判例全文 | ||
【事件名】ゲームソフト「DEAD OR ALIVE 2」事件 【年月日】平成14年8月30日 東京地裁 平成13年(ワ)第23818号 損害賠償請求事件 (口頭弁論終結日 平成14年5月28日) 判決 原告 テクモ株式会社 訴訟代理人弁護士 谷雅文 被告 株式会社ウエストサイド 訴訟代理人弁護士 小倉秀夫 同 岡村久道 同 北岡弘章 主文 1 被告は原告に対し、金200万円及びこれに対する平成13年6月30日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は、これを2分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 被告は原告に対し、金400万円及びこれに対する平成13年6月30日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 争いのない事実等 (1) 原告は、コンピュータゲームの製造販売事業を主たる業務とする株式会社であり、被告はゲームユーティリティなどを収録した雑誌類の販売等を主たる業務とする株式会社である。 (2) 原告は、プレイステーション2(以下「PS2」という。)用ゲームソフト「DEAD OR ALIVE 2」(DVD−ROMに収録されている。以下「本件ゲームソフト」という。)のコンピュータプログラム及び本件ゲームソフトの登場人物の画像、音楽その他一切の著作物に関する著作権及び著作者人格権を有する(甲4ないし60、弁論の全趣旨)。 (3) 被告は、本件ゲームソフトに「かすみ」という名称で登場するキャラクターについて、そのユーザーが裸体の「かすみ」を選択できるようにメモリーカード上のパラメータ・データを編集できるプログラム(以下「本件編集ツール」という。)を開発し、これをCD−ROMマガジン「お楽しみCD」30号、「お楽しみCD」31号中のCD−ROM(以下「本件CD−ROM」という。)に収録し、全国490店舗に販売した(甲61、62、弁論の全趣旨)。 2 本件は、本件ゲームソフトについて著作権及び著作者人格権を有する原告が、そのキャラクターのコスチューム画像を改変し得る本件編集ツールを作成の上、それを本件CD−ROMに収録し、販売する被告の行為は、原告の翻案権又は同一性保持権を侵害するものであると主張して、損害の賠償を請求する事案である。 3 本件の争点 (1) 被告の行為は原告の本件ゲームソフトに対する翻案権又は同一性保持権を 侵害するかどうか。 (2) 損害の発生及び数額。 第3 争点に対する当事者の主張 1 争点(1)について 【原告の主張】 (1) 本件ゲームソフトに登場するキャラクターの「かすみ」の場合は、初期段階では2種類のコスチュームを選択することができる設定となっており、ゲーム(ストーリーモード)をクリアする毎に使用するコスチュームが増えていき、最終的には6種類のコスチュームが使用可能となる。 これに対し、ユーザーが本件編集ツールを実行し、市販のPS2専用メモリーカードのデータを書き換え、このメモリーカード(以下「本件メモリーカード」という。)を使用すると、元来「かすみ」のコスチュームとして使用することが予定されていない裸体画像がコスチュームの1つとして選択可能となり、それを選択し、かつ、ストーリーモードを選択すると、「かすみ」がゲーム中の戦闘シーンにおいて裸体で動作するようになる。 したがって、このような改変行為は、本件ゲームソフト中の「かすみ」の戦闘シーンにおいてコスチュームを着用して表示されている画像又は「かすみ」がオープニング画像において裸体で表示される画像を改変する行為であり、原告の翻案権又は同一性保持権を侵害する。 (2) 法律構成 ア 被告による本件編集ツールを収録した本件CD−ROMの販売行為が直接の侵害行為である。 本件CD−ROMに収録されている本件編集ツールは、本件ゲームソフトの「かすみ」の画像を裸体画像に改変するものであり、ユーザーによる侵害を誘発するものである。改変の具体的方法は、被告が製作した本件編集ツールによって規定されており、この意味でユーザーの下での改変行為は被告の指示通りに行われるものである。ユーザーは被告が製作した本件編集ツールがどのように動作するのか等という仕組みやそれが本件ゲームソフトにどのように作用しているか等ということは全く理解する必要はなく、被告の指示に従って機器を操作するだけで被告の意図する結果を作出することになる。