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【事件名】ダンス教室の音楽著作権侵害事件 【年月日】平成15年2月7日 名古屋地裁 平成14年(ワ)第2148号 著作権侵害差止等請求事件 (口頭弁論終結日 平成15年1月20日) 判決 原告 社団法人日本音楽著作権協会 同訴訟代理人弁護士 田中豊 同 葛西栄二 被告 株式会社B 被告 D 被告 E 被告 F 被告 G 被告 H 被告 I 被告 J 被告 K 被告ら訴訟代理人弁護士 中元紘一郎 同 仲谷栄一郎 同 青柳良則 主文 1 被告ら(ただし、被告Dを除く。)は、別紙差止請求一覧表記載の各自の社交ダンス教授所施設において、別添ダンス楽曲リスト記載の音楽著作物を、録音物再生装置を操作して再生する方法により演奏してはならない。 2(1) 被告株式会社B及び被告Dは、原告に対し、連帯して111万6064円並びにうち別紙1の使用料相当額一覧表の「使用料相当額」欄記載の各金員に対する各「起算日」欄記載の日から平成14年11月30日までいずれも年5分の割合による金員及び111万6064円に対する平成14年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。 (2) 被告Eは、原告に対し、173万7600円並びにうち別紙2の使用料相当額一覧表の「使用料相当額」欄記載の各金員に対する各「起算日」欄記載の日から平成14年11月30日までいずれも年5分の割合による金員及び173万7600円に対する平成14年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3) 被告Fは、原告に対し、209万5120円並びにうち別紙3の使用料相当額一覧表の「使用料相当額」欄記載の各金員に対する各「起算日」欄記載の日から平成14年11月30日までいずれも年5分の割合による金員及び209万5120円に対する平成14年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (4) 被告Gは、原告に対し、115万8400円並びにうち別紙4の使用料相当額一覧表の「使用料相当額」欄記載の各金員に対する各「起算日」欄記載の日から平成14年11月30日までいずれも年5分の割合による金員及び115万8400円に対する平成14年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (5) 被告H及び被告Iは、原告に対し、連帯して173万7600円並びにうち別紙5の使用料相当額一覧表の「使用料相当額」欄記載の各金員に対する各「起算日」欄記載の日から平成14年11月30日までいずれも年5分の割合による金員及び173万7600円に対する平成14年12月14日から各支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。 (6) 被告Jは、原告に対し、139万0080円並びにうち別紙6の使用料相当額一覧表の「使用料相当額」欄記載の各金員に対する各「起算日」欄記載の日から平成14年11月30日までいずれも年5分の割合による金員及び139万0080円に対する平成14年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (7) 被告Kは、原告に対し、830万6976円並びにうち別紙7の使用料相当額一覧表の「使用料相当額」欄記載の各金員に対する各「起算日」欄記載の日から平成14年11月30日までいずれも年5分の割合による金員及び830万6976円に対する平成14年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用はこれを2分し、その1を原告の、その余を被告らの各負担とする。 5 この判決は、1、2項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告ら(ただし、被告Dを除く。)は、別紙差止請求一覧表記載の各自の社交ダンス教授所施設において、別添ダンス楽曲リスト記載の音楽著作物を、録音物再生装置を操作して再生する方法により演奏してはならない。 2 被告ら(ただし、被告Dを除く。)は、別紙差止請求一覧表記載の各自の社交ダンス教授所施設から、別紙物件目録記載の録音物再生装置及び関連機器を撤去せよ。 3(1) 被告株式会社B及び被告Dは、原告に対し、連帯して422万6707円及びうち344万3675円に対する平成14年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 被告Eは、原告に対し、719万5957円及びうち594万8550円に対する平成14年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3) 被告Fは、原告に対し、866万7765円及びうち713万8260円に対する平成14年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (4) 被告Gは、原告に対し、481万5403円及びうち396万5700円に対する平成14年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (5) 被告H及び被告Iは、原告に対し、連帯して660万4350円及びうち538万0752円に対する平成14年12月14日から各支払済みまでいずれも年5分の割合による金員を支払え。 (6) 被告Jは、原告に対し、660万4350円及びうち538万0752円に対する平成14年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (7) 被告Kは、原告に対し、1322万1679円及びうち1214万5335円に対する平成14年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、音楽著作物の管理等を業とする原告が、社交ダンス教授所(社交ダンス教室)を経営する被告ら(ただし、以下において、ダンス教授所の経営主体を示す場合には、法人の取締役である被告Dを除くその余の被告らを意味する。)に対し、被告らによる著作物の無許諾使用行為を理由として、著作権法(以下「法」という。)112条に基づき、原告らが管理する音楽著作物の使用差止め(同条1項)と録音物再生装置等の撤去(同条2項)を求めるとともに、主位的には不法行為又は商法266条の3第1項に基づき、@使用料相当損害金、Aこれに対する履行期後の日である各翌月1日から平成14年11月30日まで民法所定の年5分の割合による既経過遅延損害金及びB弁護士費用並びに@とBの合計額に対する同年12月14日から支払済みまで同割合による遅延損害金の各支払を、予備的には不当利得に基づき、上記と同額の利得金及び悪意受益者の利息金の返還を求めた事案である。 1 前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認定可能な事実) (1) 当事者等 ア 原告は、平成13年9月30日までは「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」(昭和14年法律第67号)に基づく許可を受け、平成13年10月1日からは「著作権等管理事業法」(平成12年法律第131号、以下「事業法」という。)に基づく文化庁長官の登録を受けた著作権等管理事業者たる社団法人であり、内外国の音楽の著作物の著作権者からその著作権ないしその支分権(演奏権、録音権、上映権等)の信託を受けた上、国内の放送事業者をはじめ、レコード、映画、出版、興行、社交場及び有線放送等各種の分野における音楽の著作物の利用者に対して、音楽の著作物の利用を許諾し、その対価として利用者から著作物使用料を徴収し、これを内外国の著作権者に分配するなどの管理事業を主たる業務内容としている(甲1)。 原告は、内国の音楽の著作物については著作権者と著作権信託契約を締結し、外国の音楽の著作物については我が国の締結した著作権条約に加盟する諸外国の著作権仲介団体との相互管理契約を締結することによりその著作権又は支分権の移転を受けるなどしてこれを管理している(以下、原告が管理している音楽著作物を「管理著作物」という。)(甲2)。 別添ダンス楽曲リスト記載の音楽著作物は、いずれも原告がそれぞれの著作権者から著作権の信託を受けて著作権を管理する管理著作物の一部である(甲4)。 イ 被告らは、それぞれ別紙差止請求一覧表記載の社交ダンス教授所施設(以下「本件各施設」という。)において、社交ダンス教授所を経営している。なお、同一覧表の施設番号5の施設については、被告H及び被告Iが共同経営している。 被告Dは、平成14年4月30日まで、被告株式会社(平成3年3月1日設立)の代表取締役としてその業務全般を監督執行する立場にあった者であり、平成14年4月30日以降は同社の取締役として業務執行に関与している上、自らダンス教師として顧客の指導に当たっている。 (2) 被告らの行為 被告らは、それぞれが経営する本件各施設において、営業時間中、別紙物件目録記載のCDプレイヤー等の録音物再生装置及び関連機器(以下「本件物件」という。)を設置し、これを操作してCD等に録音された管理著作物を含む音楽著作物を再生する方法により演奏し、顧客が社交ダンス教授所所属のダンス教師の指導を受けながら音楽に合わせてダンスする形式で授業(少なくともその一部)を行っている。 被告らは、CD等に録音された管理著作物の再生につき、原告の許諾を受けていない。 3 本件の争点 (1) 被告らの行為は原告の演奏権を侵害するか。 ア 被告らによるCD等の再生は、公衆に対する演奏(法22条)に当たるか。 イ 被告らによるCD等の再生は、非営利の演奏(法38条)といえるか。 ウ 被告らによるCD等の再生は、著作物の公正な利用に当たり、原告の請求は権利濫用といえるか。 (2) 原告が、被告らに対し、原告の使用料規程等に基づいて著作物の使用料を請求することは、権利濫用に当たるか。 (3) 被告らによるCD等の再生は、平成11年法律第77号による改正前の法附則14条の適用対象となるか。 (4) 原告の損害(又は損失)の有無及びその額 (5) 被告Dの損害賠償責任の有無 (6) 原告の被告らに対する損害賠償請求権等についての消滅時効の成否 (7) 本件物件は、「専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具」に当たるか(撤去請求の可否)。 4 争点に関する当事者の主張 (1) 争点(1)ア(公衆演奏の該当性)について (原告の主張) 法22条の「公衆」は、不特定人と特定多数人(法2条5項)を含む概念であるところ、被告らは、被告らとの間に特別の関係のない者との間で契約関係に入って顧客とし、自らの用意した施設・機器を利用して社交ダンスを教授するのであるから、被告らの経営する社交ダンス教授所は正に不特定の者を対象とする営業である。