判例全文 line
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【事件名】ネット掲示板の中傷事件(動物病院)(2)
【年月日】平成14年12月25日
 東京高裁 平成14年(ネ)第4083号 損害賠償等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成13年(ワ)第15125号)

判決


主文
1 本件各控訴をいずれも棄却する。
 ただし、原判決主文4項の「別紙発言目録3」中のURLの記載を本判決別紙のURLの記載のとおりに改める。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1) 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
(2) 被控訴人らの各請求をいずれも棄却する。
(3) 訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人らの負担とする。
2 被控訴人ら
 主文と同旨。
第2 事案の概要
1 本件は、控訴人の管理運営するインターネット上の本件掲示板において、被控訴人らの名誉を毀損する発言が書き込まれたにもかかわらず、控訴人がそれらの発言を削除するなどの義務を怠り、被控訴人らの名誉が毀損されるのを放置したことにより被控訴人らが損害を被ったなどとして、被控訴人らが控訴人に対し、不法行為に基づき、それぞれ損害賠償金250万円及び遅延損害金の支払を求めるとともに、民法723条又は人格権としての名誉権に基づき、本件掲示板上の被控訴人らの名誉を毀損する発言の削除を求めた事案である。原審は、名誉毀損による不法行為の成立を認め、控訴人に対し、被控訴人らそれぞれに損害賠償金200万円及びこれに対する平成13年8月5日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払並びに本件掲示板上の名誉毀損発言(ただし、請求に係る発言の一部を除く。)の削除を命じた。控訴人は、これを不服として本件各控訴を提起した。
2 基本的事実(証拠等の掲示のない事実は、当事者間に争いがない。)
(1) 被控訴人Аは、動物病院の経営等を目的とする有限会社であり、Cの名称で動物病院を経営している。被控訴人Bは、獣医であり、昭和58年にCを開業し、平成6年3月1日、被控訴人Аを設立し、以来被控訴人Аの代表取締役を務め、Cの院長として動物の診療を行うとともに、日本獣医学会、日本臨床獣医学会等に論文を発表してきた。Cには、日本各地から動物の飼主多数が訪れている。(甲27ないし32、弁論の全趣旨)
 控訴人は、インターネット上で閲覧及び書き込みが可能な電子掲示板である本件掲示板を開設し、そのシステムを管理運営している者である。
(2) 平成13年1月16日以降、本件掲示板の(省略)と題するスレッド(以下「本件1のスレッド」という。「スレッド」とは掲示板に提供される話題のことをいう。)において、原判決の別紙発言目録1記載の文言(以下「本件1の発言」という。)が、本件掲示板の(省略)と題するスレッド(以下「本件2のスレッド」という。)において、同目録2記載の文言(以下「本件2の発言」という。)が、それぞれ書き込まれた。(甲1、2、21、弁論の全趣旨)
(3) 控訴人は、本件掲示板内の発言の削除に関して「削除ガイドライン」と題する基準を定めている。
 被控訴人らは、平成13年5月22日、25日及び28日に、本件掲示板の削除依頼掲示板にスレッドを作って、被控訴人らの名誉を毀損する発言の削除を求めた。(甲27、乙2、4ないし6)
(4) 被控訴人Aは、平成13年6月21日付けの通知書をもって、控訴人に対し、本件1の発言の番号16、18、32、35、36、96、425、427、457、662、664、669、677、678、682、683、686、696、697、761、764、765、772、773、788、789、811ないし815、817、823、826、828ないし831、833、848、872、874ないし876、882、912、918ないし922、925、929、930の各発言及び本件2の発言の番号6ないし8、10、23の各発言(以下個別の発言を掲げるときは、例えば、「本件1の発言番号16」についてであれば、「発言1−16」というように記載することもある。)並びに書面発送日以降に被控訴人Aについて記載されたと特定し得る発言で被控訴人Aを中傷するものを、いずれも書面到達後10日以内に削除するよう求め、同通知書は、同月22日、控訴人に到達した。(甲4、5)
(5) 被控訴人らは、平成13年7月18日、本件訴訟を東京地方裁判所に提起した。(記録上明らかである。)
 本件訴訟係属後、本件掲示板の(省略)と題するスレッド(URL(インターネット上に存在する情報資源の場所、いわば、インターネットにおける情報の住所を指し示す記述方式)(省略)。このURLは、その後(省略)に変更された。以下「本件3のスレッド」という。)が作られ、本件3のスレッドの番号93には、本件1の発言の番号662、682、683、812の各文言と同一の文言(以下「本件3の発言」という。)が書き込まれた。
 (甲9、38、乙3)
(6) 控訴人が本件掲示板上の発言を削除することは技術的に可能であるが、現在に至るまで、本件1ないし3の発言は、削除されていない。
 (甲34、35、38)
3 争点及びこれに関する当事者の主張
(1) 本件各発言は名誉毀損に当たるか(争点(1))。
【被控訴人らの主張】
ア 本件1ないし3の発言並びに本件掲示板内の各掲示板に書き込まれた本件1ないし3の発言と同一の文言(以下、一括して「本件各発言」という。)は、被控訴人らの経営体制、施設、診療態度、診療方針等に関して、被控訴人らの社会的評価を低下させるものであり、被控訴人らに対する名誉毀損に当たる。
イ 本件については、対抗言論が可能であることによって名誉毀損が成立しないとの考え方は採用されるべきではない。仮に対抗言論の理論によるとしても、本件のように一方的な誹謗中傷発言が執拗に繰り返された場合には、名誉毀損の成立を否定する余地はない。
【控訴人の主張】
ア 本件各発言は、被控訴人らの名誉に関し何らかの具体的評価を形成し得るだけの具体的事実の摘示に欠けており、また、匿名によるものであって、読者は各発言に根拠があるとは限らないことを十分認識していると考えられるから、被控訴人らの社会的評価を低下させるものではなく、名誉毀損は成立しない。
イ 電子掲示板における論争には、対抗言論による対処を原則とすべきである。すなわち、名誉を毀損されたとする者が加害者に対し十分な反論を行い、それが功を奏した場合は、その者の社会的評価が低下する危険性は認められないことになる。本件においても、本件1のスレッドに、被控訴人らを擁護する趣旨の発言が書き込まれ、十分な反論がされているから、名誉毀損は成立しない。
