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【事件名】作図ソフト「スーパー土木」事件 【年月日】平成14年8月29日 大阪地裁 平成11年(ワ)第965号 著作権侵害差止等請求事件 /平成11年(ワ)第13193号 開発委託費等請求反訴事件 (口頭弁論終結日 平成14年3月28日) 判決 原告(反訴被告) 株式会社サンシステム 訴訟代理人弁護士 牧野二郎 同 岡村久道 同 北岡弘章 被告(反訴原告) 株式会社イーウェーヴ(旧商号・株式会社フライト) 被告 株式会社システム神山 被告 ミラ株式会社 上記3名訴訟代理人弁護士 水谷直樹 同 粟田英一 主文 1 被告らは、土木出来形自動作図システムソフトウエア「スーパー土木」を複製、販売、頒布、展示してはならない。 2 被告らは、肩書地において占有する前項記載のソフトウエア複製物を廃棄せよ。 3 被告株式会社イーウェーヴは、別紙プログラム登録目録記載のプログラム登録の抹消登録手続をせよ。 4 被告株式会社イーウェーヴ及び被告株式会社システム神山は、原告に対し、連帯して金1162万5000円及びこれに対する平成11年2月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 原告の被告株式会社イーウェーヴ及び被告株式会社システム神山に対するその余の請求をいずれも棄却する。 6 反訴被告は、反訴原告に対し、金1853万3750円及びこれに対する平成11年12月15日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 7 反訴原告のその余の反訴請求を棄却する。 8 訴訟費用は、原告(反訴被告)と被告(反訴原告)株式会社イーウェーヴとの間に生じたものは本訴反訴を通じてこれを2分し、その1を被告(反訴原告)株式会社イーウェーヴの、その余を原告(反訴被告)の負担とし、原告と被告株式会社システム神山との間に生じたものはこれを7分し、その3を被告株式会社システム神山の、その余を原告の負担とし、原告と被告ミラ株式会社との間に生じたものは、これを被告ミラ株式会社の負担とする。 9 この判決は、第4項及び第6項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 〔本訴請求〕 1 主文第1ないし3項同旨 2 被告(反訴原告)株式会社イーウェーヴ(以下単に「被告イーウェーヴ」という。)及び被告株式会社システム神山(以下「被告神山」という。)は、原告(反訴被告。以下単に「原告」という。)に対し、連帯して金7496万5000円及びこれに対する平成11年2月18日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 〔反訴請求〕 原告は、被告イーウェーヴに対し、金6087万4250円及びこれに対する平成11年12月15日(反訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 〔本訴請求〕 本件は、ソフトウエア開発委託契約(以下「本件開発委託契約」という。)に基づき、被告イーウェーヴに土木出来形(出来型)自動作図システムソフトウエア「スーパー土木」(以下「本件ソフトウエア」という。)の開発を委託した原告が、 1 本件ソフトウエアの複製、販売、頒布、展示の差止請求として、 (1) プログラムの著作物(著作権法10条1項9号)である本件ソフトウエアの著作権の9割の共有持分を有するとして、被告らに対し、著作権法112条1項に基づき本件ソフトウエアの複製、販売、頒布、展示の差止めを求めるとともに、同条2項に基づきソフトウエア複製物の廃棄を求め、 (2) 被告イーウェーヴに対し、予備的に、同被告との間の共有著作権の行使に関する合意(著作権法65条2項)又は契約上の独占販売権付与合意に基づき、本件ソフトウエアの複製、販売、頒布、展示の差止めを求め、 2 本件ソフトウエアの著作権の共有持分に基づき、被告イーウェーヴに対し、プログラム登録(著作権法76条1項に基づく第一公表年月日登録)の抹消登録手続を求め、 3 被告イーウェーヴ及び被告神山に対し、著作権法114条2項に基づく損害賠償を請求した事案である。 〔反訴請求〕 本件は、被告イーウェーヴが、原告に対し、@本件開発委託契約に基づき開発費残代金400万円の支払を請求するとともに、A同被告と原告の間のライセンス契約に基づくライセンス料1221万9250円、B本件開発委託における原告からの仕様変更の要求に基づき、追加開発費用3230万5000円、C同被告が著作権を有するCADエンジン「FCAD」について同被告と原告との著作権使用契約に基づく著作権使用料930万円、D本件ソフトウエアの保守委託契約に基づく保守料305万円の各支払を求めた事案である。 1 争いのない事実等(証拠の掲記のない事実は、当事者間に争いがないか弁論の全趣旨により認められる。) (1) 当事者 ア 原告は、コンピューターソフトウエアの開発、販売等を業とする株式会社である。 イ 被告イーウェーヴ(平成12年4月3日商号変更、旧商号「株式会社フライト」)は、人材派遣業やコンピューターの販売等を業とする株式会社である。 ウ 被告神山は本件ソフトウエアの卸販売を、被告ミラ株式会社(以下「被告ミラ」という。)は本件ソフトウエアの小売販売をしてきた会社である。 (2) 本件開発委託契約 ア 基本要件設計契約 株式会社サヌキットジャパンプランニング(以下「サヌキット」という。)は、被告イーウェーヴに対し、以下のとおり、本件ソフトウエアの基本要件設計作業その他の業務を委託し、同被告はこれを受託した。なお、本件ソフトウエアは、土木事業者が主に公共事業の受注等の際に、役所等に提出する正確な見積り、各種計算書を自動作成するものである。 (ア) 合意年月日 平成8年7月16日 (イ) 業務内容 本件ソフトウエアの基本要件設計作業、MicroGDSの調査作業及びシステム開発契約立案作業 (ウ) 委託金額 232万7000円 同被告は、基本機能設計書(乙8)を成果物としてサヌキットに納品し、サヌキットはこれを検収受領するとともに、上記作業の対価を支払った(甲1、2)。 イ 本件開発委託契約 サヌキットは、平成8年8月20日、同被告との間で、同日付け見積書(甲3、以下「本件見積書」という。)のとおり、開発代金2400万円、納期限を同年12月31日などと定めた本件開発委託契約を締結した。 ウ 追加契約 サヌキットと同被告は、同年9月20日、同日付け見積書(甲39、乙1、以下「追加見積書」という。)のとおり、本件ソフトウエアに@展開図自動作図機能、A工事、図面、テンプレートの管理方法、B小数点設定のタイプ別入力機能を搭載する旨の仕様変更の合意を代金300万円と定めて行った(その余の仕様変更の合意の有無については争いがある。)。 エ サヌキットと同被告は、同年9月中旬ないし10月ころ、本件ソフトウエアのCADエンジン(直線、円弧等の図形を作成するソフトウエア)部分として、同被告に入社予定の社員が作成した「FCAD」を使用する旨合意した。 (3) サヌキット代表取締役であった甲(以下「甲」という。)は、同年10月24日、原告を設立し、そのころ、本件開発委託契約上の地位を原告に譲渡し(甲33の1)、被告イーウェーヴにその旨を通知し、同被告もこれを承諾した。 (4) 原告は、平成9年3月ころから平成10年8月にかけて、本件ソフトウエアの複製物を合計186本販売した。 (5) 被告イーウェーヴは、同年6月ころから被告神山及び被告ミラを通じて、本件ソフトウエアの複製物を販売し、本訴提起までに、被告神山を通じて、本件ソフトウエアの複製物を合計47本販売した。 (6) 原告は、平成10年10月30日、被告神山及び同ミラに対し、本件ソフトウエアの著作権が原告に帰属し、被告イーウェーヴとの間で原告に独占的販売権を付与する合意があることなどを示し、被告神山及び同ミラによる本件ソフトウエアの複製、販売行為は著作権を侵害するものであるとして、その停止を求める旨の内容証明郵便を送付し、同郵便は同年11月2日同被告らに到達した。 (7) 被告イーウェーヴは、平成10年1月28日、本件ソフトウエアのプログラムの著作権者として、財団法人ソフトウエア情報センターにおいて、別紙プログラム目録記載のとおり、プログラムの第一発行年月日等の登録を行った(以下「本件登録」という。)。 2 争点 〔本訴請求〕 (1) 本件ソフトウエアは原告と被告イーウェーヴの共有に係る著作物か。 ア 本件ソフトウエアは原告と被告イーウェーヴの原始的共同著作物か。 イ 原告と被告イーウェーヴの間で、本件ソフトウエアの著作権を原告9割、同被告1割の共有とする合意が成立したか。 (2) 原告と被告イーウェーヴの間で、原告のみが本件ソフトウエアを複製し、単独で販売できるという「共有著作権の行使に関する合意」(著作権法65条2項)、又は、原告に契約上の債権的権利として本件ソフトウエアの独占的販売権を付与する旨の合意が成立したか。 (3) 原告の本訴請求は権利の濫用か。 (4) 原告の損害額。 〔反訴請求〕 (5) 原告は、本件開発委託契約に基づく残代金支払義務を負うか。 (6) 被告イーウェーヴとサヌキットの間には、サヌキットが本件ソフトウエアを1本販売するごとに同被告にライセンス料10万円を支払う旨の合意が成立したか。 (7) 原告は、本件ソフトウエアの仕様変更による追加作業の発生に伴い、被告イーウェーヴに対し追加開発費支払義務を負うか。 (8) 原告は、被告イーウェーヴに対し、FCADの著作権使用料の支払義務を負うか。 (9) 原告は、被告イーウェーヴに対し、保守契約に基づく保守料の支払義務を負うか。 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点(1)(本件ソフトウエアは原告と被告イーウェーヴの共有に係る著作物か)について (1) 同ア(本件ソフトウエアは原告と被告イーウェーヴの原始的共同著作物か)について 【原告の主張】 本件ソフトウエアは、原告と被告イーウェーヴが共同で開発したものであり、原始的に原告と同被告の共同著作物である。原告は、基本設計段階から同被告と共同で設計に携わり、本設計の段階でも共同で開発し、成果物の特徴ともいうべき土木でも、各種データの計算式の作成業務を原告が専属的に行い、インターフェースの設計、レイアウト、仕様のすべてを原告が決定するなど、開発行為を分担した。 【被告らの主張】 被告イーウェーヴは、本件ソフトウエアの開発費総額3438万5000円中1038万5000円を負担し、すべての開発工程(要件定義、外部設計、内部設計、プログラミング、単体試験、組合せ試験、システム試験)を実質的に行い、本件プログラム作成の根幹であり創作活動の中心である内部設計及びプログラミングの各作業を単独で行った結果、本件ソフトウエアを完成させた。本件ソフトウエアは、同被告が単独で開発したものであるから、著作権は同被告に原始的に帰属する。原告は、同被告が本件ソフトウエアの仕様及び機能を決定する前提となる情報を提供し、要望を述べたにすぎず、本件ソフトウエア開発作業に実質的に関与し、本件ソフトウエアを同被告と共同で創作したとはいえない。 (2) 同イ(原告と被告イーウェーヴの間で、本件ソフトウエアの著作権を原告9割、同被告1割の共有とする合意が成立したか)について 【原告の主張】 原告と被告イーウェーヴの間では、平成9年7月25日付け「スーパー土木の権利関係について」と題する書面(甲7)により、本件ソフトウエアの著作権の共有持分割合を原告9割、被告1割とする合意が成立した。 【被告らの主張】 本件ソフトウエアの著作権の共有持分が原告に移転した事実はない。被告イーウェーヴの乙専務取締役(以下「乙」という。)は、平成9年7月25日付け書面(甲7)により、原告が本件ソフトウエアの開発委託料(追加開発費を含む。)の支払を完了する条件で、本件ソフトウエアの著作権を原告と同被告の共有とする旨提案したが、原告は現在も開発委託料の支払を完了しておらず、本件ソフトウエアの著作権の持分割合に係る合意は成立していない。 2 争点(2)(原告と被告イーウェーヴの間で、原告のみが本件ソフトウエアを複製し、単独で販売できるという「共有著作権の行使に関する合意」(著作権法65条2項)、又は、原告に契約上の債権的権利として本件ソフトウエアの独占的販売権を付与する旨の合意が成立したか)について 【原告の主張】 (1) 原告と被告イーウェーヴの間では、原告のみが本件プログラムを複製し、これを単独で販売すべき「共有著作権の行使に関する合意」(著作権法65条2項)、又は、原告に契約上の債権的権利として本件ソフトウエアの独占的販売権を付与する旨の合意が存在した。本件開発委託契約は、原告が開発元として販売するパッケージソフトの製作を目的とした通常の開発委託契約であり、上記目的を前提に、サヌキット作成の基本契約書案(乙2)第22条、乙作成の平成9年6月11日付け「Super土木について」と題する書面(甲5)、甲作成の同月21日付け「スーパー土木に関する契約について」と題する書面(甲6)、同被告作成の同年7月25日付け「スーパー土木の権利関係について」と題する書面(甲7)に、販売権を「全面的に貴社のものとする」との文言が記載された。これは、本件ソフトウエアの販売権は原告に帰属するという意味と解するのが相当である。 (2) 被告らは、本件開発委託契約には、被告イーウェーヴが原告と別に単独で本件ソフトウエアを販売できる旨の合意があったと主張するが、そのような合意はない。同被告は、サヌキットとの交渉で、漫然と本件ソフトウエアの販売を希望したにとどまり、原告は、同被告が原告の販売代理店として原告のパッケージソフトを販売する許可を求めていると解して、前向きに協力すると返答したにすぎず、同被告による販売の実体も、原告の販売代理店としての活動であった。 同被告の当初の見積金額3438万5000円と最終見積金額2400万円の差額の1038万5000円は単なる値引きにすぎず、仮に、この値引きが同被告にとって投資であるとしても、本件ソフトウエアの売上げ1本ごとに10万円のライセンス料を確保できる以上、全体で100本販売できれば、同被告は投資分を回収できるのであり、それ以上に本件ソフトウエアを独自に販売する必要はない。 【被告らの主張】 (1) 被告イーウェーヴと原告の間には、当初から、同被告が原告とは独立して本件ソフトウエアを販売していく旨の合意があった。同被告は、平成8年6月4日から同年8月20日にかけての協議の最終段階で、サヌキット代表者の甲に対し、本件ソフトウエア開発費の下限として3438万5000円を提示したが、甲は2400万円しか用意できないと回答し、差額の1038万5000円を同被告が開発費として自己負担し、サヌキットが本件ソフトウエアを1本販売するごとに、同被告にライセンス料10万円を支払う旨提案した。同被告は、この提案を受けて、同年8月20日、甲に対し、開発費を負担する以上、本件ソフトウエアは同被告の製品ともなるので、同被告がサヌキットとは独自に販売していきたいと述べたところ、甲はこれに同意した。