被告は本件編集ツールを収録した本件CD−ROMの販売により利益を上げているが、この利益は被告にのみ帰属し、原告はこれに一切関与しない。したがって、このような場合、改変行為を行っている者はユーザーではなく、被告であるというべきである。 イ 仮にアのように言えないとしても、ユーザーが原告の本件ゲームソフトに対する著作者人格権を侵害し、被告はその幇助者(民法719条)である。ユーザーによる私的改変行為は著作権侵害にはならないが、著作者人格権を侵害する不法行為に当たる。 ウ 仮にイのように言えないとしても、被告の行為は、それ自体が独立した不法行為である。なぜなら、本件編集ツールは原告の著作物を改変する機能を有しており、その目的のために被告によって製作されたものであって、それ故にユーザーもその目的でこれを購入するものである以上、被告による本件編集ツールを収録した本件CD−ROMの販売行為はこれを購入したユーザーによって原告の著作物に対する原告の意に反する改変を惹起する結果となり、その意味で原告によるツール提供行為と改変の結果との間に因果関係が認められるからである。 (3) なお、被告は、本件編集ツールを製作販売するに際して、最低でも1度は 裸体画像を用いて「かすみ」を動作させているから、この行為は翻案権又は 同一性保持権を侵害する。 【被告の主張】 (1) 改変行為の不存在について 本件ゲームソフトには、ゲーム中の戦闘シーンにおいて「かすみ」の裸体画像を表示する機能(以下、戦闘シーンにおける「かすみ」の裸体画像を「本件裸体画像」という。)があらかじめ組み込まれていたのであるから、このような画像をモニター上に表示することは、改変行為には当たらない。その理由は、以下のとおりである。 ア 本件裸体画像は、原告が製作、販売したDVD−ROMに収録されたプログラム・ファイル及びデータ・ファイルに何らの改変を加えずに、本件ゲームソフトを実行することにより、モニター上に表示される。 イ 「かすみ」を含む主要登場キャラクターの戦闘姿をデモンストレーションするオープニングムービーにおいて、半透明のゼリー状のものにくるまって横たわっている裸体の「かすみ」が表示されるが、これらのオープニングムービーを表示するために「かすみ」の裸体画像に関するポリゴンデータが作成されているとすれば、顔とともに乳房がクローズアップされた正面からの画像、斜め後ろから「かすみ」の全身裸体を表示した画像、裸体の「かすみ」が敵キャラクターに向かって足を大きく蹴り上げる動作をしている画像をそれぞれスムーズに描くのに必要なポリゴンデータを作成する必要はないから、これらのポリゴンデータが作成されていることは、本件裸体画像が表示されるように本件ゲームソフトが開発されたものとみるべきである。 また、上記場面は非常に唐突に現れるものであって、ストーリー上必然性がないし、上記オープニングムービー後のストーリー展開にも何ら繋がりをもたないものである。むしろ、本件裸体画像に関するポリゴンデータを本件ゲームソフトのDVD−ROMに収納するための大義名分として、オープニングムービー中に裸体の「かすみ」が半透明のゼリー状のものにくるまって横たわっている場面が挿入されたものと見るのが自然である。 ウ ユーザーが、PS2所定のスロットに本件メモリーカードを挿入し、12人のキャラクターの中から「かすみ」を選択すると、画面左下の「C1」から「C6」までのアイコンに加えてさらに「C6」の上に「C2」というアイコンが表示される。この場合、「C2」を選択すると、本件裸体画像をスムーズに表示できるだけのポリゴンデータが、格納されているファイルからRAMに読み込まれ、本件裸体画像が表示されるようになる。 エ 上記の画面左下の「C6」の上に「C2」というアイコンが表示された状態で「C2」にカーソルを合わせると、裸体の「かすみ」の胸から上の画像が画面上左側に表示されるが、この画像はオープニングムービー中には使用されていない。この画像は、「C2」を選択すれば、本件裸体画像の「かすみ」を操作できることを知らせるために、原告がことさらに作成し、本件ゲームソフトのDVD−ROMに収納したものとしか考えられない。 オ ユーザーが、PS2所定のスロットに本件メモリーカードを挿入し、12人のキャラクターの中から「あやね」を選択すると、画面左下の「C1」から「C6」までのアイコンに加えてさらに「C6」の上に「C2」というアイコンが表示されるが、「C2」を選択すると、プログラムが停止する。