為に該当すると主張して、被告らに対して、被告標章の使用の差止め及び損害賠償を求めている。
 また、原告らは、被告らの広告の内容は商品の品質等を誤認させるような表示をする行為であり、同項13号所定の不正競争行為に該当するとも主張して、損害賠償を求めている。
2 前提となる事実(末尾に証拠を掲記した事実以外は、当事者間で争いがない。)
(1) 原告サニーヘルス株式会社(以下「原告サニーヘルス」という。)は、健康食品や天然食品の卸・小売等を目的とする株式会社であり、水に溶かして飲む粉末タイプの超低カロリー栄養食品(商品名「マイクロダイエット」。以下「原告商品」という。)を主力商品として製造・販売している。
 原告日本ユニバイト株式会社(以下「原告日本ユニバイト」という。)は、ダイエット用健康食品や栄養食品の輸出入及び販売等を目的とする株式会社であり、原告サニーヘルスとの基本取引契約に基づき、原告商品を製造してその全量を原告サニーヘルスに販売している。
 原告両名は、協力して製品の開発や販売拡充を行っており、原告商品の製造・販売に関して、実質的に一体の関係にある(甲15〔売買基本取引契約書〕及び弁論の全趣旨)。
(2) 被告株式会社ホルス(以下「被告ホルス」という。)は、医薬品や医薬部外品の製造・販売及び輸出入等を目的とする株式会社であり、原告と同種の水に溶かして飲むタイプの超低カロリー栄養食品(商品名「マイクロシルエット」。以下「被告商品」という。)の原料を製造し、これを被告株式会社日本天然物研究所(以下「被告日本天然物研究所」という。)に販売している。
 被告日本天然物研究所は、医薬品、医薬部外品、栄養補助食品の製造及び販売等を目的とする株式会社であり、被告ホルスから購入した原料を用いて被告商品を製造し、被告コスメディコ株式会社(以下「被告コスメディコ」という。)のほか、訴外株式会社東洋メディコ、訴外株式会社キリン堂等に卸して販売している。
 被告コスメディコは、医薬品、医薬部外品の製造・販売や健康食品の販売を目的とする株式会社であり、被告日本天然物研究所から購入した被告商品を小売店等に販売している。被告コスメディコが被告日本天然物研究所から仕入れ、小売店等に販売する被告商品は、被告商品の販売量全体のうち約27パーセントを占める(弁論の全趣旨等)。
(3) 原告らは、昭和63年12月ころに原告商品の販売を開始したが、同製品の製造・販売に際し、その容器、包装等に原告標章を付して使用している。
 原告サニーヘルスは、平成2年1月ころから「anan」,「With」,「MORE」などの有名雑誌に原告商品の広告を掲載し、平成4年ころからは「Hanako」,「MINE」,「Tarzan」等の雑誌にも原告商品の広告を掲載して、同年末までに約590万食分の原告商品を販売した。平成6年度の原告商品の広告費用は6億円以上に及ぶものであったが、その後も有名雑誌等を媒体とする宣伝広告を継続し、平成12年9月末までに、約6141万食分の原告商品を販売した(甲4、5、6の1〜10)。
(4) 訴外A(以下「訴外A」という。)は、平成6年3月から平成8年4月まで原告サニーヘルスに勤務した元従業員であるが、同原告在職当時の平成7年10月31日、片仮名「マイクロシルエット」を横一列に配してなる標章(別紙被告商標目録記載のとおり。)を商標登録出願した。
 なお、訴外Aが上記「マイクロシルエット」を商標登録出願した時点においては、既に、原告サニーヘルスの使用する英文字「MICRODIET」及び片仮名「マイクロダイエット」の各標章が、商標登録出願されていた(弁論の全趣旨)。
(5) 他方、被告ホルスは、平成7年10月に原告サニーヘルスとの間で締結した業務委託契約に基づき、同月から平成8年9月末までの約1年間、原告サニーヘルスが委託した基礎化粧品の開発に携わっていたが、同契約が終了した後の平成8年11月11日、訴外Aから、当時出願中であった上記「マイクロシルエット」の商標登録を受ける権利の譲渡を受けた。
(6) 平成9年7月18日、上記「マイクロシルエット」は商標登録された。したがって、被告ホルスは、下記のとおりの商標権を有している(以下、この商標権を「被告商標権」といい、下記の登録商標を「被告登録商標」という。)。
 登録番号 第4031480号
 出願日 平成7年(1995)10月31日
 登録日 平成9年(1997)7月18日
 商品区分 第30類(平成3年法)
 指定商品 ビタミン・ミネラル・大豆蛋白・その他のオーツ及び乳蛋白(粉末)を主原料とした粒状・粉末状・液状・カプセル状の加工食品、コーヒー及びココア、コーヒー豆、茶、調味料、香辛料、米、脱穀済みの大麦、食用粉類、食用グルテン、穀物の加工品、サンドイッチ、すし、ピザ、べんとう、ミートパイ、ラビオリ、菓子及びパン
 登録商標 別紙被告商標目録記載のとおり
(7) 被告らは、平成9年初めころから、被告商品の販売を開始した。その販売の実態は、前記(2)記載のとおり、概ね、被告ホルスが原料を製造し、それを仕入れた被告日本天然物研究所が被告商品を製造し、その一部(全体の約27パーセント)を被告コスメディコが販売するというものである。
 被告らは、被告商品の製造・販売に際し、その容器、包装等に被告標章を付して使用し、現在に至るまで使用し続けている。
 なお、被告商品の販売開始から現在に至るまで、被告ホルスは、被告日本天然物研究所及び被告コスメディコに対し、その登録の前後を通じ、一貫して、被告登録商標の使用を許諾してきた(弁論の全趣旨)。
(8) 被告コスメディコが販売元として記載された被告商品の雑誌広告においては、ドイツ人医学博士であるB氏(以下「B博士」という。)と、被告ホルス及び被告日本天然物研究所の各代表取締役であり、かつ、被告コスメディコの取締役でもあるC(以下「C」という。)とが、顔写真入りで並んで紹介されている。
 そして、B博士の顔写真の下には、「医学博士・ドイツのマリーエン病院で肥満外来のエキスパートとして勤務。」,「糖・脂質代謝の研究などを発表して活躍。」,「マイクロシルエットの開発に携わる。」との各記載があり、他方、Cの顔写真の下には、「医学博士・日本天然物研究所所長。長年、VLCDの研究開発に携わり、肥満対策や美容医療で活躍。マイクロシルエットの開発に携わる。」との記載がある。
 さらに、広告記事本文には、「ドイツ(B博士)と日本(C医学博士)の肥満治療専門家による共同研究で生まれた、1食140kcalという超低カロリーの新VLCD(ベリー・ローカロリー・ダイエット)食品。」との記載がある(甲7の1、2)。
(9) 被告コスメディコは、平成10年5月から平成13年12月までの間に、被告商品の販売によって2億5581万2000円の粗利益を得た。
3 争点
(1) 原告標章が、著名商品等表示(不正競争防止法2条1項2号)又は周知商品等表示(同条項1号)に該当するか(争点1)。
(2) 被告標章が原告標章と類似するか(争点2)。
(3) 需要者の間で被告商品につき出所の混同(同項1号)が生じているか(争点3)。
(4) 被告標章が、被告登録商標の使用権の範囲内にあるか(争点4)。
(5) 被告らが被告登録商標の使用の抗弁を主張することが、権利の濫用に当たるものとして許されないか(争点5)。
(6) 前記2(8)記載の広告をする行為が、被告商品の品質等について誤認させるような表示をする行為(不正競争防止法2条1項13号)に当たるか(争点6)。
(7) 原告らの損害額等(争点7)。
第3 当事者の主張
1 争点1(原告標章の著名性及び周知性)について
(原告らの主張)
 原告商品は、これを常食することにより、摂取カロリーを低く抑えられる一方で、日常生活に必要な蛋白質、ビタミン類、ミネラル類を摂取できることから、画期的なダイエット食品として注目されてきた。全国の医療機関(病院)でも使用されて、効果を上げており、需要者の間で最も信頼される商品となっている。
 原告らは、昭和63年12月ころに原告商品の製造・販売を開始したが、平成元年4月ころからは全国的かつ継続的に原告商品を販売してきた。また、原告サニーヘルスは、平成2年1月以降「anan」,「With」,「MORE」などの有名雑誌に原告商品の広告を掲載し、平成4年ころからは「Hanako」,「MINE」,「Tarzan」等の雑誌にも広告を掲載したものであり、このような宣伝広告の効果もあって、原告らは、同年末までに約590万食分の原告商品を販売した。平成6年度の宣伝広告費用は6億円以上に及ぶなど、その後も有名雑誌等を媒体とする宣伝広告は継続的に行われ、原告らは、平成12年9月末までに約6141万食分の原告商品を販売した。
 上記によれば、遅くとも、原告サニーヘルスが有名雑誌による宣伝広告を本格的に行うようになった平成4年末ころまでには、原告標章が、需要者の間に広く認識され、周知性を獲得していたことが明らかである。また、平成6年末ころまでには、著名性をも獲得していたというべきである。
