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【事件名】かえでの木の著作物性事件 【年月日】平成14年7月3日 東京地裁 平成14年(ワ)第1157号 出版差止等請求事件 (口頭弁論終結日 平成14年5月15日) 判決 原告 A 訴訟代理人弁護士 武田博孝 同 長島亘 被告 株式会社ポプラ社 被告 B 被告ら訴訟代理人弁護士 蜂須優二 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告株式会社ポプラ社は、別紙書籍目録記載の書籍の印刷、製本、販売又は頒布をしてはならない。 2 被告株式会社ポプラ社は、既に販売又は頒布した別紙書籍目録記載の書籍を回収せよ。 3 被告らは、原告に対して、連帯して金330万円及び内金300万円に対する平成14年2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、かえでの木を所有する原告が、同かえでの木の写真を掲載した書籍を出版、販売等した被告株式会社ポプラ社(以下「被告ポプラ社」という。)に対して、かえでの木の所有権に基づき上記書籍の出版等の差止めを、被告ポプラ社及び上記書籍に掲載された写真を撮影した被告Bに対して、かえでの木の所有権侵害による不法行為に基づき損害賠償金の支払を求めた事案である。 1 争いのない事実等(証拠により認定した事実は当該証拠番号を末尾に摘示した。) (1) 原告は、長野県北安曇郡池田町14458番1の土地(以下「本件土地」という。)上に、高さ約15メートルの巨大なかえでの木(以下「本件かえで」という。)を所有している。 (2) 被告ポプラ社は、図書及び雑誌等の出版等を業とする株式会社であり、被告Bは、フリーカメラマンである。 (3) 平成7、8年ころに本件かえでの美しさが新聞で報道されたため、本件かえでを観賞するために多数の観光客が訪れるようになった。 (4) 原告は、平成12年7月ころ、個人が楽しむ目的以外で、本件かえでを撮影すること及び撮影した映像を使用することについては、原告の許可が必要である旨の看板(以下「本件看板」という。)を設置した(甲4)。 (5) 被告Bは本件かえでを多数回にわたり撮影し、被告ポプラ社は、平成13年11月、同写真を掲載した別紙書籍目録記載の書籍(以下「本件書籍」という。)を出版した。なお、本件書籍に掲載された本件かえでの写真の例として、別紙「本件かえでの写真」がある。 2 争点 (1) 原告は、被告らに対して、本件かえでの所有権に基づいて、本件書籍の出版等の差止め及び本件書籍の回収を請求することができるか。 原告は、本件かえでの所有権侵害の不法行為に基づいて、被告Bが本件かえでの写真を撮影し、被告らが本件書籍を出版したことについて損害賠償を請求することができるか。 (2) 損害額はいくらか。 3 当事者の主張 (1) 争点(1)について (原告の主張) ア 本件かえでの管理、保全に至った経緯及び管理の状況 (ア) 原告は、昭和43年9月ころ、Cと共同で、本件土地を含む長野県池田町内の土地の所有権を取得し、同所有権をCと共有していたが、昭和59年6月20日に上記土地についてのCの共有持分の譲渡を受けた。 原告は、本件土地を取得する前の現地調査の際、又は、本件土地の所有権を取得した後、本件土地を牧場とするために、雑木を伐採、撤去するなどして整地した際、本件かえでを発見し、本件かえでの美しさに感動し、枯れ枝の剪定及び除去などをして、本件かえでを管理、保全することにし、以来、30年以上にわたり本件かえでの管理、保全に努めてきた。 (イ) 本件かえでは、美しく生育し、平成の初めころには、隠れた観光名所として知られるようになった。 その後、平成7、8年ころに、本件かえでが新聞で報道されたため、以後、観光客が多数訪れるようになった。 (ウ) このように、本件かえでが有名になり、多くの観光客が見学するようになったことにより、本件かえでの根の部分の土が踏み固められたり、本件かえでの枝が折られたりした。 特に、カメラマンは、美しい映像を撮影しようとして、長期間にわたり、本件かえでに悪影響を与える行為を行うことが多かった。 (エ) そのため、原告は、本件かえでを管理、保全する必要性を痛感し、平成12年4月、個人で楽しむ以外の営利目的での本件かえでの撮影やその映像の使用については原告の許可を受けること、及び許可を受ける場合には、本件かえでの保全のための金銭的援助をするよう求めることを決めた。