判例全文 line
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【事件名】カラオケ無断使用事件(カラオケリース業者)
【年月日】平成15年2月13日
 大阪地裁 平成14年(ワ)第9435号 著作権侵害差止請求事件
 (口頭弁論終結日 平成14年12月2日)

判決
原告 社団法人日本音楽著作権協会
訴訟代理人弁護士 田中豊
同 北本修二
同 七堂眞紀
被告 株式会社ヒットワン
訴訟代理人弁護士 山本恵一


主文
1 被告は、別紙「無許諾店舗一覧表」記載の店舗に対し、別紙「楽曲リスト」記載の音楽著作物のカラオケ楽曲データ(歌詞データを含む。)の使用禁止措置(通信回線を経由して一定の信号を送信することによってカラオケ用楽曲データの再生を不可能にする措置)をせよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨の判決及び仮執行の宣言
第2 事案の概要
 本件は、音楽著作権の管理等を目的とする音楽著作権等管理事業者である原告が、通信カラオケ装置のリース業を営む被告に対し、被告が原告の管理に係る音楽著作物の使用について許諾を得ていない社交飲食店93店舗に対し通信カラオケ装置をリースしているとして、著作権法112条1項に基づいて、同飲食店に対して同音楽著作物のカラオケ楽曲データ(歌詞データを含む。)の使用禁止措置をとることを請求している事案である。
1 争いのない事実等
(1) 当事者
ア 原告は、著作権等管理事業法(平成12年法律第131号)に基づき、文化庁長官の登録を受けた音楽著作権等管理事業者(ただし、平成13年9月30日までは「著作権に関する仲介業務に関する法律」(昭和14年法律第67号)に基づき、著作権に関する仲介業務をすることの許可を受けた我が国唯一の音楽著作権仲介団体)であり、内国著作物については、管理委託契約により国内の多くの作詞者、作曲者、音楽出版者等の著作権者から著作権ないしその支分権(演奏権・上映権・録音権等)につき信託を受け、外国の著作物については、我が国が締結した著作権条約に加盟する諸外国の著作権仲介団体との相互管理契約を締結するなどしてこれを管理し、国内の放送事業者を始め、レコード、映画、出版、興行、社交場、有線放送等各種の分野における音楽の利用者に対して、音楽著作物の利用を許諾し、その対価として利用者から使用料を徴収するとともに、これを内外の著作権者に分配することを主たる目的とする社団法人である。
 そして、別紙「楽曲リスト」記載の音楽著作物は、いずれも原告がそれぞれの著作権者から著作権の信託を受けて著作権を管理する音楽著作物(以下「管理著作物」という。)の一部であるところ、これらはスナック等の社交飲食店において演奏・上映された利用実績を有する主要な楽曲であって、日常的に反復利用されている。
イ 被告は、音響機器のリース及び販売等を目的として平成10年7月8日に設立された会社(平成13年3月1日に有限会社から株式会社に組織変更)であって、スナック等の社交飲食店に対し、業務用通信カラオケ装置をリース又は販売した上でカラオケ用楽曲データ(歌詞データを含む。以下「楽曲データ」という。)を提供するいわゆる通信カラオケリース業者である。
(2) 通信カラオケのシステム
ア 通信カラオケとは、音楽著作物をコンピュータの記憶装置にデータベースの構成部分として複製し、それを送受信装置を用いて有線送信して利用に供するシステムをいう。通信カラオケにより音楽著作物を演奏・上映して利用するには、従前のカラオケ装置と同様、マイク、スピーカー、モニターテレビが必要であるが、その外に端末機と呼ばれる受信・再生用機器が必要となる。
イ 通信カラオケには、端末機に楽曲データを大量に記録することができるハードディスクが内蔵されていて、出荷時にそれまでに作成された楽曲データをあらかじめ蓄積し、また、その後に作成された楽曲データについても配信を受けて蓄積することができ、ユーザーによる利用の都度ホストコンピュータにアクセスする必要のない「蓄積型」と、端末機にハードディスクが内蔵されておらず、原則としてユーザーによる利用の都度ホストコンピュータにアクセスし、楽曲データの配信を受ける必要のある「アクセス型」とが存するが、現在の業務用通信カラオケは、ほとんどすべてが「蓄積型」であるといってよい。
ウ 蓄積型、アクセス型のいずれであるかにかかわらず、通信カラオケを利用するには、カラオケ装置のリースを受けるだけでなく、楽曲データに関する通信サービスの提供を受ける必要がある。そのために、社交飲食店の経営者は、通信カラオケリース業者との間で、通信サービスの提供を受けることを目的とする契約(以下「通信サービス提供契約」という。)を締結することとなる。そして、カラオケ装置のリース契約と通信サービス提供契約との2つの契約について、これらを別個の契約書によって締結する方式と1通の契約書によって締結する方式とがあり(別個の契約書による場合には、カラオケ装置のリース料金と楽曲データの通信サービス料金とは別個に設定され支払われるが、1通の契約書による場合には、これら2料金が一体として設定され支払われることが多い。)、現在では後者の方式が一般的であり、被告においても、平成14年春ころ以降は後者の方式により契約している。
エ 通信カラオケ用の楽曲データは、「通信カラオケ業者」と呼ばれる者(株式会社第一興商、株式会社ユーズ・ビーエムビーエンタテイメント、株式会社エクシングがその三大業者)が、著作権者から複製権及び公衆送信権の許諾を得て作成し、自らの製造に係るカラオケ装置のハードディスクに搭載するなどした上、通信カラオケリース業者に対し、カラオケ装置を販売する。
