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【事件名】家電商品の比較広告事件(2) 【年月日】平成14年7月15日 名古屋高裁金沢支部 平成13年(ネ)第46号 不正競争防止法に基づく損害賠償請求控訴事件 (原審・福井地裁) 主文 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は、控訴人有限会社百満ボルト福井南に対し、金100万円及びこれに対する平成11年6月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被控訴人は、控訴人有限会社百満ボルト小松に対し、金100万円及びこれに対する平成11年6月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。 5 訴訟費用は第1、2審を通じこれを20分し、その1を被控訴人の負担とし、その余は控訴人らの負担とする。 6 この判決は、第2項及び第3項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人ら (1) 原判決を取り消す。 (2) 被控訴人は、控訴人有限会社百満ボルト福井南に対し、金2000万円及びこれに対する平成11年6月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3) 被控訴人は、控訴人有限会社百満ボルト小松に対し、金2000万円及びこれに対する平成11年6月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (4) 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。 (5) 第(2)、第(3)項につき仮執行宣言 2 被控訴人 (1) 本件控訴をいずれも棄却する。 (2) 控訴費用は控訴人らの負担とする。 第2 事案の概要 1 本件の事案の概要は、次のとおりである。 (1) 控訴人有限会社百満ボルト福井南は福井市内で「百満ボルト福井南店」の名称で、また、控訴人有限会社百満ボルト小松は石川県小松市内で「百満ボルト小松店」の名称で、それぞれ家庭用電化製品の販売等を業とする会社であり、いずれも株式会社サンキュー高島屋及び株式会社百満ボルトを中心とする3Qグループの系列会社である(以下、「百満ボルト福井南店」を「控訴人福井南店」、「百満ボルト小松店」を「控訴人小松店」という。)。他方、被控訴人は、電化製品の販売等を目的とする会社であり、家電量販店を全国的に展開し、福井市内で「ヤマダ電機江守中町店」、小松市内で「ヤマダ電機小松店」の各名称の家電量販店を経営している。 (2) 本件は、被控訴人が上記福井市内と小松市内の両店舗において、控訴人らの販売する商品の店頭価格と被控訴人の販売する同一商品の店頭価格とを比較表示し、被控訴人の販売価格の方が廉価である旨の広告(比較広告)をしたことについて、控訴人らが被控訴人に対し、上記比較広告で表示された控訴人らの商品の店頭価格は虚偽であり、これは不正競争防止法(平成11年法律第33号による改正前のもの)2条1項11号の不正競争(競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為)に該当すると主張して、同法4条に基づき、それぞれ2000万円の損害賠償とこれに対する訴状送達の日の翌日である平成11年6月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 2 原審は、被控訴人が虚偽の店頭価格を表示していたとは認められないとして、控訴人らの請求をいずれも棄却した。そこで、これを不服とする控訴人ら(原審原告ら)が本件控訴に及んだ。なお、控訴人らは、当審において、被控訴人の上記比較広告は民法上の不法行為を構成すると主張し、これを予備的請求原因として追加した。 3 本件の前提となる事実、争点及び争点に関する当事者双方の主張は、次項において、当審における当事者双方の新たな主張を付加するほかは、原判決「第二 事実及び理由」の二、三に記載のとおりであるから、これを引用する。 4 当審における新たな主張 (1) 控訴人ら ア 公正取引委員会が比較広告について昭和62年4月21日に発表した「比較広告に関する景品表示法上の考え方」と題する解釈指針(ガイドライン)によれば、比較広告が妥当と認められるためには、@ 内容が客観的に実証されていること、A 引用されている数値や事実が正確かつ適正であること、B 比較の方法が公正であること、の3要件を充足することが必要であるとされている。 