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【事件名】知的所有権登録会社の名誉毀損事件(2)
【年月日】平成14年5月15日
 東京高裁 平成14年(ネ)第647号 損害賠償等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成12年(ワ)第25977号)

判決
控訴人 甲野太郎<ほか二名>
控訴人三名訴訟代理人弁護士 森川正治
被控訴人 日本弁理士会(旧名称 弁理士会)
代表者会長 笹島富二雄
訴訟代理人弁護士 小林幸夫
同 大森勇一


主文
 本件控訴をいずれも棄却する。
 控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由
T当事者の求める裁判
1 控訴人ら
@ 原判決を取り消す。
A 被控訴人は、控訴人らに対し各自五〇〇万円及びこれに対する平成一二年一二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
B 被控訴人は、控訴人らに対し、日本のすべての地域において発行される朝日新聞、読売新聞及び日本経済新聞に原判決別紙一「謝罪広告」記載の謝罪広告を掲載せよ。
C 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
D A項につき仮執行宣言
2 被控訴人
 主文第一項同旨
U 事案の概要等
 事案の概要は、次のとおり付け加えるほか、原判決「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」に記載のとおりであり、証拠関係は本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これらを引用する。
1 原判決書二頁二三行目の「松夫(」の次に「昭和四〇年一一月一三日生。」を、同三頁三行目の「という。)」の次に「を一枚当たり二〇〇円ないし四〇〇円で購入しこれ」を、同六頁二五行目から二六行目にかけての「弁理士に」の次に「特許」をそれぞれ加える。
2 同八頁四行目の「目的欄に、」を「目的欄に、いずれも概要として」に改め、一五行目の「アイデアを」の次に「著作権として」を加え、一八行目の「として」を「の名目で」に改める。
3 同九頁一〇行目の「特許権とでは」の次に「その法的保護の」を、一二行目の「代替する」の次に「法的」を、一六行目の「アイデアが」の次に「法律上も」をそれぞれ加え、二二行目の「などとして」を「などの名目で」に、二四行目の「概念」を「法律上の概念」にそれぞれ改める。
4 同一一頁三行目の「続け、」の次に「現在に至るも」を、七行目の「としても、」の次に「上記事情の下では」をそれぞれ加え、同一二頁一一行目(同四三頁三段一四行目)の「そのものは」を「の内容を保護するのは特許権であるが、その表現形態を保護するのは著作権である。この点に着目し、また昨今アイデアもその表現形態の保護の必要性が高まってきていることを考慮して考えたのが本件登録である。したがって、発明やアイデアの内容自体は」に改め、一五行目の「各法」の次に「(特許法、実用新案法、意匠法及び商標法)」をそれぞれ加え、同一三頁一六行目の「登録する」を「登録をする」に、同一五頁一行目の「本件では、被告は、」を「本件告発は、被控訴人において」にそれぞれ改める。
V 当裁判所の判断
 当裁判所は、当審において控訴人らがるる主張するところ(要するに、控訴人らの本件登録商法の詐欺行為該当性の評価は控訴人甲野の著書と本件登録願用紙の裏面等を精査し、全体として検討した上で事実を認定しこれに基づいて判断すべきであり、詐欺という結論を先取りしてこれに沿う断片的な表現部分のみを抽出してすべきではないという原審以来の主張を敷?して述べるものである。)を併せ検討したが、控訴人らの請求はいずれも理由がないと考える。その理由は、次のとおり付け加えるほか、原判決「事実及び理由」中の「第三争点に対する判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決書一五頁一七行目の「であったことは明らかである」を「と認められる」に改め、同一六頁七行目から八行目にかけての「なく、」の次に「平成七年ころから当時の」を、一〇行目の末尾の次に「(工業所有権と著作権に大別される。)」を、一二行目の末尾<同四四頁四段二四行目末尾>の次に行を改めて次のとおりそれぞれ加える。
 「なお、控訴人らは弁理士には知的財産権の適正な保護及び利用の促進に資するべき役割などないというが、弁理士法一条は同法の目的を「弁理士の制度を定め、その業務の適正を図ることにより、工業所有権の適正な保護及び利用の促進等に寄与し、もって経済及び産業の発展に資すること」と明記しており、弁理士が上記の役割を負っていることは同法条の趣旨に合致する合理的な解釈というべきである。加えて、昨今の知的財産権の保護に関する法的整備の重要性の高まりを考えると、その分野における専門性を付与されている弁理士に単に自己の業務の遂行だけでなく、公的な視点に立って上記のような役割を果たすことへの期待とこれに応えるべき責任が求められていると解することには何ら異論はないはずであり、その根拠を同法条に求めることも何ら問題とするには当たらない。上掲乙二〇中の論述もこのような社会的背景の下に弁理士の役割に言及するものであり、適切な見解というべきである。さらにいえば、弁理士の役割のいかんはそれがどうであれ本件告発及び記者会見がもっぱら公益目的でされたものであるかどうかの判断にはそもそも直接影響する事柄ではないのである。したがって、いずれの観点からしても控訴人らの上記主張は理由がない。」
