判例全文 line
line
【事件名】年度版カタログの写真使用事件
【年月日】平成14年11月14日
 大阪地裁 平成13年(ワ)第8552号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 平成14年8月26日)

判決
原告 アートフェイク株式会社
訴訟代理人弁護士 森永茂
被告 ゼット株式会社
被告 株式会社ウエイブコミュニケイション
被告ら訴訟代理人弁護士 本井文夫
同 伊藤拓
同 内川治哉


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 被告らは、原告に対し、連帯して金3724万円及び平成13年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、原告が被告らに対し、原告が著作権を有するカタログ用写真は、原告と被告株式会社ウエイブコミュニケイションとの契約により、単年度のカタログに1回使用することのみが許されているにもかかわらず、被告らはこれを複数年度のカタログに掲載して原告の著作権を侵害したと主張して、損害賠償を請求した事案である。
1 争いのない事実等(末尾に証拠の掲記がないものは当事者間に争いがない。)
(1) 原告は、写真撮影業等を目的とする平成8年3月1日に設立された株式会社であり、原告代表者であり写真家A撮影に係るパンフレット、カタログ掲載用の写真の提供を行うことを主たる業務としている。
 被告株式会社ウエイブコミュニケイション(以下「被告ウエイブ」という。)は、印刷業、広告代理業等を目的とする平成4年9月14日に設立された株式会社である(記録中の商業登記簿)。
 被告ゼット株式会社(以下「被告ゼット」という。)は、スポーツ用品の製造、加工、販売及び輸出入等を目的とする株式会社である(同)。
(2) Aは、平成4年6月ころ、広告代理店である株式会社正栄堂(以下「正栄堂」という。)から依頼を受けて、被告ゼットのカタログ用写真を撮影するようになった(以下、Aが撮影した被告ゼットのカタログ用写真を「本件写真」という。)。被告ウエイブは、平成4年9月14日に設立された際に、正栄堂が行っていた被告ゼットのカタログ用写真の撮影を引き継いで、Aに対しその撮影を依頼するようになった(弁論の全趣旨)。
 そして、原告が設立された平成8年3月1日以降は、Aに代わり、原告が本件写真の撮影を受注するようになった。
(3) 被告ゼットの1999年版(平成11年版)〜2001年版(平成13年版)の「ゼットベースボールカタログ」や、その他のカタログである「レプリカユニホームカタログ」、「ユニホームカタログ」、「グランドコートカタログ」(以下、1999年版〜2001年版の上記各カタログを「本件カタログ」という。)において、それ以前の年度のカタログに掲載された本件写真(同一機会に撮影されたポーズ違いの写真を含む。)が掲載されている。
 本件写真の掲載状況は、別表@〜B記載のとおりである(ただし、別表@のNo.468、別表AのNo.176及びNo.407を除く。)。原告は、別表@のNo.468、別表AのNo.176及びNo.407の写真は、それ以前の年度のカタログ写真の撮影と同一の機会に撮影されたものであると主張し、被告らは、原告の同主張事実を否認している。
2 争点
(1) 本件写真は著作物性を有するか。
(2) 本件写真を次年度版以降のカタログに掲載することは原告の著作権を侵害するか。
(3) 被告らの不法行為責任
(4) 損害の発生及び額
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(本件写真は著作物性を有するか。)について
〔原告の主張〕
 本件写真が著作物性を有することは、その動きのある躍動感あふれる写真から明らかであるが、その著作物性を裏付ける事情として、次のような事実がある。
(1) Aが起用される前の被告ゼットのカタログ用写真のカメラマンは、静止ポーズをとったモデルの撮影を基本としており、被告らの求めにより、モデルを動きの中でとらえ、よりカメラマンの創作性を前面に出した撮影を試みたが、被告らの満足する作品とはならなかった。そこで、被告らは、Aが従前からモデルについて動きの中で被写体をとらえることに力量豊富であったことから、Aに撮影を依頼するようになった。被告らは、カメラマンは機械的にシャッターを押すだけであるかのような主張をするが、そうであるならば、プロカメラマンのAを起用する必要はない。
(2) 被告らは、カタログ写真の撮影はデザイナー及び被告ゼットの担当者が決定した「絵コンテ」に従って行われ、カメラマンの創作の余地はないと主張する。
 しかし、撮影に際して、デザイナーや被告ゼットの担当者から示される大ざっぱなイメージ画(ラフ)が作成されることはあるものの、ラフは、カタログ上の各写真がどのように割り付けられるかというカタログ全体のバランスに関すること、あるいは文字の印刷位置との関係で生じる被写体の配置の制約をカメラマンに指示すること、撮影現場で撮影商品の間違いがないようにすることなどの点では重要であるが、個々の写真については、ラフ自体は大ざっぱなイメージを示すものにすぎない。
 Aは、モデルに指示を出し、常にモデルを動かして、動きの中で自らの裁量と力量でシャッターチャンスを判断し、まさにフレームの中で創作空間を切り取るのである。