イ これに対し、被控訴人がした比較広告は、「100満ボルトさん○○円を、ヤマダは更に安くして○○円」とか、「100満ボルトさんの○○円を、さらに安くして○○円」などと表示して、特定の競争者である控訴人らを名指したうえ、その商品の価格が高いことを強調して、顧客を勧誘している。これでは、仮にそれらの表示価格が正しいものであったとしても、被控訴人の店頭を訪れる一般客が控訴人らの商品価格は高いという悪印象(イメージダウン)を抱くのは必至である。そして、このような悪印象(イメージダウン)によって、控訴人ら各店の売上高に影響が及ぶことも明らかである。 また、被控訴人は、一応、控訴人らの商品価格の調査日時を表示しているが、その表示は、極めて小さな字で、店頭を訪れる一般客には目に入りにくい大きさである。一般の客は、このような小さな字の調査日時をいちいち確かめて商品購入の判断をするとは考えられないから、一般客がこの比較広告によって受ける印象は、単にヤマダ電機に比べると百満ボルトの商品は高いというものになってしまう。しかも、控訴人らの商品の店頭価格は頻繁に値下げされるものであるから、値下げされれば、その時点で、比較表示は意味を失い、一般客に非常な誤解を与えることとなる。 ウ 以上のように、被控訴人の行った比較広告は、公正取引委員会の前記ガイドラインの要件を満たさない不公正、不適切なものであって、違法なものであり、不法行為を構成する。 被控訴人の上記のような違法な比較広告によって、控訴人らは、営業上の信用を毀損され、売上高の減少に止まらず、顧客らへの悪印象(イメージダウン)という無形の被害も被っている。したがって、仮に不正競争防止法に基づく請求が認められないとしても、被控訴人は、控訴人らに対して、営業上の信用毀損による有形・無形の損害を賠償すべき責任がある。 (2) 被控訴人 ア いわゆる比較広告は、一般消費者が商品を選択するにあたって、同種の商品の品質や取引条件などを適切に比較しうるための具体的情報を提供するものであり、消費者にとって有益であるから、比較広告それ自体が違法性を帯びるというものではない。 イ 家電量販店においては、競合他店の価格調査を踏まえて頻繁に店頭価格が変更されるから、被控訴人による競合他店の価格調査後、競合店の店頭価格が変更される可能性が常に存在している。そこで、顧客の誤認を避ける趣旨で、被控訴人は、その運営する各店舗において競合他店の商品の店頭価格を表示する際には、価格調査の日時を必ず明示している。 このような被控訴人の比較表示の方法は、適正妥当なものであり、公正取引委員会の昭和62年4月21日付け「比較広告に関する景品表示法上の考え方」と題する解釈指針(ガイドライン)によっても、何ら問題はない。 ウ したがって、被控訴人の比較価格表示の方法それ自体が、民法上の不法行為を構成する違法なものであるという控訴人らの主張は失当である。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(被控訴人が、控訴人らの商品の販売価格につき、虚偽の表示をしたか否か)について (1) 以下の事実は、当事者間に争いがない(引用した原判決の前提事実及び弁論の全趣旨)。 ア 被控訴人は、平成11年4月23日当時、被控訴人の江守中町店において、 (あ) 商品@(シャープカラーTV32CFZ20)について、「100満ボルト」の店頭価格(調査日4月23日2時)を「163,480円」、ポイント差引き価格を「155,306円」と、 (い) 商品A(シャープカラーTV32CFB10)について、同店頭価格(調査日4月23日2時)を「134,970円」、ポイント差引き価格を「128,222円」と、 (う) 商品B(東芝カラーTV28Z3S)について、同店頭価格(調査日4月17日12時)を「95,780円」、ポイント差引き価格を「90,991円」と、 (え) 商品C(東芝カラーTV28Z1D)について、同店頭価格(調査日4月23日2時)を「101,730円」、ポイント差引き価格を「96,644円」と、 (お) 商品D(シャープカラーTV29CBL600)について、同店頭価格(調査日4月23日2時)を「58,370円」、ポイント差引き価格を「55,452円」と、 それぞれ表示し、 イ また、被控訴人の小松店において、 (か) 商品E(ソニーステレオDHC−MD919)について、「100満ボルト」の店頭価格(調査日不明)を「131,450円」(ただし、同数字は斜線により抹消)と、 (き) 商品F(日立ビデオ7B−BF300)について、同店頭価格(調査日4月16日12時)を「30,870円」と、 それぞれ表示し、いずれの各店においても、被控訴人の販売する同一商品の価格の方が安い旨の広告(比較広告)をしていた。 (2) そこで、被控訴人がした上記商品に関する百満ボルトの店頭価格の表示が虚偽であるという控訴人らの主張について、判断する。 ア まず、控訴人らは、被控訴人の江守中町店が比較表示した商品@及び商品Bについては、当時控訴人福井南店では販売されていなかった旨主張する。 (ア) これに対し、被控訴人は、上記両商品の価格は、控訴人福井南店ではなく、同じグループ会社の百満ボルト福井本店の店頭価格であると主張する。なお、控訴人らは、被控訴人が表示した上記価格(前記(1)アの(あ)、(う)の価格)それ自体に誤りがあると主張しているものではなく、乙1号証の1ないし4、甲13号証からも、上記両商品の百満ボルト福井本店の平成11年4月17日ないし同月23日ころの店頭価格は、被控訴人が表示した上記価格のとおりであることが認められる。 (イ) 控訴人らは、百満ボルト福井本店の商品の価格を、単に「百満ボルト」の商品の価格として被控訴人の江守中町店の店頭で表示することは、顧客に対して、その表示が江守中町店と競争関係にある控訴人福井南店の商品に関するものであると誤解させると主張する。 なるほど、甲5号証の3、原審証人Aの証言及び弁論の全趣旨によれば、控訴人福井南店と被控訴人の江守中町店とは近接した位置関係にあるのに対し、被控訴人の江守中町店と百満ボルト福井本店は、同じ福井市内にあるものの、車で30分程度の距離にあることが認められる。しかしながら、所謂「家電量販店」と呼ばれる控訴人らや被控訴人の店舗は、いずれも自動車による来店客を販売の主たる対象者としていることは公知の事実であり、このことからすると、百満ボルト福井本店は、上記の距離関係にかかわらず、控訴人福井南店や被控訴人の江守中町店と同じ商圏に属すると推認される。しかも、控訴人福井南店と百満ボルト福井本店とは、「百満ボルト」という店名を共にし、甲7号証及び弁論の全趣旨によれば、同じ3Qグループの系列会社として、全国で共通のチラシによる宣伝を行っていることが認められるのであるから、一般の顧客は、両店は同一の企業体の経営する店舗であると認識しているとみるのが相当である。そうすると、被控訴人の江守中町店の店頭において、「100満ボルト」という表示がされたからといって、それを見た一般客が同店に近接する控訴人福井南店だけを意識するとは、通常考え難いことである。そして、乙19号証によれば、被控訴人の江守中町店では、比較広告をするについては、控訴人福井南店と百満ボルト福井本店の両方を調査し、1店だけで販売されている商品についてはその店頭価格を、両方の店で販売されている商品については安い店頭価格を、「百満ボルト」の販売価格として表示していたことが認められるから、被控訴人の江守中町店が、控訴人福井南店では販売していないものの、百満ボルト福井本店で販売されていた上記両商品につき、その販売価格を単に「百満ボルト」の店頭価格として表示しても、そのことをもって控訴人福井南店に対する関係で、虚偽の価格の表示をしたと認めることはできない。 (ウ) したがって、この点に関する控訴人らの主張は、採用することができない。 イ 次に、控訴人福井南店における商品A、C、Dの平成11年4月23日ころ当時の店頭価格並びに控訴人小松店における商品E、Fの平成11年4月16日又は23日ころ当時の店頭価格に関し、被控訴人が比較広告で表示した上記価格が正確なものであったか否かについて検討する。 (ア) 乙19号証及び原審証人Aの証言によれば、被控訴人においては、頻繁に競合他店の価格調査を実施しており、平成11年4月当時、被控訴人の江守中町店に勤務していたAは、同月23日にも、被控訴人福井南店と百満ボルト福井本店の商品について、価格調査を行ったこと、Aは、同日正午ころ、一人で控訴人福井南店に行き、15分から20分位の時間をかけて調査し、その後、車で百満ボルト福井本店に行って、1時間くらい価格調査をしたこと、その調査の方法は、調査先の店員に気付かれないように、小型のテープレコーダーに確認した商品の機種と価格を密かに読み上げて録音するというものであったこと、被控訴人の江守中町店の従業員は、その日のうちにこの録音テープに基づき、録音された商品価格を百満ボルトの店頭価格として、江守中町店のプライスボードに表示したこと、そして、被控訴人の江守中町店が本件の比較広告で表示した商品@、A、C、Dの価格は、このときの調査に基づくものであることが認められる。