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【事件名】日立製作所元社員の“発明の対価”請求事件
【年月日】平成14年11月29日
 東京地裁 平成10年(ワ)第16832号(甲事件)、平成12年(ワ)第5572号(乙事件) 補償金請求事件
 (口頭弁論終結の日 平成14年6月28日)

判決
甲乙事件原告 A
訴訟代理人弁護士 升永英俊
訴訟復代理人弁護士 荒井裕樹
甲乙事件被告 株式会社日立製作所
訴訟代理人弁護士 末吉亙
同 飯塚卓也
同 三好豊
同 野口祐子


主文
1 甲事件被告は、甲事件原告に対し、金3474万円及びこれに対する平成10年8月8日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
2 乙事件被告は、乙事件原告に対し、金15万7416円及びこれに対する平成12年3月25日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
3 甲事件及び乙事件原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用はこれを10分し、その1を甲事件及び乙事件被告の負担とし、その余を甲事件及び乙事件原告の負担とする。
5 この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
【甲事件】  
 被告は、原告に対し、金9億円及びこれに対する平成10年8月8日から支払済みに至るまで年6分の割合による金員を支払え。
【乙事件】
 被告は、原告に対し、金7060万円及びこれに対する平成12年3月25日から支払済みに至るまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 争いのない事実等
(1) 当事者
 原告は、昭和44年11月から平成8年11月までの間、企画員、研究員、主任研究員及び主管研究員として被告に在職し、その間308件の職務発明を完成させた。
 被告は、光技術製品を含む電気関連製品の開発、製造、販売等を行う総合電器メーカーである。
(2) 本件各発明
 原告は、別紙特許目録記載の発明(以下各発明を「本件発明1」、「本件発明2」、「本件発明3」といい、これらを総称して「本件各発明」という。)をした。本件各発明は、被告の業務範囲に属し、かつ、原告の職務に属する、いわゆる職務発明である。
(3) 従業員の発明に関する被告の規定
 被告には、本件各発明に係る特許の出願時に、「発明、考案等に関する表彰規程」(乙5)が存し、その内容は別紙1のとおりである。
 被告は、平成2年7月11日に、「発明考案等取扱規則」(乙2)及びそのうちの補償内容を定めた「発明考案等に関する補償規程」(乙3)を定め、平成3年6月21日に、上記補償規程に規定する出願補償、登録補償、実績補償及び特別の事情による補償の基準を定めた「発明考案等に関する補償基準」(乙4)を定めた。これらの内容は別紙2のとおりである(以下、総称して「被告規定」という。)。
(4) 特許を受ける権利の譲渡
 原告は、本件各発明の特許を受ける権利を被告に譲渡した。
(5) 第三者の実施状況
ア ライセンス契約による本件発明1の実施状況
(ア) フィリップス(甲33、弁論の全趣旨)
 被告とフィリップスとは、昭和58年10月にライセンス契約を締結し、本件発明1に係る特許を含む被告特許をライセンスした。フィリップスは、被告に対し、ライセンス料として@昭和58年度1億0250万円、A昭和61年度1億1200万円、B昭和63年度3250万円をそれぞれ支払った。
 昭和63年以降は、包括的クロスライセンスに移行したが、本件発明1に係る特許も対象特許の1つとされている。同包括的クロスライセンス契約について、本件発明1は、別紙2の被告規定の「クラス2」に評価されたため、定額の実績補償が支払われた。
(イ) ヤマハ株式会社(甲11、221、225、227、弁論の全趣旨)
 被告とヤマハ株式会社(以下「ヤマハ」という。)は、平成6年4月にライセンス契約を締結し、本件発明1に係る特許を含む被告特許をライセンスした。ヤマハは、被告に対し、ライセンス料として、@平成6年度1億1900万円、A平成7年度5760万円、B平成8年度4920万円、C平成9年度4500万円、D平成10年度4000万円をそれぞれ支払った。
(ウ) 船井電機株式会社(甲11、227、弁論の全趣旨)
 被告と船井電機株式会社(以下「フナイ」という。)とは、平成6年9月にライセンス契約を締結し、本件発明1に係る特許を含む被告特許をライセンスした。フナイは、被告に対し、ライセンス料として@平成6年度5900万円、A平成7年度5400万円、B平成8年度6030万円、C平成9年度4600万円、D平成10年度900万円をそれぞれ支払った。
(エ) 株式会社ケンウッド(甲11、227、弁論の全趣旨)
 被告と株式会社ケンウッド(以下「ケンウッド」という。)とは、平成6年9月にライセンス契約を締結し、本件発明1に係る特許を含む被告特許をライセンスした。ケンウッドは、被告に対し、ライセンス料として@平成6年度4億8150万円、A平成7年度3億7180万円、B平成8年度3億2970万円、C平成9年度3億1900万円、D平成10年度3億4200万円をそれぞれ支払った。
(オ) ナカミチ(弁論の全趣旨)
 被告とナカミチとは、ライセンス契約を締結し、本件発明1に係る特許を含む被告特許をライセンスした。ナカミチは、被告に対し、ライセンス料として@平成8年度6430万円、A平成9年度2200万円、B平成10年度2500万円をそれぞれ支払った。
(カ) ソニー株式会社(以下「ソニー」という。)
 被告はソニーとの間で昭和52年1月1日及び昭和63年1月1日にそれぞれ包括的クロスライセンス契約を締結し、同契約は平成9年3月19日に更新され、本件発明1に係る特許が上記昭和63年契約の対象特許の1つとされている(前者の対象特許であるか否かについては争いがある。)。
 本件発明1は、別紙2の被告規定の「クラス3」に評価されたため、実績補償の対象とされていない。
イ 本件発明2、3の実施状況(甲34、50、弁論の全趣旨)
 被告は、太陽誘電との間で、平成3年7月1日、無償のクロスライセンス契約を締結し、太陽誘電に対して、@本件発明2、3の日本国特許、A@の対応米国特許をライセンスし、太陽誘電は被告に対して、B欧州特許出願4件、Cその対応国内出願及びその他の外国出願をライセンスした。また、被告は、日立マクセルとの間で、平成3年8月30日に、上記@ないしCを対象特許としてライセンス契約を締結し、上記対象特許の実施料収入として日立マクセルから230万円を得ている。 
(6) 被告の原告に対する補償金の給付(甲5、乙95、97、弁論の全趣旨)
 原告は、本件各発明に関して、被告から以下のとおりの補償金の支払を受けた(括弧内はその算定根拠を指す。)。ただし、本件発明1の平成9年度ないし平成12年度支払分並びに本件発明2の平成11年度支払分及び本件発明3の平成4年度支払分(いずれも遅延損害金を含む。)については、被告において供託されている(乙95、97、弁論の全趣旨)。
ア 本件発明1について
(ア) 昭和52年度支払分 3000円(昭和52年度出願賞)
(イ) 平成3年度支払分 47万円(昭和58年度から平成3年度までの社内実施実績補償)
(ウ) 平成4年度支払分 13万円(社内実施実績補償3万円及び実施料収入実績補償10万円(フィリップス))
(エ) 平成5年度支払分 3万円(社内実施実績補償)
(オ) 平成6年度支払分 5万円(社内実施実績補償)
(カ) 平成7年度支払分 18万円(社内実施実績補償3万円及び実施料収入実績補償15万円(ヤマハ、フナイ、ケンウッド))
(キ) 平成8年度支払分 20万円(社内実施実績補償5万円、実施料収入実績補償15万円(ヤマハ、フナイ、ケンウッド))
(ク) 平成9年度支払分 42万5000円(社内実施実績補償5万円及び実施料収入実績補償37万5000円(フィリップス、ヤマハ、フナイ、ケンウッド、ナカミチ))
(ケ) 平成10年度支払分 33万円(社内実施実績補償3万円及び実施料収入実績補償30万円(ヤマハ、フナイ、ケンウッド、ナカミチ、三洋電機、シャープ、シナノケンシ))
(コ) 平成11年度支払分 30万円(実施料収入実績補償(ヤマハ、フナイ、ケンウッド、ナカミチ、三洋電機、シャープ、シナノケンシ、アキュフューズ、サンスイ、ティアク、オンキョー、アルパイン))
(サ) 平成12年度支払分 20万円(実施料収入実績補償(ミツミ、カシオ))
(シ) 合計 231万8000円
イ 本件発明2について
(ア) 昭和48年度支払分 400円(出願賞)
(イ) 昭和55年度支払分 1000円(登録賞)
(ウ) 平成4年度支払分 1万2500円(実施料収入実績補償(日立マクセル))
(エ) 平成11年度支払分 3万7500円(対応米国特許の実施料収入実績補償)
(オ) 合計 5万1400円
ウ 本件発明3について
(ア) 昭和50年度支払分 700円(出願賞)
(イ) 平成4年度支払分 1万円(実施料収入実績補償(日立マクセル))
(ウ) 合計 1万0700円
2 事案の概要
 本件は、本件各発明につき、被告の元従業員であった原告が、被告に対し、本件各発明は被告在職中にした職務発明であり、被告に特許を受ける権利を承継させたので、特許法35条3項に基づき、その相当の対価(内金)の支払等を求めている事案である。
3 争点
(1) 本件発明1について
ア 特許法35条3項の「相当の対価」の額はいくらか
イ 被告規定に基づく補償金請求権の有無
(2) 本件発明2、3について
ア 特許法35条3項の「相当の対価」の額はいくらか
イ 被告規定に基づく補償金請求権の有無
(3) 外国特許について
ア 外国特許について特許法35条3項が適用ないし類推適用されるかどうか
イ 外国特許の特許を受ける権利の有償移転による対価請求権の有無
ウ 外国特許について悪意の準占有者に対する果実収受請求権の有無
(4) 本件各発明に関する原告の対価請求権は時効により消滅したかどうか
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)アについて
【原告の主張】
(1) 本件発明1の意義・有用性
 本件発明1は、全種類の光ディスク再生専用装置に共通の基幹部分である光ピックアップユニットに実施されている基本発明である。
 本件発明1は、被告社内で「戦略特許」として金賞及び「社長技術賞」を、被告社外では「東京都知事発明奨励賞」、「地方発明特励賞」の各表彰を受けた。
(2) 「相当の対価」の算定
ア 主位的主張
(ア) 特許を受ける権利は、会社ではなく従業員に帰属する(特許法29条1項)から、職務発明に係る特許を受ける権利を会社に譲渡することは従業員と会社との間の特許を受ける権利の売買契約を意味する。すなわち、「相当の対価」とは会社と従業員との間の職務発明に係る特許を受ける権利の売買契約の売買代金であり、その金額は特段の合意がない限り、等価交換の原則により特許を受ける権利の時価(市場価格)であり、このように解しなければ憲法14条1項に反する。
(イ) 従業員発明者の保護を目的とする特許法35条の趣旨及び他社に譲渡する場合の譲渡対価との均衡に鑑みれば、従業員が職務発明の譲渡対価の算定上、当該要素を考慮に入れることに明確に合意しない限り、同条4項の「その発明がされるについて使用者が貢献した程度」を職務発明の譲渡対価の算定上考慮することはできない。
(ウ) 仮に「その発明がされるについて使用者が貢献した程度」を考慮するとしても、それが同条1項が規定する無償の通常実施権の経済的価値を上回る場合に限られる。
 すなわち、上記貢献度として通常考えられる実験設備、実験資材、その他実験費用の負担、研究補助者の提供、文献の購入費用の負担、国内外への留学費用の負担、特許申請費用の負担などをしていることは、同項による通常実施権の無償による取得と対価関係に立っているから、これらと全く同じ内容の使用者の貢献度を職務発明の譲渡対価の算定上再度考慮することは、対価関係を欠き衡平を失する結果となるから許されない。
(エ) 本件発明1における共同発明者の寄与度
 原告は、共同発明者であるB(以下「B」という。)と共に確認実験を行ったが、この実験の実験装置は、半導体レーザ、顕微鏡レンズ、CDカメラ、オシスロスコープから構成され、標準的な光学知識を持っている者であれば何人でも組立可能な実験装置であり、この実験装置の設計組立にBが何らかのアイデアや知識を提供したこともない。また、Bは、光ディスクの研究に従事したことはなく、半導体レーザを用いた光ピックアップやCDプレーヤの研究は一切行っていない。
 Bは、本件発明1の特許出願の願書において筆頭の発明者として表示されているが、これは、Bがレーザプリンタの研究グループに所属しながら、また、中央研究所の研究方針がホログラフィや等方発光半導体レーザ(BHレーザ)による光ピックアップの研究にあったにもかかわらず、これに反して、原告の依頼を受け入れ、確認実験に協力したことへの謝意によるものである。
 原告は、本件発明1に関して東京都知事表彰を受賞したが、その調書に原告の寄与度は「70%」と記載されている。この調書は東京都庁に提出されるに際して、当時原告が所属していた中央研究所第6部の部長、特許部担当者及び特許部部長、勤労課担当者の決裁及び承認を経て提出された書類である。しかも、本件発明1は東京都知事表彰申請に係る複数の発明・研究成果中で最重要の発明であったから、仮にBの寄与度が50%以上であれば、原告が表彰申請されるはずがない。逆に、Bが東京都知事表彰の受賞対象になったはずである。
 したがって、共同発明者の寄与度は30%が相当である。
(オ) 本件発明1の譲渡対価
 本件発明1に係る日本国特許及び外国特許の実施品である光ディスク再生専用装置の@日本国内生産額は7兆4058億1700万円、A海外生産額は3兆7476億6500万円、B被告の生産額は512億0400万円であり、本件発明1の適正実施料率は0.1666・・%である。そして、上記のとおり、本件発明1に対する共同発明者の寄与度は30%であるから、本件発明1の譲渡対価は、下記のとおり129億5265万7614円であり、その一部である9億円を請求する。
 (7兆4058億1700万円+3兆7476億6500万円−512億0400万円)×0.001666・・×0.7=129億5265万7614円
イ 予備的主張
(ア) 被告の貢献度
 仮に「相当の対価」の算定に当たって、被告の貢献度を考慮するとしても、次の各事情からすると、被告の貢献度は50%が相当である。
@ 発明の過程における被告の貢献度
 本件発明1は、被告の研究方針や研究指導によって完成されたものではなく、被告の研究方針に反した原告独自の研究方針により、思考とコンピュータシュミレーションによって着想と検証を行い、完成された発明である。
 すなわち、被告の当時の研究開発の方向性は、ホログラフィック、ビデオディスク、非点収差のない等方光反射ベリドヘテロ構造半導体レーザ系等が主流となっていた。これに対し、本件発明1は、コンパクトディスクのような光ディスクを対象とし、楕円形状のビームを放射する半導体レーザを用い、レンズにより楕円形状ビームの一部をけって円形状ビームにするという、光損失をもたらすことなく媒体上に照射することができる技術であって、被告の上記手法とは異なる技術思想に基づくものである。
 また、原告は、本件発明1の完成までに、被告から給与の他、別個に研究費の支給を受けたり、設備の投資を受けたことはなかったし、原告は本件発明1の完成に至るまでに被告の特別の研究設備、機器等を長期間にわたって使用したこともなかった。原告が思索や計算した結果を、実験室でのレーザ装置を使用して確認したにとどまる。
A 発明の権利化の過程における被告の貢献度
 原告は、本件発明1の権利化のため、中央研究所の特許担当者との打合せに数多く出席し、本件発明1の進歩性を証明するための理論的な解析作業を行った(甲28)。本件発明1に係る特許の出願担当者は出願明細書中に記載された一実施例を特許請求の範囲に組み入れる作業をしたに過ぎない。
 原告はコンパクトディスクの規格のピット配列についてアイパターンを計算してコンピュータシュミレーションを行い、本件発明1の開口制限の数値限定を算定した。
B 事業化の過程における被告の貢献度
a 特許法35条4項で相当の対価の算定上考慮し得る「使用者が貢献した程度」とは、発明についての貢献度であり、当該発明を実施した製品の事業化についての貢献度ではないから、被告が本件発明1を実施した製品の事業化についての貢献度は相当の対価の算定上考慮すべき要素には含まれない。
b 仮に事業者の過程における使用者の貢献度を考慮するとしても、被告の事業化についての貢献度は零である。
 すなわち、被告は競合会社に追随して光ディスクの再生専用装置の事業化を行ったのみで、自ら市場開拓する等の営業努力を行ったわけではなく、他方、原告は本件発明1の実施品であるCDプレーヤの製品化プロジェクトに参画し、昭和57年10月にその製品化に成功した。また、原告は、被告のCD特許活用プロジェクトにおいて侵害調査を行い、多くの他社製光ディスクドライブに使用されている光ピックアップの侵害立証データを採取した。
(イ) 個別ライセンス契約について
@ 被告規定のうち、個別ライセンス契約に関する部分は、実施料収入が高額になると、当該特許の価値、企業に対する貢献を低く評価するという矛盾が生じ、趣旨不明の複数概念を含む複雑なものである上、その全体像も判然としない著しく不合理なものであるから、特許法35条3項に違反する。
A 個別ライセンス契約による実施料収入に関する職務発明補償金額(相当の対価)は下記の計算式(以下「基本式1」という。)により算定するのが相当である。
 職務発明補償金額=実施料収入額×寄与度×(1−本件職務発明の完成に対する被告の貢献度)×他の共同発明者との関係での職務発明の完成に対する原告の貢献度
B フィリップス
a (1億0250万円×0.22+1億1200万円×0.4+3250万円×0.4)×(1−0.5)×0.7=2812万2500円
b 被告は、昭和61年にフィリップスとの間で包括的クロスライセンス契約を締結したが、フィリップスは実施料収入のあった昭和63年以降においても本件発明1を昭和61年以前と同様の規模で実施し、被告も同年以前と同程度の実施料収入額に相当する利益を得たものと推認される。よって、昭和63年から平成9年の間は、昭和58年度及び昭和59年度と同様に、少なくとも各年1億円の実施料収入又はそれに相当する利益額が被告に生じたものとして、職務発明補償額を算定すべきことになる。
 そこで、昭和63年度については1億円との差額6750万円、平成元年ないし平成9年の期間については、各年1億円、合計9億6750万円を基礎とし、上記基本式1を用いて算定すると、上記包括的クロスライセンス契約における相当の対価の額は1億3545万円となる。
c 合計
 1億6357万2500円
C ヤマハ
