判例全文 line
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【事件名】歌謡コンサートの音楽著作権料不払い事件
【年月日】平成14年6月28日
 東京地裁 平成13年(ワ)第15881号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結の日 平成14年4月16日)

判決
原告 社団法人日本音楽著作権協会
訴訟代理人弁護士 小野森男
被告 有限会社ダイサンプロモーション
被告 有限会社オカモト
被告 A
被告 B
被告ら訴訟代理人弁護士 小高讓二


主文
1 被告有限会社ダイサンプロモーション及び被告有限会社オカモトは、別添平成13年度版全国公立文化施設名簿記載の施設をはじめとする日本国内の演奏会場において、別添楽曲リストに記載の音楽著作物を、歌謡ショー等の催物を開催し、歌手及びバンドにより演奏(歌唱を含む)させる方法により使用してはならない。
2 被告有限会社ダイサンプロモーションは、原告に対し、金1529万6364円を支払え。
3 被告有限会社ダイサンプロモーション及び被告Aは、連帯して、原告に対し、金676万5140円及び別紙演奏会目録(2)記載の各使用料額に対する同目録記載の各遅延損害金起算日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告有限会社オカモト及び被告Bは、連帯して、原告に対し、金1509万6900円及び別紙演奏会目録(4)記載の各使用料額に対する同目録記載の各遅延損害金起算日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
5 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は、これを10分し、その1を原告の、その余を被告らの負担とする。
7 この判決は、第1項ないし第4項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 主文第1項ないし第3項と同旨
2 被告有限会社オカモト、被告B及び被告Aは、連帯して、原告に対し、金1543万2900円及び別紙演奏会目録(3)記載の各使用料額に対する同目録記載の各遅延損害金起算日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。 
第2 争いのない事実等
1 争いのない事実
(1) 当事者
ア 原告及び原告の管理著作物について
 原告は、平成13年9月30日まで「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」(昭和14年法律第67号)に基づく許可を受けた我が国唯一の音楽著作権仲介団体であったが、平成13年10月1日からは、著作権等管理事業法(平成12年法律第131号)に基づき、文化庁長官の登録を受けた音楽著作権等管理事業者である。
 原告は、内外国の音楽著作物の著作権者から著作権ないしその支分権(演奏権、録音権、上映権等)の移転を受ける(内国著作物については、その著作権者との間の著作権信託契約による。外国著作物については、我が国の締結した著作権条約に加盟する諸外国の著作権仲介団体との間の相互管理契約による。)などしてこれを管理し、国内のラジオ・テレビの放送事業者をはじめ、レコード・映画・出版・興行・社交場・有線放送等各種の分野における音楽の使用者に対して音楽著作物の使用を許諾し、その対価として使用者から著作物使用料を徴収するとともに、これを内外の著作権者に分配することを主たる目的とする社団法人である。
 別添楽曲リスト記載の音楽著作物は、原告が各著作権者から著作権の信託的譲渡を受けて管理する音楽著作物(以下、「管理著作物」という。)の一部であるが、これらは社交場、カラオケ歌唱室あるいは演奏会において演奏(歌唱を含む。以下同じ。)される頻度が極めて高い使用実績を有する曲目に該当し、日常的に反復使用されている音楽著作物である。
イ 被告らについて
 被告有限会社ダイサンプロモーション(以下、「被告ダイサン」という。)は、昭和58年2月12日付けで音楽興行等を目的として設立された株式会社第三プロモーションを、平成8年3月16日付けで有限会社に組織変更して設立されたものである。同被告は、被告Aを代表取締役、被告Bらを取締役とする。