 なお、Aは撮影に際しポラロイド写真(即座に現像焼付けが可能な写真)での撮影も行うが、それはAが露出を判断するためのものであって、デザイナーや被告らの担当者がポラロイド写真を見て、Aに対して光量調整、被写界深度について指示を出すことはないし、モデルのポーズについても上記のとおりAがモデルの動きの中でポーズを捉えるから、ポラロイド写真によりポーズ取りをすることもない。
(3) 被告ゼットのカタログ用にAが撮影した写真は、グローブ、バット等の商品単体のみを並べて撮影した写真が多数あり、これがカタログに掲載されている。こうした写真も、露出、光の当て方など、いかにして商品を魅力的に表現するかといったプロカメラマンとしての創造性が認められるが、本件訴訟においては、本件写真と異なり、空間を創造的に切り取るという側面はやや後退するものとして、本件訴訟では請求の対象としていない。
〔被告らの主張〕
(1) 著作権法によって保護されるべき著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」をいう(同法2条1項1号)。したがって、写真に著作物性が認められるためには、被写体の選定、撮影の位置・角度・時間の選択、光量の調整などについて撮影者の創意と工夫が認められなければならない。
(2) しかし、本件写真は、いずれも、被告ゼットのベースボール商品(ユニフォーム、ヘルメット、バット等)を紹介・宣伝するための各種カタログに掲載される商業用写真であり、どの商品について撮影するかは被告ゼットが選定する。また、本件写真は、ベースボール商品を紹介するためのカタログ用のものであるから、ベースボール商品を忠実に再現することを目的として撮影されるため、そもそも撮影者の創意・工夫が入る余地は少ない。
(3) 実際の撮影手順は、次のア〜キ記載のとおりであり、被告ウエイブが雇ったデザイナー及び被告ゼットの担当者が、撮影の位置・角度・時間の選択、光量の調整など、写真撮影の前提条件をすべて決定するため、撮影者であるカメラマンの創意の入り込む余地はない。
ア デザイナー及び被告ゼットの担当者との間で、カタログにおいて継続して使用する写真の選定、新規に撮影する写真の被写体となるべき商品、撮影場所、撮影ポーズ、配置、イメージなどについて決定する。
イ デザイナー及び被告ゼットの担当者は、カメラマンに対し、前年度版の被告ゼットの各種カタログを提示しながら、次年度版のカタログにおいて、どの写真を継続使用し、どのような写真を新規に撮影するか等について説明を行う。
ウ デザイナーは、「絵コンテ」と呼ばれるラフなデッサンを作成し、撮影する写真のイメージを構築する。
エ ユニフォーム等の撮影においてモデルが必要な場合は、モデルオーディションを行い、デザイナー及び被告ゼットの担当者がモデルを決定し、モデル料は被告ウエイブにおいて負担する。
オ 撮影に当たっては、被告ゼットから被写体となる商品の提供を受けた上、撮影場所、背景、イメージ、モデルのポーズ等は、すべてデザイナーが作成した絵コンテ及びその指示を基に、被告ゼットの担当者の希望を加味しながら、決定される。
 その後、カメラマンは、ポラロイド写真により試し撮りをし、デザイナー及び被告ゼットの担当者は、そのポラロイド写真の写りを確認し、カメラマンに対し、背景、ポーズの修正、光量の調整などについて指示する。カメラマンは、これらの修正がなされた上で、商品1点につき、複数枚の撮影を行う。
カ カメラマンは、撮影終了後、現像したポジフィルムをすべて被告ウエイブに交付し、これによりカメラマンの仕事は完了する。
キ デザイナー及び被告ゼットの担当者は、撮影された複数枚のポジフィルムの中から、カタログに使用するものを選定し、この選定作業にはカメラマンは一切関与しない。
(4) 被告ウエイブが、カタログ用写真の撮影をプロカメラマンに依頼するのは、商品を忠実に再現するため、商品の特徴を熟知しているデザイナーの指示どおりに商品を撮影する必要があるからであり、カメラマン自身の独自の創造性、創作性を要求するからではない。
 正栄堂が、当初Aに本件写真の撮影を依頼したのは、Aが所有するスタジオの大きさ、場所的利便性に着目してのことであって、従前起用していたカメラマンの表現力に不満をもっていたからでも、Aのカメラマンとしての表現力に注目したからでもない。
2 争点(2)(本件写真を次年度版以降のカタログに掲載することは原告の著作権を侵害するか。)について
〔原告の主張〕
(1) Aは、原告が設立される前に撮影した本件写真の著作権を、原告の設立と同時に原告に譲渡し、また、原告設立以後は、原告の業務として本件写真を撮影し、その著作権を原告に譲渡している。
(2) 原告と被告ウェイブとの契約における本件写真のカタログ掲載は、当該年度の「ゼットベースボールカタログ」に限定されたものであり、次年度版以降の「ゼットベースボールカタログ」や、その他のカタログである「レプリカユニホームカタログ」、「ユニホームカタログ」、「グランドコートカタログ」(本件カタログ)に本件写真を掲載することは許されないものであった。その理由は以下のとおりである。
