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【事件名】中古アダルトビデオの販売事件(2)
【年月日】平成14年11月28日
 東京高裁 平成14年(ネ)第1351号 損害賠償請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成12年(ワ)第15070号)
 (平成14年10月3日 口頭弁論終結)

判決
控訴人 株式会社ジョイナック
控訴人 有限会社アキ総合企画
控訴人 株式会社海燕書房
控訴人 有限会社ビープロダクト
控訴人 有限会社ダブルアックス
控訴人 有限会社ワークビジネス社
控訴人 株式会社アイダックス
控訴人 有限会社ドルチェヴィータ
控訴人 YBスポーツこと
控訴人ら訴訟代理人弁護士 大谷和彦
同訴訟復代理人弁護士 中條秀和
被控訴人 株式会社寿エンタープライズ
被控訴人 Y
被控訴人ら訴訟代理人弁護士 鹿野琢見
同 鹿野元


主文
一 本件控訴をいずれも棄却する。
二 当審における訴訟費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人ら
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人株式会社寿エンタープライズ(以下「被控訴人会社」という。)は、控訴人らが製作販売した別紙ビデオソフト販売一覧表記載の各ビデオソフトの中古ビデオソフトを販売してはならない。
(3) 被控訴人らは、連帯して、控訴人らそれぞれに対し、各200万円及びこれに対する平成12年8月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人らの負担とする。
2 被控訴人ら
 主文と同旨。
第2 事案の概要
 本件は、別紙一覧表記載の各ビデオソフト(以下「本件各ビデオソフト」という。)を製作販売する控訴人らが、本件各ビデオソフトは映画の著作物であるから、控訴人らは本件各ビデオソフトにつき頒布権(著作権法26条)を有すると主張して、本件各ビデオソフトを顧客から購入して中古品として販売する被控訴人会社に対し、著作権(頒布権)に基づき、本件各ビデオソフトの中古品の販売の中止を求めるとともに、被控訴人会社及びその代表取締役である被控訴人Y(以下「被控訴人Y」という。)に対し、著作権(頒布権)侵害を理由とする損害賠償を請求し、原判決が控訴人らの請求を棄却したため、これを不服として控訴を提起した事案である。
 事案の概要は、次のとおり付加するほか、原判決の事実及び理由「第2 事案の概要」のとおりであるから、これを引用する。
1 当審における控訴人らの主張の要点
 原判決は、@本件各ビデオソフトが著作権法上の「映画の著作物」に当たり、著作権法26条1項の「複製物」として頒布権の対象となる、と述べた上で、A本件ビデオソフトは、ひとたび権利者(控訴人ら)の許諾を得て譲渡が行われれば、権利消尽の原則によって頒布権が消尽しているから、被控訴人会社の中古品販売行為に対し頒布権侵害を主張することはできない、と判断した。原判決の@の判断は、正当である。しかし、Aの判断は誤りである。
(1) 権利消尽の原則と裁判所の法解釈権限
 原判決は、平成11年の著作権法改正により新設された著作権法26条の2第2項が、一般的原則としての権利消尽の原則を確認的に明文化したものであるとの解釈を前提に、頒布権についても、配給制度の下における取引の場合を除き、権利消尽の原則が適用される、と解釈した。
 しかしながら、著作権法26条の2の制定時における立法府の意思は、同条項の制定は、映画の著作物の頒布権に影響を及ぼさず、従前の取扱いを維持するというところにあった。このことは、同条1項に「映画の著作物を除く。」と明文をもって規定されていること、著作権審議会第1小委員会が、上記改正の審議の過程で、映画の著作物の頒布権と権利消尽の原則との関係につき、ビデオソフトについては第一譲渡後も頒布権が消尽しないという、従来の取扱いを維持するとの立場の報告を行っていることから明らかである。原判決が映画の著作物に権利消尽の原則を適用したのは、立法者の明確な意思に反するものであり、不当な拡張解釈である。