 被告有限会社オカモト(以下、「被告オカモト」という。)は、昭和60年11月9日付けで雑貨の販売、芸能人の招請等を目的として設立された有限会社おかもとを、平成8年3月1日付けで名称変更したものである。被告Aが代表取締役、被告Bらが取締役であったが、平成9年4月14日付けをもって、被告Aが取締役を辞任し、被告Bが代表取締役となった。被告オカモトは、ダイサンエージェンシーという名称で、音楽興業を行っている。
 被告Aと被告Bは、夫婦である。
2 事案の概要
 本件は、(1)被告ダイサンが、平成5年1月16日から平成7年12月2日までの間に、別紙演奏会目録(1)記載の演奏会(以下「本件演奏会(1)」という。)を開催し、原告の管理する管理著作物を演奏使用した行為について、原告との間で著作物使用料に関する和解契約を締結したにもかかわらず、同契約のとおり履行しないとして、被告ダイサンに対して未払著作物使用料等の支払を求める請求、(2)被告ダイサンは、平成8年1月28日から平成9年8月20日までの間に、別紙演奏会目録(2)記載の演奏会(以下「本件演奏会(2)」という。)を開催し、原告の許諾を受けることなく管理著作物を演奏使用したとして、被告ダイサンに対して、将来にわたる演奏会の開催禁止を求めるとともに、被告ダイサン及び被告Aに対して、著作物使用料相当損害金の支払を求める(被告ダイサンに対しては、不法行為による損害賠償又は不当利得返還請求として、被告Aに対しては、商法266条の3第1項又は有限会社法30条の3第1項に基づく請求として求める。)請求、(3)被告オカモトは、平成9年8月30日から平成13年5月18日までの間に、別紙演奏会目録(3)記載の演奏会(以下「本件演奏会(3)」といい、本件演奏会(1)、同(2)を併せて「本件各演奏会」という。)を開催し、原告の許諾を受けることなく管理著作物を演奏使用したとして、被告オカモトに対して、将来にわたる演奏会の開催禁止を求めるとともに、被告オカモト、被告B及び被告Aに対して、著作物使用料相当損害金(被告オカモトに対しては、不法行為による損害賠償又は不当利得返還請求として、被告Bに対しては、有限会社法30条の3第1項に基づく請求として、被告Aに対しては、有限会社法30条の3第1項の類推適用に基づく請求として求める。)請求からなる。
3 本件の争点
(1) 本件各演奏会における演奏の主体は、被告ダイサン又は被告オカモトであるかどうか
(2) 原告は、被告ダイサンに対して未払著作物使用料等の請求権を有するかどうか
(3) 原告は、被告オカモト及び被告ダイサンに対して、差止請求権及び損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を有するかどうか並びにその数額
(4) 原告は、被告A及び被告Bに対して、商法266条の3第1項又は有限会社法30条の3第1項に基づく請求権を有するかどうか及びその数額
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)について
【原告の主張】
 本件演奏会(1)及び(2)は被告ダイサンによって、本件演奏会(3)は被告オカモトによって、それぞれ主催されたものであって、これらの被告は、会場の使用契約、演奏者・伴奏者との出演契約、その他種々の契約を締結して、必要経費を支払い、入場券を販売して、これらの演奏会を開催したのであるから、これらの演奏会における演奏の主体は、本件演奏会(1)及び(2)については被告ダイサン、本件演奏会(3)については被告オカモトである。
【被告らの主張】
 本件演奏会(2)のうち、37番、41番、42番について、被告ダイサンは、関与していない。これらの演奏会は、アベインターナショナルが被告ダイサンの名義を借りて開催したものである。
 本件演奏会(3)のうち、79番、90番の演奏会について、被告オカモトは、関与していない。これらの演奏会は、有限会社KHMプロモーション(以下「KHMプロモーション」という。)が被告オカモトの名義を借りて開催したものである。
 その余の本件演奏会(1)及び(2)については被告ダイサンが、その余の本件演奏会(3)については被告オカモトが、会場の確保、チケットの販売、広告・宣伝等の諸事務を担当したものの、演奏会の内容をすべて決定したのは、演奏会に出演したタレントが所属するプロダクションであり、実際に演奏を行うのも、そのプロダクションに所属するタレントであるうえ、プロダクションは、多額の報酬(ギャラ)を得ている。したがって、これらの演奏会における演奏の主体は、各プロダクションであって、被告ダイサン、被告オカモトではない。
