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【事件名】ドメイン名の使用権確認請求事件(ポップコーン)(2)
【年月日】平成14年10月17日
 東京高裁 平成14年(ネ)第3024号 登録ドメイン名使用権確認請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成13年(ワ)第2887号)
 (平成14年10月17日 口頭弁論終結)

判決
控訴人 有限会社ポツプコーン
訴訟代理人弁護士 登坂真人
被控訴人 株式会社エヌ・ティ・ティエックス
訴訟代理人弁護士 横山経通


主文
 本件控訴を棄却する。
 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2) 控訴人が株式会社日本レジストリサービスに登録するJPドメイン名「goo.co.jp」を使用する権利を有することを確認する。
(3) 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
 主文同旨
第2 事案の概要等
1 本件は、控訴人が、株式会社日本レジストリサービス(以下「JPRS」という。)に登録しているJPドメイン名「goo.co.jp」(以下「本件ドメイン名」ということもある。)を使用する正当な権利を有することの確認を求めた事案である。
 控訴人が本件ドメイン名を登録した後に、被控訴人は、「goo.ne.jp」というドメイン名(以下「被控訴人ドメイン名」ということもある。)を登録し、さらに、別紙商標権目録記載のとおり、「GOO」及び「グー」の文字から成る商標、並びに「goo」の文字を図案化した商標の登録をしている。被控訴人が、被控訴人ドメイン名で開設しているサイト(以下「被控訴人サイト」という。)は、相当数のアクセスがあるサイトである。
 被控訴人は、本件ドメイン名の登録を、被控訴人に移転することを求めて、工業所有権仲裁センターに裁定を申し立て、同センターは、移転を命じる旨の裁定を下した。控訴人は、これを不服として、本件訴訟を提起した。
2 本件ドメイン名は、当初、社団法人日本ネットワークインフォメーションサービスセンター(以下「JPNIC」という。)に登録されていた。平成14年1月31日、従前JPNICが行ってきたJPドメイン名の登録管理・運用サービスは、同年4月1日(原審の口頭弁論終結時より後である。)から、JPRSが提供するものとされ、これに伴い、JPNICが定めていた別紙「JPドメイン名紛争処理方針」(以下「紛争処理方針」という。)の運用も、JPRSが行うことになった。なお、この紛争処理方針は、同年2月19日に改訂されているが、後記の、本件に関する部分は、従前と同じである。
 このようにして、同年4月1日以降は、JPRSがJPドメイン名の登録・管理・移転・取消しの手続を行っているため、控訴人は、本件控訴の趣旨において、求める確認の対象を、原審における「社団法人日本ネットワークインフォメーションサービスセンターに登録するドメイン名「goo.co.jp」を使用する権利を有すること」から、「株式会社日本レジストリサービスに登録するJPドメイン名「goo.co.jp」を使用する権利を有すること」に訂正した。
3 上記裁定申立てに先立ち、控訴人及び被控訴人は、JPNICとの間で、紛争処理方針に従う旨の合意をしている。
 この紛争処理方針の4条aにおいて、ドメイン名の移転又は取消しを求めるための要件として、「(@)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること、(A)登録者が、当該ドメイン名の登録についての権利または正当な利益を有していないこと、(B)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること」が規定されている。
4 紛争処理方針は、同条bにおいて、以下の事情(ただし、それに限定されるものではない。)があれば、上記a(B)を認定することができる、と定めている。
 「(@)登録者が、申立人または申立人の競業者に対して、当該ドメイン名に直接かかった金額(書面で確認できる金額)を超える対価を得るために、当該ドメイン名を販売、貸与または移転することを主たる目的として、当該ドメイン名を登録または取得しているとき
 (A)申立人が権利を有する商標その他表示をドメイン名として使用できないように妨害するために、登録者が当該ドメイン名を登録し、当該登録者がそのような妨害行為を複数回行っているとき
 (B)登録者が、競業者の事業を混乱させることを主たる目的として、当該ドメイン名を登録しているとき
