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【事件名】組立て家具の模倣品事件(2)
【年月日】平成15年1月31日
 東京高裁 平成14年(ネ)第1292号 不正競争行為差止等請求事件
 (原審・東京地裁平成12年(ワ)第12838号)
 (平成14年10月21日 口頭弁論終結)

判決
控訴人 矢崎化工株式会社
訴訟代理人弁護士 竹内洋
同 田路至弘
同 吉原朋成
同 筬島裕斗志
同 八木宏
同 吉野彰
被控訴人 スペーシア株式会社
被控訴人 積水樹脂株式会社
被控訴人 タキロン株式会社
3名訴訟代理人弁護士 那須弘平
同 横田高人
同 酒井正之
同 伊従寛
同 阪口春男
同 今川忠
同 山岸正和
補佐人弁理士 小谷悦司


主文
 本件控訴を棄却する。
 控訴人の当審で追加した請求を棄却する。
 当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴人の求めた裁判
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは、原判決別紙製品目録のスペーシア欄記載の各製品を製造し、販売し、貸し渡し、又は展示してはならない。
3 被控訴人らは、前項記載の各製品及びこれらの製品の金型その他製造設備を廃棄せよ。
4 被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して5136万円並びにこれに対する被控訴人積水樹脂株式会社及び被控訴人タキロン株式会社については平成12年7月13日から、被控訴人スペーシア株式会社については同月14日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 控訴人は、原判決別紙製品目録の矢崎化工欄記載の各製品(以下「控訴人製品」という。)を製造販売し、被控訴人らは、同目録のスペーシア欄記載の各製品(以下「被控訴人製品」という。)を製造販売している。
 控訴人は、控訴人製品の形態、その組合せ品の形態及び店頭での展示形態が、控訴人の業務に係る商品を表示するもの(以下「控訴人表示」という。)として需要者の間で広く認識されていること(以下「周知性」という。)、被控訴人製品におけるこれらの形態が控訴人製品のものと類似し、控訴人製品と商品出所の混同を生ずるおそれがあることを主張して、被控訴人らに対し、不正競争防止法に基づき、被控訴人製品の製造、販売等の差止め、廃棄及び損害賠償を求めた。
 原審は、控訴人製品の形態、その組合せ品の形態及び店頭での展示形態が、控訴人表示として周知性を有するとは認められないとして、控訴人の請求をいずれも棄却した。
 控訴人は、当審において、不正競争防止法に基づく請求の原因として、控訴人製品と被控訴人製品が、商品システムにおいて同一であること、また、互換性を有することから、両製品について商品出所の混同を生ずるおそれがあるとの主張を追加し、また、被控訴人らの不正な販促活動が不法行為に当たるとして、民法709条の不法行為に基づく損害賠償請求の訴えを選択的に追加した。
 本件の当事者間に争いのない事実等、争点及び争点に関する当事者の主張は、当審における主張を以下のとおり付加するほか、原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」のとおりであるから(ただし、各「需用者」をいずれも「需要者」に、原判決2頁25行目の「民法709条」を「4条」に、同12頁4行目の「民法709条に基づき、不法行為による」を「不正競争防止法4条に基づく」にそれぞれ改める。)、これを引用する。
1 控訴人の当審における主張
(1) 商品形態
 控訴人製品におけるパイプの形態は、その寸法が独自の人間工学的観点から採用されており、合成樹脂を被覆した点についても、接着剤層を施した上で異なる樹脂層を2層に重ねており、特徴的である。控訴人製品におけるプラスティック製又は金属製のジョイントの形態は、千差万別な同種製品にあって特徴的であり、このことは、控訴人製品のジョイントの形態について意匠登録がされた事実からも知ることができる。