【被告らの主張に対する原告の反論】
 仮に、本件演奏会(2)のうち、37番、41番、42番について、本件演奏会(3)のうち、79番、90番の演奏会について、被告らの主張のとおりであるとしても、名義を貸したか否かは対内的な問題にすぎず、対外的な関係では主催者として表示された者が責任主体となる。
2 争点(2)について
【原告の主張】
(1) 被告ダイサンは、平成5年1月16日から平成7年12月2日までの間に、本件演奏会(1)を開催して、原告の管理著作物を演奏使用した。原告は、被告ダイサンからのこれらの演奏会についての音楽著作物使用許諾申込みに対し、申込みの都度使用を許諾し、著作物使用料規程に基づいて算定した別紙演奏会目録(1)記載の著作物使用料を請求したが、被告ダイサンはいずれの著作物使用料も原告の指定した支払期日までに支払わず、その滞納額は平成8年1月末日までに合計1604万6970円となった。
(2) そこで、原告と被告ダイサンとは、平成8年2月29日付けで、上記滞納使用料合計1604万6970円の支払について次のとおり和解契約を締結した。
 被告ダイサンは原告に対し、上記滞納使用料合計金1604万6970円の支払義務があることを認め、これを50回に分割して、平成8年4月から平成11年3月まで36回にわたり月額30万円宛、平成11年4月から平成12年3月まで12回にわたり月額40万円宛、平成12年4月に30万円を、平成12年5月に14万6970円を、各毎月末日限り支払う。
(3) 被告ダイサンは、上記著作物使用料について、第11回支払分(平成9年2月末日支払分)までは支払ったが、第12回支払分以降の支払をしない。未払となっている金額は、合計1274万6970円である。
(4) ところで、上記演奏会について被告ダイサンが音楽著作物使用許諾を申し込み、原告がこれを許諾した契約における使用許諾条項第6条によると、被告ダイサンが著作物使用料の支払を履行せず、支払期日より3か月を経過したときは、原告は、被告ダイサンに対し使用料のほかに当該使用料の100分の20の額を違約金として請求できる。上記未払著作物使用料はすべて別紙演奏会目録(1)記載のとおり各支払期日から3か月以上経過しているので、原告は被告ダイサンに対し未払著作物使用料の100分の20の額の違約金合計254万9394円の支払を請求することができる。
(5) 上記未払著作物使用料と違約金の合計額は、1529万6364円である。
【被告ダイサンの主張】
 上記争点(1)【被告らの主張】のとおり、被告ダイサンは、演奏の主体でないから、原告に対する著作物使用料の支払義務がない以上、原告主張の和解契約は、錯誤により無効である。
3 争点(3)について
【原告の主張】
(1) 被告ダイサンに対する請求について
ア 被告ダイサンは、原告の許諾を受けることなく管理著作物を使用することが著作権侵害行為であることを知っていながら、平成8年1月28日から平成9年8月20日までの間に、本件演奏会(2)を開催し、原告の許諾を受けることなく管理著作物を演奏使用した。したがって、原告は、被告ダイサンに対し、将来にわたる演奏会の開催禁止及び損害賠償又は不当利得返還を請求することができる。
イ 上記演奏に係る著作物使用料相当損害金は、原告が主務官庁である文化庁の認可を得て定めた著作物使用料規程に基づいて算定されることとなる。著作物使用料規程に定める演奏会における演奏の規定は、純音楽に属するものと軽音楽に属するものとに区分されるが、本件各演奏会のようないわゆる歌謡ショーは軽音楽に属する。軽音楽に属する音楽著作物を使用する演奏会の使用料率は、演奏される著作物1曲1回ごとに算出する方式(曲別方式)と、演奏される楽曲・曲数に関係なく演奏会の公演1回ごとに算出する方式(包括方式)とがあるが、原告は、いわゆる歌謡ショーで管理著作物が使用される場合には、原則として包括方式によって使用料の算定を行っている。そして、包括方式による使用料は、演奏会の公演時間、演奏会場の定員数及び演奏会の入場料の3要素により、類型区分化された表によって算定される。
