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【事件名】高槻市情報公開条例事件(2)
【年月日】平成14年12月24日
 大阪高裁 平成13(行コ)67 文書非公開処分取消請求控訴事件
 (原審・大阪地裁平成8年(行ウ)第138号)

判決


主文
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が控訴人に対し、平成7年3月28日付けでした公文書非公開決定(但し、平成8年7月18日付で一部取り消された後のもの)を取り消す。
3 訴訟費用は第1、2審を通じ、参加によって生じた部分は参加人らの負担とし、その余は被控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 申立て
 主文と同旨
第2 事案の概要等
1 事案の概要及び本件の前提事実は、原判決2頁11行目から6頁3行目までのとおりであるから、これを引用する。但し、原判決2頁20行目の「一部取り消された」の次に「後の」を加える。
2 本件における争点
 本件において、被控訴人及び参加人らは、本件文書に現された情報(以下「本件情報」という)が、本件条例6条1項2号本文に定める情報に該当するとして、また本件情報を公開することは、条例により法令上の権利を侵害することになると主張して、本件非公開決定(但し、平成8年7月18日付で一部取り消された後のもの)は適法であると主張している。
 これに対して、控訴人は、本件情報が本件条例6条1項2号本文に該当する情報であることを争い、またこれが仮に本件条例6条1項2号本文に該当する情報であるとしても、同号但書アに該当する情報であるから、本件非公開決定は違法であると主張している。
 よって、本件における争点は、以下の3点である。
(1)本件情報は、本件条例6条1項2号本文に該当する情報か。
(2)上記(1)が肯定される場合、本件情報は、本件条例6条1項2号但書アに該当する情報か。
(3)本件情報を公開することは、法律上の権利を条例で制限することとなって許されないといえるか。
3 上記争点についての当事者及び参加人らの主張は、以下のとおり当審における主張を付加するほか、原判決6頁10行目から60頁11行目までのとおりであるから、これを引用する。但し、原判決36頁23行目の「主張しする」を「主張する」に改める。
4 当審における控訴人の主張
(1)本件条例6条1項2号本文該当性
@ 本件文書が本件条例6条1項2号本文に該当するというためには、法人等の事業活動等に何らかの不利益が生ずるおそれがあるというだけでは足りず、秘密として管理されている情報であって保護することに法的な正当性が認められるものであり、かつ当該情報の開示によって競争上の地位が具体的に侵害されることが客観的に明白な場合でなければならないが、本件文書の公開によってそのような結果は生じない。
A 参加人らは、本件文書に参加人らの建築設計上の企業秘密が記載されていると主張するが、その立論は抽象的であり、実質的に秘密と認められるものではない。本件文書に関する参加人らの秘密管理は極めて杜撰なものであり、本件文書中の情報は公刊されている雑誌等に公開された情報の域を出ない。
B 本件文書は著作権法によって保護される著作物に該当しない。
 設計図に著作物性が認められるとすれば、それは機械等の構造を二次元の図面に表現するための作図上の諸工夫に創作性が認められるからに外ならないためとされている。即ち、設計図面の対象である建物そのものについての創意工夫は、設計図の著作物性を裏付けるものではない。建築設計図に著作物性が認められるとすれば、それは建築物の構造を二次元の図面に表現するための作図上の諸工夫に創作性が認められる場合である。
 本件では、作図上の工夫という点について何ら主張立証がされておらず、本件文書に著作物性は認められない。
(2)本件条例6条1項2号但書ア該当性
@ ある事業活動が人の生命、身体又は健康を害するおそれを持つ場合には、当該事業活動そのものを差し止めることが認められる場合がある。ところで事業活動の差止めは事業者に与える打撃が大きいものであり、現代社会においては様々な事業や施設が、いわゆる抽象的危険の故に差し止められることとなれば、社会活動が麻痺してしまうので、差止めは、被害発生の相当な蓋然性があり、具体的危険がある場合でなければ許されないとする考えもあり得る。
 しかし、情報公開請求の目的は、住民が公開された情報によって事業活動の安全性を確認し、監視することにあり、事業活動の停止を目的とするものではない。公開請求が認められても、事業活動が停止されるわけではなく、事業者がこれによって被る不利益は差し止めの場合に比べて格段に低いものであるし、当該事業の安全性を継続的に確保すること、周辺住民に事業活動の安全性を理解してもらうことは将来にわたって事業活動を行うために必要不可欠のことであり、情報の公開は長い目で見れば事業活動にとってプラスであるということもできる。
 そうすると、本件条例の人の生命、身体又は健康を害するおそれを解釈するにあたり、差し止めが認められるのと同程度の被害発生の蓋然性を要求するのは相当ではない。上記にいう「おそれ」は、情報公開により人の生命、身体又は健康に関する安全性の確認が必要と認められる相当な危険性で足りるというべきである。
A 被控訴人は、平成7年3月28日付で、本件非公開決定をしたが、その後、控訴人の異議申し立てを受けて、平成8年7月18日付で、当初非公開とされた情報の内、組換えDNA実験施設及び病原微生物取扱実験施設の耐震設計に関する情報についてはこれを公開する旨の決定をした。これからすると、被控訴人においても、少なくとも地震時については上記の「おそれ」の存在を認めている。