 控訴人製品の発売以前から同種の製品は存在したが、それらは、控訴人製品の商品形態の特徴をすべて備えているわけではないから、同種の製品が存在したからといって、控訴人製品の形態が商品出所表示機能を有することは否定されない。控訴人製品の形態は、合成樹脂で被覆された鋼製の丸形パイプ及びこれと一体感のあるプラスティック製又は金属製のジョイント等の付属品であり、ホームセンター等において、カタログ等と一緒に、一体となって、専用棚に販売用として展示されているというものである。これらの特徴をすべて備えた商品は、控訴人製品と被控訴人製品のほかにはない。
(2) その他の商品表示等
 控訴人製品の需要者は、部分品である控訴人製品の形態のみならず、その組合せ品の形態及び店頭での展示形態によっても、当該商品が控訴人製品であることを認識するから、これらの形態は、いずれも控訴人表示として周知性を有する。また、両製品が商品システムにおいて同一性を有すること及び両製品が互換性を有することにより、両製品について商品出所の混同を生ずるおそれがある。
ア 組合せ品の形態
 控訴人製品の需要者は、部分品を購入して自ら完成品を組み立てる、いわゆるDIY指向者であって、自ら製作する完成品に至るまでの部分品の組合せを想定して購入するから、購入時点で、部分品の組合せ品も、控訴人製品独自のものとして認識しており、そのため、組合せ品の形態に商品出所表示機能が認められる。
イ 店頭での展示形態
 控訴人製品の展示形態は、製品そのものを用いて販売陳列用の棚を作製展示しているなど特徴的であり、他の同種製品で、控訴人製品のような展示形態で販売されているものは、被控訴人製品以外に存在しない。控訴人製品の展示形態にも、商品出所表示機能が認められる。
ウ 商品システム
 控訴人製品は、需要者に販売される時点で、常に、多種多様な部分品、接着剤、パイプ切断用カッター、取扱説明書等のパンフレットとともに需要者の目に触れ、控訴人製品の需要者は、自ら意図する完成品のイメージに合致するように、各部分品の中から必要なものを選択し、接着剤や工具等も用いて所望の完成品を製作する。控訴人製品については、パイプ、ジョイント、キャスター等の部分品、接着剤、工具等の集合体が、一個のシステム商品として商品出所表示機能を有するというべきである。この場合における「システム」とは、当該商品の各部分品のみを使用することによって所望の目的を達成し得ることを意味し、控訴人製品は、このような「システム商品」であるということができる。
エ 互換性
 被控訴人製品におけるパイプの径は、様々な寸法の中から選択する余地があるにもかかわらず、控訴人製品と互換性を持たせるため、同一の径が採用されている。また、合成樹脂を被覆することについて、控訴人製品と同様の2層構造にする必然性もない。
 被控訴人製品の金属ジョイントには、控訴人製品の品番「HJ−1」〜「HJ11」に対応して、「SJ−1」〜「SJ−11」の品番が付されており、部分品同士のかみ合わせ部分における控訴人独自の形状の爪形も、被控訴人製品において模倣されている。しかも、被控訴人らは、当初は異なる形状の爪形を採用していたにもかかわらず、これを控訴人製品のものと同一の形状に変更している。また、控訴人製品の接着液は、主に3種の有機溶剤成分を混合して製造されているが、被控訴人製品の接着液は、これと同一の成分が採用されていた。さらに、控訴人製品における金属ジョイントでは、併用するボルトがナットから突出しないように一定の厚みを持たせた、ブッシュナットと呼ばれる特殊なナットを採用しているが、被控訴人製品は、これを模倣している。
(3) 混同防止措置等
 被控訴人製品に仮止めリブ及びフラット面が採用されていることや、被控訴人らの商標が付されていることは、控訴人製品との目立たない微差にすぎないから、混同防止措置とはいえない。
(4) 民法709条の不法行為
 被控訴人スペーシアは、平成11年11月ないし12月ころ、控訴人の取引先に対し、自社の会社概要であるにもかかわらず控訴人製品の写真が掲載されたものを用いて販促活動を行っており、また、被控訴人らの販売代理店は、販促活動において、取引先に対し、控訴人製品と被控訴人製品が同等品であるとした上、被控訴人製品の方が安価である、控訴人製品の各品番に対応した被控訴人製品があるなどと説明し、約3年にもわたり控訴人製品の表示をした上で被控訴人製品の販売をしている販売代理店もある。被控訴人らによるこのような販促活動は、需要者に両製品を同一のものと誤信させて被控訴人製品を販売しようとするものであり、不正な販促活動である。加えて、被控訴人らが、他に互換性を有する同種製品が存在しない状況下で、その必要性がないにもかかわらず、上記のとおり被控訴人製品に控訴人製品との互換性を持たせていることは、誤認混同を生じさせてフリーライドする意図に出たものにほかならず、被控訴人らの不正な販促活動の一端を構成する。このような販促活動に基づく被控訴人製品の販売は、民法709条の不法行為に当たるというべきであり、控訴人は、これにより上記不正競争行為により被ったのと同一の損害を被った。
