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【事件名】カラオケ無断使用事件(名古屋市)(2)
【年月日】平成14年6月27日
 名古屋高裁 平成13年(ネ)第885号 著作権侵害損害賠償請求各控訴事件
 (原審・名古屋地裁平成13年(ワ)第3152号 著作権侵害損害賠償請求事件)

判決


主文
1 1審原告の控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
(1) 1審被告庄清及び同Aは、1審原告に対し、連帯して、149万8450円及び内別紙1の使用料相当額一覧表の各「使用料相当額」欄記載の金員に対する各「起算日」欄記載の日から各支払済みまでいずれも年5分の割合による金員を支払え。
(2) 1審被告大平土地及び同Aは、1審原告に対し、連帯して、480万0860円及び内別紙2及び同3の使用料相当額一覧表の各「使用料相当額」欄記載の金員に対する各「起算日」欄記載の日から各支払済みまでいずれも年5分の割合による金員を支払え。
(3) 1審原告のその余の請求をいずれも棄却する。
2 1審被告庄清及び同大平土地の本件控訴をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審を通じ、これを10分し、その1を1審原告の負担とし、その余を1審被告らの負担とする。
4 この判決は、第1項(1)及び同(2)に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
(以下、略語は、原判決に準ずる。)
第1 当事者の求めた裁判
1 1審原告
(1) 原判決を次のとおり変更する。
(2) 1審被告庄清及び同Aは、1審原告に対し、連帯して、166万8450円及び原判決別紙4の使用料相当額一覧表の各「使用料相当額」欄記載の金員に対する各「起算日」欄記載の日から各支払済みまでいずれも年5分の割合による金員を支払え。
(3) 1審被告大平土地及び同Aは、1審原告に対し、連帯して、528万0860円及び原判決別紙5及び同6の使用料相当額一覧表の各「使用料相当額」欄記載の金員に対する各「起算日」欄記載の日から各支払済みまでいずれも年5分の割合による金員を支払え。
(4) 1審被告庄清及び同大平土地の本件控訴をいずれも棄却する。
(5) 訴訟費用は、第1、2審とも、1審被告らの負担とする。
(6) 仮執行宣言
2 1審被告庄清及び同大平土地
(1) 原判決中、1審被告庄清及び同大平土地敗訴部分を取り消す。
(2) 同部分について、1審原告の請求をいずれも棄却する。
(3) 1審原告の本件控訴を棄却する。
(4) 訴訟費用は、第1、2審とも、1審原告の負担とする。
3 1審被告A
(1) 1審原告の本件控訴を棄却する。
(2) 控訴費用は、1審原告の負担とする。
第2 事案の概要
1 本件は、1審被告らにおいて、1審原告の許諾を得ずに、本件店舗のビデオカラオケ歌唱室に設置されたカラオケ機器を利用して、1審原告の管理する音楽著作物を演奏する等して、著作権を侵害し、著作権使用料相当額の損害を生じさせ、ないし同額の不当利得を得たとして、1審原告が、1審被告両会社に対しては不法行為ないし不当利得を、1審被告Aに対しては不法行為ないし取締役の第三者に対する責任をそれぞれ根拠として、上記第1の1(2)及び(3)のとおりの損害金及びこれに対する遅延損害金又は利得金及びこれに対する利息の各請求をしたところ、1審被告らが、著作権使用料支払義務が発生していないこと、1審原告の著作権使用料の設定が著しく不公平であること等の主張をして争った事案である。
 原審において、1審被告両会社に対する不当利得返還及びその利息請求の各一部が認容され、1審被告Aに対する各請求を含むその余の各請求が棄却されたところ、1審原告及び1審被告両会社がそれぞれ控訴した。
 なお、1審原告の請求は、1審被告両会社につき、それぞれ、不法行為に基づく損害賠償請求と不当利得返還請求とが選択的併合とされ、1審被告Aにつき、不法行為に基づく損害賠償請求と取締役の第三者に対する責任に基づく損害賠償請求とが選択的併合とされたものである。
2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、次に改めるほか、原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の1及び3(「2」の誤記と思われ、後記のとおり訂正)のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決2頁25行目の「原告は、」の次に「著作権等管理事業法(平成12年法第131号、以下「新法」という。)附則2条により廃止された」を加え、26行目の「以下「法」という。」を「以下「旧法」という。」と改め、3頁4行目末尾に次のとおり加える。
