判例全文 line
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【事件名】ネット上の音楽無料配信事件(レコード会社19社)
【年月日】平成14年4月9日
 東京地裁 平成14年(ヨ)第22011号 著作隣接権侵害差止請求仮処分命令申立事件

決定
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり


主文
1 債権者日本コロムビア株式会社が本決定送達後7日以内に金100万円の担保を立てることを条件として、債務者は、債務者が「ファイルローグ」(File Rogue)という名称で運営する電子ファイル交換サービスにおいて、MP3(MPEG1オーディオレイヤー3)形式によって複製され、かつ、送受信可能の状態にされた電子ファイルの存在及び内容等を示す、利用者のためのファイル情報のうち、ファイル名及びフォルダ名のいずれかに別紙レコード目録1の「タイトル名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。)及び「実演家名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。姓又は名のいずれか一方のみの表記を含む。)の双方が表記されたファイル情報を、利用者に送信してはならない。
2 債権者ビクターエンタテインメント株式会社が本決定送達後7日以内に金100万円の担保を立てることを条件として、債務者は、債務者が「ファイルローグ」(File Rogue)という名称で運営する電子ファイル交換サービスにおいて、MP3(MPEG1オーディオレイヤー3)形式によって複製され、かつ、送受信可能の状態にされた電子ファイルの存在及び内容等を示す、利用者のためのファイル情報のうち、ファイル名及びフォルダ名のいずれかに別紙レコード目録2の「タイトル名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。)及び「実演家名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。姓又は名のいずれか一方のみの表記を含む。)の双方が表記されたファイル情報を、利用者に送信してはならない。
3 債権者キングレコード株式会社が本決定送達後7日以内に金100万円の担保を立てることを条件として、債務者は、債務者が「ファイルローグ」(File Rogue)という名称で運営する電子ファイル交換サービスにおいて、MP3(MPEG1オーディオレイヤー3)形式によって複製され、かつ、送受信可能の状態にされた電子ファイルの存在及び内容等を示す、利用者のためのファイル情報のうち、ファイル名及びフォルダ名のいずれかに別紙レコード目録3の「タイトル名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。)及び「実演家名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。姓又は名のいずれか一方のみの表記を含む。)の双方が表記されたファイル情報を、利用者に送信してはならない。
4 債権者株式会社テイチクエンタテインメントが本決定送達後7日以内に金100万円の担保を立てることを条件として、債務者は、債務者が「ファイルローグ」(File Rogue)という名称で運営する電子ファイル交換サービスにおいて、MP3(MPEG1オーディオレイヤー3)形式によって複製され、かつ、送受信可能の状態にされた電子ファイルの存在及び内容等を示す、利用者のためのファイル情報のうち、ファイル名及びフォルダ名のいずれかに別紙レコード目録4の「タイトル名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。)及び「実演家名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。姓又は名のいずれか一方のみの表記を含む。)の双方が表記されたファイル情報を、利用者に送信してはならない。
5 債権者ユニバーサルミュージック株式会社が本決定送達後7日以内に金100万円の担保を立てることを条件として、債務者は、債務者が「ファイルローグ」(File Rogue)という名称で運営する電子ファイル交換サービスにおいて、MP3(MPEG1オーディオレイヤー3)形式によって複製され、かつ、送受信可能の状態にされた電子ファイルの存在及び内容等を示す、利用者のためのファイル情報のうち、ファイル名及びフォルダ名のいずれかに別紙レコード目録5の「タイトル名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。)及び「実演家名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。)の双方が表記されたファイル情報を、利用者に送信してはならない。
6 債権者東芝イーエムアイ株式会社が本決定送達後7日以内に金100万円の担保を立てることを条件として、債務者は、債務者が「ファイルローグ」(File Rogue)という名称で運営する電子ファイル交換サービスにおいて、MP3(MPEG1オーディオレイヤー3)形式によって複製され、かつ、送受信可能の状態にされた電子ファイルの存在及び内容等を示す、利用者のためのファイル情報のうち、ファイル名及びフォルダ名のいずれかに別紙レコード目録6の「タイトル名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。)及び「実演家名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。姓又は名のいずれか一方のみの表記を含む。)の双方が表記されたファイル情報を、利用者に送信してはならない。
7 債権者日本クラウン株式会社が本決定送達後7日以内に金100万円の担保を立てることを条件として、債務者は、債務者が「ファイルローグ」(File Rogue)という名称で運営する電子ファイル交換サービスにおいて、MP3(MPEG1オーディオレイヤー3)形式によって複製され、かつ、送受信可能の状態にされた電子ファイルの存在及び内容等を示す、利用者のためのファイル情報のうち、ファイル名及びフォルダ名のいずれかに別紙レコード目録7の「タイトル名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。)及び「実演家名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。)の双方が表記されたファイル情報を、利用者に送信してはならない。
8 債権者株式会社徳間ジャパンコミュニケーションズが本決定送達後7日以内に金100万円の担保を立てることを条件として、債務者は、債務者が「ファイルローグ」(File Rogue)という名称で運営する電子ファイル交換サービスにおいて、MP3(MPEG1オーディオレイヤー3)形式によって複製され、かつ、送受信可能の状態にされた電子ファイルの存在及び内容等を示す、利用者のためのファイル情報のうち、ファイル名及びフォルダ名のいずれかに別紙レコード目録8の「タイトル名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。)及び「実演家名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。姓又は名のいずれか一方のみの表記を含む。)の双方が表記されたファイル情報を、利用者に送信してはならない。
9 債権者株式会社エピックレコードジャパンが本決定送達後7日以内に金100万円の担保を立てることを条件として、債務者は、債務者が「ファイルローグ」(File Rogue)という名称で運営する電子ファイル交換サービスにおいて、MP3(MPEG1オーディオレイヤー3)形式によって複製され、かつ、送受信可能の状態にされた電子ファイルの存在及び内容等を示す、利用者のためのファイル情報のうち、ファイル名及びフォルダ名のいずれかに別紙レコード目録9の「タイトル名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。)及び「実演家名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。)の双方が表記されたファイル情報を、利用者に送信してはならない。
10 債権者株式会社ポニーキャニオンが本決定送達後7日以内に金100万円の担保を立てることを条件として、債務者は、債務者が「ファイルローグ」(File Rogue)という名称で運営する電子ファイル交換サービスにおいて、MP3(MPEG1オーディオレイヤー3)形式によって複製され、かつ、送受信可能の状態にされた電子ファイルの存在及び内容等を示す、利用者のためのファイル情報のうち、ファイル名及びフォルダ名のいずれかに別紙レコード目録10の「タイトル名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。)及び「実演家名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。)の双方が表記されたファイル情報を、利用者に送信してはならない。
11 債権者株式会社ワーナーミュージック・ジャパンが本決定送達後7日以内に金100万円の担保を立てることを条件として、債務者は、債務者が「ファイルローグ」(File Rogue)という名称で運営する電子ファイル交換サービスにおいて、MP3(MPEG1オーディオレイヤー3)形式によって複製され、かつ、送受信可能の状態にされた電子ファイルの存在及び内容等を示す、利用者のためのファイル情報のうち、ファイル名及びフォルダ名のいずれかに別紙レコード目録1の「タイトル名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。)及び「実演家名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。姓又は名のいずれか一方のみの表記を含む。)の双方が表記されたファイル情報を、利用者に送信してはならない。
12 債権者株式会社フォーライフミュージックエンタテイメントが本決定送達後7日以内に金100万円の担保を立てることを条件として、債務者は、債務者が「ファイルローグ」(File Rogue)という名称で運営する電子ファイル交換サービスにおいて、MP3(MPEG1オーディオレイヤー3)形式によって複製され、かつ、送受信可能の状態にされた電子ファイルの存在及び内容等を示す、利用者のためのファイル情報のうち、ファイル名及びフォルダ名のいずれかに別紙レコード目録12の「タイトル名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。)及び「実演家名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。姓又は名のいずれか一方のみの表記を含む。)の双方が表記されたファイル情報を、利用者に送信してはならない。
13 債権者株式会社バップが本決定送達後7日以内に金100万円の担保を立てることを条件として、債務者は、債務者が「ファイルローグ」(File Rogue)という名称で運営する電子ファイル交換サービスにおいて、MP3(MPEG1オーディオレイヤー3)形式によって複製され、かつ、送受信可能の状態にされた電子ファイルの存在及び内容等を示す、利用者のためのファイル情報のうち、ファイル名及びフォルダ名のいずれかに別紙レコード目録13の「タイトル名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。)及び「実演家名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。)の双方が表記されたファイル情報を、利用者に送信してはならない。
14 債権者株式会社ビーエムジーファンハウスが本決定送達後7日以内に金100万円の担保を立てることを条件として、債務者は、債務者が「ファイルローグ」(File Rogue)という名称で運営する電子ファイル交換サービスにおいて、MP3(MPEG1オーディオレイヤー3)形式によって複製され、かつ、送受信可能の状態にされた電子ファイルの存在及び内容等を示す、利用者のためのファイル情報のうち、ファイル名及びフォルダ名のいずれかに別紙レコード目録14の「タイトル名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。)及び「実演家名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。)の双方が表記されたファイル情報を、利用者に送信してはならない。
15 債権者パイオニアエル・ディー・シー株式会社が本決定送達後7日以内に金100万円の担保を立てることを条件として、債務者は、債務者が「ファイルローグ」(File Rogue)という名称で運営する電子ファイル交換サービスにおいて、MP3(MPEG1オーディオレイヤー3)形式によって複製され、かつ、送受信可能の状態にされた電子ファイルの存在及び内容等を示す、利用者のためのファイル情報のうち、ファイル名及びフォルダ名のいずれかに別紙レコード目録15の「タイトル名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。)及び「実演家名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。)の双方が表記されたファイル情報を、利用者に送信してはならない。
16 債権者株式会社ルームスレコーズが本決定送達後7日以内に金100万円の担保を立てることを条件として、債務者は、債務者が「ファイルローグ」(File Rogue)という名称で運営する電子ファイル交換サービスにおいて、MP3(MPEG1オーディオレイヤー3)形式によって複製され、かつ、送受信可能の状態にされた電子ファイルの存在及び内容等を示す、利用者のためのファイル情報のうち、ファイル名及びフォルダ名のいずれかに別紙レコード目録16の「タイトル名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。)及び「実演家名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。)の双方が表記されたファイル情報を、利用者に送信してはならない。
17 債権者エイベックス株式会社が本決定送達後7日以内に金100万円の担保を立てることを条件として、債務者は、債務者が「ファイルローグ」(File Rogue)という名称で運営する電子ファイル交換サービスにおいて、MP3(MPEG1オーディオレイヤー3)形式によって複製され、かつ、送受信可能の状態にされた電子ファイルの存在及び内容等を示す、利用者のためのファイル情報のうち、ファイル名及びフォルダ名のいずれかに別紙レコード目録17の「タイトル名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。)及び「実演家名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。)の双方が表記されたファイル情報を、利用者に送信してはならない。
18 債権者株式会社プライエイド・レコーズが本決定送達後7日以内に金100万円の担保を立てることを条件として、債務者は、債務者が「ファイルローグ」(File Rogue)という名称で運営する電子ファイル交換サービスにおいて、MP3(MPEG1オーディオレイヤー3)形式によって複製され、かつ、送受信可能の状態にされた電子ファイルの存在及び内容等を示す、利用者のためのファイル情報のうち、ファイル名及びフォルダ名のいずれかに別紙レコード目録18の「タイトル名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。)及び「実演家名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。)の双方が表記されたファイル情報を、利用者に送信してはならない。
19 債権者株式会社トライエムが本決定送達後7日以内に金100万円の担保を立てることを条件として、債務者は、債務者が「ファイルローグ」(File Rogue)という名称で運営する電子ファイル交換サービスにおいて、MP3(MPEG1オーディオレイヤー3)形式によって複製され、かつ、送受信可能の状態にされた電子ファイルの存在及び内容等を示す、利用者のためのファイル情報のうち、ファイル名及びフォルダ名のいずれかに別紙レコード目録19の「タイトル名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。)及び「実演家名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。)の双方が表記されたファイル情報を、利用者に送信してはならない。

理由の要旨
第1 申立ての趣旨
 債務者は、別紙レコード目録1ないし19記載の各レコードにつき、自己が運営する「ファイルローグ」(File Rogue)という名称の電子ファイル交換サービスにおいて、MP3(MPEG1オーディオレイヤー3)形式によって複製された電子ファイルを送受信の対象としてはならない。
第2 事案の概要
 債務者が運営するインターネット上の電子ファイル交換サービスにおいて、債権者らが製作したレコードをMP3(MPEG1オーディオレイヤー3、以下「MP3」という。)形式で複製した電子ファイルが、債権者らの許諾を得ることなく交換されていることに関して、レコード製作者である債権者らが、上記電子ファイル交換サービスを提供する債務者の行為は、債権者らの有している著作隣接権(レコード製作者の複製権及び送信可能化権)を侵害すると主張して、上記電子ファイルの送受信の差止めを求めた。
 (なお、当事者双方の主張の詳細は、債権者については別紙「仮処分命令申立書」の、債務者については別紙「答弁書」及び「債務者第1回準備書面」の各記載のとおりである。)
1 前提となる事実(審尋の全趣旨により認められる事実)
(1) 当事者等
ア 債権者らはいずれもレコードの製造、販売等を目的とする株式会社である。別紙レコード目録1ないし19記載の各レコード(以下「本件各レコード」という。)のうち、同目録1記載のレコードについては債権者日本コロムビア株式会社が、同目録2記載のレコードについては債権者ビクターエンタテインメント株式会社が、同目録3記載のレコードについては債権者キングレコード株式会社が、同目録4記載のレコードについては債権者株式会社テイチクエンタテインメントが、同目録5記載のレコードについては債権者ユニバーサルミュージック株式会社が、同目録6記載のレコードについては債権者東芝イーエムアイ株式会社が、同目録7記載のレコードについては債権者日本クラウン株式会社が、同目録8記載のレコードについては債権者株式会社徳間ジャパンコミュニケーションズが、同目録9記載のレコードについては債権者株式会社エピックレコードジャパンが、同目録10記載のレコードについては債権者株式会社ポニーキャニオンが、同目録11記載のについては債権者株式会社ワーナーミュージック・ジャパンが、同目録12記載のレコードについては債権者株式会社フォーライフミュージックエンタテイメントが、同目録13記載のレコードについては債権者株式会社バップが、同目録14記載のレコードについては債権者株式会社ビーエムジーファンハウスが、同目録15記載のレコードについては債権者パイオニアエル・ディー・シー株式会社が、同目録16記載のレコードについては債権者株式会社ルームスレコーズが、同目録17記載のレコードについては債権者エイベックス株式会社が、同目録18記載のレコードについては債権者株式会社プライエイド・レコーズが、同目録19記載のレコードについては債権者株式会社トライエムが、それぞれ著作権法(以下「法」という。)2条1項6号のレコード製作者である。債権者らは、その製作に係る前記各レコードについて、複製権(法96条)、送信可能化権(法96条の2)等の著作隣接権を有する(法89条2項)。
