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【事件名】ドメイン名の使用権確認請求事件(ポップコーン)
【年月日】平成14年4月26日
 東京地裁 平成13年(ワ)第2887号 登録ドメイン名使用権確認請求事件
 (口頭弁論終結日 平成14年2月15日)

判決
原告 有限会社ポツプコーン
訴訟代理人弁護士 登坂真人
被告 株式会社エヌ・ティ・ティエックス
訴訟代理人弁護士 横山経通
同 小野寺良文


主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 原告が社団法人日本ネットワークインフォメーションセンターに登録するドメイン名「goo.co.jp」を使用する権利を有することを確認する。
第2 事案の概要
1 争いのない事実等(認定事実には証拠を掲げる。)
(1) 原告は、音楽歌唱施設の経営等を業とする有限会社であり(弁論の全趣旨)、被告は、通信ネットワークを利用した各種情報提供サービス等を業とする株式会社である。被告は、平成11年1月4日、旧商号「株式会社エヌ・ティ・ティエムイー情報流通」として設立され、平成12年5月11日、現在の商号に変更された日本電信電話株式会社の関連会社である。
(2) 原告は、平成8年8月16日、ドメイン名「goo.co.jp」(以下「本件ドメイン名」という。)を社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(以下「JPNIC」という。)に登録した。
(3) 株式会社エヌ・ティ・ティ・アドは、平成9年1月28日に別紙商標権目録記載@、A、Dの商標登録出願をし、同年6月9日に同目録記載B、C、Eの商標登録出願をし、同目録記載のとおり、平成11年1月8日、同年9月10日及び同月17日にそれぞれ登録された(乙第2ないし7号証の各1、2、以下、これらの商標権を併せて「被告商標権」といい、同目録記載@、A、Dの登録商標を「被告商標1」といい、同目録記載B、C、Eの登録商標を「被告商標2」といい、これらの登録商標を併せて「被告商標」という。)。
(4) 株式会社エヌ・ティ・ティ・アドは、平成9年2月12日、ドメイン名「goo.ne.jp」(以下「被告ドメイン名」という。)をJPNICに登録し、同月25日、トップページのURLを「http://www.goo.ne.jp」とするインターネットのウェブサイト(以下「被告サイト」という。)を開設した。
 同社は、平成9年3月6日、被告サイトについてプレスリリースを行った。
 被告は、平成11年4月ころ、株式会社エヌ・ティ・ティ・アドから被告ドメイン名や被告商標権を譲り受けると共に被告サイトを承継した。
(5) JPNICは、平成12年7月19日、JPドメイン名紛争処理方針(以下「紛争処理方針」という。)を定め、同年10月10日、これを改訂した(別紙「JPドメイン名紛争処理方針」のとおり)。これにより、原告を含む各JPドメイン名登録者とJPNICの間で、紛争処理方針に従う旨の合意が成立した。
(6) 被告は、平成12年11月20日、本件ドメイン名の登録を被告に移転することを求めて、工業所有権仲裁センターに裁定を申し立て、同月24日、上記申立てが原告に通知された(甲第3号証)。
 工業所有権仲裁センター紛争処理パネルは、平成13年2月5日、本件ドメイン名の登録を被告に移転することを命ずる裁定(以下「本件裁定」という。)を行い、同月7日、その裁定が原告に通知された。
 原告は、裁定を不服として、平成13年2月16日、当裁判所に本件訴訟を提起した。
2 本件は、原告が、紛争処理方針に定められた登録移転の要件を充たさない旨主張して、本件ドメイン名を使用する権利を有することの確認を求めた事案である。
3 争点
 原告が本件ドメイン名を使用する権利を有するか否か。
4 争点に関する当事者の主張
【原告の主張】
 紛争処理方針4条aは、ドメイン名登録の移転又は取消を求める申立人が主張、立証すべき要件として、「(@)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること、(A)登録者が、当該ドメイン名の登録についての権利または正当な利益を有していないこと(B)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること」を規定する。
 しかるところ、原告には、以下のとおり、上記(@)ないし(B)の事実が存しないから、原告は、本件ドメイン名を使用する正当な権利を有している。
(1) 紛争処理方針4条a(@)について