 (C)登録者が、商業上の利得を得る目的で、そのウェブサイトもしくはその他のオンラインロケーション、またはそれらに登場する商品およびサービスの出所、スポンサーシップ、取引提携関係、推奨関係などについて誤認混同を生ぜしめることを意図して、インターネット上のユーザーを、そのウェブサイトまたはその他のオンラインロケーションに誘引するために、当該ドメイン名を使用しているとき」
5 紛争処理方針は、同条cにおいて、以下の事情(ただし、それに限定されるものではない。)があれば、上記a(A)の反対事実、すなわち「登録者は当該ドメイン名についての権利または正当な利益を有している」ことを認めることができる、と定めている。
 「(@)登録者が、当該ドメイン名に係わる紛争に関し、第三者または紛争処理機関から通知を受ける前に、何ら不正の目的を有することなく、商品またはサービスの提供を行うために、当該ドメイン名またはこれに対応する名称を使用していたとき、または明らかにその使用の準備をしていたとき
 (A)登録者が、商標その他表示の登録等をしているか否かにかかわらず、当該ドメイン名の名称で一般に認識されていたとき
 (B)登録者が、申立人の商標その他表示を利用して消費者の誤認を惹き起こすことにより商業上の利得を得る意図、または、申立人の商標その他表示の価値を毀損する意図を有することなく、当該ドメイン名を非商業的目的に使用し、または公正に使用しているとき」
6 本件の争点は、被控訴人が、本件ドメイン名の登録の移転を求めることに関し、この紛争処理方針4条a(@)ないし(B)の要件を満たすかどうか、である。原判決は、これら3要件はすべて満たされているとして、控訴人の請求を棄却した。
第3 当事者の主張
 当事者双方の主張は、次のとおり付加するほか、原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。
1 控訴人の主張の要点
(1) 紛争処理方針4条a(i)(被控訴人の正当な利益と混同のおそれ)
@ ドメイン名の構造及び要部の判断について
ア 原判決は、ドメイン名のうち、当該ドメイン名を使用する主体(ホスト)を示すコードである「goo」部分にドメイン名識別機能を認め、ドメイン名の要部を「goo」とし、呼称を「グー」とする。しかし、これは、ドメイン名の構造についての理解を誤り、ドメイン名の類否の判断に、称呼の概念を持ち込む誤りを犯すものである。
イ インターネットにおいては、ネットワーク上に接続されたコンピューターを識別するために、32ビットからなる数字を「.」(ドット)で区切った4組の数値から成るIPアドレスが、各コンピューターに割り当てられている。これは、コンピューターごとに決められている唯一無二の数字であるから、いかなるコンピューターも、これにより他のコンピューターから識別することができるのである。しかし、単なる数字の並びは、人間が記憶するのに不都合であるから、IPアドレスに代わるものとして、ドメイン名が考案された。このドメイン名は、IPアドレスに対応するアルファベットの文字列である。
 このように、ドメイン名は、インターネット上での識別子として用いられることのみを目的として登録されるもので、いわば「住所」、「氏名」のようなものであり、それ以外に、いかなる意味も有するものではない。したがって、これが、例えば、商標が有するような意味を有することも、あり得ない。
ウ このようなドメイン名は、本来単なる文字の羅列にすぎず、1文字でも文字が異なれば、インターネット上、別のアドレスになることは当然である。すなわち、トップレベルドメイン(「jp」など、国名等を示す。)や第2レベルドメイン(「co」(会社)、「ac」(教育及び学術機関)、「go」(政府組織)、「ne」(ネットワークサービス)など、組織の属性を示す。)を、ドメイン名の識別に際して、排除して考えることは不当である。
 ドメイン名に、「要部」の概念を持ち込んで、それを別の表示と比較することは、方法論的に誤っている。
A 被控訴人商標の著名性
 原判決は、被控訴人商標及びドメイン名が著名であるとして、紛争処理方針4条a(i)の「正当な利益」(被控訴人の正当な利益)を認定している。しかし、原審においては、被控訴人商標の著名性は何ら立証されていない。
 逆に、「goo」と同一又は類似の商標が、被控訴人ではない第三者によって多数登録されていることからは、被控訴人商標は、著名でなかったと認められるものである(甲第63号証ないし第74号証)。
 原判決は、インターネットの利用者の間で、被控訴人のサイトが相当程度知られているという事実上の著名性と、被控訴人商標が保護される要件としての著名性を混同している。
B 混同のおそれについて