イ 債務者は、ソフトウエアの開発、販売その他を目的とする有限会社であるが、平成13年11月1日から、カナダ法人であるITPウェブソリューションズ社と提携することにより、利用者のパーソナルコンピュータ(以下「パソコン」という。)間でデータを送受信させるピア・ツー・ピア(Peer To Peer)技術を用いて、カナダ国内に中央サーバ(以下「債務者サーバ」という。)を設置し、インターネットを経由して債務者サーバに接続されている不特定多数の利用者のパソコンに蔵置されている電子ファイルの中から、同時に債務者サーバに接続されている他の利用者が好みのものを選択して、無料でダウンロードできるサービス(以下「本件サービス」という。)を、「ファイルローグ(File Rogue)」の名称で日本向けに提供している。
 本件サービスを利用するにはパソコンに本件サービス専用のファイル交換用ソフトウェア(以下「本件クライアントソフト」という。)がインストールされることが必要である。債務者は、インターネット上に開設しているウェブサイト「http://www.filerogue.net/」(以下「債務者サイト」という。)において、不特定多数の利用希望者に対して本件クライアントソフトを配布している。
(2) MP3ファイル
 MP3(MPEG1(エムペグワン)オーディオレイヤー3(スリー))とは、音声のデジタルデータを圧縮する技術規格の一つである。パソコン等を利用し、音楽CD等の音声データをMP3ファイルに変換することによって、聴覚上の音質の劣化を抑えつつ、データ量を元の10分の1程度に減らすことができるため、音声データをハードディスク上に複製したり、インターネット上で配信する等の行為を、より容易にすることができる。
(3) 本件サービスの利用方法
ア 利用者が本件サービスを利用するためには、まず、パソコンを債務者サイトに接続して、本件クライアントソフトをダウンロードし、これをパソコンにインストールすることが必要である。次に、利用者は、任意のユーザー名(ユーザーID)及びパスワードを登録しなければならない。この場合に、利用者は、ユーザー名及びパスワードを任意に設定することができ、利用者の戸籍上の名称や住民票の住所等、本人確認のための情報の入力は要求されない。
イ 本件サービスによって、電子ファイルを送信できるようにしようとする利用者(以下「送信者」という。)は、本件クライアントソフトの追加コマンドを実行することによって、送信を可とするファイルを蔵置するフォルダ(以下「共有フォルダ」という。)を指定し、同フォルダに送信を可とする電子ファイルを蔵置する。本件クライアントソフトをインストールしたパソコンが債務者サーバに接続されると、共有フォルダ内の電子ファイルは自動的に他の利用者のパソコンに送信できる状態となる(ただし、接続時に自動的に送信できる状態としない設定も可能である。)。
 送信者は、共有フォルダ内に蔵置した電子ファイルのファイル名を付する(利用者は、同ファイル名を自由に付することができ、したがって、電子ファイルの内容と全く対応しないファイル名であっても支障はない。)。
 送信者が本件クライアントソフトを起動し、接続ボタンをクリックして債務者サーバに接続すると(利用者は、通常、本件クライアントソフトを起動することにより債務者サーバに接続する。)、共有フォルダに蔵置した電子ファイルのファイル情報(ファイル名、フォルダ名、ファイルサイズ及びユーザー名)並びにIPアドレス及びポート番号(インターネットに接続する際に、プロバイダから割り当てられる番号)に関する情報(以下これらの情報を総称して「送信者情報」という場合がある。)が債務者サーバに送信される。
ウ 電子ファイルの受信を希望する利用者(以下「受信者」という。)は、本件クライアントソフトを起動して債務者サーバに接続し、キーワードとファイル形式によって、債務者サーバに対して、希望する電子ファイルの検索の指示を送信すると、債務者サーバから、債務者サーバに接続している他の利用者のパソコンの共有フォルダ内から上記指示に沿った電子ファイルに関する情報(ファイル名、ファイルパス名、ユーザーID、IPアドレス及びポート番号等)が送信される。
 受信者は、上記の電子ファイルに関する情報の中から取得したいファイルを選択し、「ダウンロード」ボタンをクリックすると、保存先のフォルダを表示する画面が表示され、同画面上の「保存」をクリックすると、そのファイルを蔵置しているパソコンから自動的に当該ファイルが送信され、保存先として設定した受信者のパソコン内のフォルダに自動的に複製される。なお、保存先のフォルダは、既定の状態では共有フォルダとなっている。
エ 債務者サーバは、債務者サーバに接続している送信者のパソコンから送信された送信者情報を基に、現時点でダウンロード可能なファイルに関するデータベースを作成する。
 受信者からの検索指示が送信されると、上記ファイル情報等を用いて検索処理をし、債務者サーバに接続している利用者の共有フォルダ内から上記指示に合致したファイル名を検出し、検出したすべての電子ファイルに関する情報等(ファイル名、ファイルパス名、ユーザーID、IPアドレス及びポート番号等)を検索指示をした受信者のパソコンに送信する。
(4) 本件サービスの特徴
 本件サービスは、MP3ファイルのみを送受信の対象とするものではなく、音声、動画、画像、文書、プログラムなどの多様な電子ファイルを交換することのできる汎用的なものである。
 本件サービスにおいて、債務者サーバには、電子ファイルのファイル情報等のみが送られ、交換の対象となる電子ファイル自体は利用者のパソコン内に蔵置され、債務者サーバには送信されることはない。ファイル送信の指示及び電子ファイル自体の送信は、受信者と送信者のパソコンの間で直接行われる。しかし、利用者同士間でこのような送受信が可能となるのは、本件サービスが、利用者のインターネット上の所在(IPアドレス及びポート番号)を把握し、これに基づいて、本件クライアントソフトが、インターネットを介して受信者と送信者のパソコンを直接接続するサービスを提供しているからである。
 このようなシステムのため、債務者においても、個別にダウンロードして再生しない限り、債務者サーバに送信されたファイル情報によって示されている電子ファイルの内容を知ることはできない。
(5) 利用者が権利侵害をした場合の債務者の措置
 本件サービスにおいて、利用者は、パソコンの画面上で、著作権等を侵害するファイルを送信可能な状態としないことなどを内容とする利用規約に同意する旨のボタンをクリックしない限り、本件クライアントソフトをダウンロードすることができない仕組みとされている。
 債務者の規約によれば、債務者は、電子ファイルの公開により権利が侵害されたと思料する者から、電子ファイルの名称、電子ファイルが蓄積されているディスクのID、侵害された権利の概要を示されてファイル公開の停止(共有の解消)を求められたときは、ファイルの保有者が反論を提出しなかった場合、あるいは仲裁等により権利侵害が確定された場合、当該ファイル保有者の利用を停止することができるとされている。
 現在のところ、債務者は、送信可能化状態にされたMP3ファイルの中から、著作権、著作隣接権侵害に当たるものを選別したり、そのファイル情報の送信を遮断するなどの技術を有しているわけではない。
(6) 本件サービスの運営状況
 債権者らが加盟する社団法人日本レコード協会(以下「日本レコード協会」という。)が、平成13年11月1日から平成14年1月23日までの間の毎平日の午後5時前後に行った調査によれば、債務者サーバに接続しているパソコンの共有フォルダに蔵置されている電子ファイルの数は、各調査時点の平均で54万弱であるが、そのうちMP3ファイルは平均約8万で全体の約15パーセントを占める(なお、この数字は公開中の電子ファイルの数であり、実際に交換された電子ファイルの数ではない。)。また、平成13年12月3日の時点で、債務者サーバに登録された利用者数は約4万2000人に達していたが、前記調査によれば、各調査時点で同時に債務者サーバに接続している利用者数は平均約340人であった。
 前記のとおり、MP3ファイルのファイル名は自由に付けることができる。債務者サーバにおいて公開されたMP3ファイルの場合、そのファイル名又はフォルダ名に、市販のレコードの実演家名、楽曲名又はアルバムタイトルに一致すると推測される部分を含むものが数多く存在する。日本レコード協会が債務者サーバから不作為に抽出した306件のMP3ファイルについて調査したところ、同協会の職員らが、そのファイル名及びフォルダ名に照らし判断した結果、一部に特定のレコードと結びつけることのできないものも存在したが、96.7パーセントのものが市販のレコードを複製したものであると判断された。
 現在、本件サービスの利用は無料であるが、債務者は、パソコン画面上に表示される広告から、若干の広告料収入を得ている。
(7) 本件各レコードの複製
 日本レコード協会は、平成13年12月から同14年1月にかけて、債務者サーバに接続して、本件各レコードの楽曲名又は実演家名をキーワードとして検索を行い、検索条件に合致するMP3ファイルをダウンロードして実際に再生するという調査を行った。その結果、本件各レコードを複製したMP3ファイル(以下「本件各MP3ファイル」という。)が、実際に本件サービスにおいて公開されていることが確認されている。
(8) 債権者らと債務者との事前交渉等
 日本レコード協会は、本件サービス開始前の平成13年10月24日、債務者に対し、フィルタリング及び巡回監視を行って、日本レコード協会に加盟している協会員(以下「協会員」という。)が、著作隣接権を有するレコードのファイル交換を遮断すること、遮断の仕組みを伴っていないのであれば、それが完成するまでの間、サービスの提供自体を延期することを要請し、さらに、同年12月3日、本件サービスにおいて、協会員が製造販売する音楽CDをMP3形式に変換したファイルが、著作隣接権者の許諾なく多数送信可能化されており、交換されているMP3ファイルの圧倒的大部分がこのようなファイルで占めてられているとして、ファイルの交換を遮断する措置を講じるよう債務者に要請した(同時に、協会員が発売する音楽CDのタイトル一覧を収納した電子ファイルを債務者に送付した。)。
 これに対し、債務者は、同年12月10日、日本レコード協会に対し、債務者の行為は情報交換のためのインフラの整備、提供であること、本件サービスが他人の権利を侵害するような情報の流通に利用されることを完全に防止できるとまではいえない状況にあっても、まず、情報交換のインフラを整備、提供することこそが重要であると考えていること、債権者が要請するファイル交換の遮断措置を講じるためには、レコード会社名、曲名、アーティスト名を入力すれば、当該音楽CDをMP3形式に複製したファイルを自動的に検出するというような技術が不可欠であるが、債務者はそのような技術が存在することは知らないこと、債務者はノーティス・アンド・テイクダウン手続を用意しているので、債権者も上記手続を利用すべきことなどを回答した。
2 争点
(1) 被保全権利の有無
ア 本件各レコードについて債権者らの有する著作隣接権に対する侵害行為の主体が債務者であるとして、債務者に対して、本件各MP3ファイルの送受信の差止めを求めることはできるか。
イ 本件各レコードについて債権者らの有する著作隣接権に対する侵害行為を債務者が教唆又は幇助しているとして、債務者に対して、本件各MP3ファイルの送受信の差止めを求めることはできるか。
(2) 保全の必要性の有無
3 争点に対する当事者の主張
(1) 争点(1)ア(著作隣接権の直接侵害の成否)について
(債権者らの主張)
ア 利用者の著作隣接権侵害の有無
(ア) 送信者の複製行為と複製権侵害の有無
 以下のとおりの理由から、送信者が本件各MP3ファイルをパソコンの共有フォルダに蔵置すること、及び共有フォルダに本件各MP3ファイルを蔵置した状態で債務者サーバにパソコンを接続させることは、債権者らの有する複製権を侵害する。
a 本件各レコードの複製物である本件各MP3ファイルをパソコンの共有フォルダに蔵置することは、本件各レコードをパソコンのハードディスク等の記憶媒体に複製(法2条1項15号)する行為に該当する。
 そして、仮に本件各MP3ファイルが複製された当初は私的使用の目的(同法30条、102条1項)でされたものであっても、それを共有フォルダに蔵置して債務者サーバに接続すれば、不特定多数の者に対して送信可能な状態にするので、「公衆に提示」(同法102条4項1号)したことになる。
b 法30条1項は、複製者自身が、複製の目的とされた使用をすることを前提としている。送信者が、本件サービスの利用を前提として、自己のパソコンにおいて複製する行為は、私的な使用を目的とした送信者自身による複製とはいえず、同条項を適用することはできない。
c 法30条1項は、文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約パリ改正条約(以下「ベルヌ条約」という。)9条(2)項本文の、「特別の場合について(1)の著作物の複製を認める権能は、同盟国の立法に留保される。」という条項に基づく規定である。同項ただし書きは、「ただし、そのような複製が当該著作物の通常の利用を妨げず、かつ、その著作物の正当な利益を害しないことを条件とする。」と規定し、複製権を制限する立法に対して、内容面で制約を付している(同項本文の「特別な場合」という条件を含めて、一般に「3ステップテスト」と呼んでいる。)。また、ベルヌ条約をその一部として組み込む形で定められたTRIPs協定の13条には、複製権を含む著作者の排他的権利一般の制限規定について、これと同一の制約が課されている。
 ところで、我が国が締結した条約及び確立された国際法規は、国内法である法律よりも上位にある。したがって、複製権の制限を認める法30条1項の規定が有効であるためには、同規定は、3ステップテストをクリアできるように限定的に解釈適用されなければならない。このような理由から、法30条1項を限定的に解釈すると、本件サービスの利用を前提として、送信者が行う本件各レコードの複製は、同条項の要件を充たさないことは明らかである。
d 法102条4項1号の規定の趣旨は、「同法102条1項によって準用される同法30条1項の私的使用目的は複製時点に存すれば足りるところ、複製時点で私的使用目的があったとしても、結果的に私的使用の範囲を超えて当該複製物が利用される場合には、同条項の趣旨が潜脱されることになるから、たとえ同条項に従って作成された複製物であっても、それを頒布したり、公衆に提示した者は、複製を行った者とみなす」というものである。法102条4項1号にいう「公衆に提示」する行為には、当該複製物を用いて機械的に公に再生したり、上映したり、放送、有線送信等の公衆送信を行ったりといった、法が著作権者等に禁止権を与えた利用方法のすべてを含むと解すべきである。
 したがって、本件サービスを利用して、送信者が、共有フォルダに蔵置された本件各MP3ファイルを公衆に対して送信可能な状態に置けば、その行為自体が、法102条4項1号の「公衆に提示」する行為に該当する。その送信を受けた受信者が、送信されたファイルそのものを視聴するのか、それとも送信されたファイルを一旦自己の記録媒体に複製してから視聴するかは問題にならない。
(イ) 送信者の送信可能化行為と送信可能化権侵害の有無
 以下のとおりの理由から、本件サービスにおける送信者の行為は、債権者らの有する送信可能化権を侵害する。
a 本件サービスは、誰でも、自由に設定したID、パスワード及びメールアドレス(虚偽のものでも受理される。)のみを入力することで直ちに利用可能となるから、本件サービスにより電子ファイルの送信を受ける者は「不特定人」である。そして、本件サービスの利用者は平成13年12月3日の時点で既に4万2000人に及び、債務者サーバに接続中のパソコンも常時数百に及ぶから、電子ファイルの受信者は「多数」である。したがって、本件サービスにより電子ファイルをダウンロードする者は「公衆」(法2条5項参照)に該当する。
 なお、法2条1項7号の2の「公衆によって直接受信されることを目的として」の「目的」は、当該行為の外形から客観的に判断されるものであり、「特定の友人だけに送信したい」というような送信者の内心によって左右されるものではない。
b 本件クライアントソフトの起動により利用者のパソコンが債務者サーバに接続された結果、同パソコン内の共有フォルダ内に蔵置されているファイルの内容等を示すファイル名・ファイルサイズ・ファイルの所在等の情報が債務者サーバに自動的かつ瞬時に読みとられ、債務者サーバにおけるこの情報の独占排他的な管理の下で他の利用者に提供されることにより、「自動公衆送信」状態が生じる。すなわち、本件サービスにおいて、共有フォルダ内に蔵置された電子ファイルが、他のパソコンからの要求に応じて自動的に送信されることは、公衆によって直接受信されることを目的として行う送信を公衆からの求めに応じ自動的に行うものといえるから、「自動公衆送信」(同法2条1項9号の4)に該当する。
 また、送信側パソコンとそれが接続した債務者サーバとが本件クライアントソフトの機能により一体となって法2条1項9の5号イにいう「自動公衆送信装置」を構成するものというべきである。したがって、共有フォルダに電子ファイルを蔵置する行為は、「公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に情報を記録すること」であるから、同号にいう「送信可能化」に当たる。
(ウ) 受信者の複製行為と複製権侵害の有無
 本件サービスによって他の利用者のパソコンからダウンロードされた電子ファイルは、受信側パソコンに自動的に蔵置(複製)される。既定の状態では受信側パソコンの共有フォルダ内に蔵置(複製)された上、さらに再送信可能な状態に置かれるから、そこに電子ファイルを蔵置することは、私的使用には該当しない。
イ 債務者の著作隣接権侵害の有無
(ア) 本件サービス提供行為と送信可能化権侵害の有無
 債務者が、自己の運営する本件サービスにおいて、MP3形式によって複製され、かつ、送受信可能の状態にされた電子ファイルの存在及び内容等を示すファイル情報を受信者に送信することは、@一連の行為の性質、A利用者のする送信可能化行為に対する管理・支配、B本件サービスによる図利目的等を総合的に判断すれば、債権者らの有する送信可能化権を侵害する行為と解すべきである。
a 行為の性質
 債務者サーバは、@債務者サーバに接続している利用者のパソコンの共有フォルダ内のファイル情報を取得し、Aそれらを一つのデータベースとして統合して管理し、B受信者の検索リクエストに応じた形式に加工した上、Cこれを、同時に債務者サーバに接続されている他の利用者に対して排他的に提供し、D当該他の利用者が本件クライアントソフトにより、好みのファイルを検索・選択し、画面に表示されたダウンロードボタンをクリックするだけで(送信者のIPアドレスを知る必要も機会もないまま)電子ファイルの送信を受ける機会を提供し、Eさらに送信側パソコンがファイアウォールの中にあるときは、受信者からダウンロード要請があったことの指令を送っている。