(2) 控訴人に本件各発言の削除義務があるか(争点(2))。
【被控訴人らの主張】
ア 控訴人は、本件掲示板を開設し、そのシステムを管理運営している者であり、本件掲示板上の発言を削除する権限を有している。控訴人は、書き込みをした利用者に対し、当該書き込みを削除することなく、インターネット上で閲覧可能な状態に置かなければならないという法的義務を負っているものではない。
イ 控訴人は、IPアドレス(インターネットに接続された各種コンピューター等の識別を行うための数字列)を原則として保存しないことを約束し、本件掲示板が、完全に匿名の掲示板であり、発言を書き込んだ者がだれであるかを特定することが困難又は不可能であることを保障している。また、控訴人は、本件掲示板において、「気兼ねなく、会社、学校、座敷牢からアクセスできるように、発信元は一切分かりません。お気楽ご気楽に書き込んで下さい。」と発言し、違法行為を誘発している。このような控訴人の行為により、本件掲示板において名誉毀損等の違法な発言がされ、損害が生じ得べき危険状態が惹起されたといえる。
 そして、実際に、平成13年には、本件掲示板にD生命保険相互会社(以下「D生命」という。)の従業員を誹謗中傷する書き込みがされたため、同社は、控訴人に対し発言の削除を求める仮処分を東京地方裁判所に申し立て、同裁判所は、同年8月28日、控訴人に対し、発言の削除を命じる仮処分決定をした。また、同年に発生した西鉄高速バスジャック事件においては、逮捕された少年が、本件掲示板において犯行を予告していた。これらのことから、控訴人は、本件掲示板において上記のような違法な発言がされる危険性を認識していたものである。
ウ よって、控訴人は、本件掲示板において違法な発言がされないように最大限の注意を払い、違法な発言がされた場合には、これを直ちに発見して削除するなど適切な措置を講じて損害の発生拡大を防止すべき条理上の義務を負っているというべきである。しかるに、控訴人は、これらの義務に違反し、本件各発言を発見して削除することを怠った。
エ 控訴人の定めた削除ガイドラインは、これに従って本件掲示板の発言の削除を依頼すること自体だれにとっても容易であるというものではないし、また、ガイドライン自体恣意性が極めて高く、管理者である控訴人が削除の要否を判断することになっているから、違法発言による被害救済の実効性に乏しい。
オ 発言の公共性、目的の公益性、内容の真実性等の主張立証責任についても、直接発言者を相手に訴訟をする場合との均衡、匿名の書き込みシステムを作ったのは控訴人であることなどを考慮すべきである。
 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(平成13年11月30日公布、平成14年5月27日施行。以下「プロバイダー責任法」という。)は本件に適用されるものではないが、同法3条1項も違法性阻却事由については「特定電気通信役務提供者」(以下「プロバイダー等」という。)に主張立証責任があるとしているものと解される。
【控訴人の主張】
ア 本件掲示板における情報は、当該情報の公共性、目的の公益性、内容の真実性の有無が不明な段階では、他人の権利を侵害する違法な情報であるか否かが不明であり、このような場合には、本件掲示板の開設者、管理者にすぎない控訴人が当該情報の削除義務を負うものではない。本件各発言は、少なくとも、その内容が真実であるか否かが不明であり、被控訴人らの権利を侵害する違法な発言かどうかも不明であるから、控訴人は本件各発言の削除義務を負わない。なお、本件掲示板の(省略)において「削除の最終責任は管理人にあります」との記載があるが、これは、削除権限を行使した場合の責任についてのものであり、削除義務の根拠とはならない。
イ 被控訴人らは、控訴人が本件掲示板において匿名性を保障していること、控訴人自ら違法な発言を誘発していることなどをもって先行行為とし、控訴人はこれに基づき条理上の損害発生防止義務を負うと主張するが、匿名による発言も表現の自由の一環として保障されるべきであり、匿名による発言の場を提供することを先行行為ということはできない。また、控訴人は、本件掲示板において違法な発言を助長してはいない。匿名掲示板であることを削除義務の根拠とすることは、不正アクセス行為禁止法の立法過程において議論の結果接続情報の保存義務が否定されたということを無視し、実質的にプロバイダー等に接続情報の保存義務を課すものであり、不当である。
ウ 控訴人は、本件掲示板上の発言について、技術的には削除できるが、利用者の表現の自由等との関係で、法的に自由に削除できるわけではない。
 本件掲示板の削除ガイドラインが不明確であり、被控訴人らにその方式に従った削除依頼をすることを期待できないということをもって、直ちに控訴人の削除義務の根拠とすることはできない。
エ プロバイダー責任法は、プロバイダー等の責任を明確化し、他人の権利を侵害する情報の流通に対して迅速かつ適切な対応を期待するものとして制定されたものであり、控訴人は、電子掲示板の管理者であるから、プロバイダー責任法にいうプロバイダー等に該当する。同法によると、プロバイダー等は、他人の権利を侵害する可能性のある情報の存在を認識した場合には、その情報により他人の権利が侵害されているかどうかを判断する必要があり(3条1項)、かつ、その情報を削除する場合には、その情報によって他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由があること、すなわち、違法性阻却事由が存在しないことが必要である(3条2項)。
 このようなプロバイダー責任法の制定経緯、規制範囲等に照らすと、プロバイダーは直接名誉毀損に当たる発言をした者ではなく、発言の公共性、目的の公益性、内容の真実性を判断することができないから、名誉毀損における真実性等の存否については、プロバイダーの責任を追及する者が主張立証責任を負うと解すべきであり、その主張立証責任が尽くされていない以上、プロバイダーである控訴人には本件各発言の削除義務違反はなく、これを削除しなかったことによる不法行為は成立しない。
(3) 控訴人にその他の不法行為が成立するか(争点(3))。
【被控訴人らの主張】
ア 控訴人は、本件各発言を削除するなどの措置を講じないまま放置しただけでなく、被控訴人らが本件掲示板において削除を依頼する旨の書き込みをしたのに対し、削除依頼の方法が間違っているなどとして、インターネット及びコンピューターに不慣れな被控訴人Bを嘲笑し、被控訴人Bに対し、更に深い精神的苦痛を与えた。
イ 被控訴人らが本件訴訟を提起した後、控訴人はその発行するメールマガジンにおいて本件訴訟の内容を公開した。これにより、被控訴人らに対する更なる中傷発言が誘発され、また、被控訴人Aに多数の無言電話及び脅迫電話がされるなど、被控訴人らの被った損害が拡大した。
