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【事件名】ファッション雑誌の商標権侵害事件
【年月日】平成14年6月28日
 東京地裁 平成14年(ワ)第2742号 商標権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成14年4月23日)

判決
原告 株式会社世界文化社
同訴訟代理人弁護士 服部弘志
同 谷正之
同 吉田広明
同 榎本一久
同補佐人弁理士 後田春紀
被告 アポロ出版株式会社
被告 株式会社ディー・アンド・エー
被告両名訴訟代理人弁護士 塚田成四郎
同補佐人弁理士 金倉喬二


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告らは、別紙標章目録(1)記載の標章を付した雑誌等の印刷物を発行・販売し、広告及び看板に前記標章を使用してはならない。
2 被告らは、前項の標章を付した雑誌等の印刷物並びにその広告及び看板から前記標章を抹消せよ。
第2 事案の概要
1 争いのない事実等
(1) 原告は、次の商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件商標」という。)の商標権者である。
 出願日 平成2年9月14日
 登録日 平成5年10月29日
 登録番号 第2587663号
 指定商品 印刷物その他本類に属する商品
 商標の構成 別紙商標目録記載のとおり
(2) 被告アポロ出版株式会社は、平成11年6月から、「ブランドBargain Men's!」という表題で、別紙標章目録(1)記載の標章(以下「被告標章」という。)を表紙に付した月刊雑誌を発行し、被告株式会社ディー・アンド・エーは、同雑誌を販売している。
(3) 原告は、平成6年4月から、「Men's Ex」という表題で、別紙標章目録(2)又は(3)記載の標章(以下、併せて「原告標章」という。)を表紙に付した月刊雑誌を発行している(甲3の1ないし3(枝番を含む))。
2 原告の主張
(1) 商標権侵害
 本件商標は、「Men's」と「Ex」、「メンズ」と「イーエックス」に一体性が強くなく、「Ex」が観念を生じない造語で付加的なものであることからすると、その要部は「Men's」である。
 他方、被告標章は、「Men's」の部分が、他の部分より縦横ともに約2.5倍程度大きく表示され、強調されていることからすると、その要部は「Men's」である。
 したがって、被告標章は、本件商標に類似しており、被告らの前記1(2)の行為(以下「被告らの行為」という。)は本件商標権を侵害する行為である。
(2) 不正競争防止法違反
 原告標章を付した雑誌「Men's Ex」は、平成6年から現在まで、月平均約5万部から7万部の発行部数を有し、毎月発売日には新聞広告において、同発売日から4、5日間の間は地下鉄等の中吊り広告等を行っているから、原告商標は周知性を有する。
 上記(1)の本件商標と被告標章の対比で述べたのと同じ理由及び書体が酷似していることにより、被告標章は、原告標章と類似している。
 原告標章を付した雑誌「Men's Ex」と被告標章を付した雑誌「ブランドBargain Men's!」は、いずれも大人の男性を対象としたファッション情報雑誌であるから、顧客層が重なり、顧客が商品の出所又は営業主体が同一であると誤認するおそれが高い。
 したがって、被告らの行為は、不正競争に該当する。
(3) よって、原告は、被告らに対し、本件商標権に基づき、又は、不正競争防止法2条1項1号、同3条1項に基づき、被告標章の使用差止等を求める。
3 被告の主張
(1) 類似性の不存在
 本件商標及び原告標章は、「Men's Ex」であり、「Men's」と「Ex」は、一体不可分であるから、主要部と付加部に分けることはできない。また、被告標章は、被告らが発行・販売する、女性用のブランド品を掲載している「ブランドBargain」という雑誌の男性版であることを強調するために、「ブランドBargain Men's!」としているのであって、「Men's!」のみが要部なのではない。したがって、本件商標及び原告標章と被告標章は、外観、称呼及び観念のいずれについても類似性はない。
(2) 混同のおそれの不存在
 雑誌「Men's Ex」と雑誌「ブランドBargain Men's!」は、雑誌のサイズも内容も異なる。したがって、顧客が両雑誌を混同するおそれはない。
(3) 以上のとおり、被告標章は、本件商標と類似していないので、商標権侵害にはならない。また、被告標章は、原告標章と類似しておらず、混同のおそれもないので、被告らの行為は不正競争にもならない。
