判例全文 line
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【事件名】日本舞踊の著作権侵害事件(2)
【年月日】平成14年12月26日
 福岡高裁 平成11年(ネ)第358号 著作権確認等請求控訴事件
 (原審・福岡地裁小倉支部平成7年(ワ)第240号、同年(ワ)第1126号)
 (口頭弁論終結の日 平成14年11月5日)

判決
控訴人 a
控訴人 b
上記2名訴訟代理人弁護士 三ツ角直正
被控訴人 g
同訴訟代理人弁護士 三好晃一


主文
 本件控訴をいずれも棄却する。
 控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実
第1 控訴の趣旨
1 原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
第2 事案の概要
 本件は、日本舞踊A流の創始者で、少なくともかつては家元の地位にあった被控訴人が、その長女で、平成○年○月にいったん二代目家元の地位を継承すると公表された控訴人a(以下「控訴人a」という。)及びかつて被控訴人からA流の名取及び師範の資格を与えられた控訴人b(以下「控訴人b」という。)に対し、控訴人らは被控訴人にことわりなく同人が振付をした舞踊の公演をし、かつ、その際振付者を控訴人aであると表示したとして、著作権を有することの確認及び著作権に基づく今後の上演禁止を求めるとともに、著作者人格権(氏名表示権)に基づき慰謝料及び謝罪広告を求めた事案の控訴審である。原審が、被控訴人の請求のうち、著作権を有することの確認及び上演禁止を求める請求を認めるとともに、慰謝料請求の一部を認めたため、控訴人らが控訴を申し立てているものである。
第3 当事者間に争いのない事実
1 当事者
(1) 被控訴人は、日本舞踊「A流」の創始者で、少なくとも平成○年○月ころまでは「家元」の地位にあった者である。
(2) 控訴人aは、被控訴人の長女で、幼少より被控訴人から舞踊の教授を受け、平成○年○月及び同○年○月に、被控訴人とともに、A流二代目家元継承披露公演を行った者である。
(3) 控訴人bは、かつて被控訴人に師事し、A流の門下生として、被控訴人から、昭和○○年に名取(名取名 B)の資格を、同○○年に師範の資格を授与された者である。
2 本件各舞踊
(1) 本件第1舞踊
 原判決別紙著作物目録(一)記載の舞踊(以下「本件第1舞踊」という。)は、昭和○○年ころ、A流の流舞として、日本コロンビア株式会社に依頼して作詞、作曲された音曲「C」に振り付けられた舞踊である。
(2) 本件第2舞踊
 原判決別紙著作物目録(二)記載の舞踊(以下「本件第2舞踊」という。)は、昭和○○年ころ、同○○年○月○○日に産経新聞社等の主催により国立劇場で開催された第○回日本民謡舞踊大賞コンクール(以下「第○回コンクール」という。以下他の回のコンクールも同様に称する。)に出品するための舞踊作品として、沖縄県民謡「D」に振り付けられた舞踊である。同作品は、同会において、最優秀賞・内閣総理大臣賞・振付賞第一席を受賞した。
(3) 本件第3舞踊
 原判決別紙著作物目録(三)記載の舞踊(以下「本件第3舞踊」という。)は、平成○年初めころ、同年○月○日に開催された第○○回日本民謡舞踊大賞コンクールに出品するための舞踊作品として、福岡県民謡「E」に振り付けられた舞踊である。同作品は、同会において、文部大臣賞・振付賞第一席を受賞した。
(4) 本件第4舞踊
 原判決別紙著作物目録(四)記載の舞踊(以下「本件第4舞踊」という。)は、昭和○○年初めころ、同年○月○○日に開催された第○回日本民謡舞踊大賞コンクールに出品するための舞踊作品として、c作詞作曲の音曲「F」に振り付けられた舞踊である。同作品は、同会において、最優秀賞・内閣総理大臣賞・振付賞を受賞した。
3 家元継承披露公演の実施
(1) 被控訴人と控訴人aは、控訴人aがA流の「二代目家元」を継承したとして、平成○年○月○○日、α市のβ市民会館において、その披露公演を行った。