ア Aは、平成4年ころ、被告ウエイブの発注により、被告ゼット及びヒットユニオン株式会社(以下「ヒットユニオン」という。)の2社のためのカタログ用写真の撮影を手がけるようになったが、その際、被告ウエイブの担当者Bとの間で、撮影写真についてはカタログに1回掲載するのみの使用であることを明確に合意した。
イ Aは、ヒットユニオンのカタログ写真の撮影について、被告ウエイブから、掲載写真を別途使用したことによる使用料の支払を受けたことがある。さらに、原告は、被告ゼットによる掲載写真の再使用が発覚した後、見積書の提出に際しても、1回使用との条件を明記し同条件を前提とする契約申込みを行っている。
ウ 出版広告等に携わる人の間では、写真の継続反復使用については、極めて慎重であり、とりわけ、モデルを用いた写真については、モデルの肖像権の問題とも関連し、業界慣行としても1度限りの使用が常識的である。
エ 写真撮影に際し、デザイナーがカタログ各ページのラフを作成して、これに基づいて写真撮影を発注し、Aは、カタログ全体のレイアウト及びレイアウトに依存する掲載写真の撮影上の制約を考慮して写真撮影を行うのであるから、本件写真は、当該年度の当該箇所に掲載することを前提として撮影されたものというべきである。
(3) よって、本件写真を次年度版以降の本件カタログに掲載する行為は、原告の著作権(複製権)を侵害するものである。
(4)ア 被告らは、Aが、無断掲載に関して何ら苦情を述べていないとし、そのことを理由に、著作権が被告らに帰属する、あるいは複数年度の使用を前提とした契約であったと主張する。
 しかし、Aが、撮影写真が掲載されたカタログを受け取ったのは、撮影シーズンの半年くらい後であり、ヒットユニオンのカタログでは別途使用料をもらっていたことから、原告は、写真を無断使用されていたことに気付かずにいた。Aは、平成7年春ころに、Aの撮影した写真が無断使用されているのを知り、すぐに被告ウエイブに対して再度の使用を止めるように伝え、その後も、撮影等の機会にフィルムの返還を含めて要請していた。
 被告ウエイブは、Aの申入れに対し何ら対応しなかったことから、原告は、経理システムにコンピュータを導入したことを契機に、平成8年ころから、請求書等に著作権についての断りを入れることとした。
 そして、その後、原告は、平成10年8月24日付け書面にて、被告ウエイブに対し、無断使用を指摘し、再使用料を請求したのである。
 したがって、Aが無断掲載に関して何ら苦情を述べていないことを理由とする被告らの主張は理由がない。
イ 被告らは、Aが撮影した本件写真のポジフィルムをすべて被告ウエイブに交付していたと主張するが、同事実は否認する。
 Aは、撮影したフィルムの一部を所持している(甲9)のであって、すべて被告ウエイブに交付したものではない。
〔被告らの主張〕
(1) 本件写真が著作物であるとしても、以下の事実関係からすれば、原告と被告ウエイブとの間で、本件写真の著作権を被告らに対して譲渡することが約されていたか、あるいは、少なくとも原告は被告ウエイブが本件写真を被告ゼットの各種カタログに無償で掲載することを許諾したというべきであるから、本件写真を次年度版以降の本件カタログに掲載した行為は原告の著作権を侵害するものではない。
ア(ア) 本件写真は、被告ゼットのベースボール商品の紹介及び販売促進用の各種カタログに掲載されるために撮影されるものであって、本件写真の被写体は、同社のベースボール商品であり、本件写真には同社のブランドマークが写されているため、原告及び被告ウエイブが、本件写真を被告ゼットが商品の紹介のために使用する以外に、他の目的に流用することなどおよそあり得ない。
(イ) ベースボール商品は、複数年にわたり継続的に販売されるものであるから、本件カタログにおいても、複数年にわたって、同一の商品の写真が掲載されるのが原則である。
 また、「ゼットベースボールカタログ」は、被告ゼットのベースボール商品の総合カタログであり、グローブ、シューズ、バットを初め、ユニフォーム、グランドコートに至るまで、ゼットブランドのほとんどの種類のベースボール商品に関するカタログであり、「ユニホームカタログ」及び「グランドコートカタログ」は、「ゼットベースボールカタログ」のうち、ユニフォームを紹介した部分及びグランドコートを紹介した部分を抜粋して作成している分冊である。「レプリカユニホームカタログ」は、「ゼットベースボールカタログ」のうち、レプリカユニフォームを紹介した部分を一部編集して作成した分冊である。
 原告は、このような被告ゼットの各種カタログに掲載される写真の撮影であることを前提として本件写真の撮影を請け負ったものというべきである。
イ 被告ウエイブと原告との間の請負契約においては、本件写真の撮影が終了した後、その撮影に係るポジフィルムをすべて被告ウエイブに引き渡すことまでもがその内容になっていた。また、現在に至るまで、原告が、被告ウエイブに対し、引き渡したポジフィルムの返還請求を行ったことはない。
ウ 被告ウエイブは、原告に対し、本件写真の撮影料として、商品1点の撮影につき、金1万円〜5万円を支払った。また、撮影にかかるその他の費用(スタジオ代、交通費、出張費、アシスタント費、材料費等)の一切は、別途、被告ウエイブから原告に対し支払っている。しかも、本件写真は、被告ゼットのベースボール商品の紹介のために撮影される商業用写真にすぎず、撮影は、デザイナー及び被告ゼットの担当者の主導のもとで行われ、撮影者であるAは、創意・工夫が必要とされるものではなく、その負担は極めて軽い。
