判例全文 line
line
【事件名】パチスロ機の誹謗中傷事件(2)
【年月日】平成14年6月26日
 東京高裁 平成13年(ネ)第4613号 不正競争行為差止等請求控訴事件/同年(ネ)第5552号 附帯控訴事件
 (原審・東京地裁平成12年(ワ)第19078号)
 (平成14年3月20日 口頭弁論終結)

判決
控訴人(附帯被控訴人) アルゼ株式会社
控訴人(附帯被控訴人) A
両名訴訟代理人弁護士 升永英俊
同復代理人弁護士 江口雄一郎
被控訴人(附帯控訴人) 日本電動式遊技機特許株式会社
訴訟代理人弁護士 島田康男


主文
 原判決中控訴人(附帯被控訴人)ら敗訴部分を取り消す。
 被控訴人(附帯控訴人)の請求及び本件附帯控訴をいずれも棄却する。
 訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人(附帯被控訴人、以下「控訴人」という。)ら
 主文と同旨
2 被控訴人(附帯控訴人、以下「被控訴人」という。)
(1) 本件控訴を棄却する。
(2) 附帯控訴に基づき、原判決主文第1〜3項を次のとおり変更する。
ア 控訴人らは、被控訴人の業務に関して、「日電特許(日本電動式遊技機特許株式会社)は異常な会社である。」、「日電特許(日本電動式遊技機特許株式会社)は非常に怖いことをやっている。」、あるいは、「日電特許(日本電動式遊技機特許株式会社)のやっていることは詐欺的行為である。」との陳述をし、又はこれらを記載した文書を流布してはならない。
イ 控訴人らは、原判決別紙記載の謝罪広告を株式会社遊技通信社発行の雑誌「遊技通信」に1回掲載せよ。
ウ 控訴人らは、被控訴人に対し、各自1000万円及びこれに対する平成12年9月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 当審における訴訟費用は控訴人らの負担とする。
(4) 仮執行の宣言(上記(2)ウについて)
第2 事案の概要
 本件は、控訴人会社の代表者である控訴人Aが、遊技機業界関連のマスコミ関係者に対する記者会見(本件記者会見)を行った際、被控訴人の業務に関して、「異常な会社」、「詐欺的行為」である等の発言(A発言)をした行為及びその内容を業界誌の記事(本件記事)に掲載させた行為が、控訴人らによる不正競争防止法2条1項13号所定の不正競争行為又は名誉毀損の不法行為に当たるとして、被控訴人が、控訴人らに対し、陳述等の差止め、謝罪広告の掲載及び損害賠償の支払を求めた事案である。なお、本件記者会見が持たれたのは、パチスロ機の製造業界において行われてきた「パテントプール方式」、すなわち、各製造業者等が保有する特許権等につき、被控訴人に対して集中的に再実施許諾権付き実施許諾をし、被控訴人において、一定の範囲の製造業者に対しその再実施許諾をして、その再実施料を特許権者等に還元するという特許権等の実施方法に関し、特許権等の保有者として、またパチスロ機製造業者としてこのパテントプール方式に参画してきた控訴人会社が、従来のパテントプール方式の解消及び再実施許諾権付き実施許諾契約の終了を主張するようになり、これを前提に、再実施許諾先とされる業者に対して特許権侵害訴訟(別件対サミー訴訟)を提起したことから、当該訴訟を提起するに至った控訴人会社側の言い分等を説明するものとして行われたものである。(当事者名の表記及び括弧内の用語は、下記引用に係る原判決の用例による。)
 当審においては、控訴人らが、不正競争行為の成立を認めて控訴人らに対する損害賠償請求の一部を認容した第1審判決の取り消しを求めて控訴をし、被控訴人が、第1審判決において訴えの却下がされた差止請求に係る請求の趣旨を変更するとともに、名誉毀損による不法行為を理由とする請求を追加した上、第1審判決の棄却した謝罪広告掲載請求及び損害賠償請求(第1審判決認容額である200万円を超える部分)と併せて、附帯控訴をしたものである。
 本件の前提となる事実、争点及びこれに関する当事者の主張は、次のとおり訂正するとともに、下記2、3のとおり、当審における当事者の主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」及び「第3 争点に関する当事者の主張」のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決の訂正
(1) 原判決2頁16行目の「被告A」の次に「(以下「控訴人A」という。)」を加え、同頁19行目の「風説」を「事実」に改め、3頁12行目の「発言した」の次に「(以下、本件記者会見における控訴人Aの発言を「A発言」という。)」を加える。
(2) 同4頁14行目の「風俗営業法の認可」を「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律による許可制度」に、5頁17行目の「本件記事」を「本件記事を本件雑誌に掲載させた行為(以下「本件掲載行為という。)」に、6頁13行目の「1(3)@〜C」を「1(3)イ@〜C」に、8頁12行目の「原告との」を「パテントプール方式に係る」に、それぞれ改める。
(3) 同11頁5行目の「独占禁止法」を「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)」に、12頁4行目及び21行目の「本件記事」を「本件掲載行為」に、同頁23行目の「虚偽の陳述又はそれを掲載した文書の流布の差止め」を「附帯控訴に係る訴えの変更後の差止め」に、13頁7行目から8行目までの「差止めを求める行為の内容が特定しておらず、不適法である」を「争う」に、それぞれ改める。
2 控訴人らの主張
(1) A発言の行われた背景事情
ア 一般に、「パテントプール方式」とは、特許等の複数の権利者が、それぞれの保有する特許権等又はそのライセンスをする権限を一定の企業体や組織体に集中し、当該企業体や組織体を通じてパテントプールの構成員等が必要なライセンスを受けるという方式をいう。
 本件において被控訴人の行ってきたパテントプール方式(以下「本件パテントプール方式」ということがある。)では、被控訴人の設立から数か月後の平成6年3月31日から、平成9年に至るまでの数年間、被控訴人から特許権等のライセンス又はサブライセンスを受ける加盟会社は1社も増加しなかった。他方、当時、パチスロ機マーケットにおいて、被控訴人から本件パテントプールに係る再実施許諾を受けていた約20社で100%のシェアを占めていた。すなわち、被控訴人に集積された特許権等のライセンスを受けることなしに、パチスロ機の製造販売を行うことは事実上不可能であったのであり、しかも、被控訴人は、新規参入者に対してライセンスをすることもなかったため、結果として、パチスロ機の製造販売市場における競争が実質的に制限され、同市場は独禁法3条に違反する私的独占状態にあった。
 実際、パチスロ機業界に先立ってパテントプール方式による特許権等の管理を行っていたパチンコ機業界では、平成8年3月、特許管理会社である株式会社日本遊技機特許運営連盟(日特連)、業界組合である日本遊技機工業組合(日工連)及び各メーカーに対する公正取引委員会の立入検査が行われ、平成9年6月20日、公正取引委員会は、パテントプール方式に係る新規参入の阻止は独禁法3条違反になるとして、パチンコ機メーカー10社及び日特連に対して排除勧告を行い、その応諾を経て、同年8月6日、勧告と同趣旨の審決がされた。その後、日特連及びパチンコメーカー10社は、直ちにパテントプール方式を解消し、以後、各特許権者と各メーカーとは、直接、個別に実施許諾契約を行うこととした。
イ パチスロ機業界においても、パチンコ機業界と類似する本件パテントプール方式を実施していたため、パチンコ機業界と同様、本件パテントプール方式による特許権等の管理が独禁法3条違反とされる危険性は高く、控訴人Aは、その強い危機感を抱くに至った。このため、控訴人Aは、平成8年ころから、本件パテントプール方式を解消し、個別の特許権実施許諾契約に切り替えるべきであることを、被控訴人を含む関係者に繰り返し主張した。
ウ これを受けて、被控訴人においても、本件パテントプール方式を解消しない限り、独禁法3条違反の問題を解決することはできないとの共通の認識に至り、控訴人会社と被控訴人との間の平成8年4月1日付け再実施許諾権付き実施許諾契約(乙3、以下「本件実施契約」という。)の満期終了に合意し、平成9年3月31日の契約満了日をもって、本件実施契約は終了した。仮に、合意による満期終了が認められないとしても、控訴人会社は、被控訴人に対して本件実施契約の満期満了、更新拒絶の意思表示を明確にしているので、本件実施契約が更新されることなく失効していることに変わりはない(その他の終了原因については後述する。)。