(2) 被控訴人と控訴人aは、平成○年○月○○日にも、γ市のγ市民文化ホールにおいて、同様の披露公演を行った。
4 被控訴人の宗家襲名
 被控訴人は、控訴人aの二代目披露公演実施にともなって、「宗家」を名乗ることとなった。
5 破門状の送付と両派の対立
(1) 被控訴人と控訴人aは、平成○年秋から対立を生じるようになった。
(2)ア 被控訴人は、同○年○月末ころ、控訴人aをA流から破門するとして、同控訴人に対しその旨通知し、同時に、関係者に対し、破門状を送付した。
イ 控訴人aは、ア記載の破門の効力を争い、その後もA流二代目家元としての活動を続けたので、以後A流は二分され、両派が別々に舞踊公演等の活動を行うこととなった。
(3)ア 控訴人bは、同aに師事し、両派分裂後は、同控訴人が正当なA流の家元であるとして、公演、舞踊教授その他の活動を行っている。
イ 被控訴人は、平成○年○月、控訴人bをA流から破門するとして、同控訴人に対しその旨通知した。
6 本件各上演と本件各舞踊の振付者が控訴人aであるとの表示
(1)ア 控訴人bは、平成○年○月○○日、β市民会館において、「B古希の会」と題する公演を主催し、本件第1ないし第3舞踊を上演した(以下、「本件第1上演」という。)。
イ 控訴人bは、その際、パンフレットに、本件第1ないし第3舞踊の振付者をいずれも控訴人aであると表示した。
(2)ア 控訴人aは、平成○年○月○○日、γ市民文化ホールにおいて、「日本舞踊A流、創流30周年・家元継承5周年、家元C記念舞踊公演」と題する公演を主催し、本件第1ないし第4舞踊を上演した(以下、「本件第2上演」という。)。
イ 控訴人aは、その際、パンフレットに、本件第1ないし第4舞踊の振付者をいずれも同控訴人であると表示した。
第4 当審における主たる争点
1 著作権の成否とその帰属
(1) 本件各舞踊は著作物として特定されているか。
(2) 本件各舞踊は、著作権法で保護されるに足りる創作性があるか。
(3) 著作物であると認められるとすれば、その権利は誰に帰属するか。
2 著作権の譲渡ないし上演許諾の有無
(1) 被控訴人は、控訴人aに二代目家元を継承させると対外的に公表した際、同控訴人に本件各舞踊の著作権を譲渡したか。少なくとも上演実施権を付与したか。
(2) 被控訴人は、控訴人bを名取ないし師範とした際、同控訴人にその時点で被控訴人が著作権を有する舞踊及び将来被控訴人が著作権を取得する一切の舞踊について、包括的に上演実施権を付与したか。
3 解除(告知)の成否
(1) 被控訴人は、控訴人aに対してA流から破門する旨意思表示したが、これは、著作権譲渡契約ないし上演権付与契約の解除としての効力を有するか。
(2) 被控訴人は、控訴人bに対してA流から破門する旨意思表示したが、これは、上演権付与契約の解除としての効力を有するか。
4 権利濫用の有無
 本件各舞踊の著作権が被控訴人に帰属するとしても、同じ流派内の人間に対して著作権法上の主張をすることは権利濫用とならないか。
第5 争点についての当事者の主張
1 著作権の成否とその帰属
(1) 本件各舞踊は著作物として特定されているか。
(控訴人らの主張)
 著作権法は、これを侵害する者または侵害するおそれのある者に対し、差し止めまでを認めるものであるから、その保護を受けうるためには、係争当事者のみならず、無関係の第三者との間でもこれが特定できるほどの高い特定性が要求される。しかるに、本件各舞踊は、振書と音曲のみでは第三者はこれを再現することができないから、特定されていない。また、舞踊は、踊る人間の数や技量によって振りが異なるから、再現された舞踊が当初の舞踊と完全に一致することはありえない。よって、本件各舞踊は特定を欠いており、著作権法上の保護の対象たりえない。
(被控訴人の主張)