ア あるドメイン名が、利用者の間で広く知られるようになれば、むしろ、ドメイン名を混同することは少なくなるものというべきである。例えば、ブラウザの「お気に入り」の項目に登録するなどの機能を用いれば、ドメイン名など意識しなくても、目的のサイトに入ることができる。
イ 被控訴人の主張によると、平成11年10月から平成12年9月までの約11か月間に、93件の苦情が寄せられ、他方その間の被控訴人サイトの平均的なページビューは、1日あたり約1400万件とされている。そうすると、苦情件数は、ページ・ビュー数に対して、わずか0.00000002パーセントにすぎず、わずか1億分の2という割合である。これは、ドメイン名を間違えたが苦情をいわなかったという暗数を考慮しても、無視して差し支えない数字である。
ウ 苦情の内容を見ても、「間違えて」、「うろ覚え」で、あるいは「ミス」により、本件ドメイン名にアクセスした、ということである。これは、両ドメイン名を混同したことが原因ではなく、使用者の注意不足が原因であることを物語るものにほかならない。
C 信義則違反(JPNICの方針の変更等)について
ア JPNICは、本件ドメイン名の登録後、被控訴人の「goo.ne.jp」のドメイン名登録を認めている。これは、本件ドメイン名と類似しないと判断したためである。本件ドメイン名が、「goo.ne.jp」と類似すると判断することは、ドメイン名取得ルールを過去にさかのぼって変更することにほかならず、法的安定性を害する。
イ 控訴人は、インターネットについて、これまでJPNICが掲げてきたルールに従ってきた。そのルールの中には、ドメイン名と商標とを関連づけて審査しないこと(甲21など)、インターネットの利用者が、取得したドメイン名をどのように利用するかは自由であること、割り当てられたドメイン名は、原則として譲渡できないこと、などがある。
ウ 紛争処理方針の実施開始日は、平成12年11月10日である。紛争処理方針においては、それまで全くなかった、ドメイン名の取消し及び移転が定められ、また、商標などと関連づけて不正使用の目的を判定するものとされた。これらは、従来のドメイン名取得ルールと矛盾するものである。さらに、JPNICは、その後、割り当てられたドメイン名の譲渡禁止という原則さえ変更するに至っている。
 JPNICのこれらの対応は、インターネットの利用者を混乱に陥れるものにほかならない。紛争処理方針は、このような混乱を生じさせないようにするために、JPNICの従来のドメイン名の理解と矛盾を生じないように解釈されるべきである。
エ 控訴人は、被控訴人より先に本件ドメイン名を取得している。原判決の解釈によれば、大企業が後から宣伝、広告費を注ぎ込みさえすれば、第三者のドメイン名の移転をうけることができる、ということになり、弱肉強食の世界を肯定する結果となる。
(2) 4条a(B)について(控訴人による不正の目的での使用)
@ 利益の分配の不存在
ア 原判決は、「原告は、転送を開始した後、原告サイトのアダルトコンテンツを廃止したが、多数のアクセスがある原告サイト自体は閉鎖することなく、原告サイトから、「http://www.real.co.jp」へ転送することで、独自にコンテンツを作成する負担なく、有限会社リアルからアクセス数に応じた利益の分配を受けるようになった。」(原判決13頁3行目〜7行目)、「原告サイトを単に転送目的にのみ使用し、転送先サイトであるアダルトサイトを運営する有限会社リアルから、アクセス数に応じた利益の分配を受けるだけになった。」(原判決18頁20行目〜22行目)、「原告は、被告サイトが著名になる以前から継続していた本件ドメイン名の使用態様を、被告サイトが著名になったのちに、大きく変化させて、原告サイトを転送目的のみに使用し、転送先サイトであるアダルトサイトを運営する会社から、アクセス数に応じた利益の分配を受けるだけになったものであって、ドメイン名のみを同じにする別個のサイトを開設したに等しいものと評価することができる。」(原判決18頁25行目〜19頁4行目)、などと認定している。
イ しかし、南雲証言によると、控訴人サイト及び転送先サイトにアクセスしただけでは、ユーザーには、電話の通話料以外は、一切課金されないことが明らかである。また、リアルから控訴人に払われる金員については、同証人は「分からない」、と証言しており、他に、控訴人が、リアルから、アクセス数に応じた利益の分配を受けていた、と認定するための証拠は全くない。
 結局、ユーザーが、控訴人サイトに誤ってアクセスしたことにより、その意思にかかわらず課金される、ということは、何ら立証されていない。
A 控訴人自身による宣伝・広告等
ア 控訴人は、自らの費用をもって、宣伝広告を続けてきたものである。平成11年9月ころに、転送サイトに変更してからも、女子高生サイトとしての広告掲載を続けたのは、事実である。これは、女子高生という言葉とアダルトコンテンツを結び付けるユーザーがかなりいるため、集客力がある、と判断した上でのことであって、何ら非難されるいわれはない。
