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【事件名】毎日新聞ホームページ事件(2)
【年月日】平成14年9月25日
 名古屋高裁 平成13年(ネ)第1042号 商標権侵害による損害賠償請求控訴事件
 (原審・名古屋地裁平成12年(ワ)第366号)

判決


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1) 原判決を取消す。
(2) 被控訴人は、控訴人に対し、1000万円及びこれに対する平成11年4月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。(なお、控訴人は当審において請求を減縮した。)
(3) 訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人の負担とする。
(4) 仮執行の宣言
2 被控訴人
 主文同旨
第2 事実関係
1 事実関係は、次のとおり補正し、下記2のとおり当審における当事者の主張を付加するほか、原判決の「事実」欄の第2記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決3頁10行目及び16行目の「5000万円」を「1000万円」とそれぞれ改める。
(2) 同4頁1行目及び6行目の「5000万円」を「1000万円」とそれぞれ改める。
2 当審における当事者の主張
(1) 控訴人
ア 原判決は、商標法38条2項に基づく請求について、控訴人が、本件各登録商標の使用をしていないので、同条項の適用がなく、積極的損害であると消極的損害であるとを問わず、控訴人の被控訴人に対する同条項に基づく損害賠償請求は認められないとするが、少なくとも、被控訴人の本件各商標権侵害により、控訴人は実施料を得られる機会を失ったものであるから、消極的損害の発生が認められるべきである。
イ 原判決は、本件各登録商標には、控訴人の信用と結合した顧客吸引力は全く存在せず、被控訴人が被控訴人各標章を使用した指定役務の提供により利益を挙げたとしても、それは被控訴人自身の高い周知性及び自らの宣伝等によるものであって、被控訴人各標章の使用は被控訴人の利益に寄与していないとする。
 しかし、本件各登録商標について、その使用実績による顧客吸引力は認められないとしても、標章それ自体から、出所識別機能のみならず、顧客吸引力も有することは明らかである。また、被控訴人は、本件ホームページにおいて広告、求人情報の提供をなすに当って、本件ホームページを示す唯一の標章として本件各登録商標を使用し、宣伝もしているものであって、被控訴人各標章の使用が、被控訴人の利益に寄与していることは明らかである。よって、商標法38条3項に基づき、本件各登録商標の使用料に相当する損害賠償請求は認められるべきである。
ウ 本件各登録商標に類似する被控訴人の被控訴人各標章を使用する行為は、商標法37条により、本件各商標権を侵害するものとみなされ、控訴人は、本件各商標権に基づき、被控訴人に対し、類似の被控訴人各標章の使用差止めをすることができ、被控訴人がこれを回避しようとすれば、控訴人に使用料を支払う必要がある。被控訴人は、本来控訴人に支払うべき使用料を免れて不当に利得しているものであり、不当利得に該当するから、控訴人は、被控訴人に対し、不当利得返還請求権を有する。原判決は、被控訴人に実施料支払義務が生じるのは、控訴人との間に商標の使用許諾契約を締結した場合か、商標法38条3項に該当する場合に限られるというが、本来使用料を支払わなければ使用できないのに、これを支払わずに被控訴人各標章を使用していた被控訴人は、その分利得を得ているものであるから、権利者である控訴人が、その損失に対応する上記利得を請求できる。
(2) 被控訴人
ア 控訴人の有する本件A商標権は商標法における指定役務第35類の「広告」であり、本件B商標権は同法における指定役務第42類の「求人情報の提供」であるところ、被控訴人は、「新聞の記事に関する情報の提供」を指定役務として同法における指定役務42類の登録をし、これを業として行っている。