 このように、債務者は、ファイル情報の取得、統合、管理、加工及び排他的提供並びにそれらによるダウンロード機会の提供を自ら直接、主体的に行っており、これらの一連の行為によってはじめて利用者のパソコンの共有フォルダ内に蔵置された電子ファイルが他の利用者へ送信し得る状態となるのである。
 債務者の利用規約においては、著作権、著作隣接権を侵害する電子ファイルを送信可能な状態とすることが禁止されているが、本件サービスは、本来的に本件各レコードを含む市販CDを複製したMP3ファイルが大量に送信可能化されることを予定しているところ、本件サービスにおいては利用者の匿名性が確保されている上、自己のIDを自由に変更できるから、上記利用規約違反行為を発見されても別のIDを用いて同行為を継続することができ、したがって、上記利用規約は実効性がない。債務者自身も上記利用規約が実際に守られるとは思っていない。
 したがって、債務者は、利用者の送信可能化の実現にとって、中核的かつ不可欠な役割を担っているといえるから、債務者の上記各行為は、債権者らの有する送信可能化権を侵害する。
b 管理・支配
 以下のとおりの事情を総合すれば、債務者は、利用者の行う電子ファイルの送信可能化について実質的な支配・管理をしているというべきである。
(a) すなわち、本件サービスは、本件各レコードを含む多数の市販CDを複製したMP3ファイルが匿名性を守られた不特定多数の送信者によって選択され、莫大な量で送信可能化されるに至ることを当然に予定し、これを営業としているのであり、かつ現実にも予定されたとおりの莫大な量の送信可能化が生じている。個々具体的な電子ファイルの選択を行っているのが送信者であるとしても、それは本件サービス自体が予定し、又は本件サービスに内在する危険が因果の流れにより実現化したものであって、その電子ファイルの送信可能化は、債務者自身の行為というべきである。
(b) 債務者は、共有フォルダ内のすべての電子ファイルについての統一されたデータベースを作成しているから、共有フォルダ内の電子ファイルは債務者の管理下にあるというべきである。本件サービスにおいても、HELP画面及びFAQ画面を設けて、ユーザー登録からファイル交換に至るまで懇切丁寧に説明している。
(c) 債務者は、本件各MP3ファイルの送信可能化を勧誘したことはない旨主張するが、本件サービスは専らダウンロードを目的として提供されているのであるから、本件サービスの提供自体が送信可能化と評価される。
c 図利目的の存在
 以下のとおりの事情を総合すれば、債務者は、利益を得ることを目的として、本件各レコードの著作隣接権侵害を行っているといえる。
(a) 債務者は、本件サービスの提供を主たる営業行為としており、かつ、インターネット広告代理店会社であるバリューコマース株式会社外1社と広告契約をすることにより、本件サービスの提供によって現実に利益を得ている。たとえ本件各レコードの送信可能化の一つ一つから直接利益を得るのでなくとも、本件著作隣接権侵害行為は利益を得ることを目的としているといえる。
(b) 債務者は、本件各レコードの送信可能化による直接の対価を得ていないとしても、本件各レコードを含む多数の市販CDを複製したMP3ファイルなど、本来有償でしか取得できないファイルを多数送信可能化することは、本件サービスの利用者を増大させてその経済価値を高めるものであって、それによって債務者の利益の拡大が図られる。このような著作物やレコードの利用は、民間のテレビ、ラジオ放送や、インターネット上で提供される数々のポータルサイト等におけるコンテンツの無料提供サービスにおいて、そのコンテンツが当該放送の視聴者や当該ポータルサイトの訪問者を増やすために利用されていることと同様に、利益を得ることを目的としているというべきである。
(c) 債務者は、最終的には本件サービスの有料化を検討していると述べている。
(イ) 本件サービス提供行為と複製権侵害の有無
 債務者が、自己の運営する本件サービスにおいて、MP3形式によって複製され、かつ、送受信可能の状態にされた電子ファイルの存在及び内容等を示すファイル情報を受信者に送信することは、債権者らの有する複製権を侵害するものと解すべきである。
 すなわち、上記(ア)で述べた事実、及び@債務者は各受信者に本件クライアントソフトを配布していること、A債務者は債務者サーバを運営して各受信者からの複製対象ファイルの情報を取得、統合、管理及び加工を行っていること、B各受信者の複製対象ファイルはその時点で債務者の管理下にある(債務者サーバに接続されている送信側パソコンの共有フォルダ内にある)電子ファイルに限定されていること、C利用者のダウンロード要請に応じたファイル送信を可能にしているのは債務者であること、D債務者は受信者のダウンロード要請を受け付けて自ら積極的に接続を確立させていること等の事実から明らかである。
(債務者の反論)
ア 利用者の著作隣接権侵害の有無
(ア) 送信者の複製行為と複製権侵害の有無
 以下のとおりの理由から、送信者が本件各MP3ファイルをパソコンの共有フォルダに蔵置すること、及び共有フォルダに本件各MP3ファイルを蔵置した状態で債務者サーバにパソコンを接続させることは、債権者らの有する複製権を侵害しない。
a 自分のパソコンにインストールされているMP3プレイヤーで聴くために、本件各MP3ファイルを保存する行為自体は、法102条1項により準用される法30条1項により、著作隣接権者の許諾を得る必要はなく、そもそも適法な行為である。
b また、法102条4項1号は、私的利用目的で作成した複製物「によって」レコードに係る音等を公衆に提示した場合に、複製を行ったものとみなすという規定である。同条項が適用されるためには、「レコードに係る音等」が、私的利用目的で作成した複製物自体によって、公衆に提示される必要がある。しかし、受信側パソコンに提示される音は、送信者が私的利用目的で作成した複製物により提示されるのではなく、受信者が私的利用目的で作成した複製物により提示されるものである。したがって、私的利用目的で作成したMP3形式の音楽ファイルを共有フォルダに蔵置したまま債務者サーバに接続をしても、法102条4項1号のみなし複製規定の適用を受けることはないというべきである。
(イ) 送信者の送信可能化行為と送信可能化権侵害の有無
 以下のとおりの理由から、送信者が本件各MP3ファイルをパソコンの共有フォルダに蔵置すること、又は、共有フォルダに本件各MP3ファイルを蔵置した状態で債務者サーバにパソコンを接続させることは、債権者らの有する送信可能化権を侵害しない。
 送信者は、本件クライアントソフト等を利用して行われるリアルタイム・チャット等を介して知り合った特定の人物によって直接受信されることを目的として、特定のフォルダを共有フォルダとして指定する場合があり得る。このような場合、送信の相手側は少数人かつ特定人であるというべきである。したがって、上記の場合は、共有フォルダ内に本件各MP3ファイルを蔵置する行為は、「公衆によって直接受信されることを目的として」なされたものとはいい難いから、「送信可能化」に当たらないというべきである。
(ウ) 受信者の複製行為と複製権侵害の有無
 まず、受信者は、受信側パソコン内の任意のフォルダ内に受信したファイルを蔵置(複製)することができるのであって、必ずしも受信側パソコンの共有フォルダ内に蔵置(複製)され、さらに再送信可能な状態に置かれるとはいえない。また、法30条1項が適用されるために要求されるのは、複製を行うに当たって、新たに作成した複製物を「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的」としていることのみであるから、受信者が自らのパソコン又は携帯用MP3プレイヤーで音楽等を聴く目的で受信した電子ファイルを受信側パソコン内に蔵置したのであれば、再送信されることを意識することなく漫然と受信した電子ファイルを共有フォルダに収蔵したときであっても、電子ファイルの複製行為は私的使用を目的として行われている以上、法30条1項の適用がある。
 したがって、少なくとも、受信者が自らのパソコン又は携帯用MP3プレイヤーで音楽等を聴く目的で受信した電子ファイルを受信側パソコン内に蔵置した場合には、当該蔵置(複製)行為は、著作隣接権侵害とはなり得ない。
イ 債務者の著作隣接権侵害の有無
(ア) 本件サービス提供行為と送信可能化権侵害の有無
 最判昭和63年3月15日(民集42巻3号199頁)によれば、実際に著作物等の利用行為を行っている者以外の者を規範的に利用行為主体と認めるためには、@実際の利用者による利用を管理していること、A当該利用行為により利益を上げることを意図していたことの2点が必要とされている。本件サービスは、いずれの要件も充足しないから、債権者らの有する送信可能化権を侵害しない。
a 管理
 以下のとおりの理由により、利用者による送信可能化行為が債務者の管理の下で行われているということはできない。
(a) 本件各MP3ファイルが蔵置されているフォルダを共有フォルダに指定し、又は、共有フォルダに本件各MP3ファイルを蔵置することによって送信可能化を行ったのは、あくまでも、利用者であって債務者ではない。また、本件クライアントソフトを起動させる行為をしたのも、利用者であって債務者ではない。
 利用者が共有フォルダに蔵置して送信可能化する電子ファイルは、債務者があらかじめ指定したものに限られるという実態はない。
 利用者は、本件クライアントソフトをダウンロードしてパソコンにインストールした後、自宅等において、債務者の意思に関わりなく利用者自身の自由意思をもって本件クライアントソフトを起動したり、本件クライアントソフトにより任意のフォルダを共有ファイルとして指定する。
(b) 債務者サーバが関与しているのは、特定の電子ファイルのファイル名、ファイルパス名、ユーザーID及びIPアドレス等の情報を受信者に対して送信する行為に関してである。その後の受信側パソコンから送信側パソコンに特定の電子ファイルを特定のIPアドレスへ送信するようにとの指令を発信し、この指令を受信した送信側パソコンが特定の電子ファイルを受信側パソコンのIPアドレスに向けて送信するという行為に関しては、債務者は何ら関与していない。確かに、本件クライアントソフトは、@特定の電子ファイルを検索してその電子ファイルに関するカタログデータを入手するまでの過程、及びAそのカタログデータを基に個人間で電子ファイルの送受信を行う過程とを一つのソフトウェアで処理している。しかし、債務者が関与しているのは、あくまで、@の行為に関連するものに限られる。
(c) 共有フォルダとして指定されたフォルダ内に蔵置された電子ファイルを、GNUTELLAやWinMX等の、他のピア・ツー・ピア間のファイル送受信ソフトにより、公衆に送信可能な状態に置くことは容易である。実際、本件クライアントソフトとWinMXを同時に起動させ、同じフォルダを共有フォルダに指定することは可能である。したがって、債務者は、利用者が本件著作隣接権侵害行為を実現することに不可欠な役割を果たしているとはいえない。
(d) 本件各MP3ファイルを蔵置したフォルダを共有フォルダに指定すること、本件各MP3ファイルを共有フォルダに蔵置すること、又は、本件各MP3ファイルを蔵置したフォルダが共有フォルダとして指定されたままの状態で本件クライアントソフトを起動させることを債務者が勧誘した事実もない。
 債務者は、利用者の求めに応じて、利用者に対して、本件クライアントソフトの操作方法を教えるようなサービスも行っていない。
b 図利目的の不存在
 以下のとおり、債務者は、本件サービスの運営により利益を上げる意図を有していない。
(a) 債務者は、利用規約において、利用者に、著作権、著作隣接権、名誉権、プライバシー権その他第三者の権利を侵害する電子ファイルを送信可能な状態とすることを禁止し、ノーティス・アンド・テイクダウン手続を採用することを規定し、同手続の具体的な規定まで設けている。
(b) 本件サービスの利用者が送信を許可した電子ファイルのうち、何らかの音声をMP3形式に変換した電子ファイルの割合は約15パーセント程度にすぎない。債務者にとって、利用者が本件サービスを利用して、本件各レコードの電子ファイルを無償、大量かつ容易に取得できることによる吸引力は大きいものではない。
(c) 確かに、債務者は、インターネット広告代理会社であるバリューコマース株式会社外1社と契約することにより広告料収入を得ている。しかし、上記各社は、本件各MP3ファイルを利用者が送信可能化したことに対して広告料を債務者に支払うのではない。したがって、債務者が本件サービスを運営するのは、利用者によって本件各MP3ファイルが送信可能化されること、又は、本件各MP3ファイルが受信側パソコンに複製されることにより利益を得ることを目的としているわけではない。
(d) 債務者は、最終的には本件サービスの有料化を検討している旨述べたが、「有料化を検討すること」と「利益を取得すること」とは異なる。また、債務者は、営利法人であるが、営利法人だからといって、すべての業務を利益取得目的で実施していることにはならない。
(イ) 本件サービス提供行為と受信側パソコンにおける複製権侵害の有無
 以下のとおりの理由から、債務者が、自己の運営する電子ファイル交換サービスにおいて、MP3形式によって複製され、かつ、送受信可能の状態にされた電子ファイルの存在及び内容等を示すファイル情報を受信者に送信することは、債権者らの有する複製権を侵害しない。
 すなわち、上記(ア)で述べた事実、及び、@利用者が「ダウンロード」コマンドや「保存」コマンドを実行することにより受信側パソコンに複製される電子ファイルは債務者があらかじめ指定したものに限られるという実態はないこと、A本件各MP3ファイルを送信ないし保存するように債務者が勧誘した事実もないことから、利用者による複製が債務者の管理の下で行われていないことは明らかである。
 また、債務者は、本件サービスの運営により利益を上げる意図を有していないことは前述のとおりである。
(2) 争点(1)イ(教唆又は幇助の有無等)について
(債権者らの主張)
 法112条1項の「著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」には、著作隣接権侵害の教唆者及び幇助者も含まれる。
 そして、仮に債務者が本件各レコードについて、著作隣接権を直接侵害していないとしても、債務者は上記著作隣接権侵害を惹起せしめ、積極的にこれに荷担しているのであるから、債務者は、利用者に対して、著作隣接権侵害の教唆、幇助をしているといえる。したがって、債権者らは、債務者に対して、債務者の行為の差止めを求めることができる。
(債務者の主張)
 以下のとおりの理由から、法112条1項所定の「著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」には、第三者の著作隣接権侵害行為を教唆又は幇助した者は含まれないと解すべきである。すなわち、@法112条1項は文言上差止請求権行使の相手方を「著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」に限定していること、A法112条1項の差止請求権は、被請求者の故意又は過失があることすら問わない強力な権利であること、B第三者による著作権等侵害行為を客観的に惹起し、補助し、又は容易ならしめる行為がすべて差止請求の対象となるのだとすると、その範囲は過度に広範囲となり、われわれの日常生活すら脅かされる事態に至る虞があること(例えば、債権者らは、パソコンメーカーに対し、パソコンの製造・販売の差止めすら要求できることになる。)、C我が国の著作権法には、特許法上の間接侵害(特許法101条2号)のような規定も、米国著作権法上の寄与侵害のような規定も設けられていないこと等からすれば、教唆又は幇助をした者に対する差止請求は許されない。
 また、債務者は、本件各レコードについての著作隣接権侵害を教唆したことはなく、上記行為についての幇助の故意、過失もない。
(3) 争点(2)(保全の必要性の有無)について
(債権者らの主張)
 債権者らが、債務者に対し、違法複製物の遮断措置を講じるよう繰り返し要請したにもかかわらず、債務者はこれを放置している。著作隣接権侵害は時々刻々発生し、債権者らには、莫大な被害が生じている。かかる状況が続けば多くのレコード会社の存続は不可能となり、音楽文化は衰退する。本案判決を待ったのでは、債権者らに回復不能な損害が生じる。
(債務者の主張)
 本件各レコードを含む多くのレコードが送信可能化されることで、債権者らを含むレコード会社の存続が不可能となるわけではない。
 レコード生産枚数の減少は、レコードを一番多く購入する世代人口の減少、失業率の上昇による購買力の低下、「カラオケ」需要の低下、新譜数自体の減少といった様々な原因によるものであり、本件サービス開始とは無関係である。
 仮処分命令があれば、本件サービスを事実上停止せざるを得なくなるが、その結果、我が国において、ピア・ツー・ピア型の大容量の電子ファイル交換システムは、開発の道を事実上絶たれることになる。本訴確定以前に、仮処分により本件サービスを停止する緊急の必要性はない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)ア(著作隣接権の直接侵害の成否)について
(1) 利用者の著作隣接権侵害の有無(前提問題)
 債務者は、本件サービスを運営して、MP3形式によって複製され、かつ、送受信可能の状態にされた電子ファイルの存在及び内容等を示すファイル情報を受信者に送信するなどしているが、債務者の同行為は、送信可能化権を直接的に侵害する行為といえるか否かについて判断する。
 まず、その前提として、送信者が行う複製行為及び送信可能化行為が、それぞれ、複製権侵害又は送信可能化権侵害を構成するかについて検討する。
ア 送信者の行う複製行為と複製権侵害の有無
(ア) 利用者が、パソコンの共有フォルダに蔵置するMP3ファイルは、@利用者が、自らパソコンで音楽CDをMP3ファイルに変換する場合、A他の者が音楽CDから変換したMP3ファイルを何らかの方法で取得する場合、B利用者が、他の者が音楽CDから変換したMP3ファイルを、本件サービスを利用して受信する場合が想定されるところ、音楽CDのMP3形式へ変換する行為は、聴覚上の音質の劣化を抑えつつ、デジタル信号のデータ量を圧縮するものであり、変換された音楽CDと変換したMP3形式との間には、内容において実質的な同一性が認められるから、レコードの複製行為ということができ、したがって、前記@ないしBの場合のいずれにの場合であっても、利用者がMP3ファイルを自己のパソコンの共有フォルダに蔵置することは、レコードの複製行為に当たる(法2条1項15号)。
(イ) 法102条1項が準用する法30条1項は、著作物は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(私的使用)を目的とするときは、使用する者が複製することができる旨を規定している。また、法102条4項1号は、法30条1項に定める目的以外の目的のために、当該レコードに係る音を公衆に提示した者は複製を行った者とみなす旨を規定している。
 そうすると、@利用者が、当初から公衆に送信する目的で、音楽CDをMP3形式のファイルへ変換した場合には、法102条1項、同30条1項の規定の解釈から当然に、また、A当初は、私的使用目的で複製した場合であっても、公衆が当該MP3ファイルを受信して音楽を再生できるような状態にした場合には、当該レコードに係る音を公衆に提示したものとして、法102条4項1号の規定により、複製権侵害を構成する。
