判例全文 line
line
【事件名】「バドワイザー」商標権事件
【年月日】平成14年10月15日
 東京地裁 平成12年(ワ)第7930号 商標権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結の日 平成14年6月17日)

判決
原告 アンホイザー・ブッシュ・インコーポレイテッド
訴訟代理人弁護士 北澤正明
同 古田啓昌
同 城山康文
同 中田直茂
訴訟復代理人弁護士 岩瀬吉和
補佐人弁理士 神林恵美子
被告 ブジェヨビキー・ブドバー・ナロドニ・ポドニク
被告 株式会社アイコン
両名訴訟代理人弁護士 鼎博之
同訴訟復代理人弁護士 北沢義博
同 二関辰郎
被告 日本ビール株式会社
被告 シャンパンハウス株式会社(旧商号 ビアーアンドシャンパンハウス株式会社)
両名訴訟代理人弁護士 太田建昌


主文
1 被告日本ビール株式会社及び被告シャンパンハウス株式会社は、別紙被告標章目録5記載の標章を付した瓶ビールを輸入し、譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示若しくは所持し、又はビールに関する広告に上記の標章を付して展示し若しくは頒布してはならない。
2 被告日本ビール株式会社及び被告シャンパンハウス株式会社は、原告に対し、連帯して399万8292円及びうち294万9760円に対する平成13年1月1日から、うち104万8532円に対する平成12年4月20日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告の被告日本ビール株式会社及び被告シャンパンハウス株式会社に対するその余の請求を、いずれも棄却する。
4 原告の被告ブジェヨビキー・ブドバー・ナロドニ・ポドニク及び被告株式会社アイコンに対する請求を、いずれも棄却する。
5 訴訟費用は、原告に生じた費用の4分の1と被告日本ビール株式会社及び被告シャンパンハウス株式会社に生じた費用を被告日本ビール株式会社及び被告シャンパンハウス株式会社の連帯負担とし、原告に生じたその余の費用と被告ブジェヨビキー・ブドバー・ナロドニ・ポドニク及び被告株式会社アイコンに生じた費用を原告の負担とする。
6 この判決は、第1、2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 原告の請求
1 被告ブジェヨビキー・ブドバー・ナロドニ・ポドニク(以下「被告ブドバー」という。)及び被告株式会社アイコン(以下「被告アイコン」という。)は、別紙被告標章目録1、2、3又は4記載の標章を付した瓶ビールを輸入し、譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示若しくは所持し、又はビールに関する広告に上記の標章を付して展示し若しくは頒布してはならない。
2 被告ブドバー及び被告アイコンは、別紙被告標章目録1、2、3又は4記載の標章を付した瓶ビールを廃棄せよ。
3 被告ブドバー、被告日本ビール株式会社(以下「被告日本ビール」という。)及び被告シャンパンハウス株式会社(以下「被告シャンパンハウス」という。)は、別紙被告標章目録5又は6記載の標章を付した瓶ビールを輸入し、譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示若しくは所持し、又はビールに関する広告に上記の標章を付して展示し若しくは頒布してはならない。
4 被告ブドバー、被告日本ビール及び被告シャンパンハウスは、別紙被告標章目録5又は6記載の標章を付した瓶ビールを廃棄せよ。
5 被告ブドバー及び被告アイコンは、原告に対し、連帯して1300万円及びこれに対する平成12年4月20日(本訴提起の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 被告ブドバー、被告日本ビール及び被告シャンパンハウスは、原告に対し、連帯して937万2624円及びこれに対する平成12年4月20日(本訴提起の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 前提となる事実関係(当事者間に争いのない事実、弁論の全趣旨に加えて該当部分末尾掲記の証拠により認められる。)
(1) 原告
 原告は、「Budweiser」の名称のラガービールの製造販売等を主たる目的とする米国法人であり、その製造に係るビールに「Budweiser」、「Bud」、「バド」の各名称(以下、これらを併せて「原告名称」という。)を付して販売している。
(2) 被告ら
ア 被告ブドバーは、ヨーロッパを中心として「Bud’jovicky」ないし「Budweiser」の名称のビールを販売しているチェコ共和国の法人である(以下、「Bud’jovicky」の語は、すべて「Budejovicky」と表記する。)。
イ 被告アイコンは、ビールの輸入販売等を業とする会社であり、被告ブドバーの我が国における正規の販売代理店として、同被告からビールを輸入し販売している。(弁論の全趣旨。以下、被告ブドバーと被告アイコンを併せて「被告ブドバーら」ということがある。)
ウ 被告日本ビール及び被告シャンパンハウスは、酒類の輸入販売を主たる目的とする会社である。上記被告両名は、ヨーロッパ等の市場でビールを購入し、正規の販売代理店としてではなく我が国に輸入するいわゆる並行輸入も行っている。(丙1、弁論の全趣旨。以下、被告日本ビールと被告シャンパンハウスを併せて「被告日本ビールら」ということがある。)
(3) 原告の商標権  
 原告は、別紙原告登録商標目録1、2記載の各商標につき、商標権を有している(以下、別紙原告登録商標目録1記載の商標を「原告登録商標1」、同2記載の商標を「原告登録商標2」といい、これらを併せて「原告各登録商標」という。)。
(4) 被告らの行為
 被告ブドバーは、その製造に係る別紙被告標章目録1ないし4記載の各標章(以下、それぞれ「被告標章1」などといい、被告標章1ないし6を併せて「被告各標章」と総称する。)の付された瓶ビール(検甲2。以下「チェコ語標章ビール」という。)を日本に輸出し、被告アイコンは、被告ブドバーの正規代理店として、これを輸入して、日本国内において販売している。
 チェコ語標章ビールにおける被告標章1ないし4の使用態様は、別紙被告標章使用態様目録1の写真のとおりである。すなわち、瓶の正面に、被告標章1を中央に大書したラベルが付されており、同ラベルの下部には被告標章4が小さな活字で記載されている(別紙被告標章使用態様目録2(1)参照)。瓶の首の部分には、赤い冠形(リボンを留めたパラフィンの上から印章を押捺したものをデザインしたものと認められる。)の被告標章2のラベルが付されている(同目録2(2)参照)。そして、瓶の裏面には、上部に被告標章1が大書され、そのすぐ下に被告標章3が小さな活字で記載されたラベルが付されている(同目録2(3)参照)。
 被告ブドバーは、被告標章5、6の付された瓶ビール(検甲3、4。以下「ドイツ語標章ビール」という。)をも製造しており、これをヨーロッパ等の地域において販売している。被告日本ビールは、ドイツ語標章ビールを輸入して日本国内において販売していた(被告シャンパンハウスがドイツ語標章ビールの輸入販売を行っていたかどうか、及び、被告ブドバーがドイツ語標章ビールを日本に輸出して販売させ、あるいは被告日本ビールらの販売に関与していたかどうかについては、後記のとおり、争いがある。)。
 ドイツ語標章ビールにおける被告標章5、6の使用態様は、瓶の正面に、被告標章5を中央に大書したラベルが付され、瓶の首の部分には、赤い冠形の被告標章6のラベルが付されている、というものである。
 被告ブドバーは、その製造に係る瓶ビールを平成10年(1998年)10月に大阪で開催された「インターナショナル・ビール・サミット98」(以下「国際ビールサミット」という。)に出展した(これがチェコ語標章ビールかドイツ語標章ビールかについては、後記のとおり、争いがある。)。
2 本件における争点
 原告は、被告ブドバー及び被告アイコンはチェコ語標章ビールを輸入し、被告ブドバー、被告日本ビール及び同シャンパンハウスはドイツ語標章ビールを輸入して、それぞれ日本国内において販売したと主張する。そして、被告らがこれらのビールを輸入して、我が国において販売等する行為は、原告の商標権を侵害するとともに、不正競争行為にも該当するとして、被告らに対し、商標法36条又は不正競争防止法2条1項1号若しくは2号に基づき(選択的)被告各標章を付した瓶ビールの輸入、販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに、商標権侵害(商標法38条2項)又は不正競争行為(不正競争防止法5条1項)に基づき(選択的)損害賠償等を求めている。
 これに対して、被告らは、ドイツ語標章ビールの輸入販売に被告ブドバーが関与した事実を争うとともに、被告各標章を付した瓶ビールの輸入等が原告の商標権を侵害し、不正競争行為に該当することを争っているほか、@被告ブドバーの前身である法人と原告との間の1911年及び1939年の合意に基づき、被告らが日本において「Budweiser」の名称を使用することは容認されている、A原告は、19世紀後半の創設時において、被告ブドバーのビール醸造の歴史から、その地名・名称を採用し、その製法をまねたものであるから、チェコのボヘミヤ地方のバドワイス(ドイツ語による表音は「ブドヴァイス」であるが、本判決では、英語による表音に従い「バドワイス」という。なお、表記は、ドイツ語、英語ともに「Budweis」である。)という地名に由来する被告各標章の使用につき、差止め等を請求することは権利の濫用に当たり許されないなどと主張している。
 本件における当事者双方の主張は、概要、上記のとおりであるところ、本件の争点は次のとおりである。
(1) 被告ブドバーが、ドイツ語標章ビール(被告標章5、6を付した瓶ビール)の輸入等に関与しているかどうか(争点1)。
(2) 商標権侵害の成否(争点2)
ア 原告各登録商標と被告各標章が類似するかどうか。
イ 原告各登録商標の効力が被告ブドバーの被告標章4の使用に及ぶかどうか。
ウ 被告標章5、6の「Budweiser」の表示は、「商品の産地を普通に用いられる方法で表示する商標」(商標法26条1項2号)に該当するかどうか(被告日本ビール、同シャンパンハウスとの関係)。
(3) 不正競争行為該当性(争点3)
ア 原告名称が、「著名な商品等表示」(不正競争防止法2条1項2号)に該当するかどうか。
イ 原告名称が、需要者の間に広く認識されている商品等表示(同条1項1号)に該当するかどうか。
ウ 被告らが被告各標章を用いることにより、原告の商品又は営業との間に誤認混同のおそれが生じているかどうか。
エ 原告名称と被告各標章が類似するかどうか。
オ 被告標章4を瓶ビールに表示することは、「自己の氏名の使用」(不正競争防止法12条1項2号)に該当するかどうか(被告ブドバー、同アイコンとの関係)。
(4) 原告の本訴請求は、被告ブドバーの前身会社と原告との間の1911年及び1939年の合意に違反し許されないかどうか(争点4)。
(5) 原告が原告名称を採用した経緯等に照らし、原告の被告らに対する本訴請求は権利の濫用に当たり許されないかどうか(争点5)。
(6) 原告の損害額(争点6)。
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告ブドバーのドイツ語標章ビールの輸入等への関与)
【原告の主張】
(1) 被告ブドバー自身の関与
 被告ブドバーは、平成10年に大阪で開催された国際ビールサミットに出品するため、ドイツ語標章ビールを自ら輸入し、同展示会において、このビールにつき、譲渡、引渡しのための展示を行い、これを参加者に譲渡し又は引き渡した。
 被告ブドバーは、本件訴訟において国際ビールサミットでドイツ語標章ビールを所持、展示したことをいったん自白しながら(被告ブドバーら平成13年5月18日付け「訴の変更申立に対する答弁書」9頁参照)、後にこれを撤回した(被告ブドバーら同年7月19日付け第1準備書面参照)。
 しかし、被告ブドバーが自白した事実は真実に合致するものであるから、これを撤回することは許されない。すなわち、被告ブドバーが国際ビールサミットにドイツ語標章ビールを所持、展示したことは、国際ビールサミット審査委員会作成の賞状(甲30)及び同委員会のホームページの記載(甲31)等から認められる。したがって、被告ブドバーが、少なくとも平成10年(1998年)の段階において、ドイツ語標章ビールの輸入、販売に関与していたことは確実である。
(2) 被告日本ビールらの行為への関与
 被告日本ビール及び同シャンパンハウスは、従前からドイツ語標章ビールを輸入しているが、被告ブドバーは国際ビールサミットへの出品を通して、被告日本ビールらの日本におけるドイツ語標章ビールの販売を教唆・幇助している。
 また、被告ブドバーは、原告が「Budweiser」の商標を登録している日本などの国においてドイツ語標章ビールが転売されないように注意する義務があるのに、これを怠り、被告日本ビールらによるドイツ語標章ビールの輸入販売行為を知りながら、これを放置した。原告は、被告ブドバーに対し、この注意義務違反に基づく損害賠償請求権を有する(民法709条)。さらに、被告ブドバーは、ドイツ語標章ビールの製造販売により利益を得ており、この利益は原告の商標権等を侵害することにより法律上の原因なくして生じたものであるから、原告は不当利得返還請求権を有する(民法703条、704条)。  
【被告ブドバー及び同アイコンの主張】
(1) 「被告ブドバー自身の関与」をいう原告の主張について
 被告ブドバーは、国際ビールサミットにおいて、ジャーマン・ライト・ラガー部門で銀賞を受賞したが、この時に出品したビールはチェコ語標章ビールであり、ドイツ語標章ビールは出品していないし、輸入もしていない。
 被告ブドバーが前記の裁判上の自白をしたのは、国際ビールサミットの状況を撮影した写真の撮影場所を誤解したことによる。被告ブドバーが国際ビールサミットにドイツ語標章ビールを出品していないことは、輸出担当者の宣誓供述書(乙24)により裏付けられており、前記自白は錯誤に基づきかつ真実に反するものであるから、その撤回は認められる。
(2) 「被告日本ビールらの行為への関与」をいう原告の主張について
 原告の主張は、否認し、争う。
 ドイツ語標章ビールを日本に輸入し、販売する行為は原告の商標権を侵害しないし、不正競争行為にも該当しない。また、被告ブドバーは被告日本ビールらの輸入販売を教唆・幇助していない。
 被告日本ビールらは、ドイツ語標章ビールをいわゆる並行輸入により日本に輸入しているものである。被告ブドバーがこれを阻止することは不可能であるから、原告主張の注意義務は観念できないし、被告ブドバーが被告日本ビールらによるドイツ語標章ビールの販売により利得を得るという関係に立つものでもない。
2 争点2(商標権侵害の成否)について
【原告の主張】
(1) 原告各登録商標と被告各標章の類否
ア 被告標章1
