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【事件名】ゲームボーイソフトの商標権侵害事件
【年月日】平成14年5月31日
 東京地裁 平成13年(ワ)第7078号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 平成14年4月8日)

判決
原告 株式会社シスコンエンタテイメント
訴訟代理人弁護士 菅谷徹
被告 株式会社タム
訴訟代理人弁護士 三山裕三
同 楠見昭夫
同 伊達雄介


主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、原告に対し、金3284万円及びこれに対する平成13年3月21日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、被告に対して、原告の有する商標権に係る商標と同一の標章を付してゲームソフトを販売する被告の行為が商標権を侵害するとして損害賠償を請求した事案である。
1 前提となる事実(証拠を示した事実を除き、当事者間に争いがない。)
(1) 原告は、次の商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件商標」という。)を有する(甲2)。
 登録番号 第4455006号
 出願年月日 平成12年10月12日
 登録年月日 平成13年2月23日
 商品の区分 第9類
 指定商品 家庭用テレビゲームおもちゃ
 登録商標 ぼくは航空管制官(標準文字)
(2) 被告は、平成13年3月21日から、ゲームボーイアドバンス(携帯用ゲーム機)版ビデオゲーム用ソフト(以下「被告ソフト」という。)を販売している。被告ソフトの外箱には「ぼくは航空管制官」との文字が表記されている(以下、「ぼくは航空管制官」の標章を被告標章という場合がある。)。被告標章は、本件商標と同一である。
2 争点及び当事者の主張
(1) 商標的使用の有無、商標権の効力の及ぶ範囲
(原告の主張)
ア 被告標章「ぼくは航空管制官」は、以下のとおり、単にゲームの内容を説明するために表記されたものではなく、自己の商品と第三者の商品を識別するために付されたものであって、商標的に使用されている。
 被告ソフトは、単に航空管制官の日常業務をモチーフとしているのではなく、プレーヤーが満足できるような様々なゲーム性(各飛行機の離着陸の順番を決定するパズル的要素、天候変化に対する戦略的要素など)を取り込んだゲームソフトである。
 ところで、単にゲームの内容を説明する目的で付されるのであれば、例えば、「航空管制シミュレーション」や「航空管制官ゲーム」等の航空管制官の業務を素材としたゲームであると理解されるような表記が考えられる。しかし、被告標章「ぼくは航空管制官」は、ゲームの内容を説明させる表記方法ではない。
 被告標章は「ぼくは」と「航空管制官」の2語が結合した構成であり、「ぼくは」を付することによって、明らかに一般的な説明とは異なる独自の主体的個別化表現が用いられている。
イ 被告標章は、上記と同様の理由から、商品の普通名称、品質等を普通に用いられる方法で表示するものではない。
(被告の主張)
ア 被告標章は、以下のとおり、単にゲームの内容を説明するために表記されたものであって、商品を識別するために付されたものではないから、商標的に使用されていない。
 被告ソフトは、プレーヤーが航空管制官として空港における管制業務(飛行機の離着陸の管理)を行うという内容のシミュレーションロールプレイングゲームであり、あたかも航空管制官になったかのような体験ができるものであって、被告標章「ぼくは航空管制官」はゲームの内容を端的に表すものにすぎない。
 被告標章は、自他商品識別機能及び出所表示機能を有しない態様で使用されているから、その使用態様は、商標的な使用ではない。
イ 被告標章は、上記と同様の理由から、被告商品の普通名称、品質等を普通に用いられる方法で表示するものであり、法26条1項2号の規定により本件登録商標の効力は及ばない。
(2) 原告の本件商標権に基づく請求は権利濫用に当たるか(抗弁)。
(被告の主張)
ア 本件商標権取得の経緯
 株式会社テクノブレイン(以下「テクノブレイン社」という)は、平成10年8月、航空管制シミュレーションゲームソフトをパソコン用に開発して、「ぼくは航空管制官」のタイトルを付して発売(以下「テクノブレイン社ソフト」という)した。テクノブレイン社ソフトは、人気を博して大ヒット商品となり、「ぼくは航空管制官」の標章は、テクノブレイン社の開発したテクノブレイン社ソフトを指すものとして、全国的に著名となり、同テクノブレイン社ソフトは海外にまで輸出されるに至った。
