判例全文 | ||
【事件名】ラブホテル名称の不正競争事件 【年月日】平成14年11月14日 大阪地裁 平成14年(ワ)第3648号 動産引渡等請求事件 (口頭弁論終結日 平成14年10月3日) 判決 原告 有限会社三番館 訴訟代理人弁護士 山根宏 被告 A 訴訟代理人弁護士 橋本二三夫 主文 原告の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 第1 当事者の求めた裁判 1 請求の趣旨 (1) 被告は、原告に対し、別紙物件目録1(1)ないし(3)記載の動産を引き渡せ。 (2) 被告は、原告に対し、金459万円及びこれに対する平成14年5月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3) 被告は、原告に対し、平成14年4月16日から別紙物件目録1(1)ないし(3)記載の動産を原告に引き渡すまで、1か月当たり金102万円の割合による金員を支払え。 (4) 被告は、別紙物件目録2記載の建物でのホテル営業に関して、「おしゃれマジック」なる表示を使用するのを中止せよ。 (5) 訴訟費用は被告の負担とする。 (6) (1)ないし(3)項につき仮執行宣言 2 請求の趣旨に対する答弁 主文同旨 第2 当事者の主張 1 請求原因 (1) 当事者 原告は、旅館業を目的とする有限会社であり、平成13年11月29日まで、別紙物件目録2記載の建物(以下「本件建物」という。)において、「おしゃれマジック」の表示を使用してホテルの営業を行っていた。 原告は、ホテルの営業の資金繰りが苦しくなり、株式会社整理回収機構により、本件建物につき、抵当権に基づく不動産競売の申立てを受け(当庁堺支部平成13年(ケ)第2027号不動産競売事件)、平成13年11月30日、被告が、競売による売却により、本件建物の所有権を取得した。被告は、同年12月1日から、本件建物において、「おしゃれマジック」の表示を使用してホテルの営業を行っている。 (2) 所有権に基づく返還請求 ア 原告は、別紙物件目録1(1)ないし(3)記載の動産を所有している。 被告は、別紙物件目録1(1)ないし(3)記載の動産を占有している。 被告は、平成13年11月30日限り、本件建物への原告の立入りを拒否し、原告の所有に係る別紙物件目録1(1)ないし(3)記載の動産の搬出を妨害した。被告は、原告によるこれらの動産の返還要求に応じない。 イ 別紙物件目録1(2)記載の電光客室案内板は、原告がホテルの営業を開始するに当たり、特別に注文して製作し取り付けたものであり、ねじを外したり接着剤コーキングを薬品で取り除くことにより、壁を取り壊すことなく取り外すことは可能であり、配線を残して取り外すことは可能であるから、本件建物と独立した別個の動産である。建物の従物ともいえず、原告の所有に属する。 別紙物件目録1(3)記載のコントロールパネルは、原告がホテルの営業を開始するに当たり、特別に注文して製作し取り付けたものであり、客室の壁、床等には固定されておらず、容易に取り外しが可能であり、ベッドと一対として設置され使用されるものであり、電気配線を切断しなくてもコントロールパネル側の接続部分を取り外せば容易に配線とコントロールパネルを分離することができる。したがって、これらのコントロールパネルは、ベッドの所有者である原告の所有に属する。 ウ 当庁堺支部が平成13年11月30日発令した、被告を申立人とし、原告及び有限会社アース開発を相手方とする不動産引渡命令(同支部平成13年(ヲ)第452号)の執行(同支部平成14年(執ロ)第273号、第274号。以下「本件不動産引渡命令執行」という。)は、被告が別紙物件目録1(1)記載の動産の搬出の時間を不必要に制限していること、これらの動産は、数量も多く寸法が大きいにもかかわらず被告が階段しか使用を認めないことから、遅延しており、未だに完了していない。 (3) 不正競争防止法に基づく請求 ア 原告は、平成7年1月18日から「おしゃれマジック」の表示を使用して本件建物におけるホテルの営業を行っていたものであり、食品衛生法21条の営業許可も「おしゃれマジック」の名称により取得していた。「おしゃれマジック」の表示は、平成13年11月30日の時点において、原告のホテルの営業を表示するものとして近辺に広く知れわたっていた。 イ 被告は、「おしゃれマジック」の表示を使用して本件建物におけるホテルの営業を行っているが、これにより、原告のホテルの営業と混同を生じ、原告の営業上の利益が侵害され又は侵害されるおそれがある。 (4) 不当利得 ア 別紙物件目録1(1)記載の動産とともに、別紙物件目録1(2)記載の電光客室案内板、別紙物件目録1(3)記載のコントロールパネルは、ホテルの営業にとって重要な備品であり、被告は、原告所有に係るこれらの備品を用いて営業利益を上げ、法律上の原因なく利得を得ているから、その利得を原告に返還すべきである。 イ 原告の平成12年12月1日から平成13年11月30日までの本件建物におけるホテルの営業の収支は、別表1のとおりであり、その収益は、1か月当たり平均約102万円である。 ウ 被告は、原告の所有する別紙物件目録1(1)ないし(3)記載の動産を使用してホテルの営業をしたことにより、平成13年12月1日から平成14年4月15日まで、459万円の利得を得、原告は、同額の侵害を被った。 また、被告は、平成14年4月16日から別紙物件目録1(1)ないし(3)記載の動産を原告に引き渡すまで、1か月当たり102万円の割合による不当利得を得、原告は、同額の損失を被ることになる。 (5) 結論 よって、原告は、被告に対し、次のとおり請求する。 ア 所有権に基づき、別紙物件目録1(1)ないし(3)記載の動産の引渡しを求める。 イ 不当利得返還請求権に基づき、平成13年12月1日から平成14年4月15日までの不当利得額459万円及びこれに対する請求の後である同年5月16日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払、並びに同年4月16日から別紙物件目録1(1)ないし(3)記載の動産を原告に引き渡すまで1か月当たり102万円の割合による金員の支払を求める。 ウ 不正競争防止法2条1項1号、3条1項に基づき、本件建物におけるホテル営業に関して、「おしゃれマジック」なる表示を使用することの中止を求める。 2 請求原因に対する認否 (1) 請求原因(1)(当事者)の事実のうち、被告が本件建物において「おしゃれマジック」の表示を使用してホテルの営業を開始した日が平成13年12月1日であることは否認し、その余は認める。被告が本件建物において「おしゃれマジック」の表示を使用してホテルの営業を開始した日は、同月17日である。 (2)ア 請求原因(2)(所有権に基づく返還請求)アの事実のうち、原告が別紙物件目録1(1)記載の動産を所有していることは不知であり、被告が別紙物件目録1(1)記載の動産の一部を本件建物の3部屋に収納して保管していることは認めるが、それが法律上の占有に当たることは争い、その余の事実は否認し、主張は争う。 イ 請求原因(2)イの事実は否認し、主張は争う。 別紙物件目録1(2)記載の電光客室案内板は、ねじではなく強力接着剤で壁に強固に固着されており、壁を取り壊さなければ取り外すことができず、また、壁との接着部にはコーキングが施されている。この電光客室案内板は、コンピューターと連動しており、案内板から各客室まで、壁や天井内部を通して配線が施されており、案内パネルを押すと、客室の施錠が自動的に解除されるようになっている。したがって、これらの電光客室案内板は、本件建物に付加され本件建物と一体となっているものであり、不動産である本件建物の一部である。 別紙物件目録1(3)記載のコントロールパネルは、ほとんどが客室の壁及び床に接着剤によって固着されており、4室ほどは、ベッド頭部にある壁、床に設置された備付台に接着剤で固着されている。これらのコントロールパネルは、いずれも、壁紙、床材又はカーペット等を剥離、撤去し、かつ屋内からの電気配線を切断しなければ建物から取り外すことができない。また、これらのコントロールパネルには、テレビ、照明器具、エアコン、有線放送等のスイッチがあり、壁、床、天井等を通して電気配線がされており、各客室には、他にスイッチはなく、テレビ、照明器具、エアコン、有線放送等の操作は、コントロールパネルによってしか行うことができない。したがって、これらのコントロールパネルは建物の一部である。 仮に、これらの電光客室案内板、コントロールパネルが動産であるとしても、本件建物との場所的接着性は顕著であり、その用法も、ホテルの営業という本件建物の常用に供せられ、その経済的効果を全うさせるものであるから、本件建物の従物であり、従物には抵当権の効力が及んでいるので、抵当権の実行により、被告がその所有権を取得した。 ウ 請求原因(2)ウのうち、本件不動産引渡命令執行が遅延しており、未だに完了していないことは認め、その余の事実は否認し、主張は争う。 