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【事件名】チャリティコンサートの音楽著作権料不払い事件
【年月日】平成15年1月28日
 東京地裁 平成13年(ワ)第21902号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結の日 平成14年10月15日)

判決
原告 社団法人日本音楽著作権協会
訴訟代理人弁護士 小野寺富男
被告 A
被告 有限会社ウェルフェア
被告 B
被告ら訴訟代理人弁護士 横山哲夫


主文
1 被告有限会社ウェルフェア及び被告Aは、日本国内の演奏会場において歌謡ショー等コンサートを開催し、別添楽曲リストに記載の音楽著作物を、演奏(歌手等による歌唱を含む。)及び演奏に併せて舞踊させる方法により使用してはならない。
2 被告Aは、原告に対し、金700万8660円及び内金640万8660円につき別紙演奏会目録(1)記載の各損害金に対する起算日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告有限会社ウェルフェア、被告B及び被告Aは、原告に対し、連帯して金1416万5260円及び内金1316万5260円につき、被告有限会社ウェルフェアは別紙演奏会目録(2)記載の各損害金に対する起算日から、被告B及び被告Aは別紙演奏会目録(3)記載の各損害金に対する起算日からそれぞれ支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は、これを10分し、その1を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
6 この判決は、第1項ないし第3項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 第1項は主文同旨
2 被告Aは、原告に対し、金760万8660円及び内金640万8660円につき別紙演奏会目録(1)記載の各損害金に対する起算日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告有限会社ウェルフェア、被告B及び被告Aは、原告に対し、連帯して金1576万5260円及び内金1316万5260円につき別紙演奏会目録(2)記載の各損害金に対する起算日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 争いのない事実
(1) 原告及び原告の管理著作物について
 原告は、著作権等管理事業法(平成12年法律第131号)に基づき、文化庁長官の登録を受けた音楽著作権等管理事業者である。
 原告は、内外国の音楽著作物の著作権者から著作権ないしその支分権(演奏権、録音権、上映権等)の移転を受ける(内国著作物については、その著作権者との間の著作権信託契約による。外国著作物については、我が国の締結した著作権条約に加盟する諸外国の著作権仲介団体との間の相互管理契約による。)などしてこれを管理し、国内のラジオ・テレビの放送事業者をはじめ、レコード・映画・出版・興行・社交場・有線放送等各種の分野における音楽の使用者に対して音楽著作物の使用を許諾し、その対価として使用者から著作物使用料を徴収するとともに、これを内外の著作権者に分配することを主たる目的とする社団法人である。
 別添楽曲リスト記載の音楽著作物は、原告が各著作権者から著作権の信託的譲渡を受けて管理する音楽著作物(以下「管理著作物」という。)の一部であるが、これらは社交場、カラオケ歌唱室あるいは演奏会において演奏(歌唱を含む。以下同じ。)される頻度が高い使用実績を有する曲目に該当し、日常的に反復使用されている音楽著作物である。
(2) 被告ら及び本件各演奏会について
ア 被告有限会社ウェルフェア(以下「被告会社」という。)は、平成7年8月24日に、音楽興行等を目的として設立された会社であり、被告B(以下「被告B」という。)は、被告会社の代表取締役、被告A(以下「被告A」という。)は被告会社の取締役である。
イ 被告A及び被告会社は、「Cハートフルチャリティーコンサート」等と称する歌謡ショー等のコンサート(以下「演奏会」という。)を企画・制作し、これを全国各地の公共会館等の演奏会場で主催して開催してきた。
 被告Aは、平成7年8月24日までの間、Cハートフルチャリティーコンサート実行委員会名義で、演奏会を主催して開催し、同演奏会において、原告の管理著作物を演奏使用した。
 被告会社は、平成7年9月3日から平成13年6月24日までの間、演奏会を主催して開催し、同演奏会において、原告の管理著作物を演奏使用した。
 なお、演奏会のうち、平成11年6月27日までの演奏会については、入場料3500円を徴収していたが、平成11年7月以降分に関しては、観客から直接入場料名目の金員を徴収することはなかった。
2 本件は、(1)原告が、被告A及び被告会社に対し、将来にわたる演奏会の開催等の禁止を求めるもの、(2)原告が、被告Aに対し、別紙演奏会目録(1)記載の演奏会(以下「本件演奏会(1)」という。)に関する著作権使用料相当の金員の支払(不法行為による損害賠償請求又は不当利得返還請求)及び弁護士費用等の支払(不法行為に基づく損害賠償請求)を求めるもの、(3)原告が、被告会社、被告B及び被告Aに対し、別紙演奏会目録(2)記載の演奏会(以下「本件演奏会(2)」といい、本件演奏会(1)と併せて「本件各演奏会」という。)に関し、著作物使用料相当の金員の支払(被告会社に対しては、不法行為による損害賠償請求又は不当利得返還請求、被告B及び被告Aに対しては、いずれも有限会社法30条の3第1項に基づく請求)及び弁護士費用の支払(被告会社に対しては、不法行為による損害賠償請求、被告B及び被告Aに対しては、いずれも有限会社法30条の3第1項に基づく請求)を求めるものである。