 テクノブレイン社は、テクノブレイン社ソフトが成功したことから、テクノブレイン社ソフトをプレイステーション(家庭用テレビゲーム機)版へ移植することを計画した。テクノブレイン社と原告とは、平成11年6月9日付けで著作権許諾契約を締結し、テクノブレイン社は、原告がプレイステーション版ソフト「ぼくは航空管制官」(以下「原告ソフト」という。)を開発・販売するための協力をした。
 その後、テクノブレイン社は、ゲームボーイアドバンス版ソフト(被告ソフト)については、原告ではなく、被告に対して、その製造、販売の許諾を与えた。
 ところが、原告は、被告がゲームボーイアドバンス版である被告ソフトを発売する直前の平成13年2月23日に、ライセンサーであるテクノブレイン社の何らの許諾なく、無断で、本件商標の登録を得た。
 原告は、テクノブレイン社の代表者であるAが、原告代表者のBに対し、原告の商標登録出願を許諾する意思を伝えたと主張するが、そのような事実はない。
イ 被告の被告ソフト発売
 被告は、前記のとおり、テクノブレイン社から、被告ソフトを販売することについての許諾を受けている。原告及び被告は、共にテクノブレイン社のライセンシーという立場である。しかし、原告は、テクノブレイン社の再三にわたる中止要請にもかかわらず、本訴を提起した。なお、現在、原告とテクノブレイン社との間の前記著作権許諾契約は解除されている。
ウ このように、「ぼくは航空管制官」との標章が、業界内において、テクノブレイン社の商品(テクノブレイン社ソフト)であることを表す標章として周知であるばかりか、原告も、ライセンシーとして、原告の商品の標章ではなく、テクノブレイン社の商品の標章であることを認識しているにもかかわらず、テクノブレイン社の被告に対するライセンスの円滑な実施を妨げるために、同社に無断で本件商標に係る登録出願をした。本件商標権に基づく損害賠償請求は、権利の濫用として許されない。
(原告の反論)
ア 原告の広告宣伝と顧客の本件商標に対する認識
 原告は、平成11年6月9日、テクノブレイン社との間で、原告ソフトの開発販売について著作権許諾契約を締結した。原告は、平成11年9月ころから平成12年5月ころまでの間、家庭用テレビゲーム機市場において、莫大な費用を投入して、原告ソフトの販売に当たり、各業界雑誌、新聞、テレビ等に、約6565万円もの宣伝費を掛けて広告した。原告が上記の多大な宣伝活動を行ったため、「ぼくは航空管制官」の標章は、原告ソフトを示すものとして、家庭用テレビゲームおもちゃ業界において著名になった。
イ 原告のソフト開発の独自性
 原告は上記著作権許諾契約締結後、平成11年12月の発売までの間に、原告ソフトについて独自に開発を重ねた。
 原告ソフトに反映されている代表的な独自性は @パソコン版の難易度の高い操作系を廃止し、簡単な操作系で航空世界を楽しめるようにしたこと、Aステージが追加されていること、B画面構成、アイコン等の変更及び追加があること、C飛行機と航空管制官の通信中でも操作を可能にしたこと、Dサウンドを追加したこと等である。
ウ 商標登録出願についてのテクノブレイン社の許諾
 家庭用テレビゲームおもちゃ業界においては、近時ゲームソフトの模倣品、侵害品が多く出回るようになっている。ゲームソフト業界において、ソフトのタイトルについて商標登録出願をすることは、一般的であり、常識的なことである。原告は、自己の取り扱うすべてのゲームソフトのタイトルについて商標登録出願を行ってきた。原告は原告ソフトのタイトルについても、通常どおり第三者からの無用の商標権侵害を防止するために商標出願を考えた。しかし、テクノブレイン社との間で著作権許諾契約を締結していたため、原告代表者Bは、平成11年夏ころ、テクノブレイン社代表者のAの意思を確認するため、テクノブレイン社が商標登録出願をする意思がなければ、原告が商標登録すると伝えた。これに対し、Aは、原告が商標登録出願しても構わないと回答した。
(3) 損害額
(原告の主張)
ア 主位的主張
 被告は、平成13年3月21日、被告ソフトを発売し、次のとおり、少なくとも3284万円の利益を得た。被告が原告に対して賠償すべき損害額は3284万円である(法38条2項)。
 売上高 5,800円(販売単価)×70%(問屋への卸値)×18,000本=73,080,000円
 製造経費 1,680円(ロム代等)×18,000本=30,240,000円
 売上総利益(粗利) 42,840,000円
 販売管理費(人件費・開発費・宣伝費等) 10,000,000円
 営業利益(純利益) 32,840,000円
イ 予備的主張
 被告が原告に対して賠償すべき損害額は、本件商標権についての使用料である1044万円が相当である。
 使用料相当額 5,800円(販売単価)×10%(使用料相場)×18,000本(販売量)=10,440,000円