 商標とは、業として役務を提供する者がその役務について使用するもの(商標法2条1項)であるから、被控訴人の本件ホームページによる広告、求人情報の提供は、被控訴人の業としての新聞の記事に関する情報の提供という指定役務に付随するものにすぎない。また、新聞は、広告、求人情報の媒体にすぎず、広告代理店等が、被控訴人から買取った紙面の一部を利用して、広告や求人情報の役務提供をなしており、本件ホームページによる広告、求人情報の提供も同じである。したがって、被控訴人は、業として広告、求人情報の提供を行うものではなく、また、本件ホームページは単なる媒体であり、広告や求人情報の役務提供を直接なしているものでもないから、本件ホームページに被控訴人各標章を使用していることは、被控訴人各標章が本件各登録商標に類似するとしても、本件各商標権の内容となっている広告、求人情報の提供の役務と異なるから、控訴人の本件各商標権を侵害するものではない。
イ 被控訴人各標章の使用について、控訴人の被控訴人に対する不当利得返還請求権は認められない。
 不当利得について、民法703条は「法律上の原因なくして他人の財産又は労務に因り利益を受け之が為に他人に損失を及ぼしたる者は其利益の存する限度に於て之を返還する義務を負う」旨規定しているが、本件において「他人の財産」とは、本件各商標権であるところ、被控訴人は、本件各商標権を使用していないから、本件各商標権により利益を受ける者ではないし、控訴人は、自己の財産である本件各商標権を被控訴人が使用したことによる損失を被ったとはいえない。
 控訴人は、本件各商標権の侵害の場合、侵害者は本来支払うべき使用料を免れているから、それだけの利得がある旨主張するが、上記のとおり被控訴人各標章の使用について控訴人の損害は発生しておらず、被控訴人には不法行為による損害賠償義務がないから、控訴人が支払うべき使用料を免れているという前提を欠くものであり、控訴人の主張は失当である。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、控訴人の被控訴人に対する、本件各商標権に基づく、主位的な不法行為による損害賠償請求権及び予備的な不当利得返還請求権はいずれも理由がないものと判断するが、その理由は、次のとおり補正し、下記2のとおり当審における当事者の主張に対する判断を付加するほか、原判決の「理由」欄の第1及び第2記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決14頁20行目の「指定役務」を「指定役務である広告及び求人情報の提供役務」と改める。
(2) 同15頁3行目の「上記各指定役務」を「本件ホームページに広告及び求人情報の提供がなされていたとしても、それは新聞の記事に関する情報の提供役務に付随して行われていたにすぎず、広告及び求人情報の提供役務」と改める。
(3) 同16頁24行目の「可能性は皆無」を「可能性がない」と改める。
(4) 同17頁7行目の「立証責任を軽減する規定である」を次のとおり改める。
 「立証責任を軽減するにとどまる規定であり、侵害行為により権利者が損害を被ったことまで推定するものではなく、権利者の登録商標の使用もなく侵害による損害の発生がなければ、権利者が本条項の適用を受けるものではない」
(5) 同17頁9行目の「争いがないから」を「争いがなく、上記及び下記の認定事実によれば被控訴人の被控訴人各標章の使用により控訴人の損害は特別発生していないものと考えられるから、控訴人は」と改める。
(6) 同18頁1行目の「30万件」を「約30万件」と改める。
(7) 同20頁20行目の「被告が」の次に「被控訴人各標章を使用した」を付加する。
(8) 同21頁2行目と3行の間に次のとおり付加する。
 「したがって、商標法38条3項に基づく控訴人の請求は理由がない。」
(9) 同21頁3行目の「オ したがって」を「6 以上によれば」と改める。
(10) 同21頁10行目の「不法行為を構成する結果」を「不法行為による損害賠償責任を負う結果」と改める。
(11) 同21頁12行目から13行目にかけての「不法行為責任を負う」を「不法行為による損害賠償責任を負う」と改める。
2 当審における当事者の主張に対する判断
(1) 控訴人は、原判決は、商標法38条2項に基づく請求について、控訴人が、本件各登録商標の使用をしていないので、同条項の適用がなく、積極的損害であると消極的損害であるとを問わず、控訴人の被控訴人に対する損害賠償請求は認められないとするが、少なくとも、被控訴人の本件各商標権侵害により、控訴人は実施料を得られる機会を失ったものであるから、消極的損害の発生が認められるべきである旨主張する。