このように、同被告とサヌキットの間では、同被告が開発費用の自己負担分を回収するため、本件ソフトウエアを独自に販売することが合意されており、この約定は原告にも引き継がれた。 (2) 乙が平成9年6月11日付け「Super土木について」と題する書面(甲5)及び同年7月25日付け「スーパー土木の権利関係について」と題する書面(甲7)に、「販売権について 全面的に貴社のものとする」と記載した趣旨は、同被告が当面事業所のある長野県松本市での直販を予定し、販売代理店を通じた販売は原告が行うことを確認するところにあり、しかも、それは提案にすぎなかった。当時、同被告は、開発費(追加開発料を含む。)の支払を滞納していた原告に支払を求め、支払スケジュールを確定するための協議を求めていたが、平成9年7月25日の協議でも特に何も決まらず、両当事者間で新たに合意に至った事項はない。 3 争点(3)(原告の本訴請求は権利の濫用か)について 【被告らの主張】 原告は、本件ソフトウエアの販売が本格的に開始された後、従業員に社外への口外を禁止して「スーパー土木」バージョン2の開発に着手し、バージョン2の開発に本件ソフトウエアの販売金額を流用した。甲は、被告イーウェーヴに対するライセンス料の支払を免れるためにバージョン2を開発したと公言し、このことが同被告に発覚した場合に備えて準備を行う一方、バージョン2の発売と相前後して本件ソフトウエアの販売を中止し、問い合わせや面会を求めた被告らに対して本件ソフトウエアの販売の中止を求めた。 原告は、販売中止までに本件ソフトウエア186本を販売し、相当額の利益を確保しているのに対し、被告イーウェーヴは、原告が開発費、ライセンス料、FCAD著作権使用料、保守料等を支払わないため、本件ソフトウエアに関して大幅な赤字計上を余儀なくされ、原告による不当な利益の退蔵により膨大な損害を被っている。本訴請求は、自己の不当な利益確保のための利己的な動機に基づくものであり、権利の濫用として棄却されるべきである。 【原告の主張】 争う。 4 争点(4)(原告の損害額)について 【原告の主張】 (1) 原告は、本件ソフトウエアをプログラム使用許諾の方式により1本150万円(税別)で販売する一方、被告イーウェーヴとの合意に基づき、同被告に本件ソフトウエア(FCADではない。)1本当たり5万円のライセンス料を支払ってきた。よって、150万円から5万円を控除した145万円が著作権法114条2項所定の「受けるべき金銭の額」として、原告が被った1本当たりの損害額とみなされるのであり、原告は、被告イーウェーヴ及び被告神山に対し、1本当たりの損害額145万円に侵害本数47本を掛けた合計6815万円を請求し得る。 原告9対被告イーウェーヴ1の割合での著作権の帰属が認められたとしても、損害賠償額を1割減額することは妥当でない。同被告に対する5万円の本件ソフトウエア(FCADではない。)のライセンス料の支払が、同被告の1割の著作権割合に対する対価であり、損害賠償請求額の算定においても、販売価格150万円から同被告に対するライセンス料5万円を控除した145万円に同被告の無断販売本数を乗じているのであるから、9対1の著作権割合の主張により1割を減額することは、二重にライセンス料を計上することになり不合理である。 (2) 弁護士費用は、681万5000円が相当である。 【被告らの主張】 原告が平成9年3月から平成10年8月にかけて販売した本件ソフトウエア186本に、販売代金150万円のものはない。原告は、186本中18本を同種ソフト「ピタゴラス」を購入済みのユーザーに無償頒布し、その他の168本も、75万円若しくはこれを大幅に下回る代金(75万円−28本、57万5000円−13本、40万円−7本、30万円−1本、28万円−1本、25万円−1本)で販売していた。 原告の損害額算定方法は、販売代金からライセンス料を控除するのみで、その余の必要経費を控除していない点で失当であり、このような算式でロイヤリティ相当額を算出する点でも失当である。本件ソフトウエア1本当たりの販売による利益額は145万円にはなり得ないから、原告の損害額が総計6815万円にはなり得ない。 〔反訴請求〕 5 争点(5)(原告は、本件開発委託契約に基づく残代金支払義務を負うか)について 【被告イーウェーヴの主張】 (1) 被告イーウェーヴは、原告に対し、本件ソフトウエア開発費用残代金400万円の支払請求権を有する。 ア サヌキットと被告イーウェーヴは、平成8年8月20日、本件ソフトウエア開発作業全般(基本要件設計作業等を除く。)を業務内容として、開発委託金額3438万5000円(ただし、うち1038万5000円は、被告イーウェーヴが本件ソフトウエアの開発に対する投資分として自己負担する。)の約定で、本件開発委託契約を締結した。 イ サヌキットと被告イーウェーヴは、平成8年9月20日、@展開図自動作図機能、A小数点設定のタイプ別入力機能、B工事、図面、テンプレートの管理方法を変更する作業を業務内容として、開発委託金額300万円の約定で追加契約を締結した。 ウ 上記経緯に基づき、サヌキットは、被告イーウェーヴに対し、開発費2700万円の支払義務を負うに至り、同支払義務は、原告に承継された。 エ しかし、原告は、被告イーウェーヴに対し、これまで総額2300万円を支払ったにとどまり、残額400万円を支払っていない。 (2) 原告は、本件ソフトウエアは未だに未完成品であるので、本来の開発費の残額である400万円の請求権は発生していないと主張する。 しかし、本件ソフトウエアは、平成9年1月中には出荷が開始され、格別に納品に遅延が生じていたわけではない。もっとも、初期出荷された商品に盛り込まれなかった機能があるが、その原因は、サヌキット及び原告からの頻繁な仕様変更要求により本件ソフトウエア開発のスケジュールに遅延が発生したことによる。また、初期に機能を一部限定して出荷した限定版が存在したとしても、それは原告の強い意向によるもので、後ですべて改良版と差し替えられたのであり、これを理由に顧客から代金支払を受けられなかったり、返品受領を余儀なくされたものはない。 【原告の主張】 開発委託契約は、一定の内容(確定した仕様に基づくソフトウエア)を作成し、成果物のすべてを発注者に引き渡す契約である。この場合、発注者は開発費用を支払う義務があるとともに、その成果物を独占する権限を持つ。他方、受注者は開発した成果物を納付する義務を負い、対価給付を要求する権利を持ち、同時履行の抗弁権を行使することができる。 本件ソフトウエアは、契約で定めた販売期限に間に合うよう開発されるべきであったが、被告イーウェーヴの履行遅滞により開発が遅れ、期日に完成しなかったことから、やむなく予定の一定部分の機能を削除した限定版を試作し、大幅に遅れた期日にバグだらけの未完成の暫定版を出荷できるようにした。しかし、現時点でも完成版はできておらず、同被告から原告にソースコードは一切交付されていないし、その提供もなされていない。開発代金請求権は、当初仕様のすべてが完成して初めて発生するものであり、現時点で当初仕様のすべてが完成していない以上、支払請求権は発生しない。 また、開発委託契約においては、民法633条により報酬後払いと定められており、ソフトウエアを完成しただけでは支払義務は発生せず、報酬と同時履行の関係に立つのは仕事の目的物の引渡しである。よって、被告イーウェーヴが基本機能設計書に定めたすべての機能を完成させた上、最も重要なソースコードの引渡義務の履行を提供しない限り、同被告は、原告に対して開発残代金を請求することはできない。 6 同(6)(被告イーウェーヴとサヌキットとの間には、サヌキットが本件ソフトウエアを1本販売するごとに同被告にライセンス料10万円を支払う旨の合意が成立したか)について 【被告イーウェーヴの主張】 (1) サヌキットは、平成8年8月20日、被告イーウェーヴに対し、サヌキットが本件ソフトウエアを1本販売するごとにライセンス料10万円を支払う旨約した。原告は、これまで本件ソフトウエアを合計186個販売したから、被告イーウェーヴは原告に対し、上記ライセンス料として1860万円の支払請求権を有するところ、原告はこれまで638万0750円しか支払っていない。よって、被告イーウェーヴは、原告に対し、前記合意に基づき、1221万9250円の支払請求権を有する。 (2) 原告は、被告イーウェーヴとの間では、平成9年7月25日に初めてライセンス料支払の合意がされ、同年8月12日に1本5万円とする減額合意がなされたと主張するが、そのような合意はいずれも存在しない。 【原告の主張】 (1) 原告は、平成9年6月末までに、本件ソフトウエアを61本販売したが(乙67)、原告と被告イーウェーヴの間では、この期間のライセンス料支払についての合意はなく、本件ソフトウエアがバグだらけのソフトであったことから、ライセンス料の請求はされなかった。 (2) 原告と同被告の間では、平成9年7月25日、同月1日から10日までのライセンス料について、スーパー土木本体1本につき10万円とする旨の合意が成立し(甲7)、原告は、これに基づき、本件ソフトウエアを14本(甲8の1)販売した。 (3) しかし、原告と同被告は、本件ソフトウエアにバグが多発したことを考慮して、平成9年8月12日、同月1日以降販売の分について、@新規1本につき5万円、Aそれ以外10%、B九州地区の構造物対応のユーザーについて10%とするライセンス料の減額変更の合意(甲9)をした。原告は、同合意に基づき、平成9年8月1日以降、109本を販売した。 (4) なお、平成9年7月1日以降のライセンス料については、原告は、同被告からの請求書に従って請求金額をすべて支払っており(甲8)、未請求分のライセンス料のみが未払いとなっている。 7 争点(7)(原告は、本件ソフトウエアの仕様変更による追加作業の発生に伴い、被告イーウェーヴに対し追加開発費用の支払義務を負うか)について 【被告イーウェーヴの主張】 (1) 被告イーウェーヴは、サヌキット及び原告から、平成8年8月20日に確定した基本機能設計書(乙8)に基づく当初仕様を追加、変更する旨の要求を頻繁に受け、当初予定した開発作業と異なる本件ソフトウエアの追加、変更開発作業を行うことを余儀なくされた。追加開発作業の内容及び工数は、別紙「『スーパー土木』仕様変更の経過一覧表」(以下「経過一覧表」という。)記載のとおりである(なお、この追加開発作業の詳細は、平成11年11月4日付け被告ら準備書面(四)記載のとおりである。)。 上記仕様変更・追加要求に応じるために発生した追加作業量は合計994人/日(ソフトウエア開発を担当する1人のシステムエンジニアが1日に行う仕事量)に及んだ。本件開発委託契約においては、1人/月当たりの単価を65万円と見積もっているので、1か月の稼働日数を20日として、1人/日の単価は3万2500円となり、追加開発費は3230万5000円と算定される。 (2) 原告は、本件ソフトウエアの当初仕様は、「システム設計書」(乙7)、「機能概要」(甲43)等の書面も総合して確定すべきであると主張する。しかし、「機能概要」(甲43)は、サヌキットの内部文書を含む種々雑多な書面を本件訴訟のため綴り合わせたものにすぎず、同被告はこのような一体の文書を受け取っていないし、同号証のうち被告が受け取っていない書面は80枚を超える。そもそも甲43の一部やシステム設計書(乙7)は、本件ソフトウエアの基本要件設計作業の資料として取り扱われるにすぎず、これらの書面が本件ソフトウエアの基本要件設計書の一部をなすことなど基本的にあり得ない。 また、原告は、サヌキットと被告イーウェーヴの間で、当初仕様の内容を明確化するための打合せがされたと主張する。しかし、当初仕様は、平成8年8月20日、同被告作成の基本機能設計書(乙8)により一義的に確定しており、原告主張の打合せがなされたことなどない。サヌキットは、同社が要望する本件ソフトウエアの変更要求が当初仕様を変更することを認識した上で、被告イーウェーヴに対して当該要求をした。 【原告の主張】 (1) 仕様変更とは、基本設計段階で凍結、確定した仕様を変更する行為をいい、基本設計の仕様を実施設計段階でプログラムにするために行われる詳細な打ち合わせ、内容の決定行為は、基本設計における仕様の範囲内で行われる仕様の現実化であり仕様変更ではない。 本件ソフトウエアの当初仕様は、基本機能設計書(乙8)には極めて不完全な形でしか表記されておらず、正確な当初仕様は、基本機能設計書のほか、「システム設計書」(乙7)、「機能概要」(甲43)等を総合して確定されるべきである。被告イーウェーヴが主張する仕様変更のうち、平成8年9月20日の変更合意で解決したものを除く部分は、当初仕様に含まれる。 また、平成8年9月20日の仕様変更合意の内容は、追加見積書(乙1)及び実質的にこれと一体化する同年9月18日付けファクシミリ文書(乙13)及び画面イメージ(乙14)に明確に定められているところ、別表2A(構造物測量値入力画面の入力方式の変更)、2B(構造物計算項目登録画面の変更)、3@(構造物測量値入力画面の変更)、8C(構造物計算項目登録画面の全面的変更)等(乙58)は、同変更合意に含まれており、これを新たな仕様変更として追加開発費を請求することはできない。 (2) 被告イーウェーヴが追加工事であると主張する別紙経過一覧表記載の工事は、@平成8年8月20日確定の初期仕様又は同年9月20日の仕様変更合意に含まれるもの、A本来仕様変更に当たらないもの、B同被告の希望によるCAD変更(仕様変更)に伴う変更(実質的にはCAD自体の完成作業、整備、調整)であり、同被告が負担すべきであるもののいずれかである。 8 争点(8)(原告は、被告イーウェーヴに対し、FCADの著作権使用料の支払義務を負うか)について 【被告イーウェーヴの主張】 被告イーウェーヴは、平成9年6月3日、原告に対し、FCADの著作権使用料として1本5万円を支払って欲しいと提案した。FCADの使用が決定する前、本件ソフトウエアのCADエンジンとして使用が検討されていたインフォマティクス社の「MicroGDS」(以下「GDS」という。)は、1本7万5000円のコストがかかるが、FCADはGDSよりも操作が容易であり、GDSにない機能を有しているので、1本5万円という使用料は、同種のCADソフトであるGDSと比較しても合理的である。同被告と原告との協議において、原告はFCADの著作権使用料の支払義務を負うことは認めていた。よって、原告は、同被告に対し、FCADの著作権使用料として930万円の支払義務を負う。 【原告の主張】 FCADの著作権使用料については、被告イーウェーブから1本5万円という提案があったが、原告はこれに合意していない。また、FCADのライセンス料として1本5万円が妥当であるという根拠もない。 9 争点(9)(原告は、被告イーウェーヴに対し、保守契約に基づく保守料の支払義務を負うか)について 【被告イーウェーヴの主張】 被告イーウェーヴは、本件ソフトウエアの保守作業をして欲しいとの原告の依頼を受けて、平成9年12月14日、「原告に対し、システムに関する問い合わせ、改善要望、システムの変更、不具合の調査、不具合の修正等に関する作業を円滑に行う」ことを目的とする、本件ソフトウエアの保守契約を提案した(乙53)。