(被告の反論)
 争う。
第3 争点に対する判断
1 争点1(商標的使用の有無、商標権の効力の範囲)について
(1) 事実認定
 前提となる事実、証拠(各認定部分に表記した。なお、枝番号の記載は省略する。以下同様である。)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、これを覆すに足る証拠はない。
ア 被告ソフトは、プレーヤーが、実在する複数の空港を想定して、飛行機離発着等に関する管制業務を担当する航空管制官の業務を体験するシミュレーションゲームであり、携帯ゲーム機であるゲームボーイアドバンス版として開発・販売されたゲームソフトである。被告ソフトは、実際の空港や航空機などをデフォルメした画像を通して、各空港における滑走路の状況、気象条件や各航空会社の運行スケジュールなどを考慮しながら、航空管制官としていかに正確かつ適切な運営を行うことができるかを競うものである(争いない)。
イ 被告ソフトは、約8センチメートル(縦)×約13センチメートル(横)×約2センチメートル(高さ)の大きさの外箱に入れられて販売されている。箱表面の右中央には、上から順に、@「航空管制シミュレーションゲーム」との文字が紺色で小さく、Aその下方に、「ぼくは航空管制官」の文字が、約1センチメートル(縦)×約7.5センチメートル(横)の範囲にオレンジ色で大きく、Bその下方に、滑走路の図柄が直線上に小さく、それぞれ表記されている。箱表面のその他の部分には、「ゲームボーイアドバンス」との文字、著作権者としてTechnoBrainCO,LTDの文字、発売元として「TAM」「株式会社タム」の文字、テクノブレイン社の登録商標である「Lichterfelde」の文字、航空機や空港等の絵などが、それぞれ表記されている(甲3、5、乙1)。また、箱の側面(3箇所)及び裏面にも、「ぼくは航空管制官」の文字が表記されている。
(2) 判断
 以上認定した事実、すなわち、@被告ソフトの外箱の表面、側面及び裏面に、「ぼくは航空管制官」の文字が、大きくかつ目立つ色で表記されていること、A被告ソフト及びその外箱には、「ぼくは航空管制官」の文字を除いて他に、被告ソフトと他社の商品とを区別するための標章は存在しないと解されること、B「ぼくは航空管制官」の文字の上方には「航空管制シミュレーションゲーム」と記載されているが、被告ソフトの内容は、同記載によって端的に説明されていると解されること等の点を総合すれば、被告標章「ぼくは航空管制官」部分こそが、自他商品を識別するための標識としての機能を果たしているというべきである。
 以上のとおり、被告標章は、被告ソフト又はその出所を識別するために付されたものであって、商標的に使用されていると解される。また、上記認定した使用態様に照らすならば、被告標章は、商品の普通名称、品質等を普通に用いられる方法で表示されたものと解することもできない。
 被告の主張は採用できない。
2 争点2(権利の濫用)について
(1) 事実認定
 前提となる事実、証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、これを覆すに足る証拠はない。
ア テクノブレイン社によるテクノブレイン社ソフト販売の経緯
(ア) テクノブレイン社は、平成10年8月、航空管制官の業務に関するシミュレーションゲームである「ぼくは航空管制官」のパソコン版(テクノブレイン社ソフト)を開発し、発売した(争いがない)。テクノブレイン社ソフトは、プレーヤーが、実在する複数の空港を想定して、飛行機離発着等に関する航空管制官の業務を体験するシミュレーションゲームであり、実際の空港や航空機などをデフォルメした画像を通して、各空港における滑走路の状況、気象条件や各航空会社の運行スケジュールなどを考慮しながら、航空管制官としていかに正確かつ適切な運営を行うことができるかを競うものである。テクノブレイン社は、テクノブレイン社ソフトを製作、販売するに際して、実在の航空会社の航空機の機体画像を使用することについて、複数の航空会社からの許諾を得たり、また財団法人航空交通管制協会から監修を受けるなどした(乙5、14、18)。
(イ) テクノブレイン社は、テクノブレイン社ソフトにつき、平成10年末には想定する空港・航空機を追加するキットであるパワーアップキット1を、同11年5月には同趣旨のパワーアップキット2を発売するとともに、中国語版も発売するなどした(乙18、26)。また、平成11年12月には、コンビニ版「ぼくは航空管制官」を発売し、コンビニエンスストアで販売するなどした。
 テクノブレイン社ソフトのシリーズは、合計15タイトル余りが発売され、平成10年9月1日から同13年9月1日までに13万3300本余りが販売された(乙4、7、18)。