【控訴人の主張】
 控訴人が、本件1ないし3の発言を削除していないこと、メールマガジンにおいて本件訴訟に関する記載をしたことは認めるが、その余の被控訴人らの主張は否認する。
 憲法は裁判の公開を制度的に保障しているから(憲法82条)、本件訴訟に関する情報を公開することは何ら禁止されるべきものではない。
(4) 被控訴人らの損害の程度(争点(4)))
【被控訴人らの主張】
 被控訴人Bは、獣医であり、獣医学会でも評価の高い著明な存在であるところ、本件各発言により、社会的地位、獣医としての評価を傷つけられ、多大な精神的苦痛を被った。また、被控訴人Aは、小規模の動物病院であるものの、その治療方針、医療技術等が評価され、日本各地から多数の動物の飼主が来院しているところ、本件各発言により、動物病院としての社会的地位・評価を傷つけられ、経営上の損害を受けた。
 本件各発言の中には、被控訴人らを極端に揶揄し、愚弄し、嘲笑し、蔑視するものが多いことからすれば、被控訴人らの損害額は、通常の場合よりも高額となるべきであり、被控訴人らが本件各発言により被った損害は、それぞれ250万円を下らない。
【控訴人の主張】
 本件各発言は、被控訴人らの社会的評価を低下させるほどの具体的事実の摘示に欠け、侮辱的表現による名誉感情を害するにすぎず、損害額も低額にとどまる。また、本件掲示板への書き込みは匿名によるものであるから、これにより被控訴人らの社会的評価の低下の程度は著しく小さいものである。
(5) 控訴人に対して本件各発言の削除を求めることができるか(争点(5))。
【被控訴人らの主張】
 被控訴人らは、民法723条又は人格権としての名誉権に基づき、本件各発言の削除を求めることができる。
【控訴人の主張】
 被控訴人らの主張は争う。
第3 当裁判所の判断
1 基本的事実及び証拠(各かっこ内に掲示のもの。)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認定することができる。
(1) 本件掲示板の概要
 本件掲示板は、控訴人が開設し、管理運営しているインターネット上の電子掲示板であり、だれでも本件掲示板を閲覧し、これに書き込みをするなどして利用することができ、その利用につきなんらの契約も使用料等の支払も必要のないものである。
 本件掲示板には、本件訴訟提起時において、1日当たり約80万件の書き込みがあった。また、本件掲示板には、平成13年9月時点で、特定のテーマごとに個別の掲示板が約330種類存在し、各掲示板には、個別の話題ごとに数百のスレッドが存在していて、各スレッドについての発言が、そこに書き込まれた日時順に1から番号が付けられ掲示されていた。利用者は、各掲示板の各スレッドに書き込まれた発言を閲覧することができるほか、既存のスレッドにおいて発言を書き込んだり、新しくスレッドを作って発言を書き込むことができるようになっている。
 本件掲示板に書き込みをする者は、氏名、メールアドレス、ユーザーID等を記載する必要はなく、また、本件掲示板の管理運営者である控訴人は、本件掲示板に書き込み等をする利用者を把握することができるIPアドレス等の接続情報を原則として保存していない。そして、控訴人は、本件掲示板の使用方法を定めた「使い方&注意」と題するページにおいて、「気兼ねなく、会社、学校、座敷牢からアクセスできるように、発信元は一切分かりません。お気楽ご気楽に書き込んで下さい。」と記載し、本件掲示板の利用者の情報が一切秘匿されていることを強調している。
 (乙1、3、7、8)
(2) 本件掲示板における発言の削除の方法等
ア 本件掲示板における発言は、「削除人」又は「削除屋」と称される利用者(以下「削除人」という。)により削除されることがある。削除人は、それを業とする者ではなく、いわゆるボランティアであって、控訴人の定めた削除ガイドライン(その内容は次のイに記載のとおり。)に従って本件掲示板における発言を削除しているが、この削除ガイドラインによれば、削除の対象となる発言であっても、削除人がこれを削除すべき義務を負うものではなく、また、これを削除し、又は削除しなかったとしても、そのことについて責任を負うものではないとされている。この点について、本件掲示板の「いろいろな決まり」と題するページ中の「削除する人の心得」と題する項目には、本件掲示板の全責任は「管理人たる控訴人」が負い、削除人が行った削除等の行為についても、控訴人が責任を負う旨記載されている。また、(省略)には「削除の最終責任は管理人にあります」と記載されている。
 この削除人になろうとする者は、その旨を控訴人に対し電子メールで連絡し、控訴人が、その中から適任であると判断した者を削除人に任命し、登録することとされており、これにより、削除人は、発言を削除することができるようになるのであるが、各削除人の削除権は、控訴人の判断により徐々に拡大されたり、場合によってはこれをすべて剥奪されたりすることもあるとされており、平成14年2月時点で約180人の削除人が存在した。
イ 控訴人は、削除人が本件掲示板の発言を削除する場合の基準として削除ガイドラインを定め、本件掲示板内の「いろいろな決まり」と題するページに掲載している。(乙2)
 この削除ガイドラインによると、電話番号、地域・人種等に関する差別的発言、連続してされた発言、重複して作られたスレッド、過度に性的で下品な発言、著作物に当たるデータの存在する場所のURLの書き込み、宣伝を目的としたURLの書き込み等が削除対象とされている。
 また、人に関する発言については、発言の対象となる人を個人と法人・公的機関とに分け、個人に関する発言については、対象となる個人を、「一群 政治家・芸能人・プロ活動をしている人物・有罪判決の出た犯罪者」、「二類 板(掲示板のこと。以下同じ。)の趣旨に関係する職業で責任問題の発生する人物 著作物or創作物or活動を販売または提供して対価を得ている人物 外部になんらかの被害を与えた事象の当事者」、「三種 上記2つに当てはまらない全ての人物」の3種類に分類した上、「個人名・住所・所属」に関する書き込みについては、「一群:公開されているもの・情報価値があるもの・公益性が有るもの・等は削除しません。削除の可否は管理人が判断します。」、「二類:外部から確認できない・責任や事象に無関係な情報は削除対象です。公開されたインターネットサイト・全国的マスメディア・電話帳で確認できる・等、隠されていない情報については削除しません。」、「三種:趣旨説明も公益性も無い・誹謗中傷の個人特定が目的である・等の場合は削除対象になります。」と記載され、「誹謗中傷」の書き込みについては、「一群:管理人裁定の無い限り削除しません。」、「二類:公益性が有り板の趣旨に則した事象・直接の関係者や被害者による事実関係の記述・等が含まれたものは削除しません。」、「三種:個人を特定する情報を伴っているものは全て削除対象です。」と記載されている。