 控訴人が、単に、被控訴人の宣伝・広告の効果にただ乗りし、営業利益を上げようとした、などということはない。。
イ 控訴人サイトに入る経路には、リンク、バナー広告、サーチエンジン、直接入力などがある。バナー広告を張っている先は100カ所以上あり、また、控訴人サイトにつながるリンクも、その数は把握していないが、存在する。
 原判決は、単に、控訴人サイトへのアクセス数と、被控訴人サイトとは異なるアダルトサイトであることを明示して張られたリンクから転送先サイトに入る数とを比較した上で、控訴人サイトにアクセスした者のうち、控訴人サイトが、アダルトサイトに転送するものであると認識して、アクセスした者はごくわずかであると認定しているが、単純にアクセス数の比較をすることにより、そのような認定ができるものではない。
ウ したがって、控訴人に「不正の目的」はない。
(3) 紛争処理方針4a(A)について(登録についての控訴人の権利ないし正当な利益)
 控訴人ないしリアルが開設しているのは、アダルトサイトであり、利用者が限られているのに対し、被控訴人の検索サイトないしポータルサイトは、広く一般ユーザーを利用者とするものであって、本質的に異なる。したがって、一般的な認知度を判断するのに際し、単純にアクセス数だけを比較するのは適切でない。
 当該コンテンツに興味のあるユーザーの間で、認知されていれば、知られているというべきである。
2 被控訴人の主張の要点
(1) 控訴人の主張(1)@(ドメイン名の構造と要部の判断について)に対して
 控訴人は、「co.jp」の部分を除いた部分を要部として判断することは、JPNICのドメイン名の理解と整合しないと主張する。しかし、JPNICが、「co.jp」の部分を除いた部分を要部として判断することが不当である、などと述べたことはない。むしろ、紛争処理方針に基づく裁定のすべての事案において、「co.jp」の部分を除いた部分を要部として判断することは、当然の前提となっている。
 紛争処理方針は、サイバースクワッターの横行を防止し、ドメイン名の知的財産権としての価値を保護するために制定されたものであるから、その適用に当たり、商標法や不正競争防止法の解釈と同様の解釈がなされることは、当然である。
(2) 控訴人の主張(1)A(被控訴人商標の著名性)に対して
 紛争処理方針は、不正競争防止法と同じく、需要者の間で知名度を有する商標や商品等表示を只乗り(フリーライド)や稀釈化(ダイリューション)、汚染(ポリューション)等の不正競争行為から保護するためのものであり、被控訴人商標等が著名性を有するかどうかは、被控訴人商標等がインターネット利用者等の間で著名かどうかで判断される。したがって、特許庁が被控訴人商標の著名性を認めているかどうかは、被控訴人商標の著名性とは全く関係がない。
 なお、控訴人が挙げる甲第63号証ないし第72号証の商標は、被控訴人がそのサイトを開設するより前に出願されたものである。甲第73号証及び第74号証については、被控訴人商標とは、指定商品・役務が異なる。したがって、これらを根拠に、特許庁が被控訴人商標の著名性を認めていないとすること自体も、誤りである。
(3) 控訴人の主張(1)B(混同のおそれ)に対して
 JPNICもJPRSも、ドメイン名の登録時に、他のドメイン名との類似性を判断する運用をしていない。
 ドメイン名が著名になればなるほど、混同のおそれが少なくなるなどという経験則は存しない。そもそも、紛争処理方針は、「同一又は混同を引き起こすほど類似していること」と定めており、現実に混同が生じていることは要件ではない。
(4) 控訴人の主張(1)C(信義則違反)に対して
 先使用者が有する利益も、一定の場合には保護されないことは、例えば不正競争防止法11条1項2号ないし4号、商標法32条1項の規定に現われている。控訴人が本件ドメイン名を先に登録し、使用していても、不正の目的が認められるに至れば、紛争処理方針4条a(B)に該当し、その登録を維持する正当な利益が失われる、と解すべきは、当然である。
(5) 控訴人の主張(2)(4条a(B)・控訴人の不正の目的での使用)に対して
@ 控訴人は、原告準備書面(2)で、リアルからアクセス数に応じた分配を受けていることを自認している。
A 控訴人が、自ら発信すべき情報を何ら持たないのに、控訴人サイトを閉鎖せず、そこにアクセスする者を、強制的にリアルのサイトに転送するという、本件ドメイン名の使用態様からは、リアルのサイトに転送しアクセスさせることについて、リアルから何らかの対価を得ていることが明らかである。