エ ところが、その後、パチスロ機業界において、公正取引委員会の調査が開始されないこと(その理由は、控訴人会社が本件パテントプール方式から離脱したことによるものと推察される。)から、被控訴人及び本件パテントプール方式加盟会社らは、一転して、本件実施契約の存続を主張するに至り、被控訴人は、本来、加盟会社に対して控訴人会社の保有する特許権等の再実施許諾をする法的根拠を失ったにもかかわらず、再実施許諾及びその実施料の徴収を従前どおり継続している。なお、控訴人会社が従来被控訴人に実施許諾をしていた特許権等は、本件パテントプール方式に係る全特許権等の50%強の経済的価値を占めるものであるが、被控訴人が再実施許諾をするに当たり、これに相当する部分を減額することもなく、従前同様、証紙(再実施許諾を受けたことを証するものとしてパチスロ機1台ごとに貼付するものとされていた。)1枚当たり2000円という再実施許諾料を維持している。
オ 本件記者会見は、このような経緯の中で行われたものである。
(2) A発言及び本件掲載行為の不正競争行為該当性について
ア 本件記者会見は、平成11年11月15日に行われ、その席で、控訴人会社は、同年10月26日、サミーに対し、特許権侵害を理由として42億円の損害賠償の支払を求める訴えを提起したことを発表した。そして、これに出席した各記者からの質問に答える形で、控訴人Aは、@対サミー訴訟に至った事情、Aパチンコ機業界におけるパテントプール方式に対する公正取引委員会の対応からすると、パチスロ機業界も同様の指摘を受けるおそれがあること、B控訴人会社は、これを避けるため、本件パテントプール方式から離脱し、今後は、各メーカーと直接、個別に特許権等の実施許諾契約を締結することとしたこと等を説明した。なお、控訴人Aは、パチスロ機を設置する店舗が全国1万数千店にも及び、パチスロの愛好家が数百万人といわれる規模の娯楽産業であること、控訴人会社が東京証券取引所の店頭公開企業であり、平成12年3月決算期の連結経常利益が842億円余という大きな金額であること等から、パチスロ業界全体の利害に係る上記の問題について、広く世間にこれを説明することが重要と考えて、諸事情を詳しく述べたものである。
イ 原判決が不正競争行為に該当すると判断した2か所の発言は、上記の説明中のものであるが、その趣旨は、「控訴人会社と被控訴人との本件実施契約が終了しているにもかかわらず、被控訴人において、控訴人の特許権等に係る再実施料相当分(全体の50%強)を控除することなく、あたかも本件実施許諾契約が継続しているかのごとくに、従前どおりの再実施料を加盟会社から徴収していることは、異常であり、詐欺的行為である」旨を述べたものである。
 そして、控訴人Aは、本件記者会見の終わりに、「好意的という言葉が正しいかどうかは別として、両者の意見を聞いて判断してください。片方の意見だけで思い込まれる傾向が、この業界は強いです。その雰囲気で、その風潮で流れで動いちゃうのがこの業界の常です。両者の意見を聞いて判断するという角度で見ていただいたら、もっと見えてくる話になるんじゃあないか」と付言しており、上記発言が、訴訟当事者としての他方当事者に対する「意見」であることを明確にしている。このようなA発言の全体から見れば、「異常ですよ」、「詐欺的行為ですよ」等の言葉が、その聴取者である業界マスコミ記者にとって、評価、論評に係る「意見」にすぎないことは明らかというべきである。したがって、本件実施契約の終了の有無が結果的に裁判所の公権的判断と反するとしても、A発言が虚偽の事実を告知、流布したものとなるものではない。
ウ また、控訴人会社が遊技機メーカーであるのに対し、被控訴人はパテントプール方式に係る特許管理会社であって、両者は、控訴人会社の保有する特許権等の許諾事業の関係で競争関係に立つものではない。
エ さらに、本件記事は遊技通信社がその判断により本件雑誌に掲載させたものであって、控訴人らは一切関与していないばかりでなく、その内容も、上記のとおり、評価、論評に係る「意見」にすぎないから、本件掲載行為は虚偽の事実の告知、流布に当たらない。
(3) 本件実施契約の終了
 A発言が、本件実施契約の終了を前提としつつ、被控訴人の営業に関して論評にわたる意見を述べたものであることは上記のとおりであるが、本件実施契約の終了という事実自体の虚偽性を問題としたとしても、以下のとおり、本件実施契約は終了しているから、被控訴人において、控訴人の特許権等について再実施許諾をする権限がないにもかかわらず、その権限があるかのように従前どおりの再実施料を受領し続けた行為を、「詐欺的行為」であるとし、「異常」と表現することは何ら不当なものとはいえない。
ア まず、本件実施契約の契約期間(契約書第7条)は平成9年3月31日までと定められているところ、契約の更新に関する条項(同第8条)は、契約期間満了後の自動更新を定めるものではなく、かつ、合意による更新の事実もないから、本件実施契約は、上記契約期間満了日である平成9年3月31日をもって終了した。
イ 次に、本件実施契約の契約書第8条は、「本契約を継続し難い特段の事由」があるときは、更新を拒否することができる旨規定するところ、本件パテントプール方式は、独禁法3条に違反するものであったから(この具体的な内容は下記(4)で詳述する。)、本件パテントプール方式を構成する本件実施契約を継続し難い特段の事由があったというべきであり、かつ、控訴人会社は、上記契約期間満了前に本件実施契約の更新を拒絶したから、本件実施契約は更新されることなく終了した。また、上記「特段の事由」は、控訴人会社と被控訴人との協議不調及び契約書第13条2項の法令遵守義務違反という点からも基礎付けることができる。
ウ さらに、仮に、本件実施契約が更新されたとしても、更新された契約は期限の定めのない契約となるところ、控訴人会社による本件実施契約を終了させる旨の意思表示は、実質的には更新後の契約の解約告知であるから、相当期間である5か月を経過した平成9年8月31日をもって更新後の契約は終了したというべきである。
エ また、上記の事実関係の下では、@本件実施契約が社会通念上履行不能となったことによる終了、A組合の脱退に関する民法678条の規定の類推適用、又はB合名会社の社員の一方的告知による退社に関する商法84条2項の規定の類推適用によっても、本件実施契約の終了は導かれる。
(4) 本件パテントプール方式と独禁法違反について
ア 本件実施契約に係る本件パテントプール方式は、同契約書(乙3)第3条により、再実施許諾先が明文により20社に制限されているため、本件実施契約を履行する限り、本件パテントプール方式は独禁法3条違反となり、又はそのおそれがある。なお、パチンコ機業界におけるパテントプール方式と比較しても、契約書の明文により再実施許諾先を制限している点で、独禁法3条違反はより明確である。また、パチスロ機を製造するには、事実上被控訴人から再実施許諾を受ける必要があるところ、当該再実施許諾を受け得るのは、日本電動式遊技機工業協同組合(以下「日電協」という。)の組合員に限られる一方で、日電協組合員になるには、パチスロ機製造業者でなければならないため、本件パテント・プールは、論理的にパチスロ機業界への新規参入を不可能とするシステムとなっている。
 しかも、本件パテントプール方式の参加者21社のうち、特許権者はわずか5社にすぎず、このことは、本件パテントプール方式が、特許権等の侵害のみならず、特許権等を持つ者と持たない者との利害調整をも行っており、競争事業者間のカルテル的機能を果たしていることを明白にしている。
イ 平成9年3月31日までの本件パテントプール方式の現実の運用を見ても、本件パテントプール方式は、パチスロ機の製造販売に必須の特許権等を含んでいたにもかかわらず、同日までに13社の新規参入希望者がありながら、再実施許諾は拒絶されており、その結果、本件パテントプールの参加者によるパチスロ機の販売シェアは、本件パテントプール方式の存在していた平成6年4月から平成9年4月まで、ほぼ100%であった。本件パテントプール方式が新規参入を阻止する極めて閉鎖的なものであったことは明らかである。