 (1億1900万円×0.15+5760万円×0.15+4920万円×0.15)×0.5×0.7=1185万4500円
D フナイ
 (5900万円×0.1+5400万円×0.1+6030万円×0.1)×0.5×0.7=606万5500円
E ケンウッド
 (4億8150万円×0.1+3億7180万円×0.1+3億2970万円×0.1)×0.5×0.7=4140万5000円
F ナカミチ
 6430万円×0.15×0.5×0.7=337万5750円
G 合計
 2億2627万3250円
(ウ) 包括的クロスライセンス契約について
@ 被告規定のうち、包括的クロスライセンスに関する部分は、次のとおり、著しく不合理であり、特許法35条3項に違反し、無効である。
a 被告規定に定められている「みなし実施料」によると、包括的クロスライセンス契約の相手方が、職務発明である有用な特許権の実施により莫大な利益を得ているにもかかわらず、一方当事者の実施規模が所期のとおり達成されない等専ら企業側の一方的な事情があって、同企業の利益が所期のとおり生じない場合には、職務発明の実績補償はそれに連動して減縮されるという著しく不合理な結果となる。
b 包括的クロスライセンス契約の対象となる特許権の件数が一般に多数に上るとしても、本件発明1のように、不可避かつ基本的な特許は一般にごく一部であって、特に相手方の実施が判明していたり推測可能な特許権はごくわずかである。したがって、包括的クロスライセンス契約の対象特許権が多数に上るといっても、その内重要な特許はごく一部に限られ、これらを個別に評価することにさほど莫大な経済的負担を余儀なくされることはない。よって、被告規定が定めるように「みなし実施料」をあらかじめ一定の金額に設定することの合理性はない。
c 被告規定の「クラス分け」においても、包括的クロスライセンス契約の対象とされた特許権に関し、相手方の実施状況やそれに関連する相手方及び被告の対応、状況など個別の確認や評価を行わざるを得ないから、このように「クラス分け」する合理性はない。また、クラス1の場合とクラス2との間では被告規定によれば、実績補償について顕著な差異が存し、不合理である。
A 複数の個別ライセンス契約を締結し、実施料を個別に算定し、実施料総額が均衡していれば相互無償の包括的クロスライセンス契約とし、均衡していなければ一方当事者が他方当事者に差額実施料を支払うというのが包括的クロスライセンス契約の本来の在り方である。相互無償の包括的クロスライセンス契約では、相手方に許諾した特許権と相手方から許諾された特許権とは等価関係にあり、それらの特許権について支払を受ける実施料総額は同額であるはずである。したがって、包括的クロスライセンス契約においては、実施料相当額に等しい利益が職務発明によって被告に生ずるはずである。仮に、実施料相当額に等しい利益が、被告が相手方の特許権を所期の見込みどおり実施していない等のために現に被告に生じていないとしても、等価関係にある包括的クロスライセンス契約を前提にして被告の受けるべき利益を算出すべきである。特許法35条3項の職務発明の補償は「対価」とされる以上、あくまで職務発明の価値と等しい金銭的価値が支払われるべきである。
B 対価の算定に当たっては、当該職務発明の特許を相手方に実施許諾した場合における相手方からの仮想実施料収入を基準として、基本式1を使用して計算するのが相当である。
a ソニー
 昭和59年から平成9年にかけてのソニーの本件発明1に係る特許を実施した光ピックアップの販売高は、合計1兆2176億円である。他方、ソニーは被告との包括的クロスライセンス契約により差額支払のみで本件発明1に係る特許を実施し、多額の利益を得ている。
 ソニーの光ピックアップに実施されている被告特許は、本件発明1に係る特許の他には、一方向性レンズを用いた非点収差の特許があったが、同特許は昭和58年のCDプレーヤ発売当初はソニーより実施されていたものの、その1年後にはほとんどのメーカーは斜め平行板ガラスの使用に設計変更したため、実施されなくなった。したがって、ソニーの光ピックアップに実施されている被告特許は本件発明1のみである。また、光ピックアップの通常の特許実施料は販売価格の3%を下らない。
 よって、ソニーによる実施状況を勘案した本件発明1についての対価の額は、1兆2176億円(販売高)×0.03(実施料率)×1.0(ソニーの光ピックアップに実施されている被告特許の件数)×0.5×0.7×0.25(独占的地位に起因する割合)=31億9620万円となる。
b 松下電器
 昭和59年ないし平成9年にかけての松下電器の本件発明1に係る特許を実施した光ピックアップの販売高は、合計9132億円であるところ、松下電器は、被告との包括的クロスライセンス契約の締結により本件発明1に係る特許を実施している。
 松下電器の光ピックアップに実施されている被告特許は、本件発明1の他には一方向性レンズを用いた非点収差の特許があったが、同特許は昭和58年のCDプレーヤ発売当初は実施されていたものの、その1年後にはほとんどのメーカーが斜め平行板ガラスの使用に設計変更したため、実施されなくなった。したがって、松下電器の光ピックアップに実施されている被告特許は本件発明1に係る特許のみである。
 よって、松下電器による実施状況を勘案した本件発明1の補償額は、9132億円(販売高)×0.03(実施料率)×1.0(松下電器の光ピックアップに実施されている被告特許の件数)×0.5×0.7×0.25(独占的地位に起因する割合)=23億9715万円となる。
c 合計
 55億9335万円
C 仮にBの算定方法が認められないとしても、包括的クロスライセンスにおける個々の対象特許の対価は、下記の算式によって算定するべきである。
 相手方企業が当該対象特許を実施している製品分野の総売上高×平均実施料(3%)×発明者に分配されるべき利益の割合(5%)
a ソニー
 1兆2176億円×0.03×0.05×0.7(共同発明者間の寄与度)=12億7848万円
b 松下電器
 9132億円×0.03×0.05×0.7=9億5886万円
c 合計
 22億3734万円
(エ) 社内実施分について
@ 被告規定のうち、社内実施に関する部分も、上記(イ)と同様の理由により、特許法35条3項に違反する。
A 社内実施における対価の額は、本件発明1を第三者に実施したと仮定した場合の実施料を基準とし、その一定割合をもって相当の対価であるとする算定方法によって算定するのが相当である。
 そうすると、被告の売上高は512億0400万円であり、実施料は3%、本件発明1に被告が貢献した程度は50%であるので、CDプレーヤ、CD−ROM装置関連の本件発明1以外の有効特許件数を最大限考慮しても、本件発明1についての対価の額は、少なくとも売上高×実施料率の5%と評価され、これに共同発明者としてのBの寄与度30%を勘案すると、対価の額は、下記のとおり5376万円となる。
 512億0400万円×0.03×0.05×(1−0.3)=5376万円
(オ) 日立メディアエレクトロニクスの実施について
 被告の関連企業である日立メディアエレクトロニクスは、本件発明1を光ピックアップに実施しており、その光ピックアップユニットをソニーなどの国内メーカ、台湾などのCDプレーヤ、CD−ROMドライブのメーカに販売している。
 日立メディアエレクトロニクスによる本件発明1の光ピックアップユニットに対する実施規模は合計384億円であり、実施料を3%とすると、11億5200万円の実施料収入が発生していることに鑑みると、被告は下記のとおり4億0320万円を対価として支払うべきである。
 11億5200万円×0.5×0.7=4億0320万円 
(カ) 原告は、以上の合計額の一部である9億円を請求する。
【被告の主張】
(1) 本件発明1の意義・有用性
 本件発明1は、半導体レーザを用いて光ディスクを再生するための光ピックアップ部において、半導体レーザの楕円形の光束のうち、縦横の光の強度分布がほぼ同じになる中央部分だけを対物レンズを通して絞り込むことによって、円形のスポットを得るというものである。
 本件発明1は光ピックアップユニットに実施されているが、単に実施の事実のみを理由に回避のできない基本特許であるとはいえない。そして、本件発明1を回避して全く同様の結果を得る方法としては、光ピックアップユニットの光源と対物レンズの間に整形プリズムを置いて、当該整形プリズムにより楕円形の光束を円形の光束に変換して、円形のスポットを得る方法や光ピックアップユニットから出力される信号の特性を電気回路により補正する方法がある。現に前者の方法はMO製品において、後者の方法はDVD製品において利用されているから、本件発明1に係る特許が回避不可能な基本特許であるとはいえない。
(2) 相当の対価の額
ア 使用者等と従業者等の利益の調和という特許法35条の趣旨からすると、使用者等に補償規定が存在し、これに基づいて使用者等が発明者に補償金を支払っている場合においては、同補償規定が発明により使用者等が受けるべき貢献度と発明がされるについて使用者等が貢献した程度を考慮して補償金を算定することを目的としており、かつ、同補償規定の内容が使用者等と従業者等の利益の調和という同法35条の趣旨に照らして合理的であると認められる場合には、同補償規定は尊重されるべきであり、この補償規定を適用して算出された補償金は相当の対価といい得る。すなわち、補償規定が無効となるのは、補償規定が上記の利益と貢献度を考慮して補償金を算定することを目的としていない場合やその内容が使用者等と従業者等の利益の調和という特許法35条の趣旨に照らして明らかに不合理であると認められる場合に限られるべきである。
 被告規定は、上記の利益と貢献度を考慮して補償金を算定することを目的とするものであり、その内容も特許法35条の趣旨に照らして合理的といい得るものであるから、被告規定は有効であり、同規定を適用した結果、支払われた補償金231万8000円も合理的であり、これが相当の対価である。
イ 被告規定による算定の合理性
(ア) 社内実施実績補償の算定方式の合理性
 売上高に部分比を乗ずる点については、社内製造製品は完成した製品のみが売上計上され、製品を構成する部分は売上計上されないため、職務発明が実施された部分の売上高を把握するために行われるものであるから、合理的である。
 また、権利の排他性等の諸要素を乗ずる点については、把握した実績のうち、当該職務発明の貢献した割合を詳細に把握し、補償金の金額に反映させようとするものであるから、合理的である。
 次に、このように把握された評価点をあらかじめ定められている補償ランクに当てはめ、補償金額を決定する点については、当該職務発明の完成及び権利化の過程における被告の貢献度等を考慮したものであり、多数の研究者を擁し、多額の研究開発予算を投じて大規模な研究開発活動を展開している被告においては、職務発明についての被告の貢献度は極めて大きいことから、こうした補償ランクによる金額も合理的である。なお、社内実施と他社実施の場合とで算出方法を異にして補償金に差を設けていること、いずれにおいても補償金に上限を設定していない点でも合理的である。
(イ) 実施料収入実績補償の算定方式の合理性
 実施料収入のうち、当該職務発明が寄与した部分を割り出し、かつ、ライセンスへの状況等を考慮して実績を把握しようとするものであるから、合理的であり、評価点を補償ランクに応じて補償することも、(ア)で述べたとおり合理的である。
 上記算定方式の場合、補償金が実施料収入に一次関数的に比例して増加しないが、一般に多額の実施料収入を獲得するためには、必然的に相手方とライセンス交渉等が激しいものとならざるを得ず、企業としてはライセンス交渉のための準備、書面作成等において多大な人的、物的資源の投入を余儀なくされることから、一般に低額の実施料収入を得る場合と比較して相対的に企業の貢献度が上がる。したがって、実施料収入と補償金が一次関数的に比例しないのは何ら不合理ではない。
(ウ) 本件発明1についてのフィリップス等とのライセンス契約について
@ フィリップス、ヤマハ、フナイ、ケンウッド、ナカミチによる実施に基づく部分の相当の対価は、仮に原告の主張する計算式が正しいとしても、後記(3)(4)で述べる被告の貢献度を前提に算定すると、合計約259万円となる。これは被告規定に基づいて被告が実際に原告に支払った補償金額とほぼ同額である。
 原告は、被告とフィリップスとの包括的クロスライセンス契約締結後の昭和63年から平成9年までに年間1億円の実施料収入があったと仮定して、上記包括的クロスライセンス契約に基づく補償金として1億3545万円の請求権があるとも主張するが、そもそも被告とフィリップスとが昭和58年に締結したライセンス契約は約8年間の実施の対価としての実施料が合計約1億円であり、また昭和61年に締結したライセンス契約は約6年間の実施の対価としての実施料が合計約1億円であり、年間に1億円もの実施料収入を得たわけではない。よって、原告のフィリップスとの包括クロスライセンス契約に基づく主張についても理由がない。
A 原告は、本件発明1によって得た被告の利益について、現実の実施料収入に本件発明1の「寄与度」を乗じて算出しているが、これはあくまで被告の補償規定の計算式に基づいて補償金を算出する場合に使用される評価要素であるから、これを実施料収入の算出に使用することはできない。
(エ) 包括的クロスライセンス契約の算定方式の合理性
@ 包括的クロスライセンス契約の意義
 包括的クロスライセンス契約とは、当事者双方が有する多数の特許権を相互に包括的にライセンスし合うものであり、その本質は多数の特許権を相互に包括的にライセンスすることにある。すなわち、包括的クロスライセンス契約においては、ライセンスした多数の特許権の実施料を相互に支払うことはそもそも予定されておらず、個々の特許権についての実施料やそれらの実施料総額なるものを観念することはできない。
 包括的クロスライセンス契約の目的は、相手方の特許権の存在という障害を排除して事業の自由度を確保することにあり、ライセンスした特許権が実際に相手方によってどのように実施されるかは双方の関与するところではないから、包括的クロスライセンス契約の締結後、ライセンスを受けた相手方の特許権を実際にどのように実施するか、及びライセンスした当方の特許権を相手方が実際にどのように実施するかによって、包括的クロスライセンス契約を締結したことによる当事者の利益状況は大きく異なる。したがって、当事者の利益は等価関係に立つものではなく、原告の主張する相手方に許諾した特許権につき支払を受ける実施料総額と相手方から許諾を受けた特許権に対し支払う実施料総額は同額ではない。
A 「みなし実施料」という考え方の合理性
 無償の包括的クロスライセンス契約においては、被告は相手方から実施料収入を得るものではないが、包括的クロスライセンス契約によって何らかの利益を得ているため、被告の得た利益の評価が問題となるが、その利益は相手方の特許権の実施によって本来相手方に支払うべき特許料の支払を免れたことである。
 したがって、@クロスライセンスに該当する製品の被告の実施規模、Aクロスライセンスによって得た被告の技術上の成果及びその重要度を考慮して相手方の特許権に対して支払うはずであった実施料を被告の利益とすることは合理的である。
B 「みなし実施料」をあらかじめ一定の金額に設定することの合理性
 被告が相手方に支払うはずであった実施料を現実に算定するのであれば、包括的クロスライセンス契約によって許諾を受けた相手方の特許権全部について自社実施状況を個別かつ網羅的に調査し、それら個々の特許権のそれぞれについて被告が相手に支払うはずであった実施料を算出し、加算して合計額を算出するという極めて煩雑な作業が必要となる。しかし、現在、被告が製造する製品数は製品群だけで約2000種類にも達し、それに実施している他社の特許権の数も極めて多数に上る。これら2000種類もの製品全部について実施の確認を個別に、しかも毎年行うことは人件費など莫大な経済的負担を余儀なくされ、現実には不可能である。
 したがって、包括的クロスライセンス契約についての過去の実績等を基にして、「みなし実施料」を一定の金額にあらかじめ設定することは合理的である。
C 「みなし実施料」を「契約締結への貢献度」に応じて各職務発明に配分することの合理性
 被告が相手方の特許権を利用できたのは、包括的クロスライセンス契約を締結できたからであり、契約締結への貢献度に応じて補償することは合理的である。
 また、包括的クロスライセンス契約の対象とされた自社の全特許権の実施状況を網羅的かつ個別に調査するのは不可能であり、現実的には、契約締結への貢献度に応じて配分せざるを得ない。
 さらに、特定の特許権のみを個別に評価して補償することは不平等不公平であり、この点からも契約締結への貢献度に応じてみなし実施料を分配することは合理的である。
(オ) 本件発明1についての包括的クロスライセンス契約について
@ フィリップスとの包括的クロスライセンス契約について
 本件発明1に係る特許は、昭和61年に被告がフィリップスとの間で締結した包括的クロスライセンス契約の対象とされているが、同契約交渉において特許リストに掲示されていたものの未登録であったため、被告規定において「クラス2」と評価され、実績補償金2万5000円(5万円÷発明者数2名)が原告に支払われている。
A ソニーとの包括的クロスライセンス契約について
 本件発明1に係る特許は、被告がソニーと昭和52年1月1日付けで締結した包括的クロスライセンス契約の「その他のオーディオ機器」として同契約の対象に含まれており、ソニーにライセンスされた。また、昭和63年1月1日付け更新時に新たに追加された「光学的/磁気的記録再生機器」とは業務用の光ディスク装置等を意味するに過ぎず、VTRの実施料額が0.4%から0.2%に減額されたのは、被告のVTR関連特許が多数生じたからである。本件発明1がソニーとの包括的クロスライセンス契約に貢献した事実はない。
 以上により、被告は被告規定に従って「クラス3」と評価したのであり、補償基準を適切に適用している。
B 松下電器との包括的クロスライセンス契約について
 原告の請求は、被告が現実には松下電器とライセンス契約を締結していないのに、松下電器がライセンスを受けて実施したものと仮定し、かつ、その場合の実施料率を3%と仮定して、算出したものであり、不当である。
 そもそも、企業が権利行使をするか否かは特許を受ける権利の譲渡を受けた企業の自由裁量の範囲にあり、権利行使をしない場合にまで権利行使をした場合と同視して相当の対価を算定するのでは、発明者の利益は無限に拡大することになり、合理的な企業活動が成り立ち得ない。被告が松下電器に対しCDプレーヤ等に関して実施料請求をしていないのは、被告は松下電器その他5社とDVD−ROMの規格に関して協力体制にあり、特許の活用及び製品化に向けてのプロジェクトを推進していたとの事情によるものである。したがって、特許法35条の趣旨からしても、このような場合にまで相当の対価を支払うことは義務づけられていない。
(3) 被告の貢献度
ア 発明の過程における被告の貢献