(6) 控訴人の主張(3)(紛争処理方針4a(A)・登録についての被控訴人の権利ないし正当な利益)に対して
 控訴人提出の証拠によっても、控訴人が本件ドメイン名の名称で一般に認識されているほどの周知性を獲得したものとは認められない。
 甲第22号証ないし第45号証は、女子高生サイトとしての広告であり、本件で問題となった本件ドメイン名の利用形態を前提とする広告ではない。
 甲第47号証ないし第62号証には、他のウェブサイトの広告費用が含まれ、あるいは転送先サイトの製作や運営のための支出費用も含まれている。これらによっては、本件ドメイン名の広告掲載料がいくらであるかは分からない。これらは、そもそも、控訴人が、本件ドメインを、「real.co.jp」への転送のためのものとした後のものであり、本件ドメイン名の広告の証拠であるはずがない。さらに、株式会社ベネットコミュニケーションが広告費を支出した証拠も含まれている。
 したがって、控訴人は、本件ドメイン名の登録について、権利又は正当な利益を有してはいない。
第4 当裁判所の判断
 当裁判所も、控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり付加するほか、原判決の「第3 当裁判所の判断」のとおりであるから、これを引用する。
1 4条a(@)について
(1) ドメイン名の構造及び要部の判断について
ア 控訴人は、ドメイン名は、ネットワーク上のコンピューターを識別するためのもので、いわば、「住所」、「氏名」のようなものであり、一字でも違えば全く別のコンピューターを指すから、誤認混同のおそれはなく、また、商標等の機能を持つものではないから、「goo」の部分を切り出して要部として、被控訴人ドメイン名や商標と比較することは適切でない、と主張する。
イ ドメイン名の本来の機能が、控訴人主張のとおりのものであること、すなわち、ドメイン名とネットワーク上のコンピューターは1対1に対応しており、ネットワークでコンピューターに接続する処理において、異なるドメイン名が同じものと誤認混同されるおそれがないことは、弁論の全趣旨で明らかである。
 しかし、そのことは、ドメイン名について誤認混同という現象が生じ得ないことに、何ら結び付くものではない。控訴人がいうドメイン名の機能が示されるのは、コンピューターに正確にドメイン名が入力された後の処理に関してであって、その前提となる入力の段階で二つのドメイン名の間に誤認混同が生じるかどうかは、これとは全く別の問題であるからである。インターネットの利用者等が、インターネット上に、あるいは、雑誌等他のメディア(媒体)に、現われたドメイン名に接する際に、これを読み間違え、あるいは、これをキーボードやマウスの操作等によりコンピューターに入力する際に、打ち間違えるなどして、本来入力すべきドメイン名の代わりに他のドメイン名を入力してしまうことは、十分あり得ることである。もし、このようなことがあり得ないのであれば、紛争処理方針4条a(@)のような規定を設けることは全く無意味であり、上記4条a(@)が、混同を問題にしていることは、疑いようのないところである。
 ネットワーク上のドメイン名(ひいてはそれが指すIPアドレス)が唯一無二のものであるとしても、そのことは、ドメイン名が、インターネットの利用者等の認知・行動との関係で、他のドメイン名、商標等の他の表示と類似し得ることを、何ら否定するものではない。
ウ トップレベルドメイン名「jp」や、第2レベルドメイン名「co」、「ne」が付されたドメイン名は極めてありふれたものであり、それらを含むドメイン名は多数あるから、ドメイン名の構造についての知識がない者はもちろん、知識がある者であっても、特に着目し、注意を払うものではないと考えられる。もっとも、第3レベルドメインが、例えば、「tokyo」、「suzuki」など、固有名詞でも、造語性がなく、よく使用されているものであれば、さらに第2レベルドメインや第1レベルドメインにまで注意することもあろうが、そうでなければ、基本的に、第3レベルドメイン名だけに注意が払われることになる。
 結局、インターネット上においてもインターネット外においても、人がドメイン名を認識する場合、国別や組織別を除いた、いわば固有名詞ともいえる第3レベルドメインが、主として注目されるものと認められる。
 したがって、第3レベルドメインの部分を、利用者の注意を引き識別性の中心となるものとして、切り出す手法に誤りはない。
(2) 被控訴人商標の著名性について
 控訴人は、被控訴人商標の著名性は立証されていない、と主張する。しかし、原判決は、単位期間当たりの被控訴人サイトのアクセス数(ページビュー)が極めて多数に上り、著名であること、同サイトに被控訴人商標が掲載されていることを根拠として、被控訴人商標が著名であると認定しているものであって、そこに何ら誤りはない。