 しかしながら、上記認定のごとく、本件各登録商標は控訴人の信用と結合した顧客吸引力が全く存在せず、被控訴人が利益を挙げたとしても、被控訴人自身の高い周知性及び宣伝等によるものであって、被控訴人各標章の使用は特段被控訴人の利益に寄与していないこと、控訴人が本件各登録商標を現在まで一度も使用していないこと、本件において第3者が「JAMJAM」という表示に有償での利用価値を見出して本件各登録商標の使用許諾を求めた事実は窺えず、また、その可能性も考え難いこと等に照らすと、被控訴人の被控訴人各標章の使用により控訴人が本件各商標権の実施料を得られる機会を失ったものとはいえないから、控訴人の上記主張は採用できない。
(2) 控訴人は、原判決は、本件各登録商標には、控訴人の信用と結合した顧客吸引力は全く存在せず、被控訴人が被控訴人各標章を使用した指定役務の提供により利益を挙げたとしても、それは被控訴人自身の高い周知性及び自らの宣伝等によるものであって、被控訴人各標章の使用が被控訴人の利益に寄与していないとするが、本件各登録商標について、その使用実績による顧客吸引力は認められないとしても、標章それ自体から、出所識別機能のみならず、顧客吸引力も有することは明らかである、また、被控訴人は、本件ホームページにおいて広告、求人情報の提供をなすに当って、本件ホームページを示す唯一の標章として被控訴人各標章を使用し、宣伝もしているものであって、被控訴人各標章の使用が被控訴人の利益に寄与していることは明らかであるので、商標法38条3項に基づく請求は、認められるべきである旨主張する。
 しかしながら、上記認定のごとく、本件各登録商標に含まれる「JAMJAM」の表示は、意味のある観念を生じないものであるから、本件各登録商標自体に顧客吸引力があるとは考え難い。また、本件各登録商標は控訴人の信用と結合した顧客吸引力が全く存在せず、被控訴人が利益を挙げたとしても、被控訴人自身の高い周知性及び宣伝等によるものであって、被控訴人各標章の使用は特段被控訴人の利益に寄与していないことは上記説示のとおりである。
 したがって、控訴人の上記主張は採用できない。
(3) 控訴人は、被控訴人の本件各登録商標に類似する被控訴人各標章を使用する行為は、商標法37条により、本件各商標権を侵害するものとみなされ、控訴人は、本件各商標権に基づき、被控訴人に対し、類似の被控訴人各標章の使用差止めをすることができ、被控訴人がこれを回避しようとすれば、控訴人に使用料を支払う必要があるが、被控訴人は、本来控訴人に支払うべき使用料を免れて不当に利得しているものであり、不当利得に該当するから、控訴人は、被控訴人に対し、不当利得返還請求権を有するものであるところ、原判決は、被控訴人に実施料支払義務が生じるのは、控訴人との間に商標の使用許諾契約を締結した場合か、商標法38条3項に該当する場合に限られるというが、本来使用料を支払わなければ使用できないのに、これを支払わずに被控訴人各標章を使用していた被控訴人は、その分利得を得ているものであるから、権利者である控訴人が、その損失に対応する上記利得を請求できる旨主張する。
 しかしながら、被控訴人は本件各登録商標自体を使用しておらず、その点について被控訴人の利益や控訴人の損失はないと考えられること、上記説示のとおり、被控訴人は本件各登録商標に類似する被控訴人各標章を使用したが、その使用によって利益を得たというものではないこと、被控訴人各標章の使用について控訴人の損害が発生しておらず、被控訴人には不法行為による損害賠償義務がないから、被控訴人が支払うべき使用料を免れているという前提を欠くものといわなければならない。したがって、控訴人の上記不当利得の主張は失当であり、採用できない。
3 以上によれば、控訴人の被控訴人に対する、主位的に不法行為に基づく損害賠償請求権として、予備的に不当利得返還請求権として、損害賠償金ないし不当利得金の一部の1000万円及びこれに対する平成11年4月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める本件請求は、いずれも理由がなく、失当である。 
第4 結論
 よって、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担について民事訴訟法67条、61条を適用して、主文のとおり判決する。

名古屋高等裁判所民事第2部
 裁判長裁判官 大内捷司
 裁判官 島田周平
 裁判官 玉越義雄
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