B 平成12年12月20日、参加人日本たばこ産業の社員が、本件施設から放射性物質を含む研究材料を持ち出した上、JR高槻駅改札口付近で散布するという事件が発生した。同事件は、被控訴人自身が「一歩間違えば、大きな人的被害をも招来しかねない由々しい事態であったと考えている」、「同研究所で実施されている組換えDNA実験による組織体や取り扱われている病原体の持ち出し・ばらまき等の事態をも招来する高い蓋然性も懸念される」との認識を明らかにせざるを得ないほど、住民の生命、身体及び健康に被害を及ぼすおそれのある重大な事件であった。
C 平成13年6月7日、本件施設から排出された下水から1・2−ジクロロエタン(以下「ジクロロエタン」という)が、水質汚濁防止法に定められた排出基準を大幅に超えて検出された。ジクロロエタンは発癌性を有するとの疑いのある有毒化学物質であり、水質汚濁防止法による排出基準は0.04r/リットルとされているが、同日検出された数値は0.094r/リットルであった。
 なお、参加人日本たばこ産業においては、前同日、基準値を超えるジクロロエタンを検出しながらこれを高槻市に報告せず、市民から連絡を受けた同市が、平成13年9月4日、参加人日本たばこ産業に事実確認を行うまでの間、これを隠蔽していた。
D 上記の各事件の発生からすれば、本件施設において行われている事業活動が、本件条例6条1項2号但書アに該当する事業活動であることは明らかである。
(3) 本件情報を公開することは、法律上の権利を条例で制限することとなって許されないといえるか
@ 本件条例6条2項にいう「法令又は条例の規定により公開することができない情報」とは、法令上明文の規定で公開が禁止されている情報、他目的使用が禁止されている情報及び個別法により具体的な守秘義務が定められている情報である。
 著作権法は、著作物の公益目的での複製を認め、公表するかどうかの決定権を著作者に委ねただけで、明文の規定で当該情報を秘密にすることを命じてはいないから、著作権法の規定から、同法上の公表権のある著作物が、本件条例6条2項に該当するとはいえない。
A 本件条例において6条1項2号但書アが定められ、これに該当するときはいかなる場合でも当該情報が公開されると定められた趣旨は、高槻市民の生命、身体を保護するためであり、その条項が著作権法上の公表権の存在によっておよそ無意味になり、身体生命等が脅かされる場合の歯止めとなる情報公開が一切否定されると解するのは、条文解釈としてあまりに粗末なものである。
 本件条例が、憲法上の知る権利を具体化したものであるのは条例自体に明記されるところであり、しかも憲法上定めた地方自治の本旨実現のために必要なものである以上、本件条例に基づいて情報を公開することが、法律の授権なく公表権を制限するものであるとはいえない。
 情報公開の可否の決定においては、少なくとも利益衡量がされるべきであり、本件文書は、公開が認められるべきである。
5 当審における被控訴人の主張
(1)本件条例6条1項2号本文該当性
 本件文書を公開することによって、参加人日本たばこ産業及び参加人ジェイティ不動産らの正当の利益が害されることは、参加人らが主張するとおりである。
(2)本件条例6条1項2号但書ア該当性
 本件条例6条1項2号但書ア該当性は、あくまで「おそれ」のある事業活動か否かで判断されることはいうまでもない。同但書の「おそれ」が公益上の観点から設けられた例外規定であることからすれば、事業活動に起因して、具体的な危険性が認められる場合に限定したものと解されるべきである。
(3)本件情報を公開することは、法律上の権利を条例で制限することとなって許されないといえるか
 控訴人は、著作権(公表権)は財産権として制約を受けやすいものであり、憲法上、公共の福祉からして条例で制限できるとするが、不当である。公表権が著作者人格権の一部であることは異論のないところであり、公表権独自の保護の必要性に乏しいとする控訴人の論理こそ問題である。
6 当審における参加人らの主張
(1)本件条例6条1項2号本文該当性
@ 本件文書は、参加人日本たばこ産業が本件施設の建築確認申請に際して実施機関に提出した建築設計図書である。建築設計図書は、一般ビル、マンション、一般住宅のような一般的な建築物に関するものであっても著作物性が認められるのが一般であるが、本件文書は、医薬品の研究開発を行う施設であり、規模的にも民間の医薬品研究開発施設としては屈指のものである本件施設に関するものであり、参加人ジェイティ不動産らの業務に従事する多数の設計担当者が、多大の時間と労力を費やして作成した建築設計図書である。以上のとおり、本件文書は、技術的・学術的な裏付けのもとに設計者が建築思想を創作的に表現したものであって、著作権法にいう著作物に当たる。
A 本件文書には、建築設計上の参加人らの企業秘密が記載されている。
 一般に、建築の設計図書は設計者の技術的ノウハウが凝縮して表現されている。特に、本件文書は高度・大規模な研究開発施設の設計図書であるため、参加人ジェイティ不動産らの知識、経験、技術、創意工夫が傾注され高度のノウハウが凝縮されている。例えば、研究開発施設として要求される様々な機能を実現するため、一般的なビルに比べてはるかに複雑な設備機器の効率的な配置及び多種多量なユーティリティの効率的な供給についての様々な創意工夫、クリーンルームや恒温、恒湿室などエネルギー多消費型の設備の設置に伴う省エネルギー対策のための種々の創意工夫、点検・保全効率を向上させるための創意工夫などである。
 上記のように、本件文書には建築技術上の企業秘密(他に知られると競争上不利益を受ける実用的な建築技術上のノウハウ・情報)が多数含まれているところ、これらの企業秘密が不正競争防止法や民法の保護を受ける権利ないし利益であることはいうまでもない。
(2)本件条例6条1項2号但書ア該当性
@ 控訴人が主張する放射性物質の散布事件があったことは認める。
 放射性同位元素の取扱いについて遵守しなければならないのは、放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律及びその関連法令であるが、参加人日本たばこ産業は、これらの法令及び同参加人が法令に基づいて制定した「日本たばこ医薬総合研究所放射線障害防止規定」などを遵守している。平成12年12月21日、科学技術庁の担当官によって立ち入り検査が行われたが、「放射性物質の保管については安全上問題はなかった」と報告されている。