本件不動産引渡命令執行が遅延しているのは、別紙物件目録1(1)記載の動産が大量にあるにもかかわらず、原告が1台のトラックしか用意せず、何回も搬出作業を繰り返さなければならないためである。その執行は、執行官の都合もあり、午前8時から午後2時又は3時ごろまでの間に行われている。被告は、執行時間を制限したことはないが、原告が、トラックが搬出先と本件建物の間を往復する間、搬出作業員と称する者10人ほどをホテルの駐車場に待たせ、客がホテルを利用するのを妨害したため、被告が執行の時間を午後2時ごろまでにしてもらったことはある。 (3)ア 請求原因(3)(不正競争防止法に基づく請求)アの事実のうち、原告が、「おしゃれマジック」の表示を使用して本件建物におけるホテルの営業を行っていたことは認め、原告がホテルの営業を開始した日が平成7年1月18日であること、原告が食品衛生法21条の営業許可を「おしゃれマジック」の名称により取得していたことは不知であり、その余は否認する。 イ 請求原因(3)イのうち、被告が「おしゃれマジック」の表示を使用して本件建物におけるホテルの営業を行っていることは認め、その余の事実は否認し、主張は争う。 本件建物の所有権が被告に移転したことにより、営業主体は原告から被告に移ったから、被告の営業と原告の営業が混同することはないし、原告に営業上の利益はないから、その侵害もない。被告が「おしゃれマジック」という表示を使用しているのは、原告の懇願、許諾に基づくものである。 (4)ア 請求原因(4)(不当利得)アの事実は否認し、主張は争う。 被告は、別紙物件目録1(1)記載の動産を使用したことはなく、再三にわたり原告に対して搬出を要求しており、原告には、これらの占有による不当利得は生じていない。仮に、被告が上記動産を使用したとしても、原告が請求し得るのは、せいぜいこれらの動産の賃料相当損害金にすぎず、営業収益相当額の返還を請求し得るものではない。 仮に、別紙物件目録1(2)記載の電光客室案内板、別紙物件目録1(3)記載のコントロールパネルが、動産であり本件建物の従物でないとしても、これらは設置後少なくとも7年を経過し、償却期間を経過しており、財産的価値はないから、これらについて不当利得は生じない。また、それに加え、原告は、様々な執行妨害を繰り返し、本件訴訟も執行妨害の一環として提起されたものであり、原告の請求は権利の濫用であり、許されない。 イ 請求原因(4)イの事実は不知。 ウ 請求原因(4)ウの事実は否認し、主張は争う。 理由 1 請求原因(1)(当事者)の事実のうち、被告が本件建物において「おしゃれマジック」の表示を使用してホテルの営業を開始した日が平成13年12月1日であること以外は、当事者間に争いがない。 弁論の全趣旨によれば、被告が本件建物において「おしゃれマジック」の表示を使用してホテルの営業を開始した日は、平成13年12月17日であったものと認められる。 2 請求原因(2)(所有権に基づく返還請求)アの事実のうち、被告が別紙物件目録1(1)記載の動産の一部を本件建物の3部屋に収納して保管していること、請求原因(2)ウのうち、本件不動産引渡命令執行が、遅延しており、未だに完了していないことは、当事者間に争いがない。 被告は、別紙物件目録1(1)記載の動産の一部を本件建物の3部屋に収納して保管していることにより、それらの動産の一部を占有しているというべきである。 弁論の全趣旨によれば、原告が別紙物件目録1(1)記載の動産を所有していることが認められる。 3ア 被告が別紙物件目録1(1)記載の動産の一部を占有していることにより、原告のこれらの動産に対する所有権が侵害されているといえるかについて検討する。 (ア) 甲第5、第6号証、第8号証の1ないし3、乙第1ないし第14号証、第15号証の1ないし5、第16号証、第18号証及び弁論の全趣旨によれば、本件の経緯について、次の事実が認められる。 原告の代表者は、従前、代表取締役のBであったが、同人は、平成14年2月12日、辞任し、同月22日その旨の商業登記がされ、以後、取締役のCが原告の代表者となった。原告の経営は、Bが代表者であったころから、現在の代表者であるC及びその弟で有限会社アース開発の代表者であるDが実質的に行っていた。 被告は、平成13年10月18日、本件建物につき売却許可決定を受け、直ちに、原告及び有限会社アース開発に対し、本件建物内にある別紙物件目録1(1)記載の動産の撤去を要求し、場合によってはこれらの動産を買い取ってもよい旨の交渉を申し入れた。