判例全文 line
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【事件名】「超時空要塞マクロス」の著作権確認事件B
【年月日】平成15年1月20日
 東京地裁 平成13年(ワ)第6447号 著作権確認等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成14年10月28日)

判決
原告 株式会社竜の子プロダクション
訴訟代理人弁護士 大野幹憲
同 窪木登志子
同 塩谷崇之
同 千代田有子
被告 株式会社スタジオぬえ
被告 株式会社ビックウエスト
被告ら訴訟代理人弁護士 新保克芳
同 國廣正
同 五味祐子
同訴訟復代理人弁護士 池田浩一郎


主文
1 原告と被告らとの間において、別紙目録記載1ないし36のアニメーション映画につき、原告が著作権(著作者人格権を除く。)を有することを確認する。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、10分し、その9を被告らの、その余を原告の、各負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 原告と被告らとの間において、別紙目録記載1ないし36のアニメーション映画につき、原告が著作権(著作者人格権及び著作権)を有することを確認する。
2 被告らは、原告が別紙目録記載1ないし36のアニメーション映画を公に上映し、その複製物により頒布することを妨げてはならない。
第2 事案の概要
 本件は、原告が被告らに対し、別紙目録記載1ないし36のアニメーション映画(以下「本件テレビアニメ」という。)について、原告が著作権を有することの確認、及び原告が本件テレビアニメを公に上映すること等の妨害行為の差止を求めている事案である。
1 争いのない事実等
(1) 原告は、アニメーション映画制作会社であり、昭和40年ころから「宇宙エース」、「マッハGoGoGo」、「おらぁグズラだと」、「ハクション大魔王」「昆虫物語みなしごハッチ」、「科学忍者隊ガッチャマン」などのアニメーション映画を製作し、公表してきた。
 被告株式会社スタジオぬえ(以下「被告スタジオぬえ」という。)は、作家、画家、漫画家等のための渉外、経理事務、取材等の代行業務等を行う企画会社である。
 被告株式会社ビックウエスト(以下「被告ビックウエスト」という。)は、テレビ、ラジオの宣伝映画等の企画及び製作等を業とする会社である。
(2) 原告と株式会社毎日放送(以下「毎日放送」という。)は、昭和57年9月30日(第1話ないし第21話に関する)及び昭和58年3月10日(第22話ないし第36話に関する)、本件テレビアニメの制作及び放送に関する契約を締結した(甲2、3)。本件テレビアニメは、昭和57年10月3日から昭和58年6月26日まで、毎日放送をキー局としてテレビ放映された。
 上記契約に係る契約書には、原告は、毎日放送に対して、同契約で定めた納品スケジュールに従って、本件テレビアニメを制作し、納品する義務を負い、原告が同義務に違反した場合は、毎日放送は上記契約を解約し、損害賠償をすることができる旨記載されている。
2 主要な争点
(1) 原告は、著作権法(以下「法」という。)15条1項の規定により、本件テレビアニメについての著作者人格権及び著作権を取得したか。
(2) 原告は、法29条1項の規定により、本件テレビアニメについての著作権を取得したか。
第3 争点に関する当事者の主張
(原告の主張)
1 主位的主張(法15条1項による著作者人格権及び著作権の取得)
(1) 根拠法条
 法15条1項は、「法人その他使用者・・・の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く。)で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、・・・その法人等とする。」旨規定する。
(2) 創作者