 新譜の楽曲データ(社交飲食店に設置された端末機のハードディスクに蓄積した後に通信カラオケ業者によって作成された楽曲データ)は、逐次、通信回線を経由して社交飲食店に送信され、端末機のハードディスクに蓄積される。
オ 通信カラオケリース業者は、社交飲食店の経営者との間で通信サービス提供契約を締結すると、その事実を通信カラオケ業者に連絡する。通信カラオケ業者がこの連絡を受けた後に、通信回線を開通させてカラオケ装置を作動可能な状態にすると、当該社交飲食店における利用が可能になる。
カ 通信カラオケリース業者は、リース料の支払が遅滞するなどの事態が生じた場合には、通信回線を経由して一定の信号を送信することによって、社交飲食店に設置された装置を使用して再生(演奏・上映)できないよう制御する(一般に「ロックする」という。)ことができる。この措置がとられた場合には、社交飲食店に設置された端末機のハードディスクに既に蓄積されている楽曲データの利用も不可能になる。
(3) 別紙「無許諾店舗一覧表」記載の各店舗(以下「本件各店舗」という。)は、いずれも、被告との間で、通信カラオケ装置のリース契約を締結し、併せて通信サービス提供契約を締結した上で、被告からリースを受けた通信カラオケ装置を店舗内に設置し、楽曲データの配信を受けている。
 本件各店舗の経営者は、原告から使用許諾を得ることなく、社交飲食店営業として、上記通信カラオケ装置を使って管理著作物である歌詞・楽曲を演奏・上映し、同楽曲を伴奏として客や従業員に歌唱させている(弁論の全趣旨)。
2 争点
(1) 被告が管理著作物の利用主体であるとして、原告は被告に対して、楽曲データの使用禁止措置をとるよう請求することができるか。
(2) 被告が飲食店における管理著作物の利用につき幇助ないし教唆を行う者であるとして、原告は被告に対して、楽曲データの使用禁止措置をとるよう請求することができるか。
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(被告が管理著作物の利用主体であることを理由とする楽曲データの使用禁止措置の請求の可否)について
〔原告の主張〕
(1) 通信カラオケリース業者は、次のとおり、社交飲食店における音楽著作物の利用につき、社交飲食店の経営者と並ぶ主体ということができるから、著作権者は、通信カラオケリース業者に対し、著作権侵害の正犯としてその行為の停止を求めることができる。したがって、原告は、通信カラオケリース業者である被告に対し、著作権侵害の停止の実効性を確保するという観点から、被告が最も容易に実行することの可能な楽曲データの使用禁止措置(前記第2の1(2)カにいう「ロックする」措置)をとるよう請求することができる。
(2) 通信カラオケリース業者の利用主体性
ア 「管理・支配」の帰属
 通信カラオケリース業者は、以下に挙げるように、社交飲食店における音楽著作物の利用につき、強い「管理・支配」の権能を有している。
(ア) 通信カラオケリース業者は、社交飲食店に対し、リース契約及び通信サービス提供契約に基づき、通信カラオケ装置及び楽曲データを提供するのであり、社交飲食店において音楽著作物の利用が可能になるのは、通信カラオケリース業者の指示によって通信回線が開通しカラオケ装置が作動可能な状態になった場合に限られる。
(イ) 社交飲食店において演奏・上映し得る楽曲は、通信カラオケリース業者が社交飲食店に対して提供する楽曲データの範囲内に限られる。
(ウ) 通信カラオケリース業者は、社交飲食店に対し、客に歌唱させる以外の目的で通信カラオケ装置及び楽曲データを使用してはならない旨の制約を課している。
(エ) 通信カラオケリース業者は、カラオケ装置の保守・点検を行い(コイン・ボックスのあるカラオケ装置の場合、その鍵は、原則として、通信カラオケリース業者が保管している。)、他方、社交飲食店は、通信カラオケリース業者に対して善管注意義務を負う。
(オ) 通信カラオケリース業者は、契約上、リース契約が解除された場合にカラオケ装置を社交飲食店から引き揚げる権限を有するばかりでなく、リース契約が解除された場合でなくても、社交飲食店に債務不履行があるときには、楽曲データをロックする措置をとることによって、簡単に当該社交飲食店における音楽著作物の演奏・上映を完全に停止させることができる。
イ 「利益」の帰属
 リース料金の体系が定率制によっている場合(社交飲食店が客からカラオケ使用料として収受した金員の一定割合をもってリース料金とするという契約の場合)には、カラオケ演奏・上映による収益の多寡が通信カラオケリース業者の収受するリース料金の多寡に反映されるから、カラオケ店舗における演奏・上映によって通信カラオケリース業者に直接的に利益が帰属することは明らかである。
 定額制の場合であっても、社交飲食店において演奏・上映がされることが前提になって初めてリース契約の締結に至り、リース料金を収受することができるという関係があるから、少なくとも間接的な利益が通信カラオケリース業者に帰属するということができる。
(3) 上記アの「管理・支配」の帰属についてみると、通信カラオケリース業者が社交飲食店における音楽著作物の演奏・上映という形での利用に対して有する権能は、利用の始期を決定し、利用される音楽著作物の範囲(外延)を決定し、音楽著作物の利用を停止させるべき事由が生じた場合に、楽曲データをロックするという技術的方法によって極めて容易にこれを実現することができる、というところに集約することができる。