 映画の著作物(本件ではビデオソフト)の頒布権にも権利消尽の原則が適用されるかどうかという問題の解決は、立法によるべきであって、裁判所の解釈によるべきではない。このことは、WIPO新条約が、権利消尽の原則について、これを各国の立法に任せるとの立場を採用しており、権利消尽の原則が立法を超えた普遍的原則であるとはしていないことからも、明らかである。
(2) ビデオソフトの頒布権の消尽の有無についての解釈
 仮に、映画の著作物の頒布権の消尽の有無が、裁判所の解釈により決められるべき問題であるとしても、少なくとも、ビデオソフトについては、次の理由から、劇場用プリントフィルムと同様、権利消尽の原則は適用されず、頒布権は消滅しない、と解釈するのが相当である。
ア 前記のとおり、現行著作権法制定時において、映画の著作物には劇場用プリントフィルムのみならずビデオソフトも含まれることが前提とされていた。また、著作権法26条の2第2項で譲渡権について権利の消尽を規定した平成11年の改正の過程において、平成10年12月に行われた著作権審議会第1小委員会で、ビデオソフトについては、劇場用映画の配給制度とは別個の取引慣行があることを前提に、テレビゲームと区別して、従前の慣行を維持することが望ましいとの発言があり、最終的に成立した改正法では、著作権法26条の2第1項に「映画の著作物を除く。」と明文をもって規定して、映画の著作物については権利の消尽を認めなかった。これは、十分な議論を経た新しい立法がなされない限り、ビデオソフトの頒布権が消尽しないことを前提とした取引慣行を維持する、というのが立法府の意思であることを示すものである。
イ 実質的にも、ビデオソフトについては、このような解釈を採るべき合理的な理由が、劇場用映画のプリントフィルムについてのものとは別に存在する。単に劇場用映画をビデオソフトにしたものではなく、当初から劇場公開を予定していないビデオソフトについては、特にそうである。
@ 配給制度を前提とした劇場用映画のプリントフィルムとそれ以外の映画の著作物との間には、一応、差異がある。しかし、映画の著作物に権利消尽のない頒布権が認められる根拠が配給制度のみにあるとする見解の根拠は、異論を差し挟む余地のないほど強固なものではない。
A 劇場公開を前提にした映画のビデオソフトについては、劇場での公開によって、既に投下資本の回収を行った後のいわば余禄としての収入しか期待されていないのに対し、劇場公開を前提としていない映画のビデオソフトは、通常、製作本数もわずかで、市場も極めて限られている場合が多い。このような、少数の限られた利用者のみに頒布することを前提とし、したがって劇場公開を予定しない映画については、多数の一般観客を前提とした配給制度とは全く異なった形態である、いわばビデオソフト販売システムともいうべきものが、形成されて、永年にわたって維持されている。このようなシステムは、配給制度とは異なるものの、それ自体が保護されるべきものである。そうであるからこそ、平成11年改正において権利消尽の原則を一部採用した際にも、しばらくは、このシステムを維持するという判断がなされて上記条文となったのである。
(3) テレビゲームソフトについて頒布権の消尽を認めた最高裁判決について
 最高裁判所第一小法廷は、平成13年(受)第952号につき平成14年4月25日に言い渡した判決(以下、単に「最高裁判決」という。)において、テレビゲームソフトに関する判断として「著作権法26条は、映画の著作物についての頒布権が消尽するか否かについて、何らの定めもしていない以上、消尽の有無は、専ら解釈にゆだねられていると解される。」と述べた上で、結論として、権利消尽の原則の適用を認め、第一売買後の譲渡について頒布権が及ばないと判断した。
 しかしながら、次に述べるとおり、テレビゲームソフトとビデオソフトとは、全く異なるものである。最高裁判決の射程距離は、テレビゲームソフトについて及ぶにとどまり、ビデオソフトには及ばない、と解するのが相当である。
