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【事件名】「週刊アサヒ芸能」の女性アナウンサー名誉毀損事件
【年月日】平成15年2月18日
 東京地裁 平成14年(ワ)第1522号 謝罪広告等請求事件

判決


主文
1 被告らは、原告に対し、連帯して金170万円及びこれに対する平成13年12月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告株式会社徳間書店は、原告に対し、金110万円及びこれに対する平成6年7月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は被告らの負担とする。
5 この判決は、第1、2項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告らは、別紙1記載の掲載条件で、別紙2記載の謝罪広告を掲載せよ。
2 被告らは、原告に対し、連帯して金1700万円及びこれに対する平成13年12月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告株式会社徳間書店は、原告に対し、金600万円及びこれに対する平成6年7月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は、フリーランスのアナウンサーである原告が、平成13年12月及び平成6年7月に発売された「週刊アサヒ芸能」(以下「週刊アサヒ芸能」という。)に掲載された記事によって名誉を毀損されたとして、これを発行した被告株式会社徳間書店(以下「被告徳間書店」という。)並びに平成13年の記事を執筆した記者及び平成13年当時の週刊アサヒ芸能の編集長に対して、損害賠償とともに、平成13年の記事に関して週刊アサヒ芸能裏表紙に謝罪広告を掲載することを求めている事案である。
1 争いのない事実等
以下の事実は、当事者間に争いがないか、証拠によって容易に認定できる事実である(末尾に証拠を掲記した事実以外は、当事者間に争いがない。)。
(1) 当事者等
ア 原告は、平成元年4月から平成5年12月までテレビ朝日にアナウンサーとして在籍していたが、現在ではいわゆるフリーランスのアナウンサーであり、平成12年10月以降現在までテレビ朝日のスーパーJチャンネルという番組(以下「本件番組」という。)の中の「快適!生活塾」と題するコーナーでレポーターを勤めている。なお、原告は、その傍ら、慶應義塾大学大学院社会学研究科修士課程に在学している。(甲11号証)。
イ 平成13年10月24日に放送された本件番組で、原告が乳がん検診を体験している様子が放送され(以下「本件放送」という。)、乳房や乳首が映っている検診中の映像(以下「本件映像」という。)も放送された。この本件映像は資料映像であり、原告本人のものではないが、本件放送の際には資料映像であることは放送されなかった。
ウ 被告徳間書店は、書籍、雑誌等の企画、制作、販売等を業とする株式会社であり、週刊アサヒ芸能を発行している。
 被告B及び被告Cは被告徳間書店の従業員であり、被告Bは、週刊アサヒ芸能の記者として、企画・取材のうえ本件映像に関する後記本件記事@本文及び1頁目に記載されたリード部分を執筆し、被告Cは、週刊アサヒ芸能の編集長として、本件記事@のタイトル(後記本件タイトル)を作成した(被告B及び被告C本人尋問の結果)。
(2) 本件記事@等
ア 平成13年12月11日発売の週刊アサヒ芸能56巻48号(平成13年12月20日号、以下「本件雑誌」という。)の29頁ないし31頁には、以下の記事が掲載されている(以下「本件記事@」という。甲1号証)。
(ア) 29頁には、その頁の約3分の2程度の大きさで「『Dの元愛人』Aアナを襲うこれが『乳首モロ出し画像』だ!」という本件記事@のタイトル(以下「本件タイトル」という。)があり、その上部に「スーパーJチャンネルで『半裸姿』が流され・・・」、タイトルの下部に「元テレビ朝日アナウンサーで、現在はレポーターやDJとしても活躍しているAアナ。そんな彼女に、ショッキングな事件が起こった。なんと、彼女の『乳首モロ出し画像』がテレビで放送されたあげく、ネット上で“裏取引”されているというのだ。本誌がさっそく問題の画像を入手すると−。」とのリードがあり、タイトル横に本件番組において放送された画像4枚(女性が乳ガン検診を受けている画像3枚、原告の画像1枚)が掲載されている。
(イ) 本件記事@の本文の内容は、以下のとおりである。
a 「一瞬、わが目を疑った!」と題する項