 このように、Aの負担が軽いにもかかわらず、被告ウエイブが極めて高額な撮影料を支払ってきた理由は、本件写真の著作権を被告ウエイブにおいて買い取ることが撮影料設定の前提条件となっていたからに他ならない。
エ(ア) Aないし原告は、平成4年から平成10年まで、本件カタログ用の写真撮影を請け負っていたが、Aは、自ら撮影した写真が継続使用されることがあり得ることを承知していた。
 しかも、Aは、平成4年に初めて本件カタログ用の写真撮影の依頼を受けた際、以前のカメラマンが撮影した写真で継続使用する写真、新たにAに撮影を依頼する写真などについて説明を受けている。さらに、平成6年度版のカタログ作成のためのミーティングに際しては、Aが自ら撮影した写真が一部掲載されている平成5年度版の各種カタログを参照しながら、どの写真を継続して掲載し、どの写真については新規に撮影するかということをデザイナー等から説明を受けている。
 また、被告Aは、できあがった各種カタログを受け取っているから、自ら撮影した写真が継続使用されていることを毎年確認していたはずである。それにもかかわらず、Aは、継続使用されている写真について別途使用料を請求するとか、被告ウエイブに交付済みのポジフィルムの使用は1回だけであるとの苦情を申し入れたことはない。
(イ) Aは、平成10年夏ころ、被告ウエイブ代表者に対し、本件カタログ用の写真に関し、継続使用しているものは、今後別途使用料をもらいたい旨の申入れをした。その際、原告は平成8年ころから請求書にその旨の記載をしたと主張した。
 被告ウエイブは、このような請求をするのであれば、契約書を作成し、条件を明確にした上で、仕事を発注しなければならないと述べたところ、Aは「請求書に記載しているとおり、あくまで『原則として』という話であり、例外もありますよ。」等と答え、使用料の話を止めた。それ以降、Aは、本件訴訟の提起に至るまで、継続使用についての苦情を申し入れたことはない。
(2) 原告の主張に対し、次のとおり反論する。
ア 原告の主張(2)アの事実について
 Aが、被告ゼットのカタログ写真の撮影を手がけるようになった際、Bとの間で、撮影写真についてはカタログに1回掲載するのみの使用であることを明確に合意したとの原告主張事実は否認する。
イ 同イの事実について
 被告ウエイブは、ヒットユニオンのカタログに掲載した写真を別途使用したことによる使用料を支払ったことはない。なお、被告ウエイブは、ヒットユニオンの総合カタログを制作した後、同総合カタログからテニスウエアのカタログ部分のみを抜粋した分冊を制作した際、原告に対し撮影料を支払っているが、それは、原告に対し、同分冊に掲載するための写真を新たに撮影することを依頼したためである。
ウ 同ウの事実について
 原告が被告ウエイブに対し、平成8年11月分以降の請求書別紙明細書の下部に「著作件(ママ)についてのお願い」などの文言が挿入されていた事実は認めるが、その文言が極めて小さい文字でなされていたにすぎず、原告からその記載に関する説明が一切なされなかったため、被告らは、平成10年夏ころ、Aから指摘を受けるまで全く気付かなかった。
エ 同エの事実について
 現在、一般的に著作権の権利性が高まっているとしても、原告が請求するように写真の継続使用に際して別途使用料を請求することは、業界において一般的なことではない。
 また、仮にモデルの肖像権の関係で、モデル写真が1度しか使用できないものであったとしても、肖像権がカメラマンにあるわけではないから、写真を撮影したAないし原告との関係で、本件写真が1度しか使用できないことになるものではない。本件訴訟が提起された後、被告ウエイブにおいて、本件カタログ制作のため現在利用している海外のモデルクラブに確認したところ、本件写真をカタログに継続使用することに関して、モデルの肖像権との関係で問題がない旨の回答を得ている。
オ 同オの事実について
 原告は、デザイナーが作成したカタログ各ページのラフを基にして写真撮影を発注することから、各発注写真は当該年度の当該箇所に掲載することを前提として撮影されたものであると主張するが、Aの撮影した写真が掲載された前年度のカタログのあるページが、そのままのレイアウトで翌年度のカタログに継続使用されるというのが通常であって、Aはこうした継続使用の事実を認識しながら請け負っていたのであるから、原告の同主張は理由がない。
3 争点(3)(被告らの不法行為責任)について
〔原告の主張〕
(1) 被告ウエイブは、被告ゼットから請け負って本件カタログを制作し、その際、原告に無断で本件写真を次年度版以降の本件カタログに掲載し、原告の著作権(複製権)を侵害した。
 また、被告ゼットは、遅くとも平成10年8月ないし平成11年春先ころまでの間に、被告ウエイブが原告に無断で本件写真の掲載を行っていたことを認識し、それ以降も本件カタログの頒布をしたから、被告ゼットは原告の著作権侵害について、故意又は少なくとも過失がある。
 したがって、被告ウエイブ及び被告ゼットは、本件カタログ(1999年版(平成11年版)以降のもの)の無断掲載行為について共同不法行為責任を負う。