 以上のとおり、本件サービスの利用者が、レコード製作者である債権者らの許諾を得ることなく、本件各MP3ファイルをパソコンの共有フォルダに置いて債務者サーバに接続すれば、複製をした時点での目的の如何に関わりなく、本件各レコードについて著作隣接権侵害(複製権侵害又はそのみなし侵害のいずれか)を構成する。
イ 送信者の行う送信可能化行為と送信可能化権侵害の有無
(ア) 前記前提事実のとおり、本件サービスは、ユーザー名及びパスワードを登録すれば誰でも利用できるものであり、既に4万人以上の者が登録し、平均して同時に約340人もの利用者が債務者サーバに接続して電子ファイルの交換を行っている。そして、送信者が、電子ファイルをパソコンの共有フォルダに蔵置して、本件クライアントソフトを起動して債務者サーバに接続すると、送信者のパソコンは、債務者サーバにパソコンを接続させている受信者からの求めに応じ、自動的に上記電子ファイルを送信し得る状態となる。
 したがって、電子ファイルを共有フォルダに蔵置したまま債務者サーバに接続して上記状態に至った送信者のパソコンは、債務者サーバと一体となって情報の記録された自動公衆送信装置(法2条1項9号の5イ)に当たるということができ、また、その接続した時点で、公衆の用に供されている電気通信回線への接続がされ、当該電子ファイルの送信可能化(同号ロ)がされたものと解することができる。
 なお、本件各MP3ファイルは、その内容において、本件各レコードと実質的に同一であるから、本件各MP3ファイルを送信可能化することは本件各レコードを送信可能化することに当たる。
(イ) 以上によれば、本件サービスの利用者が、レコード製作者である債権者らの許諾を得ることなく、本件各MP3ファイルをパソコンの共有フォルダに置いて債務者サーバに接続すれば、本件各レコードについて、著作隣接権侵害(送信可能化権侵害)を構成する(法96条の2)。
ウ まとめ
 利用者が、本件各レコードを複製し、又は送信可能化をするに当たり、製作者である債権者らがこれを許諾した事実のないことは前述のとおりである。したがって、本件サービスの利用者の前記各行為は、著作隣接権侵害(複製権侵害及び送信可能化権侵害)を構成する。
(2) 債務者の著作隣接権侵害(送信可能化権侵害)の有無
ア 以上認定したとおり、送信者は、本件各MP3ファイルをパソコンの共有フォルダに蔵置し、かつ、その状態で債務者サーバにパソコンを接続させているのであり、送信者の上記行為は、債権者らの有する送信可能化権を侵害する。
 しかし、債務者自らは、パソコンに蔵置した本件各MP3ファイルを債務者サーバに接続させるという物理的行為をしているわけではない。
 そこで、債務者の行為が、債権者らの有する送信可能化権を侵害すると解すべきかを考察することとする。債務者の行為が、送信可能化権を侵害するか否かについては、債務者の行為の内容・性質、利用者のする送信可能化状態に対する管理・支配の程度、本件行為によって生ずる債務者の利益の状況等を総合斟酌して判断すべきである。
イ 本件サービスの内容・性質
(ア) 前記前提事実及び審尋の全趣旨によれば、以下のとおりの事実が認められる。
 債務者サーバは、@債務者サーバに接続している利用者のパソコンの共有フォルダ内の電子ファイルに関するファイル情報を取得し、Aそれらを一つのデータベースとして統合して管理し、B受信者の検索リクエストに応じた形式に加工した上、Cこれを、同時に債務者サーバに接続されている他の利用者に対して提供し、D他の利用者が本件クライアントソフトにより、好みのファイルを検索・選択し、画面に表示されたダウンロードボタンをクリックするだけで(送信者のIPアドレスを知る必要もないまま)当該電子ファイルの送信を受ける機会を提供している。このように、ファイル情報の取得等に関するサービスの提供並びに電子ファイルをダウンロードする機会の提供その他一切のサービスを、債務者自らが、直接的かつ主体的に行っている。利用者は、債務者のこれらの行為によってはじめてパソコンの共有フォルダ内に蔵置された電子ファイルが他の利用者へ送信し得る状態を実現できる。
 ところで、審尋の全趣旨からすると、本件サービスを利用すれば、市販のレコードとほぼ同一の内容のMP3ファイルを無料で、しかも容易に取得できるのであるから、市販のレコードを安価に取得したいと希望する者にとって、本件サービスは極めて魅力的である。一方で、現時点においては、自己が著作した音楽等の電子ファイルを不特定多数の者に無料で提供したり、他の不特定の者が著作した音楽等の電子ファイルを取得したいと希望する者は比較的少ないものと推測される。仮に、そのような音楽等の電子ファイルの取得を希望する者がいたとしても、本件サービスにおける検索機能は、希望する作品の所在を正確に確認するには不十分であり、結局、本件サービスはそのような作品の電子ファイルを交換するためには有効に機能しないものと解される。実際にも、前記前提となる事実のとおり、債務者サーバが送受信の対象としているMP3ファイルの約96.7パーセントが、市販のレコードを複製したファイルに関するものである。したがって、本件サービスにおいて送受信されるMP3ファイルのほとんどが違法コピーに係るものとなることは避けられないものと予想され、債務者としても本件サービスの開始当時から上記事態に至ることを十分予想していたものと認められる。
 したがって、本件サービスは、MP3ファイルの交換に関する部分については、利用者に市販のレコードを複製したMP3ファイルを交換させるためのサービスであるということができる(したがって、利用者が、本件サービスを利用して、市販のレコードが複製されたMP3ファイルを送受信の対象とすることは、正に、本件サービスを提供する債務者の意図、目的に合致した行為ということができる。)。
(イ) 以上のとおり、本件サービスは、送信者が、市販のレコードを複製したファイルが大多数を占めているMP3ファイルを、送信可能化状態にするためのサービスという性質を有する。
ウ 管理性等
(ア) 前記前提事実及び審尋の全趣旨によれば、以下のとおりの事実が認められる。すなわち、
a 利用者が本件サービスを利用して、電子ファイルを自動公衆送信するには、債務者サイトから本件クライアントソフトをダウンロードして、これを自己のパソコンにインストールすることが必要不可欠である。
b 利用者は、パソコンを債務者サーバに接続させることが必要不可欠であるが、同接続は、通常、本件クライアントソフトを起動することによりしている。
c 自動公衆送信の相手方も、パソコンに本件クライアントソフトをインストールし、そのパソコンを債務者サーバに接続することが必要不可欠である。
d 送信者が自動公衆送信をするのは、受信者が希望する電子ファイルを検索して、その電子ファイルの蔵置されているパソコンの所在及び内容を確認できることを前提としているが、これに必要な一切の機会は債務者が提供しており、送信者の自動公衆送信を可能とすることについて、債務者サーバが必要不可欠である。
e 本件サービスにおいては、受信者は、希望する電子ファイルの所在を確認した場合、本件クライアントソフトの画面上の簡単な操作によって、希望する電子ファイルを受信することができるようになっており(その際、受信者は、送信者のIPアドレス及びポート番号を認識する必要はない。)、受信者のための利便性、環境整備が図られている。
f 受信者が受信可能な電子ファイルは、債務者サーバに接続しているパソコンの共有フォルダ内に蔵置されているものに限られている。
g 債務者は、本件サービスの利用方法について、自己の開設したウェブサイト上で説明をし、ほとんどの利用者が同説明を参考にして、本件サービスを利用している。
(イ) 上記認定した事実を基礎にすると、利用者の電子ファイルの送信可能化行為(パソコンの共有フォルダに電子ファイルを置いた状態で、同パソコンを債務者サーバに接続すること)は、債務者の管理の下に行われているというべきである。
ウ 債務者の利益
(ア) 前記前提事実及び審尋の全趣旨によれば、以下のとおりの事実が認められる。
a インターネット上にウェブサイトを開設した場合、同ウェブサイトに接続する者の人数が多数に上れば、同ウェブサイトの開設者は同ウェブサイト上に広告を載せること等により収入を得ることができ、ウェブサイト上の広告掲載への需要は、当該ウェブサイトへの接続数と相関関係があり、接続数が多くなれば、広告掲載の需要が高まり、広告収入等も多くなる。
b 本件サービスの登録者数は4万2000人であり、債務者サーバに同時接続している利用者数は平均約340人、そのMP3ファイル数は平均約8万であるところ、上記人数は、将来さらに増加することも予想され、債務者サイトは広告媒体としての価値を十分有する。
c 債務者は、本件サービスにおいて、送信者に債務者サイトに接続させてMP3ファイルの送信可能化行為をさせているが、同行為はそれ自体、債務者サイトへの接続数を増加させる行為であるとともに、受信側パソコンの接続数の増加に寄与する行為でもあるといえるから、債務者サイトの広告媒体としての価値を高め、営業上の利益を増大させる行為ということができる。
d 現時点では、債務者サイト上に掲載した広告による収入は僅かであるが、債務者は、将来、債務者サイトに広告を掲載することによる広告収入の獲得を債務者の営業に取り入れていく意図を有している。
e 本件サービスにおいては、本件サービスを利用してMP3ファイルを受信しようとする者から受信の対価を徴収するシステムとしていないが、債務者は、将来、同サービスを利用してMP3ファイルを受信した者から受信の対価を徴収するシステムに変更することを予定している。
(イ) 上記認定した事実を基礎にすると、利用者に債務者サイトに接続させてMP3ファイルの公衆送信化行為をさせることは、債務者の営業上の利益を増大させる行為と評価することができる。
エ 小括
 以上のとおり、本件サービスは、送信者が、市販のレコードを複製したファイルが大多数を占めているMP3ファイルを、送信可能化状態にするためのサービスという性質を有すること、本件サービスにおいて、送信者が本件各MP3ファイルを含めたMP3ファイルの送信可能化を行うことは債務者の管理の下に行われること、債務者も自己の営業上の利益を図って、送信者に上記行為をさせていたことから、債務者は、本件各レコードの送信可能化を行っているものと評価でき、債権者らの有する送信可能化権を侵害していると解するのが相当である。
2 争点(2)(保全の必要性の有無)について
 上記認定したとおり、@本件サービスには、平成13年12月の時点で、既に4万人以上が登録し、平均でも約300人以上が債務者サーバに接続して、希望する電子ファイルを自由に受信しており、しかも、その利用者は個人として特定されていないこと、A債務者は、交換情報を遮断するなどの措置を何ら採っていなかったこと、B今後も同情報が公開されるおそれがあること等の事実に照らすならば、債権者らの許諾のないまま本件各レコードの送信可能化行為がされ、利用者が自由に本件各MP3ファイルを取得することが続けられた場合、債権者らに著しい損害が生じることは明らかである。
 そうすると、本件において、保全の必要性は存在する。
3 仮処分において命ずる不作為の範囲について
(1) 債権者らは、本件申立てにおいて、債務者が本件サービスで本件各MP3ファイルを送受信の対象とすることの差止めを求めている。
 しかし、前記のとおり、@本件各MP3ファイルをパソコンの共有フォルダに蔵置し、その状態で債務者サーバにパソコンを接続させる物理的行為は、専ら送信者が実施し、又、Aファイル情報を確認することにより、取得を希望するMP3ファイルを選択し、送信を指示し、そのMP3ファイルを蔵置しているパソコンからMP3ファイルを受信し、保存先として設定した受信者のパソコンのフォルダ内に複製する物理的行為は、専ら受信者が行っている。
 このように、債務者サーバは、利用者の共有フォルダに蔵置された本件各MP3ファイル自体については、送受信の対象としていないのであるから、債務者サーバにおいては、いかなる内容のMP3ファイルが利用者間で送受信されているかを判別することはできず、本件各MP3ファイル自体の送信又は受信の差止めを認めるのでは、本件申立ての目的を達成できないことになる。
 他方、仮に、利用者(送信者)が本件各MP3ファイルを自己のパソコンの共有フォルダ内に蔵置したとしても、債務者サーバがそのファイル名等についてのファイル情報を、他の利用者(受信者)に送信することを差し止めれば、受信者は受信を希望するMP3ファイルを選択することができなくなる結果、送信者の行う送信可能化を阻止することができるといえる。そこで、債務者サーバにおいて、利用者に対するファイル情報の送信行為を差し止めることによって、債権者らの本件申立ての目的は達成されると解される。
 したがって、本決定では、本件サービスにおいて、ファイル情報を利用者に送信する行為の差止めを認めるのが相当である。
(2) 次に、債務者サーバが送信者から受け取った送信者情報のうち、差し止めるべき(受信者への送信を遮断すべき)ファイル情報の範囲について検討する。
 債務者サーバが送信者から受け取った送信者情報のうち、受信者への送信を遮断すべきファイル情報の範囲としては、受信者のファイル選択を不可能ならしめ、かつ、他のレコードのファイルと誤認混同を回避するのに必要かつ十分なファイル情報にとどめるべきであるとするのが相当である。
 前記のとおり、MP3ファイルのファイル名は利用者が自由に設定できるのであるから、利用者が設定したファイル名等は、本件各MP3ファイルの複製元である本件各レコードの「タイトル名」及び「実演家名」とは、常に一致するとは限らない。しかし、本件疎明資料によれば、本件サービスの利用者(送信者)がレコードを複製したMP3ファイルにファイル名を設定しようとする場合、他の利用者(受信者)が識別可能なファイル名を付するのが自然であるということができ、この場合、通常は、当該レコードの「タイトル名」及び「実演家名」を表示する文字を使用することが考えられ、また、「タイトル名」及び「実演家名」の表記方法は、当該レコードの表記方法とは必ずしも一致するとは限らず、適宜、漢字、ひらがな、片仮名及びアルファベット等で代替することが推測される。なお、「タイトル名」や「実演家名」の一部を省略して表記する場合も予想されるが、省略部分が多い場合は、他のレコードのファイルと誤認混同する可能性も大きくなるといえる。
 このような観点から検討した結果、ファイル情報のうち、ファイル名及びフォルダ名のいずれかに本件各レコードの「タイトル名」及び「実演家名」を表示する文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。姓又は名のあるものについては、いずれか一方のみの表記を含む。)の双方が表記されたファイル情報の範囲で、その受信者への送信の差止めを認めるのが妥当であると判断した。
4 結語
 以上のとおりであるから、その余の点を判断するまでもなく、本決定において、MP3形式によって複製され、かつ、送受信可能の状態にされた電子ファイルの存在及び内容等を示す、利用者のためのファイル情報のうち、ファイル名及びフォルダ名のいずれかに別紙各レコード目録の「タイトル名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。)及び「実演家名」欄記載の文字(漢字、ひらがな、片仮名並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。姓又は名のあるものについては、いずれか一方のみの表記を含む。)の双方が表記されたファイル情報を、利用者に送信することの差止めを認めることとする。

平成14年4月9日
東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 飯村敏明
 裁判官 榎戸道也
 裁判官 佐野信


(別紙)当事者目録
債権者 日本コロムビア株式会社
債権者 ビクターエンタテインメント株式会社
債権者 キングレコード株式会社
債権者 株式会社テイチクエンタテインメント
債権者 ユニバーサルミュージック株式会社
債権者 東芝イーエムアイ株式会社
債権者 日本クラウン株式会社
債権者 株式会社徳間ジャパンコミュニケーションズ
債権者 株式会社エピックレコードジャパン
債権者 株式会社ポニーキャニオン
債権者 株式会社ワーナーミュージック・ジャパン
債権者 株式会社フォーライフミュージックエンタテイメント
債権者 株式会社バップ
債権者 株式会社ビーエムジーファンハウス
債権者 パイオニアエル・ディー・シー株式会社
債権者 株式会社ルームスレコーズ
債権者 エイベックス株式会社
債権者 株式会社プライエイド・レコーズ
債権者 株式会社トライエム
債権者ら訴訟代理人弁護士 石田英遠
同 前田哲男
同 城山康文
同 中川達也
債務者 有限会社日本エム・エム・オー
訴訟代理人弁護士 小倉秀夫


(別紙)レコード目録
1 タイトル名 箱根八里の半次郎
  実演家名 氷川きよし
  収録されている商業用レコード
   商品番号 CODA−1812
   発売日 2000年2月2日
   形態 8センチ音楽CD
   商品名 「箱根八里の半次郎/浅草人情」の1曲目
2 タイトル名 波乗りジョニー
  実演家名 桑田佳祐
  収録されている商業用レコード
   商品番号 VICL−35300
   発売日 2001年7月4日
   形態 12センチ音楽CD
   商品名 「波乗りジョニー」の1曲目
3 タイトル名 Over Soul
  実演家名 林原めぐみ
  収録されている商業用レコード
   商品番号 KICM−3016
   発売日 2001年8月29日
   形態 12センチ音楽CD
   商品名 「Over Soul」の1曲目
4 タイトル名 みちのくひとり旅
  実演家名 山本譲二
  収録されている商業用レコード
   商品番号 TECE−32216
   発売日 2001年3月23日
   形態 12センチ音楽CD
   商品名 「山本譲二全曲集」の3曲目
5 タイトル名 Gang★
  実演家名 福山雅治
  収録されている商業用レコード
   商品番号 UUCH−1013
   発売日 2001年4月25日
   形態 12センチ音楽CD
   商品名 「F」の8曲目
6 タイトル名 traveling
  実演家名 宇多田ヒカル
  収録されている商業用レコード
   商品番号 TOCT−4351
   発売日 2001年11月28日
   形態 12センチ音楽CD
   商品名 「traveling」の1曲目
7 タイトル名 12月のLove song
  実演家名 Gackt
  収録されている商業用レコード
   商品番号 CRCP−10024
   発売日 2001年12月16日
   形態 12センチ音楽CD
   商品名 「12月のLove song」の1曲目
8 タイトル名 I say good−bye
  実演家名 中川晃教
  収録されている商業用レコード
   商品番号 TKCA−72239
   発売日 2001年11月7日
   形態 12センチ音楽CD
   商品名 「I say good−bye」の1曲目
9 タイトル名 青い涙
  実演家名 Puffy
  収録されている商業用レコード
   商品番号 ESCL−2287
   発売日 2001年12月5日
   形態 12センチ音楽CD
   商品名 「青い涙」の1曲目
10 タイトル名 風待ち
  実演家名 GRAPEVINE
  収録されている商業用レコード
   商品番号 PCCA−01556
   発売日 2001年7月18日
   形態 12センチ音楽CD
   商品名 「風待ち」の1曲目
11 タイトル名 Are You OK?