同提案では、保守料金は、保守業務の対価として1か月当たり50万円を支払う(ただし、1か月当たり100時間を上限とする。)とされていたが、原告は、同被告の提案を了承し、保守契約が成立した。 同被告は、平成9年12月から平成10年6月まで、本件ソフトウエアの保守業務を行った(乙73の1〜7)。原告は、同被告に対し、保守料として305万円の支払義務を負う。 【原告の主張】 原告は、保守契約を結ぶことは了承したが、契約金額については別途交渉することとなっており、合意は成立していなかった。また、原告は、保守契約の成果物であるシステム実行ファイル、工数表、作業報告書等(乙53・4「契約内容」参照。)を受領しておらず、検収もしていない。したがって、原告には、保守契約に伴う支払義務は存在しない。 第4 当裁判所の判断 〔本訴・反訴共通〕 1 本件ソフトウエアの開発及び交渉の経緯 前記第2の1の事実に証拠(甲1〜3、4の1〜8、甲5〜7、9、13、14、18〜23、27〜30、39、42、43、49〜51、54〜56、59、68、71〜73、乙1〜3、5の1・2、乙8、10〜21、35〜37、39、41〜45、48、50、53、64〜68、証人乙、同丙、同丁〔第1、2回〕、同戊、原告代表者本人〔前記各証人の証言及び原告代表者本人尋問の結果中、後記認定に反する部分は採用しない。〕)及び弁論の全趣旨を総合すれば、本件ソフトウエアの開発及び販売についての経緯は、次のとおりであると認められる。 (1) 本件開発委託契約成立まで ア サヌキットは、もとは別法人である株式会社サヌキットジャパンが開発した土木出来形自動作図ソフトウエア「ピタゴラス」を販売する販売会社であったが、平成8年3月ころ、自社パッケージソフトを新規開発し、これを開発元として販売するため、パソコン通信によりプログラム開発委託先を募集したところ、これに応じて被告イーウェーヴ(当時の商号は「フライト」)から連絡があった。そこで、サヌキットは、同年4月下旬、同被告に対し、土木出来形自動作図システムの開発費用の見積りを依頼した。 イ 被告イーウェーヴ専務取締役の乙は、同年6月4日、サヌキット代表取締役の甲に対し、CAD部分を一から開発することを前提に、開発費用5408万円とする第1回見積書(乙35)を提示した。これに対し、甲は、市販のCADソフトの購入により開発費用を削減するよう求めたので、乙は、同月26日、CADエンジン部分にインフォマティクス社製のGDSを使用する条件で、開発費用3978万円とする第2回見積書(乙36)を提示したが、甲は更なる減額を要求した。 ウ サヌキットは、同年7月16日、同被告との間で、委託金額を232万7000円で基本要件設計契約を締結した(甲1)。これに伴い、サヌキットの開発担当者である丁(以下「丁」という。)は、同被告側の開発担当責任者の丙(以下「丙」という。)に対し、参考資料として印刷帳票や数量計算書などを交付し(甲43)、入力項目と出力の数量計算書の関係、土木業務などについて説明した。同被告は、基本要件設計の成果物として、同年8月12日、サヌキットに基本機能設計書(乙8)を納付したが、その画面イメージ部分はサヌキット提供の資料を流用したものであった。 エ 乙は、同年8月12日、甲に見積額3400万円(開発金額3438万5000円、値引き38万5000円〔単価65万円、数量52.9人月〕)とする第3回見積書(甲49)を提示した。甲は、同月20日、乙に対し、サヌキットに支払可能な金額は2400万円が上限なので、残額の1038万5000円については、完成したソフトウエアが1本販売されるごとに、サヌキットが同被告に10万円を支払うことにより清算したいと提案した。同被告としては、開発の対価として2400万円という金額は受け入れられない数字であったが、ソフトウエアが1本販売されるごとに10万円ずつをライセンス料としてサヌキットから支払われるのであれば、同被告の見積額との差額も回収可能であると予測し、この分を一種の投資と考えてサヌキットの提案を受け入れることに決めた。 オ サヌキットは、同月20日、同被告との間で本件開発委託契約を締結し、S/W設計、プログラム製作設計、プログラミング、単体試験、システム試験の範囲で業務を委託した。同被告が同日提示した第4回見積書(甲3、以下「本件見積書」という。)は、見積金額を2400万円としていたが、その内訳は、プログラム開発費用3438万5000円(単価65万円、数量52.9人月)、値引き1038万5000円というものであり、備考欄には「別途ライセンス費用が下記の通り必要となります」「1ライセンス:100、000円」と記載された。本件見積書は、成果物の納期を同年12月31日と定め、当初仕様については、「同年8月20日で仕様凍結とし、その後の変更はすべて仕様変更扱いとする。」と規定されていた。 (2) 契約締結から本件ソフトウエア納品まで ア 本件開発委託契約締結後、被告イーウェーヴの担当者が本件ソフトウエアの開発業務に従事したが、丁は、一週間に一度は被告イーウェーヴに赴いて打合せをした(甲42)。丙は、同年8月後半、丁に対し、9月に入社する社員がCAD(FCAD)を持参するが、そのCADを使う方がGDSよりも早く開発できるし、CADの導入コストも安くなると述べて、本件ソフトウエアのCADエンジンをGDSからFCADに変更するよう勧めた。丁は、同年9月中旬ころ、FCADのサンプルを見て動作を確認し、甲の了解を得た上でFCADの採用を決定したが、FCADのメニュー一覧にGDSの搭載機能の一部が存在しなかったことから、丙に対し、GDSにあってFCADにはない機能は作ってもらえるのかと尋ねたところ、丙は、もちろん作成すると回答した。 イ 丁は、同年9月9日(乙10)、13日(乙12)、17日(乙68)及び18日(乙13)、丙にファクシミリ文書及び画面イメージを送付し、本件ソフトウエアの画面表示、出入力項目、機能等に関するサヌキットの要望を伝えた。丙は、丁の要望のうち、@展開図自動作成機能、A工事、図面、テンプレートの管理方法の変更、B小数点設定のタイプ別入力は、ソフトウエア全体の処理手順、データ構造等に大きな影響を与えるため当初仕様から外れると判断し、同月20日、サヌキットと同被告の間で、上記3項目について追加見積書に基づき追加変更契約が締結された(甲39、乙1)。丙は、サヌキットの要求には、上記3項目以外にも仕様変更となる部分があると考えており、その部分については事後に追加開発費を請求する意図であったが、丁に対して、その旨説明したことはなかった。 ウ サヌキットと同被告の間では、追加変更契約後、同年9月26日(乙16)、10月3日(乙18)、11日(乙19)、17日(甲68、69)、24日(乙21)、11月14日(甲4の2)、28日(乙50)、本件ソフトウエアの開発についての打合せが行われ、同年9月30日(乙17)及び10月16日(乙20)及び11月2日(乙22)、丁から丙宛にファクシミリ文書及び画面イメージが送付された。これらの打合せにおいて、丁から丙に本件ソフトウエアに関する要望が出されたが、丙が丁の要望を仕様変更になるとして拒絶したことはなく、追加費用見積書を提示したこともなかった。このころ、丁が丙に対し、ボタンを移動したり文字を変えたりするのは仕様変更になるかと尋ねたところ、丙は、「仕様変更のときはこちらから言いますから。」と答えるのみで、具体的に返答しなかったので、丁は、文言の変更や入力項目について要望を続けた。その間、同年10月24日原告が設立され、本件開発委託契約上のサヌキットの地位は原告に承継された。丙は、同年11月初旬、丁に対し、細かい変更を多数出されるとスケジュールが遅れると言い、同月ころから、丁が要求を出さなくなった。 エ 本件ソフトウエア開発は、平成8年11月中旬には若干遅れ気味となり、β版が完成した同年12月5日時点では、未完成作業の増大により、追加委託契約で納品日とされた平成9年1月24日に完成することは不可能な状態に陥っていた。β版は、平成8年12月5日時点では、CAD部分にプログラムが途中で強制終了するなど多数の不具合があり、土木部分で完成していたのは展開図機能のみで、一応の画面イメージがわかる程度であったことから(甲54、55)、原告は、同月13日に予定していた顧客へのデモンストレーションをすることができなかった。一方、同年11月18日、本件ソフトウエアの卸販売を目的として、被告神山が設立された(乙43)。 オ 丙は、平成8年12月25日、丁に「CADシステム デモ版以降のスケジュールについて」と題するファクシミリ(甲56)を送付し、当初仕様及び追加仕様に含まれる29個の未完成機能の納品スケジュールを延期する旨提示するとともに、イメージ表示及びスプライン曲線(当初仕様)を次期バージョン以降に繰り下げると通知した。また、丙は、同月27日、甲及び丁に「スーパー土木CADシステム1月24日出荷予定について」と題するファクシミリ(甲4の4)を送付し、@原告が平成9年1月24日出荷分での完成を希望していた4機能を2月24日出荷分に延期したい、Aクリッピングとスプライン曲線を次期バージョンに入れたいと通知した。さらに、丙は、翌28日、甲及び丁に同じ標題のファクシミリ(甲4の5)を送付し、本件ソフトウエアの暫定版を平成9年1月24日及び2月24日、完成版を3月31日に納品するとのスケジュールを提示した。 カ 丙は、平成9年1月15日、丁に対し、「現在の状況報告」と題する書面(甲4の6)を送付し、同被告では未完成機能の完成に全力を挙げていて不具合の改修ができていないので、1月24日出荷分については、未完成機能の一部をカットしてバグ対応に専念したいと述べた。さらに、丙は、丁に対し、同月29日、「スーパー土木システムスケジュールについて」(甲4の8)と題する書面を送付し、未完成部分の完成には計65日を要する旨報告し、同月30日、「1月29日質問の回答」と題する文書及び同年1月28日現在の状況を示す表(甲18)を送付したが、同表では、設計メニュー、作図メニューなどの完成予定日が同年3月10日とされており、平成8年12月28日に提示されたスケジュールが再度延期されることとなった。 キ 同被告は、平成9年1月中旬ころ、本件ソフトウエアの暫定版を原告に納品し、原告において受入検査を行ったところ、CAD部分に画面貼付け時とプレビュー時の画像のずれなどの不具合があることが発見された。丁は、同年1月28日、丙に上記不具合を指摘して改善を依頼し(甲4の7、甲51)、同年2月以降も、FCADについて、拡大表示すると図がバラバラになるなどの不具合を発見し(甲30)、同年2月21日以降、これを丙に逐次指摘した(甲29)。 ク 丙は、同年3月4日、甲及び丁に対し、「仕様追加のお願い」と題するファクシミリ(甲19、59)を送付し、各機能の納品スケジュールの再度の延期を通知するとともに、現状で開発工数が約80人月(開発費用5200万円)を超えようとしているので、当初の金額による開発を3月末までとし、4月以降の作業は仕様追加として別途費用を支払って欲しいと要求したが、原告は、未完成機能及び不具合があるのに追加費用を要求するのはおかしいと拒絶した。原告は、同年4月から、当初予定していた機能が一部未完成のまま、被告神山を通じて、顧客に対して本件ソフトウエアの出荷を始めたが(甲29)、同被告に対しては、同年2月28日支払期日の開発費用1100万円を支払わなかったので、乙は、同年3月21日、開発代金の請求をした(乙48)。 (3) 平成9年4月以降の両者の交渉経過 ア 本件ソフトウエアは、被告神山を通じて本格的な販売が開始された平成9年4月時点でも未完成機能が残存していた上、3月31日版で完成予定の機能が使えなかったり、当初仕様で定めた機能が作成されていないとの問題もあったことから、原告は、同年4月8日、同被告の社長に苦情を申し入れ(甲20)、同被告の開発責任者が丙から己(以下「己」という。)に交代した。しかし、同被告は、バグの修正のため未完成機能の作成に着手できず、5月31日完成予定の機能も削除となった。そこで、原告は、社員に箝口令をしいた上で、社内で「スーパー土木」のバージョン2の開発準備を始めた。 イ 乙は、同年6月3日、甲に対し、「開発費用について」と題する書面(乙39)を提示し、原告の依頼による変更作業の工数増大が原因で、同年9月末までの作業工数が約110人日(開発費用約7150万円)を超えそうなので、原告において、@開発費残代金1110万円の支払期日を同年6月末までに確定する、A平成9年9月末までの開発費用7150万円と、当初見積の開発費用の合計3971万2000円(基本要件設計作業232万7000円、本件開発委託契約の値引き前の開発費用3438万5000円及び追加開発費用300万円)の差額3178万8000円の何割かを負担するとの条件により開発費残代金及び追加開発費を清算するとともに、本件ソフトウエアのライセンス料として1本10万円、FCADの使用料として1本5万円を支払うよう要求した。甲は、開発の遅滞の原因はFCADのバグ及び同被告の能力不足であるとして、乙の要求を拒絶した。 ウ 乙は、同年6月11日、甲に「“Super土木”について」と題する書面(甲5)を示し、@本件ソフトウエア基本部分のソースプログラム、実行ファイル(EXEファイル)及び開発設計書を原告と同被告の共同著作物とし、持分を原告と同被告の9対1とする、AFCAD部分は同被告の著作物とする、B販売権は全面的に原告のものとすると提案した。同月21日、甲が作成した「スーパー土木に関する契約について」と題する乙宛ての書面(甲6)にも、著作権及び販売権について同趣旨の記載がある。 さらに、乙は、同年7月25日、甲に「“スーパー土木”の権利関係について」(甲7)と題する書面を提示し、@FCAD部分の著作権は同被告に帰属する、AFCAD部分を除く本件ソフトウエアの著作権を原告と同被告の共有とし、持分を9対1とする、BFCADの費用を1本5万円とする、C本件ソフトウエアのライセンス料を新規1セット10万円とする、D現状及び将来の開発費について別途打ち合わせる、E販売権はすべて原告のものとするとの提案をした。甲は、@ACEを承諾し、Bの考え方は了承するが費用については別途調整すると返答したが、Dについては、この時点でバグや未完成機能がある以上、開発残代金及び追加開発費の支払に関する協議には応じられないと述べた。乙は、確実な納期を決め、その納期で提出するものはシステムダウンしない品質にすると約し、開発費については、第1ステージの終りが見えた時点ないしは納期が明らかになった時点で考えることになった。 エ 甲は、同年8月12日、乙に対し、開発費用未払分1100万円の支払時期を同年12月31日以降に延期するとともに、同年10月31日までの本件ソフトウエアのライセンス料を、@新規1本5万円、Aそれ以外は10パーセント、B九州地区の構造物対応のユーザーは10パーセントとするよう要求した(甲9)。これに対し、乙は、同年10月31日で残項目の開発を終了し、完了が見えた時点で次回のスケジュール及び見積りを行い、追加費用の打合せを行うと述べ、不整合データの調査、補正はいったん開発対象から外すと告知した。