 著作権法10条1項3号は舞踊が著作権法の保護の対象たりうることを明示しているが、その特定としては、音曲に合わせて(音曲のない場合はそれとは無関係に)一定の順序で一定の動作をするということで十分である。本件で振書を作成したのは、書面上これを特定する必要があるからにすぎず、書面で特定が困難であることと本件各舞踊が特定されているか否かとは本来無関係である。なお、日本舞踊は、一定の素養があれば振書と音曲によりこれを再現することは可能であり、書面化という意味でも本件各舞踊は十分に特定されている。
 踊り手の数や技量で舞踊の内容に変化が生じるのは改変の範囲内か否かの問題であり、特定の可否とは関係がない。
(2) 本件各舞踊は、著作権法で保護されるに足りる創作性を有しているか。
(控訴人らの主張)
 伝統芸能である日本舞踊や民謡舞踊の表現方法の基本は、様々な流派が古くから伝承してきたものであり、本件各舞踊は、それらを組み合わせたもの、ないしは、旧来からある舞踊に舞台上で演じるための一定の改変を加えたものにすぎないから、創作性を欠き、著作権法上の保護の対象たる著作物たりえない。
(被控訴人の主張)
 本件第1舞踊は、創作音曲に振付がされたもの、本件第2舞踊は、従前伝統芸能・民俗芸能として手本となる踊りがあるが、それと離れて独自性のある振付がされたもの、本件第3舞踊は、従前から存する音曲に振りがあるが、それとは異なる独自の振付がされたもの、本件第4舞踊は、従前から存する音曲に振りがないか、あっても一般的ではなかったものに、新たに、あるいは、従前とは異なる独自の振付がされたもので、しかも、本件第1舞踊はA流のために作られた象徴性の高いもの、その余の各舞踊は、いずれも、日本民謡舞踊大賞コンクールで受賞をする等、客観的にも芸術性が高いことが認められた作品で、いずれも十分に著作物たりうる創作性がある。
(3) 著作物であると認められるとすれば、その権利は誰に帰属するか。
(被控訴人の主張)
 本件各舞踊は、A流の家元として被控訴人が振付をしたものであり、その著作権は被控訴人に帰属する。
(控訴人らの主張)
ア 本件各舞踊は、控訴人aが主体となって振付をしたもので、その著作権は同控訴人に帰属する。
イ 仮に、同控訴人単有の著作権が認められないとしても、同控訴人は、振付の基本的所作を考案し、被控訴人と協力して本件各舞踊の振付を行ったから、本件各舞踊は被控訴人と控訴人aの共同著作物である。
ウ 仮に、本件各舞踊が被控訴人と控訴人aの共同著作物でないとすれば、これらは、A流の門弟全体の共同著作物であり、少なくとも被控訴人単有の著作物ではない。
2 著作権の譲渡ないし上演許諾の有無
(1) 被控訴人は、控訴人aに二代目家元を継承させると対外的に公表した際、同控訴人に本件各舞踊の著作権を譲渡したか。少なくとも上演実施権を供与したか。
(控訴人らの主張)
ア 被控訴人は、平成○年○月ころ、控訴人aにA流家元の地位を継承させたが、その際、同控訴人に対し、本件第1、第2及び第4舞踊を含む被控訴人が著作権を有する舞踊全体の著作権を譲渡した。
イ 仮に、著作権を全部譲渡したのでないとしても、少なくとも、本件第1、第2及び第4舞踊を含む被控訴人が著作権を有する舞踊全体につき、これを上演することを包括的に許諾した。
(被控訴人の主張)
 控訴人ら主張の事実を否認する。
 被控訴人は、控訴人aの自覚を促すために家元の名称を使用することを認めたが、本件第1、第2及び第4舞踊を含む被控訴人が著作権を有する舞踊全体の著作権を譲渡していないし、上演することを包括的に許諾してもいない。
(2) 被控訴人は、控訴人bを名取ないし師範とした際、同控訴人に対し、その時点で被控訴人が著作権を有している舞踊及び将来著作権を取得する一切の舞踊について、包括的に上演実施権を付与したか。
(控訴人bの主張)
ア 控訴人bは、昭和○○年、被控訴人に対して名取料を支払ってA流の名取となったが、被控訴人は、その際、同控訴人に対し、被控訴人がその時点で著作権を有する舞踊及び将来著作権を有することとなる舞踊全体につき、これを上演することを包括的に許諾した。
イ 仮に、名取料支払によっては舞踊の上演権を包括的に付与されなかったとしても、被控訴人は、控訴人bが昭和○○年に師範料を支払ってA流の師範となった際、同控訴人に対し、被控訴人がその時点で著作権を有する舞踊及び将来著作権を有することとなる舞踊全体につき、これを上演することを包括的に許諾した。