 「1審原告は、平成13年10月1日施行された新法附則3条1項により同法施行の日に同法3条の著作権等管理事業者の登録を受けたものとみなされた者であり、旧法当時管理していた音楽著作物についても、継続して著作権等管理事業を行っている。」
(2) 原判決3頁20行目の「代表取締役である。」を「代表取締役であり、本件店舗の営業の実情を承知し、これを容認していた(弁論の全趣旨)。」と改め、23行目の「来店した」の次に「不特定多数の」を加え、25行目の「管理著作物を」から26行目までを次のとおり改める。
 「管理著作物を再生、演奏し、管理著作物の複製物を含む映画著作物を上映し、また、再生された伴奏音楽に合わせて顧客に歌唱させ、顧客からカラオケ歌唱室の使用時間に応じた使用料金の支払を受け、他方、顧客に対し受付でスナック菓子を販売し、自動販売機を設置して飲み物を提供していた(甲6、10)。」
(3) 原判決4頁6行目の「法」を「旧法」と改め、7行目から8行目にかけての「されており」の次に「(なお、新法13条、同法附則3条4項、5項)」を加える。
(4) 原判決5頁4行目の「3」を「2」と改め、8行目の「演奏し、」の次に「その複製物を含む映画、著作物を上映し、これらに合わせて顧客に歌唱させる等して、」を加え、6頁4行目の「被告両会社は、」から6行目までを次のとおり改める。
 「1審被告両会社それぞれ及びこれらの代表者である1審被告Aは、1審原告の管理する著作権を侵害したから、民法709条又は同条及び民法44条1項、商法261条3項、78条2項、有限会社法32条により、1審原告の前記損害を賠償すべき責任がある(1審原告は本件訴状等において、1審被告両会社の不法行為責任の根拠条文として、民法709条と715条を掲記するが、1審原告らのその余の主張部分と併せれば、その趣旨は、法人自体の不法行為責任と法人の代表者の不法行為による法人の責任とを主張する趣旨と解される。)。」
(5) 原判決6頁12行目の「一方が」から13行目までを「ある請求について一部認容される場合には、棄却部分に関し、他の請求についての判断を求める。」と、18行目の「有限会社法30条の3又は」を「民法709条又は有限会社法30条の3若しくは」とそれぞれ改める。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は、1審原告の1審被告両会社に対する、各不法行為に基づく損害賠償請求、1審被告Aに対する、各取締役の第三者に対する責任に基づく損害賠償請求、及びそれぞれについての遅延損害金請求が、いずれも主文掲記の限度で理由があるものと判断する。その理由は、次のとおりである。
2 1審被告らの責任について
(1) 上記前提事実(原判示)によると、1審被告両会社は、1審原告の許諾を得ることなく、平成7年3月1日から平成10年1月31日までは1審被告庄清が、同年2月1日から平成13年3月31日までは1審被告大平土地が、いずれも本件店舗において、営利の目的をもって、来店した不特定多数の顧客に対し、1審被告両会社の従業員らがカラオケ関連機器を設置した部屋を指定して、各部屋において顧客に前記カラオケ機器を操作させ、管理著作物を再生、演奏し、管理著作物の複製物を含む映画著作物を上映し、また、再生された伴奏音楽に合わせて顧客に歌唱させたものであり、これにより管理著作物の演奏権及び映画の著作物において複製されている管理著作物の上映権を侵害したものと認められる。
(2) また、上記前提事実によると、1審被告Aは、1審被告両会社の代表取締役として、職務執行に当たり、1審被告両会社が違法に他人の権利を侵害することのないよう注意すべき義務があるところ、同義務に違反して、上記(1)のとおり、1審被告両会社によるカラオケ歌唱室の営業に当たり、管理著作物の演奏権及び上映権を侵害させ、これにつき悪意ないし重大な過失が存するものと認めることができる。なお、1審被告Aは、1審原告が1審被告Aに使用料の支払を求めたのは平成7年3月1日の半年か1年後であり、それまでは使用料支払義務があることを知らなかった旨主張するところ、証拠(甲13ないし16、弁論の全趣旨)によると、1審原告が1審被告ら側に対し使用料の支払を求めた最初の時期は平成7年3月1日より数か月後とみられるものの、1審被告庄清の営業開始前に本件店舗でカラオケ歌唱室の営業をしていた株式会社鈴幸は1審原告との間で管理著作物の利用許諾契約を締結していた上、一般的に、複数のカラオケ歌唱室を設けてビデオカラオケを設置し不特定多数の顧客に対しこれを操作させる等の営業を行う場合に、音楽著作物の著作権侵害が生じ得ることは、通常人が容易に予見できる事柄と認めることができるから、1審原告による使用料請求等の時期にかかわらず、平成7年3月1日の営業開始当初から、1審被告Aの上記注意義務違反行為につき、その悪意ないし少なくとも重過失を推認することができる。
