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【事件名】フランチャイズ商法をめぐる匿名報道事件 【年月日】平成15年1月20日 福岡地裁 平成13年(ワ)第1473 謝罪広告等請求事件 判決 原告 株式会社X(旧商号’X) 原告訴訟代理人弁護士 古本栄一 同 内田文浩 被告 株式会社a新聞社 被告 b 被告 c 被告ら訴訟代理人弁護士 近藤卓史 同 秋山幹男 主文 1 被告らは、原告に対し、連帯して110万円及びこれに対する平成12年11月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は、これを5分し、その1を被告らの、その余を原告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告株式会社a新聞社及び被告bは、原告に対し、別紙1謝罪広告文記載の謝罪広告を、別紙2謝罪広告目録記載の週刊誌及び各新聞の広告欄に、各1回掲載せよ。 2 被告らは、原告に対し、各自1000万円及びこれに対する平成12年11月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、原告が、被告株式会社a新聞社(以下「被告会社」という。)が出版する週刊誌において、原告の商法を批判する記事が掲載され、これによって原告の名誉が毀損されたとして、被告会社、週刊誌の編集長及び記事の執筆者に対し、不法行為に基づく損害賠償の支払及び謝罪広告の掲載を求めた事案である。 1 争いのない事実ないし証拠により容易に認められる事実 (1) 当事者 ア 原告は、鍵、錠前類、セキュリティー商品、鍵製作機械等の販売及び修理等のフランチャイズ事業を営む株式会社である(甲第3号証)。 イ 被告会社は、新聞・書籍の出版等を目的とする株式会社であり、週刊誌「週刊a」を出版している。 被告bは、週刊誌「週刊a」の編集長であり、同週刊誌の編集方針及び掲載記事の内容・選択につき決定権限を有する者である。被告bと被告会社との間には雇用関係がある。 被告cは、被告会社から委託を受けた記者であり、後述する本件記事を取材・執筆した者である。 (2) 問題となる記事(甲第2号証) 被告会社は、平成12年11月28日販売の週刊誌「週刊a」12月8日号の記事において、「カギ屋ビジネス」関連の記事として、「チェーン店加盟者たちの怒りが爆発『甘い言葉にだまされた』」との見出しの下に3ページにわたる記事を掲載し(以下「本件記事」という。)、同週刊誌を全国に販売した。 本件記事中には、別紙3記載の@ないしIの各記述が存在する(以下、これらの記述を「本件記述@」などという。また、本件記述@ないしIを総称して「本件各記述」という。)。 (3) 原告は、本件記事が公共の利害に関係し、もっぱら公益を図る目的にでたものであっても、本件記述A、CないしFが原告の社会的評価を低下させる主要な部分であり、被告側において真実の証明をすべき対象になると主張している。 2 争点 (1) 本件記事により原告が特定され、原告の名誉が毀損されたか否か。 (2) 本件各記述が公共の利害に関する事実に係るものか、またその目的がもっぱら公益を図ることにあったか否か。 (3) 本件記述A、CないしFの摘示事実はその重要な部分において真実であるといえるか、又は、上記事実を真実であると信じることにつき相当の理由があるといえるか否か。 (4) 不法行為が成立する場合には、その損害額及び名誉を回復するのに適当な手段の要否 3 争点に対する当事者の主張 (1) 本件記事により原告が特定され、原告の名誉が毀損されたか否か。 ア 原告の特定性 (原告の主張) (ア) 原告は、「X」「Y」の名称で鍵と錠をベースとしたセキュリティー事業を展開し、福岡市に本社を置いて、全国に直営店14店舗、フランチャイズ店115店舗を擁する創業25年の株式会社である。そして、マスコミにおいても鍵業界のフランチャイズ本部として取り上げられるのは常に原告である。また、本件記事が掲載された直後に、読者から原告を中傷する文書が原告宛に送付されてきた。 したがって、「九州に本社がある大手のチェーン店」という記述(本件記述Cの一部)を一般の読者が見たとき、想起するのは原告であるので、本件記事により原告が特定される。 (イ) また、原告は、昭和51年に創業し、平成12年度の本部の売上高は約21億円、加盟店の売上高は約29億円であり、平成12年末時点の店舗数は、直営店が16、加盟店は107となっている。鍵のフランチャイズのチェーン展開をしているのは原告のみであり、その店舗数や売上高からみて、原告が鍵のフランチャイズチェーン店の「業界最大手」である。 したがって、フランチャイズチェーンの業界関係者、原告や同業他社の加盟店等の関係者にとっては、鍵業界で「九州に本社がある大手のチェーン店」といえばすぐに原告を想起するのであり、本件記事により原告が特定される。 (被告らの主張) ある表現が他人の名誉を毀損するというためには、一般読者が記事を読んで、その記事自体から、当該記事が誰に関するものであるか特定されることが必要である。本件記事は、「九州に本社がある大手のチェーン店」と匿名にしており、この記載だけでは、一般読者は記事から原告を特定することはできない。 イ 本件記事の名誉毀損性 (原告の主張) 本件記事を全体的に考察し、かつ、一般読者を基準とすれば、原告に対する苦情が国民生活センターに多数寄せられており、原告が「甘い言葉でだます」「もうけ最優先主義」の鍵のフランチャイズチェーン店であるとの印象を一般読者に与えるものであるから、本件記事により原告の社会的評価は低下させられた。 (被告らの主張) 本件記事は、原告が「甘い言葉でだます」「もうけ最優先主義」の鍵のフランチャイズチェーン店であると主張しているのではなく、原告については、国民生活センターへの苦情も含めて苦情が少なくないこと、及び、原告のチェーン店加盟者の不満、苦情を紹介しているものである。これにより、原告の名誉が毀損されるものではない。 (2) 本件各記述が公共の利害に関する事実に係るものか、またその目的がもっぱら公益を図ることにあったか否か。 (被告らの主張) 本件記事は、昨今鍵の交換などのビジネスが注目されているところ、鍵のフランチャイズチェーン店に関し、高額の指導料を取って簡単な講習で開業させ、後の面倒をみないなどのチェーン店加盟者からの不満、苦情が増えていることを紹介して、鍵のビジネス一般について問題提起をしたものであり、公共の利害に関する事実に係り、もっぱら公益を図る目的で報道されたものである。 (原告の主張) 本件記事の内容は、極端な誇張ないし蔑視的表現がみられ、原告を一方的に誹謗するものとなっているので、読者に対する注意喚起又は問題提起を意図していたとはいえないから、本件記事に公益目的性はない。 (3) 本件記述A、CないしFの摘示事実はその重要な部分において真実であるといえるか、又は、上記事実を真実であると信じることにつき相当の理由があるといえるか否か。 ア 本件記述Aについて (被告らの主張) (ア) 本件記述Aは、本件記事中の位置及びその表現自体からみて、原告に対するものとはいえず、鍵のフランチャイズチェーン店に関する一般論である。 よって、同記述自体が原告の名誉を毀損することはないから、同記述は真実証明の対象とはならない。 (イ) 仮に本件記述Aが真実証明の対象になるとしても、原告は、国民生活センターが同記述のような回答をした事実はあることを認めているのであるから、原告に対して加盟店の不満、苦情は存在したのであり、本件記述Aは真実である。 (ウ) また、被告cは、フランチャイズチェーン店の加盟者、元加盟者及び関係者だけではなく、別の業者からの裏付け取材もし、原告からも取材をした。さらに、被告cは、国民生活センターからも取材し、鍵のフランチャイズチェーン店に関する苦情相談が増えており全国から寄せられていることの説明を担当者から受けた。以上の取材を踏まえて、被告cは本件記事を執筆した。 したがって、仮に、原告に対する不満、苦情が少なくないというのが真実でないとしても、被告cには当該事実を真実だと信ずべき相当な理由があった。 (原告の主張) (ア) 本件記述Aは、「苦情が共通しているようだ。」というのであるから、原告に対してもかかる苦情が寄せられた事実が存在するかどうかは真実証明の対象となる。 そして、国民生活センターに対する、原告に関する相談は、約2年間で1件であり、その内容も単なる問い合わせにすぎず苦情ではないことから、本件記述Aは虚偽である。 (イ) また、被告cには当該事実を真実だと信ずべき相当な理由もなかった。 イ 本件記述C (被告らの主張) (ア) 本件記事は、鍵のビジネス全般について問題提起をしたものであるところ、本件記述Cは、「東京都に本社がある大手チェーン店」に対する「Aさん」「Bさん」の具体的な苦情の紹介の後に続く部分であり、同記述は、原告については国民生活センターへの苦情のみならず、加盟者、関係者等からの苦情も少なくないということを読者に伝えるものである。すなわち、同センターへの苦情が少なくないということだけが独立して真実証明の対象になるわけではなく、同センターに対する原告に関する苦情の件数は真実証明の対象にはならない。 そして、被告cは、原告に対する加盟者、関係者等の複数の苦情を取材し、国民生活センターへの苦情も確認していたのであるから、同センターへの苦情のみならず、加盟者、関係者等からの苦情も少なくないということは真実である。 (イ) また、上記のとおり、被告cは、原告については、加盟者、関係者等の複数の苦情を取材し、国民生活センターへの苦情も確認したのであるから、仮に、原告に対する不満、苦情が少なくないということが真実でないとしても、被告cには当該事実を真実だと信ずべき相当な理由があった。 (原告の主張) (ア) 本件記述Cは、「少なくないという」という談話形式で、その記述に対応する主語が直接には記載されていないが、本件記述Aで「国民生活センターによると」という同センターの談話が紹介された後に本件記述Cが登場していること、しかも、「国民生活センターに寄せられているのは、なにもこの業者だけではない」という表現が本件記述Cの冒頭に掲載されていることからすれば、一般の読者が普通の注意をもって本件記述Cを読めば、同センターの談話が紹介された記事と受け取る。 しかし、国民生活センターは、本件記述Cに関しては、周知の事実である場合や犯罪に関係がある場合を除いて、特定の業者名を挙げたり示唆することはしないと回答した。 したがって、国民生活センターに対して原告に関する苦情が寄せられたとの本件記述Cは虚偽である。 (イ) 本件記述Cは、「(原告に対する苦情も)少なくない」というのであるから、国民生活センターに対する原告に関する苦情の有無及びその件数は真実証明の対象となる。 しかし、国民生活センターの回答結果によると、原告に関する相談受付件数は、平成10年1月1日から平成12年11月30日までの間に1件であった。また、その相談事例(内容)も、「もうかるからと勧められ合鍵複製機のリース契約をしたが、飛び込みなので不安になった。信用できる業者か。」というものであった。すなわち、原告に対する相談は、平成10年1月から約2年間で1件にすぎず、その内容も単なる問い合わせにすぎなかった。 したがって、国民生活センターに対する原告に関する苦情はなかったのであるから、本件記述Cは虚偽である。 (ウ) また、被告cには当該事実を真実だと信ずべき相当な理由もなかった。 ウ 本件記述D (被告らの主張) (ア) 上記のとおり、真実証明の対象は、原告に対して加盟店の不満、苦情が存在するということである。そして、本件記述Dは、原告の加盟者Cから直接取材した内容であって、原告に対して加盟店からの不満、苦情が存在したのであり、本件記述Dは真実である。 (イ) また、上記のとおり、被告cは、原告については、加盟者、関係者等の複数の苦情を取材し、国民生活センターへの苦情も確認した。したがって、仮に、不満、苦情の内容それ自体が真実証明の対象であるとしても、その内容は真実であり、少なくとも真実と信ずべき相当な理由があった。 (原告の主張) (ア) 原告はこれまで本件記述Dのような苦情を加盟店から受けたことは全くない。したがって、本件記述Dは虚偽である。 (イ) また、被告cには当該事実を真実だと信ずべき相当な理由もなかった。 エ 本件記述E (被告らの主張) (ア) 上記のとおり、真実証明の対象は、原告に対して加盟店の不満、苦情が存在するということである。そして、本件記述Eの「このチェーン店の関係者」とは、過去に原告のフランチャイズチェーン店の仕事に携わっていた者を指し、本件記述Eは、被告cがその関係者から直接取材した内容であるから、原告に対する不満、苦情が存在したのであり、本件記述Eは真実である。 (イ) また、被告cは、原告については、加盟者、関係者等の複数の苦情を取材し、国民生活センターへの苦情も確認した。したがって、仮に、不満、苦情の内容それ自体が真実証明の対象であるとしても、その内容は真実であり、少なくとも真実と信ずべき相当な理由があった。 (原告の主張) (ア) 原告はこれまで本件記述Eのような苦情を加盟店から受けたことは全くない。したがって、本件記述Eは虚偽である。 (イ) また、被告cには当該事実を真実だと信ずべき相当な理由もなかった。 オ 本件記述F (被告らの主張) (ア) 上記のとおり、真実証明の対象は、原告に対して加盟店の不満、苦情が存在するということである。本件記述Fは、原告の説明会資料にあった開業時に必要な工事の見積表を、鍵関連部材の問屋・卸売業を営む業者にみてもらい、意見を求めた際の当該業者の応答を記述したものである。 したがって、原告が加盟店に売る工具の額は市価より3割程度高いという不満、苦情があったのであり、本件記述Fは真実である。 (イ) また、被告cは、原告については、加盟者、関係者等の複数の苦情を取材し、国民生活センターへの苦情も確認した。したがって、仮に、不満、苦情の内容それ自体が真実証明の対象であるとしても、その内容は真実であり、少なくとも真実と信ずべき相当な理由があった。 (原告の主張) (ア) 原告はこれまで本件記述Fのような苦情を加盟店から受けたことは全くない。したがって、本件記述Fは虚偽である。 (イ) また、被告cには当該事実を真実だと信ずべき相当な理由もなかった。 (4) 不法行為が成立する場合には、その損害額及び名誉を回復するのに適当な手段の要否 ア 損害額 (原告の主張) 原告は、本件記事により名誉及び信用を毀損され、甚大な無形の損害を被ったが、これを金銭に評価すると800万円を下らない。また、原告は、本訴の提起追行を原告訴訟代理人に委任したが、その弁護士費用は200万円が相当である。 (被告らの主張) 争う。 イ 名誉を回復するのに適当な手段の要否 (原告の主張) 週刊誌「週刊a」は発行部数が多く、その社会的影響力は極めて大きい。本件記事が掲載された「週刊a」が全国に販売された直後の平成12年12月3日ころ、本件記事のコピーに「ボッタクリ カギチェーン!」という中傷文書を添付した、差出人匿名の郵便物が原告の熊本本部に送りつけられてきた。このように、本件記事の社会的反響は極めて大きく、被告らの原告に対する名誉毀損は極めて深刻であり、金銭賠償のみでは慰謝しきれないものがある。よって、原状回復措置として、第1、1のとおりの謝罪広告の掲載が不可欠である (被告らの主張) 争う。 第3 争点に対する当裁判所の判断 1 争点(1)(本件記事の名誉毀損性)について (1) 証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ア 原告は、「Y」「X」フランチャイズチェーン本部としてのフランチャイズチェーン店の募集、指導及び管理等を業務内容としている(甲第3号証)。 平成12年当時、原告の売上高は、直営店・加盟店併せて39億0200万円であり、出店状況は、直営店16店、加盟店107店だった(甲第9号証)。 原告は、「X」「Y」を商標登録しており、原告店舗や原告が使用する車両にも、同商標が大きく印刷されている(甲第9、21号証)。 原告は、平成12年当時、社団法人日本フランチャイズチェーン協会の正会員だった(甲第12号証)。原告代表者は、同協会の平成13年度理事及び九州支部長を務めていた(甲第14号証)。 イ 原告は鍵ビジネスのフランチャイズオーナーであり、d株式会社は鍵ビジネスの代理店オーナーである(甲第17号証)。フランチャイズ契約は、本部が加盟店に対しビジネスが成功するノウハウを一式パッケージにして提供するシステムであるのに対して、代理店契約は、本部が代理店に対しそのビジネスで扱う商品やサービスの販売権を提供するだけのシステムである(甲第17号証)。dは、平成12年当時、社団法人日本フランチャイズチェーン協会の賛助会員だった(甲第12号証)。 ウ 同年12月3日ころ、原告熊本本部に、「ボッタクリ カギチェーン!」と書かれたビラと週刊aから抜粋した本件記事が同封された封筒が郵送された(甲第8号証)。 