(ア) 本件発明1は、被告の研究機関である中央研究所において、研究者である原告の業務そのものの遂行過程において完成された発明であり、かつ中央研究所の物理的な研究設備、施設のみならず、設立以来の永年にわたる研究開発の結果蓄積されていた光学に関する先行技術、経験を利用して完成された発明である。被告の研究開発予算は年間約4000億円に達している。他方、被告在職中に原告は給与・賞与として約2億4333万円、退職一時金として約3066万円を受け取っている(これ以外にも退職金相当部分として厚生年金基金からの今後20年間に合計4193万円を受領する予定である。)。原告に与えられた業務は研究開発を行うことであるから、原告が完成させた職務発明に支払われるべき相当の対価の算定に当たっては、原告に支払われた給与、賞与及び退職金を考慮するべきである。
(イ) 本件発明1は、CSP型半導体レーザが中央研究所で発明された結果、はじめて課題が与えられたものである。
 すなわち、中央研究所の半導体グループが埋め込みヘテロ型(BH型)半導体レーザを開発したが、光ディスクの光源としては光強度が弱いという弱点があった。そこで、同グループは昭和52年3月にCSP型半導体レーザを発明した。これは、光束が楕円であるものの、レーザ光の強度が強く、安定しており、CD等の光ディスクの再生に十分な光強度を有していた。同グループは、CSP型半導体レーザを光ディスクを研究していた原告及びBに提供し、これを受けて原告らはCSP型半導体レーザの楕円形の光束から円形の光スポットが得られれば、光ディスクのピックアップ部にも利用できる可能性があることから、これを検討し、その結果円形開口によって円形の光スポットを得るようにしたのが本件発明1である。
(ウ) 被告は、中央研究所や家電研究所において、ビデオディスクの実現を目的として、日常的な研究開発業務に加えて多数のプロジェクトを実施するなどの一連の研究開発を行ってきた。本件発明1は、被告におけるビデオディスクの実現を目的とした一連の研究開発の中で、具体的には中央研究所で行われてきた「時系列方式」(光ディスク方式。レーザ光を針のように集光し、ディスク上に記録されたトラック溝をサブミクロン精度で電子制御しながら追跡する方式)の研究開発の過程で発明されたものである。
(エ) 本件発明1が完成するための最も重要な作業はCSP型半導体レーザを使用し、実験を繰り返してデータの収集を行い、そのデータを計算することであり、それは、中央研究所の半導体グループの上記試作機を使用して行われた。
イ 権利化の過程における被告の貢献
(ア) 本件発明1は、設定登録されるまでの権利化の過程において、被告社内における見直し会議での調査・検討、共同発明者Bによる検証、被告の特許部による意見書・説明資料等の作成、審判官との面談等の多大な作業を必要としており、拒絶査定後に最終的に「半値幅以内」という補正を特許部が行ったことによってはじめて進歩性が認められた発明である。こうした権利化のために重要かつ不可欠な作業については、共同発明者B及び被告の特許部の関係者がその大部分を行った。原告は本件発明1の権利化にほとんど寄与していない。
(イ) 本件発明1は、公告後、オリンパス光学工業株式会社(以下「オリンパス」という。)等から異議申立てを受けたが、これに対する答弁書の作成等の作業も共同発明者B及び被告の特許部の関係者がそのほとんどを行った。
(ウ) 原告の主張するアイパターンによる確認作業は、本件発明1の権利化の過程において全く不要である。
 アイパターンとは、あるピット配列の規格(ピットサイズ及び配列のパターン)を前提とした上で、当該ピット配列における再生信号の特性を確認するものであり、光スポットが円形かどうかを確認するための作業ではない。
ウ 事業化の過程における被告の貢献
 本件発明1は、設定登録された後も、被告社内の活用プロジェクトによる製品調査・売込戦略の策定、ライセンス部による幾多のライセンス交渉等を経て、はじめてライセンス契約の締結に成功し、実施料の獲得が可能になったものである。
 すなわち、本件発明1は、ライセンス交渉先から、@製品規格上は半値幅以内ではない、Aレーザの取り付けがずれると半値幅以内に入らないといった理由から不実施等の主張をされ、ライセンス契約締結への大きな貢献は認められなかったのに対し、被告のライセンス部及び特許部の交渉の結果並びに被告の他の特許(自動焦点合わせ方式)の存在によってライセンス契約締結に至ったといえる。
エ 以上の事実に鑑みると、被告の貢献度は98%程度である。
(4) 共同発明者の寄与度
 本件発明1は、カップリングレンズの組合せによる実験を実際に行うことによってはじめて完成した発明であり、上記実験を実際に担当したのは筆頭発明者として特許明細書に記載されている共同発明者のBに他ならない。しかも、本件発明1に係る特許は拒絶査定を受けた後、「半値幅以内」という補正を行うことによってはじめて進歩性が認められた発明であるが、かかる「半値幅以内」という文言を実施例に盛り込んだのもBである。
 なお、原告の東京都発明功労研究者賞の受賞に際しての申請書に原告の貢献度が70%であるとの記述があるが、この申請書への記述は、原告によって恣意的に記載されたものであり、Bが同意したものではない。
 これらの事実に鑑みると、Bの寄与度が50%を下ることはない。
(5) 社内実施について
ア 原告の社内実施に基づく補償金請求は証人尋問終了後半年が経過した後に追加されたものであるが、これにより被告は@被告規定中の社内実施分の算定方式の合理性、A実際に行われた社内実施につき当該規定を適正妥当に適用したこと等について主張立証を余儀なくされ、その審理を行った場合には訴訟の完結を著しく遅滞させることになるから、時機に後れた攻撃防御方法に他ならない。したがって、却下されるべきである。
イ 特許法35条4項にいう「使用者等が受けるべき利益」とは、「発明の実施を排他的に独占し得る地位を取得することにより受けることになると見込まれる利益」を指すとされているところ、本件のように多数の第三者にライセンスを行い、当該多数の第三者が製品を販売しているような場合においては、当該自社実施には「発明の実施を排他的に独占できた」ことによる貢献は存在しないから、原告が主張するような社内実施に基づく補償金請求は認められない。
(6) 日立メディアエレクトロニクスの実施について
 被告の100%子会社である日立メディアエレクトロニクスの実施分については社内実施実績補償分に含まれており、既に原告に支払済みである。
2 争点(1)イについて
【原告の主張】
  被告が被告規定に従い、本件発明1を「クラス3」に評価したことは著しく不当であり、本件発明1は「クラス1」に評価されるべきであったから、それを前提に被告の規定に基づく実績補償を算定し直すべきである。
【被告の主張】
 前記1【被告の主張】(2)イ(オ)Aのとおり。
3 争点(2)アについて
【原告の主張】
ア 本件発明2、3の意義、有用性
(ア) 本件発明2は、光ディスクのトラック溝を、光ディスクの半径方向にウォブルさせて、光ディスクを構成することを内容とする発明であり、光ディスクであるCD−R、CD−RW、MD、DVD−RAM、及びCD−R/RWディスクの記録再生装置であるCD−R/RWドライブにおいて規格化され実施されている基本発明である。
(イ) 本件発明3は、光ディスクのトラック溝を、光ディスクの半径方向にウォブルさせ、かつ、トラック溝のウォブル周波数を、光ディスクの内周と外周とで異ならせることを内容とする発明である。CD−R用の光ディスクにおいては、トラックのウォブリングの周波数をディスク半径方向に線形(リニア)に変化させており、ディスクの回転速度を内周と外周とで同じになるように等速回転による高密度記録を実現するために本件発明3が実施されている。ミニディスク用の光ディスクにおいても、ディスク寸法及び記録材料がCD−R用の光ディスクと異なるのみで、本件発明3の実施態様は、CD−R用の光ディスクの場合と同様である。
(ウ) 本件発明2、3は、被告から「社長技術賞」を受賞し、また「東京都知事発明奨励賞」を受賞した。
イ 本件発明2、3に関し、被告が原告に対し被告規定に基づいて支払った金額は、被告が特許を受ける権利を取得したことに伴い得るべき利益、各発明につき被告が寄与した程度等の事情を総合しても著しく低額であり、「相当の対価」とはいえず、上記被告規定は、特許法35条3項に違反し無効である。
 使用者以外の第三者が発明実施している場合における特許を受ける権利を譲り受けたことによる使用者の利益の額は、当該第三者の発明実施品の売上高に適正実施料率を乗じた金額であり、それに発明者側の寄与率を乗じて算出された金額が「相当の対価」である。
ウ 主位的主張
(ア) 共同発明者間における寄与度
@ 本件発明2について
 原告は、スタンフォードリサーチ研究所の研究論文(甲65)及び「目の運動と視覚情報処理」という論文(甲68)に示唆を受け、光スポットをウォブリング振動することによって、高精度のトラッキングが可能となるのではないかとの着想を得て本件発明2を発明し、自ら特許出願の明細書を作成した。
 すなわち、光ディスク上のトラック溝に光スポットを照射した場合、光スポットがトラック中心から右に変位しても、左に変位しても、反射出力信号は同じであり、そのため反射信号の変化を観察するのみではその変位方向を判別することはできない。本件発明2の技術的課題は、光スポットがトラック中心から左右いずれの方向にどれだけ変位したかを検出する方式を発明することにあったが、原告は上記論文によりトラック溝を高い周波数で蛇行させた光ディスクに光スポットを照射させると、光スポットが右に変位した場合と、左に変位した場合とでは、トラックからの反射出力信号は、位相が180度異なるという事実に着目し、その検出には同期整流回路が利用可能であることを着想するに至ったものである。
 「東京都発明研究功労表彰候補者調査表」(甲27)の記載によると、共同発明者であるC、D、E、Fの寄与度が各10%であり、原告のそれが60%である。
A 本件発明3について
 本件発明3は、本件発明2について「ディスクの周波数をディスクの半径によって異ならせる」という点のみを改良した発明に過ぎず、発明内容の大部分は原告が主導した本件発明2を受け継ぐ発明に過ぎないから、共同発明者間の寄与割合を本件発明2と別異に取り扱う理由はない。G(以下「G」という。)は、原告の指示に従って特許出願の明細書を作成しただけであり、実験的に確認する作業も含め一切関与していない。
 したがって、本件発明3に対する共同発明者の寄与度は、G、Hが各10%であり、原告が80%である
(イ) 本件発明2、3に係る特許の寄与度はそれぞれ本件発明2が70%、本件発明3が30%である。したがって、本件発明2、3の実施品である記録・再生型光ディスク媒体に対する3%のロイヤリティのうち、本件発明2に係る特許の寄与率は3%の70%に該当する2.1%、本件発明3に係る特許の寄与率は3%の30%に該当する0.9%である。
(ウ) 本件発明2に係る日本国特許及び外国特許の実施品である記録・再生型光ディスク媒体の平成2年1月1日から平成5年2月2日までの@日本国内生産額は959億5500万円、A海外生産額は1億5400万円、B被告の生産額は零円であり、本件発明2に対する原告の共同発明者間における寄与度は60%を下回らないから、本件発明2の譲渡対価は下記のとおり12億1097万3400円であり、その一部である4827万9000円を請求する。
 (959億5500万円+1億5400万円−0円)×0.021×0.6=12億1097万3400円
 本件発明3に係る日本国特許及び外国特許の実施品である記録・再生型光ディスク媒体の平成2年1月1日から平成7年2月5日までの@日本国内生産額は2017億5900万円、A海外生産額は61億1800万円、B被告の生産額は零円であり、本件発明3に対する原告の共同発明者間における寄与度は80%を下回らないから、本件発明3の譲渡対価は下記のとおり14億9671万4400円であり、その一部である2232万1000円を請求する。
 (2017億5900万円+61億1800万円−0円)×0.009×0.8=14億9671万4400円
エ 予備的主張
(ア) 原告らの貢献度
 本件発明2の完成時である昭和48年1月当時、被告の研究開発の方向性は、ホログラフィックメモリが主流となっており、レーザ光を針のように集光し、ディスク上に記録されたトラック溝をサブミクロン精度で電子制御しながら追跡再生する方式(光ディスク方式)の研究開発体制はもちろん、その基本技術や基本アイデアもなかった。
 本件発明2の完成に際して、被告から研究費、設備の支給等はなく、原告が被告の研究設備、機器等を長時間使用したこともなく、原告の思考と紙上の計算を通じて完成させたものである。本件発明3は、本件発明2に基づいて昭和50年1月ころ完成させたが、これも本件発明2と同様、原告の思考と紙上の計算により完成させたものである。
 したがって、本件発明2、3の発明完成に対する全発明者の貢献度は50%を下らない。
(イ) 共同発明者間の寄与度
 本件発明2の共同発明者は特許出願の明細書の作成も研究報告書の執筆も行っておらず、アイデアの開発にも携わっていないこと、本件発明3は、原告の基本的アイデアを開示し、その追加的な技術を開発したことで完成したものであることからすると、共同発明者間の原告の寄与度は、少なくとも50%を下らない。
(ウ) 太陽誘電による実施について
 平成8年から平成9年までの太陽誘電による本件発明2に係る米国特許及び本件発明3に係る米国特許の実施品であるCD−R用の光ディスクの売上げは合計80億0800万円である。これに対し、太陽誘電が被告に通常支払うべき実施料率を各3%、被告の貢献度を50%、共同発明者間における寄与度を50%とし、本件発明2、3に係る米国特許の寄与度をそれぞれ本件発明2につき70%、本件発明3につき30%とすると、下記のとおり本件発明2の対価の額は4204万2000円、本件発明3の対価の額は1801万8000円となる。
 本件発明2
  80億0800万円×0.03×0.5×0.5×0.7=4204万2000円
 本件発明3
  80億0800万円×0.03×0.5×0.5×0.3=1801万8000円
(エ) 日立マクセルによる実施について
 平成7年から平成9年までの日立マクセルによる本件発明2に係る米国特許並びに本件発明3に係る日本国特許及び米国特許の実施品であるCD−R用の光ディスクの売上げは合計11億8800万円であり、平成6年から平成7年までの本件発明2に係る米国特許の実施品であるミニディスク用の光ディスクの売上げは合計2億1800万円である。これに対し、日立マクセルが被告に通常支払うべき実施料率を各3%、被告の貢献度を50%、共同発明者間における原告の寄与度を50%とし、本件発明2、3のそれぞれの寄与度を本件発明2につき70%、本件発明3につき30%とすると、下記のとおりCD−R用の光ディスクについては本件発明2が623万7000円、本件発明3が267万3000円となる。そして、ミニディスク用の光ディスクについては163万5000円となる。
 本件発明2
  11億8800万円×0.03×0.5×0.5×0.7=623万7000円(CD−R用光ディスク)
  2億1800万円×0.03×0.5×0.5≒163万円(ミニディスク)
 本件発明3
  11億8800万円×0.03×0.5×0.5×0.3=267万3000円(CD−R用光ディスク)
(オ) 合計
 本件発明2
  4990万9000円
 本件発明3
  2069万1000円
【被告の主張】
ア 原告の主位的主張は争う。
イ 原告が予備的主張として主張する太陽誘電及び日立マクセルの実施はいずれもそのほとんどが本件発明2、3に係る日本国特許権の期間満了による消滅以降の実施であり、被告には、その実施による利益が存在しない。
ウ 原告の主張する日立マクセルによる平成6年の実施は、本件発明2に係る日本国特許権の期間満了前の実施であるが、被告は日立マクセルから得た実施料収入についての補償金を、後記4【被告の主張】のとおり被告規定に基づいて原告に支払済みであり、被告規定は特許法35条の趣旨に照らして合理的な内容であり、それによって算出された補償金額も合理的であるから、同補償金の金額は「相当の対価」といい得る。
エ 原告の貢献度
 本件発明2、3は中央研究所における「時系列方式」の研究開発の過程で発明され、中央研究所における有形・無形の研究資産を利用して完成されたものであり、特に本件発明3は、共同発明者であるGが主に完成させたものであり、特許出願の明細書もGが作成したものであるから、原告の貢献度は小さい。
4 争点(2)イについて
【原告の主張】
 日立マクセル関連の実績補償は、本件発明2について1万2500円、本件発明3について1万円のみであり、平成3年以降における米国特許に関する被告規定に基づく実績補償がされていない。日立マクセルは、平成6年及び平成7年にミニディスク用光ディスクにおいて本件発明2、3を実施したにもかかわらず、被告規定に基づく実績補償がされていない。
 太陽誘電によるCD−R用光ディスクへの実施に対する被告規定に基づく実績補償がされていない。
【被告の主張】
 被告が原告に支払った上記各実績補償金は、被告と日立マクセルとの平成3年8月30日付けライセンス契約に基づき、被告が日立マクセルから230万円の実施料収入があったことを理由として被告規定に基づいて算出された金額である。
 上記ライセンス契約の対象特許は、@本件発明2、3に係る日本国特許、A@の外国特許、B太陽誘電の有する欧州特許出願4件、CBの対応日本出願及びその他の外国出願である。このうちBCが太陽誘電の有する特許出願であるが、これは被告が平成3年7月1日、太陽誘電とクロスライセンス契約を締結し、太陽誘電に対して本件発明2、3に係る日本国特許及び外国特許をライセンスしたことの対価として、太陽誘電からBCのライセンスを受け、これを日立マクセルにサブライセンスしたものである。そして、上記@〜Cの対象特許(出願)の実施料収入として被告は日立マクセルから230万円を得たのである。このように被告が日立マクセルから得た上記実施料収入は、被告が日立マクセルに対して@Aの特許をライセンスしたことの実施料収入とBCの特許出願をサブライセンスしたことの実施料収入を合計したものである。
 被告が太陽誘電からBCの特許出願のライセンスを受け、日立マクセルにサブライセンスすることができたのは、被告が@Aの特許を太陽誘電にライセンスしたからであって、被告が太陽誘電に@Aの特許をライセンスしたことによって得た利益は、被告が太陽誘電から得たBCの特許出願を日立マクセルにサブライセンスしたことによって得た実施料収入に他ならない。
 したがって、上記実施料収入230万円は、被告が@Aを日立マクセルにライセンスしたことによって得た利益と被告が@Aを太陽誘電にライセンスしたことによって得た利益の合計であり、これに対し被告は被告規定に従って上記実施料収入のうちの2万2500円を原告に対する実績補償金として支払ったものである。
5 争点(3)アについて
【原告の主張】