(a) まず、夕方のニュース番組の時間帯は激戦区であるが、その中でも本件番組の特集が充実しており好評を博していること、原告は同番組の特集でレポーターを担当しており、企画の提案をすることも多く、番組スタッフの評判がいいことが記載されている。
(b) そして、原告の経歴として、元テレビ局のアナウンサーでスポーツキャスターを務めていたこと、テレビ朝日の社員と結婚したが離婚したこと、プロ野球球団のDとの不倫が報じられたこともあったこと、平成5年にテレビ朝日を退社し現在はフリーであることが記載されている。
(c) そのうえで、本件放送を見たワイドショー・ディレクターのコメントとして、乳がん検診を受ける原告の乳房・乳首が映っていたので驚いた旨が記載され、有名な女子アナウンサーが夕方のニュース番組で自らの乳房をさらけだすのは前代未聞であり信じられない出来事であること、記者が本件放送のビデオを入手して再生したことが記載されている。
b 「これ、垂れませんか?」と題する項
(a) まず、本件放送が、自己検診や乳がんの最先端の検査方法などを紹介したまじめなものであることが記載されたうえで、放送内容の描写がなされている。
 すなわち、原告が検診を受けている間、当初は検査室のドアの映像及び原告の声のみが放送されていたが、検査室内の映像となり、上半身裸の後ろ姿の映像、検査機械に挟まれた乳房の映像の後、乳首もはっきりと映っている左右の乳房が映し出された(本件映像)との描写がなされ、これが「史上初の“乳首露出シーン”」であると記載されている。
(b) そして、上記の映像(本件映像)を「乳首モロ出し画像」と名付け、同画像が本件放送翌日からインターネットで話題となったこと、「お宝系の雑誌」にも本件映像が投稿されていることなどが記載され、「36歳の熟女アナウンサー」が取材とはいえ乳房・乳首をあらわにしたとなれば興奮するのももっともである旨の記載がなされている。
c 「今でもマニアが取り引き!」と題する項
(a) まず、本件番組のプロデューサーが、本件映像は資料映像であり、原告本人と誤解した者がいるとすれば謝罪する旨述べたこと、これに対して、前出のワイドショー・ディレクターが、本件放送の構成などからすれば誰でも原告本人と思うのであり、本件放送は視聴者を混乱させるものである旨述べ、憤慨していること、本件放送において原告の映像と乳首映像が繰り返され、資料映像である旨のテロップもなかったことからすれば、制作者において視聴者が勘違いすることは容易に想像できることが記載されている。
(b) そして、テレビ朝日関係者が、ベテランのテレビマンまでもが本件映像が原告を映したものであると誤解した要因は、原告の最近の姿勢にあると述べたうえ、「周知のように彼女は男性関係で失敗した。テレ朝局員と結婚していたにもかかわらずDとの“不倫”が報道され、“愛人”扱いもされた。そんな状況に嫌気がさして、『もうテレビには出たくない』と言っていたくらいなんです。そんな彼女がまたテレビに戻ってまじめに番組に取り組んでいる。乳がん検診のようなまじめな企画なら、覚悟を決めておっぱいを出しても全然不思議じゃないって思ってしまったんです。そういう真摯な姿勢が、今の彼女にはあるんですよ。」と述べたことが記載されている。
(c) 最後に、原告が「今回の事件」の被害者であること、原告に多忙を理由に取材を断られたこと、本件映像はインターネット上で取り引きされるなど独り歩きをしていることが記載されている。
イ 被告徳間書店は、本件雑誌の表紙(以下「本件表紙」という。)に「週刊アサヒ芸能」の雑誌タイトルから2段下の中央部からみてやや左よりの位置に、赤字ゴシック体活字で、本件タイトルを3種類の大きさの文字を使用して掲載し、そのうち、「D」「愛人」「A」「乳首モロ出し画像だ」に一番大きな文字が使用されているのに対して、「アナを襲う」についてはこれらの4分の1程度の大きさの文字を使用した(甲2号証)。
ウ 被告徳間書店は、平成13年12月10日発売のスポーツ新聞(日刊スポーツ、サンケイスポーツ、スポーツニッポン、東京中日スポーツ)各紙の東京版及び大阪版に本件雑誌の広告(以下「本件広告」という。)を掲載し、同月11日ころには、JR、地下鉄その他私鉄各線の列車内に同内容の中吊り広告合計7875枚を出した。
 本件広告には、本件雑誌に掲載された記事のタイトルが20掲載されているが、本件タイトルは右から2番目の位置に3種類の大きさの文字を使用して掲載されており、「D」「愛人」「A」「乳首モロ出し画像だ」に一番大きな文字が使用されているのに対して、「アナを襲う」についてはこれらの4分の1程度の大きさの文字が使用されている(甲3号証)。
(3) 本件映像に対するインターネット上での反応
