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【事件名】ネット上の音楽無料配信事件(レコード会社19社) 【年月日】平成15年1月29日 東京地裁 平成14年(ワ)第4249号 著作隣接権侵害差止等請求事件 (口頭弁論終結日 平成14年12月2日) 中間判決 当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり 主文 1 被告有限会社日本エム・エム・オーが運営する「ファイルローグ」(File Rogue)という名称の電子ファイル交換サービスにおいて、同サービスの利用者が、原告らの許諾なく、別紙レコード目録記載の各レコードをMP3(MPEG1オーディオレイヤー3)形式で複製した電子ファイルを利用者のパソコンの共有フォルダ内に蔵置した状態で、同パソコンを同被告の設置に係るサーバに接続させる行為は、上記各レコードについて原告らの有する著作隣接権(送信可能化権)を侵害する行為に当たり、同被告がその著作隣接権侵害行為の主体であると認められる。 2 被告らは、原告らに対して、上記電子ファイル交換サービスにおいて、上記各レコードをMP3形式で複製した電子ファイルが交換されたことについて、連帯して損害賠償金を支払う義務を負う。 事実及び理由 第1 請求 1 被告有限会社エム・エム・オーは、別紙レコード目録1ないし19記載の各レコードにつき、自己が運営する「ファイルローグ」(File Rogue)という名称の電子ファイル交換サービスにおいて、MP3(MPEG1オーディオレイヤー3)形式によって複製された電子ファイルを送受信の対象としてはならない。 2 被告らは、各原告らに対し、連帯して、別紙請求金額一覧表中の「確定額」欄記載の金員及びこれらに対する本訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告らは、各原告らに対し、連帯して、平成14年3月1日から被告有限会社エム・エム・オーがその運営する「ファイルローグ」(File Rogue)という名称の電子ファイル交換サービスにおいて、別紙レコード目録1ないし19記載の各レコードがMP3形式で複製された電子ファイルの送受信を停止するに至るまで、1か月あたり別紙請求金額一覧表中の「1ヶ月分」欄記載の金額の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 被告有限会社エム・エム・オー(以下「被告エム・エム・オー」という。)が運営するインターネット上の電子ファイル交換サービスにおいて、原告らが著作隣接権を有するレコードをMP3(MPEG1オーディオレイヤー3、以下「MP3」という。)形式で複製した電子ファイルが、原告らの許諾を得ることなく交換されていることに関して、原告らが、上記電子ファイル交換サービスを提供する被告エム・エム・オーの行為は、原告らの有している著作隣接権(複製権、送信可能化権)を侵害すると主張して、被告エム・エム・オーに対して、著作隣接権に基づき上記電子ファイルの送受信の差止めを、被告エム・エム・オー及びその取締役である被告Aに対して、著作隣接権侵害による共同不法行為に基づき損害金の支払を求めた。 1 前提となる事実 (1) 当事者等 ア 原告らはいずれもレコードの製造、販売等を目的とする株式会社である。別紙レコード目録1ないし19記載の各レコード(以下「本件各レコード」という。)のうち、同目録1記載のレコードについては原告コロムビアミュージックエンタテインメント株式会社が、同目録2記載のレコードについては原告ビクターエンタテインメント株式会社が、同目録3記載のレコードについては原告キングレコード株式会社が、同目録4記載のレコードについては原告株式会社テイチクエンタテインメントが、同目録5記載のレコードについては原告ユニバーサルミュージック株式会社が、同目録6記載のレコードについては原告東芝イーエムアイ株式会社が、同目録7記載のレコードについては原告日本クラウン株式会社が、同目録8記載のレコードについては原告株式会社徳間ジャパンコミュニケーションズが、同目録9記載のレコードについては原告株式会社エピックレコードジャパンが、同目録10記載のレコードについては原告株式会社ポニーキャニオンが、同目録11記載のについては原告ワーナーエンターテイメントジャパン株式会社が、同目録12記載のレコードについては原告株式会社フォーライフミュージックエンタテイメントが、同目録13記載のレコードについては原告株式会社バップが、同目録14記載のレコードについては原告株式会社ビーエムジーファンハウスが、同目録15記載のレコードについては原告パイオニアエル・ディー・シー株式会社が、同目録16記載のレコードについては原告株式会社バーミリオンレコードが、同目録17記載のレコードについては原告エイベックス株式会社が、同目録18記載のレコードについては原告株式会社プライエイド・レコーズが、同目録19記載のレコードについては原告株式会社トライエムが、それぞれ著作権法(以下「法」という。)2条1項6号のレコード製作者である。原告らは、その製作に係る前記各レコードについて、複製権(法96条)、送信可能化権(法96条の2)等の著作隣接権を有する(法89条2項)。 イ 被告エム・エム・オーは、ソフトウエアの開発、販売その他を目的とする有限会社であるが、平成13年11月1日から、カナダ法人であるITPウェブソリューションズ社と提携することにより、利用者のパソコン間でデータを送受信させるピア・ツー・ピア(Peer To Peer)技術を用いて、カナダ国内に中央サーバ(以下「被告サーバ」という。)を設置し、インターネットを経由して被告サーバに接続されている不特定多数の利用者のパソコンに蔵置されている電子ファイルの中から、同時に被告サーバにパソコンを接続させている他の利用者が好みの電子ファイルを選択して、無料でダウンロードできるサービス(以下「本件サービス」という。)を、「ファイルローグ(File Rogue)」の名称で日本向けに提供している(なお、被告エム・エム・オーは、平成14年4月に、本件サービスにおいて、MP3ファイルの内容等を示すファイル情報のうち、本件各レコードの題名及びアーティスト名の文字列を含むファイル情報の送信を差し止める旨の仮処分決定が出されたことにより、それ以降現在まで本件サービスの提供を停止している。)。 本件サービスを利用するにはパソコンに本件サービス専用のファイル交換用ソフトウェア(以下「本件クライアントソフト」という。)がインストールされることが必要である。被告エム・エム・オーは、インターネット上に開設しているウェブサイト「http://www.filerogue.net/」(以下「被告サイト」という。)において、不特定多数の利用希望者に対して本件クライアントソフトを配布している。 (2) MP3ファイル MP3(MPEG1(エムペグワン)オーディオレイヤー3(スリー))とは、音声のデジタルデータを圧縮する技術規格の一つである。パソコン等を利用し、音楽CD等の音声データをMP3ファイルに変換することによって、聴覚上の音質の劣化を抑えつつ、データ量を元の10分の1程度に減らすことができるため、音声データをハードディスク上に複製したり、インターネット上で配信する等の行為を、より容易にすることができる。 (3) 本件サービスの利用方法 ア 利用者が本件サービスを利用するためには、まず、パソコンを被告サイトに接続して、本件クライアントソフトをダウンロードし、これをパソコンにインストールすることが必要である。次に、利用者は、任意のユーザー名(ユーザーID)及びパスワードを登録しなければならない。この場合に、利用者は、ユーザー名及びパスワードを任意に設定することができ、利用者の戸籍上の名称や住民票の住所等、本人確認のための情報の入力は要求されない。 イ 本件サービスによって、電子ファイルを送信できるようにしようとする利用者(以下「送信者」という。)は、本件クライアントソフトの追加コマンドを実行することによって、送信を可とするファイルを蔵置するフォルダ(以下「共有フォルダ」という。)を指定し、同フォルダに送信を可とする電子ファイルを蔵置する。本件クライアントソフトをインストールしたパソコンが被告サーバに接続されると、共有フォルダ内の電子ファイルは自動的に他の利用者のパソコンに送信できる状態となる(ただし、接続時に自動的に送信できる状態としない設定も可能である。)。 送信者は、共有フォルダ内に蔵置した電子ファイルのファイル名を付する(利用者は、同ファイル名を自由に付することができ、したがって、電子ファイルの内容と全く対応しないファイル名であっても支障はない。)。 送信者が本件クライアントソフトを起動し、接続ボタンをクリックして被告サーバに接続すると(利用者は、通常、本件クライアントソフトを起動することにより被告サーバに接続する。)、共有フォルダに蔵置した電子ファイルのファイル情報(ファイル名、フォルダ名、ファイルサイズ及びユーザー名)並びにIPアドレス及びポート番号(インターネットに接続する際に、プロバイダから割り当てられる番号)に関する情報(以下これらの情報を総称して「送信者情報」という場合がある。)が被告サーバに送信される。 ウ 電子ファイルの受信を希望する利用者(以下「受信者」という。)は、本件クライアントソフトを起動して被告サーバに接続し、キーワードとファイル形式によって、被告サーバに対して、希望する電子ファイルの検索の指示を送信すると、被告サーバから、被告サーバに接続している他の利用者のパソコンの共有フォルダ内の上記指示に沿った電子ファイルに関する情報(ファイル名、ファイルパス名、ユーザーID、IPアドレス及びポート番号等)が送信される。 受信者は、上記の電子ファイルに関する情報の中から取得したいファイルを選択し、「ダウンロード」ボタンをクリックすると、保存先のフォルダを表示する画面が表示され、同画面上の「保存」をクリックすると、その電子ファイルを蔵置しているパソコンから自動的に当該ファイルが送信され、保存先として設定した受信者のパソコン内のフォルダに自動的に複製される。なお、保存先のフォルダは、既定の状態では共有フォルダとなっている。 エ 被告サーバは、被告サーバに接続している送信者のパソコンから送信された送信者情報を基に、現時点でダウンロード可能な電子ファイルに関するデータベースを作成する。 受信者からの検索指示が送信されると、上記ファイル情報等を用いて検索処理をし、被告サーバに接続している利用者の共有フォルダ内から上記指示に合致したファイル名を検出し、検出したすべての電子ファイルに関する情報等(ファイル名、ファイルパス名、ユーザーID、IPアドレス及びポート番号等)を検索指示をした受信者のパソコンに送信する。 オ 被告サイトでは、本件サービスの利用方法についての説明が記載され、また、同説明では疑問が解消しない場合の問い合わせ先としてのメールアドレスの記載もされていた(甲18)。 (4) 本件サービスの特徴 本件サービスは、MP3ファイルのみを送受信の対象とするものではなく、音声、動画、画像、文書、プログラムなどの多様な電子ファイルを交換することのできる汎用的なものである。 本件サービスにおいて、被告サーバには、電子ファイルのファイル情報等のみが送られ、交換の対象となる電子ファイル自体は利用者のパソコン内に蔵置され、被告サーバには送信されることはない。ファイル送信の指示及び電子ファイル自体の送信は、受信者と送信者のパソコンの間で直接行われる。しかし、利用者同士の間でこのような送受信が可能となるのは、本件サービスが、利用者のインターネット上の所在(IPアドレス及びポート番号)を把握し、これに基づいて、本件クライアントソフトが、インターネットを介して受信者と送信者のパソコンを直接接続するサービスを提供しているからである。 このようなシステムのため、被告エム・エム・オーにおいても、個別にダウンロードして再生しない限り、被告サーバに送信されたファイル情報によって示されている電子ファイルの内容を知ることはできない。 (5) 利用者が権利侵害をした場合の被告エム・エム・オーの措置 本件サービスにおいては、利用者は、パソコンの画面上で、著作権等を侵害するファイルを送信可能な状態としないことなどを内容とする利用規約に同意する旨のボタンをクリックしない限り、本件クライアントソフトをダウンロードすることができない仕組みとされている。 被告エム・エム・オーの利用規約によれば、著作権等の権利を侵害するファイルを送信可能化することを禁止すること、送信可能な状態におかれたファイルにより権利が侵害されたと主張する者から、当該ファイル公開の停止(共有の解消)を求められたときは、利用者は「ノーティス・アンド・テイクダウン手続規約」に従うべきことが規定されている。 しかし、現在のところ、被告エム・エム・オーは、送信可能化状態にされたMP3ファイルの中から、著作権、著作隣接権侵害に当たるものを選別したり、そのファイル情報の送信を遮断するなどの技術を有しているわけではない。 (6) 本件サービスの運営状況 原告らが加盟する社団法人日本レコード協会(以下「日本レコード協会」という。)が、平成13年11月1日から平成14年1月23日までの間の毎平日の午後5時前後(ただし、平成13年11月2日ないし6日、同月16日ないし24日においては、午前10時から午後10時までの間で午後5時に最も近い時刻)に行った調査によれば、被告サーバに接続しているパソコンの共有フォルダに蔵置されている電子ファイルの数は、各調査時点の平均で54万弱であるが、そのうちMP3ファイルは平均約8万で全体の約15パーセントを占める(なお、この数字は公開中の電子ファイルの数であり、実際に交換された電子ファイルの数ではない。)。また、平成13年12月3日の時点で、被告サーバに登録された利用者数は約4万2000人に達していたが(甲12)、前記調査によれば、各調査時点で同時に被告サーバに接続している利用者数は平均約340人であった(甲4の1)。 前記のとおり、MP3ファイルのファイル名は自由に付けることができる。被告サーバにおいて公開されたMP3ファイルの場合、そのファイル名又はフォルダ名に、市販のレコードの実演家名、楽曲名又はアルバムタイトルに一致すると推測される文字列を含むものが数多く存在する。また、日本レコード協会が平成13年12月6日午後3時から午後5時までの間に、本件サービスにおいて検索した3万600個のMP3ファイルの中から無作為に抽出した306個のMP3ファイルについて調査したところ、同協会及び日本音楽著作権協会の職員(合計6名)が、そのファイル名及びフォルダ名に照らし判断した結果、一部に特定のレコードと結びつけることのできないものも存在したが、96.7パーセントに当たる296個が市販のレコードを複製したものであると判断された(甲4の2)。 現在、本件サービスの利用は無料であるが、被告は、パソコン画面上に表示される広告から、若干の広告料収入を得ている(甲17)。 (7) 本件各レコードの複製 日本レコード協会は、平成13年12月から平成14年1月にかけて、被告サーバに接続して、本件各レコードの楽曲名又は実演家名をキーワードとして検索を行い、検索条件に合致するMP3ファイルをダウンロードして実際に再生するという調査を行った。その結果、本件各レコードを複製したMP3ファイル(以下「本件各MP3ファイル」という。)が、実際に本件サービスにおいて公開されていることが確認されている(甲4の4)。 (8) 原告らと被告との事前交渉等 日本レコード協会は、本件サービス開始前の平成13年10月24日、被告エム・エム・オーに対し、フィルタリング及び巡回監視を行って、日本レコード協会に加盟している協会員(以下「協会員」という。)が著作隣接権を有するレコードのファイル交換を遮断すること、遮断の仕組みを伴っていないのであれば、それが完成するまでの間、サービスの提供自体を延期することを要請し(甲7の1及び2)、さらに、同年12月3日、本件サービスにおいて、協会員が製造販売する音楽CDをMP3形式に変換したファイルが、著作隣接権者の許諾なく多数送信可能化されており、交換されているMP3ファイルの圧倒的大部分がこのようなファイルで占めてられているとして、ファイルの交換を遮断する措置を講じるよう被告エム・エム・オーに要請した(同時に、協会員が発売する音楽CDのタイトル一覧を収納した電子ファイルを被告エム・エム・オーに送付した。甲8の1及び2、9)。 これに対し、被告エム・エム・オーは、同年12月10日、日本レコード協会に対し、被告エム・エム・オーの行為は情報交換のためのインフラの整備、提供であること、本件サービスが他人の権利を侵害するような情報の流通に利用されることを完全に防止できるとまではいえない状況にあっても、まず、情報交換のインフラを整備、提供することこそが重要であると考えていること、日本レコード協会が要請するファイル交換の遮断措置を講じるためには、レコード会社名、曲名、アーティスト名を入力すれば、当該音楽CDをMP3形式に複製したファイルを自動的に検出するというような技術が不可欠であるが、被告エム・エム・オーはそのような技術が存在することは知らないこと、被告エム・エム・オーはノーティス・アンド・テイクダウン手続を用意しているので、日本レコード協会も上記手続を利用すべきことなどを回答した(甲10)。 2 中間判決における争点 (1) 被告エム・エム・オーは、本件各レコードについて原告らの有する著作隣接権を侵害しているといえるか。 (2) 原告らの被告らに対する著作隣接権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求は理由があるか。 3 争点についての当事者の主張 (1) 争点(1)(被告エム・エム・オーは、原告らの有する著作隣接権を侵害するか)について (原告らの主張) ア 利用者の著作隣接権侵害の有無 (ア) 送信者の複製行為と複製権侵害の有無 本件各レコードの複製物である本件各MP3ファイルをパソコンの共有フォルダに蔵置することは、本件各レコードをパソコンのハードディスク等の記憶媒体に複製(法2条1項15号)する行為に該当する。 そして、仮に本件各MP3ファイルが複製された当初は私的使用の目的(法30条1項、102条1項)でされたものであっても、それを共有フォルダに蔵置して被告サーバに接続すれば、不特定多数の者に対して送信可能な状態にするので、「公衆に提示」(法102条4項)したことになる。 したがって、送信者が本件各MP3ファイルをパソコンの共有フォルダに蔵置すること、及び共有フォルダに本件各MP3ファイルを蔵置した状態で被告サーバにパソコンを接続させることは、原告らの有する複製権を侵害する。 (イ) 送信者の送信可能化行為と送信可能化権侵害の有無 a 本件サービスは、誰でも、自由に設定したID、パスワード及びメールアドレス(虚偽のものでも受理される。)のみを入力することで直ちに利用可能となるから、本件サービスにより電子ファイルの送信を受ける者は「不特定人」である。そして、本件サービスの利用者は平成13年12月3日の時点で既に4万2000人に及び、被告サーバに接続中のパソコンも常時数百に及ぶから、電子ファイルの受信者は「多数」である。したがって、本件サービスにより電子ファイルをダウンロードする者は「公衆」(法2条5項参照)に該当する。 そして、本件サービスは上記の公衆の求めに応じてインターネット経由で自動的に電子ファイルを送信するものであるから、法2条1項9号の4の「自動公衆送信」に当たる。 b 本件サービスにおいては、本件クライアントソフトを起動させた利用者のパソコンを被告サーバに接続すると、被告サーバが送信側パソコンの共有フォルダ内に蔵置されている電子ファイルのタイトル等の情報を自動的に吸い上げて、送信用の電子ファイルのインデックスを作成する。そして、受信側パソコンからの検索要求があると、被告サーバは、作成したインデックスの中から検索条件に合致した電子ファイルの情報を受信側パソコンに送信し、受信側パソコンの画面に表示させる。そして、画面に表示されたファイル情報の中から受信側パソコンが任意のファイル情報を選択すると、利用者のパソコン間で接続が確立され、自動的に電子ファイルの送受信が行われる仕組みになっている。 すなわち、本件サービスにおいては、送信側パソコンにおいて共有フォルダ内に送信用電子ファイルを蔵置する行為と、そのファイル情報を取得した被告サーバが当該ファイル情報のインデックスを作成して他の利用者のパソコンの検索に供する行為とが相まって、送信側パソコンと被告サーバとが一体となった「自動公衆送信装置」(著作権法2条1項9号の5のイ)を構成することになり、この共同行為によって、共有フォルダ内の電子ファイルが、公衆からの求めに応じて自動的に公衆送信し得る状態になるのである。 したがって、本件サービスにおける送信者の行為は、原告らの有する送信可能化権を侵害する。 (ウ) 受信者の複製行為と複製権侵害の有無 本件サービスによって他の利用者のパソコンからダウンロードされた電子ファイルは、受信側パソコンに自動的に蔵置(複製)される。既定の状態では受信側パソコンの共有フォルダ内に蔵置(複製)された上、さらに再送信可能な状態に置かれるから、そこに電子ファイルを蔵置することは、私的使用には該当しない。 イ 被告エム・エム・オーの本件サービス提供行為と著作隣接権侵害の成否 以下の理由により、被告エム・エム・オーは、本件各レコードについての前記著作隣接権の侵害行為の主体であると解すべきである。 (ア) 本件サービスにおいては、利用者のパソコンの共有フォルダ内に蔵置された電子ファイルは、それのみでは他の利用者のパソコンに送受信されることはなく、被告エム・エム・オーが配布する本件クライアントソフト及び被告エム・エム・オーが管理する被告サーバの機能との連携によって初めて、しかもその方法によってのみ、公衆に送信可能な状態となるのである。このように、本件各レコードに対する著作隣接権侵害の実現において、被告エム・エム・オーは中核的かつ不可欠な役割を果たしているのである。 (イ) 本件サービスの存在意義は、利用者は本来であれば対価を支払わなければ取得できない電子ファイルを無料で取得できることにあり、しかも、被告エム・エム・オーは、利用者の匿名性を保障した形で本件サービスを提供している。従って、本件サービスの提供行為は、MP3ファイルの交換による本件各レコードに対する著作隣接権侵害行為を必然的に惹起する行為である。 (ウ) 被告エム・エム・オーは、本件サービスの拡大のためには違法な楽曲のファイル交換が積極的に行われることをサービス提供の目的として織り込み済みであり、著作権・著作隣接権侵害行為を認識、認容している。 (エ) 被告エム・エム・オーは、インターネット広告代理店会社であるバリューコマース株式会社及び他1社と契約をすることにより広告収入を得ているのみならず、本件サービスの有料化を検討している。このように、被告エム・エム・オーは、本件各レコードに対する著作隣接権侵害行為により利益を得ているのである。 (オ) 本件サービスによって違法に複製され、また送信可能化されているMP3ファイルの数は常時数万件から10万件に及んでおり、本件サービスにより発生する原告の損害は甚大である。 (カ) 被告エム・エム・オーは、利用者のために匿名性を確保し、利用者が著作隣接権侵害を行っても民事責任の追及を受けないような仕組みを作り上げた上で、利用者と共同してレコードの送信可能化を行っており、原告らは、本件サービスによって送信可能化された電子ファイルを自己のパソコンに蔵置している利用者を民事的手段によって特定することは不可能である。 したがって、本件各レコードに対する著作隣接権侵害行為を防止しうるのは被告エム・エム・オーのみである。 また、被告エム・エム・オーに、本件各レコードに対する著作隣接権侵害行為の防止措置を講じさせることが、侵害の実態に合致した侵害停止又は予防措置として必要不可欠であり、かつ適切、可能である。 (被告エム・エム・オーの反論) ア 利用者の著作権侵害の成否 (ア) 送信者の複製行為と複製権侵害の成否 以下のとおりの理由から、送信者が本件各MP3ファイルをパソコンの共有フォルダに蔵置すること、及び共有フォルダに本件各MP3ファイルを蔵置した状態で被告サーバにパソコンを接続させることは、原告らの有する複製権を侵害しない。 a 自己のパソコンにインストールされているMP3プレイヤーで聴くために、本件各MP3ファイルを保存する行為自体は、法30条1項、102条1項により、著作権者の許諾を得る必要はなく、そもそも適法な行為である。 b また、法102条4項1号は、私的利用目的で作成した複製物「によって」レコードに係る音等を公衆に提示した場合に、複製を行ったものとみなすと規定する。同条項が適用されるためには、「レコードに係る音等」が、私的利用目的で作成した複製物自体によって、公衆に提示される必要がある。しかし、受信側パソコンに提示される音は、送信者が私的利用目的で作成した複製物により提示されるのではなく、受信者が私的利用目的で作成した複製物により提示されるものである。したがって、私的利用目的で作成したMP3形式の音楽ファイルを共有フォルダに蔵置したまま被告サーバに接続をしても、法102条4項1号のみなし複製規定の適用を受けることはないというべきである。 (イ) 送信者の送信可能化行為と送信可能化権侵害の成否 本件クライアントソフトには、自己の共有フォルダにアクセス可能な人数を制限する機能、及び特定のID名を名乗る利用者を優先する機能があり、この二つの機能により、特定かつ少数の利用者に対してのみ電子ファイルのダウンロードを許可することができる。 ところで、公衆送信は、「公衆によって直接受信されることを目的として」されることが必要であるが、自動公衆送信も公衆送信の一類型である以上「公衆によって直接受信されることを目的として」される必要がある。また、所定の方法により「自動公衆送信しうること」と定義された送信可能化も「公衆によって直接受信されることを目的として」されることが必要である。 したがって、特定のユーザーにダウンロードさせることを目的として特定の電子ファイルを共有フォルダに蔵置した場合には、送信可能化に該当しない。 (ウ) 受信者の複製行為と複製権侵害の成否 受信者が個人的に又は家庭内その他限定的な範囲内で使用する目的で電子ファイルをダウンロードするのであれば、法30条1項、102条1項により適法とされる私的使用目的の複製となる。 イ 被告エム・エム・オーの著作権侵害の成否 (ア) ある著作物が送信可能化される過程で、当該送信を仲介する通信設備において形式上法2条1項9号の5イに該当する現象が生ずることがあり得るが、この場合、その通信施設を単に設置、管理、運営する者については、単に設備の運営等を行っているにすぎないと解される限りにおいては、当該著作物等について送信可能化に関する責任を問われるものではないと解される。同様に、いわゆるインターネット・プロバイダーなど、自動公衆送信装置の設置、管理、運営等を行う者については、情報の記録やネットワークへの接続等を単純に依頼を受けて機械的に行うだけであれば、通常、自ら著作物等を送信可能化しようとするための行為とは考えられないことから、その場合は、自ら主体的に送信可能化を行ったものとして責任を問われるものではないのみならず、教唆者又は幇助者としても責任を問われるものではないと解すべきである。 (イ) 最判昭和63年3月15日民集42巻3号199頁(以下「キャッツアイ事件最高裁判決」という。)の法理は、十数年前のカラオケをめぐる複雑な事態に対応するためにやむなく導入された苦肉の策というべきものであり、当初から学説による批判も強く、少なくとも理論的に見る限り特殊な法理といわざるを得ない。また、著作権法は、侵害行為に使用する物やサービスを提供する行為を侵害とみなす規定を有しておらず、それにもかかわらず、物理的な送信可能化行為等を行っていない者をたやすく差止請求に服させることは、第三者の予測可能性を害するおそれがある。したがって、キャッツアイ事件最高裁判決の「管理性」、「図利性」の要件を拡張して解釈すべきではない。 そして、キャッツアイ事件最高裁判決の規範的利用主体の法理によっても、後記(ウ)のとおり、本件サービスの利用者による送信可能化行為が被告エム・エム・オーの管理の下で行われているということはできないこと、被告エム・エム・オーは、本件サービスの運営により利益を上げる意図を有していないことから、被告エム・エム・オーを、送信可能化行為の主体と同視することはできない。 (ウ) 本件訴訟を本案とする仮処分命令申立事件(当庁平成14年(ヨ)第22010号事件、以下「本件仮処分事件」という。)において、保全裁判所は、被告エム・エム・オーは、本件各レコードの送信可能化を行っているものと評価できるとして、仮処分の申立てを認容した(以下「本件仮処分決定」という。)が、以下のとおり、本件仮処分決定の判断は誤っている。 a 「本件サービスの内容・性質」について (a) 本件仮処分決定は、「本件サービスを利用すれば、市販のレコードとほぼ同一の内容のMP3ファイルを無料で、しかも容易に取得できるのであるから、市販のレコードを安価に取得したいと希望する者にとって、本件サービスは極めて魅力的である」とする。 しかし、市販の音楽CDに記録されている音楽情報をMP3形式に変換する際には音質は不可避的に劣化するから、市販のレコードとほぼ同一内容のものを取得することはできず、したがって、本件サービスを利用してMP3ファイルを受信しようとする者は、音質にこだわらずに、特定の市販のレコードに収録された楽曲を受信しようという者である。ところが、本件サービスにおいては、被告サーバに同時に接続できる人数が極めて限られているから、上記の者が目的とする楽曲を受信することができない。したがって、本件サービスの魅力は小さい。 また、市販のレコードをMP3形式に複製した電子ファイルを共有フォルダに蔵置して送信可能化した場合、その行為をした者は権利者により把握され得るのであるから、そのようなことをする者は多くはない。 (b) 本件仮処分決定は、「現時点においては、自己が著作した音楽等の電子ファイルを不特定多数の者に無料で提供したり、他の不特定の者が著作した音楽等の電子ファイルを取得したいと希望する者は比較的少ないものと推測される」とする。 しかし、そのように推測する根拠は示されていない。インターネット上では、多くの市民が、自己が著作した作品を不特定多数の者に無料で提供しており、また、多くの市民が他の不特定の者が著作した作品を取得したいと希望し、実際に取得している。 (c) 本件仮処分決定は、「仮に、そのような音楽等の電子ファイルの取得を希望する者がいたとしても、本件サービスにおける検索機能は、希望する作品の所在を正確に確認するには不十分であり、結局、本件サービスはそのような作品の電子ファイルを交換するためには有効に機能しないものと解される」とする。 しかし、作品をダウンロードする段階では対価を支払う必要がないという環境の下では、まず、ダウンロードし、試用してみるということが可能である。すなわち、あらかじめ特定の作品を希望して入手するのではなく、不特定の作品をまず入手して、試用してから、自分にとって気に入るかどうかの判断をするということが可能なのである。 (d) 本件仮処分決定は、「本件サービスにおいて送受信されるMP3ファイルのほとんどが違法コピーに係るものとなることは避けられないものと予想され、被告エム・エム・オーとしても本件サービスの開始当時から上記事態に至ることを十分予想していたものと認められる」とする。 しかし、日本音楽著作権協会、日本レコード協会、マスコミ各社の煽りがなければ、本件サービスにおいて送受信されるMP3ファイルのほとんどが違法コピーに係るものになるとまでは至らなかった可能性が十分あったのであり、被告エム・エム・オーとしては、ノーティス・アンド・テイクダウン方式を採用するなどして毅然とした対応をすることにより、違法コピーを送受信したいユーザーはあまり本件サービスを利用しないだろうと予測していた。 (e) 本件仮処分決定は、「本件サービスは、MP3ファイルの交換に関する部分については、利用者に市販のレコードを複製したMP3ファイルを交換させるためのサービスであるということができる」とする。 しかし、本件サービスは、MP3ファイルの交換に関する部分とそれ以外の電子ファイルの交換に関する部分とが分かれているわけではない。本件サービスにとって、あらゆる電子ファイルは等価なのである。汎用的なサービスのうち違法な利用がされる割合が高い部分をことさら取り出して観察すれば、その部分については違法な利用がされる割合が高いというのは一種のトートロジーである。サービス全体のうちのごく一部分のみを取り出して当該部分の実際の利用状況を観察し、そこからサービスの性質等を推認するという手法が許されるためには、最低限、サービスの提供者が当該部分を他のサービスとは異なる取扱いをしていることが必要である。しかし、被告エム・エム・オーは、本件サービスを提供するに当たってMP3ファイルに関して何ら特別な取扱いをしていない(そもそも、特別な取扱いをすることができない。)。 したがって、本件サービスのうちMP3ファイルの交換に関する部分を取り出して、この部分について違法な利用がされている割合が高いとして、本件サービス全体の性質を判断することは不当である。 b 「管理性」について (a) 利用者による送信可能化を、著作権法上の規律の観点から、被告エム・エム・オーによる送信可能化行為と同視して、被告エム・エム・オーをして上記各行為の主体とするための要件としての「管理性」を認めるためには、何をもって利用者による送信可能化行為の対象とし、何をもってその対象から外すかを被告エム・エム・オーが決定していると認められることが最低限必要である。何を送信可能化の対象とし、何を送信可能化の対象から除外するかを自ら決定できない者を送信可能化の主体と認定しても、同人は、送信可能化の対象から除外するように送信可能化権者から求められた著作物に限定して対象から外すことができない。 クラブキャッツアイ事件最高裁判決においても、客が歌唱する楽曲の選択が、カラオケスナック経営者が備え置いたカラオケテープの範囲内でされていることが、管理性の判断の中に取り込まれている。 ところが、本件サービスにおいて、各利用者が自己のパソコンを被告サーバに接続するに当たって、そのパソコンの共有フォルダにいかなる電子ファイルを蔵置するかを選択、決定するのは、各利用者であって被告エム・エム・オーではない。また、いかなる楽曲を自動公衆送信の対象とするかを決定するのは各利用者であって被告エム・エム・オーではない。したがって、各利用者による送信可能化行為が被告エム・エム・オーの管理下で行われたとはいえない。 この点、本件仮処分決定は、「受信者が受信可能な電子ファイルは、被告サーバに接続しているパソコンの共有フォルダ内に蔵置されているものに限られている」と判示している。しかし、本件で問題となるのは送信者による送信可能化を被告エム・エム・オーが管理しているか否かであって、受信者による受信の対象が被告エム・エム・オーの管理下に置かれているか否かではない。また、そもそも、被告サーバに接続しているパソコンの共有フォルダ内にどのような電子ファイルが蔵置されているかを被告エム・エム・オーは全くコントロールしていない以上、どのような電子ファイルを受信者に受信させるか否かについてもコントロールしていない。したがって、本件仮処分決定が摘示した上記事実は、「利用者の送信可能化が被告エム・エム・オーの管理の下に行われた」という評価を何ら基礎付けるものではない。 (b) 本件仮処分決定は、被告エム・エム・オーに管理性を認めた根拠として、「a 利用者が本件サービスを利用して、電子ファイルを自動公衆送信するには、被告サイトから本件クライアントソフトをダウンロードして、これを自己のパソコンにインストールすることが必要不可欠であること」、「b 利用者は、パソコンを被告サーバに接続させることが必要不可欠であるが、同接続は、通常、本件クライアントソフトを起動することによりしていること」、「c 自動公衆送信の相手方も、パソコンに本件クライアントソフトをインストールし、そのパソコンを被告サーバに接続することが必要不可欠であること」、「d 送信者が自動公衆送信をするのは、受信者が希望する電子ファイルを検索して、その電子ファイルの蔵置されているパソコンの所在及び内容を確認できることを前提としているが、これに必要な一切の機会は被告エム・エム・オーが提供しており、送信者の自動公衆送信を可能とすることについて、被告サーバが必要不可欠であること」、「e 本件サービスにおいては、受信者は、希望する電子ファイルの所在を確認した場合、本件クライアントソフトの画面上の簡単な操作によって、希望する電子ファイルを受信することができるようになっており(その際、受信者は、送信者のIPアドレス及びポート番号を認識する必要はない。)、受信者のための利便性、環境整備が図られていること」を掲げる。しかし、これらの事項はクラブキャッツアイ事件最高裁判決が管理性を認定するに当たって摘示したどの要素とも共通性を有しない事項である。また、上記各事項が認められたとしても、被告エム・エム・オーが自ら送信可能化を行ったものと同視されるということにはならない。上記aないしdの事項は、結局、被告エム・エム・オーが閉鎖型の情報通信システムを構築しているということを意味しているにすぎないところ、閉鎖型情報通信システムを構築してることが当該通信システムを利用してされる情報流通を管理しているとはいえない。また、被告サーバに接続して本件サービスを利用するためのクライアントソフトが一つしかないか複数存するかによって、又は、被告サーバと同様のシステムを用いたサーバが一つしかないか複数存するかという、被告エム・エム・オーも利用者も与り知らない事情によって、利用者の送信可能化が被告エム・エム・オーの管理の下にされたか否かが決まるということは不合理である。 (c) 本件仮処分決定は、「被告エム・エム・オーは、本件サービスの利用方法について、自己の開設したウェブサイト上で説明をし、ほとんどの利用者が同説明を参考にして、本件サービスを利用している」とする。 しかし、クラブキャッツアイ事件最高裁判決は、客による歌唱がスナックの従業員による操作を通じてされたことを管理性を認める根拠としていたのであり、被告エム・エム・オーが本件サービスの利用方法を説明するウェブサイトを開設したことは、これとは関与の度合いが大きく異なるのであるから、上記事実は被告エム・エム・オーの管理性を認めることの根拠とはならない。 また、本件サービスの利用者は、被告サイト上の説明を参照するよりも、被告エム・エム・オーが関与しないインターネット上の掲示板などで質問をし、その回答を得るという形で本件サービスの利用における技術上の疑問を解消していたようである。 (d) クラブキャッツアイ事件最高裁判決は、店の管理性を認めるためには、利用者による利用行為が、店の物理的に支配、管理する領域内で行われることを当然の前提としており、本件にクラブキャッツアイ事件最高裁判決の法理を適用することはできない。 c 「被告エム・エム・オーの利益」について (a) 利用者に被告サイトに接続させてMP3ファイルの送信可能化をさせることが客観的に被告エム・エム・オーの営業上の利益を増大させる行為と評価することができるとしても、そこから直ちに被告エム・エム・オーも自己の営業上の利益を図っていると認定することはできない。 (b) 本件仮処分決定は、「b 本件サービスの登録者数は4万2000人であり、被告サーバに同時接続している利用者数は平均約340人、そのMP3ファイル数は平均約8万であるところ、上記人数は、将来さらに増加することも予想され、被告サイトは広告媒体としての価値を十分有する」とする。 しかし、被告エム・エム・オーがバナー広告を掲載しているのは被告サイトのみであって、本件クライアントソフトを起動させることによってモニター上に表示されるウインドウ上には何らの広告も表示されない。したがって、利用者は、本件クライアントソフトをダウンロードするために被告サイトにアクセスした際にはバナー広告を目にする可能性はあるが、本件クライアントソフトをダウンロードした後、電子ファイルの送受信をする過程においては、バナー広告を目にすることはない。したがって、被告サイトは広告媒体としての価値は乏しい。 また、被告エム・エム・オーが収受する広告料は、本件サービスを利用しようとする者が本件クライアントソフトをダウンロードすることに関連しているにすぎず、利用者が本件各レコードを送信可能化することに関連するものではない。 (c) 本件仮処分決定は、「c 被告エム・エム・オーは、本件サービスにおいて、送信者に被告サイトに接続させてMP3ファイルの送信可能化行為をさせているが、同行為はそれ自体、被告サイトへの接続数を増加させる行為であるとともに、受信側パソコンの接続数の増加に寄与する行為でもあるといえるから、被告サイトの広告媒体としての価値を高め、営業上の利益を増大させる行為ということができる」とするが、前記(b)で主張したとおり、被告サーバへの接続数を増大させても被告エム・エム・オーの営業上の利益を増大させることにはならない。 (d) 本件仮処分決定は、「d 現時点では、被告サイト上に掲載した広告による収入は僅かであるが、被告エム・エム・オーは、将来、被告サイトに広告を掲載することによる広告収入の獲得を被告エム・エム・オーの営業に取り入れていく意図を有している」とする。 しかし、被告エム・エム・オーは、そのような意図は有していない。そもそも、ウェブサイトへのバナー広告の掲載による広告料収入をあてにして営業活動を行うというビジネスモデルを今日選択するはずがない。 (e) 本件仮処分決定は、「e 本件サービスにおいては、本件サービスを利用してMP3ファイルを受信しようとする者から受信の対価を徴収するシステムとしていないが、被告エム・エム・オーは、将来、同サービスを利用してMP3ファイルを受信した者から受信の対価を徴収するシステムに変更することを予定している」とする。 しかし、被告エム・エム・オーは、原告らや日本音楽著作権協会等の権利者との間で包括的な権利許諾が得られ、本件サービスを利用して音楽ファイルの送受信を行っても著作権、著作隣接権の侵害にはならないという環境が整ったときに、本件サービスを有料化することを構想していたのであり、そのような権利処理が整わない段階で有料サービスに切り換えることは全く予定していない。 (2) 争点(2)(被告らの損害賠償責任の有無)について (原告らの主張) ア 被告エム・エム・オーの損害賠償責任 (ア) 被告エム・エム・オーは、本件サービスの提供によって本件各レコードがMP3ファイル形式で複製され送信可能化されるという著作隣接権侵害が行われることが必然であることを認識した上、同著作隣接権侵害行為の発生を認容しつつ、むしろそれが活発に行われることによって本件サービスの利用が拡大されることを営業目的として意図していることは明らかである。 (イ) また、被告エム・エム・オーは、本件サービスを不特定多数の者に提供し始めた当初から、本件サービスを利用して送受信及び複製が行われるMP3ファイルの大多数が原告らが著作隣接権を有するレコードの複製物であることを知悉していたのであるから、本件サービスの提供が原告らの著作隣接権侵害を引き起こすことを現に予見し、予見し得たことは明らかである。そして、被告エム・エム・オーは、上記の著作隣接権侵害の結果を回避することも可能であった。 したがって、被告エム・エム・オーは、本件サービスの提供にあたり、少なくとも原告らが著作隣接権を有するレコードの複製物であるMP3ファイルを本件サービスによる送受信から除外する措置を採って著作隣接権侵害を防止すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠ったのである。 (ウ) 被告らは、被告エム・エム・オーは、いかなる著作物が本件サービスにおいて送信可能化されるのか具体的には認識していなかったから故意は認められない旨主張する。 しかし、送信可能化状態に置かれる電子ファイルの内容を個別具体的に特定して認識していなければ故意が認められないわけではない。 被告エム・エム・オーは、本件サービスを開始するにあたって、いずれも大手レコード会社である原告らが著作隣接権を有するレコードをMP3化した電子ファイルが、本件サービスを通じて送信可能化されるであろうことは認識、認容していたのであるから、送信可能化される個々の電子ファイルの内容まで個別具体的に把握していなくとも故意は認められるというべきである。 (エ) 被告らは、被告エム・エム・オーは、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(以下「プロバイダ責任法」という。)に規定されている特定電気通信役務提供者に該当し、同法3条1項による免責を受ける旨主張する。 しかし、プロバイダ責任法は、平成14年5月27日に施行された法律であるところ、本件損害賠償の請求は、被告エム・エム・オーが本件サービスの提供を中止した同年4月16日までの間に発生した損害についてのものであり、行為及び損害の発生のいずれもがプロバイダ責任法の施行の前であるから、プロバイダ責任法が本件に適用される余地はない。 また、被告エム・エム・オーは、同法3条1項但書きの「情報の発信者」に該当するから同法の免責を受けることはできない。 (オ) 仮に本件サービスにプロバイダ責任法の適用があるとしても、以下のとおり、被告エム・エム・オーは、原告らに対する損害賠償責任を免れない。 a まず、本件仮処分決定が命じているところの、別紙レコード目録記載のタイトル名及び実演家名の文字列を自動的に検出し、当該文字列を含むファイル情報をデータベースから削除することは技術的に可能であり、また、不特定人に対する送信を防止すべき措置を講じるべき電子ファイルが膨大となったとしても、機械的に検出が可能であるから、その実現は困難とならない。 したがって、権利侵害情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることは技術的に可能であった。 b 次に、特定電気通信により情報が流通していることを「知っていた」といえるために求められる認識の個別性・具体性は、サービスの目的、性質及び違法発生割合等の実態によって異なるというべきである。 96.7パーセントを超える確率で違法に用いられているサービスを提供する者は、特段の侵害防止措置を講じない限り、違法な情報流通が発生することを認識し、かつ認容していると考えられる。 したがって、被告エム・エム・オーは、本件サービスにより違法な情報が流通していることを知っていたといえる。 c さらに、本件各レコードは、大手レコード会社が市販商品として、全国のCD販売店等で広く一般に販売しているものであり、このようなレコードの複製物が「ファイル交換」によって無料で入手できる状態に置かれている場合には、それが違法な送信可能化であることが十分推認できるし、ましてや、既に日本レコード協会から警告を受け、かつ送信可能化が違法となる具体的なレコードの電子データの送付を受けていた被告エム・エム・オーは、本件各レコードの送信可能化が権利者から許諾を受けていないものであることを十分知ることができた。 (カ) したがって、被告エム・エム・オーは、本件サービスの提供により原告が被った損害を賠償すべき責任がある。 イ 被告Aの損害賠償責任 (ア) 被告Aは、被告エム・エム・オーの代表者取締役として、被告エム・エム・オーによる本件サービスの提供業務を管理支配し、業務を執行している者であり、法令を遵守して業務執行をする義務があるところ、悪意又は重過失によりこれを怠り、著作権法に違反して原告らの著作隣接権を侵害した。 したがって、被告Aは、本件サービスの提供によって原告らが被った損害につき、有限会社法30条の3第1項により、被告エム・エム・オーと連帯して賠償すべき責任がある。 (イ) また、被告Aは、被告エム・エム・オーの唯一の取締役であり、実際上も被告エム・エム・オーの営業全般を統括しており、被告エム・エム・オーは、専ら被告Aの意思に基づいて本件サービスを開始、提供しているのであって、被告エム・エム・オーの故意と被告Aの故意は完全に同視できる。 したがって、被告Aは、本件サービスの提供によって原告らが被った損害につき、民法709条により、被告エム・エム・オーと連帯して賠償すべき責任がある。 (被告らの反論) (1) 被告エム・エム・オーの損害賠償責任 ア プロバイダ責任法による免責 (ア) 原告らは、不特定の者によって受信されることを目的とする特定の電子ファイルの送信(=特定電気通信)による情報の流通により、その権利(本件各レコードに対する送信可能化権)を侵害されたとして、上記特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者である被告エム・エム・オーに対し、上記特定電気通信により原告らに生じた損害の賠償を求める。したがって、被告エム・エム・オーが原告らに対し損害賠償責任を負うためには、プロバイダ責任法3条1項所定の各要件を充足する必要があるが、以下のとおり、各要件を充足していない。 (イ) まず、「権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能な場合」であることが損害賠償責任を負うための要件となるが、本件サービスにおいては、権利を侵害した情報を不特定人に送信することを防止することは不可能である。 (ウ) 次に、「特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていた(か)、知ることができたと認めるに足る相当の理由がある」ことが要件となる。 被告エム・エム・オーは、本件サービスを利用してどのような情報が不特定人に送信されているのかを全く認識していなかった。また、被告エム・エム・オーは、日本レコード協会から、本件サービスを利用して送受信されるMP3ファイルのほとんどが原告らの著作隣接権を侵害するとして、本件サービスの利用者による不特定人への同ファイルの送信を防止するよう求められたが、当初は、日本レコード協会から同要求の根拠を何ら示されず、後になっても、大部分の電子ファイルについては、それが原告らの著作隣接権を侵害するものであると認識するに足りる根拠を示されなかった。このような場合は、他人の権利を侵害していることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があったということはできない。 (エ) 原告らは、被告エム・エム・オーは、プロバイダ責任法の施行以前の段階において本件サービスの提供を一時的に停止したのであるから、同法は、本件に適用される余地はない旨主張する。 しかし、プロバイダ責任法の立法趣旨に鑑みれば、同法3条1項の免責規定に関する限り、施行日前に遡って適用されることは明らかである。 (オ) また、原告らは、被告エム・エム・オーは、プロバイダ責任法3条1項ただし書きの「情報の発信者」に該当するから、同法3条1項による免責を受けることができない旨主張する。 しかし、プロバイダ責任法は、基本的に、情報の発信者と、それにより被害を受けたと主張する者と、両者の通信に関与するプロバイダ等(特定電気通信役務提供者)という三当事者を念頭に置き、プロバイダ等と発信者、プロバイダ等と被害主張者の各関係について定める法律であるから、著作権法の規律の観点から送信可能化等の主体と擬制された者をプロバイダ責任法の「発信者」と同視することはできない。 イ 仮に、プロバイダ責任法3条1項の規定が適用されないとしても、以下のとおり、被告エム・エム・オーは損害賠償責任を負わない。 (ア) 被告エム・エム・オーは、本件サービスにおいて第三者の権利を侵害する内容の電子ファイルが送受信され得ることはある程度予測していたが、具体的にいなかる楽曲が送受信されているかは全く認識していない。なお、被告エム・エム・オーは、利用規約を作成し、本件サービスを利用して、第三者の権利を侵害するような電子ファイルを送受信することを禁止していたのであるから、本件サービスにおいて著作権侵害が行われることを意図していたということはあり得ない。 したがって、被告エム・エム・オーには本件著作隣接権侵害について故意はない。 (イ) 市民から市民への大量の情報流通をサポートする業者が、そのサービスの利用者が同サービスを利用して著作権を侵害するなど違法な内容の情報を送信することを阻止する義務を負うためには、その事業者が自ら管理する情報送受信サービスにおいて第三者の権利を侵害する情報が送信されていることを具体的に知っていること、並びに送信される情報が第三者の権利を侵害するものであること、侵害行為の態様が極めて悪質であること及び被害の程度が甚大であることが一見して明白であることが必要である。 ところが、被告エム・エム・オーは、本件サービスにおいて送信される楽曲を具体的には認識していない。また、原告らは、具体的にどの電子ファイルが原告らの著作隣接権を侵害するのかを指摘しないし、これを示す資料を何ら提供しないのであるから、被告エム・エム・オーが原告らの著作隣接権を侵害する疑いのある情報の送信が行われていることを具体的に知っていたとしても、それが原告らの権利を侵害するものであることが一見して明らかという訳ではない。したがって、被告エム・エム・オーは、本件サービスにおいて、本件各レコードを複製した電子ファイルの送受信を阻止する義務を負わないというべきである。 (2) 被告Aの損害賠償責任 上記(1)で主張したように、被告エム・エム・オーの損害賠償責任が認められないのであるから、被告Aの損害賠償責任も認められない。 また、仮に被告エム・エム・オーの損害賠償責任が認められたとしても、以下の理由により、被告Aの損害賠償責任は認められない。 すなわち、有限会社の取締役は、事業の運営に当たり不可避的に相当程度の不確定要素を含む判断を迫られるのであり、経営上の判断が結果的に適切でなかったとしても、それが事業の特質、判断時の状況等の事情を考慮して、当初から会社に損害を生ずることが明白である場合又はそれと同視すべき重大な判断の誤りがある場合は格別、与えられた経営上の裁量権の範囲内であれば取締役としての任務を懈怠したことにはならないというべきところ、被告Aは、著作権制度審議会の議事要旨やまとめ、プロバイダ責任法の法律案が起草された経緯、公衆送信権についての研究者等による解説、過去の裁判例を踏まえた上で、弁護士のアドバイスのもと、ノーティス・アンド・テイクダウン手続によって違法な電子ファイルの送信を事後的に阻止すれば、その送信を事前に阻止できなくても被告エム・エム・オーが損害賠償責任を負うことはないと判断したのであるから、仮に、本件サービスの提供により被告エム・エム・オーに損害賠償責任が認められたとしても、被告Aには、そのことにつき重大な過失は認められない。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(被告エム・エム・オーは、原告らの有する著作隣接権を侵害しているか)について 前記前提となる事実で判示したように、本件サービスの利用者は、被告エム・エム・オーの提供する本件サービスを利用して、MP3形式によって複製され、かつ、送受信可能の状態にされた電子ファイルの存在及び内容等を示すファイル情報を受信者に送信するなどしているが、本件サービスを運営する被告エム・エム・オーの行為が、原告らの有する送信可能化権を侵害するといえるか否かについて判断する。 (1) 利用者の行為と著作隣接権侵害の成否 まず、判断の前提として、送信者が行う複製行為及び送信可能化行為が、それぞれ、複製権侵害及び送信可能化権侵害を構成するかについて検討する。 ア 送信者の行う複製行為と複製権侵害の成否 (ア) 音楽CDをMP3形式へ変換する行為は、聴覚上の音質の劣化を抑えつつ、デジタル信号のデータ量を圧縮するものであり、変換された音楽CDと変換したMP3形式との間には、内容において実質的な同一性が認められるから、レコードの複製行為ということができる(法2条1項15号)。 (イ) 法102条1項が準用する法30条1項は、著作物は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(私的使用)を目的とするときは、使用する者が複製することができる旨を規定している。また、法102条4項1号は、法30条1項に定める目的以外の目的のために、当該レコードに係る音を公衆に提示した者は複製を行った者とみなす旨を規定している。 そうすると、@利用者が、当初から公衆に送信する目的で、音楽CDをMP3形式のファイルへ変換した場合には、法102条1項、同30条1項の規定の解釈から当然に、また、A当初は、私的使用目的で複製した場合であっても、公衆が当該MP3ファイルを受信して音楽を再生できるような状態にした場合には、当該レコードに係る音を公衆に提示したものとして、法102条4項1号の規定により、複製権侵害を構成する。 以上のとおり、本件サービスの利用者が、レコード製作者である原告らの許諾を得ることなく、本件各MP3ファイルをパソコンの共有フォルダに蔵置して同パソコンを債務者サーバに接続すれば、複製をした時点での目的の如何に関わりなく、本件各レコードについて著作隣接権侵害(複製権侵害又はそのみなし侵害のいずれか)を構成する。 イ 送信者の行う送信可能化行為と送信可能化権侵害の成否 (ア) 前記前提となる事実のとおり、本件サービスは、ユーザーID及びパスワードを登録すれば誰でも利用できるものであり、既に4万人以上の者が登録し、平均して同時に約340人もの利用者が被告サーバに接続して電子ファイルの交換を行っている。そして、送信者が、電子ファイルをパソコンの共有フォルダに蔵置して、本件クライアントソフトを起動して被告サーバに接続すると、送信者のパソコンは、被告サーバにパソコンを接続させている受信者からの求めに応じ、自動的に上記電子ファイルを送信し得る状態となる。 したがって、電子ファイルを共有フォルダに蔵置したまま被告サーバに接続して上記状態に至った送信者のパソコンは、被告サーバと一体となって情報の記録された自動公衆送信装置(法2条1項9号の5イ)に当たるということができ、また、その時点で、公衆の用に供されている電気通信回線への接続がされ、当該電子ファイルの送信可能化(同号ロ)がされたものと解することができる。 なお、本件各MP3ファイルは、その内容において、本件各レコードと実質的に同一であるから、本件各MP3ファイルを送信可能化することは本件各レコードを送信可能化することに当たる。 (イ) 以上によれば、本件サービスの利用者が、本件各レコードの著作隣接権者である原告らの許諾を得ることなく、本件各MP3ファイルをパソコンの共有フォルダに蔵置して被告サーバに接続すれば、本件各レコードについて、著作隣接権侵害(送信可能化権侵害)を構成する(法96条の2)。 ウ まとめ 利用者が、本件各レコードを複製し、又は送信可能化をするに当たり、原告らがこれを許諾した事実がないことは明らかであるから、本件サービスの利用者の前記各行為は、著作隣接権侵害(複製権侵害及び送信可能化権侵害)を構成する。 (2) 被告エム・エム・オーの本件サービス提供行為と著作隣接権侵害(送信可能化権侵害)の成否 ア 以上認定したとおり、送信者は、本件各MP3ファイルをパソコンの共有フォルダに蔵置し、かつ、その状態で被告サーバにパソコンを接続させているのであり、送信者の上記行為は、原告らの有する送信可能化権を侵害する。 しかし、被告エム・エム・オー自らは、本件各MP3ファイルをパソコンに蔵置し、その状態でパソコンを被告サーバに接続するという物理的行為をしているわけではない。 そこで、被告エム・エム・オーが、原告らの有する送信可能化権を侵害していると解すべきかを考察することとする。被告エム・エム・オーが、送信可能化権を侵害していると解すべきか否かについては、@被告エム・エム・オーの行為の内容・性質、A利用者のする送信可能化状態に対する被告エム・エム・オーの管理・支配の程度、B被告エム・エム・オーの行為によって受ける同被告の利益の状況等を総合斟酌して判断すべきである。 イ 本件サービスの内容・性質 (ア) 前記前提となる事実及び弁論の全趣旨によれば、以下のとおりの事実が認められる。すなわち、 a 被告サーバは、@被告サーバに接続している利用者のパソコンの共有フォルダ内の電子ファイルに関するファイル情報を取得し、Aそれらを一つのデータベースとして統合して管理し、B受信者の検索リクエストに応じた形式に加工した上、Cこれを、同時に被告サーバに接続されている他の利用者に対して提供し、D他の利用者が本件クライアントソフトにより、好みの電子ファイルを検索・選択し、画面に表示されたダウンロードボタンをクリックするだけで(送信者のIPアドレスを知る必要もないまま)当該電子ファイルの送信を受けることができるようにしている。このように、ファイル情報の取得等に関するサービスの提供及び電子ファイルをダウンロードする機会の提供その他一切のサービスを、被告エム・エム・オー自らが、直接的かつ主体的に行っている。利用者は、被告エム・エム・オーのこれらの行為によってはじめてパソコンの共有フォルダ内に蔵置した電子ファイルを他の利用者へ送信することができる。 b 本件サービスを利用すれば、市販のレコードとほぼ同一の内容のMP3ファイルを無料で、しかも容易に取得できること、音楽データをMP3形式に変換しても、音質はあまり低下しないことから、市販のレコードを安価に取得したいと希望する者にとって、本件サービスは極めて魅力的である。他方、現時点においては、利用者自らが著作した音楽等のMP3ファイルを不特定多数の者に無料で提供したり、他の不特定の者が著作した音楽等のMP3ファイルを取得したいと希望する者は、市販のレコードをMP3形式で複製した電子ファイルを提供し、又は取得したいと希望する者に比して、かなり少ないものと推測される。仮に、そのような音楽等の電子ファイルの取得を希望する者がいたとしても、本件サービスにおける検索機能は、希望する作品の所在を正確に確認するには不十分であり(本件サービスにける検索機能は、受信者が受信しようとする音楽が特定されていることを前提としているが、市販されているレコードに収録されていない音楽を受信しようとする者はその音楽の実演家、楽曲名等を具体的に把握していないことが多いものと推測され、このように実演家及び楽曲名を把握していない音楽を検索するには、本件サービスの検索機能は機能しない。)