ウ 本件パテントプール方式の運用によって独禁法違反の事態を回避することは、事実上不可能であった。すなわち、本件パテントプール方式の参加者中、控訴人以外の関係者の多数は、パチスロ機1台当たり509円(売値の0.2%)という極めて低廉な談合的実施料の改定に反対していた。しかし、このような低廉な実施料をすべての新規参入者に適用することは、多くの特許権等を保有する控訴人会社にとって、市場からの退場を強要するに等しいものである。
エ なお、本件実施契約の「契約を継続し難い特段の事由」を制限的に解した場合、本件実施契約は、控訴人会社の事業を著しく不当に拘束することとなり、独禁法19条、昭和57年公正取引委員会告示第15号(一般指定)13項の「拘束条件付取引」に該当することとなる。
オ 以上の趣旨は、独禁法等の多くの専門家の意見書(根岸哲教授意見書〔乙27、60〕下森定教授意見書〔乙31、46、64〕、野村豊弘教授意見書〔乙34、41、62〕、村上政博教授意見書〔乙37〕、伊従寛元公正取引委員会委員意見書〔乙38、57〕、矢部丈太郎教授意見書〔乙39、59〕、和田健夫教授意見書〔乙42、63〕、向田直範教授意見書〔乙43、61〕、實方謙二教授意見書〔乙44、58〕、厚谷襄児教授意見書〔乙45〕、吉田克己教授意見書〔乙47〕、稗貫俊文教授意見書〔乙48、65〕等)において、一致して述べられているとおりである。
(5) 名誉毀損の不法行為について
 仮に、本件実施契約の終了が認められないとしても、以上の事実関係の下においては、A発言を内容とする本件記事を本件雑誌に掲載させた控訴人らの行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったことは明らかである上、本件実施契約が終了したとの事実を真実と信ずる相当の理由があったというべきである。したがって、本件掲載行為が名誉毀損の不法行為を構成する余地はない。
(6) 被控訴人の附帯控訴に係るその余の主張は争う。
3 被控訴人の主張
(1) 附帯控訴について
ア 業界誌としてパチスロ機業界で広く読まれている本件雑誌に「日電特許は詐欺的だ」と書かれたことにより、被控訴人の社会的評価を著しく低下させられた。したがって、A発言を内容とする本件記事を本件雑誌に掲載させた控訴人らの行為(本件掲載行為)は、不正競争防止法2条1項13号所定の不正競争行為にとどまらず、名誉毀損の不法行為をも構成するものというべきである。
イ 原判決は、本件損害賠償請求を200万円の限度で認容したにとどまるが、不当に少額であるといわざるを得ず、被控訴人が被った損害は1000万円を下らない。すなわち、遊技機器に関する工業所有権について実施権の設定及び許諾に関する事業を行っている被控訴人(日電特許)にとって、「あそこにお金を払っているのは全然意味がありません。日電特許はもう異常な会社です。」、「詐欺的行為ですよ、日電特許なんて。」、「日電特許が行っていることは、非常に怖いことを平気で行っている。」等の発言が業界記者を集めた記者会見の場で行われ、その発言が業界誌に掲載されることは、その社会的評価を著しく下落させ、信用を喪失させるものであり、特に、本件記事による被控訴人の社会的評価の低下は看過し得ないものである。被控訴人は、パチスロ機製造業者間における特許権等を巡る紛争を円満に解決することを目指し、本件パテントプール方式を構築して、特許権等の保有者から再実施許諾特約付きで実施許諾を受け、実施許諾契約関係にあるパチスロ機製造業者に対して再実施許諾をし、再実施許諾先が被控訴人の発行する証紙を購入するという形で再実施料の授受が行われ、証紙代金2000円のうち1000円を各権利者に按分して配分し、残り1000円を被控訴人の受取り分としているものである。被控訴人は、その他の業界のライセンス契約関係には関与しておらず、また、これ以外の業務による収入はないから、パチスロ機製造業界で信用を失い、特許権等の実施許諾契約関係を維持することができなくなれば、壊滅的な打撃を受け、企業の存続自体が危ぶまれる状況となる。
 同様の理由により、原判決の棄却した名誉回復措置も必要があるというべきである。
ウ 原判決は、被控訴人が原審で請求した「被告らは、原告の業務に関し虚偽の陳述又はそれを掲載した文書の流布をしてはならない」(原判決「事実及び理由」欄の第1(請求の趣旨)の2項)との差止請求部分について、陳述及び文書の具体的内容の特定がないとの理由で却下したが、当審において、これを特定する趣旨で、上記請求を前記第1の2(2)アのとおりに補充、変更する。
(2) 本件パテントプール方式と独禁法違反について
ア 控訴人らは、本件パテントプール方式が独禁法に違反するなどとして、本件実施契約の終了を主張するが、同様の争点は、本件控訴人会社を原告、本件被控訴人を被告とし、控訴人らの主張する本件実施契約の終了後に被控訴人が受領した再実施料の返還を求めた東京地裁平成12年(ワ)第3701号実施料返還請求事件及びその控訴審である東京高裁平成12年(ネ)第5707号同控訴事件、本件被控訴人を原告、本件控訴人会社を被告とし、前記再実施許諾に係る証紙代金の支払のために交付された約束手形金の支払を求めた東京地裁平成13年(手ワ)第245号約束手形金請求事件においても争われたが、いずれにおいても、控訴人らの上記主張を排斥する判決がされているところであり、その理由のないことは既に明らかである。
イ 控訴人らが提出する独禁法違反等の主張に関する意見書は、パテントプール方式がその運用の仕方によっては独禁法に違反することがあるというにとどまり、実際の運用が独禁法に違反していたとするものではない。しかも、本件パテントプール方式の対象となっていた特許権等は、実施許諾契約書の目録に掲げられた特定のものだけであるのに、これら意見書は、パテントプール方式に参加する企業の特許権等のすべてがその対象となっていたとの誤った前提に立つものである。
ウ そもそも独禁法23条は、特許権等の行使と認められる行為への同法の不適用を定めており、パテントプール方式であっても、特許権等の行使である以上、原則として同法の適用を受けない。平成11年7月30日公正取引委員会「特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法上の指針」においても、「パテント・プールもクロスライセンス同様、複数の権利者が所有する特許等を相互に使用可能とすることにより、当該特許等の利用価値を高め、権利者間の技術交流を促進するなど競争を促進する効果を有し得るものであり、それ自体が不当な取引制限として問題となるものではない」としている。
エ パチンコ機製造業界におけるパテントプール方式が独禁法3条に違反するとされたのは、その固有の運用実態に基づくものであり、本件パテントプール方式と同列に論ずることはできない。
 すなわち、特許権等の保有により市場支配力を取得するためには、通常、特許独占の対象となっている技術が重要なものであり、かつ、そのような技術が行為主体の下に多数集積されていることが必要となるところ、パチスロ機の製造については、業界自体が新しく、その規模も、競合するパチンコ業界と比較して平成7年度で設置台数が15%程度、平成9年度で18%程度であった。また、平成6年ころ、被控訴人が設立され、本件パテントプール方式が実行されたが、参加者は既存の業者21社を参集したにすぎない上、パチスロ機の業界では、技術的に突出した企業はなく、特定企業の特許権等を実施せずにパチスロ機を製造することができないという状況にはなかった。むしろ、巨大メーカーがパチスロ機の製造業界に参入すれば、既存のパチスロ機製造業者の生き残りは困難な状況にあったというべきであり、参加21社には市場支配力などない。以上のとおり、当該特許権者から許諾を受けなければ事実上適法なパチンコ機の製造ができなかったというパチンコ機製造業界の場合とは事情を大きく異にしており、私的独占の前提となる事実を欠いているものである。
 さらに、パチンコ機製造業界におけるパテントプール方式では、特許プール会社が締結する実施許諾契約に乱売禁止条項や販売価格の監視を目的とする証紙に関する条項を規定していたこと、組合員が競業機種を製造販売しようとするときは、先行組合員の事前承諾を要するものとしていたこと、価格低落の契機となり易いグループ買い商社を閉め出すため販売業者の登録制を採用していたこと、財団法人保安電子通信技術協会が行う型式試験に申請する台数につき、組合員ごとに上限枠を設けていたこと、販売業者との取引を委託販売とすることにより、販売業者が価格を自由に設定することができないようにするなどの措置を講じてきたこと等の事実が認定されているが、本件パテントプール方式では、このようなことは行われていない。