 平成13年11月19日、インターネットの掲示板において「『緊急』Aの乳癌レポート!自ら乳晒す」というスレッドが作成され、同日から同月28日にかけて、本件映像が原告を映したものであることを前提とした複数の書き込みがなされた。なかには、原告について「Dの元愛人」と書き込んだものもあった。また、本件映像自体も、インターネットにおいて表示されていた。(乙2号証)
(4) 本件記事A
 被告徳間書店が発行した週刊アサヒ芸能49巻26号(平成6年7月14日号)には、「元テレ朝アナ美人人妻はいまも『通い同棲中』オフに迫られる『略奪結婚』の決断!」というタイトルの記事(以下「本件記事A」という。)が掲載されている(甲6号証)。
 本件記事Aでは、Dのマンションに人妻だった元アナウンサーが通っている話が出ているというリードのもと、この人妻は原告であり、前年7月にD選手のマンションで密会している現場写真を写真誌に掲載されたこと、芸能レポーターがDのつまみ食いであると考えた旨述べたこと、原告とDの関係がまだ続いており、テレビ朝日関係者が、原告は夫と別居していると聞いた旨述べたことが記載されている。
2 争点及び当事者の主張
(1) 争点1 本件記事@等は原告の名誉を毀損するものか
(原告の主張)
ア 「愛人」等の記述
 本件記事@、本件表紙、本件広告に記載された本件タイトルのうち「『Dの元愛人』Aアナ」という記載、本件記事本文中の「Dとの“不倫”が報じられたこともあった」「周知のように彼女は男性関係で失敗した。テレ朝局員と結婚していたにもかかわらずDとの“不倫”が報道され、“愛人”扱いもされた」という記載は、原告がDと過去不倫関係にあり、その愛人であったという事実を摘示したものであり、これにより原告の社会的評価を低下させたというべきである。
イ 本件映像についての記述
 また、本件タイトルのうち「Aアナを襲うこれが『乳首モロ出し画像』だ」との記載は、原告の胸部裸体を撮影した画像が現実に存在し、その画像が本件雑誌に掲載されているという事実を摘示したものである。特に、日刊スポーツ各紙、列車内の中吊り広告に掲載された本件広告では、「アナを襲う」の部分が非常に小さい活字で組まれているため、「Dの元愛人Aアナ『乳首モロ出し画像』だ」という記載のみが、一般読者・乗客の記憶に残る蓋然性が非常に高い。
 本件記事本文中においても、本件番組において放送された胸部裸体が原告のものであるかのような記載があり、これらの記載は、原告の私生活上の事柄に関して誤った認識を流布するものであり、原告の名誉を毀損するものである。
(被告らの主張)
ア 「愛人」等の記述
(ア) 原告は、有名な女子アナウンサーでテレビ番組のレポーターとして活躍しているのであるから、一般市民が強い関心を持つ結婚、恋愛等の事項について、有名タレントと同様に新聞・雑誌等の記事の対象となることを当然容認していると解せられる。
(イ) また、原告とDとの関係は、すでに多くのメディアにより同様のことが報道されており、世間一般に広く知れ渡っていることであるから、これを摘示しても原告の社会的評価が低下することはない。なお、当初の報道から8年が経過しているが、それ以降も折に触れて報じられている。このように、過去、多数の週刊誌が原告とDとの関係を大々的に報じたにもかかわらず、原告が何ら名誉回復のための措置をとっておらず、原告は、Dとの関係を報じられることについて包括的に容認していたものである。
イ 本件映像についての記述
(ア) 原告は、本件タイトルのうち「Aアナを襲うこれが『乳首モロ出し画像』だ」との記載が、原告の胸部裸体を撮影した映像が現実に存在し、その映像が本件雑誌に掲載されているという事実を摘示していると主張するが、これは、映っているのは原告ではないのに一般視聴者の間で原告が映っていると話題となっていた本件映像に原告が襲われている、すなわち、本件映像によって原告が被害にあっているという趣旨であり、一般人もそのように判断すると考えられるし、仮にこのタイトルの意味をよく理解できない読者は記事の本文を読むであろうから、いずれにしてもタイトルの意味を理解できることになる。
 また、一般人は、週刊誌の見出しや新聞広告・列車内の中吊り広告において、読者の興味を引くため誇張した表現がなされることをよく知っており、これらのみで判断することはないところ、本件記事@本文の内容は以下の(イ)のとおりであるから、原告の主張は失当である。
(イ) 原告は、本件記事@本文中にも、本件映像が原告のものであるかのような記載があり、これらが「原告の私生活上の事柄に関して誤った認識を流布するもの」であると主張するが、原告はテレビ番組のレポーターとして仕事上乳がん検診を受けたのであり、画像が放映され広く一般視聴者の目に触れることを予定していたのであるから、これを私生活上の事柄とする原告の主張はそもそも筋違いである。