この点、被告らと被告らが管理著作物を演奏して聞かせる者(顧客)との間に受講契約が結ばれているとしても、法2条5項の観点からすると、そのような契約関係の存在のゆえに、顧客が特定の者になるわけではない。 また、被告らは、ある一時点において教授を受ける顧客が多数か否かとの観点から議論を展開するが、被告らは、不特定の者との間で契約関係に入り、そのような者に対して順次社交ダンスを教授することを営業目的としているのであるから、被告らの経営する社交ダンス教授所が必然的に多数の者を対象とするものであることは明らかである。 この点に関し、カラオケ・ボックスにおける管理著作物の演奏が公に対する演奏に当たるか否かについて判断した東京高等裁判所平成11年7月13日判決は、店舗に来店する顧客が不特定多数の者であることを理由に、上記演奏は公に対する演奏である旨判示している(同判決は、上告棄却により確定している。)が、同判決は、カラオケ・ボックスにおいては、その経営者と客との間にはカラオケ・ボックスの施設・機器の利用提供に関する契約関係が存し、また、その営業時間中のある一時点の各個室にいる顧客は少数の者であることが通常であっても、そのことゆえに、カラオケ・ボックスにおける管理著作物の演奏が公にするものに当たらないことにはならないことを認めたものであり、このことは社交ダンス教授所における管理著作物の演奏についても妥当するというべきである。 よって、本件各施設におけるCD等の再生は、法22条の公衆に対する演奏に当たることが明らかである。 (被告らの主張) 本件各施設におけるCD等の再生は、被告らと社交ダンス指導の受講契約を結んだ特定の生徒に対して、ダンス技術の指導に伴うものとしてなされるものであり、不特定の一般公衆に対してなされるものではない。すなわち、法2条5項は、同法にいう「公衆」には、特定かつ多数の者を含む旨規定するが、そこにいう「特定」とは、個人的な結合関係があるものを指すと解されるところ、本件のような社交ダンス教授所におけるダンス教師と受講者との間には、社交ダンスを教える側と学ぶ側という教師と生徒としての密接な人的関係に依存した継続的な関係が存し、現に本件各施設の受講生は1年を通じてその大半は固定しているから、上記の個人的な結合関係が認められるというべきである。したがって、本件各施設におけるCD等の再生は、原告の主張するような不特定一般の者に対するものではなく、特定の者に対するものということができる。 原告は、カラオケ・ボックスにおける管理著作物の演奏を公に対する演奏であるとした東京高等裁判所の裁判例を援用するが、カラオケ・ボックスと利用客との間の一時的な契約関係と、ダンス教授所における教師と生徒という要素を含んだ継続的な契約関係とは全く性格を異にしており、またカラオケ・ボックスにおいては利用客は匿名の不特定多数の存在であり、店側から個々の利用客を特定することは不可能であるのに対し、ダンス教授所においては、ダンス教師が各受講者を特定して識別することが可能であるなどの相違点からすれば、両者を同列に論じることはできない。 そうすると、本件各施設におけるCD等の再生が法2条5項にいう多数の者に対する演奏に当たるか否かが検討されるべきところ、同項にいう「多数」とは、50名程度の人数を要すると考えられるが、本件各施設におけるレッスンの形態は個人レッスンを基本としており、その生徒数は1名ないし数名にすぎず、最高でも10名程度であって、同時に数十名の生徒に対してCD等の再生がされることは皆無である。本件各施設のうちには、その構造上、2、3人以上の人数を相手にレッスンを行うことが物理的に不可能である施設も多い。そもそもダンス教授所における音楽の演奏は、ダンス教授所に所属している受講生全員に聞かせることを目的とするものではなく、その個別のレッスンを受講している受講生のためのものである。したがって、本件各施設におけるCD等の再生は、多数の者に対するものではないというべきである。 よって、本件各施設におけるCD等の再生は、公衆に対する演奏に当たらない。 (2) 争点(1)イ(演奏の非営利性)について (被告らの主張) 本件各施設におけるCD等の再生は、あくまで社交ダンス技術の指導に伴ってなされるものであって、非営利目的の著作物の使用の一形態である(法38条1項本文)。生徒からの受講料収入は、本件各施設の運営及びダンス教師自らの技量の向上のために振り向けられており、本件各施設を運営するダンス教師自身は、ダンス教授所の経営者であるというよりは、第一義的には社交ダンスという芸術ないし競技の担い手であるダンス技術の習得者、教育者あるいはダンス競技者であり、自らが競技に関わる傍ら、ダンス教授所を通じて社交ダンスを社会に普及すべく努めているのであって、営利を目的として本件各施設を運営しているのではない。また、本件各施設は、民間の組織ではあるが、社交ダンスという1つの芸術ないしスポーツの教育という公益目的に従事するものであり、私立大学と同様、営利を目的としたものではない。 ダンス教授所における受講料は、あくまで社交ダンスの技術の指導に対する対価であり、CD等の再生に対する対価ではないから、「料金」(法38条1項本文)に当たらないし、CD等の再生について被告らに報酬は支払われていない(同項ただし書)。 よって、本件各施設におけるCD等の再生は、原告の著作権を侵害しない。 (原告の主張) 法38条1項の非営利要件は、著作物の利用行為が直接・間接に営利に結びつくか否かの観点から判断されるべきものであるところ、社交ダンス教授所における音楽著作物の演奏は、社交ダンスの教授に際して必要不可欠というべきものであって、音楽著作物の演奏が全く無いことを前提とした場合には、社交ダンス教授所は顧客を獲得することが期待できず、その営業自体が成り立たないから、社交ダンス教授所における音楽著作物の演奏は、直接に営利に結びつく利用形態である。また、同項の無料要件は、名目のいかんにかかわらず、著作物の提供・提示の見返りとして受ける対価に関するものであるところ、被告らが自認するとおり、顧客から受ける受講料は、被告らの経営に係る社交ダンス教授所におけるダンス教授の指導料名目で収受され、その一部が施設運営費用に充てられているが、音楽著作物の演奏は社交ダンスの指導に不可欠なものであるから、受講料収入の一部が正に同項の「料金」に当たるものである。 なお、原告は、社交ダンスが芸術ないしスポーツの側面を有していることや社交ダンス教授所が社交ダンスの技術等を市民に教授するという教育的側面を有していることを否定するものではないが、そのことのゆえに社交ダンス教授所の営業が、営利を目的とするものでないとはいえない。 (3) 争点(1)ウ(著作物の公正な利用)について (被告らの主張) 我が国の法には、アメリカ合衆国の著作権法107条のような著作物の公正な利用(フェア・ユース)についての明文の規定は存しないが、これを具体化した法30条以下の規定が存することや、公正な利用と考えられる著作権の利用形態についてあらかじめ規定し尽くすことが不可能であることにかんがみれば、法30条以下の規定に照らして、公正な利用の範囲に含まれると考えられるものについては、これらの規定に準じて著作権侵害にはならないというべきである。そして、本件各施設におけるCD等の再生は、以下の観点から見て、著作物の公正な使用(フェア・ユース)に当たるから、原告の本件各請求は、権利の濫用として認められるべきではない。 ア 被告らによる本件各施設におけるダンスの指導は、個人レッスンを基本としており、教師対生徒の極めて密接した個人的な空間において行われるレッスンの中で、社交ダンスの指導に必然的に伴うものとして音楽著作物が利用されるものであるが、私的使用のために著作物の複製を認めた法30条1項の趣旨に照らせば、被告らによるCD等の再生も、法が許容する私的領域における演奏に当たる。 イ また、本件各施設における被告らによる社交ダンスの指導は、芸術及び生涯スポーツとしての側面を有する社交ダンスを社会に普及すべく努めている活動の一環あるいは社交ダンスを学ぼうとする生徒たちに対する教育として行われているものであって、営利目的の行為ではない。被告らは、かかる芸術やスポーツ教育に必然的に伴うものとして管理著作物を利用しているものであるが、学校その他の教育機関における著作物の複製を認めた法35条の趣旨に照らせば、被告らの本件各施設におけるCD等の再生は、原告の著作権を侵害するものではない。 ウ さらに、社交ダンスのようにルールの確立したスポーツにおける音楽の使用、またそのスポーツの指導に必然的に伴う音楽の使用は著作権侵害とされるべきではないとの社会的なコンセンサスがあり、かかる使用については長年黙認されてきたことにかんがみると、被告らによる本件各施設における社交ダンスの指導に必然的に伴う管理著作物の使用は、原告の著作権を侵害するものではない。仮に、社交ダンスのみを他のスポーツ(フィギュアスケート、シンクロナイズド・スイミング、バレエダンス、ジャズダンス、エアロビクスダンス等)と区別して、その教授の際の管理著作物の使用についてまで使用料の請求をする取扱いは、請求を受けていない上記の他のスポーツとの間に不均衡を生じさせ、不合理な結果を招く。 (原告の主張) 我が国の法における著作権制限に関する規定は、文化的所産の公正な利用という点を配慮した上で成立したものであり、明文の規定を超えて、著作権の制限が認められるわけではない。したがって、被告らが主張するように、著作権制限に関する法30条以下の規定に依拠して更に本件各施設におけるCD等の再生が公正な利用に当たるかどうかを議論をすることは、法律上の根拠がないというべきである。 また、本件各施設におけるCD等の再生が「私的領域における著作物利用の一形態」であるとか、「営利目的の行為ではない」といった主張が荒唐無稽なものであることは論をまたないし、原告は、現行法が施行された昭和46年以来、社交ダンス教授所における管理著作物の演奏権の管理を継続して行っており、その無許諾演奏を長年黙認してきた事実はないから、これを前提とした被告らの主張は失当である。 ちなみに、アメリカ合衆国において、社交ダンス教授所における音楽著作物の演奏が、同国の著作権法107条にいう「公正な利用」に当たらないことに異論はない。 (4) 争点(2)(使用料請求の権利濫用)について (被告らの主張) 原告の被告らに対する本件における使用料の請求は、以下の理由から権利の濫用に当たる。 ア 事業法は、著作権等管理事業者は、使用料規程を定め、又は変更しようとするときは、利用者又はその団体からあらかじめ意見を聴取するように努めなければならないと規定している(13条2項)ところ、原告は、使用料規程を定めるに当たって、被告らの所属する日本ダンス議会、財団法人日本ボールルームダンス連盟(以下「ボールルーム連盟」という。)