  実演家名 槇原敬之
  収録されている商業用レコード
   商品番号 WPCV−10153
   発売日 2001年10月24日
   形態 12センチ音楽CD
   商品名 「Are You OK?」の1曲目
12 タイトル名 この世の定め
  実演家名 井上陽水
  収録されている商業用レコード
   商品番号 FLCF−7001
   発売日 2001年11月21日
   形態 12センチ音楽CD
   商品名 「この世の定め」の1曲目
13 タイトル名 ふたりの夏物語 NEVER ENDING SUMMER
  実演家名 杉山清貴&オメガトライブ
  収録されている商業用レコード
   商品番号 VPCC−84102
   発売日 1993年7月1日
   形態 12センチ音楽CD
   商品名 「シングル・コレクション1983〜1985」の9曲目
14 タイトル名 Everything
  実演家名 MISIA
  収録されている商業用レコード
   商品番号 BVCS−21022A
   発売日 2001年4月25日
   形態 12センチ音楽CD
   商品名 「marvelous」の10曲目
15 タイトル名 暖かい月
  実演家名 the Indigo
  収録されている商業用レコード
   商品番号 PICZ−0016
   発売日 2001年4月25日
   形態 12センチ音楽CD
   商品名 「BRANDNEW DAY」の2曲目
16 タイトル名 信じるくらいいいだろう
  実演家名  B’z
  収録されている商業用レコード
   商品番号 BMCR−7046
   発売日 2000年12月6日
   形態 12センチ音楽CD
   商品名 「ELEVEN」の3曲目
17 タイトル名 IS IT YOU?
  実演家名 hitomi
  収録されている商業用レコード
   商品番号 AVCD−30266
   発売日 2001年8月22日
   形態 12センチ音楽CD
   商品名 「IS IT YOU?」の1曲目
18 タイトル名 drop
  実演家名 CORNELIUS<コーネリアス>
  収録されている商業用レコード
   商品番号 PSCR−6000
   発売日 2001年10月24日
   形態 12センチ音楽CD
   商品名 「point」の4曲目
19 タイトル名 No More
  実演家名 Two Ball Loo
  収録されている商業用レコード
   商品番号 MECI−11101
   発売日 2000年2月23日
   形態 12センチ音楽CD
   商品名 「No More」の1曲目


別紙 「仮処分命令申立書」の「申立ての理由」
第1 被保全権利
1 当事者
(1) 債権者らは、いずれもレコード会社であって、別紙レコード目録記載の各レコード(以下「本件レコード」と総称する。)を製作し、レコード製作者として著作権法96条の2に定める送信可能化権及び同法96条に定める複製権を含む著作隣接権を専有している(債権者日本コロムビア株式会社は、別紙レコード目録1のレコードの著作隣接権を、債権者ビクターエンタテインメント株式会社は、別紙レコード目録2のレコードの著作隣接権を、債権者キングレコード株式会社は、別紙レコード目録3のレコードの著作隣接権を、債権者株式会社テイチクエンタテインメントは、別紙レコード目録4のレコードの著作隣接権を、債権者ユニバーサルミュージック株式会社は、別紙レコード目録5のレコードの著作隣接権を、債権者東芝イーエムアイ株式会社は、別紙レコード目録6のレコードの著作隣接権を、債権者日本クラウン株式会社は、別紙レコード目録7のレコードの著作隣接権を、債権者株式会社徳間ジャパンコミュニケーションズは、別紙レコード目録8のレコードの著作隣接権を、債権者株式会社エピックレコードジャパンは、別紙レコード目録9のレコードの著作隣接権を、債権者株式会社ポニーキャニオンは、別紙レコード目録10のレコードの著作隣接権を、債権者株式会社ワーナーミュージック・ジャパンは、別紙レコード目録11のレコードの著作隣接権を、債権者株式会社フォーライフミュージックエンタテイメントは、別紙レコード目録12のレコードの著作隣接権を、債権者株式会社バップは、別紙レコード目録13のレコードの著作隣接権を、債権者株式会社ビーエムジーファンハウスは、別紙レコード目録14のレコードの著作隣接権を、債権者パイオニアエル・ディー・シー株式会社は、別紙レコード目録15のレコードの著作隣接権を、債権者株式会社ルームスレコーズは、別紙レコード目録16のレコードの著作隣接権を、債権者エイベックス株式会社は、別紙レコード目録17のレコードの著作隣接権を、債権者株式会社プライエイド・レコーズは、別紙レコード目録18のレコードの著作隣接権を、債権者株式会社トライエムは、別紙レコード目録19のレコードの著作隣接権を、それぞれ有している。甲1)。
 なお債権者ら及びその関係会社が製造販売する商業用レコードの売上高を合計すると、日本で製造販売される商業用レコードの売上高のおよそ90パーセントを占める。
(2) 債務者は、平成11年11月22日に「有限会社日本エム・エム・オー」との商号で設立され、その後「ナップスター有限会社」に商号変更し、平成13年8月28日に再び「有限会社日本エム・エム・オー」に商号変更した有限会社であって、平成13年11月1日以降、インターネット上でのいわゆるファイル交換サービスを「ファイルローグ」(File Rogue)との名称で公衆に提供している。
2 債務者によるファイル交換サービス
(1) 債務者は、カナダ法人であるITPウェブソリューションズ社と提携することにより、利用者のコンピュータ間でデータを送受信させるピア・ツー・ピア(Peer To Peer)技術を用いて、カナダ国内に設置された中央サーバ(以下「ファイルローグサーバ」という。)にインターネットを経由して接続されている不特定多数の利用者のコンピュータ(以下「クライアントコンピュータ」という。)に蔵置されているファイルの中から、同時にファイルローグサーバに接続されている他の利用者が好みのものを選択して、無料でダウンロードできるサービス(以下「本件サービス」という。)を、「ファイルローグ」(File Rogue)との名称にて、平成13年11月1日から日本向けに提供している。  
 本件サービスを利用するにはクライアントコンピュータに本件サービス専用のファイル交換用ソフトウェア(以下「クライアントソフト」という。)がインストールされている必要があるが、債務者は、インターネット上に開設しているウェブサイト「ファイルローグ(http://www.filerogue.net/)」(以下「債務者サイト」という。)において、不特定多数の利用希望者に対してクライアントソフトを配布している。
(2) 本件サービスを利用しようとする者の利用手順は下記のとおりである。
@ 新規に本件サービスを利用しようとする者は、インターネットを経由して債務者サイトに接続し、「利用規約に同意する」をクリックすると、クライアントソフトのファイルがダウンロードされる。そして、利用者がダウンロードしたファイルによりクライアントソフトをインストールすると、自動的にクライアントソフトが起動する。
A 起動されたクライアントソフトの当初の画面は添付資料1のものである。
 利用者が同画面の左上の接続アイコンをクリックすると、ログインのための画面が開く(添付資料2)。
 新規の利用者は、ここで「新しいIDを取得」をクリックすると、添付資料3の画面になる。
 利用者は、ここで自分が自由に設定した「ユーザーID」、パスワードを入力し、メールアドレス(架空のメールアドレスでも受理される)を入力して、「OK」をクリックすると、自動的にファイルローグサーバに接続され、添付資料4の画面になり、「ファイルローグからのお知らせ」が表示される。住所、電話番号等、本人確認のための情報の入力は、全く要求されない。
B 2回目以降にクライアントソフトを立ち上げたときは、添付資料2の画面から、「OK」をクリックすると、自動的にファイルローグサーバに接続され、添付資料4の画面になり、「ファイルローグからのお知らせ」が表示される。
C 添付資料4の画面の状態で、利用者は、同時にファイルローグサーバに接続している他の利用者のコンピュータに蔵置されているファイルの中から好みのファイルを検索することができる。
 すなわち、クライアントソフト画面上の「検索」をクリックすると、添付資料5の画面になり、利用者は、任意のキーワードをファイル名またはファイルパス名に含むファイルを検索すること、さらにMP3を含むファイル拡張子を指定してファイルを検索することが可能となる。
D たとえば、「宇多田ヒカル」をキーワードとして入力し、拡張子をmp3と入力して検索ボタンをクリックすると、その時点でファイルローグサーバに接続している他の利用者のクライアントコンピュータの記録媒体のうち共有フォルダに設定されているフォルダ中に蔵置されているMP3ファイルであって、ファイル名またはファイルパス名に「宇多田ヒカル」を含むものが一覧表示される(添付資料6)。
E 利用者は、その中から取得したいファイルを選択し、クライアントソフト画面下部の「ダウンロード」をクリックすると、保存先のフォルダを表示する画面が表示される(添付資料7)。ここで「保存」を選択すると、そのファイルを蔵置している他の利用者のクライアントコンピュータの記録媒体から、当該ファイルが自動的に送信されてダウンロードが開始され、保存先として設定した利用者のコンピュータ内のフォルダ(デフォルト(既定)の状態では、クライアントソフトインストール時に自動的に生成される「ファイルローグ」フォルダのうちのサブフォルダである「Downloads」)に自動的に複製される。そして、この「Downloads」フォルダは、既定の状態では、次に述べる「共有フォルダ」となっている。
F 「共有フォルダ」に複製されたファイルは、クライアントコンピュータがファイルローグサーバに接続されている間中、自動的にそのファイル情報(ファイルの中身を示したファイル名やファイルサイズ、ファイル所在情報等)がファイルローグサーバに読みとられ、そのデータベースにリアルタイムで取り込まれて、ファイルローグサーバに接続している他のクライアントコンピュータと「共有」の状態(他のクライアントコンピュータからのファイル検索対象となり、同時にファイルローグサーバに接続している他のクライアントコンピュータがいつでもダウンロードできる状態)になる。クライアントコンピュータがファイルローグサーバから切断されると、当該クライアントコンピュータ内に蔵置されているファイルの情報は、ファイルローグサーバから自動的に削除される。
G 他のクライアントコンピュータからダウンロードしたファイルのほかにも、利用者が新たに交換対象に選んだ任意のファイルを「共有フォルダ」内に蔵置し、又は交換対象のファイルが蔵置されている任意のフォルダを「共有フォルダ」として設定すると、これらのファイルは、クライアントコンピュータがファイルローグサーバに接続している間中、他のクライアントコンピュータと「共有」された状態となる。
3 著作隣接権侵害行為
 本件サービスによって行われる著作隣接権侵害(以下「本件著作隣接権侵害」という。)の内容は以下のとおりである。
(1) MP3ファイル
 MP3は、「MPEG1−オーディオレイヤー3」の略称であり、音声のデジタルデータを圧縮する技術の規格のひとつである(甲3)。MP3においては、人間が知覚できない周波数帯の音声データを削除するとともに、マスキング効果(大きな音と小さな音が同時に出ている場合に、聞こえなくなる小さな音のデータを削除する)等の技術を用いて、再生の際の音質をCD等とほとんど変えないまま、データ量を10分の1から12分の1にまで減らすことができるため、これを使用することにより、音声をデジタルデータとしてパソコンに複製したり、インターネット等を利用して送信することが著しく容易になる。このため、MP3は、ほとんどの場合、市販のCD等に収録されているレコード音楽を複製するために用いられており、現に、本件サービスの利用者が検索した結果として表示されるMP3ファイルのほとんどすべてには、それが市販のCD等を複製したファイルであることを示すタイトルが付されている。
(2) 送信側のクライアントコンピュータにおける複製
 本件レコードの複製物であるMP3ファイルをクライアントコンピュータの共有フォルダに蔵置することは、本件レコードをクライアントコンピュータのハードディスク等の記憶媒体に複製(著作権法2条1項15号)する行為に該当する。
 そして、仮に当該ファイルが当初クライアントコンピュータの保有者によってCD等から私的に複製(同法30条、102条1項)されたものであっても、それを共有フォルダに蔵置してファイルローグサーバに接続すれば、不特定多数の者に送信可能な状態にして「公衆に提示」(同法102条4項)したことになるから、共有フォルダに蔵置されたファイルはすべて債権者らの著作隣接権(複製権)を侵害する違法複製物である。
(3) 自動公衆送信及び送信可能化
 本件サービスは、誰でも、自由に設定したID、パスワード及びメールアドレス(それも虚偽のものでも受理される)のみを入力することで直ちに利用可能となるから、本件サービスによりファイルの送信を受ける者は「不特定人」である。そして、本件サービスの利用者は平成13年12月3日の時点で既に4万2000人に及び(甲12)、ファイルローグサーバに接続中のクライアントコンピュータも常時数百に及ぶ(甲4の1)から、ファイルの受信者は「多数」である。したがって、本件サービスによりファイルをダウンロードする者は「公衆」(著作権法2条5項参照)に該当する。
 本件サービスにおいては、共有フォルダ内に蔵置されたファイルが、他のクライアントコンピュータからの要求に応じて自動的に送信されることは、「公衆」によって直接受信されることを目的として行う送信を公衆からの求めに応じ自動的に行うものであるから、「自動公衆送信」(同法2条1項9号の4)に該当する。
 この「自動公衆送信」は、クライアントソフトの起動によりクライアントコンピュータがファイルローグサーバに接続された結果、クライアントコンピュータの共有フォルダ内に蔵置されているファイルの内容を示すファイル名・ファイルサイズ・ファイルの所在等の情報がファイルローグサーバに自動的かつ瞬時に読みとられ、ファイルローグサーバにおけるこの情報の独占排他的な管理の下で他の利用者に提供されることによって現実に生じるのであるから、送信側クライアントコンピュータとそれが接続したファイルローグサーバとがクライアントソフトの機能により一体となって著作権法2条1項9の5号イにいう「自動公衆送信装置」を構成するものというべきである。
 そして、共有フォルダにファイルを蔵置する行為は、「公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に情報を記録すること」であるから、同号にいう「送信可能化」に当たる。
(4) 受信側のクライアントコンピュータにおける複製
 本件サービスによって他のクライアントコンピュータからダウンロードされたファイルは、受信側のクライアントコンピュータに自動的に蔵置(複製)されるところ、当該複製は、送信可能化権侵害行為の必然的な結果として発生するものであり、既定の状態では受信側のクライアントコンピュータの共有フォルダ内に蔵置(複製)され、更に再送信可能な状態におかれるから、そこに蔵置されたファイルは、送信側のクライアントコンピュータの共有フォルダに蔵置されたファイルと同様、私的使用には該当しない本件レコードの違法複製物である。
(5) 本件レコードの送信可能化権・複製権侵害
 本件サービスは平成13年11月1日に開始されたが、それ以降今日まで、本件レコードを含む、債権者らが著作隣接権を有する極めて多数のレコードが現実に送信可能化されており(甲4の1ないし3)、かつ、今後もその送信可能化が継続される危険が極めて高いところ、債権者らの許諾なく本件レコードの「送信可能化」を行うことは、債権者らが本件レコードについて専有している送信可能化権(著作権法96条の2)を侵害する行為であり、その送信可能化のために行われる送信側のクライアントコンピュータの共有フォルダにおけるファイルの蔵置及び受信側のクライアントコンピュータにおけるファイルの複製は、いずれも債権者らが本件レコードについて専有している複製権(著作権法96条)の侵害に該当する。
 本件サービスにより送信可能化の状態に置かれているMP3ファイルのうちから、各債権者に所属するアーティスト1名ないし3名ずつ38名(組)の氏名・名称で検索してみると、数千に及ぶ極めて多数のファイルが検索結果として表示され(甲4の3)、これらがその瞬間においてダウンロード可能な状態に置かれていることが分かる。
4 債務者に対する差止請求権