これに対し、原告代表者らは、動産の売買価格について、一部屋当たり90万円で19室分合計1710万円と高額な要求をした。被告は、動産の買取りを拒否し、原告及び有限会社アース開発に対し、同年11月27日付けの内容証明郵便をもって、同月30日までに本件建物内の別紙物件目録1(1)記載の動産を撤去するよう求め、撤去されない物は被告において廃棄等の処分をする旨通知した。原告は、被告に対し、同月29日付けの内容証明郵便をもって、別紙物件目録1(1)記載の動産は、平成12年10月下旬から原告の債権者数名が所有しており、被告がその処分をするときには違法行為として損害賠償請求訴訟等を提起することが必定であることなどを通知した。 被告は、平成13年11月30日、競売代金を納付し、原告及び有限会社アース開発を相手方として不動産引渡命令を申し立て、当庁堺支部は、同日、不動産引渡命令(同支部平成13年(ヲ)第452号)を発令した。同不動産引渡命令は、平成14年1月中旬ごろ、原告に対する送達の効力が生じた。原告は、同月17日、同不動産引渡命令に対し、執行抗告を申し立てたが(大阪高等裁判所平成14年(ラ)第117号)、大阪高等裁判所は、同年3月20日、同執行抗告を棄却する旨の決定を行った。 E及びFは、平成13年12月25日、当庁堺支部に対し、別紙物件目録1(1)記載の動産等について譲渡担保権を有している旨主張し、これらの動産の使用及び処分の禁止を求めて仮処分を申し立て(同支部平成13年(ヨ)第263号)、その証拠として、別紙物件目録1(1)記載の動産に関する譲渡担保契約書などを提出した。しかし、同支部は、平成14年1月29日、E及びFが提出した譲渡担保契約書は真正に成立したとは認め難く、他に譲渡担保契約の存在を認めるに足りる疎明資料がないことなどを理由に、同仮処分の申立てを却下する旨の決定を行った。E及びFは、大阪高等裁判所に即時抗告を申し立てたが(同裁判所平成14年(ラ)第192号)、同裁判所は、同年3月20日、同即時抗告を棄却する旨の決定を行った。 E、F、G及びHは、平成13年12月27日、当庁堺支部に、前記仮処分(同支部平成13年(ヨ)第263号)の本案として、被告に対し、別紙物件目録1(1)記載の動産などの引渡しを求める訴訟を提起したが(同支部平成13年(ワ)第1800号)、平成14年2月21日、同訴えを取り下げた。 被告は、別紙物件目録1(1)記載の動産を、本件建物の3部屋にまとめて収納して保管し、新たに什器備品を購入して、平成13年12月17日からホテルの営業を行っている。被告は、本件不動産引渡命令執行(当庁堺支部平成14年(執ロ)第273号、第274号)を申し立て、平成14年5月14日から、当庁堺支部執行官によって本件不動産引渡命令執行が行われ、原告及び有限会社アース開発が、本件建物から別紙物件目録1(1)記載の動産の一部を搬出している。しかし、執行官の立会いの下に執行のできる日が限られていること、原告が、搬出用のトラックを1台しか用意せず、搬出に時間を要していること、原告が、別紙物件目録1(2)記載の電光客室案内板、別紙物件目録1(3)記載のコントロールパネルを動産であると主張してその引渡しを請求し、被告がこれを争い引渡しを拒んでいることなどから、本件不動産引渡命令執行は遅延しており、未だに完了していない。 本件不動産引渡命令執行を担当する当庁堺支部執行官は、平成14年7月9日、被告に対し、通知書を交付し、@別紙物件目録1(3)記載のコントロールパネルについて、原告及び有限会社アース開発に引き渡さない、ただし、「おしゃれマジック」の名称を適当な方法により外部から見分できないようにする、A別紙物件目録1(2)記載の電光客室案内板について、原告及び有限会社アース開発に引き渡さない、B建物壁面に設けられた看板、ポールに設置された看板について、原告及び有限会社アース開発の費用により、「おしゃれマジック」の名称の記載された部材を取り外す、Cネオン管について、原告及び有限会社アース開発の費用により、「おしゃれマジック」の部分を取り外す旨を通知した。被告は、この通知の内容に対して執行異議を申し立てたが(当庁堺支部平成14年(ヲ)第311号)、当庁堺支部は、同年9月24日、同執行異議の申立てを却下する旨の決定を行った。 以上の事実が認められる。 (イ) 原告は、本件不動産引渡命令執行が未だに完了しないのは、被告が不必要に搬出の時間を制限したり、搬出に階段のみの使用しか認めないからである旨主張する。