(ア)被告標章1は、筆記体の欧文字を二段書きしたもので、「Budejovicky」と「Budvar」とに分離される。そして、それらのいずれも、ビールについて周知著名な登録商標である「BUD」(原告登録商標2)に他の文字である「’jovicky」(以下「ejovicky」と表記する。)又は「var」を結合させたものである。
 需要者の間に広く知られた他人の商標をその構成に含む商標の場合には、たとえ他の文字と一体に表されているものであったとしても、広く知られた商標からなる部分が需要者の関心を引くものであり、その部分が識別力を有する要部となる。したがって、被告標章1の要部は2か所の「Bud」の部分であり、これによって需要者に認識されることになる。
 仮に「BUD」の商標の周知著名性を考慮しない場合でも、被告標章1の外観をみると、唯一大文字で記載された「B」の文字が強い印象を与えるため、それに続く「ud」とともに、発音しやすい「Bud」の部分が注目されることになる。また、「Bud」の部分のアンダーラインは「Budejovicky」の他の部分のアンダーラインよりも太く、より強調されている。
 さらに、被告標章1の称呼からすると、日本人には「ejovicky」の部分の発音を理解することが非常に困難であるため、上段の「Budejovicky」については「バド・・・」のように、第1音節を構成する「Bud」の部分から「バド」との称呼が生じる。下段については、「Budvar」の第2音節部分である「var」は、日本人にとって発音が容易ではないから、同様に「バド」との称呼が生じる。
 以上によれば、被告標章1の要部と原告登録商標2(Bud)は同一であり、被告標章1と原告登録商標2は類似する。
(イ) 被告標章1において識別力を有する要部は「Bud」の部分であるところ、原告登録商標1(Budweiser)も、「Bud」ないし「バド」と表記され、呼称されることがあるため、被告標章1と誤認混同を生じることは明らかである。すなわち、被告標章1は原告登録商標1とも類似する。
 仮に被告標章1において「Budejovicky」の部分が一体として識別力を有するとしても、被告ブドバーの主張によれば、「Budejovicky」は「Budweiser」に相当するチェコ語であり、両者は同一の意味を有するということであるから、両者は観念を同一にする。すなわち、被告標章1と原告登録商標1とは、その表わす意味・意義が同一若しくは極めて近似し、取引上、出所の混同を生じるおそれがある。したがって、両者は類似するといわざるを得ない。
イ 被告標章2
 被告標章2は、被告標章1の「Budejovicky Budvar」のすべての文字を大文字ブロック体とし、それらを円形ラベル状にデザインしたものにすぎないから、被告標章1について述べたのと同様の理由で、原告登録商標1及び同2と類似する。
ウ 被告標章3
 被告標章3(バドバー)は、ビール瓶の裏側に貼られたラベルに商品説明に比して大きな文字で表記されており、ビールの商標として機能しているところ、この「バドバー」という語自体は何らかの意味を有するものではなく、ビールについて周知かつ著名な名称である「BUD」や「バド」に他の文字である「var」を結合させたものである。
 したがって、被告標章3の要部は「バド」の部分にあるというべきであるから、被告標章3は原告登録商標2(BUD)と類似する。
エ 被告標章4
 被告標章4は、欧文字で「BUDWEISER BUDVAR, NATIONAL CORPORATION」と一列に横書きしたものであるが、この表示は商品の出所を示しており、商標として機能している。
 そして、被告標章4のうちの「NATIONAL CORPORATION」の部分は、国営企業であることを表示したものにすぎず要部を構成しないから、これを除いた「BUDWEISER BUDVAR」の要部である「BUDWEISER」の部分と原告登録商標1(Budweiser)を対比すると両者は同一である。したがって、被告標章4は原告登録商標1と類似する。
オ 被告標章5
 被告標章5は、筆記体の欧文字を二段書きしたもので、「Budweiser」と「Budvar」とに分離される。そして、「Budweiser」の部分は「Budvar」の部分に比べて大きく記載され、「Budweiser」の部分にのみアンダーラインが引かれている。そのために、被告標章5は「Budweiser」の部分が視覚的に注目されるように構成されており、「Budweiser」の名称の周知著名性ともあいまって、この部分が要部として需要者に認識されている。
 したがって、被告標章5と原告登録商標1(Budweiser)は類似する。
カ 被告標章6
 被告標章6は、被告標章5の「Budweiser Budvar」のすべての文字を大文字ブロック体とし、それらを円形ラベル状にデザインしたものにすぎないから、被告標章5について述べたのと同様の理由で、原告登録商標1と類似する。
(2) 被告らの主張に対する反論
ア 被告ブドバーらは、被告標章4は被告ブドバーの商号を表示したものであり、商標としての機能を有していないと主張する。
 しかし、被告標章4の表示方法や記載態様からすれば、被告標章4は商標的機能、すなわち出所表示機能を有していることは明らかである。
イ 被告日本ビールらは、被告標章5、6の「Budweiser」の表示は産地表示(商標法26条1項2号)に当たり、原告の商標権の効力は及ばないと主張する。
 しかし、被告標章5、6の表示の位置(ビール瓶の胴中央に貼付されるラベルの中央又はビール瓶の首の部分に貼付されるラベルの中央)やその大きさ(各ラベルの面積の相当部分を占める)からすれば、産地を「普通に用いられる方法」で表示したものではない。
【被告ブドバー及び同アイコンの主張】
 被告各標章は、次に述べるとおり、原告各登録商標と類似しない。
(1) 被告標章1
 被告標章1が原告各登録商標に類似するとの主張は、争う。
 被告標章1の「Budejovicky Budvar」の表示は、同じ書体でまとまりよく一体的に表記されており、ことさらに「Bud」の部分のみが強調されているわけではない。「Budejovicky Budvar」は一体となった語であり、この2つの語が1つのまとまりとして他と識別可能な出所表示機能を有している。そうすると、「Budejovicky」は11文字からなり、「Budvar」は6文字であって、合計すると17文字になるから、原告各登録商標の「Budweiser」(9文字)、「BUD」(3文字)とは外観を異にする。
 また、称呼についても被告標章1は「ブジェヨビキブドバール」、「ブジェヨヴィツキーブドバー」等の称呼を生じるのに対して、原告各登録商標は「バドワイザー」、「バド」の称呼を生じるのであって、両者は音数、音構成を異にする。
 原告の主張は、被告標章1中の「Bud」の部分のみをことさらに強調し、標章に「Bud」の文字が含まれていれば、他の文字がどのように結合していようが需要者に対する識別力を有しないと断定するものであって失当である。
(2) 被告標章2
 被告標章2も、被告標章1について述べたのと同様の理由から、原告各登録商標と類似しない。
(3) 被告標章3
 被告標章3が原告登録商標2(BUD)に類似するとの主張は、争う。
 被告標章3(バドバー)は日本語のカタカナであるのに対し、原告各登録商標は英語で表記されており、外観を異にする。
 また、称呼においても、原告登録商標1の「バドワイザー」ないし原告登録商標2の「バド」、「バッド」という称呼と「バドバー」の称呼は異なる。
 原告は、被告標章3は周知かつ著名な「BUD」の商標に「var」を組み合わせた名称であると主張するが、「バドバー」とは「Bud’jovicky Pivovar」(バドワイスの醸造所。以下「Budejovicky Pivovar」と表記する。)という単語の最初と最後の3文字ずつを組み合わせた造語であって、単に「BUD」という文字に「var」を付加したものではない。
(4) 被告標章4
 被告標章4が原告登録商標1(Budweiser)に類似するとの主張は、争う。
 被告標章4(BUDWEISER BUDVAR, NATIONAL CORPORATION)は、被告ブドバーの商号を表示したものであって、商標としての機能を有しておらず、原告各登録商標の効力は及ばない(別紙被告標章使用態様目録1、2(1)参照)。
 仮に、商標として機能しているとしても、被告標章4は全体的に一体として把握されるべきであって、原告登録商標1(Budweiser)に他の文字を結合させた造語として理解するべきではない。
(5) 被告標章5、6
 被告ブドバーは、前記1の「被告ブドバー及び同アイコンの主張」欄記載のとおり、ドイツ語標章ビールの輸入販売に関与しておらず、したがって、被告標章5、6を用いていないが、原告登録商標1との類否についていえば、これらは原告登録商標1(Budweiser)に類似しない。
【被告日本ビール及び同シャンパンハウスの主張】
 被告日本ビール又は被告シャンパンハウスに対する請求は、被告標章5、6を付した瓶ビール(ドイツ語標章ビール)の輸入販売のみに関するものであるから、その関係で答弁する。
(1) 被告シャンパンハウスの関与
 被告シャンパンハウスは、ドイツ語標章ビールの輸入販売に関与しておらず、したがって、被告標章5、6を用いていない。
(2) 原告各登録商標との類否等
 被告標章5、6が原告登録商標1(Budweiser)に類似するとの主張を否認する。上記被告各標章の使用が原告の商標権を侵害するとの主張を争う。
(3) 「Budweiser」の表示
 被告標章5、6における「Budweiser」の表示は、商標に関する法律及び制度が確立される19世紀のはるか以前から何百年にもわたって、ボヘミヤ地方に存在する町であるバドワイスを原産地とするビールであることを示すための「産地表示」として使用され、現在に至っている。
 したがって、上記各標章中の「Budweiser」の表示は、産地を表示したものであるから、原告登録商標1の効力は被告標章5、6に及ばない(商標法26条1項2号)。
3 争点3(不正競争行為該当性)について
【原告の主張】
(1) 原告名称が「商品等表示」に当たること
 原告名称のうち「Budweiser」及び「Bud」の名称は、原告がビールを中心とする商品につき、遅くとも1876年ころから使用している表示であって、これらの表示が付されたビール等の商品の出所が原告又はその関連会社であることを示す商品表示である。
 さらに、「Budweiser」の表示は、原告の日本子会社である「バドワイザー・ジャパン株式会社」のほか「Budweiser Phillipines,Inc.」「Budweiser Brasil Ltda」など世界中の原告の子会社の商号に取り入れられており、営業表示としても使用されている。
(2) 原告名称が著名な商品等表示であること(不正競争防止法2条1項2号)
 「Budweiser」、「Bud」及び「バド」の名称は、これらが付された商品・役務の出所が原告であることを示す商品等表示として著名である。
 原告は、「Budweiser」の商標につき、世界中でビールその他の商品及びサービスを指定商品等とする商標登録を有しており、我が国でも商標登録をしている(原告登録商標1)。原告は、「Budweiser」と同じ称呼を有する「バドワイザー」の商標につき我が国において商標登録を有するほか(第1665191号)、「Budweiser」を構成要素に含む商標についても商標登録している。また、原告は、「Bud」を全部大文字にした「BUD」の商標についても商標登録を有している(原告登録商標2)。
 その他に、原告は「Bud」の表示を「Bud Light」、「Bud Dry Draft」、「Bud Girls」及び「Bud Dry」という形で用いているほか、「BUD」の商標を「BIG BUD」、「BUD LIGHT」、「BUD JAPAN」といった形で用いている。上記のように接頭語又は接尾語として「Bud」又「BUD」の表示が用いられた場合でも、需要者は即座に原告の商品又は原告の関連会社の営業を想起するものであるから、「Bud」又「BUD」の表示は、接頭語又は接尾語として使用される場合も含めて原告の商品等表示として著名である。このことは、「Bud」をカタカナ書きした「バド」の表示についても、同様である(甲14、20、40、45参照)。
(3) 原告名称が周知であり、被告各標章の使用により誤認混同のおそれがあること(不正競争防止法2条1項1号)
ア 「Budweiser」、「Bud」及び「バド」の名称は、仮に著名でないとしても、これらが付された商品・役務の出所が原告であることを示す商品等表示として需要者の間に広く認識されている。
イ 被告各標章は後記のとおり、原告の商品等表示である原告名称と類似しているところ、本件で問題となっている原告と被告らの商品はいずれもビールであり、ビール瓶に商品又は営業を表示するものとして使用しているという被告らによる被告各標章の使用態様に照らすと、被告らの販売するビールと原告のビールないし原告の営業と被告らの営業との間には、誤認混同が生じている。
ウ 不正競争防止法2条1項1号にいう「混同を生じさせる行為」は、自己と他人を同一営業主体と誤信させる行為のみならず、両者の間にいわゆる親会社、子会社の関係や系列関係などの緊密な営業上の関係が存するものと誤信させる、いわゆる広義の混同を生じさせる行為を含む。
 本件で、原告及び被告らは、ともに酒類の製造販売を業としている。また、前記のとおり、原告の「Budweiser」、「Bud」及び「バド」の名称は、酒類とりわけビールに関して世界中で周知かつ著名であり、これらの商品等表示から原告のことを連想する者は多い。さらに、原告は世界的な企業であり、原告の商品等表示を付した商品は、時には原告による使用許諾を伴い、世界中で販売されている。加えて、本件で問題になっているビールは大衆向けの商品であり、日常的に大量に消費され、その価格も低廉であって、小売店、消費者といった需要者は、その購入に当たって慎重に注意して選別するものではない。したがって、被告らによる被告各標章の使用により、被告ブドバーの商品と原告の商品の出所が同一であるとの誤信はもとより、被告ブドバーらと原告との間に、いわゆる親会社、子会社の関係、系列関係、使用許諾関係などの緊密な営業上の関係が存するとの誤信のおそれを惹起している。
(4) 原告名称と被告各標章の類否
ア 被告標章1
(ア)被告標章1において、需要者に対する識別力を有する要部は、2か所の「Bud」の部分であり、これによって需要者に認識されることになる。
 すなわち、被告標章1の外観をみると、唯一大文字で記載された「B」の文字が強い印象を与えるため、それに続く「ud」とともに、発音しやすい「Bud」の部分が注目されることになる。また、「Bud」の部分のアンダーラインは「Budejovicky」の他の部分のアンダーラインよりも太く、より強調されている。
 被告標章1の称呼については、日本人には「ejovicky」の部分の発音を理解することが非常に困難であるため、上段の「Budejovicky」については「バド・・・」のように、第1音節を構成する「Bud」の部分から「バド」との称呼が生じる。下段については、「Budvar」の第2音節部分である「var」は、日本人にとって発音が容易ではないから、同様に「バド」との称呼が生じる。