等の団体からの意見聴取を行っていない。また、著作権等管理事業者は利用者代表からの使用料規程に関する協議に応じる義務があり(事業法23条2項)、被告らは、同協議ないし文化庁による裁定(同法24条)も視野に入れて原告と交渉を行うつもりでいたところ、原告は、被告らとの上記協議の余地も残さないまま、本訴の提起に至ったものである。 この点につき、原告は、社団法人全日本ダンス協会連合会(以下「全ダ連」という。)に対して意見の陳述を促すなどの手続を取った旨主張するが、意見聴取のための期間が短いなど事業法13条2項の手続を十分に履践したものとはいえない。また、原告が上記手続を取った当時、管理著作物の使用料を原告が一方的に大幅に値上げしたことで、全ダ連と原告との交渉がこじれ、その後も交渉が全く行われないままになっていたという特別の事情が存在した。 したがって、原告の使用料規程は、現時点では、利用者及び利用者団体の意見を十分に反映するための同法に規定する手続を経て定められたものとはいえない。 なお、一部のダンス教授所が原告に対して使用料を支払っていることは事実であるが、これらのダンス教授所も、必ずしも使用料規程どおりに支払っているわけではない。このことも、原告の使用料規程が利用者に受け入れられているわけでないことを示している。 イ また、原告は、本件訴訟の提起に先立って被告らとの交渉を経ておらず、訴えの内容も、当初同一人物の本名と芸名を2人として訴えを提起するなど、被告らのダンス教授所の実態について誤った理解に基づくものとなっている。 ウ さらに、日本ダンス議会、ボールルーム連盟の一部の会員に対する原告の交渉態度は、一方的に回答期限を設定して、期限を過ぎた場合には5倍以上の金額の損害金を示すことによって、自分の望む条件を相手に呑ませようとする強圧的なものであった。 エ 加えて、原告が音楽著作権の使用許諾の市場における独占的な地位を濫用して、契約条件を交渉の余地なく認めさせようとする行為や、不均衡に高い損害金の額を提示して、その5分の1以下の額で契約を結ばせようとする行為は、独占禁止法19条の不公正な取引方法に当たる。 (原告の主張) ア 原告は、事業法13条2項に基づき、同法の施行に先立つ平成13年9月6日、社交ダンス教授所における管理著作物利用についての利用者団体と考えられる全ダ連に対し、使用料規程案を送付した上でその意見の陳述を促す(ただし、全ダ連から特段の意見表明はなかった。)などの意見聴取の手続を経た上で、同条1項に基づき、文化庁長官に現行使用料規程を届け出たものである。 また、現行使用料規程に定める社交ダンス教授所に適用される使用料額は、昭和61年8月13日付けで変更認可を受けて実施していた著作物使用料規程に定める使用料額と同額であるところ、原告は、この変更認可申請に先立って、全ダ連との間で協議を遂げている。なお、上記の変更認可当時、日本ダンス議会、ボールルーム連盟(平成4年3月24日設立許可)なる団体は存在しておらず、全ダ連が唯一の利用者団体であった。 そもそも、被告らは事業法23条の「利用者代表」ではないから、被告らは同条の協議ないし同法24条の裁定の申請をする予定であった旨の被告らの主張は法的に意味をなさないし、仮に、被告らの主張が、被告ら代理人が日本ダンス議会及びボールルーム連盟から代理権を授与されていたとの趣旨だとしても、原告はこれら団体から上記協議の申入れを受けたことはないから、被告ら代理人と交渉すべき理由はなかった。 加えて、原告は、平成13年11月6日、ボールルーム連盟に対して、同連盟に所属する社交ダンス教授所における管理著作物の利用の適正化についての申入れをしたところ、同連盟から、同連盟の主要な事業がダンス指導者の資格認定をすることにあり、上記問題について責任を持った交渉をすることはできないとの趣旨の回答があったため、原告は、同連盟が事業法13条2項の「利用者団体」に当たるかどうか判断しかねる状況に置かれたものである。なお、客観的に見ても、ボールルーム連盟及び日本ダンス議会が事業法14条3項、23条2項等、同法施行規則21条の規定する「利用者代表」の要件を満たす者か否か明らかでない。 したがって、事業法13条2項所定の手続を経ていないとの被告らの主張は理由がない。 イ 被告らは、原告が被告らとの交渉を経ていないと主張するが、原告は、平成13年以降、被告らないし被告らの所属する団体(全ダ連、ボールルーム連盟、アイチボールルームダンス協同組合)との間で管理著作物の利用の適正化について長期間にわたる交渉を重ねた上で本件訴訟を提起したものであり、被告らの主張は根拠がない。 ウ 原告は、被告らを含む社交ダンス教授所の経営者らに対し、法の規定と原告の使用料規程等について正確かつ分かりやすく説明した内容の書面を送付しているのであって、その交渉態度は被告らが主張するような強圧的なものではない。 エ 原告が管理著作物の利用者に対し、法に従って、使用料規程に基づく使用料の支払を求める行為は、著作権ないしその支分権の信託を受けた者として適法な権利行使であることは明らかであり、被告らの主張するように、独占禁止法19条の「不公正な取引方法」に当たることはない(同法21条参照)。そもそも原告が被告らに請求しているのは、不法行為に基づく損害賠償金の支払ないし不当利得に基づく利得の返還であるから、被告らの上記主張は失当である。 (5) 争点(3)(法附則14条の適用の有無)について (被告らの主張) 平成11年法律第77号(平成12年1月1日施行)による改正前の法では、適法に録音された音楽著作物の再生については、公衆送信に該当するもの及び営利を目的として音楽の著作物を使用する事業で政令で定めるものにおいて行われるものを除き、当分の間、演奏権が制限され、適法とされていた(附則14条)ところ、社交ダンス教授所におけるCD等の再生は同条の適用を受け、かつ同条の例外となる事業について定めた政令である法施行令附則3条1ないし3号のいずれにも当たらないから、少なくとも平成11年12月31日までは本件各施設におけるCD等の再生は適法であった。加えて、法附則14条の廃止後の権利行使の実態にかんがみれば、被告らが払うべき使用料は平成14年4月以降のものに限られるというべきである。 原告は、法施行令附則3条2号の「キャバレー、ナイトクラブ、ダンスホールその他フロアにおいて客にダンスをさせる営業」に社交ダンス教授所の営業が含まれると主張するが、ダンス教授所がキャバレー、ナイトクラブ、ダンスホールと性質を異にすることは明らかである。すなわち、キャバレー、ナイトクラブ、ダンスホールが上記の法附則14条の適用除外とされているのは、これらの営業が音楽を演奏することにより、フロアにおいて客に勝手にダンスをさせて利益を得ていることから、音楽の利用により直接的に利益を得ていると考えられるためである。これに対し、ダンス教授所は、むしろ社交ダンスの技術指導に必然的に付随するものとして音楽を演奏しているのであって、音楽の利用により直接的利益を得ているものでなければ、客に勝手に踊らせることにより客に料金を支払わせるものでもない。そもそも社交ダンスの指導・練習の過程においては、音楽を使用しないでステップや振り付けといった重要な部分を練習することも行われており、ダンス教授所における音楽の使用量が増加すれば、営業利益も比例的に増加するといった関係にはない。また、「フロアにおいて客にダンスをさせる営業」には、風俗営業として行われるダンス教授所等は含まれるが、フォーク・ダンス教授所等純教育観点に立って行われるダンス教授所はこれに該当しないと解されているところ、被告らが経営するダンス教授所は、純粋に社交ダンスの教授を目的とするものであるから、本件各施設は同号の適用対象ではない。 なお、従前、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風営法」という。)は、「ダンスホールその他設備を設けて客にダンスをさせる営業」を風俗営業に該当する営業とし、ダンス教授所はこれに含まれるとして規制の対象としてきた(同法2条1項4号)ところ、平成10年の同法改正により一定の要件に該当するダンス教授営業は規制の対象から除外されることとなったが、これは被告らのようなダンス教師の資格を持っている者が営むダンス教授所は、風俗営業として営まれるダンス教授所に含まれないとの従来からの認識が公に認知されたことによるものであり、このことからも、ダンス教授所を法附則14条の適用除外とすることの理由がないことが明らかである。 (原告の主張) 社交ダンス教授所の営業は、法施行令附則3条2号の「フロアにおいて客にダンスをさせる営業」に該当するから、被告らの前記主張は失当である。同条各号は、音楽喫茶やダンスホール等で営業上音楽を欠くことができない事業を列挙したものであり、被告らが主張するように、「音楽利用による直接的利益の帰属」という観点から事業を列挙したものではない。また、社交ダンス教授所においては、音楽利用の量の増加に伴い、営業利益の量が増加する関係にあるから、ダンス教授所は、正に「直接的利益の帰属」の典型例であり、この点においても被告らの主張は誤っている。 さらに、被告らは、「フロアにおいて客にダンスをさせる営業」に、風俗営業として行われるダンス教授所等が含まれることを自認しているところ、被告らの経営に係る社交ダンス教授所は、平成10年改正前の風営法に基づく許可を受けていたのであり、正に「風俗営業として行われるダンス教授所」に当たるものである。 (6) 争点(4)(損害等の有無及びその額)について (原告の主張) ア 不法行為による損害 (ア) 使用料相当額損害金 原告は、被告らの著作権侵害行為により、平成14年11月30日までに次のとおり使用料相当額の損害を被った。 使用料相当損害金は、少なくとも管理著作物の許諾を受けて利用する者が原告に対して支払うべき使用料と同額であるところ、(法114条2項)、管理著作物の使用料率は、平成13年9月30日までは「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」に基づき文化庁長官の認可を受けた「著作物使用料規程」に、平成13年10月1日以降は事業法13条に基づいて原告が定めて文化庁長官に届け出た「使用料規程」に、それぞれ定められている。 上記使用料規程によると、本件各施設のような社交ダンス教授所において管理著作物を演奏(再生)する場合の使用料は、包括的利用許諾契約を結ばない場合には1曲1回当たりの使用料によるべきところ(第2章第1節5「社交場における演奏等」)、社交ダンス教授所という営業形態は業種8に分類されるから、本件各施設に対しては別表16の2が適用されることになる。なお、使用料規程に定める社交ダンス教授所に適用される使用料額は、昭和61年8月13日付けで変更認可を受けて実施していた著作物使用料規程に定める使用料額と同額である。 そして、別紙差止請求一覧表に記載された本件各施設の開設時期(侵害開始時期。