 ドメイン名は、インターネット上のコンピュータを認識するIPアドレスの代用であり、トップレベルドメインである「jp」やセカンドレベルドメインである「co」を含めて一体として、情報発信・提供者のインターネット上における「住所」「氏名」を表している。ドメイン名が一字違えば全く別の情報発信・提供者を意味するのであり、「goo.co.jp」と「goo.ne.jp」のように組織属性を示すセカンドレベルドメインが異なるものは、全く別の「住所」「氏名」を表す、全く別のドメイン名である。
 原告は、被告ドメイン名や被告商標が登録されて使用される前から、本件ドメイン名を登録して使用していたのであり、被告のグループ会社である株式会社エヌ・ティ・ティ・アドは、本件ドメイン名の存在を知りながら、被告ドメイン名を登録したものである。このような場合に、被告が被告サイトの広告宣伝をして、被告サイトが周知性を獲得したからといって、先に登録した原告に対して、「混同を引き起こすほど類似している」と主張することは信義誠実の原則に反し、許されるべきでない。
(2) 紛争処理方針4条a(A)について
 紛争処理方針4条cは、同(@)ないし(B)を例示して、このような事情がある場合には、登録者が「当該ドメイン名についての権利または正当な利益」を有していると認めることができる旨規定する。
 原告には、以下のとおり、同条c(@)ないし(B)に該当する事情があるので、原告は、本件ドメイン名について正当な利益がある。
ア 原告は、被告ドメイン名や被告商標が登録されて使用される前に、女子高生を対象とするコミュニティーサイトとして、本件ドメイン名をURLに使用するウェブサイト(以下「原告サイト」という。)を開設した。これは、何ら不正の目的を有することなく本件ドメイン名を使用していたものであって、紛争処理方針4条c(@)を充足する。
イ 原告は、平成9年3月から平成12年3月までの間、インターネット関係の成人向け雑誌である「Cyber Doll」に原告サイトの広告を掲載しており、アダルトサイトに興味を持つインターネットユーザーには、本件ドメイン名が知られていたから、紛争処理方針4条c(A)を充足する。
ウ 原告が原告サイトのコンテンツを変更し、さらに転送サイトに変更した経緯は次のとおりである。
(ア) 原告は、カラオケ店の営業を主たる業務としていたところ、女子高生らが、カラオケ店の重要な顧客であったことから、女子高生を対象とするコミュニケーションを目的としたウェブページを開設すれば、カラオケ店の営業に役立つかもしれないと考え、ウェブページの開設と、コンテンツの作成、管理、運営を株式会社ベネットコミュニケーション(以下「ベネット」という。)に委託した。
 原告は、女子高生にアピールできる言葉として、当時、女子高生の間で流行していた「チョベリグ」「チョベリグー」からヒントを得て「goo」(グー)をドメイン名に採用し、平成8年8月16日、本件ドメイン名を登録した。
(イ) 原告は、平成8年10月29日、女子高生応援サイトとして、原告サイトを開設したが、女子高生からのアクセスはほとんどなく、大多数のアクセスは、アダルトサイトに興味を有する男性によるものであったため、当初のコンテンツは失敗であった。
 原告は、同年12月ころから、ベネットとの間で、原告サイトのコンテンツの変更を協議し、インターネットビジネスで実績を積むことが重要であると考え、ベネットの提案を入れて、平成9年2月ころ、原告サイトをアダルトサイトに変更した。
 原告は、平成9年3月15日創刊のインターネット関係の成人向け雑誌である「Cyber Doll」に広告を掲載するため、平成9年1月ころに広告原稿を入稿し、以後平成12年3月まで同誌に広告の掲載を継続した。
(ウ) 原告サイトをアダルトサイトに変更した後、当初はベネットが自社でコンテンツを作成していたが、継続的な作成が加重な負担になっていたことと、原告も経費を削減して効率的に収益を得たいと考えていたことから、ベネットの提案を入れて、平成11年7月ころ、原告サイトをURLが「http://www.real.co.jp」であるアダルトサイトへ転送するサイトに変更した。
 以上の経緯に鑑みると、原告がコンテンツを変更したのは、被告サイトとは無関係で、かつ、合理的な理由によるものであって、不正な意図は存しない。また、原告は、被告商標やそれと類似する標章をサイト上や雑誌広告上に表示したこともないから、被告サイトの顧客吸引力を利用したり、被告商標と誤認混同を生じさせたり、被告サイトの信用を貶めたりする意図もなかった。
 したがって、紛争処理方針4条c(B)を充足する。
エ 原告サイトはアダルトサイトであるが、それを理由として、正当な利益がないということにはならない。
(3) 紛争処理方針4条a(B)について
 紛争処理方針4条bは、同(@)ないし(C)を例示して、このような事情がある場合には、当該ドメイン名の登録又は使用は「不正の目的」であると認めることができる旨規定する。