3 本件の争点
(1) 演奏会は、第1部と第2部に分割して実施されていたものであるか、及び第1部においては、原告の管理著作物は演奏されなかったかどうか
(2) 原告は、本件各演奏会に関し、被告らに対し、損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を有するかどうか及びその数額
ア 被告らの責任の有無及び損害額
イ 被告らの抗弁の成否(著作権法38条1項の適否、消滅時効及び権利濫用の成否)
(3) 原告の被告A及び被告会社に対する差止請求権の成否
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)について
【原告の主張】
 演奏会は、いずれも「Cハートフルチャリティーコンサート」等の名称の下で1個の演奏会として開催され、Cという有名人の名前を集客に利用して開催されているものであり、第1部と第2部に分離されているということはないから、1つの演奏会である。
 被告らが第1部と称する部分においても、原告の管理著作物が相当の割合で演奏されていた。
【被告らの主張】
 演奏会は、いずれも2部構成をとっており、第1部では地元の人々による各種のアマチュアの団体が、既に著作権保護期間を経過した民謡や健康体操などを発表し、第2部ではプロ歌手であるCがアメリカのポップス等10曲程度の楽曲を歌唱していた。
 この1部と2部の間には、15分程度の休憩が設けられ、両者は時間的にも切断されていた上、演奏会としての性質上も連続していない。すなわち、上記のとおり、出演者や演奏内容が大きく異なることに加え、第1部と第2部では、聴衆、入場券の扱い、司会進行、使用する機材等も異なっていた。第1部は、いわば地元のアマチュアによる音楽、ダンスの発表会の場であるから、聴衆も出演者の知り合いを中心とする人々であった。演奏会において入場料を取っていた時期においても、第1部は入場券なしで鑑賞することができた。そして、第1部と第2部の休憩時間に、第2部は有料となる旨の場内アナウンスがされ、入場券も持たずに会場に入っている聴衆は退出するか、新たに入場券を購入した上で第2部を鑑賞することが求められた。また、第1部と第2部では司会進行の担当者も交代した。さらに、フロントモニターやジョーゼットなどショー用にセッティングし使用される機材も第1部と第2部では別々であった。
 このように、第1部と第2部はいずれも「Cハートフルチャリティーコンサート」の名称の下で行われたとはいえ、出演者、演奏内容、聴衆、入場券の扱い、司会進行、使用する機材等において異なっていたのであるから、実質的には別個の演奏会と評価されるべきである。そして、原告の管理著作物は、第1部では演奏されていない。
2 争点(2)アについて
【原告の主張】
(1) 被告らに係る著作物使用料相当損害金の支払義務
ア 本件演奏会(1)について
 被告Aは、原告の許諾を受けることなく管理著作物を使用することが著作権侵害行為であることを知っていながら、本件演奏会(1)を開催し、原告の許諾を受けることなく管理著作物を演奏使用した。
 被告Aは、本件各演奏会を開催する相当以前から興行の仕事に従事し、過去に原告に対して使用許諾の申込みをするなどしているから、演奏会で使用する原告の管理著作物について使用許諾が必要であることを十分に知悉していたというべきである。
イ 本件演奏会(2)について
(ア) 被告会社は、原告の許諾を受けることなく管理著作物を使用することが著作権侵害行為であることを知っていながら、本件演奏会(2)を開催し、原告の許諾を受けることなく原告の管理著作物を演奏使用した。
(イ) 被告Bは、本件演奏会(2)が開催されたとき、被告会社の代表取締役であった。被告Bは、被告会社が行った本件著作権侵害行為を知っていたと考えられるし、また、原告は本件訴訟前に被告B個人に対して再三にわたり警告書を送付し、同人はそれを受領していながら、その後も被告会社による著作権侵害行為を継続させたのであるから、同人には、著作権侵害について悪意又は重過失があった。したがって、被告Bは、有限会社法30条の3第1項に基づき、被告会社と連帯して、本件演奏会(2)に係る著作権侵害に基づく使用料相当損害金を支払う義務を負う。
(ウ) 被告Aは、本件演奏会(2)が開催されたとき、被告会社の取締役であり、それまで被告A個人が行っていたのと同一内容の行為を同社名で行っていたものにすぎない上、同社の担当責任者として代表者被告Bに代わって原告との交渉を直接担当し、主導的役割を演じていたのであるから、同人に被告会社の本件著作権侵害について悪意又は重過失があったというべきである。したがって、被告Aは、有限会社法30条の3第1項に基づき、被告会社と連帯して、本件演奏会(2)に係る著作権侵害に基づく使用料相当損害金を支払う義務を負う。
(2) 損害額について
ア 上記演奏に係る使用料相当損害金は、原告が主務官庁である文化庁の認可を得て定めた著作物使用料規程に基づいて算定されることとなる。著作物使用料規程に定める演奏会における演奏の規定は、純音楽に属するものと軽音楽に属するものとに区分されるが、本件各演奏会のようないわゆる歌謡ショーは軽音楽に属する。軽音楽に属する音楽著作物を使用する演奏会の使用料率は、演奏される著作物1曲1回ごとに算出する方式(曲別方式)と、演奏される楽曲・曲数に関係なく演奏会の公演1回ごとに算出する方式(包括方式)とがあるが、原告は、いわゆる歌謡ショーで管理著作物が使用される場合には、原則として包括方式によって使用料の算定を行っている。そして、包括方式による使用料は、演奏会の公演時間、演奏会場の定員数及び演奏会の入場料の3要素により、類型区分化された表によって算定される。