(被控訴人の主張)
 控訴人bが被控訴人に対し名取料、師範料を支払った事実は認めるが、その対価として、被控訴人がその時点で著作権を有する舞踊及び将来著作権を取得する舞踊全体につき、これを上演することを包括的に許諾したとの事実を否認する。被控訴人は、控訴人bに、教授のために弟子の前で舞踊を実演することは許諾したが、公衆の面前で上演をする権利までは付与していない。
3 解除(告知)の成否
(1) 被控訴人は、控訴人aに対してA流から破門する旨意思表示したが、これは、著作権譲渡契約ないし上演権付与契約の解除としての効力を有するか。
(被控訴人の主張)
 仮に、家元襲名にともない著作権譲渡ないし上演の包括的許諾がされたとしても、被控訴人は、控訴人aに対し、平成○年○月末ころ、同控訴人をA流から破門する旨を告げ、著作権譲渡契約ないし上演権付与契約を解除する旨意思表示した。
(控訴人らの主張)
ア 被控訴人は、控訴人aに家元の地位を譲ったのであるから、もはや控訴人ら門弟を破門する権限を有しておらず、破門の意思表示には効力がない。
イ 仮に、破門の通知が著作権譲渡契約ないし上演権付与契約を解除する意思表示の限度で効力を有しうるとしても、控訴人aには債務不履行がないので、被控訴人には解除権そのものが発生していない。よって、その意思表示は効力がない。
(2) 被控訴人は、控訴人bに対してA流から破門する旨意思表示したが、これは上演権付与契約の解除としての効力を有するか。
(被控訴人の主張)
 仮に、名取料支払ないし師範料支払の対価として舞踊上演の包括的許諾がされたとしても、被控訴人は、控訴人bに対し、平成○年○月ころ、同控訴人をA流から破門する旨を告げ、上演権付与契約を解除する旨意思表示した。
(控訴人bの主張)
ア 被控訴人は、控訴人aに家元の地位を譲ったのであるから、もはや控訴人ら門弟を破門する権限を有しておらず、破門の意思表示には効力がない。
イ 仮に、破門の通知が著作権譲渡契約ないし上演権付与契約を解除する意思表示の限度で効力を有しうるとしても、控訴人bには債務不履行がないので、被控訴人には解除権そのものが発生していない。よって、その意思表示は効力がない。
4 権利濫用の有無
(控訴人らの主張)
 本件各舞踊の著作権が被控訴人に属するとしても、同じ流派内の人間に対して著作権法上の主張をすることは権利濫用として許されない。
(被控訴人の主張)
 控訴人らの主張を争う。
第6 当裁判所の判断
1 著作権の成否とその帰属
(1) 特定について
ア 控訴人らは本件各舞踊が特定されていないと主張する。
イ しかし、舞踊著作物は同じ挙措動作を再現でき、鑑賞者が同じ舞踊であると認識できる程度に完成されていればそれで特定されていると解するのが相当である。そして、本件各舞踊が特定されていることは、原判決が的確に説示している(原判決20頁10行目から22頁5行目までと32頁10行目から33頁10行目まで)とおりであるから、これを引用する。
ウ 控訴人らは、少なくともかつてはA流に属した者として、体験により本件各舞踊の動きを会得しており、振書によらずともこれを再現することができる。
エ 控訴人らは、原判決添付の振書のみではA流と無関係の第三者は本件各舞踊を再現できないとか、舞踊は演者の人数やその技量により常に変化するとして本件各舞踊は特定されていないとするが、これを採用することはできない。
(2) 創作性について
ア 本件第1舞踊は、A流のために作られた創作音曲に独自の振付がされたもので、同流派を象徴する舞踊である。
イ 本件第2ないし第4舞踊は、従前伝統芸能・民俗芸能として手本となる踊りがあったりするが、それとは離れて独自性のある振付がされたもので、前記のとおり、いずれも、日本民謡舞踊大賞コンクールで受賞する等、客観的にも芸術性が高い。
ウ したがって、本件各舞踊は、いずれも、振付者の思想、感情を創作的に表現したものであるということができ、十分に著作物たりうる創作性を認めることができる。 