(被告らの主張)
 原告らが原告標章の著名性及び周知性に関して主張する上記の各事実は、知らない。
2 争点2(被告標章と原告標章の類否)について
(原告らの主張)
ア 片仮名表示及び英文表示のいずれにおいても、原告標章からは「マイクロダイエット」の称呼が、被告標章からは「マイクロシルエット」の称呼がそれぞれ生じるところ、「マイクロ」の各部分は同一であり、相違する「ダイエット」及び「シルエット」の各部分についても、語尾の「エット」が同一であるから、全体として、称呼は非常に類似している。
 また、原告標章と被告標章とで一致する「マイクロ」の部分は、専ら機械技術の分野で用いられてきた、「微小」を意味する一般的な接頭辞であるところ、原告商品が周知ないし著名になったことにより、ダイエット食品の需要者においては、それ自体から超低カロリー栄養食品の観念を生じるに至った。したがって、両標章は、この一致する部分において観念が同一ということができる。その一方で、「ダイエット」及び「DIET」からは、美容・減量・痩身及びそのための食品の観念を生じ、「シルエット」及び「SILHOUETTE」からは、美容・減量・痩身により得られる美しい体型及びそのための食品という観念を生じるから、相違する部分についてみても、観念が類似する。
 以上によれば、原告標章と被告標章は、全体として「類似」(不正競争防止法2条1項1号、2号)する。
イ ところで、被告らは、「マイクロ」は微小を意味する接頭辞にすぎず、比較すべきは「ダイエット」と「シルエット」であるとした上で、これらの各部分は、称呼も観念も類似しないと主張する。
 しかしながら、称呼の比較は、誤認混同可能性を推測させる一応の基準として行うものであるから、称呼全体の語調・語感について判断すべきものである。被告らの上記主張は、観念の比較をことさらに持ち込んで、称呼全体の類似性を否定しようとするもので、相当でない。さらにいえば、マイクロは接頭辞にすぎないからダイエットとシルエットのみを比較すべきであるとの立論が、そもそも誤りである。確かに、「マイクロ」ないし「MICRO」それ自体は「微小」を表す接頭辞であるが、日本語で用いられる場合には「ミクロ」と発音されることが一般的で、加工食品の商品名としては全くなじみのない言葉であったところ、原告らが初めてこのような商品の名称に使用した。そして、原告標章が周知・著名となったことから、業界では、単に「マイクロ」といえば原告商品を指すものと理解されるようになった。したがって、ダイエット食品の需要者においては、「マイクロ」及び「MICRO」それ自体が、出所表示機能及び商品識別機能を有するに至っており、「マイクロ」が単なる一般的な接頭辞にすぎないことを前提とする被告らの上記主張は、本件においては理由がない。
 また、観念についてみても、被告らが「マイクロ」が「微小」の意味で広く用いられていることの例として引用する「マイクロカプセル」や「マイクロチューバー」は、多くの国民が知る一般的な用語とは到底言い難い。その点をさておいても、「マイクロ」及び「MICRO」自体が、原告商品であることの出所表示機能・商品識別機能を果たしていることについては、被告らも何ら反論していない。業界で、原告商品が「マイクロ」と略称されていることは、否定しようのない事実だからである。
 以上から分かるとおり、被告らの反論には理由がない。
(被告らの主張)
ア 原告標章と被告標章の共通部分である「マイクロ」は、微小を意味する接頭辞にすぎず、相違部分の「ダイエット」及び「シルエット」が称呼の本体部分というべきところ、「ダイエット」は、「ダ」がア段で「イ」がイ段の発音である一方で、「シルエット」は、「シ」がイ段で「ル」がウ段の発音であり、単に語尾の「エット」が共通するにすぎないから、その語感も意味するところも全く異なる。
 また、片仮名表示を見ると、原告標章の字体は全く個性を有しないものである上に、英文表示においても、原告標章「MICRODIET」が9文字からなる1語として構成されているのに対し、例えば、被告標章3の「MICRO SILHOUETTE」は合計15文字からなる2語として構成されているから、外観は明らかに異なる。
 さらに、「マイクロ」は微少を意味する一般用語にすぎず、また、「ダイエット」が「食事の調整」を意味する一般的な言葉である一方で、「シルエット」は「影」を意味する言葉であるから、原告標章と被告標章は、観念においても相違する。
 以上によれば、原告標章と被告標章が類似するものでないことは明らかである。
イ 原告らは、ダイエット食品の業界では、「マイクロ」及び「MICRO」が原告商品の称呼(略称)として通用しており、そこから原告商品が観念されることを前提に、被告標章は原告標章に類似すると主張する。
 しかしながら、原告ら自身が作成した多数の広告や情報誌において、原告商品は「MD」と略称されており(乙17〜28)、「マイクロ」とは表記されていない。そもそも、「マイクロフォン」,「マイクロウェーブ」,「マイクロフィルム」等の用語例が示すとおり、「マイクロ」は微少を意味する接頭辞として古くから使用されており、また、「マイクロカプセル」や「マイクロチューバー」等の用語例から分かるとおり、電気や機器に限らず、医薬や園芸の分野においても、広く使用されている(乙1)。さらに、化粧品(乙2)、食品(乙3)及び医薬品(乙4)の分野においては、「マイクロ」が冠された多数の標章が商標登録出願されている。これらの事情を併せ考えれば、「マイクロ」を使用する標章が原告らの独創に基づくものでないことは明らかであり、原告らが主張するように、「マイクロ」から原告商品が観念されるものではないことが分かる。原告らの上記主張はその前提を欠いており、失当である。
ウ さらにいえば、被告登録商標が登録された事実そのものから、被告標章が原告標章に類似するものでないことが認められるというべきである。
 すなわち、被告登録商標が出願された平成7年10月31日には、既に、原告らが使用していた「マイクロダイエット」及び「MICRODIET」が商標登録出願されていた上に、原告らの主張によれば、これらの標章が既に著名性及び周知性を獲得していたというのであるから、特許庁の審査においては、商標法4条1項10号、11号及び15号の該当性の判断に際し、商標審査基準に従い、原告商品の主たる需要者層や取引の実情を考慮しつつ、原告商品の上記各標章との関係が慎重に吟味されたはずである。その上で、被告登録商標が登録されるに至ったのであるから、被告標章と原告標章の類似性は、国家機関である特許庁の判断により否定されたというべきであって、かかる判断は、本件訴訟においても尊重されるべきである。そうでないと、登録商標制度の安定性を根幹から覆すことになってしまう。
3 争点3(出所の混同の有無)について
(原告らの主張)
 原告商品の容器・包装においては、立方体の艶のある白色地の紙箱に、鮮やかな多色パステルカラーあるいは単色青色の模様を配し、その下に黒色ゴシック体英文字の「MICRODIET」なる標章及び「Maximum Weight Loss-Minimum Calories-Complete Nutrition」の表示が存在するところ、被告商品は、ほぼ同じ大きさの紙箱を使用して、上記の全てを模倣しており、離隔的観察においてはもちろんのこと、隣接させて対比しても区別が困難なほどに類似している(甲1の1〜3、2の1〜3)。また、商品の形状は、原告商品及び被告商品のいずれも、水に溶かして飲む粉末タイプの超低カロリー栄養食品であり、ヨーグルト、ココア、ストロベリー味が付けられ、袋で小分けされた商品が箱詰めされている点も共通する。さらに、原告商品は、主として若手の人気タレントやモデルを用い、1袋中の成分表を表示して、箱、小袋及び商品をグラスに注いだ写真を入れた広告を雑誌に掲載した上(甲6)、小売店の店頭販売や通信販売により販売されているが、被告商品も、これに類似する広告内容・販売方法を採っている。
 上記のとおり、被告商品が包装・容器、商品の形状、広告内容・宣伝方法のすべてにわたって原告商品を模倣しているため、被告商品のテレビ広告に関して原告サニーヘルスにその問い合わせが来たほか、「サニーヘルス マイクロシルエット」と原告名と被告商品名を併記した広告や、被告商品の写真を掲載しながら商品名を「マイクロダイエットシルエット」あるいは「マイクロダイエット」と表記した広告が出回っており(甲8の1〜5)、原告商品と被告商品の混同が現に生じている。したがって、被告らが被告商品を製造・販売する行為は、原告商品との「混同を生じさせる行為」(不正競争防止法2条1項1号)に当たるというべきである。
(被告らの主張)