 さらに、需要者の間で「Bud」の名称が周知かつ著名であることに照らせば、「Bud」に結合された「ejovicky」又は「var」が明確に認識されず、要部を構成しないことは明らかである。
 以上によれば、被告標章1の要部と原告の「Bud」の名称は同一であり、被告標章1は外観、称呼において「Bud」の名称と類似する。
(イ)原告の「Budweiser」の名称は、「Bud」ないし「バド」と略記され、略称されるから(このことは周知の事実である。)、「Bud」の部分を要部とする被告標章1と類似する。すなわち、被告標章1は「Budweiser」の名称とも類似する。
(ウ)なお、被告ブドバーは、世界各国における訴訟等の手続において、同被告の「Budejovicky Budvar」の商標と原告の「Budweiser」及び「Bud」の商標との類似性を主張している。例えば、被告ブドバーは、1996年6月、ポルトガルのリスボン地方民事裁判所において、原告による「Budweiser」及び「Bud」の商標の登録を阻むため、「『Budweiser』及び『Bud』の商標と同一の事項を意味し称呼も類似する被告ブドバーの商号『Budejovicky』とは両立し得ない。」と主張した。
イ 被告標章2
 被告標章2は、被告標章1の「Budejovicky Budvar」のすべての文字を大文字ブロック体とし、それらを円形ラベル状にデザインしたものであるから、被告標章1について述べたのと同様の理由で、「Budweiser」及び「Bud」の名称と類似する。
ウ 被告標章3
 被告標章3は、ビールについて周知かつ著名な「Bud」、「バド」の名称に他の文字を結合させたものである。「バドバー」は、何らかの意味を有する既成の語ではない。被告ブドバーら自身も「バドバーとは『Budejovicky Pivovar』(バドワイスの醸造所)という単語の最初と最後の3文字ずつを組み合わせた造語である。」と主張している。
 したがって、被告標章3の要部は「バド」の部分にあるというべきであるから、被告標章3は原告の「Bud」の名称と類似する。
エ 被告標章4
 被告標章4は、欧文字で「BUDWEISER BUDVAR, NATIONAL CORPORATION」と一列に横書きしたものであるが、この表示は商品の出所ないし製造者を示しており、商品等表示として使用されている。
 そして、被告標章4のうちの「NATIONAL CORPORATION」の部分は、国営企業であることを表示したものにすぎず、要部を構成しないから、これを除いた「BUDWEISER BUDVAR」の要部である「BUDWEISER」の部分と原告の「Budweiser」の名称を対比すると、少なくとも外観及び称呼において同一である。したがって、被告標章4は「Budweiser」の名称と類似する。
オ 被告標章5
 被告標章5は、筆記体の欧文字を二段書きしたもので、「Budweiser」と「Budvar」とに分離される。そして、「Budweiser」の部分は「Budvar」の部分に比べて大きく記載され、「Budweiser」の部分にのみアンダーラインが引かれている。そのために、被告標章5は「Budweiser」の部分が視覚的に注目されるように構成されており、原告の「Budweiser」の名称が周知かつ著名であることとあいまって、この部分が要部として需要者に認識される。
 したがって、被告標章5と「Budweiser」の名称は類似する。
カ 被告標章6
 被告標章6は、被告標章5の「Budweiser Budvar」のすべての文字を大文字ブロック体とし、それらを円形ラベル状にデザインしたものであるから、被告標章5について述べたのと同様の理由で、「Budweiser」の名称と類似する。
(5) 被告ブドバーらの主張に対する反論
 被告ブドバーらは、被告標章4をビールの瓶に表示することは「自己の氏名の使用」(不正競争防止法12条1項2号)に当たる旨主張する。
 しかし、同号の立法趣旨は、人格権の行使の一環ともいえる自己の氏名の自然な使用を禁止することは本人にとって酷であるのみならず、たまたま先に使用した者を優先することになって当事者間の公平に反するという点にあるのであるから、「自己の氏名」とは自然人の氏名を意味し、法人の商号は含まれないと解すべきである。
 仮に、法人の商号につき不正競争防止法12条1項2号の適用が認められるとしても、上記の立法趣旨からすれば、その適用があるのは、当該法人が設立され又は登記されている国の公用語で表示された名称に限られるところ、被告標章4は、被告ブドバーのチェコ語の商号である「Bud’jovicky Budvar,narodni podnik」(以下「Budejovicky Budvar, narodni podnik」と表記する。)とは異なっている。
 また、被告ブドバーが日本に進出した1995年当時において、既に原告の「Budweiser」の名称は著名になっていたのであるから、被告ブドバーには不正の目的、すなわち不正な利益を得る目的ないし他人(原告)に損害を加える目的を有していたというべきである。
【被告ブドバー及び同アイコンの主張】
(1) 原告名称についての不正競争防止法2条1項1号、2号の適用
ア 「著名な営業表示」でないこと
 原告は、「Budweiser」の表示は、原告の日本子会社である「バドワイザー・ジャパン株式会社」などの形で営業表示としても使用され、著名であると主張する。しかし、「Budweiser」の表示が上記のように営業表示として使用されているとしても、それはあくまでも例外であって、その営業表示が周知ないし著名なものとはいえない。
イ 「Bud」の名称について
 「Bud」の名称が接頭語又は接尾語として用いられた場合でも周知かつ著名な商品等表示に当たる旨の主張は、争う。
 原告の指摘する「Bud Light」、「BIG BUD」などの使用例は、いずれも「BUD」ないし「Bud」を独立の単語として用い、その後ろ若しくは前に「Light」、「BIG」などそれ自体独立した単語を置いたものである。原告は、「ejovicky」のようなそれ自体としては独立の単語とはならない文字列が「Bud」に直接つなげられた用例を示していない。原告がそのような用例を示せないのは、「Bud」が「Budweiser」の省略形にほかならないからである。
ウ 「バド」の名称について
 原告は、カタカナ表記の「バド」の名称についても、日本において周知かつ著名であると主張する。しかし、原告の指摘する証拠は、辞典において英語で表記された文字の読み方を示したものや、広告で「BIG BUD」の表記の下にかっこ書きで「ビッグバド」と記載したものであるから、カタカナ表記の「バド」自体が周知かつ著名であることの証拠としては不適切である。
エ 誤認混同のおそれのないこと
 原告の瓶ビール(検甲1)のラベルと被告ブドバーの瓶ビール(検甲2)のラベルを全体として比較すると、原告のラベルにおいては、そのほぼ真ん中に青字で大きく「Budweiser」と表記され、ABという文字が記載された丸い紋様のマークがその上部に表記され、その背景には大麦とホップの図柄とともに、鷲がラベルの上部に2羽描かれており、周りの下地が赤色でその周囲に銀色の枠があり、ラベルの白地部分に「KING OF BEERS Brewed by our original all natural process using Choice Hops, Rice and Fine Barley Malt」と青字で記載され、さらに赤字で「WORLD'S LARGEST SELLING BEER」という文字が記載されている。また、ビール瓶の首の部分には、帯状のラベルが貼付され、そこには、赤色の下地に白抜きの文字で「Budweiser」という文字が大きな字で、「KING OF BEERS」という文字が小さな字で記載されている。
 他方、被告ブドバーのラベルにおいては、そのほぼ真ん中に赤字で大きく「Budejovicky Budvar」と筆記体で表記され、その上に城とライオン様の動物がデザインされた丸い紋様のマークが表記され、その背景には中世の騎士が2人とライオン様の動物がデザインされた図柄が描かれており、周りの下地が白でその周りに金色の枠があり、ラベルの下部に「Premium Czech Lager」と黒色で記載され、さらに、赤色の下地に白抜きの文字で「BREWED AND BOTTLED BY THE BREWERY BUDWEISER BUDVAR, NATIONAL CORPORATION CESKE BUD?JOVICE(BUDWEIS) CZECH REPUBLIC」という文字(以下、「CESKE BUD?JOVICE」の語は、すべて「CESKE BUDEJOVICE」と表記する。)が記載されている(別紙被告標章使用態様目録1、2(1)参照)。また、ビール瓶の首の部分には、赤色の下地に白抜きの文字で「BUDEJOVICKY BUDVAR」という文字が丸い冠形のデザインの上に表記され、真ん中に城とライオン様の動物の図柄が記載されている(別紙被告標章使用態様目録1、2(2)参照)。
 外観は全体的に観察すべく、装飾的部分、文字的部分、絵画的部分などの一部又は残部の類否によって決すべきではないところ、この観点から上記の原告の瓶ビールのラベルと被告ブドバーの瓶ビールのそれを比較した場合、全体的な外観は異なっている。したがって、一般消費者が両者のビールを混同するということは異例の事態というべきであり、むしろ混同は生じないというべきである。
(2) 被告各標章が原告名称に類似しないこと
ア 被告標章1
 被告標章1が原告名称に類似するとの主張は、争う。
 被告標章1の「Budejovicky Budvar」の表示は、同じ書体でまとまりよく一体的に表記されており、ことさらに「Bud」の部分のみが強調されているわけではない。「Budejovicky Budvar」は一体となった語であり、この2つの語が1つのまとまりとして他と識別可能な出所表示機能を有している。そうすると、「Budejovicky」は11文字からなり、「Budvar」は6文字であって、合計すると17文字になるから、原告の「Budweiser」(9文字)、「Bud」(3文字)の名称とは外観を異にする。
 また、称呼についても被告標章1は「ブジェヨビキブドバール」、「ブジェヨヴィツキーブドバー」等の称呼を生じるのに対して、原告の名称は「バドワイザー」、「バド」の称呼を生じるのであって、両者は音数、音構成を異にする。
 原告の主張は、被告標章1中の「Bud」の部分のみをことさらに強調し、標章に「Bud」の文字が含まれていれば、他の文字がどのように結合していようが需要者に対する識別力を有しないと断定するものであって失当である。
イ 被告標章2
 被告標章2も、被告標章1について述べたのと同様の理由から、原告名称と類似しない。
ウ 被告標章3
 被告標章3が原告の「Bud」の名称に類似するとの主張は、争う。
 被告標章3(バドバー)は日本語のカタカナであるのに対し、原告の「Bud」は英語で表記されており、外観を異にする。
 また、称呼においても、原告の名称の「バド」、「バッド」という称呼と「バドバー」の称呼は異なる。
 原告は、被告標章3は周知かつ著名な「Bud」に「var」を組み合わせた名称であると主張するが、「バドバー」とは「Budejovicky Pivovar」(バドワイスの醸造所)という単語の最初と最後の3文字ずつを組み合わせた造語であって、単に「Bud」という文字に「var」を付加したものではない。
エ 被告標章4
(ア)被告標章4が原告の「Budweiser」の名称に類似するとの主張は、争う。
 被告標章4(BUDWEISER BUDVAR, NATIONAL CORPORATION)は、全体的に一体として把握されるべきであって、原告の「Budweiser」の名称に他の文字を結合させた造語ではない。
(イ)被告標章4の使用態様をみると、被告標章1が記載されているのと同一のラベルの下部にその約8分の1の大きさでゴシック体で記載されており、文字のサイズは小さく、図柄との併用もない(別紙被告標章使用態様目録1、2(1)参照)。さらに、被告標章4は「BREWED AND BOTTLED BY THE BREWERY」(○○醸造所により醸造及び瓶詰め)という記載に続けて記載されており、それに続けて所在を示す「CESKE BUDEJOVICE(BUDWEIS)CZECH REPUBLIC」(チェコ共和国チェスケ・ブジェヨビチェ(バドワイス))という地名が記載されている。
 つまり、被告標章4は、商品の自他識別機能を有することが明らかな被告標章1よりも下部に、それよりはるかに小さなサイズで記載されており、かつ、主体を示す「BREWERY」(醸造所)という記載及び所在を示す地名の記載の間に置かれているのであるから、純粋に製造者の名称を表示する機能しか有しておらず、「商品等表示」として「使用」されているものではない。
(ウ)仮に、被告標章4が商品等表示に該当するとしても、被告ブドバーによる被告標章4の使用は「自己の氏名の使用」(不正競争防止法12条1項2号)に該当する。
 すなわち、氏名表示権を含む著作者人格権は法人についても認められており、法人についても自己の氏名(名称)を用いる権利が法律上承認されている場合があること、不正競争防止法は商標法と異なり、自然人と法人とを区別することなく「氏名」という表現を用いていることなどからすれば、「自己の氏名」には法人の商号も含まれる。
 そして、被告標章4は、被告の名称の一部を国営企業であることを示す表現と組み合わせたものである。これは、被告ブドバーのチェコ語による商号の表記を英語に表現したものであり、被告ブドバーの名称を示している。被告標章4は、被告ブドバーの正式な商号(チェコ語)そのものではないが、英語以外の言語を母国語としている国の商号と外国向けの表示が若干異なることは避け難いのであるから、この表示が不適切なものとはいえない。さらに、後述の被告ブドバーの歴史等にかんがみれば、被告ブドバーに「不正の目的」は認められない。
オ 被告標章5、6
 被告ブドバーは前記1の「被告ブドバー及び同アイコンの主張」欄記載のとおり、ドイツ語標章ビールの輸入販売に関与しておらず、したがって、被告標章5、6を用いていないが、原告の「Budweiser」の名称との類否についていえば、これらは「Budweiser」の名称に類似しない。
【被告日本ビール及び同シャンパンハウスの主張】
 被告シャンパンハウスは、ドイツ語標章ビールの輸入販売に関与しておらず、したがって、被告標章5、6を用いていない。
 被告標章5、6が原告の「Budweiser」の名称に類似するとの主張は、争う。
4 争点4(1911年及び1939年の合意の効力)について
【被告ブドバー及び同アイコンの主張】
(1) 被告ブドバーの歴史