 次に、上記イの「利益」の帰属についてみると、リース料金の体系が定率制である場合は直接的に、定額制である場合(被告の場合も定額制である。)であっても、間接的に通信カラオケリース業者に経済的利益が帰属している。
 通信カラオケリース業者の行為をみると、社交飲食店に比較してその利用主体性が直接的でないことは当然であるが、上記ア及びイを総合的に斟酌すると(特に、楽曲データをロックするという技術的方法によって極めて容易に著作権侵害の結果の発生を停止させ、予防することができるという点に着目して)、利用主体性を肯定するのが相当である。
 なお、最高裁平成13年2月13日第3小法廷判決・民集55巻1号87頁(ときめきメモリアル事件最高裁判決)は、専らコンピュータ用ゲームソフトの改変のみを目的とするメモリーカードを輸入、販売し、他人の使用を意図して流通に置く行為につき、「他人の使用によるゲームソフトの同一性保持権の侵害を惹起」する行為であるとし、その理由中で、「本件メモリーカードの使用により本件ゲームソフトの同一性保持権が侵害されたものということができ、上告人の前記行為がなければ、本件ゲームソフトの同一性保持権の侵害が生じることはなかったのである。」と判示した。
 通信カラオケリース業者は、上記のメモリーカードの輸入販売業者よりもはるかに大きな管理・支配権能を有しており(継続的にカラオケ機器の保守・点検をし、楽曲データを提供している上、無許諾店舗を識別し、当該店舗に対してのみ楽曲データの配信を停止することができる。)、また、利益の帰属も認められるから、通信カラオケリース業者に利用主体性を肯定するのが相当である。
〔被告の主張〕
 原告の主張は争う。
 被告は、通信カラオケリース業者として、本件各店舗における音楽著作物の利用につき、カラオケ装置をリースし、楽曲データを提供しているにすぎず、著作権侵害の正犯ということはできないから、原告は被告に対し楽曲データの使用禁止措置を求めることはできない。
 原告は、著作権侵害を現に行っている社交飲食店に対し、直接、著作権侵害の是正措置を求める努力をすべきであり、それでも是正されないときは、当該社交飲食店に対し、その行為の停止を求める法的措置をすべきであり、それらの手続をとることなく、通信カラオケリース業者である被告に対して楽曲データの使用禁止措置を求めることは許されないと解すべきである。
2 争点(2)(被告が管理著作物の利用につき幇助ないし教唆を行う者であることを理由とする楽曲データの使用禁止措置の請求の可否)について
〔原告の主張〕
(1) 争点(1)の〔原告の主張〕のように、通信カラオケリース業者を音楽著作物の利用主体とみるという立場に立たず、著作権侵害に不可欠な道具の提供者であって、著作権侵害の従犯(幇助者ないし教唆者)と位置付ける立場に立つとしても、以下に詳述するとおりの理由で、著作権者は、著作権侵害の従犯に対し、従犯のする具体的行為の差止請求をすることができる。したがって、原告は、通信カラオケリース業者である被告に対し、無許諾店舗に対して楽曲データの使用禁止措置をとるよう請求することができる。
(2) 従犯に対する差止請求
ア 著作権法112条1項の文言解釈
 著作権法112条1項は、物権的権利(排他権)である著作権につき、理論上当然に認められる妨害排除請求権及び妨害予防請求権を条文上明確にしたという性格の条項である。
 そうすると、ここでの解釈論としての問題は、同項にいう「著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」に、著作権侵害行為に関与する者のうちどのような関与をする者が包摂されるのかという問題に帰着することになるが、条文の文言上、著作権侵害の幇助ないし教唆として類型化することのできる行為をする者を包摂すると解することに障害はない。現に、ドイツ連邦最高裁(BGH)は、1955年5月18日のグルンディヒ・レポーター事件判決において、著作権侵害者に対する差止請求の根拠法条は一般法であるドイツ民法(BGB)1004条であるとした上、同条にいう「妨害を行う者」には間接的であっても保護されるべき財産権の侵害を招いた者が含まれるとし、幇助ないし教唆として類型化される行為をする者を排斥するものではないとの解釈を明らかにしている。
 我が国の著作権法112条1項は、排他権として理論上当然の事理を確認したものにすぎないのであるから、ドイツ連邦最高裁が判示するように、同項にいう「著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」に幇助ないし教唆として類型化される行為によって著作権侵害に関与する者が含まれるとする解釈は、むしろ、文言上自然なものというべきである。
 なお、我が国の民法理論上、物権侵害の幇助ないし教唆として類型化される行為をする者に対し、物権的請求権である妨害排除請求権及び妨害予防請求権の行使として、当該具体的行為の差止めを求めることを否定すべき理由はない。
イ 著作権法に特許法101条のようないわゆる間接侵害規定がないこと
 特許法の規定との関係を議論するときに注意すべきは、ここで問題としているのは、著作権侵害の結果が発生している場合に、そのために不可欠な道具を提供する者に対して、その提供行為の差止めを求めることができるかというものであることである。
 著作権者が著作権侵害の結果が発生しているかどうかと関わりなく一定の類型の行為の差止めを求めるというのであれば、そのような請求権の発生を認める特別の根拠規定が必要であろう。特許法の規定は、間接侵害として規定した行為を独立した特許権侵害形態として認めたものである。