そして、原告は、本件かえでの撮影等の許可等に関する事務をDにゆだねた。 また、原告は、平成12年7月ころ、本件かえでの撮影等には、許可を得ることが必要である旨を表示した看板(本件看板)を設置した。 なお、本件看板設置後、NHK、朝日新聞社、毎日新聞社等の多くの撮影者が原告から本件かえでの撮影の許可を得ている。 (オ) 平成13年11月に行われた樹医の診断によると、本件かえでは、現在のような根本周辺が踏み固められる状態が続けば、あと2ないし3年で致命的な損傷を被るとのことである。このように、本件かえでは、危機的な状態にあり、その保全のための処置が急務である。 なお、原告は、本件かえでの保全のために、平成13年だけでも、牧草地の草刈り、クローバー等の植え付け、枝打ちによる樹形整備、霜及び雪対策、有機肥料作成及び施行、観光シーズンの人員整理並びに駐車場の増設及び整備等を行った。 イ 被告Bとの交渉の経緯 被告Bは、平成12年11月ころ、Dに対し、電話で、「本件かえでの看板を見た。本件かえでの写真集を被告ポプラ社から出版する計画がある。原告の承諾は7年ほど前に得ている。」旨の連絡をしてきた。しかし、原告は上記の承諾をしたことはないことから、Dを通じて、被告Bに対し、出版が決まった段階で許可願いを提出するよう求めた。 原告はDを通じて、平成13年4月、被告Bに対し、映像の使用許可願書を送付してその提出を求めたが、被告Bはこれを拒否した。 原告はDを通じて、同年5月、被告ポプラ社に対して、電話で上記の経緯を伝え、映像の使用に関する許可願いを提出するよう申し入れた。 原告はDを通じて、同月22日、被告ポプラ社に対し、本件かえでを撮影した映像を個人が個人で楽しむ以外の営利的な目的で使用する場合は金銭的援助を求めており、被告ポプラ社も映像使用許可願いを提出してほしい旨記載した書面を送付した。しかし、被告ポプラ社は、原告の上記要請を拒絶した。 さらに、その後も、原告はDを通じて、被告ポプラ社に対し、同年7月18日、同年10月24日、同年12月25日と3度にわたり、被告ポプラ社の誠意ある対応を要請してきたが、被告ポプラ社は、これらすべてに対して拒絶する姿勢を続けた。 ウ 所有権に基づく差止請求権、所有権侵害による不法行為成立の根拠 (ア) 被告Bは、少なくとも、1年を通じて本件かえでを原告に無断で多数回に及び撮影してきた。 そして、被告Bは、原告の許可なく、本件かえでを撮影し、被告ポプラ社は、平成13年11月、原告の許可なく、本件かえでの写真が掲載された本件書籍を出版した。 本件書籍には、本件かえでの根本付近で走り回る子供達の写真が掲載されており、このような写真は、本件かえでの保全面で、有害かつ悪影響を与える。 (イ) 本件かえでのように、独特の美しさ、魅力があり、その管理、生育にもそれなりの工夫と人知れぬ苦労があり、長年の努力の積み重ねの結果育てられたものについては、そのものの所有者が、これを撮影し、写真集等として出版する行為を、専有できるというべきである(高知地裁昭和59年10月29日判決・判例タイムズ559号291頁、東京地裁昭和52年3月17日判決・判例時報868号64頁、神戸地裁平成3年11月28日判決・判例時報1412号136頁)。 この点、被告らは、最高裁昭和59年1月20日判決を被告らの主張の根拠として引用する。 しかし、上記最高裁判決は、所有者の許諾を受けて直接撮影により作成された写真乾板を第三者から譲り受け、これを所有者の承諾を得ることなく使用して複製した行為が、所有権侵害に当たるか否かが問題となった事案において、目的物の所有権を侵害することなく適法に作成された著作物については、目的物の所有権に基づいて著作物自体を直接排他的に支配することはできないという法理を示したものである。すなわち、上記最高裁判決は、複製行為の基になった著作物自体が所有者の許諾を受けて適法に作成されたものであることが前提となっているのであり、このことは、同判決の「第三者が有体物としての美術の著作物の原作品に対する排他的支配権能をおかすことなく原作品の著作物の面を利用したとしても、右行為は、原作品の所有権を侵害するものではない」、「被上告人らの右行為は、被上告人らが適法に所有権を取得した写真乾板を用いるにすぎず、上告人の所有する自書告身帖を使用するなどして上告人の自書告身帖に対する排他的支配をおかすものではなく、上告人の自書告身帖に対して有する所有権を何ら侵害するものではない」との判示に示されている。 