 次に、法人に関する書き込みについては、「社会・出来事カテゴリ内では、批判・誹謗中傷、インターネット内で公開されている情報、インターネット外のデータソースが不明確なもの、は全て放置です。その他のカテゴリ内では、掲示板の趣旨に関係があり、客観的な問題提起がある・公益性のある情報を含む・その法人・企業が外部になんらかの影響を与える事件に関係している・等の場合は放置です。」などと記載されている。
ウ また、控訴人は、本件掲示板の発言の削除を求める場合の方法について「削除依頼の注意」と題する定めをし、上記「いろいろな決まり」のページの中に掲載している。
 それによると、本件掲示板の発言の削除を求めるときは、本件掲示板内の「削除依頼掲示板」において、削除を求める発言がされたスレッドのURL、削除を求める発言のレス番号(本件掲示板では、一般に書き込みのことを「レス」とも呼んでいる。)、削除を求める理由等を記載したスレッドを作るなどして削除を依頼することが必要とされ、「ルールを守らなかったり言葉遣いの悪い削除依頼は無視されるかもしれません」と記載されている。
 (甲3、6、乙1、2、7、8)
(3) 本件1、2の発言の書き込みとその後の被控訴人らの対応等
ア 平成13年1月14日、本件掲示板内の(省略)において、匿名の者により、本件1のスレッドが作られ、同月16日から同年6月8日にかけて、複数と思われる匿名の者により、同スレッドに本件1の発言が書き込まれた。また、同年6月11日、匿名の者により、本件2のスレッドが作られ、同日から同年9月21日にかけて、複数と思われる匿名の者により、同スレッドに本件2の発言が書き込まれた。
イ 本件1のスレッドは、その表題から、診療態度、診療技術等に問題のある動物病院を取り上げて批判することを目的として作られたものと解されるが、スレッドを作った者の発言内容は、「悪徳動物病院をこの世から滅殺しよう!!。川崎にある某動物救急病院!あそこはちょっとテレビでとりあげられたからといって調子にのっている!!動物の命よりもまず「金」を請求します。」というものであり、その文言は、相当の根拠を持って事実を摘示して病院を批判するというものではなく、特定の動物病院に対し侮蔑的な表現をもって誹謗中傷するものと読み取れるものである。そして、その後、本件1のスレッドには、動物病院や獣医を誹謗中傷する発言が多数書き込まれ、その中には、動物病院の病院名や所在場所を特定して誹謗中傷する発言や、病院名の一部を仮名にしてあるものの、その所在場所等から病院名を容易に特定することができる発言も多く存在した。
ウ 被控訴人Bは、インターネットの利用に不慣れであり、本件掲示板を閲覧したりこれに発言を書き込むなどして利用した経験もなかったところ、平成13年5月ころ、友人から本件掲示板に被控訴人らに関する本件1の発言が書き込まれていることを聞かされて知り、同月22日、25日及び28日に、本件掲示板の削除依頼掲示板内にスレッドを作って、被控訴人らの名誉を毀損する発言の削除を求めた。しかし、被控訴人Bがインターネットの利用に不慣れであり、本件掲示板を利用したことがなかったことなどから、その削除要請は、前記「削除依頼の注意」の記載事項に従ったものではなかった。そして、上記削除要請の後、一部(電話番号と思われる数字)は削除人により削除されたが、大部分は削除されず、かえって、削除依頼掲示板内のスレッド及び本件1のスレッドにおいて、「削除依頼の方法が間違っています。TOPをよく読んで出直してください。」と応答されたにとどまらず、「何時もこういう馬鹿がいる」、「ちゃんとルール読んでから削除依頼出せ馬鹿!」、「この動物病院、何度言われれば依頼の方法覚える気になるんだろうなあ」などと上記削除要請を揶揄したり、侮辱したりする発言が書き込まれた。
エ 被控訴人らは、平成13年7月18日に本件訴訟を提起し、同年9月19日に第1回口頭弁論期日が開かれたが、その後、控訴人は、「C裁判報告の第1回です。」などと記載した上、本件第1回口頭弁論期日における被控訴人ら代理人と控訴人代理人との間のやり取り等について記載した本件メールマガジンを発行した。控訴人は、不定期でメールマガジンを発行しており、購読者は、平成13年9月時点で、約7万人存在した。
オ 本件1及び2のスレッドの各URLは、当初、それぞれ(省略)及び(省略)であったが、平成14年4月ころまでには、本件掲示板内の(省略)へデータが移動され、それぞれ(省略)及び(省略)へと変更された。
カ 本件訴訟の係属後、本件掲示板内の(省略)において、(省略)と題するスレッド(本件3のスレッド)が、(省略)において(省略)と題するスレッドがそれぞれ作られ、被控訴人らが控訴人に対し本件訴訟を提起したことが話題とされた。そして、本件3のスレッドの番号93には、本件1の発言の番号662、682、683及び812の各文言と同一の文言(本件3の発言)が書き込まれており、また、(省略)と題するスレッドには、本件1のスレッドのURL(省略)が記載され、リンクが貼られるなどしている。
 本件訴訟提起後も、本件掲示板において被控訴人らを誹謗中傷する発言がされ、また、被控訴人Aに対し無言電話が多数回かかってきた。
 (甲1、2、9ないし12、21、22、27、乙1、3ないし6、弁論の全趣旨)
(4) その他の名誉毀損発言等と控訴人の対応
 平成13年には、本件掲示板にD生命及びその従業員の具体的な名を明示してこれを誹謗中傷する多数の書き込みがされ、D生命は、同年3月21日、控訴人に対し、営業権及び名誉権に基づく妨害排除請求として上記発言の削除を求める仮処分を東京地方裁判所に申し立てた。同裁判所は、同年8月28日、上記申立てを相当と認め、控訴人に対し、本件掲示板の一定の発言の削除を命じる仮処分決定をしたが、控訴人は、本件掲示板に上記仮処分事件について公開し、その後、D生命や上記仮処分事件の代理人弁護士を誹謗中傷する多数の発言がされたことがあった。
 (甲8、11、13ないし16、33の1ないし9、)
2 争点(1)(本件各発言は名誉毀損に当たるか。)について