、結局、本件サービスはそのような作品の電子ファイルを交換するためには有効に機能しないものと解される。 c 実際にも、前記前提となる事実のとおり、被告サーバが送受信の対象としているMP3ファイルの約96.7パーセントが、市販のレコードを複製した電子ファイルに関するものである。そして、市販のレコードを複製したMP3ファイルのほとんどすべてのものが、その送信可能化及び自動公衆送信について著作権者、著作隣接権者の許諾を得ていないものであり、本件サービスにおいて送受信されるMP3ファイルのほとんどが違法な複製に係るものであることが明らかである。被告エム・エム・オーは、本件サービスの開始当時から上記事態に至ることを十分予想していたものと認められる(この点、前記前提となる事実のとおり、被告エム・エム・オーは、本件サービスの利用規約において、著作権を侵害する電子ファイルの送信可能化行為を禁止しているが、本件サービスを利用する者の身元確認をしていないのであるから、同規約の実効性が低く、本件全証拠によっても、他に、著作権侵害を防ぐに足る措置を講じていると認めることはできない。)。 d したがって、本件サービスは、MP3ファイルの交換に関する部分については、市販のレコードを複製したMP3ファイルを交換させる機会を与えるため、利用者に提供されたサービスであるということができる。 (イ) 以上のとおり、本件サービスは、MP3ファイルの交換に係る部分については、利用者をして、市販のレコードを複製したMP3ファイルを自動公衆送信及び送信可能化させるためのサービスという性質を有する。 (ウ) この点について、被告らは、本件サービスは、MP3ファイルの交換に関する部分とそれ以外の電子ファイルの交換に関する部分とが峻別されているわけではないから、本件サービスの中からMP3ファイルの交換に関する分野を取り出して、この分野について違法な利用がされている割合が高いとして、本件サービス全体の性質を判断することは相当でない旨主張する。しかし、本件で問題とされており、前記でその性質を判断したのは、本件サービス中のMP3ファイルの交換に関する部分であること、音楽をMP3形式で圧縮することによるインターネット上での流通の増大の可能性及びインターネット上におけるMP3形式で圧縮された音楽の流通の現状を考慮すると、送受信の対象となる電子ファイルがMP3ファイルである場合、他の電子ファイルの場合に比して音楽についての著作権、著作隣接権侵害発生の可能性が格段に高くなるものと推測されることに照らすならば、本件サービスのうち、MP3ファイルの交換に関する部分についての性質を判断することには合理性があるというべきであるから、この点の被告らの主張は失当である。 ウ 管理性等 (ア) 前記前提となる事実及び弁論の全趣旨によれば、以下のとおりの事実が認められる。すなわち、 a 利用者が本件サービスを利用して、電子ファイルを自動公衆送信するには、被告サイトから本件クライアントソフトをダウンロードして、これを自己のパソコンにインストールすることが必要不可欠である。 b 利用者は、パソコンを被告サーバに接続させることが必要不可欠であるが、この接続は、通常、本件クライアントソフトを起動することにより行う。 c 自動公衆送信の相手方も、パソコンに本件クライアントソフトをインストールし、そのパソコンを被告サーバに接続することが必要不可欠である。 d 本件サービスにおいては、受信者は希望する電子ファイルを検索して、その電子ファイルの蔵置されているパソコンの所在及び内容を確認できるようになっており、この検索機能がなければ、受信者が、本件サービスを利用して電子ファイルを受信することは事実上不可能である。送信者が本件サービスにおいて電子ファイルを自動公衆送信するのは、このような検索により、受信する者が存在することが前提となる。したがって、本件サービスにおける自動公衆送信及び送信可能化にとって、本件サービスにおける上記検索機能は必要不可欠である。なお、本件サービスにおいて送受信されているMP3ファイルのほとんどは市販のレコードを複製したものであること、本件サービスにおける電子ファイルの検索は、楽曲名及び歌手名による検索であることに照らすと、受信者が、市販されている特定のレコードを複製した電子ファイルを受信しようとする場合には、本件サービスにおけるこのような検索機能が必要不可欠といえる。 e 本件サービスにおいては、受信者に受信しようとする電子ファイルの検索を可能とさせるために、送信者に共有フォルダに蔵置する電子ファイルにファイル名を付させている。そして、送信者は、被告エム・エム・オーの設定したルールに則り、自己のパソコンの共有フォルダに蔵置する電子ファイルにファイル名を付している。 f 本件サービスにおいては、受信者は、希望する電子ファイルの所在を確認した場合、本件クライアントソフトの画面上の簡単な操作によって、希望する電子ファイルを受信することができるようになっており(その際、受信者は、送信者のIPアドレス及びポート番号を認識する必要はない。)、受信者のための利便性、環境整備が図られている。 g 被告エム・エム・オーは、本件サービスの利用方法について、自己の開設したウェブサイト上で説明をし、ほとんどの利用者が同説明を参考にして、本件サービスを利用している。 (イ) 上記認定した事実を基礎にすると、利用者の電子ファイルの送信可能化行為(パソコンの共有フォルダに電子ファイルを置いた状態で、同パソコンを被告サーバに接続すること)は、被告エム・エム・オーの管理の下に行われているというべきである。 (ウ) この点について、被告らは、利用者による送信可能化を、著作権法上の規律の観点から、被告エム・エム・オーが管理しているというためには、被告エム・エム・オーが送信可能化の対象を決定していることが必要であるが、本件サービスにおいて、パソコンの共有フォルダに蔵置する電子ファイルを選択、決定しているのは各利用者であって、被告エム・エム・オーではないから、被告エム・エム・オーに管理性は認められない旨主張する。 しかし、送信の対象となる電子ファイルを選択するのが、専ら利用者であったとしても、前記認定した諸事実を総合すれば、利用者の送信可能化行為が被告エム・エム・オーの管理の下にされているとの認定、判断を左右するものではなく、この点の被告らの主張は失当である。 エ 被告エム・エム・オーの利益 (ア)a 証拠(甲12)及び弁論の全趣旨によれば、本件サービスにおいては、本件サービスを利用してMP3ファイルを受信しようとする者から受信の対価を徴収するシステムを採用していないが、被告エム・エム・オーは、将来、本件サービスを利用してMP3ファイルを受信した者から受信の対価を徴収するシステムに変更することを予定していることが認められる。 そして、このように本件サービスを将来有料化することを予定している場合は、現時点でのサービスの質を高め、顧客の本件サービスに対する満足度を高めることが重要であり、そのためには、現時点において、本件サービスを利用して入手できる音楽情報の曲目数をより多くすること、すなわち、本件サービスにおいて送信可能化されるMP3ファイル数をより多くすることが必須である。 このような観点からすれば、被告エム・エム・オーが、本件サービスにおいて、より多くの送信者に被告サーバに接続させて、より多くのMP3ファイルの送信可能化行為をさせることは、本件サービスを将来有料化したときの顧客数の増加につながり、被告エム・エム・オーの利益に資するものといえる。 b インターネット上にウェブサイトを開設した場合、同ウェブサイトに接続する者の人数が増えれば、同ウェブサイトの開設者は同ウェブサイト上に広告を載せること等により収入を得ることができ、ウェブサイト上の広告掲載への需要は、当該ウェブサイトへの接続数と相関関係があり、接続数が多くなれば、広告掲載の需要が高まり、広告収入等も多くなる。 さらに、被告サーバに接続したパソコンに情報を送信するなどの方法により広告をすることもでき、そのような方法を採った場合には、被告サーバへの接続数と同サーバを利用した広告の需要との間に相関関係が認められる。 c ところで、前記前提となる事実で認定したように、本件サービスの登録者数は4万2000人であり、被告サーバに同時接続している利用者数は平均約340人、そのMP3ファイル数は平均約8万であるところ、本件サービスの運営を継続すれば、上記人数は、将来さらに増加することも予想され、本件サービスは広告媒体としての価値を十分有する。 (イ) そうすると、利用者に被告サーバに接続させてMP3ファイルの送信可能化行為をさせることは、被告エム・エム・オーの営業上の利益を増大させる行為と評価することができる。 (ウ) この点について、被告らは、本件サービスにおいて送信可能化される著作物の権利者から許諾を得られるまでは、本件サービスを有料化しないこと、被告サイトへの広告掲載による広告料収入はあてにしていないこと等、本件サービスによって利益を得る目的を有していないことを縷々主張し、乙第8号証にはこれに沿う内容の陳述がある。しかし、被告エム・エム・オーは、営利行為をすることを目的として設立されたものであって、本件サービス以外の活動はしていない(弁論の全趣旨)。したがって、被告らの主張するように、本件サービスにより利益を得る目的を有していないということは考え難い。なお、被告Aは、本件サービスの提供によって培ったP2P技術を活かして、企業向けサービスを開発し、販売していくという構想を有していた旨供述する(乙8)が、このような形の収益の可能性は不明であり、このように収益の目処を具体的に立てずに起業することは考えられないこと、被告Aは、雑誌のインタビューにおいて、本件サービスを将来有料化することを考えている旨発言していること(甲12)から、同供述は措信できない。 また、被告らは、利用者が被告サイトを閲覧するのは、本件クライアントソフトをダウンロードするときの1回だけであるから、被告サイトは広告媒体としての価値を有さない旨主張する。しかし、前記のとおり、被告サイトには、本件サービスの利用方法についての説明も掲載されており、利用者は、本件クライアントソフトをダウンロードするときに限らず、本件サービスの利用方法についての疑問を解消する目的で被告サイトを閲覧することもあるものと推測され、また、被告サイトを閲覧させるという方法によらずに、利用者が被告サーバへパソコンを接続した際に同パソコンに広告の情報を送信するなどの方法により広告を行うことも可能であると解される。したがって、本件サービスが広告媒体としての価値を有しないということはできない。 被告らの上記主張は理由がない。 オ 小括 以上のとおり、本件サービスは、MP3ファイルの交換に係る分野については、利用者をして、市販のレコードを複製したMP3ファイルを自動公衆送信及び送信可能化させるためのサービスという性質を有すること、本件サービスにおいて、送信者がMP3ファイル(本件各MP3ファイルを含む。)の送信可能化を行うことは被告エム・エム・オーの管理の下に行われていること、被告エム・エム・オーも自己の営業上の利益を図って、送信者に上記行為をさせていたことから、被告エム・エム・オーは、本件各レコードの送信可能化を行っているものと評価することができ、原告らの有する送信可能化権の侵害の主体であると解するのが相当である。 なお、この点について、被告らは、被告エム・エム・オーは送信可能化権侵害の主体でないことの理由を縷々主張するが、同主張は、前記判示したところに照らして、いずれも理由がない。 2 争点(3)(被告らの損害賠償責任の有無)について (1) 被告エム・エム・オーの損害賠償責任の有無 ア 事実認定 前記前提となる事実、証拠(甲2、12、14、15)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、これに反する証拠はない。 (ア) 被告エム・エム・オーは、本件サービスの運営を開始するに際して、本件サービスの運営開始前にも、本件サービスと同様の仕組みのファイル交換サービスが運営されていること、このファイル交換サービスでは、市販されているレコードに収録されている音楽をMP3形式により複製したファイルが、その著作権者及び著作隣接権者の許可を得ずに、大量に交換されていたこと、上記ファイル交換サービスは社会問題となっていたことを十分に認識していた。 (イ) 送信者が自己のパソコンの共有フォルダ内に電子ファイルを蔵置した状態で、同パソコンを被告サーバに接続させることにより、当該電子ファイルの送信可能化行為が行われ、被告サーバは、これに接続したパソコンの共有フォルダ内のファイル名、フォルダ名についての情報を受信するのであるから、被告エム・エム・オーは、現に送信可能化され、自動公衆送信される可能性のあるMP3ファイルのファイル名及びフォルダ名を認識することができる。 (ウ) 被告サーバに送信されたファイル名又はフォルダ名の多くは、市販のレコードに収録されている音楽の楽曲名及び歌手名を示す文字列が表記されている(その表記方法は問わない。)が、このようにファイル名等に市販のレコードに収録されている音楽の楽曲名及び歌手名を示す文字列が表記されたMP3ファイルは、当該音楽の複製物であると考えるのが常識的である。 (エ) 被告エム・エム・オーは、被告サーバに送信された「mp3」の拡張子が付いたファイル情報の中から市販のレコードに収録されている音楽の楽曲名及び歌手名を示す文字列が表記されているファイル名、フォルダ名を検索することによって、本件サービスにおいて、市販のレコードに収録されている音楽を複製したMP3ファイルを対象として送信可能化がされていることを容易に認識できたはずである(なお、上記MP3ファイルを共有フォルダに蔵置した送信者が送信可能化についての著作権者及び著作隣接権者の許諾を得ていないことも十分予見できたものと認められる。)。 イ 過失の有無に関する判断 (ア) 以上認定した事実によれば、被告エム・エム・オーは、遅くとも、本件サービスの運営を開始した直後には、本件サービスによって、他人のレコードについての送信可能化権が侵害されていることを認識し得た。 そうすると、被告エム・エム・オーは、本件サービスの運営を行う際に、このような著作権等の侵害が行われることを防止するための適切、有効な措置を講じる義務があったというべきである。しかるに、被告エム・エム・オーは、著作権等の侵害を防止するための何らの有効な措置を採らず、漫然と本件サービスを運営して、原告らの有する送信可能化権を侵害したのであるから、同被告には、この点で過失がある。したがって、被告エム・エム・オーが本件サービスを提供する行為は不法行為を構成し、被告エム・エム・オーは、原告らが本件サービスの運営によって被った損害を賠償する責任があるというべきである。 (イ) この点について、被告らは、@本件サービスにおいては、利用者は、パソコンの画面上で、著作権等を侵害する電子ファイルを送信可能な状態としないことなどを内容とする利用規約に同意する旨のボタンをクリックしない限り、本件クライアントソフトをダウンロードすることができない仕組みとされていること、A被告エム・エム・オーの利用規約によれば、著作権等の権利を侵害する電子ファイルを送信可能化することを禁止すること、送信可能な状態に置かれた電子ファイルにより権利が侵害されたと主張する者から、当該ファイル公開の停止(共有の解消)を求められたときは、利用者は「ノーティス・アンド・テイクダウン手続規約」に従うべきとされていることから、被告エム・エム・オーの注意義務は尽くされている旨主張する。 しかし、本件サービスにおいては、利用者の戸籍上の名称や住民票の住所等、本人確認のための情報の入力は要求されておらず、被告エム・エム・オーが講じたこのような措置は、著作権等侵害行為を防止するために十分な措置であるということは到底できず、この点の被告らの主張は採用できない(実際にも、本件サービスにおいて送信可能化されたMP3ファイルのうちの96.7パーセントは市販のレコードを複製したものであり、被告エム・エム・オーの講じた上記措置が全く実効性のないものであったことが明らかである。)。 ウ プロバイダ責任法との関係 被告らは、被告エム・エム・オーは、プロバイダ責任法所定の特定電気通信役務提供者に該当し、同被告が損害賠償責任を負うためには、プロバイダ責任法3条1項所定の各要件を充足する必要がある旨主張するのでこの点について検討する。 プロバイダ責任法3条1項は、特定電気通信による情報の流通により他人の権利が侵害されたときにおける当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者の損害賠償責任を制限する旨、また、同条項ただし書きは、当該特定電気通信役務提供者が当該権利を侵害した情報の発信者である場合には、同条項の適用が排除される旨、さらに、同法2条4号は、「発信者」とは「特定電気通信役務提供者の用いる特定電気通信設備の記録媒体に情報を記録した者」又は「当該特定電気通信設備の送信装置に情報を入力した者」である旨、それぞれ規定する。 そこで、被告エム・エム・オーが、同法2条4号所定の「発信者」に当たるか否かを検討する。 前記のとおり、著作権法の関係では、被告サーバは、電子ファイルを共有フォルダに蔵置した状態の送信者のパソコンと一体となって、著作権法2条1項9号の5ロ所定の「公衆送信用記録媒体に情報の記録された自動公衆送信装置」に該当し、また、送信者のパソコンの共有フォルダに蔵置された電子ファイルの送信可能化を行った主体は、被告エム・エム・オーである。そして、プロバイダ責任法の関係でも、前記認定した事情に照らすならば、同法2条4号の「記録媒体」に当たるものは、電子ファイルを共有フォルダに蔵置した状態の送信者のパソコンと一体となった被告サーバであると解すべきであり、また、上記「記録媒体」に電子ファイルを蔵置した主体に該当する者は、被告エム・エム・オーであると解すべきである(なお、確かに、被告サーバに接続していない状態の送信者のパソコンに電子ファイルを蔵置した主体は、被告エム・エム・オーではなく、当該送信者自身であると解すべきであるが、上記パソコンを被告サーバに接続し、送信者のパソコンと被告サーバが一体となった段階においては、これに蔵置されている電子ファイルのその蔵置の主体は被告エム・エム・オーであると解するのが相当である。)。したがって、被告エム・エム・オーはプロバイダ責任法2条4号の「記録媒体に情報を記録した者」に当たると解すべきである。 そうすると、被告エム・エム・オーは同法2条4号所定の「発信者」に該当するから、プロバイダ責任法が施行前の行為についても適用されるか否かの判断はさておき、被告エム・エム・オーの行為について、プロバイダ責任法3条1項本文により、その責任を制限することはできないというべきである。 (2) 被告Aの損害賠償責任の有無 前記前提となる事実で判示したように、被告エム・エム・オーは有限会社であり、被告Aは、その取締役の地位にあるところ、弁論の全趣旨によれば、被告エム・エム・オーは、被告Aの個人会社であり、被告エム・エム・オーの活動は被告Aの活動と同視できるものと認められるから、本件サービスの提供は被告Aの行為であると解して差し支えない。そして、前記(1)で判示したのと同様の理由により、本件サービスの運営により原告らの送信可能化権を侵害したことについて、被告Aに過失が認められ、したがって、被告Aには不法行為が成立し(民法709条)、被告Aは、原告らが上記侵害によって被った損害を賠償する責任があるというべきである。 そして、被告らの上記不法行為は、共同不法行為となり、被告らの上記損害賠償債務は不真正連帯債務となる。 3 結語 以上より、本件サービスにおいて、パソコンの共有フォルダ内に本件各MP3ファイルを蔵置した状態で、被告サーバに同パソコンを接続させる行為は、本件各レコードについて原告らの有する送信可能化権の侵害行為に当たり、被告エム・エム・オーは、同侵害行為の主体であると認められる。また、被告らは、上記侵害行為により原告らに生じた損害を連帯して賠償すべき義務がある。 そして、本件においては、被告エム・エム・オーに対する差止請求の範囲及び原告らの被った損害の額等について、更に審理をする必要がある。 よって、主文のとおり中間判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 榎戸道也 裁判官 佐野信 (別紙)当事者目録 原告 コロムビアミュージックエンタテインメント株式会社 原告 ビクターエンタテインメント株式会社 原告 キングレコード株式会社 原告 株式会社テイチクエンタテインメント 原告 ユニバーサルミュージック株式会社 原告 東芝イーエムアイ株式会社 原告 日本クラウン株式会社 原告 株式会社徳間ジャパンコミュニケーションズ 原告 株式会社エピックレコードジャパン 原告 株式会社ポニーキャニオン 原告 ワーナーエンターテイメントジャパン株式会社 原告 株式会社フォーライフミュージックエンタテイメント 原告 株式会社バップ 原告 株式会社ビーエムジーファンハウス 原告 パイオニアエル・ディー・シー株式会社 原告 株式会社バーミリオンレコード 原告 エイベックス株式会社 原告 株式会社プライエイド・レコーズ 原告 株式会社トライエム 原告ら訴訟代理人弁護士 石田英遠 同 前田哲男 同 城山康文 同 中川達也 被告 有限会社日本エム・エム・オー 被告 A 被告ら訴訟代理人弁護士 小倉秀夫 |