 原告らの主張する容器・包装の類似点は、ダイエット食品において、健康的な爽快感を表すため一般的に使用されているものの域を出ない。広告内容や販売方法についても、同様に、この種のダイエット食品、健康食品及び化粧品等に共通するありふれたものにすぎない。
 また、原告らは、薬局の広告(甲8の1〜5)、薬局の商品陳列の様子を示す写真(甲26)及び広告主の陳述書(甲20〜22)を書証として提出し、これらを根拠に現に混同が生じていると主張するが、被告コスメディコが上記広告主4社に確認したところ、各社社員は原告商品と被告商品を明確に区別していること、及び、顧客から原告商品と被告商品を取り違えた旨の苦情を受けたことはないことが判明した。また、広告の間違いは、陳列や印刷校正の間違いから生じたものであり、原告商品と被告商品の混同から生じたものではないことも判明した(乙29〜33)。
 さらに、被告商品の重要な販路として、平成11年3月から2年余の間行われた、フジテレビのテレフォンショッピングにおける取扱いがあったところ、その間、フジテレビに対し、原告商品と被告商品を取り違えたとか、商品名が似ていて紛らわしいなどといった苦情は一件も寄せられていない(乙34)。
 以上によれば、流通段階においても、顧客消費者層においても、原告商品と被告商品の混同が生じていないことは明らかである。
4 争点4(登録商標使用の抗弁)について
(被告らの主張)
 平成5年法律第47号による改正前の不正競争防止法(昭和9年法律第14号。以下「旧不正競争防止法」という。)6条は、商標権の行使として標章が使用された場合には不正競争行為に該当しない旨を明文で規定していた。平成5年の不正競争防止法の全部改正により当該規定は削除されたが、現行の不正競争防止法の下においても、なお、商標権の行使が不正競争行為該当性を否定する抗弁となることは、裁判例・学説上異論のないところである。
 被告らは、被告らによる被告標章の使用は、いずれも、登録された被告登録商標の使用権の範囲内にあり、商標権の正当な行使に基づくものであると主張する。
(原告らの主張)
 被告らの上記主張は、争う。被告らが登録商標使用の抗弁を主張することは、後述のとおり、原告らとの関係では権利の濫用に当たり、許されないというべきである。したがって、被告らによる被告標章の使用が、商標権の正当な行使に基づくものということはできない。
 なお、被告標章のうち、「ニューマイクロシルエット」(被告標章5)及び「NEW MICRO SILHOUETTE」(被告標章6)は、権利濫用を論ずるまでもなく、そもそも、被告登録商標「マイクロシルエット」の使用権の範囲内にない。
5 争点5(権利濫用の再抗弁)について
(原告らの主張)
ア 原告らは、平成4年に、数多くの有名雑誌に原告商品の広告を掲載して売上げを伸ばしており、同年末ころまでには、原告標章は周知性を獲得した。また、平成6年には、6億円を超える多額の宣伝広告費用を支出して、全国的に有名な雑誌で原告商品を宣伝広告し、引き続き積極的に販売を展開しており、同年末ころまでには、原告標章は著名性をも獲得していた。
 他方、被告登録商標「マイクロシルエット」は、平成7年10月31日に訴外Aにより商標登録出願され、平成8年11月18日に被告ホルスが出願人の名義変更を届け出て、平成9年7月18日に商標登録された。
 上記から分かるとおり、訴外Aが被告登録商標を出願した時点において、原告標章は既に周知・著名なものになっていた。
 しかも、原告商品と被告商品の混同が現に多数生じている(前記第3、3(原告らの主張)参照)ことから明らかなとおり、被告登録商標は、原告らの業務に係る商品と混同を生ずるものである。
 以上のとおり、被告登録商標には、商標法4条1項10号及び15号所定の明白な無効事由があり、かかる登録商標に基づいて、登録商標使用の抗弁を主張することは、権利の濫用に当たり許されないというべきである。
イ 加えて、被告らは、原告標章の周知性・著名性を十分認識しながら、これに便乗して利益を得る目的で、当時出願中であった被告登録商標についての登録を受ける権利の譲渡を受けたものである。
 すなわち、被告ホルスは、平成7年10月1日から平成8年9月末まで原告サニーヘルスと業務委託契約を締結していたから、被告ホルスの代表取締役であり、被告らの業務を取り仕切っているCは、この当時、原告サニーヘルスに出入りしていた。確かに、上記業務委託契約自体は化粧品の製品開発についてのものであったが、原告らの主力商品であった原告商品について、Cが知らなかったとは考えられず、同人は、上記契約期間中に、原告商品が人気商品となっていることや、その製造・販売方法等についても知識を得たものと考えられる。そして、上記契約の終了後間もない平成8年11月11日に、被告ホルスは、訴外Aから、被告登録商標の登録を受ける権利の譲渡を受け、商標登録前の平成9年初めころから、被告標章を付した被告商品の製造・販売を開始した。
 その販売過程においても、被告らは、原告サニーヘルスが作成した販売促進用資料(甲9、10)の一部につき、「マイクロダイエット」を「マイクロシルエット」に置き換えただけで、ほとんどそのまま複製し、社内研修用資料と称して小売店に配布するなどしている(甲11、12)。また、ダイエット食品の容器包装には様々なものがあるにもかかわらず、敢えて原告商品のそれと酷似したものを用いている(前記第3、3(原告らの主張)参照)。
 上記の事情を総合すれば、被告らが、原告標章の著名性・周知性を十分認識した上で、これに便乗しようと考え、ことさらに原告商品と被告商品を混同させて不当に利益を得る目的で、被告登録商標の登録を受ける権利の譲渡を受けたことは明らかである。このような被告らが被告登録商標を使用する行為は権利濫用に該当するものであり、本件訴訟において、不正競争防止法2条1項1号、2号を理由とする原告らの請求に対し、登録商標使用の抗弁を主張することもまた、権利の濫用に当たるものとして許されないというべきである。
ウ また、本件においては、そもそも訴外Aの商標登録出願自体、同人とCが結託して行ったものと考えられ、かかる事情も、権利濫用との評価を基礎付ける事情のひとつとなる。
 すなわち、訴外Aは、原告サニーヘルスに平成6年3月1日から平成8年4月30日まで在籍した元従業員であるが、その前には、Cともども、訴外スターリング・ウインスロップ株式会社に勤務し、Cが上司、Aが部下という関係にあって、両者は旧知の間柄であった。しかも、Aは、原告サニーヘルス在籍当時の平成7年6月26日、前記化粧品の製品開発の業務委託契約に関し、同原告の社員としてCと連絡を取っていたものであるところ、その約4か月後の同年10月31日に、被告登録商標がAにより出願されている。そして、上記業務委託契約の終了後わずか1か月半にも満たない平成8年11月11日に、Aから被告ホルスに、被告登録商標の登録を受ける権利が譲渡されているのである。ちなみに、Cは、このような登録を受ける権利の譲渡の経緯につき、もともと「シルエット」なる標章を商標登録したいと考えていたところ、たまたまAから「マイクロシルエット」を出願中であることを知らされ、交渉の結果、登録を受ける権利の譲渡を受けたものであると説明している(後記(被告の主張)参照)。しかし、Cが「シルエット」の登録可能性の調査を依頼した特許事務所は、Aが「マイクロシルエット」を商標登録出願した際の代理人が所属する特許事務所と同一である。偶然にしては出来過ぎといわなければならない。
 以上を総合すれば、CとAが最初から結託して、被告登録商標を出願したことも、また明らかというべきである。
エ なお、被告らは、被告コスメディコは、被告標章の使用決定を含む被告商品の企画には一切関与しておらず、被告ホルスが正当に被告商標権を行使しているものと認識して、被告商品を販売したにすぎないから、被告コスメディコについては、権利濫用と評価されるいわれはない旨主張する。
 しかし、被告コスメディコには、Cが取締役として就任している上に、同被告は、被告商品の発売元としての立場にある。また、原告商品の販売促進資料をほとんどそのまま複製した資料を作成し、小売店に配布したのも同被告である。このような関与の仕方からみて、同被告が被告商標権取得の経緯等を全く知らないとは考えられない。
 また、その点をさておいても、被告コスメディコは、被告登録商標の商標権者である被告ホルスから、同商標の使用許諾を受けた立場にあると解されるところ、そもそも、使用を許諾した被告ホルスの商標権行使自体が権利濫用として許されない以上、許諾を受けたにすぎない被告コスメディコに、登録商標使用の抗弁が成立することはないというべきである。なぜなら、仮に使用許諾を受けた者にかかる抗弁が成立すると解するならば、不正競争の目的をもって商標登録を受けた者が、それを他人に使用許諾してしまえば、権利濫用の評価を免れてロイヤリティ(使用許諾の対価)を取得できることになってしまい、極めて不合理な結果となるからである。