ア ビデオソフトは、昭和45年の現行著作権法制定時において、既に存在しており、同法制定に当たっては、映画の著作物には劇場用プリントフィルムのみならずビデオソフトも含まれることが前提とされていた。このため、一般にそのように理解され、ビデオソフトには、現行著作権法が制定されてから今日に至るまで、映画の著作物として頒布権を有するものとして保護されてきた歴史と取引慣行がある。法的安定性という観点からは、これらの慣行は原則として保護されなければならない。
イ これに対し、テレビゲームソフトは、著作権法制定の後に出現したものであって、その発展は最近急激に訪れ、今、正に新しい取引秩序が作られようとしているところである。これについては、著作権法が明示的にこれを意識した条文を置いた事実がないのみでなく、永年にわたる取引慣行そのものが存在しないのである。
 平成10年12月に行われた著作権審議会第1小委員会の報告において、ビデオソフトについては従前の慣行を維持することが望ましいと述べる一方で、テレビゲームソフトについては裁判所の解釈に委ねるのが望ましいとされたことは、このような取引慣行の差が反映しているものと解釈すべきである。
 テレビゲームソフトについては、ビデオソフトを含む本来の映画の著作物と異なり、そもそもこれが映画の著作物に該当するかどうかすら明確でなく、権利消尽のない頒布権が認められるべきか否かについて下級審裁判所の解釈が分かれていたのが、前記最高裁判決によって初めて司法的に確定されたものである。このような裁判所の解釈による解決は、上記立法者意思に合致する。これに対し、この最高裁判決が、テレビゲームソフトという枠を越えて、これまで権利消尽のない頒布権を有するものとして保護されてきて、これを前提とした取引秩序が形成されてきた映画の著作物に対する取扱いにまで影響を与えると解することは、許されないというべきである。
ウ 著作権法上の「映画の著作物」には、客観的には、@劇場用映画のプリントフィルム、Aビデオソフト(劇場用映画をビデオソフトにしたものと、当初から劇場公開を予定していないものとに細分することができる。)、Bテレビゲームソフトを含むその他のものが混在している。しかし、ビデオソフトは、その中にあって、現行著作権法制定当初以来、当然に映画の著作物に該当するものとして、@の劇場用プリントフィルムと同様に取り扱われ、これを前提とした取引秩序が既に存在するのである。このように近接性が高い映画の著作物を、劇場用映画のプリントフィルムと、それ以外というようにあえて二分した上、その一方であるビデオソフトを、劇場用プリントフィルムとではなく、そもそも映画の著作物に該当するか自体明確でないとされていたテレビゲームソフトと同視する議論は、不合理という以外にないのである。
(4) いわゆる擬似レンタル行為について
 被控訴人らの行為は、仮に権利消尽のない頒布権を侵害するといえないとしても、単純な中古品売買を越えた、買戻しを前提に中古品を販売する擬似レンタル行為(著作権法2条8項)に該当する。
2 当審における被控訴人らの主張の要点
 本件各ビデオソフトについては、ひとたび著作権者の許諾を得て譲渡がなされれば、権利消尽の原則により、頒布権が消尽し、その後の譲渡等の行為には頒布権が及ばないとした原判決の判断は、テレビゲームソフトに関する最高裁判決と軌を一つにするものであり、社会的実体を踏まえた上で、著作権者の権利の保護と社会公共の福祉との調和を図った妥当なものである。
(1) 権利消尽の原則と裁判所の法解釈権限について
 控訴人らは、映画の著作物の頒布権にも権利消尽の原則が適用されるかという問題は立法により解決されるべきものであって、裁判所の解釈によるべきでないと主張する。しかし、控訴人らの主張によれば、権利消尽の原則の適用の有無につき、立法的措置がとられていない間は、紛争の法的解決を担う裁判所がなんらの役割も果たせない、ということになる。このような結果を招く理論は、誤りである。
 著作権審議会は、著作権行政における企画立案機能の充実を図ることを目的として文化庁が設置したものであるにすぎない。同審議会の報告が立法府の意思であるとは必ずしもいえない。同審議会の報告が著作権解釈の参考となることはあるものの、著作権法の解釈においては、著作権を巡って日々変化してゆく社会的状況を踏まえた現実的な解釈がなされるべきであって、同審議会の報告が絶対的な意味を持つものではない。控訴人らが引用する同審議会の意見は、映画の著作物を巡っては多様な意見が存在し、法改正をすべき「決定的」な理由が定まっていないから、この時点での法改正は見合わせるのが適当だと述べたものにすぎない。