さらに、乙は、同年11月5日の打合せ(甲27)において、同月30日までに追加開発費3000万円以上が同被告に発生するので、それを原告に請求したいと言ったが、甲はこれを拒絶した。 オ 乙は、同年11月27日、甲に「“スーパー土木”プロジェクトについて」と題する書面(乙3)を送付し、@同年12月10日で開発作業をいったん終了する、A保守契約は有償であれば6か月単位で締結する、B開発費残代金1100万円につき債務を明確にする書類に署名して支払計画を提出し、同年4月1日から11月30日までの追加開発費約3000万円について費用負担の打合せを完了するよう要求し、C原告の同被告に対する債務が消滅した時点で原告に本件ソフトウエアの90パーセントの所有権が移転する、Dライセンス費用については、改めて当初の合意内容に満たない部分を請求すると告知した。さらに、乙は、同年12月2日、前記11月27日付け文書(乙3)に同意しなければ、12月10日以降の対応は不可能になるとの文書を提示した(甲29)。 カ 原告は、同年12月13日の打合せ(乙41)において、同被告との間で、原告が平成10年1月から4月まで毎月末日各200万円、同年5月末日300万円を分割払いする形で開発費残代金1100万円を支払う旨合意し、平成9年4月1日以降に追加開発費が発生したことも認識したと述べた。この時、原告と同被告は、本件ソフトウエア及びFCADの保守契約を締結することで基本的に合意したが、その具体的な時期、金額等は後で検討することとし、担当者間で打合せを行うこととした。同被告は、翌12月14日、「保守契約について」と題する書面(乙53)を原告に送付し、平成9年12月1日から平成10年5月31日までの期間(両者異議なければ、その後自動的に再契約となる。)について、契約内容を「基本:1か月100時間50万円、追加:1か月100時間を超過して作業した場合、1時間5000円」で、システムに関する問い合わせ、改善要望、システムの変更、不具合の調整、不具合の修正等に関する作業を円滑に行う旨告知したが、原告はこれに回答しなかった。 キ 甲は、このころ、同被告の庚社長に対し、本件開発委託契約の成果物である「基本要件設計書」「ソフトウエア仕様書」「プログラム仕様書」の引渡しを請求したが、同社長は、原告が開発費を支払うのが先であると答え、これに応じなかった。原告は、開発残代金1100万円の分割金として、平成10年2月、4月及び5月に各200万円、同年6月に100万円を支払ったが、残り400万円の支払をせず、同被告から、平成9年12月31日、12月分の保守料として30万円の請求を受けたが、その支払をしなかった。 ク 原告は、平成10年2月24日、被告神山に対し、同年4月以降、スーパー土木バージョン2の販売を開始すると告知し(乙43)、各販売店に対しても、同年5月28日及び同年6月11日、バージョン2の販売を開始する旨告知する文書を送付した(乙5の1・2)。原告は、同年6月、被告神山に対しても、今後はバージョン2を販売するよう求めたが、被告神山は、本件ソフトウエアの販売を継続することとし、被告イーウェーヴに対し、原告がバージョン2の販売を開始することを伝えた。被告イーウェーヴは、同月20日、原告との間で協議の機会を持ち(乙45)、原告が開発費残代金及び追加開発費の支払をしなければ、同被告は今後本件ソフトウエアの保守点検をしないと言ったが、原告は同被告の要求に応じなかった。そこで、被告イーウェーヴは、同月25日ころから、被告神山を通じて自ら本件ソフトウエアの販売を開始し、以後、原告と被告イーウェーヴの間で協議が行われることはなかった。 以上の事実が認められ、上記認定を覆すに足りる証拠はない。 〔本訴請求〕 2 争点(1)(本件ソフトウエアは原告と被告イーウェーヴの共有に係る著作物か)について (1) 同ア(本件ソフトウエアは原告と被告イーウェーヴの原始的共同著作物か)について 共同著作物(著作権法2条1項12号)とは、二人以上の者が共同して創作した著作物であって、その各人の寄与を分離して個別的に利用することができないものをいい、プログラムの著作物(同法10条1項9号)の作成に複数の者が関与している場合において、各人が共同著作者となるためには、各人が当該プログラムの作成に創作的に寄与していることを要し、著作物の企画を立てた者や単なる開発委託者のように、補助的に参画しているにすぎない者は共同著作者にはなり得ないものというべきである。 前記1で認定した事実及び証拠(乙55)によれば、本件ソフトウエアの開発経緯(@要件定義、A外部設計、B内部設計、Cプログラミング、D各種試験の実施)において、本件ソフトウエアのプログラムの著作物としての創作性を基礎付けるプログラム言語による具体的表現の作成(内部設計、プログラミング)は被告イーウェーヴが単独で実行したものであり、原告は、要件定義及び外部設計の段階で、開発委託者として要望事項を述べるとともに、仕様確定の前提となる資料を提供し、また、本件ソフトウエアの暫定版の受入検査及び検査中に発生した不具合の指摘を行ったにすぎず、原告が、ソフトウエア開発委託契約における発注者としての行動を超えて、本件ソフトウエアのプログラムの具体的な表現に対して創作的な関与を行ったことを認めるに足りる証拠はない。 そうすると、本件ソフトウエアの著作者は、その従業員が会社の発意に基づき本件ソフトウエア開発の全過程に関与し、そのプログラムの著作物としての創作性を基礎付ける内部設計及びプログラミングを単独で行った同被告であり(著作権法15条2項)、本件ソフトウエアが原告と同被告の原始的共同著作物ということはできない。 (2) 同イ(原告と被告イーウェーヴの間で、本件ソフトウエアの著作権を原告9割、同被告1割の共有とする合意が成立したか)について ア 前記(1)のとおり、本件ソフトウエアの著作権は、著作者である同被告に原始的に帰属するところ、原告は、原告と同被告との間では、平成9年7月25日、本件ソフトウエアの著作権を原告9割、同被告1割の割合で帰属させる合意が成立し、原告は上記合意に基づき本件ソフトウエアの著作権の9割の持分を有すると主張するので、以下検討する。 前記1で認定した事実によれば、同被告は、原告に対し、平成9年6月11日(甲5)及び同年7月25日(甲7)の2回にわたり、本件ソフトウエアの著作権を原告と同被告の共有とし、その持分割合を原告9、同被告1とする条件を提示したこと、原告は、同年7月25日、本件ソフトウエアの著作権を原告と同被告の共有とし、持分割合を9対1にすることを承諾したことが認められ、これによれば、原告と同被告との間では、同年7月25日、本件ソフトウエアの著作権の持分の9割を原告に帰属させる合意が成立したということができる。 この点について、同被告は、乙の平成9年7月25日付け書面(甲7)の提案は、原告が開発費残代金及び追加開発費の支払を完了する条件で、本件ソフトウエアの著作権を原告と同被告の共有とするという提案にすぎず、原告が開発委託料の支払を完了していない以上、そのような合意は成立していないと主張する。しかし、甲7には、開発委託料の支払について「現在及び、将来の開発費について 別途打ち合わせ」との記載があるのみで、開発費の支払に関する項目と著作権持分の帰属に関する項目を関連付ける記載はないのであるから、同書面の趣旨を、原告が開発残代金及び追加開発費の支払を完了する条件で著作権の持分を移転するという意味に解することはできない。 前記1認定の事実によれば、乙が甲に送付した平成9年11月27日の文書(乙3)では、「原告の被告イーウェーヴに対する債務が消滅した時点で原告に本件ソフトウエアの90パーセントの所有権が移転する」旨記載されていたものであるが、この文書は、前記のとおり同年7月25日までに同被告からの条件提示とこれに対する原告の承諾により本件ソフトウエアの著作権の持分の9割を原告に帰属させることが両当事者間で確定的に合意された後に、同被告の側で作成したものにすぎないから、同文書の記載は前記認定を左右するものではない。 イ 以上によれば、原告は、平成9年7月25日、被告イーウェーヴから、本件ソフトウエアの著作権の持分の9割の移転を受けたものというべきであり、これにより、本件ソフトウエアは、原告と同被告との共有に係る著作物になったものと認められる。 3 争点(2)(原告と被告イーウェーヴの間で、原告のみが本件ソフトウエアを複製し、単独で販売できるという「共有著作権の行使に関する合意」(著作権法65条2項)、又は、原告に契約上の債権的権利として本件ソフトウエアの独占的販売権を付与する旨の合意が成立したか)について (1) 前記1で認定した事実によれば、原告と被告イーウェーヴの間では、平成9年7月25日に、本件ソフトウエアの著作権の持分を原告9、同被告1の持分の共有とすることを合意すると同時に、本件ソフトウエアの販売権を原告に独占させる合意が成立したものと認められる。このことは、もともと本件開発委託契約が原告において本件ソフトウエアを販売することを目的として、その開発を同被告に委託したという関係にあることからいっても、自然なものであるといえる。 (2) これに対し、被告らは、本件開発委託契約には、当初から、被告イーウェーヴが開発費用の自己負担分を回収するため、本件ソフトウエアを独自の立場で販売する旨の特約があり、この特約は原告にも引き継がれたと主張する。 しかしながら、本件開発委託契約締結時に同被告が作成して原告に提出した本件見積書(甲3)には、同被告が負担した開発費用1038万5000円を、本件ソフトウエア1本の販売につき10万円のライセンス料により清算する旨の特約の存在を示す「1ライセンス:100、000円」の記載が存在するが、同被告が本件ソフトウエアを独自に販売できることを示唆する記載は存在しない。 証人乙は、平成8年8月20日の本件開発委託契約締結の際の交渉において、被告イーウェーヴの側から同被告において本件ソフトウエアを独自の商品として販売したいと提案したところ、甲はこれを了承した旨証言し、乙作成の業務日誌である乙37、38には、同年8月20日の同被告の社内会議において、社長から本件ソフトウエアの開発に同被告が投資することの見通しを問われて、1000万円の投資合意は、「ライセンスとして1年で100本販売できればペイできる」と答えたこと(乙37)、同月23日の営業会議で、「S/J(サヌキットジャパンプランニングの意)のP/K(パッケージソフトの意)を販売する」と述べたこと(乙38)の各記載がある。しかし、乙37、38は、同被告の内部における協議等の内容を記載したものであって、ただちに、サヌキットとの間に成立した合意の裏付けとなるものではないのみならず、その記載も、前記のようにサヌキットのパッケージソフトを販売する趣旨のものがあることからいっても、必ずしも同被告が独自に自己の商品として本件ソフトウエアを販売することを示しているとはいえない。 前記1認定の本件開発委託契約締結に至る交渉経緯からすれば、本件開発委託契約成立当初、同被告は、自己が負担した開発費用を本件ソフトウエアのライセンス料によって回収することを意図しており、本件ソフトウエアを自己の商品として原告と独自の立場で販売する考えはなかったものと推認される。加えて、乙は、平成9年4月以降の原告との交渉でも、一貫して本件ソフトウエアの販売権を原告が独占的に有する旨提案している(前記1認定事実)。証人乙は、被告イーウェーヴが長野県松本市の営業所において実際に本件ソフトウエアの販売活動を行い、その際には甲も現地に来て販売に協力してくれた旨証言し、原告代表者甲本人も、同被告による本件ソフトウエアの販売に協力したことを認める供述をしている。しかし、原告代表者本人の供述によれば、甲は、同被告が原告から本件ソフトウエアを仕入れて販売することをサポートしたものというのであり、同被告が平成9年4月以降行った販売活動も、「開発元株式会社サンシステム」と記載された販促用パンフレットを使用したり、顧客に開発元として甲を紹介するなどしており(甲13、乙45)、原告の販売代理店としての活動の域を出るものではなかったものである。原告と同被告の間において、平成9年4月以降も、同被告が本件ソフトウエアを自分の商品として原告とは別に独自に販売することができるという合意が成立したことを窺わせる事情は見当たらない。 (3) 以上によれば、被告イーウェーヴは、他の共有者である原告との合意に反して、共有著作物である本件ソフトウエアを複製、販売し、被告神山及び被告ミラは、原告から、同被告らの販売行為が著作権を侵害する旨の平成10年10月30日付け内容証明郵便を受領した後も、被告イーウェーヴが複製した本件ソフトウエアの複製物を販売したものであるから、原告は、本件ソフトウエアの著作権の共有者として、著作権法112条1項、113条1項2号、117条に基づき、被告らに対し、本件ソフトウエアの複製、販売、頒布、展示の差止めを求めるとともに、同法112条2項に基づき、本件ソフトウエアの廃棄を求めることができるというべきである。なお、被告らは、本件口頭弁論終結時までに本件ソフトウエアの販売を止め、次バージョン「Easy BaseV」を販売していることが認められ(乙62、証人乙)、証人乙は、被告イーウェーヴにおいて本件ソフトウエアの販売を再開することは考えていないと証言している。しかし、被告イーウェーヴは本件ソフトウエアのソースコードを現在も保持していること(弁論の全趣旨)、前記1で認定した同被告が被告神山を通じて本件ソフトウエアを販売するに至った経緯のほか、本件訴訟において、被告イーウェーヴが本件ソフトウエアの著作権は同被告だけに帰属していると主張し、かつ原告との間で同被告が販売することの合意があったと主張していることも勘案すると、被告らにおいて、将来、本件ソフトウエアを複製し、販売するなどの行為をするおそれがないとはいえない。 (4) また、本件ソフトウエアの著作権は、前記(1)のとおり、本件登録において著作物が最初に公表された年月日とされた平成9年8月4日時点では、原告と被告イーウェーヴの共有であり、著作権者を被告イーウェーヴのみとする本件登録は、この点で実体に反するものといえる。 著作権法76条1項の第一発行年月日等の登録は、著作権者が当該著作物が最初に発行され又は公表された年月日の登録を受ける制度であり、その法律上の効果は、登録に係る年月日にその著作物が第一発行又は第一公表されたものと推定されることにあるが(同条2項)、加えて、著作権登録原簿に著作者として登録されている者が著作権者であることを公示する事実上の効果があり、この事実上の効果を期待して登録が行われることも少なくない。 共有著作物について、共有者の一部の者が単独で著作者として第一発行年月日の登録をした場合、著作権者として登録されなかったその余の共有者は、その後、著作権登録申請(著作権法77条)をしようとしても、著作権登録申請書に前登録の年月日及び登録番号を記載することが要求されていること(著作権法施行規則8条の3第1項、別記様式第六4〔備考〕2、同様式第三〔備考〕6)から、前登録である第一発行年月日登録の内容と齟齬するものとして拒絶されるおそれがあり、また、第三者に対する権利行使において、自己が著作権者の一人であることの立証につきより重い負担を負うことになるなど、円満な著作権の行使を事実上制約されることになる。