エ 平成12年12月28日、NHK列島リレー「あなたのカギあけます・新米カギ師44才の昼と夜」と題する番組において、原告加盟店の活動風景がドキュメント風に放映された(甲第10号証)。 平成13年1月11日、RKB毎日放送「探検!九州(九州の元気印企業)」と題する番組において、原告加盟店の取材風景がVTR放映され、さらに原告加盟店オーナーと原告営業部部長が番組に出演し、開錠作業の実演及び解説などをした(甲第11号証)。 (2) 原告の特定性 この点、被告らは、本件記事は「九州に本社がある大手のチェーン店」と匿名にしているから、一般読者は本件記事から原告を特定できないと主張する。 しかしながら、上記(1)のとおり、原告の直営店・販売店は約120店であること、原告以外にフランチャイズ類似の形態で鍵ビジネスの全国展開を行っているのはdだけであり、dの本社は東京であるのに対し、原告の本社は九州であること、原告の商標「Y」と「X」が広く使用されていること、原告がテレビ番組の取材を受けることが多いこと、本件記事発表後原告を中傷するビラが原告宛に送られてきたことなどを考慮すれば、本件記事発表当時、業界関係者のみならず、一般の読者も「九州に本社がある大手のチェーン店」という記述を読めば、原告を想起するといえるので、被告らの主張には理由がない。 したがって、本件記事により原告が特定される。 (3) 本件記事の名誉毀損性 ア 本件記述A及びC 本件記述Aには、鍵のフランチャイズチェーン店に関する加盟店からの苦情相談が国民生活センターに全国から寄せられていること、その苦情に共通しているのは、簡単にできるビジネス、高額の指導料を取る、簡単な講習で開業させる、後の面倒はみないといったものであることという事実が摘示されている。 また、本件記述Cには、原告に関しても国民生活センターに寄せられている苦情が少なくないという事実が摘示されている。 これらの記述を読めば、一般の読者は、原告が、高額の指導料を取ったにもかかわらず後の面倒をみないので、加盟店から多くの苦情が寄せられているような悪徳業者であるとの印象を受けるから、本件記述A及びCは原告の社会的評価を低下させているといえる。 イ 本件記述D 同記述には、原告加盟店のCが、開業するには資金がかかり、開業後は売上が伸びず、経営が圧迫されていること、原告が加盟店に要求した店舗の広さが広すぎること、講習は最初の2か月間行われただけであると述べたという事実が摘示されている。 そして、本件記述Dの発信源である加盟店の名前が匿名であり、苦情の信ぴょう性が実名で陳述された場合に劣ることはあるとしても、本件記述Dは、「月々の営業日誌をめくる」「開業費用として借金して4000万円を工面した」など陳述が具体的であり、さらに「生き地獄です」という刺激的な表現があることに照らせば、一般の読者が本件記述Dを読めば、原告が、加盟店を犠牲にして本部の利益を最優先するような会社であるとの印象を受けるから、本件記述Dは原告の社会的評価を低下させているといえる。 ウ 本件記述E及びF 本件記述Eには、原告の関係者が、原告は加盟店に高額で工具を売りつけると述べたこと、本件記述Fには、別の鍵業者が原告の工具見積りより3割安く同程度の工具を手配できると述べたという事実が摘示されている。 そして、本件記述Eの発信源である関係者の名前が匿名であるとしても、同記述は、30万円ほどで買えるものを45万円で売りつけるなど外部の者にはわからない内情が具体的に記載されていること、本件記述Fが別の業者の見積りを載せていることからすれば、一般の読者が本件記述E及びFを読めば、原告が、加盟店を犠牲にして本部の利益を最優先するような会社であるとの印象を受けるから、本件記述E及びFは原告の社会的評価を低下させているといえる。 エ この点、被告らは、本件記事は、原告が「甘い言葉でだます」「もうけ最優先主義」の鍵のフランチャイズチェーン店であると主張しているのではなく、原告については、国民生活センターへの苦情も含めて苦情が少なくないこと、及び、原告のチェーン店の加盟者の不満、苦情を紹介しているだけであり、原告の名誉は毀損されないと主張するが、本件記事は、一般的に加盟者の苦情が存在すると伝えているのではなく、A、Cなど具体的な加盟者の存在を前提として、その者が苦情を告げているという体裁をとっていること、本件記述@が大見出しで「甘い言葉にだまされた」と記載していることからすれば、一般の読者が本件記事を読めば、単に苦情が存在するだけでなく、その苦情の内容が真実であるとの印象を受け、一般の読者がそのような印象を受ければ、原告の社会的評価は低下するから、被告らの主張には理由がない。 2 争点(2)(本件記事の公共性、公益性)について 証拠(乙第6号証、被告cの本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば、本件記事は、ピッキング被害による需要増などで注目を集めている鍵ビジネスをめぐり、開業前の説明と実体が乖離していることに疑問をもっている加盟店がいることを紹介し、読者に注意喚起を促したものであることが認められ、これは社会的関心の高い事実であるといえるから、公共の利害に関する事実につき、公益目的をもって執筆されたものと認められる。 3 争点(3)(本件記事の真実性、真実相当性)について 上記1、2によると、本件記述A、CないしFは、原告の社会的評価を低下させるものであるが、いずれも公共の利害に関する事実に係り、もっぱら公益を図る目的にでたものであるから、摘示された事実が真実であることが証明されたときは違法性がなく、不法行為は成立せず、仮に真実であることが証明されない場合でも、行為者においてその事実を真実と信ずるについて相当な理由があるときは、故意又は過失がなく、不法行為は成立しない。 