 本件テレビアニメにおいて、「その映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」は、プロデューサーであるP及び現場での製作プロデューサーのQである。同人らは、原告の業務に従事する者として、本件テレビアニメを職務上作成した。
 なお、本件テレビアニメの創作に、被告ビッグウエスト、被告スタジオぬえ、訴外アートランド所属のスタッフが、参画していたとしても、いずれも、「その映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与」する行為を担当したことはない。
(3) 公表名義
 本件テレビアニメは、原告が自己の著作名義の下の公表を予定するものであり、実際にも、原告の著作名義の下で公表された。本件テレビアニメの各話のクレジットでは、「製作  毎日放送、タツノコプロ、アニメフレンド」と表示され、被告らの表示はなく、また、このような製作者の表示に対して、被告らから異議が述べられたこともない。
(4) 結論
 したがって、原告は、法15条1項の規定により、本件テレビアニメについての著作者人格権及び著作権を取得した。
2 予備的主張(法29条1項による著作権の取得)
(1) 根拠法条
 法29条1項は、「映画の著作物・・・の著作権は、その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、当該映画製作者に帰属する」と、法2条1項10号は、「映画製作者」について「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者」と、それぞれ規定する。
(2) 映画製作者
 本件テレビアニメについての映画製作者は、以下のとおり、原告である。
 すなわち、本件テレビアニメの制作は、毎日放送との契約(甲2、3)に基づき、原告の判断により行われたものであり、この契約は、原告が制作した本件テレビアニメを毎日放送が日本国内において独占的にテレビジョン放送する権利を取得することを前提として成り立っており、「本映画の制作・・・にかかわる著作権、など一切の諸権利に対する処置については」すべて原告の責任と負担において行うことが契約上明記されている(第8条)。また、本件テレビアニメの制作費用は、毎日放送から支払われる費用(1話550万円。ただし、その支払は本件テレビアニメの放映後である。)を除いて、すべて原告が負担し、被告らは全く負担していない。原告は、本件テレビアニメの制作のため、延べ200名以上の制作スタッフを雇い入れたが、これらの制作スタッフへの報酬は、すべて原告が支払った。このように、原告は、本件テレビアニメの制作に要する経済的な負担を究極的に負っていた。
 以上のとおり、本件テレビアニメの製作に発意と責任を有する映画製作者は原告である。
(3) 参加の約束
 仮に、本件テレビアニメを創作した者が、前記PやQではなく、それ以外の者、例えば、Rであったとしても、その者は、映画製作者である原告に対して、本件テレビアニメの製作に参加することを約束しているから、原告は、本件テレビアニメに係る著作権を取得した。
 なお、原告と被告らは、本件テレビアニメの著作権が原告に帰属することを前提として、著作権から生ずる諸権利及び利益の分配に関する覚書(甲4)を締結しており、被告らは、当初から原告に本件テレビアニメの著作権が帰属することを認識していた。
(4) 結論
 したがって、原告は、法29条1項の規定により、本件テレビアニメについての著作権を取得した。
(被告らの反論)
1 主位的主張(法15条1項による著作者人格権及び著作権の取得)に対して
(1) 認否
 原告の主張は否認する。
(2) 創作者
 本件テレビアニメにおいて、「その映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」は、アートランドのRや、その他の被告らの業務に従事する者である。Rらは、以下のとおり、被告らの業務に従事する者として、本件テレビアニメを創作した。
 本件テレビアニメにおいて、ストーリーの構成案や作品イメージ、主要なキャラクターのオリジナルデザインは、原告がアニメの制作作業に参加する前に完成していた。被告らは、当初アニメ制作のための作業をアートランドに行わせることを予定していたが、連続放送となると経験のないアートランド単独では困難であることから、具体的なアニメ化の作業のために、原告の参加を求めたにすぎない。