これは、「あやね」については、「かすみ」と異なり、「C6」上の「C2」に対応するデータが存在しないからである。 (2) 侵害行為の主体について 本件裸体画像をモニター上に表示させるために必要な所作は、すべて各ユーザーが行っているから、「改変」行為の主体は各ユーザーであると考えるのが素直である。そして、現実に利用行為を行っているわけではない者を規範的に利用行為の主体と認定するためには、@その者の管理、支配の下に、現実の行為者が当該利用行為を行っていること(管理、支配性の要件)、Aその者が、現実の行為者により利用行為がされることにより利益を得ることを目的としていること(図利性の要件)が具備されていることが必要である(最高裁判所第3小法廷昭和63年3月15日判決・民集42巻3号199頁参照)ところ、以下のとおり、被告が本件CD−ROMを販売した行為は、上記各要件をいずれも具備しないから、被告は上記改変行為の主体たり得ない。 ア 本件CD−ROMを購入したユーザーは、被告の管理、支配の全く及ばない自宅等に持ち帰り、被告の意思に関わりなくユーザー自身の自由意思をもって本件CD−ROMに収録された本件編集ツールを用いて本件メモリーカードを作成し、それを用いてコスチュームを選択し、本件ゲームソフトにおける戦闘シーンの実行を行うのであって、ユーザーが上記行為をすることについて被告がユーザーを管理、支配しているとはいえない。 イ 被告が本件CD−ROMを販売する目的は、ユーザーをして本件編集ツールを用いて本件メモリーカードを作成し、コスチュームを選択して戦闘シーンを実行するという「改変」行為をさせることにより利益を得ることにあったとはいえない。 (3) 本件編集ツールを用いて本件裸体画像をモニター上に表示させるユーザーは、一般に自ら本件裸体画像を楽しむために改変を行うのであって、自らのモニターに本件裸体画像が表示されている状態を公衆に見せるということは通常はない。したがって、ユーザーが本件編集ツールを用いて本件裸体画像をモニター上に表示させたとしても、原告の本件ゲームソフトに対する同一性保持権は侵害されないというべきである。 (4) 被告が販売した「お楽しみCD」には、様々なソフトやデータが収録されており、本件編集ツールに限定しても、それを実行すると、「かすみ」以外のキャラクターについては、コスチューム数データを最大限可能なコスチューム数に編集するようになっているから、「かすみ」の画像の改変のみを目的とするものではない。 (5) 著作物を個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的としてその使用する者が翻案する行為は翻案権侵害にはならないところ(著作権法43条1号、30条1項)、本件編集ツールを用いたユーザーによる「改変」行為は、個人的に使用することを目的としてされていることは明らかであるから、翻案権侵害に当たらない。そうすると、このような翻案権侵害とはならない行為を惹起(幇助)したからといって、被告が翻案権侵害の幇助者として損害賠償責任を負うことはない。 【原告の反論】 各キャラクターを製作する際には、まずコスチュームをまとっていない状態の各キャラクターの体躯の基本線を決める3Dポリゴンデータである「素体」を製作し、「素体」を基本にして各キャラクターについてコスチュームの3Dポリゴンデータを上書きし、各コスチュームをまとったキャラクターの3Dポリゴンデータが製作される。「かすみ」の場合はこの「素体」3Dポリゴンデータを利用して、オープニングムービーを製作したものである。 このように「かすみ」については、本件裸体画像が3Dポリゴンデータの形式で本件ゲームソフト中に格納されているが、被告が主張するように本件裸体画像を戦闘シーンで使用することを予定して製作したものではない。このことは、次の事実から明らかである。すなわち、戦闘モードにおいて、コスチュームを着けた「かすみ」は、まばたきをするが、本件メモリーカードを使用して表示された本件裸体画像の「かすみ」は、まばたきをしない。これは、オープニングムービーにおいて、裸体の「かすみ」は、顔のアップシーンがないので、まばたきをするモーションデータがないためである。 2 争点(2)について 【原告の主張】 原告は、「お楽しみCD」30号及び31号を少なくとも各1万部製作し、全国の販売店に販売した。被告の行った改変行為は著しく低俗かつ破廉恥な内容である上、被告の販売した本件編集ツールの総量も看過し得ない数量である。