2 被控訴人らの当審における主張
(1) 商品形態
 不正競争防止法2条1項1号は、商品出所表示機能を有している商品形態についてのみ混同行為を規制しようとするものであって、単に他の同種製品と形態上の差異が存在しても、当該商品形態が商品出所表示機能を有することにはならない。同号による保護を受けるためには、商品の形態が他の同種商品と識別し得る独特の形態を有し、当該商品形態が長期間継続的かつ独占的に使用されることなどにより周知性を獲得することが必要である。技術や機能に由来する形態でも、それが極めて特異で、かつ、周知性を有し、商品出所について混同を生ずるおそれがある場合には、同号の適用を受ける場合もあるが、何ら特異ということのできない商品形態については、その適用はない。
 控訴人製品の形態は、他の同種製品との顕著な差異を有しないありふれたものであるから、使用された期間等にかかわりなく、商品出所表示機能を有しない。すなわち、控訴人製品が合成樹脂で皮膜されているという点は、通常の加工方法であるとともに全く視認性を有しないものであり、パイプ及びジョイントが鋼製か又は合成樹脂製かという点は商品の材質であり、パイプが丸形であるという点は、特徴のないパイプの形態であって、いずれも控訴人製品の特別顕著性を基礎付けるものではない。また、パイプの径は何ら特徴的ではなく、鋼製という点は商品の材質を、その他の点はパイプの工法にすぎないから、特別顕著性を有しない。
 控訴人は、控訴人製品について、単に個別の商品又はその組立て可能性についての一般的な機能を宣伝しているにすぎず、そのカタログに商品形態の特徴に関する記載がされていないなど、控訴人が主張する具体的な商品形態については、宣伝が行われていない。控訴人の宣伝活動は、控訴人製品の形態とは無関係である。
(2) その他の商品表示等
 控訴人の主張する商品システム等は、特許法、実用新案法、意匠法等により保護されるべきものであり、不正競争防止法上の保護を受け得るものではない。
ア 組合せ品の形態
 需要者が組立ての過程を重視することは、どの部材を選ぶかという点に影響を及ぼしても、商品の出所を認識することとは関係がない。組立ての簡便性や組合せの自由度は、商品の機能であるし、強度や軽さは商品の材質であり、商品形態とは関係がない。完成品に至る以前の、部分品を組み立てて生ずる組合せ形態は、多種多様かつ無限定に存在し得るものであるから、これを具体的に特定することができないし、控訴人も、組合せ品の形態を特定して販売しているわけではない。
イ 店頭での展示形態
 控訴人製品の販売に際して採用されている店頭での展示形態は、統一性がなく特定されていない上、単なる販売方法であって商品等表示に該当しない。
ウ 商品システム
 控訴人の主張する商品システムは、抽象的な観念にすぎず、不正競争防止法2条1項1号所定の商品等表示ということはできない。需要者が自ら意図する完成品のイメージに合致するように、部分品中から必要なものを選択し、接着剤、工具等を用いて所望の完成品の製作を可能にすることは、他の同種製品にも当てはまるし、このようなシステムをもって、不正競争防止法により保護されるべき商品等表示ということもできない。同号所定の商品等表示に該当する商品形態とは、具体的な有体物としての商品の外観をいい、当該商品のアイデア等は含まれない。控訴人の主張する商品システムとは、需要者が目的を達成し得ることを要素とする、単なるアイデア等であって、これを商品形態ということはできない。また、当該商品の部分品のみを用いることで需要者が目的を達成し得るということは、何ら特徴的なことではない。
エ 互換性
 商品の互換性は、規格標準化の進展に伴って必然的に生ずるのであって、不正競争防止法は、商品相互の互換性について規制をしていない。