この点において、著作権者以外の者が第一発行年月日の登録を受けた場合と変わりない。したがって、著作権の共有者は、自己が持分を有する著作物について、共有者の一部の者が自分を単独の著作者と表示して著作年月日登録をした場合には、当該他の共有者に対して、当該著作年月日登録の抹消登録手続を求めることができると解するのが相当である。 以上によれば、原告の被告イーウェーヴに対する本件登録の抹消登録手続請求は理由がある。 4 争点(3)(原告の本訴請求は権利の濫用か)について 前記1で認定した事実によれば、原告は、平成9年5月ころから、従業員に社外への口外を禁じた上でバージョン2の開発に着手し、平成10年6月、「スーパー土木」のバージョン2の販売を開始して本件ソフトウエアの販売を中止したこと、原告は、本件開発委託契約及び追加契約に基づく開発費の残代金400万円を現在も支払っておらず、被告イーウェーヴの追加開発費一部負担の要求にも応じないことが認められる。しかし、上記事実は、同被告が共有者間の合意に反して共有著作物である本件ソフトウエアの複製、販売を行ったことについて、原告が著作権法に基づきしかるべき法的措置を講ずることを権利の濫用として排斥する根拠にはなり得ない事情であり、被告らの権利濫用の主張は失当である(同被告は、本件開発委託契約に基づく報酬請求として、原告に開発費残代金及び追加開発費の支払を請求することが可能であり、自己負担分の開発費の回収名目で、他の共有者である原告の同意なく本件ソフトウエアを複製、販売することは、法の禁止する自力救済に他ならない。)。 5 争点(4)(原告の損害額)について (1) 著作権法114条2項による損害賠償額 ア 前記認定事実によれば、被告イーウェーヴは本件ソフトウエアを複製し、これを被告神山に譲渡し、被告神山は情を知ってこれを販売ないし頒布することにより原告の本件ソフトウエアに対する著作権を侵害したものであり、上記被告らには故意があるというべきであるから、上記被告らは著作権侵害によって原告が被った損害を賠償する義務を負う。 原告は、著作権法114条2項、117条に基づき、著作権の共有者持分の侵害に対する損害賠償請求をしているが、同法117条は、共有者相互間における損害賠償額の配分までも規律する趣旨ではなく、共有者が求め得る損害賠償額は、各共有者間の事情をも考慮して決せられるべきであると解するのが相当である。前記3のとおり、原告と同被告との間では、平成9年7月25日、本件ソフトウエアの著作権の持分を原告9、同被告1の持分の共有とする合意が成立すると同時に、販売権を原告に独占させる合意が成立し、同被告が本件ソフトウエアの複製物を販売することは著作権侵害行為となるから、原告の本件ソフトウエアの著作権の持分割合を損害額の算定に当たって考慮すること(全損害額を共有持分の割合に従って按分すること)は、侵害者である同被告に利得を残すことになり、相当でない。したがって、原告は、同被告らに対し、同法114条2項によって算定される著作権侵害によって生じた全損害の額を請求し得ると解するのが相当である。 そして、同法114条2項にいう「受けるべき金銭の額」とは、当事者間の具体的な事情を参酌した損害の賠償として妥当な金額を意味するものと解するのが相当である。本件において、原告が第三者に対し、外販用に本件ソフトウエアの複製、販売を許諾する場合における実施料率の算定基準を示す直接的な証拠はないが、コンピュータ・ソフトウエアの再生産の場合、ライセンシーの負担する再生産コストが極度に小さいことから、一般的にその実施料率は他の著作物と比較して高率であることに加え、前記4のとおり、被告イーウェーヴの行為が原告との共有著作権の行使に関する合意に反する行為であることをも考慮すると、同法114条2項にいう「受けるべき金銭の額」は、本件ソフトウエアの販売価格の30%とみるのが相当である。 なお、原告は、本件における「受けるべき金銭の額」は、本件ソフトウエアの販売価格150万円から、本件開発委託契約で規定された本件ソフトウエアの「ライセンス料」5万円を控除した額とすべきであると主張するが、150万円は原告の販売予定価格にすぎないし、販売価格から「ライセンス料」5万円を控除した残額の全部の賠償を求めることも、上記被告らが著作権侵害行為によって得たであろう利益をも超えるものであり、同法114条2項の「受けるべき金銭の額」として相当なものとはいえない。 イ 被告イーウェーヴが被告神山を通じて本件ソフトウエアの複製物を47本販売したことは当事者間に争いがない(前記第2、1、(5))。 他方、証拠(甲38)によれば、本件ソフトウエアの販売価格は、雑誌に掲載された広告記事では「要問合わせ」とされ、証拠(甲8の1〜13)によれば、原告が平成10年6月までに被告神山を通じて販売した本件ソフトウエアの販売価格は、一番高いもので75万円であり、40万円、35万円、21万円のものもあることが認められる。証拠(甲5〜7)によれば、原告と被告イーウェーヴは、ピタゴラスから移行した者、同一ユーザーで2本目以降を購入した者及び、展開図のみを購入した者への販売分については、同一ユーザーに1本目を販売する場合と同被告に支払う「ライセンス料」の算定基準を変えていることが認められ、同一ユーザーに対する1本目の販売でない場合は販売価格を下げていたものと推定されるから、原告が同一ユーザーに1本目の本件ソフトウエアを販売する場合の基本の販売価格は75万円と推認される。被告イーウェーヴが被告神山を通じて販売した本件ソフトウエアの複製物は、原告が被告神山を通じて販売していたものと同一の内容であるから、被告が本件ソフトウエアを販売する場合の基本の販売価格も、原告の上記基本販売価格と同じ75万円と推認され、著作権法114条2項の損害額を算定する基準となるべき販売価格も1本75万円とみるのが相当である。 そうすると、原告が本件ソフトウエアの著作権の共有持分を侵害されたことによる損害賠償額は、本件ソフトウエアの実施料相当額である1057万5000円と認められる。よって、原告は、被告イーウェーヴ及び被告神山に対し、著作権法114条2項による損害賠償として、1057万5000円を求めることができる。 (2) 弁護士費用 本件著作権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用としては、105万円を認めるのが相当である。 6 以上によれば、本訴請求は、原告が、被告らに対し、本件ソフトウエアの複製、販売、頒布、展示の差止め及び本件ソフトウエア複製物の廃棄を求め、被告イーウェーヴに対し、本件登録の抹消登録請求を求め、被告イーウェーヴ及び被告神山に対し、損害賠償として、連帯して1162万5000円及びこれに対する不法行為の後である平成11年2月18日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。 〔反訴請求〕 7 争点(5)(原告は、本件開発委託契約に基づく残代金支払義務を負うか)について (1) 前記1で認定した事実によれば、原告は、被告イーウェーヴに対し、本件開発委託契約及び追加契約に基づき計2700万円の支払義務を負うが、原告がこれまで同被告に支払った金額の合計は2300万円であるから、原告は、本件開発委託契約及び追加契約に基づく開発費残代金として、同被告に対し、400万円の支払義務を負うものといえる。 (2) 原告は、本件ソフトウエアは未完成品であるから、開発費残代金400万円の支払義務はないと主張するところ、前記1で認定した事実によれば、本件ソフトウエアには、基本機能設計書(乙8)記載の機能の一部が実現されていないことが認められる。しかし、原告が平成9年4月から平成10年6月までに本件ソフトウエアを186本という相当の本数販売し、未完成品であることを理由とする返品や解約が相次いだ事情を窺わせる証拠もないことを考慮すると、本件ソフトウエアは、当初仕様に未完成の部分があるとしても、一本の土木出来形自動作図ソフトウエアとしては完成していたと認めるのが相当であり、未完成品であることを理由として報酬の支払拒絶をすることはできないというべきである。しかも、前記1で認定した事実によれば、原告は、平成9年12月13日、同被告との間で、未払開発費用1100万円の支払義務を認め、これを平成10年1月から4月まで毎月末日各200万円、同年5月末日300万円の条件で分割して支払う旨承諾したものであり、これらの期限が徒過したことは明白であるから、原告は、同被告に対し、開発費残代金400万円の支払義務があるというべきである。 (3) 原告は、同被告において、本件ソフトウエアのソースコードを提供しない限り、原告に対する開発残代金の請求はできないと主張する。しかし、本件開発委託契約の内容を示す本件見積書(甲3)及び追加見積書(乙1)には、同被告が原告に対して引渡義務を負う成果物として「基本要件設計書」「ソフトウエア仕様書」「プログラム仕様書」の記載があるにすぎず、ソースコードが引渡しの対象となる成果物であることを窺わせる記載はない。また、前記1で認定した事実によれば、原告と同被告との交渉経過において、原告が同被告にソースコードの引渡しを求めたことはなく、両当事者間では、ソースコードについては引渡しの対象にならないと認識されていたとみるのが相当である。そうすると、本件開発委託契約において、同被告にソースコードの引渡義務はなく、原告の開発残代金の支払がソースコードの提供と引換給付となることもない。 8 争点(6)(被告イーウェーヴとサヌキットの間には、サヌキットが本件ソフトウエアを1本販売するごとに同被告にライセンス料10万円を支払う旨の合意が成立したか)について (1) 前記1で認定した事実によれば、サヌキットと同被告との間では、本件開発委託契約が締結された平成8年8月20日時点で、@同被告が本件ソフトウエア開発費用3438万5000円のうち1038万5000円を負担する、A同被告の負担分は、完成した本件ソフトウエアが1本売れるごとに、サヌキットが同被告にライセンス料名目で10万円を支払うことにより清算する旨の特約が成立し、本件見積書(甲3)に「値引き10,385,000円」「1ライセンス:100、000円」と記載されたこと、この特約はサヌキットから原告に引き継がれたことが認められる。 (2) 他方、前記1認定の事実と証拠(乙45、証人乙及び後掲各証拠)によれば、原告と同被告との間では、平成9年6月以降、上記ライセンス料について、次のとおり交渉が行われたことが認められる。 ア 同被告は、平成9年6月3日、上記ライセンス料として1本10万円を請求したが(乙39)、原告は、FCADのバグ及び未完成機能の存在を理由にこれを拒絶した。 イ 同被告は、同年6月11日、@6月30日までの出荷物について、新規販売分1本5万円、ピタゴラスからの移行分1本2万円、A7月1日より100台までの出荷物について、新規1本7万円、ピタゴラスからの移行分1本3万円、B7月1日よりの出荷物で101台目以降のものについて、新規1本10万円、ピタゴラスからの移行分1本4万円のライセンス料を提示した(甲5)。 ウ 原告は、同年7月21日、上記ライセンス料として、同月1日より、新規1セット10万円、2本目以降は売上げの10%、ピタゴラスからの移行分については売上げの10%を支払うという提案をした(甲6)。 エ 同被告は、同年7月25日、同月1日からの上記ライセンス料を@新規1セット10万円、同一ユーザーに2セット以上1本5万円、ピタゴラスからの移行分1本5万円とすると提案した。原告は新規1セット目販売分のライセンス料を1本10万円とすることは承諾したが、同一ユーザーへの2セット目以降の販売分及びピタゴラスからの移行分については別途交渉すると返答した(甲7)。 オ 同被告は、同年7月31日、本件ソフトウエア14本につき1セット10万円(140万円)、2本につき1本2万5000円(5万円)のライセンス料を請求し、原告は同年9月10日これを支払った(甲8の1)。 カ 原告は、同年8月12日、同年10月31日までの販売分の上記ライセンス料を、@新規1本5万円、Aそれ以外は10%、B九州地区の構造物対応のユーザーは10%と提案し(甲9)、同被告は、平成9年8月から上記提案に従ったライセンス料を請求した。 キ 同被告は、原告に対し、同年11月5日、追加開発費の一部を負担するよう求めるとともに、上記ライセンス料を@新規1本10万円、Aそれ以外は15%、B九州地区の構造物対応のユーザーは15%に増額する旨提案し(甲27)、さらに、同月27日、原告が同年12月10日限りでの開発終了、保守契約の締結、追加開発費の一部負担等の条件を了承しない場合には、ライセンス料について、改めて当初の合意内容に満たない部分を請求する旨告知した(乙3)。 ク 原告は、同年12月13日、同被告が求めていた開発費残代金1100万円の支払を了承して分割条件を定め、保守契約を締結することにも基本的に合意し、同年4月1日以降に発生した追加開発費についても認識した旨返答した(乙41)。同被告は、同年12月から平成10年6月まで、平成9年8月12日の原告の提案に従ったライセンス料を請求をし、結局、原告は、平成9年8月分から平成10年6月分までのライセンス料として、請求に従い合計638万0750円を同被告に支払った(甲8の4〜13)。 (3) 上記(2)の事実によれば、同被告は、平成9年7月31日以降、原告の同月21日及び同年8月12日の提案に従い、本件開発委託契約によりサヌキットとの間で合意した1本10万円の約定よりも低額のライセンス料を請求したことが認められる。他方、同被告は、原告が開発費残代金の支払及び追加開発費の一部負担についての協議に応じないことから、同年11月5日、原告に対しライセンス料支払額の増額を求め、同月27日、原告が開発費の一部負担等に応じない限り、当初の合意内容に満たない部分のライセンス料を請求すると述べたが、同年12月13日、原告が開発費残代金1100万円の支払及び保守契約の締結を了承し、同年4月以降発生した追加開発費についても認識したことを考慮して、平成9年12月以降も、同年8月12日の原告の提案どおりの減額されたライセンス料の請求を続けていたことが認められる。このような事実によれば、原告と同被告の間では、遅くとも平成9年12月ころには、同年7月1日以降の販売分について、本件開発委託契約の特約に基づくライセンス料を原告の同年8月12日の提示どおり(@新規ユーザーへの1セット目の販売分については1本5万円、A同一ユーザーへの2本目の販売又はピタゴラスからの移行分については売上の10%)に減額変更する旨の合意が成立したものと推認することができる。 もっとも、同年6月分までの販売分についてのライセンス料に関しては、上記交渉中で、原告からも同被告からも何らかの提案がなされた形跡がなく、同販売分については、同被告が原告に対し、本件開発委託契約の特約に基づく1本10万円のライセンス料を他の交渉条件とかかわりなく確定的に減額変更する意思を表示したものとは推認できない。