 参加人日本たばこ産業は、放射線業務従事者に対する健康診断についても、法令の定めに従って実施している。
A 控訴人が主張するジクロロエタンの排出があったことは認める。
 参加人日本たばこ産業は、平成13年6月22日、水質測定を委託している専門業者から、同月7日の測定結果がジクロロエタンの基準値を超えている旨の連絡を受けた。原因究明の結果、この原因は、ドラフト内での実験中に、実験者本人も気づかない程度の微量のジクロロエタンが飛散して、偶然にもドラフト排水口からU字管に入って滞留し、このU字管に多量の水が流されたため、滞留していたジクロロエタンが一緒に流出したことにあると推定された。その対策として、同年4月以降にジクロロエタンを使用したドラフトのU字管の洗浄を8月29日に完了し、万全を期するための対策として、ドラフトの排水口に栓を取り付けることとし、同年9月28日に設置作業の完了を確認した。
 参加人日本たばこ産業は、高槻市下水道条例の定めに従って、予め所定の届出をし、水質測定の結果を記録して5年間これを保存している。従って、参加人日本たばこ産業が基準値を超えるジクロロエタンの排出を隠蔽したというのは当たらない。
B 本件条例6条1項2号但書アは、情報の公開をしないことが権利濫用に該当する場合を類型的に定めたものと理解すべきであるが、本件文書の公開をしないことが権利濫用に該当するものではない。
(3)本件情報を公開することは、法律上の権利を条例で制限することとなって許されないといえるか
@ 参加人ジェイティ不動産らは本件文書の共同の著作者であって、本件文書について著作権及び著作者人格権を有する。
 本件文書が公開されると、参加人ジェイティ不動産らが有する本件文書を公表するか否かを決定する権利(公表権・著作権法18条)が侵害され、その意思に反して本件文書を複製されない権利(複製権・著作権法21条)が侵害される。
 よって、本件文書は本件条例6条2項が定める情報に該当し、これを公開することは許されない。
A 本件文書には、ISS階の中の設備機器の配置や動線計画、空調機・ダクトの防音・防振の工夫、効率的なユーティリティの配管のサイズ決定の方法、細分化された動物飼育室系統空調ゾーニングの最適化、熱源機器による負荷パターンの把握及び排熱回収の工夫、特殊用途に応じた空調計算機の具体例など、建築技術上の課題を具体的に実現するための具体的で実践的な情報が記載されており、参加人ジェイティ不動産ら自身のみならず、同業他社にとっても極めて価値の高い情報である。不正競争防止法、民法の不法行為規定により、企業秘密の主体が、企業秘密を強制的に開示させられることなく保持する権利を持つことは明らかである(企業秘密保持権)。本件文書が開示されると、参加人ジェイティ不動産らが有する上記企業秘密保持権が侵害される。
 よって、本件文書は本件条例6条2項が定める情報に該当する。
B 著作権法上の権利、不正競争防止法上の権利などの国法によって保護された権利であっても、開示を拒否することが権利濫用に該当するような場合には、開示が強制される結果となってもやむを得ない。しかし、本件情報の不開示は権利濫用にならない。
第3 判断
1 本件条例6条1項2号本文該当性
(1)当裁判所も、本件文書は、参加人日本たばこ産業及び参加人ジェイティ不動産らに関する情報であり、これを公開することによって、参加人日本たばこ産業の防犯上の正当な利益を害し、あるいは、参加人ジェイティ不動産らの競争上の地位、あるいは著作権ないし著作者人格権によって保護された企業秘密という正当な利益を害するものと認める。その理由は、原判決60頁13行目から73頁5行目までのとおりであるからこれを引用する。但し、原判決60頁末行の「法人等の」の次に「正当な」を加え、同62頁24行目の「開発管理のおける」を「開発管理における」に、同70頁18行目の「無い」を「ない」に、いずれも改める。
(2)参加人らは、当審においても、本件文書を公開することによって、参加人日本たばこ産業の競争上の地位ないし営業秘密が害されると主張している。
 しかし、参加人らの当審における主張を前提としても、本件文書の公開によって直ちに研究開発の方向性、速度、領域、管理等の機密事項が直接明らかになるものとは解せられず、それは多くの推測の上で、それらの事項が明らかになる可能性があるというに止まるものであるのは上記引用にかかる原判決が指摘するとおりであり、その推測の結果が正しいものである保証は存在しないことからすれば、本件文書を公開することによって、参加人日本たばこ産業の競争上の地位ないし営業秘密が害されると認めることはできない。
(3)控訴人は、本件文書を公開することにより、参加人ジェイティ不動産らの競争上の地位ないし建築設計上の企業秘密が害されることを争っている。
 控訴人は、上記の点に関する参加人らの主張が抽象的であるとしてこれを論難するが、本件文書に、大規模研究開発施設の設計に関わる創意工夫が記載されていることは、その文書の性格上明らかというべきであって、控訴人の主張はこれを採用することができない。確かに、本件文書については、これを企業秘密といいながら、その一部分は公刊物において既に公開されており、その秘密の保持についても十分な対策がとられていないのではないかという疑いも存在するが、本件文書の記載の内容、またこれが未だ公開されていない文書であることからすれば、本件文書の公開により、参加人ジェイティ不動産らの競争上の地位ないし建築設計上の企業秘密が害されると認めるのが相当である。
(4)控訴人は、本件文書が著作権法の保護を受ける著作物であることを争うので、この点について判断する。
 控訴人は、建築設計図面の著作物性は、建築物の構造を二次元の図面に表現するための作図上の諸工夫に創作性が認められる場合に限られるとし、建築設計図たる本件文書の作図において、いかなる点が工夫され、創作的であるかについて何ら具体的な主張立証がされていないので、建築設計図たる本件文書の著作物性を認めることはできないと主張している。