ア 特許法は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発展に寄与することを目的とする(特許法1条)が、外国特許に係る発明の保護・利用、さらには奨励も、我が国の産業の発達に寄与することは明らかであり、特許法の目的に照らしても外国特許に関する相当な発明者補償を行うことが同法35条の趣旨に合致する。
 被告が主張する属地主義は、特許権の効力範囲、移転等及び特許登録要件や出願手続が当該国の特許法に基づき規制されるべきであるというにとどまり、職務発明の相当の対価の算定に当たって、外国における実施状況を参酌することまでを禁ずるほどの意味はない。
 したがって、外国特許を受ける権利の譲渡についても特許法35条を適用ないし類推適用されるべきである。
イ 被告は、日本における特許出願に基づく優先権を主張して外国特許出願を行っているように、特許法35条の定めによって原告から日本国の特許を受ける権利を譲り受けたことを法的根拠として、外国特許出願を行っているのであるから、原告が被告に対して、上記特許を受ける権利を譲渡する際には、被告が外国特許出願をすることを考慮に入れて、その対価額を決定するのが当事者の合理的意思解釈というべきである。
 したがって、「相当の対価」は、外国特許出願に関する権利等の経済的価値も考慮に入れて定めなければならない。
【被告の主張】
ア 特許権は、その成立、移転、効力等につき当該国の法律によってのみ定められ、特許権の効力もその国の領域内においてのみ有する(属地主義)。そして、特許を受ける権利は、特許権の登録前の権利を意味するものであるが、特許を受ける権利の成立、移転、効力等の問題についても各国の利害に密接に結びつくもので、属地主義が適用されるのであり、特許権とその登録前の権利である特許を受ける権利とを別個に取り扱わなければならない理由はない。また、ある発明が職務発明に該当するのか、該当した場合には特許を受ける権利は誰に帰属するのか等の問題は、その国の国家的利益と密接に結びつく問題であり、属地主義が適用され、その国の法律によって定められるべきである。
 特許法35条は、日本国特許権についての職務発明の取扱いを規定したものであり、外国特許権を対象とするものではない。同法35条1項ないし3項が規定する「特許を受ける権利」はあくまでも「日本国特許を受ける権利」を意味するのであり、したがって同法35条3項の「相当の対価」とは「日本国特許を受ける権利」を使用者が承継することの対価であって、外国特許を受ける権利を承継することの対価を含むものではない。
イ 特許法35条が外国特許を受ける権利についても適用又は類推適用されると、外国特許権についても同条1項により使用者に法定通常実施権が発生する結果となるが、日本国特許法の適用により外国特許権にこうした法的効果を付与することは明らかに属地主義に反するばかりか、実際上、多大な混乱を招く結果となる。また、特許法35条が外国特許を受ける権利についても適用又は類推適用されると、使用者は、特許制度を有する世界各国のすべての国の特許を受ける権利について、使用者の受けるべき利益と発明者の貢献度を評価して、相当の対価を算定し発明者に支払う義務を負うことになるが、そのようなことは現実には不可能である。
ウ 以上により、外国特許を受ける権利について同条を適用又は類推適用することはできない。
6 争点(3)イについて
【原告の主張】
ア 本件各発明の外国特許権の譲渡の原因関係である譲渡契約の準拠法は、日本法である。
イ 職務発明に係る外国特許を受ける権利が企業に移転された場合に、従業員は企業が一方的に定めた職務発明補償規定にいかなる場合でも拘束され、同規定に定める補償金額を超える金額を一切請求できないとすることは極めて不当である。このような場合、企業と従業員との間では、物や権利の売買につき明示の合意はされたものの、売買代金につき明示の合意がなかった場合に準じて処理されるべきである。したがって、職務発明に係る外国特許を受ける権利に関して、企業と従業員との間で有償移転はあったものの、売買代金については明示の合意がなかったものとして裁判所において売買された当該権利の時価を評価して、売買代金が定められるべきである。そして、当該権利の時価を評価するに当たっては、当該外国における職務発明の第三者による実施状況を斟酌し、客観的価格を算定することになる。
【被告の主張】
 原告の主張イは、何ら理論的根拠がないし、職務発明規定によって規定され  た補償金額を無視するものであって、不当である。
7 争点(3)ウについて
【原告の主張】
 企業が従業員から不当な対価で職務発明に係る外国特許を受ける権利を譲り受けたときは、公序良俗に違反し権利移転は無効となる。そして、外国特許を受ける権利の対価を不当に低廉に定めた企業は、職務発明に係る外国特許や外国特許を受ける権利を悪意で準占有していたことになる(民法190条、250条)。したがって、同企業には職務発明に係る外国特許や外国特許を受ける権利を従業員に返還する義務があることはもとより、その準占有の期間に取得した果実及び過失によって収受を怠った果実の代価をも従業員に対して支払う義務がある。
 被告は、極めて不当に低廉な対価で本件各発明の外国特許を受ける権利を取得したのであるから、権利移転が公序良俗違反により無効となり、同権利を悪意で準占有していたのであるから、被告は準占有の間に収受した実施料及び本来得られたであろう実施料相当額を被告に支払う義務がある。
【被告の主張】
 被告は、被告が受領した実施料を被告規定に基づいて適切に分配しているのであるから、特許を受ける権利の譲渡が公序良俗に違反するとの事実はない。
8 争点(4)について
【被告の主張】
 特許法35条3項に基づく「相当の対価」の支払請求権は、当事者間に特段の合意がない限り、特許を受ける権利の譲渡の効力が生じた時、すなわち承継の時に発生し、その時から消滅時効が進行する。
 もっとも、当事者間の契約、勤務規則等によって、「相当の対価」を出願補償、登録補償及び実績補償等に区分し、それぞれの支払時期が定められている場合には、それらの支払請求権の消滅時効の起算点は、定められた支払時期となる。しかし、消滅時効の起算点となる上記支払時期は、当該契約、勤務規則等によって定められた補償金についての支払時期であるから、契約、勤務規則等に基づかない支払請求権は特許を受ける権利を承継した時から消滅時効が進行することになる。
 原告の請求のうち、被告規定に基づかない支払請求は、特許を受ける権利の譲渡時から消滅時効が進行する。原告は、本件発明1の特許を受ける権利を昭和52年9月13日に、本件発明2の特許を受ける権利を昭和48年1月20日に、本件発明3の特許を受ける権利を昭和49年12月26日に被告に譲渡したから、原告の上記対価請求権は10年の経過により時効消滅している。被告は、上記時効を援用する。
【原告の主張】
ア 被告規定において、実績補償は、@当該特許権が設定登録された後において、A被告や第三者から当該特許権が実施された時点又はB第三者所有に係わる特許権の実施につき実施料を支払うべき場合にその支払に代えて当該特許権を実施許諾した時点に発生するものであり、しかも実績補償金の支払時期は毎年12月と定められているから、これらの条件が満たされた後に毎年12月を弁済期として発生するものである。したがって、被告に対する対価請求権の消滅時効が特許を受ける権利の承継時から進行することはなく、上記条件が満たされた後の12月の経過によって進行する。
 なお、実績補償の算定方法を定めた被告規定が制定されたのは、消滅時効完成後であるとしても、被告は、被告規定を本件各発明に自ら適用しているから、時効の利益を放棄したものというべきである。 
イ 本件発明1は特許出願6年間後に被告によって審査請求がされ、出願から10年後に出願公告され、12年後に設定登録されたものである。したがって、本件発明1は出願後12年間は特許権の技術的範囲すら未確定の状況にあった。
 このように、特許を受ける権利が承継された時点においては、特許権成立の可否はもとより、特許権の技術的範囲も未確定であるため、第三者の実施を特許権に基づき排除できるか否か、排除できるとしてその範囲はどこまで及ぶのか、第三者の実施に対し実施料の請求ができるか否か等が全く不確定である。
 職務発明の対価請求権の消滅時効の起算点を特許を受ける権利の承継時であるとすると、特許出願の審査期間の長期化、審査請求手続の遅延等の諸事情から特許権の設定登録が遅れ、それに伴って、従業員が相当の対価を請求することが事実上閉ざされる結果となり不当である。
 したがって、上記事情は「対価請求権の行使を妨げるべき特段の事情の存する場合」に当たる。
ウ 「発明、考案等に関する表彰規程」によると、実績補償の性質も併有する特許賞の弁済期は、その性質上、特許権の設定登録時であると解される。したがって、被告に対する本件各発明の対価請求権の消滅時効の起算点は、各特許権の設定登録日の翌日である。
【被告の反論】
ア 実績補償の算定方法を定めた被告規定が制定されたのは、本件各発明の譲渡時から10年の期間が経過した後であり、原告による対価請求権は既に時効消滅していた。
 被告規定を制定したことにより被告が時効の利益を放棄したとしても、それは、被告規定によって算出される金額を支払うことを認めたのみであり、原告の主張する対価請求権の金額を支払うことについて時効の利益を放棄したわけではない。
イ 原告が主張するように消滅時効の起算点が設定登録の日であるとしても、被告表彰規程に定められている最高でも20万円以上という金額の支払請求権の消滅時効が進行するにとどまり、原告主張に係る対価請求権の消滅時効は譲渡時から進行する。
第4 争点に対する判断
1 事実経過
 証拠(甲3ないし8、10ないし15、17、18、24ないし29、33、34、37、甲38の1、2、甲39、甲40の1、2、甲41の1、2、甲42、44、47、50、甲52の1、2、5、甲56、甲58、59の各1、2、甲67の1、甲68、70、74、75、77、80、82、84、85ないし87、98ないし101、103、109ないし111、甲114の1ないし16、甲116ないし124、甲126の1ないし15、甲127、131、132、甲136、137、139、151、甲152の1ないし3、甲153の1ないし3、甲154、157の各1、2、甲159の1、甲167、183、186、190ないし192、196、197、200ないし202、甲203の1ないし5、甲210の1、2、甲213、215、216、218ないし224、227、228、238、240、243、266、267、乙1、6ないし13、16、17、20、23ないし28、31ないし35、36の1ないし44、乙37、38、40ないし43、45ないし62、64、65、乙67の1ないし5、乙68ないし74、乙76の1、2、乙77の1ないし3、乙78ないし81、83ないし91、92の1、2、甲93ないし95、98ないし101、証人I、G、B、J、K、原告本人)と弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。
(1) 本件発明1について
ア 本件発明1(乙13)は、楕円発光半導体レーザから発せられる楕円光を半値幅以内の円形開口で絞り込むと、形成されるスポットがほぼ円形状となる装置に関する発明である。この発明は、光強度が強く安定しており、かつ光スポットが円形であることが望ましい楕円発光半導体レーザを用いた光ディスクを対象としている。
 本件発明1の内容は、上記半導体レーザを用いて光ディスクを再生するための光ピックアップ部において、半導体レーザの楕円形の光束のうち、縦横の光の強度分布がほぼ同じになる中央部分のみを対物レンズを通して絞り込むこと(円形開口)によって、円形のスポットを得るというものであり、CD用光ピックアップに実施されている。
 本件発明1の代替技術としては、@整形プリズムにより楕円形の光束を円形の光束に変形する方法、A出力信号の特性を電気回路により補正してシグナルの品質を上げるものが一応考えられ、@の方法はMO製品において、Aの方法はソニーや松下電器のDVD製品において使用されている。なお、被告は被告規定における実施料収入実績補償金等の算定に当たって「代替技術は技術的・経済的に大幅に劣る技術」であると評価している。
 本件発明1の作用として、日本国特許の明細書には「本発明によれば、比較的大きな光出力が得られる、発光領域の縦横比の等しくない半導体レーザを用いて、しかも円形状の光スポットに絞り込むことができ、読取り周波数特性の劣化やクロストークをまねくことなく高密度の情報を高分解能で処理できる。しかも、本発明では、従来の装置が既に有するレンズの開口を用いて楕円形状ビームを円形状のビームにするので、円形状ビームを得るために円筒レンズ等の格別な光学素子を追加する必要がなく、簡単な光学系でより安価な装置を実現できる。」と記載されている。
イ 本件発明1は、被告から、昭和58年12月21日、戦略特許賞金賞を受賞した。金賞とは「他社が回避することがきわめて困難なもので、世界トップレベルの基本的又は必然的発明」と定義されており、受賞数は少ない。また、原告には、本件発明1を含む研究に対し社長技術賞、平成4年に本件発明1、2を含む光ディスクの光学、サーボ系に関する研究に対し東京都知事表彰発明功労研究者賞、平成3年に本件発明1に対し関東地方発明表彰発明奨励賞が与えられた。
 さらに、被告が作成した「平成3年度地方発明表彰調査表」(甲4)には、昭和57年以降、被告、ソニー、松下電器、ビクター、パイオニア、東芝、三菱、シャープ、マランツ、フィリップス、トムソンが本件発明1を実施していること、CDプレーヤにおける市場占有率は100%で、年間1936万台、3059億円の生産・販売高であること及び本件発明1を利用した製品と従来の同種製品との比較について以下の記載がある。
「@ 生産費・量産化  1000倍
 A 品質:高圧電源不要による安全性 100倍 
 B 能率:ドライブの省電力化1/10
 C 形態:光ヘッドの小型化1/10
 D 機能:ドライブの長寿命化10倍
 現在CD、VDプレイヤー、CD−ROMの世界総生産台数は年間4000万台に達し、価格も当初20万した3〜4万になった。これは半導体レーザを用いた光ヘッドが可能になることによって小型化、低価格化、長寿命化が達成したことによる。」 
ウ 本件発明1に係る日本国特許は、別紙特許目録記載1のとおり、昭和62年3月12日に出願公告され、平成2年2月28日に登録後、平成9年9月16日に期間が満了した。
 本件発明1は、日本以外に、米国、カナダ、イギリス、フランスにおいて特許権が成立している。 
(2) 本件発明2、3について
ア 本件発明2(甲58の1)は、トラッキング信号(光スポットとトラック中心とのズレを表す信号)をトラックに沿って検出することを目的とし、光ディスクのトラック溝を、光ディスクの半径方向にウォブルさせて、光ディスクを構成することを内容とする発明である。
 本件発明3(甲59の1)は、ディスク半径方向に1万本以上あるトラックの中から、所望のトラックに光スポットを位置づけるアクセス動作を実現する発明であり、光ディスクのトラック溝を、光ディスクの半径方向にウォブルさせ、かつ、トラック溝のウォブル周波数を、光ディスクの内周と外周とで異ならせることを内容とする。
イ 原告は、本件発明2、3を含む研究に対して、被告から社長技術賞を受賞し、また、本件発明2を含む研究に対して、上記のとおり東京都知事表彰発明功労研究者賞を受賞した。
ウ 本件発明2に係る日本国特許は、別紙特許目録記載2(1)のとおり、昭和54年6月16日に出願公告され、同年12月27日に登録後、平成5年2月2日に期間が満了した。
 本件発明3に係る日本国特許は、別紙特許目録記載3(1)のとおり、昭和60年3月25日に出願公告され、同年11月29日に登録後、平成7年2月5日に期間が満了した。 
 本件発明2、3は、日本以外に、米国、ドイツ、イギリス、フランス、オランダにおいて特許権が成立している。米国特許は、別紙特許目録記載2及び3の各(2)のとおりである。
(3) 原告の職務内容について
 原告は、昭和42年3月に大阪大学で工学博士号を取得し、同年6月にアメリカ合衆国のロチェスター大学光学研究所に入所して宇宙光学を研究し、昭和44年11月に被告に入社し、被告の中央研究所に配属され、昭和45年12月から同研究所研究員となった。原告は、昭和49年8月に主任研究員、昭和52年4月に光学応用グループのユニットリーダーとなり、昭和56年8月に主管研究員となった。
 原告は、光ディスクの分野の技術を専門とし、被告在職中の原告による職務発明は、主として光ディスクの分野に関するもので、本件各発明を含めて308件あり、研究論文は約55件ある。また、原告は被告の在職中、社内表彰としては、昭和55年に社長技術賞特賞(光ディスクの基礎)、昭和58年に社長技術賞特賞(コンパクトディスクプレーヤシリーズ)、戦略特許賞金賞(本件発明1)、平成7年に戦略特許賞金賞(磁気的記録再生装置)を受賞しており、社外表彰としては、上記の関東地方発明表彰発明奨励賞及び東京都知事表彰発明功労研究者賞のほか、機械振興協会賞を受賞している。
 原告は、平成8年11月、被告を退職した。
(4) 本件各発明の完成に至る経緯について
ア 被告の中央研究所における研究体制等と原告の研究内容
(ア) 被告の中央研究所は、被告が昭和17年に設立した総合的基礎研究所であり、その研究分野は情報、通信、マルチメディア、電子デバイス等にわたり、昭和52年当時で各分野において合計約750名の研究員が在籍し、そのうち光学の分野でも約30ないし40名の研究員が在籍していた。また、被告の研究開発費は年間4000億に達するが、中央研究所は被告の中心的な研究開発機関として、各研究分野における最新型の実験・研究機材や装置はもとより、国内外の最新の学会論文、資料等も保有し、海外の研究開発部門との協力体制もあった。
(イ) 昭和46年12月、中央研究所において、ビデオディスクの概念設計プロジェクト(57プロジェクト)が発足した。原告も、同プロジェクトに参加した。同プロジェクトでは、ビデオディスクの再生方式として、@機械方式(シート状の円盤に溝を作り、高速で回転させながら、それに針を接触させて画像信号を再生するという方式)とA光非接触時系列方式(円盤に光を当てて反射又は透過させて、その円盤に順次記録されている画像信号を順次読み込んで再生するという方式)とが検討され、後者が最も実現性が高いとの結論に至り、その実現化に当たって必要な課題が検討された。
(ウ) 昭和48年7月、中央研究所において、ビデオディスクの研究プロジェクト(51プロジェクト)が発足し、原告も参加した。予算は当時としては多額の約2500万円であった。同プロジェクトでは光非接触時系列方式とホログラフィ方式(画像信号を読み込むのではなく、ホログラムを円盤型又はテープ型の媒体に画像として記録し、それをレーザ光で連続的に再生していく方式)の実現可能性を検討するために記録再生装置と記録媒体の試作及び評価が行われた。原告は前者の研究を行ったが、新たに装置を特注して製作するなどして、研究を行った。 同研究の研究報告(乙25)では、「ホログラフィ方式は、光非接触時系列方式に続く次世代のビデオディスクシステムと目される。」とされている。