 本件著作隣接権侵害においては、利用者(クライアントコンピュータの保有者)のみならず、本件サービスの提供者である債務者も、本件著作隣接権侵害行為の主体として、又は少なくとも教唆・幇助により本件著作隣接権侵害行為に積極的に加担してこれを惹起せしめる者として、債権者の差止請求に服すべき地位にある。理由は以下のとおりである。
(1) 債務者が本件著作隣接権侵害の実現において中核的かつ不可欠な役割を果たしていること
 本件サービスにおいて、クライアントコンピュータの共有フォルダ内に蔵置されたファイルは、それのみでは他のクライアントコンピュータに送受信されることはなく、債務者が配布するクライアントソフト及び債務者が管理・運営するファイルローグサーバの機能との連携によって初めて、しかもその方法によってのみ、公衆に送信可能な状態となるのであり、かつ、その送信の必然的な結果として受信側クライアントコンピュータにおける複製が生じる。
 債務者は、その配布するクライアントソフトの機能によってクライアントコンピュータをファイルローグサーバに自動的に接続させ、それに接続されているすべてのクライアントコンピュータの共有フォルダ内に蔵置されている全ファイルの所在、名称等の情報を自動的に読みとってこれを独占排他的にリアルタイムで管理し、かつ、そのファイル情報を同時にファイルローグサーバに接続されている他のクライアントコンピュータにのみ提供して、全クライアントコンピュータの共有フォルダ内に蔵置されているファイルの中から入手希望のファイルを選択させてその送受信を発生させている。すなわち、送信可能化や複製行為が行われるときは、必ずクライアントソフトをインストールした送信側と受信側のクライアントコンピュータが債務者の運用するファイルローグサーバに接続され、リアルタイムでのネットワークが形成され、その内部間においてのみファイルの送受信及び複製が行われている。そして、受信側の利用者は、不特定多数の他の利用者が蔵置しているファイルのダウンロードを、クライアントソフトの画面上に表示された「ダウンロード」ボタンをクリックすることにより簡単に行うことが可能となっているのである。
 以上の事実に鑑みれば、クライアントコンピュータに蔵置されたファイルと、ファイルローグサーバにおけるファイル情報のリアルタイムでの管理及び提供の機能とがクライアントソフトの働きによって連結され、その連結によって自動公衆送信する機能を有する「自動公衆送信装置」が構成されているというべきであり、本件サービスによる本件レコードの送信可能化及びその必然的な結果として発生する受信側クライアントコンピュータにおける複製は、クライアントソフトを配布するとともにファイルローグサーバを支配・管理している債務者と利用者との共同行為であるというべきである。
 (なお、そもそもピア・ツー・ピア技術は、中央サーバに大量のデータを保存することが技術的に困難であることから、その代替手段として考案されたものであり、中央サーバ(ファイルローグサーバ)に大量のデータを保存するのと同じ現象をもたらす仕組みに他ならず、債務者も、社団法人日本レコード協会宛の書面において同様の認識を示している(甲10の2枚目)。送信側の利用者のクライアントコンピュータに蓄積されたファイルは、機能的にみれば、ファイルローグサーバに蓄積するかわりに、ファイルローグサーバと接続されているクライアントコンピュータに分散されて保管されているということができ、このような技術の目的及び実態に即すると、クライアントコンピュータのみを「自動公衆送信装置」とみるべきではない。)
 また、送信側クライアントコンピュータにおける複製についても、当初は私的に複製された本件レコードのMP3ファイルであっても、それを債務者が提供する本件サービスに供したとたん違法複製物となるのであり、それを違法複製物とするのは送信可能化行為によってであるから、これもまた債務者と利用者との共同行為というべきである。
 したがって、債務者は、単に本件著作隣接権侵害行為の道具ないし場を提供するにとどまるものではなく、ファイルの公衆への送信可能化及び送受信側の複製という違法行為を実現する中核的かつ不可欠な役割を自ら担っている。
(2) 債務者の行為は著作隣接権侵害行為を必然的に惹起するものであること
 本件サービスは、不特定多数の利用者間でのファイルの「共有」ないし「交換」を効率的かつ容易に行うことを目的とするものであるところ、本件サービスにより利用者が提供者に対価を支払うことなく取得しようと希望するファイルの大半は、他人の著作権・著作隣接権の対象となっているものである。本来であれば対価を支払わなければ取得できないファイルが、「交換」ないし「共有」の名目のもとで対価を支払わずに取得できることにこそ、利用者にとっての本件サービスの現実的な存在意義がある。特に、MP3ファイルが「共有」ないし「交換」される場合、そのファイルの内容は音楽の実演であるが、素人の自作自演の楽曲には「共有」ないし「交換」に対する現実的な需要はなく、送受信されるファイルのほぼすべてが他人の著作権・著作隣接権を侵害するものであって、それ以外の用途に本件サービスが用いられることがほとんどない(甲4の2)。本件サービスは、例外的に犯罪に利用されるにすぎない通信手段等の提供とは全く異なり、少なくともMP3ファイルについては、著作権・著作隣接権侵害という犯罪に利用される場合がほぼすべてである。
 そして、このような本件サービスを不特定多数の者に提供するならば、いずれも人気楽曲である本件各レコードが利用者によって送信可能化され、かつ受信側クライアントコンピュータに複製される事態に至ることは確実であり、現にその送信可能化及び複製が多数生じている。
 さらに債務者は、このようなクライアントソフトを不特定多数の者に無料で配布した上、ファイルを交換しようとする者の匿名性を保証したかたちで(したがって、著作隣接権者がその者に対して責任追及することを困難にさせて)本件サービスを提供しているのであり、そのような方法による本件サービスの提供行為は、MP3ファイルの交換による本件著作隣接権侵害行為を必然的に惹起する行為である。
(3) 債務者が本件著作隣接権侵害行為を認識・認容していること
 債務者は、本件サービスの拡大のためには違法な楽曲のファイル交換が積極的に行われることをサービス提供の目的として織り込みずみであって、著作権・著作隣接権侵害行為を認識・認容していると考えざるを得ない。たしかに本件サービスにおいては、債務者は、利用者に対して著作隣接権等の侵害行為を禁じる建前をとっているが、これは客観的状況から推認されるところの債務者の真意とはいいがたい。
 すなわち、債務者代表者であるA氏は、後述(第2、1)のとおり、本件サービス開始前に受けた日経産業新聞の取材において、コピーを防げない以上コンテンツ業界は大量生産方式からコンサートなど生の製品で付加価値を生むビジネスモデルに移行すべきである、本件サービスは旧来の著作権を巡る利権団体や企業への挑戦である、日本法上違法とされた場合には、サーバ及び会社を海外に移して徹底的に(権利者と)戦う等と公言しており(甲2)、本件サービスによって債権者らのレコードが大量に送受信されることを十分承知し、そのような大量の送受信を生じさせることを積極的な目標としている。
 また、MP3ファイルに関して言えば、債務者が本件サービスを開始する以前にアメリカ合衆国におけるナップスター訴訟等によって、ファイル交換行為のほとんどが著作権・著作隣接権を侵害している状況にあることが広く認知されており(甲14)、債務者自身も後述のとおり本件サービス開始前から社団法人日本レコード協会からその旨警告も受けており(甲5、7、8)、かつ、本件サービス開始後において実際に「共有」「交換」されているMP3ファイルのほぼすべてが現実にも著作隣接権及び著作権を侵害するものであることを十分認識し、又は認識することができるのに、債務者は、本件サービスの対象からMP3ファイルを除外しようとしていない。債務者は、ナップスター等が違法なファイル交換が行われたが故に大流行したのを目の当たりにして、同様のサービスによって利得を得ようと企てたものと考えざるを得ないのである(このことは、債務者がかつて「ナップスター有限会社」との商号であったことからも窺われる)。
 加えて、A氏は、本件サービス開始直後にテレビ放送(TBS)に出演し、少なくとも1年間で100万曲は交換されるとの見通しを持っているとの発言もしているが、これはまさに、本件サービスによって債権者らの楽曲が大量に送受信されることを認識し、それを意図していることを債務者自らが表明するものである。
 以上のような債務者の言動に加え、上述のとおり本件サービスによって行われているファイルの送受信の大半が他人の権利を侵害するものであり、本来ならば対価を支払わなければ取得できないファイルを「交換」ないし「共有」の名目のもとで対価を支払わずに取得できることにこそ利用者にとっての本件サービスの現実的な存在意義があることに照らすと、債務者は、そのような本件サービスの提供によって債権者らが著作隣接権を有するレコードが違法に送信可能化・複製されるに至ることが必然であることを認識しているうえ、客観的事実から推認される債務者の意思としては、そのような侵害結果の発生を認容しつつ、むしろその送信可能化等が活発に行われることを営業目的として意図していると言わざるを得ない。
(4) 債務者が本件著作隣接権侵害行為による利益を取得していること
 債務者は、インターネット広告代理店会社であるバリューコマース株式会社及び他1社と契約することにより広告収入を得ているのみならず、「最終的には(本件サービスの)有料化を検討している」と述べている(甲2)。
 本件サービスの利用者の拡大が債務者の利益につながるところ、本来であれば有償でしか取得できない本件レコードのファイルが本件サービスを利用することによって無償、大量かつ容易に取得できることによる吸引力によって利用者の拡大がはかられるのであるから、債務者は、本件著作隣接権侵害行為の拡大によって利益を取得するものである。
 そもそも債務者は営利法人であり、本件サービスが営利を目的とするものであることは明らかであるが、債務者が本件サービスの拡大のためには本件レコードの違法なファイル交換が積極的に行われることが不可欠ないし望ましいとの認識に立ち、それを営業目的として意図していることは上述のとおりである。
(5) 本件著作隣接権侵害の結果が極めて重大であること
 前述のとおり、MP3ファイルの大多数は債権者のレコードをMP3形式により圧縮・複製したものであるから、それを送信可能化又は複製する行為は、著作隣接権者の送信可能化権・複製権を侵害する違法なものであって、かつ、それは刑罰法規(著作権法119条1号)に触れる犯罪である。
 本件サービスによって違法に複製され、また送信可能化されているMP3ファイルの数は常時数万件から10万件に及んでおり(甲4の1)、本件著作隣接権権侵害による債権者の損害は莫大である。
 それのみならず、他人のレコードを権利者には無断で、際限なく無料で複製することができる本件サービスをそのまま放置することは、自らの投資と工夫によって製作したレコードの利用についてレコード製作者に著作隣接権を与え、その利用に関して許諾権を与えることによって文化の発展を図ろうとする著作隣接権制度ないし秩序を根本から破壊する行為に等しい。
 そして、そのような著作隣接権侵害行為が、日々刻々と、極めて大規模に継続しているのであり、本件著作隣接権侵害の結果は極めて重大である。
(6) 債務者が著作隣接権侵害の状態を発生させ、かつこれを防止しうる唯一の地位にあること
 本件著作隣接権侵害の被害者である著作隣接権者が、本件サービスによって送信可能化されたファイルを自己のコンピュータに蔵置している利用者を民事的手段によって特定することは不可能である(債務者自身も、利用者を特定する個人情報を取得していない。)。すなわち債務者は、利用者のために匿名性を確保し、それらの者が著作隣接権侵害を行っても民事責任の追及(損害賠償及び差止等)を受けないような仕組みを作り上げた上で、不特定多数人と共同してレコードの送信可能化を行なっている。
 しかも、本件サービスにおいて検索可能なのは、その瞬間においてファイルローグサーバに接続されている他のクライアントコンピュータに蔵置されているファイルに限定され、ファイルを蔵置している利用者がファイルローグサーバへの接続を切れば、そのファイルを検索できなくなる。権利者からすれば、本件サービスにおいて日々刻々と発生している膨大な著作隣接権侵害行為の一つ一つを特定しようとすれば、一瞬一瞬において自らの著作隣接権の対象となる全ファイルを同時に検索し、これを一日24時間中継続できなければならないが、これは、一利用者の立場でしかファイルローグサーバにアクセスできない被害者にとって不可能である。
 したがって、本件サービスにおいては、債務者の他に著作隣接権侵害の結果を防止することができる立場にある者は存在せず、本件著作隣接権侵害の解消は全面的に債務者の行為に依存している。
(7) 侵害結果防止のためには、債務者に侵害結果防止措置をとらせることが必要不可欠であり、かつそれが適切・可能であること
 日々刻々と大量かつ継続的な侵害行為が行われる本件サービスによる著作隣接権侵害の結果を防止するためには、クライアントソフトの配布とファイルローグサーバの運営によって本件サービスを提供し、不特定多数の者を巻き込んだ膨大な著作隣接権侵害の結果をその必然的な結果として惹起させている債務者に対して、当該サービスによって本件著作隣接権権侵害を発生させないための措置を講じさせることが、侵害の実態に合致した侵害停止又は予防措置として必要不可欠であり、かつ適切である。
 また、債務者は、本件サービスの全体を把握し、管理・運営する立場にあるから、債務者が著作隣接権侵害の停止又は防止措置を講じることは可能である。
 すなわち、本件サービスによる著作隣接権侵害の結果を防止するためには、債務者に侵害結果防止措置をとらせることが必要不可欠かつ適切であるとともに、それが可能なのである。
(8) まとめ
 以上のように、送信可能化状態及び複製の創出において債務者が中核的な役割を果たしていることに加え、本件サービスの現実的な機能及び実態によれば、本件サービスの提供によって本件著作隣接権侵害行為を惹起することが必然であること、債務者はそのことを認識・認容しながら本件サービスの提供を行っていること、債務者が本件著作隣接権侵害により利益を取得していること、侵害の結果が極めて重大であること、債務者のほかに著作隣接権侵害の結果を防止することができる立場にある者は存在しないこと、債務者に侵害結果防止措置をとらせることが必要不可欠であり、かつそれが適切・可能であることを考え併せれば、著作権法上、債務者に本件著作隣接権侵害行為を防止すべき法律上の義務が認められるのは当然であり、債務者は、クライアントコンピュータの保有者と並ぶ本件著作隣接権侵害の主体として、又は少なくとも本件著作隣接権侵害を教唆・幇助により本件著作権隣接権侵害行為に積極的に加担してこれを惹起せしめる者として、債権者の差止請求に服すべき地位にある。
5 被保全権利のまとめ
 よって債務者は、本件著作隣接権侵害行為の主体として、又は少なくとも教唆・幇助により本件著作隣接権侵害行為に積極的に加担してこれを惹起せしめるものとして、本件レコードをMP3形式により圧縮して複製したファイルを、本件サービスにおいて送受信の対象によるとしてはならないことを命じられるべきである。
 なお、本件レコードをMP3形式により圧縮して複製したファイルの本件サービスにおける送受信の対象としないことを実現する具体的な方法は債務者の責任において講じる必要があり、この点については後述するナップスター訴訟におけるアメリカ合衆国の判決も同趣旨である(第3、5、(3))。
第2 保全の必要性
1 2001年9月28日の日経産業新聞(甲2)は、債務者がITPソリューションズ社(カナダ カルガリー)と提携し、日本向けにナップスターと同様のファイル交換サイトを立ち上げ、将来は有料化をめざす旨を報道した。
 同新聞はまた、債務者代表者のA氏が、「音楽家の権利は大切だが、コピーを防げない以上、コンテンツ業界は大量生産方式からコンサートなど生の製品で付加価値を生むビジネスモデルに移行すべきである。」「今回の(ITPソリューションズとの)事業提携は、旧来の著作権を巡る利権団体や企業への挑戦である」「日本法上違法とされた場合には、サーバー及び会社を海外に移して徹底的に(権利者と)戦う。」「当初は違法とそしられたレンタルビデオも数年後には合法と認められた」等と述べたと報道した。
2 この報道を受けて、債権者らが加盟する社団法人日本レコード協会は、内容証明郵便にて、債務者に対し質問書を送付し、
 @ 上記新聞記事に事実と異なる点があるか、あるとすればどの点か
 A サービス提供主体がITPソリューションズなのか、債務者なのか