(2) 仮に、被告ウエイブが独自に判断して本件写真を本件カタログに掲載し、本件写真の無断使用についての被告ゼットの関与が共同不法行為を形成するに足る程度のものでなかったとしても、被告ゼットは、本件写真の無断使用について認識した後も、こうした情を知りながら被告ウエイブ制作の本件カタログを頒布したのであるから、被告ゼットの同頒布行為は著作権侵害行為とみなされる(著作権法113条1項2号)。
〔被告らの主張〕
(1) 原告の主張事実は否認する。
(2) 被告ゼットは、原告と被告ウエイブ間の本件カタログに関するやり取りなど詳細に知る由もない。
 また、原告は、被告ゼットの本件カタログの頒布行為が著作権法113条1項2号に当たるとも主張するが、同号にいう「情を知って」とは、少なくとも公権的判断でその物が著作権を侵害する行為によって作成された物である旨の判断を知ることが必要と解すべきところ、本件においては、原告の著作権を侵害する行為によってカタログが作成されたものである旨の公権的判断はなされていない。
4 争点(4)(損害の発生及び額)について
〔原告の主張〕
 被告らは、1999年版(平成11年版)〜2001年版(平成13年版)の「ゼットベースボールカタログ」や、その他のカタログである「レプリカユニホームカタログ」、「ユニホームカタログ」、「グランドコートカタログ」において、原告が著作権を有する少なくとも1330点の写真が無断掲載された。
 カタログ用写真の1回限りのレンタル料は1カット当たり2万8000円を下らないから、原告が被告らの上記無断掲載によって被った損害は、3724万円となる。
〔被告らの主張〕
 原告の主張事実は否認する。
第4 争点に対する判断
1 争点(1)(本件写真は著作物性を有するか。)について
(1) 写真は、誰でもカメラで撮影すれば、現像、焼付等の処理を経ることにより被写体を写し取った写真が出来上がるものであるから、カメラという機械に依存するところが大きく、撮影者の創作性が発揮される部分が小さい。しかし、写真がカメラの機械的作用に依存するところが大きいとしても、被写体の選定、露光の調節、構図の設定、シャッターチャンスの捉え方、その他の撮影方法において、撮影者の個性が現れた創作的表現が認められれば、著作物として保護されるものというべきである(著作権法10条1項8号)。
(2) 本件写真は、被告ゼットが製造、販売するバット、グローブ、ヘルメット、ユニフォーム等のベースボール用品を掲載したユーザー向け商品のカタログ用に撮影された写真であるから、まず、当該商品の形状、色彩等を忠実に再現することが要求されているといえる。
 しかしながら、証拠(乙1の1の1〜8、乙1の2の1・2、乙1の3の1〜3)によれば、本件写真は、ただ単に商品の形状、色彩を忠実に写したものではなく、プロ野球選手やモデルにユニフォームを着用させ、屋外やスタジオ内でさまざまなポーズを取らせて撮影したことにより、モデルのポーズと相まって商品の持つ躍動感、力強さが表現されているものや、バット、グローブ等を撮影したものでも、商品の配置、構図の設定、照明等に工夫をこらしたことにより、その商品の質感、高級感が表現され、消費者に対しその存在感をアピールするものになっていることが認められる。
(3) 証拠(甲6、乙3の1〜3、乙7〜11、証人C、原告代表者、被告ウエイブ代表者)によれば、本件写真の撮影手順は次のようなものと認められる。
ア 被告ゼットの担当者は、本件カタログの発行年度の前年の4月から5月ころまでの間に、これから制作する次年度版カタログの頁ごとに、掲載予定の商品の番号、前年度のカタログでの掲載頁、写真の配置、構成等を記載した「サムネイル」と呼ばれる書面を作成する。その際、新商品等の新たな写真の掲載を希望する時には「新撮」、既にその商品の写真が存在するが再撮影を希望する場合には「再撮」と記載する。
イ その後、被告ゼットの担当者と被告ウエイブが雇ったデザイナーが、5月から7月ころにかけて、頻繁に打合せをし、次年度版カタログの各頁に掲載する写真について、どういう絵柄の写真を掲載するのかということのみならず、撮影方向、角度、影の有無、影の方向、背景、ロケ地、モデルのポーズ、カメラアングル等に至るまで決定する。
 また、被告ゼットが掲載を希望する写真のイメージの把握が難しい場合には、デザイナーが写真のイメージを絵と短い文章で表現した「絵コンテ」を作成する。このイメージ画はいわゆるラフスケッチであり、人物の大まかなポーズが示されているものである。
ウ 上記のようにして7月ころまでに次年度版カタログの具体的な企画・構想を固め、デザイナー、被告ゼットの担当者は、カメラマンであるAと打合せを行い、Aに対し、掲載写真のイメージを伝え、具体的な指示を出す。この指示事項は、例えば、スタジオ撮影の場合には、商品の背景を何にするか、写真に影を付けるのか、影はどの方向に付けるのかなどについて、ロケ撮影の場合には、レンズの種類等、具体的な内容に及ぶ。
 なお、ユニフォーム等の撮影においてモデルが必要な場合は、モデルオーディションを行い、デザイナー及び被告ゼットの担当者が協議の上モデルを決定する。
エ 実際の撮影においては、被告ゼットの担当者、デザイナー及びAが打合せをした上で、Aがポラロイド写真で試し撮りをする。デザイナー及び被告ゼットの担当者は、ポラロイド写真を見ながら、Aに対し、背景、ポーズの修正、光量の調整等について修正事項を指示することもある。