なお、商品Bの価格は、その表示された調査日時から、同月17日の調査に基づくものと認められる。 また、乙18号証及び原審証人Bの証言によれば、被控訴人の小松店でも、同様に競合他店の価格調査を行っていたが、平成11年4月16日正午ころ、被控訴人の小松店のBは、控訴人小松店に行き、価格調査を実施したこと、調査は、40分から50分をかけて、60から70品目の商品について行ったこと、調査の方法は、前記江守中町店のものと同様であり、小型のテープレコーダーが使用されたこと、本件の被控訴人の小松店が本件の比較広告で表示した商品EとFの価格は、このときの調査に基づくものであることが認められる。 (イ) これに対し、甲1号証の1ないし5、2号証の1ないし3、3号証の1、2、4号証の1、2、7号証、乙4号証、原審及び当審証人Cの証言によれば、控訴人らの会社でも、被控訴人の販売商品の価格調査をしていたが、被控訴人が行っている比較広告には、控訴人らの販売する商品価格の表示に誤りがあることに気付いていたこと、そして、被控訴人が平成11年4月に株式会社サンキュー高島屋外3名を被告として前橋地方裁判所に対し、同社の系列販売会社(控訴人両社を含む。)が虚偽の宣伝を行ったとして、不正競争防止法に基づく損害賠償請求訴訟を提起したことから、株式会社サンキュー高島屋とともに3Qグループを構成する株式会社百満ボルトは、これに対抗するため、被控訴人の虚偽の比較広告を理由に損害賠償請求訴訟を提起することにしたこと、そこで、証拠を入手するため、株式会社百満ボルトの常務取締役であるCは、平成11年4月23日午後7時ころ、2名の従業員と共に被控訴人の江守中町店に出掛けて調査を行ったこと、店内では、多種類の商品について百満ボルトの価格との比較広告がなされていたが、Cは、自分が仕入れを担当しているテレビ、ビデオなどの中から、明らかに価格が違っている商品A、C、Dや、控訴人福井南店では販売していない商品@、Bなどをそのプライスボードの部分とともに写真に撮影し、直ぐに控訴人福井南店に戻って、同店の上記各商品(商品A、C、D)の店頭価格を表示しているプライスボードを当該商品と共に、今度はフラッシュ付きの写真機で撮影したこと、このことの報告を受けた株式会社百満ボルトのD社長は、控訴人小松店の店長に、同様の証拠写真を撮るように指示したこと、この指示に基づき、控訴人小松店の従業員は、被控訴人の小松店と控訴人小松店において、商品EとFをそのプライスボードの部分を含めてカメラで撮影したことが認められる。 (ウ) そして、Cが撮影した写真(甲2号証の1ないし3)によれば、平成11年4月23日における控訴人福井南店の各商品の店頭価格は、 (あ) 商品Aが129,470円 (い) 商品Cが91,730円 (う) 商品Dが57,870円 また、控訴人小松店の従業員の撮影した写真(甲4号証の1、2)によれば、同日の控訴人小松店の各商品の店頭価格は、 (え) 商品Eが124,950円 (お) 商品Fが29,870円 であったことが認められる。 これに対し、被控訴人が「100満ボルト」の店頭価格として表示していたのは、江守中町店では、商品Aが134,970円、商品Cが101,730円、商品Dが58,370円であり、小松店では、商品Eが131,450円(なお、同価格は斜線により抹消されているが、抹消するまで、この価格が表示されていたことには変わりがない。)、商品Fが30,870円であったことは、前記認定のとおりである。 以上によれば、被控訴人が比較広告において百満ボルトの上記各商品の店頭価格として表示した価格は、いずれも競合店である控訴人らの各店舗の店頭価格よりも高額であることが明らかである。 (エ) これに対し、被控訴人は、控訴人ら各店舗のプライスボードを撮影した上記各写真(甲2号証の1ないし3、甲4号証の1、2)は、価格を書き替えて撮影した疑いがあると主張して、原審証人Cが控訴人福井南店で撮影したフラッシュ付きカメラにつき偽証をしていること、甲2号証の3(商品Dを撮影したもの)に写っているテレビ画像は、控訴人福井南店で受信可能なテレビ局が平成11年4月23日午後7時ころには放映していないものであることを指摘する。 