 上記の経緯からすると、原告に、同条b(@)ないし(B)に該当する事情がないことは明らかである。そして、同条b(C)についても、上記のとおり、原告には商品やサービスの出所を誤認混同させようという意図はない。原告サイトはアダルトサイトで、被告サイトは検索サイトであるから、インターネットユーザーが両者を誤認混同する余地はないし、URLを間違えて原告サイトにアクセスしたユーザーも、間違えたことが一目でわかるから二度と原告サイトにアクセスすることはない。したがって、原告には、同条b(C)に該当する事情がなく、その他原告には不正の目的を示す事情がない。
 よって、原告による本件ドメイン名の登録又は使用が、不正の目的でされているということはできない。
【被告の主張】
 原告は、以下のとおり、ドメイン名の登録を申立人に移転するための要件を定めた紛争処理方針4条a(@)ないし(B)をすべて充たしているから、本件ドメイン名を使用する正当な権利を有していない。
(1) 紛争処理方針4条a(@)について
 本件ドメイン名は、被告が有する被告商標その他の表示(以下「被告商標等」という。)と同一又は極めて類似しており、被告商標等と混同を引き起こしている。
ア(ア) 被告は、被告商標権を有している。被告商標1は、アルファベットの大文字の「GOO」と片仮名文字の「グー」を上下に配したものである。被告商標2は、アルファベットの小文字の「goo」を図案化したものである。
(イ) 被告は、被告サイトにおいて、「goo」の表示(以下「被告表示」という。)及び「goo.ne.jp」(被告ドメイン名)を使用している。
 被告サイトは、日本を代表する情報検索を中心としたポータルサイトとして、遅くとも平成9年8月には、インターネットユーザーの間で極めて著名となっており、被告は、被告サイトにおいて用いている被告表示及び被告ドメイン名について正当な利益を有している。
イ(ア) 本件ドメイン名のうち、「jp」部分はトップレベルドメインを構成する国別コード、「co」部分はセカンドレベルドメインを構成する組織の種別コード、「goo」部分は当該ドメイン名を使用する主体(ホスト)を示すコードである。したがって、本件ドメイン名において主たる識別力を有するのは「goo」部分であるから、本件ドメイン名の要部は「goo」である。
 被告商標と本件ドメイン名の要部である「goo」は、称呼、観念が同一であり、外観が類似しているから、被告商標と本件ドメイン名は類似する。
(イ) 上記と同様に、被告ドメイン名の「要部」は「goo」であるから、被告ドメイン名と本件ドメイン名の要部は同一であり、両者は類似する。
(ウ) 被告サイトが遅くとも平成9年8月には周知著名となっていたことに鑑みると、本件ドメイン名と被告商標等の間で出所の混同を生じていることは明らかである。
(2) 紛争処理方針4条a(A)について
 原告は、本件ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有していない。
ア 原告サイトは、インターネットユーザーがアクセスすると、アダルト画像を多数掲載し、これを有料でダウンロードするサービスを提供している転送先サイト(http://www.real.co.jp)へ瞬時に自動的に転送される仕組みになっており、原告は、上記のような転送先サイトにインターネットユーザーを誘引するという不正の目的で本件ドメイン名を使用している。
イ 原告の商号は、「有限会社ポツプコーン」であり、原告サイトは専ら転送先サイトへの転送を目的としており、独自の情報を掲載していない。他に原告が本件ドメイン名や「goo」の名称で認識されている事情もないから、原告がこれらの名称で一般に認識されているということはない。
ウ したがって、原告は、紛争処理方針4条cが列挙する(@)ないし(B)のいずれにも該当しないし、他に本件ドメイン名について正当な利益を有することを基礎づける事情も存しないから、原告には、本件ドメイン名に関する権利又は正当な利益がない。
(3) 紛争処理方針4条a(B)について
 本件ドメイン名は、不正の目的で使用されている。
ア 上記のとおり、原告サイトには独自の情報が掲載されておらず、アダルト画像を多数掲載し、有料で提供している転送先サイトへの転送のみに用いられている。また、インターネットユーザーが転送先サイトを閉じる操作を行っても、一旦同サイトが閉じた後、多数のアダルト画像が表示されたウィンドウが次々に開き、これらを一つ一つ閉じて初めて同サイトを完全に閉じることができる仕組みになっている。
 したがって、誤って原告サイトにアクセスしたユーザーは、強制的に転送先サイトにアクセスさせられた上、転送先サイトを閉じるまでに相当数のアダルト画像を目にせざるを得ない。