(2) ビデオソフトと頒布権の消尽の有無についての解釈
 控訴人らは、十分な議論を経た新たな立法がなされない限り、ビデオソフトの頒布権が消尽しないことを前提とした取引慣行を維持するというのが立法府の意思である、と主張する。しかし、前記のとおり、立法府の意思は、必ずしも、控訴人らの主張するようなものではない。そもそも、消尽しない頒布権の存在を前提とした取引慣行が形成されているのは、劇場用プリントフィルムについてのみであって、ビデオソフトについてこのような取引慣行が形成されているわけではない。
 仮に、劇場公開を前提としていないビデオソフトについて、控訴人らが主張するような販売システムが永年にわたって形成されてきたとしても、その販売システムが、社会公共の利益との調和の観点からも、なお保護されなければならないものかどうかということが検討されなければならない。この観点からするときは、本件各ビデオソフトについては、一般に、第一譲渡後の譲受人が、著作権者の権利行使を離れて自由にこれを利用し再譲渡することができる権利を取得することを前提として取引行為が行われるべきものというべきであり、本件各ビデオソフトについては、現に、そのように行われてもいるのであるから、本件において、上記の販売システムに対して、権利消尽の原則を適用しない、という形で保護を与える必要はないというべきである。
(3) テレビゲームソフトについて頒布権の消尽を認めた最高裁判決について
 最高裁判決は、著作権法26条と権利消尽原則の関係についての一般的解釈を述べたものであって、これがテレビゲームソフトのみに当てはまる論理でないことは明白である。
 テレビゲームソフトとビデオソフトとは、その成り立ちや歴史的経緯は異なるものの、近年のCDビデオやDVD等の出現によるマルチメディア社会にあって、相対的にその差異はなくなってきている。控訴人らは、既成の取引秩序の有無を根拠に両者の差異を強調する。しかし、そもそも、ビデオソフトに配給制度を前提とした劇場用映画プリントフィルムと同様の取引秩序が存在してきたのか疑問である上、何よりも、取引形態からみれば、市場において一般消費者に対して複製物を販売するという面から、むしろ、ビデオソフトは、テレビゲームソフトに類似することが明白である。この点で、ビデオソフトと、配給制度を前提とした劇場用映画プリントフィルムとの間には、決定的な違いが認められる。
第3 当裁判所の判断
 当裁判所も、控訴人らの請求は理由がないので棄却べきであると判断する。その理由は、次のとおり付加するほかは、原判決の事実及び理由の「第3 当裁判所の判断」欄記載のとおりであるから、これを引用する。
1 映画の著作物の頒布権の消尽について
 映画の著作物の頒布権と権利消尽の原則との関係について、最高裁平成14年4月25日第一小法廷判決(最高裁平成13年(受)第952号)は、次のとおり判示した。
 「特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者が我が国の国内において当該特許に係る製品を譲渡した場合には、当該特許製品については特許権はその目的を達成したものとして消尽し、もはや特許権の効力は、当該特許製品を再譲渡する行為等には及ばないことは、当審の判例とするところであり・・・(中略)・・・、この理は、著作物又はその複製物を譲渡する場合にも原則として妥当するというべきである。けだし、(ア)著作権法による著作権者の保護は、社会公共の利益との調和に下において実現されなければならないところ、(イ)一般に、商品を譲渡する場合には、譲渡人は目的物について有する権利を譲受人に移転し、譲受人は譲渡人が有していた権利を取得するものであり、著作物又はその複製物が譲渡の目的物として市場での流通に置かれる場合にも、譲受人が当該目的物につき自由に再譲渡をすることができる権利を取得することを前提として、取引行為が行われるものであって、仮に、著作物又はその複製物について譲渡を行う都度著作権者の許諾を要するということになれば、市場における商品の自由な流通が阻害され、著作