 しかし、著作権侵害に不可欠な道具を提供する通信カラオケリース業者に対し、無許諾店舗へのカラオケ装置の提供を停止すべき旨求めるのは、特許法の規定する間接侵害行為に対する独立した差止請求とは全く性質が異なる。特許法101条のようないわゆる間接侵害規定がないことは、通信カラオケリース業者に対する差止請求を否定する根拠にならないことは明らかである。
ウ 著作権保護の実効性の確保
 「著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与する」という著作権法1条に規定する法の目的を実現するのに最も重要なことは、著作権侵害を排除し又は予防するために実効性のある法的手段を確保することである。
 比較法的にみても、著作権侵害の幇助ないし教唆として類型化される行為に対する差止請求については、ドイツにおいては、前述したように連邦最高裁がドイツ民法1004条を根拠にこれが認められることを明らかにしているし、アメリカ合衆国においては、寄与侵害(Contributory Infringement)又は代位責任(Vicarious Liability)の法理の下に、判例法上これが認められることが確定している。また、イギリスにおいては、「著作権、意匠及び特許に関する法律」96条2項に著作権の二次的侵害者に対して差止請求をし得る旨の明文の規定を置き、この問題を立法的に解決している(本件で問題となっている通信カラオケリース業者は、その26条2項の規定する「著作権を侵害する公の実演のために装置を提供する者」に当たる。)。
 無許諾の社交飲食店における著作権侵害は、通信カラオケリース業者から当該店舗にカラオケ機器が引き渡されて楽曲データの提供がされた時点からこれが停止されるまでの間継続して行われる。そして、被告のリース先店舗についてみても、無許諾店舗が現在もなお93店舗もある。著作権者がこれら無許諾店舗一つずつを相手として無許諾利用の停止を実現するには、膨大な費用と労力とを要し、現実的なものではないとすらいうことができる。通信カラオケリース業者に対する無許諾店舗への楽曲データの使用禁止措置を命ずるという方法によれば、このような膨大な著作権侵害を効果的に減少させることができるのである(無許諾店舗93店を相手方として差止めを求める本訴又は仮処分を提起するしかない場合と、1つの通信カラオケリース業者を相手方として無許諾店舗93店への楽曲データの使用禁止措置を求める本訴又は仮処分を提起する場合の、それぞれに要する費用と労力とを比較すれば、答えは自ずと明らかである。)。
 原告は、これまで全国で、個々の無許諾店舗に対する法的措置をも含めた地道な努力を続け、平成14年3月現在カラオケ適法利用率全国平均81.2%という実績を上げたのであるが、この数字は、逆に、このような長年にわたる原告の努力にもかかわらず、5店舗に1店舗は未だに無許諾店舗であることを示している。    
エ 通信カラオケリース業者の権利を侵害するおそれの有無
 無許諾店舗は、刑事上の犯罪行為である著作権侵害行為をしているのであり(著作権法119条)、そのような行為のために不可欠な道具を提供する行為が差し止められても、そこに権利侵害又は法的に保護された利益の侵害が起きることはない。
 そこで、被告のような通信カラオケリース業者の権利ないし法的保護に値する利益の有無が問題となる。通信カラオケリース業者に想定される利益は、唯一、著作権侵害に供されるカラオケ装置をリースし、楽曲データを利用させ続けることによって収受し得るリース料金等であるが、犯罪行為を幇助ないし教唆することによって得られる利得をもって法的保護に値する利益ということはできない。
オ 差止請求を認めない場合の著しい不合理の存在
 著作権侵害の従犯である通信カラオケリース業者に対する差止請求が認められないと仮定しても、著作権者が通信カラオケリース業者を相手方として、同人の負っている法的義務の確認を求める訴えを提起することを否定すべき理由はない。確認の利益は、原告の権利ないし法律的地位に不安が存し、かつ、その不安を除去する方法として原被告間でその訴訟物たる権利ないし法律関係の存否の判決をすることが有効適切であるという場合に認められるのであり、損害賠償金の給付を求める給付判決で必要にして十分であるといえないことは明らかであるからである。
 通信カラオケリース業者は、リース先の店舗が無許諾でカラオケ装置を利用していることを認識した場合には、カラオケ機器を引き揚げる、楽曲データの送信をロックするなどして、著作権侵害を生じさせない措置を講じるべき条理上の注意義務を負っている。そこで、著作権者は、カラオケリース業者を相手方として、同人の負っているこのような法的義務の確認判決を求めて訴えを提起することになる。
 しかし、このような確認判決は、著作権保護の実効性確保という観点からすると迂遠なものであるし、このような確認の訴えを許容しながら差止請求を許容すべきでないとする実質的な根拠はない。
カ 被告の著作権侵害の認識
 別紙「無許諾店舗一覧表」は、当庁の平成14年(モ)第1976号証拠保全申立事件の同年4月24日の検証期日に、被告から原告に対して任意に提出されたリース契約書(原本又は控え)によって作成したものであるところ、その後、被告は、原告から同別紙記載の本件各店舗が無許諾利用店舗である旨の通知を受け、自ら各店舗に事実関係の確認をしているから、現在では、無許諾利用店舗であることを明確に認識しながら、本件各店舗に対し、カラオケ装置をリースし、楽曲データを提供しているのである。
(3) 以上の次第で、通信カラオケリース業者を著作権侵害の従犯と位置付けた場合にも、著作権者は、通信カラオケリース業者を相手方として、そのリース先である無許諾店舗に対するカラオケ装置の提供を停止すること及び楽曲データの使用禁止措置をとることを請求することができると解すべきことが明らかである。