 しかし、建築家がその知識と技能を駆使して作成した建築物の設計図は、学術的な性質を有する図面として著作権法上保護される著作物であると解すべきところ(著作権法10条1項6号)、本件文書は参加人ジェイティ不動産らに属する一級建築士等の資格を有する数十名の従業員が、その知識と技術を用いて、昭和62年から平成3年までの歳月をかけて作成したものであり、当該建築物に求められる高度かつ多様な要求を図面上に反映させたものであると認められるから、本件文書を、学術的な性質を有する図面として著作権法上保護される著作物であると認めるべきことは明らかである。
 控訴人の主張する「作図上の諸工夫」なるものについては、これが具体的にどのような諸工夫のことをいうのであるかは控訴人の主張自体からも明らかでないが、設計図の作図上の線や符号そのものについての工夫を問題にしているのであれば、そのような工夫は設計図の著作物性を基礎付けるものではないというべきである。
(5)被控訴人及び参加人らは、本件文書について、参加人ジェイティ不動産らが著作権たる複製権、著作者人格権たる公表権を有すると主張するのに対し、控訴人はこれを争うので、この点について判断する。
 著作権法18条1項前段は、著作者は、その著作物でまだ公表されていないものを、公衆に提供し、または提示する権利を有すると定めている。本件文書を著作物と認めるべきことは前記のとおりであり、その著作者を参加人ジェイティ不動産らと認めるべきことは、引用にかかる原判決が述べるとおりである。そうすると、著作権者たる参加人ジェイティ不動産らは、本件文書についてその公表を行うかどうかの決定権、即ち著作者人格権としての公表権を有すると認めるほかない(この点について控訴人は、本件文書の内容の多くが既に公刊物に登載されているとして、本件文書が未公表著作物であることを争っているが、控訴人の主張によっても、既に公表されているのは本件文書の全体ではなくて、その一部であり、しかもこれらは著作権者である参加人ジェイティ不動産らが編集の上これを公表したものであるに過ぎないから、その一部の公表によって、既に全体が公表されたのと同視するのも相当でなく、本件文書はなおこれを未公表著作物と認めるべきである)。
 また、著作権法21条は、著作者はその著作物を複製する権利を専有すると定めており、本件文書の著作権者である参加人ジェイティ不動産らが、著作権の内容としての複製権を有することも明らかである。
 2 本件条例6条1項2号但書ア該当性
(1)本件条例6条1項2号但書ア(以下「本件但書」という)は、人の生命、身体又は健康を害するおそれのある事業活動に関する情報は、同号本文に該当する情報であっても公開しないことができる情報には当たらないとする趣旨の規定であるが、「人の生命、身体又は健康を害するおそれのある事業活動」とはいかなるものかについて次に判断する。
(2)この点について、参加人らは、「害するおそれ」とは、従前の行政解釈としては、「現に発生しているか、将来発生することが確実である危険・損害をいう」、「危険が生じる高度の蓋然性が認められることが必要である」とし、本件においても、企業の正当な事業活動を侵してまでも情報を公開し得るのは、明らかに事業活動に起因して被害が生じているか、若しくはそれが確実に予測でき、かつ被害防止のために当該情報を直ちに開示しなければならない場合に限られると主張している。
(3)本件但書が規定する「害するおそれ」は、「害するおそれのある事業活動」として「事業活動」にかかる語であることからすれば、ここにいう「害するおそれ」は、事業活動そのものの評価を述べるものであり、事業活動が行われる周囲の状況の評価を述べるものではないというべきである。従って、ここで検討すべきは、参加人日本たばこ産業が本件施設で行っている事業活動が、本件但書が規定する「害するおそれのある事業活動」と認められるかどうかであって、本件施設の事業活動によって、現に害するおそれが存在しているかどうかではない。
 上記したところによれば、本件但書が規定する「害するおそれ」について、生命、身体又は健康を害することが現に発生しているか、将来発生することが確実であることまで要するものとは解することはできない。そして、本件条例6条1項2号本文が正当な利益を「害すると認められるもの」を非公開情報の要件とし、本件但書が「害するおそれのある事業活動」を非公開情報からの除外規定としていることからすれば、本件但書が予想する害する程度は、その本文が予想する害する程度より厳しいものであるとは解せられない。
 そうすると、本件但書の「害するおそれのある事業活動」とは、その活動により、人の生命、身体又は健康を害する可能性があれば一応は足りるとも解せられる。しかしながら、翻って考えると、現代のように高度技術の時代にあっては、何らの危険を伴わない事業活動を想定することは寧ろ困難であり、法人等が行う事業活動に一定の危険が可能性としては存在する場合であっても、それが社会において、特別の安全対策を課せられるまでもなく「許された危険」として認知されているような場合にまで、当該事業活動を本件但書に該当する事業活動と見るのは相当でない。以上のことからすれば、本件但書に該当する「事業活動」とは、その活動によって人の生命、身体又は健康を害する可能性があり、特別の安全対策なしには社会的に存立が許されない事業活動をいうと解するのが相当である(なお、通常の「許された危険」の範囲内の事業活動であって、その事業活動によって、人の生命、身体又は健康を害する事態が現に発生しており、若しくは発生することが確実若しくは可能性が高い状況があるときは、本件条例6条1項2号但書イ(違法又は不当な事業活動に関する情報であって、市民の消費生活その他の生活に影響を及ぼすもの)によって対処すれば足りるものと考えられる)。