 このように、テクノブレイン社発売のテクノブレイン社ソフトは、人気を博し、大ヒット商品となり、著名な大型小売店でのパソコンソフトの部門別週間販売実績で1位となるなどの成績を収めた(乙4)。また、航空関係など各種雑誌にも、テクノブレイン社によりパワーアップキットなどを含む一連のテクノブレイン社ソフトのシリーズの広告が掲載された(乙26)。
イ テクノブレイン社の原告に対するゲーム製作等の許諾
(ア) テクノブレイン社は、平成11年6月8日、原告に対し、ゲームソフト「ぼくは航空管制官」の製作、販売に関して許諾を与えた(乙3)。すなわち、テクノブレイン社は、原告が、ゲームソフト「ぼくは航空管制官」のゲーム内容、グラフィック、音声を使用して、プレイステーション向けゲームソフト「ぼくは航空管制官」を開発して、プレイステーション版ソフトを、非独占的に製作、販売することについて許諾を与えた。
(イ) 原告は、上記許諾契約に基づき、テクノブレイン社から製品化に必要な飛行機や飛行場のグラフィック画像や、ゲームシナリオの提供を受けるなどした(乙18)。また、テクノブレイン社は、航空会社から受けた航空機のグラフィック等に必要なライセンスについて、原告に対する再許諾に関して覚書を締結するなどした(乙21)。
(ウ) 原告は、平成11年12月、同許諾契約に沿って、プレイステーション版「ぼくは航空管制官」を発売した(争いがない)。
 テクノブレイン社は、原告がプレイステーション版「ぼくは航空管制官」を発売するに当たり、ゲーム内容を監修し、登場キャラクターについてチェックを行ない、一部キャラクターについては変更させるなどした(乙13、18)。原告は、テクノブレイン社に対し、上記著作権許諾契約に基づき、著作権許諾料算定のため、4半期毎に、販売実績を報告した。平成12年12月31日までの、各4半期間についての販売報告書によれば、支払い済みの最低責任販売数量50000本分を超える販売実績はなく、追加の著作権許諾料の納付はされていない。これによれば、平成11年12月1日から平成12年12月31日までの原告ソフトの販売本数は、47714本である(乙15)。
ウ テクノブレイン社の被告に対するゲーム製作等の許諾
(ア) テクノブレイン社は、高性能の携帯用ゲーム機である「ゲームボーイアドバンス」が任天堂より発売されることを知り、「ぼくは航空管制官」をゲームボーイアドバンス版に移植する計画を立てた。テクノブレイン社は、まず原告に対して製作等の許諾を受ける意向があるかについて打診したが、原告が許諾を受ける意思がない旨回答したため、被告に対して許諾することにした(乙18。なお、原告は、テクノブレイン社から、ゲームボーイアドバンス版へのライセンスに関して何ら連絡を受けたことはない旨主張するが、同主張に沿う証拠はない。)。
(イ) 被告は、平成12年8月24日、商品展示会「任天堂スペースワールド2000」において、ゲームボーイアドバンス版ゲームソフトについて「ぼくは航空管制官」のタイトルで発売することを発表し(乙18、22、30)、平成13年3月21日、被告ソフトを発売した(争いがない)。
エ 原告の本件商標出願等の経緯
(ア) 原告は、平成12年8月24日に「任天堂スペースワールド2000」が開催され、被告ソフトの発売が公表され、これを知った直後である平成12年10月12日、テクノブレイン社の許諾を得ずに、本件商標の出願手続を行った。原告は、早期審査の請求を行い、平成13年2月23日に本件商標権は登録された。
(イ) この点、原告は、被告による被告ソフトの発売を知った時期は、平成12年12月ころである旨主張する。しかし、原告の主張は、以下のとおりの理由により採用できない。すなわち、@上記「任天堂スペースワールド2000」は、新製品であるゲームボーイアドバンスに関連して開催されたイベントであり、ゲームソフトの販売を行う業者である原告が、その状況を知らないことは不自然であること、A原告は、早期審査の請求を行った事情として、被告ソフトが被告により、平成13年春発売予定であることを理由としていること(乙4)、B原告は、平成13年2月及び3月、被告に対して、著作権侵害及び不正競争防止法違反を理由として、二回にわたり警告を発したりして、被告の動向を牽制していること等の一連の経緯に照らすならば、前記原告の主張は採用できない。
(ウ) テクノブレイン社は、平成13年4月6日、本件商標につき、法3条、4条1項10号、同19号に該当することを理由として、特許庁に対し、商標登録異議の申立てを行った(乙4)。
 平成13年12月26日、本件商標権の登録を維持する旨の決定がされた(甲22)。
(エ) テクノブレイン社は、平成13年4月16日、主位的には原告との著作権許諾契約を解除する旨、また、予備的には平成13年6月8日で契約期間が満了することに伴って解約する旨、意思表示をした(乙42)。