なるほど、証人Cは、原審における証人尋問において、控訴人福井南店で撮影に用いたカメラはオートデート機能付きの使い捨てカメラであったと証言しているが、乙20号証によれば、当時は未だオートデート機能付きの使い捨てカメラは販売されていなかったことが認められるから、証人Cの上記証言は誤りであると認められる。しかし、これをもって、C証人が偽証をしたと認めるのは相当でない。けだし、控訴人福井南店での撮影に供されたカメラがどのようなものであったのかは、撮影された写真の信用性に何らの影響を与えるものではなく、この点に関して、C証人が殊更に偽証しなければならない理由があるとは認められないからである。したがって、当審において、C証人が証言したように、上記の点は同証人の単なる記憶違いであったと認めるのが相当である。 また、写真に写っているテレビ画像が平成11年4月23日午後7時ころには放映されていないという点についても、確かに、乙21号証の1ないし4、22号証によれば、福井市内で受信可能な5社のテレビ局に対する調査嘱託の結果では、商品Dを撮影した写真(甲2号証の3)に写っているテレビ映像が、同時間帯の自社の番組映像であることを否定するテレビ局が4社、そうであるか識別できないとするテレビ局が1社あることが認められる。しかし、識別不能とするテレビ局が1社存在することに加え、甲18ないし20号証によれば、当時、控訴人福井南店に展示されていたテレビは100以上のチャンネルを有するスカイパーフェクトTVやディレクTVに接続することが可能で、商品Dに映っている映像はこれらTVの番組である可能性を否定することができないことが認められる。そうすると、上記テレビ局に対する調査嘱託の結果から、直ちに甲2号証の3が平成11年4月23日午後7時ころに撮影された写真ではないと認めることはできない。 (オ) 以上のように、被控訴人が指摘する点は、Cが撮影した控訴人福井南店の写真の信用性を否定するに足りる事実とまではいえず、したがって、当該写真が書き替えられたプライスボードを撮影したものであるとは認めることはできない。むしろ、控訴人らが当審において提出した株式会社百満ボルトの平成11年5月2日付けのテレビの定番表(甲13号証、15号証、17号証)並びに広告用のチラシ(甲14号証、16号証、22号証の1、2、23号証の1、2、25号証、26号証、27号証の1、2、28号証の1、2)などに照らせば、控訴人らの各店舗における上記各商品の平成11年4月当時の店頭価格は、甲2号証の1ないし3と甲4号証の1、2に写されたとおりの価格であったと認めるのが相当である。 (カ) そうすると、被控訴人がした比較広告における表示価格には誤りがあったことになるが、それが生じた原因について考えると、前記認定のとおり、被控訴人のした価格調査の方法は、控訴人らの店舗の従業員に気付かれないようにしながら、多数の商品の機種と価格を見て、これを密かにテープレコーダーに吹き込むというのであるから、そこに見誤りや読み誤りが生じたとしても、決して不思議ではない。そして、原審証人Cの証言及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人の比較広告における表示価格の大部分は正確なものであったことが窺われるから、本件のような誤りは、故意ではなく、過失によるものと認められる。 (3) 以上によれば、少なくとも商品A、CないしFについては、被控訴人がした比較広告の表示価格に誤りがあると認められるところ、これは、不正競争防止法(平成11年法律第33号による改正前のもの)2条1項11号の不正競争(競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為)に該当するというべきであるから、被控訴人は、同法4条に基づいて、この不正競争によって控訴人らに生じた損害を賠償する責任がある。 2 争点2(控訴人らの損害の有無ないし額)について (1) 控訴人らは、平成9年度から平成10年度にかけて、被控訴人の江守中町店、同小松店の売上高はそれぞれ約1億円、1億7000万円増加しており、上記各店の利益率が控訴人らと同じ約14パーセントであると仮定すると、年間でそれぞれ約1400万円、約2400万円の利益の増加があったことになるので、不正競争防止法5条1項により、これらが控訴人らの受けた損害の額と推定されると主張する。 