(エ) 昭和49年8月、中央研究所において、光ビデオディスクの研究プロジェクト(65プロジェクト)が発足し、原告も参加した。同プロジェクトでは、光非接触時系列方式とホログラフィ方式について研究が行われ、前者の方式については、@BCD素子による時間圧縮カラー方式技術の確立、Aウォブリングによるトラッキング技術の確立、B半導体レーザによる再生技術の確立が重点課題とされ、このうちBでは同研究所が開発したBH型等方発光半導体レーザを用いることとされていた。
 また、同年9月からは、中央研究所と被告の家電研究所とが共同で特別研究として「ビデオディスク開発目標の設定」が行われたが、同研究では光学方式(時系列方式)と機械方式の評価が対象とされていた。
(オ) 昭和50年10月、中央研究所において、半導体レーザピックアップ技術の開発プロジェクト(68プロジェクト)が発足し、原告も参加した。同プロジェクトでは、BH型等方発光半導体レーザを用いた光ビデオディスク用ピックアップの開発が課題とされ、研究が行われた。
 他方、昭和51年4月から7月まで、中央研究所の半導体レーザの研究開発グループによってCSP型半導体レーザが研究開発された。
(カ) 昭和51年9月21日、中央研究所において、光ビデオディスクの研究プロジェクト(60プロジェクト)が発足し、原告がプロジェクトリーダーに任命された。同プロジェクトでは、@オンライン記録再生可能光ビデオディスクシステムを開発すること、A半導体レーザピックアップによる再生を行うこと等を目的としていた。
(キ) 被告は、昭和52年5月に科学技術館において日立技術展を開催し、BH型等方発光半導体レーザを使用した光ビデオディスク装置を展示した。
(ク) 中央研究所は、同年9月20日、楕円発光CSP型半導体レーザピックアップを用いたPCM光オーディオディスクプレーヤを発表した。
(ケ) 同年12月5日、中央研究所第6部に60研究プロジェクト(光PCMディスクおよび応用技術の開発)が発足し、原告をユニットリーダーとして、PCMオーディオディスクプレーヤの開発を行うこととなり、昭和53年9月28日、より実用化に近い楕円発光CSP型半導体レーザを用いた同プレーヤを発表した。
イ 本件発明1がされた経過について
 中央研究所の半導体レーザの研究開発グループによって研究開発されたCSP型半導体レーザは、基板に溝を設け、電流をコントロールすることにより、横モードを制御する仕組みを持った半導体レーザであり、レーザ光が楕円であるという弱点があるものの、BH型半導体レーザの数倍の光強度を得られ横モード制御のために動作が安定しているという特性を持っていた。
 原告は、CSP型半導体レーザにおいて、楕円発光するレーザをそのまま絞り込むだけでは光スポットも楕円形になってしまうが、ディスクの再生に用いるためには、円形光スポットを形成しなければならないので、どのようにして円形光スポットを形成するかという技術的課題を得た。そして、原告は、上記ア(カ)の60プロジェクトにおける研究において、楕円発光半導体レーザにおいても、レンズ両端でのリム強度としては、楕円発光ビームの広がりの狭い方向のリム強度を大きく設定すれば、楕円発光ビームの広がりの広い方向のレンズ端でのリム強度も自動的にそれ以上になるので円形スポットを形成できるとの着想を得て、中央研究所に設置されていた大型コンピュータを使用して、必要な計算を行った。
 原告は、原告と同じ中央研究所第6部661ユニットに所属し、レーザプリンタの光学系を研究していたBに対し、CSP型半導体レーザを使った実験を依頼した。
 Bは、まず、CSP型半導体レーザの光スポットの形状や光強度について感触を得るために、同レーザ及び倍率10倍のカップリングレンズを使用して実験を行った。そして、同実験結果を踏まえて、楕円発光する半導体レーザの光束から円形スポットを得るために絞り込むべき最適の光領域を発見するために、レーザと絞り込みレンズの間に置くカップリングレンズの倍率を変える実験を行った。その結果、倍率4倍のカップリングレンズを使用すると、円形でかつ光強度も十分な光スポットを形成することができることが判明した。上記実験に用いられたCSP型半導体レーザの試作品を始めとする実験機器は、中央研究所にあったものが使用された。また、Bは、上記実験の過程で、実験結果を原告に報告し、実験結果に対する解釈などについて原告の意見を聞いていた。
 このようにして、遅くとも昭和52年8月下旬ころまでには、本件発明1が完成した。
 なお、原告は、昭和53年3月18日、Bら第6部661ユニットの研究員と共に「CSP型半導体レーザによる光ディスク再生光学系」との題名で研究報告(研究期間昭和52年8月から昭和53年2月まで)を行ったが、その中で本件発明1に係る特許がこの報告内容を特許化した出願特許として紹介されている。
ウ 本件発明2がされた経過について
 原告は、「目の運動と視覚情報処理」という論文(甲68)を読んで光スポットをウォブリング振動することによって高精度のトラッキングが可能になるのではないかとの着想を得、さらに、光スポットとは反対に、溝をウォブリングするという着想を得た。そして、中央研究所に設置されていた大型コンピュータを使用して、必要な計算を行い、これらが実現可能であることを確認した。原告は、その過程で、当時原告と同じ中央研究所第4部に属していたCから、同期整流回路について、やはり第4部に属していたDから、計算式の展開について、それぞれ教示を受けた。
 このようにして、原告は昭和47年11月ころ、「情報再生装置」の発明(甲69)を完成させ、さらに、昭和48年1月ころ、本件発明2を完成させた。
 これらの研究成果は、昭和48年6月に、原告外3名の連名で、「ホログラフィックな光情報処理機器に関する研究」(第15報)「高密度ディスクの非接触光トラッキング方式の提案とその理論的検討」としてまとめられた。
エ 本件発明3がされた経過について
 原告及びGらは、上記ア(ウ)の51プロジェクト終了後、中央研究所4部の225ユニットにおいて、上記プロジェクトで着想したものの、検証するまでには至らなかったウォブリング技術の検証を開始し、同研究所6部313ユニットのH(以下「H」という。)に依頼し、音響光学素子を用いた偏光器を使ってウォブリングの溝を持ったディスク作成の作業を行った。その際、原告はGに対し、トラックにアクセスするための方法を検討するように指示した。Gは、ウォブリング・トラックに使用する周波数をトラック毎に変えればトラックを識別できるとの着想を得て、原告らとともに、本件発明3を完成させた。  
(5) 本件発明1の権利化に至る経緯について
ア Bは、本件発明1の明細書を作成し、原告がその内容を確認した。Bと原告は、昭和52年9月13日に被告特許部に特許出願依頼書と譲渡証を提出し、同月16日、被告によって特許出願された。この際、特許願には、本件発明1の発明者は、B及び原告とされ、同記載の特許請求の範囲は下記のとおりであった。
 「縦、横比の異なる発光領域をもった半導体レーザ光源からの光をドット情報を記録している記録媒体上に絞り込むオブジェクティブレンズと、上記光源とオブジェクティブレンズとの間に存在して上記光源よりの光を集光するカップリングレンズとからなり、上記カップリングレンズの倍率が7倍以下であることを特徴とする光学系。」
イ 被告は、昭和58年5月23日、特許庁長官に対し、本件発明1に係る上記出願について審査請求をすると共に、手続補正書を提出し、上記特許請求の範囲を下記のとおりに補正した。
 「楕円形状のビームを放出する半導体レーザと、上記レーザからのビームを記録媒体上に収束するオブジェクティブレンズと、上記オブジェクティブレンズの全面に上記レーザからのビームを照射する上記レーザとオブジェクティブレンズとの間に配置されたカップリングレンズとからなり、上記ビームが、上記媒体上に円形状スポットとして収束されることを特徴とする光学系。」
 被告は、昭和58年11月29日に第1回見直し会議を開き、特許請求の範囲の案を検討した。昭和59年5月8日に第2回見直し会議を開き、第1回見直し会議で出された課題を確認する等した。
 特許庁審査官は、昭和59年8月21日、上記発明は特開昭51−144203号特許公報記載の発明に基づいて容易に発明できたとして拒絶理由通知を行った。
ウ Bは、上記拒絶理由通知を検討し、被告特許部のJ(以下「J」という。)に対し、@上記引用例に用いられているレーザの光の反射分布が等方的であり、発明の課題としてレーザパワーの不足を問題としていること、A本件発明1は楕円発光の半導体レーザを前提としており、光の一部をけってレーザパワーの利用効率を犠牲にしていることから、上記引用例とは基本的な考え方が異なる旨説明した。そして、BとJは、同年9月21日に審査官と面談し、上記引用例との相違点を説明した。
 被告は、同年9月28日、特許庁長官に対し上記通知に対する意見書及び手続補正書を提出し、上記特許請求の範囲を下記のとおり補正し、特許請求の範囲請求項1とした。
 「光源と、該光源からのビームを媒体上に収束する光学系とからなる光学的情報処理装置において、上記光源は、縦方向と横方向で発散角の異なる楕円形状のビームを放出する半導体レーザであり、上記光学系は、上記ビームの一部をけって円形状のビームにするレンズを有し、上記ビームが上記媒体上に円形状のスポットとして収束されることを特徴とする光学的情報処理装置。」
 これに対し、特許庁審査官は、同年12月25日、上記発明は、先願である特願昭51−157755号に記載された発明(出願人・萬世工業株式会社、以下「萬世特許」という。)と実質的に同一であるとの理由で拒絶理由通知を行った。この萬世特許の内容は、楕円発光の光について、発光束の光分布と逆の楕円の開口を設けることにより円形スポットを得るというものであった。
エ 被告は、昭和60年1月23日、第3回見直し会議を開き、本件発明1と萬世特許との円形スポットを得る動作原理の相違点を検討し、萬世特許では光量分布の差の大きな部分の光を用い、この分布差の影響をビーム幅を変えることにより補正して円形スポットを得るのに対し、本件発明1では光量分布差の小さい中心部分を用い、円形開口により分布差の影響なく円形スポットを得ているとの結論に至り、その動作原理を反映した特許請求の範囲とすることとしたが、他社の製品にリム強度が50パーセントに満たないものがあったため、「半値幅以内」という限定はしないこととした。そして、Bは、光量分布の差によるスポット径に対する影響を定量的に把握するためのシュミレーションを実施した。
 被告は、昭和60年2月1日、特許庁長官に対し、上記シュミレーション結果を整理して参考図として添付した上記通知に対する意見書及び手続補正書を提出し、上記特許請求の範囲請求項1を下記のとおり補正した。
 「光源と、該光源からのビームを媒体上に収束する光学系とからなる光学的情報処理装置において、上記光源は、縦方向と横方向で発散角の異なる楕円形状のビームを放出する半導体レーザであり、上記光学系は、上記ビームの一部をけってほぼ円形状の光分布を有するビームにするレンズを有し、上記ビームが上記媒体上に円形状のスポットとして収束されることを特徴とする光学的情報処理装置。」
 被告は、同年5月14日、第4回見直し会議を開き、@光量分布の差によるスポット径に対する影響を定量的に把握すること、A半値幅に限定せず「ほぼ円形状の光分布を有するビーム」という機能的表現で権利化するよう努力すること、B萬世特許と本件発明1との相違につき、レンズの大きさ、再生機能の点からつめることを確認した。
オ 特許庁審査官は、昭和61年6月24日、上記発明における光分布は萬世特許と同様に方向によって異なるものと認められ、かつこの光分布の異方性をどの程度に設定するかは、設計上の事項である旨の理由で拒絶査定をした。
 これに対し、被告は、特許庁長官に対し、同年7月23日、拒絶査定不服審判請求をした。また、被告では上記拒絶査定を検討し、同月25日、BとJが特許庁審査官と面談した。
カ 被告は、同年8月22日、特許庁長官に対し、手続補正書を提出し、本件発明1の特許請求の範囲請求項1のとおり「半値幅以内」という限定をする補正をしたところ、特許庁審査官は、同年10月30日、出願公告の決定をし、昭和62年3月12日に公告された。
キ これに対し、オリンパスは、昭和62年5月11日に、キヤノン株式会社(以下「キヤノン」という。)のL及び小西六写真工業株式会社は同月12日に、それぞれ特許異議の申立てをした。そこで、同年9月30日、原告もB、J等と共に出席して第5回見直し会議を開き、上記各申立ての引用例を検討し、原告が進歩性を証明するための理論的な解析作業を行った他、Bが本件発明1とこれらの引用例との相違点を明確にするためのシュミレーションを行い、それらの結果を踏まえて、被告は、昭和63年1月13日、特許庁に対し答弁書を提出した。
 特許庁審判官は、平成元年9月28日、上記各申立てにはいずれも理由がない旨の決定をし、同日、上記拒絶査定を取り消し、本願の発明は特許をすべきものとする旨の決定をし、本件発明1は、平成2年2月28日に設定登録された。設定登録後、無効審判請求はされていない。
 なお、原告は、平成元年7月10日、被告の特許部に対し上記異議申立人であるオリンパス及びキヤノンに対して無償実施権を与えるように申し出ていた。
ク 被告における本件発明1の権利化に至る過程は、他の案件に比べて、多くの労力を要するものであった。 
(6) 本件発明2、3の権利化に至る経緯について
 本件発明2の明細書は原告が作成し、昭和48年2月2日に出願された。本件発明2の発明者は、原告、C、D、E、Fの5名とされている。
 本件発明3の明細書はGが作成し、昭和50年2月5日に出願された。本件発明3の発明者は、原告、G、Hの3名とされている。
 その後の特許出願に関する手続は、被告が行った。
(7) 本件発明1の事業化の経緯について
ア 被告は、昭和56年1月、「PCMオーディオディスクプレーヤの開発」と題する特別研究プロジェクトを発足させ、原告は同プロジェクトの副主任研究者に任命された。そして、昭和57年10月、同プロジェクトが開発したコンパクトディスクプレーヤDAD1000の発売が開始された。また、原告はその後もCDプレーヤの研究開発に携わった。
イ 本件発明1のライセンス契約締結の経緯について
 被告は、昭和58年10月に、フィリップスとの間で、本件発明1を含む被告の特許をライセンスし、実施料を受け取る旨のライセンス契約を締結した。このライセンス契約締結に当たっては、原告も、フィリップス社に赴くなど、交渉に関わった。原告は、同年12月に、上記(1)イの戦略特許賞金賞を受賞したが、上記フィリップスとのライセンス契約の締結が一つの理由となっていた。
 被告は、平成2年8月、事業部、工場、中央研究所及び知的所有権本部の関係者によって組織されるCD特許活用プロジェクトを発足させた。このプロジェクトでは、CDの基本的な特許、製品全体に関わるシステム特許、主要部品であるピックアップに関わる特許を対象としていた。同プロジェクトには原告も参加した。
 原告は、本件発明1についての侵害立証を行うために光スポットの強度分布を測定するための評価装置を試作し、それによって、本件発明1がソニー、松下電器、三洋電機等のメーカのピックアップに実施されているとの調査結果が得られた。この装置は、光ピックアップユニットに内蔵された半導体レーザを実際に発光させ、集光レンズの瞳面での光強度分布を、リレーレンズを介してCCD(チャージカップルデバイス)受光素子面上に結像するというもので、この方法によれば、光ピックアップユニットを分解せずに、CCD受光面上の光強度分布を測定するだけで、集光レンズ面でのリム強度が50%以上か否かの判定を可能にするものであった。
 しかし、本件発明1について、ヤマハ、フナイ、ケンウッド、三洋電機は、製品規格上は「半値幅以内ではない」等の理由で、その製品には本件発明1を使用していないと回答し、ライセンス交渉が行われた。そして、被告は、ヤマハ、フナイ、ケンウッド、ナカミチ外の会社との間でライセンス契約を締結し、本件発明1を含む特許発明について実施料を得た。
 被告フィリップスは、昭和63年から、包括的クロスライセンス契約に移行した。
ウ ソニーとの包括的クロスライセンス契約締結の経緯について
(ア) 被告は、昭和52年1月1日、ソニーとの間で包括的クロスライセンス契約を締結した。同契約では、@対象となる特許出願を本件契約締結日以前及びその後5年間の出願日を有する全世界の特許及び実用新案とすること、A対象製品をVTR及びその他のビデオ機器、オーディオテープレコーダーその他のオーディオ機器、半導体等とすること、B被告がソニーに対し1000万円を支払うこと及びソニーの特許を実施しているVTRの工場出荷価格の0.4%に相当する実施料を支払うことが規定されていた。同契約締結当時、ソニーはベータ方式の家庭用ビデオデッキの販売を行っていたが、他方で多数のVHS関連特許を保有し、VHS方式のビデオデッキを製造販売することを決定した被告に対し、上記特許権の権利行使を検討していた。これに対し、被告は当時多数の半導体関連特許を保有していた。このような状況の下で、上記ライセンス契約は締結されたものである。なお、同契約締結の際、個別の特許についての議論も特許リストの交換も行われなかった。
(イ) 被告は、昭和63年1月1日、ソニーとの間で上記包括的クロスライセンス契約を更新した。同契約では、@上記実施料率が0.4%から0.2%に変更され、A対象製品に「光学的/磁気的記録再生機器関連特許」が追加された。このうち、@のとおり実施料率が変更されたのは、被告の半導体関連特許のポジションが高まったこと、VTR関連特許の被告のポジションが相対的に上昇したこと、被告がソニーに対してVHS方式に関連して技術援助をしたことによるものである。なお、同契約更新の際も、(ア)と同様、個別の特許についての議論も特許リストの交換も行われなかった。
(ウ) 上記包括的クロスライセンス契約は平成9年3月19日に更新された。
エ 松下電器との包括的クロスライセンス契約締結の経緯について
 被告は、平成12年1月1日、松下電器との間で光製品全般について包括的クロスライセンス契約を締結した。
オ この他、被告は、平成6年にオリンパスとの間で光ピックアップ装置等を対象として包括的クロスライセンス契約を締結し、本件各発明も対象とされている。
(8) 本件発明2、3の事業化について
ア 被告は、太陽誘電との間で、平成3年7月1日、本件発明2、3に係る日本国特許及び外国特許と太陽誘電の有する欧州特許出願4件並びにこれらに対応する日本及び外国の特許出願とにつき、無償のクロスライセンス契約を締結した。そして、被告は、同年8月30日、ライセンスを受けた上記各特許出願を光ディスクを製造、販売している日立マクセルに対してライセンスし、230万円を受領した。
イ 被告は、平成8年から平成9年にかけて本件発明2の米国特許について、TDK株式会社、三菱化学株式会社、三井東圧化学株式会社、パイオニア株式会社、株式会社リコー等とライセンス交渉を行ったが、いずれも権利侵害を認めず、ライセンス契約締結には至らなかった。
(9) 原告が受領した給与等について