(被告らの主張)
ア 既に述べたとおり(前記第3、2(被告らの主張)ウ参照)、被告登録商標が出願された平成7年10月31日には、原告らが使用していた「マイクロダイエット」及び「MICRODIET」が既に商標登録出願されていた上に、原告らの主張によれば、これらの標章が著名性及び周知性を獲得していたというのであるから、特許庁の審査においては、商標法4条1項10号、11号及び15号の事由の有無が慎重に吟味されたはずである。それにもかかわらず、被告登録商標は登録されるに至ったのであるから、被告登録商標には、原告らの主張するような明白な無効事由など存在しない。
 したがって、被告商標権の行使が権利の濫用に当たるはずがない。
イ 原告らは、被告ホルスが原告標章の著名性・周知性に便乗して利益を得る目的で、本件登録商標の登録を受ける権利の譲渡を受けたと主張し、その根拠として、@CとAの関係及び被告登録商標出願の経緯、A被告コスメディコが使用した販売促進資料の内容の一部が、原告サニーヘルスのそれと同一であること、B被告商品の容器包装が、原告商品のそれと類似することを指摘する。
 しかしながら、上記@については、被告ホルスは、従前から商品名「シルエット」なるダイエット飲料を訴外モリタキ化粧品株式会社に販売していたところ、かかる標章「シルエット」を商標として登録出願しようと考え、その登録可能性に関する調査を特許事務所に依頼した。そして、平成8年1月16日付けで、英文字「SILHOUETTE」なる先願の商標が存在するので、単なる「シルエット」では登録の見込みはないが、その前か後に3文字以上付け足せば登録可能である旨の回答(乙7)を得たので、「シルエット」の前後に別の単語を付加した幾つかの標章を候補として考えていた。すると、ちょうどそのころ、訴外Aから、同人が「マイクロシルエット」を出願中であることを打ち明けられ、当時、被告ホルスが準備していた被告商品の製造販売事業に、同人も参画させてもらいたい旨の申し入れを受けた。しかし、Cは、Aを被告商品の販売に参画させるつもりはなかったので、繰り返し話し合った結果、Aが出費した出願費用に見合う程度の対価を支払って、同人から「マイクロシルエット」の登録を受ける権利を譲り受けたのである。原告らは、CとAが当初から結託して、被告登録商標を出願したと主張するが、Aによる出願が平成7年10月31日であり、被告ホルスによる上記「シルエット」に関する調査が平成8年1月ころのことであるから、仮に原告ら主張のとおりとするならば、被告ホルスは、Aを介して「マイクロシルエット」を出願した後に、「シルエット」の登録可能性を調査したことになり、不自然というほかない。また、Aの出願を代理した特許事務所と、被告ホルスから上記調査を請け負った特許事務所が同一である点も、この事務所(D特許事務所)は、医薬品等の分野では特に知られた特許事務所であるから、たまたまAとCが同じこの事務所を利用したとしても、別段奇異なことではない。
 また、上記Aについては、被告ホルスが、被告商品の製造販売を開始した当初、社員に原告ら指摘にかかる販売促進用資料(甲11、12)を持たせたことは事実であるが、小売店に配布した事実はない。原告サニーヘルスの販売促進用資料(甲9、10)がよくできており、原告商品と被告商品は成分内容物は異なっても使用方法が同じであるので、被告ら独自の資料を作成するまでのごく短期間、間に合わせに使用したにすぎない。
 さらに、上記Bについても、原告らの主張する類似点は、いずれも、健康的な爽快感を表現するために、ダイエット食品で一般的に使用されている容器包装のあり方である。その上、原告商品は、通信販売による消費者直販を主要な販売方法としているところ、通信販売における広告は、消費者が店頭で商品を識別する場合と異なり、商品名、商品内容の説明及び販売主体の表示により、商品の購入を勧誘するものであって、容器包装の有する商品識別機能は希薄である。現に、有名雑誌における原告商品の宣伝広告(甲6の1〜11)においては、容器包装の表示が著しく少ないし、その表示がされていないものすら存在する(甲6の5)。原告らの主張は、容器包装による商品識別機能が希薄な通信販売用の原告商品を、あたかも被告商品と並んで店頭に陳列されているように主張するもので、不当である。
 以上のとおり、原告ら主張にかかる諸点は、いずれも、権利濫用を基礎付ける事情になり得るものではない。形式的な事象をつなぎ合わせて、CとAが最初から結託していたとする原告らの主張は、悪意に満ちた創作といわなければならない。
ウ 原告らは、被告登録商標は原告標章と類似し、かつ、混同のおそれがあるとか、あるいは、被告商標の登録時から、被告らに同商標を不正に使用する目的があったなどと主張する。
 もし、そうであるならば、商標法4条1項10号、11号、15号及び19号を理由に、登録異議の申立てや登録無効の審判請求を行うなどして、自らの標章の保護を図るべきであったが、原告らは、一切そのような行為に出ていないし、本訴を提起するまで、被告登録商標の使用に異議を述べたこともない。それは、被告登録商標に何の瑕疵もなく、被告らが被告商標権を行使しても、原告らの権利が害されることがなかったからにほかならない。原告らは、本訴において権利濫用の再抗弁を主張するが、そもそも、権利濫用は、他に救済手段がない場合に論ずるべきものであり、商標法4条1項所定の無効事由を主張するのであれば、商標法で定められた登録無効の審判によりまず救済を求めるべきである。それをしないで、訴訟において権利濫用を主張することは失当である。
 他方、被告らは、被告登録商標が商標登録された平成9年7月から約4年間、平穏に被告商標権を行使し、被告商品の販売に努め、被告商標に対する信頼を蓄積してきた。ところが、平成13年2月15日に、原告らから突如として本件訴訟を提起され、あたかも被告らが不正行為を行ったかのように報道されたことにより、名誉・信用を大いに毀損されただけでなく、主要な広告媒体であるフジテレビとの契約も打ち切られてしまった。そのフジテレビと新たに契約したのが原告サニーヘルスであるから、原告らによる本訴提起の真の目的が、被告らの営業を妨害するとともに、その営業網を奪うことにあったことは明白である。原告らの本訴請求こそ、権利の濫用に当たるといわなければならない。
6 争点6(品質等誤認惹起表示行為の成否)について
(原告らの主張)
 被告商品を販売する被告コスメディコは、雑誌広告において、被告商品はドイツと日本の肥満治療専門家による共同研究から生まれたもので、ヨーロッパの多くの病院で採用されているとともに、前記B博士が肥満治療の専門医師としてこれに携わっているかのような宣伝を繰り返し行っている。また、かかる広告においては、被告商品の製造販売の主体ともいうべきCが、「医学博士」の肩書とともに、あたかも第三者の専門家であるかのように紹介されている。
 しかしながら、原告らの調査の範囲では、被告商品がドイツと日本の医師の共同研究から生まれたという事実や、ヨーロッパの多くの病院で採用されている事実を確認することはできなかった。また、B博士は、麻酔科が専門であり、現在も麻酔医として病院に勤務しているものであって、上記広告に掲げられているように、糖・脂質代謝の専門家であったり、肥満治療の専門家であったりする事実もなければ、被告商品の研究・開発に関わった事実もないことが判明した。さらに、Cの「医学博士」という肩書に関する学位の実体は不明であり、同人があたかも第三者の専門家であるように、自ら広告に登場している点は、非常に欺瞞的といわなければならない。
 このような広告は、被告商品の品質・内容を誤認させるものであり、不正競争防止法2条1項13号所定の不正競争行為に該当するというべきである。
(被告らの主張)
 原告らの上記主張は、争う。被告らは、B博士本人の了承を得た上で、同博士の顔写真等を掲載した広告をしたもので、何ら問題はない。
7 争点7(原告らの損害額等)について
(原告らの主張)
ア 被告標章を付した被告商品を販売する行為が、不正競争防止法2条1項1号、2号所定の不正競争行為に該当することは、Cの本人尋問を含む証拠調べの結果から明らかであるところ、被告コスメディコは、被告商品の発売元(甲24の1〜3参照)であるとともに、被告標章の採用決定を含む商品企画の段階から、被告商品の販売に関与してきたものである。したがって、故意又は過失により上記不正競争行為を行うものとして、原告らに生じた損害を賠償する責任を負う。
 他方、被告ホルス及び被告日本天然物研究所は、いずれもCが代表取締役を務めて経営を全面的に掌握するもので、両社はCを中心に資本的・人的に密接に関連する一体的企業である。被告ホルスは被告商品の原料を製造し、被告日本天然物研究所は被告商品を製造して、被告コスメディコに供給しており、被告商品の製造販売事業において、それぞれ原料製造部門と製品製造部門を担っている。