そして、その真実性を証明すべき事実の範囲については、記事に掲載された事実のすべてについて細大もらさず真実であることの証明を要するものではなく、その主要な部分において、あるいは大筋において真実であることが証明されれば足りると解される。 以下、この観点から、本件記述A、CないしFの真実性について、検討する。 (1) 本件記述A及びCについて ア 証拠(甲第4号証、30号証、乙第6号証、証人eの証言及び被告cの本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 (ア) 被告cの取材活動 被告cは、平成12年10月25日ころ、国民生活センターに電話取材し、同センターの職員に対し、鍵のフランチャイズチェーン店について苦情がきていないか尋ねた。 被告cは、同センターから、鍵のフランチャイズチェーン店に関し苦情相談が増えており全国から寄せられていること、その中には業界の最大手や大手業者に対する苦情もあること、簡単にできるビジネスといったうたい文句が共通しており、高額の指導料をとって後の面倒はみない、との苦情が共通しているとの説明を受けた。その際具体例として、@月50万円以上儲かるとの説明を受けたがうそだった、A代理店になれば月80万円の売上を保証すると言われたが、月20ないし30万円の売上しかない、B代理店契約で200万円支払ったが儲からない、C鍵の技術を習得したいと思った、講習会の受講料が600万円と言われ、犯罪をしない旨の書類に拇印の押印を求められ、不安になった、という説明が挙げられた。 被告cは、国民生活センターからの取材に基づいて、本件記述A及びCを執筆した。 (イ) 原告の裏付調査 原告常勤顧問法務担当eは、本件記事が発表された後、国民生活センターに、原告に苦情が寄せられているか否か電話で確認した。同センター消費者情報部fは、平成12年11月29日電話で、同月30日eの訪問を受けて、同人に対し、「取材は受けた。」「周知の事実であるとか、犯罪に関係あるとかの場合を除いて特定の名前を出すようなことはしない。」と答えた。 eは、ほかの苦情処理機関にも問い合わせたところ、九州通産局及び福岡市消費者生活センターは、鍵について業者からの相談はないと答えた。 (ウ) 国民生活センターに寄せられた苦情 国民生活センターは、平成13年6月26日、弁護士法23条の2に基づく照会(発第01の0845号)に対し、原告について、平成10年1月1日から平成12年11月30日までにデータ入力された件数は1件であること、相談事例は、「もうかるからと勧められ合鍵複製機のリース契約をしたが飛び込みなので不安になった。信用できる業者か。」というものだったと回答した(乙第3号証の1ないし3)。 また、同センターは、平成14年7月1日、弁護士法23条の2に基づく照会(平成14年福弁照第01−574号)に対し、同センターは被告cの取材に対して、「業界最大手」という表現を用いたり、原告の社名を挙げて、苦情の有無など言っていないと回答した(甲第32、33号証)。 (エ) 集団訴訟 原告の加盟店だったg、h開発株式会社、i及びjは、平成14年4月24日、福岡地方裁判所に、原告の過大な勧誘を信じ契約したが売上が伸びなかったとして、原告に総額約1億1000万円の損害賠償を求める訴えを提起した(乙第16、17号証)。 イ 本件記述Aについて (ア) 摘示事実 本件記述Aは、鍵のフランチャイズチェーン店に関する苦情相談が増えている、苦情の内容は、高額の指導料をとって後の面倒をみないというものであるという事実を摘示するものである。 (イ) 真実性 上記ア(ア)のとおり、国民生活センターには、鍵のフランチャイズチェーン店に関して4件の苦情相談が寄せられていたこと、同苦情相談の内Cを除けば、鍵のビジネスを始めたが思ったより売上が上がらないなど、おおむねフランチャイズチェーン本部の経営手法に対する苦情であったことが認められる。 したがって、本件記述Aの重要部分について真実であるとの証明があったといえる。 よって、本件記述Aについては、被告らは不法行為責任を負わないものというべきである。 ウ 本件記述Cについて (ア) 摘示事実 本件記述Cは、原告に関しても、国民生活センターに苦情が少なからず寄せられているという事実を摘示するものである。 (イ) 真実性 上記ア(ウ)のとおり、平成10年1月1日から平成12年11月30日まで国民生活センターに対する原告に関する相談は約2年間で1件であったこと、その相談の内容も単なる問い合わせにすぎず苦情ではないことから、本件記述Cの重要部分について真実であるとの証明がされたとはいえない。 この点につき、被告らは、国民生活センターに対する原告に関する苦情の件数は真実証明の対象にならないと主張するが、本件記述Cを読めば、一般の読者は、国民生活センターに対して原告に関する苦情が多数寄せられているとの印象を受けるのであるから、同センターに対する原告に関する苦情の件数は重要な事実といえるのであり、被告の主張には理由がない。 (ウ) 真実と信じるにつき相当の理由 また、上記ア(イ)のとおり、国民生活センターは周知の事実である場合や犯罪に関係する場合を除いて、問い合わせに対して、(苦情が出された業者の)特定の名前を出すことはしないことからすれば、被告cは同センターに原告に関する苦情が寄せられているか否かを正確に知ることはそもそもできなかったこと、原告に関する相談は約2年間で1件だったこと、被告cの供述ないし陳述書によれば、同人は同センターの女性職員から聞いた苦情の内容のうち、1件はフランチャイズチェーンについての苦情ではないし、残りの3件は代理店契約によるカギ業者についてのものであることからすれば、同センターに寄せられている苦情が原告に対するものではないことは容易に判明したこと、及び、国民生活センター以外の苦情処理機関は原告に関する苦情を受けておらず、被告cが他の機関に問い合わせていれば原告に関する苦情が寄せられていないことが容易に判明したことに照らせば、被告cが(ア)の事実を真実であると信じることについて相当な理由があったと認めることもできない。 (エ) 以上によれば、本件記述Cについては、その摘示事実が真実であることも、また、これを真実であると信じるについて相当の理由があったことも認められないから、被告らは不法行為責任を負うものと認めるべきである。 (2) 本件記述Dについて ア 証拠(甲第25、28ないし30号証、乙第1、2、6号証、証人g及びkの各証言及び被告cの本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。 (ア) 原告のフランチャイズ契約 フランチャイズ契約書2条3項及び4条2項において、加盟店には、原告の開催する定例技術研修会及び定例販売促進セミナーを受ける義務がある旨定められている(乙第7号証)。定例技術研修会は毎年2月と10月の年2回、販売促進セミナーは毎年7月の年1回開催されている。また、原告は、上記定例の研修以外にも、加盟店からの技術面・営業面の問い合わせに対し、専門のスタッフが日常的にアドバイスできる体制をとっている(甲第25、29号証)。 (イ) g(以下「g」という。)の原告に対する不満、苦情 a gは、平成11年3月15日ころ、テレビの取材番組を見て原告に問い合わせをした(甲第22、28号証)。 原告東京本部営業部課長kは、同月31日、gが資料請求をしたので、会社経歴書、業務内容を説明した書類をgに送付した。 b gは、同年4月24日、東京都市ヶ谷で開かれた説明会に参加した。同説明会では、加盟店の売上実績を示す資料(甲第23号証)、収支概算表、新聞・雑誌の関連記事などが配られた。 売上推移表には、売上が良い加盟店も悪い加盟店もすべて記載されていた(甲第23号証、g・168項)。 同説明会では、原告営業本部長lが、上記資料を用いて、会社経歴、具体的な仕事の内容、一般の鍵業者との違いなどの説明をした。lは、売上実績については、上記売上推移表(甲第23号証)を示し、売上実績のある加盟店とない加盟店の生のデータを示し、その違いについて説明した。 説明会で配布された雑誌記事(乙第9号証)には、加盟店は開業後約3か月で軌道にのり、月商280ないし300万円は可能で、開業資金も5年以内、東京都内なら2年以内で回収できるとの記載があったが、他方、売上をいかに伸ばすかは営業努力次第であること、各加盟店の具体的な努力、原告代表者自ら104番に電話を何回もかけて原告の知名度を高める営業努力を重ねたことなどの記載があった。 c gは、平成11年6月、日立製作所を退社し(g26項)、同年7月5日、原告とフランチャイズ契約を締結した(甲第28号証、乙第7号証)。 gは、平成11年7月5日から2か月間の開業技術講習を受け、同年11月末ころ、原告長住店をオープンした(g・44項)。 gが原告に対して開店時に支払った加盟金、預り保証金などは2673万2300円であり(乙第11号証)、そのほか、gは、店内改装費用として1300ないし1400万円を支出し、結局、開業資金として合計約4000万円費やした(g・66項)。 d gは、平成11年7月5日から2か月間の開業技術講習を受けた後、平成13年の契約解除に至るまで、一度も定例技術研修会や定例販売促進セミナーに参加しなかった。 gは、平成13年11月、原告とのフランチャイズ契約を解約した(g・3項)。 (ウ) 被告cの取材活動 a 被告cは、平成12年10月11日、原告のチェーン店関係者らに取材を始めた。被告cは、最初に取材した、九州在住の原告のチェーン店関係者(以下、「丙」という。)から、月に売上がどの店でも最低200万円はあるような説明を原告の本部がするが、実際はかなり難しいこと、仕入れや商品購入の費用・在庫も負担になること、本部から仕入れると市価の1.5倍から2倍はすること、原告は人の弱みにつけこむことなど、本件記述Eのような話を聞いた。 そして、丙は、cに対し、本件記述Dで登場するCを紹介した。 b 被告cは、同年10月18日、九州でCが営む店において、約2時間、取材をした。Cは、被告cに対し、月の売上が250万円と言われたのに、毎月100万円台が大半であること、内装工事の業者は本部の指定であり、工事代金が普通の業者の1.5倍もかかること、今は辞めるに辞められず生き地獄であること、出店コストが4000万円というのは高すぎること、店舗も20坪が目安というのは広すぎること、出店前に講習が2か月あるが現場で通用する技術を身につけるには1年間は必要であることなど、本件記述Dのような説明をした。 c 被告cは、原告が加盟店に購入させている機器等が本当に相場より高いのか確かめるために、鍵と錠の専門店用機械・工具・鍵材料及び防犯装置類製造卸販売を行っている株式会社の代表者や甲に、原告の見積書(乙第1、2号証)を見てもらったところ、同じものなら3割安く手配できるなど、本件記述Fのような回答を聞いた。 d その後、被告cは、原告に対し、約3回電話取材を行った。被告cは、原告常勤顧問eから、1回目の電話で、原告会社の概要を聞き、2回目の電話で、加盟店から批判の声が上がっていることを話し、そのことについての意見を求めた。被告cが、質問事項をまとめてFAXで送ったところ(甲第27号証)、eは、国民生活センターに送られている苦情は知らないと答えた。 eは、被告cに対し、資料等をもとにして詳しく説明したいので、原告本部まで来社してほしい旨依頼したが、被告cは、忙しいからという理由で断った(甲第30号証)。 