(4)参加人らは、本件条例6条1項2号本文にいう「正当な利益」には、著作権法が保護する著作権及び著作者人格権、不正競争防止法ないしは民法が保護する営業秘密等、いわゆる「国法上の権利」が含まれること、そして国法上の権利を条例によって制限することは許されないことを根拠に、本件但書の規定は、開示をしないことが権利濫用に該当するような場合に限定されると主張する。しかし、参加人らのいう「国法上の権利」については、本件条例は6条2項において、法令により公開することができない情報については公開しないとして、別個の公開除外規定を設けているのであるから、6条1項2号本文にいう正当な利益に国法上の権利が含まれ得るからといって、そのことが本件但書の解釈に影響を与えると解することはできない。本件条例の6条1項2号は、本件但書にいう「人の生命、身体又は健康」を、同号本文にいう法人等の正当な利益より価値的に上位のものとみなしていることは、条文の構造自体から明らかであり、本件但書を、権利濫用に該当するような場合に限定するとする参加人らの主張は採用することができない。
(5)そこで、参加人日本たばこ産業が本件施設において行っている事業活動(以下「本件事業活動」という)が、上記の意味において、人の生命、身体又は健康を害するおそれのある事業活動と認められるかどうかについて検討する。
 本件施設において行われている参加人日本たばこ産業の事業活動が、組換えDNA実験及び病原微生物を用いた実験を内容とするものであることは当事者間に争いがない。この事業について、当事者及び参加人らは上記引用にかかる原判決記載のとおり主張して、その安全性を議論している。
 ところで、DNA組換え技術は、遺伝学上これまで存在しなかった新しい生物を作り出すことを可能にする画期的な技術であり、初めて応用された当初は、高度な知識と技術を有する一部の研究者のみがこれを行うことが可能であったものが、現在においては制限酵素をはじめとする基礎技術の急激な進歩により、簡単な設備における単純な操作によって日常的に実施することが可能になったものである。DNA組換え技術は比較的歴史が浅く、その安全性について十分な経験の積み重ねが確立したとはいえない面があるため、予測できない未知の危険性に備えて被害の未然防止に万全を期すことが重要である。しかも生物には繁殖し、遺伝子を次世代に伝えるという特徴があり、生物による環境の破壊が一度生ずると回復することが困難なため、特に現在および将来の生態系への影響について配慮し、市民の良好な生活環境を将来の世代に引き継ぐことが重要である。かような認識(甲40)は、DNA組換え技術ないし組換え実験についての現在の社会通念として、極めて一般的なものであると認められる。
 参加人日本たばこ産業が本件施設で行っている組換えDNA実験等の事業活動(本件事業活動)は、それについての上記一般的な社会通念からすると、特別の安全対策なしに、無条件に「許された危険」として社会の認知を得たものとは認めらない。本件施設の安全面から見た具体的な環境については、原判決の76頁3行目から90頁15行目までを引用する(但し、原判決78頁14行目、同79頁17行目の各「一応」及び同81頁3行目の「一応、」をいずれも削り、同90頁15行目の「消化器」を「消火器」に改める)。本件事業活動は、このような諸種の特別の安全対策を参加人日本たばこ産業が遵守することによって、初めてその存立が社会的に許される事業活動であると認められる。従って、本件施設における事業活動は、本件但書にいう「人の生命、身体又は健康を害するおそれのある事業活動」に該当すると認めるのが相当である。
(6)上記に関し、被控訴人及び参加人らは、本件事業活動は、参加人日本たばこ産業が定めたDNA実験安全規則その他実験指針に基づいて行われており、地元高槻市との間で「組換えDNA実験等にかかる環境安全に関する協定」、「日本たばこ組換えDNA実験等安全対策調査検討専門者会議に関する確認書」を締結し、その他十分な安全対策を行っているから、本件事業活動に危険性はないと主張している。
 本件事業活動についての安全対策の具体的内容は、上記の引用にかかる原判決記載のとおりである。参加人日本たばこ産業が行っている本件事業の内容及びそれに対する上記一般的な社会通念からすれば、本件事業活動について、これらの安全対策がとられていること、参加人日本たばこ産業がその対策を遵守すべきは当然のことである。そして、これらの安全対策は、先に述べた特別の安全対策に該当するものと理解されるのであり、本件事業活動は、参加人日本たばこ産業がこれらの安全対策を完全に遵守することをもって初めて「許された危険」として社会に受容されるものであるといえる。
 以上のことから明らかなように、これらの特別の安全対策は、その対策が完全に遵守されれば、本件事業活動が不可避的に有する人の生命、身体又は健康を害するおそれを現実化させないための方策として有用性を発揮するとしても、当該事業が人の生命、身体又は健康を害するおそれのある事業活動であるという事実を左右するものではない。逆にいえば、本件事業活動にこれら特別の安全対策が必要とされるのは、本件事業活動が人の生命、身体又は健康を害するおそれのある事業活動であるとの認識があればこそであるということができる。そして、これら特別の安全対策が、本件事業活動に内在する「人の生命、身体又は健康を害するおそれ」を現実化させないための有効な方策であるというのと全く同じ意味において、人の生命、身体又は健康を害するおそれのある事業活動に関する情報を、その法人等の正当な利益を害すると認められる場合であっても公開するとすることも、その事業活動が持つ上記おそれを現実化させないための有効な方策であり、一定の合理性を有するというべきである。
(7)ところで、平成12年12月20日、参加人日本たばこ産業の社員が、本件施設から放射性物質を含む研究材料を持ち出した上、JR高槻駅改札口付近で散布するという事件が発生したこと、水質汚濁防止法が定めるジクロロエタンの排出基準値は0.04r/リットルであるところ、平成13年6月7日、本件施設から排出された下水から、上記排出基準を超える0.094r/リットルのジクロロエタンが検出されたことは当事者間に争いがない。