〔被告の主張〕
 原告の主張は争う。
 被告が本件各店舗における管理著作物に係る著作権侵害行為の正犯に当たらない以上、被告に対し、楽曲データの使用禁止措置を求めることはできないというべきである。
第4 争点に対する判断
 原告は、本件各店舗においてその経営者が原告から使用許諾を得ることなく通信カラオケ装置を使って管理著作物の利用を行っていることにつき、被告が管理著作物の利用主体であること(争点(1))、又は、被告が管理著作物の利用につき幇助ないし教唆を行う者であること(争点(2))を理由として、著作権法112条1項に基づき、被告に対し楽曲データの使用禁止措置をとることを請求するものである。
 当裁判所は、被告は、管理著作物の利用主体、したがって著作権侵害行為の主体そのものとみることはできないが、本件各店舗による管理著作物の利用を幇助する者であり、その支配の内容、程度等に照らして、原告は被告に対し楽曲データの使用禁止措置をとることを求め得ると判断する。その理由は以下のとおりである。
1 本件各店舗による著作権侵害行為
 前記第2の1「争いのない事実等」(3)によれば、本件各店舗は、いずれも、被告との間で通信カラオケ装置のリース契約を締結し、併せて通信サービス提供契約を締結した上で、被告からリースを受けた通信カラオケ装置を店舗内に設置し、楽曲データの配信を受け、原告から使用許諾を得ることなく、社交飲食店営業として、上記通信カラオケ装置を使って管理著作物である歌詞・楽曲を演奏・上映し、同楽曲を伴奏として客や従業員に歌唱させているものである。
 本件各店舗の経営者が、上記のように、原告の許諾を得ないで、社交飲食店営業として、カラオケ装置を利用して原告の管理著作物である歌詞・楽曲を上映又は再生し、同楽曲を伴奏として客に歌唱させるなど、管理著作物を公に上映又は演奏する行為は、管理著作物に係る演奏権ないし上映権の侵害に当たるものというべきである(最高裁昭和63年3月15日第3小法廷判決・民集42巻3号199頁、最高裁平成13年3月2日第2小法廷判決・民集55巻2号185頁参照)。
2 本件各店舗における楽曲データの使用に対する被告の関わり
 被告が、原告の管理著作物の楽曲データの使用に関して、どのように関与しているかについて検討する。
(1) 被告と本件各店舗との間の契約関係は、次のとおりである。
ア 被告は、本件各店舗との間でリース契約及び通信サービス提供契約を締結している。
 前記第2の1(2)イ記載のとおり、通信カラオケ装置には端末機に楽曲データを蓄積しておき、ユーザーはその楽曲データをもとに音楽を再生する「蓄積型」と、ユーザーが利用するたびに楽曲データの配信を受けてこれを再生する「アクセス型」とが存在するが、現在の業務用通信カラオケのほとんどすべてが「蓄積型」であることからすると、被告がリースしている通信カラオケ装置も「蓄積型」であると推認できる(被告は、特にこの点を争っていない。)。
 したがって、被告が、リース契約に基づき本件各店舗に対して賃貸しているのは、蓄積型の通信カラオケ装置と、その中に蓄積された楽曲データ(新譜として配信される楽曲についてのものも含む。)である。
イ 被告は、本件各店舗の経営者との間で通信サービス提供契約を締結すると、その事実を通信カラオケ業者に連絡し、通信カラオケ業者がこの連絡を受けた後に、通信回線を開通させてカラオケ装置を作動可能な状態にすると、本件各店舗におけるカラオケ装置の利用が可能になる(前記第2の1(2)オ)。
ウ 被告は、リース料の支払が遅滞するなどの事態が生じた場合には、通信回線を経由して一定の信号を送信することによって、本件各店舗に設置された装置を使用して再生(演奏・上映)できないよう制御する(一般に「ロックする」といわれている。)ことができ、この措置がとられた場合には、本件各店舗に設置された端末機のハードディスクに既に蓄積されている楽曲データの利用も不可能になる(前記第2の1(2)カ)。
(2) 被告と本件各店舗は、リース契約に際して、次のような合意をしている(甲6〜8、甲9の1・2)。
ア リース物件の鍵は、本件各店舗と被告が協議した上、その保管者を決定するものとするが、賃貸料債権を担保するため、原則として被告が保管することとする。被告は毎月1回、集金日に本件各店舗と被告の双方が立会い、リース物件を開扉することができる(リース契約書第2条(7)項)。
イ 被告は、本件各店舗がリース料の支払を1回でも怠ったとき、その他リース契約に定める各条項の1つにでも違反したときは、何らの通知・催告なく直ちにリース契約を解除することができる(同第8条)。
ウ リース物件を使用した本件各店舗又はその顧客による演奏及び歌唱については、本件各店舗の責任において原告との間で著作物使用許諾契約を締結するものとし、被告には何らの責任を負担させないものとする(同第17条)。
エ リース代金は毎月払いであるが、本件各店舗がリース代金を40日間延滞した時は、システムが停止される(同特約事項)。
(3) 被告と本件各店舗の間のリース契約におけるリース料は、客からカラオケ使用料として収受した金員の一定割合をもってリース料金とする定率制ではなく、毎月一定の額をもってリース料金とする定額制による方式で定められている(甲6〜8、甲9の1・2)。
(4) 被告は、原告の申立てにより被告を相手方として平成14年4月24日に実施された証拠保全(当庁平成14年(モ)第1976号証拠保全申立事件)による検証の際に本件各店舗が原告の許諾を得ていないことが確認されたにもかかわらず、依然として、本件各店舗に対しリース契約を継続して、通信カラオケ装置を提供し続けている(同証拠保全による検証の結果、弁論の全趣旨)。