 被告ブドバーは、チェコ共和国のチェスケ・ブジェヨビチェ(Ceske Bud’jovice。以下「Ceske Budejovice」と表記する。)に存在するが、この町ではボヘミヤ王国に統治されていた1265年以来、ビールが醸造されてきた。そして、この町で醸造されるビールはチェコ語で「Bud’jovicke pivo」(以下「Budejovicke pivo」と表記する。)、ドイツ語では「Budweiser bier」すなわち、バドワイスのビールと呼ばれるようになった。このBudweisの町でのビール醸造は、時代を経るに従い、小さな醸造所から大きな工場へと発展してきた。19世紀になって「Budweiser」、「Budweiser bier」、「Budejovicke pivo」という名称のビールを製造していた醸造所は、2つの醸造工場に集約された。被告ブドバーは、そのうちの1つを前身とし1894年から1895年に創設されたチェコ醸造合資会社という醸造会社を第二次世界大戦後に引き継ぎ、「Budweiser」及び「Budejovicky」という名称に関するすべての権利も承継した。
(2) 原告の歴史
 原告は、19世紀にアメリカ合衆国のミズーリ州で醸造業を営み始めた。1875年には、ドイツの卸売業者カール・コンラッドが、原告を契約による醸造業者に指名して醸造させ、アメリカ合衆国において販売するビールのブランド名として「Budweiser Lager beer」という名称を採用することとした。カール・コンラッドがこの名称をブランド名に採用したのは、BudejoviceないしBudweisで長年ビールが醸造されてきた歴史があり、「Budweiser bier」「Budejovicke pivo」の評判がよかったからである。原告の創設者であるブッシュ氏は、自ら、バドワイザーのビール(ないしBudejovicke pivo)の評価が高く、長年の歴史を有していたことから、「Budweiser」という名称を選んだと述べている。
(3) 1911年の合意
 原告は、「Budweiser」の名称を用いてビールを醸造していたチェコの2つの醸造所に対し訴訟を提起した後、チェコ醸造合資会社との間で、@チェコ醸造合資会社がヨーロッパ以外の地域でも「Budweiser」という商標を使用する権利を認める、Aチェコ醸造合資会社は、その商品について全世界における販売活動をするに当たり、ビールの原産地を表す名称として「Budweiser」という文字、記号、図形、その他の符号を自社商品に付ける権利を放棄しないで保持する、B原告は上記「Budweiser」の商標に関して「オリジナル」という文言を使わない、ということを内容とする和解をした。そして、原告は、1911年12月2日、チェコ醸造合資会社に対し、この合意成立の対価として、当時のチェコの通貨で3万クラウンを支払った。
(4) 1939年の合意
 1911年の合意では、当該合意において定められたアメリカでの製造販売禁止期間の終了後、チェコ醸造合資会社がアメリカ合衆国へビール商品を輸出することは制限されていなかった。その結果、チェコ醸造合資会社製造のビールのアメリカ合衆国での売上げは急増し、1937年8月10日、チェコ醸造合資会社は、アメリカ合衆国で「Budweiser Beer」の標章を商標登録した。
 原告は、1938年末、チェコ醸造合資会社に対して、アメリカ合衆国への輸出を港で差し止めるために裁判を起こすと申し向けて、ヨーロッパ以外の地域で「Budweiser」の名称を使う権利を放棄するように要求した。
 そこで、交渉をした結果、1939年、原告とチェコ醸造合資会社は、チェコ醸造合資会社が「Bud」、「Budweis」及び「Budweiser」の名称を北アメリカ(パナマから北のアメリカ大陸)において使用する権利を放棄することを合意した。ただし、この1939年の合意は、原告とチェコ醸造合資会社の間での、北アメリカないしヨーロッパ以外の領域(日本を含む。)でのチェコ醸造合資会社及びその継承者による原産地表示の使用と原告の商標使用との共存に関する前記1911年の合意の効力を消滅させるものではなかった。
(5) 小括
 以上のとおり、被告ブドバーは、原告との間の1911年及び1939年の各合意の結果として、北アメリカを除く世界各地において「Budweiser」という名称を使用し続ける法的な権利を放棄せず、保持している。
 したがって、被告ブドバーが日本で「Budweiser」という名称を使用したとしても、原告は1911年及び1939年の各合意に照らし、当該名称の使用を容認しなければならないのであるから、原告が被告各標章の使用差止め等を内容とする本訴を提起することは、これらの合意に違反する。
 また、原告が被告ブドバーの正規代理店である被告アイコンに対して本訴請求をすることも、結局は被告ブドバーによる上記各合意に基づく正当な行為を妨害することになるため、同様に許されない。
【被告日本ビール及び同シャンパンハウスの主張】
 原告の本訴請求が1911年及び1939年の各合意に違反し許されないことは、被告ブドバーらの主張のとおりであるのでこれを援用する。
 被告日本ビールらが輸入販売したドイツ語標章ビール(被告標章5、6を付した瓶ビール)は、被告ブドバーの製造に係る真正商品であるから、上記各合意の効力はこの商品にも及ぶものであって、原告の被告日本ビールらに対する請求は上記各合意に反し失当である。
【原告の主張】
 原告の本訴請求が1911年及び1939年の各合意の効力に反し許されない旨の被告らの主張は、争う。
 まず、1911年の合意と称するものは、同年8月19日にチェコ醸造合資会社が一方的に行った宣言にすぎず、原告と同社の間の合意ではない。したがって、仮に、チェコ醸造合資会社がこの宣言において「Budweiser」の商標を使用する権利を留保する旨述べていたとしても、原告がかかる留保を認めて、自らの権利を処分したわけではない。
 1939年の合意は、原告とチェコ醸造合資会社との間で、北アメリカにおける「Budweiser」商標の使用について取り決めたものであり、日本などそれ以外の地域における使用は合意の対象外である。したがって、1939年の合意は本件には無関係である。
 1939年の合意の中で重要なのは、チェコ醸造合資会社が「Budweiser」をビールの商標として最初に用いた者が原告又はその前身会社であることを明確に認めているということである。すなわち、「Budweiser」という商標のビールが原告が当該商標を使用する前から存在していたという事実は誤りである。
5 争点5(権利濫用)について
【被告ブドバー及び同アイコンの主張】
 前記4の「被告ブドバー及び同アイコンの主張」欄記載のとおり、被告ブドバーは700年以上のビール醸造の伝統を有するボヘミヤ王国のBudweisの町で生まれた「Budweiser Beer」の歴史と伝統のある醸造業者を承継した会社である。
 他方、原告は、1875年ころから「Budweiser」の名称を使用しているが、そのビールの製造の当初から、ボヘミヤ地方の製造方法を採用し、アメリカの産物ではないボヘミヤ産Saazerホップとボヘミヤ産の大麦を使用してバドワイス又はボヘミヤ地方で当時製造されていたビールに品質、色、香り、味の点で似ているビールを醸造してきた。したがって、原告は、ビールの産地を表示する名称であるボヘミヤ産のバドワイスのビールにちなんで、バドワイザーという名称を付けたものである。
 被告ブドバーは、前記1911年及び1939年の合意の趣旨に照らし、原告が「Bud」や「Budweiser」の商標を登録している国では、そのような現状を尊重して、紛争を避けるべく、「Budejovicky Budvar」という長く使われてきたチェコ語の商標を登録している。実際、オーストラリア、フィンランド、ニュージーランド、デンマーク、香港、日本、韓国、アイルランド、キプロス及びスウェーデンでこのような方針がとられている。しかし、原告は、上記各国において、「Budejovicky Budvar」という名称の商品の供給販売の停止等を求めて訴えを提起している。
 原告は、Budweisにおけるビール醸造の長い伝統を十分に認識し、かつ、被告ブドバーが700年以上の歴史を持つオリジナル「バドワイザーのビール」の製造者であるという事実を十分に認識しており、原告自身がBudweisの有名な名称から「Budweiser」の商標を採用したにもかかわらず、そして、原告と被告ブドバーとの間では1911年及び1939年の各合意を含む経緯があるのにもかかわらず、この商標と外観、称呼及び観念において全く異なる被告ブドバーの「Budejovicky Budvar」というチェコ語の商標に対して、差止め等を内容とする本訴を提起することは権利の濫用であって許されない。
【被告日本ビール及び同アイコンの主張】
 被告ブドバーらの主張するのと同様の理由により、原告がドイツ語標章ビールに対して本訴を提起することも、権利の濫用であって許されない。
【原告の主張】
 原告が、被告らに対して本訴請求をすることが権利の濫用に当たる旨の主張は争い、これを基礎づける事実のうち、被告ブドバーが700年以上のビール醸造の伝統を有するボヘミヤ王国のBudweisの町で生まれたBudweiserという名称のビールを醸造していた業者を承継した会社であること、原告がボヘミヤ産のバドワイスのビールにちなんで、「バドワイザー」という名称を付けたことは、否認する。
 チェコ醸造合資会社はそれ以前の「Budweiser Beer」や「Budejovicke pivo」の名称のビールを醸造していた醸造所を引き継いだ会社ではなく、1895年に設立され新たにビール醸造に参入した会社である。それゆえ、原告が「Budweiser」の商標の使用を開始した1875年には、被告ブドバー及びその前身の会社は存在しなかった。被告ブドバーないしその前身の会社が「Budweiser Bier」ないし「Budejovicke pivo」の商標の使用を開始したのは、1930年代後半であり、日本において使用を開始したのは、1990年代後半以降である。
 なお、被告ブドバーが現在の名称を採用したのは1967年ころであり、それ以前には「Budweiser」や「Budejovicky」を含む名称は採用していなかった。
 原告が「Budweiser」の商標をビールに採用した最大の理由は、この言葉がアメリカ人にとって発音しやすく、ドイツ語の響きを持っていたからである。当時、原告の発祥地であるセントルイスにはドイツ系の住民が多かったため、これを商標として採用したのは自然であった。また、原告のビールの原料はチェコのバドワイスで醸造されているビールとは一部が異なっており、バドワイスの醸造業者の醸造方法を採用したものではない。ましてや、被告ブドバーの醸造方法をまねたものでもない。
 前記4の「原告の主張」欄記載のとおり、被告の前身であるチェコ醸造合資会社は、1939年の合意において「原告及びその前身会社が、ビールその他の商品に関して、商標及び商号としてBudweiserの語を使用した最初の者であること、1875年ころから継続して米国その他の地域において、その商品に商標及び商号としてBudweiserを使用してきたこと」を認めているのであるから、被告らがこれに反する主張をすることは、禁反言の原則に反する。
 さらに、商標権は各国ごとに独立して存在している(商標権独立の原則。パリ条約6条3項参照)。原告が日本で有する商標権は適法に登録されたものであり、原告は、当該登録に係る標章を遅くとも1870年代初めには使用していた。日本においても、原告各登録商標(BudweiserとBUD)は1980年代初めから使用され、現在では原告の製造販売に係るビールを示す商標として周知かつ著名になっている。したがって、原告の商標権に基づく請求が権利の濫用に当たる旨の被告らの主張は失当である。
 そして、日本で原告の「Budweiser」の商標が周知ないし著名になったのを見はからって日本に進出し、「Budweiser」の名称を使用する被告らの行為は、まさしく不正競争行為に該当するものであるから、原告の不正競争防止法に基づく請求が権利の濫用に当たる旨の被告らの主張は失当である。
6 争点6(原告の損害額)について
【原告の主張】
(1) チェコ語標章ビール(被告標章1ないし4を付した瓶ビール)に関する請求(前記第1の5)
 被告ブドバーは被告アイコンを正規の販売店として、被告標章1ないし4を付した瓶ビール(チェコ語標章ビール)を我が国で販売しているところ、被告ブドバーらがこの瓶ビールの販売により得た利益の額は、1000万円を下らない。
 また、上記瓶ビールの輸入販売等の差止め及び損害賠償等を内容とする訴訟の提起、追行に要する弁護士費用の額は、300万円を下らない。
 よって、原告は、商標法38条2項又は不正競争防止法5条1項(選択的)に基づき、被告ブドバー及び被告アイコンに対し、連帯して1300万円及びこれに対する平成12年4月20日(本訴提起の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(2) ドイツ語標章ビール(被告標章5、6を付した瓶ビール)に関する請求(前記第1の6)
ア 被告日本ビール
 被告日本ビールは遅くとも平成2年ころから被告標章5、6を付した瓶ビール(ドイツ語標章ビール)を販売していたが、訴え提起時から3年前である平成9年5月から平成12年12月ないし同13年の初めころまでの期間における上記ビールの販売による利益の合計は、532万3956円を下らない。
 被告日本ビールによる上記ビールの販売価格(税額を控除した後のもの)は147.45円であるところ、平成2年5月から同9年4月までの7年分については、年間767.7ケースの上記ビールが毎年販売されている。この数字を前提とすると、上記7年間の実施料相当額(被告日本ビールの利得)は104万8668円となる。
 さらに、原告は外国の企業であり、書類の翻訳や通信に費用と労力がかかること、その他本件事案の性質に照らせば、弁護士費用のうちの300万円は不法行為と相当因果関係のある損害に含まれる。
 よって、原告は被告日本ビールに対し、商標法38条2項又は不正競争防止法5条1項(選択的)に基づく損害賠償として832万3956円及び不当利得返還請求として104万8668円並びにこれらの合計である937万2624円に対する平成12年4月20日(本訴提起の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
イ 被告シャンパンハウス
 被告日本ビールと被告シャンパンハウスは、前記の期間を通じ、共同して上記ビールを輸入し販売している。したがって、被告シャンパンハウスは、共同不法行為者として、被告日本ビールと連帯して、上記アの損害賠償義務及び不当利得返還義務を負う。
ウ 被告ブドバー
 被告ブドバーは、前記1「原告の主張」欄記載のとおり、被告標章5、6を付した瓶ビールの輸入販売に、直接又は間接的な形で関与しているのであるから、被告日本ビールと連帯して、上記アの損害賠償義務及び不当利得返還義務を負う。
【被告ブドバー及び同アイコンの主張】
 原告の主張は否認し、争う。なお、被告ブドバーは、被告標章5、6を付した瓶ビール(ドイツ語標章ビール)の輸入販売には関与していないから、これを前提とする原告の請求はそれ自体失当である。
【被告日本ビール及び同シャンパンハウスの主張】