オ 控訴人らは、再実施先が実施契約書中で限定されていることをもって、新規参入が阻止されている旨主張するが、新規参入を排除する趣旨ではなく、その事実もない。実際、平成6年から平成9年までの間においても、平成6年3月11日にはエレクトロコインジャパン株式会社が、平成8年にはベルコ株式会社及びバークレスト株式会社が、それぞれ新規参入を認められている。
第3 当裁判所の判断
1 前提事実
 A発言の前提となる背景事実は、原判決「事実及び理由」欄の「第4 当裁判所の判断」の1(2)(14頁末行〜17頁13行目)のとおりであるから、これを引用する。なお、その要点について、証拠(乙10、26)及び弁論の全趣旨を総合して更に補足すると、@ A発言は、控訴人会社が主催し、控訴人会社関係者のほかは専ら遊技機業界関連のマスコミ関係者(パチンコ機、パチスロ機の業界誌の記者等)が参集した平成11年11月5日の本件記者会見における発言としてされたものであること、A 本件記者会見は、直接には、その10日前(同年10月26日)に控訴人会社が提起した別件対サミー訴訟について、その提訴に至った控訴人側の言い分を説明する場として持たれたものであること、B 別件対サミー訴訟は、控訴人会社が有するCT機と呼ばれるパチスロ機に関する特許権の侵害訴訟であり、その被告となったサミーは、本件パテントプール方式に参加する日電協組合員であり、被控訴人から本件パテントプール方式に係る特許権等の再実施許諾を受けていた者であること、C このため、別件対サミー訴訟においては、本件実施契約の解消の成否、すなわち、控訴人会社の本件パテントプール方式からの離脱の成否が争点となることは必至であったところ、この点について、控訴人会社は、平成9年6月に行われた被控訴人の取締役会及び株主総会での決議により、本件実施契約は解消され又は解消されたことが確認されたとの認識に基づいて、控訴人会社は本件パテントプール方式から既に離脱しており、したがって、以後、控訴人会社の保有する特許権等に関する限り、本件パテントプール方式に従った再実施許諾は意味を持たなくなり、控訴人会社との間の直接のライセンス契約によることなくこれを実施することは許されなくなったと考えていたこと、D 控訴人会社の主張する本件パテントプール方式からの離脱は、パチンコ機製造業者におけるパテントプール方式に対する公正取引委員会の一連の対応(平成8年3月立入検査、平成9年6月20日排除勧告、同年8月6日勧告審決)を直接の契機とするものであったこと、E 控訴人会社の主張する本件パテントプール方式からの離脱及びこれに伴う別件サミー訴訟の提起は、その請求額が巨額であったばかりでなく、従前、本件パテントプール方式に則って、再実施許諾を意味する被控訴人からの証紙の購入及び貼付という手続さえしている限り、特許権等の問題は解決済みのものとして行動していたパチスロ機製造業者にとっても、また、本件パテントプール方式の運営主体である被控訴人にとっても、その帰すうによっては、今後の業務に重大な影響を及ぼしかねないものと認識されていたこと、以上の事実を認めることができる。
2 被控訴人主張の不正競争行為の成否について
(1) 「虚偽の事実」該当性の判断について
ア A発言中、本件に関係する主な部分は、本件記者会見の録音テープの反訳書(乙10)から抜粋した別紙「A発言(抄)」のとおりであり、このうち、被控訴人が、不正競争防止法2条1項13号に規定する「虚偽の事実」を陳述するものである旨主張する部分は、その各下線部分である(以下、各下線部の注記に従って、「A発言@」ないし「A発言C」と表記する。)。
 また、被控訴人は、本件掲載行為、すなわち、本件記事を本件雑誌に掲載させた行為についても不正競争行為該当性を主張するところ、本件記事(甲1)中「虚偽の事実」に当たる旨主張する部分は、「A社長は、『保有する特許がないにも係わらず、あたかも有るようにふるまい、さらにはメーカーから会費を徴収するというのは詐欺的行為にも等しい。』と日電特許を厳しく非難しているのだが・・・」との記載部分(23頁4段目)と解される。
イ 控訴人らは、A発言及び本件記事は、評価、論評に係る「意見」にすぎない旨主張する。確かに、その発言中には、「異常」、「詐欺的」、「おかしい」などの評価的な表現も含まれているが、他方で、「(日電特許を)脱会しました」、「特許を持っていない人がお金を取っているんです」などの具体的な事実を述べていること自体は明らかであるから、これらが全体として意見ないし論評にすぎないということはできない。
 そこで、以下、上記アのとおり陳述ないし掲載された事実の虚偽性について順次検討するが、これが「虚偽」であるかどうかは、その受け手が、陳述ないし掲載された事実について真実と反するような誤解をするかどうかによって決すべきであり、具体的には、受け手がどのような者であって、どの程度の予備知識を有していたか、当該陳述ないし掲載がどのような状況で行われたか等の点を踏まえつつ、当該受け手の普通の注意と聞き方ないし読み方を基準として判断されるべきである。
 これを本件について見るに、A発言の受け手は、本件記者会見に出席した遊技機業界関連のマスコミ関係者であり、本件記者会見が、別件対サミー訴訟を提起するに至った控訴人会社側の言い分を説明するための場として持たれることを前提に、その取材という明確な目的をもって参集した者である。そして、乙10(本件記者会見の録音テープの反訳書面)に示された質問者の質問内容等に照らせば、パチンコ機製造業者におけるパテントプール方式に対して公正取引委員会の排除勧告等が行われたこと、その波及として、控訴人会社が本件パテントプール方式からの離脱を主張するようになったこと、別件対サミー訴訟の提起が、控訴人会社の本件パテントプール方式からの離脱に伴うものであることといった、上記1認定の事実の基本的な流れは、出席者らの予備知識として有していたものと推認される。また、本件雑誌は、被控訴人自身が「業界誌」であると主張するものであり、この点について控訴人らの特段の反論もないことから、その主な読者は、パチスロ機の製造販売業者等の関係者であると認めるのが相当である。そして、このような本件雑誌の読者にとって、控訴人会社による別件対サミー訴訟の提起が重大な関心事として受け止められていたことは前示のとおりであり、その背景事情を含め、予備知識として有していたものと推認される。
 したがって、本件においては、上記のような受け手の普通の注意と聞き方ないし読み方を基準として、陳述ないし掲載された事実について、真実と反するような誤解をするかどうかによって決する必要がある。
(2) A発言@について
ア A発言@は、「ちなみにA社長は日電特許を昨年、脱会された」との質問に対し、「はい、脱会しました」と答えたものである。なお、この質疑にいう「日電特許」とは、パチスロ機製造業者の間では、被控訴人の通称として用いられていたものであるが、上記の応答に引き続いての「株主としては脱会のしようがないので、とりあえず脱会はしておりませんが。」との発言にも照らすと、ここでは、被控訴人の運営する本件パテントプール方式の意味で用いられていることは明らかである。
イ 被控訴人は、当該陳述された事実の虚偽性を主張するところ、この主張は、本件実施契約は更新されて有効に存続しているにもかかわらず、本件実施契約の解消という事実を述べるA発言@は、虚偽の事実を内容とするものであるという趣旨と解される。
 しかし、A発言@は、本件記者会見の冒頭近く、出席者からの質問に直接答える形で行われたものであること、本件記者会見が別件対サミー訴訟を提起するに至った控訴人会社側の言い分を説明するために開かれたものであり、別件対サミー訴訟の提起が本件パテントプール方式からの離脱問題と密接不可分と考えられていたこと等の前記認定事実を併せ考えれば、当該陳述の受け手である本件記者会見の出席者において、A発言@を、単に本件パテントプール方式からの離脱を表明した控訴人会社の立場を説明する陳述として受け止めるであろうことは明らかであり、本件実施契約の解消という事実自体に関して、真実と反する誤解をするようなものであるとは到底いうことができない。
 そして、上記の趣旨に解する限り、A発言@において陳述された事実、すなわち、控訴人会社が本件パテントプール方式から離脱するという立場を明らかにしているという事実が虚偽であるといえないことは明らかである。
(3) A発言A〜Cについて