ところが、本件では、そもそも本件書籍の基になった本件かえでの写真自体が被告Bにおいて無断撮影され、原告の所有権を侵害する形で違法に作成されたものであり、その写真を複製・出版した被告ポプラ社も出版前にその点を知悉していたものである。作品が適法に作成されたものであるのか否かという点において、本件と上記最高裁判決の事案とは全く異なる。 (ウ) したがって、本件かえでを撮影し、その写真を掲載した書籍を出版する権利(独占権)は、本件かえでの所有者たる原告にあり、原告は、被告ポプラ社に対し、本件かえでの所有権に基づき、本件かえでの写真を掲載した本件書籍の出版等を差し止めることを請求できる。 また、本件かえでを撮影した被告Bの行為及び本件書籍を出版した被告ポプラ社の行為は、原告の本件かえでに対する所有権を侵害し、不法行為を構成するから、原告は、被告らに対して、不法行為に基づく損害賠償を請求できる。 (被告らの主張) ア 原告の主張は争う。 原告が本件かえでを発見したこと、原告が30年以上にわたり本件かえでの管理、保全に努めてきたことは否認する。 被告Bは、平成元年10月ころ、本件かえでを初めて見たときに感動を覚え、本件かえでの写真を長期間にわたって撮影し、写真集として出版しようと考えた。その後、まもなく、被告Bは、原告宅を訪れ、本件かえでの美しさを説明し、自己がプロのカメラマンであることを伝えた上で、本件かえでの撮影とそのための本件土地への立ち入り及び撮影した写真を掲載した書籍を出版することについて承諾を得た。 被告Bは、原告の承諾の下に、本件かえでの撮影を行い、まず、平成7年3月に、写真集「かえでのきのいちねん」(株式会社学習研究社出版)を刊行した。被告Bは、原告に対して、同写真集を数部持参したところ、原告は、同写真集の出版を喜んでいた。このことからも、被告Bが、本件かえでの撮影等について、原告の承諾を受けたことは明きらかである。 また、被告Bが本件書籍に掲載された写真を撮影したのは、原告が本件看板を設置した平成12年7月よりも前である。 イ 所有権の客体は有体物であるから、原告の本件かえでに対する所有権の内容は、その有体物としての排他的支配権能にとどまり、本件かえでを撮影した写真の複製、出版等を排他的に支配する権能を含まない(最高裁昭和59年1月20日判決・民集38巻1号1頁)。 また、差止請求権は、法律に明文規定がある場合にのみ認められるものである。 したがって、原告が被告らに対して、本件かえでの所有権に基づき、本件書籍の出版等の差止めをすることはできない。また、原告は、本件かえでの所有権侵害の不法行為に基づいて、被告Bが本件かえでの写真を撮影し、被告らが本件書籍を出版したことについて損害賠償を請求することもできない。 (2) 争点(2)について (原告の主張) ア 物的損害 原告は、本件かえでの撮影を許可する場合は、撮影協力金の支払を求めているところ、同撮影協力金は、撮影1回当たり3000円が相当である。そして、原告は、本件かえでを1年を通じて撮影したと考えられるため、365回は撮影したものと推測される。したがって、撮影協力金相当額は、109万5000円(3000円×365回)となる。 原告は、上記金額のうち、100万円の支払を求める。 イ 精神的損害 (ア) 原告は、本件かえでを30年以上にわたり丹精込めて育ててきたが、現在では本件かえでの保全は危機的状況にあり、この保全に心を砕いている。それにもかかわらず、被告らは、原告に無断で本件かえでを撮影し、これを出版したのであり、このことにより原告は精神的な苦痛を味わった。 (イ) 本件書籍の中には、本件かえでの根本付近で走り回る子供たちの写真が掲載されているが、同写真は、原告の本件かえでを保全しようとする努力を無にするものである。また、このような写真の公表により、本件かえでの保全に対する有害な事態が生じるおそれがあるから、この点においても、原告は精神的な損害を受けた。また、被告らが、原告に無許可で写真集を出版したことになると、原告が本件かえでの保全のために採用してきたルールが乱れ、この点においても、原告は精神的な損害を受けた。 (ウ) 以上の事情を考慮すると、本件書籍の出版により原告が被った精神的損害は、少なくとも200万円を下らない。 ウ 弁護士費用 原告は、本件訴訟の遂行を原告代理人に依頼し、その費用として30万円を支払うことを約した。 エ したがって、被告らの不法行為により原告が被った損害額は、330万円である。