なお、D’ダンススクール扶桑教室が開設されたのは昭和63年6月ころであり、これを平成5年4月ころであるとする被告らの主張を裏付ける的確な証拠はない。また、被告株式会社Bが設立されたのは平成3年3月1日であるが、被告らは、株式会社Bの現在の代表者であるC及び被告Dが同教室においてダンス教師として営業していたことを認めているのであるから、仮に、平成5年3月31日以前において、同教室の他のダンス教師のレッスンが被告株式会社B又は被告Dの管理下になかったとしても、被告Dの行うダンスレッスンは被告株式会社Bの営業の一環としてされていたものであるから、平成4年6月1日から平成5年3月31日までの期間についても、被告株式会社Bは管理著作物の利用主体として責任を負うことに変わりはない。)、面積、30分間の教授料、1日当たりの使用曲数、月間営業日数を前提に、上記各規程に基づいて、本件各施設における平成14年11月30日までの使用料相当損害金を各被告について計算すると、次のとおりである(いずれも税込み。なお、1日当たりの使用曲数については、本件各施設における実態調査時に使用された曲数そのものではなく、日による使用曲数にばらつきが生じることをも勘案して、調査時の曲数から一定限度を減じたものを算定の基礎としている。)。また、本件各施設のうち、開設時が平成14年5月31日から遡って10年を超える施設については、10年分の使用料相当額をもって損害金請求をするものである。 @ 被告株式会社B 302万1460円 A 被告E 491万7750円 B 被告F 590万1300円 C 被告G 327万8500円 D 被告H及び被告I 472万1040円 E 被告J 472万1040円 F 被告K 993万3520円 (イ) 確定遅延損害金 本件各施設の使用料相当損害金について、1か月の損害金を算出し、その金額に翌月1日から平成14年11月30日まで年5分の割合による確定遅延損害金の合計額を各被告について算出すると次のとおりである。 @ 被告株式会社B 78万3032円 A 被告E 124万7407円 B 被告F 152万9505円 C 被告G 84万9703円 D 被告H及び被告I 122万3598円 E 被告J 122万3598円 F 被告K 107万6344円 (ウ) 弁護士費用 原告は、本件訴訟の提起追行を弁護士に依頼せざるを得なかった。そのための弁護士費用は次のとおりである。 @ 被告株式会社B 42万2215円 A 被告E 103万0800円 B 被告F 123万6960円 C 被告G 68万7200円 D 被告H及び被告I 65万9712円 E 被告J 65万9712円 F 被告K 221万1815円 (エ) 損害金合計額((ア)ないし(ウ)を加えた金額) @ 被告株式会社B 422万6707円 A 被告E 719万5957円 B 被告F 866万7765円 C 被告G 481万5403円 D 被告H及び被告I 660万4350円 E 被告J 660万4350円 F 被告K 1322万1679円 イ 不当利得による損失 被告らは、原告の許諾を受けず、かつ、使用料を支払わずに管理著作物を使用したことによって、法律上の原因なく使用料相当額の利得を受けたが、これによって、原告は同額の損失を被った。 ウ ダンス教授所実態調査報告書(甲5の1ないし7。以下「本件報告書」という。)の証拠能力、信用性等 原告の上記各請求は、本件報告書に依拠するところ、被告らは、その証拠能力、信用性等について争っているが、同主張は、以下のとおり、理由がない。 (ア) 本件報告書の証拠能力について 本件報告書は、ダンス教授所を経営する被告らとの間で受講契約を締結して顧客となった者が同契約に基づく債務(入会金、受講料等)をすべて履行した上で、通常のレッスンを受けた過程で見聞した事実を報告した書面であるが、著作権侵害という刑罰法規に触れる犯罪行為が現に実行されていることが客観的に明らかである場合に、著作権者自身又は著作権者から依頼を受けた者が、著作権侵害の事実とそれによって被っている損害とを確認するため、上記の手順・態様により実態調査を実施するのは正当行為に当たるから、建造物侵入罪を構成することはない。したがって、本件報告書は違法収集証拠ではないから、被告らの主張はその前提において失当である。 また、証拠能力の有無という点のみについてみれば、当該証拠が著しく反社会的な手段を用いて、人の精神的肉体的自由を拘束するなどの人格権侵害を伴う方法によって採集されたものであるときに証拠能力を否定するとういうのが近時の判例の到達点であるから、本件報告書に証拠能力があることは明らかである。 (イ) 本件報告書の信用性について 被告らによる著作権侵害行為の具体的状況を知り得る立場にあるのは、被告ら自身を除けば、その従業員と顧客のみであるから、原告としては、前記のような形でこれを証拠化する以外に有効で適切な方法はないが、本件報告書は、音楽著作物の使用について被告らによる作為が介在しない状況において調査し、記録されたものであるから、その信用性は高いというべきである。これに対し、被告らが本訴提起後5か月を経過して提出した「ダンス教室実態調査表(乙7の1ないし7)」は、被告らによる作為が介在している蓋然性が高く、また記載内容を裏付ける客観的証拠が提出されないなど、その証拠価値は低いといわざるを得ない。 (被告らの主張) ア 不法行為による損害額 原告の主張のうち、別紙差止請求一覧表に記載された本件各施設の面積、30分間の教授料についてはいずれも認めるが、その余は、いずれも否認ないし争う。 (ア) 被告株式会社Bが経営するD’ダンススクール扶桑教室(現在の名称は、C’ダンススクール扶桑教室)の開設時期が昭和63年6月ころであるとの点は否認する。被告株式会社Bが同教室を開設したのは、平成5年4月ころである。現在同教室が入っているビルにおいては、同教室開設以前から、訴外Lが風営法に基づく許可を受けてカルチャーセンターを経営していたのであり、被告株式会社Bの代表者C、被告Dの外、複数のダンス教師が交代でレッスンを行っていたが、当該カルチャーセンターは被告株式会社B及び被告Dの管理下にはなかった。原告の主張は、上記Lが受けていた営業許可証がビルに掲げられたままになっているのを被告株式会社Bのものと誤解したことによるものである。 また、原告は、9月、10月、11月、2月に行われた実態調査を基に月間営業日数を判断しているが、損害額等の算定の基礎となる月間営業日数は、年末年始やお盆休みのある月も考慮してその平均をとって決められるべきである。なお、各被告ごとの年間営業日数は、次のとおりである。 @ 被告株式会社B 195日 A 被告E 約288日 B 被告F 約290日 C 被告G 約290日 D 被告H及び被告I 244日 E 被告J 236日 F 被告K 約280日 (イ) 仮に、本件報告書が正確なものであったとしても、わずか1日だけの音楽の使用量をもって、原告が請求の対象とする全期間(本訴提起の日以前の10年間)について本件各施設における管理著作物の使用量を認定することは妥当ではない。すなわち、本件各施設においては、この10年間あるいは開設後から今日まで、受講生数の増減、ダンス教師等のスタッフの変更等、音楽の使用量の増減に直接影響する事情に関して様々な変化が生じていることからすれば、原告の調査日における音楽の使用量を基に、営業月数等を乗じて原告が請求の対象とする全期間の損害額等を計算することは不可能である。 また、同じダンス教授所においても、レッスンを担当する教師、それを受ける生徒等により、あるいはレッスン日等によっても、実際に音楽が使用される時間は異なってくるし、使用されている音楽の中には、管理著作物以外の音楽著作物や著作権の保護期間が既に終了しているようなものも多く含まれており、管理著作物のみが使用されているわけではない。現に、被告らが本訴提起後に調査した結果を記載した「音楽使用実態調査表」によれば、被告らの利用曲数は、原告の調査よりも少なくなっている。 イ 不当利得による損失額 アと同様であるほか、不当利得の返還請求については、弁護士費用は認められない。 ウ 本件報告書に基づく請求の不当性 そもそも原告の請求の基礎となっている本件報告書には、以下の問題点があり、原告は、その損害額ないし損失額の立証に成功していないというべきである。 (ア) 本件報告書の証拠能力について 原告が、損害額等の根拠としている本件報告書は、原告が雇った調査会社の調査員が、調査の目的を秘してダンス教授所に潜入して調査したものであり、かかる行為は被告らの意思に反する建造物への立入りであって、建造物侵入罪にも該当し得るものである。 したがって、かかる手段により収集された証拠である本件報告書は、違法収集証拠として証拠能力を認めることができない。 (イ) 本件報告書の信用性について 本件報告書は、教授料金に誤りがあったり、当該ダンス教授所には存在しないスタッフの氏名が教師名として記載されていたり、料金システムに関するチケットの枚数が間違っていたり、客の入店状況が実際の人数と異なっているなど、杜撰かつ不正確な内容となっているが、このような報告書は、被告らによる音楽の実際の使用状況を反映したものとはいえないから、信用性が認められないばかりか、むしろ誤解を招く有害なものである。 (7) 争点(5)(被告Dの責任)について (原告の主張) 被告Dは、平成14年4月30日まで被告株式会社Bの代表取締役として、同日以降同社の取締役として法令を遵守して社交ダンス教授所の経営をすべきところ、自らダンス教師として顧客の指導に当たってきており、被告株式会社Bが原告の許諾を受けず、かつ、使用料を支払わずに管理著作物を使用していることを現に知り、又は極めて容易に知り得たのであるから、その職務を遂行するにつき悪意又は重大な過失があった。 よって、被告Dは、商法266条の3第1項に基づき、被告株式会社Bと連帯して損害賠償責任を負う。 (被告Dの主張) 被告Dが、平成3年3月1日の会社設立から平成14年4月30日まで被告株式会社Bの代表取締役の地位にあり、同日以降も取締役として同社によるダンス教授所の経営に関与していること、自らダンス教師として顧客の指導に当たっていること、以上の事実は認めるが、被告Dが、商法266条の3第1項に基づき、損害賠償責任を負うとの主張は争う。 (8) 争点(6)(消滅時効の成否)について (被告らの主張) ア 原告は、昭和46年以降、社交ダンス教授所における管理著作物の演奏権を管理しており、被告らを含めた愛知県のダンス教授所の使用料支払の状況についても10年前から十分に把握していたと考えられるから、原告は、その時点において「損害及び加害者」を知ったということができる。したがって、本訴提起から3年前以前の原告の被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求権は、3年の消滅時効(民法724条)にかかっているから、被告らは、本訴において、同時効を援用するとの意思表示をする。 