2 同一七頁四行目の「により、」の次に「当時の」を加え、同行の「科学技術省」を「科学技術庁」に改め、同一八頁四行目の末尾の次に「に関する被控訴人の調査結果」を、一二行目の「とれる」の次に「(甲一九)」を、同一九頁四行目の「出願法」の次に「(騎虎書房刊)」を、五行目の「生かし方」の次に「(甲二一)」を、一四行目の末尾<同四五頁四段一九行目末尾>の次に行を改め次のとおりそれぞれ加える。
 「(エ)A、B及びC各氏は、いずれもいわゆる町の発明家として活動しあるいは発明活動を趣味としている者らである。」
3 同二〇頁一三行目の「印象を」の次に「法的知識やその理解力が必ずしも十分ではない」を、一九行目の「という」の次に「法律上は存在しない」を、二二行目の末尾<同四六頁二段七行目>の次に「なお、控訴人らは、上記の点に関連して著作権による工業所有権の法的保護効果はない旨述べる一方で、事実上の効果とか反射的効果などという表現を用いているが、法的には何の意味も有しない概念である上にそれ自体が紛らわしく、法的知識に乏しいが発明やアイデアには少なからぬ関心を寄せる読者らにとってはその判断を誤らせるおそれが大きいものというべきである。」を、同二一頁六行目の「ない。」の次に「そして、知的財産権に関心、興味を持つが法的知識には疎い読者には一層その危険性が高いといえる。」を、九行目の「読者をして」の次に「本件登録を行うことによりそのような保護を受ける権利となるかのような」を、一二行目の「係る」の次に「発明活動に従事している」を、一四行目の「読んで」の次に「上記の」をそれぞれ加え、一八行目の「明らかである」を「認められる」に、二五行目の「原告ら」から同二二頁三行目末尾まで<同四六頁三段二二行目「原告ら」から同頁三段三〇行目末尾まで>を次のとおりそれぞれ改める。
 「控訴人らは、本件登録商法に対する上記のような客額的事態の推移とこれに対する認識の下にあえて上記著作物及び本件登録願用紙の記述をそのままにして本件登録商法を継続している(なお、<証拠略>によると、控訴人らは原判決言渡後の現在においても従前どおり本件登録商法の合法性を公言してこれを行っていることが認められる。のみならず、控訴人らはその事業の信用性を高めるために、業として著作権等(著作権又は著作隣接権)の管理事業を行うには文化庁長官の登録を受ければ足りる(著作権等管理事業法三条)のに、なお許可制が採られているかのように装い、この登録を得たことをもって同長官から許可を得たとして文化庁から特別な公認を受けているかのような誤った印象を与える宣伝に及んでいるなど、本件登録商法の違法度はより強くなっているのではないかと窺われる。)。このような事情の下では、社会通念上、発明やアイデアの工夫に関心を抱きあわよくば一攫千金をと夢見ている一般読者の中には上記のような錯誤に陥って本件登時に及ぶ者があることを控訴人らは認識していたものと推認するのが相当というべきである。そして、本件では摘示事実の真実性の立証は、詐欺罪の構成要件事実すべてにわたるものではなく、詐欺罪を構成する客観的な違法行為の存在とこれに対する主観的な認識を立証すれば足りる。故意はこれに対する主観的側面の法的評価であり、故意自体の立証を要するものと解さなければならないものではない。ちなみに、控訴人らの上記認識を評価すれば控訴人らに詐欺の故意があったと認定することは十分可能というべきである。したがって、本件登録商法が詐欺商法であることの真実性の証明があったものというべきであるし、仮にこの点を措いても、少なくとも被控訴人において本件告発及び本件記名発表における上記詐欺行為の摘示事実が真実であると信じたことについて相当の理由があるというべきである。」
4 同頁二六行目の「ある」を「巧妙に混在して記載されている」に、同二三頁二行目<同四六頁四段最終行目>の「なお、一般の」を「現に前記認定のとおり多数の読者が誤解の下に本件登録を行い、被害を訴えている事態が窺われるところ、一般読者とはいえその実体は発明やアイデアに関心や興味が深く、濃淡の差はあるにしても多かれ少なかれあわよくばこれらにより経済的利益を得ることができればとの期待を抱いている人々であるといってよいのであり、経験則上こうした内心の意図を有する一般読者は自己の都合のよいように本件登録願用紙裏面や本件登録書の書き方を読み、理解するのが常であることを考慮すると、上記各文書の記載の仕方はいかにもこのような読者らの心理や行動原理を巧に突いたものというべきであって、このような一般」にそれぞれ改め、四行目の「者は、」の次に「上記の心理状態等から勢いその登録手続に用いられる」を加え、一〇行目(同四七頁一段一三行目)の「それにより」を「上記のような一般の読者にこれらの著書を精査してこれと併せ全体として本件登録の法的効果を正確に理解し、その上での冷静な判断と行動を期待することなど到底無理なことというべきである。仮に、控訴人らが真にそのような期待を抱いているというのであれば、誤解のないように本件登録願用紙裏面や本件登録書の書き方の中に上記のような読者らであっても上記のような誤解をしないよう注意を喚起する文言を一見して明らかな体裁で記載しておくべきであると思われるが、そのような記載は一切ない。したがって、控訴人甲野の著作中に上記各記載があることにより」に改める。
W よって、控訴人らの本件控訴はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条一項、六一条、六五条一項を適用して、主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第17民事部
 裁判長裁判官 新村正人
 裁判官 藤村啓
 裁判官 志田博文
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