 しかし、撮影される写真は、必ずしも絵コンテに描かれた絵と細部に至るまで同一になるものではなく、特に、モデルを用いる撮影の場合、Aは、モデルの感情的な表情、しぐさ等を表現するため、モデルに対し、例えば「今から練習に行くシーンだ」、「すごく楽しいんだ」、「仲間と集まっているんだ」などと説明し、モデルの動きを細かく指示しながらシャッターチャンスをつかんで撮影する。
(4) 上記の事実によれば、本件写真は、デザイナー及び被告ゼットの担当者が、撮影方向、角度、影の有無、影の方向、背景、ロケ地、モデルのポーズ等に至るまで予め決定し、カメラマンであるAがそれらの指示に従って撮影したものである。しかし、絵コンテ(乙3)と本件写真の表現には相違があり、絵コンテのラフスケッチと比べて本件写真に現れた躍動感が顕著であることを考慮すれば、デザイナー及び被告ゼットの担当者が決定した内容に従って撮影すれば、本件写真が自動的に出来上がるわけではなく(そうであれば、プロカメラマンであるAに撮影を依頼する理由はない。)、Aが、上記の指示内容を前提に、さらに具体的な撮影方向、角度、光量の調整を決定し、また、モデルの感情を引き出すべく、想定している状況や動きを指示し、シャッターチャンスをつかむのであり、そうしたAの創作性は、本件写真の躍動感、力強さ、商品の質感、高級感、存在感等に現れているものというべきである。
 したがって、本件写真は、Aが創作的に表現した写真の著作物(著作権法10条1項8号)に当たるというべきである。
2 争点(2)(本件写真を次年度版以降のカタログに掲載することは原告の著作権を侵害するか。)について
(1) 証拠(甲6、乙1の1の1〜8、乙1の2の1・2、乙1の3の1〜3、乙3の1〜3、乙7〜11、証人C、原告代表者、被告ウエイブ代表者D)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア(ア) 「ゼットベースボールカタログ」は、被告ゼットのベースボール商品の総合カタログであり、「ユニホームカタログ」及び「グランドコートカタログ」は、「ゼットベースボールカタログ」のうち、ユニフォームを紹介した部分及びグランドコートを紹介した部分を抜粋して作成している分冊、「レプリカユニホームカタログ」は、「ゼットベースボールカタログ」のうち、レプリカユニフォームを紹介した部分を一部編集して作成した分冊である。
(イ) Dは、被告ウエイブが設立された平成4年9月14日以前は、株式会社正栄堂の社員であったが、平成4年ころ、Aに対し、被告ゼットのカタログ用写真の撮影を依頼した。
 平成4年9月14日、被告ウエイブが設立され、Dがその代表取締役になったが、それまで正栄堂が被告ゼットから依頼を受けてAに発注していた、カタログ用写真の撮影業務を被告ウエイブが承継し、従前どおりDがその業務遂行を担当した。
(ウ) Aは、上記のとおり依頼を受けて、被告ゼットのために1997年版(平成5年版)から1998年版(平成10年版)のカタログ用写真を撮影したが、その撮影に先立つ打合せの際には、上記1(3)イ記載のとおり、デザイナー及び被告ゼットの担当者から、次年度版カタログの頁ごとに、掲載予定の商品の番号、前年度のカタログでの掲載頁、写真の配置、構成等を記載した「サムネイル」を示されて説明を受けた。
(エ) Aは、本件写真の撮影に際して、ポラロイド写真のほか、テスト用写真を撮影し、実際にカタログに掲載する写真は、通常1商品につき1ロール(35o、36枚)のポジフィルムを用いて撮影していた。Aは、撮影後、ポラロイド写真及びテスト用写真のフィルムは自ら保管していたものの、カタログに掲載するポジフィルム(35o)は、すべて被告ウエイブに渡していた。
(オ) 被告ゼットのカタログが完成すると、被告ウエイブないし被告ゼットは、これをAに交付していた。
(カ) 上記(ア)ないし(オ)によれば、Aは、被告ウエイブから撮影依頼を受けた当初から、カタログには前に撮影した写真が複数回使用されることがあることを認識していたこと、Aは、当初からカタログ掲載用のポジフィルムをすべて被告ウエイブに渡し、カタログ完成後も写真の管理、使用を被告らに委ねていたことが推認される。
イ 原告が、被告ウエイブないし被告ゼットに対し、本件写真を次年度版以降のカタログに掲載したことに関し、別途の料金を請求するに至った経緯は、次のとおりである。
(ア) Aは、原告が設立される前に撮影した本件写真の著作権を、原告の設立(平成8年3月1日)と同時に原告に譲渡し、また、原告設立以後は、原告の業務として本件写真を撮影し、その著作権を原告に譲渡した。
(イ) Aは、平成8年夏ころ、経理システムにコンピュータを導入したことを契機に、見積書、請求書等の最下部に「著作件(ママ)についてのお願い:写真著作物は、法律により保護されています。原則として上記の契約に基ずき、同一媒体に置ける1回の使用とし、使用済みのオリジナルは、御返却ください。Copy-right by ART FAKE co.,ltd」(「著作件」との文言は「著作権」の誤記と認められる。)と、極めて小さな文字(縦横が1o強程度)で1行にて記載するようにした。そして、Aは、被告ウエイブに対し、この記載があるB5版の見積書を送付したが、当初は、見積書等にそのような記載を付記するようにしたこととか、Aの撮影した写真は同一媒体における1回のみの使用とすることや、使用済みのオリジナル(ポジフィルム)を返却することについて、明確に要請しなかったため、被告ウエイブは見積書に上記記載があることに気付かなかった。