 また、原告主張部分が具体的にどの記述なのか明らかでないが、本件映像について描写した記述を指すとすると、同記述は、被告Bが同画像を一般人の通常の感覚により見たとおりに忠実に描写したものであり、誤った認識を流布するものではない(実際、一般視聴者の間で、本件映像が原告のものであるとして大きな話題となっていた。)。また、被告Bは、原告の乳首の画像である旨の記述をしていないうえ、本件映像が資料映像であるとする担当プロデューサーのコメントをそのまま掲げるなどして、本件映像が原告本人を撮影したものでないことを明記している。
(ウ) よって、本件記事@により、一般読者が、本件映像に映っているのが原告であると誤解することはありえない。
ウ 本件記事@を全体的に見れば、原告の仕事ぶりを高く評価しているのであって、本件記事@により原告の社会的評価が低下することはない。
 むしろ、本件映像は、テレビ局の編集の仕方に問題があったため、原告の身体を撮影したものであると一般視聴者が誤解し、インターネット上などにおいて大きな話題となっていたところ、本件記事@はこれに終止符を打つ役割を果たしたのである。
(2) 争点2 本件記事Aは原告の名誉を毀損するものか
(原告の主張)
 本件記事Aには、「Dといえば、E野球のカナメだが、同時にやたらもてる選手でもある。」「人妻だった元アナウンサーが、依然、Dのマンションに通っているという話が飛びだした。」「この美人妻とはA元テレビ朝日アナウンサー」「『あのころDには、社会人野球時代から交際していた女性やFとの仲も、しきりと噂された。単なるつまみ食いだろうと思いましたよ』(芸能レポーター)」「テレビ朝日関係者によると、『ふたりの交際はまだ続いているようですよ。彼女はご主人と別居しているとも聞きました』」などと、原告の私生活上の事柄に関し、原告の社会的評価を低下させる内容が記載されている。
(被告らの主張)
 争点1(被告らの主張)アに同じ。
(3) 争点3 慰謝料及び名誉回復措置
(原告の主張)
ア 考慮すべき事情
 原告は、硬派な報道番組を中心に活躍しているフリーランスのアナウンサーであり、清廉なイメージを維持することは職業上極めて重要であるうえ、慶應義塾大学大学院社会学研究科修士課程に在学中であるにもかかわらず、Dと愛人関係にあったことや、原告の乳首をうつした画像が存在するといった事実無根の風説を流布されたことにより、筆舌に尽くしがたい多大な精神的苦痛を被った。
 本件雑誌の販売数は公称44万部であるから、全国で数十万人の読者が本件記事を読んだことが推測される。また、次号が発売されるまでの1週間にわたり本件雑誌が全国の書店等に平積み・陳列されたに相違なく、極めて多数の不特定人(1冊につき10人が見たとすると公称発行部数が44万部であるから440万人)が本件表紙に記載された本件記事のタイトルを目にしたことになる。さらに、本件広告は日刊スポーツ新聞各紙及び列車内の中吊り広告に掲載されたから、少なくとも数百万人の不特定人がこれを目にしたことが推測される。
 そして、原告が被告会社に対して本件記事に対する誠実な対応を求めたことに対して、被告Cは、原告がプライバシーを放棄しているとしたうえ、Dとの愛人関係は周知の事実であるから名誉毀損にはあたらないなどと不誠実極まりない回答をした。
 特に被告徳間書店は、週刊アサヒ芸能に1度ならず2度までも、原告の私生活上の事柄に関し、興味本位の暴露記事を掲載したものであり、その加害行為の態様は極めて悪質である。しかも、本件記事@Aの内容は、いずれも何ら公共の利害に関わるものではなく、その真実性についても全く根拠がない。そして、同被告は、週刊アサヒ芸能の売れ行きが好調なことから社員全員に3万円の大入り袋を出すなど、原告の名誉を侵害する興味本位の記事を掲載することにより多大な経済的利益を獲得している。これらの事情も、損害賠償額の算定に際して斟酌されるべきである。
イ 損害額
 被告らの不法行為により原告が被った精神的苦痛は、そもそも金銭では慰謝尽くしがたいものであるが、あえて金銭で評価すると、本件記事@については、上述のように440万人が本件雑誌の表紙・本件広告等を目にしたと推測して1人あたりの損害額を50円と仮定しても、損害額は2億2000万円と算定される。そうすると、本件記事@により原告が被った精神的損害額は、いかに控えめに考えても2000万円を下ることはあり得ないところ、原告はうち1500万円を請求する。また、本件記事Aについては、500万円を下ることはない。
ウ 名誉回復措置
 原告の社会的評価を原状回復するためには、別紙1記載の掲載条件で、別紙2記載の謝罪広告が掲載される必要がある。
エ 弁護士費用