 また、一般消費者に対して販売されるジョイントのうち大部分を占めるプラスティック製ジョイントにおいては、控訴人製品と被控訴人製品で品番は全く一致していない。例えば、控訴人製品「J−4」は被控訴人製品「PJ−001」と対応している。
 ブッシュナットは、古くから知られ一般に市販されているものであり、これを利用することは、自由な技術利用として許される。控訴人製品における金属製ジョイントの爪は、同形態に係る控訴人の意匠権消滅後に採用されたものであり、意匠権の消滅により万人の利用に供されるべき意匠である。
(3) 混同防止措置等
 被控訴人らは、被控訴人製品以外の商品との差別化や混同防止の手段を講じており、控訴人製品との間で混同を生ずるおそれはない。
 被控訴人らは、被控訴人製品と控訴人製品の差別化を意識的に行っている。例えば、プラスティック製ジョイントにおいて、パイプを内嵌接合する円筒状部分の外周面長手方向に帯状のフラット面を形成すること、ジョイント円周部内周奥面の仮止め機構、位置決めマーキング及び寸法計測を容易にするための十字穴、パイプとジョイント、棚板を固定するためのビス止め穴など、控訴人製品の金属製ジョイントにない特徴がある。また、被控訴人らは、混同防止のため、被控訴人製品のジョイント等に被控訴人らの商標を使用している。被控訴人らがプラスティック製ジョイントに関し既に20件の意匠権等を得ていることは、被控訴人製品の形態が控訴人製品のものと混同しないことの証左である。
 控訴人製品の73%は、ホームセンター等の販売店を通さずに直接事業者の注文を受けて事業者に販売されており、被控訴人製品も、このような販売が過半数を占めている。事業者が被控訴人製品を購入する場合、代理店従業員から説明を受けるなど、商品出所について十分認知して取引に入っているから、商品出所の混同を生ずるおそれはない。
(4) 民法709条の不法行為
 控訴人が不法行為として主張する被控訴人らの行為は、自由主義経済社会における正当な競争行為である。不正競争防止法は、不法行為のうち典型的な不正競争行為についての差止等を認めたものであり、不正競争防止法により規制されない競争行為については、別途不法行為は成立しないのが原則である。
 被控訴人スペーシアの従業員は、取引先に控訴人製品の写真が掲載された資料を持参したことはあるが、その際、他社製品である旨の説明をしており、不正な販促活動ではない。また、控訴人が被控訴人スペーシアの代理店と主張する者は、代理店ではないから、その者の行為について被控訴人らが責任を負ういわれはない。控訴人は、比較広告ないし比較行為それ自体を不法行為であると主張するものであるが、これらを一般的に不法行為と解すべき根拠はない。
第3 当裁判所の判断
 当裁判所も、控訴人の請求は、当審での追加請求を含め、いずれも理由がないものと判断するが、その理由は、次のとおり補正、付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決の補正
(1) 各「需用者」を、いずれも「需要者」に改める。
(2) 原判決16頁2行目「のみならず、」から4行目「である」までを削る。
(3) 同頁17行目ないし22行目を、次のとおり改める。
 「しかし、上記形態は、パイプを需要者の所望の形態に組み合わせる機能を有するジョイントという部品の形態としてありふれたものであって、商品出所表示機能を有する特徴的なものということはできない。」
2 控訴人の当審における主張について
(1) 商品形態
 商品の形態が他の同種商品と識別し得る独特の形態である場合には、商品出所表示機能を有し不正競争防止法2条1項1号所定の商品等表示に該当する場合がある。そして、商品等表示に該当する商品形態が永年使用され又は強力に広告宣伝等がされたことにより、商品等表示として周知性を獲得した場合には、当該商品形態は同号による保護を受けることができるが、他方、当該商品形態が他の同種商品と比べありふれたものである場合には、永年使用され又は強力に広告宣伝等がされたとしても、商品等表示として周知性を獲得することはできない。これを本件について見ると、原判決「第3 争点に対する判断」のとおり、控訴人製品の形態は、他の同種商品と比べありふれたものであり、独特の形態として商品出所表示機能を有していないというべきであるから、これが周知性を獲得したとは認められない。