イ 原告が自ら発信する情報を持たないにもかかわらず本件ドメイン名の使用を継続しているのは、多くのインターネットユーザーが被告ドメイン名と本件ドメイン名を誤認混同し、誤って被告サイトにアクセスすることを企図しているからである。すなわち、多くのインターネットユーザーにアクセスされれば、それだけ当該サイトで商業上の利益を得る可能性が増えるのであり、原告は、誤って原告サイトにアクセスしたユーザーが転送先サイトからアダルト画像をダウンロードすることによって商業上の利益を得ることができるのであって、実際にも、原告は、転送先サイトの運営者から、アクセス数に応じた収入を得ている。
 結局のところ、原告は、インターネットユーザーが被告ドメイン名と本件ドメイン名を誤認混同し、誤って被告サイトにアクセスすることによって、商業上の利益を得る目的で、原告サイトを通じて転送先サイトにインターネットユーザーを誘引するために本件ドメイン名を使用しているのであり、多くのアクセスを確保するための被告の努力にフリーライドしているのである。
 したがって、原告は、商業上の利益を得る目的で、原告サイト及びその他のオンラインロケーションである転送先サイト、又はこれに登場するサービスの出所、取引提携関係、推奨関係などについて誤認混同を生ぜしめることを意図して、インターネット上のユーザーを原告サイト及び転送先サイトに誘引するために、本件ドメイン名を使用しているから、紛争処理方針4条b(C)の事情があり、原告による本件ドメイン名の使用には、不正の目的がある。
ウ 被告サイトにアクセスすることを意図し、誤って原告サイトにアクセスしたインターネットユーザーから、被告に対し、苦情や転送先サイトと被告の関係を疑う内容のメールが寄せられており、原告の本件ドメイン名の使用により、被告サイト及び被告の信用や社会的評価が著しく毀損されている。
第3 当裁判所の判断
1 前記第2の1のとおり、JPNICは、平成12年7月19日、紛争処理方針を定め、同年10月10日、これを改訂し(別紙「JPドメイン名紛争処理方針」のとおり)、これにより、原告を含む各JPドメイン名登録者とJPNICの間で、紛争処理方針に従う旨の合意が成立したことは、当事者間に争いがない。
 紛争処理方針によると、JPNICにより認定された紛争処理機関は、紛争処理方針4条a(@)ないし(B)の要件が存するときは、第三者の申立てによってドメイン名登録の移転又は取消を命ずることができ、JPNICは、その裁定の通知後10日間の間に、登録者から申立人を被告として管轄裁判所に出訴したとの文書の提出がなければその裁定を実施し、同文書の提出があったときは、棄却の確定判決の正本等を受領するまでは裁定を実施しないこととされている。
 本件訴訟は、本件裁定によって本件ドメイン名の使用権がないものとされた原告が、紛争処理手続の申立人である被告に対して、本件ドメイン名の使用権、すなわち、JPNICとの契約に基づいて本件ドメイン名を使用する権利の確認を求めるものであって、当該契約の解除事由たる紛争処理方針4条a(@)ないし(B)の要件が存するかどうかが争点であるということができる。
 そこで、以下においては、紛争処理方針4条a(@)ないし(B)の要件が存するかどうかについて、判断する。
2(1) 前記第2の1の事実に証拠(甲第22ないし第45、第75号証、乙第1、第21ないし第24、第26ないし第29号証、証人A)と弁論の全趣旨を総合すると、原告サイトに関し、以下の事実が認められる。
ア 原告は、カラオケ店の営業を主たる業務としていたところ、女子高生がカラオケ店の重要な顧客となっていたことから、女子高生を対象とするコミュニケーションを目的としたウェブページを開設して、カラオケ店の集客に役立てようと考えた。
 原告は、女子高生にアピールできる言葉として、当時、女子高生の間で流行していた「チョベリグー」からヒントを得て「goo」(グー)をドメイン名に採用し、平成8年8月16日、本件ドメイン名を登録した。
 原告は、インターネットのコンテンツの作成やサーバーホスティングの代行を業としているベネットに対し、ウェブページに関するコンテンツの作成、管理、宣伝等の業務を委託した。
イ 原告は、平成8年10月29日、女子高生のコミュニティーサイトとして、原告サイトを開設した。原告は、このサイト自体から収入を得ることよりも、上記のとおり、このサイトがカラオケ店の集客に役立つことを企図していた。
 当初、原告サイトへのアクセスは少なく、女子高生からのアクセスより、女子高生に興味を有する成人男性からのアクセスが多かったため、カラオケ店の売上げには結びつかなかった。