したがって、これにより被った原告の慰謝料は400万円が相当である。 【被告の主張】 否認する。 第4 当裁判所の判断 1 争点(1)について (1) 上記争いのない事実並びに証拠(甲1の1、2、甲2、3、61、62、検甲1、3、検乙1)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。 ア 本件ゲームソフトは、ゲームを行う主人公(プレイヤー)が12人のキャラクターの中から1人のキャラクターを任意に選択し、さらに複数のコスチュームから1つを任意に選択し、8つのゲームモードから1つを任意に選択した上で、対戦相手と戦闘し、戦闘に勝利すると場面が変わり他の対戦相手と戦闘するというストーリーを内容とする。 イ プレイヤーが、市販のPS2用メモリーカードをPS2所定のスロットに挿入した状態で本件ゲームソフトを起動させると、主要登場キャラクターの戦闘姿をデモンストレーションするオープニングムービーがモニター上に表示される。このオープニングムービー中にゼリー状のカプセルに包まれた裸体の「かすみ」が登場する。これは本件ゲームソフトのストーリー中に「偽かすみ」がクローン技術によって作られたとの設定があり、そのストーリーの中で「かすみ」が捕らえられているシーンを表示したものである。 ウ プレイヤーが、PS2所定のアナログコントローラを操作し、「CHARACTER SELECT」と題する画面を表示させると、画面下中央部分に12人のキャラクターの顔を表示したアイコンが表示される。ユーザーはアナログコントローラを操作し、この中の1人のキャラクターのアイコンにカーソルを合わせて選択すると、画面左下部分に、「C1」、「C2」等が白い文字で記載された、角がやや丸い横長の長方形のアイコンが縦に並んで表示される。これは当該キャラクターのコスチューム数データの数だけ表示される。プレイヤーがこの中から1つのコスチュームのアイコンにカーソルを合わせると、画面上左側にコスチュームが表示され、そのアイコンをプレイヤーが選択すると、戦闘シーンにおいて当該キャラクターが着用するコスチュームが決定される。 エ プレイヤーが12人のキャラクターから「かすみ」というキャラクターを選択した場合、初期段階では、画面左下に下から順に「C1」、「C2」と表示された2つのアイコンから2種類のコスチュームを選択することができ、対戦相手との戦闘に勝利しゲームをクリアするごとに選択可能なコスチュームが増えていき、最終的には6種類のコスチュームを選択することができるようになる。上記コスチュームの中には本件裸体画像は含まれていない。 オ 本件ゲームソフトにおいては、ユーザーがセーブコマンドを選択した際にメモリーカードに記録されているパラメータ・データ・ファイルの13E0A番目から13E15番目のアドレスにその時点で各キャラクターが選択可能なコスチュームの数を記録している。「かすみ」の場合、13E0F番目のアドレスにゲームの進行具合に応じて「02」から「06」までのいずれかが記録され、このアドレスに「02」というデータが格納されたときはプレイヤーは2種類のコスチュームを選択でき、「06」というデータが格納されたときは6種類のコスチュームを選択できる。本件ゲームソフトにおいては、通常、13E0F番目のアドレスに「07」というデータが格納されることはなく、仮に「07」というデータが格納された場合でも、チェックサムプログラムによりエラーとなる。したがって、コスチュームリミットテーブル上の「かすみ」の使用可能なコスチューム数の最大値は6である。 カ 「かすみ」については、その裸体画像が3Dポリゴンデータの形式で、本件ゲームソフトに格納されている。 キ 被告は、本件ゲームソフトのプレイヤーが「かすみ」について戦闘シーンの際に、裸体画像を選択できるように、メモリーカード上のパラメータ・データを編集できるプログラム(本件編集ツール)を開発し、これを本件CD−ROMに収録して、本件CD−ROMを包装したCD−ROMマガジン「お楽しみCD」30号及び31号として全国490店舗に販売した。 なお「お楽しみCD」30号のパッケージ表紙に「ここまでやっていいのか?ヌードのかすみでゲームする!PS2 DEAD OR ALIVE2」との宣伝文言が掲載され、被告作成のホームページにも本件編集ツールの効果として「[PSメモリーカード変更]裸霞、全コスチューム使用可能」との記載がある。 