イ 本件演奏会(1)に関する損害額について
(ア) 本件演奏会(1)の公演時間は、通常3時間程度であるから、少なくとも2時間はあるものとして、それに対応する区分を適用し、定員数については、著作物使用料規程の「2演奏会における演奏及び3演奏会以外の催物における演奏の備考」の定めるところにより、各演奏会場に設備されている客席の総数により対応する区分を適用し、また、入場料については、3500円に対応する区分を適用して、本件演奏会(1)の使用料相当損害金を算定すると、その結果は、別紙演奏会目録(1)記載のとおりであり、使用料相当損害金の合計額は640万8660円となる。
(イ) 上記損害金に対する遅延損害金(利息)に関しては、別紙演奏会目録(1)記載のとおり、各演奏会における損害について、各演奏会が開催された月の翌々月1日以降支払済みに至るまで年5分の割合に基づく金員の支払義務がある。
(ウ) 原告は、被告Aに対する本件請求をするためやむなく弁護士を選任せざるを得なくなり、その費用として120万円を支払う旨約束した。
ウ 本件演奏会(2)に関する損害額について
(ア) 本件演奏会(2)の演奏時間は、平均4・5時間であるから、少なくとも3時間はあるものとして、それに対応する区分を適用し、定員数については、上記イ(ア)と同様の区分を適用し、入場料については、平成11年6月分までは、3500円に対応する区分を適用し、同年7月以降分については、被告会社らが、観客から直接入場料名目で金員を徴収せず、寄付金名目で金員を徴収する方式に変更したため、入場料無料に対応する区分を適用して、本件演奏会(2)の使用料相当損害金を算定すると、その結果は、別紙演奏会目録(2)記載のとおりであり、使用料相当損害金の合計額は1316万5260円となる。 
(イ) 上記損害金に対する遅延損害金(利息)に関しては、別紙演奏会目録(2)記載のとおり、各演奏会における損害について、各演奏会が開催された月の翌々月1日以降支払済みに至るまで年5分の割合に基づく金員の支払い義務がある。
(ウ) 原告は、被告会社らに対する本件請求のためやむなく弁護士を選任せざるを得なくなり、その費用として、260万円を支払う旨約束した。
【被告らの主張】
(1) 被告らの支払義務について
ア 原告が損害額算定の基礎とする資料のうち、コンサートホールのイベントの予定表は、通常3か月前に作成されるため中止された場合にもそのまま掲載され、例えば、本件演奏会(1)のうち、平成5年2月3日の宝塚市民会館については中止しているし、平成4年10月28日の太田市民会館は開催していないと思われる。原告の内部資料(甲23の1ないし40)は、客観性の担保がない資料である。したがって、これらの資料に基づいて演奏会の開催を認定することはできない。
イ 被告Aは、被告会社が主催するようになるまでの間には、許諾の必要性についての認識がなかったから、平成7年8月24日までの間について、被告Aが著作権侵害行為であることを知っていたとはいえない。
ウ 被告Bが被告会社の代表取締役の地位にあった事実はあるが、それは名目上のものである。実態としては、一事務員であり、被告Aの指示に従って行動していたにすぎない。
(2) 損害額について
ア 第2部の演奏時間は30分未満であった。上記のとおり、使用料相当損害金額を積算する基礎となるのは、第2部のみであるから、演奏会の演奏時間は1時間未満である。
 また、演奏会では、レコードが行われていたから、使用料規程における「レコード演奏が行われる場合」に該当するし、仮に、第1部において、原告の管理著作物が演奏されたとしても、第1部では、日舞、新舞、詩吟、健康体操などが行われていたから、使用料規程における「演奏会以外の催し物における演奏」に該当する。
 さらに、次の演奏会場については、原告主張の座席数が誤っている。
 @松本市社会文化会館(平成4年12月11日開催分)
 A尾道市公会堂(平成5年3月25日開催分)
 B大牟田文化会館(平成5年9月24日開催分)
 C柏市市民文化会館(平成6年11月22日開催分)
 D観音寺市民会館(平成10年2月15日開催分)
 Eふくやま芸術文化ホール(平成10年2月21日開催分)
 F国分市民会館(平成10年3月28日開催分)
イ 不当利得返還請求に関し、被告らの返還義務は現存利益の範囲に限られるべきである。被告らは演奏会によって得られた収入を車椅子の寄付等に当てていたのであるから、現存利益は存在しない。
ウ 仮に、第1部において、原告の管理著作物が演奏されたとしても、第1部の使用料相当損害金の額は、130万3250円であり(乙9)、また、第2部の使用料相当損害金の額は、353万8000円である(乙10)。
エ なお、被告らは、演奏会の売上げからこれまで2000台を超える車椅子を全国各地の社会福祉協議会に寄付してきた。車椅子は全国で各地域住民の利用に供されている。被告らの行った演奏会が、単なる利益追求行為とは異なることは明白である。このことは、本件紛争解決に当たって総合的な判断において斟酌されるべき事実である。
3 争点(2)イについて
【被告らの主張】
(1) 著作権法38条1項の適用
ア 上記のとおり、演奏会は、2部構成となっており、両者の間には明確に演奏会としての性質の違いがあった。そして、仮に、第1部において、原告の管理著作物が演奏されたとしても、第1部は、@営利の目的は認められないこと、A聴衆・観衆から一切の入場料等対価の徴収をしていないこと、B出演実演家に出演料等報酬の支払がないことからすると、著作権法38条が適用され、著作権者等の許諾を要しないものというべきである。原告の担当者も、本件訴訟提起前の話合いの中でこの事実を認めていた。