(3) 以上に対し、1審被告らは、カラオケは個人が歌唱し楽しむものであり、経営者に著作権使用料を支払えというのは不当であると主張するが、上記前提事実によると、本件において、管理著作物を再生、演奏し、管理著作物の複製物を含む映画著作物を上映した主体は、顧客ではなく、本件店舗を経営する1審被告両会社であったと認めることができるから、上記主張は採用できない。
 また、1審被告らは、管理著作物に関し1審原告が設定した使用料が、1審被告らの営業状況(稼働率等)を考慮せずに一方的に定められたもので、不当に高額であること、1審原告の請求が、バー、スナック、ホテル、旅館、観光バス等、他の業態のカラオケ機器利用を放置したまま、カラオケボックスだけをねらい打ちしたもので、不公平であることを主張するが、これら主張事実のみをもって、1審原告の請求が公序良俗違反ないし権利濫用となる等同請求を妨ぐべきものと認めるには足りないのであって、上記主張は採用できない。
(4) 以上によると、1審被告両会社には、それぞれの本件店舗営業期間に応じて民法709条の損害賠償責任が生じ、また、1審被告Aには、1審被告両会社の代表取締役として、取締役の第三者に対する損害賠償責任(有限会社法30条の3、商法266条の3)が生ずることとなり、1審被告両会社それぞれの責任と1審被告Aの責任とは不真正連帯の関係に立つものとなる。
3 1審原告の損害の有無及び損害額について
(1) 上記前提事実によると、著作物使用料規定に基づく使用料の額が管理著作物の通常使用料相当額として損害額となると認められるところであり、本件においては、別紙1ないし3(原判決別紙4ないし6と同額)の使用料相当額一覧表の使用料相当額欄記載の各金額が具体的な損害額となり、また、使用料相当額欄記載の各金額に対する遅延損害金の発生日は、同各一覧表の各起算日欄記載の日であるものと認められる。
(2) 本件における上記不法行為及び注意義務違反行為と相当因果関係にある弁護士費用相当額は、1審被告庄清の営業期間中に発生した損害につき、10万円、1審被告大平土地の営業期間中に発生した損害につき、40万円を相当と認める。
(3) 以上によると、1審被告庄清の営業期間中の1審原告の損害は、149万8450円及び内139万8450円に対する上記発生日からの遅延損害金、1審被告大平土地の営業期間中における1審原告の損害は、480万0860円及び内440万0860円に対する上記発生日からの遅延損害金となる。
4 認容する請求について
(1) 1審被告らに対し、上記2の各責任を根拠に、上記3の損害額の限度で、1審原告の各請求権を認めることができる。
(2) 1審被告両会社に対する関係で、選択的に併合された代表者である1審被告Aの不法行為に基づく法人の責任によっても、上記3(3)の額を超える金額の損害を認めることはできないし、同じく選択的に併合された不当利得返還請求についても、利得の額は上記3(1)と同額となるものの、上記3(2)の弁護士費用相当額を1審被告両会社の利得と認めることはできないから、不当利得返還請求の額は上記3(3)の額を超える金額とはならないものと認められる。
(3) 1審被告Aに対する関係で、選択的に併合された民法709条の不法行為に基づく損害賠償請求を検討するに、その損害額は上記3(3)の額を超える金額とはならないものと認められる。
第4 結論
 よって、原判決中、1審被告両会社に対する請求は、不法行為に基づく損害賠償請求として、原判決認容額を超えて認容するのが相当であるから、原判決を上記に従って変更し、1審被告両会社の控訴はいずれも棄却し、1審被告Aに対する請求は取締役の第三者に対する責任に基づく損害賠償請求として、一部認容されるべきであるから、上記に従って原判決を変更し、訴訟費用の負担割合を定め、仮執行宣言を付することとして、主文のとおり判決する。

名古屋高等裁判所民事第1部
 裁判長裁判官 田村洋三
 裁判官 小林克美
 裁判官 戸田久
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