 そして、原告がアニメの制作作業に参加した後、本件テレビアニメを総監督して指揮したのは、Rであり、アニメ設定画を作成したのは、ほとんど被告スタジオぬえの従業員であるSらであって、原告や原告の子会社であるアニメフレンドから指示等を受けたことはない。
(2)ママ 公表名義
 本件テレビアニメは、原告が自己の著作名義の下の公表を予定するものではない。本件テレビアニメについての著作権者の表示である<C>表示は、被告ビックウエストの「ビックウエスト」となっている(乙1、2、8、10)。
(3) 結論
 以上のとおり、被告らが、本件テレビアニメについて、著作者人格権及び著作権を取得した。
2 予備的主張(法29条1項による著作権の取得)に対して
(1) 認否
 原告の主張は否認する。
(2) 映画製作者
 本件テレビアニメは、以下のとおり、被告ビックウエストと被告スタジオぬえが、共同の発意と責任で製作したものである。
 すなわち、本件テレビアニメの企画は、被告スタジオぬえの構想を知った被告ビックウエストの前社長Oがこれを完成しようとしたことから始まり、被告らが、スポンサーや放映先の決定、題名の決定等をした。したがって、本件テレビアニメの製作を「発意」したのは被告らである。
 また、被告ビックウエストは、スポンサーから広告料の支払を受け、本件テレビアニメの放映期間中、毎日放送に対し、毎月合計4800万円(制作費2405万円、電波料2244万5000円、マイクロ費150万5000円。ただし、被告ビックウエストの手数料524万2600円を控除する。)の放映料を支払い(乙5)、その支払の保証として、毎日放送に5000万円を預託した(乙6の第2条)。毎日放送は、原告に対して1話につき550万円の制作費(甲2、3)を支払っているが、それも、被告ビックウエストが支出した上記4800万円の中から出されている。
 このように、毎日放送に対して毎月4800万円の放映料を支払う責任を負っていたのは被告ビックウエストであり、スポンサーから入金を受けなかった場合の危険は、被告ビックウエストが負っていた。スポンサーに対する関係で、本件テレビアニメの完成と放映の「責任」を負っていたのも、被告ビックウエストである。
(3) 参加の約束
 前記のとおり、本件テレビアニメについて、「その映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」は、アートランドのRらであるが、同人らが、原告に対して、本件テレビアニメの製作に参加することを約束したことはない。
 なお、本件テレビアニメについての著作権者の表示である<C>表示は、「ビックウエスト」とされているから、法14条に基づき、被告ビックウエストが著作者と推定されるべきである。
第3 当裁判所の判断
1 主位的主張について
 まず、主位的主張について、本件テレビアニメについて、その全体的形成に創作的に寄与した者が誰であるかを中心に検討する。
(1) 事実認定
 前記争いのない事実等に証拠(甲1ないし4、7ないし9、12、18、乙1ないし10、13ないし16、18、19、21ないし25、検甲1ないし3、なお、枝番号の表示を省略する。)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下のとおりの事実を認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。
ア 本件企画の経緯
 被告スタジオぬえは、昭和55年ころ、巨大な宇宙艦の中に民間人を住まわせ、宇宙艦の内外で巨大宇宙人軍との宇宙戦争を行うことなどを内容とし、戦闘の主役となる戦闘機に、従来のものとは異なる変形メカを使用することなどを特徴とする新しいアニメ作品の制作を企画して、代表者であるT、並びに従業員であるS及びUらがチームを組んでその制作に着手した(以下、この企画を「本件企画」という。)。また、Sは、友人のV(以下S及びUと併せて「Sら3名」という。)が作成した人物キャラクターの作画に注目し、Vに、被告スタジオぬえと協力関係にあるアートランド在籍のまま、本件企画の実施を担当させた。