 被告ホルス及び被告日本天然物研究所は、被告商品の販売を開始する半年ほど前から、被告商品の商品名、パッケージデザインをはじめ、その広告や販路等に関する企画を立て、以後、一貫して被告商品の製造・販売にかかわってきた。とりわけ、被告ホルスは、訴外Aから被告登録商標「マイクロシルエット」の登録を受ける権利の譲渡を受けて商標権者となり、現在に至るまで被告コスメディコに被告商品を供給しているから、自ら不正競争行為を行うとともに、被告コスメディコの前記不正競争行為に積極的に加功し、同被告と共同して不正競争行為を行うものである。したがって、被告ホルス及び被告日本天然物研究所は、被告コスメディコが原告らに対して負担する損害賠償債務につき連帯して責任を負う。
イ 被告らは、平成10年5月から平成13年12月までの間に、被告コスメディコが被告商品の販売によって得た粗利益の額が、2億5581万2000円を下らないことを認める一方で、同被告は、上記期間中に、1億円を超える宣伝広告費を費やしており、その他の経費もあると主張している。
 しかし、不正競争行為によって行為者が得た利益の額は、被侵害者が受けた利益額と推定されるところ(不正競争防止法5条1項)、当該不正競争行為によって原告らに生じた逸失利益としての損害を推定するための被告コスメディコの利益額は、被告商品の売上額から商品仕入価格等の変動経費のみを控除して算出すべきであって、同被告においてそれ以外の固定費を費やしていたとしても、利益額算出にあたっては、それを考慮すべきではない。そして、一般に、商品の宣伝広告費は、商品の販売量とは直接の相関関係なしに支出される経費であり、そのほとんどは固定費として取り扱うべきものである。したがって、仮に被告らのいう宣伝広告費やその他の経費を考慮したとしても、被告商品販売のための変動経費が1億円を超えることはあり得ないというべきである。
 そうすると、被告コスメディコは、被告商品の販売により、少なくとも本訴における原告らの請求額である8000万円を下らない利益を得たものであるから、不正競争防止法5条1項に基づき、原告らに対し、少なくとも8000万円の損害賠償責任を負う。
ウ 以上により、原告らは、被告3名に対し、被告コスメディコの不正競争行為によって原告らに生じた損害の賠償として、8000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日以降の遅延損害金を連帯して支払うことを求める(なお、被告ホルス及び被告日本天然物研究所は、被告コスメディコに被告商品を販売することにより得た自らの利益について、別途損害賠償責任を負う立場にあるが、原告らは、本件訴訟においては、その部分の請求はしない。)。
(被告らの主張)
ア 原告らは、被告コスメディコの不正競争行為によって原告らに生じた逸失利益としての損害を推定するため、被告コスメディコの利益額を算出する必要があるとして、そのことを前提に損害の額を主張する。
 しかしながら、原告商品の流通にあって、原告らが同商品を取引先に販売した後に、取引先がさらにこれを販売して得た利益は、当該取引先の利益であって、原告らの利益ではないはずである。同様に、被告商品の流通にあって、被告日本天然物研究所が同商品を被告コスメディコに販売した後に、被告コスメディコがこれを販売して得た利益は、あくまで被告コスメディコの利益であって、被告日本天然物研究所の利益ではない。したがって、原告らの逸失利益を算定するのに、原告らが原告商品を販売する取引先と同様の立場にある被告コスメディコの利益を基礎とするのは、妥当でない。
 また、原告らは、宣伝広告費を控除すべき経費として扱うべきではない旨主張するが、商品の販売促進のために支出した宣伝広告費が、経費として利益から控除されるべきことは当然である。逸失利益の算出にあたっても、それは同様である。
イ 被告コスメディコは、被告日本天然物研究所から被告商品を仕入れ、これをドラッグストアーやテレビショッピング取扱業者に販売することを営業の主体としているところ、自社販売分について、自社を発売元と表示した包装を使用しているのは事実であるが、被告日本天然物研究所が他の業者に卸す分については、このような表示はされていない。
 そもそも、原告らが主張するように、被告コスメディコが、被告標章の採用決定を含む商品企画の段階から、被告商品の販売に関与してきた事実はない。同被告は、単に、被告ホルス及び被告日本天然物研究所から被告商品の取引を打診され、これに応じて同商品の仕入及び販売を開始したにすぎない。その過程で、被告ホルスらから、被告商品の商品名を「マイクロシルエット」としたこと、及び、この商品名が商標登録に係るものであることの説明を受けたが、どのような事情で商品名を決定したか、どのような経緯で商標登録したかについては、何も知らされていなかった。既に述べたとおり、このような被告コスメディコが、原告らとの関係において、権利濫用との評価を受けるいわれはないし、上記の事実関係の下で、被告日本天然物研究所の単なる取引先にすぎない被告コスメディコが、商標登録に関する事情まで調査する義務があるはずはないから、事情を知らなかったことにつき過失も存しない。
 したがって、本件において、被告コスメディコが、原告らに対する損害賠償責任を負う理由は何もない。
ウ ちなみに、帝国データバンクの調査結果(乙45)に基づく原告サニーヘルスの年次別売上金額と利益額を検討してみると、被告商品の販売直前である平成9年7月期の売上げは、前年の59億円余から48億円余に減少しており、他方、被告商品の販売開始後は、平成10年7月期が62億円、平成11年7月期が97億円、さらには平成12年7月期が134億円余と増加に転じている。したがって、被告商品の販売が同原告の売上げに直接影響を与えたものではないことが分かる。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(原告標章の周知性及び著名性)について
 証拠(証人E、甲4、5、6の1〜11、18、33)によれば、@原告らは、昭和63年12月ころに原告商品の販売を開始したが、原告商品の製造・販売に際し、その容器・包装等に原告標章を付して使用していること、A原告サニーヘルスは、平成2年1月ころから、「anan」,「With」,「MORE」などの有名雑誌に、また、平成4年ころからは、「Hanako」,「MINE」,「Tarzan」等の雑誌にも、原告商品の広告を掲載するようになったこと、Bこのような雑誌広告における宣伝手法は、一般にダイエットに対する関心の高い女性が手に取る機会の多い複数の雑誌に、原告商品を使用してダイエット効果があったとされる実例として、女性モデルや一般の需要者を紹介したり、あるいは、原告商品を利用して肥満治療を施す医師を紹介したりする、いわゆる広告記事を掲載するもので、ダイエットに関する関心の高まりもあいまって、需要者に対する宣伝効果は相当に高いものであったこと、Cこのような雑誌広告の効果もあって、原告らは、平成4年末までに約590万食分の原告商品を販売したこと、D平成6年度の宣伝広告費用は6億円以上に及ぶなど、有名雑誌等を媒体とする宣伝広告はその後も継続され、原告らは、原告商品を、同年末までに約1669万食分、平成12年9月末までに約6141万食分販売したこと、E首都圏の18〜34歳の女性を対象とした平成8年度の市場調査において、一般に市販されているダイエット関連食品の中で、原告商品は、バランス栄養食品(例えば「カロリーメイト」など)、ダイエットのためのお茶(例えば「爽健美茶」など)等に次ぐ認知度を示したこと、が認められる。
 上記の各事実に弁論の全趣旨を総合すれば、原告らは、ダイエットに対する関心が一般的なものになりつつあった平成2年ころから、女性を主な読者層とする有名雑誌を媒体とした宣伝広告を開始し、その後もこのような宣伝広告を拡大して、原告商品を全国的・継続的に販売し、平成4年末までに約590万食分を、平成12年9月末までに約6141万食分をそれぞれ販売したものであって、ダイエット食品のいわば草分け的存在のひとつとして、商業的成功を収めたということができる(ちなみに、単に試用しただけの需要者から継続的に使用してダイエット効果をあげた需要者までを平均し、1人の需要者が1箱分(14袋入り。したがって14食分。)を消費したと仮定しても、平成6年末の時点でのべ119万人以上が、平成12年末の時点でのべ438万人以上が、原告商品を購入したことになる。)。
 そうすると、原告サニーヘルスによる有名雑誌を媒体とした宣伝広告が始まって約5年が経過し、その販売実績が約1669万食分に達した平成6年末までには、原告らが原告商品に付して使用する原告標章(「マイクロダイエット」及び「MICRODIET」)は、原告らの商品等表示として、需要者の間に広く認識されていた(不正競争防止法2条1項1号)ものというべきである。