ク 本件CD−ROMを購入したユーザーは、それに収録されている本件編集ツールによってPS2用メモリーカードに記録されたパラメータ・データを編集して、本件メモリーカードを作成することができる。 本件編集ツールは、メモリーカードの13E0F番目のアドレスに格納されているデータを「07」とすると共に、これに応じてチェックサムデータを変更するものである。 ケ ユーザーが、PS2所定のスロットに本件メモリーカードを挿入し、12人のキャラクターの中から「かすみ」を選択すると、初期段階から、画面左下の「C1」から「C6」までのアイコンに加えてさらに「C6」の上に「C2」と表示され、合計7種類のコスチュームが選択可能となる。ユーザーが「C2」のアイコンにカーソルを合わせると、画面上左側に「かすみ」の裸体の静止画像が表示される。プレイヤーが「C6」の上の「C2」を選択し、8つのゲームモードのうちストーリーモードを選択すると、本件裸体画像の「かすみ」が対戦相手と戦闘することになる。 (2) 本件ゲームソフトの映像は、思想又は感情を創作的に表現したもので、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものとして、著作権法2条1項1号にいう著作物ということができるものと解される。そして、上記(1)で認定した事実によると、本件編集ツールによって編集された本件メモリーカードを使用して、本件裸体画像を表示することは、本件ゲームソフト中の「かすみ」のコスチュームの映像を改変するものであって、原告の本件ゲームソフトに対して有する同一性保持権を侵害するものと解するのが相当である。なぜなら、上記(1)で認定した事実によると、通常市販されているメモリーカードを使用した場合には、「かすみ」の使用可能なコスチューム数の最大値は6であって、本件裸体画像を表示することはできないところ、本件メモリーカードを使用することによって、上記コスチューム数の制限を超え、本件裸体画像を表示することが可能になるからである。 以上のとおり、通常市販されているメモリーカードを使用した場合には、表示されない本件裸体画像が、本件メモリーカードを使用することによって、表示される以上、上記(1)認定のとおり、本件ゲームソフトには、「かすみ」の裸体画像が3Dポリゴンデータの形式で格納されており、また、オープニングムービー中に「かすみ」の裸体画像が表示され、その他、前記第3の1【被告の主張】(1)において被告が主張する事実が存するとしても、これらのことは、上記同一性保持権を侵害するとの認定を左右することはないというべきである。 (3) 上記(1)で認定した事実によると、被告は本件編集ツールを含む本件CD−ROMを雑誌に収録して販売し、多数の者が現実に本件CD−ROMを入手したものと認められる。そうすると、被告は、現実に本件編集ツールを使用して作成した本件メモリーカードを使用する者がいることを予期した上で本件CD−ROMを流通に置いたものということができ、他方、本件編集ツールを購入したユーザーが、現実にこれを使用して本件メモリーカードを作成し、本件裸体画像を表示させたことを推認することができる。また、上記(1)で認定した事実及び弁論の全趣旨によると、ユーザーによる本件メモリーカードの作成は、ユーザーが被告の指示した方法に従って機器を操作することによってすることができ、ユーザーがそのメモリーカードを通常のメモリーカードの使用方法に従って使用することにより、本件裸体画像が表示されるものであり、そこには、ユーザー固有の判断は必要とされていないものと認められる。 ところで、上記(1)で認定したとおり、ユーザーは本件編集ツールによって作成される本件メモリーカードを使用することにより、本件裸体画像を表示することが可能になるにとどまらず、最初から本件裸体画像を含むすべての「かすみ」のコスチュームを戦闘シーンで使用することが可能になるものと認められるが、前記(1)キ認定のとおり、「お楽しみCD」30号のパッケージ表紙に「ここまでやっていいのか?ヌードのかすみでゲームする!PS2 DEAD OR ALIVE2」との宣伝文言が掲載され、被告作成のホームページにも本件編集ツールの効果として「[PSメモリーカード変更]裸霞、全コスチューム使用可能」との記載があることからすると、本件編集ツールが、本件裸体画像を表示することができることを主要な目的としていることは明らかである。 