物又はその複製物の円滑な流通が妨げられて、かえって著作権者自身の利益を害することになるおそれがあり、ひいては「著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与する」(著作権法1条)という著作権法の目的にも反することになり、(ウ)他方、著作権者は、著作物又はその複製物を自ら譲渡するに当たって譲渡代金を取得し、又はその利用を許諾するに当たって使用料を取得することができるのであるから、その代償を確保する機会は保障されているものということができ、著作権者又は許諾を受けた者から譲渡された著作物又はその複製物について、著作権者等が二重に利得を得ることを認める必要性は存在しないからである。
 ところで、映画の著作物の頒布権に関する著作権法26条1項の規定は、文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約(1948年6月26日にブラッセルで改正された規定)が映画の著作物について頒布権を設けていたことから、現行の著作権法制定時に、条約上の義務の履行として規定されたものである。映画の著作物にのみ頒布権が認められたのは、映画製作には多額の資本が投下されており、流通をコントロールして効率的に資本を回収する必要があったこと、著作権法制定当時、劇場用映画の取引については、前記のとおり専ら複製品の数次にわたる貸与を前提とするいわゆる配給制度の慣行が存在していたこと、著作権者の意図しない上映行為を規制することが困難であるため、その前段階である複製物の譲渡と貸与を含む頒布行為を規制する必要があったこと等の理由によるものである。このような事情から、同法26条の規定の解釈として、上記配給制度という取引実態のある映画の著作物又はその複製物については、これらの著作物等を公衆に提示することを目的として譲渡し、又は貸与する権利(同法26条、2条1項19号後段)が消尽しないと解されていたが、同法26条は、映画の著作物についての頒布権が消尽するか否かについて、何らの定めもしていない以上、消尽の有無は、専ら解釈にゆだねられていると解される。
 そして、本件のように公衆に提示することを目的としない家庭用テレビゲーム機に用いられる映画の著作物の複製物の譲渡については、市場における商品の円滑な流通を確保するなど、上記(ア)、(イ)及び(ウ)の観点から、当該著作物の複製物を公衆に譲渡する権利は、いったん適法に譲渡されたことにより、その目的を達成したものとして消尽し、もはや著作権の効力は、当該複製物を公衆に再譲渡する場合には及ばないものと解すべきである。
 なお、平成11年法律第77号による改正後の著作権法26条の2第1項により、映画の著作物を除く著作物につき譲渡権が認められ、同条2項により、いったん適法に譲渡された場合における譲渡権の消尽が規定されたが、映画の著作物についての頒布権には譲渡する権利が含まれることから、譲渡権を規定する同条1項は映画の著作物に適用されないこととされ、同条2項において、上記のような消尽の原則を確認的に規定したものであって、同条1、2項の反対解釈に立って本件各ゲームソフトのような映画の著作物の複製物について譲渡する権利の消尽が否定されると解するのは相当でない。」
 当裁判所は、映画の著作物の頒布権と権利の消尽との関係については、上記最高裁判決の説示するところに従うこととし、これを援用する。
 映画の著作物の頒布権にも権利消尽の原則が適用されるかどうかは、立法により解決されるべきものであって、裁判所の解釈によって決すべきものではない、との控訴人らの主張は、上記説示に照らし、採用することができない。
2 ビデオソフトの頒布権と権利消尽の原則の適用の有無について
(1) 上記最高裁判決は、家庭用テレビゲーム機用ソフトウェアの頒布権が問題となった事案について判断したものである。しかしながら、本件各ビデオソフトは、配給制度による上映により公衆に提示することを目的としていない点において、家庭用テレビゲーム機用ソフトウェアと同じであり、市場における商品の円滑な流通を確保するなど、上記最高裁判決が挙げる(ア)、(イ)及び(ウ)の観点からみた場合にも、家庭用テレビゲーム機用ソフトウェアと変わるところはない。上記最高裁判決の権利消尽の原則についての説示は、本件各ビデオソフトにも当てはまるというべきである。