(3) 権利の帰属について(以下の事実は控訴人ら及び被控訴人の供述によって認める。)
ア 平成○年ころまでの被控訴人のA流における地位
a A流においては、明文の規定はないが、被控訴人が家元として直門の弟子を教授するとともに、一定の技量を備えた者に名取(家元から芸名を拝し、流派の舞踊を演じることを認められる者。自ら弟子をとって教授をすることも許される。)、師範(正式にA流の舞踊を教授する資格を有する者。弟子のうちから名取となりうる者を推薦することができる。)等の資格を付与し、末端の弟子は名取、師範が教授をするというピラミッド型の組織構造がとられていた。被控訴人は、家元として組織の頂点に立っていた。
b A流では、流派の踊りを門弟に教授するほか、毎年日本民謡舞踊大賞コンクールに参加する、自主公演や企業・官庁からの依頼公演に応じる、テレビその他の放送番組に出演する、外国でも公演活動を行う、カルチャーセンターに講師を派遣する等、対外的な活動を活発に行ったが、その際には、家元たる被控訴人が組織を代表した。
c 対外的な活動によって得られた収入は、組織の長たる家元個人に帰属した。また、扇、浴衣、その他舞踊に必要な物品販売による収入も家元たる被控訴人個人に帰属した。
d 以上、被控訴人はA流の創始者兼家元としてA流内部において絶大な権限を有し、少なくとも平成3年ころまでは、A流は被控訴人の個人組織であるといっても過言ではない状態であった。
イ 振付においての被控訴人の役割
a A流においては、群舞の振付は、一人が頭の中だけで行うのでなく、一定の構想の下、集団が実際の動きをしてみて、各人の動きと全体の動きに修正を加えながら、時間をかけて完成していく方法がとられていた。
b 被控訴人は、その過程において、音曲の選定や動きの構想等当初の段階から作成に関与することもあれば、ある程度出来上がった作品に演出を加えるにとどまることもあり、関与の程度は作品により濃淡があった。ただ、A流として発表される作品については、最終段階で必ずチェックをし、原則として被控訴人の了承なしに公表されることはなかった。
c この点につき、控訴人aは、被控訴人は批評をするのみで、その了解を得なければ発表できないものではなかった旨供述する。
d しかし、前記のとおり、被控訴人はA流内において絶大な権威、発言力を有しており、活動の中心たる舞踊においては象徴的地位を有していた。また、対外的には、A流イコール被控訴人であり、外部からはA流として発表される作品は被控訴人の作品として受け取られていた。
e このような状況の下では被控訴人の目の通らない作品や被控訴人の意向に添わない作品がA流の作品として発表されることは到底考えられない。
f よって、少なくともA流の名を冠した作品については、被控訴人は最終責任者としての役割を果たし続けてきたと見るのが相当であり、これに反する控訴人aの供述は採用することができない。
ウ 著作権の帰属に関する一般論
a 以上によれば、被控訴人はA流において絶大な地位を占めており、同派は被控訴人の個人組織であるといっても過言ではなかったものであるところ、作品の振付においても、その関与の程度に濃淡はあるものの、同派の名を冠した作品については、少なくとも最終段階では被控訴人が総監督として必ずこれをチェックし、被控訴人の了承なしに発表することはなかったのであるから、被控訴人が特に他の者の著作権とすることを了承したとか、その作品の完成のいずれの段階にもまったく関与しなかった等特段の事情がある場合を除いては、A流として振り付けられた作品の著作権は被控訴人に帰属すると解するのが相当である。
b この点につき、控訴人aは、群舞は一人の力で完成できるものではなく、その作成に関わった門弟全体の共同作品である、強いて言えば、むしろ控訴人aこそが現場の長として作品を完成してきたので上記の解釈は誤りであると供述する。
c しかし、同控訴人の述べる作品への関与の程度は、被控訴人以外の者に著作権を認めるか否かを判断する際の特段の事情の一つにはなりうるが、原則として著作権は被控訴人に帰属するとの上記解釈を妨げるまでのものではない。したがって、控訴人aの上記主張は採用することができない。