(ウ) Aは、平成10年夏ころ、Dに対し、本件カタログ用の写真について、過去の年度のものを継続して使用する場合は、別途使用料をもらいたい旨の申入れをし、その際、請求書、見積書等の下部にその旨の付記をしていると述べた。
 Dは、Aに対し、そのような請求をするのであれば、契約書を作成し、条件を明確にした上で仕事を発注しないと、もう仕事をお願いするのは難しいと述べた。これに対しAは、請求書や見積書の上記付記内容はあくまで「原則として」のものであって、その内容どおりの条件に固執するものではないことを述べ、その後も、原告と被告ウエイブとの間のカタログ写真の撮影業務は、従前どおり継続された。
 なお、Aは、その後、本件訴訟提起(平成13年8月20日)に至るまで、被告ウエイブ又は被告ゼットに対し、上記のような申入れをしたことはなかった。
(エ) 上記(ア)〜(ウ)によれば、原告は、平成10年夏ころ、被告ウエイブに再使用料の申入れをするまでは、同被告に対し、再使用料の支払請求と通常人が理解し得るような態様で該申入れを行ったことはなく、被告ウエイブは、平成10年ころ、原告から再使用料の支払請求を受けた時、これを受け入れるような言辞、態度を示したこともなかったというべきである。
ウ 以上の事実によれば、被告ウエイブは、Aに対し、本件写真は次年度版カタログ(「ゼットベースボールカタログ」のほか、その一部の分冊ないし一部を編集した分冊である「レプリカユニホームカタログ」、「ユニホームカタログ」、「グランドコートカタログ」を含む。)にも用いることがあることを前提として本件写真撮影の仕事を依頼し、Aは、本件写真が複数回使用されるものであることを認識し、本件写真の使用を当該年度のみの1回に限って欲しいなどと要請することなく、本件写真撮影の仕事を受注し、その後も被告ウエイブとAとの間で、本件写真の複数回使用を前提として撮影業務が続けられ、撮影料が支払われていったのであり、写真についても、当該年度のカタログ作成後も被告ウエイブがポジフィルムをすべて管理し、Aに返還していないのであるから、被告ウエイブとAとの本件写真撮影の契約は、次年度版以降の本件カタログにも使用することを前提とするものであったというべきである。
 そして、原告は、被告ウエイブに対し、平成8年夏ころから、本件写真の使用は同一媒体における1回のみの使用とすることや、使用済みのオリジナル(ポジフィルム)を返却すること等の要請を見積書、請求書等の下部に極めて小さく記載して送付しているが、このような記載は、文面を相当注意して見ないと気付かないようなものであり、通常人が写真の再使用料の支払請求をしていると理解できる態様でないにもかかわらず、原告はそうした記載の趣旨を何ら説明していないから、このような一見して気付かないような記載をしたことをもって、原告が、被告ウエイブに対し、同一媒体における1回のみの使用に限定するように上記の契約内容を変更する旨の申入れをしたとすることはできない。
 また、Aは、平成10年夏ころに、Dに対し、本件写真を次年度版以降のカタログに使用する場合には、別途使用料をもらいたいとの申入れをしているが、被告ウエイブ代表者のDがこれを受け入れるような言辞、態度を示さず、暗に発注の見直しを示唆するような態度を示したことから、Aは、上記の契約内容の変更に当たる上記の申入れに固執することなく、従前どおり本件写真の撮影業務を継続したものであり、結局、Aは、平成10年夏ころ以後も、次年度版以降の本件カタログにも使用することを前提とする契約のもとで、本件写真の撮影を継続したものというべきである。
 なお、被告らは、原告から本件写真の著作権を譲り受けたとも主張するが、上記認定の事実によっても当該事実を認めるには足りず、その他、被告らが原告から本件写真の著作権を譲り受けたことを認めるに足りる証拠はない。
(2)ア 原告は、Aが、平成4年ころ、正栄堂の従業員であったBとの間で、撮影社員についてはカタログに1回掲載するのみの使用であることを明確に合意したと主張し、原告代表者尋問中にこれに沿う供述部分があるが、同供述は具体性に欠ける上、その他に当該合意を裏付ける証拠がないから、当該供述部分を採用することはできない。
イ また、原告は、本件写真に係るポジフィルムをすべて被告ウエイブに交付したものではないと主張する。そして、原告はAが保管しているポジフィルムの写しを証拠(甲9)として提出し、原告代表者尋問中には、Aが撮影したフィルムのうち約3分の1(3枚に1枚程度)は自分で持っているとの供述部分がある。
 しかしながら、上記のとおり、原告は、実際にカタログに掲載する写真は、通常1商品につき1ロール(35o、36枚)のポジフィルムを用いて撮影していたから、3枚に1枚程度を自分で持っているのであれば、1ロールのポジフィルムの一部を切ってその残りを被告ウエイブに交付することになるが、被告ウエイブが1ロールの一部のポジフィルムをAから受け取ったという事実があったことを認めるに足りる証拠はない。本件カタログに掲載する写真の選択は、すべて被告ゼットの担当者ないしデザイナーが行っていたから、原告が、本件カタログに掲載する写真のポジフィルムのうちの3分の1程度を保管用に抜き出して、その残りを交付するというAの供述自体、不自然な内容である。