(2) 控訴人らは、@ビデオソフトについては、現行著作権法制定時から今日に至るまで、映画の著作物に該当すると解釈されてきたこと、Aこのような解釈を前提として、ビデオソフトについては、消滅しない頒布権を前提とした取引慣行が存在すること、B著作権法26条の2第2項により譲渡権の消尽を認めた平成11年改正の過程において行われた著作権審議会において、ビデオソフトについて、上記の取引慣行があることを前提に、同条第1項に「映画の著作物を除く。」と規定した経緯があること、を挙げて、上記最高裁判決の権利消尽の原則についての説示はビデオソフトについては当てはまらない、と主張する。
 しかしながら、弁論の全趣旨によれば、現行著作権法の制定時において、劇場用映画と異なり配給制度を前提としない、放送事業者によって製作されたフィルム、ビデオテープ等を「映画の著作物」に含めるか否かが問題となり、これらも「映画の著作物」に含めるとの前提の下に、現行著作権法が制定された経緯があることは認められるものの、その際に、著作権法26条に規定する頒布権と権利消尽の原則との関係が問題とされた形跡はない。現行著作権法制定時の経緯は映画の著作物の頒布権と権利消尽の原則との関係についての上記最高裁判決の解釈に影響を及ぼすものではないというべきである。
 控訴人らは、ビデオソフトについては、消滅しない頒布権を前提とした取引慣行が存在すると主張し、このような取引慣行を尊重して、ビデオソフトの頒布権は消尽しないと解すべきであると主張する。しかしながら、仮に、ビデオソフトについて、控訴人ら主張のような取引慣行があったとしても、その取引慣行が、法的確信に裏付けられた慣行として確立するに至っているといった特段の事情がない限り、このような取引慣行がビデオソフトの頒布権と権利消尽の原則との関係についての解釈を左右することはないというべきである。本件において、上記特段の事情があることを認めるに足りる証拠はないから、上記取引慣行を根拠に、ビデオソフトの頒布権について権利消尽の原則の適用が排除されると解することはできない。
 控訴人らは、著作権法26条の2第2項により譲渡権の消尽を認めた平成11年の改正の過程で行われた著作権審議会における議論を引用する。しかしながら、著作権法26条の2第1項は、映画の著作物についての頒布権には譲渡する権利が含まれることから、譲渡権を規定する同条1項は映画の著作物に適用されないこととし、同条2項において、権利消尽の原則を確認的に規定したものであって、同条1、2項の反対解釈に立って映画の著作物の複製物について譲渡する権利の消尽が否定されると解するのは相当でないというべきことは、前記最高裁判決の説示するところである。仮に、著作権審議会において、ビデオソフトについての取引慣行に関して控訴人ら主張のような議論がなされたことがあったとしても、そのことは、上記著作権法26条の2の解釈を左右するものではないというべきである。
 控訴人らの主張は、採用することができない。
3 擬似レンタル行為に該当するとの主張について
 控訴人らは、本件各ビデオソフトについて、いわゆる擬似レンタル行為(著作権法2条8項)に該当する行為が行われている、と主張する。しかしながら、本件各ビデオソフトについて、貸与と同様の使用の権限を取得させる行為があったことについては、これを認めるに足りる主張、立証がない。
 控訴人らの上記主張は、採用することができない。
第4 結論
 以上によれば、控訴人らの請求をいずれも棄却した原判決は相当であるから、本件控訴をいずれも棄却することとし、当審における訴訟費用の負担につき、民事訴訟法67条、61条、65条を適用して、主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第6民事部
 裁判長裁判官 山下和明
 裁判官 阿部正幸
 裁判官 高瀬順久
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日本ユニ著作権センター
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