 被告スタジオぬえは、当初、第三者と共同で本件企画を実施することを考え、玩具メーカー等に協力を求めたが、採用されなかったため、その後は単独で本件企画の実施をすることとした。そして、昭和55年後半から、Sが、全体のストーリー案の作成及び戦闘機を中心とする登場メカの図柄等を、Uが、登場メカのうち宇宙艦や敵軍の図柄等を、Vが、登場人物の図柄等を、それぞれ作成して、本件企画のストーリー構成及び登場人物等の図柄の制作を開始した。
 昭和56年2、3月ころ、被告スタジオぬえは、本件企画について、被告ビックウエストの協力を得て、進めることになった。被告ビックウエストの当時の代表者であったOは、本件企画をテレビアニメ作品として放映することを考えた。Oは、本件企画を成功させるためには、テレビ放映開始と同時に関連するキャラクター製品や雑誌等を販売すること、さらに、ロボットに変形する玩具等の開発のために時間を要するため、早くから玩具メーカー等の協力を得ることが必要であると考えた。そして、Oは、昭和56年8月ころから、玩具メーカー及びプラモデルメーカーに対し、Sら3名が作成した登場メカの図柄や手作りの見本を示して、変形する玩具等の販売の可能性について打診して、テレビ放映時にスポンサーとなるよう要請したりし、また、幼児誌及び学年誌を発行する出版社に対して、テレビ放映開始と同時にマンガや小説の連載をすることができるよう交渉した。
 Oは、昭和57年1月ころ、毎日放送の放送枠を同年10月以降確保できる見通しが立ち、また、そのころまでに、玩具、プラモデル、文具及び菓子のメーカー等から本件企画のスポンサーとなる承諾が得られ、放送費用を調達する目途が立ったことから、本件企画のテレビアニメ化を進めることを決定し、題名を「マクロス」とすることにした。
イ 本件テレビアニメの基になるストーリー及び原図柄の作成
 Sは、昭和56年11月ころまでに全39話分のおおまかなストーリーメモを作成し、昭和57年2月までに、このストーリーメモを基にストーリー構成表を作成した。その後、放送枠の決定に伴い、エピソードを減らすなどして26話のストーリー構成とし、これに基づいてTがシリーズ全体の構成を行った(なお、放映開始後に延長が決定され、最終的に全36話の構成となった。)。
 Sは、登場メカの図柄の作成も担当し、昭和56年以降、主人公らが使用する、「バルキリー」と呼ばれる変形可能な戦闘メカの図柄の作成作業を進め、同年12月ころまでに、飛行機の形態及びロボットの形態の「バルキリー」について、原図柄を作成した。飛行機とロボットの中間形態の「バルキリー」やその他のメカについても、昭和57年3月ころまでにその原図柄を作成した。また、玩具メーカー等から、同一の金型を使用して複数の玩具を製造したいとの要望があったことから、仕様や装備が異なる複数の「バルキリー」の図柄を作成し、同年4月には、玩具やプラモデルの製造に必要な三面図をメーカーに交付した。
 Uは、巨大宇宙艦「マクロス」やその他の登場メカの図柄及びマーク類について作成を担当し、同年3月ころまでにその原図柄を作成した。また、同年4月には、各種メカの図柄のサイズの対比表や「マクロス」等の三面図を作成して、メーカーに交付した。
 Vは、Sが作成したストーリー構成を基に、「一条輝」、「リン・ミンメイ」、「早瀬未沙」等の登場人物の図柄の作成を担当し、昭和56年12月ころまでにはそのラフ・スケッチを多数作成し、昭和57年1月ころまでに、「一条輝」を除く登場人物の原図柄を作成し、同年2月から3月にかけて、登場人物について様々な表情、姿勢、衣装を変えたラフ・スケッチを多数作成し、同じころ、人物像の設定やストーリーの設定を行うためのストーリー設定ボードのラフスケッチを多数作成した。
ウ 原告の本件テレビアニメ制作への参加