ウ そこで、原告は、平成9年初めころから、原告サイトのコンテンツは従前の女子高生のコミュニティーサイトのままで、成人男性のアクセスを得る目的で、アダルトサイトにバナー広告を出したり、インターネット関係の成人向け雑誌である「Cyber Doll」に原告サイトの広告を掲載することとし、同誌の平成9年3月15日創刊号のために、平成9年1月ころに広告原稿を入稿し、以後平成12年3月まで同誌に広告の掲載を継続した。広告内容は、一貫して、原告サイトを女子高生のコミュニティーサイトとして宣伝するものであり、アダルトサイトとして広告するものではない。
 なお、上記「Cyber Doll」への広告掲載の業務は、原告からベネットへ、ベネットからその関連会社である有限会社ベラックへ委託されていたが、有限会社ベラックの住所は、有限会社ベラックシステム販売の本店所在地と同一であり、有限会社ベラックシステム販売は、ベネットと代表者が同一であった。有限会社ベラックシステム販売は、平成12年3月27日に有限会社リアルに商号変更されている。
エ 原告は、原告サイト自体から収益をあげることを企図して、平成11年春ころ、原告サイトの中に、女子高生のコミュニティーサイトと並行してアダルトコンテンツを始めた。他のアダルトサイトのバナー広告からアクセスすると原告サイト中のアダルトコンテンツが表示され、そこから「goo.co.jp」の女子高生のコミュニティーサイトに行くことができるが、本件ドメイン名を入力して原告サイトにアクセスした場合には、女子高生のコミュニティーサイトが表示され、そこからアダルトコンテンツへ行くことはできない仕組みになっていた。
 このアダルトコンテンツは、小規模なもので、後記オの有限会社リアルのアダルトコンテンツと比べるとページ数も少ないものであったが、ユーザーがアダルト画像を見るために必要な専用ソフトをダウンロードして、ソフトを立ち上げる際に課金することによって、原告は収益を得ていた。
オ 原告は、原告サイトに要する経費を節減し、原告サイトから効率的に、より大きな利益を得たいと考えており、ベネットは、原告サイト独自のアダルトコンテンツを作成する負担を免れ、サーバーのハードディスクの容量不足を解消したいと考えていたため、両者の利害が一致し、ベネットは、原告と有限会社リアルの承諾を得て、平成11年9月ころ、原告サイトを、ベネットの関連会社である有限会社リアルが開設するアダルトサイトである「http://www.real.co.jp」へ、原告サイトを表示することなく自動的に転送するように変更した。原告は、転送を開始した後、原告サイトのアダルトコンテンツを廃止したが、多数のアクセスがある原告サイト自体は閉鎖することなく、原告サイトから「http://www.real.co.jp」へ転送することで、独自にコンテンツを作成する負担なく、有限会社リアルからアクセス数に応じた利益の分配を受けるようになった。
 転送先サイトは、一旦アクセスすると、ユーザーが転送先サイトを閉じる操作を行っても、同サイトが閉じた後、多数のアダルト画像が表示されたウィンドウが次々に開き、これらを一つ一つ閉じて初めて同サイトを完全に閉じることができる仕組みになっていた。
 原告サイトが上記のとおり自動転送されるようになった後においては、女子高生のコミュニティーサイトを見ることはできなくなり、原告サイトは表示すらされなかった。
カ 原告サイトへアクセスする方法には、リンクやバナー広告から入る方法、サーチエンジンから検索する方法及び直接URLを入力する方法があり、原告サイトにアクセスしただけでは課金されず、転送先サイトにおいて、アダルト画像を見るために必要な専用ソフトをダウンロードして、ソフトを立ち上げる際に課金される仕組みになっている。
 原告サイトは、平成13年5月2日から、自動転送を止めて、被告サイトとは異なるアダルトサイトであることを明示して転送先サイトと被告サイトの双方へリンクを張ったページを表示したところ、同年12月ころに、原告サイト自体には1日に3万3、4千件のアクセスがあったが、原告サイトから転送先サイトに入るのは1日に数十件であった。
(2) 前記第2の1の事実に証拠(乙第2ないし第18号証(枝番をすべて含む))と弁論の全趣旨を総合すると、被告サイトに関し、以下の事実が認められる。
ア 株式会社エヌ・ティ・ティ・アドは、平成9年2月12日、被告ドメイン名をJPNICに登録し、同月25日、被告サイトを開設した。
 同社は、平成9年3月6日、被告サイトについてプレスリリースを行った。
 同社は、被告サイトの表示として、被告商標のほか被告表示(「goo」)及び被告ドメイン名を使用していた。
イ 被告商標1は、「GOO」とアルファベットの大文字で横書きし、その下部に「グー」と片仮名で横書きしたものである。被告商標2は、「goo」とアルファベットの小文字で横書きしたものを図案化したものである。被告商標は、いずれも「グー」の称呼を生じる。