なお、原告は、上記精神的損害の300万円に対する訴状送達の日の翌日である平成14年2月1日から年5分の割合による遅延損害金の支払を請求する。 (被告らの主張) 争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)について (1) 事実認定 証拠(甲1ないし5、6の1及び2、7ないし13、15ないし18、20、乙1)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、これに反する証拠はない。 ア 原告は、本件かえで及び本件かえでが生育している本件土地を30年以上前から所有していた。本件かえでは高さが15メートルほどの大木であり、その美しさがマスコミで紹介されたこともあって、「大峰高原の大かえで」として有名になり、数多くの人々が本件かえでを見物に訪れ、自由に写真撮影をしてきた。原告は、本件かえでの管理をし、その保全に努めてきたが、その根本が踏み固められたりしたことにより、本件かえでが危機的な状況に陥っていることが分かり、その保全の必要性を痛切に感じた。 イ 原告は、平成12年4月ころ、本件かえでの保全のために、営利目的で本件かえでを撮影し、撮影した映像を使用することについては、原告の許可を得ること、許可を得て本件かえでを撮影等した者に対しては、金銭的援助を求めることを決めて、同年7月には、本件土地上に、「根を踏まない、枝を折らないなど樹を大切にして下さい。本件かえでに対する私有地での撮影及び映像使用の権利は所有者にあります。撮影した映像を個人が個人として楽しむ以外は撮影、使用許可を得て下さい。無断で公に使用することはできません。」と記載した看板(本件看板)を設置した。原告がこのような措置を採ったことにより、原告に対して、本件かえでの撮影とその映像の使用許可を求め、同許可を得た上で撮影等をした者もいた。 ウ 被告Bは、平成元年ころ、本件かえでを見て感動を覚え、それ以来、原告が本件看板を設置する以前、長期間にわたって、本件かえでの撮影を続け、平成7年3月には、写真集「かえでのきのいちねん」(株式会社学習研究社出版)を発表した。さらに、原告は、本件かえでを撮影した写真を掲載した本件書籍が被告ポプラ社により出版されることが決まったため、平成12年11月ころ、原告に本件書籍を出版することを連絡したところ、原告から、本件かえでの映像の使用許諾を得ることを要求されたが、被告らは、原告が要求した許可手続を経ることなく本件書籍を出版した。本件書籍は、本件かえでを被写体とした写真集であり、本件かえでをテーマにした被告Bの執筆した短い文章が、写真とともに掲載されている。 (2) 判断 ア 本件かえでの所有権に基づく本件書籍の出版差止めの可否 原告は、本件かえでを撮影した写真を複製したり、複製物を掲載した書籍を出版等する権利は、本件かえでの所有者たる原告のみが排他的に有すると主張して、被告らの本件書籍の出版行為等の差止めを求める。 しかし、所有権は有体物をその客体とする権利であるから、本件かえでに対する所有権の内容は、有体物としての本件かえでを排他的に支配する権能にとどまるのであって、本件かえでを撮影した写真を複製したり、複製物を掲載した書籍を出版したりする排他的権能を包含するものではない。そして、第三者が本件かえでを撮影した写真を複製したり、複製物を掲載した書籍を出版、販売したとしても、有体物としての本件かえでを排他的に支配する権能を侵害したということはできない。したがって、本件書籍を出版、販売等したことにより、原告の本件かえでに対する所有権が侵害されたということはできない。 したがって、原告の上記主張は、主張自体失当である。 イ 本件かえでの所有権侵害の不法行為の成否 (ア) 原告は、本件かえでを撮影し、その写真を掲載した本件書籍を出版、販売等したことにより本件かえでの所有権が侵害されたとして、不法行為に基づく損害賠償を求める。 しかし、前記アで判示したように、本件かえでを撮影し、その写真を掲載した本件書籍を出版、販売等したことにより、原告の本件かえでに対する所有権が侵害されたということはできない。また、本件全証拠によっても、被告Bが、本件かえでの枝を折るなど、本件かえでの所有権を侵害する行為を行ったと認めることはできない。したがって、原告の上記主張は理由がない。 (イ) 不法行為の成否について、付加して判断する。 本件において、被告らから原告に対し、本件損害賠償請求の根拠について求釈明がされ(答弁書第3、2項)、これに対して、原告は、本件かえでの所有権侵害に基づく請求である旨釈明し(原告第1準備書面第1、2項)、請求に係る原告の被侵害利益は、本件かえでの所有権であると明言している。