 しかしながら、他方、原告商品のようなダイエット食品については、その需要者の範囲が比較的限定されているとともに(上記Eの市場調査においても、18〜34歳の女性が対象とされている。)、毎日反覆して消費することが予定されている商品であるから、上記販売実績数においても、継続的に消費した需要者の分が相当数を占めているものと考えられる。したがって、このような商品自体の特質等を考慮すれば、原告らの商品等表示としての原告標章(「マイクロダイエット」及び「MICRODIET」)が、「著名」(不正競争防止法2条1項2号)なものとまでいうことはできない。
 以上のとおり、原告標章は、周知の商品等表示と認められるものの、著名な商品等表示とまでは認められない。
2 争点2(原告標章と被告標章の類否)について
(1) 片仮名の各標章の類否
 原告標章1と被告標章1、2とを比較すると、原告標章1からは「マイクロダイエット」の称呼が、被告標章1、2からは「マイクロシルエット」の称呼がそれぞれ生ずるところ、前半部分が「マイクロ」で同一である上に、相違する「ダイエット」及び「シルエット」の各部分も、全体が5音であること及び語尾が「エット」であることにおいて共通しており、その相違はさほど大きなものではないから、上記各標章から生ずる称呼は、全体として類似すると認められる。さらに、原告標章1及び被告標章1、2に共通する「マイクロ」からは、「微小」との観念が生じる一方で、相違する部分についても、「ダイエット」からは、美容、減量、痩身等の観念を生じ、「シルエット」からは、一般的な「影」という意味のほか、減量、痩身により得られる美しい体型という観念を生じ得るから、両者は、観念が類似するということができる。そうすると被告標章1、2と原告標章1とは、称呼及び観念において類似するものであり、外観においても、原告標章1では9文字、被告標章1、2では9文字の平凡な字体の片仮名を、横一列に配してなる標章であり、外観上の差異はほとんどない。以上によれば、被告標章1、2は、原告標章1に類似するものと認められる。
 そうすると、被告標章5も、また原告標章1に類似するものと認められる。なぜなら、被告標章5は、片仮名「マイクロシルエット」の前に、「新しい」を意味する英語の形容詞「ニュー」を付加したものであることが容易に理解されるところ、「ニュー」の語は、通常、既存の商品の改良型を意味するものとして商品名の初頭部分に付されるものであって、その部分には自他商品識別力はないから、残余の部分である「シルエット」の部分が自他識別力を有する要部と認められる。したがって、称呼、観念及び外観については、被告標章1、2と原告標章1との関係で上述したところが、そのまま妥当するからである。
(2) 英文字の各標章の類否
 原告標章2と被告標章3、4とを比較すると、原告標章2からは「マイクロダイエット」の称呼が、被告標章3、4からは「マイクロシルエット」の称呼がそれぞれ生じるところ、最初に発音されるのが「マイクロ」で同一である上に、相違する「ダイエット」及び「シルエット」の各部分も、全体が5音であること、及び、語尾が「エット」であることにおいて共通しており、その相違はさほど大きなものではないから、上記各標章から生じる称呼は、全体として類似すると認めることができる。さらに、原告標章2と被告標章3、4に共通する「マイクロ」からは、「微小」との観念が生じる一方で、相違する部分についても、「ダイエット」からは、美容、減量、痩身等の観念を生じ、「シルエット」からは、一般的な「影」という意味のほか、減量、痩身により得られる美しい体型という観念を生じ得るから、両者は観念が類似するということができる。そうすると被告標章3、4と原告標章2とは、称呼及び観念において類似するものであり、外観においても、原告標章2は9文字の英文字を、被告標章3は15文字の英文字をそれぞれ横一列に配してなり、被告標章4は5文字と10文字の英文字を横二段に配してなる標章であるが、これら各標章は、いずれも平凡な字体の英文字からなる標章である上に、語頭の「MICRO」が共通するから、原告標章2と被告標章3の外観上の差異はほとんどないというべきであるし、横二段からなる被告標章4においても、見る者にとって最初に目に入る上段部分に「MICRO」が配されているから、原告標章2との外観上の差異は小さなものということができる。これらの点に照らせば、被告標章3及び4は、原告標章2に類似するものと認められる。
 そうすると、被告標章6は、英文字「MICRO SILHOUETTE」の前に、「新しい」を意味する一般的な形容詞「NEW」を付加したものであるから、被告標章5について述べたのと同様の理由により、被告標章6もまた原告標章2に類似するものと認められる。
(3) 類否のまとめ
 上記によれば、被告標章1、2及び5は原告標章1に、被告標章3、4及び6は原告標章2に、それぞれ類似するものと認められる(なお、被告らは、被告登録商標の出願当時、既に原告標章が商標登録出願されており、商標法4条1項10号、11号及び15号の要件が吟味されたはずであるにもかかわらず、被告登録商標が登録されたのだから、原告標章と被告標章は類似しないというべきである旨主張するが、特許庁が商標登録の可否の場面において行う先願商標との類否判断と侵害訴訟の場面における裁判所の類否判断とは観点を異にする面もあり、侵害訴訟における裁判所の類否判断が特許庁の判断に拘束されるものではない。被告らの主張は、採用できない。)。
3 争点3(混同の有無)について
 原告商品や被告商品のようなダイエット食品は、通信販売ないしテレビ番組を通じての販売を主たる流通形態とするものと認められるところ(甲33、乙41等)、このような商品の需要者は、主として、雑誌広告やテレビ番組で宣伝される商品の効能、すなわち、日常生活に必要な蛋白質、ビタミン類等を摂取できる一方で、摂取カロリーだけを低く抑えることができ、健康に影響なくダイエット効果をあげることができる点に専ら興味を引かれて購入を決めるものであり、店頭で実際の商品を手に取り、吟味した上で購入するわけではない。
 上記のような事情に加えて、証拠(甲1の1〜3、2の1〜3、6の1〜11、7の1〜2、8の1〜5、9、10、11、12、20の1〜2、21の1〜2、22の1〜2、23、24の1〜3、26の1〜3、27の1〜10、28の1〜10及び29の1〜10)によれば、@ 原告商品及び被告商品は、いずれも、粉末状で水に溶かして飲む超低カロリーの栄養食品であり、日常生活に必要な蛋白質、ビタミン類、ミネラル類等を摂取できる一方で、摂取カロリーだけを低く抑えることができ、健康に影響を及ぼさずにダイエットできることを最大の宣伝文句にしている商品であること、A 原告商品及び被告商品は、いずれも、ヨーグルト味、ココア味、ストロベリー味等の風味が付けられ、袋ごとに小分けされた商品が何袋か箱詰めされて、このような箱詰めを基本的な販売単位として流通していること、B 原告商品の容器・包装においては、立方体の艶のある白色地の紙箱に、鮮やかな多色パステルカラーないし単色青色の模様を描き、その下に商品名「MICRODIET」を黒色ゴシック体英文字で配し、その下に「Maximum Weight Loss-Minimum Calories-Complete Nutrition」なる表示を配して、さらに、これらの左側に栄養成分表を表示しているところ、被告商品の容器・包装においても、ほぼ同じ大きさ・体裁の紙箱に、上記同様の多色パステルカラーないし単色青色の模様を描き、その下に商品名「MICRO SILHOUETTE」を黒色ゴシック体英文字で配し、その下に「Maximum Weight Loss-Minimum Calories-Complete Nutrition」なる表示を配して、さらに、これらの左側にほぼ上記同様の栄養成分表を表示していること、C 原告商品の雑誌広告においては、ダイエット効果があった実例として複数の一般需要者が紹介されているほか、上記容器・包装を伴う箱、小分けされた商品入りの袋、商品を水に溶かしてグラスに注いだ写真等が掲載されているのに対し、被告商品の雑誌広告においては、同商品の愛用者とされる若手女性タレントが紹介されているほか、上記容器・包装を伴う箱、小分けされた商品入りの袋、商品を水に溶かしてグラスに注いだ写真等が掲載されていること、D 原告らは、販売促進用資料として、「すぐに使えるダイエットメニュー」と題する冊子を作成し、使用していたところ、被告らは、原告商品名「マイクロダイエット」を被告商品名「マイクロシルエット」に差し替えただけで、題名が「すぐに使えるダイエットメニュー」で同じであるほか、冊子の中で紹介されている料理の献立・写真や、イラスト、説明書きの本文に至るまで、原告ら作成にかかる上記冊子をほぼそのまま引き写した冊子を作成し、使用したこと、E 原告会社名と被告商品名を並べて「サニーヘルス マイクロシルエット」と記載した小売店作成のチラシ広告や、あるいは、被告商品の写真を掲載する一方で、商品名を「マイクロダイエットシルエット」あるいは「マイクロダイエット」と表記した小売店作成のチラシ広告が散見されるほか、小売店の店頭において原告商品名が表示された商品棚に被告商品を陳列した例も見られること、が認められる。