【事件名】ネット上の音楽無料配信事件(日本音楽著作権協会) 【年月日】平成15年1月29日 東京地裁 平成14年(ワ)第4237号 著作権侵害差止等請求事件 (口頭弁論終結日 平成14年12月2日) 中間判決 原告 社団法人日本音楽著作権協会 訴訟代理人弁護士 田中豊 同 藤原浩 同 市村直也 被告 有限会社日本エム・エム・オー 被告 A 上記両名訴訟代理人弁護士 小倉秀夫 主文 1 被告有限会社日本エム・エム・オーが運営する「ファイルローグ」(File Rogue)という名称の電子ファイル交換サービスにおいて、同サービスの利用者が、原告の許諾なく、別紙楽曲リスト(上)及び同(下)記載の各音楽著作物をMP3(MPEG1オーディオレイヤー3)形式で複製した電子ファイルを利用者のパソコンの共有フォルダ内に蔵置した状態で、同パソコンを同被告の設置に係るサーバに接続させる行為は、上記音楽著作物について原告の有する著作権(自動公衆送信権及び送信可能化権)を侵害する行為に当たり、同被告がその著作権侵害行為の主体であると認められる。 2 被告らは、原告に対して、上記電子ファイル交換サービスにおいて、上記音楽著作物をMP3形式で複製した電子ファイルが交換されたことについて、連帯して損害賠償金を支払う義務を負う。 事実及び理由 第1 請求 1 被告有限会社エム・エム・オーは、別紙楽曲リスト(上)及び同(下)記載の各音楽著作物につき、自己が運営する「ファイルローグ」(File Rogue)という名称の電子ファイル交換サービスにおいて、MP3(MPEG1オーディオレイヤー3)形式によって複製された電子ファイルを送受信の対象としてはならない。 2 被告らは、原告に対し、連帯して金2億1433万円及び被告有限会社エム・エム・オーについては平成14年3月26日から、被告Aについては同月21日から各支払済みまで各年5分の割合による金員を支払え。 3 被告らは、原告に対し、連帯して、平成14年3月1日から被告有限会社エム・エム・オーがその運営する「ファイルローグ」(File Rogue)という名称のインターネット上の電子ファイル交換サービスにおいて別紙楽曲リスト(上)及び同(下)記載の音楽著作物がMP3形式で複製された電子ファイルの送受信を停止するに至るまで1か月金3969万円の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 被告有限会社エム・エム・オー(以下「被告エム・エム・オー」という。)が運営するインターネット上の電子ファイル交換サービスにおいて、原告が著作権を有する音楽著作物をMP3(MPEG1オーディオレイヤー3、以下「MP3」という。)形式で複製した電子ファイルが、原告の許諾を得ることなく交換されていることに関して、原告が、上記電子ファイル交換サービスを提供する被告エム・エム・オーの行為は、原告の有している著作権(複製権、自動公衆送信権、送信可能化権)を侵害すると主張して、被告エム・エム・オーに対して、著作権に基づき上記電子ファイルの送受信の差止めを、被告エム・エム・オー及びその取締役である被告Aに対して、著作権侵害による共同不法行為に基づき損害金の支払を求めた。 1 前提となる事実 (1) 当事者等 ア 原告は、著作権等管理事業法(平成12年法律第131号)に基づき著作権等管理事業者登録簿に登録された音楽著作権等管理事業者であり、内国著作物については管理委託契約により国内の多くの作詞者、作曲者、音楽出版者等の著作権者から著作権ないしその支分権(演奏権・上映権・録音権など)につき信託を受け、外国の著作物については我が国が締結した著作権条約に加盟する諸外国の著作権仲介団体との相互管理契約によるなどしてこれを管理し、国内の公衆送信事業者をはじめ、レコード、映画、出版、興行、社交場等各種の分野における音楽の利用者に対して、音楽著作物の利用を許諾し、その対価として利用者から使用料を徴収するとともに、これを内外国の著作権者に分配することを主たる目的とする社団法人であり、別紙楽曲リスト(上)及び同(下)に記載の各音楽著作物(以下「本件各管理著作物」という。)の著作権を管理している。 イ 被告エム・エム・オーは、ソフトウエアの開発、販売その他を目的とする有限会社であるが、平成13年11月1日から、カナダ法人であるITPウェブソリューションズ社と提携することにより、利用者のパソコン間でデータを送受信させるピア・ツー・ピア(Peer To Peer)技術を用いて、カナダ国内に中央サーバ(以下「被告サーバ」という。)を設置し、インターネットを経由して被告サーバに接続されている不特定多数の利用者のパソコンに蔵置されている電子ファイルの中から、同時に被告サーバにパソコンを接続させている他の利用者が好みの電子ファイルを選択して、無料でダウンロードできるサービス(以下「本件サービス」という。)を、「ファイルローグ(File Rogue)」の名称で日本向けに提供している(なお、被告エム・エム・オーは、平成14年4月に、本件サービスにおいて、MP3ファイルの内容等を示すファイル情報のうち、本件各管理著作物の題名及びアーティスト名の文字列を含むファイル情報の送信を差し止める旨の仮処分決定が出されたことにより、それ以降現在まで本件サービスの提供を停止している。)。 本件サービスを利用するにはパソコンに本件サービス専用のファイル交換用ソフトウェア(以下「本件クライアントソフト」という。)がインストールされることが必要である。被告エム・エム・オーは、インターネット上に開設しているウェブサイト「http://www.filerogue.net/」(以下「被告サイト」という。)において、不特定多数の利用希望者に対して本件クライアントソフトを配布している。 (2) MP3ファイル MP3(MPEG1(エムペグワン)オーディオレイヤー3(スリー))とは、音声のデジタルデータを圧縮する技術規格の一つである。パソコン等を利用し、音楽CD等の音声データをMP3ファイルに変換することによって、聴覚上の音質の劣化を抑えつつ、データ量を元の10分の1程度に減らすことができるため、音声データをハードディスク上に複製したり、インターネット上で配信する等の行為を、より容易にすることができる。 (3) 本件サービスの利用方法 ア 利用者が本件サービスを利用するためには、まず、パソコンを被告サイトに接続して、本件クライアントソフトをダウンロードし、これをパソコンにインストールすることが必要である。次に、利用者は、任意のユーザーID(ユーザーID)及びパスワードを登録しなければならない。この場合に、利用者は、ユーザーID及びパスワードを任意に設定することができ、利用者の戸籍上の名称や住民票の住所等、本人確認のための情報の入力は要求されない。 イ 本件サービスによって、電子ファイルを送信できるようにしようとする利用者(以下「送信者」という。)は、本件クライアントソフトの追加コマンドを実行することによって、送信を可とする電子ファイルを蔵置するフォルダ(以下「共有フォルダ」という。)を指定し、同フォルダに送信を可とする電子ファイルを蔵置する。本件クライアントソフトをインストールしたパソコンが被告サーバに接続されると、共有フォルダ内の電子ファイルは自動的に他の利用者のパソコンに送信できる状態となる(ただし、接続時に自動的に送信できる状態としない設定も可能である。)。 送信者は、共有フォルダ内に蔵置した電子ファイルのファイル名を付する(利用者は、同ファイル名を自由に付することができ、したがって、電子ファイルの内容と全く対応しないファイル名であっても支障はない。)。 送信者が本件クライアントソフトを起動し、接続ボタンをクリックして被告サーバに接続すると(利用者は、通常、本件クライアントソフトを起動することにより被告サーバに接続する。)、共有フォルダに蔵置した電子ファイルのファイル情報(ファイル名、フォルダ名、ファイルサイズ及びユーザーID)並びにIPアドレス及びポート番号(インターネットに接続する際に、プロバイダから割り当てられる番号)に関する情報(以下これらの情報を総称して「送信者情報」という場合がある。)が被告サーバに送信される。 ウ 電子ファイルの受信を希望する利用者(以下「受信者」という。)は、本件クライアントソフトを起動して被告サーバに接続し、キーワードとファイル形式によって、被告サーバに対して、希望する電子ファイルの検索の指示を送信すると、被告サーバから、被告サーバに接続している他の利用者のパソコンの共有フォルダ内の上記指示に沿った電子ファイルに関する情報(ファイル名、ファイルパス名、ユーザーID、IPアドレス及びポート番号等)が送信される。 受信者は、上記の電子ファイルに関する情報の中から取得したいファイルを選択し、「ダウンロード」ボタンをクリックすると、保存先のフォルダを表示する画面が表示され、同画面上の「保存」をクリックすると、その電子ファイルを蔵置しているパソコンから自動的に当該ファイルが送信され、保存先として設定した受信者のパソコン内のフォルダに自動的に複製される。なお、保存先のフォルダは、既定の状態では共有フォルダとなっている。 エ 被告サーバは、被告サーバに接続している送信者のパソコンから送信された送信者情報を基に、現時点でダウンロード可能な電子ファイルに関するデータベースを作成する。 受信者からの検索指示が送信されると、上記ファイル情報等を用いて検索処理をし、被告サーバに接続している利用者の共有フォルダ内から上記指示に合致したファイル名を検出し、検出したすべての電子ファイルに関する情報(ファイル名、ファイルパス名、ユーザーID、IPアドレス及びポート番号等)を検索指示をした受信者のパソコンに送信する。 オ 被告サイトでは、本件サービスの利用方法についての説明が記載され、また、同説明では疑問が解消しない場合の問い合わせ先としてのメールアドレスも記載されていた(甲7)。 (4) 本件サービスの特徴 本件サービスは、MP3ファイルのみを送受信の対象とするものではなく、音声、動画、画像、文書、プログラムなどの多様な電子ファイルを交換することのできる汎用的なものである。 本件サービスにおいて、被告サーバには、電子ファイルのファイル情報等のみが送られ、交換の対象となる電子ファイル自体は利用者のパソコン内に蔵置され、被告サーバに送信されることはない。ファイル送信の指示及び電子ファイル自体の送信は、受信者と送信者のパソコンの間で直接行われる。しかし、利用者同士の間でこのような送受信が可能となるのは、本件サービスが、利用者のインターネット上の所在(IPアドレス及びポート番号)を把握し、これに基づいて、本件クライアントソフトが、インターネットを介して受信者と送信者のパソコンを直接接続するサービスを提供しているからである。 このようなシステムのため、被告エム・エム・オーにおいても、個別にダウンロードして再生しない限り、被告サーバに送信されたファイル情報によって示されている電子ファイルの内容を知ることはできない。 (5) 利用者が権利侵害をした場合の被告エム・エム・オーの措置 本件サービスにおいては、利用者は、パソコンの画面上で、著作権等を侵害するファイルを送信可能な状態としないことなどを内容とする利用規約に同意する旨のボタンをクリックしない限り、本件クライアントソフトをダウンロードすることができない仕組みとされている。 被告エム・エム・オーの利用規約によれば、著作権等の権利を侵害するファイルを送信可能化することを禁止すること、送信可能な状態に置かれたファイルにより権利が侵害されたと主張する者から、当該ファイル公開の停止(共有の解消)を求められたときは、利用者は「ノーティス・アンド・テイクダウン手続規約」に従うべきことが規定されている(甲5)。 しかし、現在のところ、被告エム・エム・オーは、送信可能化状態にされたMP3ファイルの中から、著作権、著作隣接権侵害に当たるものを選別したり、そのファイル情報の送信を遮断するなどの技術を有しているわけではない。 (6) 本件サービスの運営状況 社団法人日本レコード協会(以下「日本レコード協会」という。)が、平成13年11月1日から平成14年1月23日までの間の毎平日の午後5時前後(ただし、平成13年11月2日ないし6日、同月16日ないし24日においては、午前10時から午後10時までの間で午後5時に最も近い時刻)に行った調査によれば、被告サーバに接続しているパソコンの共有フォルダに蔵置されている電子ファイルの数は、各調査時点の平均で54万弱であるが、そのうちMP3ファイルは平均約8万で全体の約15パーセントを占める(なお、この数字は公開中の電子ファイルの数であり、実際に交換された電子ファイルの数ではない。)。また、平成13年12月3日の時点で、被告サーバに登録された利用者数は約4万2000人に達していたが(甲9)、前記調査によれば、各調査時点で同時に被告サーバに接続している利用者数は平均約340人であった。(甲16) 前記のとおり、MP3ファイルのファイル名は自由に付けることができる。被告サーバにおいて公開されたMP3ファイルの場合、そのファイル名又はフォルダ名に、市販のレコードの実演家名、楽曲名又はアルバムタイトルに一致すると推測される文字列を含むものが数多く存在する。また、日本レコード協会が平成13年12月6日午後3時から午後5時までの間に、本件サービスにおいて検索した3万600個のMP3ファイルの中から無作為に抽出した306個のMP3ファイルについて調査したところ、同協会及び原告の職員(合計6名)が、そのファイル名及びフォルダ名に照らし判断した結果、一部に特定のレコードと結びつけることのできないものも存在したが、96.7パーセントに当たる296個が市販のレコードを複製したものであると判断された(甲17)。 本件サービスの利用は無料であるが、被告エム・エム・オーは、被告サイトの画面上に表示される広告から、若干の広告料収入を得ている(甲8)。 (7) 本件各管理著作物の複製 原告は、平成14年1月25日午前9時26分、被告サーバに接続して、本件サービスにおいて送信可能化されているMP3ファイルを無作為に抽出して、そのファイル名を確認したところ、確認した51個のMP3ファイルのすべてが原告の管理著作物を複製したレコードの複製物であることが推測された。また、原告は、同月26日午後1時16分、同日午後2時33分にも、上記と同様の調査をしたところ、確認した153個のMP3ファイルのうち98.7パーセントに当たる151個が原告の管理著作物を複製したレコードの複製物であることが推測された。(甲6) 原告は、平成14年3月1日午前9時44分、被告サーバに接続して、本件サービスにおいて送信可能化されているMP3ファイルを無作為に抽出してダウンロードした上、それを再生するという方法で、当該MP3ファイルが原告が管理している著作物の複製物であるかを確認した。その結果、ダウンロードに成功した26曲のうち、25曲が原告が管理している音楽著作物を複製したレコードをMP3形式で複製した電子ファイルであり、そのうち18曲が、本件各管理著作物を複製したレコードをMP3形式で複製した電子ファイルであることが確認された(甲20)。 (8) 原告と被告エム・エム・オーとの事前交渉等 原告は、平成13年12月14日、被告エム・エム・オーに対し、本件サービスによるファイル交換が原告の有する著作権を侵害するものであるから、直ちに著作権侵害の解消及び発生防止の措置を講ずるよう通知した(その際、原告が管理する著作物の一部を抜粋して収録したCD−Rを同封した。甲12の1、2)。これに対し、被告エム・エム・オーは、同月18日、原告に対し、被告エム・エム・オーの行為は情報交換のためのインフラの整備、提供であること、本件サービスが他人の権利を侵害するような情報の流通に利用されることを完全に防止できるとまではいえない状況にあっても、まず、情報交換のインフラを整備、提供することこそが重要であると考えていること、原告が要請するファイル交換の遮断措置を講じるためには、レコード会社名、曲名、アーティスト名を入力すれば、当該音楽著作物を演奏したものを収録した音楽CDをMP3形式に複製したファイルを自動的に検出するというような技術が不可欠であるが、被告エム・エム・オーはそのような技術が存在することは知らないこと、被告エム・エム・オーはノーティス・アンド・テイクダウン手続を用意しているので、原告も上記手続を利用すべきことなどを回答した(甲13)。 2 中間判決における争点 (1) 被告エム・エム・オーは、本件各管理著作物について原告の有する著作権を侵害しているといえるか。 (2) 原告の被告らに対する著作権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求は理由があるか。 3 争点についての当事者の主張 (1) 争点(1)(被告エム・エム・オーは、原告の有する著作権を侵害するか)について (原告の主張) ア 利用者の著作権侵害の成否 (ア) 送信者の複製行為と複製権侵害の成否 本件各管理著作物を複製したレコードをMP3形式で複製した電子ファイル(以下「本件各MP3ファイル」という。)をパソコンの共有フォルダに蔵置することは、本件各管理著作物をパソコンのハードディスク等の記憶媒体に複製(著作権法2条1項15号、以下、同法を「法」という場合がある。)する行為に該当する。 そして、仮に本件各MP3ファイルが複製された当初は私的使用の目的(法30条1項)でされたものであっても、それを共有フォルダに蔵置して被告サーバに接続すれば、不特定多数の者に対して送信可能な状態にするので、「公衆に提示」(法49条1項1号)したことになる。 したがって、送信者が本件各MP3ファイルをパソコンの共有フォルダに蔵置すること、及び共有フォルダに本件各MP3ファイルを蔵置した状態で被告サーバにパソコンを接続させることは、原告の有する複製権を侵害する。 (イ) 送信者の自動公衆送信行為及び送信可能化行為と自動公衆送信権及び送信可能化権侵害の成否 a 本件サービスは、誰でも、自由に設定したID、パスワード及びメールアドレス(虚偽のものでも受理される。)のみを入力することで直ちに利用可能となるから、本件サービスにより電子ファイルの送信を受ける者は「不特定人」である。そして、本件サービスの利用者は平成13年12月3日の時点で既に4万2000人に及び、被告サーバに接続中のパソコンも常時数百に及ぶから、電子ファイルの受信者は「多数」である。したがって、本件サービスにより電子ファイルをダウンロードする者は「公衆」(法2条5項参照)に該当する。 そして、本件サービスは上記の公衆の求めに応じてインターネット経由で自動的に電子ファイルを送信するものであるから、法2条1項9号の4の「自動公衆送信」に当たる。 したがって、本件サービスにおける送信者の行為は、原告の有する自動公衆送信権を侵害する。 b 本件サービスにおいては、本件クライアントソフトを起動させた利用者のパソコンを被告サーバに接続すると、被告サーバが送信側パソコンの共有フォルダ内に蔵置されている電子ファイルのタイトル等の情報を自動的に吸い上げて、送信用の電子ファイルのインデックスを作成する。そして、受信側パソコンからの検索要求があると、被告サーバは、作成したインデックスの中から検索条件に合致した電子ファイルの情報を受信側パソコンに送信し、受信側パソコンの画面に表示させる。そして、画面に表示されたファイル情報の中から受信側パソコンが任意のファイル情報を選択すると、利用者のパソコン間で接続が確立され、自動的に電子ファイルの送受信が行われる仕組みになっている。 すなわち、本件サービスにおいては、送信側パソコンにおいて共有フォルダ内に送信用電子ファイルを蔵置する行為と、そのファイル情報を取得した被告サーバが当該ファイル情報のインデックスを作成して他の利用者のパソコンの検索に供する行為とが相まって、送信側パソコンと被告サーバとが一体となった「自動公衆送信装置」(法2条1項9号の5のイ)を構成することになり、この共同行為によって、共有フォルダ内の電子ファイルが、公衆からの求めに応じて自動的に公衆送信し得る状態になるのである。 したがって、本件サービスにおける送信者の行為は、原告の有する送信可能化権を侵害する。 (ウ) 受信者の複製行為と複製権侵害の成否 本件サービスによって他の利用者のパソコンからダウンロードされた電子ファイルは、受信側パソコンに自動的に蔵置(複製)される。