 原告は原告代理人に本件訴訟の追行を委任し、相当額の報酬を支払うことを約した。本件訴訟の難易度等を総合考慮すれば、被告らの本件記事@による不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は300万円であるところ、うち200万円を請求する。また、本件記事Aについての弁護費用は100万円である。
(被告らの主張)
ア 考慮すべき事情、損害額、名誉回復措置について
 原告は、これまでのマスコミに対する積もり積もった恨みの感情を本件記事に対して一気に爆発させ、ぶつけてきているのであって、被告らに対するものとしては明らかに過剰というべきである。
 また、原告の被告徳間書店に対する通告書は、事実を無視した一方的なものであり、いきなり法外な要求を突きつけるものであったが、被告徳間書店は丁寧に言い分を述べて理解を求めたのであって、誠実に対応した。
 原告は、被告らが原告についての記事を掲載することにより多大な経済的利益を獲得していると主張するが、アサヒ芸能の売上部数の増加と本件記事とは直接何の関係もない。なお、週刊アサヒ芸能の平成13年上期の実売部数は23万2958部である。
イ 弁護士費用について
 原告が原告代理人に本件訴訟の追行を委任したことは認めるが、その余は争う。
(4) 争点4 消滅時効の抗弁(本件記事Aについて)
(被告徳間書店の主張)
ア 原告は、本件記事Aなどにより結婚生活に傷を負わされ離婚した(平成7年5月離婚)旨供述する一方、平成13年12月に本件雑誌が発売されてから従前の記事等を調査し本件記事Aを知ったと供述する(原告本人)が、これらは矛盾する。
イ 前者が事実であれば、本件記事Aが原告の名誉を毀損するものだとしても、原告は遅くとも平成7年5月に離婚した時点において、本件記事Aを知っていたことになるから、平成10年5月の経過によって時効期間が満了した。被告らは、平成14年11月19日、本件口頭弁論期日において時効を援用した。
 なお、後者が事実であれば、原告が陳述書及び証言において述べたマスコミに対する非難が、本件記事Aに対して向けられたものではないことは明らかである。
(原告の主張)
 民法724条にいう「被害者カ・・・・損害ヲ知リタル時」とは、被害者が損害の発生を現実に認識した時をいうところ、原告は平成13年12月19日に本件記事Aの存在を初めて認識したから、同日から消滅時効が進行する。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件記事@等は原告の名誉を毀損するものか)について
(1) 「愛人」等の記述について
ア まず、本件記事@、本件表紙及び本件広告における「Dの元愛人」との記載(本件タイトル)、本件記事@におけるDとの不倫が報じられたこともあった旨の記述(本文)、原告が男性関係で失敗した旨の記述(本文)、結婚していたにもかかわらずDとの不倫が報道され愛人扱いもされた旨の記述(本文)は、原告が過去にDと不倫関係にあったとの事実を摘示したものであることは明らかで、一般人に対し、このような不倫関係が存在したとの印象を与え、原告の名誉を毀損するものというべきである。
イ これに対し、被告らは、原告とDとの関係はすでに多くのメディアにより報道されており、世間一般に広く知れ渡っていることであるから、本件記事@により原告の社会的評価が低下することはないと主張する。
 そこで、原告とDとのこれまでの報道内容(以下「既報記事」という。)を検討する。平成5年8月に、原告がDと食事をした後同選手の自宅マンションに赴いたことをもって「不倫デート」などと週刊誌等で一斉に報じられたこと(乙1号証の1ないし6)、平成6年1月に、Dに原告以外に「本命」の女性がいるとの噂があると報じられたこと(乙1号証の7)、同年7月、8月、9月に、Dが原告以外の女性との関係を取り沙汰されたことを契機に、原告とDとの不倫関係が続いていると報じられたこと(乙1号証の8ないし10)、平成8年11月、「消えた美人キャスター10人」という記事において原告が取り上げられた際に「Dとの中を写真週刊誌にスッパ抜かれたことでも有名」と触れられたこと(乙1号証の11)、平成9年9月には、Dの夫婦関係が良好でないことを主題とした記事において、その原因の1つとして原告との関係が続いていることが報道された(乙1号証の12)ことが認められる。
 ところで、上記のとおり原告とDとの関係が話題となったのは平成5年8月であるところ、本件雑誌が発売されたのは平成13年12月であり8年間以上の隔たりがあり、直近の報道(乙1号証の12)でも平成9年9月であり、本件雑誌の発売とは4年以上の隔たりがある。そして、既報記事のうち初期の報道は、原告とDとの不倫を主題としてものであったが、平成6年以降の記事は、Dと他の女性との関係を報じるにあたって原告を引き合いに出したものや、原告を紹介するにあたって平成5年8月の報道に触れたものにすぎない。