ウ 本件演奏会(2)の公演時間については、いわゆる歌謡ショーで管理著作物が使用される場合には、通常1時間以上2時間までの場合がほとんどであることから、この区分を適用し、定員数については、各演奏会場に設備されている客席の総数(固定座席数)により対応する区分を適用し、また入場料については、被告ダイサンが、入場者から音楽の著作物の提示について受ける対価(消費税を含まないもの。この対価に等級区分のある場合は、その算術平均額)に対応する区分を適用して、各演奏会ごとに著作物使用料額を算定すると、その結果は、別紙演奏会目録(2)記載のとおりであり、各演奏会ごとの著作物使用料相当損害金の合計額は676万5140円となる。
(2) 被告オカモトに対する請求について
ア 被告オカモトは、原告の許諾を受けることなく管理著作物を使用することが著作権侵害行為であることを知っているか、少なくとも知ることについて過失がありながら、平成9年8月30日から平成13年5月18日までの間に、本件演奏会(3)を開催して、原告の許諾を受けることなく管理著作物を演奏使用した。したがって、原告は、被告オカモトに対し、将来にわたる演奏会の開催禁止及び損害賠償又は不当利得返還を請求することができる。
イ 上記演奏に係る著作物使用料相当損害金が著作物使用料規程に基づいて算定されることは上記(1)イ記載のとおりであるところ、その著作物使用料額は、別紙演奏会目録(3)記載のとおりであり、各演奏会ごとの著作物使用料相当損害金の合計額は1543万2900円となる。
【被告ダイサン及び被告オカモトの主張】
 上記争点(1)【被告らの主張】のとおり、被告ダイサン及び被告オカモトは演奏の主体ではないから、原告に対する著作物使用料相当損害金の支払義務はない。
4 争点(4)について
(1) 被告Aに対する請求について
ア 被告Aは、著作権侵害行為が行われた本件演奏会(2)が開催されたとき、被告ダイサンの取締役であったから、商法266条の3第1項又は有限会社法30条の3第1項に基づき、被告ダイサンと連帯して、別紙演奏会目録(2)記載の著作物使用料相当損害金合計676万5140円を支払うべき義務を有する。
イ 被告Aは、被告オカモトの取締役を辞任した後も、被告オカモトの実質的な代表者として、本件演奏会(3)を企画・開催した。
 したがって、被告Aには、有限会社法30条の3第1項が類推適用されるべきであり、被告Aは、被告オカモトと連帯して、別紙演奏会目録(3)記載の著作物使用料相当損害金合計1543万2900円を支払うべき義務を有する。
(2) 被告Bに対する請求について
 被告Bは、本件演奏会(3)が開催されたとき、被告オカモトの取締役であったから、有限会社法30条の3第1項に基づき、被告オカモトと連帯して、別紙演奏会目録(3)記載の著作物使用料相当損害金合計1543万2900円を支払うべき義務を有する。
【被告A及びBの主張】
(1) 被告ダイサン及び被告オカモトについて
 上記争点(1)【被告らの主張】のとおり、被告ダイサン及び被告オカモトは演奏の主体ではないから、原告に対する著作物使用料相当損害金の支払義務がない。
(2) 被告Aについて
 被告Aが被告ダイサンの取締役であることから直ちに被告ダイサンの業務の遂行に関して責任を負うことはない。
 また、被告Aは、被告オカモトの単なる従業員であるから、被告オカモトの業務の遂行に関して責任を負うべき立場にない。
(3) 被告Bについて
 被告Bが被告オカモトの取締役であったことから直ちに被告オカモトの業務の遂行に関して責任を負うことはない。
第4 当裁判所の判断
1 争点(1)について
(1) 前記争いのない事実に証拠(甲18、甲19の1ないし78、甲22の1ないし52、甲23の1ないし116、甲26ないし33、甲34の1ないし9、甲35の1ないし38、甲36、乙2、3、証人C、被告A)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。
ア 被告ダイサンは、本件演奏会(1)及び本件演奏会(2)(37番、41番、42番を除く)に、被告オカモトは、本件演奏会(3)(79番、90番を除く)に、いわゆるプロモーターとして関与した。
 これらの演奏会は、いわゆる歌謡ショーであって、歌手やバンドが楽曲を演奏するものであるところ、上記演奏会において、原告の管理著作物が演奏された。演奏された楽曲の大部分が原告の管理著作物であった。
イ これらの演奏会における被告ダイサン又は被告オカモトのプロモーターとしての業務内容は、概ね以下のとおりである。
(ア) 演奏会の会場を設定すること
(イ) 入場料金を決定すること
(ウ) チケットの印刷及び販売をすること