(1) 本件1の発言の番号16、32、35、36、96、427、457、623、662、669、678、682、683、685、686、696、761、765、772、773、788、811ないし813、815、817、823、826、828ないし831、833、848、874ないし876、882、912、918、921、922、925、929、930の各発言、本件2の発言の番号6ないし8、10、23、297、308、312、320、344、605、711、712、791、792、801の各発言は、いずれも、(省略)又は(省略)という題の各スレッドの下で、被控訴人らあるいは被控訴人A又は被控訴人Bのいずれかの名前を挙げ、又は被控訴人らの名前の一部を伏字、あて字等にするものの、被控訴人らを指し示すことが容易に推測される文言を記載した上、「ブラックリスト」、「過剰診療、誤診、詐欺、知ったかぶり」、「えげつない病院」(発言1−16、32、35、36、96)、「ヤブ(やぶ)医者」(発言1−677、678、811、882、発言2−792)、「ダニ(以下省略)」(発言1−773、912、918、921、925、929、発言2−711)、「精神異常」(発言1−427、848、)、「精神病院に通っている」(発言1−812、発言2−801)、「動物実験はやめて下さい。」(発言1−623)、「テンパー」(発言1−669)、「責任感のかけらも無い」(発言1−682)、「不潔」(発言1−683、761)、「氏ね(死ねという意味)」(発言1−685)、「被害者友の会」(発言1−696、761、788、930、発言2−23)、「腐敗臭」(発言1−696、788)、「ホント酷い所だ」(発言1−815)、「ずる賢い」(発言1−817)、「臭い」(発言1−826)などと侮辱的な表現を用い、又は「脱税してる」のではないかとの趣旨の直近のいくつかの発言を引用する(発言1−823)などして誹謗中傷する内容であり、被控訴人らの社会的評価を低下させるものである。
 また、本件1の発言の番号18、425、664、697、789、814、919、920の各発言は、その発言自体には被控訴人らを特定する文言はないものの、本件1のスレッドの他の発言と併せ読めば、その内容に照らし、これらの発言がいずれも被控訴人らに向けられていることは明らかであり、被控訴人らの社会的評価を低下させるものであるといえる。
 さらに、本件3の発言は、本件1の発言の番号662、682、683、812の各発言と同一の文言が書き込まれたものであるから、上記のとおり被控訴人らの社会的評価を低下させるものである。
 したがって、本件各発言中上記本件1の発言(番号764、872を除く。)、本件2の発言及び本件3の発言(以下これらを「本件各名誉毀損発言」という。)は、いずれも被控訴人らの名誉を毀損するものというべきである。
 なお、被控訴人Aは、動物病院の経営等を目的とする有限会社であるところ、本件各名誉毀損発言は、いずれも(省略)の告発を目的とするスレッドにおいて、被控訴人Aの経営体制、施設等を誹謗中傷するとともに、その代表者で院長である獣医の被控訴人Bの診療態度、診療方針、能力、人格等を誹謗中傷するものでもあり、被控訴人Aと被控訴人Bの両名に対して向けられたものであって、被控訴人ら両名の社会的評価を低下させるものといえる。
(2) 控訴人は、本件各発言について、匿名であり、読者は各発言に根拠があるとは限らないことを十分認識していると考えられるから、被控訴人らの社会的評価を低下させるものではなく、各発言は名誉を毀損するものではないと主張する。
 しかし、ある発言の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、一般人の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきものであり(新聞記事についての最高裁判所昭和31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)、インターネットの電子掲示板における匿名の発言であっても、(省略)と題して不正を告発する体裁を有している場での発言である以上、その読者において発言がすべて根拠のないものと認識するものではなく、幾分かの真実も含まれているものと考えるのが通常であろう。したがって、その発言によりその対象とされた者の社会的評価が低下させられる危険が生ずるというべきであるから、控訴人の上記主張は採用することができない。
(3) 控訴人は、電子掲示板における論争には「対抗言論」による対処を原則とすべきであり、本件においても、被控訴人らを擁護する趣旨の発言がされ、十分な反論がされているから、被控訴人らの社会的評価は低下していないことになると主張する。
 言論に対しては言論をもって対処することにより解決を図ることが望ましいことはいうまでもないが、それは、対等に言論が交わせる者同士であるという前提があって初めていえることであり、このような言論による対処では解決を期待することができない場合があることも否定できない。そして、電子掲示板のようなメディアは、それが適切に利用される限り、言論を闘わせるには極めて有用な手段であるが、本件においては、本件掲示板に本件各発言をした者は、匿名という隠れみのに隠れ、自己の発言については何ら責任を負わないことを前提に発言しているのであるから、対等に責任をもって言論を交わすという立場に立っていないのであって、このような者に対して言論をもって対抗せよということはできない。そればかりでなく、被控訴人らは、本件掲示板を利用したことは全くなく、本件掲示板において自己に対する批判を誘発する言動をしたものではない。また、本件スレッドにおける被控訴人らに対する発言は匿名の者による誹謗中傷というべきもので、複数と思われる者から極めて多数回にわたり繰り返しされているものであり、本件掲示板内でこれに対する有効な反論をすることには限界がある上、平成13年5月31日に被控訴人らを擁護する趣旨の発言(本件1のスレッドの番号857)がされたが、これによって議論が深まるということはなく、この発言をした者が被控訴人Bであるとして揶揄するような発言(発言1−882)もされ、その後も被控訴人らに対する誹謗中傷というべき発言が執拗に書き込まれていったのである。
 このような状況においては、名誉毀損の被害を受けた被控訴人らに対して本件掲示板における言論による対処のみを要求することは相当ではなく、対抗言論の理論によれば名誉毀損が成立しないとの控訴人の主張は採用することができない。
3 争点(2)(控訴人の削除義務の有無)について
(1) 前記1で認定した事実並びに前記第2の2(3)及び(6)の事実によれば、次のようにいうことができる。
ア 本件掲示板は、控訴人が開設し、管理運営しているが、控訴人は、利用者のIPアドレス等の接続情報を原則として保存せず、またその旨を明示しており、利用者は、掲示板を匿名で利用することが可能であり、利用者が自発的にその氏名、住所、メールアドレス等を明かさない限り、それが公表されることはない。したがって、本件掲示板に書き込まれた発言が他人の名誉を毀損することになっても、その発言者の氏名等を特定し、その責任を追及することは事実上不可能である。そして、このように匿名で利用でき、管理者ですら発信元を特定できないことを標榜している電子掲示板においては、ややもすれば利用者の規範意識が鈍麻し、場合によっては他人の権利を侵害する発言などが書き込まれるであろうことが容易に推測される。実際に、本件1、2のスレッドに限ってみても、被控訴人らに対するもののほか、他の多くの動物病院、獣医等に対する名誉毀損と評価し得る発言などが数多く書き込まれており、また、前記1(4)のとおり、本件掲示板において、D生命及びその従業員個人に対する多数の誹謗中傷の発言がされた例もある。