イ また、原告の被告らに対する不当利得返還請求権は、5年の商事消滅時効にかかる(商法522条)。すなわち、原告と被告らとの間に著作物利用許諾契約が存在する場合には、その使用料債権は商行為によって生じたものであるから、商事消滅時効の対象となると考えられるところ、本件における不当利得返還請求権は、本来契約に基づいて適用されるはずの使用料規程に基づいたものであって、上記債権が変形したもの、あるいは実質的に同一視できる債権と考えられるから、商事取引関係の迅速な解決という要請に変わりはない。したがって、本件の不当利得返還請求権は、商行為によって生じた債権に準じるものとして商事消滅時効の対象となるので、被告らは、本訴において、同時効を援用するとの意思表示をする。 (原告の主張) ア 被告らが、本訴において、不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効が認められるとしても、原告は、当該消滅部分について、不当利得に基づく返還請求をする。 イ 被告らは、原告の被告らに対する不当利得返還請求権が5年の商事消滅時効にかかると主張する。しかし、そもそも仮に原告と被告ら(被告株式会社Bを除く。)との間に著作物利用許諾契約が存在するとしても、著作物利用許諾契約に係る法律関係に絶対的商行為又は営業的商行為に当たる行為は存在しないし、また原告は公益社団法人であって商人ではなく、被告株式会社Bを除く被告らも同様に商人ではないから、そこから生じる使用料債権は商行為によって生じた債権ではない。したがって、被告らの上記主張は、被告株式会社Bとの関係を除けば、前提において失当である。 また、本件の不当利得返還請求権については、原告と被告らとの間に商行為である契約関係は存在せず、被告らが原告の有する著作権を一方的に侵害したことにより発生したものであることを考慮すれば、商事取引関係の迅速な解決という要請を考慮すべき合理的根拠に乏しく、商行為によって生じた債権に準じるものとはいえない。なお、同請求権は、原告の使用料規程に基づくものではなく、原告は、被告らの受けた利益(ないし原告が被った損失)を算定するために同規程を資料としているにすぎないから、この点においても、被告らの主張は誤っている。 (9) 争点(7)(撤去請求の可否)について (原告の主張) ア 法112条2項は、著作権者が著作権侵害者に対し、同条1項に規定する差止請求権を実効あらしめるために必要な具体的措置として、「専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具」の撤去、廃棄等を請求することができる旨規定するところ、本件物件は、上記の機械若しくは器具に当たるというべきである。 この点、被告らは、本件物件が原告の管理著作物以外の録音物を再生するためにも使用されるものであることを理由に、「専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具」に当たらないと主張するが、法112条2項にいう「機械若しくは器具」とは、機能及び用途の両面から特定人の有する著作権侵害以外の目的に用いることができないようになっているものに限定されない。そう解さなければ、海賊版CDの製作業者に対してその製作に供された所有録音機器の廃棄を求める請求も、社交飲食店に対して無許諾演奏に使用した通信カラオケ装置の当該店舗からの撤去を求める請求も、同項によってすることができないということとなるが、そのような結果は同項の立法趣旨に照らし不合理である。被告らは、本件各施設において、現在も本件物件を用いて原告の著作権を継続して侵害しているばかりか、本件物件を用いた場合において、管理著作物が演奏される割合は極めて高い(演奏楽曲中に占める管理著作物の占有率は平均83.65パーセントであり、曲名の判明した楽曲に占める管理著作物の占有率は平均91.76パーセントである。)。なお、ダンス音楽については、カラオケ用楽曲と異なり、必ずしも一般に知られた楽曲ばかりでないため、楽曲の特定に困難が伴うという特殊事情があるが、楽曲の特定ができなかったものについても、特定さえすれば、それが高い割合で管理著作物に該当することが確実である。 したがって、本件物件を放置すれば、被告らによる侵害再開の可能性は高いというべきである。 イ しかも、原告の請求は、本件物件の廃棄ではなく、著作権侵害の舞台となっている本件各施設からの撤去という最低限のものにすぎない。長期間にわたって原告の著作権侵害を継続している被告らが、その侵害のための道具として使用し続けている機器の撤去を甘受すべきは当然である。 ウ よって、原告は、被告らに対し、法112条2項に基づき、廃棄その他の侵害の停止又は予防に必要な措置として、本件物件の本件各施設からの撤去を求める。 (被告らの主張) 原告の主張は、否認ないし争う。 被告らが本件各施設に設置している本件物件は、原告の管理著作物以外の録音物を再生するためにも使用されるものであり、「専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具」(法112条2項)には当たらない。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)ア(公衆演奏の該当性)について 著作権者は、その著作物を公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(「公に」)演奏する権利を専有しており(法22条)、「演奏」には、生の演奏だけでなく、著作物が録音されたものを再生することを含むとされている(同法2条7項)ところ、前記前提事実(2)のとおり、被告らは、本件各施設において、ダンス教師が受講生に対し社交ダンスを教授するに当たり、管理著作物を含む音楽著作物を録音したCD等を再生する方法により演奏していることは当事者間に争いがない。 しかるところ、原告は、前記のとおり、受講生に対し社交ダンスを教授するに際して管理著作物等を再生する行為は、「公に」演奏する行為に当たると主張するのに対し、被告らは、上記再生行為は、特定かつ少数の者に対するものであると主張して、「公に」演奏する行為であることを否定するので、まず、この点について検討する。 一般に、「公衆」とは、不特定の社会一般の人々の意味に用いられるが、法は、同法における「公衆」には、「特定かつ多数の者」が含まれる旨特に規定している(同法2条5項)。法がこのような形で公衆概念の内容を明らかにし、著作物の演奏権の及ぶ範囲を規律するのは、著作物が不特定一般の者のために用いられる場合はもちろんのこと、多数の者のために用いられる場合にも、著作物の利用価値が大きいことを意味するから、それに見合った対価を権利者に環流させる方策を採るべきとの判断によるものと考えられる。かかる法の趣旨に照らすならば、著作物の公衆に対する使用行為に当たるか否かは、著作物の種類・性質や利用態様を前提として、著作権者の権利を及ぼすことが社会通念上適切か否かという観点をも勘案して判断するのが相当である(このような判断の結果、著作権者の権利を及ぼすべきでないとされた場合に、当該使用行為は「特定かつ少数の者」に対するものであると評価されることになる。)。 これを本件についてみるに、被告らによる音楽著作物の再生は、本件各施設においてダンス教師が受講生に対して社交ダンスを教授するに当たってなされるものであることは前記のとおりであり、かつ、社交ダンスはダンス楽曲に合わせて行うものであり、その練習ないし指導に当たって、ダンス楽曲の演奏が欠かすことができないものであることは被告らの自認するところである。そして、証拠(甲5の1ないし7)によれば、被告らは、格別の条件を設定することなく、その経営するダンス教授所の受講生を募集していること、受講を希望する者は、所定の入会金を支払えば誰でもダンス教授所の受講生の資格を得ることができること、受講生は、あらかじめ固定された時間帯にレッスンを受けるのではなく、事前に受講料に相当するチケットを購入し、レッスン時間とレッスン形態に応じた必要枚数を使用することによって、営業時間中は予約さえ取れればいつでもレッスンを受けられること、レッスン形態は、受講生の希望に従い、マンツーマン形式による個人教授か集団教授(グループレッスン)かを選択できること、以上の事実が認められ、これによれば、本件各施設におけるダンス教授所の経営主体である被告らは、ダンス教師の人数及び本件各施設の規模という人的、物的条件が許容する限り、何らの資格や関係を有しない顧客を受講生として迎え入れることができ、このような受講生に対する社交ダンス指導に不可欠な音楽著作物の再生は、組織的、継続的に行われるものであるから、社会通念上、不特定かつ多数の者に対するもの、すなわち、公衆に対するものと評価するのが相当である。 この点につき、被告らは、@本件各施設におけるCD等の再生は、被告らとダンス指導受講の契約を結んだ特定の生徒に対し、ダンス技術の指導に伴ってなされるものであり、両者の間には密接な人的結合関係に依存した継続的な関係が存することに照らせば、本件各施設におけるCD等の再生は特定の者に対してなされるものであること、A被告らのダンス指導は個人レッスンを基本としているところ、その生徒数は数名、多くとも10名程度であるから、多数の者に対する演奏ともいえないこと、などを理由に、公衆に対するものではないと主張する。 なるほど、証拠(乙10の1ないし7、12、18ないし33)によれば、顧客である受講生らと被告らとの間にダンス指導受講を目的とする契約が締結されていること、この契約は、通常、1回の給付で終了するものではなく、ある程度の期間、継続することが予定されていること、本件各施設において、一度にレッスンを受けられる受講生の数に限りがあること、本件各施設におけるダンス教授が個人教授の形態を基本としていること、以上の事実は否定できない。しかしながら、受講生が公衆に該当するか否かは、前記のような観点から合目的的に判断されるべきものであって、音楽著作物の利用主体とその利用行為を受ける者との間に契約ないし特別な関係が存することや、著作物利用の一時点における実際の対象者が少数であることは、必ずしも公衆であることを否定するものではないと解される上、@上記認定のとおり、入会金さえ支払えば誰でも本件各施設におけるダンス教授所の受講生資格を取得することができ、入会の申込みと同時にレッスンを受けることも可能であること、A一度のレッスンにおける受講生数の制約は、ダンス教授そのものに内在する要因によるものではなく、当該施設における受講生の総数、施設の面積、指導者の数、指導の形態(個人教授か集団教授か)、指導日数等の経営形態・規模によって左右され、これらの要素いかんによっては、一度に数十名の受講生を対象としてレッスンを行うことも可能と考えられることなどを考慮すると、受講生である顧客は不特定多数の者であり、同所における音楽著作物の演奏は公衆に対するものと評価できるとの前記判断を覆すものではないというべきである。 