 控訴人は、控訴人製品のパイプについて、その寸法が独自の人間工学的観点から採用されていること、その合成樹脂の被覆が接着剤層を施した上で異なる樹脂層を2層に重ねていること、控訴人製品のジョイントの形態が意匠登録を受けたことなどを指摘して、控訴人製品の形態が特徴的であると主張する。しかしながら、控訴人製品のパイプの寸法が独自の人間工学的観点から採用されているとしても、これは特定の寸法を採用する動機であって、当該寸法自体が特徴的であるということを意味しない。また、合成樹脂の被覆が接着剤層を施した上で異なる樹脂層を2層に重ねているとしても、需要者の目に触れることのないものであるから商品等表示とはなり得ないし、他に、控訴人製品の形態が特徴的なものとして周知性を獲得したことを認めるに足りる確たる証拠はない。また、控訴人は、控訴人製品のジョイントの形態が意匠登録を受けたことも主張するが、創作性のある意匠は原則として意匠登録を受けることができ(意匠法3条)、その意匠が自他商品識別性を有することは、登録を受けるための要件とされていないのであるから、商品出所表示機能を有するほど独特の形態とまではいえないものであっても、直ちに意匠としての創作性を有することが否定されるものではなく、上記意匠登録を受けたことによって、控訴人製品の形態が周知性を獲得していないとの上記認定が左右されるものではない。
 控訴人は、控訴人製品の発売以前から存在した同種製品が控訴人製品の商品形態の特徴をすべて備えているわけではないと主張するが、商品の形態が周知性を獲得するためには、商品出所表示機能を有するに足りる独特の形態を具備することが必要であるから、単に同種製品の形態が控訴人製品のものと異なるからといって、直ちに控訴人製品の形態が商品出所表示機能を有するということはできない。また、控訴人は、控訴人製品の形態として、合成樹脂で被覆された鋼製の丸形パイプ及びこれと一体感のあるプラスティック製又は金属製のジョイント等の付属品であり、ホームセンター等において、カタログ等と一緒に、一体となって、専用棚に販売用として展示されていることを主張するが、これらの主張は、個々の商品形態に加え、異なる部分品の一体感、店頭での展示形態等が一体として周知性を獲得したことをいうものと解され、そうすると、この主張は、部分品としての控訴人製品の形態が商品等表示に当たることを基礎付けるものとはならない。
(2) その他の商品表示等
ア 組合せ品の形態
 控訴人は、控訴人製品の需要者が、部分品を購入して自ら完成品を組み立てる、いわゆるDIY指向者であって、自ら製作する完成品に至るまでの部分品の組合せを想定して購入するとした上、控訴人製品の需要者が、部分品の商品形態のみならず、その組合せ品の形態によっても、当該商品が控訴人製品であることを認識するから、組合せ品の形態も商品出所表示機能を有していると主張する。しかしながら、上記組合せ品は、多数の部分品を組み合わせたもので、無数にその形態を想定することができるが、そのような組合せ品の形態は、需要者が所望の完成品を製作する過程で現れる形態であって、これが控訴人製品の取引に際して取引者、需要者の目に触れると認めるに足りる証拠はないから、不正競争防止法2条1項1号所定の商品等表示に当たるということはできない。控訴人は、DIY商品の特徴として、需要者が上記組合せ品の形態を想定して購入すると主張するが、そのように需要者が想定するにすぎない組合せ品の形態が部分品である控訴人製品の商品等表示に当たると解すべき法的根拠はない。
 また、控訴人製品の形態は、上記のとおり、他の同種商品と比べありふれたものであり、独特の形態として商品出所表示機能を有しているとはいえないところ、部分品である控訴人製品の組合せ品は、パイプ、ジョイント等ありふれた形態の部分品を単に組み合わせたものであって、その形態もまた、ありふれたものとして商品出所表示機能を有しないというべきである。確かに、ありふれた形態の部分品を組み立てることによっても、極めて特殊な組み立て方により独特の形態を創作することは可能であるが、控訴人製品は、いわゆる日曜大工により日用品を製作するための部分品であるから、需要者が購入に際して、そのような特殊な組み立て方を想定することは考え難い。また、控訴人は、このような特殊な組み立て方をされた組合せ品の形態を特定してこれを商品等表示として主張立証しているものではないから、この点においても、独特の形態の組合せ品を想定することは失当である。
イ 店頭での展示形態