 したがって、原告本人尋問中の上記供述部分を採用することはできない。
ウ(ア) さらに、原告は、被告ウエイブからニットユニオンのカタログに写真を複数回使用したことについて別途使用料の支払を受けたことがあると主張する。
(イ) この点に関し、証拠(甲2の1〜4、乙4・5、乙6の1〜5、10、原告代表者、被告ウエイブ代表者)によれば、次の事実が認められる。
a 被告ウエイブは、平成4年末ころ、ヒットユニオンの総合カタログ「Wilson 1993 Spring & Summer Collection」のカタログ用写真の撮影を原告に依頼し、その撮影料として、平成4年12月20日に100万円(消費税別)、平成5年1月20日に150万円(消費税別)を支払った。その後、同総合カタログからテニスウエアのカタログ部分(乙4の19頁以下)のみを抜粋した分冊である「Wilson 1993 Spring & Summer Tennis Wear Collection」を制作することとなり、被告ウエイブは、上記分冊の1〜2頁部分の写真(コンクリートパネルにテニスネット、テニスウエア、テニスボールを配したもの)の撮影を新たに原告に依頼したところ、平成5年2月20日、原告からその撮影料として31万円、コンクリートパネル代6万5000円、テニスネット代2万5000円、スタジオ雑費2万円の合計42万円(消費税別)の請求を受け、これを支払った。
 なお、被告ウエイブが上記分冊の1〜2頁部分の撮影料として支払った31万円は、通常の撮影料と比較すると高額であるが、それは、Aから、上記写真撮影のための背景の設営等に1日以上の時間を要したため、この程度の撮影料を支払って欲しいとの申入れがあったことから、被告ウエイブがヒットユニオンの了解を得て、撮影料として高額ではあったが上記のとおり31万円を支払うことにしたためである。
b また、被告ウエイブは、原告に対し、ヒットユニオンのカタログ用写真を雑誌広告用写真に使用したことの料金として8万円を支払った。
(ウ) 上記事実によれば、被告ウエイブは、ヒットユニオンのカタログ用写真を雑誌広告用写真に使用したことの料金を別途支払ったことや、カタログの分冊を制作する際に新たに撮影した写真の撮影料を支払ったことは認められるものの、被告ウエイブがヒットユニオンのカタログに写真を複数回使用したことについて別途使用料を支払ったとの原告主張の事実を裏付けるものではなく、他にこれを認めるに足りる証拠もない。
エ 原告は、出版広告等の業界では写真の継続反復使用について極めて慎重であり、特にモデルを用いた写真についてはモデルの肖像権の問題とも関連し業界慣行としても1度限りの使用が常識的であると主張する。
 甲8によれば、モデルクラブの業界団体である日本モデルエージェンシー協会は、モデルを撮影した写真等は、事前に期間や媒体について相談を受けない限り、「1媒体を通常の1クール・3か月以内、又は1回のみの使用」に限定する旨のルールを定めていることが認められる。
 しかし、モデルの肖像権保護の要請からその写真を原則として1度しか使用できないことをモデルクラブの業界団体が定めているとしても、そのことから直ちに、原告と被告ウエイブとの間において、本件写真を次年度版以降のカタログに掲載することが許されないと解さなければならないものではない。また、原告及び被告ウエイブの各代表者本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、本件写真撮影においてモデル派遣を依頼したモデルクラブは、原告及び被告ウエイブに対し、次年度版以降のカタログにモデル写真を掲載していることについて苦情を申し入れてはおらず、被告ウエイブが当該モデルクラブに確認したところ、次年度版以降のカタログにモデル写真を掲載することは問題がないとの回答を得ていることが認められる。
 また、原告が主張するように、出版広告等の業界では写真の継続反復使用について極めて慎重であるとしても、複数年度のカタログに同じ商品写真を掲載することが予定されているようなカタログ掲載用の写真撮影を依頼した場合に、カタログに掲載した年度ごとに別途写真使用料を支払うような業界慣行があることを認めるに足りる証拠もない。
(3) そうすると、原告と被告ウエイブとの間における本件カタログ用写真の撮影契約は、本件写真を次年度版以降の本件カタログにも使用することを前提とするものであり、本件写真はそうした契約条件に基づいて撮影されたものであるから、被告ウエイブ及び被告ゼットが本件写真を次年度版以降の本件カタログに掲載したことは原告の本件写真の著作権(複製権)を侵害するものとはいえない。
3 よって、原告の請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がないから、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第21民事部
 裁判長裁判官 小松一雄
 裁判官 阿多麻子
 裁判官 前田郁勝
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/