エ 本件各舞踊の著作権
a(ア) 本件第1舞踊は、A流が創設されて約10年がたち、組織が成熟しつつあった昭和○○年にA流の流舞として創作された舞踊である。当時被控訴人は○○才と舞踊家として円熟の域に達しており、同作品の象徴的な性格もあり、被控訴人はその作成のすべての段階に精力的に関与した。
(イ) 本件第2舞踊は、第○回コンクールに出品するため、被控訴人が沖縄まで取材に出かけ、その印象をもとに、野外で際限なく踊り続ける群舞を舞台用の完結した作品にアレンジした作品であり、音曲選定の段階から完成まで相当深くその作成に関与した。
(ウ) 本件第3舞踊は、被控訴人が従前一人用の舞踊として完成していた作品を第12回コンクールに出品するため舞台用の群舞にアレンジした作品で、やはりその作成には相当深い関与をした。
(エ) 本件第4舞踊は、従前控訴人aが主体となって2人用の舞踊として完成していた作品を、第○回コンクールに出品するため、被控訴人が中心となって集団が舞台で踊る作品にアレンジし直したもので、やはりその作成に相当程度関与した。
b ところで、控訴人aの供述によれば、同控訴人も本件各舞踊の作成には意見を述べ、門弟を指揮して演出を工夫する等、相当程度貢献し、関与している事実が認められる。
c しかし、本件第1舞踊はA流の流派のため、その象徴として作成された作品であり、本件第2及び第4舞踊は被控訴人が家元当時にA流としてコンクールに発表された作品である。しかも、被控訴人はいずれの舞踊の作成にも上記のとおり主体的に関与している。
d 本件第3舞踊は控訴人aが二代目家元を襲名した後に作成された作品であるが、もともと被控訴人が一人用の舞踊として作成していた作品を群舞用にアレンジしたものであり、同舞踊には被控訴人の思い入れが深く、その作成には相当深く関与した。その結果、コンクールへの申込みにおいても、振付者は被控訴人とされた(甲39)。
e してみると、本件各舞踊については、本件第3舞踊を含め、そのすべてについて被控訴人の著作権を否定すべき特段の事情を認めることはできない。よって、いずれの舞踊もその著作権は被控訴人に帰属すると解するのが相当である。
2 控訴人aに対する著作権の譲渡ないし上演許諾の有無
(1) 二代目継承披露公演等をめぐる事実関係(以下の事実は被控訴人及び控訴人aの供述により認める。)
ア 被控訴人と控訴人aは、前記のとおり、平成○年と○年の2回にわたり、α市とγ市で、控訴人aがA流の「二代目家元」を継承したとして、その披露公演を行った。上記会には、α市、γ市の首長、国会議員、舞踊関係者その他の著名人から多数の祝辞が寄せられた。
イ 他方、被控訴人は、控訴人aの二代目家元披露公演実施にともなって、「宗家」を名乗ることとなった。
ウ しかし、被控訴人は、その後も従前と同様舞踊活動を続け、弟子の名取資格付与等A流としての重要な意思決定については控訴人aにこれを一任せず、自らもその判断に関与し、名取式等A流の重要な儀式には両名で出席し、名取免状には宗家として家元よりも前の位置に署名する等、少なくとも組織内ではなおその実質的な長としての活動を続けていた。
(2) 家元の地位継承の有無ないしその効力
ア 一般に、茶華道、舞踊その他の伝統芸能における家元は、当該文化活動において権威の頂点に立ち、対内的に組織を統轄するとともに、対外的には組織を代表し、経理的な側面においては積極、消極、すべての財産の帰属主体ともなる組織における絶対的な存在である。
イ しかし、同じく家元といっても、その意味する内容はすべての流派において同一であるわけではない。各組織によって微妙な違いはありうるし、同じ流派内においても、創始者であるか否かや襲名後どれくらいの期間がたったかとか、当該人物の力量、性格、人望等によりその権限には大小がある。
ウ ことに、A流は創設以来歴史が浅く、明文の規定を持たないし、控訴人aはまだ二代目で、権限の承継について一定の不文律が慣習として成立しているわけではないから、結局、家元継承といってもどのような権限が譲渡されたかは、実態のいかんに即して個別に判断するほかはない。