 被告スタジオぬえは、当初、本件企画のアニメーション化の作業を、協力関係にあるアートランドに委託することを予定していた。しかし、アートランドだけではアニメーターの数が足りないので、Oは、昭和56年12月末ころ、多数のアニメーターを擁する原告に対して協力方を打診し、昭和57年4月、アニメーション制作作業への参加を正式に依頼し、原告は、これを受けることにした。毎日放送は、制作スケジュールの把握や作業の督促などの観点から、アニメ制作の実績のある原告との制作契約を希望したため、本件テレビアニメの制作及び放送に関する契約は、原告と毎日放送とを当事者として締結されることになった(ただし、前記のとおり、正式に契約書を交わしたのは、同年9月30日である。)。
 原告は、毎日放送との前記契約に基づき、本件テレビアニメの担当プロデューサーとして、原告に所属していたPを選任し、原告の100パーセント子会社であるアニメフレンドに対し、アニメ化の作業を担当させることとした。原告と被告らとの最初の打合せは、昭和57年4月27日に行われ、アニメフレンドから担当プロデューサーとなるQがこれに出席し、T、U、S、Vらから、本件企画の内容やメカの特徴等についての説明を受けた。アニメフレンドは、同年5月以降、本件テレビアニメの制作を開始した。
エ 本件テレビアニメの制作の具体的な作業
(ア) アニメーション映画の制作作業は、具体的な設定(キャラクター設定、メカ設定、色彩設定、美術設定などの設定)やストーリー構成、これに基づくシナリオの作成、演出、絵コンテ作成、作画作業(原画、動画)、背景、仕上(セル画に色を塗る作業)、フィルムによる1コマ割撮影、フィルム編集、アフレコ、劇伴(ラッシュフィルムに音や音楽を合わせる作業)などから構成される。
 本件テレビアニメの制作は、プロデューサーのP、現場プロデューサーのQ、総監督のR、シリーズ構成者のT、キャラクターデザイナー兼キャラ作画監督のV、メカニックデザイナーのS及びU、音響監督のW、メカ作画監督のZらが担当することになった。実際の具体的担当内容は、以下のとおりである。
(イ) 本件テレビアニメにおいては、Sが作成したストーリー構成に基づいて脚本及び絵コンテを作成する作業、並びに登場メカや登場人物の原図柄に基づいて設定画を作り、設定画を基に原画及び動画を描く作画作業その他の作業が行われることになったが、各回の制作が並列的に進められたため、脚本、絵コンテ、演出等の担当者は放映回によって異なった。脚本は、脚本家とQ、R、Tらが打ち合わせをして決定稿を作成した。絵コンテは、担当者が作成したものをRがチェックして確定した。基本となる設定画の作成作業については、以下のとおり、Sら3名が自ら担当するか又はSら3名の指揮監督を受けたアニメーターが担当した。すなわち、@戦闘機「バルキリー」等の登場メカの設定画については、Sが、前記のとおり作成した原図柄に基づいて、自ら又はSの指揮監督を受けたアニメーターがこれを完成させ、A主役メカである巨大宇宙艦「マクロス」等の設定画については、Uが、前記のとおり作成した原図柄に基づいて、自ら又はUの指揮監督を受けたアニメーターがこれを完成させ、B登場人物の設定画については、Vが、前記のとおり作成した原図柄に基づいて、V自身がすべて完成させた。
(ウ) 上記設定画を基に原画及び動画を描く作画作業は、主としてアートランド及びアニメフレンドにおいて行われ、本件テレビアニメのアニメーション部分が作成された。また、Vらは、作画作業等を行うスタッフらの間に齟齬が生じないよう、登場人物の人物像や登場人物相互の関係等を説明するストーリー設定ボードを多数作成して、作業を進めた。作画については、メカニックや戦闘シーンのカットは、Rが自ら、又は同人から指示されたSが最終的な決定をし、その他のカットは、Rが最終的な決定をした。
(エ) 撮影後のラッシュフィルムのチェックやフィルム編集は、Rが最終的なチェックをして決定し、アフレコは、R、Q、Tらが立会った上、決定した。
(オ) プロデューサーであるP及び現場プロデューサーであるQは、主として、スポンサー、テレビ局、広告代理店との交渉等を担当して、制作の具体的な内容について指示を与えたことはなかった。
オ 制作費の支払及び利益の配分