オ 本件商標出願に対するテクノブレイン社の許諾の有無
(ア) 原告は、平成11年7月ころ、テクノブレイン社の代表者であるAから、原告が本件商標出願をすることにつき許諾を得たと主張し、それに沿う内容の原告代表者の陳述書の記載もある(甲20)。
(イ) しかし、上記主張に係る事実は、以下のとおりの理由により認めることはできない。すなわち、@テクノブレイン社の代表者Aは、原告の代表者であるBと幾度となく協議をしたが、平成11年7月ころ、原告社員同席のうえ協議をしたこともないし、また、原告に対して本件商標出願を許諾したこともないと、許諾について明確に否定していること(乙30)、Aテクノブレイン社と原告との間において、本件商標の出願の許諾について、対価その他の許諾条件や詳細について何らの取決めがされていないのは不自然であること、Bテクノブレイン社が原告に対して、口頭で本件商標出願の許諾を与えるのは不自然であること、C原告が本件商標出願したのは、許諾を受けたと主張する時期(平成11年7月)から1年以上経過した後の平成12年10月12日であり、極めて不合理な行動であると考えられること、Dテクノブレイン社は、原告が本件商標登録をした直後に、商標登録異議の申立てを行っていること等の事実に照らすならば、原告の主張は到底採用できない。
(2) 判断
ア 上記の事実によれば、原告の被告に対する本件商標権に基づく請求は、権利濫用に当たり許されない。すなわち、
(ア) まず、「ぼくは航空管制官」の標章は、以下のとおり、テクノブレイン社に由来するものである。すなわち、@同標章は、テクノブレイン社が、航空管制官の業務についてのシミュレーションゲームであるテクノブレイン社ソフトとして開発、販売し、大ヒット商品となった結果、テクノブレイン社ソフトを示す標章として周知となったこと、Aこれに対し、原告は、プレイステーション版「ぼくは航空管制官」の開発・販売について、テクノブレイン社から非独占的に許諾を受けたライセンシーにすぎず、原告とテクノブレイン社との著作権許諾契約は、上記プレイステーション版ソフトの開発、製作、販売に限られていること、Bテクノブレイン社は、自ら開発したゲームソフトである「ぼくは航空管制官」について、各種のゲーム機等に対応する各種のソフトの開発、製造、販売を他社に許諾することも自由にできること、C被告は、前記のとおり、テクノブレイン社から、被告ソフトを販売することについて、正当に許諾を受けていること、D原告及び被告は、共にテクノブレイン社のライセンシーという立場であること等の事実に照らすならば、「ぼくは航空管制官」の標章は、テクノブレイン社の商品(又は同社の許諾を受けた商品)であることを示す標章と解すべきであり、原告の独自の商品を示す標章ということはできない(なお、テクノブレイン社と原告との間のプレイステーション版「ぼくは航空管制官」に関する著作権許諾契約は、遅くとも平成13年6月8日までに解除ないし解約され、現在は両者間に有効な契約が存しない。)。
(イ) 次に、原告の本件商標権に基づく請求は、公正な動機に基づくものとはいえない。すなわち、@原告は、被告が平成12年8月24日に、被告ソフトの発売を公表して、発売予定を知った直後の平成12年10月12日、テクノブレイン社の許諾を得ずに、本件商標の出願手続を行ったこと、A原告は、被告ソフトが平成13年春発売予定であることを理由として、早期審査の請求をしていること、B原告は、被告に対して、著作権侵害及び不正競争防止法違反を理由として、二回にわたり警告を発したりしていること等の事情に照らすならば、原告が本件商標を出願し、登録を受けた本件商標権に基づき本訴請求をしたのは、テクノブレイン社から実施許諾を得て、被告ソフトを製造、販売する被告の行為を不法に妨げる目的でされたものとみるのが相当である。
イ 原告の被告に対する本件商標権に基づく請求は、被告ソフトの製造について許諾を与えたテクノブレイン社の標章と同一の標章を自ら商標登録した上、本件商標権に基づいて権利行使されたものであり、また、その目的も、テクノブレイン社のライセンシーの製造、販売を妨げるためにされたものと解されるから、正義公平の理念及び公正な競争秩序に反するものとして、権利の濫用に当たり許されないというべきである。
第4 結論
 よって、その余の点を判断するまでもなく、原告の請求は理由がない。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 飯村敏明
 裁判官 今井弘晃
 裁判官 石村智
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日本ユニ著作権センター
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