ア A発言A〜Cは、相互に関連する内容であるから、一括して検討する。
 A発言Aは、別件対サミー訴訟において控訴人会社が侵害品として主張したCT機に関する質問に対し、特許権の実施に関する今後の在り方を述べた(その趣旨は、特許権を実施する場合には、個別に直接の許諾を受ける運用にすべきである旨をいうものと解される。)のに続いて、「日電特許とは全然関係ありません。あそこにお金を払っているのは、何の意味か。全然意味がありません。日電特許はもう異常な会社です。みんなからお金を取っていること自体が、特許を持っていない人がお金を取っているんです。払っている人もおかしい。異常なことです。」と述べたものである。
 A発言Bは、サミー以外のCT機製造業者への今後の対応についての質問に対する回答の後半で、「日電特許が絡んでいるから、何となく安心していられるなんていうのは、もう考え方がひとつおかしいということです。詐欺的行為ですよ、日電特許なんて。別に中傷・誹謗で言おうという話ではないんですけど。いまお金を集めていることが責任持てるか、ということが一番重要なことです。日電特許が行っていることは、非常に怖いことを平気で行っている。こう見ていいんではないでしょうかね。あるいは私どものパテントの関係しないところで払っているなら、いいんですよ、問題ありません。」と述べたものである。
 A発言Cは、別件対サミー訴訟の提起が一方的であるという批判は当たらないとの趣旨を述べたのに続いて、「ですから、あまりにも一方的な格好で言われていることが異常だなというふうに、私は見ましたんで、こういうことを申し上げている。日電特許がおかしいんですよ。解約しているんですから。日電特許がお金を回収してはおかしいんです。私どもの回収機関でも何でもありません。代行業務をやらせようと思って、私どもはずっと待っていて、契約をつくろうと、こういことを考えていたんです。なかなか動かれないんで、私どもは動いた。ですから、それによって通知をしています。こういう考え方になっております。」と述べたものである。
イ 上記の発言中には、被控訴人(「日電特許」)を「異常な会社」、その活動を「詐欺的行為」ないし「非常に怖いこと」であると表現する意見ないし論評にわたる部分はあるが、「異常」、「詐欺的」、「怖いこと」と指摘する具体的な内容が、「特許を持っていない人がお金を取っている」のが不当であること、「解約しているんですから・・・お金を回収してはおかしい」ことをいう趣旨であることは、上記各発言部分だけを見ても明らかに理解し得るものである。そして、本件記者会見での発言の全体、特に、「あるいは私どものパテントの関係しないところで払っているなら、いいんですよ、問題ありません」、「私どもの回収機関でも何でもありません」等の発言部分を併せ考慮すれば、「特許を持っていない人がお金を取っている」ないし「解約しているんですから・・・お金を回収してはおかしい」とは、控訴人会社が本件実施契約を解消し、本件パテントプール方式から離脱した以上、本件実施契約に係る控訴人会社の特許権等について、被控訴人において、再実施許諾を行いその実施料を徴収する権限はないはずであるとの主張をいうものであることも明らかというべきである。そして、この主張は、まさに本件記者会見の主題である別件対サミー訴訟を提起するに至った控訴人会社側の言い分をいうものにほかならない。
ウ さらに、控訴人Aは、本件記者会見の最後で、控訴人会社関係者の「好意的にとにかく文章になるようにしてください」等の発言を受ける形で、「好意的という言葉が正しいかどうかは別として、両者の意見を聞いて判断してください。片方の意見だけで思いこまれる傾向が、この業界は強いです。その雰囲気で、その風潮で流れで動いちゃうのがこの業界の常です。両者の意見を聞いて判断するという角度で見ていただいたら、もっと見えてくる話になるんじゃあないか。」と述べているように、本件記者会見での発言が、あくまでも、別件対サミー訴訟の提起に関し、控訴人会社側の言い分を説明するものであることを改めて明らかにしているところである。
エ 以上の点を踏まえ、A発言の受け手である本件記者会見の出席者の普通の注意と聞き方という観点から検討する。
 A発言A〜C中には、被控訴人を「異常な会社」、その活動を「詐欺的行為」ないし「非常に怖いこと」であると表現する意見ないし論評にわたる部分はあるものの、A発言全体の中でとらえた場合、別件対サミー訴訟に関する控訴人会社の主張、すなわち、本件実施契約の解消に伴い被控訴人は本件実施契約に係る特許権等の再実施許諾をする権限を喪失したとの主張を、やや俗な言葉で説明したものと理解することは、少なくとも、上記1の認定事実のおおまかな流れを予備知識として有する者にとって、さほどの注意を払うことなく容易にし得るものと解される。そして、上記A発言の直接の聞き手が一般大衆であれば格別、本件においては、本件記者会見が別件対サミー訴訟を提起するに至った控訴人会社側の言い分を説明するために開催されていることを当然の前提として、しかも当該問題について一定の前提知識を有し、取材という明確な目的を持ってこれに出席した遊技機業界関連のマスコミ関係者であったことを考えると、そのような出席者の普通の注意と聞き方を基準として判断した場合、A発言A〜Cは、別件対サミー訴訟に関する控訴人会社の主張、すなわち、本件実施契約の解消に伴い被控訴人は本件実施契約に係る特許権等の再実施許諾をする権限を喪失したとの主張を、やや俗な言葉で説明したものと理解されるにとどまると解され、本件実施契約の解消という事実自体に関して、あるいは、被控訴人が「詐欺的な行為を行う異常な会社である」かどうかという事実に関して、真実に反する誤解をするような陳述であると解することはできない。
 したがって、A発言A〜Cにおいて陳述された事実が「虚偽」であるということはできない。
(4) 本件掲載行為について
ア 本件記者会見におけるA発言を内容とする本件記事を本件雑誌に掲載した直接の行為主体は遊技通信社であって、それ自体を目して控訴人らの行為ということはできない。しかし、A発言は、控訴人会社の主催する記者会見(平成11年11月15日実施)での発言であること、A発言中には、「今回の会見の中で、日電特許は詐欺的だとおっしゃいました。それは、我々が文章にしてよろしいでしょうか。」との質問に対し、「構わないんじゃないでしょうか。」と答えている部分があること、本件雑誌(同年12月20日発行)に掲載された本件記事は、この応答を踏まえたものと解される上、その引用自体、おおむね正確であること等を考えると、控訴人会社において本件記者会見を開き、控訴人Aにおいて上記内容のA発言を行い、その内容が約1か月後に発行された本件雑誌に掲載された一連の経過に照らし、これらを控訴人らによる「本件記事を掲載させた」行為(本件掲載行為)として把握すること自体は可能であると解される。
イ そこで、進んで、本件記事中の上記(1)アの記載部分に係る事実が「虚偽」といえるかどうかについて判断するに、本件記事(甲1)は、大見出しが「パチスロ特許紛争勃発/今後の許諾関係にも影響必至」、小見出しが「アルゼがサミーをCT機能の特許権侵害で42億円の賠償を求め提訴」とされており、その本文では、冒頭、控訴人会社がマスコミに向けて配信した別件対サミー訴訟の提訴に関する説明文の抜粋を引用した上、その提訴に至った事情、本件記者会見におけるA発言の紹介等をするものであり、被控訴人が「虚偽の事実」に当たると主張する上記記載部分の前後の記載は、「ここ(注、別件対サミー訴訟の提起)に至るまでは、パチスロ関連の特許を管理運営する日電特許の運営の在り方についても関連があるという。A社長は、『保有する特許が無いにも係わらず、あたかも有るようにふるまい、更にはメーカーから会費を徴収するというのは詐欺的行為にも等しい。』と日電特許を厳しく非難しているのだが、同社長によると、同じくパチンコ関連の特許管理会社である日特連が公取委から勧告を受けた際に、日電特許も今後存続していくためには、これまでのように権利者が日電特許に対し許諾し、それをメーカーに再許諾するのではなく、各特許に関する許諾関係は、その権利者との直接交渉とし、日電特許は書類の作成、許諾料の徴収など、その代行業務を行えばよいと提言してきたという。しかし、それは受け入れられず、そこでアルゼでは日電特許を脱会し、自社の持つ特許を引き上げ、自社管理することで直接交渉に応じることにしたのだという。A社長は『日電特許が(私の提言を組み入れ)代行業務へと移行していたならば、今回の件もスムースに進んでいたのかもしれないし、我々も脱会はしていなかったであろう。しかし、日電特許に加盟しているからといって、誰でもが自由に特許を使えるというのは間違った認識である。今回の問題についても、そこから来ているのかもしれない』という。※本文中のA社長のコメントは全て11月15日、アルゼ本社において行われた記者会見の席でのものです。一方、サミーは今回の件について『現在、係争中であるのでコメントは差し控えたい。しかし、双方の意見には食い違いがあるので、アルゼの要求を全面的に受け入れる訳にはいかない』としている。」というものである。