既定の状態では受信側パソコンの共有フォルダ内に蔵置(複製)された上、さらに再送信可能な状態に置かれるから、そこに電子ファイルを蔵置することは、私的使用には該当しない。 イ 被告エム・エム・オーの本件サービス提供行為と著作権侵害の成否 以下の理由により、被告エム・エム・オーは、本件各管理著作物についての前記著作権の侵害行為の主体であると解すべきである。 (ア) 本件著作権侵害を構成する電子ファイルの送信及び受信側パソコンにおける複製は、被告エム・エム・オーが用意し手筈を整えた手段及び便宜を利用してのみ可能となるものである。すなわち、被告サーバは、これに接続中のパソコンの共有フォルダ内に蔵置された電子ファイルの情報をすべて入手し、これを独占的に管理してダウンロードが可能な電子ファイルを利用者に検索させ、その中から利用者が入手を希望する電子ファイルの所在情報等を受信者のパソコンに伝達するなどして利用者のパソコン間で電子ファイルを直接自動的に送受信させるとともに受信側パソコンに複製させている。これらはすべて被告エム・エム・オーが配布した本件クライアントソフトと被告エム・エム・オーが運営する被告サーバとを連携させることによって初めて可能になるものである。 そして、本件サービスにおいては、被告エム・エム・オーが運営する被告サーバと利用者のパソコンとが一体となって自動公衆送信装置を構成するのであるから、本件サービスによる本件各管理著作物の自動公衆送信及び送信可能化並びに受信側パソコンにおける複製は、被告エム・エム・オーと各利用者との共同行為というべきである。 したがって、本件著作権侵害は、被告エム・エム・オーが運営する本件サービスの提供によって初めて惹起されるものであり、被告エム・エム・オーは、本件著作権侵害に不可欠の道具を提供するばかりか、本件著作権侵害行為を自ら行っているとみるべきである。 (イ) 本件サービスにおいてMP3ファイルの交換が行われれば、原告の著作権を侵害する結果を惹起することは必然であるところ、本件サービスにおいては、極めて多数のMP3ファイルが交換されることが予定されている。 被告エム・エム・オーは本件クライアントソフトを不特定多数の者に無料で配布した上で、電子ファイルを交換しようとする者の匿名性を保証した形で本件サービスを提供しているのであるから、本件サービスの提供行為は、利用者に対してMP3ファイルの交換による著作権侵害を行うことを強く慫慂するものであって、著作権侵害の結果を惹起することを織り込んだものというべきである。 (ウ) 本件サービスによって違法に複製され、送信可能化されているMP3ファイルの数は上記数万件から十数万件に及んでおり、本件著作権侵害による原告の損害は極めて莫大である。 (エ) 本件著作権侵害の被害者である著作権者が本件サービスによって送信可能化された電子ファイルを自己のパソコンに蔵置している利用者を特定することは不可能である。すなわち、被告エム・エム・オーは、利用者のために匿名性を保証し、それらの者が著作権侵害を行っても民事責任の追及を受けないような仕組みを作り上げた上で、不特定多数人に管理著作物の複製及び公衆送信を行わせている。 しかも、本件サービスにおいて検索が可能なのは、検索した時点で被告サーバに接続されている利用者のパソコンに蔵置された電子ファイルだけであり、現に接続されていない利用者のパソコンに蔵置されている無断複製物のMP3ファイルを著作権者が探知することは不可能である。本件サービスの提供によって日々刻々と大量に発生する著作権侵害のすべてを把握し、その結果を防止できるのは、本件サービスの全体を管理・運営する被告エム・エム・オーだけである。 したがって、本件著作権侵害を防止するためには、被告エム・エム・オーにおいて管理著作物の違法な送信及び複製を防止する措置を採るほかに有効な手段はない。 また、本件サービスによる著作権侵害の結果を防止するためには、被告エム・エム・オーに侵害結果防止措置を採らせることが適切である。 (オ) 被告エム・エム・オーは、インターネット広告代理店会社のバリューコマース株式会社外1社と契約し、本件サービスの画面にバナー広告等を表示することにより広告収入を得ており、これは本件著作権侵害行為による利益に当たる。 また、被告エム・エム・オーは、将来本件サービスの有料化を予定しており、本件サービスの利用者の増加は被告エム・エム・オーの将来の経済的利益に直結しているところ、本件サービスにより送信可能化される本件各管理著作物が増加すれば、それだけ本件サービスの利用者が増大することになるから、被告エム・エム・オーは本件著作権侵害行為により経済的利益を得ているというべきである。 (被告エム・エム・オーの反論) ア 利用者の著作権侵害の成否 (ア) 送信者の複製行為と複製権侵害の成否 以下のとおりの理由から、送信者が本件各MP3ファイルをパソコンの共有フォルダに蔵置すること、及び共有フォルダに本件各MP3ファイルを蔵置した状態で被告サーバにパソコンを接続させることは、原告の有する複製権を侵害しない。 a 自己のパソコンにインストールされているMP3プレイヤーで聴くために、本件各MP3ファイルを保存する行為自体は、法30条1項により、著作権者の許諾を得る必要はなく、そもそも適法な行為である。 b また、法49条1項1号は、私的利用目的で作成した複製物「によって」レコードに係る音等を公衆に提示した場合に、複製を行ったものとみなすと規定する。同条項が適用されるためには、「レコードに係る音等」が、私的利用目的で作成した複製物自体によって、公衆に提示される必要がある。しかし、受信側パソコンに提示される音は、送信者が私的利用目的で作成した複製物により提示されるのではなく、受信者が私的利用目的で作成した複製物により提示されるものである。したがって、私的利用目的で作成したMP3形式の音楽ファイルを共有フォルダに蔵置したまま被告サーバに接続をしても、法49条1項1号のみなし複製規定の適用を受けることはないというべきである。 (イ) 送信者の自動公衆送信行為及び送信可能化行為と自動公衆送信権及び送信可能化権侵害の成否 本件クライアントソフトには、自己の共有フォルダにアクセス可能な人数を制限する機能、及び特定のID名を名乗る利用者を優先する機能があり、この二つの機能により、特定かつ少数の利用者に対してのみ電子ファイルのダウンロードを許可することができる。 ところで、公衆送信は、「公衆によって直接受信されることを目的として」されることが必要であるが、自動公衆送信も公衆送信の一類型である以上「公衆によって直接受信されることを目的として」される必要がある。また、所定の方法により「自動公衆送信しうること」と定義された送信可能化も「公衆によって直接受信されることを目的として」されることが必要である。 したがって、特定のユーザーにダウンロードさせることを目的として特定の電子ファイルを共有フォルダに蔵置した場合には、自動公衆送信、送信可能化に該当しない。 (ウ) 受信者の複製行為と複製権侵害の成否 受信者が個人的に又は家庭内その他限定的な範囲内で使用する目的で電子ファイルをダウンロードするのであれば、法30条1項により適法とされる私的使用目的の複製となる。 イ 被告エム・エム・オーの著作権侵害の成否 (ア) ある著作物が送信可能化されて自動公衆送信が行われる過程で、当該送信を仲介する通信設備において形式上法2条1項9号の5イに該当する現象が生ずることがあり得るが、この場合、その通信施設を単に設置、管理、運営する者については、単に設備の運営等を行っているにすぎないと解される限りにおいては、当該著作物等について送信可能化に関する責任を問われるものではないと解される。同様に、いわゆるインターネット・プロバイダーなど、自動公衆送信装置の設置、管理、運営等を行う者については、情報の記録やネットワークへの接続等を単純に依頼を受けて機械的に行うだけであれば、通常、自ら著作物等を送信可能化しようとするための行為とは考えられないことから、その場合は、自ら主体的に送信可能化を行ったものとして責任を問われるものではないのみならず、教唆者又は幇助者としても責任を問われるものではないと解すべきである。 (イ) 最判昭和63年3月15日民集42巻3号199頁(以下「キャッツアイ事件最高裁判決」という。)の法理は、十数年前のカラオケをめぐる複雑な事態に対応するためにやむなく導入された苦肉の策というべきものであり、当初から学説による批判も強く、少なくとも理論的に見る限り特殊な法理といわざるを得ない。また、著作権法は、侵害行為に使用する物やサービスを提供する行為を侵害とみなす規定を有しておらず、それにもかかわらず、物理的な送信可能化行為等を行っていない者をたやすく差止請求に服させることは、第三者の予測可能性を害するおそれがある。したがって、キャッツアイ事件最高裁判決の「管理性」、「図利性」の要件を拡張して解釈すべきではない。 そして、キャッツアイ事件最高裁判決の規範的利用主体の法理によっても、後記(ウ)のとおり、本件サービスの利用者による自動公衆送信及び送信可能化行為が被告エム・エム・オーの管理の下で行われているということはできないこと、被告エム・エム・オーは、本件サービスの運営により利益を上げる意図を有していないことから、被告エム・エム・オーを、送信可能化行為及び自動公衆送信行為の主体と同視することはできない。 (ウ) 本件訴訟を本案とする仮処分命令申立事件(当庁平成14年(ヨ)第22010号事件、以下「本件仮処分事件」という。)において、保全裁判所は、被告エム・エム・オーは、本件各管理著作物の自動公衆送信及び送信可能化を行っているものと評価できるとして、仮処分の申立てを認容した(以下「本件仮処分決定」という。)が、以下のとおり、本件仮処分決定の判断は誤っている。 a 「本件サービスの内容・性質」について (a) 本件仮処分決定は、「本件サービスを利用すれば、市販のレコードとほぼ同一の内容のMP3ファイルを無料で、しかも容易に取得できるのであるから、市販のレコードを安価に取得したいと希望する者にとって、本件サービスは極めて魅力的である」とする。 しかし、市販の音楽CDに記録されている音楽情報をMP3形式に変換する際には音質は不可避的に劣化するから、市販のレコードとほぼ同一内容のものを取得することはできず、したがって、本件サービスを利用してMP3ファイルを受信しようとする者は、音質にこだわらずに、特定の市販のレコードに収録された楽曲を受信しようという者である。ところが、本件サービスにおいては、被告サーバに同時に接続できる人数が極めて限られているから、上記の者が目的とする楽曲を受信することができない。したがって、本件サービスの魅力は小さい。 また、市販のレコードをMP3形式に複製した電子ファイルを共有フォルダに蔵置して送信可能化した場合、その行為をした者は権利者により把握され得るのであるから、そのようなことをする者は多くはない。 (b) 本件仮処分決定は、「現時点においては、自己が著作した音楽等の電子ファイルを不特定多数の者に無料で提供したり、他の不特定の者が著作した音楽等の電子ファイルを取得したいと希望する者は比較的少ないものと推測される」とする。 しかし、そのように推測する根拠は示されていない。インターネット上では、多くの市民が、自己が著作した作品を不特定多数の者に無料で提供しており、また、多くの市民が他の不特定の者が著作した作品を取得したいと希望し、実際に取得している。 (c) 本件仮処分決定は、「仮に、そのような音楽等の電子ファイルの取得を希望する者がいたとしても、本件サービスにおける検索機能は、希望する作品の所在を正確に確認するには不十分であり、結局、本件サービスはそのような作品の電子ファイルを交換するためには有効に機能しないものと解される」とする。 しかし、作品をダウンロードする段階では対価を支払う必要がないという環境の下では、まず、ダウンロードし、試用してみるということが可能である。すなわち、あらかじめ特定の作品を希望して入手するのではなく、不特定の作品をまず入手して、試用してから、自分にとって気に入るかどうかの判断をするということが可能なのである。 (d) 本件仮処分決定は、「本件サービスにおいて送受信されるMP3ファイルのほとんどが違法コピーに係るものとなることは避けられないものと予想され、被告エム・エム・オーとしても本件サービスの開始当時から上記事態に至ることを十分予想していたものと認められる」とする。 しかし、原告、日本レコード協会、マスコミ各社の煽りがなければ、本件サービスにおいて送受信されるMP3ファイルのほとんどが違法コピーに係るものになるとまでは至らなかった可能性が十分あったのであり、被告エム・エム・オーとしては、ノーティス・アンド・テイクダウン方式を採用するなどして毅然とした対応をすることにより、違法コピーを送受信したいユーザーはあまり本件サービスを利用しないだろうと予測していた。 (e) 本件仮処分決定は、「本件サービスは、MP3ファイルの交換に関する部分については、利用者に市販のレコードを複製したMP3ファイルを交換させるためのサービスであるということができる」とする。 しかし、本件サービスは、MP3ファイルの交換に関する部分とそれ以外の電子ファイルの交換に関する部分とが分かれているわけではない。本件サービスにとって、あらゆる電子ファイルは等価なのである。汎用的なサービスのうち違法な利用がされる割合が高い部分をことさら取り出して観察すれば、その部分については違法な利用がされる割合が高いというのは一種のトートロジーである。サービス全体のうちのごく一部分のみを取り出して当該部分の実際の利用状況を観察し、そこからサービスの性質等を推認するという手法が許されるためには、最低限、サービスの提供者が当該部分を他のサービスとは異なる取扱いをしていることが必要である。しかし、被告エム・エム・オーは、本件サービスを提供するに当たってMP3ファイルに関して何ら特別な取扱いをしていない(そもそも、特別な取扱いをすることができない。)。 したがって、本件サービスのうちMP3ファイルの交換に関する部分を取り出して、この部分について違法な利用がされている割合が高いとして、本件サービス全体の性質を判断することは不当である。 b 「管理性」について (a) 利用者による送信可能化及び自動公衆送信を、著作権法上の規律の観点から、被告エム・エム・オーによる送信可能化行為及び自動公衆送信行為と同視して、被告エム・エム・オーをして上記各行為の主体とするための要件としての「管理性」を認めるためには、何をもって利用者による自動公衆送信行為及び送信可能化行為の対象とし、何をもってその対象から外すかを被告エム・エム・オーが決定していると認められることが最低限必要である。何を自動公衆送信の対象とし、何を自動公衆送信の対象から除外するかを自ら決定できない者を自動公衆送信及び送信可能化の主体と認定しても、同人は、自動公衆送信及び送信可能化の対象から除外するように自動公衆送信権者及び送信可能化権者から求められた著作物に限定して対象から外すことができない。 クラブキャッツアイ事件最高裁判決においても、客が歌唱する楽曲の選択が、カラオケスナック経営者が備え置いたカラオケテープの範囲内でされていることが、管理性の判断の中に取り込まれている。 ところが、本件サービスにおいて、各利用者が自己のパソコンを被告サーバに接続するに当たって、そのパソコンの共有フォルダにいかなる電子ファイルを蔵置するかを選択、決定するのは、各利用者であって被告エム・エム・オーではない。また、いかなる楽曲を自動公衆送信の対象とするかを決定するのは各利用者であって被告エム・エム・オーではない。したがって、各利用者による送信可能化行為及び自動公衆送信行為が被告エム・エム・オーの管理下で行われたとはいえない。 この点、本件仮処分決定は、「受信者が受信可能な電子ファイルは、被告サーバに接続しているパソコンの共有フォルダ内に蔵置されているものに限られている」と判示している。しかし、本件で問題となるのは送信者による送信可能化ないし自動公衆送信を被告エム・エム・オーが管理しているか否かであって、受信者による受信の対象が被告エム・エム・オーの管理下に置かれているか否かではない。また、そもそも、被告サーバに接続しているパソコンの共有フォルダ内にどのような電子ファイルが蔵置されているかを被告エム・エム・オーは全くコントロールしていない以上、どのような電子ファイルを受信者に受信させるか否かについてもコントロールしていない。したがって、本件仮処分決定が摘示した上記事実は、「利用者の送信可能化及び自動公衆送信が被告エム・エム・オーの管理の下に行われた」という評価を何ら基礎付けるものではない。 (b) 本件仮処分決定は、被告エム・エム・オーに管理性を認めた根拠として、「a 利用者が本件サービスを利用して、電子ファイルを自動公衆送信するには、被告サイトから本件クライアントソフトをダウンロードして、これを自己のパソコンにインストールすることが必要不可欠であること」、「b 利用者は、パソコンを被告サーバに接続させることが必要不可欠であるが、同接続は、通常、本件クライアントソフトを起動することによりしていること」、「c 自動公衆送信の相手方も、パソコンに本件クライアントソフトをインストールし、そのパソコンを被告サーバに接続することが必要不可欠であること」、「d 送信者が自動公衆送信をするのは、受信者が希望する電子ファイルを検索して、その電子ファイルの蔵置されているパソコンの所在及び内容を確認できることを前提としているが、これに必要な一切の機会は被告エム・エム・オーが提供しており、送信者の自動公衆送信を可能とすることについて、被告サーバが必要不可欠であること」、「e 本件サービスにおいては、受信者は、希望する電子ファイルの所在を確認した場合、本件クライアントソフトの画面上の簡単な操作によって、希望する電子ファイルを受信することができるようになっており(その際、受信者は、送信者のIPアドレス及びポート番号を認識する必要はない。)、受信者のための利便性、環境整備が図られていること」を掲げる。しかし、これらの事項はクラブキャッツアイ事件最高裁判決が管理性を認定するに当たって摘示したどの要素とも共通性を有しない事項である。また、上記各事項が認められたとしても、被告エム・エム・オーが自ら送信可能化ないし自動公衆送信を行ったものと同視されるということにはならない。上記aないしdの事項は、結局、被告エム・エム・オーが閉鎖型の情報通信システムを構築しているということを意味しているにすぎないところ、閉鎖型情報通信システムを構築してることが当該通信システムを利用してされる情報流通を管理しているとはいえない。また、被告サーバに接続して本件サービスを利用するためのクライアントソフトが一つしかないか複数存するかによって、又は、被告サーバと同様のシステムを用いたサーバが一つしかないか複数存するかという、被告エム・エム・オーも利用者も与り知らない事情によって、利用者の送信可能化ないし自動公衆送信が被告エム・エム・オーの管理の下にされたか否かが決まるということは不合理である。 (c) 本件仮処分決定は、「被告エム・エム・オーは、本件サービスの利用方法について、自己の開設したウェブサイト上で説明をし、ほとんどの利用者が同説明を参考にして、本件サービスを利用している」とする。 しかし、クラブキャッツアイ事件最高裁判決は、客による歌唱がスナックの従業員による操作を通じてされたことを管理性を認める根拠としていたのであり、被告エム・エム・オーが本件サービスの利用方法を説明するウェブサイトを開設したことは、これとは関与の度合いが大きく異なるのであるから、上記事実は被告エム・エム・オーの管理性を認めることの根拠とはならない。 また、本件サービスの利用者は、被告サイト上の説明を参照するよりも、被告エム・エム・オーが関与しないインターネット上の掲示板などで質問をし、その回答を得るという形で本件サービスの利用における技術上の疑問を解消していたようである。 (d) クラブキャッツアイ事件最高裁判決は、店の管理性を認めるためには、利用者による利用行為が、店の物理的に支配、管理する領域内で行われることを当然の前提としており、本件にクラブキャッツアイ事件最高裁判決の法理を適用することはできない。 c 「被告エム・エム・オーの利益」について (a) 利用者に被告サイトに接続させてMP3ファイルの自動公衆送信及び送信可能化をさせることが客観的に被告エム・エム・オーの営業上の利益を増大させる行為と評価することができるとしても、そこから直ちに被告エム・エム・オーも自己の営業上の利益を図っていると認定することはできない。 (b) 本件仮処分決定は、「b 本件サービスの登録者数は4万2000人であり、被告サーバに同時接続している利用者数は平均約340人、そのMP3ファイル数は平均約8万であるところ、上記人数は、将来さらに増加することも予想され、被告サイトは広告媒体としての価値を十分有する」とする。 しかし、被告エム・エム・オーがバナー広告を掲載しているのは被告サイトのみであって、本件クライアントソフトを起動させることによってモニター上に表示されるウインドウ上には何らの広告も表示されない。