イ 平成13年2月11日以降同年6月24日までの12件に関しては、第2部の歌手であるCにも出演料は支払われていない。したがって、当該演奏会に関しては、著作権法38条1項が適用されるべきである。被告Aは、原告担当者から、上記演奏会に関しては、申告が不要である旨聞いている。
(2) 消滅時効
ア 著作物使用料相当損害金及び遅延損害金(利息)について
 本件訴訟が提起される3年以上前の時期の演奏会に係る著作物使用料相当損害金及び遅延損害金(利息)の請求に関しては、消滅時効が成立しており、被告らは、これを援用する。
 また、被告A及び被告Bに対する有限会社法30条の3第1項に基づく請求に関しても、民法724条が適用又は類推適用されるべきである。
イ 弁護士費用について
 弁護士費用の請求に関しても、消滅時効が成立しており、被告らは、これを援用する。
(3) 権利濫用
 原告は、演奏会に関する紛争を長期間放置したので、被告らは、長期間にわたり原告からの請求がなされないまま経過した。その結果、原告も認めるとおり、資料は散逸してしまった。このような長期間にわたる権利の不行使、それによる被告らにおいて請求がされないことについての合理的な期待、証拠の散逸という状況は、まさに時効制度の存在理由そのものである。このような場合は、請求が認められるのは不法行為に準じて、3年を限度とすべきであって、それをさらに遡る期間については、仮に形式的に原告に請求権があったとしても、その行使は権利の濫用として許されないというべきである。
【原告の主張】
(1) 著作権法38条1項の適否について
 本件各演奏会は、営利を目的とし、特に被告会社設立後は同社の事業として開催されており、平成11年6月以前は入場料が徴収され、同年7月以降も寄付金名目で金員が徴収されているのであり、平成13年2月11日以前はCに対する報酬も支払われていたのであるから、本件各演奏会について著作権法38条の適用はないというべきである。
(2) 被告らの消滅時効及び権利濫用の各主張については、いずれも争う。
4 争点(3)について
【原告の主張】
(1) 被告Aは、平成4年10月28日以降被告会社が平成7年8月24日に設立されるまでの間、被告会社は、平成7年9月3日以降、原告の許諾を受けることなく原告の管理著作物を演奏使用して、著作権侵害行為を継続しており、原告は、被告A及び被告会社に対し、再三にわたって文書及び口頭による督促を行ったが、被告A及び被告会社はこれに応じない。
(2) 被告A及び被告会社は、本件訴訟提起後本件各演奏会と同様の演奏会の開催を中止しているが、これは一時的な中止にすぎず、今後も同様の演奏会を開催する可能性は高いと考えられる。
 なお、本件訴訟が提起される直前の時期におけるCらのホームページには、本件各演奏会と同様の演奏会は一時休止するが、リニューアルして再開する旨の記載がされていた。
【被告A及び被告会社の主張】
 「Cハートフルチャリティーコンサート」は、本件訴訟提起前である平成13年6月25日以降一度も開催されていない。そして、C本人も同コンサートを開催しない旨明言している。したがって、原告の被告A及び被告会社に対する差止請求は理由がない。
第4 当裁判所の判断
1 争点(1)について
(1) 前記争いのない事実並びに証拠(甲11、甲12の1ないし28、甲13、甲14の1、2、甲15、甲20の1ないし108、甲26、27)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。
ア 被告Aは、平成7年8月19日までの間、被告会社は、平成7年9月3日以降平成13年6月24日までの間、演奏会を主催して開催した。
イ 演奏会のパンフレットには、「Cふれあいチャリティーコンサート」、「Cふれあいハートフルチャリティーコンサート」、「Cハートフルチャリティーコンサート」という題名とCの顔写真が大きく掲載されており、それよりも小さい文字で、特別出演として各種のアマチュアの団体及び特別ゲストの記載がある。また、演奏会のチケットには、「Cハートフルチャリティーコンサート」という名称、開場時間及び開演時間、Cの写真が掲載され、それよりは小さい文字で、特別出演として各種のアマチュアの団体の名称が記載されている。
 しかし、上記パンフレット及び入場券には、演奏会が第1部、第2部の構成になっていることやアマチュアの団体の出演分に関しては入場料が無料であるというような記載はない。
ウ 演奏会が開催された全国各地の公共会館等の演奏会場の予定表にも、「Cふれあい福祉チャリティーコンサート」等と記載されているだけで、特段アマチュアの団体の出演とCのコンサートが分けて記載されているわけではない。
エ 演奏会は、まず、特別出演のアマチュアの団体が出演し、次に、特別ゲストが出演し、最後に、Cが出演するという順序で進行した。
オ 被告Aあるいは被告会社は、平成11年6月27日までに開催された演奏会に関し、入場料3500円を徴収していた。
 平成11年7月以降の演奏会に関しては、被告会社は、寄付金を徴収し、寄付した者に対して、記念のパンフレットやプログラム等を渡していた。
カ アマチュアの団体が演奏使用する楽曲は、民謡など原告の管理著作物でない楽曲もあるが、原告の管理著作物も多く含まれていた。また、録音テープで原告の管理著作物を流して舞踊のみを行う者もいたが、原告の管理著作物を歌唱するなどして生演奏をする者も多くいた。
 Cは、原告の管理著作物を歌唱した。