ウ 上記認定の本件記事の記載からすると、本件記事中の「A社長」の発言を引用する前記記載部分は、「パチスロ特許紛争勃発」、「アルゼがサミーをCT機能の特許権侵害で42億円の賠償を求め提訴」という本件記事のテーマに関し、その一方当事者として登場する「A社長」の言い分にすぎないことを明確にする形で引用するものであるし、その前後の記載において、控訴人Aの上記発言の背景には、パチンコ機製造機業界におけるパテントプール方式の公正取引委員会勧告を受けての本件パテントプール方式の存続をめぐる問題があったこと等を正確に指摘するとともに、他方当事者であるサミーの主張も簡単ながら併記している。すなわち、本件記事中の「A社長」の発言を引用する前記記載部分は、単に引用という形式が採られているにとどまらず、本件記事全体の趣旨や前後の文脈に照らしても、本件パテントプール方式からの離脱をめぐって係争中の一方当事者の言い分として紹介されているものであって、その言い分が真実であることを断定的に主張するものでないことは、容易に理解し得るものである。加えて、本件雑誌の主な読者であるパチスロ機の製造販売業者等の関係者において、控訴人会社とサミーとが係争中であって、双方に言い分に対立があるという程度の予備知識は有していたことは前示のとおりであるから、そのような読者の普通の注意と読み方を基準にした場合、上記記載部分に引用された「A社長」の発言内容、すなわち、控訴人会社が本件パテントプール方式から離脱した結果、被控訴人には「保有する特許が無い」状態となったかどうかという事実に関して、あるいは、被控訴人が「詐欺的行為にも等しい」行為を行っているかどうかという事実に関して、真実に反する誤解をするような内容であるということはできず、本件記事をもって掲載された事実が「虚偽」であるとはいえない。
(5) 以上のとおり、A発言@〜C及び本件記事が「虚偽の事実」を陳述ないし掲載するものとはいえない以上、A発言及び本件掲載行為が不正競争防止法2条1項13号所定の不正競争行為に当たることを理由とする被控訴人の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
3 名誉毀損の不法行為の成否について
(1) 被控訴人は、本件掲載行為、すなわち、A発言を内容とする本件記事を本件雑誌に掲載させた控訴人らの行為は名誉毀損の不法行為を構成する旨主張するので検討するに、本件記事中、被控訴人が問題としている部分は、以下のとおりである(原判決4頁4行目〜11行目)。
 「ここに至るまでは、パチスロ関連の特許を管理運営する日電特許の運営の在り方についても関連があるという。A社長は、『保有する特許が無いにも係わらず、あたかも有るようにふるまい、更にはメーカーから会費を徴収するというのは詐欺的行為にも等しい。』と日電特許を厳しく非難している」(本件雑誌23頁4段目)、「そこでアルゼは日電特許を脱会し、自社の持つ特許を引き上げ、自主管理することで直接交渉に応じることにしたのだという」(同頁5段目)
 そして、このうち被控訴人が上記のとおり「虚偽の事実」に当たると主張する「A社長」の発言を引用する記載部分以外は、単に紛争の経緯を記載したにすぎず、被控訴人の社会的評価を低下させるものでないことは明らかである。また、上記「A社長」の発言を引用する記載部分については、本件雑誌の主な読者であるパチスロ機の製造販売業者等の関係者の普通の注意と読み方を基準にした場合には、当該引用に係る発言内容、すなわち、控訴人会社が本件パテントプール方式から離脱した結果、被控訴人には「保有する特許が無い」状態となったかどうかという事実に関して、あるいは、被控訴人が「詐欺的行為にも等しい」行為を行っているかどうかという事実に関して、真実に反する誤解をするような内容であるといえないことは前示のとおりである。そうすると、本件記事がいかなる事実を摘示するものであるかという観点から考えたとしても、本件記事が、「A社長」の発言の引用の形式により、その発言内容、すなわち、被控訴人は特許権等につき再実施許諾をする権限がないのに、これがあるかのように再実施許諾をして、実施料を徴収しているという事実を断定的に主張し、その事実を摘示するものであるということはできない。そうすると、このような事実の摘示があったことを前提とする名誉毀損の不法行為が成立する余地はないというべきである。
(2) もっとも、本件記事中の「A社長」の発言の引用部分には、被控訴人の行為を指して「詐欺的行為にも等しい」と記載する部分があるところ、この部分については、被控訴人の社会的評価を低下させる意見ないし論評の表明に当たると解する余地もあるが、そのように解されるとしても、以下のとおり、控訴人らの本件掲載行為について名誉毀損の不法行為の成立を認めることはできないというべきである。
ア 特定の事実を基礎とする意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては、当該意見ないし論評を表明する行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、その意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り、その行為は違法性を欠くものというべきであり、仮にその意見ないし論評の前提としている事実が真実であることの証明がないときにも、行為者においてその事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定されるというべきである(最高裁平成9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁)。
イ 本件において、本件記事中の上記の意見ないし論評の表明は、被控訴人が特許権等につき再実施許諾をする権限がないのに、これがあるかのように再実施許諾をして、実施料を徴収しているという事実(以下「本件基礎事実」という。)を基礎としていると解される。そこで、まず、事実の公共性と目的の公益性の要件について見るに、本件基礎事実は、控訴人会社が本件実施契約を解消して、本件パテントプール方式から離脱したことを前提とするものであることが明らかであるところ、控訴人会社の本件パテントプール方式からの離脱に関する問題は、同方式に則って関係特許権等を実施してきたパチスロ機業界全体にとっての重大な影響を及ぼしかねないものと認識されていたばかりでなく、パチンコ機業界におけるパテントプール方式が独禁法3条に違反するとして公正取引委員会の排除勧告及び勧告審決を受けるなどしていたとの背景をも有するものであったことは前述のとおりであるから、本件基礎事実は、公共の利害に関する事実に係るものということができる。また、A発言が、あくまでも別件対サミー訴訟の提起に至った控訴人会社側の言い分を説明するために持たれた本件記者会見で行われたものであることを併せ考えると、控訴人らの本件掲載行為は、専ら公益を図る目的に出たものということができる。