 原告は、昭和44年から平成8年まで被告に在籍していたが、被告が原告に支給した給与、賞与等は、約2億4333万円、退職一時金は、約3066万円であり、その他、原告は、厚生年金基金から今後20年間に合計4193万円を受給することが見込まれている。
2 原告から被告に対する本件各発明の移転原因について
 証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によると、原告は、被告との個別の譲渡契約により、本件各発明についての日本国及び外国における特許を受ける権利の原告の持分を被告に譲渡したこと、その時期は、本件発明1については、昭和52年9月13日、本件発明2については、昭和48年1月20日、本件発明3については、昭和49年12月26日であること、以上の事実が認められる(以下、これらの契約を「本件譲渡契約」という。)。
 原告は、契約によって譲渡していないと主張し、甲190には、それに沿う記載があるが、原告は、譲渡証(乙1)に署名押印しているのであるから、被告との間で譲渡契約が締結されたことは明らかである。
3 争点(3)について
 まず、外国特許権に関する請求について判断する。
(1) 各国の特許権が、その成立、移転、効力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められるという、いわゆる属地主義の原則(最高裁判所平成9年7月1日第三小法廷判決・民集51巻6号2299頁参照)に照らすと、我が国の職務発明に当たるような事案について、外国における特許を受ける権利が、使用者、従業員のいずれに帰属するか、帰属しない者に実施権等何らかの権利が認められるか否か、使用者と従業員の間における特許を受ける権利の譲渡は認められるか、認められるとして、どのような要件の下で認められるか、対価の支払義務があるか等については、それぞれの国の特許法を準拠法として定められるべきものであるということができる。
 そうすると、特許法35条は、我が国の特許を受ける権利にのみ適用され、外国における特許を受ける権利に適用又は類推適用されることはないというべきである。
 したがって、本件請求のうち、外国における特許を受ける権利についての特許法35条3項に基づく対価の請求は理由がない。
(2) 本件譲渡契約は、日本において、日本人である原告と日本法人である被告との間で締結されたのであるから、法例7条1項又は2項により、本件譲渡契約のうち、外国における特許を受ける権利の譲渡契約の成立及び効力の準拠法は、日本法であると認められる。しかし、特許法35条が外国における特許を受ける権利に適用されるものではないことは前示のとおりであって、譲渡契約の成立及び効力の準拠法によって定められるものではない。
 原告は、職務発明に係る外国特許を受ける権利が企業に移転された場合、企業と従業員との間では、物や権利の売買につき明示の合意はされたものの、売買代金につき明示の合意がなかった場合に準じて処理されるべきであるから、裁判所において相当額を確定すべきであると主張する。確かに、有償の譲渡契約がされた場合に、相当額(時価)で譲渡するとの合意が認められる場合には、裁判所において、相当額を確定して、その支払を命じるということがあり得るが、本件譲渡契約がされた当時、原告と被告との間で、相当額(時価)で譲渡するとの合意がされたものと認めるに足りる証拠はなく、そうである以上、原告の上記主張を採用することはできない。
 また、原告は、企業が従業員から不当な対価で職務発明に係る外国特許を受ける権利を譲り受けたときは、公序良俗に違反し権利移転は無効となると主張するが、外国における特許を受ける権利については、上記(1)のとおり、当該国の特許法によって規律されるのであるから、譲渡契約で相当額で譲渡するとの合意がされなかったとしても、直ちに、その契約が公序良俗に反して無効となることはないものというべきである。そして、他に、本件譲渡契約が公序良俗に反して無効であるというべき事情は認められない。
(3) 以上のとおり、本件請求のうち、外国特許権に関する請求は理由がない。
4 争点(1)及び(2)について
(1) 原告の主位的主張等について
ア 原告は、特許法35条4項の「相当の対価」は特許を受ける権利の売買代金であり、それは等価交換の原則から客観的な市場価値を指し、そのように解しなければ憲法14条1項に反するものと主張し、証拠(甲249)にも同旨の意見が存する。
 しかし、特許法35条1項によると、従業者の職務発明について使用者は無償の通常実施権を取得するのであるから、特許を受ける権利の譲渡によって得られる利益は、発明を排他的に独占することによって得られる利益である。また、従業者の職務発明について使用者が無償の通常実施権を取得するのは、使用者が、その発明について、貢献することがあるためであるが、その貢献にもいろいろな程度のものがあるから、無償の通常実施権とは必ずしも対価関係に立つものではなく、無償の通常実施権の取得を上回る貢献があり得るのであり、このような貢献による価値は使用者に帰属すべきものである。したがって、使用者が従業員から特許を受ける権利の譲渡を受けた場合の「相当の対価」の額は、発明を排他的に独占することによって得られる利益に、上記の使用者の発明に対する貢献を考慮した額となるというべきであり、特許法35条4項が、同条3項の対価の額は、発明により使用者が受けるべき利益の額及びその発明がされるについて使用者が貢献した程度を考慮して定めなければならないと規定しているのは、このような趣旨によるものであると解される。そうすると、使用者が従業員から特許を受ける権利の譲渡を受けた場合の「相当の対価」の額が客観的な市場価値と異なることは明らかであって、このように解しても憲法14条1項に反するものではない。
イ 原告は、「相当の対価」の算定に当たって使用者の貢献を考慮すべきではなく、仮に考慮するとしても、無償の通常実施権の経済的価値を超える場合に限られるものと主張する。
 しかし、上記アで述べたとおり、「相当の対価」の算定に当たって使用者の貢献を考慮すべきでないということはできない。また、考慮するとしても、通常実施権の経済的価値を超える場合に限られるという主張は、特許を受ける権利の譲渡によって得られる利益は、発明を排他的に独占することによって得られる利益であると解した場合には、既に無償の通常実施権を有することを考慮しているのであるから、使用者の貢献を考慮するに当たっては、そのことを考えなければならないという限度では正当であるが、そうであるとしても、上記アで述べたとおり、使用者の貢献を考慮することができないということにはならないのであり、使用者が無償の通常実施権を有することを考慮していることを前提として使用者の貢献を考慮すれば足りるということができる。
ウ 原告は、本件発明1について、光ディスク再生専用装置の生産額に実施料率を乗じて、「相当の対価」の額を算定しているが、光ディスク再生専用装置のすべてに本件発明1が実施されているかどうかは明らかでない。確かに、前記1(1)ア認定のとおり、被告が作成した「平成3年度地方発明表彰調査表」には、昭和57年以降、被告、ソニー、松下電器、ビクター、パイオニア、東芝、三菱、シャープ、マランツ、フィリップス、トムソンが本件発明1を実施しており、CDプレーヤにおける市場占有率は100%である旨の記載があるが、これは、表彰申請の資料として被告が作成したもので、他社が実施を認めているかどうかは明らかではない(上記調査表と同時期に作成された甲8、11、12、82、201、甲210の1、甲215、222にも、上記各社等の実施について同趣旨の記載があるが、いずれも被告の内部資料であり、これらの各社が認めているかどうかは明らかではない。)上、前記1(5)エ及び(7)イ認定のとおり、被告の調査によっても、侵害していないものがあり、ライセンス交渉においては、その実施を否定して争われる場合も少なからず見られたのであるから、光ディスク再生専用装置のすべてに本件発明1が実施されているとまで認めることはできない(これに反する甲196、197、213、240の各記載は信用できない。)。また、仮に、本件発明1の実施品の生産額が原告が主張するとおりであるとしても、被告は、そのすべてから、原告が適正実施料率と主張する率を乗じた額の実施料を得られるとは限らないというべきである。後記認定のとおり、他社において、本件各発明を実施しているとしても、いろいろな事情により、同社から実施料を取れない場合があるし、包括的クロスライセンスなどという形態でライセンスし、被告は必ずしも実施料相当額の利益を得ていない場合もあるからである。したがって、原告が主張するような方法では、本件発明1について「使用者が受けるべき利益の額」を算定することができないから、「相当の対価」の額を算定することはできない。
 原告は、本件発明2、3について、記録・再生型光ディスク媒体の生産額に実施料率を乗じて、「相当の対価」の額を算定しているが、記録・再生型光ディスク媒体のすべてに本件発明2、3が実施されているかどうかは明らかでない。かえって、前記1(8)認定のとおり、被告は、平成8年から平成9年にかけて本件発明2の米国特許について、他社とライセンス交渉を行ったが、いずれも権利侵害を認めず、ライセンス契約締結には至らなかったといった事実もある。したがって、記録・再生型光ディスク媒体のすべてに本件発明2、3が実施されているものとして、「相当の対価」の額を算定することはできない。また、仮に、本件発明2、3の実施品の生産額が原告が主張するとおりであるとしても、上述のとおり、被告は、そのすべてから、原告が適正実施料率と主張する率を乗じた額の実施料を得られるとは限らないというべきである。したがって、原告が主張するような方法では、本件発明2、3について「使用者が受けるべき利益の額」を算定することができないから、「相当の対価」の額を算定することはできない。
エ 原告が予備的に主張する、個々のライセンス契約に基づいて被告が得た利益の額を算定し、それを基礎に「相当の対価」の額を算定する方法については、個々のライセンス契約に基づいて被告が得た利益の額は、使用者が発明の実施を排他的に独占することによって得た利益の額であるということができるから、合理的な算定方法である。
 なお、複数の特許発明がライセンスの対象となっている場合には、「使用者が受けるべき利益の額」の算定に当たっては、本件各発明がライセンス契約締結に当たって寄与した度合を考慮すべきであり、本件発明1に係る日本国特許については、前記1で認定した事実のうち、CD関連製品に実施され、他社とライセンス契約を締結し実施料収入を得ていること、代替技術が存在するものの、簡便かつ安価な光ピックアップを実現可能にした発明であること、特許権の設定登録後、無効審判請求がされておらず、無効理由があるとは認められないことを上記算定に当たって考慮すべきである。
 そこで、原告の予備的主張について判断する。
(2) 本件発明1のライセンス契約とそれにより被告が得た利益の額について
ア フィリップス
 前記第2の1(5)ア(ア)の事実に、前記1で認定した事実並びに証拠(甲33、甲210の1、乙97)及び弁論の全趣旨を総合すると、被告は、昭和58年10月に、フィリップスに対し、ライセンス契約により本件発明1に係る日本国特許を含む特許(外国特許を含む)をライセンスしたこと、被告がライセンスした特許のうち主な特許は5件あったが、5件のうち回避不可と評価されたのは本件発明1を含む2件であったこと、被告は、上記ライセンス契約について、被告規定に従った本件発明1の寄与率を昭和58年度は22%、昭和61年度と昭和63年度は40%と算定していること、上記被告規定に従った寄与率には外国特許の分も含まれているものと考えられること、以上の事実が認められ、これらの事実に上記(1)エで述べた事情を総合すると、上記本件発明1に係る日本国特許の寄与率は30%とみるのが相当である。そこで、前記第2の1(5)ア(ア)で認定した実施料収入(合計2億4700万円)に基づき、本件発明1に係る日本国特許について「被告の受けるべき利益」を算定すると、下記のとおり7410万円となる。
 2億4700万円×0.3=7410万円
イ ヤマハ
 前記第2の1(5)ア(イ)の事実に、前記1で認定した事実並びに証拠(甲11、221、225、227、乙97)及び弁論の全趣旨を総合すると、被告はヤマハと、平成6年4月にライセンス契約を締結し、本件発明1に係る日本国特許を含む特許(外国特許を含む。)を過去分も含めてライセンスしたこと、被告は、ヤマハに対し、本件発明1に係る日本国特許を含む9件の発明に係る特許(外国特許を含む。)を提示したが、そのうち、本件発明1は、他の4件とともに「有効に作用した」と評価されているのに対し、「極めて有効に作用した」と評価されているものが2件存すること、上記9件のうち、「自動焦点合わせ方式」の日本国特許については、平成5年10月11日に期間満了で消滅したこと(対応米国特許については、平成10年まで存続する。)、ヤマハは、ライセンス交渉において本件発明1の実施を否定していたこと、被告は、上記ライセンス契約について、被告規定に従った本件発明1の寄与率を15%と算定していること、上記被告規定に従った寄与率には外国特許の分も含まれているものと考えられること、以上の事実が認められ、これらの事実に上記(1)エで述べた事情を総合すると、本件発明1に係る日本国特許の寄与率は10%とみるのが相当である(なお、被告の平成6年6月7日現在の「第2次CD特許活用PJ有効特許リスト(2)」(甲267)には、上記9件のうち、「情報再生装置」の特許については、相手方からの異議申立てに対して「負」と記載されており、この相手方について、原告は、ヤマハ、フナイ、ケンウッドであると主張するが、この主張は、甲227の記載に照らすと、採用できず、他に、この相手方が誰であるかを認めるに足りる証拠はない。)。そこで、前記第2の1(5)ア(イ)で認定した平成6年度から平成8年度までの実施料収入(合計2億2580万円)に基づき、本件発明1に係る日本国特許について、「被告の受けるべき利益」を算定すると、下記のとおり2258万円となる(原告は平成9年度以降の支払分については「相当の対価」の基礎として主張していない。以下、ウないしオも同様である。)。
 2億2580万円×0.1=2258万円
 なお、製品鑑定結果(甲11)によると、ヤマハが使用している光ピックアップは ソニーの製品であり、被告とソニーとの間では前記1で認定したとおり包括的クロスライセンス契約が締結され、上記証拠にも「SONY製につき権利行使不可。」との記載があるが、上記認定のとおり、本件発明1がライセンス契約の対象とされ被告が実施料を得ている以上、「使用者の受けるべき利益」は存するものというべきであり、上記証拠をもって上記認定が左右されることはない。
 また、証拠(甲227)によると、被告とヤマハとの上記ライセンス契約は、記録媒体に記録された情報を光学的に再生する装置に関する双方の会社が有する特許が対象となっているものと認められるが、被告が、上記実施料のほかに、ヤマハが有する特許についてライセンスを受けたことによって特段利益を得たというべき事情も認められないから、このことは、考慮しないものとする(以下、ウ、エも同様である。)。
ウ フナイ
 前記第2の1(5)ア(ウ)の事実に、前記1で認定した事実並びに証拠(甲11、227、乙97)及び弁論の全趣旨を総合すると、被告は、フナイと、平成6年9月にライセンス契約を締結し、本件発明1に係る日本国特許を含む特許(外国特許を含む。)を過去分も含めてライセンスしたこと、被告は、フナイに対し、本件発明1に係る日本国特許を含む9件の発明に係る特許(外国特許を含む。)を提示したが、そのうち、本件発明1は他の4件とともに「有効に作用した」と評価されているのに対し、「極めて有効に作用した」と評価されているものが2件存すること、フナイは、ライセンス交渉において本件発明1の実施を否定していたこと、被告は、上記ライセンス契約について、被告規定に従った本件発明1の寄与率を10%と算定していること、上記被告規定に従った寄与率には外国特許の分も含まれているものと考えられること、以上の事実が認められ、これらの事実に上記(1)エで述べた事情を総合すると、本件発明1に係る日本国特許の寄与率は10%とみるのが相当である。そこで、前記第2の1(5)ア(ウ)で認定した平成6年度から平成8年度までの実施料収入(合計1億7330万円)に基づき、「被告の受けるべき利益」を算定すると、下記のとおり1733万円となる。
 1億7330万円×0.1=1733万円
エ ケンウッド
 前記第2の1(5)ア(エ)の事実に、前記1で認定した事実並びに証拠(甲11、227、乙97)及び弁論の全趣旨を総合すると、被告はケンウッドと、平成6年9月にライセンス契約を締結し、本件発明1に係る日本国特許を含む特許(外国特許を含む。)を過去分も含めてライセンスしたこと、被告は、ケンウッドに対し、本件発明1に係る日本国特許を含む9件の発明に係る特許(外国特許を含む。)を提示したが、そのうち、本件発明1は「多少の問題あり」と評価されていること、「極めて有効に作用した」と評価されているものが2件、「有効に作用した」と評価されているものが1件存すること、ケンウッドは、ライセンス交渉において本件発明1の実施を否定していたこと、被告は、上記ライセンス契約について、被告規定に従った本件発明1の寄与率を10%と算定していること、上記被告規定に従った寄与率には外国特許の分も含まれているものと考えられること、以上の事実が認められ、これらの事実に上記(1)エで述べた事情及び上記イで認定した事実を総合すると、本件発明1に係る日本国特許の寄与率は5%とみるのが相当である。そこで、前記第2の1(5)ア(エ)で認定した平成6年度から平成8年度までの実施料収入(11億8300万円)に基づき、「被告の受けるべき利益」を算定すると、下記のとおり5915万円となる。
 11億8300万円×0.05=5915万円
オ ナカミチ
 前記第2の1(5)ア(オ)の事実に、上記1で認定した事実並びに証拠(乙97)及び弁論の全趣旨を総合すると、原告はナカミチと、ライセンス契約を締結し、本件発明1に係る日本国特許を含む特許をライセンスしたこと、被告は、上記ライセンス契約について、被告規定に従った本件発明1の寄与率を15%と算定していること、上記被告規定に従った寄与率には外国特許の分も含まれているものと考えられること、以上の事実が認められ、これらの事実に、上記(1)エで述べた事情を総合すると、本件発明1に係る日本国特許の寄与率は10%とみるのが相当である。そこで、前記第2の1(5)ア(オ)で認定した平成8年度の実施料収入(6430万円)に基づき、「被告の受けるべき利益」を算定すると、下記のとおり643万円となる。
 6430万円×0.1=643万円
(3) 本件発明1の包括的クロスライセンス契約とそれにより被告の得た利益の額について
ア 包括的クロスライセンス契約における「使用者が受けるべき利益」の算定