イ 前記1(2)のとおり、控訴人は、本件掲示板上の発言を削除する基準(削除ガイドライン)、削除依頼の方法等について定め、自己の判断で削除人を選任し、削除ガイドラインに従って発言を削除させ、あるいは削除人の削除権を剥奪するなどして、本件掲示板を管理運営している者であるから、本件掲示板における発言を削除する権限は最終的には控訴人に帰属しているものと認められる。
ウ 本件掲示板において他人の名誉を毀損する発言がされた場合、名誉を毀損された者は、その発言を自ら削除することはできず、控訴人の定めた一定の方法に従って、本件掲示板内の「削除依頼掲示板」においてスレッドを作って書き込みをするなどして上記発言の削除を求め、削除人によって削除されるのを待つことになる。
 控訴人が定めた削除ガイドラインは、前記1(2)のとおり、個人に関する書き込みについては、個人を「一群、二類、三種」と3種類に分類した上、発言の内容について、「個人名・住所・所属」に関する発言、誹謗中傷の発言等に分けて、上記各分類ごとに削除するか否かの基準を定めてはいるが、上記3種類の分類では、当該個人が具体的にどの分類に当てはまるかが明確でない上、各分類ごとの発言の削除の基準も不明確であり、かつ、管理者である控訴人の判断に委ねられている部分もある。また、法人に関する発言の削除の基準についても、電話番号を除き、削除されない場合についてしか定められておらず、削除されない場合についての内容も明確ではない。結局、本件掲示板の削除ガイドラインは、その表現が全体として極めてあいまいで、不明確であり、個人又は法人の名誉を毀損する発言がいかなる場合に削除されるのかを予測することは困難であるといえる。
 このように、削除人が発言を削除する際の基準とされている削除ガイドラインの内容が明確でなく、しかも、削除人は、それを業とするものでないボランティアにすぎないことから、本件掲示板における発言によって名誉を毀損された者が、所定の方式に従って発言の削除を求めたとしても、必ずしも削除人によって削除されることは期待できないものである。
エ 本件掲示板は、約330種類のカテゴリーに分かれており、1日約80万件の書き込みがあること、削除人は、それを業とする者ではなく、いわゆるボランティアが180人程度であったことからすると、本件掲示板において他人の権利を侵害する発言が書き込まれているかどうかが常時監視され、適切に削除されるということは事実上不可能な状態であった。前記のとおり、被控訴人らが本件掲示板にスレッドを作ってした削除依頼も、実効性がなかった。
(2) 本件掲示板が、現在、新しいメディアとして広く世に受け入れられ、極めて多数の者によって利用されており、大方、控訴人の開設意図に沿って適切に利用されていることは、本件の各証拠並びに弁論の全趣旨に照らして容易に推認し得るところであるが、他方、本件掲示板は、匿名で利用することが可能であり、その匿名性のゆえに規範意識の鈍麻した者によって無責任に他人の権利を侵害する発言が書き込まれる危険性が少なからずあることも前記のとおりである。そして、本件掲示板では、そのような発言によって被害を受けた者がその発言者を特定してその責任を追及することは事実上不可能になっており、本件掲示板に書き込まれた発言を削除し得るのは、本件掲示板を開設し、これを管理運営する控訴人のみであるというのである。このような諸事情を勘案すると、匿名性という本件掲示板の特性を標榜して匿名による発言を誘引している控訴人には、利用者に注意を喚起するなどして本件掲示板に他人の権利を侵害する発言が書き込まれないようにするとともに、そのような発言が書き込まれたときには、被害者の被害が拡大しないようにするため直ちにこれを削除する義務があるものというべきである。
 本件掲示板にも、不適切な発言を削除するシステムが一応設けられているが、前記のとおり、これは、削除の基準があいまいである上、削除人もボランティアであって不適切な発言が削除されるか否かは予測が困難であり、しかも、控訴人が設けたルールに従わなければ削除が実行されないなど、被害者の救済手段としては極めて不十分なものである。現に、被控訴人Bは、本件掲示板に本件各発言の削除を求めたが、削除してもらえず、本件訴訟に至ってもなお削除がされていない。したがって、このような削除のシステムがあるからといって、控訴人の責任が左右されるものではない。また、控訴人は、本件掲示板を利用する第三者との間で格別の契約関係は結んでおらず、対価の支払も受けていないが、これによっても控訴人の責任は左右されない。無責任な第三者の発言を誘引することによって他人に被害が発生する危険があり、被害者自らが発言者に対して被害回復の措置を講じ得ないような本件掲示板を開設し、管理運営している以上、その開設者たる控訴人自身が被害の発生を防止すべき責任を負うのはやむを得ないことというべきであるからである。
(3)ア ところで、事実を摘示しての名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには、上記行為には違法性がなく、仮に上記事実が真実であることの証明がないときにも、行為者において上記事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定され、また、ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、上記意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り、上記行為は違法性を欠くものとされ、上記意見ないし論評の前提としている事実が真実であることの証明がないときにも、行為者において上記事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定されると解される(最高裁判所平成9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁参照)。
 控訴人は、本件掲示板に書き込まれた発言について、その公共性、目的の公益性、内容の真実性等が明らかでない場合には控訴人は削除義務を負わない、すなわち、名誉を毀損されたという被控訴人らにおいて、当該発言の公共性、目的の公益性、内容の真実性等の不存在につき主張立証する必要がある旨主張する。
 しかしながら、人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会的評価を低下させる事実の摘示、又は意見ないし論評の表明となる発言により、名誉毀損という不法行為は成立し得るものであり、名誉を毀損された被害者が、その発言につき上記のとおり社会的評価を低下させる危険のあることを主張立証すれば、発言の公共性、目的の公益性、内容の真実性等の存在は、違法性阻却事由、責任阻却事由として責任を追及される相手方が主張立証すべきものである。