 等を質問するとともに、いわゆるファイル交換による送信可能化状態の発生が日本法上は公衆送信権・送信可能化権侵害に該当することが明らかであることを通知した(甲5)。
3 同年10月12日に債務者から回答書があり、上記新聞記事に記載されたA氏の上記発言については、そのように発言したのは事実であるとのことであった(甲6)。
4 同年10月24日、社団法人日本レコード協会は、債務者に対して要請書を発送し、
 ・違法ファイル交換の遮断の要請
 ・遮断機能が伴わない場合のサービス開始の延期の要請
 ・遮断機能がないままサービスを開始した場合には、法的責任を追及する旨の警告
 を行った(甲7)。
 しかしながら、債務者は、この要請に応じることなく、同年11月1日、本件サービスを正式に開始した。
5 A氏は、平成13年11月1日に放送されたTBS「ニュースの森」の取材に対して、「(ダウンロードに要する時間は)1曲あたり、2〜3分程度ですかね。今のADSL回線であれば。光ファイバーなら、もう少し早いと思うんですけどね。」、「(ユーザー登録数等については)少なくとも1年間で、まあ10万人くらいはいるでしょうね。まあ、100万曲くらいは、あの交換されるんじゃないかなと。」等と発言した(甲11)。
6 同年12月3日、社団法人日本レコード協会は、債務者に対し、債権者らがCDとして製造販売している楽曲約3万曲のレコードのリストをCD−Rに記録して送付するとともに、これらのレコードが本件サービスにおいて送信可能化されないように遮断措置を講じるよう要請した(甲8、9)。
 これに対して債務者は、本件サービスを利用して他人の権利を侵害する者が当然あらわれることを認識していながら、機械的にそれらを選別して遮断する技術がないとして、本件サービスの提供を継続する旨を回答している(甲10)。
7 債権者は、かかる債務者を放置することはできず、本件サービスの停止その他の侵害の停止又は予防に必要な措置を含む著作隣接権侵害差止等請求訴訟の提起を準備中である。
 しかしながら、MP3形式のファイルにより本件サービスにおいて「交換」されているファイル数は常時数万曲から10万曲にものぼり、現実に大量のレコード複製物であるファイルが不特定多数の者に送信されている(甲4の1ないし3)。このような著作隣接権侵害は、日々刻々と発生し、莫大な被害が生じているのであり、かかる状況が継続するならば、債権者らを含む多くのレコード会社の存続は不可能となり、良質の音楽を提供し続けることは不可能になる。それは我が国の音楽文化の衰退を意味する。
 よって仮処分命令によるのでなければ、本案判決において勝訴しても、被害の回復をはかることができない。
 以上のような理由により、本件仮処分命令申立に及んだ次第である。
第3 本件申立の背景事実
1 本件サービスの法的評価の視点
 債務者の提供する本件サービスを利用して行われるファイル交換に関する法的評価をするに際して、まず正視しなければならないのは、債権者らの有する音楽レコードの違法な送信可能化及び複製が、日々莫大な量で実行されているということである。
 権利者の許諾なくして行われる音楽ファイルの交換は、本件サービスなくしても、友人・知人間では可能である。しかしながら、その場合には、閉ざされた範囲の人間関係の枠内のみで細々と行われるのであって、権利者の許諾なくして入手可能な音楽ファイルの範囲は限定され、かつ煩雑なコミュニケーションや作業を避けて通ることはできない。これに対し、本件サービスを利用することにより、入手可能な音楽ファイルの範囲が膨大なものとなり、かつ煩雑なコミュニケーションや作業も不要となってしまう。そのために、違法に交換される電子ファイルの数量が、知人・友人間の交換に限定されていた時代と比較して、天文学的数字に上ってしまうのである。
 このような違法行為を野放しにしておくことが許されないことに異議を差し挟む者は皆無といってよいが、本件サービスを運営し、提供している債務者の行為に対する差止請求及び損害賠償請求が認められなければ、このような違法行為を根幹から断つことは不可能なのである。このことは、債務者こそが著作隣接権侵害の結果を惹起する最も重要な原因を与えた行為主体であることを端的に示している。債務者の行為を法的に評価するに当たっては、利用者の行為との連関を十分に分析した上で、違法行為の全体に占める重要さの性質と程度とを、その実態に照らして、正確に判断しなければならない。
2 本件サービスとナップスターシステムとの異同
 本件サービスは、近年米国を中心として世界的に普及し、その結果として大きな社会問題および法律問題を引き起こしたナップスター(Napster)システムと酷似している。
 第一に、本件サービスとナップスターシステムとは、両者とも、加入ユーザーのコンピュータ間の電子ファイルの交換を可能とするもの(いわゆるピア・ツー・ピア・システム)である点で同一である。
 第二に、本件サービスとナップスターシステムとは、認証機能や情報検索機能を果たす中央サーバが設置され、コンピュータ間の情報処理が円滑に行なわれるようにシステムを制御している点でも同一である。これに対し、例えば、グヌーテラ(Gnutella)と称されるファイル交換システムには、中央サーバが存在せず、すべてのコンピュータが完全に対等なシステム形態が採用されている。
 そして、本件サービスとナップスターシステムとの相違は、ナップスターにおいては音楽ファイル(MP3ファイル)の交換のみが可能であったのに対し、本件サービスにおいては、音楽ファイルのみならず文書、動画及び静止画ファイル等の交換も可能である点に存する。
 しかし、音楽ファイル(MP3ファイル)のみに着目すれば、本件サービスとナップスターシステムとは全く同一に機能している。また、どのようなファイルを交換可能とするかということは、電子ファイルの拡張子(「.doc」や「.mp3」など)による選別の結果にすぎず、本件サービスも、ナップスターシステムと同様に「.mp3」の拡張子を持つ音楽ファイル(MP3ファイル)の交換も可能としているのである。
3 ナップスターシステムに対する外国における法的評価を参考とする意義
 日本では、幸いにしてナップスターシステムは、広く普及するには至らなかったが、それは、日本のユーザーには越えがたい言語の障壁があったところ、日本語版の登場及び普及に先立って、米国でいち早く法的手段が採られ、ナップスターシステムの運用が停止されたからである。
 これに対し、本件サービスは、日本語版による運用が開始されている。そのため、日本社会に与える影響は、ナップスターシステムの比ではないものと予想される。しかし、日本語版の運用が開始されたのは、2001年11月からであるため、その社会的影響、特に著作権者及び著作隣接権者に与える影響を数量的に算定することには困難が伴う。そこで、本件サービスに酷似するナップスターシステムの米国における法的評価を参照することが、本件サービスについての我が国における法的評価にあたっても必要かつ不可欠となる。
4 ナップスターシステムのインパクト
 ナップスターは、米国人Bにより開発された。Bがナップスターの開発を開始したのは、つい1998年秋のことである。
 その当時、米国では既に音楽ファイル(MP3ファイル)の自動送信を可能とするウェブサイトが個人や団体により多数開設され、それらのウェブサイトを検索するための検索エンジン(YahooやLycosのようなサイト)も運営されていた。しかし、このような検索エンジンの仕組みは、ロボットが一定周期でウェブサイトの情報を集め回ってきて登録、更新する形をとっており、リアルタイムの情報を提供することは不可能であった。そのため、検索エンジンを利用して得た検索結果に基づき、目的の音楽ファイル(MP3ファイル)の自動送信が可能であると表示されたウェブサイトを訪問してみても、既にそのサイトは閉鎖されていたり、目的のコンテンツがすでに消去されていたり、そもそも虚偽のサイトであったりといった事象が頻繁に生じた。これは、各ウェブサイトと検索エンジンとユーザーとが一体のシステムとして機能していないことに必然的に伴う帰結であったが、このような不便性が音楽ファイル(MP3ファイル)の違法ダウンロードに対する事実上の抑止力として働いていた。
 そこで、Bが考えたのが、中央サーバに認証を経て接続しているユーザーのコンピュータ内の音楽ファイル(MP3ファイル)のみをリアルタイムで検索の対象とするシステムであった。すなわち、中央サーバと、認証を経てそれにリアルタイムでアクセスしている各ユーザーの自動送信可能なコンピュータと、検索およびダウンロードを目論むユーザーのコンピュータとを、一体のシステムとして連結して運営し、上記のような不便性を解消したのである。これにチャット機能やインスタントメッセージ機能を盛り込み完成させたのが、ナップスターシステムである。ユーザー向けのナップスター・アプリケーションは、1999年6月1日に初めてベータ版(試用版)が友人らに配布されたものであるが、その後わずか1年の間に、世界中で約8千万人もの人々が利用するようになった。
 ナップスターの人気は次の点にあると考えられる。
@ 認証を経て中央サーバに接続している者の自動送信可能なコンピュータのみを検索対象にするため、検索対象となる自動送信可能なコンテンツに対する満足度が非常に高い。
A 同時に中央サーバに接続しているユーザー数が膨大であるため、友人間の個人的なファイル交換とは比較にならないほど膨大な音楽ファイルを検索対象として、自動送信を受けることができる。
B 本来有料の音楽ファイルを、品質の劣化がなく無料で入手し、自己のコンピュータ内に保存することができる。
C 検索対象の音楽ファイルは接続中の自動送信可能なコンピュータ内のものに限定され、リアルタイムで更新されているため、インターネット上の検索エンジンとは異なり、検索でヒットしたウェブサイトを訪れたときにそのコンテンツが既に消去されていたという事態は生じない。
D 中央サーバによる情報管理とアプリケーションソフトの無料配布により、誰でも容易に操作することができ、またウイルス感染などのリスクも著しく軽減されている。
5 ナップスターに対する米国裁判所の判断
(1) 提訴及び仮差止
 このようなナップスターの量的拡大を伴う短期間の隆盛にいち早く危機を感じ取り、法的措置に動いたのが全米レコード産業協会(RIAA)加盟の各社であり、1999年12月6日に、カリフォルニア州北部地区連邦地裁においてナップスターに対して提訴した。
 そして、2000年7月26日には、カリフォルニア州北部地区連邦地裁は、仮差止命令を発した。同年8月10日に多少修正された仮差止の範囲は、ナップスターが「連邦法または州法により保護される原告らの楽曲および音楽レコードを複製、ダウンロード、アップロード、送信もしくは配布し、または他者がそれらの行為を行なうことを容易にすること」を禁止するというものであった。
(2) 控訴裁判所の判断
 これに対し、ナップスターは、第9巡回区連邦控訴裁判所に上訴したが、同裁判所も、2001年2月12日に、仮差止の範囲について一部修正を命じながらも、基本的に地裁の仮差止命令を維持する決定を下した。
 第9巡回区連邦控訴裁判所判決の主たるロジックは、次の通りである。
@ ナップスターユーザーの行為は、アップロードにより複製権侵害(連邦著作権法106条1号)を構成し、ダウンロードにより頒布権(連邦著作権法106条3号)侵害を構成する。(注記:連邦著作権法106条1項は、「著作物を複製物または録音物に複製すること」について、同条3号は、「販売その他の所有権移転、レンタル、リースまたは貸与により、著作物の複製物または録音物を頒布すること」について、著作権者が専有することを定めている。)
A ナップスターユーザーには、フェアユースの抗弁は成立しない。(注記:連邦著作権法107条は、フェアユースに該当するか否かの判断に際しては、(a)商業的か否かといった使用の目的および性質、(b)著作物の性格、(c)著作物の使用量、ならびに(d)著作物の潜在的市場に与える影響および価値に与える影響などを考慮すべきと定めている。本件では、控訴裁判所は、上記(d)の市場への影響について、ナップスターは少なくとも大学生への音楽CD販売を減少させ、かつ原告らの音楽デジタルダウンロード市場への参入を妨げたとの専門家証言に基づく地裁の認定を支持した。)
B ナップスターには、ナップスターユーザーの著作権侵害行為について、寄与侵害者としての責任がある。(注記:連邦著作権法に寄与侵害に関する明文規定は存在しないが、判例法上、著作権侵害を知り又は知るべきでありながら、他人の侵害行為を誘引、惹起し、またはそれに重要な貢献をなしたものは、「寄与侵害者」として責任を負うものとされている。)
C ナップスターには、ナップスターユーザーの著作権侵害行為につき、代位責任を負う。(注記:連邦著作権法に代位侵害に関する規定は存在しないが、判例法上、いわゆる使用者責任の範囲を超えて、侵害行為を監督する能力と権限を有し、かつ侵害行為から直接の経済的利益を得ていた者について、認められている。本件では、控訴裁判所は、ナップスターの将来収益はユーザー層の増加に依存し、利用可能な音楽の質量の増加に伴いより多くのユーザーがナップスターに登録することから、ナップスターは経済的利益を得ているものと認めた。また、控訴裁判所判決は、ファイル名インデックスについてナップスターが管理能力を有することを理由に、ナップスターに監督能力・権限が存することを認めた。)
D 仮差止の範囲については、広すぎるとして、地裁に差し戻した。すなわち、原告らがナップスターに対してナップスターシステムで利用可能な著作物およびそれを含むファイルの通知をなした場合に、ナップスターはその排除義務を負うものであるとした。
(3) 差戻審の仮差止命令
 そして、カリフォルニア州北部地区連邦地裁は、2001年3月5日、仮差止の範囲に関する上記控訴裁判所の判断に従い、次の内容を主とする修正仮差止命令を発した。
@ ナップスターは、以下に定める手続により、著作権により保護された音楽レコードの複製、ダウンロード、アップロード、送信または頒布を行い、または他者に行なわせることを禁止される。
A 原告らは、ナップスターに対し、その音楽レコードについて、下記事項を提供する。
(A) 当該作品のタイトル
(B) 当該作品を演じる主演録音アーチストの名称(「アーチスト名」)
(C) ナップスターシステム上で利用可能な当該作品を含む一つまたは複数のファイル名;および
(D) 原告らが所有または支配する被侵害権利の証明書。
 原告らは、そのレコードのアーチスト名及びタイトルのみならず、侵害ファイルを特定するために実質的な努力を行なわなければならない。
B 全当事者らは、原告らにより特定された作品のファイル名またはタイトルもしくはアーチスト名のバリエーションを特定する合理的な努力を用い、それに該当する場合には作品を実際に識別しなければならない。
C 原告らの提供するリストに照らして、ある特定の時点でそのシステム上で利用可能なファイルを検索することはナップスターにとってより容易であり、そのような検索の結果により、ナップスターには、特定の侵害ファイルについて、合理的な認識が与えられるものとみなす。
D ナップスターが、特定のファイルについての合理的な認識を得た場合には、ナップスターは、3営業日内に、当該ファイルがナップスターインデックスに組み込まれるのを防止しなければならない(それにより、当該名称に対応するファイルへのナップスターシステムを通じたアクセスを防止しなければならない。)
E 侵害ファイルの合理的な通知を受領してから3営業日内に、ナップスターは全ユーザーにより利用可能とされる全ファイル名をそのログオン時(すなわちファイル名がナップスターインデックスに組み込まれる前に)に積極的に検索し、通知された音楽レコードがダウンロード、アップロード、送信または頒布されるのを防止しなければならない。
(4) ナップスターの対応
 ナップスターは、上記の仮差止命令を遵守することができなかったため、結局、システムの運用停止に追い込まれた。
6 ナップスター運用停止の影響
 米国裁判所における命令によりナップスターシステムが運用停止に追い込まれた結果、膨大な数のユーザーが、ナップスター以外のシステムを模索中であるか、または他のシステムに既に移行したといわれている。本件サービスも、旧ナップスターユーザーの移行対象となるシステムの一つである。
 インターネットを利用したネットワークにおいて、国境は大きな意味を持つものではない。したがって、著作権法の立法のみならず、解釈および運用にあたっても、世界的な調和が求められることはいうまでもない。
 ところが、米国で違法として運用が停止されたシステムとほぼ同一のシステムが日本では適法であって運用可能であるということになれば、このようなシステムおよびそのユーザーが日本において大挙して押し寄せ、日本がいわば違法コピーのセーフハーバーになってしまうという事態が、容易に想像できる。したがって、本件における日本の裁判所の判断が与える影響は、日本国内にとどまるものではなく、広く世界の著作権保護に大きな影響を直ちに及ぼすこととなる。