しかし、甲第2号証の1ないし21、乙第17号証の2ないし13及び弁論の全趣旨によれば、別紙物件目録1(1)記載の動産は、従前ホテルの営業に使用されてきたもので、経済的価値はほとんどないものと認められる上、被告は、これらの動産の一部を、本件建物の3部屋に収納して保管しており、それによって本件建物の使用が妨げられていることからすれば、被告が、殊更にこれらの搬出を妨害することは考えられない。むしろ、前記認定のとおり、原告が被告に対し、別紙物件目録1(1)記載の動産について高額な価格による買取りを要求し、それが断られると、それらの動産が原告の債権者数名の所有である旨主張し、それに呼応するようにしてEらがこれらの動産の使用及び処分の禁止を求める仮処分を申し立て、これについて、譲渡担保契約書が真正に成立したとは認められないなどの理由によって同仮処分の却下決定が行われていることなど前記認定の一連の経緯に鑑みれば、原告は、本件建物について行われた不動産競売の強制執行を妨害する意思を有するものと推認される。したがって、このようなことを考慮すれば、原告の前記主張は、採用することができない。その他、前記認定を左右するに足りる証拠はない。 (ウ) 前記認定事実によれば、原告は、被告から平成13年11月27日付けの内容証明郵便をもって、同月30日までに本件建物内の別紙物件目録1(1)記載の動産を撤去するよう求められたが、これに応じなかったものである。また、現在、本件不動産引渡命令執行が行われ、原告らによって本件建物から別紙物件目録1(1)記載の動産の搬出が行われている。もっとも、本件不動産引渡命令執行は遅延し、未だに完了していないが、その原因についてみると、原告が搬出用のトラックを1台しか用意せず、搬出に時間を要していること、後記のとおり本件建物と不可分一体であり、原告の所有に属する動産とはいえない別紙物件目録1(2)記載の電光客室案内板、別紙物件目録1(3)記載のコントロールパネルについて、原告が、動産であると主張してその引渡しを請求していることなど、原告に原因の多くが帰することが認められ、被告が別紙物件目録1(1)記載の動産の引渡しを殊更拒むことにより執行が遅延しているものとは認められない。そうすると、被告は、別紙物件目録1(1)記載の動産の一部を占有しているけれども、原告は、本件建物からそれらの動産を搬出することができる状態にあるものというべきであり、被告の占有によって、原告のそれらの動産の所有権が侵害されているとはいえない。 イ したがって、別紙物件目録1(1)記載の動産について、原告の所有権に基づく引渡請求は、理由がないというべきである。 4ア 別紙物件目録1(2)記載の電光客室案内板について、原告の所有権に基づく引渡請求が認められるかについて検討する。 甲第7号証の1、乙第17号証の1及び弁論の全趣旨によれば、別紙物件目録1(2)記載の電光客室案内板は、ねじ及び接着剤のコーキングにより、本件建物の1階ロビーの壁面に固着されていること、この電光客室案内板は、コンピューターと連動しており、案内板から各客室まで、壁や天井内部を通して配線が施されていること、この客室案内板には、本件建物の客室ごとにその内部写真が貼り付けられた案内パネルが設けられ、各客室の案内パネルのスイッチを操作すると、各客室の施錠が自動的に解除されるようになっていることが認められる。 これらの事実に鑑みると、別紙物件目録1(2)記載の電光客室案内板は、本件建物と不可分一体であり、その所有権は、建物所有者である被告に属するものというべきであり、これらの電光客室案内板をもって、原告の所有に属する動産ということはできない。 したがって、別紙物件目録1(2)記載の電光客室案内板について、原告の所有権に基づく引渡請求は、理由がない。 イ 別紙物件目録1(3)記載のコントロールパネルについて、原告の所有権に基づく引渡請求が認められるかについて検討する。 甲第7号証の2ないし6、乙第17号証の2ないし13及び弁論の全趣旨によれば、別紙物件目録1(3)記載のコントロールパネルは、ほとんどが客室の壁及び床に接着剤によって固着されており、4室ほどは、ベッド頭部にある壁、床に設置された備付台に接着剤で固着されていること、これらのコントロールパネルは、設置場所ごとに異なった形の台枠等を備え、設置場所からの移動を予定していないこと、これらのコントロールパネルには、テレビ、照明器具、エアコン、有線放送等のスイッチがあり、壁、床、天井等を通して電気配線がされており、各客室には、他にスイッチはなく、テレビ、照明器具、エアコン、有線放送等の操作は、コントロールパネルによってしか行うことができないことが認められる。 