しかし、原告の釈明にかかわらず、念のために、被告Bの撮影態様等が、本件かえでの所有権以外の法的利益を害すると評価されることにより、不法行為を構成するといえるか否かについても進んで検討する。 前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば、以下のとおりの事実が認められる。 a 本件かえでは高さが15メートルほどある大木であって、その美しさがマスコミで紹介されたこともあって、数多くの見物客が観賞するために、本件土地に自由に立ち入っていたこと、原告が本件看板を設置した平成12年7月ころ以前において、原告は、これらの立ち入りを問題としたことはなかったことに照らすならば、原告は、同時期以前は、本件かえでを観賞するために平穏な態様で本件土地へ立ち入ることを一般に容認していたものと認められる。 b その後、原告は、本件かえでの状態を憂慮し、その保全を図るため、営利目的での撮影について、条件を付けて認める方針を立て、同年7月に、本件土地上に、「根を踏まない、枝を折らないなど樹を大切にして下さい。本件かえでに対する私有地での撮影及び映像使用の権利は所有者にあります。撮影した映像を個人が個人として楽しむ以外は撮影、使用許可を得て下さい。無断で公に使用することはできません。」と記載した看板(本件看板)を設置した。このような看板の設置によって、同年7月ころ以降は、原告が、本件かえでの根を踏む等の本件かえでの生育に悪影響を及ぼす行為や、営利目的で本件土地に立ち入って本件かえでを撮影する行為について制限を設けたたことが、本件土地に赴いた者の間では周知されるようになった。しかし、本件看板を設置した後においても、観光客が、本件かえでを観賞したり、本件かえでを私的な目的で撮影したりすること、そのために本件土地に立ち入ることについては、何ら禁止をしていなかった。 c 被告Bが本件書籍に掲載した本件かえでの写真を撮影したのは、本件看板が設置されるより以前の時期である。本件全証拠によっても、被告Bが、本件看板の設置以降、本件土地に立ち入って本件かえでを撮影したことを認めることはできず、また、本件かえでの生育等に悪影響を及ぼす可能性のある行為をしたことも認めることはできない。 上記の経緯に照らすならば、第三者が、原告が本件看板を設置した以降に、本件かえでの生育に悪影響を及ぼすと考えて原告が明示的に禁止した行為を行うために本件土地に立ち入った場合には、原告の本件土地の所有権を侵害する不法行為を構成することは明らかであり、本件土地の所有権侵害行為と相当因果関係を有する範囲の損害を賠償すべきことになる。 しかし、上記のとおり、本件看板を設置した後に、被告Bが、そのような行為をしたことは認められないから、被告Bの原告に対する不法行為は成立しない。その他、本件全証拠によるも、原告の法的保護に値する何らかの利益を侵害したことも認められない。 (3) なお、付言する。 原告は、本件かえでの所有権に基づき上記の各行為を阻止できない限り、本件かえでを保全することができない旨述べる。しかし、原告が、本件土地上に所在する本件かえでの生育環境の悪化を憂慮して、本件かえでの生育等に悪影響を及ぼすような第三者の行為を阻止するためであれば、本件土地の所有権の作用により、本件かえでを保全する目的を達成することができる。既に述べたとおり、現に、原告は、本件土地への立ち入りに際しては、本件かえでの生育等に悪影響を及ぼす可能性のある行為をしてはならないこと、許可なく本件かえでを営利目的で撮影してはならないことを公示しているのであるから、第三者が上記の趣旨に反して本件土地へ立ち入る場合には、原告は当該立入り行為を排除することもできるし、上記第三者には不法行為も成立する。また、本件土地内に、美観を損ねないような柵を設けること等によって、より確実に上記目的を達成することもできるというべきである。 2 以上のとおりであり、原告の本訴請求はいずれも理由がない。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 榎戸道也 裁判官 佐野信 別紙 書籍目録 書名 シリーズ 自然 いのち ひとA わたしのもみじ 発行 平成13年11月 写真・文 B 編集 E 発行者 F 発行所 株式会ポプラ社 |
日本ユニ著作権センター http://jucc.sakura.ne.jp/ |