 包括的クロスライセンス契約とは、当事者双方が多数の特許権を相互にライセンスする契約であるが、この場合に一方当事者が自己の特許権を相手方にライセンスしたことによって得るべき利益は、相手方の特許権を実施できること、すなわち、それによって相手方に支払うべき実施料の支払を免れたことにあると解される。そして、証拠(乙74、75、証人K)によると、包括的クロスライセンス契約を締結するに際して、互いに特許権を実施することによって受ける利益を厳密に比較して締結するとは限らないし、契約締結後にライセンスを受けた特許をどのように実施するかは、経営判断の問題であり、両者において同程度の実施となる保証はないものと認められるから、相手方に対して支払を免れた実施料の額が、相手方が支払を免れた実施料の額と一致するとは限らない。したがって、相手方が支払を免れた実施料の額をもって直ちにクロスライセンス契約による利益の額ということはできない。もっとも、包括的クロスライセンス契約が合理的な経営判断に基づいて締結される以上、両者の利益の均衡ということも、無視できないものと考えられるから、相手方が支払を免れた実施料の額は、包括的クロスライセンス契約によって受けた利益の額を算定するに当たって、1つの資料にはなるものというべきである。
 証拠(甲10)によると、被告の「発明考案に関する補償基準」改定案には、クロスライセンスの取扱いとして「相手方の実施状況が判明しているか、または推定できるときはこれを基にして受け取るはずであった実施料を算定し『みなし実施料』とする。」との記載があるが、これは、被告において検討されていた案に過ぎず、別紙2のとおり、被告規定によると、包括的クロスライセンス契約の場合には、相手方に対して支払を免れた実施料の額を基準に補償金額を算定するものとされているのであるから、上記認定を左右するものではない。
 また、包括的クロスライセンスにおいては、多数の特許権が相互にライセンスされるので、それらのうち、どの権利が契約に寄与したかを考慮する必要があり、それは、各特許権の価値や契約締結の経過等諸般の事情を考慮して決するべきものと解される。
イ ソニーとの包括的クロスライセンス契約について
(ア) 証拠(乙37、69、証人K)によると、昭和52年に締結された被告とソニーとの包括クロスライセンス契約の対象製品である「その他のオーディオ機器」には、CDプレーヤのような本件発明1が実施される製品が含まれること、したがって、本件発明1は、昭和52年に締結された被告とソニーとの包括的クロスライセンス契約の対象に含まれていたこと、以上の事実が認められる。そして、上記1で認定した事実及び証拠(甲48、57、181、190、乙37、64、乙67の1ないし5、乙69、74、証人K)によると、被告とソニーとの包括的クロスライセンス契約の昭和52年の締結及び昭和63年の更新の際に、個別の特許についての議論も特許リストの交換も行われなかったこと、同契約締結及び更新時に、本件発明1が特に取り上げられたというようなことはないこと、同契約更新ではVTR関連で被告がソニーに支払う実施料が0.4%から0.2%に減少したが、それは、本件発明1とは別の理由によること、同契約更新時にソニーからの要請で「光学的/磁気的記録再生機器」が契約の対象に加えられたが、それはデータ用途の光学磁気記録再生機器を指し、本件発明1に関するものではないこと、同契約更新時に被告が事前に準備した主要特許リストでは、半導体関係特許50件、CD及びVDP光学関係特許60件、DAT関係特許12件、TV関係特許12件、CD及びVDP関係特許94件とされていること、このうち戦略特許金賞を受賞したのは本件発明1を含めて6件であること、ソニーの光ピックアップユニットには被告の特許を含む多数の特許が実施されていること、以上の事実が認められる。甲190及び原告本人尋問の結果中、以上の認定に反する部分は、採用できない。
(イ) また、原告は、昭和59年から平成9年までの間におけるソニーの光ピックアップの売上高は1兆2176億円であると主張するが、これを直接裏付ける証拠はない。他方、被告は、売上高は、原告の主張する8分の1程度で、そのうち約9割が海外での製造分であると主張しており、この被告の主張に従うと、ソニーの光ピックアップの売上高は約1522億円、国内製造分は約152億円となる。
(ウ) 以上の事実に、上記(2)認定のとおり他社とのライセンス契約においても、本件発明1に係る特許は、必ずしも他の特許に比べて有効であったとはいえないことを総合すると、ソニーとの包括的クロスライセンス契約における本件発明1の寄与度が高いということはできないが、他方、本件発明1は、上記(1)エ認定のとおり価値を有するものであるから、一定の貢献はあったものと認められる。そして、これらの事実に、その他本件に現れた諸事情を考慮すると、本件発明1に係る日本国特許についてソニーとの包括的クロスライセンス契約により被告が受けるべき利益額は3000万円と認めるのが相当である。
ウ 松下電器との包括的クロスライセンス契約について
(ア) 前記1で認定したとおり、被告は松下電器との包括的クロスライセンス契約を締結したが、同契約締結時には本件発明1に係る日本国特許は権利期間満了により失効していたから、同契約に対する寄与は認められない。
(イ) 原告は、昭和59年ないし平成9年にかけて、松下電器の本件発明1に係る特許を実施した光ピックアップの販売高に実施料率を乗じて、補償額を算定しているが、証拠(証人K)及び弁論の全趣旨によると、被告は、松下電器との間で、この期間には、ライセンス契約を締結していないし、実施料を得ていないこと、これは、被告が、当時、松下電器その他数社とDVD−ROMの規格に関して協力体制にあり、特許の活用及び製品化に向けてのプロジェクトを推進していたことから、松下電器に対する権利行使は事実上困難であったためであること、以上の事実が認められる。このように、被告が、本件発明1に係る日本国特許は権利期間内に、松下電器から実施料収入を得ていない以上、この点に関して「被告の受けるべき利益」が存したとは認められない。
エ フィリップスとの包括的クロスライセンス契約について
 前記第2の1(5)ア(ア)認定のとおり、被告はフィリップスとの間で、昭和63年からは、それまでの上記(2)ア認定のライセンス契約から包括的クロスライセンス契約に移行しているが、弁論の全趣旨によると、フィリップスとの昭和58年のライセンス契約は約8年間の実施の対価としての実施料が合計約1億円、昭和61年のライセンス契約も約6年間の実施の対価としての実施料が合計約1億円であること、以上の事実が認められ、これらの事実に、前記第2の1(5)ア(ア)認定のとおり、同包括的クロスライセンス契約について、本件発明1は、被告の規定において、クラス2「契約締結に所定の有効性を呈したもの」と評価されたこと、上記(2)ア認定のライセンス契約における本件発明1に係る日本国特許の寄与率は30パーセントと認められること、その他本件に現れた諸事情を考慮すると、本件発明1に係る日本国特許についてフィリップスとの包括的クロスライセンス契約により被告の受けるべき利益額は4000万円と認めるのが相当である。
オ 合計
 上記(2)のアないしオ並びに上記イ及びエにより、本件発明1に係る日本国特許について被告の受けるべき利益額は、合計2億4959万円となる。
(4) 本件発明1がされるについて被告が貢献した程度について
ア 被告が貢献した程度について
(ア) 前記1で認定した事実によると、原告は、被告への入社当時から光学の専門家として同分野での発明研究を期待され、被告に入社後中央研究所の研究員として光ディスク分野の技術を研究していた者であって、発明の完成に当たり中央研究所の他の研究員らの協力を求めたり、中央研究所の施設を利用できる立場にあったこと、中央研究所においては、光学方式(時系列方式)の光ディスクの研究が以前から行われており、本件発明1も、その流れの中に位置づけられること(原告は、ホログラフィ方式等他の方式の研究が行われていたことを強調するが、前記1認定の事実によると、ホログラフィ方式等の研究が中心で、原告が光学方式を自主的に研究していたというようなことは認められない。)、中央研究所においてCSP型半導体レーザが開発されたことによって、本件発明1の課題が与えられ、実験もこれを用いて行われたのであるから、本件発明1に対するCSP型半導体レーザの開発の貢献を看過できないこと、原告は本件発明1に必要な計算を被告の大型コンピュータを使用して行い、実験をBに中央研究所の実験機器を用いて行わせ、本件発明を完成させたこと、本件発明1に係る日本国特許の出願手続は、すべて被告において行い、BやJが審査官と面談したり、拒絶理由通知や拒絶査定や特許異議に対して補正を行ったり、意見書を提出したりして、多くの労力を使い、特許請求の範囲を「半値幅」と限定して、ようやく登録されたこと、被告が、CD活用プロジェクトを発足させ、他社の製品を調査し交渉するなどした結果、多数の会社との間でライセンス契約を締結するに至ったこと、以上のとおり認められる。しかし、他方、前記1で認定した事実によると、本件発明1は、原告の着想によるところが大きいものということができ、実験についてもBを指導して行わせたといえること、原告は、事業化の過程においても、CD活用プロジェクトに参加し、侵害立証のための装置を作り、フィリップスとのライセンス交渉に参加する等していることが認められる。これらの事実からすると、本件発明1に係る日本国特許については、被告の貢献が相当に大きいものということができ、被告の貢献度は全体の80%と認めるのが相当である。
(イ) なお、原告は、原告がアイパターンを作成したことによって本件発明1の権利化が実現した旨の主張をするが、本件発明1の権利化に際して原告がアイパターンを作成したことを認めるに足りる証拠がないから、原告の上記主張は採用できない。
 また、原告は、被告の事業化についての貢献は考慮すべきでないと主張するが、既に述べたとおり、予備的請求においては、ライセンス契約における実施料を基礎として相当の対価の額を算定しているのであるから、被告の事業化についての貢献は、相当の対価の額の算定に当たって考慮することができるというべきである。
イ 共同発明者の寄与度について
(ア) 前記1認定の事実からすると、本件発明1の着想である楕円発光の半導体レーザを対物レンズで絞れば円形スポットを得られることは原告の思考によって得られたものであるが、他方、円形スポットを得るための実験が必要であり、その実験をBが行ったこと、Bは実際にCSP型半導体レーザを使用して対物レンズの組合せによる実験を繰り返してデータの収集を行ったこと、Bは、本件発明1の権利化の過程で、資料を作成したり、審査官と面接するなど貢献したこと、以上のとおり認められる。また、「東京都発明研究功労表彰候補者調査表」(甲27)には共同発明者間の貢献度として原告70%、B30%の記述があるところ、原告を同表彰の候補者として推薦することについては、Bも承諾している(甲238)。これらの事実からすると、共同発明者であるBの貢献度は30%と認めるのが相当である。
(イ) 原告は、Bが本件発明1の動作原理説明が不正確であるとか光学技術にも未熟である等と主張し、原告提出の陳述書(甲229、230、240、241、242)にも同様の記載があるが、これらは、上記貢献度の認定を覆すものではない。
ウ 以上により、本件発明1に係る日本国特許についての「相当の対価」の額は下記のとおり3494万円となる。
 2億4959万円×0.2×0.7≒3494万円
(5) 本件発明1の社内実施分について
 原告は、本件発明1について被告の社内実施分についても「相当の対価」の算定の基礎になるべきであると主張し、これに対して、被告は、この主張は時機に後れたものであると主張する。
 被告は、平成11年2月26日の第4回口頭弁論期日において陳述した準備書面で、本件発明1の社内実施実績補償金が原告に支払われていること及びその金額を開示しているから、原告は、遅くとも同期日以降には、被告の社内実施分も「相当の対価」の基礎になる旨主張をすることができたものと認められる。それにもかかわらず、原告はその時点ではこのような主張を行わず、証人及び原告本人の尋問終了後の平成13年12月14日の第4回弁論準備手続期日において初めて被告の社内実施分を「相当の対価」の算定の基礎とすべきであると主張したものであるから、この主張は、故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃の方法であるといわざるを得ない。そして、上記主張の追加により、被告規定中の社内実施分の算定方式の合理性やその適用の妥当性についての被告の主張立証が予想され、これにより訴訟の完結を遅延させることとなるものと認められる。したがって、上記主張は民訴法157条1項によりこれを却下することとする。
(6) 本件発明1の日立メディアエレクトロニクス実施分について
 弁論の全趣旨によると、本件発明1は、日立メディアエレクトロニクスにおいて実施されていること、同社が被告の子会社であること、以上の事実が認められ、被告が同社実施分につき実施料収入を得ているものと認めるに足りる証拠はない。そうすると、同社の実施分については、実施料収入が認められないから、「相当の対価」算定の基礎とすることはできない。
(7) 本件発明1に係る日本国特許についての「相当の対価」の額(結論)
ア 以上のとおり、本件発明1に係る日本国特許についての「相当の対価」の額は、3494万円となる。
イ 職務発明に係る特許権等の承継に関しては、特許法35条3項所定の「勤務規則その他の定め」により、使用者がこれを一方的に定めることができるが、その場合の「相当の対価」の額についてまで使用者が一方的に定めることができるわけではなく、使用者が職務発明の「相当の対価」の額について職務発明規程等で一方的に定めても、発明者である従業者がこれに拘束される理由はない。職務発明規程等に定められた対価の額が特許法35条3項及び4項の定める「相当の対価」の額に足りないと認められる場合には、対価請求権を有効に放棄するなどの特段の事情のない限り、従業者は、会社に対し、不足額を請求できると解することができる。
ウ 前記第2の1(6)の事実によると、原告は、被告から本件発明1に係る日本国特許権の権利期間満了時までに実績補償金合計40万円(昭和58年度から平成8年度までの本件発明1に係る実施料収入実績補償金の合計額)を受領しているものと認められるところ、これには、外国特許に関するものも含まれていると考えられるから、その半額を、上記アの金額から控除することとする。そうすると、「相当の対価」の不足額は、3474万円となる。
 原告は、受領した実施料収入実績補償金は被告が無償の通常実施権を取得したことに対する謝礼、褒賞の趣旨で支払った金銭に過ぎず、控除の対象とすべきでないと主張するが、上記金員は被告が被告規定に基づいて実績補償金として支給したものであるから、原告が被告に対して特許を受ける権利を譲渡した対価と認めることができ、控除の対象とされるべきである。したがって、原告の上記主張は理由がない。
エ 被告は、ライセンス契約について、被告規定を設けて処理したことの必要性及び合理性を主張し、被告規定が無効となるのは当該規定が利益と貢献度を考慮して補償金を算定することを目的としていない場合や、その内容が特許法35条の趣旨に照らして明らかに不合理である場合に限定すべきものと主張するが、上記認定のとおり被告規定による補償金の額と「相当の対価」の額として認定された金額には違いがあるから、被告規定によることはできない。
オ なお、原告は、被告規定中ソニーとの包括的クロスライセンス契約につき「クラス1」と評価すべきであると主張して、被告規定に基づく実績補償金を請求している(争点(2)イ)が、前記1で認定した事実によると、本件発明1が被告規定において「クラス1」と評価すべきであるとは認められないから、理由がない。
(8) 本件発明2、3に係る日本国特許について被告の受けた利益の額
 前記第2の1(5)イの事実並びに証拠(甲34、50)及び弁論の全趣旨によると、被告は、太陽誘電との間で平成3年7月1日、無償のクロスライセンス契約を締結し、太陽誘電に対して@本件発明2、3に係る日本国特許、A対応米国特許をライセンスし、太陽誘電は被告に対してB欧州特許出願4件、Cその対応国内出願及びその他の外国出願をライセンスしたこと、日立マクセルとの間で平成3年8月30日に上記@ないしCを対象特許としてライセンス契約を締結したこと、被告は上記対象特許の実施料収入として日立マクセルから230万円を得たこと、以上の事実が認められる。以上を総合すると、上記実施料収入は、被告が日立マクセルに対して@Aの特許をライセンスしたことの実施料収入分とBCの特許をサブライセンスしたことの実施料収入分を合計したものといえ、そのうち後者は被告が@Aを太陽誘電にライセンスしたことによって得た利益に等しいものと認められる。そうすると、上記実施料収入230万円は、被告が@Aを日立マクセルにライセンスしたことによって得た利益と被告が@Aを太陽誘電にライセンスしたことによって得た利益の合計であり、このうちAは米国特許であるから、本件発明2、3に係る日本国特許に関する「被告が受けるべき利益」は115万円であると認められる。
 上記認定の利益以外に、被告が、上記認定のライセンスによって利益を得たとは認められない。
(9) 本件発明2、3の被告の貢献度等について
ア 本件発明2について
(ア) 被告の貢献度
 前記1で認定した事実によると、原告は、被告への入社当時から光学の専門家として同分野での発明研究を期待され、被告に入社後中央研究所の研究員として光ディスク分野の技術を研究していた者であって、発明の完成に当たり中央研究所の他の研究員らの協力を求めたり、中央研究所の施設を利用できる立場にあったこと、本件発明2の完成に当たって、原告は、被告の大型コンピュータを使用したほか、他の研究員から教示を受けたこと、本件発明2に係る日本国特許の特許登録手続(出願明細書の作成を除く)は被告が行い、ライセンス交渉等の権利行使も被告が行ったこと、以上の事実が認められる。しかし、他方、前記1で認定した事実によると、本件発明2が行われた時期は、51プロジェクトが始まる前であって、本格的に光ディスクの研究が行われるようになったのは、本件発明2がされた後であり、そのような時期に、原告は、独自の着想で本件発明2を完成させたこと、本件発明2に係る日本国特許の出願明細書は、原告が作成したこと、以上の事実が認められる。これらの事実からすると、本件発明2に係る日本国特許については、被告の貢献度は全体の70%と認めるのが相当である。
(イ) 共同発明者間の寄与度
 上記1で認定した事実によると、本件発明2は、原告の着想によるもので、原告が必要な計算をして完成させたものであり、出願明細書も作成していること、CやDは同期整流回路や計算式の展開を教示したこと、「東京都発明功労表彰候補者調査表」(甲27)には、共同発明者間の貢献度として原告60%、他の4名各10%の記述があり、原告を同表彰の候補者として推薦することについては、他の4名の者も承諾している(甲238)こと、以上の事実が認められる。これらの事実からすると、原告の寄与率は60%、その余の共同発明者の寄与率は各10%とするのが相当である。
(ウ) 本件発明2、3間の寄与度