これらの事実に鑑みると、別紙物件目録1(3)記載のコントロールパネルは、本件建物と不可分一体であり、その所有権は、建物所有者である被告に属するものというべきであり、これらのコントロールパネルをもって、原告の所有に属する動産ということはできない。 したがって、別紙物件目録1(3)記載のコントロールパネルについて、原告の所有権に基づく引渡請求は、理由がない。 5 以上によれば、原告の所有権に基づく別紙物件目録1(1)ないし(3)記載の物件の引渡請求は、理由がない。 6ア 請求原因(3)(不正競争防止法に基づく請求)アの事実のうち、原告が、「おしゃれマジック」の表示を使用して本件建物におけるホテルの営業を行ってきたことは、当事者間に争いがない。甲第1号証によれば、原告は、平成7年1月18日、本件建物の1000分の1の共有持分を売買により取得し、同月30日、その余の1000分の999の共有持分を取得し、同日、これらの共有持分移転の登記が行われたことが認められ、これに弁論の全趣旨を総合すると、原告は、平成7年1月ごろから、本件建物において「おしゃれマジック」の表示を使用してホテルの営業を行っていたものと推認される。甲第3号証によれば、原告は、食品衛生法21条の営業許可を「おしゃれマジック」の名称により取得していたことが認められる。また、原告は、平成12年12月1日から平成13年11月30日までの各日ごとの休憩、宿泊の件数、代金(「売上」に当たるものと考えられる。)等について一覧表を書証(甲第4号証)として提出しており、各月ごとにそれらの合計をまとめると、別表2のとおりとなる。 しかし、原告が、食品衛生法21条の営業許可を「おしゃれマジック」の名称により取得して、平成7年1月ごろから本件建物においてホテルの営業を行い、仮に、平成12年12月1日から平成13年11月30日までの休憩、宿泊の件数、売上等が別表2のとおりであったとしても、これらの事実だけからでは、同日の時点で、「おしゃれマジック」という表示が原告の営業表示として周辺地域の需要者の間で広く認識されていたことを認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。 イ 請求原因(3)イのうち、被告が「おしゃれマジック」の表示を使用して本件建物におけるホテルの営業を行っていることは、当事者間に争いがない。 原告は、本件建物が競売されたことにより本件建物でのホテルの営業の廃止に追い込まれたものであるが、他に「おしゃれマジック」の表示でホテルの営業を現に行っていることを認めるに足りる証拠はない。そして、被告が「おしゃれマジック」の表示を使用して本件建物におけるホテルの営業を行うことにより、原告のホテルの営業と混同を生じ、原告の営業上の利益が侵害され又は侵害されるおそれがあることを認めるに足りる証拠もない。 ウ したがって、原告の不正競争防止法に基づく請求は理由がない。 7 請求原因4(不当利得)アについて検討する。 前記3ア(ア)の認定のとおり、被告は、別紙物件目録1(1)記載の動産を、本件建物の3部屋にまとめて収納して保管し、新たに什器備品を購入してホテルの営業を行っており、別紙物件目録1(1)記載の動産をホテルの営業に用いていないことが認められる。したがって、仮に別紙物件目録1(1)記載の動産が原告所有のものであったとしても、被告がそれを占有することにより、営業利益を上げ、法律上の原因なく利得を得ているとはいえない。 前記4ア、イのとおり、別紙物件目録1(2)記載の電光客室案内板、別紙物件目録1(3)記載のコントロールパネルは、本件建物と不可分一体であり、その所有権は、建物所有者である被告に属するものというべきであり、それらをもって、原告の所有に属する動産ということはできないから、被告がそれを占有することにより、営業利益を上げ、法律上の原因なく利得を得ているとはいえない。 したがって、原告の不当利得返還請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。 8 以上によれば、原告の本訴請求は、いずれも理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第21民事部 裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 中平健 裁判官 田中秀幸 |
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