前記1で認定した事実によれば、本件開発委託契約の締結に当たり、サヌキットと同被告の間では、同被告が負担した本件ソフトウエア開発費用1038万5000円の回収は、専らサヌキットが本件ソフトウエアを1本販売するごとに10万円のライセンス料を同被告に支払うことにより図ることとされており、上記1038万5000円が同被告の最終見積額である3438万5000円の3分の1弱に及ぶことを考慮すると、1本10万円というライセンス料の特約がない限り、同被告が本件開発委託契約を締結することはなかったものと推認される。しかも、平成9年3月から同年6月までの本件ソフトウエアの販売数は61本に上り(乙67)、上記特約に従ったライセンス料の総額は610万円となる。そうすると、同年6月以降、原告が同被告の開発費残代金支払及び追加開発費一部負担の要求に応じず、他に確実な開発費の回収手段の提示もない状態で、同被告が同年6月分までのライセンス料610万円を放棄する旨の提案をすることは経験則に反するというべきである。 なお、同被告は、反訴提起に至るまで、原告に同年6月分までのライセンス料を請求していないが、これは、平成10年6月までは、原告との開発費及び追加開発費に関する交渉が継続中であり、また、原告が開発費残代金の分割金の支払を履行していたことを考慮して、当初約定どおりの請求を差し控えていたものと見るのが相当であり、同年7月以降は、原告との交渉決裂に伴い、本件ソフトウエアの複製物を独自に販売することにより開発費の回収を図る方針に切り換えたためと見るのが相当であるから、これをもって、平成9年6月分までのライセンス料債権を放棄する旨の意思表示があったと見ることはできない。 (4) 上記(3)のとおり、平成9年3月から6月にかけて原告が販売した本件ソフトウエアは61本と認められるから、原告が本件開発委託契約の特約に基づき被告に支払うべき平成9年6月分までのライセンス料の総額は610万円になる。また、平成9年7月分以降の販売分について、原告が同年8月12日の提案に基づくライセンス料を支払っていないのは、平成10年7月度の売上げ1本(単価30万円)、同年8月度の売上げ1本(単価35万円)であることが認められる(甲8の13)。これらの売上げは、単価からみて、新規ユーザーに対する1本目の販売でないことが明らかであるから、平成9年8月12日の合意に基づくライセンス料は、それぞれ販売額の10%である3万円及び3万5000円となる。したがって、原告は、同被告に対し、本件開発委託契約の特約に基づくライセンス料残額として、上記各金額の合計である616万5000円を支払うべき義務を負う。 9 争点(7)(原告は、本件ソフトウエアの仕様変更による追加作業の発生に伴い、被告イーウェーヴに対し追加開発費支払義務を負うか)について (1) 仕様変更の意義について ア ソフトウエア開発は、@要件定義、A外部設計、B内部設計、Cソースプログラムの作成(プログラム設計、コーディング)、D各種試験(単体試験、組合せ試験、システム試験)の開発工程を経て進められるところ(甲56、乙56、証人己)、本件開発委託契約では、前記第2、1、(2)のとおり、契約に先立ち基本要件設計作業(前記@〜Dのうち、@要件定義及びA外部設計に当たる。)が完了し、成果物として基本機能設計書(乙8)が提出されているので、本件開発委託契約に基づき被告イーウェーヴが完了すべき業務の内容は、基本機能設計書(乙8)で確定された当初仕様(処理手順、操作画面の種類・相互関係、機能の表示・配置、入出力項目、画面表示、階層関係等)を内部設計以降の作業によって実現することであり、これが、本件開発委託契約に基づく報酬請求権と対価関係に立つ業務の範囲であると解される。 イ 仕様変更の申出は、法的には、委託者による当初の契約に基づく業務範囲を超える新たな業務委託契約の申込みと解され、これに対して受託者が追加工事代金額を提示せず、追加代金額の合意がないまま追加委託に係る業務を完了した場合には、委託者と受託者の間で代金額の定めのない新たな請負契約が成立したものとして、相当の追加開発費支払義務が生じると解するのが相当である。したがって、委託者であるサヌキット又は原告の委託の趣旨が、当初仕様である基本機能設計書(乙8)に示された処理機能(乙56)、@土木出来形図面・数量計算書の作成の処理手順(5〜7頁)、A操作画面(ウインドウ)の種類、相互関係(10〜37頁)、Bメニューバー中の機能の表示・配置(10〜18頁)、C各操作画面ごとの入出力項目・文言表示(10〜37頁、40〜60頁)、D入力又は出力される測量値の表示態様(39頁)、E土木出来形図面・数量計算書の階層関係(62〜65頁)に変更を加えるものである場合には、原則として仕様変更に該当し、原告及び同被告はいずれも会社であるから、原告には、当該仕様変更部分について相当額の追加開発費支払義務(商法512条)が生じるものと解するのが相当である。 もっとも、ソフトウエア開発においては、その性質上、外部設計の段階で画面に文字を表示する書体やボタンの配置などの詳細までが決定されるものではなく(甲52)、詳細については、仕様確定後でも、当事者間の打合せによりある程度修正が加えられるのが通常であることに鑑みると、このような仕様の詳細化の要求までも仕様変更とすることは相当でないというべきである。加えて、同被告の開発担当責任者である丙は、ボタン・メッセージの変更が仕様変更として追加開発費用の対象とならない場合があることを認めていることによれば(証人丙)、仕様の詳細に関する変更は、追加開発費用の対象とならないものと解するのが相当である。 ウ 原告は、本件ソフトウエアの当初仕様は、基本機能設計書(乙8)だけでなく、システム設計書(乙7)、機能概要(甲43)等を総合して確定すべきであると主張する。しかし、システム設計書及び機能概要は、被告イーウェーヴが基本要件設計作業を行うための資料としてサヌキットが提出した文書にすぎず、同被告は、これらの資料を基本要件設計書に盛り込むべきものとそうでないものとに取捨選択したり、各操作画面及び各機能を決定したり、各操作画面に関連する機能を特定して注釈を加えるなどの作業を行うことにより基本機能設計の内容を特定し(乙61)、この基本機能設計書に記載した機能を作成するために必要な開発工数を基準として見積金額を決定したのであるから、基本機能設計書に記載されていない機能については、当初見積りの範囲を超えるものとして、別途開発費用が必要となると解するのが相当である。 (2) 被告イーウェーヴは、別紙経過一覧表記載の1ないし20の項目を、 A 本件ソフトウエアの当初仕様に含まれていなかった、全く新しい機能ないしバージョン(デモ版)を追加・作成する作業 B 測量値の入力により土木出来形図面・数量計算書を自動的に作成する機能に関する部分を変更する作業 C 数値・図形等の各種データの入力ないし出力表示する機能に関連する部分の変更作業 D ユーザーが直線、円弧等を任意に描く機能に関連する部分の変更作業 E 操作画面上のボタン、メニュー等の表示部分の変更作業 に分類するので(乙58)、以下、この分類に従って、一覧表記載の各項目が仕様変更に当たるかどうか検討する。 ア 分類A(本件ソフトウエアの当初仕様に含まれていなかった、全く新しい機能ないしバージョン(デモ版)を追加・作成する作業)について (ア) 堰堤(えんてい)の作図パターンの変更(同2C) a サヌキットは、平成8年9月18日付けファクシミリ文書(乙13)及び画面イメージ(乙14)により、「堰堤」に関する作図パターン及び測量値入力画面等の作成を求めたものであるが、堰堤は、基本機能設計書50頁の「擁壁」とは入力項目が異なり、「擁壁」に属する21の作図パターンが共用するプログラムが使えない作図法であることが認められる(証人丙)。そうすると、堰堤の作図パターンの変更(新設)は、基本機能設定書で確定した出入力項目及び画面表示に変更を加えるものとして仕様変更に当たるというべきである。 b 原告は、堰堤は、基本機能設計書(乙8)の階層図の擁壁グループに含まれているから、経過一覧表2Cの要求は仕様変更に当たらないと主張するが、基本機能設計書の「データ階層」(63頁)の「擁壁」のグループには「堰堤」の記載は存在せず、当初仕様において、堰堤が擁壁に含まれているということはできない。 また、原告は、機能概要(甲43)73頁の「1.擁壁」の(13)に「擁壁−M(堰堤など)」の記載があるから、「堰堤」は当初仕様の範囲内であるとも主張するが、上記(1)のとおり、機能概要(甲43)は、外部設計のためにサヌキットが同被告に交付した資料にすぎず、これを当初仕様の内容とみることはできない。 さらに、原告は、「堰堤」の作図パターンの変更は、追加契約に含まれていると主張するが、追加見積書(乙1)記載の追加機能は、@展開図自動作図機能(断面図作成のための測量値を入力すると、断面図だけでなく、正面展開図も自動生成する。)、A工事、図面、テンプレートの管理方法の変更(テンプレートを使用して作図された図形を、複数の図面で流用することを可能とする。)、B小数点設定のタイプ別入力(資材毎に構造物の「丸め条件」を設定する。)というものであり(乙61)、これらの記載によって、「堰堤」の図面パターンの新設が追加契約に含まれていると解することはできない。 (イ) 集水枡の作図パターンの変更(同11) a 原告は、平成9年3月21日、「集水枡」の作図パターンに関する資料(乙23)を交付することにより、同被告に対し、「集水枡」について正面図、平面図、後面図、左側面図及び右側面図の5種類の作図を求めるとともに、測量値入力画面として、各構成部分の測量値のほか、集水枡の個数も入力できる独自の画面の作成を求めた(乙58)。しかし、基本機能設計書(乙8)51頁に示された「集水枡」の画面イメージには、正面図と平面図の2種類しかなく、集水枡の個数の入力欄もないのであるから、集水枡の作図パターンの新設は、操作画面の変更及び当初仕様にない出入力項目の作成を求めるもので、仕様変更に当たるというべきである。 b 原告は、丁が平成8年7月27日、同被告に交付した「構造物のパターンについて」と題する書面(甲46、6頁)には、集水枡の画面イメージのほか、「集水枡のみ距離を個数で表示」との書き込みがあるから、集水枡は当初仕様に含まれていると主張する。しかし、この画面イメージは、基本要件設計作業の資料にすぎず、当然に当初仕様の内容を表すものとはいえない上、当初仕様と同じく、正面図と平面図のみを表示するものであるから、これを参照しても、平成9年3月21日の変更要求は仕様変更に当たるといわざるを得ない。 (ウ) 積上式擁壁の作図パターンの変更(同19) 原告は、平成9年6月13日の打合せにおいて、同被告に対し、積上式擁壁の作図について独自の測量値入力画面を設け、上下各構成部分の立体の「高さ」「下幅」「上幅」「左勾配」「右勾配」という「擁壁」とは異なる入力項目を設けることを要求したことが認められる(乙32、58)。これは、基本機能設計書(乙8)で定めた「擁壁」と異なる画面の作成を求め、異なる入出力項目の作成を求めるものであるから、仕様変更に当たるというべきである。 (エ) 展開図6に関する機能の追加(同20) これが仕様変更であることについては、当事者間に争いがない。 (オ) 「登録図形」機能の追加(同6) サヌキットは、平成8年10月3日、補助機能として「登録図形」機能(ユーザーが描いた図形を名称を付して登録し、再利用を可能とする)の作成を求めたことが認められる(乙18)。しかし、基本機能設計書(乙8)の5頁に「任意図形登録」「システム図形登録 名称欄・ガードレール」の記載があり、同7頁のフローチャートに「指示任意図名の登録」の記載があることによれば、当初仕様には、ユーザーが作図した図形を登録する機能があり、「登録図形」機能の新設は、当初仕様の範囲内として仕様変更に当たらない。 (カ) 図面枠の自動作図、図面枠の印刷の有無の選択、図面枠に対する編集(拡大、縮小、削除等)機能の追加(同9G) 原告は、平成8年10月24日、「図面枠のプロットアウトの選択をできるようにする(図面の内側の枠)。画面の表示/非表示に倣う。出力するかしないかをダイアログボックスで選択する。」と要望したことが認められる(乙21)。基本機能設計書(乙8)には、図面枠の記載自体は存在しないが、当初仕様でCAD部分への使用が決まっていたGDSには、図面枠を作成できる機能(レイヤー)、図面枠の印刷有無の選択機能が存在し(甲50、60)、図面枠に関する機能は、GDSの搭載機能という形で当初仕様に含まれていたといえる。そうすると、原告の要望は当初仕様の範囲内であり、CADをGDSからFCADに変更したことにより消失した機能を作成して欲しいという要望といえる。 前記1で認定した事実によれば、サヌキットは、GDSからFCADへの変更を承諾する前に、FCADのサンプルで動作を確認していたことが認められるが、上記事実によって、直ちに、サヌキットがFCADの仕様に準拠して開発を進めること(すなわち、FCADについてサヌキットが変更を求めることが追加開発費用の対象となること)を承諾したとみることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。かえって、FCADの変更が同被告の提案に基づくものであり、本件ソフトウエアに加えてFCADについても著作権使用料が得られる点で、専ら同被告にメリットがある提案であること、サヌキットが同提案に応じた最大の理由は、ソフトウエア開発会社である同被告から、GDSよりも早く開発できると言われた点にあるが、GDSが実績のある市販ソフトであるのに対し、FCADが一個人が作成した作動実績も不明なCADであり、当初からGDSに搭載された機能の一部を具備していないことも判明していたことを考慮すれば、同被告においてGDSと同等の機能を作成すると提案しない限り、サヌキットがCADの変更に応じたとは通常考えられないこと、CADの変更は、本来ならば重要な仕様変更となる事項であるが、サヌキットと同被告の間では、追加工数の見積りや追加費用の負担について協議された形跡がないことを考慮すると、両者の間では、CADの変更に伴う工数の変更部分は、当初仕様の範囲で賄うことになっていたと推認される。そうすると、GDSからFCADへの変更に伴って消失した機能の作成は、当初仕様の範囲内であり、仕様変更に当たらない。 (キ) デモ版の新規作成(同4) 同被告は、平成8年9月26日の「Aシステム打ち合わせ議事録」(乙16)には、「日程の件 デモ版、製品版について、提示した内容で良い。」との記載があることをもって、サヌキットが当初仕様に含まれていないデモ版の新規作成を要求したと主張する。しかし、追加見積書(乙1)の末尾に添付した「Aシステム(仮称)開発工程表」には、「1996/12/13デモ版発売予定」の記載があり(甲39)、デモ版の作成は、追加契約で規定された当初仕様の範囲内と推認される。 (ク) 「工事の削除」等の機能の追加(同7) サヌキットは、平成8年10月11日、初期画面に「既に登録された工事を開きます」「登録された工事を削除します」のバーを表示した画面イメージ(乙19)を示し、特定の工事ごとに一括して複数の図面等を表示・削除する機能を作成するよう要求したことが認められる。基本機能設計書(乙8)には、複数の出来形図面・計算書を「工事」の単位でグループ化して一括表示したり、一括削除する機能は存在しないから、上記要求は、基本機能設計書になかった新たな機能の作成を求めるもので、仕様変更に当たると認められる。 