 原告の主張は、争う。被告日本ビールが平成9年度から同12年度までの間に被告標章5、6を付した瓶ビール(ドイツ語標章ビール)の販売により得た営業利益の額は、合計103万6877円である。弁護士費用のうち300万円が相当因果関係のある損害に当たるとの主張も争う。
 被告シャンパンハウスは、平成11年度から同12年度において輸入実績を増やすため、便宜上輸入者として被告標章5、6を付した瓶ビール(ドイツ語標章ビール)のラベル等に表示されたことはあったものの、実際は被告日本ビールが輸入販売を行っており、営業利益は同被告にのみ帰属していた。したがって、被告シャンパンハウスは上記ビールの販売による損害賠償義務及び不当利得返還義務を負わない。
第4 当裁判所の判断
1 本件における事実関係
 本件の争点を検討する前提として、原告及び被告ブドバーの沿革、両者の間の紛争の経緯、原告名称及び被告各標章の使用態様、被告各標章を付した瓶ビールの輸入販売の状況等の事実関係について検討する。
 前記の「前提となる事実関係」欄(前記第2、1)記載の各事実に証拠(甲5〜12、34〜37、69〜75、167〜169、乙1、4〜6、8、10〜15、15、23〜26、28、34〜38、丙1、2の1、2、3の1〜3、4、6、検甲1〜4)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
(1) 「バドワイザー」の語の起源
 現在のチェコ共和国の地には、1212年からボヘミヤ王国があったが、同国のチェスケ・ブジェヨビチェ(Ceske Budejovice)の町では、1265年にプシェミスル・オタカル2世がこの町を建設したときからビールが醸造されていた。当初は、この町の住民は自家消費のためにビールを醸造していたが、ビールが交易の対象となってからはビールを醸造、販売する権利は特権として認識されるようになり、この特権を有する者だけが自分の家で販売や自家消費のためにビールを醸造することが許されるようになった。チェスケ・ブジェヨビチェの町は、神聖ローマ皇帝でボヘミヤ王であったカール4世から1351年にこの権利を授与された。
 ボヘミヤ王国は、1526年以降ハプスブルグ帝国(オーストリア)の一部となり、オーストリア=ハンガリー帝国における最も重要な国となった。ハプスブルグ王朝は、チェコ人に対し、徐々に変化を及ぼし、17世紀後半にはドイツ語が公用語とされた。
 チェスケ・ブジェヨビチェの町には、国王がボヘミヤの人口が少ない地域に植民するためドイツ人の定住を認めたことから、創設の当初からチェコ人と共に多数のドイツ人が住んでいた。そのため、人々は、この町を「Budweis」(ドイツ語)又は「Budejovice」(チェコ語)と呼んでいた。その後、ドイツ語の公用語化により、この町の正式名称は「Budweis」とされていたが、1918年にチェコがスロバキアと共に独立してチェコスロバキア共和国が建国されてからは、「Ceske Budejovice」と呼ばれるようになった。ナチスドイツによる占領の期間(1939年から1945年)には、再び「Budweis」の名称が使われたが、1945年以降は、1993年にスロバキアと分離してチェコ共和国となり現在に至るまで「Ceske Budejovice」がこの町の正式名称となっている。しかし、「Budweis」の名称は現在でもドイツ人又はドイツ語を話す人々によって用いられ、また、ドイツ語、英語等の他の言語への公式な訳語として用いられている。
 「Budweiser」は、「Budweis」を起源とするドイツ語の形容詞であり、チェコ語の形容詞の「Budejovicky」と意味を同じくする。一般に、町を意味する語の形容詞は、名詞との組合せ又は単独で「町を産地とする何か又はその町の住民」という意味を有しており、「Budweiser」は、バドワイスを産地とする製品ないしバドワイスの住民を指すことになるが、上記のとおり、チェスケ・ブジェヨビチェでは13世紀からビールが醸造されていたことから、「Budweiser」の語は、「Budweiser Bier」(ドイツ語)「Budejovicke pivo」(チェコ語)という言葉と同じ意味で、バドワイスを産地とするビールを意味するものとして使われていた。
(2) 被告ブドバーの成り立ち
 チェスケ・ブジェヨビチェの町のビール醸造所は、何世紀もの時代を経る間に、小さな醸造所から中規模そして大規模の醸造所へと徐々に発展を遂げていった。19世紀に入ると、「Budweiser」、「Budweiser Bier」あるいは「Budejovicke pivo」と呼ばれるビールを製造していたいくつかの醸造所は、2つの大規模な醸造工場に集約された。この2つの工場のうちの1つは、1895年ころ、チェコ醸造合資会社(Cesky akcivovy pivovar。英語名称Czech Joint-stock Brewery)という会社形態となった。この会社は、第2次世界大戦後の1946年、チェコスロバキア共和国政府により国有化された。そして、チェコ醸造合資会社を承継した会社の承継会社として1967年に被告ブドバーが設立された。被告ブドバーは、それに伴い「Budejovicky」及び「Budweiser」という名称の使用に関する一切の権利を承継した。
 被告ブドバー及びその前身会社は、ビールのラベルや商品の広告等において、「Crystal」、「Budvar」、「Grannat」などの商品名に追加して、「Budejovice Ceske」、「Budejovicky」、「Budweis」の名称を用いていた。さらに、「Budweiser」の名称を上記の商品名に付加して、あるいは「Budweiser」単独で使用していた。また、被告ブドバー及びその前身会社は、1875年以降、ラベルに町の名前として「Budweis」あるいは「Ceske Budejovice」、地名の表示として「Budejovicky」あるいは「Budweiser」を単独で、又は「Budvar」、「pivo」、「Bier」、「Beer」の語と組み合わせて記載したビールを、ヨーロッパを中心として、アフリカ、中近東、アジア及びアメリカ合衆国を含む北アメリカ等の諸外国に輸出していた。
(3) 原告の成り立ち
 原告は、1857年、ヨーロッパからアメリカ合衆国ミズーリ州セントルイスに移住したアドルファス・ブッシュが創業したビール醸造会社に起源を発する。
 アドルファス・ブッシュとドイツの卸売業者のカール・コンラッドは、1875年に軽く炭酸の効いた飲みごごちのよい新製品のビールを共同で開発し、そのビールを、ボヘミヤのバドワイスの町で醸造されていたビールにあやかる趣旨で「Budweiser Lager Bier」と命名した。そして、二人の間では、アドルファス・ブッシュが「Budweiser Lager Bier」の醸造を行い、カール・コンラッドが瓶詰めと販売を行うという分業がされていた。その後、カール・コンラッドは、1878年、アメリカにおいて「Budweiser Lager Bier」の商標登録をした。このビールの瓶詰めと販売はカール・コンラッドにより行われていたが、同人が財政的に行き詰まったことから、原告の前身であるアンホイザー・ブッシュ・ブルーイング・アソシエーションが、1883年、カール・コンラッドから「Budweiser Lager Bier」の商標使用権及びビール販売権を譲り受け、その後1891年になって、「Budweiser Lager Bier」の商標に関する権利を含めたカール・コンラッドの営業をすべて譲り受けた。
 原告は、1919年に、アンホイザー・ブッシュ・ブルーイング・アソシエーションの営業を承継する目的で創設されたものであり、同社の営業をすべて承継している。
 上記認定の事実に関し、原告はアドルファス・ブッシュが「Budweiser」の商標をビールに採用したのは、この言葉がアメリカ人にとって発音しやすく、ドイツ語の響きを持っていたからであると主張する。しかし、それを裏付けるものとして原告が提出している証拠は、1885年2月28日付けの弁護士からカール・コンラッド宛ての書簡(甲36)のほかは、原告の社用箋1枚に記載された1979年5月24日付けの文書(甲34)及び原告の2001年5月のウェブサイト(甲35)にすぎない。
 これに対して、1894年4月26日のアメリカ合衆国ウィスコンシン州東部地区巡回裁判所におけるアドルファス・ブッシュの証言調書(乙9)によれば、同日の同裁判所における証人尋問において、アドルファス・ブッシュ自身が、「Budweiser」の名称の由来に関して、同人がアメリカで製造販売したビールはボヘミヤのバドワイスの製法によること、具体的には当時バドワイス又はボヘミヤ地方で醸造されていたビールに品質、色、香り、味の点で似ているビールを醸造した旨を明確に証言していることが認められる。加えて、証拠(乙31の1、2)によれば、原告自身が、1967年4月発行の雑誌「LIFE」及び同年5月発行の雑誌「LOOK」において、「Budweiser」の商標はボヘミヤのバドワイスに由来する旨の広告を掲載していることが、認められる。したがって、「Budweiser」の商標を同人が自ら造語した旨の原告主張に沿う上記証拠(甲34ないし36)の内容は、到底信用できない。また、証拠(甲29、33、172)によれば、世界のビールを紹介する書籍や各種ウェブサイトにおいて、アメリカの銘柄バドワイザーの名はチェコのバドワイス産のビールにあやかる趣旨で名付けられたものと一般的に説明されていることが認められる。これらによれば、この点に関する原告の上記主張は、到底採用できない。
(4) 原告と被告ブドバーの間の紛争
 前記の経緯で、原告の前身であるアンホイザー・ブッシュ・ブルーイング・アソシエーションと被告ブドバーの前身であるチェコ醸造合資会社の双方が、アメリカにおいて「Budweiser」の商標を付したビールを販売することになったため、アンホイザー・ブッシュ・ブルーイング・アソシエーションは、チェコ醸造合資会社によるビールの販売に対して、対抗措置をとった。その結果として、両者は、1911年8月19日、@チェコ醸造合資会社はアンホイザー・ブッシュ・ブルーイング・アソシエーションがヨーロッパを除く地域で「Budweiser」の商標をビールの容器、包装に付すこと、宣伝広告等に使用することを認める(ただし、「ORIGINAL」の語を付すことは除く。)、Aチェコ醸造合資会社は、その商品を販売する際に、全世界においてそのビール商品の原産地を識別するために「Budweiser」という名称及び/又はその他のマーク、図案又は付加的表現を自社商品に付する権利を放棄しないことを内容とする合意をした。そして、アンホイザー・ブッシュ・ブルーイング・アソシエーションは、チェコ醸造合資会社に対し、同年12月2日、上記合意成立の対価として、当時のチェコの通貨で3万クラウンを支払った。
 1911年の合意では、将来におけるチェコ醸造合資会社によるアメリカへのビールの輸出を制限していなかったため、禁酒法の廃止後、チェコ醸造合資会社製造のビールのアメリカでの売上げは急増し、1937年8月10日、チェコ醸造合資会社は、アメリカで「Budweiser Beer」の商標を商標登録した。これに対して、アンホイザー・ブッシュ・ブルーイング・アソシエーションの営業を承継した原告は、1938年末に至り、チェコ醸造合資会社に対して、ヨーロッパを除く世界中で「Budweiser」の商標を使う権利を放棄するよう要求し、既にアメリカに輸出された商品については港でその陸揚げを差し止める手続をとると通告した。
 そこで、アメリカにおいて原告とチェコ醸造合資会社の双方が「Budweiser」の商標を付したビールを販売していることで消費者に混同が生じている事態を解決するため、両者が交渉した結果、1939年3月7日、チェコ醸造合資会社が、北米大陸及び当時のアメリカの保護領において「Bud」、「Budweis」及び「Budweiser」の名称を使用する権利を放棄すること等を、内容とする合意が成立した。
 それ以来、原告と被告ブドバーは、世界各国において、訴訟や特許庁での不服申立手続等を通じて、「Budweiser」、「Budejovicky」及び「Bud」の商標やこれらの文字を含む名称の使用に関し互いに争っている。過去に訴訟や審判等が係属し、あるいは現在係属している国としては、ポルトガル、リトアニア、スペイン、アルゼンチン、ドイツ、スウェーデン、オーストラリア、ニュージーランド、韓国、イギリスなどがある。
 なお、この間、原告と被告ブドバーの間では、原告が被告ブドバーの株主になることを申し出たこともあったが、1996年、チェコ共和国の農業副大臣はこの申し出を断っている。
(5) 原告による「Budweiser」等の商標の使用
 原告は、従来から我が国にビールを輸出していたが、1982年(昭和57年)ころサントリーが輸入販売の代理店になってから、本格的に輸出されるようになった。その後、原告はキリンビールと合弁で子会社を設立し、より強力な販売活動を展開するようになった。
 原告は、我が国において、原告各登録商標のほか、別紙「原告の有するその余の登録商標目録」記載の各商標を商標登録している。
 原告は、「Budweiser」の商標をビールの瓶や缶に付すほか、週刊誌等の雑誌において「KING OF BEERS」、「NO.1アメリカンビール」といった記載と併せて、又は単独で「Budweiser」、「バドワイザー」の名称を用いて、ビールの広告宣伝をしていた。また、その宣伝の際に、「有名なバドワイザーです。」、「NO.1が好きだ。バドワイザー。」、「スペースシャトルよ、バドは積んだかい?」といったキャッチ・コピーを用いていた。
 原告が製造し、我が国において販売している瓶ビール(検甲1)における「Budweiser」等の商標の使用状況についていえば、瓶の正面には、銀色の縁取りで背景を赤色、中央部分を白色にした、別紙「原告の有するその余の登録商標目録」記載3の商標に類似したラベルが貼付されている。瓶の首の部分には、銀色の縁取りで赤色の背景に白字で同目録記載4の商標を記載したラベルが貼付されている。また、このビール瓶の裏面下側の中央部には、背景を赤色とする小さめのラベルが貼付され、白抜きの文字で「バドワイザー」と記載されている。
(6) 被告ブドバーらによる「Budejovicky」等の商標の使用
 被告ブドバーは、1995年(平成7年)ころから、その製造に係るチェコ語標章ビール(検甲2)を日本に輸出し、被告アイコンは、被告ブドバーの正規代理店として、これを輸入して、日本国内において販売している。