(2) 被告Aらの陳述書(乙1、3、乙5の1、2、乙12、14)には、演奏会は、アマチュアの団体が出演する第1部とCが出演する第2部に分かれていて、第1部は無料、第2部は有料であり、第1部と第2部の間に「第2部は有料です。まもなく係員が入場券の検札におうかがい致しますので、ご協力ください。なお、入場券をお持ちでない方は、受付にて3500円で販売しております。」というアナウンスをしており、同内容を大きく記載して入場口とロビーに掲示していた旨の記載がある。
(3) しかし、上記(1)認定の事実からすると、演奏会のチケットやパンフレット、演奏会場の予定表には、アマチュアの団体が出演する第1部とCが出演する第2部に分かれていて、第1部は無料、第2部は有料であるとの記載はなく、むしろ、Cが出演する一つのコンサートであって、そこにアマチュアの団体が特別出演するとしか認識できない。また、上記(1)認定の事実からすると、使用される楽曲も、アマチュアの団体は、原告の管理著作物を使用しないということはなく、アマチュアの団体が出演する部分とCが出演する部分とで、使用する楽曲が明確に区別できるものではない(被告らにおいて、アマチュアの団体については、原告の管理著作物を使用しないよう配慮していたというような事実もない。)。さらに、@証拠(甲13、26)によると、原告職員が確認に赴いた演奏会においては、上記のようなアナウンスはなかったことが認められること、A演奏会における会場の収容人数は、後記認定のとおり多数であることからすると、第1部と第2部との間に入場券を所持していない者に対して入場券を購入させることが実際に可能かどうかはなはだ疑問であることからすると、上記(2)のようなアナウンスや掲示がされていたことがあったとしても、はたして、実際にはどれほどされていたかは疑わしいし、そこで入場者が入れ替わるとも考えられない。
(4) そうすると、上記(2)のようなアナウンスや掲示がされていたことがあり、また、被告らが主張するように司会進行や機材の点で異なることがあるとしても、Cの出演を中心とする一つの演奏会であると認められ、被告らが主張するように、第1部と第2部を別個の演奏会と認めることはできないし、平成11年6月27日開催分までについて、第1部は無料、第2部は有料という明確な区分があったとは認め難い。
2 争点(2)について
(1) 被告らの支払義務について
ア 前記争いのない事実及び上記1(1)認定の事実並びに証拠(甲20の1ないし108、甲21の1、2、甲22、甲23の1ないし40、甲24、25)及び弁論の全趣旨からすると、被告Aは、本件演奏会(1)を主催して開催し、これらの演奏会において、原告の許諾を得ることなく、原告の管理著作物を演奏使用したものと認められる。そして、証拠(甲11、甲18の1、2、甲26)及び弁論の全趣旨によると、昭和50年10月29日、被告Aは、「ユニバーサルファミリィオフィスA」名義で、Dショウに関する音楽著作物使用許諾申請を行い、同月31日、許諾を得たこと、昭和57年7月21日、被告Aは、「音楽舎A」名義で、Eコンサートに関する音楽著作物使用許諾申請を行ったこと、本件訴訟提起以前に原告が本件各演奏会について音楽著作物使用許諾契約の申込みをするように求めたのに対し、被告Aは、第1部については課金されない、支払ができないと主張していたものの、許諾手続が必要であることを認識していなかったという主張はしていなかったこと、以上の事実が認められ、これらの事実からすると、被告Aは、本件演奏会(1)が開催された平成4年10月28日以前から、演奏会等において音楽著作物を演奏使用する場合には、原告に対し、音楽著作物使用許諾申請を行う必要があることを認識していたものと認められる。
 そうすると、原告は、被告Aに対して、本件演奏会(1)において、被告Aが、原告の許諾を得ることなく、原告の管理著作物を演奏使用したことについて、不法行為による損害賠償請求権を有していたものということができるが、弁論の全趣旨によると、既に民法724条の時効期間(3年)が経過したものと認められ、被告Aは、この時効を援用したので、時効により消滅したものと認められる。
 また、原告は、被告Aに対して、本件演奏会(1)において、被告Aが、原告の許諾を得ることなく、悪意で原告の管理著作物を演奏使用したことについて、不当利得返還請求権を有しているものということができる。これについては、時効により消滅していないし、返還すべき利得が現存利益に限られるということもない。
イ 前記争いのない事実及び上記1認定の事実並びに証拠(甲20の1ないし108、甲21の1、2、甲22、甲23の1ないし40、甲24、25)及び弁論の全趣旨からすると、被告会社は、本件演奏会(2)を主催して開催し、これらの演奏会において、原告の許諾を得ることなく、原告の管理著作物を演奏使用したこと、被告会社は、それまで被告A個人が行っていた演奏会を引き継いで、本件演奏会(2)を開催したこと、本件演奏会(2)が開催された時期において、被告Bは、被告会社の代表取締役であり、被告Aは、被告会社の取締役であったが、実質的には被告Aが代表者として行動していたこと、以上の事実が認められる。
 上記ア認定のとおり、被告Aは、原告の管理著作物について原告との間で使用許諾契約を締結する必要があることを知っていたにもかかわらず、本件演奏会(1)において、原告の許諾を得ることなく、原告の管理著作物を演奏使用していたのであり、かつ、被告Aは、被告会社の実質的な代表者であったから、被告会社は、被告A個人が行っていた演奏会を引き継いで本件演奏会(2)を開催するに当たり、原告の管理著作物について原告との間で使用許諾契約を締結する必要があることを知っていたにもかかわらず、本件演奏会(2)において、原告の許諾を得ることなく、原告の管理著作物を演奏使用したものと認められる。