しかしながら、原審証人Aの証言によれば、被控訴人の江守中町店で比較広告の対象としている商品は、同証人が担当しているものだけでも120から130品目にのぼり、他の者も数十品目を担当していること、また、原審証人Bの証言によれば、被控訴人の小松店での比較広告対象商品は、同証人が担当するものだけで60から70品目にのぼり、その他に数十品目を他の者が担当していることが認められ、前記のとおり、その大部分は正確な価格表示であったと認められるのであるから、被控訴人の江守中町店と小松店の利益の増加の全てが不正競争行為(虚偽の比較広告)によってもたらされたということはできない。したがって、不当競争防止法5条の規定に基づき、被控訴人の江守中町店と小松店の利益の増加の全てが損害と推定されるという控訴人らの主張は失当である。 (2) 次に、控訴人らは、@ 控訴人福井南店、同小松店の平成9年、10年当時の売上高はいずれも20億円余りであるところ、被控訴人の不正競争行為(虚偽の比較広告)によりその10パーセント程度に影響があったとみるべきであるから、利益率の約14パーセントを乗じると、控訴人らはいずれも約2800万円の損害を受けている、或いは、A 被控訴人の不正競争行為(虚偽の比較広告)により控訴人ら各店のイメージダウンが引き起こされ、商品の売れ残りが多くなり、これを安く処分せざるを得なくなって、利益率が約2パーセントは減少しているので、これを上記売上高に乗じると、いずれも年間約4000万円の損害を被ったことになる、などと主張する。 しかし、上記主張の事実は、甲7号証によっても認めるに足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。したがって、控訴人らの上記主張は、採用することができない。 (3) 更に、控訴人らは、仮に営業利益の減少による損害の立証が不十分であったとしても、被控訴人の不正競争行為(虚偽の比較広告)によって、控訴人らが営業上の信用を毀損され、損害を被っていることは明らかであり、その損害の額は、控訴人らそれぞれにつき2800万円程度であると主張する。 確かに、家電製品販売について競争関係にある量販店の一方が他方の店の商品の店頭価格につき虚偽の比較広告をすれば、当該他店の営業上の信用が毀損され、その売上高にも影響が及ぶであろうことは、容易に推測できることである。しかし、その具体的損害額の算定は、極めて困難であり、本件においても、それが立証されているということはできない。したがって、本件においては、民事訴訟法248条の規定により、裁判所が、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定すべきである。 そこで、これについて判断する。原審における主張によれば、控訴人らの主張する損害の範囲と原因事実は、本件の虚偽の比較広告の対象となった商品やその広告時期に限定されるものではないが、損害の期間は1年間に限定するというものである。もっとも、その期間が何時から何時までの1年間なのかについての具体的主張はないが、その主張の趣旨からすると、本件訴えが提起された平成11年5月26日までの1年間を主張しているものと解される。そして、甲7号証によれば、被控訴人の比較広告は、平成11年の5年前ころから行われていたことが認められるところ、これまで認定した事実によれば、比較広告において誤った価格が表示された商品が本件の商品A、CないしFに限らないであろうことは、推測するに難くないところである。しかしながら、被控訴人がした比較広告の商品表示価格の大部分が正確なものであったことも、既に認定したところである。したがって、かかる事情並びに控訴人らがいずれも年商20億円程度の企業であること(甲7号証)、その他弁論の全趣旨や証拠調べの結果によって認められる一切の事情を斟酌すれば、控訴人らの平成11年5月26日に至るまでの1年間の損害の額は、それぞれにつき100万円と認めるのが相当である。 (4) 以上の次第であるから、控訴人らの本訴請求は、被控訴人に対し、不正競争防止法4条に基づいて、それぞれ100万円の損害賠償とこれに対する訴状送達の日の翌日である平成11年6月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。 3 よって、これと結論を異にする原判決を取り消すことして、主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所金沢支部第1部 裁判長裁判官 川崎和夫 裁判官 榊原信次 裁判官 渡邉和義 |
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