 そもそも、紛争処理方針4条a(@)は、「申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こす」と定めており、商標だけを、同一性又は類似性の対象としているものではないから、被控訴人ドメイン名が著名であると認められる以上、被控訴人商標の著名性の有無は、もともと、4条a(@)の要件の充足についての結論を、左右するものではない。
(3) 混同のおそれについて
ア インターネットの利用者が、ドメイン名を手掛かりに、それが指すサイトにアクセスしようとする場合、@アドレス欄にドメイン名を直接入力する、Aサーチエンジンの検索語入力欄に、検索語を入力する、Bリンクやバナーからたどる、等の方法が考えられる。
 そして、「ne」と「co」の区別を意識せずに、あるいは仮に意識したとしても、被控訴人が株式会社であることから、第2レベルドメインが「co」ではないかと誤信して、@の方法において、被控訴人サイトにアクセスするつもりで、「goo.co.jp」と入力すること。また、Bの方法において、「goo.co.jp」が、被控訴人ドメイン名であると誤信して、リンクないしバナーをクリックすることは十分あり得ることである。
 Aの方法においても、サーチエンジンの検索語入力欄に、被控訴人ドメイン名を入力するつもりで、「goo.co.jp」と入力することや、単に「goo」とだけ入力し、表示された検索結果のうち、「goo.co.jp」を被控訴人ドメイン名と誤認混同して、控訴人サイトにアクセスすることも、十分あり得ることである。
 以上のとおりであるから、本件ドメイン名と被控訴人ドメイン名は、誤認混同のおそれがあるほど類似していると認めることができる。
イ 控訴人は、あるドメイン名が、利用者の間で広く知られるようになれば、これが他のドメイン名と混同されることはむしろ少なくなる、と主張する。しかし、このような主張を認めることはできない。控訴人の主張は、利用者の間で広く知られるようになるということが、正確に認識され、正確に入力されるということを意味することを、当然の前提にするものであるのに、そのような前提が認められないことは論ずるまでもないことであるからである。被控訴人ドメイン名についても、それについて知った利用者の中には、不正確な形でしか認識していなかったり、正確な形で認識していても入力に当たり間違えたりする者もいるであろうことは、見やすい道理というものである。そして、利用者の間で広く知られて現実に利用する者の数が大きくなればなるほど、誤った入力の数は増加することになっていくのである。確かに、利用者が、ブラウザの「お気に入り」に登録するなどの方法により、間違って控訴人サイトに入らないようにすることも十分考えられることである。しかし、ある表示と他の表示とを誤認混同することを経験した者が、その原因に気づき、その後同じ誤認混同をしない工夫をすることがあるからといって、一般的に、相互に類似する表示間の、誤認混同の可能性がなくなるとはいえないのである。
ウ 控訴人は、苦情件数は、被控訴人サイトのページ・ビュー数に比べ、わずかであるとして、実際の誤認混同の可能性は極めて低い、と主張する。
 しかし、控訴人が主張の根拠とする苦情件数は、現実に苦情等を申し立てた者の数を示すにすぎない。前述のとおり、本件ドメイン名と被控訴人ドメイン名は、利用者の注意を引き識別性の中心となる部分が同一であり、その他の部分は、インターネット利用者の注意を余り引かないか、あるいは、第2レベルドメイン名「co」のように、場合によっては、かえって被控訴人ドメイン名ではないかと認識させるものであるかであるから、実際に本件ドメイン名を被控訴人ドメイン名と誤認混同した者の数は、苦情を申し立てた者の数よりはるかに多いと推認することができる。
エ 本件ドメイン名と被控訴人ドメイン名との誤認混同に、インターネットの利用者の側の不注意により生じるという要素があるとしても、そのことは、何ら、4条a(@)の要件としての混同のおそれを否定することに結び付くものではない。一方では、インターネットが広く普及した現在では、そこにある程度不注意な利用者が存在することは避けられない前提というべきであり、他方、上記誤認混同が、前記のような本件ドメイン名と被控訴人ドメイン名の類似度が全くあるいはほとんど寄与することのない、偶発的なものとして、極めて低い確率でしか生じないものであるとは、到底認めることができないからである。
オ 以上のとおりであるから、混同のおそれはあるものと認めることができる。
(4) 信義則違反について