2 争点(1)イ(演奏の非営利性)について 被告らは、本件各施設における音楽著作物の再生は、営利性を欠くと主張するところ、法は、公表された著作物につき、@営利を目的とせず、A聴衆等から料金を受けない場合には、著作権に服することなく公に演奏等を行うことができる旨規定する(法38条1項)。これは、公の演奏等が非営利かつ無料で行われるのであれば、通常大規模なものではなく、また頻繁に行われることもないから、著作権者に大きな不利益を与えないと考えられたためである。このような立法趣旨にかんがみれば、著作権者の許諾なくして著作物を利用することが許されるのは、当該利用行為が直接的にも間接的にも営利に結びつくものではなく、かつ聴衆等から名目のいかんを問わず、当該著作物の提供の対価を受けないことを要すると解すべきである。 しかるところ、被告らが、本件各施設におけるダンス教授所において、受講生の資格を得るための入会金とダンス教授に対する受講料に相当するチケット代を徴収していることは前記のとおりであり、これらはダンス教授所の存続等の資金として使用されていると考えられるところ、ダンス教授に当たって音楽著作物の演奏は不可欠であるから、上記入会金及び受講料は、ダンス教授と不可分の関係にある音楽著作物の演奏に対する対価としての性質をも有するというべきである。 この点につき、被告らは、@社交ダンスは一つの芸術ないしスポーツであり、社交ダンス教授所はその教育という公益目的に従事するものであって、受講生から得た受講料はダンス教師の技術の向上や本件各施設の運営費用に振り向けられているから、営利を目的としたものではないこと、A受講料はダンス指導の対価であって、音楽著作物の演奏に対する対価ではないから、受講料は法38条1項の「料金」に当たらないこと、などを理由に、本件各施設における管理著作物の再生は、営利を目的としない利用として原告の著作権が及ばない旨主張する。 しかしながら、社交ダンスが一つの芸術ないしスポーツの側面を有していることは承認できる(乙1ないし3、8)としても、スポーツ等が営利目的と併存し得ることは、プロ野球やプロサッカーの例を挙げるまでもなく、疑いを容れる余地がないし、被告らが主張するように、受講料がダンス教師の技術の向上や本件各施設の運営費用に振り向けられれば、本件各施設の人的物的施設が維持改善されて同施設の競争力が高まり、更に受講生の獲得、受講料収入の増加につながるという循環を生み出すことが考えられるから、これらだけではダンス教授所が営利を目的としないとはいえない。かえって、前記認定のとおり、本件各施設におけるダンス教授所は、入会金と受講料を定め、受講生から徴収しているが、これらは教授所を維持するのに最低限必要な経費から割り出されたものではなく、受講生が増加すれば増加するほどその経営者の取得する所得が増加する関係にあり、現に、証拠(甲5の1及び5ないし7)によれば、被告株式会社B、被告H、被告I、被告J、被告Kの経営に係るダンス教授所においては、受講勧誘文言を記載した入会案内書を作成、配布している事実が認められるから、これらを総合すれば、被告らの経営するダンス教授所が営利の目的を有しないものであるとは到底認めることはできない。そして、前記のとおり、社交ダンスの教授に際して音楽著作物を演奏することは必要不可欠であり、音楽著作物の演奏を伴わないダンス指導しか行わない社交ダンス教授所が受講生を獲得することはおよそ困難であって、そのような社交ダンス教授所が施設を維持運営できないことは明らかであるから、結局、本件各施設における音楽著作物の利用が営利を目的としないものであるとか、上記受講料がその対価としての料金には当たらないとの被告らの主張は採用できない。 3 争点(1)ウ(著作物の公正な利用)について 被告らは、本件各施設における管理著作物の演奏は、@教師と生徒の間の密接した個人的空間において行われ、私的領域における演奏であること、A芸術、スポーツの普及ないし教育の目的で行われ、営利目的ではないこと、B社交ダンスのようにルールの確立したスポーツあるいはその指導に伴う音楽の使用は、著作権侵害とされるべきでないとの社会的コンセンサスがあり、黙認されてきたことなどの事実に照らすと、著作物の公正な利用(フェア・ユース)に当たるから、原告の被告らに対する請求は、権利濫用として許されない旨主張する。 法1条は、法の目的につき、「これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作権者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与することを目的とする。」と定め、法30条以下には、それぞれの立法趣旨に基づく、著作権の制限に関する規定が設けられているところ、これらの規定から直ちに、我が国においても、一般的に「公正な利用(フェア・ユース)の法理」が認められると解するのは相当でない。著作権に対する公正利用の制限は、著作権者の利益と公共の必要性という、対立する利害の調整の上に成立するものであるから、実定法主義を採る我が国の法制度の下で、これが制限されるためには、その要件が具体的かつ明確に規定されていることが必要であると解するのが相当であって、かかる規定が存しない以上、一般的な「公正な利用の法理」を認めることはできないことはもちろん、明文の規定を離れて著作物の公正な利用となる場合があることを認めることはできないというべきである(東京高等裁判所平成6年10月27日判決・知的裁集26巻3号1151頁参照)。 もっとも、被告らは、権利濫用を基礎づける趣旨で上記の法理を主張していると解されるので、これについて検討するに、前記のとおり、@被告らの経営するダンス教授所においては、入会金を支払うことにより誰でも受講生の資格を得ることができ、かつ受講生は、個人レッスンと集団レッスンを選択することができること、Aダンス教授及びこれと不可分の関係にある音楽著作物の演奏が営利目的でないとはいえないこと、B被告らの主張する社会的コンセンサスが存在することを認めるに足りる証拠はないが、それをさておくとしても、本件で問題とされているのは、社交ダンスそのものではなく、料金を徴収して組織的、継続的に行われているダンス教授の営業活動に不可欠な音楽著作物の使用であるから、スポーツないしその指導との比較は意味をなさないこと、以上に照らせば、被告らの主張する事由は、原告の請求が権利濫用であることを基礎づけるものではないというべきである。 4 争点(2)(使用料請求の権利濫用)について 前記のとおり、被告らが経営する本件各施設において、管理著作物を収録したCD等を再生する行為が原告の著作権を侵害すると判断される以上、原告がその権利に基づいて、被告らに対し、侵害行為によって生じた損害の賠償等を求めることは、特段の事情がない限り、正当な権利の行使であって、それが権利の濫用と評価されることはないと解される。 この点につき、被告らは、@原告らが損害賠償請求等の根拠とする使用料規程は、事業法の規定する手続に則ったものでないこと、A原告の本訴提起前の交渉態度は不誠実なものであり、また原告は、本訴提起に先立ち、被告らとの十分な交渉を経ていないこと、B原告が、本訴提起に先立って社交ダンス教授所の経営者らに対して送付した書面の内容が強圧的なものであること、C原告が使用料規程に基づいて使用料を求める行為は独占禁止法19条にいう不公正な取引方法に当たること、などを主張して、原告が被告らに対し使用料規程に基づいて使用料相当額の請求をすることは権利の濫用であると主張する。 なるほど、証拠(甲6の1ないし7、11の1、2)によれば、原告が、平成13年11月ころに被告らに送付した「許諾の有無による著作物使用料の比較」と題するリーフレットには、原告の許諾を受けない場合の著作料使用料が許諾を受けた場合の数倍に達することが記載されていること、また、原告が、その代理人名義で本訴提起直前に被告らに送付した警告書には、被告らが刑事罰をも科せられる可能性を示唆する文言も記載されていること、以上の事実が認められ、これによれば、受け取め方によっては原告の交渉に臨む態度が威圧的であるとの印象を与え得ることは否定できない。 しかしながら、一般に、交渉の際に事実に反しない限度で多少の駆け引きを行うことは社会通念上許容されていると考えられる上、証拠(甲7、8、9及び10の各1、2、12の1ないし6)によれば、@原告は、平成13年9月6日、社交ダンス教授所における管理著作物利用についての利用者団体と考えられる全ダ連に対し、事業法13条2項に基づき、使用料規程案を送付した上でその意見の陳述を促したが、全ダ連から特段の意見表明はなかったので、文化庁長官に現行使用料規程を届け出たこと、A現行使用料規程に定める社交ダンス教授所に適用される使用料額は、昭和61年8月13日付けで変更認可を受けて実施していた著作物使用料規程に定める使用料額と同額であるところ、原告は、この変更認可申請に先立って、当時の唯一の利用者団体であった全ダ連との間で協議を行ったこと、B原告は、平成13年11月6日、ボールルーム連盟に対して、同連盟に所属する社交ダンス教授所における管理著作物の利用の適正化についての申入れをしたところ、同連盟から、同連盟の主要な事業がダンス指導者の資格認定をすることにあり、上記問題について責任を持った交渉をすることはできないとの趣旨の回答があったこと、C原告は、平成13年以降、被告らないし被告らの所属する団体(全ダ連、ボールルーム連盟、アイチボールルームダンス協同組合)との間で管理著作物の利用の適正化について相当期間にわたる交渉を重ねた上で、本件訴訟を提起したこと、D上記警告書が送付された時期には、既に被告らにも弁護士である代理人が選任されていたこと、以上の事実が認められ、これらを総合すれば、上記特段の事情が存するとは認め難い(被告らの上記主張は、つまるところ、被請求者側から見た請求者の交渉及び請求態度に対する主観的不満を述べているにすぎないと評価し得る。)から、原告による使用料の請求が権利の濫用として許されないとの被告らの主張は採用できない。 5 争点(3)(法附則14条の適用の有無)について (1) 平成11年法律第77号(平成12年1月1日施行)による改正前の法附則14条は、適法に録音された音楽著作物の再生については、公衆送信に該当するもの及び営利を目的として音楽の著作物を使用する事業で政令で定めるものにおいて行われるものを除き、当分の間、旧法30条1項8号、2項等が効力を有することとして演奏権を制限し、所定の要件の下で適法とする旨を規定する。これを受けて、法施行令附則3条は、政令で定める事業として、1ないし3号の各事業を掲げているが、その2号において、「キャバレー、ナイトクラブ、ダンスホールその他フロアにおいて客にダンスをさせる営業」が規定されている。