 被控訴人らは、本件掲示板における匿名の者の発言によって名誉を毀損されたものであり、前記(2)のとおり、本件掲示板の匿名の発言者を特定して責任を追及することが事実上不可能であること、控訴人は、単に第三者に発言の場を提供する者ではなく、電子掲示板を開設して、管理運営していることから、控訴人は名誉毀損発言について削除義務を負うものであり、控訴人が発言者そのものではないからといって、被害者側が発言の公共性、目的の公益性及び内容の真実性が存在しないことまで主張立証しなければならないとは解されない。
 したがって、本件において、控訴人が、本件各発言の公共性、目的の公益性、内容の真実性が明らかではないことを理由に、削除義務の負担を免れることはできないというべきである。
イ この点に関し、控訴人は、本件にプロバイダー責任法が適用され、同法の制定経緯、規制範囲等に照らすと、プロバイダーは直接名誉毀損に当たる発言をした者ではなく、発言の公共性、目的の公益性、内容の真実性を判断することができないから、名誉毀損における真実性等の存否についても、プロバイダーの責任を追及する者が主張立証責任を負うと解すべきであると主張する。同法は平成14年5月27日に施行されたものであるから、本件に直ちに適用されるものではないが、その趣旨について一応検討する。
 プロバイダー責任法3条1項には、特定電気通信による情報の流通により他人の権利が侵害されたときは、プロバイダー等は、権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能な場合であって、当該プロバイダー等が当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていたとき、又は、当該プロバイダー等が、当該特定電気通信による情報の流通を知っていた場合であって、当該電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるときでなければ、当該プロバイダー等が当該権利を侵害した情報の発信者である場合を除き損害賠償責任を負担しない旨が定められている。
 これは、当該情報の内容が、人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会的評価を低下させる事実の摘示、又は意見ないし論評の表明であるなど、他人の権利を侵害するものである場合に、プロバイダーが当該情報が他人の権利を侵害することを知っていたときはもちろん、プロバイダーが当該情報の流通を知り、かつ、通常人の注意をもってすればそれが他人の権利を侵害するものであることを知り得たときも責任を免れないとする趣旨であり、権利侵害の認識又はその認識可能性の主張立証責任を被害者側に負わせたものと解されるが、それ以上に権利侵害についての違法性阻却事由、責任阻却事由の主張立証責任についてまで規定をしているものではないと解される。
 本件においては、控訴人は、前記のとおり、通知書、本件訴状、請求の趣旨訂正申立書等により、本件1ないし3のスレッドにおいて被控訴人らの名誉を毀損する本件各名誉毀損発言が書き込まれたことを知ったのであり、その各発言の内容から被控訴人らの名誉が侵害されていることを認識し、又は認識し得たというべきであるから、同法3条1項の趣旨に照らしても、これにより損害賠償責任を免れる場合には当たらないことになる。
 なお、同法3条1項は、情報の流通による権利侵害につき、プロバイダーに対する差し止め請求が認められるかどうかについては何ら規定していないものである。
ウ 控訴人は、匿名の発言も表現の自由の一環として保障されるべきであると主張する。しかし、匿名の者の発言が正当な理由なく他人の名誉を毀損した場合に、被害者が損害賠償等を求めることは当然許されることであり、このことが表現の自由の侵害となるものではないから、控訴人の上記主張は、採用することができない。
エ また、控訴人は、不正アクセス禁止法の立法過程において、議論の結果接続情報の保存義務が否定されたということから、電子掲示板における匿名性は削除義務の根拠としてはならない旨主張する。しかし、不正アクセス禁止法は、不正アクセス行為の禁止、罰則及びその再発防止のための行政機関(都道府県公安委員会)の援助措置等を定めて、電気通信回線を通じて行われる電子計算機に係る犯罪の防止及びアクセス制御機能により実現される電気通信に関する秩序の維持を図るために制定されたものである(同法1条)から、同法における接続情報の保存義務を課すかどうかについての議論の結果が、匿名の者による名誉毀損の発言がされた本件掲示板を管理運営する控訴人に対し、民法の不法行為の法理により同発言の削除義務を認めるとの前記判断を左右するものではない。
(4) そこで、控訴人が本件各発言を削除しなかったことが上記削除義務に違反する不法行為となるかを検討する。
ア 前記第2の2(4)記載のとおり、被控訴人Aは、控訴人に対し、平成13年6月21日付けの通知書をもって発言の削除を求め、同通知書は、同月22日、控訴人に到達したから、これにより、控訴人は、本件各名誉毀損発言のうち、本件1の発言の番号16、18、32、35、36、96、425、427、457、662、664、669、677、678、682、683、686、696、697、761、765、772、773、788、789、811ないし815、817、823、826、828ないし831、833、848、874ないし876、882、912、918ないし922、925、929、930の各発言並びに本件2の発言の番号6ないし8、10、23の各発言について、本件掲示板に書き込まれたことを具体的に知ったものと認められる。また、被控訴人らは、本件訴状の別紙発言目録1において、上記通知書で削除を求めた発言の他に、本件1の発言の番号623、685の各発言についても削除を求め、本件訴状は平成13年8月4日、控訴人に送達されたから、控訴人は、同日までに、上記各発言が本件掲示板に書き込まれたことを具体的に知ったものと認められる。さらに、本件3の発言が記載された証拠書類(甲9)は、平成13年11月5日に控訴人代理人が受領し、同月7日の原審第2回口頭弁論期日に提出されたから、控訴人は、同日までに、本件3の発言が書き込まれたことを具体的に知ったものと認められる。また、被控訴人らは、平成14年1月30日付け請求の趣旨訂正申立書において、控訴人に対し、本件2の発言の番号297、308、312、320、344、605、711、712、791、792、801の各発言の削除を求め、同申立書は、同日、控訴人に送達されたから、控訴人は、同日までに、上記各発言が本件掲示板に書き込まれたことを具体的に知ったものと認められる。