以上述べたところを総合すると、本件編集ツールは、本件裸体画像を表示することができることを主要な目的としているところ、被告は、そのような本件編集ツールを使用して作成した本件メモリーカードを使用して、本件裸体画像を表示させる者がいることを予期して、本件編集ツールを含む本件CD−ROMを多数販売し、その結果、ユーザーが被告の指示した方法に従って機器を操作することによって本件メモリーカードを作成し、それを通常のメモリーカードの使用方法に従って使用することにより、本件裸体画像が表示され、本件ゲームソフトが改変されたものと認められるから、本件CD−ROMに本件編集ツールを収録して販売し、その使用を意図して流通に置いた被告は、本件メモリーカードの使用による本件ゲームソフトの同一性保持権の侵害を惹起したものとして、民法709条の不法行為に基づく損害賠償責任を負うと解するのが相当である(最高裁判所第3小法廷平成13年2月13日判決・民集55巻1号87頁参照)。 (4) 被告は、ユーザーによる本件メモリーカードを使用する行為は、通常それによって表示された「かすみ」の裸体画像を公衆に見せるものではないから、同一性保持権侵害に当たらないと主張するが、上記(3)で述べたとおり、被告は、本件編集ツールを本件CD−ROMに収録して多くの本件CD−ROMを販売することにより、それを買い受けた者が、本件メモリーカードを使用して、本件ゲームソフトを改変するという結果を生じさせたのであるから、その結果は、広範囲に生じており、不特定多数の者が改変された映像を見たものと認められる。したがって、被告の行為により同一性保持権侵害が生じたものということができることは明らかである。 (5) 被告は、現実に利用行為を行っているわけではない者を規範的に利用行為の主体と認定するためには、@その者の管理、支配の下に、現実の行為者が当該利用行為を行っていること、Aその者が、現実の行為者により利用行為がされることにより利益の得ることを目的としていること、以上の要件が具備されることを要するところ、本件については、これらの要件を具備していないから、被告を侵害行為の主体と考えることはできないと主張する。 上記@、Aの要件を具備している者が、著作権侵害の主体として責任を負うことがあるとしても、著作権侵害の責任を負う者が、このような者に限定される理由はない。本件においては、前記(3)のとおり、被告は、本件編集ツールを含む本件CD−ROMを多数販売し、その結果、ユーザーが、本件メモリーカードを作成使用することにより、本件ゲームソフトが改変されたものと認められるから、このような事実関係の下では、被告について不法行為の成立を認めるのが相当であって、それが妨げられる理由はない。 (6) 被告は、本件CD−ROMには、本件編集ツール以外に様々なソフトやデータが収録されていると主張するが、このことは、複数のソフトウェア等が一つのCD−ROMに収録して販売されたというにすぎないから、この事実は、前記不法行為の成立を妨げるものではない。 (7) 以上の次第であるから、被告は原告の本件ゲームソフトに対する同一性保持権を侵害した者として不法行為責任(民法709条)を負うものというべきである。 2 争点(2)について 上記1で認定判断したとおり、被告の同一性保持権侵害行為の内容は、本件ゲームソフトにおいて、本件裸体画像を表示することができるようにしたものである。そして、前記(1)キ認定のとおり、被告は、本件CD−ROMを包装したCD−ROMマガジン「お楽しみCD」30号及び31号を全国490店舗に販売したことが認められる。これらの事実に、本件に現れたその他の事情を総合すると、被告の同一性保持権侵害行為による慰謝料の額は、200万円が相当である。 なお、前記第3、1【原告の主張】(3)の事実があり、これが不法行為に当たるとしても、認容額は、上記金額を超えることはないものと認められるので、この点は、判断しないこととする。 3 よって、原告の請求は主文の限度で理由がある。 なお、翻案権侵害を理由とする請求は、これが認められたとしても、上記認容額を超えることがないものと認められるので、この点は、判断しないこととする。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 森義之 裁判官 内藤裕之 裁判官 上田洋幸 |
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