 本件発明2と本件発明3を比べると、本件発明2がより基本的な発明であると認められるので、本件発明2と本件発明3の寄与度は、2対1の割合とする。
(エ) 以上によると、本件発明2の「相当の対価」の額は下記のとおりである。
 115万円×2/3×0.3×0.6=13万8000円
(オ) 前記第2の1(6)認定の事実によると、原告は、被告から本件発明2に係る実績補償金として1万2500円を受領しているものと認められるところ、これには、外国特許に関するものも含まれていると考えられるから、その半額を、上記(エ)の金額から控除することとする。そうすると、「相当の対価」の不足額は、13万1750円となる。
イ 本件発明3の相当の対価
(ア) 被告の貢献度
 前記1で認定した事実によると、原告は、被告への入社当時から光学の専門家として同分野での発明研究を期待され、被告に入社後中央研究所の研究員として光ディスク分野の技術を研究していた者であって、発明の完成に当たり中央研究所の他の研究員らの協力を求めたり、中央研究所の施設を利用できる立場にあったこと、本件発明3が完成された時期は、51プロジェクトの後であって、既に被告において光ディスクの研究が行われており、その中で、本件発明3がされたこと、本件発明3に係る日本国特許の特許登録手続は被告が行い、ライセンス交渉等の権利行使も被告が行ったこと、以上の事実が認められる。しかし、前記1で認定した事実によると、本件発明3は、原告及びGの着想によるものであると認められる。これらの事実からすると、本件発明3に係る日本国特許については、被告の貢献度は全体の80%と認めるのが相当である。
(イ) 共同発明者間の寄与度
 前記1で認定した事実によると、本件発明3は、原告による、トラックにアクセスするための方法の検討についての指示を受けてGが着想したもので、Gが出願明細書を作成したこと、Hはウォブリングの溝を持ったディスクの作成に関与したことが認められ、寄与率は、原告40%、G40%、H20%とするのが相当である。
(ウ) 以上によると、本件発明3の「相当の対価」は下記のとおりである。
 115万円×1/3×0.2×0.4=3万0666円
(エ) 前記第2の1(6)認定の事実によると、被告は本件発明3に係る実績補償金として1万円及び遅延損害金を弁済供託しているものと認められるところ、これには、外国特許に関するものも含まれていると考えられるから、上記補償金1万円の半額を、上記(ウ)の金額から控除することとする。そうすると、「相当の対価」の不足額は、2万5666円となる。
(10) 本件発明2、3に係る日本国特許についての「相当の対価」の額(結論)
ア 以上によると、本件発明2、3に係る日本国特許についての「相当の対価」の不足額は、次のとおりである。
 13万1750円+2万5666円=15万7416円
イ 上記認定のとおり被告規定による補償金の額と「相当の対価」の額として認定された金額には違いがあるから、被告規定によることはできない。
ウ なお、原告は、日立マクセルによる本件発明2、3に係る米国特許の実施について、平成3年以降における被告規定に基づく実績補償がされていないこと、日立マクセルは、平成6年及び平成7年にミニディスク用光ディスクにおいて本件発明2、3を実施したにもかかわらず、被告規定に基づく実績補償がされていないこと及び太陽誘電によるCD−R用光ディスクへの実施に対する被告規定に基づく実績補償がされていないことを主張する(争点(2)イ)が、前記第2の1(6)認定のとおり、本件発明2、3については、被告規定に基づいて実績補償がされており、それ以外に実績補償されるべきものがあるとは認められない。
5 争点(4)について
(1) 前記第2の1(3)認定のとおり、被告には、本件各発明に係る特許の出願時に、「発明、考案等に関する表彰規程」が存し、出願、登録、実施に分けて、一定の金員を給付することとされており、その後、平成2年7月11日に、「発明考案等取扱規則」及びそのうちの補償内容を定めた「発明考案等に関する補償規程」が定められ、平成3年6月21日には、上記補償規程に規定する出願補償、登録補償、実績補償及び特別の事情による補償の基準を定めた「発明考案等に関する補償基準」が定められたもので、これらの被告規定に従って、被告は、原告に対して、本件各発明について、前記第2の1(6)認定のとおり、実績補償金等を支払ってきたものである。証拠(乙3)と弁論の全趣旨によると、実績補償については、毎年12月に支払われてきたことが認められる。そして、このうち、本件発明1については、同発明に係る日本国特許の権利期間内である平成8年度支払分までは、同発明に係る日本国特許についての実績補償金の支払分が含まれているものと認められ、本件発明2、3については、これらの発明に係る日本国特許の権利期間内である平成4年度支払分までは、これらの発明に係る日本国特許についての実績補償金の支払分が含まれているものと認められる。
 以上のとおり、被告規定に基づいて実績補償金が支払われている限り、「相当の対価」の少なくとも一部が支払われており、「相当の対価」の額が定まらないから、原告が特許法35条3項に基づく相当対価請求権を行使することは現実に期待し得ない状況であったものと認められる。
 本訴が提起されたのは、本件発明1については、平成10年であり、本件発明2、3については、平成12年であるから、上記相当対価請求権については、いずれも起算点から10年を経過しておらず、消滅時効は完成していないものというべきである。
(2) 被告は、実績補償の算定方法を定めた被告規定が制定されたのは、本件各発明の特許を受ける権利の譲渡時から10年の期間が経過した後であり、原告による相当対価請求権は既に時効消滅していたと主張するが、上記認定のとおり、本件各発明に係る特許の出願時に、「発明、考案等に関する表彰規程」が存し、出願、登録、実施に分けて、一定の金員を給付することとされていたのであるから、本件各発明に係る特許の出願時に、実績補償の規定が存しなかったということはできず、その後、上記認定のとおり規定が整備されたものであり、その規定に基づいて実施補償金が支払われているから、被告の主張は採用できない。
 また、被告は、被告規定に基づく給付と特許法35条3項に基づく相当対価請求権は、別のものである旨の主張をするが、被告規定に基づく給付も、特許法35条3項に基づく「相当の対価」の少なくとも一部の支払ということができるから、両者は別個のものということはできず、上記認定のとおり、その支払を理由に消滅時効が進行しないものと解することができる。
(3) 仮に、本件各発明の特許を受ける権利の譲渡時から10年の期間が経過したことによって、時効が完成したとしても、被告は、その後、被告規定に基づいて実績補償金を支払っており、それは、上記のとおり特許法35条3項に基づく「相当の対価」の少なくとも一部の支払ということができるから、被告は、時効援用権を喪失したものと認められる。
6 よって、原告の請求は主文の限度で理由がある。なお、原告は年6分の割合による遅延損害金を請求するが、特許法35条3項に基づく相当対価請求権は、同規定により発生する法定債権であり、商行為によって生じたもの(商法514条)とはいえないので、年5分の限度で認容する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 森義之
 裁判官 内藤裕之
 裁判官 上田洋幸


(別紙)特許目録
1 特許第1547005号
 発明の名称 光学的情報処理装置
 発明者 原告、B
 出願日 昭和52年9月16日
 出願番号 特願昭52−111399号
 出願公告日 昭和62年3月12日
 登録日 平成2年2月28日
 特許請求の範囲請求項1
 「光源と、該光源からのビームを媒体上に収束する光学系とからなる光学的情報処理装置において、上記光源は、縦方向と横方向で発散角の異なる楕円形状のビームを放出する半導体レーザであり、上記光学系は、該楕円形状ビームの横方向分布の半値幅以内になる円形開口を有し、上記ビームが上記媒体上にほぼ円形状のスポットとして収束されることを特徴とする光学的情報処理装置。」
2(1)特許第981978号
 発明の名称 情報記録再生方法、その装置及びその記録媒体
 発明者 原告、C、D、E、F
 出願日 昭和48年2月2日
 出願公告日 昭和54年6月16日
 登録日 昭和54年12月27日
 特許請求の範囲請求項1  
 「回転する記録媒体上に情報信号によって変調された加工ビームを照射して、情報溝を形成することにより情報を記録しておき、回転する該記録媒体上の上記情報溝に光ビームを照射し、発生する二次光を電気信号に変換して上記情報を再生する情報記録再生方法において、記録時に、上記情報溝の形成方向と直角方向に微少振動を与えて上記情報溝を形成し、再生時に、上記電気信号と、上記微少振動と同位相の信号とを用いて上記情報溝と上記光ビームとのずれを検出し、それによって該ずれを補正しながら上記情報を再生することを特徴とする情報記録再生方法。」
(2)米国特許第4223187号
 発明の名称 蛇行したトラックを有するビデオディスクを記録及び再生する方法及び装置
 発明者 原告、C、D、E、F
 出願日 1977年4月8日
 登録日 1980年9月16日
 特許請求の範囲
 「情報信号により変調された動作ビームが回転ディスクに照射され、照射位置がディスクの外縁から中央に向かって移動されて、情報トラックが記録され、記録された情報を再生するために、光ビームが回転デスクに照射され、照射位置がディスクの外縁から中央に向かって移動され、検出された光ビームの二次光が電気信号に変換され、電気信号から情報信号が導出される情報記録・再生方法において、
@ 記録ステップが、
(a) 情報信号に同期検出のための標準信号を重畳し、その結果生じた信号を二次変調すること、
(b) ステップ(a)で得られる信号により、動作ビームの強度を変調すること、
(c) その結果得られる動作ビームをディスクに照射し、同期検出標準信号と同じ周波数及び位相を有する信号により、動作ビームをディスクの半径方向に蛇行させること、
 を含んでおり、
A 再生ステップが、
(d) 同期検出標準信号を、上記記録ステップ@で形成されるディスク上の情報トラックに光ビームを照射することにより得られる信号から導出し、導出された同期検出標準信号を用いて、光ビームの照射により得られる信号の包括線信号を取り出すこと、
(e) ステップ(d)で得られる信号を用いて補正をし、光ビームが正確に情報トラックを追跡できるようにすること、
(f) 光電変換された信号から情報信号を再生すること、
 を含むことを特徴とする記録・再生方法。
3(1)特許第1291864号
 発明の名称 情報再生方法及びその装置
 発明者 原告、G、H
 出願日 昭和50年2月5日
 出願公告日 昭和60年3月25日
 登録日 昭和60年11月29日
 特許請求の範囲
 「同期検出用標準信号と情報信号とを加えた信号によって変調された照射ビームを、上記同期検出用標準信号と同一周波数、位相の信号によって形成すべき情報溝に垂直な方向に振動させながら記録媒体上に照射して、該記録媒体上に上記同期検出用標準信号と上記情報信号とを記録した情報溝を形成しておき、該記録媒体上の上記情報溝に光ビームを照射し、発生する二次光を電気信号に変換し、該電気信号から上記情報溝の振動周波数成分と上記同期検出用標準信号とを検出し、その検出した両信号を用いて上記情報溝と上記光ビームとのずれを検出し、それによって上記情報溝をトラッキングしながら上記情報信号を再生する情報再生方法において、上記同期検出用標準信号の周波数を上記情報溝が形成される位置に応じて変化させて上記情報溝を形成し、上記電気信号から検出された上記同期検出用標準信号と所望の情報溝の同期検出用標準信号とを比較し、それによって所望の情報溝を検索して、該所望の情報溝をトラッキングしながら該所望の情報溝に記録された上記情報信号を再生することを特徴とする情報再生方法。」
(2)米国特許第4067044号
 発明の名称 情報記録再生装置
 発明者 原告、G、H
 出願日 1976年2月3日
 登録日 1978年1月3日
 特許請求の範囲
 「回転記録媒体を回転させる手段と、再生ビームを情報トラックに指向させる手段と、ビーム電気変換手段と、第1の検出手段と、復調手段と、記録手段と、比較手段と、第2の検出手段と、比較手段の出力信号に応答する手段と、放射ビーム偏向手段と、トラッキング微調整手段とを具備した情報記録又は再生装置において、
(a) 前記回転記録媒体には、同心円又はスパイラル線に沿ってウォブリングする複数の情報トラック上に、情報信号と標準信号が重畳されており、
(b) 前記再生ビームを情報トラックに指向させる手段が、再生ビームを回転記録媒体上の情報トラックに指向させ、回転記録媒体上にビームスポットを形成し、
(c) 前記ビーム電気変換手段が、再生ビームを情報トラックに指向させる前記手段から情報トラックに向けて指向されて情報トラックを透過するか又は情報トラック上で反射する放射ビームを、電気信号に変換し、
(d) 前記第1の検出手段が、前記ビーム電気変換手段からの出力信号に応答して、情報トラックからの放射ビームスポットの変位に関する信号を検出し、
(e) 前記復調手段が、前記ビーム電気変換手段の出力信号から情報信号及び標準信号を再生し、情報信号から標準信号を分離し、
(f) 前記記録手段が、再生すべき情報信号と共に記録された標準信号と同一の周波数を有する複数の信号を再生可能であり、
(g) 前記比較手段が、前記復調手段から印加される再生された標準信号と、前記記録手段の出力信号とを比較し、
(h) 前記第2の検出手段が、前記復調手段から印加される再生された標準信号と第1の検出手段の出力信号とを比較することにより、情報トラックからのビームスポットの変位の量及び方向を検出し、
(i) 前記比較手段の出力信号に応答する前記手段が、ビームを指向させる前記手段と回転記録媒体との間の相対位置を制御し、
(j) 前記放射ビーム偏向手段が、ビームを指向させる前記手段により得られる放射ビームの方向を偏向し、
(k) 前記トラッキング微調整手段が、前記放射ビーム偏向手段を駆動する前記第2の検出手段の出力信号に応答して、情報トラックからのビームスポットの変位を補償する、
 ことを特徴とする情報記録又は再生装置。

(別紙1)発明、考案等に関する表彰規程の内容
1 出願賞
 従業員の行った発明、考案に基づき、当社が特許又は実用新案登録の出願を行ったときは、出願の都度、各出願毎に定額の出願賞を当該発明又は考案を行った者に授与する。
 特許出願 1件につき 2000円
2 登録賞  
 従業員の行った発明、考案又は創作に基づき、当社が特許、実用新案又は意匠の登録を受けたときは、登録の都度、各登録毎に定額の登録賞金を当該発明、考案又は創作を行った者に授与する。
 特許 1件につき 5000円
3 特許賞
 当社の所有する特許権、実用新案権及び意匠権で、実施効果の顕著なものについては、これに関し功績のあった者に対し次の区分により褒賞する。
 特許賞 当該発明者及び考案者  
 特等 1件につき 20万円以上
 1等 12万円以上
 2等 6万円以上
 3等 3万6000円
 4等 1万8000円
 5等 1万2000円

(別紙2)被告の補償基準の内容
1 補償の内容
(1) 出願補償 特許の出願時に行う補償
(2) 登録補償 特許権の設定の登録時に行う補償
(3) 実績補償 特許権について、これらを社内において実施(登録前の実施を含む。)し、実施成績が顕著であって業績に貢献したと認められたとき又は第三者に実施権を許諾し実施料収入を得たとき若しくは第三者の所有に係る特許権等の実施につき実施料を支払うべき場合に、その全部又は一部の支払に代えて被告の所有に係る特許権等を実施許諾した場合であって、その許諾が被告の実施料の全部又は一部の支払を免れるのに不可欠の条件にあるとみられるときに行う補償
2 補償の算定基準
(1) 出願補償
ア 国内出願 1件につき 優発明等 6000円
             その他の発明等 3000円
イ 外国出願 1件につき 優発明等 1万2000円
             その他の発明等 9000円
(2) 登録補償
ア 国内登録 1件につき 請求項の数3以下 1万円
             請求項の数4から9 2万円
             請求項の数10以上 5万円
イ 外国登録 1件につき 1万円
(3) 実績補償
 実績補償については、社内実施実績に対する補償(社内実施実績補償)と実施料収入実績に対する補償(実施料収入実績補償)とをそれぞれ算出し、これを合算して毎年12月に支払う。また、特許権等の登録前の実施に係る実績補償は、当該特許権等の登録後に行う。国内特許権及び外国特許権を補償の対象とする。算定基準は次のとおりである。
ア 社内実施実績補償
(ア) 実施実績(売上高×部分比)及び評価要素(権利の排他性、代替技術の可能性、第三者から受けたライセンスの有無、発明の質的評価等)により評価点を算出する。
(イ) 算出された評価点に対応する補償ランクに従い、実績補償金を支払う。
イ 実施料収入実績補償
(ア) 実施料収入(複数の特許権を併せて実施許諾した場合には当該特許権の寄与度に応じて算出する)及びライセンス契約締結に至るまでの経緯により評価点を算出する。
(イ) 算出された評価点に対応する補償ランクに従い、実績補償金を支払う。
ウ 包括的クロスライセンス契約の場合の実績補償
(ア) クロスライセンスの場合には、実施料収入として、被告が相手方の特許権に対して支払うはずであった実施料を算定し、これと同額の実施料収入があったものとみなし(以下「みなし実施料」という。)、これに被告が実際に得ている実施料を加算して、実施料収入を算定する。
(イ) 包括的クロスライセンスの場合の「みなし実施料」は、次の@Aを考慮の上、10億円、1億円、1000万円又は100万円のいずれかに定める。
@ クロスライセンスに該当する製品の被告の実施規模
A クロスライセンスによって得た被告の技術上の成果及びその重要度
(ウ) 包括的クロスライセンス契約の対象とされた特許権を次の3つの区分に分類する。
 [クラス1]契約締結に極めて貢献したもの。
 [クラス2]契約締結に所定の有効性を呈したもの。
 [クラス3]上記のいずれでもなく契約に包含されたもの。
(エ) 分類された区分に応じて次のとおりの補償を行う。
 [クラス1]通常の実施料収入実績補償と同様に、実施料収入を算定し、それに契約締結に至るまでの経緯を勘案して評価点を算出し、評価点に対応する補償ランクに従い、実績補償金を支払う。
 [クラス2]定額(5万円)の実績補償を行う。
 [クラス3]登録補償による補償をもって代える。
(オ) 共同発明の場合の補償
 2人以上の者による発明に係る特許権の場合には、当該特許に関する出願補償、登録補償及び実績補償をそれぞれの発明者の寄与率に基づいて配分する。
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日本ユニ著作権センター
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