この点に関し、被告らは、社交ダンス教授所は法施行令附則3条の各号のいずれの事業にも該当せず、本件各施設においてCD等に録音された管理著作物を再生する行為は、法附則14条の適用対象であったことを前提に、被告らが支払うべき使用料は平成14年4月以降のものに限られる旨主張するのに対し、原告は、本件各施設のような社交ダンス教授所は、法施行令附則3条2号の「フロアにおいて客にダンスをさせる営業」に当たると主張するので、その当否につき検討する。 (2) まず、法附則14条が設けられた経緯について検討するに、旧法は、「音ヲ機械的ニ複製スルノ用ニ供スル機器ニ著作物ノ適法ニ写調セラレタルモノヲ興行又ハ放送ノ用ニ供スルコト」(30条1項8号)は著作権侵害とはならない旨規定し、レコード等の録音再生機器を用いた演奏は公になされたとしても、原則として著作権の権利の範囲外とされていたが、昭和45年改正の現行法において、前記のとおり、著作物が録音されたものを再生することも演奏に含まれるとされた(同法2条7項)ことから、レコード等の録音再生機器を用いた演奏にも演奏権が及ぶことになった。しかし、一挙に制度を切り替え、それまで適法とされた行為を著作権の侵害とみなすことには社会的抵抗が強く、零細な音楽演奏事業者を圧迫するおそれがあったことから、政策的配慮により、放送・有線放送事業又は営利を目的として音楽の著作物を使用する一部の事業を除いて、当分の間、旧法の制度を維持するとの経過規定(法附則14条)が設けられたものである(もっとも、現行著作権法制定当時から、上記規定はベルヌ条約に違反する疑いがあるとの指摘があったこと、制定から30年が経過し、レコードの再生演奏から有線放送の再伝達に切り替える事業者が増えるなど、同規定を廃止したとしても社会的影響が小さくなったこと等を踏まえ、平成11年改正により同規定は削除された。)。 そして、法施行令附則3条は、法附則14条を受けて規定されたものであるが、法附則14条が設けられた趣旨及び施行令附則3条に列挙された事業の性質・内容にかんがみれば、法施行令附則3条各号に列挙された事業は、営利を目的とする事業のうち、再生演奏が大規模ないし頻繁に行われるために、著作権者の演奏権を著しく侵害するおそれが高いもの、裏返していえば、営業上音楽の演奏を欠くことができない事業を類型的に列挙したものと解される。 これを本件についてみるに、被告らの経営する社交ダンス教授所は営利を目的としたものであること、社交ダンス教授所における社交ダンスの指導・教授に音楽の演奏は不可欠であり、音楽を演奏しないダンス指導のみを行っていては当該社交ダンス教授所の営業が成り立たないこと、その営業の性格上、頻繁に音楽著作物が演奏されること、以上は前記判断のとおりであるから、これらを総合すれば、本件各施設のような社交ダンス教授所は、法施行令附則3条2号の「フロアにおいて客にダンスをさせる営業」に当たると解するのが相当である。 この点につき、被告らは、平成10年の風営法改正により、ダンス教授所がその規制対象から外されたことなどを根拠に、ダンス教授所は法施行令附則3条2号の「フロアにおいて客にダンスをさせる営業」に当たらない旨主張する。なるほど、平成10年法律第55号による改正前の風営法2条1項4号は、「ダンスホールその他設備を設けて客にダンスをさせる営業(第1号又は前号に該当する営業を除く。)」を風俗営業として規定していたのに対し、改正後においては、「ダンスホールその他設備を設けて客にダンスをさせる営業(第1号若しくは前号に該当する営業又は客にダンスを教授するための営業のうちダンスを教授する者(政令で定めるダンスの教授に関する講習を受けその課程を修了した者その他ダンスを正規に教授する能力を有する者として政令で定める者に限る。)が客にダンスを教授する場合にのみ客にダンスをさせる営業を除く。)」と規定し、一定の要件を満たしたダンス教授営業がその規制対象から外されたことは明らかである。 しかしながら、風営法は、「善良の風俗と清浄な風俗環境を保持し、及び少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止する(1条)」目的で、警察行政上の観点から規制等を行おうとするものであり、著作物等の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図らんとする著作権法とは、その目的、趣旨及び規制手法において大きく相異するから、法施行令附則3条2号に掲げられた事業が風営法2条1項の定義を参考として規定された経緯があるとしても、両者を同一のものと解釈すべき根拠はないといわざるを得ず、被告らの上記主張は採用できない(ちなみに、被告らの論法に従えば、平成10年改正前の風営法に基づく営業許可を受けていた場合には、その時点では法施行令附則3条2号の事業に該当することにならざるを得ないと考えられるところ、甲4によれば、別紙差止請求一覧表記載の施設番号2ないし6の施設が上記許可を受けていた事実が認められる。)。 (3) よって、本件各施設におけるCD等の再生の方法による管理著作物の演奏には法附則14条の適用はないというべきであるから、これを前提とする被告らの前記主張は採用できない。 6 争点(4)(損害等の有無及び額)について (1) 不法行為に基づく損害 ア 使用料相当額損害金 (ア) 前記のとおり、被告らによる管理著作物を収録したCD等の再生行為は、原告の著作権を侵害する行為であるから、これによって、原告は著作権使用料相当額の損害を被っていると認められるところ、その額は、少なくとも管理著作物の許諾を受けて利用する者が原告に対して支払うべき使用料と同額とみなされる(法114条2項)。ところで、管理著作物の使用料については、平成13年9月30日までは「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」に基づき文化庁長官の認可を受けた「著作物使用料規程」に、平成13年10月1日以降は事業法13条に基づいて原告が定めて文化庁長官に届け出た「使用料規程」に、それぞれ定められているところ、証拠(甲3、9の1、2)によれば、使用料規程に定める社交ダンス教授所に適用される使用料額は、昭和61年8月13日付けで変更認可を受けて実施していた著作物使用料規程に定める使用料額と同額であること、具体的には、本件各施設のような社交ダンス教授所において管理著作物を演奏(再生)する場合の使用料は、包括的利用許諾契約を結ばない場合には1曲1回当たりの使用料によるべきところ(第2章第1節5「社交場における演奏等」)、社交ダンス教授所という営業形態は業種8に分類されるから、本件各施設に対しては別表16の2が適用されること、以上の事実が認められる。 本件においては、使用料規程の適用の前提となる本件各施設の面積(主としてダンスをするために設けられた場所の面積)、30分間の教授料については当事者間に争いがなく、それらによって定まる1曲1回当たりの使用料は、別紙差止請求一覧表記載の施設番号1ないし3及び5ないし7のダンス教授所が60円、施設番号4のダンス教授所が40円となる(甲3の別表16の2)。 (イ) 次に、本件各施設におけるダンス教授所の(平均)月間営業日数及び1日当たりの管理著作物の利用数について判断する。本件各施設のような社交ダンス教授所については、社会通念上、年末年始及びお盆休みは営業しないと考えられるところ、証拠(甲5の1ないし7、乙7の1ないし7)及び弁論の全趣旨によれば、本件各施設の(平均)月間営業日数及び利用数は、以下のとおりであると認められる。 @ 別紙差止請求一覧表記載の施設番号1の施設 12日 A 同2ないし4、7の各施設 24日 B 同5、6の各施設 20日 また、証拠(甲5の1ないし7)によれば、本件各施設における1日当たりの管理著作物再生回数(演奏回数)は、少なくとも原告の主張回数(別紙1ないし7に記載された回数)を下回るものではないと認められ、これに反する証拠(乙7の1ないし7)は、その作成経緯等に照らして採用できない。 この点につき、被告らは、@原告提出に係る本件報告書は、原告が雇った調査会社の調査員が、被告らの意思に反してその調査目的を秘し、本件各施設に潜入して調査した結果に基づくものであり、原告の上記行為は建造物侵入罪にも該当し得るものであるから、違法収集証拠に当たること、A本件報告書にはレッスン料金やスタッフ名について明白な誤りがあること、などを理由として、その証拠能力及び信用性を争っている。 しかしながら、被告らの証拠能力欠如の主張が本件報告書の証拠調べが終了した後の期日に提出・陳述されたことは、本件記録に照らして明らかであり、このような場合にも、なお証拠の排除が可能であるかは疑問であるが、仮にこれを肯定するとしても、自由心証主義(民事訴訟法247条)を採用している現行法の下では、当事者の提出する証拠については、原則としてその証拠能力を肯定すべきであり、ただ、その証拠が著しく反社会的な手段を用いて、人の精神的、肉体的自由を拘束するなどの人格権侵害を伴う方法によって採集されたものであるときに限り、その証拠能力は否定されると解するのが相当である(東京高等裁判所昭和52年7月15日判決・東高民時報28巻7号162頁参照)ところ、証拠(甲4、5の1ないし7)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件各施設における管理著作物の使用実態について把握するために、調査会社である株式会社オリファに対し、上記使用実態について調査するよう委託したこと、同社は、その従業員を本件各施設に顧客として派遣し、本件各施設を経営する被告らとの間でダンス受講契約を締結し、同契約に基づく入会金、受講料等の債務をすべて履行した上で、通常のレッスンを受けさせたこと、本件報告書は調査員がダンスレッスンを受ける過程で現実に見聞した事実を報告したものであること、調査員は、事実を見聞するに際し、他人に危害を加えたり、自由意思を抑圧するなどの手段をとることはなかったこと、以上の事実が認められ、これら調査の経緯・態様に加え、調査当時、被告らが原告の著作権を侵害している蓋然性が高かったことをも考慮すれば、本件報告書を違法収集証拠としてその証拠能力を否定することはできないというべきである。 また、証拠(甲4、5の1ないし7)及び弁論の全趣旨によれば、本件報告書は調査担当者が目視確認し、あるいは講師や受講生から聴取した内容を記載したものであること、実態調査は1日のみで、調査時間も2ないし6時間程度の短時間に行われたものであり、かつ、調査員はその調査時間内にダンスの指導も併せて受けていること、以上の事実が認められるが、このような調査の性格からすれば、その内容の一部に誤りが生じたとしても何ら不自然なことではなく、これに本件報告書の内容が本訴提起後に被告らにおいて行った実態調査の結果(乙7の1ないし7)と、管理著作物の使用回数を除き、大きな差異がないことを併せ考えると、本件報告書に一部誤りが存することをもって直ちに同報告書全体の信用性がないとはいえない。 (ウ) さらに、原告が損害算定の基礎とし得る侵害期間の範囲について判断する。 証拠(甲4、5の1ないし7)及び弁論の全趣旨によれば、原告の調査は、原告から依頼を受けた調査員が被告らが経営するダンス教授所の受講生となって実施したものであるが、調査に要した日数は1日のみであって、相当期間にわたって継続的に行われたものではないことが認められる。他方、証拠(乙10の1ないし7、12)によれば、受講生が社交ダンスの受講を決意し、これを継続する過程において、ダンス教師や友人との人的関係によって影響を受ける割合が比較的高いと認められ、これによれば、ダンス教授所の営業は、顧客が物的施設の要素を重視するカラオケボックスなどとは性格が異なるというべきである。そうすると、後者においては、物的施設に変更がない限り、1日当たりの演奏曲数にそれほどの変動はないと推認することが可能であるが、前者においては、ダンス教師の数やその人柄等によって、受講生の数ひいては演奏曲数が大いに変動する可能性があるといわざるを得ない(現に、乙9の1ないし7によれば、本件各施設におけるダンス教授所の受講生は、過去1年間において相当数が入れ替わっていること、かつほとんどのダンス教授所において、過去1年間は受講生が増加する傾向にあることが認められる。)から、平成13年9月から平成14年2月にかけて行われた1日限りの調査結果をもって、過去数年の利用曲数を推認することは、同一の人的関係が存在することの立証がない限り、できないというべきである。したがって、原告が著作権者から信託を受けた管理著作物の総数に変動がないと仮定しても、本件報告書に基づく1日当たりの利用曲数は、経験則に照らし、せいぜい調査日の前後1、2年の範囲内で妥当すると判断するのが相当である。 もっとも、法114条の4は、損害が生じたことが認められる場合において、損害額を立証するために必要な事実を立証することが当該事実の性質上極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる旨規定しているところ、前記認定に係るダンス教授所の営業の特殊性、本件各施設におけるダンス教授の態様、原告による調査方法等を総合すれば、上記調査日の前後1、2年の範囲を超える期間についても、本件報告書等に基づく1日当たりの利用曲数を基礎に損害額を認定することができるというべきである。 しかして、被告らが、本訴において、不法行為に基づく損害賠償債務の消滅時効(3年)を援用するとの意思表示をしたことは本件記録上明らかであり、被告らがこの3年の間に本件各施設において管理著作物を使用していたことについて特に争っていないことからすれば、結局、原告が請求する損害の算定の基礎となし得る侵害期間は、本訴提起時から遡って3年前の時点(平成11年6月1日)以降、原告が終期とした平成14年11月30日までの42か月となる。 (エ) 以上の認定・判断を前提に、使用料相当損害金を被告らについてそれぞれ算定すると、次のとおりとなる(いずれも消費税を含む。)。 @ 被告株式会社B 60円×12日×32曲×42月×1.05=101万6064円 A 被告E 60円×24日×25曲×42月×1.05=158万7600円 B 被告F 60円×24日×30曲×42月×1.05=190万5120円 C 被告G 40円×24日×25曲×42月×1.05=105万8400円 D 被告H及び被告I 60円×20日×30曲×42月×1.05=158万7600円 E 被告J 60円×20日×24曲×42月×1.05=127万0080円 F 被告K 60円×24日×119曲×42月×1.05=755万6976円 イ 確定遅延損害金 上記使用料相当損害金については、被告らによる著作権侵害が行われた日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金が発生していると認められるので、本件各施設の使用料相当損害金について、1か月の損害金(税込み)を算出し、その金額に翌月1日から平成14年11月30日まで年5分の割合による金員を求める原告の請求はいずれも理由がある。 本件各施設の1か月当たりの損害金及びその金額に対する遅延損害金の起算日は、それぞれ別紙1ないし7の使用料相当額一覧表記載の各「使用料相当額」欄の各金額及びそれに対応する各「起算日」欄記載の日のとおりである。 ウ 弁護士費用 本件記録によれば、原告は、弁護士である代理人に本訴の提起、遂行を委任したことが明らかであり、これにより、相当額の着手金等の支払義務を負ったと認められるところ、本件事案の内容、経緯、認容額、その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、被告らの本件著作権侵害行為と因果関係を有する弁護士費用としては、下記の各金額をもって相当と認める。 @ 被告株式会社B 10万円 A 被告E 15万円 B 被告F 19万円 C 被告G 10万円 D 被告H及び被告I 15万円 E 被告J 12万円 F 被告K 75万円 (2) 不当利得に基づく原告の損失 原告は、予備的に不当利得に基づいて利得の返還を求めているところ、前記認定・判断を前提とすれば、被告らは、原告の許諾を受けず、かつ、使用料を支払わずに管理著作物を使用したことによって、法律上の原因なく使用料相当額の利得を受け、これによって原告は同額の損失を被ったと認められるが、前記のとおり、その金額の算定の基礎となるべき、本件報告書に基づく1日当たりの利用曲数は、経験則に照らしても、せいぜい調査日の前後1、2年の範囲内で妥当するにすぎないと解すべきところ、法114条の4は、不当利得に基づく利得額をも適用対象とするものではないから、上記範囲を超える期間中に発生した利得額は、これを立証する証拠がないといわざるを得ず、結局、原告の予備的請求は理由がないことに帰する。 7 争点(5)(被告Dの責任)について 被告Dが、平成3年3月1日の会社設立から平成14年4月30日まで被告株式会社Bの代表取締役の地位にあり、同日以降も取締役として同社によるダンス教授所の経営に関与していること、自らダンス教師として顧客の指導に当たっていること、以上の事実は当事者間に争いがない。 しかして、前記のとおり、被告株式会社Bの経営するD’ダンススクール扶桑教室(C’ダンススクール扶桑教室)において、原告の許諾を受けることなくなく管理著作物を再生する行為は、原告の著作権を侵害する行為であると判断すべきところ、被告Dの上記地位・立場に照らせば、被告株式会社Bが原告の許諾を受けることなく管理著作物を使用していることを現に知り、又は極めて容易に知り得たと推認できるから、その職務を遂行するにつき悪意又は重大な過失があったというべきであり、これにより第三者である原告に損害を与えたと評価し得る以上、商法266条の3第1項に基づいて、被告株式会社Bと連帯して賠償責任を負うというべきである。 8 争点(7)(撤去請求の可否)について 法112条2項は、著作権者が著作権侵害者に対し、同条1項に規定する差止請求権を実効あらしめるために必要な具体的措置として、「専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具」の廃棄等を請求することができると定めているところ、原告は、本件物件は「専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具」に当たると主張するのに対し、被告らはこれを否定する。 そこで検討するに、本件物件は、CD等の録音物の一般的再生装置であって、管理著作物以外の音楽著作物の再生にも供し得るものである。他方で、本件各施設に本件物件を残しておくと、被告らによって管理著作物の演奏が再開される可能性があることは否定できない。このような観点からすると、上記の「専ら」の要件を満たすか否かについては、著作物の種類・内容、侵害行為の方法・態様、侵害行為の数及び程度、供用物件の性質、取り得る具体的措置の内容等を総合考慮して判断するのが相当である。 これを本件についてみるに、本件報告書(甲5の1ないし7)によれば、本件各施設におけるダンス教授所で演奏された音楽著作物中に占める管理著作物の割合は、平均して80パーセントを超えていることが認められるが、他方で、いわゆるダンス教授所において使用される音楽、いわゆるダンス音楽は極めて選択の幅が広く、必ずしも管理著作物を用いなくともダンス指導は可能と考えられるから、被告らに管理著作物の使用の差止めを命ずることによって、それ以降の侵害が停止されることが期待できるというべきであり、実際にも、本訴提起後に被告らが行った本件各施設における音楽著作物の使用実態の報告書(乙7の1ないし7)によれば、使用された楽曲の中には管理著作物以外のものも相当数使用されている事実が認められること(なお、被告らの上記報告書は、調査主体や調査方法が必ずしも明らかでなく、また使用楽曲数が本件報告書とかい離しているなど、管理著作物を使用することについて自重していることがうかがわれるが、そうであっても、否、そうであればこそ、上記の判断の裏付けとなるというべきである。)に照らせば、法が侵害行為の差止めに加えて侵害専供用物件の廃棄等請求を認めた趣旨を考慮しても、なお、本件物件が「専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具」に当たると認めることは相当でない。 この点につき、原告は、本件物件を本件各施設から撤去するだけであれば、被告らに加重な負担を強いるものではないから、被告らはこれを甘受すべきである旨主張するが、上記撤去請求は、現時点で存在する本件物件の撤去にとどまらず、将来置かれ得る本件物件に対してもその効力を有するといわざるを得ないから、これを認容するためには、被告らが本件物件を使用することによって将来にわたり管理著作物を侵害する蓋然性が高いことの立証が必要というべきところ、これが尽くされたといえないことは前記判断のとおりであるから、原告の上記主張は採用できない。 したがって、原告の法112条に基づく本件物件の撤去請求は理由がない。 9 結論 以上の次第で、原告の本訴各請求は前記判断の限度において理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条、64条本文、65条1項本文を、仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第9部 裁判長裁判官 加藤幸雄 裁判官 舟橋恭子 裁判官 富岡貴美 別紙 物件目録 CDプレイヤー等の録音物再生装置及び関連機器 (別紙差止請求一覧表、別紙1ないし別紙7及び別添ダンス楽曲リストは、省略) |
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