したがって、利用者は、本件クライアントソフトをダウンロードするために被告サイトにアクセスした際にはバナー広告を目にする可能性はあるが、本件クライアントソフトをダウンロードした後、電子ファイルの送受信をする過程においては、バナー広告を目にすることはない。したがって、被告サイトは広告媒体としての価値は乏しい。 また、被告エム・エム・オーが収受する広告料は、本件サービスを利用しようとする者が本件クライアントソフトをダウンロードすることに関連しているにすぎず、利用者が本件各管理著作物を自動公衆送信することに関連するものではない。 (c) 本件仮処分決定は、「c 被告エム・エム・オーは、本件サービスにおいて、送信者に被告サイトに接続させてMP3ファイルの送信可能化行為をさせているが、同行為はそれ自体、被告サイトへの接続数を増加させる行為であるとともに、受信側パソコンの接続数の増加に寄与する行為でもあるといえるから、被告サイトの広告媒体としての価値を高め、営業上の利益を増大させる行為ということができる」とするが、前記(b)で主張したとおり、被告サーバへの接続数を増大させても被告エム・エム・オーの営業上の利益を増大させることにはならない。 (d) 本件仮処分決定は、「d 現時点では、被告サイト上に掲載した広告による収入は僅かであるが、被告エム・エム・オーは、将来、被告サイトに広告を掲載することによる広告収入の獲得を被告エム・エム・オーの営業に取り入れていく意図を有している」とする。 しかし、被告エム・エム・オーは、そのような意図は有していない。そもそも、ウェブサイトへのバナー広告の掲載による広告料収入をあてにして営業活動を行うというビジネスモデルを今日選択するはずがない。 (e) 本件仮処分決定は、「e 本件サービスにおいては、本件サービスを利用してMP3ファイルを受信しようとする者から受信の対価を徴収するシステムとしていないが、被告エム・エム・オーは、将来、同サービスを利用してMP3ファイルを受信した者から受信の対価を徴収するシステムに変更することを予定している」とする。 しかし、被告エム・エム・オーは、原告や各レコード会社等の権利者との間で包括的な権利許諾が得られ、本件サービスを利用して音楽ファイルの送受信を行っても著作権、著作隣接権の侵害にはならないという環境が整ったときに、本件サービスを有料化することを構想していたのであり、そのような権利処理が整わない段階で有料サービスに切り換えることは全く予定していない。 (2) 争点(2)(被告らの損害賠償責任の有無)について (原告の主張) ア 被告エム・エム・オーの損害賠償責任 (ア) 被告エム・エム・オーは、本件サービスの提供によって本件各管理著作物がMP3ファイル形式で複製され送信可能化されるという著作権侵害が行われることが必然であることを認識した上、同著作権侵害行為の発生を認容しつつ、むしろそれが活発に行われることによって本件サービスの利用が拡大されることを営業目的として意図していることは明らかである。 (イ) また、被告エム・エム・オーは、本件サービスを不特定多数の者に提供し始めた当初から、本件サービスを利用して送受信及び複製が行われるMP3ファイルの大多数が管理著作物の複製物であることを知悉していたのであるから、本件サービスの提供が管理著作物の著作権侵害を引き起こすことを現に予見し、予見し得たことは明らかである。そして、被告エム・エム・オーは、著作権侵害の結果を回避することも可能であった。 したがって、被告エム・エム・オーは、本件サービスの提供に当たり、少なくとも管理著作物の複製物であるMP3ファイルを本件サービスによる送受信から除外する措置を採って著作権侵害を防止すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠ったのである。 (ウ) 被告らは、被告エム・エム・オーは、いかなる著作物が本件サービスにおいて送信可能化されるのか具体的には認識していなかったから故意は認められない旨主張する。 しかし、故意が認められるには、違法行為によって特定の人に損害が生ずることを認識する必要はなく、何人かに損害が生ずることを認識していれば足りるのであるから、被告らの上記主張は失当である。 (エ) 被告らは、被告エム・エム・オーは、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(以下「プロバイダ責任法」という。)に規定されている特定電気通信役務提供者に該当し、同法3条1項による免責を受ける旨主張する。 しかし、プロバイダ責任法は、平成14年5月27日に施行された法律であるところ、被告エム・エム・オーは、同法の施行以前の段階において本件サービスの提供を一時的に停止したのであるから、同法は、本件に適用される余地はない。 また、被告エム・エム・オーは、同法3条1項ただし書きの「情報の発信者」に該当するから同法の免責を受けることはできない。 (オ) したがって、被告エム・エム・オーは、本件サービスの提供により原告が被った損害を賠償すべき責任がある。 イ 被告Aの損害賠償責任 (ア) 被告Aは、被告エム・エム・オーの代表者として、被告エム・エム・オーによる本件サービスの提供業務を管理支配し、業務を執行している者であり、法令を遵守して業務執行をする義務があるところ、悪意又は重過失によりこれを怠り、著作権法に違反して原告の著作権を侵害した。 したがって、被告Aは、上記侵害行為によって原告が被った損害につき、有限会社法30条の3第1項により、被告エム・エム・オーと連帯して賠償すべき責任がある。 (イ) また、被告Aは、被告エム・エム・オーの唯一の取締役であり、現実に被告エム・エム・オーの行為はすべて被告Aのみの意思に基づき行われていることからすれば、被告Aは、故意又は過失により原告の著作権を侵害し、これによって原告に損害を与えているというべきである。 したがって、被告Aは、上記侵害行為によって原告が被った損害につき、民法709条により、被告エム・エム・オーと連帯して賠償すべき責任がある。 (被告らの反論) (1) 被告エム・エム・オーの損害賠償責任 ア プロバイダ責任法による免責 (ア) 原告は、不特定の者によって受信されることを目的とする特定の電子ファイルの送信(=特定電気通信)による情報の流通により、その権利(本件各管理著作物に対する自動公衆送信権及び送信可能化権)を侵害されたとして、上記特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者である被告エム・エム・オーに対し、上記特定電気通信により原告に生じた損害の賠償を求める。したがって、被告エム・エム・オーが原告に対し損害賠償責任を負うためには、プロバイダ責任法3条1項所定の各要件を充足する必要があるが、以下のとおり、各要件を充足していない。 (イ) まず、「権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能な場合」であることが損害賠償責任を負うための要件となるが、本件サービスにおいては、権利を侵害した情報を不特定人に送信することを防止することは不可能である。 (ウ) 次に、「特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていた(か)、知ることができたと認めるに足る相当の理由がある」ことが要件となる。 被告エム・エム・オーは、本件サービスを利用してどのような情報が不特定人に送信されているのかを全く認識していなかった。また、被告エム・エム・オーは、原告から、本件サービスを利用して送受信されるMP3ファイルのほとんどが原告の著作権を侵害するとして、本件サービスの利用者による不特定人への同ファイルの送信を防止するよう求められたが、当初は、原告から同要求の根拠を何ら示されず、後になっても、大部分の電子ファイルについては、それが原告の著作権を侵害するものであると認識するに足りる根拠を示されなかった。このような場合は、他人の権利を侵害していることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があったということはできない。 (エ) 原告は、被告エム・エム・オーは、プロバイダ責任法の施行以前の段階において本件サービスの提供を一時的に停止したのであるから、同法は、本件に適用される余地はない旨主張する。 しかし、プロバイダ責任法の立法趣旨に鑑みれば、同法3条1項の免責規定に関する限り、施行日前に遡って適用されることは明らかである。 (オ) また、原告は、被告エム・エム・オーは、プロバイダ責任法3条1項ただし書きの「情報の発信者」に該当するから、同法3条1項による免責を受けることができない旨主張する。 しかし、プロバイダ責任法は、基本的に、情報の発信者と、それにより被害を受けたと主張する者と、両者の通信に関与するプロバイダ等(特定電気通信役務提供者)という三当事者を念頭に置き、プロバイダ等と発信者、プロバイダ等と被害主張者の各関係について定める法律であるから、著作権法の規律の観点から送信可能化等の主体と擬制された者をプロバイダ責任法の「発信者」と同視することはできない。 イ 仮に、プロバイダ責任法3条1項の規定が適用されないとしても、以下のとおり、被告エム・エム・オーは損害賠償責任を負わない。 (ア) 被告エム・エム・オーは、本件サービスにおいて第三者の権利を侵害する内容の電子ファイルが送受信され得ることはある程度予測していたが、具体的にいなかる楽曲が送受信されているかは全く認識していない。なお、被告エム・エム・オーは、利用規約を作成し、本件サービスを利用して、第三者の権利を侵害するような電子ファイルを送受信することを禁止していたのであるから、本件サービスにおいて著作権侵害が行われることを意図していたということはあり得ない。 したがって、被告エム・エム・オーには本件著作権侵害について故意はない。 (イ) 市民から市民への大量の情報流通をサポートする業者が、そのサービスの利用者が同サービスを利用して著作権を侵害するなど違法な内容の情報を送信することを阻止する義務を負うためには、その事業者が自ら管理する情報送受信サービスにおいて第三者の権利を侵害する情報が送信されていることを具体的に知っていること、並びに送信される情報が第三者の権利を侵害するものであること、侵害行為の態様が極めて悪質であること及び被害の程度が甚大であることが一見して明白であることが必要である。 ところが、被告エム・エム・オーは、本件サービスにおいて送信される楽曲を具体的には認識していない。また、原告は、具体的にどの電子ファイルが原告の著作権を侵害するのかを指摘しないし、これを示す資料を何ら提供しないのであるから、被告エム・エム・オーが原告の著作権を侵害する疑いのある情報の送信が行われていることを具体的に知っていたとしても、それが原告の権利を侵害するものであることが一見して明らかという訳ではない。したがって、被告エム・エム・オーは、本件サービスにおいて、本件各管理著作物を複製した電子ファイルの送受信を阻止する義務を負わないというべきである。 (2) 被告Aの損害賠償責任 上記(1)で主張したように、被告エム・エム・オーの損害賠償責任が認められないのであるから、被告Aの損害賠償責任も認められない。 また、仮に被告エム・エム・オーの損害賠償責任が認められたとしても、以下の理由により、被告Aの損害賠償責任は認められない。 すなわち、有限会社の取締役は、事業の運営に当たり不可避的に相当程度の不確定要素を含む判断を迫られるのであり、経営上の判断が結果的に適切でなかったとしても、それが事業の特質、判断時の状況等の事情を考慮して、当初から会社に損害を生ずることが明白である場合又はそれと同視すべき重大な判断の誤りがある場合は格別、与えられた経営上の裁量権の範囲内であれば取締役としての任務を懈怠したことにはならないというべきところ、被告Aは、著作権制度審議会の議事要旨やまとめ、プロバイダ責任法の法律案が起草された経緯、公衆送信権についての研究者等による解説、過去の裁判例を踏まえた上で、弁護士のアドバイスのもと、ノーティス・アンド・テイクダウン手続によって違法な電子ファイルの送信を事後的に阻止すれば、その送信を事前に阻止できなくても被告エム・エム・オーが損害賠償責任を負うことはないと判断したのであるから、仮に、本件サービスの提供により被告エム・エム・オーに損害賠償責任が認められたとしても、被告Aには、そのことにつき重大な過失は認められない。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(被告エム・エム・オーは、原告の有する著作権を侵害しているか)について 前記前提となる事実で判示したように、本件サービスの利用者は、被告エム・エム・オーの提供する本件サービスを利用して、MP3形式によって複製され、かつ、送受信可能の状態にされた電子ファイルの存在及び内容等を示すファイル情報を受信者に送信するなどしているが、本件サービスを運営する被告エム・エム・オーの行為が、原告の有する自動公衆送信権及び送信可能化権を侵害するといえるか否かについて判断する。 (1) 利用者の行為と著作権侵害の成否 まず、判断の前提として、送信者が行う複製行為、自動公衆送信行為及び送信可能化行為が、それぞれ、複製権侵害、自動公衆送信権侵害、送信可能化権侵害を構成するかについて検討する。 ア 送信者の行う複製行為と複製権侵害の成否 (ア) 音楽の著作物を演奏し、その演奏を録音した音楽CDは当該音楽の著作物の複製物である(法2条1項15号、同13号)。また、音楽CDをMP3形式へ変換する行為は、聴覚上の音質の劣化を抑えつつ、デジタル信号のデータ量を圧縮するものであり、変換された音楽CDと変換したMP3形式との間には、内容において実質的な同一性が認められるから、レコードの複製行為ということができる。したがって、音楽CDをMP3形式で複製することは、同音楽CDに複製された音楽の著作物の複製行為である。 (イ) 法30条1項は、著作物は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(私的使用)を目的とするときは、使用する者が複製することができる旨を規定している。また、法49条1項1号は、法30条1項に定める目的以外の目的のために、当該レコードに係る音楽の著作物を公衆に提示した者は複製を行った者とみなす旨を規定している。 そうすると、@利用者が、当初から公衆に送信する目的で、音楽CDをMP3形式のファイルへ変換した場合には、法30条1項の規定の解釈から当然に、また、A当初は、私的使用目的で複製した場合であっても、公衆が当該MP3ファイルを受信して音楽を再生できるような状態にした場合には、当該複製物により当該著作物を公衆に提示したものとして、法49条1項1号の規定により、複製権侵害を構成する。 以上のとおり、本件サービスの利用者が、本件各管理著作物の著作権を有する原告の許諾を得ることなく、本件各MP3ファイルをパソコンの共有フォルダに蔵置して同パソコンを被告サーバに接続すれば、複製をした時点での目的の如何に関わりなく、本件各管理著作物について著作権侵害(複製権侵害又はそのみなし侵害のいずれか)を構成する。 イ 送信者の行う自動公衆送信行為及び送信可能化行為と自動公衆送信権侵害及び送信可能化権侵害の成否 (ア) 前記前提となる事実のとおり、本件サービスは、ユーザーID及びパスワードを登録すれば誰でも利用できるものであり、既に4万人以上の者が登録し、平均して同時に約340人もの利用者が被告サーバに接続して電子ファイルの交換を行っている。そして、送信者が、電子ファイルをパソコンの共有フォルダに蔵置して、本件クライアントソフトを起動して被告サーバに接続すると、送信者のパソコンは、被告サーバにパソコンを接続させている受信者からの求めに応じ、自動的に上記電子ファイルを送信し得る状態となる。 したがって、電子ファイルを共有フォルダに蔵置したまま被告サーバに接続して上記状態に至った送信者のパソコンは、被告サーバと一体となって情報の記録された自動公衆送信装置(法2条1項9号の5イ)に当たるということができ、また、その時点で、公衆の用に供されている電気通信回線への接続がされ、当該電子ファイルの送信可能化(同号ロ)がされたものと解することができる。 さらに、上記電子ファイルが受信側パソコンに送信された時点で同電子ファイルの自動公衆送信がされたものと解することができる。 なお、本件各MP3ファイルは、その内容において、本件各管理著作物と実質的に同一であるから、本件各MP3ファイルを送信可能化及び自動公衆送信することは本件各管理著作物を送信可能化及び自動公衆送信することに当たる。 (イ) 以上によれば、本件サービスの利用者が、本件各管理著作物の著作権の管理者である原告の許諾を得ることなく、本件各MP3ファイルをパソコンの共有フォルダに蔵置して被告サーバに接続すれば、本件各管理著作物について、著作権侵害(自動公衆送信権侵害及び送信可能化権侵害)を構成する(法23条1項)。 ウ まとめ 利用者が、本件各管理著作物を複製し、送信可能化をし、又は自動公衆送信するに当たり、原告がこれを許諾した事実がないことは明らかであるから、本件サービスの利用者の前記各行為は、著作権侵害(複製権侵害、自動公衆送信権侵害及び送信可能化権侵害)を構成する。 (2) 被告エム・エム・オーの本件サービス提供行為と著作権侵害(自動公衆送信権及び送信可能化権侵害)の成否 ア 以上認定したとおり、送信者は、本件各MP3ファイルをパソコンの共有フォルダに蔵置し、かつ、その状態で被告サーバにパソコンを接続させているのであり、送信者の上記行為は、原告の有する送信可能化権を侵害し、さらに、受信者が送信側パソコンの共有フォルダに蔵置された本件各MP3ファイルを受信すれば、自動公衆送信権を侵害する。 しかし、被告エム・エム・オー自らは、本件各MP3ファイルをパソコンに蔵置し、その状態でパソコンを被告サーバに接続するという物理的行為をしているわけではない。 そこで、被告エム・エム・オーが、原告の有する送信可能化権及び自動公衆送信権を侵害していると解すべきかを考察することとする。被告エム・エム・オーが、送信可能化権及び自動公衆送信権を侵害していると解すべきか否かについては、@被告エム・エム・オーの行為の内容・性質、A利用者のする送信可能化状態に対する被告エム・エム・オーの管理・支配の程度、B被告エム・エム・オーの行為によって受ける同被告の利益の状況等を総合斟酌して判断すべきである。 イ 本件サービスの内容・性質 (ア) 前記前提となる事実及び弁論の全趣旨によれば、以下のとおりの事実が認められる。すなわち、 a 被告サーバは、@被告サーバに接続している利用者のパソコンの共有フォルダ内の電子ファイルに関するファイル情報を取得し、Aそれらを一つのデータベースとして統合して管理し、B受信者の検索リクエストに応じた形式に加工した上、Cこれを、同時に被告サーバに接続されている他の利用者に対して提供し、D他の利用者が本件クライアントソフトにより、好みの電子ファイルを検索・選択し、画面に表示されたダウンロードボタンをクリックするだけで(送信者のIPアドレスを知る必要もないまま)当該電子ファイルの送信を受けることができるようにしている。このように、ファイル情報の取得等に関するサービスの提供及び電子ファイルをダウンロードする機会の提供その他一切のサービスを、被告エム・エム・オー自らが、直接的かつ主体的に行っている。利用者は、被告エム・エム・オーのこれらの行為によってはじめてパソコンの共有フォルダ内に蔵置した電子ファイルを他の利用者へ送信することができる。 b 本件サービスを利用すれば、市販のレコードとほぼ同一の内容のMP3ファイルを無料で、しかも容易に取得できること、音楽データをMP3形式に変換しても、音質はあまり低下しないことから、市販のレコードを安価に取得したいと希望する者にとって、本件サービスは極めて魅力的である。他方、現時点においては、利用者自らが著作した音楽等のMP3ファイルを不特定多数の者に無料で提供したり、他の不特定の者が著作した音楽等のMP3ファイルを取得したいと希望する者は、市販のレコードをMP3形式で複製した電子ファイルを提供し、又は取得したいと希望する者に比して、かなり少ないものと推測される。仮に、そのような音楽等の電子ファイルの取得を希望する者がいたとしても、本件サービスにおける検索機能は、希望する作品の所在を正確に確認するには不十分であり(本件サービスにける検索機能は、受信者が受信しようとする音楽が特定されていることを前提としているが、市販されているレコードに収録されていない音楽を受信しようとする者はその音楽の実演家、楽曲名等を具体的に把握していないことが多いものと推測され、このように実演家及び楽曲名を把握していない音楽を検索するには、本件サービスの検索機能は機能しない。)