e 被告cは、それ以外にも日本特殊技能開発センターに対しても取材を行うなど、約1か月半にわたる取材を終えた後、同年10月下旬から11月初めにかけて本件記事の執筆を行った。 被告cは、本件記事を執筆中、Cからgを紹介されたが連絡がつかず、本件訴え提起後、gから取材をした。 イ 摘示事実 本件記述Dは、原告が、売上が一月250万円ある旨を約束・保証したにもかかわらず、実際の売上が100万円台前半しかないこと、講習が最初の2か月間しかないことという事実を摘示するものである。 この点、被告らは、本件記述Dが摘示した事実は、原告に対して加盟店の不満、苦情が存在することであると主張する。しかしながら、本件記述Dには、「月々の営業日誌をめくる」「開業費用として借金して4000万円を工面した」など具体的な陳述があること、さらに「生き地獄です」という刺激的な表現があることに照らせば、一般の読者が同記述を読めば、原告が、加盟店を犠牲にして本部の利益を最優先するような会社であるとの印象を受けるから、本件記述Dが摘示した事実は、加盟店の不満、苦情が存在することだけではなく、まさに不満、苦情の内容であるので、被告らの主張には理由がない。 ウ 真実性 (ア) 真実性を証明する証拠方法について 原告は、本件記述Dには、Cという特定の加盟店の発言内容が摘示されているのであるから、ほかの加盟店である証人gの証言をもって真実性の立証に代えることはできないし、被告cが摘示事実が真実であると信じたことが相当であると認めることもできないと主張する。 しかしながら、本件記事は原告に対する加盟店からの苦情が少なくないという印象を与えるものであること、本件記述Dに摘示された苦情(売上が当初の説明より少ない、開業後のサポートがないということ)は、Cを含めた原告加盟店全体に共通するものであることからすれば、本件記述Dの真実性を証明する証拠方法としてCの供述・証言に拘泥する必要はなく、本件においては、Cと同じ、原告加盟店であるgの証言をもって、本件記述Dの真実性を証明できると解される。 (イ) 売上が当初の説明より少ないことについて 上記アによれば、原告が説明会のときに配布した売上推移表(甲第23号証)には、売上が良い加盟店も悪い加盟店もすべて記載されていたこと、同説明会のときに配布された資料には、売上をいかに伸ばすかは営業努力次第である旨記載があったことが認められる。 したがって、原告が一月250万円の売上がある旨を約束・保証したとの点について真実であるとの証明がされたとはいえない。 (ウ) 開業後のサポートがないことについて 上記アによれば、原告は定例技術研修会及び定例販売促進セミナーを定期的に開催していたこと、研修会等、専門の原告スタッフが日常的にアドバイスできる体制をとっていることが認められる。 したがって、原告が開業後のサポートをしないという点について真実であるとの証明がされたとはいえない。 (エ) したがって、本件記述Dについて真実性の証明があったとはいえない。 エ 相当な理由 また、上記ア(ウ)dのとおり、eが被告cに対し資料等をもとにして詳しく説明するので原告本部まで来社してほしいと申し出たにもかかわらず、被告cは上記申出を断ったところ、被告cが同申出を受けて原告本部に来社しeから直接説明を聞けば誤解が溶けた可能性もあったことから、被告cは慎重な裏付取材を怠ったといえるのであり、被告cが上記イの事実を真実であると信じたことにつき相当な理由があったと認めることもできない。 オ 以上によれば、本件記述Dについては、その摘示事実が真実であることも、また、これを真実であると信じるについて相当の理由があったことも認められないから、被告らは不法行為責任を負うものと認めるべきである。 (3) 本件記述E及びFについて ア 証拠(甲第18、19、20、25号証、乙第5号証、証人mの証言及び被告cの本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。 (ア) 原告の販売する機械等の価格 a 平成12年7月15日に配られた説明会資料によると、原告に加盟して開業する際必要な費用として、車載用機械FC−15は49万9000円、FC−5は67万8000円、店舗用機械マトリックスSLXは54万円だった(乙第1号証)。 一方、鍵関連部材の問屋・卸売販売業のo株式会社の見積によると、JM−550の単価は28万円、エコドリル2000コードの単価は38万8000円だった(乙第5号証)。 なお、平成13年9月に開催された鍵屋リンクスという会社の展示会のチラシによると、マトリックスSLXが同展示会で39万8000円で販売されていたが、これは大阪展示会開催記念セールにおけるセール特価であり、限定数5台であった(乙第5号証)。 b FC−15(キーマシン)について (a) FC−15は合鍵複製機である。o製のJM−550と構造自体は同じである。 (b) しかし、原告は、ダイヤルガイドを付加して注文するので、購入価格は、原告の仕入先である株式会社n製の一般仕様のFC−15より、さらに2万5000円程度高くなる。 (c) また、FC−15にはモーターにコンデンサー(電圧を調整する機械)が付いているが、o製のJM−550にはコンデンサーは付いていない。 原告は、モーターにコンデンサーを付けるよう特注しているので、これにより購入価格は、n製の一般仕様のFC−15より3万円程度高くなる。 (d) さらに、FC−15は、カギを挟む部分が4面バイスになっているが、o製のJM−550は2面バイスである。 4面バイスを装備したときの購入価格は、2面バイスを装備したときに比べて、3ないし4万円高くなる。 (e) また、FC−15は、キーブックを含めた価格になっているが、o製のJM−550にはキーブックが含まれていない。 キーブックの値段は2万8000円くらいである。 (f) そして、FC−15には、原告オリジナルの資料である特殊合カギ資料が付いている(甲第36号証)。 c FC−5(コードマシン)について (a) コードマシンとは、カギを紛失した依頼者に対し新たなカギを作る機械である。o製のJM−650とほぼ同じ機械である。 (b) FC−5には、コードブック(鍵のコードナンバーが記載されたもの)とサンプルキーが付いているが、o製のコードマシンJM−650の価格には、コードブック等が含まれておらず、機械単体のみの価格となっている。 FC−5には、上記コードブック等が付くことにより、購入価格は、一般仕様のものより、約10万円高くなる。 d マトリックスSLXについて (a) マトリックスSLXは、特殊な鍵の複製を行う機械である。o製のエコドリル2000とほぼ同じ機械である。 (b) マトリックスSLXには、原告が特注した刃先が付いており、エコドリル2000はコンピューター制御になっているなどの違いがあり、両者の価格を単純に比較することはできない。 e nは、カギ関連部材の大手メーカーであり、全国で60ないし70パーセントのシェアをもっている。nの製品は、業界で最も品質が良いといわれている。 以上のように、原告が特注したn製品には、一般仕様のものに比べ、様々な特殊機能が付加されている(甲第18ないし20号証)。 (イ) 被告cの取材活動 被告cは、平成13年11月16日、oを訪問し、o代表者pに対し、原告の見積書(乙第1号証)を見てもらい、機械・工具の価格について意見を求めた。 pは、被告cに対し、原告の見積書にあるキーマシンのFC−15は、oの見積書にあるJM−550とほぼ同等の製品であり、両者の性能はほぼ同じであること、また、原告の見積書にあるFC−5型は、oの見積書にあるJA−001とほぼ同等の製品であることを説明した。さらに、同人は、原告の見積書にあるマトリックスSLXは、oの見積書にあるエコドリル2000に該当する製品で、エコドリルの方が性能が高く、上位機種であると説明した(乙第5号証)。 被告cは、原告の見積書とoの見積書を比較して、ほぼ同じ性能の機械についてoの販売価格の方が3割以上安いことを確認した。 イ 摘示した事実 本件記述E及びFは、加盟店が原告から購入する工具、機械がほかの店より高額であるという事実を摘示するものである。 ウ 真実性 上記のとおり、原告が販売する機械等はoが販売する機械等よりも約3割ほど価格が高いことが認められるが、原告が販売する機械は細部の仕様が上位のものであったり、コードブックなど付加価値があったのであり、原告が販売する機械等の価格を単純にoが販売する機械等と比較するのは相当ではないことから、原告が販売する機械等の価格が不当に高いということはできない。 したがって、本件記述E及びFについて真実性の証明があったとはいえない。 エ 相当な理由 また、上記(2)ア(ウ)dのとおり、被告cは、eに直接事情を聞くことを怠ったのであり、eから直接説明を聞けば誤解が溶けた可能性もあったことから、被告cは慎重な裏付取材を怠ったというべきであり、被告cが上記イの事実を真実であると信じたことにつき相当な理由があったと認めることもできない。 オ 以上によれば、本件記述E及びFについては、その摘示事実が真実であることも、また、これを真実であると信じるについて相当の理由があったことも認められないから、被告らは不法行為責任を負うものと認めるべきである。 4 争点(4)(賠償額等)について (1) 前項において検討したところによると、本件記事はほぼその全体において、慎重な裏付取材を欠いた取材活動により得られた情報をもとに、原告が、加盟店を犠牲にして儲けていることを批判する内容の記事が記述されているのであり、原告の社会的信用を毀損するものとなっているといえる。 しかしながら、反面、本件記事は、業界トップの企業である原告の営むフランチャイズチェーンシステムの問題点を指摘する意図のもとに掲載されたものであり、ことさらに虚偽の事実を摘示したものといえないこと、原告の名前を匿名で出すなどの配慮もしていることなどに照らせば、原告の社会的信用に対するダメージもさほど甚大であるとはいえない。これらに加え、「週刊a」が全国紙であり発行部数も多いことなど本件に現れた諸般の事情を併せ考慮すると、本件において被告らが賠償すべき慰謝料は100万円と認めるのが相当である。 また、弁論の全趣旨によれば、原告が本訴の提起・追行を原告訴訟代理人に依頼したことが明らかであるところ、被告らの不法行為と因果関係がある弁護士費用としては10万円をもって相当と認められる。 (2) 次に謝罪広告の掲載について判断するに、謝罪広告は、その性質上、名誉回復のためにその必要性が特に高い場合に限って命ずるのを相当とする措置であると解すべきところ、本件記事が原告の社会的信用に対してさほど甚大なダメージを与えたとはいえないことは前記のとおりであるから、損害賠償の支払に加えて、謝罪広告の掲載を必要とするまではいえない。 第4 結論 以上により、原告の請求は、被告らに対し各自110万円及びこれに対する平成12年11月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容することとし、その余は理由がないからこれを棄却することし、訴訟費用の負担については民事訴訟法64条本文を、仮執行宣言については同法259条1項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。 福岡地方裁判所第6民事部 裁判長裁判官 杉山正士 裁判官 武野康代 裁判官 上野弦 |
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