判例全文 | ||
【事件名】スマイルマークの商標登録事件(2) 【年月日】平成15年2月12日 東京高裁 平成14年(行ケ)第536号 商標登録取消決定取消請求事件 (平成14年12月4日 口頭弁論終結) 判決 原告 X株式会社 同訴訟代理人弁護士 岩出誠 同 中村博 同 村林俊行 同 小林昌弘 同 筒井剛 同 石居茜 被告 特許庁長官 太田信一郎 同指定代理人 高野義三 同 涌井幸一 主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 特許庁が異議2001−90900号事件について平成14年9月13日にした決定を取り消す。 第2 前提となる事実(争いのない事実) 1 特許庁における手続の経緯 原告は、別紙の決定書の理由の写し(以下「決定書」という。)の後掲(1)本件商標記載のとおりの図形からなり、指定商品を商品及び役務の区分第25類の「被服、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、運動用特殊衣服、運動用特殊靴」とする登録第4507557号商標(平成12年6月29日商標登録出願、平成13年9月21日設定登録、以下「本件商標」という。)の商標権者である。 本件商標の登録に対して平成13年11月19日に登録異議の申立てがされ、特許庁は、この申立てを異議2001−90900号事件として審理した結果、平成14年9月13日に「登録第4507557号商標の商標登録を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は同年10月2日に原告に送達された。 2 本件決定の理由 本件決定は、決定書記載のとおり、本件商標は、異議申立人が引用する決定書の後掲(2)引用商標記載のとおりの図形からなり、指定商品を商品及び役務の区分第25類の「フラール、その他の被服、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、仮装用衣服、運動用特殊衣服、運動用特殊靴」とする登録第4398507号商標(平成9年8月5日商標登録出願、平成12年7月7日設定登録、以下「引用商標」という。)と比較すると、細部において異なるところがあるにしても、いずれも目と口のみで人の顔と思しき表情を表したものであり、その描写方法、基本的発想を同じくするものであって、外観において、互いに相紛らわしい類似の商標であり、かつ、両者の指定商品は同一又は類似のものであるから、本件商標は、商標法4条1項11号に違反して登録されたものである旨認定、判断した。 第3 原告主張の本件決定の取消事由の要点 1 本件商標は、「SMILEY FACE(スマイリー・フェイス)」といい、1963年(昭和38年)にアメリカ人のA氏(以下「A氏」という。)により創作されたものであるところ、原告は、A氏及び同人を引き継ぐ「ハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団」の日本国内の代理人の立場にあり、A氏より日本国内で商標登録をすることについて同意を得て本件商標につき商標登録出願をしたものである。 本件商標は、「SMILEY FACE(スマイリー・フェイス)」のマークとしてA氏が著作した顔の中の一部分を取り出しただけのものであり、引用商標に似せたものではない。したがって、本件商標は、引用商標と全く同一のものとはいえない。 2 「SMILEY FACE(スマイリー・フェイス)」(スマイルマーク)の範疇に属する登録商標に関する損害賠償等請求事件において、大阪地判平成13年10月25日は、「スマイルマークの範疇に属する本件商標について設定登録された本件商標権の効力が、前記3点の基本的外観を備え、「スマイルマーク」の称呼及び観念に属する標章すべてに及ぶとすることは、前記のとおり、商標登録出願時には出所識別力・独占適応性を欠く表示であった可能性が高く、かつ微妙にデザインの異なる多くの標章を含むスマイルマーク全体について商標権者以外の者の使用が禁止される結果、特定の者がこれを独占することになり相当でない。以上によれば、本件商標権の禁止権の効力が及ぶ範囲は、本件商標に示された具体的外観(顔、目及び口の位置、描線等)を備えるスマイルマークに限定されると解するのが相当である。」旨判示している。 この判示内容によれば、「SMILEY FACE(スマイリー・フェイス)」は、一個人が独占すべきものではなく、本件商標と引用商標とは、同時に登録が認められるべきものと判断すべきであり、また、具体的外観の構成が類似していない両商標は、非類似のものと判断すべきである。 第4 被告の反論の要点 本件決定は、本件商標と引用商標とが同一であると判断したものではなく、決定書のとおり、本件商標と引用商標とが外観において相紛らわしいものとして、類似すると判断したのであり、その判断に誤りはない。 商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであり、原告が主張する登録出願された商標の創作の経緯や商標を採択した登録出願人の内心的事由に基づいて判断すべきものではない。 第5 当裁判所の判断 1 本件商標は、決定書の後掲(1)本件商標記載のとおりの図形からなり、指定商品を商品及び役務の区分第25類の「被服、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、運動用特殊衣服、運動用特殊靴」とするものであること、他方、引用商標は、決定書の後掲(2)引用商標記載のとおりの図形からなり、指定商品を同第25類の「フラール、その他の被服、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、仮装用衣服、運動用特殊衣服、運動用特殊靴」とするものであることは、当事者間に争いがなく、これによると、両商標の指定商品は、それぞれ同一又は類似のものであると認められる。 次に、本件商標と引用商標のそれぞれの構成についてみると、両商標は、いずれも、縦長の略楕円形の2個の点のみで描かれた目と、その下部に、両端上がりの1線の弧で描かれた口とを、黒色で表したものであり、人の笑顔と思われる表情を極めて単純な構成態様によって表現したことに特色があるものと認められる。 他方、両商標は、絵の大きさや目及び口の両端部等の細部の形状において差異があると認められものの、両商標に接する需要者は、上記のとおり、両商標の特色をなす基本的な構成態様が同一であることから、両商標より共通する印象を強く受けるものと認められ、両商標の上記の差異は、微差にとどまるものというべきである。 したがって、本件商標と引用商標とは、その外観において互いに相紛らわしいものであり、本件商標が指定商品に使用された場合に、その出所の誤認混同を生ずるおそれがあるものと認められるから、類似の商標であるというべきであり、これと同旨の本件決定の認定、判断に誤りはない。 原告が取消事由として主張する本件商標の創作の経緯等の事実は、上記判断を左右するものでないことは明らかであり、原告の上記主張は失当である(なお、原告が引用する判例(甲6)は、本件商標とはその構成等が異なる別の登録商標(登録第2154392号、昭和46年10月8日商標登録出願、平成元年7月31日設定登録、指定商品・旧第25類「紙類、文房具類」)に関するものであり、かつ、原告が引用する上記判例の判旨部分は、商標権の禁止権の効力が及ぶ範囲について判示するものであって、商標登録の要件に関する本件と事案を異にしており、原告が本件口頭弁論終結後に提出した平成15年1月7日付け準備書面に記載の原告の主張を参酌しても、本件商標と引用商標とが類似するとの本件決定の認定、判断に誤りがあると解することはできず、原告の上記判例の判旨に基づく主張も失当である。)。 2 以上によれば、本件商標は、引用商標に類似する商標であり、かつ、両商標の指定商品は、同一又は類似のものであると認められるから、本件商標は、商標法4条1項11号に違反して登録されたものであるというべきであり、これと同旨の本件決定の判断に誤りはない。 3 結論 以上の次第で、原告主張の本件決定の取消事由は理由がなく、その他本件決定にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。 よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第3民事部 裁判長裁判官 北山元章 裁判官 青柳馨 裁判官 橋本英史 |
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