、結局、本件サービスはそのような作品の電子ファイルを交換するためには有効に機能しないものと解される。 c 実際にも、前記前提となる事実のとおり、被告サーバが送受信の対象としているMP3ファイルの約96.7パーセントが、市販のレコードを複製した電子ファイルに関するものである。そして、市販のレコードを複製したMP3ファイルのほとんどすべてのものが、その送信可能化及び自動公衆送信について著作権者の許諾を得ていないものであり、本件サービスにおいて送受信されるMP3ファイルのほとんどが違法な複製に係るものであることが明らかである。被告エム・エム・オーは、本件サービスの開始当時から上記事態に至ることを十分予想していたものと認められる(この点、前記前提となる事実のとおり、被告エム・エム・オーは、本件サービスの利用規約において、著作権を侵害する電子ファイルの送信可能化行為を禁止しているが、本件サービスを利用する者の身元確認をしていないのであるから、同規約の実効性が低く、本件全証拠によっても、他に、著作権侵害を防ぐに足る措置を講じていると認めることはできない。)。 d したがって、本件サービスは、MP3ファイルの交換に関する部分については、市販のレコードを複製したMP3ファイルを交換させる機会を与えるため、利用者に提供されたサービスであるということができる。 (イ) 以上のとおり、本件サービスは、MP3ファイルの交換に係る部分については、利用者をして、市販のレコードを複製したMP3ファイルを自動公衆送信及び送信可能化させるためのサービスという性質を有する。 (ウ) この点について、被告らは、本件サービスは、MP3ファイルの交換に関する部分とそれ以外の電子ファイルの交換に関する部分とが峻別されているわけではないから、本件サービスの中からMP3ファイルの交換に関する分野を取り出して、この分野について違法な利用がされている割合が高いとして、本件サービス全体の性質を判断することは相当でない旨主張する。しかし、本件で問題とされており、前記でその性質を判断したのは、本件サービス中のMP3ファイルの交換に関する部分であること、音楽をMP3形式で圧縮することによるインターネット上での流通の増大の可能性及びインターネット上におけるMP3形式で圧縮された音楽の流通の現状を考慮すると、送受信の対象となる電子ファイルがMP3ファイルである場合、他の電子ファイルの場合に比して音楽についての著作権侵害発生の可能性が格段に高くなるものと推測されることに照らすならば、本件サービスのうち、MP3ファイルの交換に関する部分についての性質を判断することには合理性があるというべきであるから、この点の被告らの主張は失当である。 ウ 管理性等 (ア) 前記前提となる事実及び弁論の全趣旨によれば、以下のとおりの事実が認められる。すなわち、 a 利用者が本件サービスを利用して、電子ファイルを自動公衆送信するには、被告サイトから本件クライアントソフトをダウンロードして、これを自己のパソコンにインストールすることが必要不可欠である。 b 利用者は、パソコンを被告サーバに接続させることが必要不可欠であるが、この接続は、通常、本件クライアントソフトを起動することにより行う。 c 自動公衆送信の相手方も、パソコンに本件クライアントソフトをインストールし、そのパソコンを被告サーバに接続することが必要不可欠である。 d 本件サービスにおいては、受信者は希望する電子ファイルを検索して、その電子ファイルの蔵置されているパソコンの所在及び内容を確認できるようになっており、この検索機能がなければ、受信者が、本件サービスを利用して電子ファイルを受信することは事実上不可能である。送信者が本件サービスにおいて電子ファイルを自動公衆送信するのは、このような検索により、受信する者が存在することが前提となる。したがって、本件サービスにおける自動公衆送信及び送信可能化にとって、本件サービスにおける上記検索機能は必要不可欠である。なお、本件サービスにおいて送受信されているMP3ファイルのほとんどは市販のレコードを複製したものであること、本件サービスにおける電子ファイルの検索は、楽曲名及び歌手名による検索であることに照らすと、受信者が、市販されている特定のレコードを複製した電子ファイルを受信しようとする場合には、本件サービスにおけるこのような検索機能が必要不可欠といえる。 e 本件サービスにおいては、受信者に受信しようとする電子ファイルの検索を可能とさせるために、送信者に共有フォルダに蔵置する電子ファイルにファイル名を付させている。そして、送信者は、被告エム・エム・オーの設定したルールに則り、自己のパソコンの共有フォルダに蔵置する電子ファイルにファイル名を付している。 f 本件サービスにおいては、受信者は、希望する電子ファイルの所在を確認した場合、本件クライアントソフトの画面上の簡単な操作によって、希望する電子ファイルを受信することができるようになっており(その際、受信者は、送信者のIPアドレス及びポート番号を認識する必要はない。)、受信者のための利便性、環境整備が図られている。 g 被告エム・エム・オーは、本件サービスの利用方法について、自己の開設したウェブサイト上で説明をし、ほとんどの利用者が同説明を参考にして、本件サービスを利用している。 (イ) 上記認定した事実を基礎にすると、利用者の電子ファイルの送信可能化行為(パソコンの共有フォルダに電子ファイルを置いた状態で、同パソコンを被告サーバに接続すること)及び自動公衆送信(本件サービスにおいて電子ファイルを送信すること)は、被告エム・エム・オーの管理の下に行われているというべきである。 (ウ) この点について、被告らは、利用者による送信可能化及び自動公衆送信を、著作権法上の規律の観点から、被告エム・エム・オーが管理しているというためには、被告エム・エム・オーが自動公衆送信及び送信可能化の対象を決定していることが必要であるが、本件サービスにおいて、パソコンの共有フォルダに蔵置する電子ファイルを選択、決定しているのは各利用者であって、被告エム・エム・オーではないから、被告エム・エム・オーに管理性は認められない旨主張する。 しかし、送信の対象となる電子ファイルを選択するのが、専ら利用者であったとしても、前記認定した諸事実を総合すれば、利用者の自動公衆送信行為及び送信可能化行為が被告エム・エム・オーの管理の下にされているとの認定、判断を左右するものではなく、この点の被告らの主張は失当である。 エ 被告エム・エム・オーの利益 (ア)a 証拠(甲9)及び弁論の全趣旨によれば、本件サービスにおいては、本件サービスを利用してMP3ファイルを受信しようとする者から受信の対価を徴収するシステムを採用していないが、被告エム・エム・オーは、将来、本件サービスを利用してMP3ファイルを受信した者から受信の対価を徴収するシステムに変更することを予定していることが認められる。 そして、このように本件サービスを将来有料化することを予定している場合は、現時点でのサービスの質を高め、顧客の本件サービスに対する満足度を高めることが重要であり、そのためには、現時点において、本件サービスを利用して入手できる音楽情報の曲目数をより多くすること、すなわち、本件サービスにおいて送信可能化されるMP3ファイル数をより多くすることが必須である。 このような観点からすれば、被告エム・エム・オーが、本件サービスにおいて、より多くの送信者に被告サーバに接続させて、より多くのMP3ファイルの送信可能化行為をさせることは、本件サービスを将来有料化したときの顧客数の増加につながり、被告エム・エム・オーの利益に資するものといえる。 b インターネット上にウェブサイトを開設した場合、同ウェブサイトに接続する者の人数が増えれば、同ウェブサイトの開設者は同ウェブサイト上に広告を載せること等により収入を得ることができ、ウェブサイト上の広告掲載への需要は、当該ウェブサイトへの接続数と相関関係があり、接続数が多くなれば、広告掲載の需要が高まり、広告収入等も多くなる。 さらに、本件サービスにおいて、被告サーバに接続したパソコンに情報を送信するなどの方法により広告をすることもでき、そのような方法を採った場合には、被告サーバへの接続数と同サーバを利用した広告の需要との間に相関関係が認められる。 c ところで、前記前提となる事実で認定したように、本件サービスの登録者数は4万2000人であり、被告サーバに同時接続している利用者数は平均約340人、そのMP3ファイル数は平均約8万であるところ、本件サービスの運営を継続すれば、上記人数は、将来さらに増加することも予想され、本件サービスは広告媒体としての価値を十分有する。 (イ) そうすると、利用者に被告サーバに接続させてMP3ファイルの送信可能化行為をさせること、及び同MP3ファイルを他の利用者に送信させることは、被告エム・エム・オーの営業上の利益を増大させる行為と評価することができる。 (ウ) この点について、被告らは、本件サービスにおいて送信可能化される著作物の権利者から許諾を得られるまでは、本件サービスを有料化しないこと、被告サイトへの広告掲載による広告料収入はあてにしていないこと等、本件サービスによって利益を得る目的を有していないことを縷々主張し、乙第8号証にはこれに沿う内容の陳述がある。しかし、被告エム・エム・オーは、営利行為をすることを目的として設立されたものであって、本件サービス以外の活動はしていない(弁論の全趣旨)。したがって、被告らの主張するように、本件サービスにより利益を得る目的を有していないということは考え難い。なお、被告Aは、本件サービスの提供によって培ったP2P技術を活かして、企業向けサービスを開発し、販売していくという構想を有していた旨供述する(乙8)が、このような形の収益の可能性は不明であり、このように収益の目処を具体的に立てずに起業することは考えられないこと、被告Aは、雑誌のインタビューにおいて、本件サービスを将来有料化することを考えている旨発言していること(甲9)から、同供述は措信できない。 また、被告らは、利用者が被告サイトを閲覧するのは、本件クライアントソフトをダウンロードするときの1回だけであるから、被告サイトは広告媒体としての価値を有さない旨主張する。しかし、前記のとおり、被告サイトには、本件サービスの利用方法についての説明も掲載されており、利用者は、本件クライアントソフトをダウンロードするときに限らず、本件サービスの利用方法についての疑問を解消する目的で被告サイトを閲覧することもあるものと推測され、また、被告サイトを閲覧させるという方法によらずに、利用者が被告サーバへパソコンを接続した際に同パソコンに広告の情報を送信するなどの方法により広告を行うことも可能であると解される。したがって、本件サービスが広告媒体としての価値を有しないということはできない。 被告らの上記主張は理由がない。 オ 小括 以上のとおり、本件サービスは、MP3ファイルの交換に係る分野については、利用者をして、市販のレコードを複製したMP3ファイルを自動公衆送信及び送信可能化させるためのサービスという性質を有すること、本件サービスにおいて、送信者がMP3ファイル(本件各MP3ファイルを含む。)の自動公衆送信及び送信可能化を行うことは被告エム・エム・オーの管理の下に行われていること、被告エム・エム・オーも自己の営業上の利益を図って、送信者に上記行為をさせていたことから、被告エム・エム・オーは、本件各管理著作物の自動公衆送信及び送信可能化を行っているものと評価することができ、原告の有する自動公衆送信権及び送信可能化権の侵害の主体であると解するのが相当である。 なお、この点について、被告らは、被告エム・エム・オーは自動公衆送信権及び送信可能化権侵害の主体でないことの理由を縷々主張するが、同主張は、前記判示したところに照らして、いずれも理由がない。 2 争点(3)(被告らの損害賠償責任の有無)について (1) 被告エム・エム・オーの損害賠償責任の有無 ア 事実認定 前記前提となる事実、証拠(甲6、9、10、14、15)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、これに反する証拠はない。 (ア) 被告エム・エム・オーは、本件サービスの運営を開始するに際して、本件サービスの運営開始前にも、本件サービスと同様の仕組みのファイル交換サービスが運営されていること、このファイル交換サービスでは、市販されているレコードに収録されている音楽をMP3形式により複製したファイルが、その著作権者及び著作隣接権者の許可を得ずに、大量に交換されていたこと、上記ファイル交換サービスは社会問題となっていたことを十分に認識していた。 (イ) 送信者が自己のパソコンの共有フォルダ内に電子ファイルを蔵置した状態で、同パソコンを被告サーバに接続させることにより、当該電子ファイルの送信可能化行為が行われ、被告サーバは、これに接続したパソコンの共有フォルダ内のファイル名、フォルダ名についての情報を受信するのであるから、被告エム・エム・オーは、現に送信可能化され、自動公衆送信される可能性のあるMP3ファイルのファイル名及びフォルダ名を認識することができる。 (ウ) 被告サーバに送信されたファイル名又はフォルダ名の多くは、市販のレコードに収録されている音楽の楽曲名及び歌手名を示す文字列が表記されている(その表記方法は問わない。)が、このようにファイル名等に市販のレコードに収録されている音楽の楽曲名及び歌手名を示す文字列が表記されたMP3ファイルは、当該音楽の複製物であると考えるのが常識的である。 (エ) 被告エム・エム・オーは、被告サーバに送信された「mp3」の拡張子が付いたファイル情報の中から市販のレコードに収録されている音楽の楽曲名及び歌手名を示す文字列が表記されているファイル名、フォルダ名を検索することによって、本件サービスにおいて、市販のレコードに収録されている音楽を複製したMP3ファイルを対象として送信可能化がされていることを容易に認識できたはずである(なお、上記MP3ファイルを共有フォルダに蔵置した送信者が送信可能化についての著作権者及び著作隣接権者の許諾を得ていないことも十分予見できたものと認められる。)。 イ 過失の有無に関する判断 (ア) 以上認定した事実によれば、被告エム・エム・オーは、遅くとも、本件サービスの運営を開始した直後には、本件サービスによって、他人の音楽著作物についての送信可能化権及び自動公衆送信権が侵害されていることを認識し得た。 そうすると、被告エム・エム・オーは、本件サービスの運営を行う際に、このような著作権侵害が行われることを防止するための適切、有効な措置を講じる義務があったというべきである。しかるに、被告エム・エム・オーは、著作権侵害を防止するための何らの有効な措置を採らず、漫然と本件サービスを運営して、原告の有する送信可能化権及び自動公衆送信権を侵害したのであるから、同被告には、この点で過失がある。したがって、被告エム・エム・オーが本件サービスを提供する行為は不法行為を構成し、被告エム・エム・オーは、原告が本件サービスの運営によって被った損害を賠償する責任があるというべきである。 (イ) この点について、被告らは、@本件サービスにおいては、利用者は、パソコンの画面上で、著作権等を侵害する電子ファイルを送信可能な状態としないことなどを内容とする利用規約に同意する旨のボタンをクリックしない限り、本件クライアントソフトをダウンロードすることができない仕組みとされていること、A被告エム・エム・オーの利用規約によれば、著作権等の権利を侵害する電子ファイルを送信可能化することを禁止すること、送信可能な状態に置かれた電子ファイルにより権利が侵害されたと主張する者から、当該ファイル公開の停止(共有の解消)を求められたときは、利用者は「ノーティス・アンド・テイクダウン手続規約」に従うべきとされていることから、被告エム・エム・オーの注意義務は尽くされている旨主張する。 しかし、本件サービスにおいては、利用者の戸籍上の名称や住民票の住所等、本人確認のための情報の入力は要求されておらず、被告エム・エム・オーが講じたこのような措置は、著作権侵害行為を防止するために十分な措置であるということは到底できず、この点の被告らの主張は採用できない(実際にも、本件サービスにおいて送信可能化されたMP3ファイルのうちの96.7パーセントは市販のレコードを複製したものであり、被告エム・エム・オーの講じた上記措置が全く実効性のないものであったことが明らかである。)。 ウ プロバイダ責任法との関係 被告らは、被告エム・エム・オーは、プロバイダ責任法所定の特定電気通信役務提供者に該当し、同被告が損害賠償責任を負うためには、プロバイダ責任法3条1項所定の各要件を充足する必要がある旨主張するのでこの点について検討する。 プロバイダ責任法3条1項は、特定電気通信による情報の流通により他人の権利が侵害されたときにおける当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者の損害賠償責任を制限する旨、また、同条項ただし書きは、当該特定電気通信役務提供者が当該権利を侵害した情報の発信者である場合には、同条項の適用が排除される旨、さらに、同法2条4号は、「発信者」とは「特定電気通信役務提供者の用いる特定電気通信設備の記録媒体に情報を記録した者」又は「当該特定電気通信設備の送信装置に情報を入力した者」である旨、それぞれ規定する。 そこで、被告エム・エム・オーが、同法2条4号所定の「発信者」に当たるか否かを検討する。 前記のとおり、著作権法の関係では、被告サーバは、電子ファイルを共有フォルダに蔵置した状態の送信者のパソコンと一体となって、著作権法2条1項9号の5ロ所定の「公衆送信用記録媒体に情報の記録された自動公衆送信装置」に該当し、また、送信者のパソコンの共有フォルダに蔵置された電子ファイルの送信可能化及び自動公衆送信を行った主体は、被告エム・エム・オーである。そして、プロバイダ責任法の関係でも、前記認定した事情に照らすならば、同法2条4号の「記録媒体」に当たるものは、電子ファイルを共有フォルダに蔵置した状態の送信者のパソコンと一体となった被告サーバであると解すべきであり、また、上記「記録媒体」に電子ファイルを蔵置した主体に該当する者は、被告エム・エム・オーであると解すべきである(なお、確かに、被告サーバに接続していない状態の送信者のパソコンに電子ファイルを蔵置した主体は、被告エム・エム・オーではなく、当該送信者自身であると解すべきであるが、上記パソコンを被告サーバに接続し、送信者のパソコンと被告サーバが一体となった段階においては、これに蔵置されている電子ファイルのその蔵置の主体は被告エム・エム・オーであると解するのが相当である。)。したがって、被告エム・エム・オーはプロバイダ責任法2条4号の「記録媒体に情報を記録した者」に当たると解すべきである。 そうすると、被告エム・エム・オーは同法2条4号所定の「発信者」に該当するから、プロバイダ責任法が施行前の行為についても適用されるか否かの判断はさておき、被告エム・エム・オーの行為について、プロバイダ責任法3条1項本文により、その責任を制限することはできないというべきである。 (2) 被告Aの損害賠償責任の有無 前記前提となる事実で判示したように、被告エム・エム・オーは有限会社であり、被告Aは、その取締役の地位にあるところ、弁論の全趣旨によれば、被告エム・エム・オーは、被告Aの個人会社であり、被告エム・エム・オーの活動は被告Aの活動と同視できるものと認められるから、本件サービスの提供は被告Aの行為であると解して差し支えない。そして、前記(1)で判示したのと同様の理由により、本件サービスの運営により原告の送信可能化権及び自動公衆送信権を侵害したことについて、被告Aに過失が認められ、したがって、被告Aには不法行為が成立し(民法709条)、同被告は、原告が上記侵害によって被った損害を賠償する責任があるというべきである。 そして、被告らの上記不法行為は、共同不法行為となり、被告らの上記損害賠償債務は不真正連帯債務となる。 3 結語 以上より、本件サービスにおいて、パソコンの共有フォルダ内に本件各MP3ファイルを蔵置した状態で、被告サーバに同パソコンを接続させる行為は、本件各管理著作物について原告の有する送信可能化権及び自動公衆送信権の侵害行為に当たり、被告エム・エム・オーは、同侵害行為の主体であると認められる。また、被告らは、上記侵害行為により原告に生じた損害を連帯して賠償すべき義務がある。 そして、本件においては、被告エム・エム・オーに対する差止請求の範囲及び原告の被った損害の額等について、更に審理をする必要がある。 よって、主文のとおり中間判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 榎戸道也 裁判官 佐野信 楽曲リスト(上)(下)は省略 |
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