ウ 進んで、その余の要件について検討するに、証拠(乙1〜5、16〜18、22〜24、36、40、50〜55、67、68、81、83〜86、93、94、96〔枝番のあるものは枝番を省略〕)及び弁論の全趣旨によれば、@ 本件実施契約(乙3)は、契約期間を平成9年3月31日までと定める(第7条)とともに、契約の更新について、「本契約を継続し難い特段の事由」があるときは更新を拒否することができる旨(第8条)規定していること、A 控訴人会社は、遅くとも上記契約期間満了までには、本件パテントプール方式を解消して特許権等の保有者とパチスロ機製造業者との個別の直接契約により実施許諾を行う運用に改めるべきである旨の主張を明確にしていたこと、B 控訴人会社と被控訴人とは、本件実施契約を締結するまでは、契約を更新する都度新たな契約書を作成してきたが、上記のような状況から、本件実施契約の契約期間満了後、更新を前提とする新たな契約書は作成されなかったこと、C 他方、その前後、パチンコ機業界におけるパテントプール方式が公正取引委員会において問題視され、平成8年3月立入検査、平成9年6月20日独禁法3条違反を理由とする排除勧告、同年8月6日勧告審決という経過をたどったこと、D このような動きの中で、本件パテントプール方式についても同様に独禁法違反とされるのではないかという懸念から、本件パテントプール方式の是非は、パチスロ機業界においても重大な関心事となり、同年6月11日の被控訴人の取締役会等においても議論されたこと、E この当時までの本件パテントプール方式の運用の実態として、同方式に参加し、再実施許諾を受けることのできる業者の範囲は、再実施許諾権付き実施許諾契約上明確に制限されており、かつ、その業者は、実際には日電協組合員(当時約21社)とされていたこと、F 本件パテントプール方式を構成する日電協組合員は、パチスロ機製造シェアのほとんどを占める一方、新規参入は、平成6年4月から平成9年3月までの間、例外的にしか認められていなかったこと、G このような状況は、一般経済誌においてさえ、例えば、「現在、国内にパチンコ機メーカーは19社あり、各社は日本遊技機工業組合なる業界団体を組織している。パチンコ台の仕様はさまざまな特許でがんじがらめになっており、しかも特許の使用は、この組合に加盟する各社にしか認められていない。パチスロ機の国内20メーカーも、同様の強固な参入障壁を維持しており、既存メーカー以外が組合に加盟することは事実上不可能なのだ」(平成7年8月26日発行の「週刊ダイヤモンド」30頁〔乙24〕、平成8年8月20日発行の「週刊エコノミスト」110〜111頁〔乙18〕等も同趣旨)などと評されていたこと、以上の事実が認められる。なお、根岸哲教授意見書〔乙27、60〕下森定教授意見書〔乙31、46、64〕、野村豊弘教授意見書〔乙34、41、62〕、村上政博教授意見書〔乙37〕、伊従寛元公正取引委員会委員意見書〔乙38、57〕、矢部丈太郎教授意見書〔乙39、59〕、和田健夫教授意見書〔乙42、63〕、向田直範教授意見書〔乙43、61〕、實方謙二教授意見書〔乙44、58〕、厚谷襄児教授意見書〔乙45〕、吉田克己教授意見書〔乙47〕、稗貫俊文教授意見書〔乙48、65〕等は、上記の事実関係の下においては、本件パテントプール方式は独禁法3条に違反するものであって、本件実施契約の終了を基礎付けるものである等の趣旨が記載されている。
エ 上記認定事実に照らせば、本件基礎事実を基礎として「詐欺的行為にも等しい」と表現した点は、別件対サミー訴訟とは関係のないスキャンダル等を取り上げて被控訴人の属性を批判するようなものではなく、上記のとおり、別件対サミー訴訟に関する控訴人会社の主張、すなわち、本件実施契約の解消に伴い被控訴人は本件実施契約に係る特許権等の再実施許諾をする権限を喪失したとの主張を、やや俗な言葉で説明したものと理解されるにとどまるものであって、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものということはできない。そうすると、被控訴人が、本件記事中の「A社長」の発言の引用部分の「詐欺的行為にも等しい」との意見ないし論評の表明に係る名誉毀損の不法行為を主張するとしても、控訴人会社の上記主張事実ひいて本件基礎事実が真実であることの証明があったといえる場合には、控訴人らの本件掲載行為は違法性を欠くことなるし、その真実性の証明があったとはいえない場合であっても、少なくとも、控訴人らにおいて本件実施契約は「本契約を継続し難い特段の事由」に基づく更新拒絶により終了したものと信ずる相当の理由があったというべきであり、その故意又は過失は否定される。したがって、いずれにしても、控訴人らの本件掲載行為について名誉毀損の不法行為の成立を認めることはできない。
4 結論
 以上のとおり、被控訴人の請求は、附帯控訴に係る部分を含め、いずれも失当としてこれを棄却すべきである。
 よって、以上の判断と結論を異にする原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消し、被控訴人の請求及び本件附帯控訴をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条2項本文、61条を適用して、主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第13民事部
 裁判長裁判官 篠原勝美
 裁判官 長沢幸男
 裁判官 宮坂昌利


A発言(抄)
 こちらから記者会見をするという発表をしたんで、お集まりいただいて、こちらからお話をしなければならないんですが、この業界についての様子の中で、いま問題がいろいろ・・・。まあプラスもマイナスもあるというのは、SANKYOさんのパチスロの参加というのが一つ大きな話題ではないか。それからもう一点。実は、特許の問題で、里見さん(注、サミーの代表者)と私どもが争っている。この辺の流れ、特許会社も含めてどうなのか。この辺に対するお話。それから・・・(中略)
 ─ちなみにA社長は日電特許を昨年、脱会された。
   はい、脱会しました。(注、A発言@)
 ─A社長だけが脱会ですか。
 株主としては脱会のしようがないので、とりあえず脱会しておりませんが。会社に対しては、これまではずっと「代行業務をやりなさい」と論評しておりまして、そのために、決めた日より延び延びとなって、穏やかにやろうとしてきたんです。それが、どうも先方の態度がはっきりしない。社長というのも、何か言葉がはっきりしない。そんな格好に入ってしまったところがあるんで、これは難しいなということで考えた。
 ─ 既存の残っているパチスロメーカー、日電特許に残っているメーカーさんとA社長さんは、うまくやっているんですか。
 皆さんに通知を出しています。特許について、こういうふうになっておりますよと、出しております。ですから、各メーカーも皆さん同じように、私どもは脱会して、こういう格好でいくということを通知しております。
 (中略)
 というよりも総会で決めていますから、そのことを。(中略)日電特許は決議したわけです。そのことに基づいて動きが出ているんだなということは、皆さんご存じなはずです。
 ─日電特許の管理運営をしていくというのは、ほとんどA社長の・・・。
 いや、もう管理運営は任せていません。全部断っています。通知を出しております。はい。ですから、日電特許は特許を持っていません。日電特許が許諾を受けて、再許諾を各メーカーにやっていったというのは、過去の流れなんです。ですから、平成9年度までの実績の中では、そういうことがあったということです。それで、こういう具合にしましたよということは、はっきりと通告を申し上げました。
 ─ということは、今後はパチスロメーカーというのは、アルゼさんが持っている特許を、許諾を受けて機械をつくっていく。
 それは普通だと思います。
 (中略)
 ─今回の問題のCT機なんですが、そもそも日電協が自主規制対策機として始めたと思うんです。その中で、特許についての質問とか、そういった問題は出てこなかったんですか。
 特に出てません。特許問題というのは、いま申し上げたように、もともとメーカーがやっぱりきちんと自分たちで考えるべきで、私自身もうかつだったのは、特許をその時点で意識していなかった。全く意識してなかったんです。その後、この問題を整理していく中で、特許というものをこういうふうに請求しますよと、こういうことが起こってきた。こういうふうになってきたんです。
(中略)
 全体に対する私どもが求めているのは、うまくやりましょうという姿勢があるなら、きっちりと話をください。なければ私どもどんどん訴訟をしていきますよ。我慢はしませんよということを言っているだけです。そういう意味の立場です。いやCT機がどうのこうの・・・。この1点や2点だけを論議して、どうのこうのということで今後を考えているということではなくて、あくまでも基本的には許諾をしますよ。使わせませんとは言いません。使わせてください。お金を払ってください。うまくやりましょう。いま私が申し上げるのは、我々がこれだけパテントを努力してきたパチンコ、パチコンという格好について、もう6000円払いたいです。そういうことを、皆さんの前で堂々と申し上げているとおりです。それが、あるべき姿です。
 ─では、さっきの・・・。