(ア) 被告ビックウエストは、昭和57年9月、毎日放送と本件テレビアニメの放映料に関する覚書を締結した。被告ビックウエストは、この覚書に基づき、本件テレビアニメのスポンサーである玩具、プラモデル、文具及び菓子のメーカー等から広告料の支払を受け、本件テレビアニメの放映期間中、放送の翌月末日に、毎日放送に対し、月額4800万円(制作費2405万円、電波料2244万5000円、マイクロ費150万5000円。ただし被告ビックウエストの手数料524万2600円を控除する。)の放映料を支払い、また、毎日放送に対し、支払の保証として5000万円を預託した。
 原告と毎日放送との間で締結された本件テレビアニメの制作及び放送に関する契約(甲2、3)によれば、毎日放送は、最終話の放送終了から2年を経過するまでの間、本件テレビアニメの独占的放送権を取得すること、毎日放送は、原告に対し、本件テレビアニメの制作費として1話につき550万円ずつを納品の翌月に支払う義務を負うことが合意された。
(イ) 原告は、本件テレビアニメの制作に参加した昭和57年5月以降、アニメフレンド、被告スタジオぬえ、アートランド等に対して、制作作業に対する報酬を支払っていた(アニメフレンド以外は、アニメフレンドを通じて支払っていた。)が、本件テレビアニメの放映開始前ころ、被告ビックウエストに対して、当初の予定よりも制作費用が嵩み、毎日放送を通して支払われる前記放映料分(その原資は、被告ビックウエストが広告主等から受け取る広告料)では不十分である旨を訴えた。
 そこで、原告と被告らは、昭和57年10月1日、制作費の不足分を補うために、本件テレビアニメについて商品化事業の利益の一部並びに海外における番組販売権及び商品化権を原告に与えることなどを内容とする覚書(甲4)を締結した。すなわち、上記覚書によれば、@キャラクター等の商品化権及び国内再放送のための番組販売については被告ビックウエストが、小学6年生までを対象とする出版物、音楽並びに海外における番組販売権及び一般商品化権については原告が、中学生以上を対象とする出版物については被告スタジオぬえが、それぞれ窓口となって権利行使をすること、また、A対象ごとに、原告と被告らの間で利益を配分する比率を定めること(国内の商品化権については毎日放送にも利益が配分され、海外における商品化権行使等による利益は、原告がすべて取得した。)とされた。
カ 著作権等の表示
(ア) 本件テレビアニメ放映前の昭和57年7月から同年10月にかけて、本件テレビアニメの内容等を紹介する記事が学習雑誌等に掲載されたが、これらすべてに、被告スタジオぬえと原告連名の著作権表示(<C>表示)がある。
(イ) 本件テレビアニメ放映時のオープニングクレジットでは、企画はO、原作は被告スタジオぬえ、キャラクター・デザインはV、メカニック・デザインはU及びSであることなど、企画、原作、原作協力、シリーズ構成、チーフディレクター、設定監修については、被告ら及びアートランドの担当者名が表示され、プロデューサーとして、P及びQが表示されている。また、オープニングクレジット及びエンドクレジットの双方において、製作は、毎日放送、原告及びアニメフレンドであることが表示されている(検甲1ないし3)。
(ウ) 昭和58年8月から同年10月にかけて、本件テレビアニメの制作時の資料やスタッフの回想等を集めた書籍(乙1、2、8、18)が発行され、そのすべてに、被告ビックウエストと毎日放送の連名の著作権表示(<C>表示)がある。また、本文中には、被告スタジオぬえが原作を担当したこと、シリーズ構成はT、キャラクターデザインはVであることなどが記載されている。
(エ) 平成5年4月に、原告の30周年記念全集(乙10)が発行された。同書中、原告が制作した他のテレビアニメを取り上げた部分には、著作権表示は存しないが、本件テレビアニメを取り上げた部分には、被告ビックウエストの著作権表示(<C>表示)がある。また、本文中には、被告スタジオぬえによる独創的な物語であること、Vがキャラクターデザインを担当したこと、メカニックデザインはU、Sが担当したこと、Sは、演出、脚本にも参加したことなどが記載されている。