ア 控訴人は、@JPNICが、被控訴人ドメイン名の登録を認めたのは、本件ドメイン名と類似しないと判断したためであるのに、本件の裁定で、これらが類似すると判断することは、ドメイン取得ルールを遡及して変更することにほかならない、A紛争解決方針は、ドメイン名の移転、譲渡の禁止という原則を変更するものであり、また、商標などと関連づけて不正使用の目的を判定するなど、それまでのドメイン取得ルールと矛盾するものとなっているから、インターネットの利用者を混乱に陥れることを避けるためには、ドメイン取得ルールに沿って、紛争処理方針を解釈すべきである、と主張する。
イ インターネットは、その前身が軍事目的のため開発され、その後の研究目的の利用に加え、最近になって、商業目的にも利用されるようになったものであり、通信手段等の一部として、それを介して様々な商取引が行われるようになった。そして、インターネット上では、ドメイン名を手がかりに目的のサイトにアクセスすることが一般的であることから、ドメイン名が、商標と同じように、インターネットでの取引者の同一性、ひいてはそれが扱う商品・役務の出所を識別し得る機能を果たすようになり、それに伴い、インターネット外の取引における商標の不正使用等と同様に、インターネット上でも、不正にドメイン名を登録、使用することにより、他人の著名なドメイン名の顧客吸引力を利用し、あるいはインターネット上の取引への参入を妨害する者が出現するようになった。
 (甲第11号証、乙第10号証の253、254、346、366、380、413、447、第25号証等)
ウ 紛争処理方針は、その内容自体と上記認定事実とに照らし、上記のような状況に対応するために定められた、と認められるものである。このような紛争処理方針において、ドメイン名の取消しや移転を求めるための要件は、前記のとおり、@申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表示と、登録者のドメインが同一又は類似していること、A登録者が、当該ドメインの登録について権利又は正当な利益を有していること、B登録者の当該ドメインが、不正の目的で登録又は使用されていること、とされている。上記の状況の下に上記の内容のものとして定められた紛争処理方針を、不合理なものであるとすることはできない。
 いったん登録されたドメイン名が、後日になって、前記各要件が充足されていると認められて、移転又は取消しの対象となるのは、登録時にそのような審査がなされない(少なくとも、使用については、登録時における審査ということ自体、およそあり得ない。)以上、何ら首尾一貫しないことではない。大企業が多額の広告、宣伝費を費やし、著名性を獲得しただけで、前記各要件が充足されるものではないことは、文言上明らかであるから、原審の解釈によれば、強者を不当に優遇する結果となるとの控訴人の主張も当たらない。
 インターネットの利用態様が、より多様化し、商取引がそれを介して行われることも多くなった以上、一般の商取引を規律する決まりを、場合によってはインターネットの特徴に応じて修正を加えつつも、インターネットの使用にも適用しなければならなくなることは、避けられない。紛争処理方針の実施が、従来のドメイン取得の決まりと異なる部分があったとしても、何ら、不当にインターネットの利用者を混乱に陥れるものではない。
エ 以上のとおりであるから、紛争処理方針の制定及びその本件における適用は、信義則違反となる、との控訴人の主張には理由がない。
2 4条a(B)について
(1) 利益の分配の不存在
@ 控訴人は、原判決が、控訴人サイトから転送先サイトに転送され、その結果生じたアクセス数に応じて、控訴人がリアルから利益の分配を受けるようになった、と認定したことは、証拠に基づかないものである、と主張する。
A しかし、原審原告準備書面(2)において、控訴人は、控訴人サイトを、独自のコンテンツを含むサイトから、転送先サイトに転送するサイトに変更した経緯、理由について、「ベネットコミュニケーションは、「goo.co.jp」のコンテンツをアダルト関係に変更した後、何とか自社でコンテンツ内容を作成していたが、ベネットコミュニケーションが内容作成まで行うことには限界があった。また、事業収益の面から見ても、より容易に収益をあげられるようにしたいという原告の希望もあった。このため、ベネットコミュニケーションは、平成11年7月ころ、アダルトサイトである「real.co.jp」へ転送させることを原告に提案した。これによって、ベネットコミュニケーションは、コンテンツ内容を自社で継続的に作成するという加重な負担を回避できたし、原告もコンテンツ内容がいつまでも更新されないという状況から脱することができた。また、「real.co.jp」へのアクセス数に応じて収益を上げられることから、原告としても経費を節減しつつ、効率的な収益獲得が期待された。」(同書面8頁11行目〜21行目)、と主張し、また、原審原告準備書面(3)においても、「原告がベネットコミュニケーションからの申入れにしたがって、平成11年7月ころ「goo.co.jp」のコンテンツを転送サイトに変更したのは、・・・B原告は、事業収益の面から見てより容易に収益をあげられるようにしたいという希望を有していたが、転送サイトにすることで効率的な収益獲得が期待されることなどの事情によるものであった。」(同書面7頁12行目〜20行目)、と主張し、控訴人サイトへアクセスする者を転送先サイトに転送することにより、経費を削減しつつ、利益を得ることを目的として、被控訴人サイトを転送サイトに変えた、と述べている。