(エ) 演奏会に関する宣伝方法を決定し、実施すること
(オ) 集客のためのセールス活動をすること
(カ) 演奏会当日の会場内外の警備関係を処理すること
(キ) 演奏会当日の会場の運営及び管理をすること
(ク) 諸官庁への届出及び許可申請などをすること
 また、これらの演奏会の広告等には、被告ダイサン又は被告オカモト(ダイサンエージェンシー)が主催者として記載されていた。
ウ 他方、これらの演奏会に出演する歌手等が所属するプロダクションの業務内容は、概ね以下のとおりである。
(ア) 歌手が演奏会において歌う曲目を選定すること
(イ) 演奏会の時間を決定すること
(ウ) 演奏会での舞台上の照明や音響を設定すること
(エ) バックバンドを設定すること
(オ) 演奏会の演出等を関係者と打ち合わせること
エ 平成10年7月28日、被告オカモトは、平成10年9月3日に「はまホール(浜松市民会館)」で開催されるEコンサートに関し、Eのプロダクションである有限会社MO綜合企画との間で、概ね以下のような内容の契約を締結した。
(ア) 出演料  777万7777円+消費税38万8889円
(イ) 出演料支払条件 被告オカモトは、同年8月20日200万円支払い、残額は同年9月3日公演前に支払う。
(ウ) 交通費、宿泊費及び食費、現地送迎費、現地照明費は、いずれも被告オカモトが実費を負担する。
 運搬費は、被告オカモトが負担する。
 音響照明費、制作費、源泉課税は、MO綜合企画の負担とする。
 その他アルバイト10名は被告オカモトの実費負担とする。
オ 被告ダイサン又は被告オカモトは、プロダクションに対して支払う出演料及びその他の経費(250万円程度は必要である)を基に、いくらのチケットが何枚販売できると利益が上がるかを計算して、入場料金を決定する。プロダクションに対しては一定額の出演料を支払うのみであるので、予想よりも収入が多かった場合は、被告ダイサン又は被告オカモトの利益となり、逆に予想よりも収入が少なかった場合は、被告ダイサン又は被告オカモトの損失となる。
カ 上記アの各演奏会については、被告ダイサン又は被告オカモトとプロダクションとの間で、著作権使用料をいずれが負担するかの明示の契約はない。一般的にも、著作権使用料を、プロダクションが負担するのか、プロモーターが負担するのかを、契約書上明示しない場合が多い。
キ 原告は、原則として、プロモーターに対して、著作権使用料の支払手続をするよう求め、プロモーターから著作権使用料の支払を受けている。
(2) 以上認定した事実からすると、確かに、演奏会の内容(演奏時間や演奏楽曲、使用するバンド等)に関しては、演奏会に出演する歌手等が所属するプロダクションが決定し、かつ、プロダクションは、出演料収入を得ていると認められる。しかしながら、上記認定した事実からすると、演奏会の内容以外の点、すなわち、演奏会の会場を設定し、入場料金を決め、チケットを販売し、演奏会に関する宣伝を始めとするセールス活動を行い、演奏会当日の会場の運営、管理をするなどの業務は、すべてプロモーターである被告ダイサン又は被告オカモトが行っていたこと、プロダクションが得る出演料は定額で、演奏会の損益は被告ダイサン又は被告オカモトに帰属すること、以上の事実が認められ、これらの事実からすると、上記(1)アの各演奏会における演奏は、被告ダイサン又は被告オカモトの管理の下に行われており、かつ、被告ダイサン又は被告オカモトは、その演奏によって経済的利益を得ることができる地位にあったものと認められるから、これらの演奏会に関しては、被告ダイサン又は被告オカモトが、原告の管理著作物を演奏使用したものと認めることができる。
(3) 本件演奏会(2)中の37番、41番、42番について
 証拠(甲22の37、41、42、甲36、被告A)及び弁論の全趣旨によると、本件演奏会(2)中の37番、41番、42番の演奏会については、Fのプロダクションであるアベインターナショナルから直接被告ダイサンに対して、演奏会の開催に関する相談があり、被告ダイサンは、会場を確保すると共に、チケットの販売、営業活動等通常の演奏会開催に向けての準備と同一の活動を行ったこと、売上げから諸経費を控除して残った金額を、アベインターナショナルと被告ダイサンで折半する約定であったが、実際は利益が出なかったこと、これらの演奏会では、原告の管理著作物が演奏されたこと、以上の事実が認められる。以上の事実からすると、上記演奏会に関しては、被告ダイサンは、通常行っている演奏会におけるプロモーターとしての活動と同一の活動を行っており、その損益もアベインターナショナルとともに被告ダイサンに帰属するものと認められるから、これらの演奏会に関しては、被告ダイサンが、原告の管理著作物を演奏使用したものと認めることができる。