 一方、本件記事@の主題は、本件映像に関するものであることは明らかであり、既報記事の報道内容とは質的に異なる上、原告が「Dの元愛人」であったか否かにより、その記事の内容に変化をきたすものとは認められない。そして、週刊アサヒ芸能と既報記事の雑誌(乙1号証の1ないし12)の読者層が同一とは限らず、上記のとおり既報記事の報道時期と本件雑誌の発売時期とは相当間隔があいていることの諸点を考慮すれば、既報記事をもって原告の社会的評価がすでに低下していて本件記事@によって新たに原告の社会的評価が低下することはない、ということはできない。
ウ なお、被告らは、その主張のアにおいて、原告は有名な女子アナウンサーとして活躍しているから、有名タレントと同様に新聞、雑誌等の記事の対象になることを容認していたとか、過去の報道について何ら名誉回復のための措置を取っておらず、Dとの関係が報じられることについて包括的に容認していたなどと主張しているが、有名なアナウンサーだからといって名誉やプライバシーが当然に保護されないということはないし、また、平成5年当時に原告が既報記事に対して法的手段等を採らなかったことをもって、その報道内容を容認したことになるものではないことも当然である。したがって、被告らの上記主張を採用することはできない。
(2) 本件映像に関する記述について
ア 次に、本件記事@、本件表紙及び本件広告における「Aアナを襲うこれが『乳首モロ出し画像』だ!」との記載(本件タイトル)について検討すると、この記載は、原告の乳首が映った映像が存在し、その映像が本件雑誌に掲載されているとの事実を摘示したものと認められ、このタイトルだけを読んだ一般読者にその様な印象を与えるものであり、これにより女性としての原告の社会的評価を下げ、その名誉を毀損するものと認めるのが相当である。
 これに対し、被告らは、本件タイトルの趣旨は、原告が映っていないにもかかわらず映っているとして話題になっていた本件映像に原告が襲われていること、すなわち、本件映像によって原告が被害にあっていることを示すものであると主張する。しかし、本件タイトルのみを目にした一般読者の通常の読み方を基準とすると、「乳首モロ出し画像」との表現は、誰の映像か明記されていないこともあって、通常その上部に氏名が記載されている原告の映像であるとの印象を抱かせるものであり、「襲う」との表現も、原告が自身の「乳首モロ出し画像」を暴露されているとの印象を強めるものであると解されるのであって、一般読者に被告らが主張するような印象を抱かせるものではないというべきである。
イ 他方、本件記事@の本文は、冒頭部分で本件映像が原告を映したものであるかのような記述がなされているものの、本件番組のプロデューサーが本件映像が資料映像であると述べた旨が明確に記載されており、それを前提として、原告を映した画像であると誤解されることは容易に想像でき、原告が「今回の事件」の被害者であることや、本件映像がインターネット上で取引されていることなどの記述がなされているのであって、これらの記述は、テレビ朝日の本件番組で、原告の乳首を映したものと一般視聴者に誤解されるような画像が放送されたことや、インターネット上でそのような誤解を前提として画像が取引されていることなどを報道したものであり、原告の名誉を毀損するものとはいえない。
ウ(ア) ところで、雑誌の表紙や広告などに掲記される記事のタイトルは、一般的に、限られた字数の中で記事内容を要約する必要からある程度の省略がなされることがあり、また、読者の関心をひいて購買意欲をそそるためしばしばある程度の誇張や脚色を伴った表現がなされることもあるところ、一般読者もそのような認識に基づいて記事のタイトルを判断するのが通常であると考えられる。そこで、当該記事及びそのタイトル(見出し)が第三者の名誉を侵害するものであるか否かを判断する場合には、タイトルの内容が、記事全体の内容をある程度省略したものであったり、多少の誇張はあるものの本文記事の内容と概ね一致する場合には、これらを一体として判断するのが相当であるが、タイトル(見出し)が記事全体の内容と一致しないものであったり、過度に誇張・脚色がなされているため、一般読者に記事全体から受ける印象と全く異なる印象を与えるような場合には、そのタイトルは、本文記事とは別個の表現物として、独立の判断対象とするのが相当である。