イ 分類B(測量値の入力により土木出来形図面・数量計算書を自動的に作成する機能に関する部分を変更する作業)について (ア) 証拠(乙7、8、11、14、15、20、58)及び弁論の全趣旨によれば、経過一覧表記載のうち、サヌキット又は原告が同被告に対し、基本機能設計書(乙8)と異なる処理手順、操作画面の種類・相互関係、機能の表示・配置、入出力項目、画面表示又は階層関係の作成を求め、かつ、上記要求に従った作業が行われたものは、次のとおりであり、これらは、いずれも仕様変更に当たるものと認められる。 @ 展開図1〜5、ヘロン測量値入力画面の変更(同2@) 基本機能設計書(乙8)では、各測量値入力画面と追加面積の入力画面を別画面で表示していたが(48頁)、乙14の画面イメージは、これらを同一画面に統合し、画面表示を変更した(25頁)。 A 展開図2〜5、ヘロンの実測値入力画面における表示設定入力機能の追加(同1C) システム設計書(乙7)の展開図パターンDのサンプル図面中では、実測値が括弧内に表示され、土木出来形図面に実測値と測量値が常に併記されているが、乙11の画面イメージでは、実測値入力画面の上部に「実測値の表示」の項目を追加し、1と0の数値入力により、自動作成する土木出来形図面・計算書に、実測値を測量値と併記して表示させるか否かの選択を可能とした(3頁)。 B 展開図選択図面にヘロンの選択ボタンを追加(同2D) 基本機能設計書(乙8)では、「ヘロン」ボタンは基本画面に設けられているが(10、32頁)、乙14の画面イメージでは、これが展開図1〜5を選択する画面に移動しており(21頁)、機能の配置が移動された。 C 構造物測量値入力画面の変更(同3@) 基本機能設計書(乙8)の構造物測量値入力画面には、 A 縮尺値を縦横別々に設定可能とする機能 B 「幅の向き」を指定する機能 C 「上下合わせ」を指定する機能 D 寸法線の表示の有無を指定する機能 は存在しないが(50頁)、乙15の画面イメージには、これらの機能が新規に追加された(19頁)。 D 展開図、ヘロン実測値入力画面の控除面積・追加面積入力の対象物拡大(同3A) 基本機能設計書(乙8)の展開図・ヘロンの各実測値入力画面では、控除面積入力対象はマンホール及び橋脚、追加面積入力対象は取合道のみであったが(41、43、45、49頁)、乙15の画面イメージでは、あらゆる対象物を控除面積又は追加面積入力対象とされており(3、20、23、25、27頁)、入出力項目が変更された。 E 展開図4、5の測量値入力画面の二断面時の寄せ方向入力追加(同8A) システム設計書(乙7)では、展開図4、5の「距離(上)」と「距離(下)」の値が異なる場合、両数値の差を左右に均等に割り付けて作図表示していたが(10頁)、乙20の画面イメージでは、ユーザーが「センター合わせ」「右寄せ指定」「左寄せ指定」の三とおりの異なるパターンを選択して作図可能とし(39頁)、画面表示、機能が変更された。 (イ) サヌキットと同被告の両方から、変更の希望が出されたもの a 構造物測量値入力画面の変更について @ 平成8年9月9日付けファックス文書(乙10)及び画面イメージ(乙11)による構造物測量値入力画面の変更(同1@) サヌキットは、平成8年9月9日付けファクシミリ文書(乙10)により、「少し変更したいところがあります。断面の入力ですが、一画面で全ての測点を入力していましたが、これを一断面一画面で入力したいのですが…。」と依頼し、乙11の画面イメージを送付した。基本機能設計書(乙8)では、構造物に関する複数の断面の測量値を一括して一画面上で入力していたが(50頁)、乙11の画面イメージでは、各断面図毎に個別の画面を複数表示させ、各画面に対応する断面の測量値を入力している(6頁、21頁)。そうすると、上記ファックス文書及び画面イメージは、サヌキットが同被告に対し、構造物測量値入力画面に関する画面表示、入力項目及び処理手順の変更を依頼するもので、仕様変更の要求に当たるものといえる。 A 同月18日付けファックス文書(乙13)及び同月18日付け画面イメージ(乙14)による構造物測量値入力画面の入力方式の変更(同2A) サヌキットは、同月18日付けファクシミリ文書(乙13)により、「構造物の測量値入力で、現在、距離は一つだけの入力ですが、これを擁壁、ブロック積みのみ、距離(上)(下)の入力にしたいのですが」と述べた。乙11の画面イメージでは、測点間の距離の入力項目は「距離」1種類であるが(21頁)、乙14の画面イメージは、入力項目を「距離(上)」と「距離(下)」の2種類とし、数量計算を上距離と下距離との平均値「平均距離」に基づいて行うものであり(15〜16頁)、上記ファックス文書及び画面イメージは、サヌキットが同被告に対し、構造物測量値入力画面に関する画面表示、入力項目及び処理手順の変更を依頼するもので、仕様変更の要求に当たるものといえる。 B 同年10月16日付け画面イメージ(乙20)による構造物測量値入力画面における画面構成の変更(同8B) 証拠(甲47、50、証人丁〔第1回〕)によれば、丁は、同被告担当者から、サヌキットの希望する画面では作成に時間がかかるので、納品日の平成9年1月24日までに作成するには、自分が言うとおりの画面にして欲しいと言われて、乙20の画面イメージを作成し、同被告に送付したことが認められる。乙20の画面イメージは、断面図に関する測量図を入力する画面と各断面間の距離を入力する画面を統合して一画面で表示しており(21頁)、両者を2種類の画面に分けていた乙11の画面イメージ(6頁、21頁)に変更を加えているが、サヌキットの意思で変更を求めたものではなく、同被告が自己の都合で変更を求めたものであるから、これを原告の仕様変更要求として、追加費用の対象とするのは相当でない。 C 同年11月2日付け画面イメージ(乙22)による構造物測量値入力画面の全面的変更(同10@) 証拠(甲47、50、証人丁〔第1回〕)によれば、丁は、同被告担当者から、サヌキットの希望する画面では作成に時間がかかるので、自分が言うとおりの画面にして欲しいと言われて、乙22の画面イメージを作成し、同被告に送付したことが認められる。乙22の画面イメージは、各断面図の断面間の距離の入力に際し、表示された断面とこれに隣接する断面間の距離の数値のみを表示するものであり(乙22・1頁)、「距離(上)」と「距離(下)」の数値をすべて入力して一覧表示する乙11の画面イメージに、画面表示及び入力項目の変更を加えるものであるが、サヌキットの意思で変更を求めたものではなく、同被告が自分の都合で変更を求めたものであるから、これまで原告の仕様変更要求に基づくものとして、追加費用の対象とするのは相当でない。 b 構造物計算項目登録画面の変更について @ 平成8年9月18日付け画面イメージ(乙14)による構造物計算項目登録画面の変更(計算式の表示の選択機能、単位設定入力機能の追加)(同2B) サヌキットは、同被告に対し、同年9月18日付け画面イメージ(乙14)を送付し、基本機能設計書(乙8)では計算の対象物の名称、計算式のみを入力していた構造物計算項目登録画面(乙8・52頁)に、計算式を表示するか否かを選択する機能及び単位設定をする機能を追加した(乙14・14頁)。これは、当初仕様にない新たな機能の作成を求めるものであり、仕様変更として、原告が追加費用を負担すべき工事分となる。 A 同年10月16日付け画面イメージ(乙20)による構造物計算項目登録画面の全面的変更(同8C) 証拠(甲47、50)によれば、サヌキットは、同年10月初めの打合せにおいて、同被告から「動きが遅くなるので変えて欲しい。」と要求され、同月16日付け画面イメージ(乙20)を送付したことが認められる。乙20の画面イメージは、各対象物ごとにウインドウを表示させ、各対象物ごとに各条件を入力・表示するもので(20頁)、一画面上で複数の対象物に対して丸め条件の設定を行っていた従前の画面表示(乙15・18頁)に変更を加えるものであるが、原告の要求に基づくものとは認められないから仕様変更に当たらない。 c 中心移動入力画面の変更について 証拠(乙14、20)によれば、サヌキットから同被告に対し、次のとおり、中心移動入力画面に関する画面イメージが送付されたことが認められる。 @ 中心移動入力画面の変更(同3E) サヌキットは、平成8年9月25日付け画面イメージ(乙15)を送付し、基本機能設計書(乙8)では、「上」「下」の各入力欄に上下方向への中心移動距離を各入力していた中心移動入力画面(46頁)の表示を、移動距離をプラス・マイナスの数値で入力する方式に変更したが(乙15・32頁)、これは、画面表示、入力項目に変更を加えるものであり、仕様変更に当たるといえる。 A 中心移動入力画面の全面的変更(同10A) 証拠(甲47、50)によれば、原告は、平成8年11月2日、同被告の要望により乙22の画面イメージを送ったことが認められる。乙22の画面イメージは、移動距離の入力画面を縦方向に積み重ねた形にするもので(19頁)、横方向に並列表示していた従前の画面表示(乙15・32頁)に変更を加えたものであるが、原告の要求によるものとは認められないから、仕様変更に当たらない。 (ウ) 証拠(甲47)によれば、サヌキットは、同被告から、当初仕様どおりの画面で作ると不具合が出ると指摘されて、同被告と打合せを行い、その経緯で、次の要望をしたことが認められる。これは、当初仕様に委託者が変更を加えるものではなく、当事者間の協議により業務範囲を再確定する行為であるから、仕様変更に当たらない。 @ 展開図3測量値入力画面の「左測点入力」「右測点入力」の廃止(同1D) 基本機能設計書(乙8)の展開図3測量値入力画面には、「左測点入力」「右測点入力」の二つの入力域があったが(42頁)、乙11の画面イメージでは、この入力領域を削除し、各測点ごとに、「幅(左)」「幅(右)」の各数値を入力した(35頁)。 A 展開図2、3の実測値入力画面における控除面積、追加面積の入力方法の変更(同1B) 基本機能設計書(乙8)では、控除・追加に係る対象物の入力領域を、左領域と右領域に区別していたが(41、43頁)、乙11の画面イメージでは、左右の領域に分けずに一括して「控除面積」「追加面積」とした(乙11・32、34頁)。 (エ) サヌキットは、基本機能設計書と異なる画面表示又は入力項目の作成を求めたが、同被告が最終的に作成しなかったもの−ヘロン測量値入力画面における偏差入力機能の追加(同1E) 証拠(甲47、50)によれば、サヌキットは、平成8年9月9日付け画面イメージにより、ヘロン測量値入力画面における偏差入力項目の追加を求めたが、この機能は作成されなかったことが認められる。基本機能設計書(乙8)では、ヘロン測量値入力画面に「偏差」の入力項目は設けられていなかった(48頁)から、乙11の画面イメージで偏差の項目を追加したこと(乙11・4頁)は、当初仕様にない入力項目の作成を求めるもので仕様変更要求に当たるが、同被告が仕事をしたことが認定できない以上、追加開発費用は発生しない。 (オ) 次のものは、いずれもボタン・メッセージの変更などの詳細な項目の変更であるから、仕様変更に当たらない。 @ 構造物計算項目登録画面の変更(面積項目の削除、単位記号入力欄・説明文言の追加)(同1Fd) 基本機能設計書(乙8)の構造物計算項目登録画面には、「面積」入力欄があったが(40、47頁)、乙11の画面イメージは、「面積」入力欄を削除し、新たに「単位記号」入力欄、各種の説明文を追加した(25頁)。 A 展開図、ヘロン、構造物の各測量値入力入力画面の縮尺の数値の入力をコンボボックス方式による入力方式に変更(同3B) B 展開図の実測値入力画面中の実測値表示の選択方式をコンボボックス方式に変更(同3C) C 展開図・ヘロン選択画面に対するパターン説明文言の追加・選択方法の変更(同3F) D ヘロン測量値入力画面における「偏差」入力項目の削除(同3D) E 展開図・ヘロン選択画面における選択方式等の変更(同8@) ウ 分類C(数値・図形等の各種データの入力ないし出力表示する機能に関連する部分の変更作業)について (ア) 基本機能設計書(乙8)に記載された事項に変更を加えるもの−展開図1〜5の測量値入力画面に対する幅・距離等の処理方法の変更(同5A) 基本機能設計書(乙8)の「測量値入力の基本」には、各入力項目の初期値は、前測点の入力データがコピーされるとの記載があるが(39頁)、平成8年9月30日付けファックス文書(乙17)は、展開図1〜5の測量値入力画面において、幅、距離の数値に限っては、「次行の測点名入力欄へカーソルが移動してもコピーして表示しない」としていることが認められる。これは、当初仕様で定められた機能に関する変更を求めるものであり、仕様変更に当たる。 (イ) 証拠(乙8、17、21、29)によれば、次の事項は、いずれも基本機能設計書(乙8)に記載されていない詳細な事項に関する変更であることが認められ、仕様変更に当たらない。 @ 入力形式を上書きモードから「Windows標準」に変更(同5@) A 展開図1〜5の測量値入力画面に対する測点名・番号の処理方法の変更(同5B) B 展開図1〜5の実測値入力画面の入力可能項目の削減(同5C) C 作図時の文字書体をゴシック体に固定(同9H) D 勾配文字のペン番号の変更(同17@) E 計算書作図時のペン番号の変更(同17A) F ゴシック体に固定されていた書体を、明朝体その他の書体に選択可能にする(同17B) (ウ) CADエンジンの変更に伴うもの−DXF読込時の縮尺の自動設定機能の追加(同18B) 原告は、平成9年5月30日の打合せにおいて、同被告に対し、DXFファイル形式で保存された図面データを読み込んで画面表示する際、同データをユーザーが選択した用紙サイズに適した大きさで表示するよう、DXFファイル中のデータの内容に応じて最も適切な縮尺を自動設定する機能の追加を求めたことが認められる(乙30・11項「DXFの拡縮は、1,5,10,50,100でOK。」)。しかし、図面ごとに異なる縮尺を使う機能はGDSに存在しており(甲60)、上記要求は、当初機能に存在したが、FCADへの変更により欠落した機能の補充を求めるものであり、前記(2)、ア、(カ)のとおり、仕様変更に当たらない。 エ 分類D(ユーザーが直線、円弧等を任意に描く機能に関連する部分の変更作業)について 証拠(乙58)によれば、次の事項は、本件ソフトウエアのCADエンジンをGDSからFCADに変更したことに伴う変更と認められるから、前記(2)、ア、(カ)のとおり、仕様変更に当たらない。 @ 「線分変更」機能の移動(同9C) A 「文章作成」機能の移動(同9D) B 寸法関連設定に「寸法・縮尺・単位の設定」機能を追加(同9F) C 「文字入力」機能等の削除、「文字の入力・修正」機能の追加(同13) D 「縮尺設定」機能を、「寸法関連設定」から基本画面に移動する、コンボボックスにより選択可能な縮尺値を変更する(同14) E 「画面表示関連設定」機能を「表示」メニューから「設定」メニューへ移動(同15@) F スクロール機能に対する変更(同15A) G 「線分」カテゴリ等の新設、新設されたカテゴリ中に「水平」「垂直」等の各機能を設置する(同18@e) H 自動作図された用紙枠に対して、拡大・縮小・削除等の編集を不可能にする(同17C) I 「編集」メニュー中の「処理モード取消」機能を削除(同18@b) J 「計測」メニュー中の「周辺」機能を削除(同18@c) K 「表示」メニュー中の「ズーム」カテゴリ中の「等倍」機能を削除(同18@d) オ 分類E(操作画面上のボタン、メニュー等の表示部分の変更作業を内容とするもの)について 証拠(乙58)によれば、次の事項は、操作画面上のボタン、メニュー等の表示部分の変更作業を内容とするものと認められるが、前記(1)のとおり、画面に文字を表示するときの書体やボタンの配置などの詳細な項目は、仕様変更には該当しないから、いずれも仕様変更として追加開発費用の対象になるものではないというべきである。 @ 展開図1〜5、構造物の各測量値入力画面に対する「/」入力説明文言の追加(同1A) A 縮尺・単位・小数点の移動(基本画面)(同1Faイ) B 「新規作成」のボタン領域の変更(同1Faロ) C 「中心移動入力」ボタンの削除(同1Fb) D 「実測値入力」「控除・追加入力」ボタンの移動(同1Fcイ) E 各入力画面上の「完了」を「OK」にする(同1Fcロ) F 展開図2測量値入力画面の表示文言の変更(同2E)) G 展開図、ヘロン、構造物の各測量値入力画面の文言の変更(同3G) H 展開図、ヘロンの各実測値入力画面の文言変更(同3H) I 移動、複写に関する表示変更(同9@) J 反転方向の表示の変更(同9A) K 「線分処理」表示を「要素処理」表示に変更(同9B) L 「入力ガイド表示」の表示を変更(同9E) M 「文字(矢印付き)」機能の表示を「作図」メニューに移動する(同16) N 「編集」メニュー中の「反転移動」等の表示を削除(同18@a) O メニュー中のカタカナ文字を半角文字に変更(同18A) P 基本画面の「終了」ボタンの名称変更(同12) カ 上記ア〜オによれば、経過一覧表記載の各項目のうち、仕様変更に該当するものは、次のとおりである。 @ 構造物測量値入力画面の変更(同1@)−分類B A 展開図2〜5、ヘロンの実測値入力画面における表示設定入力機能の追加(同1C)−分類B B 展開図1〜5、ヘロン測量値入力画面の変更(同2@)−分類B C 構造物測量値入力画面の入力方式の変更(同2A)−分類B D 構造物計算項目登録画面の変更(計算式の表示の選択機能、単位設定入力機能の追加)(同2B)−分類B E 堰堤(えんてい)の作図パターンの変更(同2C)−分類A F 展開図選択画面にヘロンの選択ボタンを追加(同2D)−分類B G 構造物測量値入力画面の変更(同3@)−分類B H 展開図、ヘロン実測値入力画面の控除面積・追加面積入力の対象物の拡大(同3A)−分類B I 中心移動入力画面の変更(同3E)−分類B J 展開図1〜5の測量値入力画面に対する幅・距離等の処理方法の変更(同5A)−分類C K 「工事の削除」等の機能の追加(同7)−分類A L 展開図4、5の測量値入力画面の二断面時の寄せ方向入力追加(同8A)−分類B M 集水枡の作図パターンの変更(同11)−分類A N 積上式擁壁の作図パターンの変更(同19)−分類A O 「展開図6」に対する機能の追加(同20)−分類A 以上によれば、原告は、上記16項目について、同被告に対し、委託代金の定めなく、当初の委託業務の範囲を超える業務を委託したのであり(以下、上記16項目を「本件仕様変更要求」という。)、原告と同被告の間では、これらの項目について代金額の定めのない請負契約が成立したものであるから、原告は、相当の報酬額としての追加開発費用(商法512条)を負担する義務を負う。 (3) 追加開発作業の工数及び費用について ア 被告イーウェーヴは、経過一覧表記載の変更要求に対して同被告が費した変更工数が同表「追加工数」欄記載の工数(人/日)であると主張し、その裏付けとして、己作成に係る「『スーパー土木』仕様変更に要した工数に関する説明書」(乙69の1。以下「己説明書」という。)、「システム開発御見積基準」(乙69の2、その一覧表を以下「生産性テーブル」という。)及び本件ソフトウエアのソースコード(乙70、71、74の1〜3)を援用する。 本件仕様変更要求(前記(2)、カ)に当たる16項目について、己説明書(乙69の1)添付一覧表記載の被告計算に係る変更工数を合計すると、計557.1人/日となる(この数値は、同被告の経過一覧表記載の総数よりも多い。)。この変更工数の算定方法は、@各仕様変更の事項ごとに、本件ソフトウエアにおいて直接に変更、追加、削除等の対象となったソースコードのステップ数を35.7(生産性テーブルに基づき、同被告の平均的プログラマーがC言語により1人/日〔8時間〕で「ソフトウエア設計」から「組合せ試験」まで作業できるステップ数)で除した工数と、A各仕様変更の事項ごとに、変更等の影響を受けると考えられるソースコードのステップ数を200(生産性テーブルに基づき、同被告の平均的プログラマが1人/日で「組合せ試験」ができるステップ数)で除した工数の総和を求めるというものであり(本件ソフトウエアで用いられたプログラミング言語は「ビジュアルC++」であり、前記生産性テーブルによるステップ数の計算が適用される。)、同被告の主張する変更工数は、専ら本件ソフトウエアのソースコードのステップ数と生産性テーブルから算出された計算上の数値であることが認められる(経過一覧表の追加開発工数は、ソースプログラムの変更履歴に加え、一部が作業記録の裏付けがある旨の証人己の証言は、乙69の1に照らし採用できない。)。しかし、生産性テーブルがソフトウエア業界で標準的に用いられる基準であること(証人己)によれば、同証人の証言中、事後見積りの場合にソースコードの変更分の実数と生産性テーブルを用いて工数を算出するのが一般的であるという部分にはそれなりの合理性があり、仕様変更のように一度書いたプログラムに変更を加える場合は、変更により影響が及ぶ部分について動作試験の必要性があるという部分も経験則に合致するから、ソースコードの変更ステップ数及び影響ステップ数と生産性テーブルから求められた1人日当たりの作業可能ステップ数から追加開発工数を算出するという算出方法自体は合理性があるといえる。 イ 被告イーウェーヴが追加変更工数を示すものとして提出した本件ソフトウエアのソースコード(乙70、71、74の1〜3)は、完成されたコードを羅列したものであって、変更履歴ごとにどの部分が削除又は追加されたかを特定する記載がないから、本件仕様変更要求に基づく変更ステップ数を示すものではないというべきである。加えて、同被告が、作業分担表、進行確認書、変更確認後のテスト結果表など、上記ソースコードの変更が原告の仕様変更要求に基づくことを裏付ける作業記録を提出せず(本件訴訟の経過を考慮すれば、むしろ、同被告にはそのような記録自体が残っていないと推定される。)、各変更要求以前に、同被告が当該項目について当初仕様に基づくソースコードをどの程度完成させていたかを示す証拠も提出しないことを考慮すれば、同被告の提出に係るソースコード及びこれに基づく己説明書記載の変更行数をもって、ただちに原告の仕様変更に基づき変更されたステップ数と推認することはできず、他に本件仕様変更要求に基づき同被告が変更作業に要した工数を認めるに足りる的確な証拠もない(丁作成に係る平成12年6月3日付け陳述書(甲50)及び平成13年4月20日付け「甲65号証の説明」(甲66)は、変更工数の算出根拠が不明であったり、本件ソフトウエアと開発言語が異なるバージョン2のソースコードを基礎とするもので、いずれも採用できない。)。 そこで、上記ソースコードの行数のうち本件仕様変更要求に基づくとみるのが相当なものの割合を検討する。前記(2)、カ及び経過一覧表によれば、本件仕様変更要求のうち、前記(2)、カEKMNOの5項目は、当初仕様に含まれない新機能を追加・作成するもの(分類A)であるが、分類Aについては、完成されたソースコードに当初仕様に基づく部分が含まれていることが考えられないから、上記5項目については、己説明書(乙69の1)添付一覧表の該当欄に記載された変更工数合計182.7人/日がすべて仕様変更に基づく変更工数を構成するとみるのが相当である。 これに対し、前記(2)、カの@〜D、F〜I及びLの10項目は、測量値の入力により土木出来形図面・数量計算書を自動的に作成する機能に関する部分を変更する作業(分類B)、同Jは、数値・図形等の各種データの入力ないし出力表示する機能に関連する部分の変更作業(分類C)に当たり、いずれも当初仕様に基づき完成された部分に変更を加える性質の仕様変更要求であるところ、前記のとおり、同被告は、各変更要求前に完成させた当初仕様に基づく仕事量を立証しておらず、完成されたソースコードのどの部分が本件仕様変更要求に係る部分であるかを証拠上認定することはできないといわざるを得ない。しかも、これらの変更要求は、平成8年9月初旬から同年10月中旬という開発初期の段階でなされており、前記1で認定した事実によれば、本件開発委託契約においては、同年9月中旬から下旬にかけて、GDSからFCADへのCADエンジンの変更、追加見積書による追加契約締結という大幅な開発内容の変更があり、実質的には、この時期は開発初期段階であったといえる。上記11項目について、同被告が仕様変更要求に基づく追加工数とするものの中には、同被告が当初仕様に基づき内部設計以降の作業に着手する前にサヌキットから変更要求がされたことから、本来追加費用の対象とならないものが含まれている可能性も否定できない。上記各事情を考慮すると、本件仕様変更要求のうち、上記11項目については、己説明書(乙69の1)添付一覧表の該当欄に記載された変更工数合計374.4人/日の2割に当たる74.8人/日を仕様変更に係る追加工数とみるのが相当である。 以上によれば、本件仕様変更に基づく開発工数は、上記工数の合計である257.5人/日とみるのが相当であり、これを1人/日当たりの開発費用を本件開発委託契約と同じ3万2500円(甲3では、単価は65万円〔1人/月当たり〕であり、一月の稼働日数を20日とすると、1人/日当たりの開発費用は3万2500円となる。)として換算すると、本件仕様変更要求に基づく追加開発費用は、836万8750円とするのが相当である。 10 争点(8)(原告には、被告イーウェーヴに対し、FCADの著作権使用料の支払義務を負うか)について 前記1で認定した事実及び証拠(甲27)によれば、被告イーウェーヴは、平成9年7月25日、原告に対し、FCADの著作権使用料として1本5万円を支払うよう求めたところ、原告は著作権使用契約を結ぶという考え方は了承したが、1本5万円という金額には同意しなかったこと、同被告は、同年11月5日、FCADの著作権使用料について、販売当初から同年10月末までの販売分については1本1万円、同年11月から平成10年3月31日までの販売分については1本2万円という提案をしたが、原告はこれを拒絶したことが認められ、両当事者間でFCADの著作権使用料についての協議が成立したことを認めるに足りる証拠はない。著作権使用契約において使用料額は契約の要素であり、これが定まっていない以上、原告と同被告の間でFCADの著作権使用契約が成立しているとはいえないから、同被告の契約に基づく使用料の請求は理由がない。 11 争点(9)(原告は、被告イーウェーヴに対し、保守契約に基づく保守料の支払義務を負うか)について 前記1で認定した事実によれば、被告イーウェーヴと原告は、平成9年12月13日の打合せにおいて、本件ソフトウエア及びFCADの保守契約を締結することについて基本的に合意したが、具体的な時期、金額等の詳細は後で検討することとしたこと、被告イーウェーヴは、同月14日、保守料金を1か月50万円とする旨提案し、上記提案に従った保守料を請求したが、原告は、上記請求に従った保守料の支払をせず、その後、原告と同被告の間で保守契約の詳細について打合せがされたことはないことが認められる。これによれば、同被告と原告との間では、保守契約を締結することについての合意はあったが、契約の開始時期、保守業務の内容や保守料の金額については、同被告が一方的に書面を送付したのみで両当事者間で合意が成立していたとは認められないから、未だに保守業務に関する請負契約が成立したとはいえない。よって、同被告の保守契約に基づく請求は失当である。 なお、証拠(乙72、乙73の1〜7)によれば、同被告は、平成9年12月以降、本件ソフトウエアの障害対応等の作業を行ったことが認められるが、これらの障害対応は本件ソフトウエアの瑕疵の修捕に当たるものを含む可能性があり、すべてを保守作業とみることは疑問である上、同被告がこれらの作業に実際に従事した時間及び工数は本件全証拠によっても不明であるから、相当額の報酬(商法512条)を認めることもできない。 12 上記7ないし11を総合すると、被告イーウェーヴの反訴請求は、本件開発委託契約に基づく開発費残代金400万円、特約に基づくライセンス料616万5000円及び、仕様変更に基づく追加開発費用836万8750円の合計である1853万3750円及びこれに対する平成11年12月15日(反訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。 13 以上によれば、原告の本訴請求及び被告イーウェーヴの反訴請求は、それぞれ主文掲記の限度で理由がある。 大阪地方裁判所第21民事部 裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 阿多麻子 裁判官 前田郁勝 プログラム登録目録 被告株式会社イーウェーヴ(登録当時の商号は「株式会社フライト」)が財団法人ソフトウエア情報センターに登録した下記プログラム登録 1 登録年月日 平成10年1月28日 2 著作物の題号 スーパー土木作図システム 3 著作物の最初の公表の際に表示された著作者名 株式会社フライト 4 著作物が最初に公表された年月日 平成9年8月4日 5 著作物が最初に発行された国の国名 6 著作物の種類及び内容 @ 著作物の種類 プログラムの著作物 A プログラムの分類 建設業 B 著作物の内容 「スーパー土木作図システム」は、Windows95とWindowsNT3.51に対応する土木業界用CADアプリケーションプログラムである。 本システムは、従来のわずらわしい図面作成業務や数量計算業務が数値入力で簡単にできる自動作図、自動計算機能を搭載し、構造物、展開図、ヘロンの自動作図、数量計算書の自動作成ができ、充実した「作図機能」、「編集機能」、「寸法機能」、「計測機能」、「DXFファイル出入力機能」などを有している。また、使いやすさを徹底的に追求し、わかりやすい操作性と充実した内容は、ビギナーからエキスパートまで、さまざまなニーズに応じている。 なお、本システムを開発するにあたって使用した言語は、Microsoft Visual C++である。 以上 |
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