 チェコ語標章ビールにおける被告標章1ないし4の使用態様は、別紙被告標章使用態様目録1の写真のとおりである。すなわち、瓶の正面には、金色の縁取りで上部4分の3を白色、下部4分の1を赤色とするラベルが貼付されており、このうち上部の白色部分には、赤字で被告標章1が大書され、その上左側には筆記体で「Original」、下側には筆記体で「Premium Czech Lager」と記載されている。ラベルの下部の背景を赤色とする部分には、白抜きの活字体の文字で被告標章4が記載されているが、その上下には、更に小さな活字でそれぞれ横書1行の文字が記載されており、上部の行には「BREWED AND BOTTLED BY THE BREWERY」(○○醸造所により醸造及び瓶詰め)と、下部の行には「CESKE BUDEJOVICE (BUDWEIS) CZECH REPUBLIC」(チェコ共和国チェスケ・ブジェヨビチェ(バドワイス))とそれぞれ記載されている(別紙被告標章使用態様目録2(1)参照)。瓶の首の部分には、赤い冠形(リボンを留めたパラフィンの上から印章を押捺したものをデザインしたものと認められる。)の被告標章2のラベルが付されている(同目録2(2)参照)。そして、瓶の裏面には、金色の縁取りの白色ラベルが貼付され、上部に赤字で被告標章1が大書され、すぐその下に被告標章3が黒い小さな活字で記載されている(同目録2(3)参照)。
 被告ブドバーは、我が国において、別紙被告ブドバー登録商標目録記載の各商標を商標登録している。このうち、同目録1記載の商標は、チェコ語標章ビールの正面に添付されたラベルとほぼ同一であり、同目録2記載の商標は、被告標章1と全く同一である。原告は、同目録1記載の商標について、平成13年3月29日、無効審判を申し立て、同商標は、原告の周知著名表示である「Budweiser」及び「Bud」に類似し、誤認混同を生ぜしめるものであり、被告ブドバーには不正の目的があるなどと主張して、商標法4条1項10号、15号、19号に該当する無効理由があると主張したが、特許庁は、同14年6月4日、原告の主張を排斥して、請求は成り立たない旨の審決をした(乙38)。
(7) 被告日本ビールらによる「Budweiser」商標の使用
 被告日本ビールは、遅くとも平成2年ころから同12年10月ころまでの間、被告ブドバーの製造に係るドイツ語標章ビール(検甲3)を輸入し、我が国において販売していた。
 ドイツ語標章ビールにおける被告標章5、6の使用態様は、瓶の正面に、前記(6)記載のチェコ語標章ビールの正面に添付されたラベルと同じ色、形状のラベルが貼付されているが、上部白色部分の被告標章1の代わりに被告標章5が記載されている。また、瓶の首の部分には、上記と同様の赤い冠形の被告標章6のラベルが付されている。
 ドイツ語標章ビールは、被告ブドバーが製造し、ヨーロッパ等の地域において販売している真正商品であるが、被告日本ビールは、これを、被告ブドバーの関与しない形で、いわゆる並行輸入としてベルギーのB EXPORT N.V.社から輸入していた。
 具体的には、被告日本ビールが上記B EXPORT N.V.社に発注して、同社から輸入し、我が国において販売していたが、平成11年の半ばから同12年にかけては、被告シャンパンハウスの輸入実績を増やすために、発注は被告日本ビールが行った上で、保税倉庫で被告日本ビールが輸入したビールを被告シャンパンハウスに販売し、被告シャンパンハウスが輸入者として通関手続を行った後に、再び被告日本ビールの商品として同被告が販売するという形式をとっていた。
 輸入形態に対応して、ドイツ語標章ビールには、瓶の裏面に輸入業者として、被告日本ビールを表示するもの(検甲3)と、被告シャンパンハウスの旧々商号である「ビアハウス(株)」を表示するもの(検甲4)があった。
 原告は、被告日本ビールらのドイツ語標章ビールの輸入販売に被告ブドバーが関与している旨を主張するが、被告日本ビール及び同シャンパンハウスの各代表者の陳述書(丙1)及び輸入許可通知書及びインボイス(丙2の1、2、3の1〜3、4)によれば、被告日本ビールらのドイツ語標章ビールの輸入形態が上記認定のとおりであり、これに被告ブドバーが関与していないことが認められる。
(8) 国際ビールサミットに出品したビールの種類
 被告ブドバーは、日本地ビール協会の主催により1998年(平成10年)10月9日及び同月10日に大阪で行われた国際ビールサミットにブースを出して3種類のビールを展示し、参加者に頒布した。その3種類のビールは、チェコ共和国のピルスナー・ウルケル社の「ピルスナーウルケル」及び「ガンブリヌス」並びに被告ブドバーの製造に係るチェコ語標章ビールであって、ドイツ語標章ビールは含まれていなかった。したがって、「国際ビールサミットにおいて被告標章5、6を付した瓶ビールを展示、所持したことは認める。」旨の被告ブドバーの裁判上の自白は、真実に反する内容であり、錯誤に基づくものと認められるから、同被告による自白の撤回は有効というべきである。
 原告は、本件全証拠によっても国際ビールサミットにドイツ語標章ビールが展示されていなかったことを認めることはできないから、被告ブドバーの自白の撤回は許されないと主張する。しかし、被告ブドバーの主任アカウントマネージャーであるカントネロバ・リベーナ作成の2001年8月24日付け宣誓供述書(乙24)によれば、同人は国際ビールサミットにおいてチェコ語標章ビールのみを展示、頒布した旨明確に供述しており、このことは、当日の模様を撮影した写真(乙24の添付写真)によれば、会場には、被告標章1を表示したポスターや被告標章1を付したエプロンを着用した販売員のみが存在し、被告標章5を表示したポスター等やドイツ語標章ビールが見あたらないことからも裏付けられる。また、原告の指摘する甲30号証(表彰状)、甲31号証(国際ビールサミットの結果報告)、甲172号証(「世界のビールセレクション」と題する書籍)からは、直ちにドイツ語標章ビールが展示されていたことを認めるには足りない。
 そうすると、他に被告ブドバーがドイツ語標章ビールを展示、頒布したことをうかがわせる証拠がない以上、被告ブドバーの自白は真実に反するものとして撤回が許されるものというべきである。そして、前記のとおり、被告ブドバーが国際ビールサミットにドイツ語標章ビールを出品したという事実、ひいては出品するために当該ビールを輸入したという事実を認めることはできない。
2 争点1(被告ブドバーのドイツ語標章ビールの輸入等への関与)について
 前記1(8)で認定のとおり、被告ブドバーが自らドイツ語標章ビールを我が国に輸入し、展示した事実を認めることはできない。そして、前記1(7)で認定したとおり、被告日本ビールらはドイツ語標章ビールを輸入していたが、その形態はいわゆる並行輸入であるというのであるから、被告ブドバーは被告日本ビールらによる輸入を中止させることはできないし、これを中止させるべき義務も負わない(原告は、被告ブドバーは原告が「Budweiser」につき商標権を有する国にドイツ語標章ビールが転売されないように注意する義務があると主張する。しかし、製造販売者が、真正商品のいわゆる並行輸入による流通を制限することが不可能であることは、顕著な事実であり、現に、原告自身が被告ブドバーが「Budweiser」の商標権を有する国において原告の製品が消費者に販売されることを制限するための努力をしているといった事情をうかがわせる証拠も、全く存在しない。)。
 したがって、仮に、被告日本ビールらの我が国におけるドイツ語標章ビールの販売により、ベルギーのB EXPORT N.V.によるヨーロッパでの市場における商品の買い付けを通じて被告ブドバーが利益を得ているとしても、それは単なる反射的な利益にすぎず、原告が同被告に対して不当利得返還請求権を取得するという関係には立たない。
 したがって、原告の被告ブドバーに対するドイツ語標章ビール(被告標章5、6を付した瓶ビール)の輸入・販売等の差止め及び同ビールの廃棄並びに同被告がドイツ語標章ビールの輸入等に関与したことを前提とする損害賠償又は不当利得返還の請求(前記第1の3、4、6)は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。
3 争点2(原告各登録商標と被告各標章との類否)について
(1) 被告標章1について
 原告登録商標1は、英字の筆記体で一列に「Budweiser」と記載したものであり、原告登録商標2は、英字の活字体で「BUD」と記載したものであって、それぞれ「バドワイザー」、「バド」の称呼を生ずるものであるが、我が国における通常の取引者・需要者を対象として考えるときには、「Budweis」が特定の都市の名称であることは知られておらず、また、「BUD」が特定の意味を持つ英単語として知られているものでもないから、これらの語から特定の観念を生ずると認めることはできない。
 被告標章1は、欧文字の筆記体で2段書きで上段に「Budejovicky」、下段にやや小さめの字で同一の字体で「Budvar」と記載し、かつ「Budejovicky」の部分には左から右にかけて徐々に細くなる形で下線が付されているというものであり、その外観からすれば、全体を一体のものと理解するか、あるいは上段の「Budejovicky」と下段の「Budvar」の2つの部分から成るものと理解することが可能である。被告標章1は、チェコ語によるものであるが、我が国の一般の取引者・需要者にチェコ語が普及しているとはいえない状況であることに照らせば、被告標章1を見た取引者・需要者において、チェコ語に従った表音及び意味を理解することは困難である。
 そうすると、被告標章1からは、全体として、ローマ字読みをした場合の表音「ブデジョヴィキーブドバール」、英語の表音に従った「バデジョヴィッキーバドバー」又はチェコ語の表音に従った「ブジェヨビキーブドバー」の称呼を生じ、部分的には、上段の語から「ブデジョヴィキー」、「バデジョヴィッキー」又は「ブジェヨビキー」の称呼を、下段の語から「ブドバール」、「バドバー」又は「ブドバー」の称呼をそれぞれ生ずると認めることができる。
 原告各登録商標(Budweiser、BUD)と被告標章1を比較すると、被告標章1を全体として見ても、上段、下段に分けてそれぞれを見ても、外観が異なることは明らかであり、称呼についても、いずれも音構成、構成音数を異にするものであって、明確に区別することができる。また、原告各登録商標、被告標章1とも、特定の観念を生ずるものではないから、観念において相紛れるおそれもない。
 上記によれば、被告標章1は、原告各登録商標に類似しない。
 原告は、被告標章1において自他商品識別力を有する要部は、2か所の「Bud」の部分であると主張する。しかし、「Budejovicky」と「Budvar」のいずれの語についても、これを見る者は1つの語と解するものであって、「Bud」の部分のみを分離して称呼、観念しなければならない特段の事情は認められない。原告の主張は、採用できない。
(2) 被告標章2について
 被告標章2は、被告標章1の「Budejovicky Budvar」のすべての文字を大文字ブロック体とし、これを円の周囲に沿って1回転するように配置したものである。
 上記の構成によれば、被告標章2においては、「Budejovicky Budvar」がすべて同じ大文字で一連に記載されているものであるから、全体を一体のものとして理解するほかはない。
 そうすると、原告各登録商標(Budweiser、BUD)と被告標章2を比較すると、外観が異なることは明らかであり、称呼、観念の点についても、前記(1)において被告標章1のうち「Budejovicky Budvar」の全体部分に関して述べたのと同じ理由で、原告各登録商標に類似しない。
 上記によれば、被告標章2は、原告各登録商標に類似しない。
(3) 被告標章3について
 被告標章3はカタカナで横書きに「バドバー」と記載したものである。
 証拠(乙4、7)によれば、「Budvar」という語はチェコ語の「Budejovicky Pivovar」(バドワイスの醸造所)という単語の最初と最後の3文字を組み合わせた造語であり、長期間にわたって被告ブドバーの製造するビール等の商品やその宣伝広告に用いられていたことが認められるが、我が国における通常の取引者・需要者を対象とした場合、特定の観念を生ずると認めることは困難である。
 これを原告登録商標2(BUD)と比較するに、その外観については、原告登録商標2は英大文字で「BUD」と記載したものであるのに対し、被告標章3はカタカナで「バドバー」と記載したものであり、両者は異なっている。称呼については原告登録商標2が「バド」又は「バッド」の称呼を生ずるのに対し、被告商標3からは「バドバー」の称呼を生ずるものであり、3音より成り、語の終わりに「バー」の音を伴う点で相違するものであって、両者がいずれも短い語であることからすれば、この相違は小さなものとはいえない。また、原告登録商標2と被告標章3は、いずれも特定の観念を生ずるものではないから、結局、両者は、外観、称呼及び観念のいずれにおいても類似しないものというべきである。
 上記によれば、被告標章3は、原告登録商標2に類似しない。
(4) 被告標章4について
ア 被告標章4は、「BUDWEISER BUDVAR, NATIONAL CORPORATION」と、大文字ブロック体の英文字で1行に横書きした構成であるが、このうち後半の「NATIONAL CORPORATION」は、国営企業を意味する英語の普通名詞であることは容易に理解することができる。そうすると、被告標章4全体が特定の企業を表す内容の語であると解することが可能であるから、これを見た取引者・需要者は、後半の「NATIONAL CORPORATION」の部分を除いた部分を、自他商品識別機能を有する部分として、認識するのが通常というべきである。そうすると、被告標章4において自他商品識別機能を有する要部は「BUDWEISER BUDVAR」の部分と認められる。
 この「BUDWEISER BUDVAR」の部分につき検討するに、この部分を構成する語からは特定の観念を理解することはできないが、この部分は、後半の国営企業を意味する語である「NATIONAL CORPORATION」の前に記載されているものであり、また、後半部分と「、」で区切られていることともあいまって、一体として、特定の企業の名称を表すものと理解される。そうすると、「BUDWEISER BUDVAR」の部分からは、「ブドワイザーブドバー」又は「バドワイザーバドバー」の称呼を生ずる。
 そこで、被告標章4の要部である「BUDWEISER BUDVAR」の部分と原告登録商標1とを比較すると、前者が15文字から成るのに対して後者は9文字から成るものであって、両者は外観において類似しない。称呼についても、前者の称呼が「ブドワイザーブドバー」又は「バドワイザーバドバー」であるのに対して、後者の称呼は「バドワイザー」であって、両者は全体の音構成及び構成音数を異にするものであって、類似しない。また、両者は、いずれも特定の観念を生ずるものではないから、観念において相紛れるものでもない。
 上記によれば、被告標章4は、原告登録商標1に類似しない。
 原告は、被告標章4について、「BUDWEISER」の部分が自他商品識別力を有する要部であると主張するが、前判示のとおり、この部分は特定の企業の名称を表すものとして一体の語として理解されるものであるから、「BUDWEISER BUDVAR」全体が要部となるものであって、これを見る者にとって「BUDVAR」の語の意味するところが不明であることに照らしても、これを「BUDWEISER」と「BUDVAR」の2つの部分に分離して、称呼、観念しなければならない特段の事情があるとは、認められない。原告の主張は、採用できない。