 したがって、原告は、被告会社に対して、本件演奏会(2)において、被告会社が、原告の許諾を得ることなく、原告の管理する音楽著作物を演奏使用したことについて、不法行為による損害賠償請求権を有しているものということができるし、被告Aに対しては、悪意であることを理由として、有限会社法30条の3第1項に基づく損害賠償請求権を有しているということができる。被告会社に対する上記損害賠償請求権のうち、本件訴訟提起から3年より前の演奏会については、弁論の全趣旨によると、既に民法724条の時効期間(3年)が経過したものと認められ、被告会社は、この時効を援用したので、時効により消滅したものと認められる。しかし、有限会社法30条の3第1項に基づく損害賠償請求に関する消滅時効期間は、10年であると解されるから、時効によって消滅していない。
 また、被告Bは、被告会社の代表取締役であった者で、弁論の全趣旨によると、被告Bは、被告会社の仕事に関与していたものと認められるうえ、上記のとおり、被告会社は、被告A個人が行っていた演奏会を引き継いで本件演奏会(2)を開催するに当たり、原告の管理著作物について原告との間で使用許諾契約を締結する必要があることを知っていたにもかかわらず、本件演奏会(2)において、原告の許諾を得ることなく、原告の管理著作物を演奏使用したものと認められるから、被告Bには、少なくとも重過失があったものと認められる。したがって、原告は、被告Bに対しても、有限会社法30条の3第1項に基づく損害賠償請求権を有しているということができる。これについても、時効によって消滅していない。
 さらに、原告は、被告会社に対して、本件演奏会(2)において、被告会社が、原告の許諾を得ることなく、悪意で原告の管理著作物を演奏使用したことについて、不当利得返還請求権を有しているものということができる。これについては、時効によって消滅していないし、返還すべき利益が現存利益に限られるということもない。
 なお、被告らは、有限会社法30条の3第1項に基づく請求に関する消滅時効期間についても民法724条を適用ないし類推適用すべきであると主張するが、有限会社法30条の3第1項は不法行為責任とは別に設けられた法定責任であると解されるから、民法724条の適用又は類推適用はないものというべきである(最高裁昭和49年12月17日第3小法廷判決民集28巻10号2059頁参照。被告らは、この判決と本件では事案が異なる旨主張するが、本件における取締役の責任は、被告会社の事業活動の過程で負うことになった責任であって、偶然の事故による不法行為の場合と同視することはできないから、被告らの主張は採用できない。)。
ウ 被告らは、@コンサートホールのイベントの予定表は、通常3か月前に作成されるため中止された場合にもそのまま掲載され、例えば、本件演奏会(1)のうち、平成5年2月3日の宝塚市民会館については中止しているし、平成4年10月28日の太田市民会館は開催していないと思われる、A原告の内部資料(甲23の1ないし40)は、客観性の担保がない旨主張する。
 確かに、イベントの予定表については、中止された場合にもそのまま掲載されることがあり得ると思われるが、被告らは、上記のように主張するのみで、中止の事実を示す証拠を何ら提出していない。また、証拠(甲23の1ないし40)によると、甲23の1ないし40は、原告の内部資料であるが、これらの記載内容は、原告の担当地域支部が、演奏会が開催されたごとに、まとめて報告したものであって、日付を特定する押印がされていることが認められ、その記載内容が特段不合理不自然であるとはいえないから、信用性がないとはいえない。そして、甲23の1、8によると、平成5年2月3日の宝塚市民会館と平成4年10月28日の太田市民会館の演奏会が開催されたことが認められる。
 以上からすると、上記の被告らの主張は採用できない。
エ 被告Aの陳述書(乙1)には、平成11年1月以降については被告Aが原告から原告の管理著作物の演奏使用について許諾を得た旨の記載があるが、同陳述書記載の事情(期日や会場を原告に報告していたこと)のみでは、原告と被告らとの間で原告の管理著作物について使用許諾契約が締結されたことを認めることはできないし、他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。
(2) 損害額について
ア 証拠(甲1ないし3、11、甲12の1ないし28、甲20の1ないし108、甲21の1、2、甲23の1ないし40、甲24ないし27、甲28の1ないし7)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。
(ア) 原告は、主務官庁である文化庁の認可を得て著作物使用料規程を定め、同規程に基づいて管理著作物使用料金額を算定している。
(イ) 同規程によると、演奏会は、純音楽に属するものと軽音楽に属するものとに区分されるところ、本件各演奏会は、いわゆる歌謡ショーであるから、軽音楽に属する。
(ウ) 軽音楽に属する音楽著作物を使用する演奏会の使用料率は、演奏される著作物1曲1回ごとに算出する方式(曲別方式)と、演奏される楽曲・曲数に関係なく演奏会の公演1回ごとに算出する方式(包括方式)とがあるところ、原告は、いわゆる歌謡ショーで管理著作物が使用される場合には、演奏会で演奏される楽曲の大部分が原告の管理著作物であることや演奏会で演奏される音楽著作物の曲数に関係なく使用料を算定することができることなどから、原則的には包括方式によって使用料の算定を行っていた。
(エ) 包括方式による使用料額は、演奏会の公演時間、演奏会場の定員数、演奏会の入場料の3要素により、類型区分化された表によって算定されることとなる。