 控訴人は、控訴人製品の店頭での展示形態が、製品そのものを用いて販売陳列用の棚を作製展示しているなど特徴的であって、その形態が商品出所表示機能を有すると主張し、このような展示形態の一例を撮影した写真(甲4)を提出する。しかしながら、上記のとおり、控訴人製品の形態が独特の形態として商品出所表示機能を有すると認めることはできず、その組合せ品の形態も同様であるから、組合せ品の一形態である販売陳列用の棚の形態も特徴的なものとは認められない上、控訴人の主張する店頭での展示形態が商品等表示として周知性を獲得するほど特徴的なものであるとか、又は強力に宣伝広告等がされているなどの事実も認めることはできない。現に、店頭での展示形態の一例(甲4)も、この種商品の展示形態としてありふれたものであって、控訴人主張のように特徴的な形態であるとは認められない。
 さらに、控訴人の主張する控訴人製品の展示形態は、陳列棚の形態だけでも多数のものを想定することができ、これに他の展示物との組合せを考慮すると、無数にその展示形態を想定することができるが、そのような無数の展示形態がいずれも独特の形態として商品出所表示機能を有するとは考え難く、また、その中のいずれかであるとしても、控訴人は、その形態を具体的に特定して主張立証しているものではないから、控訴人の上記主張は失当である。
ウ 商品システム
 控訴人は、控訴人製品について、パイプ、ジョイント、キャスター等の部分品、接着剤、工具等の集合体が、一個のシステム商品としての形態を有し、商品出所表示機能を有すると主張する。原告の主張する上記「集合体」の意味するものは、必ずしも明確ではないが、上記パイプ等の組み立て品の形態と接着剤等が組み合わされた形態は、上記店頭での展示形態と同様、無数にその形態を想定することができるから、そのような無数の形態がいずれも独特の形態として商品出所表示機能を有するとは考え難く、また、その中のいずれかであるとしても、控訴人がその形態を具体的に特定して主張立証していないことも、店頭での展示形態について判断したところと同様である。
 また、上記「集合体」が上記パイプ等の集合という「システム」を意味するのであれば、このような無形の商品システムは、有形物である商品の形態ということはできず、それ自体が不正競争防止法2条1項1号所定の商品等表示に該当するということはできない。控訴人は、ここで主張する「システム」について、当該商品の各部分品のみを使用することによって所望の目的を達成し得ることを意味すると主張するが、そうであるならば、控訴人の主張する「システム」は、やはり無形の概念ということとなるし、また、「システム」の意味を上記のように理解すべき根拠も、このような意味における「システム」が商品等表示に当たるというべき根拠も見いだすことはできず、まして、このような「システム」が控訴人の業務に係る商品等表示として周知性を獲得したものとは到底認められない。
エ 互換性
 控訴人は、被控訴人製品が控訴人製品と互換性を有することを主張するが、同種商品と互換性を有する商品を販売することが、一般に不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争に該当するというべき法的根拠はない。確かに、控訴人製品の形態が控訴人の商品等表示として周知性を獲得していれば、これと互換性を有する商品を販売することは、他人の周知性を有する商品等表示を使用することとなり、不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争に該当することが多いと考えられるが、そのようにいうためには、控訴人製品の形態が控訴人らの商品等表示として周知性を獲得したことを要するのである。しかしながら、控訴人製品の形態が周知性を獲得したと認められないことは上記のとおりであるから、単に、被控訴人製品が控訴人製品と互換性を有することをもって、被控訴人製品の販売等が同号所定の不正競争に該当するということはできない。
 控訴人は、被控訴人製品に、控訴人製品の品番「HJ−1」〜「HJ11」に対応した「SJ−1」〜「SJ−11」の品番が付されていることを主張するが、控訴人製品の上記品番が控訴人表示として周知性を有すると認め得る証拠はなく、また、控訴人の主張する、かみ合わせ部分における控訴人独自の形状の爪形及びブッシュナットも、控訴人表示として周知性を有すると認めるに足りる証拠はない。