(4) 本件演奏会(3)中の79番、90番について
 証拠(甲23の79、90、被告A)及び弁論の全趣旨によると、本件演奏会(3)中の79番、90番の演奏会については、KHMプロモーションが、会場の設定、チケット販売、セールス活動、演奏会当日の会場の管理等を行い、売上げを管理し、経費を支出したもので、被告オカモトは、KHMプロモーションが会場を確保する際に、名義を貸し、KHMプロモーションから謝礼として10万円か20万円を受け取ったのみであることが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。そうすると、上記演奏会に関しては、被告オカモトは、KHMプロモーションが会場を確保する際に、名義を貸し、その謝礼を得たのみであると認められるから、その演奏の主体が被告オカモトであるとは認められない。
 この点、原告は、名義を貸したか否かは対内的な問題にすぎず、対外的な関係では主催者として表示された者が責任主体となると主張するが、対外的に主催者とされているとしても、実際に演奏の主体としての行為をしなかった者を、演奏の主体と認めることはできないから、原告のこの主張を採用することはできない。
2 争点(2)について
(1) 上記1で認定したところに証拠(甲9、甲19の1ないし78、甲20の1ないし119、甲24、甲35の1ないし38、甲36、証人C、被告A)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。
ア 被告ダイサンは、平成5年1月16日から平成7年12月2日までの間に、本件演奏会(1)を開催して、原告の管理著作物を演奏使用した。原告は、被告ダイサンからのこれらの演奏会についての音楽著作物使用許諾申込みに対し、申込みの都度使用を許諾し、著作物使用料規程に基づいて算定した別紙演奏会目録(1)記載の著作物使用料を請求したが、被告ダイサンはいずれの著作物使用料も原告の指定した支払期日までに支払わず、その滞納額は平成8年1月末日までに合計1604万6970円となった。
イ そこで、原告と被告ダイサンとは、平成8年2月29日付けで、上記滞納使用料合計1604万6970円の支払について次のとおり和解契約を締結した。
 被告ダイサンは原告に対し、上記滞納使用料合計金1604万6970円の支払義務があることを認め、これを50回に分割して、平成8年4月から平成11年3月まで36回にわたり月額30万円宛、平成11年4月から平成12年3月まで12回にわたり月額40万円宛、平成12年4月に30万円を、平成12年5月に14万6970円を、各毎月末日限り支払う。
ウ 被告ダイサンは、上記著作物使用料について、第11回支払分(平成9年2月末日支払分)までは支払ったが、第12回支払分以降の支払をしない。未払金額は、合計1274万6970円である。
エ 上記演奏会について被告ダイサンが音楽著作物使用許諾の申込みをし、原告がこれを許諾した契約における使用許諾条項第6条によると、被告ダイサンが著作物使用料の支払を履行せず、支払期日より3か月を経過したときは、原告は、被告ダイサンに対し使用料のほかに当該使用料の100分の20の額を違約金として請求できることとなっている。
 上記未払著作物使用料はすべて別紙演奏会目録(1)記載のとおり各支払期日から3か月以上経過している。
(2) 被告ダイサンは、演奏の主体でないから、原告に対する著作物使用料の支払義務がない以上、上記(1)認定の和解契約は、錯誤により無効であると主張するが、上記1で認定判断したとおり、被告ダイサンは、本件演奏会(1)における演奏の主体として、原告に対して著作権使用料の支払義務を負っているのであるから、被告ダイサンの上記主張は理由がない。
(3) 以上の事実からすると、原告は被告ダイサンに対し、本件演奏会目録(1)記載のとおり、未払著作物使用料合計1274万6970円及びこれに対する100分の20の額の違約金合計254万9394円、合計1529万6364円の支払を請求することができる。
3 争点(3)について
(1) 被告ダイサンに対する請求について