イ また、被告標章4(BUDWEISER BUDVAR, NATIONAL CORPORATION)については、このうち後半の「NATIONAL CORPORATION」が国営企業を意味する英語の普通名詞であることは前記のとおりであるが、その前にある「BUDWEISER BUDVAR」の部分は、被告ブドバーの名称である「Budejovicky Budvar」のうち、「Budejovicky」の部分を同じ意味のドイツ語の表記に改めたものである。そして、証拠(乙5、24、26、27)及び弁論の全趣旨によれば、被告標章4は、被告ブドバーのチェコ語の正式の表記である「Budejovicky Budvar, Narodni Podnik」の英語の翻訳であること、被告ブドバーは特に英語圏の国において自己の営業を示すものとして被告標章4を用いていることが認められる。
 また、被告標章4の使用態様を見ると、前記1(6)において認定したとおり、瓶の正面に貼られたラベルの下部に小さな活字で横書1行で記載されているものであり、しかも、その上下には、更に小さな活字でそれぞれ横書1行の文字が記載されており、上部の行には「BREWED AND BOTTLED BY THE BREWERY」(○○醸造所により醸造及び瓶詰め)と、下部の行には「CESKE BUDEJOVICE (BUDWEIS) CZECH REPUBLIC」(チェコ共和国チェスケ・ブジェヨビチェ(バドワイス))とそれぞれ記載されているものである(別紙被告標章使用態様目録2(1)参照)。
 上記によれば、被告標章4は、自己の名称を普通に用いられる方法で表示するものというべきであるから、原告登録商標1の商標権の効力が及ぶものではない(商標法26条1項1号)。なお、被告標章4は、前記のとおり、被告ブドバーの名称を英語で表記したものであって、母国語であるチェコ語による表記ではないが、現在の国際的な商取引において主として英語が用いられていることに照らせば、英語を母国語としない国の企業がその名称を英語で表記するものも、商標法26条1項1号にいう「自己の名称」に該当するものと解するのが相当である(そのように解さないと、英語を母国語ないし公用語とする国の企業のみを、不当に優遇する結果となる。)。
ウ 加えて、原告登録商標1の由来、被告ブドバーが自己の製造販売するビールに「Budweiser」の表示を付している経緯、チェコ語標章ビールにおける被告標章4の使用態様等の事情に照らせば、原告が、被告ブドバーによる被告標章4の使用に対して原告登録商標1に基づく権利を行使するのは、権利の濫用として許されないというべきである。
 すなわち、前記1(1)〜(4)において認定したとおり、「Budweiser」の語は、13世紀以来、ボヘミア地方のチェスケ・ブジェヨビチェ(ドイツ語名称Budweis)において醸造されるビールを意味する名称として使用され、そのことはヨーロッパにおいて広く知られていたものであるところ、被告ブドバーは、チェコ共和国の国営企業として設立され、「Budweiser」の名称に関する一切の権利を承継したものである(被告ブドバー自身は、1967年に設立されたものであるが、チェコ国内法上、「Budweiser」の名称に関する権利を正当に承継したものであるから、その前身であるチェコ醸造合資会社ないしそれ以前の同地の醸造業者の有していた権利を援用することが許されるものと解する。なお、この点は、原告においても同様であり、原告自身は1919年に設立されたものであるが、その前身であるアンホイザー・ブッシュ・ブルーイング・アソシエーションないしカール・コンラッドの有していた「Budweiser」の名称に関する権利を承継したものである。)。他方、原告の使用する「Budweiser」の名称は、米国において1875年にアドルファス・ブッシュとカール・コンラッドが新製品のビールを開発した際に、ボヘミヤのバドワイス(チェスケ・ブジェヨビチェ)の町で醸造されていたビールにあやかる趣旨で「Budweiser Lager Bier」と命名したことに由来するものである。そして、チェコ醸造合資会社とアンホイザー・ブッシュ・ブルーイング・アソシエーションないし原告との間の1911年及び1939年の合意を通じて、チェコ醸造合資会社は、北米大陸及び当時のアメリカの保護領において「Budweiser」の名称を使用する権利を放棄したものであるが、それ以外の地域において「Budweiser」の名称を使用する権利については、放棄しているものではない。
 また、被告標章4の使用態様は、上記のとおりであり、被告ブドバーのチェコ語の正式名称の英語訳であり、そのすぐ下の段の「CESKE BUDEJOVICE (BUDWEIS) CZECH REPUBLIC」(チェコ共和国チェスケ・ブジェヨビチェ(バドワイス))の記載と共に見るときには、チェコ共和国における企業であることが明白であり、取引者・需要者がこれを原告と混同するおそれはない(原告が米国法人であり、原告の製造販売するビールが米国産であることは、原告自身が「NO.1アメリカンビール」などとして広告宣伝を行ったことにより、著名な事実である。)。
 以上の事情を総合すれば、チェコ語標章ビールにおける被告標章4の使用に対して、原告が商標権に基づく権利を行使することは権利の濫用に該当するものとして許されないというべきである。
 なお、この点につき、原告は、被告ブドバーは1939年の合意において、原告及びその前身会社が、ビールその他の商品に関して商標及び商号として「Budweiser」の語を使用した最初の者であることを認めていたのであるから、これに反する主張をすることは禁反言の原則に反すると主張する。なるほど、証拠(乙12)によれば、1939年の合意書(英文のもの)には、原告及びその前身会社が最初に「Budweiser」の名称を使用したと解し得る記載が含まれているが、この記載は、「米国及びその他の地域において初めて使用した」と解する余地のあるものであり、また、前記1(1)で認定したとおり、チェコのバドワイスの醸造所では13世紀からビールの商品等につき「Budweiser」の名称を使用してきたのであるから、原告及びその前身会社がビールその他の商品に関して商標及び商号として「Budweiser」の語を使用した最初の者であるということは事実に反する。したがって、上記合意書の記載が仮に原告主張のように解すべきものであったとしても、事実確認を内容とする条項につきこのような事実に反する内容の合意の効力を認めることはできないし、少なくとも、本件訴訟において被告ブドバーが前記の事実経過に基づき権利濫用の抗弁を主張することが、禁反言の原則に違反するということはできない。
エ したがって、いずれにしても、被告標章4の使用に対しては、原告登録商標1の商標権に基づく権利の行使は許されない。
(5) 被告標章5について
 被告標章5は、欧文字の筆記体で2段書きで上段に「Budweiser」、下段にやや小さめの字で同一の字体で「Budvar」と記載し、かつ「Budweiser」の部分には左から右にかけて徐々に細くなる形で下線が付されているというものであり、その外観からすれば、全体を一体のものと理解するか、あるいは上段の「Budweiser」と下段の「Budvar」の2つの部分から成るものと理解することが可能である。
 そうすると、被告標章5からは、全体として、ローマ字読みをした場合の表音「ブドウェイセルブドバール」又は英語の表音に従った「バドワイザーバドバー」の称呼を生じ、部分的には、上段の語から「ブドウェイセル」又は「バドワイザー」の称呼を、下段の語から「ブドバール」又は「バドバー」の称呼をそれぞれ生ずると認めることができる。
 原告登録商標1(Budweiser)と被告標章5を比較すると、被告標章5の全体とは外観、称呼を異にするが、そのうちの上段の「Budweiser」とは同一であり、外観、称呼が一致する。
 上記によれば、被告標章5は、その構成のうち分離して称呼、観念を生じ得る部分である「Budweiser」の部分が原告登録商標1と同一であるから、原告登録商標1に類似するものというべきである。
 被告日本ビールらは、被告標章5の「Budweiser」の部分は商品の産地を普通に用いられる方法で表示したものである(商標法26条1項2号)から、原告の商標権の効力は及ばない旨を主張する。しかし、前記1(7)で認定した事実によれば、被告標章5は瓶ビールの正面に貼付されたラベル上に、赤字で大きく目立つように表示されているというのであるから、商品の産地である地名を普通に用いられる方法で表示したものということはできない。
(6) 被告標章6について
 被告標章6は、「Budweiser Bud Brau」のすべての文字を大文字ブロック体とし、これを円の周囲に沿って1回転するように配置したものである(原告は、被告標章6の構成につき「Budweiser Budvar」を円の周囲に沿って配置したものであると主張するが、これは、平成13年5月1日付け原告第2準備書面において自ら提出した被告標章6の図面(本判決末尾添付の被告標章目録6の図面と同一のもの)の内容と矛盾するものである。証拠(検甲3、4)によっても、同標章の内容は、「Budweiser Bud Brau」を配置したものと認められる。)。
 上記の構成によれば、被告標章6においては、「Budweiser Bud Brau」がすべて同じ大文字で一連に記載されているものである。このうち、「Budweiser」は「バドワイスの産物」を意味するドイツ語の形容詞・名詞であり、「Brau」は「醸造業」、「醸造所」を意味するドイツ語の普通名詞であるが、我が国における通常の取引者・需要者を対象として考えるときには、「Budweis」が特定の都市の名称であることは知られておらず、また、「Brau」が特定の意味を持つドイツ語の単語として知られているものでもないから、これらの語から特定の観念を生ずると認めることはできない。したがって、被告標章6は、全体を一体のものとして理解するほかはないから、被告標章6からは、全体として、ローマ字読みをした場合の表音「ブドウェイセルブドブラウ」、英語の表音に従った「バドワイザーバドブラウ」又はドイツ語の表音に従った「ブドヴァイザーブドブロイ」の称呼を生ずる。
 そうすると、原告登録商標1(Budweiser)と被告標章6を比較すると、外観が異なることは明らかであり、称呼についても、音構成、構成音数を異にするものであって明確に区別することができる。また、原告登録商標1、被告標章6とも、特定の観念を生ずるものではないから、観念において相紛れるおそれもない。
 上記によれば、被告標章6は、原告登録商標1に類似しない。
(7) 争点2についてのまとめ
 以上によれば、被告ブドバーらに対する原告の商標権に基づく請求は、いずれも理由がない。
 他方、被告日本ビールらが被告標章5の付されたドイツ語標章ビールを輸入して我が国において販売する行為は、原告登録商標1(Budweiser)の商標権を侵害する。
4 争点3(不正競争の成否)について
(1) 原告名称について
ア 原告名称の「商品等表示」該当性
 前記1(5)認定のとおり、原告はその製造に係るビール瓶のラベルに「Budweiser」の名称を表示しているほか、証拠(甲42〜51、101〜160、166)によれば、原告は雑誌の広告等において「Budweiser KING OF BEERS」、「NO1.アメリカンビール Budweiser」といった形で、自己の商品であるビールを示すものとして「Budweiser」の名称を用いていることが認められるから、「Budweiser」は原告の商品を示す商品表示に当たる。また、証拠(甲48、50、52、108、109、検甲1)によれば、原告は新聞広告やポスターにおいて、「バドワイザーが選んだ、本物のアウトドア体験をプレゼント。」、「バドワイザーが築いたビールの流れ。」という形で広告をしていること、現在、原告の製造するビールを我が国で販売しているのは原告の子会社のバドワイザー・ジャパン・カンパニー・リミテッドであるが、同社はその旨をビール瓶の裏面のラベルやビール缶に表示するほか、テレビのコマーシャルでも宣伝していることが認められるから、「バドワイザー」の語はビールの製造販売の営業主体である原告又はその関連会社を示す営業表示に当たり、上記子会社がその広告においてカタカナの表記と共に「Budweiser Japan Company, Ltd.」と表示していることなどからすれば、「Budweiser」についても、同様に原告又はその関連会社を示す営業表示に当たるというべきである。
 次に、証拠(甲22、39〜41、49、78、82〜97)によれば、原告は雑誌の広告等で「BIG BUD 新発売」、「Bud Girls'95」といった形で、自己の商品であるビールを示すものとして、「Budweiser」の略称として「Bud」の名称を用いていることが認められるから、「Bud」は原告の商品を示す商品表示に当たる。
 さらに、証拠(甲98〜100)によれば、原告は雑誌の広告で「Budweiser NO1.アメリカンビール」と並んで「スペースシャトルよ、バドは積んだかい?」というキャッチ・コピーを用いていたことが認められるから、「Bud」ないし「BUD」をカタカナで表記した「バド」についても、原告の商品を示す商品表示として用いられているというべきである。
イ 原告名称の周知性・著名性
 証拠(甲15、22、39〜51、78、82〜97、101〜160、166)によれば、「Budweiser」の名称は、遅くとも昭和53年ころから、原告の製造するビールを示すものとして名酒事典、英和辞典等で紹介されていたこと、原告は昭和57年ころから「週刊ポスト」、「週刊現代」といった有名な雑誌のほか日本経済新聞、朝日新聞等の日刊紙に前記ア記載の各種広告を掲載していたことが認められるから、遅くとも被告日本ビールらがドイツ語標章ビールの輸入を開始した平成2年ころまでには、「Budweiser」の名称は、原告のビール等の商品を示す商品表示として、ビール等の酒類の分野において著名になっていたものと認められる。また、営業表示としての「Budweiser」については、前記アのとおり「バドワイザー」又は「Budweiser」の語を原告又はその関連会社の営業を示すものとして用いた宣伝広告は、それほど多いものではないが、証拠(甲108)及び弁論の全趣旨によれば、原告の子会社であるバドワイザー・ジャパン・カンパニー・リミテッドが広告宣伝の主体になった平成6年ころには、商品としての「Budweiser」の著名性とあいまって、「Budweiser」の名称は、原告又はその関連会社の営業を示すものとしても著名となったものと認められる。
 次に、「Bud」の名称についても、前掲各証拠によれば、原告の商品を示すものとして広告等において使用されており、遅くとも平成2年ころまでには、原告の商品を示す商品表示として、需要者である一般消費者の間に広く認識されていたものと認められる。しかし、「Bud」の名称は、いずれも、「Budweiser」の略称として、独立の語として使用されており、「Bud」に何らかの文字を続け、あるいは何らかの文字の最後に「Bud」を配したものを1つの語として用いている例は、認められないから、原告の主張するように、「Bud」が接頭語及び接尾語として原告の商品を表す表示として、認識されていたと認めることはできない。また、「Bud」の名称を使用した宣伝広告等は、「Budweiser」に比べると少ないものであって、「Bud」の名称が著名であったとまでは認めることができない。