 甲133(「申し入れ書」と題する書面写し)によれば、被控訴人は、平成12年12月21日、参加人日本たばこ産業に対し、上記放射性物質散布について、「一歩間違えば、大きな人的被害をも招来しかねない由々しい事態であった」、「(本件施設で)実施されている組換えDNA実験による組換体や取り扱われている病原体の持ち出し・ばらまき等の事態をも招来する高い蓋然性も懸念される」との認識を示し、管理体制、職員等の健康管理体制の不十分さ、認識の欠如について厳重に抗議するとともに、組換体、病原体等を厳重に保管・管理することをはじめとする諸種の措置を早急にとることを強く申し入れたこと、丙41の1ないし3(新聞記事等の写し)によれば、平成12年12月21日、科学技術庁は本件施設への立ち入り検査をし、同庁担当者は、放射性物質の保管については安全上問題はなかったと述べたこと、丙42(「報告書」と題する書面写し)によれば、参加人日本たばこ産業は、平成13年1月17日、放射性物質について組換体、病原体の保管・管理に準じた扱いをすることをはじめとする措置についての報告書を、被控訴人に提出したことが認められる。
 そして、甲120(「申し入れ書」と題する書面写し)、121(「発ガン性物質流出に関する詳細報告について(回答)」と題する書面写し)、122(回答書写し)、134(控訴人の陳述書)、弁論の全趣旨によれば、参加人日本たばこ産業は、平成13年6月22日、委託業者からの連絡により、上記ジクロロエタン排出について知ったが、高槻市にこれを直ちに報告せず、匿名の通報を受けた高槻市議会議員が、同年9月3日、同市建設部業務課に事実確認を申し入れ、同申し入れを受けた担当課は、翌4日、参加人日本たばこ産業に事実確認を指示するとともにデータの報告を指導したこと、同参加人は同日午後3時、ジクロロエタンの基準値超過排出を高槻市に電話報告し、同市は、同月5日、参加人日本たばこ産業への立ち入り調査を行い、同参加人から本件にかかる報告書を受け取ったこと、被控訴人は、同月11日付の参加人日本たばこ産業に対する申し入れ書(甲120はその写し)により、ジクロロエタンの基準値超過排出の事実を隠蔽し、市への報告を怠ったことについて激しい憤りを感じるとの認識を示し、参加人日本たばこ産業の薬品の管理体制の不十分さ、地域環境への認識の欠如について厳重に抗議するとともに、住民の不安を解消し、再びかかる事態を招来しないよう、原因究明、実験室内での管理体制の強化等の措置を早急に講ずるよう強く申し入れたこと、これを受けて、参加人日本たばこ産業は、同月18日付で、ジクロロエタンの基準値超過排出について、その原因と対策を示した回答書(甲122はその写し)を高槻市に提出したなどの事実が認められる。同回答書においては、ジクロロエタン基準値超過排出の原因は、ドラフト内での実験中の分液操作等により飛散し、これが偶然にもドラフト排水口よりU字管に入り滞留したことにあると推定されている。
 前記のとおり、当裁判所は、本件但書の「人の生命、身体又は健康を害するおそれのある事業活動」を、その内在的な危険性によって特別の安全対策なしには社会的に存立が許されない事業活動と解したが、仮に同事業活動の解釈として、当該事業活動の一般的な性状のみでなく、現実の稼働状況を前提とした、人の生命、身体又は健康を害する現実的なおそれを問題にすべきであるとしても、それが「おそれ」と規定されている以上、人の生命、身体又は健康を害することが確実であるとか、まして現に害していることが必要とまでは到底解することができない。そして、先に認定したDNA組換え技術ないし組換え実験についての現在の一般的な社会通念、現に本件施設に対して課せられている諸種の特別の安全対策の存在、その安全対策の存在にもかかわらず現実に発生した放射性物質散布事件及びジクロロエタン排出事件の存在を考えると、本件施設における事業活動は、当該地域の通常人から見て、当該事業活動により人の生命、身体又は健康を害する現実的な可能性があると認められるものに該当し、本件但書の「人の生命、身体又は健康を害するおそれのある事業活動」に当たると認めるのが相当である。
(8)本件では、事業活動に「関する」の解釈及び本件文書への適用も争いになっているが、これについての当裁判所の判断は、原判決74頁1行目から75頁11行目までのとおりであるからこれを引用する。これによれば、本件文書は、いずれも人の生命、身体又は健康を害するおそれのある事業活動に関する情報であると認められる。
(9)よって、本件文書は、本件条例6条1項2号但書アに該当する情報であると認められる。
3 本件情報を公開することは、法律上の権利を条例で制限することとなって許されないといえるか
(1)被控訴人及び参加人らは、本件非公開決定が取り消され、本件文書が公開されると、参加人ジェイティ不動産らの著作権ないし著作者人格権、不正競争防止法や民法で保護されている参加人らの企業秘密を侵害することとなるが、このように条例の定めによって法律上保護された権利(参加人らのいわゆる国法上の権利)を侵害することは許されず、本件非公開決定はこれを取り消すべきものでないと主張している。よって、以下においては、被控訴人及び参加人らの上記主張を検討する。
(2)憲法94条は、「地方公共団体は、(中略)法律の範囲内で条例を制定することができる。」と定め、また、地方自治法14条1項も、「普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第2条第2項の事務に関し、条例を制定することができる。」と定めている。これは、条例制定権の根拠であるとともに、その範囲と限界を定めたものである。したがって、普通地方公共団体は、法令の明文の規定又はその趣旨に反する条例を制定することは許されず、そのような法令の明文の規定又はその趣旨に反する条例は、たとえ制定されても、条例としての効力を有しないものといわなければならない。