第3 争点に対する判断
1 本件商標及び原告標章と被告標章が類似しているかどうかについて
(1) 本件商標の構成は、別紙商標目録記載のとおり、欧文字の「Men's Ex」と、これを片仮名文字で表記した「メンズイーエックス」を2段に併記して構成されており、本件商標からは、「メンズイーエックス」との称呼が生じる。「Men's」と「Ex」との間にはスペースが存在し、「Men's」は「男性の」という観念を生ずる。
 原告標章は、別紙標章目録(2)及び(3)記載のとおり、欧文字の「Men's Ex」からなるものであり、同目録(2)記載の標章では、「Men's」と「Ex」との間にスペースが存在するが、同目録(3)記載の標章では、「Men's」と「Ex」との間に明らかなスペースが存在せず、「Men's」は「男性の」という観念を生ずる。「Ex」については、原告が原告標章を付した雑誌には、表紙に原告標章とともに「メンズエクストラ」と必ず記載していること(甲3の1、2、甲3の3の1、乙3)からすると、「extra」の省略形として「特別のもの」といった観念を生じ得るということができる。また、称呼については、「メンズイーエックス」、又は、「Ex」が「extra」の省略形として認識されることがあることからすると、「メンズエクストラ」の称呼を生じ得るということができる。
 原告は、本件商標及び原告標章の要部は「Men's」であると主張する。しかし、「Men's」の部分は、「男性の」という一般的な意味を有するものであって、実際にも「MEN'S CLUB」、「Men's Voi」、「MEN'S NON-NO」など「MEN'S」又は「Men's」を含む名称の雑誌が多数販売されていること(乙10ないし12、乙13の1、2)からすると、これに接する取引者ないし需要者に、「Men's」が本件商標又は原告標章に特有な部分であるとの印象を与えることはあり得ない。このことは、「Men's」と「Ex」との間にスペースが存在することや「Ex」について観念を生じるかどうかにかかわらないものというべきであるが、原告標章については、上記のとおり、「Men's」と「Ex」との間に明らかなスペースが存在しないものがあるし、「Ex」についても観念を生じ得る。
 また、本件商標及び原告標章において、「Ex」、「イーエックス」のみが要部であるということもできないから、本件商標においては「Men's Ex」及び「メンズイーエックス」全体が、原告標章においては「Men's Ex」全体が、それぞれ要部であるというべきである。
(2) 他方、被告標章は、別紙標章目録(1)記載のとおり、「Men's!」という欧文字と、そのMの字に重なる「ブランドBargain」という文字からなり、「Men's!」の部分は他の部分よりも縦横ともに約2.5倍程度大きく表示されている。被告標章からは、「ブランドバーゲンメンズ」の称呼が生じ、「ブランド」は「特に、名の通った銘柄」(広辞苑(第5版)2365頁)、「Bargain」は「特価品」、「Men's!」は「男性の」という観念を生ずる。
 原告は、被告標章の要部も「Men's」であると主張する。しかし、前記(1)のとおり、「Men's」の部分は、「男性の」という一般的な意味を有するものであって、「Men's」を含む名称の雑誌が多数販売されていることからすると、被告標章においては「Men's」の部分が他の部分よりも大きく記載されていることを考慮したとしても、被告標章の要部が「Men's」であるとは認められない。被告標章は、「ブランドBargain」のみが要部であるとも認められないので、「ブランドBargain Men's!」全体が要部であるというべきである。
(3) なお、原告は、原告標章と被告標章は、書体が酷似するとも主張するが、別紙標章目録(1)と(2)及び(3)の各標章を対比しても、これらの書体が酷似しているとは認められない。
(4) 以上を前提に本件商標及び原告標章と被告標章をいずれも全体を一体のものとして対比すると、被告標章は、外観、称呼及び観念のいずれも本件商標及び原告標章と異にするから、被告標章は、本件商標及び原告標章に類似するということはできない。
2 結論
 以上のとおり、被告標章は、本件商標と類似していないから、被告らの行為が本件商標権侵害であるとは認められない。
 また、被告標章は、原告標章とも類似していないから、被告らの行為は不正競争にも当たるとも認められない。
 よって、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 森義之
 裁判官 東海林保
 裁判官 瀬戸さやか
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