 被告表示は、「goo」とアルファベットの小文字で横書きしたものであり、「グー」の称呼を生じる。被告ドメイン名は、トップレベルドメインを構成する国別コードである「jp」部分と、セカンドレベルドメインを構成する組織の種別コードである「ne」部分と、当該ドメイン名を使用する主体(ホスト)を示すコードである「goo」部分からなり、「goo」部分の外観及び称呼は被告表示と同一である。
ウ 被告は、平成11年4月以降、株式会社エヌ・ティ・ティ・アドから被告ドメイン名や被告商標権と共に被告サイトを承継した。
エ(ア) 株式会社エヌ・ティ・ティ・アド及び被告を含む日本電信電話株式会社グループは、被告サイトについて、平成8年度は約350万円、平成9年度は約1500万円、平成10年度は約900万円、平成11年度は約4000万円、平成12年4月から9月までは約5億2000万円の宣伝広告費を投じて、テレビコマーシャル、新聞広告、雑誌広告、バナー広告、イベント開催等を行った。
 被告サイトは、平成9年3月から現在まで、少なくとも656件の新聞、雑誌、ウェブページ記事、メールニュース等で紹介され、テレビ番組にも多数回にわたって取り上げられた。
(イ) 株式会社日本リサーチセンターが発表しているインターネット上のサイトのアクセス率を示す指標である「Japan Access Rating」調査において、被告サイトは常に上位を占めている。また、被告サイトにアクセスされた実数である1日当たりのページビュー数も、サービス開始から5か月間で100万件を超え、平成11年8月までに1000万件、平成12年7月までに1450万件となっている。
(ウ) 株式会社エヌ・ティ・ティ・アド及び被告を含む日本電信電話株式会社グループが、被告サイト関連事業から得た事業収入は、平成9年度に約1億円、平成10年度に約1億9000万円、平成11年度に約11億6000万円、平成12年度上半期に約9億5000万円となっている。被告サイトは、検索サービス等の主要なサービスを無料で提供しているから、上記収入の大半は、サイト上の広告収入である。
3 以上の認定事実に基づいて、紛争処理方針4条a(@)ないし(B)の各要件、すなわち、「(@)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること、(A)登録者が、当該ドメイン名の登録についての権利または正当な利益を有していないこと(B)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること」の各要件の該当性について判断する。
(1) 紛争処理方針4条a(@)について
ア 前記2(2)アないしウで認定したとおり、被告は、被告商標権を有しており、被告サイトについて、被告商標のほか被告表示及び被告ドメイン名を使用している。また、上記2(2)エで認定した事実に証拠(乙第26ないし第28号証、証人A)と弁論の全趣旨を総合すると、被告サイトは、遅くとも平成9年8月には、インターネットユーザーの間で著名となったものと認められるから、被告は、被告表示及び被告ドメイン名について正当な利益を有しているということができる。
イ 本件ドメイン名は、トップレベルドメインを構成する国別コードである「jp」部分と、セカンドレベルドメインを構成する組織の種別コードである「co」部分と、当該ドメイン名を使用する主体(ホスト)を示すコードである「goo」部分からなる。したがって、「co.jp」は、本件ドメイン名がJPNICの管理するもので、かつ、登録者が会社であることを示しているにすぎず、多くのドメイン名に共通するものであるから、本件ドメイン名において主に識別力を有するのは「goo」部分である。よって、本件ドメイン名の要部は「goo」であり、「グー」の称呼を生じる。
 前記2(2)イで認定したとおり、被告商標1は、「GOO」とアルファベットの大文字で横書きし、その下部に「グー」という片仮名文字を横書きで表示したものであり、被告商標2は、「goo」とアルファベットの小文字で横書きしたものを図案化したものであり、いずれも「グー」の称呼を生じるから、本件ドメイン名の要部と外観が類似し、称呼が同一である。
 また、前記2(2)イで認定したとおり、被告表示は、「goo」とアルファベットの小文字で横書きしたものであり、「グー」の称呼を生じるから、本件ドメイン名の要部と外観及び称呼が同一である。前記2(2)イで認定したとおり、被告ドメイン名は、トップレベルドメインを構成する国別コードである「jp」部分と、セカンドレベルドメインを構成する組織の種別コードである「ne」部分と、当該ドメイン名を使用する主体(ホスト)を示すコードである「goo」部分からなるから、その要部は「goo」であり、「グー」の称呼を生じ、本件ドメイン名の要部と外観及び称呼が同一である。