ア 上記1で認定した事実に弁論の全趣旨を総合すると、被告ダイサンは、本件演奏会(2)において、原告の許諾を得ることなく、原告の管理著作物を演奏使用したこと、本件演奏会(2)の会場は、すべて別添平成13年度版全国公立文化施設名簿記載の施設に含まれること、以上の事実が認められる。そうすると、原告は、被告ダイサンに対して、別添平成13年度版全国公立文化施設名簿記載の施設をはじめとする日本国内の演奏会場において、別添楽曲リストに記載の音楽著作物を、歌謡ショー等の催物を開催し、歌手及びバンドにより演奏させる方法により使用することの差止めを求めることができる。
 また、上記2認定のとおり、被告ダイサンは、本件演奏会(1)については、原告に対して音楽著作物使用許諾申込みを行い、原告から使用許諾を受けて演奏使用していたことからすると、被告ダイサン(代表者である被告A)は、原告の許諾を得ることなく原告の管理著作物を演奏使用することができないことを知りながら、本件演奏会(2)において、原告の許諾を得ることなく、原告の管理著作物を演奏使用したものと認められる。そうすると、原告は、被告ダイサンに対して、本件演奏会(2)において、原告の許諾を得ることなく、原告の管理著作物を演奏使用したことについて、損害賠償請求をすることができる。
イ 損害額について
(ア) 証拠(甲36)及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。
 原告は、主務官庁である文化庁の認可を得て著作物使用料規程を定め、同規程に基づいて管理著作物使用料金額を算定していた。
 同規程によると、演奏会は、純音楽に属するものと軽音楽に属するものとに区分されるところ、本件演奏会(2)は、いわゆる歌謡ショーであるから、軽音楽に属する。
 軽音楽に属する音楽著作物を使用する演奏会の使用料率は、演奏される著作物1曲1回ごとに算出する方式(曲別方式)と、演奏される楽曲・曲数に関係なく演奏会の公演1回ごとに算出する方式(包括方式)とがあるところ、原告は、いわゆる歌謡ショーで管理著作物が使用される場合には、演奏会で演奏される楽曲の大部分が原告の管理著作物であることや演奏会で演奏される音楽著作物の曲数に関係なく使用料を算定することができることなどから、原則的には包括方式によって使用料の算定を行っていた。
 包括方式による使用料額は、演奏会の公演時間、演奏会場の定員数、演奏会の入場料の3要素により、類型区分化された表によって算定されることとなる。
 本件演奏会(2)の公演時間については、いわゆる歌謡ショーで管理著作物が使用される場合には、通常1時間以上2時間までの場合がほとんどであることから、この区分を適用し、定員数については、各演奏会場に設備されている客席の総数(固定座席数)により対応する区分を適用し、また入場料については、被告ダイサンが、入場者から音楽の著作物の提示について受ける対価(消費税を含まないもの。この対価に等級区分のある場合は、その算術平均額)に対応する区分を適用して、各演奏会ごとに著作物使用料額を算定すると、その結果は、別紙演奏会目録(2)記載のとおりであり、合計額は676万5140円となる。
(イ) 以上認定の事実によると、原告の損害額は、著作権法114条2項により、676万5140円と認められる。
(2) 被告オカモトに対する請求について
ア 上記1で認定したとおり、被告オカモトは、本件演奏会(3)(79番、90番を除く。)において、原告の許諾を得ることなく、原告の管理著作物を演奏使用したこと、これらの演奏会の会場は、すべて別添平成13年度版全国公立文化施設名簿記載の施設に含まれること、以上の事実が認められる。そうすると、原告は、被告オカモトに対して、別添平成13年度版全国公立文化施設名簿記載の施設をはじめとする日本国内の演奏会場において、別添楽曲リストに記載の音楽著作物を、歌謡ショー等の催物を開催し、歌手及びバンドにより演奏させる方法により使用することの差止めを求めることができる。