 ところで、本件条例6条2項は、同条1項の非開示事由とは別個に、「実施機関は、法令又は条例の規定により公開することができない情報については、公開しないものとする」と規定しており、同規定は前記条例制定権の限界を受けて置かれた規定と位置付けることが可能である。なお、本件手引(乙1)が「公開することができない情報」とは、法令の趣旨、目的から見て公開することができないと判断され得る情報をいうとするのも同趣旨に立つものと解される。以上によれば、本件条例は、法令の規定によって公開しないものは公開しないとしているのであるから、条例自体においては、法律上保護された権利を侵害するものではないことが明らかである。
(3)本件において、被控訴人及び参加人らは、参加人ジェイティ不動産らが有する企業秘密保持権、あるいは著作権(複製権)ないし著作者人格権(公表権)は、本件条例6条1項の正当な利益であるのみならず、6条2項の法令の規定により公開することができない情報にも該当するものと主張している。
 本件文書が参加人らの建築設計上の企業秘密に該当し、これを公開することによって、参加人らの正当な利益である競争上の地位を害するおそれがあると認めるべきことは、先に認定したとおりである。
 そして一般に、法人等は、公開されることによって自らの正当の利益が侵害されるような情報は、それが公開されることのないように努めるものであり、法人等が行うそのような秘密保持活動が、法的保護の対象になることは明らかである。その意味で、法人等にいわゆる企業秘密保持権が存在することは当然である。
 参加人らは、参加人らが上記のような企業秘密保持権を有することから、本件文書を公開することは法令上許されないと主張するのであるが、法人等が有する上記の意味での企業秘密保持権を根拠に、一定の情報が本件条例6条2項の非開示事由に該当すると判断することは相当でないと考えられる。蓋し、本件条例によって公開が請求される情報は、元々高槻市の保有する情報であるが(本件条例1条)、高槻市が当該情報を保有しているのは、それが一般的に法人等の企業秘密保持権の対象となる情報であっても、何らかの公益上の必要のために、当該法人等が高槻市に提出した結果なのであるから、その限りにおいては、既に当該法人等の企業秘密保持権は、公益上の必要によって制限を受けるべきことが、法令上容認されているというべきだからである。即ち、本件文書は、本件施設の建築に当たって、参加人日本たばこ産業が高槻市建築主事に対して提出した建築確認申請書に添付された図面であるが、その提出の根拠は国法たる建築基準法6条にある。同法は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的とし(建築基準法1条)、参加人らのいわゆる企業秘密保持権の及ぶ文書(建物設計図面)であっても、当該権利に公益上の観点からの制限を加え、これを建築主事に提出することを命じている。このことによれば、被控訴人が、一定の公益上の必要から、その提出を受けた文書を公開することになっても、そのことのみによって、国法上保障された企業秘密保持権を害するものと評価することはできない。
 法人等が有する一般的な企業秘密保持権をもって情報の非開示の根拠とすることは、結局のところ、あらゆる法人情報についてその開示を認めないことと同列であると考えられることからしても不相当である。その故に、本件条例6条1項は、その非開示事由を、法人等の一般的な企業秘密保持権に求めることなく、公開することによって当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害するという、具体的な基準をもって律しているものと解せられ、企業秘密保持権のような広範な概念によって本件条例6条2項を解釈することは、6条1項の規定を無意味なものにすることからしても、採用することができない。
 以上を前提とすれば、本件条例6条2項に法令の規定により公開することができない情報とは、法令上明文の規定で公開が禁止されている情報、他目的使用が禁止されている情報及び個別法により具体的な守秘義務が定められている情報をいうと解するのが相当である。参加人らの主張にかかる企業秘密保持権については、仮に法人等がそのような権利を有するとしても、そのことの故に、当該情報が本件条例6条2項に該当するとはいえないのは、先に述べたとおりである。
(4)これに対して、著作権(複製権)若しくは著作者人格権(公表権)については、法律が著作権者に当該著作物を複製若しくは公表する権利を認めているのであるから、著作権法による著作物であって、著作権若しくは著作者人格権の対象となっているものは、本件条例6条2項にいう法令の規定により公開することができない情報に該当するといえそうである。
 しかし、行政機関の保有する情報の公開に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成11年5月14日法律第43号)は、公表権と情報公開条例との間に調整規定を設けている。すなわち、同法による改正後の著作権法(以下「改正著作権法」という。)18条4項2号(但し、平成13年法律第140号独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律附則6条により3号に繰り下げられた)は、行政機関の保有する情報の公開に関する法律5条2号但書に規定する「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」に相当する情報が記録されているものを情報公開条例の規定により公開する場合(本件条例6条1項2号但書アにより公開する場合がこれに該当する。)には、改正著作権法18条1項の規定を適用しない旨の規定を置いた。