 以上に、上記アで認定したとおり被告サイトが著名であることを総合すると、本件ドメイン名は、被告商標、被告表示、被告ドメイン名と混同を引き起こすほど類似しているものと認められる。
ウ 原告は、ドメイン名はトップレベルドメインやセカンドレベルドメインを含めて一体として、情報発信・提供者のインターネット上における「住所」「氏名」を表しているものであり、セカンドレベルドメインが異なるものは、全く別の「住所」「氏名」を表す、全く別のドメイン名であると主張する。
 確かに、セカンドレベルドメインが異なるものは、別のドメイン名であるといえるが、前述のとおり、セカンドレベルドメインは、多くのドメイン名に共通するものであって、識別力が弱いことからすると、セカンドレベルドメインが異なればそれだけで、類似の余地がないということはできない。現に、後記(2)ウ認定のとおり、多数のインターネットユーザーがセカンドレベルドメインの異なる本件ドメイン名と被告ドメイン名を誤認混同していることが認められるのであって、上記のとおり、本件ドメイン名と被告ドメイン名等は類似しているものと認められる。
 また、原告は、被告のグループ会社が本件ドメイン名の存在を知りながら、後から被告ドメイン名を取得し、誤認混同を生じるおそれを惹起したような場合には、先に登録した原告に対して、「混同を引き起こすほど類似している」と主張することは信義誠実の原則に反し許されないと主張する。
 しかしながら、類似しているか否かの要件は、登録の先後や主観的な認識とは離れて客観的に判断すべきであり、これらは紛争処理方針4条a(A)の「正当な利益」や(B)の「不正の目的」という他の要件で考慮するのが相当であるから、原告の主張は採用できない。
エ 以上のとおり、紛争処理方針4条a(@)を充足する。
(2) 紛争処理方針4条a(B)について
ア 前記2(1)及び(2)で認定した事実によると、原告は、被告商標の登録出願、被告ドメイン名の登録及び被告サイトの開設に先立って、本件ドメイン名を登録し、原告サイトを開設して、本件ドメイン名を使用していたものと認められるから、原告による本件ドメイン名の登録には、紛争処理方針4条a(B)に規定する「不正の目的」がなかったことが明らかである。
イ 前記2(1)で認定した事実によると、原告は、平成8年10月29日に女子高生を対象とするコミュニティーサイトとして原告サイトを開設し、本件ドメイン名を使用していたのであるが、平成11年春ころまでは、原告サイトは女子高生を対象とするコミュニティーサイトのみであり、そこから直接の収益を得ていなかったことが認められる。前記2(1)ウで認定したとおり、原告は、平成9年初めから原告サイトについて成人男性向け広告を始めたのであるが、これは、広告方法を変えたにすぎず、原告サイト自体は、何ら変わっていないものである。
 前記2(1)エで認定したとおり、原告は、平成11年春ころから、原告サイトの中に、女子高生のコミュニティーサイトと並行してアダルトコンテンツを始めたのであるが、前記2(1)エで認定したとおり、アダルトコンテンツは、小規模なもので、本件ドメイン名を入力して原告サイトにアクセスした場合には、女子高生のコミュニティーサイトが表示され、そこからアダルトコンテンツへ行くことはできない仕組みになっていた。
 前記2(1)オで認定したとおり、原告は、平成11年9月ころ、女子高生のコミュニティーサイトを実質的に廃止し、原告サイト自体は表示されないまま転送先サイトに自動転送することとして、原告サイトを単に転送目的のみに使用し、転送先サイトであるアダルトサイトを運営する有限会社リアルから、アクセス数に応じた利益の分配を受けるだけになった。
 以上の事実に、上記(1)ア認定のとおり、被告サイトは、遅くとも平成9年8月には、インターネットユーザーの間で著名となったことを総合すると、原告は、被告サイトが著名になる以前から継続していた本件ドメイン名の使用態様を、被告サイトが著名になったのちに、大きく変化させて、原告サイトを転送目的のみに使用し、転送先サイトであるアダルトサイトを運営する会社から、アクセス数に応じた利益の分配を受けるだけになったものであって、ドメイン名のみを同じにする別個のサイトを開設したに等しいものと評価することができる。
ウ 前記2(1)カ認定のとおり、原告サイト自体には、平成13年12月ころで1日に3万3、4千件のアクセスがあったが、被告サイトとは異なるアダルトサイトであることを明示して張られたリンクから転送先サイトに入るのは1日に数十件であったことが認められる。そして、この事実に、上記(1)ア認定のとおり被告サイトが著名であって、前記2(2)認定のとおりアクセス数もきわめて多いことや上記(1)イ認定のとおり被告ドメイン名等が本件ドメイン名と類似していることを総合すると、被告が本件ドメイン名について裁定を申し立てたころやその前の時期においても、原告サイトへのアクセス数は、1日に3万件前後の多数にのぼっていたと考えられ、そのうちアダルトサイトに転送される原告サイトをそれと認識してアクセスするユーザーはごく僅かであって、原告サイトにアクセスしたユーザーの大部分が被告サイトと誤認混同したか又は入力ミスをして誤って原告サイトにアクセスしたものと推認される。