 また、上記2認定のとおり、被告ダイサンは、本件演奏会(1)については、原告に対して音楽著作物使用許諾申込みを行い、原告から使用許諾を受けて演奏使用していたものである。そして、前記争いのない事実に証拠(甲17、被告A)を総合すると、被告Aは、被告ダイサンの代表取締役であったこと、本件演奏会(3)(79番、90番を除く。)開催当時、被告オカモトの代表取締役は、被告Bであるが、被告Bは被告Aの妻であり、被告Aは、被告オカモトの取締役ではないが、演奏会開催に関する会場の手配やプロダクションとの交渉を行っていたことが認められる。これらのことからすると、被告オカモト(代表者である被告B)は、原告の許諾を得ることなく原告の管理著作物を演奏使用することができないことを知りながら、本件演奏会(3)(79番、90番を除く。)において、原告の許諾を得ることなく、原告の管理著作物を演奏使用したものと認められる。そうすると、原告は、被告オカモトに対して、本件演奏会(3)(79番、90番を除く。)において、原告の許諾を得ることなく、原告の管理著作物を演奏使用したことについて、損害賠償請求をすることができる。
イ 損害額について
 証拠(甲36)及び弁論の全趣旨によると、上記(1)イと同様の方法で、本件演奏会(3)(79番、90番を除く。)に関して、著作物使用料額を算定すると、その結果は、別紙演奏会目録(4)記載のとおりであり、合計額は1509万6900円となる。したがって、原告の損害額は、著作権法114条2項により、1509万6900円と認められる。
4 争点(4)について
(1) 本件演奏会(2)について
 前記争いのない事実及び上記3(1)アで認定した事実に証拠(被告A)及び弁論の全趣旨を総合すると、被告Aは、本件演奏会(2)が開催された時期において、被告ダイサンの代表取締役であって、原告の管理著作物について原告との間で使用許諾契約を締結する必要があることを知っていたにもかかわらず、上記演奏会において、原告の許諾を得ることなく、原告の管理著作物を演奏使用したものと認められるから、被告Aは、上記3(1)イ認定に係る損害金に関して、商法266条の3第1項(組織変更前)又は有限会社法30条の3第1項(組織変更後)に基づいて、被告ダイサンと連帯して(不真正連帯債務)賠償する義務を負う。
(2) 本件演奏会(3)(79番、90番を除く。)について
 前記争いのない事実及び上記3(2)アで認定した事実に証拠(被告A)及び弁論の全趣旨を総合すると、被告Bは、本件演奏会(3)(79番、90番を除く。)が開催された時期において、被告オカモトの代表取締役であって、原告の管理著作物について原告との間で使用許諾契約を締結する必要があることを知っていたにもかかわらず、上記演奏会において、原告の許諾を得ることなく、原告の管理著作物を演奏使用したものと認められるから、被告Bは、上記3(2)イ認定に係る損害金に関して、有限会社法30条の3第1項に基づいて、被告オカモトと連帯して(不真正連帯債務)賠償する義務を負う。
 上記3(2)アで認定したとおり、被告Aは、本件演奏会(3)(79番、90番を除く。)が開催された時期において、演奏会開催に関する会場の手配やプロダクションとの交渉を行うなどしていたものであるが、証拠(甲5、被告A)及び弁論の全趣旨によると、被告Aは、平成9年4月14日、被告オカモトの取締役を辞任し、同月15日付けでその旨の登記がなされており、それ以降は、被告オカモトにおける興行部門の社員の地位にあったこと、他方、被告オカモトにおける興行部門は、被告Aのそれまでのプロモーター業に関するノウハウや経験等(プロダクションとの交渉や会場の手配関係等)が重要な役割を担ってはいるものの、被告オカモトの経理等会社の運営に関しては、被告A一人が行っているということではなく、代表者である被告Bや被告Aと被告Bの子であるDが参加していて発言権があること、以上の事実が認められ、かかる事実からすると、被告Aは、被告オカモトの取締役ではなく、また、事実上の取締役(会社の業務の運営、執行について、取締役に匹敵する権限を有し、これに準ずる活動をしている者)であるとまでは認められないから、有限会社法30条の3第1項に基づいて、損害賠償義務を負うことはないものというべきである。同条を類推適用すべきである旨の原告の主張は採用できない。
5 結論
 以上の次第で、原告の被告らに対する本件各請求は、主文掲記の限度で理由があるから、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 森義之
 裁判官 内藤裕之
 裁判官 上田洋幸

(別添)
 平成13年度版全国公共文化施設名簿[略]
 楽曲リスト[略]

(別紙)
 演奏会目録(1)[略]
 演奏会目録(2)[略]
 演奏会目録(3)(原告主張のもの)[略] 
 演奏会目録(4)(裁判所認定のもの)[略]
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