エ そこで、本件についてみるに、確かに、平成○年以前のA流においては、被控訴人は、家元として、一般にイメージされるところの絶大な権限を有していた。
オ しかし、被控訴人は、平成○年に控訴人aを二代目家元に継承させると公表した後も、自らは宗家を名乗り、舞踊活動を続けるとともに、名取免状には家元の前に署名をし、名取式等A流の重要な儀式にも出席する等、実質的な意味での権限を一定程度留保し、対内的にも、対外的にもすべての権限を控訴人aに移譲することまではしなかった。
カ また、控訴人aは、平成○年○月に頭蓋骨骨腫の除去手術を受け、同○年○月にも頸椎骨骨腫の除去手術を受ける等体調が不十分で、充実した心身で組織の代表者としての家元の責務を果たしうる状態にはなかった。
キ してみると、本件においては、控訴人aは二代目家元を承継したといっても、対内的、対外的とも完全に組織を代表していた従前の被控訴人と同等の意味での家元になりかわったとまではいうことはできない。その実態を直視すると、同控訴人は、被控訴人の助けを借りながら、少しずつ権限を移譲され、一定の時期を経て対内的にも対外的にも信望が得られたときに、世情いわれるところの完全な組織の主宰者としての家元となることが構想されていたのであって、平成○年ないし○年の段階ではいまだその過程にあったと解するのが相当である。そして、襲名披露は、A流においてはこれからは控訴人aが組織の前面に立ち、被控訴人はこれを背後から補助する役割を果たすことになる、そのために少しずつ権限を移譲していくので支援をお願いするというけじめとして内外に知らせる意味を持つものであったと解するのが相当である。
(3) 著作権の譲渡ないし上演許諾の有無
ア そこで、二代目家元襲名披露にともなって、従前被控訴人が有していた本件各舞踊ないしその他の舞踊についての著作権も譲渡されたか、少なくとも上演が包括的に許諾されたかについて判断する。
イa 前記のとおり、被控訴人は、控訴人aの二代目家元襲名にともなってそのすべての権限を譲渡してはいない。むしろ様子を見ながら少しずつ権限を移譲していこうというのがその趣旨である。
b してみると、著作権を譲渡することは自らはその権限を完全に失うことを意味するから、被控訴人がそこまでの意思を有していたとは到底解することはできない。
c よって、二代目家元襲名によってはいまだ著作権は譲渡されていないと解するのが相当である。
ウa 次に、包括的に上演権が付与されているかであるが、本件全証拠によっても、控訴人aが二代目襲名披露公演後に被控訴人の了承なく独自で公演活動を行ったことを認めるに足りる証拠はない。また、控訴人aは、名取、師範の資格付与等A流における重要な意思決定を被控訴人と相談のうえ行っており、一人ではこれを行っていない。その儀式も両名の名で行っている。
b 控訴人aは、その理由を、母であり、A流の創始者でもある被控訴人を尊重し、同人を立てるためであったと供述する。
c 確かに、同控訴人の気持は十分に理解しうるし、その行動は穏健で、むしろ賞賛されるべき側面もある。
d しかし、それは、裏返して言えば、被控訴人がいまだA流の組織内でそれなりの力を保持しており、反面、控訴人aは完全な権限を掌握するには至っていなかったことの証左でもある。
e 加えて、控訴人aは、平成○年○月に頭蓋骨骨腫の除去手術を受け、同○年○月にも頸椎骨骨腫の除去手術を受けたばかりで、精神的にも、肉体的にも、一人で組織を切り盛りしうるだけの充実した状態にはなかった。
f してみると、平成○年ないし○年の段階では、舞踊の上演活動についても、控訴人aは独自にこれを行う権限までは付与されておらず、被控訴人の個別の了承が必要であったと解するほかはない。
エ 以上によれば、被控訴人は、控訴人aに二代目家元を継承させると内外に公表した際に、同控訴人に本件第1、第2及び第4舞踊の著作権を譲渡していないし、包括的に上演を許諾してもいない。