(オ) 平成10年2月に発行された原告監修に係る原告のアニメ大全史(乙3)は、アニメ作品を年代順に整理した部分、一連のギャグ・アニメシリーズを取り上げた部分、及びそれ以外の作品を集めた部分に大別され、前2者に収録された作品には、すべて、単独又は連名で原告の著作権表示があるのに対し、後者に属する作品は、原告の著作権表示のないものが大部分である。本件テレビアニメは後者に分類され、被告ビックウエストの著作権表示(<C>表示)のみがある。また、本文中には、被告スタジオぬえ原作による初のオリジナル作品であること、メカニックデザインのSは演出や脚本にも加わったこと、キャラクターデザインのVその他若手が活躍したことなどが記載されている。
(2) 判断
ア 上記認定した事実に基づいて、原告の主位的主張の当否を判断する。
 原告は、P及びQが、本件テレビアニメの全体的形成に創作的に寄与した者であり、同人らは、原告の業務に従事する者として、本件テレビアニメを職務上作成したのであるから、原告が、本件テレビアニメについて著作者人格権及び著作権を取得すると主張する。
 しかし、原告の主張は、以下のとおり理由がない。
 すなわち、前記認定のとおり、本件テレビアニメの制作に関与した主なスタッフは、プロデューサーのP、現場プロデューサーのQ、総監督のR、シリーズ構成者のT、キャラクターデザイナー兼キャラ作画監督のV、メカニックデザイナーのS・U、音響監督のW、メカ作画監督のZらであった。このうち、シナリオの作成からアフレコ、フィルム編集に至るまで本件テレビアニメの現場での制作作業全般に関わり、その出来映えについて最終的な責任を負い、実際にも、動画の作成、戦闘シーン等のカットに関する最終的な決定、撮影後のラッシュフィルムのチェック、フィルム編集等に関する最終的な決定を行っていたのは、総監督のRであるから、同人は、監督として本件テレビアニメの「全体的形成に創作的に寄与した者」に当たると認められる。これに対して、プロデューサーであるP及び現場プロデューサーであるQは、主として、スポンサー、テレビ局、広告代理店との交渉等を担当しており、創作面での具体的な関与はなく、スタッフに対して指示を与えたこともなかった。
イ 以上のとおり、P及びQは、本件テレビアニメの全体的な創作に寄与したものということができないから、原告の主張は、その前提を欠く。したがって、原告は、法15条1項の規定により、本件テレビアニメについての著作者人格権及び著作権を取得したとはいえない。
2 予備的主張について
 次に、予備的主張について、本件テレビアニメの映画製作者が誰であるかを中心に検討する。
(1) 事実認定
 1の(1)のとおりである。
(2) 判断
ア 本件テレビアニメの映画製作者について
(ア) 本件テレビアニメは、もともと被告スタジオぬえが企画したものを、被告ビックウエストのOがスポンサーの確保やテレビ局での放送枠の確保に努力し、毎日放送でのテレビ放送が決まった段階で、毎日放送の要望によりアニメ制作に実績のある原告に対し制作が依頼された。同依頼を受けて、原告は、昭和57年4月、毎日放送との間で、本件テレビアニメを制作する旨の契約を締結し(契約書を締結したのは同年9月)、子会社のアニメフレンドをして同年5月からアニメ制作作業を開始させた。実際の制作作業は、アニメフレンド、被告スタジオぬえ、アートランドらのスタッフが行ったが、原告が制作に関与するようになった後は、制作費用はすべて原告が支払った。原告は、毎日放送との間で締結した上記契約により、同契約で合意された納品スケジュールに沿って、本件テレビアニメを制作し、納品する義務を負い(一方、被告らは毎日放送に対して、そのような義務を負担しない。)、本件テレビアニメの制作の進行管理及び完成について責任を負うことになった。
 以上によれば、原告は、毎日放送と上記制作契約を締結することにより本件テレビアニメの制作意思を有するに至ったものであり、また、自ら制作費用を負担して自己の計算により本件テレビアニメの制作を行い、本件テレビアニメの制作の発注者である毎日放送に対して、その制作の進行管理及び完成についての責任を負っていたのであるから、原告は、本件テレビアニメの製作に発意と責任を有する者であるということができる。
 以上のとおり、本件テレビアニメの映画製作者は原告であると認められる。