イ しかるに、控訴人は、基本的事実(6)のとおり、現在に至るまで、本件各名誉毀損発言を削除するなどの措置を講じていないのであるから、控訴人には前記(2)の削除義務に違反しているというべきであり、被控訴人らに対する不法行為が成立する。
4 争点(3)(控訴人によるその他の不法行為)について
(1) 被控訴人らは、被控訴人らが本件掲示板にスレッドを作って発言の削除を求めたところ、控訴人は、削除依頼の方法が間違っているなどとして嘲笑したなどと主張するが、被控訴人らの削除依頼に対し揶揄・侮辱する発言が書き込まれたことは前記1のとおり認められるものの、それらの発言を書き込んだ者が控訴人であることを認めるに足りる証拠はない。したがって、控訴人に上記不法行為が成立するとの被控訴人らの主張は理由がない。
(2) また、被控訴人らは、控訴人がその発行するメールマガジンにおいて本件訴訟の内容を公開したため、被控訴人らに対する更なる中傷発言が誘発され、無言電話等がされたなどと主張する。
 本件訴訟の提起後も、本件掲示板において被控訴人らを誹謗中傷する発言がされていたこと及び被控訴人Aに対し無言電話が多数回かかってきたことは前記1で認定のとおりである。しかし、本件メールマガジンには原審第1回口頭弁論期日における両当事者の発言等が記載されているにすぎず、被控訴人らに対する誹謗中傷に当たる記載や被控訴人らに対する中傷や嫌がらせを誘発する記載は認められないことからすれば、控訴人が本件メールマガジンを発行したことが違法性を有するものということはできない。したがって、控訴人に不法行為が成立するとの被控訴人らの上記主張も理由がない。
5 争点(4)(被控訴人らの損害)について
(1) 本件各名誉毀損発言については、その目的の公益性、内容の真実性について、控訴人は何ら具体的な主張はしていないし、これを認めるに足りる証拠もない。そして、本件各名誉毀損発言において用いられている表現には、「ヤブ医者」、「精神異常」、「動物実験」、「氏ね(死ね)」、「臭い」などと被控訴人らを誹謗中傷するもので、極めて侮蔑的なものが多数含まれている。
 本件掲示板は、だれでも自由に閲覧することができ、常時膨大な数の利用者がある著名な電子掲示板であり、本件掲示板内の(省略)における本件1、2の各スレッド及び(省略)における本件3のスレッドに書き込まれた本件各名誉毀損発言は、動物病院の利用者、獣医等を含む不特定多数の者が認識し得るものであって、その影響は大きい。しかも、控訴人は、被控訴人らから通知書や本件訴状等をもって本件各名誉毀損発言の削除を求められても、これに応じて削除することなく、本件各名誉毀損発言の書き込まれた本件1ないし3のスレッドは、現在も、本件掲示板に存在しており、不特定多数の者が閲覧し得る状態にある。
 被控訴人Bは、昭和58年のC開業から現在まで、動物病院の院長として動物の診療行為を行い、被控訴人A設立後はその代表者として被控訴人Aの経営に携わるとともに、日本獣医学会、日本臨床獣医学会等にいくつかの論文を発表しており、また、Cは、日本各地から訪れる動物の飼主を多数受け入れていることからすれば、本件掲示板に本件各名誉毀損発言が存在し続けて不特定多数の者の閲覧可能な状態にあることは、被控訴人Bに多大な精神的苦痛を与えるものであることは明らかであり、また、被控訴人Aの経営にも相当の影響を及ぼしているものと推認することができる。
(2) 以上の諸般の事情からすれば、本件掲示板に本件各名誉毀損発言の書き込みをしたのは複数と思われる匿名の者であって、控訴人自身が直接これに関与したものとは認められず、また、控訴人は削除ガイドラインを設けて運用しており、削除人により違法な発言が削除されることもあったことなどの事情を考慮しても、控訴人が、平成13年6月22日に到達した書面、本件訴状及び請求の趣旨訂正申立書により本件各名誉毀損発言の削除を求められてから現在に至るまで本件各名誉毀損発言を削除するなどの措置を講じなかったことによって被控訴人らが被った精神的損害及び経営上の損害は、それぞれ200万円を下らないものと認めるのが相当である。
6 争点(5)(本件各発言の削除を求めることの可否)について
(1) 人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価である名誉を違法に侵害された者は、損害賠償及び名誉回復のための処分を求めることができるほか、人格権としての名誉権に基づき、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除するため、侵害行為の差止めを求めることができる(最高裁判所昭和61年6月11日大法廷判決・民集40巻4号872頁参照)。
(2) そして、前記のとおり、控訴人が本件各名誉毀損発言を削除するなどの措置を講じなかったことは、被控訴人らの名誉を毀損する不法行為を構成するのであり、これに加え、本件各名誉毀損発言の内容は、真実と認めるに足りず、その表現も極めて侮辱的なものであり、獣医である被控訴人Bの受けた精神的苦痛の程度は大きく、被控訴人Bの経営する被控訴人Aもその経営に相当の影響を受けたものと認められ、本件各名誉毀損発言が削除されない限り、被控訴人らに更なる損害が発生し続けると予想されること、控訴人は、通知書、本件訴状及び請求の趣旨訂正申立書により本件各名誉毀損発言の削除を求められた後も、これに応じて削除をすることはなく、本件各名誉毀損発言は現在も本件掲示板に存在し、不特定多数人の閲覧し得る状態に置かれていること、本件各名誉毀損発言を削除すべきものとしても、その内容及び匿名で発言していることに照らし、発言者についても、管理者である控訴人についても、その被る不利益はいずれも小さいといえることなどの諸事情を考慮すると、被控訴人らは、控訴人に対し、人格権としての名誉権に基づき、それぞれ本件各名誉毀損発言の削除を求めることができるものというべきである。
7 以上によれば、被控訴人らの請求は、それぞれ200万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成13年8月5日(記録上明らかである。)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払並びに本件各名誉毀損発言の削除を求める限度で理由があるからこれを認容すべきであり、その余は理由がないからこれを棄却すべきである。
8 よって、当裁判所の上記判断と同旨の原判決は相当であり、本件各控訴は理由がないから、いずれもこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。ただし、削除の対象の特定を正確にするため、原判決主文4項の「別紙発言目録3」中のURLの記載を別紙のとおりに改める。

東京高等裁判所第20民事部
 裁判長裁判官 久保内卓亞
 裁判官 大橋弘
 裁判官 長谷川誠


別紙(省略)
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