(オ) 本件各演奏会における演奏回数及び定員は、別紙演奏会目録(1)及び同(2)各記載に係る該当部分のとおりである(ただし、定員は、松本市社会文化会館については、1684名、尾道市公会堂については、1121名、大牟田文化会館については、1522名である。)。
 入場料については、本件演奏会(1)及び本件演奏会(2)のうち平成11年6月27日開催分までのものが3500円であり、それ以降の分は、無料である。
 公演時間は、本件演奏会(1)については2時間、本件演奏会(2)については3時間を下回らない。
(カ) 以上により、本件各演奏会における使用料額を算定すると、別紙演奏会目録(1)及び同(2)各記載に係る該当部分のとおりとなる。
イ 上記アの認定に関する被告らの主張等について
(ア) 被告らは、第2部の演奏時間は30分未満であったが、使用料相当損害金額を積算する基礎となるのは、第2部のみであるから、演奏会の演奏時間は1時間未満であると主張するが、前記1認定のとおり、本件各演奏会は、一つの演奏会であって、第1部と第2部に分けることはできないうえ、被告らが第1部と主張する部分においても、原告の管理著作物の演奏がされていたから、公演時間は、上記ア認定のとおりとなる。
 また、被告らは、使用料規定における「レコード演奏が行われる場合」に該当すると主張するが、Cの歌唱は生演奏であって、その伴奏が録音テープによるものであっても、「レコード演奏が行われる場合」でないことは明らかであり、前記1で認定したとおり、アマチュアの団体が出演する部分も、録音テープで楽曲を流して舞踊を行う者もいるが、楽曲を歌唱するなどして生演奏をする者も多くいたことが認められるから、これらを総合すると、本件各演奏会は、「レコード演奏が行われる場合」に該当しないものというべきである。
 さらに、被告らは、仮に、第1部において、原告の管理著作物が演奏されたとしても、第1部では、日舞、新舞、詩吟、健康体操などが行われていたから、使用料規程における「演奏会以外の催し物における演奏」に該当すると主張する。しかし、前記1で認定したとおり、本件各演奏会は、一つの演奏会であって、第1部と第2部に分けることはできないうえ、被告らが第1部と主張する部分においても、録音テープで楽曲を流して舞踊を行う者もいるが、楽曲を歌唱するなどして生演奏をする者も多くいたことが認められるから、本件各演奏会は、全体として「演奏会」ということができ、「演奏会以外の催し物」ではない。
 したがって、被告らの主張はいずれも採用できない。
(イ) 被告らは、以下の演奏会場に関し、別紙演奏会目録記載に係る定員と座席数とが違っていると主張する。
 @松本市社会文化会館(平成4年12月11日開催分)
 A尾道市公会堂(平成5年3月25日開催分)
 B大牟田文化会館(平成5年9月24日開催分)
 C柏市市民文化会館(平成6年11月22日開催分)
 D観音寺市民会館(平成10年2月15日開催分)
 Eふくやま芸術文化ホール(平成10年2月21日開催分)
 F国分市民会館(平成10年3月28日開催分)
 そこで検討するに、証拠(甲3)によると、使用料規程上の「定員」とは、演奏会が開催される会場に設備されている客席の総数をいうとされているものと認められるから、固定席、移動席、車椅子席等の種類別がある場合であっても、すべての席数を含めた数を指すものと認められる。そして、証拠(甲28の1ないし7)によると、上記@会場の定員は、1684名(固定席298、移動席1386)であること、上記A会場の定員は、1121名(固定席704、移動席407、車椅子席10)であること、上記B会場の定員は、1522名(固定席1346、移動席166、車椅子席10)であること、上記C会場の定員は、1632名(固定席1487、移動席145)であること、上記D会場の定員は、1560名(固定席1470、補助席90)であること、上記E会場の定員は、2003名(固定席1988、移動席12、車椅子席3)、上記F会場の定員は、1062名(固定席1044、親子席12、車椅子席6)であること、以上の事実が認められ、これらの事実からすると、上記@ないしFに係る定員数は、いずれも上記認定のとおりとなる。 
(ウ) 証拠(乙4)によると、原告は、被告らに対して、本件各演奏会について、第1部と第2部に分けて使用料を算定するなど、被告らの主張に近い形での支払の提案をしたことがあるものと認められるが、証拠(甲26、乙4)によると、この提案は、原告が、早期解決のための和解案として提示したものと認められるから、この提案に基づいて使用料相当額を算定することはできない。
(3) 著作権法38条1項の適否について
ア 被告らは、本件各演奏会の第1部に関しては、著作権法38条1項が適用されると主張する。
 しかしながら、前記1認定のとおり、本件各演奏会は、全体として一つの演奏会であって、第1部と第2部に分けることはできないし、平成11年6月27日開催分までについて、第1部は無料、第2部は有料という明確な区別があったとも認め難く、平成11年7月以降分に関しては、観客から直接入場料名目の金員を徴収することはなかったものの、寄付金を集めており、これは、著作物の提供について受ける対価と認められる。また、被告会社が主催する本件演奏会(2)については、被告会社の事業として行われていたものと認められる。そして、弁論の全趣旨によると、少なくともCに対しては平成13年2月11日より前は出演料が支払われていたものと認められる。そうすると、平成13年2月11日より前の時期について、第1部のみを取り上げて著作権法38条1項を適用することはできない。
イ 被告らは、平成13年2月11日以降同年6月24日までの12件に関しては、Cに対しても出演料が支払われていないから、当該演奏会に関しては、著作権法38条1項が適用されるべきであると主張する。