 人の生命、身体又は健康を害するおそれのある事業活動に関する情報については、著作権者の有する権利が国法上のものであるからといって、絶対的なものであり、条例に基づく情報公開請求権に常に優越するものであるとは解し難い。すなわち、このような情報の性質上、国法上の権利の優越性を貫くと、現に人の生命、身体又は健康を害するおそれの発生を防止できず、又はそのような状況を改善することができなくなる場合があるからである。したがって、著作権法の上記改正は、著作権者の有する権利の内在的制約を明文化したものであり、いわば確認規定であると見ることができる。仮にそうでないとしても、このような情報について著作権者の権利行使は濫用となる場合があり、そのような場合、本件条例6条2項は適用されないと解することができる。控訴人も、本件文書が著作権及び著作者人格権の保護を受ける著作物であるとすれば、なお利益衡量を行うべきであるとして、本件文書の非公開を違法と主張している。控訴人のこの主張は、参加人ジェイティ不動産らの著作権及び著作者人格権の行使は権利の濫用であって、本件条例6条2項の非公開事由に該当しないとの趣旨であると解されるので、以下においては、この点を中心に検討する。
(5)本件施設で行われている事業活動を、本件但書にいう人の生命、身体又は健康を害するおそれのある事業活動と認めるべきことは、先に述べたとおりであるが、本件事業については、そのおそれを現実化させないため、種々の特別の安全対策が行われていることも先に見たとおりである。本件施設は、参加人日本たばこ産業がこれらの安全対策を遵守する限りにおいて、社会的に存立が許されるものである。
 これを前提にまず、本件事業活動によって、現に人の生命、身体又は健康に対する被害が発生しており、若しくはその発生する蓋然性が高い状況が存在するかどうかについて見るに、少なくとも、本件事業活動によって人の生命、身体又は健康に対する被害が発生したことを認めるべき証拠は存在しない。
 ところで、本件施設において行われる事業に関連しては、先に認定した放射性物質散布事件及びジクロロエタン排出事件が発生している。これらのうち放射性物質散布について、被控訴人は、「一歩間違えば、大きな人的被害をも招来しかねない由々しい事態であった」、「(本件施設で)実施されている組換えDNA実験による組換体や取り扱われている病原体の持ち出し・ばらまき等の事態をも招来する高い蓋然性も懸念される」との認識を示し、管理体制、職員等の健康管理体制の不十分さ、認識の欠如について厳重に抗議するとともに、組換体、病原体等を厳重に保管・管理することをはじめとする諸種の措置を早急にとることを強く申し入れたこと、また、ジクロロエタン排出事件について、被控訴人は、参加人日本たばこ産業がジクロロエタンの基準値超過排出の事実を隠蔽し、市への報告を怠ったとして激しい憤りを感じるとの認識を示し、同参加人の薬品の管理体制の不十分さ、地域環境への認識の欠如について厳重に抗議するとともに、住民の不安を解消し、再びかかる事態を招来しないよう、原因究明、実験室内での管理体制の強化等の措置を早急に講ずるよう強く申し入れたものであることは既に見たとおりである。これら被控訴人の認識は、地域社会住民の認識としてもごく一般的なものであると認められ、上記両事件によっては幸いにも人の生命、身体又は健康に対する具体的な被害は生じなかったとはいえ、被害発生について現実的な可能性の存在を明らかにしたものというほかない。これら両事件の発生は、参加人日本たばこ産業が、本件施設の存続に当たって当然の前提とされている諸種の特別の安全対策を遵守していないのではないかとの疑いを生じさせるか、そうでなければ、現に参加人日本たばこ産業が本件施設において行う事業活動に対して課せられている諸種の安全対策が、対策として不十分であることを窺わせるというべきである。
 そしてまた、参加人日本たばこ産業が上記ジクロロエタン排出事件の原因として報告するところは、ジクロロエタンがドラフト内での実験中の分液操作等により飛散し、これが偶然にもドラフト排水口よりU字管に入り滞留したことにあると推定するというのであるが、その推定の正当性についてどの程度の検証がされているのかを認めるべき証拠はなく、ドラフト排水口の位置、構造について、どの程度の改善がされたのか若しくは改善はされていないのかを認めるべき証拠もない。本件文書が公開されることは、ジクロロエタン排出事件の対策の当否を検討するに当たっては、有用な資料となることが期待される。
 以上によれば、参加人日本たばこ産業が、本件施設の存続に当たって当然の前提とされている諸種の特別の安全対策を遵守していないのではないかとの疑いが存在し、現に参加人日本たばこ産業が本件施設において行う事業活動に対して課せられている諸種の安全対策が、対策として不十分であることを窺わせる状況が存在する一方で、本件施設において発生したジクロロエタン排出事件の発生を受けて、参加人日本たばこ産業がとったと主張する安全対策の当否を検討する上で、本件文書の公開が極めて有用であることが期待される状況が存在すると認められる。そして、既に認定したその秘密保持の態様、一部既公開である事実からすれば、その公開によって参加人ジェイティ不動産らが被る不利益の程度は、公開によって得られる上記の利益に比べてはるかに小さいものと認めるのが相当である。そうすると、人の生命、身体又は健康に対する被害が発生する蓋然性が高く、かつ当該情報を公開することによってその被害を回避し得る可能性があるにもかかわらず、参加人ジェイティ不動産らの著作権、著作者人格権を根拠に本件文書の公開を拒むことは、著作権、著作者人格権の内在的制約により許されるものではなく、仮にそうでないとしても、権利の濫用に該当し、本件条例6条2項は適用されないというべきである。
 以上によれば、本件において、本件文書の公開を命ずることが、条例で国法上の権利を侵害することとなって許されないとする被控訴人及び参加人らの主張は理由がない。
第4 結論
 以上のとおりであるから、被控訴人が、平成7年3月28日付でした本件文書の非公開決定(但し、平成8年7月18日付で一部取り消された後のもの)は違法である。
 よって、これと異なる原判決を取り消すこととして、主文のとおり判決する。

大阪高等裁判所第5民事部
 裁判長裁判官 太田幸夫
 裁判官 川谷道郎
 裁判官 大島眞一
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