エ 以上のイとウで述べたところを総合すると、原告は、被告サイトが著名になった後に、被告サイトと誤認混同又は入力ミスをした多数のインターネットユーザーを転送先サイトに誘引して利益を得るために、原告サイトを大きく変更して転送サイトとし、本件ドメイン名を使用して、ユーザーの上記誤りに乗じて商業上の利得を得ていたものということができるから、紛争処理方針4条b(C)に規定する事由に準ずる事由があるということができ、原告には不正の目的があったものと認められる。
オ 原告は、本件ドメイン名を被告サイトが著名になる前から使用していたものであり、被告は、本件ドメイン名の存在を知りながら、被告ドメイン名を取得し、誤認混同を生じるおそれを惹起したと主張するが、原告が本件ドメイン名を先に使用していたことや被告が本件ドメイン名の存在を知っていたことから直ちに原告による本件ドメイン名の使用が保護されることにはならず、先にドメイン名を使用していた者といえども、不正の目的で使用していた場合には、当該ドメイン名の使用が保護されないことがあることは、紛争処理方針に照らして明らかである。しかるところ、上記のとおり、原告には、不正の目的があったものと認められる。
カ 以上によると、本件ドメイン名は、不正の目的で使用されていることが認められるから、紛争処理方針4条a(B)を充足する。
(3) 紛争処理方針4条a(A)について
ア 前記第2の1(6)のとおり、原告が本件ドメイン名に関する紛争に関して通知を受けたのは、平成12年11月24日であったところ、前記(2)で述べたところからすると、原告は、同日より前に、不正の目的を有していたことが認められるから、通知を受ける前に、不正の目的を有することなく、サービスの提供を行うために本件ドメイン名を使用していたということはできず、紛争処理方針4条c(@)を充足しない。
イ 前記2(1)で認定した事実によると、原告が平成9年3月から平成12年3月までの間、原告サイトについて、インターネット関係の成人向け雑誌である「Cyber Doll」に広告を掲載したこと、アダルトサイトにバナー広告を出していたことが認められる。
 しかしながら、甲第22ないし第24号証によると、原告サイトの広告には、原告の商号の表示はなく、「GOO!サポート及び問い合わせ先」として、ベネットが表示されているにすぎないことが認められる。
 そのほかに、原告サイト又は本件ドメイン名と原告を結びつけて広告していた事実など、原告が本件ドメイン名又は「goo」の名称で認識されていたことを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、原告が本件ドメイン名又は「goo」の名称で一般に認識されていたということはできず、紛争処理方針4条c(A)を充足しない。
ウ 前記(2)で述べたところからすると、原告は、原告サイトを転送サイトに変更した後は、原告サイトは表示されないにもかかわらず、被告サイトとの誤認によって多数のアクセスがあることを利用して、これを転送先サイトへ自動転送することで原告サイトへのアクセス数に応じた利益の分配を受けているのであるから、原告は、被告ドメイン名等と本件ドメイン名が類似していることを利用して、インターネットユーザーの誤認を利用することにより商業上の利得を得る意図をもって、本件ドメイン名を商業的目的に使用しているものと認められる。
 したがって、原告が、本件ドメイン名を公正に使用しているということはできず、紛争処理方針4条c(B)を充足しない。
エ 登録者が当該ドメイン名についての権利または正当な利益を有していると認めることができる場合は、紛争処理方針4条cに列挙されている(@)ないし(B)の場合に限られないが、他に原告が本件ドメイン名についての権利または正当な利益を有していると認めるに足りる事情が存するとは認められない。
オ よって、紛争処理方針4条a(A)を充足する。
(4) 以上のとおり、原告は、ドメイン名登録の移転又は取消を求めるための要件を定めた紛争処理方針4条a(@)ないし(B)をすべて充たしている。
4 以上の次第で、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 森義之
 裁判官 男澤聡子
 裁判官 岡口基一は転補のため署名押印することができない。

裁判長裁判官 森義之
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