 上記によれば、原告商品と被告商品は、いわゆる通販商品として、商品名ないし標章が商品の購入を決する際に需要者に与える印象の大きな取引形態である上に、さらに加えて、商品としての基本的な性質が同一であるほか、その宣伝や販売の手法・形態にも共通するところが少なくなく、小売店のチラシ広告や店頭販売の段階においては、原告商品と被告商品とが厳密に区別されていない例すら散見されるから、取引者や需要者の間では、両者は非常に近い種類の商品と認識されているものと認められる。そうすると、原告標章に類似する被告標章を使用した被告商品を販売する行為は、原告商品との「混同を生じさせる行為」(不正競争防止法2条1項1号)に当たるというべきである。
4 争点4(登録商標使用の抗弁)について
 上述したところによれば、被告らが被告標章を付して使用する被告商品を販売する行為は、不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当するものと認められるが、被告らは、いわゆる登録商標使用の抗弁を主張しているので、以下、被告らの抗弁の成否につき検討する。
 旧不正競争防止法6条には、同法の規定は商標法等の工業所有権法により権利の行使と認められる行為には適用しない旨を明文で規定していた。平成5年法律第47号による不正競争防止法の全面改正の際には、旧不正競争防止法6条に対応する明文の条文は置かれなかったものであるが、改正後の不正競争防止法(現行法)の下においても、権利の行使はそれが濫用にわたるものでない限り許されるとの一般原則の適用として、商標法上、商標権の行使と認められる行為であれば、それが権利の濫用に該当するものでない限り、不正競争行為該当性が否定されるものというべきである。
 この場合に、商標権の使用として認められる範囲は、登録商標の禁止的効力の範囲(商標法37条)ではなく、これよりも狭い範囲である登録商標の専用権の範囲(同法25条)である。この点は、意匠法23条が「意匠権者は、業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有する。」と規定しているのに対し、商標法25条が「商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。」と規定されていることに照らし、明らかである(最高裁平成6年(オ)第1102号同9年3月11日第三小法廷判決・民集51巻3号1055頁参照)。この場合、商標権者が、商品の種類・性質や消費者の趣向・流行に応じて、登録商標を多少変容させて用いることも少なくないことを考慮すれば、登録商標と同一の標章のほか、これと厳密に同一でないとしても、これと実質的に同一と評価できる標章については、登録商標の使用の範囲内と認め得るものというべきである。
 これを本件についてみると、被告登録商標は、別紙被告商標目録記載のとおり、通常の字体の片仮名「マイクロシルエット」を横一列に配した商標であるところ、太ゴシック体(被告標章1)あるいはやや変則的なゴシック体(被告標章2)の片仮名で、同じく「マイクロシルエット」を横一列に配した被告標章1、2は、いずれも、被告登録商標と実質的に同一であり、被告登録商標の使用権の範囲内にあるものと認められる。したがって、これらについては、被告登録商標の商標権者である被告ホルス及び同被告から被告登録商標の使用の許諾を受けたその余の被告らは、登録商標使用の抗弁を主張し得るものというべきである。しかしながら、他方、片仮名表記であっても、「マイクロシルエット」の前に「ニュー」が付加したもの(被告標章5)や、あるいは、英文字表記としたもの(被告標章3、4、6)は、もはや被告登録商標と同一ないし実質的に同一の範囲にあるとは認められず、これらの標章(被告標章3ないし6)については、登録商標使用の抗弁は認められない。
 上記のとおり、本件においては、被告標章1、2に関する限りにおいて、被告らは登録商標使用の抗弁を主張し得るものであり、次に被告らの被告登録商標の使用が権利濫用に当たるかどうかが問題となる。
5 争点5(権利濫用の再抗弁)について
 被告らの登録商標使用の抗弁に対して、原告らは、被告らが被告登録商標を使用する行為は権利濫用に該当するものであり、本件訴訟において、不正競争防止法2条1項1号、2号を理由とする原告らの請求に対し、登録商標使用の抗弁を主張することもまた、権利の濫用に当たるものとして許されないと主張している。
 そこで検討するに、前記の「前提となる事実」欄記載の事実(前記第2、2参照)、前記1及び3において認定した事実に証拠(証人E、被告ホルス及び被告日本天然物研究所各代表者C、甲3〜5、13の1〜8、14の1〜2、30、31、33、35、乙2〜4、7、8、9の1〜25、41)及び弁論の全趣旨を総合すれば、被告登録商標の出願・登録等の経緯に関して、次の各事実が認められる。
@ 原告らは、昭和63年12月ころに原告商品の販売を開始したが、原告商品の製造・販売に際して、その容器・包装等に原告標章を付して使用していること、
A 原告サニーヘルスは、平成2年1月ころから「anan」,「With」,「MORE」などの有名雑誌に、また、平成4年ころからは「Hanako」,「MINE」,「Tarzan」等の雑誌にも、原告商品の広告を掲載し、原告らは、平成4年末までに約590万食分、平成6年末までに約1669万食分の原告商品を販売し、原告標章は、原告らの商品等表示として、平成6年末ころには周知性を獲得したこと、
B 訴外Aは、平成6年3月から平成8年4月まで原告サニーヘルスに勤務した元従業員であるところ、同原告在職当時の平成7年10月31日、被告登録商標(マイクロシルエット)を商標登録出願したこと、
C 他方、被告ホルスは、平成7年10月14日付けで、原告サニーヘルスと化粧品の製品開発に関するコンサルタント業務を請け負う旨の業務委託契約を締結し、同月から平成8年9月末までの約1年間、同契約に基づき基礎化粧品の開発に携わっていたが、その契約期間中に、「シルエット」なる商標の登録可能性に関する調査を特許事務所に依頼したこと、
D そして、平成8年1月16日付けで、「シルエット」なる先願の商標が存在することから、それ自体の登録は不可能であるが、その前か後に3文字以上付加すれば登録可能である旨の調査結果報告を受けたこと、
E また、被告ホルスは、原告サニーヘルスとの上記業務委託契約が終了した後の平成8年11月11日、訴外Aから、当時出願中であった上記「マイクロシルエット」の商標登録を受ける権利の譲渡を受けたこと、
F 被告らは、平成9年初めころに被告商品の製造・販売を開始し、その後の同年7月18日に被告登録商標が商標登録されたこと、
G 被告ホルス及び被告日本天然物研究所の代表取締役であるとともに、被告コスメディコの取締役であり、被告らによる被告製品の製造・販売を実質的に取り仕切るCは、Aが被告登録商標を出願した平成7年の時点において、既に原告商品(マイクロダイエット)が、ダイエット食品の業界で周知といってよい存在であることを認識していたこと(Cの本人尋問調書18頁)、
H Cは、昭和48年から昭和62年まで訴外スターリング・ウィンスロップ株式会社日本支社に勤務していたところ、Aも昭和60年から昭和62年まで同社に勤務しており、両者はその当時から顔見知りであったこと、
I Cは、平成2年3月に被告ホルスを設立し、代表取締役に就任したところ、Aは、原告サニーヘルスに入社する以前の平成5年2月から同年7月までの間、社員として被告ホルスに在籍したことがあること、
J 原告サニーヘルスと被告ホルスとが上記業務委託契約を締結するに際し、化粧品製造の委託が可能なメーカーを紹介して欲しい旨のファクス文書を「株式会社ホルスC社長」宛に送付したのも、当時原告サニーヘルスに社員として在籍していたAであったこと、
 上記の各事実を総合すれば、訴外Aは、原告サニーヘルスに従業員として在職中に、原告商品が好調な売れ行きを示し、原告標章が周知の商品等表示となっていることを認識しながら、これと類似する被告登録商標につき商標登録出願をしたものであり、原告標章の周知性にただ乗りする意図の下に上記商標登録出願をしたものと認められる。そして、被告ホルスは、原告標章が周知の商品等表示となっていることを認識しながら、訴外Aからこれと類似する被告登録商標の商標登録を受ける権利を譲り受けたものであり、また、その際、同被告は、原告標章が周知の商品等表示となった後に被告登録商標が出願されたことを認識していたか、又は知り得べきものでありながら過失によって知らなかったものと認められる。