 例えば、私どもがこれはいいですよ。これ以外は全部だめですよというふうに決めたら、簡単なんです。つくれません。ですから、いま日電特許が入っているからいいだとかこうだとか・・・。日電特許とは全然関係ありません。あそこにお金を払っているのは、何の意味か。全然意味がありません。日電特許はもう異常な会社です。みんなからお金を取っていること自体が、特許を持っていない人がお金を取っているんです。払っている人もおかしい。異常なことです。(注、A発言A)
 ─今度ですけど、今回はサミーさんにこういう訴訟を起こされておられますけど、ほかの例えばメーカーさんには・・・。
 今後はあります。はい。同じような格好でこられたら、同じように対処してきてます。当然、特にどこがということではありません。里見さんを訴えたことだけということではありません。あくまでも私どもの特許に対する一つの考え方に対して、明確なものを考えている。その枠内で物を見ている。
 (中略)
 ─CT機で(中略)例えば、ネットさんですとか、パイオニアさんですとか、ほかの既にCT機を出されているメーカーのいまの対応というのは、どうなんですか。
 ネットさんにも訴訟を起こしていますよ。
 ─ そうですか。
 次に、次々起こってくるんではないですか。これはもう極めて、自動的に行います。なぜって、最初は「どうですか」というお伺いからいくんです。回答をください。回答が来ないんです。無視されているから、訴訟になっていくんですよ。ですから、そういう段取りは必ずしています。他のメーカーにある程度、その通知は届いていると思います。
 皆さん多分今まで片方から聞かれているから、何でそんな強引なことをやっているんだとか、おかしいじゃあないか。組合で決めたものをこうだとか・・・。里見さんの言葉に振り回されているところがあると思います。もともとそうじゃあないんだということを、よくご理解していただきたい。本当にパテントという問題は、要するに一つや二つの問題でなくて、訴えるほうは幾つかの中の一つに勝負をかけることがありますよ。1点で勝負をかけて、それで次々と追いかけて出していく、こういう意味なんです。
 里見さんも公開される予定があるんだから、特許の問題をクリアに、やっぱりすっきりさせておくべきなんです。日電特許に私ども脱退勧告をきちんと出しているわけです。それを知らないなんてことはおかしいであって、日電特許、どうのこうのという会社とは全く関係のない話です。全然関係ない話です。日電特許が絡んでいるから、何となく安心していられるなんていうのは、もう考え方がひとつおかしいということです。
 詐欺的行為ですよ、日電特許なんて・・・。別に中傷・誹謗で言おうという話ではないんですけど。いまお金を集めていることが責任持てるか、ということが一番重要なことです。日電特許が行っていることは、非常に怖いことを平気で行っている。こう見ていいんではないでしょうかね。(注、A発言B)あるいは私どものパテントの関係しないところで払っているなら、いいんですよ、問題ありません。
 (中略)
 ─ということは、ホールに対しては告訴状を出す可能性はない、ゼロということですか。
 里見さんがとことん交戦することになると、やっぱり、そういうことはあり得る。(中略)1社でなくてみんなで結束して応じなかったら強いんだ。こういう格好で出られたら、当然やっぱり我々としても戦いに勝つための手段として、合法的に許された範囲のすべてを使うということも起こり得る話です。だから、起こらないとは申し上げられません。起こり得る可能性はある。ただし、まともにいったら、そんなことをする必要性はないですよ。
 これ簡単な話なんです。高い安いではなくて、払う気になれば、払ったほうが何倍か楽です。(中略)ですから、人が考えたものを使っているんです。これは、払うのが当たり前なんです。現時点での物を見ても、私は払うのが普通であって、異常に払わないで頑張ったら、何とかなるだろう。これはないでしょう。こういうふうに申し上げているだけです。別にむきになっているという意味ではないんです。ただ私ども誤解を与えないで、すっきりした話で理解していただきたいということで、きょうは臨んだということです。
 私どもの話が一方的であるかどうかという判断は、皆さんが勝手にされることになると思うんですが、ただ、私どももパチンコに関しては、パテントを使って、お金を払っていきたい。これははっきり表明してきます。そういう意味での姿勢を持っています。
 (中略)
 一方的だという話だけはおかしい。事前に資料を持ち込んで、皆さんにお見せしているのは、その意味でこういう流れですよということをお見せしただけです。けれども、きちんと裁判所に出して、判こもついているものを出しております。内容証明で送ったものは、日付確定まで全部ついております。おわかりのとおり、決して内容証明を出していないとか、通知をしていないとか、いきなり訴状だけで勝負したとか、そんなことはございません。
 ですから、あまりにも一方的な格好で言われていることが異常だなというふうに、私は見ましたんで、こういうことを申し上げている。日電特許がおかしいんですよ。解約しているんですから。日電特許がお金を回収してはおかしいんです。(注、A発言C)私どもの回収機関でも何でもありません。代行業務をやらせようと思って、私どもはずっと待っていて、契約をつくろうと、こういことを考えていたんです。なかなか動かれないんで、私どもは動いた。ですから、それによって通知をしています。こういう考え方になっております。
 (中略)
 ─ちょっと、日本の特許に関する業界の風習というものを変えていこうと思っていらっしゃるんですか。
 いや、そんなことはありませんよ。もともと、特許会社という形態が異常なんで、勧告を受けているんです。
 ─それは、日電特許さんところは受けていないんですか。日特連さんが受けている。
 全く同じ形態ですから・・・。ですから、勧告を受けますよ。将来においてこういう形態は異常ですよ。そのことは個人の問題でいいと思います。それを速やかにやめるほうに持っていくのなら、むしろ組合員でやっていこうということでしたら、代行という形でうまく日電特許を使って、上手に動いていれば良かったんです。
 (中略)
 率直に言いまして、もし業界が新しいものを絶対仲間にしないような格好で閉鎖的に動くんだとしても、むしろ今までの形というのは、それが一番問題になって、批判を受けたんです。逆に言うと、本当に個人が取ったものというのは、新規組を入れないだろうと。なぜって、私は面識がないから嫌だと。これできるんです。
 ですから、逆に言うと、本当の意味で業界を防衛するなら、個人特許に戻すべきでしょうねと。市場に対して開放的であるかどうかは別にしましても、そういう考え方ということも含めて、この考え方をきちんと理解したほうがいいですよ。今までの勧告に対しては、勧告を受けるのは、日電特許だけでなく、メーカー、所有者です。そういう意味では、回答書をすっきりしなければいけない。それが、公開会社が前段で受けているということに対して、我々がもし同じような勧告を受けて、直さないなら、やっぱり、どれだけの批判が出るか。そのことは、公開会社として、我々の大きな問題なんです。
 その意味では、前者があって、勧告を受けて、同じことをやっていて、懲りずにまた同じことをやっているということは、これは社会的な批判を受けるということになる。私どもは、やっぱり、これは冷静にきちんと見て、業界のある形の存在感、うまくそこをやりたい。というのが、私どもの基本的な理念だったわけです。
 (中略)
 ─今回の会見の中で、日電特許は詐欺的だとおっしゃいました。それは、我々が文章にしてよろしいでしょうか。
 構わないんじゃあないでしょうか。日電特許のあり方として、例えば、私どもの特許でないものを預かって、それを徴収されているのは別ですけれども。それ自体、金額は2000円ということで走っているけれども、ちょっとおかしいと思います。私どものを外して、減額して、そのわずかでおやりになっているならいいじゃあないですか。
 (注、控訴人会社関係者の「好意的にとにかく文章になるようにしてください」等の発言に続いて)好意的という言葉が正しいかどうかは別として、両者の意見を聞いて判断してください。片方の意見だけで思いこまれる傾向が、この業界は強いです。その雰囲気で、その風潮で流れで動いちゃうのがこの業界の常です。両者の意見を聞いて判断するという角度で見ていただいたら、もっと見えてくる話になるんじゃあないか。(以下略)
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/