B 控訴人サイトが、転送サイトの役割を果たすようになった時点において、インターネットにおいて、あるサイトが、広告ないしバナー広告を掲載し、顧客を広告主のサイトにアクセスさせるなどの態様で、誘引することにより、広告を掲載したサイトの保有者が、経済的な対価(一種の広告料)を広告主から得るというビジネスのあり方が定着していた(乙第10号証の3、23、24、134、310、351、357、364等)。
C 以上からは、控訴人サイトは、転送先サイトの内容を広告するものではないとはいえ、控訴人サイトにアクセスした者を、転送により、転送先サイトに「自動的に」アクセスさせ、誘引するものであったから、そのことによりリアルから対価を得ていたものと、優に認定することができる。
(2) アクセス数と宣伝広告について
@ 控訴人は、アクセス経路を考えずに控訴人サイトにアクセスする者の数と、転送先サイトに入る者の数を単純に比較することはできない、と主張する。
 控訴人サイトにアクセスする態様として、その内容を説明したバナー広告やリンクをたどる場合には、どのようなサイトか認識した上でアクセスする者も存在すると認められるから、単純に、控訴人サイトにアクセスした者全員が、被控訴人サイトと誤認してアクセスしたとは認められない、という趣旨であれば、それは控訴人主張のとおりである。
 しかし、原判決は、控訴人サイトが、自動転送をやめて、アダルトサイトであることを明示してリンクを張った転送先サイトについて、控訴人サイトからそのリンクをたどり転送先サイトにアクセスした者が1日当たり数十件であるのに対し、控訴人サイトの1日当たりのアクセス数が3万3、4000件であったということからすれば、アダルトコンテンツを目的として、控訴人サイトにアクセスした者が多数いるとは認められないこと、被控訴人サイトが著名でアクセス数も極めて多いこと、本件裁定が申し立てられた時点においても、控訴人サイトは、1日に3万件程度のアクセスがあったと推認されることを併せ考慮すると、控訴人サイトにアクセスした者の大半は、被控訴人サイトと誤認混同したか入力ミスをしたかであると推認したものであって、その判断は相当である。
 そもそも、原判決は、上記認定事実のみではなく、被控訴人サイトが著名になった後、控訴人が、本件ドメイン名の使用態様を変更し、すなわち、転送先サイトへの転送目的にのみ利用し、転送の対価としてアクセス数に応じた利益をリアルから得るようになったとの事実をも併せて、不正の目的での使用を認定したものであり、同認定に誤りはない。
A 控訴人は、費用をかけて、控訴人サイトの宣伝・広告を行ってきたと主張し、これに沿う証拠(甲第25号証ないし第45号証、第47号証ないし第62号証)を提出する。しかし、これらの証拠によっても、控訴人サイトの宣伝・広告のためにかけた具体的な額が全く明らかではなく、前記の認定を覆すには足りない。
3 4条a(A)について
 前記2(2)@のとおり、控訴人サイトを訪れた者のうち、アダルトコンテンツに興味がある者の数は決して多くないと認められる。また、控訴人は、控訴人サイトに関する雑誌への広告(甲第22号証ないし第24号証)を証拠として提出するが、そこには、控訴人の名称は記載されていない。
 結局、インターネットの利用者一般はもちろんのこと、アダルトコンテンツに興味を持つユーザーの間においても、控訴人が、本件ドメイン名の名称で一般に認識されていたと認めることはできない。
4 結論
 以上検討したところによれば、、控訴人の請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。そこで、これを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法67条、61条を適用して、主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第6民事部
 裁判長裁判官 山下和明
 裁判官 阿部正幸
 裁判官 高瀬順久
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