 「バド」については、前記アで認定したとおり、原告の製造販売に係るビールを示す商品表示として宣伝広告に用いられた例は存在するものの、その数は少なく、時期も限定的なものであるから、「バド」の名称が原告の商品を示す表示として需要者の間に広く認識されていると認めるには足りない。
(2) 原告名称と被告各標章との類否
 以上を前提にして、原告名称のうち商品等表示としての「Budweiser」及び「Bud」と被告各標章との類否を判断する。
ア 被告標章1について
 被告標章1は、原告名称「Budweiser」及び「Bud」に類似しない。その理由は、前記3(1)において、被告標章1と原告各登録商標との類否について説示したところと同様である。
イ 被告標章2について
 被告標章2は、原告名称「Budweiser」及び「Bud」に類似しない。その理由は、前記3(2)において、被告標章2と原告各登録商標との類否について説示したところと同様である。
ウ 被告標章3について
 被告標章3は、原告名称「Bud」に類似しない。その理由は、前記3(3)において、被告標章3と原告登録商標2との類否について説示したところと同様である。
エ 被告標章4について
(ア) 被告標章4は、原告名称「Budweiser」に類似しない。その理由は、前記3(4)アにおいて、被告標章4と原告登録商標1との類否について説示したところと同様である。
(イ) また、被告標章4は、自己の氏名を不正な目的でなく使用するものというべきであるから、不正競争防止法上の請求は及ばない(不正競争防止法12条1項2号)。
 すなわち、前記3(4)イにおいて述べたとおり、被告標章4は、被告ブドバーのチェコ語の正式の表記である「Budejovicky Budvar, Narodni Podnik」の英語の翻訳である。
 不正競争防止法12条1項2号は「自己の氏名」と規定するが、ここにいう「氏名」は、自然人の氏名に限定して解すべきものではなく、法人の名称も含むものと解するのが相当である。けだし、法人であっても、創業地や本店所在地の地名、創業者の氏名等をその名称に用いる必要がある場合は少なくないものであるから、そのような名称を不正競争の目的なく使用する場合には、これを不正競争防止法の適用の対象から除外する必要性が存在するものというべきである。他方、著名ないし周知の商品等表示の権利者の側としても、地名ないし人名を含む名称を自己の商品ないし営業を示すものとして使用する場合には、当該地名ないし人名を含む名称が他の企業の名称として使用される可能性があることは当然に予測すべきものであるから、そのような名称が周知性ないし著名性を取得した場合に、他人が当該名称を自己の名称として不正競争の目的なく使用する行為を甘受すべきものとしても、予測を裏切ることになるわけではない。また、そのように解しても、「不正の目的」がある場合は、不正競争防止法の適用の対象となるのであるから、権利者に格別の不利益を強いるものでもない。そのように解さないと、本来、当該商品の産地等を表示するもの(商標法3条1項3号)やありふれた名称を表示するもの(同項4号)として商標登録を受けられない名称が、特別顕著性を取得したという理由で商標登録された場合(同条2項参照)においては、商標権の効力が及ばない法人の名称(同法26条1項1号)に対しても、不正競争防止法上の請求が妨げられないということになるが、そのように解すると、そのような商標については、周知性、著名性を容易には認めるべきではないという考えを招くこととなり、かえって、権利者の保護に欠けることになりかねない。
 被告標章4は、被告ブドバーの名称を英語で表記したものであって、母国語であるチェコ語による表記ではないが、不正競争防止法12条1項2号にいう「自己の氏名」に該当するものと解するのが相当である。その理由は、前記3(4)イにおいて、商標法26条1項1号にいう「自己の名称」について説示したところと同様である。
 また、本件における被告標章4の使用が「不正の目的」でないことは、前記3(4)イに記載した被告標章4の使用態様や、前記3(4)ウに記載した被告ブドバーにおける「Budweiser」の名称の使用の経緯に照らせば、明らかである。
(ウ) 加えて、原告名称「Budweiser」の由来、被告ブドバーが自己の製造販売する瓶ビールに「Budweiser」の表示を付している経緯、チェコ語標章ビールにおける被告標章4の使用態様等の事情に照らせば、原告が、被告ブドバーによる被告標章4の使用に対して不正競争防止法上の権利を行使するのは、権利の濫用として許されないというべきである。その理由は、前記3(4)ウにおいて説示したところと同様である。
(エ) したがって、いずれにしても、被告標章4の使用に対しては、不正競争防止法上の請求は許されない。
オ 被告標章6について
 被告標章6は、原告名称「Budweiser」に類似しない。その理由は、前記3(6)において、被告標章6と原告登録商標1との類否について説示したところと同様である。
(3) 争点3についてのまとめ
 以上によれば、被告ブドバーらに対する、原告の不正競争防止法に基づく差止請求及び損害賠償請求は、いずれも理由がない。
 したがって、原告の被告ブドバーらに対するチェコ語標章ビール(被告標章1ないし4を付した瓶ビール)の輸入・販売等の差止め及び同ビールの廃棄並びにこれを理由とする損害賠償又は不当利得返還の請求(前記第1の1、2、5)は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。
 そして、原告の被告日本ビールらに対する被告標章6を付したドイツ語標章ビールの輸入販売等の行為に関する不正競争防止法上の請求は、理由がない。
 なお、前記3(5)において判断したとおり、被告日本ビールらが被告標章5を付したドイツ語標章ビールを輸入販売する行為は、原告登録商標1の商標権を侵害する。したがって、被告標章5について、商標権に基づく請求と選択的併合の関係にある不正競争防止法上の請求については、判断しない。
5 争点4(合意違反)及び争点5(権利濫用)について
(1) 被告ブドバー及び同アイコン
 被告ブドバーがチェコ語標章ビールに被告標章4を使用する行為に対して、原告が商標権に基づく請求権ないし不正競争防止法上の請求権を行使することが権利の濫用に当たることは、前判示のとおりである。そして、被告ブドバーにより被告標章4の付されたチェコ語標章ビールを被告アイコンが輸入して我が国において販売する行為について、原告が商標権ないし不正競争防止法に基づく請求をすることも、権利の濫用に該当するものとして許されない。
(2) 被告日本ビール及び同シャンパンハウス
 チェコ醸造合資会社とアンホイザー・ブッシュ・ブルーイング・アソシエーションないし原告との間の1911年及び1939年の合意においては、原告が我が国において有する登録商標の商標権を行使することを妨げる内容の具体的な合意はされていない。したがって、被告標章5に対する原告の商標権の行使が1911年及び1939年の合意に反する旨の被告日本ビール及び同シャンパンハウスの主張は、採用できない。
 また、前記1(7)及び3(5)記載の、ドイツ語標章ビールにおける被告標章5の使用態様に関する認定事実によれば、ドイツ語標章ビールの瓶の正面に添付されたラベルの中央部に被告標章5が大書されているというものである。
 原告が、我が国において、原告各登録商標及び別紙「原告の有するその余の登録商標目録」記載の各商標を商標登録し、「Budweiser」の名称の使用を継続して著名性を取得している事実等に照らせば、原告が、「Budweiser」の語を中心的な構成部分として含む被告標章5の使用に対して原告登録商標1に基づく請求権を行使することまでが、権利の濫用に該当して許されないということはできない。被告日本ビール及び同シャンパンハウスの主張は、採用できない。
6 被告日本ビールらに対する差止め等の請求について
 以上によれば、被告日本ビールらが被告標章5の付されたドイツ語標章ビールを輸入して我が国において販売する行為は、原告登録商標1について原告の有する商標権を侵害する。
 そこで、原告の被告日本ビールらに対する差止め等の請求について判断する。まず、被告日本ビールと同シャンパンハウスの関係については、証拠(甲76の1〜4、79、80)によれば、平成10年ころの被告日本ビールと同シャンパンハウスの登記された役員名を比べると代表取締役が同一人物で、役員にも共通する者があること、被告シャンパンハウスのウェブサイトではドイツ語標章ビールの販売の申込みを受けることができるようになっていたことが認められ、前記1(7)認定の被告日本ビールらによるドイツ語標章ビールの輸入形態をも併せ考えると、被告日本ビールと同シャンパンハウスは一体としてドイツ語標章ビールを輸入し、我が国で販売していたものと認めるのが相当である。
 そして、被告日本ビールらによるドイツ語標章ビールの輸入は、平成12年10月ころまで行われ、被告日本ビールらが現在ドイツ語標章ビールを輸入していないことは前記1(7)認定のとおりである。しかし、証拠(甲77)によれば、被告日本ビールは平成8年8月ころドイツ語標章ビールの販売を中止する旨を原告の当時の代理人弁護士に約束しながら、その後も同ビールの輸入販売を継続したことが認められるから、将来において、ドイツ語標章ビールの輸入を再開するおそれのあることを否定できない。したがって、原告の被告日本ビール及び同シャンパンハウスに対する被告標章5を付した瓶ビールの輸入、譲渡等の差止めを求める請求(前記第1の3の一部)は理由がある。
 他方、証拠(丙7)によれば、現在、被告日本ビールらが商品である酒、ビール類を保管している倉庫にドイツ語標章ビールの在庫は存在しないことが認められるから、原告の被告日本ビールらに対する被告標章5を付した瓶ビールの廃棄請求(前記第1の4)は理由がない。
7 争点6(原告の損害額)について
 既に判示したとおり、原告の被告ブドバー及び被告アイコンに対する損害賠償請求及び不当利得返還請求は理由がないので、以下ではドイツ語標章ビールの販売に関する原告の被告日本ビール及び被告シャンパンハウスに対する請求について判断する。
(1) 商標法38条2項に基づく損害賠償請求
ア 販売数量
 証拠(丙5、6)によれば、被告日本ビールの平成9年度から同12年度(平成9年1月1日から同12年12月31日)における年度ごとのビールの総販売量及びドイツ語標章ビールの販売数量(ビール24本入りのケースの数で表示)は次のとおりであることが認められる(ただし、平成12年度分には平成13年度に販売した数量が一部含まれている。)。
      年間ビール総販売量 ドイツ語標章ビール販売量
 平成9年度  565、000 685
 平成10年度 532、000 720
 平成11年度 563、000 505
 平成12年度 658、000 1、027
 そうすると、原告が損害賠償を請求する期間(平成9年5月から被告日本ビールらが販売を止めるまで)のドイツ語標章ビールの販売数量は合計で2708ケースとなる(なお、平成9年度については、月割りで計算した。)。
イ 輸入販売等に要する経費
 証拠(丙5、8)によれば、被告日本ビールらが販売するドイツ語標章ビールの1本当たりの販売価格は230円であること、このビールの販売に関しては輸入原価、税金のほか、シール印刷代、シール貼り作業料、倉庫保管料、輸送賃などの経費を要すること、これら諸経費の合計はビール1本当たり200円を下らないことがそれぞれ認められる。
 被告日本ビールらは、経費の中には、給料手当、宣伝広告費、通信費等の一般管理費というべき費目が含まれ、その合計額は19.38円であると主張する。しかし、仮に被告日本ビールが上記の経費を支出しているとしても、その全額がドイツ語標章ビールの輸入販売等にのみ要する費用であると認めるに足る証拠はないから、被告日本ビールらのいう一般管理費は、多くみてもビール1本当たり4.09円の限度でのみ経費に含まれるものというべきである。
ウ ドイツ語標章ビールの販売による利益
 以上によれば、被告日本ビールらがドイツ語標章ビールを販売したことによって得た利益の額は、合計で194万9760円となる。なお、証拠(丙6)によれば、被告日本ビールは平成13年度分の利益の額を同12年度分の利益として計上していることが認められるから、上記の利益は遅くとも平成12年12月31日には発生していたということができる。
(2) 不当利得返還請求
 証拠(丙9、10)によれば、被告日本ビールが平成8年度に販売したドイツ語標章ビールの数量は911ケースであること、前記(1)ア認定の年度別の販売数量によれば、平成8年度から同12年度までの5年間における年平均の販売数量は769.6ケースであることが認められる。そして、本件全証拠によっても、平成7年度以前の被告日本ビールによるドイツ語標章ビールの販売数量は明らかでないから、原告が不当利得の返還を求める平成2年5月から同9年4月までの7年分の同ビールの販売数量は、上記年平均の販売数量に7を乗じたものとして計算するのが相当である。
 そして、証拠(丙5)によれば、ドイツ語標章ビールの税額控除後の1本当たりの販売価格は147.45円であることが認められるから、この金額を基に証拠(甲38)及び弁論の全趣旨により認められる原告登録商標1の使用に対して受けるべき実施料率等を考慮すると、被告日本ビールの利得の額は104万8532円を下らない。
(3) 弁護士費用
 原告が本訴の提起、追行を原告代理人に委任したことは当裁判所に顕著であるところ、原告の請求の内容、本件事案の性質、訴訟手続の経緯、訴訟追行の難易度等の事情を総合勘案すれば、弁護士費用のうち100万円をもって、被告日本ビールらの侵害行為と相当因果関係のある損害と認める。この損害についても、被告らは連帯して支払義務を負うものである。
(4) まとめ
 以上によれば、原告の被告日本ビール及び被告シャンパンハウスに対する請求は、同被告らに対して、連帯して合計399万8292円及びうち294万9760円に対する平成13年1月1日から、うち104万8532円に対する平成12年4月20日から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払うことを求める限度において理由がある。
8 結論
 以上によれば、原告の被告ブドバー及び被告アイコンに対する請求はいずれも理由がなく、原告の被告日本ビール及び被告シャンパンハウスに対する請求は、被告標章5を付した瓶ビールの輸入、販売等の差止め及び前記7(4)記載の金員の支払を求める限度で理由がある。
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 三村量一
 裁判官 和久田道雄
 裁判官 田中孝一は、差し支えにつき、署名押印することができない。

裁判長裁判官 三村量一
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/