(3) 混同防止措置等
 上記のとおり、控訴人がその周知性を有する商品等表示であると主張するものは、いずれも、商品等表示として周知性を獲得したと認めることはできないから、被控訴人らの主張する混同防止措置等、その余の点について判断するまでもなく、被控訴人製品の販売が不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争に当たるということはできない。したがって、控訴人の同号に基づく請求は理由がない。
(4) 民法709条の不法行為
 控訴人は、被控訴人らの不法行為として、被控訴人スペーシアが、控訴人の取引先に対し自社の会社概要に控訴人製品の写真が掲載されたものを用いて販促活動を行ったこと、被控訴人らの販売代理店が、販促活動において、取引先に対し、控訴人製品と被控訴人製品が同等品であるとした上、被控訴人製品の方が安価である、控訴人製品の各品番に対応した被控訴人製品があるなどと説明したこと、約3年にもわたり控訴人製品の表示をした上で被控訴人製品の販売をしている販売代理店もあることを主張し、これら主張事実に沿う証拠として、控訴人法務部兼品質保証部長古木富美男の報告書(甲17)及び陳述書(甲55)、群馬県板倉農協JA板倉野菜流通センター生産課指導係長小林登の「訪問者確認書」(甲19)、サンエイ株式会社物流事業部営・技Gの「スペーシア(ヤザキイレクター同等商品)製品価格表」(甲35、36)並びにコーナン高槻店のスペーシア・ブースを撮影した写真(甲58)を提出する。
 しかしながら、仮に、被控訴人スペーシアが、控訴人の取引先に対し、自社の会社概要に控訴人製品の写真が掲載されたものを用いて、これがあたかも被控訴人製品であるかのように偽って販促活動を行ったとすれば、違法な販促活動であるというべきであるが、これにより控訴人が何らかの損害を被ったと認めるに足りる証拠はない。また、被控訴人らの販売代理店が、販促活動において、取引先に対し、控訴人製品と被控訴人製品が同等品であるとした上、被控訴人製品の方が安価である、控訴人製品の各品番に対応した被控訴人製品があるなどと説明したとしても、これらの事実が虚偽でなければ、違法な販促活動ということはできないし、証拠上も、これらの告知内容が虚偽であることを認めるに足りる証拠はない。そして、仮に、これらの内容が虚偽であったとしても、これにより控訴人が何らかの損害を被ったことを認めるに足りる証拠はない。
 次に、控訴人製品の表示をして被控訴人製品の販売をしている販売代理店があるとの控訴人の主張についてみるに、甲58によれば、コーナン高槻店が被控訴人製品の展示された売場に「イレクターパイプ」の表示をした事実が認められるが、進んで、上記表示をするについて被控訴人らが指示等をしたことなど、コーナン高槻店と被控訴人らの取引関係により被控訴人らの責任を基礎付ける事実を認めるに足りる証拠はなく、また、上記表示が控訴人表示として周知性を獲得したことなど、上記表示をしたことの違法性を認めるに足りる証拠もない。
 さらに、控訴人は、被控訴人らが控訴人製品と被控訴人製品とに互換性を持たせることによりフリーライドする意図に出たとも主張するが、上記(2)エのとおり、同種製品と互換性を有する商品を販売することが、一般に不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争に当たるということはできず、上記行為が違法なものとして不法行為に当たると解すべき法的根拠はない。控訴人は、フリーライドの意図についても主張するが、当該行為について違法性を基礎付ける事実がない以上、フリーライドの意図があったとしても、不法行為が成立するものではない。
 したがって、控訴人が当審で追加した、民法709条の不法行為に基づく損害賠償請求は、理由がないというべきである。
3 結論
 以上のとおり、控訴人の請求を棄却した原判決は正当であって、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴人が当審で追加した請求も理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第13民事部
 裁判長裁判官 篠原勝美
 裁判官 岡本岳
 裁判官 長沢幸男
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