 しかしながら、上記認定のとおり、本件演奏会(2)については、被告会社の事業として行われていたものであって、寄付金という方式で対価を徴収としていたものと認められるから、Cに対しても出演料が支払われていないからといって、著作権法38条1項が適用されるということにはならない。
ウ したがって、著作権法38条1項の適用に関する被告らの主張は理由がない。
(4) 権利濫用等について
 被告らは、演奏会の売上げからこれまで2000台を超える車椅子を全国各地の社会福祉協議会に寄付してきた旨の主張をするが、そのような事実があるとしても、著作権侵害行為が正当化されるものではないことは明らかである。
 また、被告らは、原告は、演奏会に関する紛争を長期間放置していた旨主張するが、証拠(甲7、甲8の1、2、甲9の1ないし4、甲11、甲16の1、2)及び弁論の全趣旨によると、原告は、本件各演奏会について、平成5年以来、原告と音楽著作物使用許諾契約を締結して使用料を支払うよう申し入れ、被告Aらと交渉をしてきたが、被告Aらは、これに応じなかったものと認められるから、原告が紛争を長期間にわたって放置したとは認められず、その他、本件請求について権利濫用というべき事情は認められない。
(5) まとめ
ア 本件演奏会(1)に関する著作物使用料相当額の請求について
 本件演奏会(1)に関する原告の被告Aに対する請求のうち、別紙演奏会目録(1)記載の著作物使用料相当額(640万8660円)の不当利得返還請求及び別紙演奏会目録(1)記載の日からの利息の請求は、理由がある。
イ 本件演奏会(2)に関する著作物使用料相当額の請求について
 本件演奏会(2)に関する原告の被告会社に対する請求のうち、本件訴訟提起から3年より前の演奏会については、別紙演奏会目録(2)記載の著作物使用料相当額の不当利得返還請求及び別紙演奏会目録(2)記載の日からの利息の請求として、本件訴訟提起から3年以後の演奏会については、別紙演奏会目録(2)記載の著作物使用料相当額の不法行為による損害賠償請求及び別紙演奏会目録(2)記載の日からの遅延損害金の請求として、理由がある(著作物使用料相当額の合計は、1316万5260円)。
 本件演奏会(2)に関する原告の被告A及び被告Bに対する、有限会社法30条の3第1項に基づく別紙演奏会目録(2)記載の著作物使用料相当額の請求は、理由がある。遅延損害金については、証拠(甲9の1、3、4)によると、原告が被告A及び被告Bに対して著作物使用料相当額の請求をしたのは平成13年7月3日であると認められるから、その翌日から請求することができる(なお、平成13年6月24日開催分に関して、原告は、同年8月1日からの遅延損害金を請求しているから、その部分については、同日を起算日とする。)。
ウ 弁護士費用について
 不法行為の被害者が弁護士に対し被害回復の訴えを提起することを委任し、報酬金を支払う旨の契約を締結した場合には、同契約時が民法724条にいう「損害を知った時」に該当するから、その時点から弁護士費用相当額の損害賠償請求権の消滅時効が進行すると解するのが相当である(最高裁昭和45年6月19日第2小法廷判決民集24巻6号560頁参照)。そして、弁論の全趣旨によると、原告は、平成13年10月1日、原告代理人に対し、本件訴訟に関する一切の権限を委任し、そのころ、報酬金等の支払を約束する契約を締結したこと、本件訴訟は、同月16日に提起されたことがそれぞれ認められる。そうすると、本件訴訟における不法行為による弁護士費用相当額の損害賠償請求権については、消滅時効が成立しているとはいえない。
 原告は本件訴訟を提起するに当たって弁護士に委任する必要があったと認められ、被告らが負担すべき弁護士費用の額は、本件に表れた諸般の事情を総合考慮すると、以下のとおりであると認めるのが相当である。
(ア) 本件演奏会(1) 60万円
(イ) 本件演奏会(2) 100万円
3 争点(3)について
 既に認定した事実によると、被告A及び被告会社は、本件訴え提起に至るまで約9年間にわたり、日本全国の演奏会場において、本件各演奏会を開催し、原告の管理著作物を原告の許可なく演奏し、又は、演奏に併せて舞踊させる方法によって使用してきたこと、原告は、本件各演奏会について、平成5年以来、原告と音楽著作物使用許諾契約を締結して使用料を支払うよう申し入れ、被告Aらと交渉をしてきたが、被告Aらは、これに応じなかったこと、以上のとおり認められる。
 もっとも、証拠(乙7の1)と弁論の全趣旨によると、本件各演奏会と同様の演奏会は、本件訴訟提起前である平成13年6月25日以降一度も開催されていないし、C本人も同演奏会を開催しない旨述べていることが認められるが、本件訴訟において、被告A及び被告会社は、原告の主張を争って著作権侵害の事実を否定する主張をしていること、証拠(乙7の1)によると、C本人は、主催者である被告らから終了する旨の申入れがあったために演奏会を中止すると述べており、積極的に自分の意思で今後行わない旨述べているものではないものと認められることからすると、被告A及び被告会社には、日本国内の演奏会場において歌謡ショー等コンサートを開催し、原告の管理著作物を演奏し又は演奏に併せて舞踊させる方法により使用するおそれが存するものと認められる。
 したがって、原告の被告A及び被告会社に対する差止請求は理由がある。
4 結論
 以上の次第で、原告の被告らに対する本件各請求は、主文掲記の範囲で理由があるから、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 森義之
 裁判官 内藤裕之
 裁判官 上田洋幸
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