(5) 本件各店舗においては、被告からリースを受けたカラオケ装置(同装置に蓄積された楽曲データを含む。)を設置することにより、同カラオケ装置を利用し楽曲データを再生して歌詞・楽曲を演奏・上映し、客ないし従業員が楽曲を伴奏として歌唱し、このことが飲食店の営業上の利益にも結びついているものと推認できる。また、弁論の全趣旨によれば、通信カラオケにより配信される楽曲データのうち97%が、原告の管理著作物であることが認められるから、本件各店舗において演奏・上映される楽曲データに係る歌詞・楽曲の大半が原告の管理著作物であるといえる。
3 被告による本件各店舗に対する管理・支配について
(1) 前記2の事実によれば、管理著作物に係る歌詞・楽曲を無断で演奏・上映するという著作権侵害行為は、直接的には本件各店舗の経営者が主体としてしているものというべきであるが、被告は、同著作権侵害行為について、次のような管理・支配をし、同無断演奏行為による利益を得ているということができる。
ア 被告は、本件各店舗に対し、本件各店舗において管理著作物に係る楽曲データを用いてカラオケ演奏を行うについて、必要不可欠といえるカラオケ装置(同装置に蓄積された楽曲データを含む。)を提供しており、本件各店舗においては、本件各店舗において演奏・上映し得る歌詞・楽曲は、被告が本件各店舗に対して提供する楽曲データの範囲内に限られる。
イ 通信カラオケリース業者である被告は、カラオケ装置の保守・点検を行い、他方、本件各店舗は、被告に対して善管注意義務を負っている。また、リース物件の鍵は、本件各店舗と被告が協議した上、その保管者を決定するが、賃貸料債権を担保するため、原則として被告が保管することとされ、被告は毎月1回、集金日に本件各店舗と被告の双方が立会い、リース物件を開扉することができる。
ウ 本件各店舗において楽曲データの利用が可能になるのは、被告の指示によって通信回線が開通しカラオケ装置が作動可能な状態になった場合である。また、被告は、契約上、リース契約が解除された場合にカラオケ装置を本件各店舗から引き揚げる権限を有するばかりでなく、リース契約が解除された場合でなくても、本件各店舗に債務不履行があるときには、楽曲データをロックする措置をとることによって、容易に当該店舗における楽曲データを利用した演奏・上映を完全に停止させることができる。したがって、被告は、リースしたカラオケ装置について、作動可能ないし作動不能を制御するという管理手段を有しているといえる。
エ 被告は、リース契約に基づき、本件各店舗から毎月一定額のリース料の支払を受けているが、前記のとおり、通信カラオケにより配信される楽曲データのうち97%が原告の管理著作物であることからすると、被告の得ているリース料は、通信カラオケ装置を賃貸することの対価であるものの、本件各店舗における原告の管理著作物に係る歌詞・楽曲の無許諾の演奏・上映行為と密接な結び付きのある利益とも評価できる。
(2) カラオケ装置のリース業者は、カラオケ装置のリース契約を締結した場合において、当該装置が専ら音楽著作物を上映し又は演奏して公衆に直接見せ又は聞かせるために使用されるものであるときは、リース契約の相手方に対し、当該音楽著作物の著作権者との間で著作物使用許諾契約を締結すべきことを告知するだけでなく、上記相手方が当該著作権者との間で著作物使用許諾契約を締結し又は申込みをしたことを確認した上でカラオケ装置を引き渡すべき条理上の注意義務を負うものと解される。その理由は、@カラオケ装置により上映又は演奏される音楽著作物の大部分が著作権の対象であることに鑑みれば、カラオケ装置は、当該音楽著作物の著作権者の許諾がない限り一般的にカラオケ装置利用店の経営者による前記1のような著作権侵害を生じさせる蓋然性の高い装置ということができること、A著作権侵害は刑罰法規にも触れる犯罪行為であること(著作権法119条以下)、Bカラオケ装置のリース業者は、このように著作権侵害の蓋然性の高いカラオケ装置を賃貸に供することによって営業上の利益を得ているものであること、C一般にカラオケ装置利用店の経営者が著作物使用許諾契約を締結する率が必ずしも高いとはいえないこと(原告の主張によれば平成14年3月現在の全国平均で81.2%)は公知の事実であって、カラオケ装置のリース業者としては、リース契約の相手方が著作物使用許諾契約を締結し又は申込みをしたことが確認できない限り、著作権侵害が行われる蓋然性を予見すべきものであること、Dカラオケ装置のリース業者は、著作物使用許諾契約を締結し又は申込みをしたか否かを容易に確認することができ、これによって著作権侵害のための措置を講ずることが可能であることを併せ考えれば、上記注意義務を肯定すべきだからである(最高裁平成13年3月2日第2小法廷判決・民集55巻2号185頁参照)。
 被告が本件各店舗との間でカラオケ装置のリース契約を締結するに当たり、本件各店舗の経営者において著作物使用許諾契約を締結し又は申込みをしたか否かを確認した事実をうかがわせる証拠はないから、被告は、上記注意義務を果たすことなく、原告から許諾を得ていない本件各店舗(93店舗)に対しカラオケ装置をリースしたものと認められる。