(イ) これに対し、被告らは、@本件テレビアニメを企画したのは被告スタジオぬえであり、被告ビックウエストのOがこれを完成させようとしたのであるから、本件テレビアニメの製作を「発意」したのは被告らである、A毎日放送から原告に支払われた1話550万円の制作費は、被告ビックウエストが毎日放送に支払った放映料月額4800万円から支払われ、放映料の支払責任は被告ビックウエストが負っていたから、本件テレビアニメの製作に責任を有するのは被告ビックウエストである、と主張する。
 しかし、被告らの主張は、以下のとおり、いずれも理由がない。
 まず、映画の製作に「発意」を有するとは、必ずしも最初にその映画の企画を立案することを要するものではなく、第三者からの働きかけによりその映画を製作する意思を有するに至った場合をも含むものと解すべきであり、原告は、前記のとおり、毎日放送との上記制作契約によって、本件テレビアニメを製作する意思を有するに至ったものと認められる。したがって、被告らの@に関する主張は採用できない。
 また、原告が毎日放送から制作費の支払を受けたのは、昭和57年10月以降であること(甲2)、前記認定のとおり、原告は、同年5月に本件テレビアニメの制作を始めた直後から、制作作業に従事したスタッフに対し報酬を支払っているのであるから、約5か月間、原告の制作費用の支払が先行していること、毎日放送の制作費の支払は、後払いであるから、本件テレビアニメの制作については、常に原告の支払が先行していること、原告が毎日放送を通じて受け取る放映料分(その原資は、被告ビックウエストが広告主等から支払を受ける広告料)だけでは、原告が負担する制作費用として十分でないため、原告は被告らとの間で前記商品化権等に関する覚書(甲4)を締結し、制作費用の回収を図ろうとしていること等の事実に照らすならば、本件テレビアニメの制作に関して経済的な危険を負担しているのは原告であると判断するのが相当である。したがって、被告らの上記Aの主張も採用できない。
イ 参加の約束について
 前記認定のとおり、本件テレビアニメの制作は、プロデューサーのP、現場プロデューサーのQ、総監督のR、シリーズ構成者のT、キャラクターデザイナー兼キャラ作画監督のV、メカニックデザイナーのS及びU、音響監督のW、メカ作画監督のZらが担当しているが、本件テレビアニメの全体的形成に創作的に寄与したのは、総監督を担当したRであるというべきところ、Rは、原告が毎日放送との制作契約に基づいて本件テレビアニメを制作することを知った上で、総監督として本件テレビアニメの製作に参加しており、制作作業に対する報酬も原告からアニメフレンドを通じて受け取っていたのであるから(甲8、乙22)、これらの事実によれば、Rは、映画製作者である原告に対し、本件テレビアニメの製作に参加することを約束していたものと認定するのが相当である。
ウ 小括
 以上のとおり、原告は、法29条1項の規定により、本件テレビアニメについての著作権を取得したといえる。なお、被告らは、法14条所定の著作者の推定を云々するが、前記認定に照らして採用できない。
3 妨害排除請求権の当否
 原告は、「原告が別紙目録記載1ないし36のアニメーション映画を公に上映し、その複製物により頒布することを妨害する」ことの差止めを求め、その理由として、被告らが、原告に対して、本件テレビアニメの基礎となった図柄に係る著作権が被告らに帰属する旨の訴訟を提起した行為が妨害行為に該当する旨主張する。
 しかし、図柄に係る著作権が被告らに帰属する旨を求めて訴訟提起する被告らの行為が、本件テレビアニメに係る原告の著作権の行使を妨害する行為であると評価することはできないから、原告のこの点の主張は理由がない。
4 結論
 以上のとおり、本件テレビアニメに係る著作権(著作者人格権を除く。)は原告に帰属する。よって、原告の請求は、著作権(著作者人格権を除く。)の確認を求める限度で理由があるから、これを認容することとし、主文のとおり判決する。なお、仮執行宣言については、相当でないからこれを付さないこととする。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 飯村敏明
 裁判官 榎戸道也
 裁判官 佐野信
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