 上記のような各事情に照らせば、被告ホルスが商標権者として被告登録商標を使用する行為は権利濫用に該当するものであり、本件訴訟において、不正競争防止法2条1項1号、2号を理由とする原告らの請求に対し、登録商標使用の抗弁を主張することもまた、権利の濫用に当たるものとして許されないというべきである。
 そして、その余の被告らは、被告ホルスから被告登録商標の使用の許諾を受けてこれを被告商品に使用しているものであるところ、上記のとおり、商標権者である被告ホルスが被告登録商標を使用する行為自体が権利濫用に該当するものである以上、同被告から許諾を受けてこれを使用する者は原告らとの関係で被告登録商標の使用につきこれと別個の利益を有するものではない。したがって、被告コスメディコ及び被告日本天然物研究所が被告登録商標を使用する行為もまた、権利濫用に該当するものであり、本件訴訟において、原告らの請求に対し、前記被告両名が登録商標使用の抗弁を主張することもまた、権利の濫用に当たるものとして許されない。
 以上によれば、被告らが被告標章を使用する行為は、不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当するというべきであり、被告らに対して被告標章の使用の差止めを求める原告らの差止請求(廃棄請求を含む。)は、理由がある。
6 争点7(原告らの損害額)について
(1) 被告コスメディコの責任
 上記のとおり、被告らの行為は、不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当するというべきであるから、次に、被告らが賠償すべき損害額等について検討する。
 不正競争防止法5条1項にいう侵害者が受けた「利益の額」とは、売上額(販売額)から売上原価(仕入価額)を差し引いた粗利益から、さらに、専ら当該売上を得るために必要とした経費を差し引いた額をいうものと解するのが相当であるところ、本件においては、被告コスメディコが、平成10年5月から平成13年12月までの間に、被告商品の販売によって得た粗利益の額が、2億5581万2000円を下らないことに争いはない。そして、本件にあらわれたすべての証拠(甲4、5、乙44の1〜62、45等)及び弁論の全趣旨に照らし、被告商品のような美容・ダイエット関連の商品については、宣伝広告費をかける必要があることがうかがわれるにしても、専ら被告商品の売上を得るために必要とした経費として、上記粗利益から差し引くべき額は、1億円を超えることはないものと認められる。
 上記によれば、被告コスメディコが上記不正競争行為により受けた利益の額は、少なくとも原告らが本件において損害額の一部として請求する8000万円を下回るものではないと認められる。したがって、被告コスメディコは、本件において原告らが請求する8000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(被告コスメディコにつき平成13年2月28日)以降の遅延損害金につき、支払義務を負うべきものである。
 被告コスメディコは、同被告は、被告ホルスらから、単に、被告商品名「マイクロシルエット」が商標登録に係るものであることの説明を受けて取引関係に入ったにすぎないから、商標登録に関する経緯まで調査する義務があるはずがないとして、自己の過失を否定する(第3、7(被告らの主張)イ参照)。
 しかしながら、被告コスメディコは、原告標章が周知の商品等表示となった後に、被告ホルスからこれと類似する被告登録商標につき使用許諾を受けて、被告商品の販売に関与するようになったものであり、原告標章が周知の商品等表示となった後に被告登録商標が出願されたことを認識していたか、又は知り得べきものでありながら過失によって知らなかったものと認められるから、被告登録商標の使用権の範囲に属しない被告標章3ないし6の使用についてはもちろん、被告登録商標の使用権の範囲に属する被告標章1、2の使用に関しても、不正競争行為に基づく損害賠償義務を負担するものである(なお、被告コスメディコには、被告商品の製造・販売を実質的に取り仕切るCが取締役として就任しており、Cの本人尋問の結果に照らしても、被告標章の採用決定を含む商品企画の段階から、被告商品の販売に関与してきたものと認められ(同人の本人尋問調書21頁)、この点に照らせば、被告コスメディコは、被告ホルス及び被告日本天然物研究所と同様、原告標章の周知性を知り、これにただ乗りして利益を得る目的で、被告ホルスから被告商標権の使用許諾を受けたものと認められる。)。
(2) 被告ホルス及び被告日本天然物研究所の責任
 被告ホルス及び被告日本天然物研究所は、いずれもCが代表取締役を務めて経営を全面的に掌握するもので、資本的・人的に密接に関連する一体的企業であるところ、被告ホルスは被告商品の原料を製造し、被告日本天然物研究所は被告商品を製造して、被告コスメディコに供給しており、被告商品の製造販売事業において、それぞれ原料製造部門と製品製造部門を担っている。
 被告ホルス及び被告日本天然物研究所は、被告商品の販売を開始する半年ほど前から、被告商品の商品名、パッケージデザインをはじめ、その広告や販路等に関する企画を立て、とりわけ、被告ホルスは、被告登録商標「マイクロシルエット」の登録を受ける権利の譲渡を受けて商標権者となり、現在に至るまで被告コスメディコに被告登録商標の使用を許諾するとともに、被告商品を供給している。
 上記によれば、被告ホルス及び被告日本天然物研究所は、自ら不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為を行うとともに、被告コスメディコの不正競争行為に積極的に加功し、同被告と共同して不正競争行為を行ったものと認められるから、共同不法行為者として、被告コスメディコの不正競争行為により原告らの被った損害につき、連帯して支払義務を負うべきものである。
 したがって、被告ホルス及び被告日本天然物研究所は、本件において原告らが請求する8000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(上記被告両名につき平成13年3月2日)以降の遅延損害金につき、いずれも被告コスメディコと連帯して支払義務を負うべきものである。
(3) 被告らの損害賠償責任のまとめ
 上記(1)、(2)によれば、被告らは、原告らに対し、連帯して8000万円及びこれに対する平成13年2月28日から(ただし、被告ホルス及び被告日本天然物研究所は同年3月2日から)支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払うべきものである。
7 争点6(品質等誤認惹起行為の成否)について
 原告らは、不正競争防止法2条1項1号、2号各所定の不正競争行為のほか、同項13号所定の不正競争行為をも主張して、これを理由とする損害賠償を求めている。
 しかしながら、同項13号所定の不正競争行為を理由とする損害賠償請求は、同項1号、2号所定の不正競争行為を理由とする損害賠償請求と選択的ないし予備的な関係にあるものとして請求されているところ、上記のとおり、本件においては、同項1号所定の不正競争行為を理由とする損害賠償として、原告の請求額の全額が認容されているのであるから、同項13号所定の不正競争行為の成否について判断する必要はない(なお、付言するに、不正競争防止法2条1項13号所定の不正競争行為は、権利者に帰属する商品等表示や営業秘密等を冒用して侵害者が利得を得るものではないから、そもそも同号所定の不正競争行為を理由とする損害賠償においては同法5条1項の推定規定を適用する前提が一般的に存在しているとはいい難い。)。
8 結論
 以上によれば、不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為を理由として、被告らに対して、被告標章の使用の差止め(これを付した物の廃棄請求を含む。)及び損害賠償を求める原告らの請求は、すべて理由がある。
 よって、原告らの請求は、すべて認容すべきものであるから(ただし、仮執行宣言については、廃棄請求に係る部分は相当でないから、その余の請求部分についてこれを付す。)、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事46部
 裁判長裁判官 三村量一
 裁判官 村越啓悦
 裁判官 青木孝之
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