(イ) これを本件についてみると、前記のとおり、本件タイトルの摘示内容は、本件記事@の内容と正反対の内容を持つものと考えられるから、両者を一体の表現物として評価するのは相当でなく、別個の表現物として評価すべきである。そして、上記アで認定判示したとおり、本件タイトルは原告の名誉を毀損するものと認められるところ、本件記事@の本文を読めば、一般読者の誤解は解消されるであろうが、電車の中吊り広告や本件表紙を見た読者が全て本件記事を読むとは限らないから、本件記事@の内容が誤解を与えるものでないとしても、本件タイトルによる原告の名誉毀損を否定することはできないというべきである。
2 争点2(本件記事Aは原告の名誉を毀損するものか)について
(1) 本件記事Aの内容は、争いのない事実等(3)に記載したとおりであり、人妻である原告が、Dのマンションに通うなど平成5年8月当時に取り沙汰された関係が平成6年7月時点でもまだ続いていて、夫とは別居していることなどの事実を摘示し、一般読者に対して、原告が結婚しているにもかかわらず不倫相手のマンションに通っているとの印象を与えるものである。さらに、そのタイトルにおいて「通い同棲中」との表現が用いられており、原告が「同棲」と評されるほど足繁くDのマンションに通っているとの印象を与えている。
 このような印象を与える本件記事Aにより、原告の社会的評価が低下することは明らかである。
(2) 被告らは、本件記事@について主張したのと同様、原告とDとの関係はすでに報道により世間一般に知れ渡っているところであり、本件記事Aは原告の社会的評価をさらに低下させるものではないと主張する。
 しかし、本件記事Aは平成6年7月に発売された週刊アサヒ芸能に掲載されたところ、それ以前に報道されていたのは、上記1(1)イで認定したとおり、平成5年8月に原告がDと食事をした後同選手の自宅マンションに赴いたことをもって「不倫デート」などと報じた複数の記事(乙1号証の1ないし6)のほか、平成6年1月にDには原告以外に「本命」の女性がいるとの噂があることなどを報じた記事(乙1号証の7)のみである。
 しかも、本件記事Aは、Dとの関係が大きく報じられた時期から1年近く経過した後のものであることや、既報記事がDとの関係の継続性を指摘していないのに対して、本件記事Aは同時期からDとの関係が継続しているとの事実を新たに摘示し、原告がDのマンションに足繁く通っていることや夫と別居していることなどを紹介することによって、その確実性を強く印象づける結果になっていることなどの事情からすると、本件記事Aは、原告の社会的評価をさらに低下させたものといえる。
3 争点3(慰謝料及び名誉回復措置)について
(1) 慰謝料について
 甲8号証、甲11号証、原告本人尋問の結果によれば、原告は、Dとの関係について報道されたことにより、平成5年12月にテレビ朝日を退社し、私生活においても平成7年5月に離婚を余儀なくされ、カウンセリングを受けるなどしていたが、平成11年4月に慶應義塾大学に入学し、将来に対する希望を持つことができる心理状態になって、平成12年10月から、夕方の報道番組である本件番組のレポーターとしてテレビ朝日に復帰したことが認められる。
 そして、本件記事Aは、平成5年8月に原告とDとの関係が複数の週刊誌等で大きく報道されていた時期から1年近く経過し、世間の原告に対する関心が薄らいできたと考えられる時期に出されたものである。また、既報記事に新たな事実を付け加えるものではあるが、既報記事の内容と同趣旨のものである。更に、本件記事Aの掲載された週刊アサヒ芸能が発売されてから、既に8年以上が経過している。
 また、本件記事@は、テレビ朝日に復帰後1年程度の時期に出されたものであり、原告本人尋問の結果によれば、本件記事@により仕事の量は特に変わらないというものの、原告は萎縮し、また所属事務所のマネージャーから仕事がしにくくなったと言われるなど、原告の仕事や私生活に影響を与えていることが認められる。
 他方、本件記事@のうちDとの関係は過去に報じられたものであること、記事本文を併せて読めば、本件タイトルのうち本件映像に関する部分を誤解することはないこと、新聞紙上に本件広告が出されたのがスポーツ新聞4紙の東京版・大阪版のみであることなどの事情も認められる。
 上記の各事情及び、前示の認定事実に係る諸般の事情を総合考慮すれば、原告の受けた精神的苦痛を慰謝すべき慰謝料の金額は、本件記事@等のタイトルについては150万円、本件記事Aについては100万円をもって相当と認める。
(2) 謝罪広告について
 本件記事@による原告に対する名誉毀損の態様、その程度及びその影響、原告の職業活動の状況や知名度、本判決により上記の慰謝料の支払が命ぜられること、その他本件に顕れた諸般の事情を総合考慮すれば、原告の名誉を回復するために原告が求めている謝罪広告を必要とするとは認められない。