 そして、カラオケ装置のリース業者が、カラオケ装置利用店との間でリース契約を締結するに際し上記注意義務を怠ってカラオケ装置を引き渡した後に、カラオケ装置利用店の経営者が著作物の使用許諾を得ていないことを知った場合には、リース業者は、カラオケ装置利用店の経営者に対し、直ちに著作物使用許諾契約の締結を促し、著作権侵害の事態を除去すべきであるとともに、それでもカラオケ装置利用店の経営者が許諾を得ようとしない場合には、リース契約を解除し、本件のような通信カラオケ装置にあってはその使用の停止措置をとり、カラオケ装置を引き揚げるべき条理上の注意義務があるものと解するのが相当である。けだし、リース契約締結時に認められる注意義務を肯定すべき根拠として挙げた上記@ないしBの諸点は、この場合にも当てはまるものである上、既に著作権侵害行為が現実に継続して行われている蓋然性が高いことが明らかになったのであるから、リース業者としてはリース契約上の解除条項あるいは相手方が法令を遵守しないことを理由にリース契約を解除し、カラオケ装置の使用停止措置をとり、これを引き揚げることにより著作権侵害の拡大を回避すべきであり、かつ、リース業者がそのような行動をとることに格別の困難もないと考えられるからである。
4 著作権法112条1項にいう「著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」について
(1) 管理著作物に係る歌詞・楽曲の演奏・上映行為は、本件各店舗において、その従業員ないし客が楽曲を選択し、カラオケ装置を操作して演奏させ、従業員ないし客が歌唱することによって行われるものであって、被告は、カラオケ装置及び同装置に蓄積された楽曲データをリース契約及び通信サービス提供契約に基づいて提供しているものの、それ以上に、本件各店舗における演奏行為に関与するものではなく、いつ、どの楽曲を演奏するかについて個々のカラオケ楽曲の演奏行為に直接的な関わりを有するものではないから、被告が管理著作物に係る歌詞・楽曲の演奏・上映行為の直接的な行為主体であるということはできない。しかし、被告は、本件各店舗の経営者を主体とする歌詞・楽曲の演奏や上映による著作権侵害行為について、カラオケ装置及び楽曲データをリース契約及び通信サービス提供契約によって提供し、本件各店舗における歌詞・楽曲の演奏ないし上映を可能としているものであり、しかも、本件各店舗の経営者が原告から現に著作物使用許諾を得ていないことを知りながら、これらの提供を継続しているのであるから、本件各店舗の経営者がしている著作権侵害行為を故意により幇助している者であるということができる。
(2) 著作権法112条1項にいう「著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」は、一般には、侵害行為の主体たる者を指すと解される。しかし、侵害行為の主体たる者でなく、侵害の幇助行為を現に行う者であっても、@幇助者による幇助行為の内容・性質、A現に行われている著作権侵害行為に対する幇助者の管理・支配の程度、B幇助者の利益と著作権侵害行為との結び付き等を総合して観察したときに、幇助者の行為が当該著作権侵害行為に密接な関わりを有し、当該幇助者が幇助行為を中止する条理上の義務があり、かつ当該幇助行為を中止して著作権侵害の事態を除去できるような場合には、当該幇助行為を行う者は侵害主体に準じるものと評価できるから、同法112条1項の「著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」に当たるものと解するのが相当である。けだし、同法112条1項に規定する差止請求の制度は、著作権等が著作物を独占的に支配できる権利(著作者人格権については人格権的に支配できる権利)であることから、この独占的支配を確保する手段として、著作権等の円満な享受が妨げられている場合、その妨害を排除して著作物の独占的支配を維持、回復することを保障した制度であるということができるところ、物権的請求権(妨害排除請求権及び妨害予防請求権)の行使として当該具体的行為の差止めを求める相手方は、必ずしも当該侵害行為を主体的に行う者に限られるものではなく、幇助行為をする者も含まれるものと解し得ることからすると、同法112条1項に規定する差止請求についても、少なくとも侵害行為の主体に準じる立場にあると評価されるような幇助者を相手として差止めを求めることも許容されるというべきであり、また、同法112条1項の規定からも、上記のように解することに文理上特段の支障はなく、現に侵害行為が継続しているにもかかわらず、このような幇助者に対し、事後的に不法行為による損害賠償責任を認めるだけでは、権利者の保護に欠けるものというべきであり、また、そのように解しても著作物の利用に関わる第三者一般に不測の損害を与えるおそれもないからである。
(3) ところで、特許法は、直接的な侵害行為を行う者でない場合でも、業としてその物の生産(物の発明の場合)ないしその方法の使用(方法の発明の場合)にのみ用いる物の生産等をする行為や、その発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業としてその生産等をする行為を間接侵害として、特許権又は専用実施権の侵害とみなす旨の規定(平成14年法律第24号による改正後の特許法101条)を置いているが、同条は、特許権侵害に関する幇助的ないし教唆的行為のうち、侵害とみなす場合を規定したものと解することができる。これに対し、著作権法は、113条に侵害とみなす行為についての規定を置いているが、特許法のような間接侵害に関する規定を置いていないから、特許法との対比からすると、著作権法は、幇助的ないし教唆的な行為を行う者に対する差止請求を認めていないとの解釈も考え得るところであろう。