オ なお、付言すると、被控訴人と控訴人aは、平成○年○○月ころから税務申告、経理処理等をめぐって対立を生じるようになり、信頼関係が喪失されるに至ったことから、その後にも、著作権が譲渡されたり、上演権が包括的に付与されたことはない。
3 控訴人bに対する包括的上演実施権付与の有無
(1) 控訴人bは、昭和○○年に名取の資格を、同○○年に師範の資格を授与された。
(2) しかし、同控訴人は、発表会を主催する際には、必ず事前に家元に報告し、本部や他の師範等の協力を得ながらこれを行ってきた。
(3) してみると、同控訴人が名取ないし師範の資格を授与された際に取得した権限は、被控訴人が著作権を有するA流の踊りをその弟子に教授すること及びそのために弟子の前でA流の舞踊を実演することにとどまっており、一般公衆の面前でこれを上演する包括的な権利までは付与されていない、これを行うためには被控訴人の個別の了承が必要であると解するのが相当である。
4 権利濫用の有無
(1) 控訴人らは、本件各舞踊の著作権が被控訴人に帰属するとしても、同じ流派内の人間に対して著作権法上の主張をすることは権利濫用であると主張する。
(2) 確かに、伝統的な文化活動の流派においては、著作権やノウハウ等組織の重要な知的財産について比較的緩やかな運用がされていることが多い。
(3) しかし、それはそのような組織では同門意識が組織存立の基礎となっており、同じ流派内に属する者同士には強固な信頼関係が築かれているからである。
(4) したがって、いったん信頼関係が崩れたときには、原則に立ち返り、厳密な運用がされることは当然であり、それをもって権利の濫用であると解することができない。
(5) A流においては、平成○年秋以来、被控訴人と控訴人aとの間に対立が生じ、同○年半ばからは組織を二分してお互いが家元を名乗る紛争にまで発展している。
(6) してみると、遅くとも平成○年夏以降は、被控訴人と控訴人aは同じA流を名乗っているとはいえ、実質的にはもはや同じ流派ということができず、著作権についても原則どおり厳格な運用がされてもこれに対して異議を述べることはできないというのが相当である。
(7) 以上によれば、被控訴人は自らの有する権利を正当に行使しただけであり、何らその権利を濫用したものではない。控訴人らの主張はこれを採用することができない。
5 著作権の帰属についてのまとめ
 以上によれば、解除の成否について論じるまでもなく、被控訴人は本件各舞踊についての著作権を現時点においても保持しており、これに対して、控訴人らは包括的な上演実施権を有しているとは認められない。
6 著作権侵害のおそれ
(1) 控訴人aは、現在もA流家元を名乗って舞踊活動を行っており、同bは、被控訴人と袂を分かち、控訴人aを師として舞踊教授活動を継続している。
(2) 控訴人山下は、本件訴訟係属中の平成10年6月14日にも、δ町立中央公民館において「C行橋舞踊公演」を主催し、本件第1舞踊を上演した(乙25)。
(3) してみると、控訴人らは現時点においても本件各舞踊を上演する可能性があると解するのが相当である。
7 慰謝料額の相当性
 控訴人bが本件第1上演に際しパンフレットに本件第1ないし第3の各舞踊の振付者を控訴人aであると表示したこと、控訴人aが本件第2上演に際しパンフレットに本件第1ないし第4の各舞踊の振付者を同控訴人であると表示したことは当事者間に争いがない。これらの控訴人らの行動がいずれも被控訴人の著作者人格権を侵害することは明らかであるが、舞踊家にとって振付者の氏名をきちんと表示されることは極めて重要な権利であるから、これが侵害されたことの慰謝料として、控訴人bについて金20万円の、同aについて金30万円の損害賠償金支払義務を認めるのが相当である。
8 まとめ
 よって、原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がない。

福岡高等裁判所第1民事部
 裁判長裁判官 宮良允通
 裁判官 藤本久俊
 裁判官 野島秀夫
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