(3) 弁護士費用について
 本件訴訟における認容額、訴訟追行の難易、その他本件に顕れた諸般の事情を総合考慮すれば、被告らの不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は、本件記事@等については20万円、本件記事Aについては10万円をもって相当と認める。
4 争点4(消滅時効)について
(1) 民法724条にいう「損害及ヒ加害者ヲ知リタル時」とは、被害者において、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に、その可能な程度にこれらを現実に知った時を意味するものと解するのが相当である(最判平成14年1月29日・民集56巻1号218頁参照)ところ、甲6号証、甲8号証、甲13号証、原告本人尋問の結果によれば、原告は、平成13年12月19日ころ、本件記事Aの存在を知ったことが認められる。
(2) この点について、被告らは、原告が陳述書に「私たちの結婚生活は、あなた方によって治ることのない大きな傷を負わされたのです。」と記述していることをもって、遅くとも平成7年5月に本件記事Aの存在を知っていたと主張するが、この陳述書は、原告が平成5年8月当時報道された記事の影響を受けて原告の結婚生活が破綻するに至った旨を記述したにすぎず、個別的に各記事を知っていたことを記述したものではないこと、本件記事Aについては、上記記述の前に「テレビもみない、週刊誌もよまない生活をしていた私は知りませんでしたが・・・(中略)、あなたがたアサヒ芸能編集部は、翌1995年(1994年の誤り)になってもまだ、まったく根拠の無い誹謗中傷を書き続けていたのですね。」と明確に記述しているとおり、知らなかったものとしているのであって、原告が平成7年5月当時本件記事Aの存在を知っていたと認めることはできない。
(3) そうすると、本件記事Aによる名誉毀損に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点は、平成13年12月19日であり、原告が本件訴訟において本件記事Aについての請求を追加したのは平成14年6月25日である(当裁判所に顕著な事実)から、未だ消滅時効が完成していないことは明らかである。被告の上記主張を採用することはできない。
第4 結論
 以上によれば、原告の請求は、被告らに対して連帯して170万円及び本件記事@の不法行為日である平成13年12月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、被告徳間書店に対して110万円及び本件記事Aの不法行為日の後である平成6年7月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、この限度で認容し、その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条、65条1項を、仮執行の宣言につき同法259条1項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第48部
 裁判長裁判官 須藤典明
 裁判官 鳥居俊一
 裁判官 高橋純子


別紙1
謝罪広告掲載条件
・掲載媒体は、被告株式会社徳間書店が発行する「週刊アサヒ芸能」誌とする。
・掲載場所は、表紙4面(いわゆる裏表紙)の全面を用いること。
・掲載回数は1回とする。
・字画は、「謝罪広告」との題字は明朝体24ポイント、その他の本文は明朝体12ポイントを用い、相応の間隔をとって掲載すること。

別紙2
謝罪広告
 平成 年 月 日
 A様
 私たちは、平成13年12月11日発売の「週刊アサヒ芸能」56巻48号(平成13年12月20日号)29頁ないし31頁に、A氏がプロ野球球団所属のD氏と愛人関係にあったとする記事を掲載し、またこれと同趣旨の新聞広告・中吊り広告を各スポーツ新聞及び列車内に掲載しましたが、右記事及び広告は全く事実無根でありました。また、右記事及び広告には、A氏の胸部裸体を撮影した画像が現実に存在し、右画像が同誌に掲載されているかの如き誤った認識を流布する、不適切な表現がありました。
 私たちは、これらの誤った記事及び広告によりA氏の名誉を著しく毀損し、A氏及び関係者の皆様に多大なご迷惑をお掛けしたことを深く反省し、ここに心からお詫び申し上げます。

 東京都港区a丁目b番c号
 株式会社徳間書店
 代表者代表取締役 G
 週刊アサヒ芸能編集人 C
 週刊アサヒ芸能記者 B
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