 しかしながら、特許法と著作権法とは法領域を異にするものであるから、特許法における間接侵害の規定が著作権法にないとしても、そのことから、直ちに、著作権法が幇助的ないし教唆的な行為を行う者に対する差止請求を認めていないと解する必然性はない。しかも、特許法における間接侵害の規定は、直接的な侵害行為がされているか否かにかかわらず侵害行為とみなすものであるところ、上記(2)において著作権法112条1項の差止請求の対象に含めるべきであるとする行為は、現に著作権侵害が行われている場合において、その侵害行為に対する支配・管理の程度等に照らして侵害主体に準じる者と評価できるような幇助行為であるから、特許法上の間接侵害に当たる行為とその適用場面を同一にするものではない。
 したがって、著作権法において特許法上の間接侵害に該当する規定が存在しないことは、著作権法112条1項の差止対象の行為について上記(2)で述べたように解することの妨げになるものではない。
5 被告に対する差止請求の可否
 前記4で述べた著作権法112条1項の解釈を前提として、被告が同項の「著作権を侵害する者又はそのおそれのある者」に当たるといえるかについて検討するに、@被告は、本件各店舗において管理著作物に係る歌詞・楽曲の演奏・上映行為を行うについて、必要不可欠といえるカラオケ装置(同装置に蓄積された楽曲データを含む。)を提供していること、A被告は、本件各店舗にカラオケ装置をリースするに際し、管理著作物に係る使用許諾契約の締結又申込みの有無を確認すべき条理上の注意義務を怠り、そのような確認をしないでカラオケ装置を引き渡したものであり、しかも、その後、現に本件各店舗の経営者が原告の許諾を受けないで管理著作物に係る歌詞・楽曲の演奏・上映による著作権侵害行為を行っていることを知りながら、これら経営者に許諾を受けることを促し、それがされない場合にはリース契約を解除してカラオケ装置の停止の措置をとり、カラオケ装置を引き揚げるべき条理上の注意義務に反して放置しているものであること、B被告は、同カラオケ装置について、作動可能にするか作動不能にするかを決める制御手段を有していること、C被告が得るリース料は、本件各店舗において管理著作物に係る歌詞・楽曲の演奏・上映行為と密接な結び付きのある利益といえることからすると、被告は、本件各店舗で行われている著作権侵害行為の侵害主体に準じる立場にあると評価できる幇助行為を行っており、かつ、当該幇助行為を中止することにより著作権侵害状態を除去できる立場にあるというべきであるから、著作権法112条1項の「著作権を侵害する者又は侵害するおそれのある者」に当たると解するのが相当である。
 前記のとおり、被告は本件各店舗のカラオケ装置の作動を停止させる措置として、通信回線を経由して一定の信号を送信することにより楽曲データの使用を不能にさせるという容易な方法を採り得るのであり、上記のように被告に侵害停止義務を認めたとしても、被告に過大な負担を負わせるものではない。
 また、被告が本件各店舗からリース料収入が得られなくなるとしても、同リース料は管理著作物の無許諾の演奏・上映行為という違法な行為と密接な結び付きがあるものであって、保護に値する正当な利益とはいえない。
 なお、管理著作物に係る歌詞・楽曲の演奏・上映により著作権侵害を行っている主体は本件各店舗の経営者であるところ、被告から本件各店舗に対する楽曲データの提供が差し止められることにより、本件各店舗の経営者がその営業に打撃を受けるとしても、著作権侵害を継続することによって営業上の利益を上げることは法的に保護されるものではないから、差止めによって本件各店舗の経営者の権利ないし法的な利益が侵害されることもない。もとより、原告において、本件各店舗の経営者を相手にして個別に著作権侵害行為の差止めを請求することは可能であるが、それをしないで幇助者である被告に差止めを求めることが許されないとする理由はない。
6 差止めの内容について
 以上によれば、原告は被告に対し、著作権法112条1項に基づき著作権侵害の停止を求め得るところ、原告が本訴において被告に対して求める差止めの内容は、「別紙「無許諾店舗一覧表」記載の店舗に対し、別紙「楽曲リスト」記載の音楽著作物のカラオケ楽曲データの使用禁止措置(通信回線を経由して一定の信号を送信することによって楽曲データの再生を不可能にする措置)をせよ。」というものであり、このような請求は、著作権法112条1項に基づく差止めの具体的方法として簡便かつ実効的なものと解されるから、差止めの内容として、上記のような具体的措置を命じることができるものというべきである。もっとも、上記の楽曲データの使用禁止措置(通信回線を経由して一定の信号を送信することによって楽曲データの再生を不可能にする措置)をとった場合には、原告の管理著作物以外の楽曲データの再生も不可能となると考えられる。しかし、前記のとおり、通信カラオケにより配信される楽曲データのうち97%が原告の管理著作物であるから、本件において、それ以外の3%の楽曲データを含むすべての楽曲データの再生を事実上不可能にする措置をとることを請求することは、差止めの対象として相当な範囲内のものであるといえる。
7 よって、原告の請求は理由があるから、主文のとおり判決する。なお、仮執行宣言の申立てについては、本件において仮執行宣言を付するのは相当でないと判断するから、これを付さないことにする。

大阪地方裁判所第21民事部
 裁判長裁判官 小松一雄
 裁判官 阿多麻子
 裁判官 前田郁勝
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日本ユニ著作権センター
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