7 日本法の視点からのナップスター及び本件サービスの運営主体
 米国の裁判所では、米国における判例理論を前提として、ユーザーを直接侵害者として、ナップスターを寄与侵害者又は代位責任を負う者として位置付けた上、ナップスターに対する差止命令を認めた。我が国においてナップスター事件を参照する場合に重視すべきは、米国の連邦地裁も控訴裁判所も、ナップスターがクライアントアプリケーションソフトを配布し、中央サーバを運用してユーザー間の音楽ファイル交換を可能にするシステムを構築しているという事実を直視して、差止を認める結論を導いた点である。
 本件サービスでも、ナップスターシステムと同じく、認証を経て中央サーバに接続しているユーザーのコンピュータ内の電子ファイルのみをリアルタイムで検索し、ユーザーが簡単な操作でファイル交換できるように設計されている。すなわち、送信可能化や複製行為が行われるときは、必ず送信側と受信側のコンピュータ端末が債務者の運用する中央サーバに接続し、リアルタイムのネットワークを形成している。そして、中央サーバでの検索の結果を利用することで、不特定多数のユーザーの有する電子ファイルのダウンロードが、クリック一回で可能とされているのである。
 ファイルローグシステムの利用により膨大な数のアップロードとダウンロードとが可能となるばかりか、現に膨大な数のファイル交換が行なわれているところ、その中心に位置する債務者に対し、その果たしている役割に応じた法的責任を負わせることが不可欠なのである。


別紙 「答弁書」の「第二ないし第四」
第二 申立ての理由中の「被保全権利」に対する反論
一 はじめに
1 債権者らは、「著作権法上、債務者に本件著作隣接権侵害行為を防止すべき法律上の義務が認められるのは当然であり、債務者は、クライアントコンピュータの保有者と並ぶ本件著作隣接権侵害の主体として、又は少なくとも教唆・幇助により本件著作隣接権侵害行為に積極的に荷担してこれを惹起せしめる者として、債権者の差止め請求に服すべき地位にあ」り、「本件レコードをMP3形式により圧縮して複製したファイルを、本件サービスにおいて送受信の対象によるとしてはならないことを命じられるべきである」と主張する(申立書17頁)。この債権者らの主張を善解すれば、主位的には、著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対する差止請求権(著作権法112条1項)を被保全権利とし、予備的に、著作隣接権侵害を教唆・幇助する者に対する差止請求権(著作権法112条1項)を被保全権利とするかのように読めなくもない。
2 債務者としては、これらの被保全権利はいずれも存在しないと考えている。そのことを疎明するために、まず、(1)債務者が運営する「ファイルローグ」システムの概要を説明した上で、(2)債務者が本件レコードの複製ないし送信可能化の主体ではないことを論じ、ついで、(3)債務者は「ファイルローグ」システムの利用者による著作隣接権侵害を教唆・幇助した者として共同不法行為責任を負わないことを論じ、最後に、(4)債務者は、著作権法112条1項によって、「本件レコードをMP3形式により圧縮して複製したファイルを、本件サービスにおいて送受信の対象によるとしてはならないこと」を債権者らから請求される立場にないことを論ずることとする。
 以上のとおり、論ずる順番は、債権者の申立書の記載を無視することになるし、債権者の主張事実の全てには認否しないことなるが、(1)本件申立書が送達されてから第1回審尋期日までが約12日であり、その間休日が挟まっていることを考えると実質的な作業時間が1週間程度しかないこと、(2)本件申立書は非常に大部であること、(3)本件申立てとほぼ同趣旨の申立てが社団法人日本音楽著作権協会からなされており、同事件は同じ東京地裁民事29部に係属し、同じ日時に第1回審尋期日が指定されているが、本申立書と社団法人日本音楽著作権協会の申立書とは若干構成その他が食い違っていること、(4)仮処分事件の審理に際しては、民事訴訟の審理とは異なり、擬制自白という考え方がないことなどを考慮して、このような手法を採ることとした。なお、債務者としても、第1回審尋期日まで十分な作業時間をいただけることとなれば、債権者の主張事実につき詳細な認否をしたいと考えている。
二 本件システムの概要
1 システムの設定
(1) 「ファイルローグ」というP2Pのファイル交換を補助するためのファイル情報登録・検索システム(以下、「本件サービス」という。)を利用するためには、本件サービスを利用するために専用に作成されたソフトウェア(以下、「本件クライアント・ソフト」という。)が利用者のコンピュータにインストールされていることが必要である。
(2) 債務者は、債務者が開設するWebサイト(http://www.filerogue.net/)に、本件クライアント・ソフトをアップロードし、本件サービスの利用を望む者が何時でも無料でダウンロードできるようにしている。ただし、上記サイトにアクセスした場合、「利用規約」(甲第5号証)が、利用者のコンピュータに接続されたモニターに表示される。そして、この利用規約に同意する旨ボタンをクリックしたもののみが、本件クライアント・ソフトをダウンロードすることができる。すなわち、上記サイトから本件クライアント・ソフトをダウンロードした者は皆、債務者との間で、本システムを利用して他人の権利を侵害しないこと、自らの権利を侵害されたと主張する者が現れた場合はノーチス・アンド・テイクダウン手続きに服すること等を約束しているのである(乙第1号証)。
(3) 本件クライアント・ソフトを起動させても、ユーザーIDとパスワードを入力しなければ、債務者が本件サービスのために使用しているサーバ・コンピュータ(以下、「本件サーバ・コンピュータ」という。)にアクセスすることはできない。ユーザーIDを取得するためには、本件クライアント・ソフトの「新しいIDを取得」コマンドを実行して、モニターに表示されたダイヤログにユーザー名及びパスワード並びにメールアドレスを入力する必要がある。ユーザー名及びパスワードは利用者側が任意に設定することができる。確かに、本件サービスにおいては、ユーザー登録にあたって利用者が入力したメールアドレスが実在するものか否かを判別するルーティンを取り入れてはいない。ユーザーが架空のメールアドレスを入力した場合、そのユーザーにより権利侵害を受けたと主張する者からノーチス・アンド・テイクダウン手続きの申立てがあったときに、申立てメールを転送することができないが、その場合は申立人の主張を正当として、当該利用者が本システムを利用することは爾後禁止されるのであるから、特に問題となるようなことはない。また、本件サービスにおいて、利用者が新しいIDを登録する際に、その利用者の戸籍上の名称や住民票の住所等を入力させる仕組みにはなっていないが、特定の会員向けにオンライン上で無償サービスを提供するシステムでは、わざわざ会員に住民票の写し等を提出させることは合理的ではないから、戸籍上の名称や住民票上の住所を入力させないというのは、一般的である。
(4) 本件サーバにアクセス(ログイン)しようとする利用者は、ログイン時に画面上に表示されるダイヤログに、既に登録済みのユーザーIDとパスワードを入力することによって、本件本件サーバ・コンピュータにアクセスすることができることになるのである。
2 送信に向けた設定
(1) 本件サービスの利用者(提供者)は、本件クライアント・ソフトの「追加」コマンドを実行することによって、送信を可とするファイルを収蔵するフォルダ(一般利用者向けに「共有フォルダ」という用語が使われており、債権者の「共有フォルダ」という用語を使用しているが、「送信被許可ファイル収蔵フォルダ」というのが実態にあった用語である。ただし、ここでは鍵括弧付きの「共有ファイル」という用語を用いることとする。)を指定することができる。利用者は、本件サーバへアクセスするのと同時に自動的に特定のフォルダ内のファイルを全て送信可とするようにすることも、そうしないことも自由に設定できる(「ログイン時にファイルリストをアップロードしない」という設定を「ON」とするか否かの問題である。)。
(2) 本件サービスの利用者は、特定のフォルダについて、いつでも、「共有フォルダ」として一度なした指定を任意に解除することができる。すなわち、「共有フォルダ」として指定されているフォルダを表示するウィンドウにおいて、指定を解除したいフォルダを選択して、解除コマンドを実行することにより、指定を解除できるのである(なお、「再スキャン&アップロード」コマンドを実行すれば、本件サーバにアクセス中にも、この指定解除は即時に効果が発生するのである。)。
(3) 提供者が本件クライアント・ソフトを起動すると、提供者のコンピュータ(以下、「送信用コンピュータ」という。)は自動的に本件サーバ・コンピュータと接続し、「共有フォルダ」として指定されているフォルダに蔵置されている電子ファイルについてのファイル名(直近のフォルダ名をも含む。)、ファイルサイズ、及び提供者のIDといった情報が、送信用コンピュータから本件サーバ・コンピュータに送信されるとともに、本件サーバ・コンピュータは送信用コンピュータのIPアドレス及びポートナンバーを取得する仕組みになっている。「再スキャン&アップロード」コマンドが実行された場合も同様である。本件サーバ・コンピュータは利用者のコンピュータから送信されたこれらのデータをもとに、現時点でダウンロード可能なファイルに関するインデックスを作成する。したがって、本件サーバ・コンピュータにおいて検索可能な情報は、送信用コンピュータから送信されるデータに含まれている情報、すなわち、ファイル名(直近のフォルダ名をも含む。)、ファイルサイズ、及び提供者のIDのみである(このように、個人間の情報流通に必要な最小限度の情報のみをサーバが取り込み、管理するというのは、サーバにかかる負荷の分散を目的とするハイブリッド型P2Pシステムの中核を占める考え方である。)。
(4) 本件サービスの利用者は、自分のコンピュータから同時にダウンロードできるファイルの数を自由に設定することができる。また、特定のユーザーIDからのダウンロードを優先することができる。優先権を設定されていない者が当該ファイルをダウンロード中に、優先権を設定されている者が当該ファイルのダウンロードを開始した場合、優先権を設定されていない者によるダウンロードは途中で遮断されることになる。
 但し、これはあくまで、送信用コンピュータにインストールされた本件クライアント・ソフトに関する設定であって、本件サーバ・コンピュータには一切反映されていない。
3 検索
(1) 特定の内容の情報が記録されているファイルをダウンロードしようという利用者は、まず、当該ファイルがどのユーザーの送信用ディスクに収録されているのかを検索する必要がある。そのための手段としては、次のようなものがある。
(2) 本件サービスの利用者は、本件クライアント・ソフトを用いて、特定の文字列が含まれているファイル名が付されたファイルを検索するように、オンライン上で、本件サーバ・コンピュータに指示を送ることができる。本件サーバ・コンピュータは右指示を受けて、本件サーバ・コンピュータに接続されているコンピュータから送信されたファイルに関するカタログデータを用いて検索処理を行うことにより、本件サーバ・コンピュータに接続されているコンピュータ内に蔵置されているフォルダのうち利用者により「共有フォルダ」として指定されているフォルダ内に蔵置されている電子ファイルであって、上記文字列をファイル名に含むものを検出する。そして、本件サーバ・コンピュータは検出した全ての電子ファイルに関する方法(ファイル名、ファイルパス名、ユーザーID、ファイルサイズの他、当該ファイルの保持者のIPアドレス、ポートナンバーを含む。)を利用者(受信者)のコンピュータに送信する。受信者のコンピュータに接続されたモニターに表示される検索結果画面には、ファイル名、サブフォルダ名、ファイルサイズ、保持者のユーザーIDが表示される。
 また、本件サービスの利用者は、本件クライアント・ソフトを用いて、他の特定の利用者(以下、「お友だちユーザー」という。)が「共有フォルダ」として指定したフォルダのみを表示・検索の対象とすることができる。モニター上に「お友だち一覧画面」を表示させて、「お友だちユーザー」のID名を選択し、さらにマウスを右クロックして「カタログをみる」コマンドを選択すればよいのである。すると、お友だちユーザーが「共有フォルダ」として指定したフォルダ及びそのフォルダに収蔵されているファイル及びサブフォルダがモニタに表示される。
(3) 本件クライアント・ソフトは、インスタント・メッセンジャー機能をも備えている。したがって、本件サービスの利用者は、本件クライアント・ソフトを使用して、お友だちユーザーとリアルタイムチャットすることができる。このリアルタイムチャット機能を用いて、ダウンロードしたい内容が記録されているファイルの名称をお友だちユーザーから教えてもらい、そして、お友だちユーザーのカタログを表示して、教えてもらったファイル名の付けられたファイル名を探し当てて検出することができる。
4 ファイルの送受信
(1) ファイルのダウンロードを望む利用者は、受信用コンピュータに接続されたモニター上に表示された検索結果画面又はお友だちカタログ画面にリストアップされたファイルからダウンロードしたいファイルを選択し、本件クライアント・ソフトの「ダウンロード」コマンドを実行すると、受信者のコンピュータ(以下、「受信用コンピュータ」という。)は、受信用コンピュータに接続されたモニタ上に受信ファイルの保存場所を尋ねるダイヤログを表示する。受信者において、当該ファイルの保存を希望するフォルダをマウス操作で指定し、「保存」コマンドを実行すると、当該ファイルを「共有フォルダ」内に蔵置している利用者(提供者)との間で、本件サーバ・コンピュータを介することなく(但し、提供者のコンピュータがファイヤーウォール内にいた場合、受信用コンピュータは送信用コンピュータとの間で接続を確立できないので、受信用コンピュータから本件サーバ・コンピュータ経由で接続リクエスト信号を送り、これを受けて送信用コンピュータの方から受信用コンピュータに接続に入る。)、直接接続が確立する。爾後、提供者と受信者との間では、情報(データ、指令など)は、直接送受信されることになる。
(2) 受信用コンピュータと送信用コンピュータの間で直接接続が確立されると、受信用コンピュータは送信用コンピュータにダウンロード要求の信号を送付する。この信号を受信した送信用コンピュータは、このダウンロード要求を可とするかを判断し(例えば、同時に送信するファイル数の制限を越える場合は「ダウンロード不許可」という結果を下す。)、「ダウンロード不許可」という判断を下した場合には、送信用コンピュータは受信用コンピュータに向けてその旨の信号を送信する。
(3) 「ダウンロード許可」という判断を下した場合には、送信用コンピュータは、当該ファイルのファイルデータをRAMに読み込み、そのファイルデータをネットワークを介して受信用コンピュータに向けて送信する。このファイルデータを受信した受信用コンピュータは、当該ファイルデータを、上記選択済みのフォルダ内に新設されたファイルに格納する。
(4) なお、本件クライアント・ソフトは、送信用コンピュータによる上記処理も、受信用コンピュータによる上記処理も行えるように作成されているが、送信用コンピュータの処理と受信用コンピュータの処理のどちらか一方又は双方を行うことができる他のソフトウェアを第三者が開発することは技術的に不可能ではない。
5 本件サービスにおいてファイル情報が登録されているファイル
(1) アメリカのナップスターと異なり、本件サービスにおいてファイル情報が登録されている電子ファイルはMP3形式の音声ファイルに限られない。テキストファイルや文書ファイル、画像ファイルや動画ファイル、あるいはフリーウェアソフトなどを含むプログラムファイルまで多様な内容、多様な形式のファイルのファイル情報が本件サーバ・コンピュータに登録されるシステムとなっている(社団法人日本レコード協会特別業務部C氏作成の「『ファイルローグ』調査報告書(ユーザー数、公開ファイル数などの実態に関する調査)」(甲第4号証の1)によれば、平成13年11月1日から平成14年1月23日までの毎平日午後5時前後に社団法人日本レコード協会事務局職員が目視したところによれば、送信を許可されているファイル数が平均約53万6452ファイル、そのうち拡張子が「mp3」となっているものが平均約8万0421ファイルであったとのことであり、拡張子が「mp3」となっているファイルの割合は全体の約15%にすぎない。)。
(2) また、MP3形式の音声ファイルにしても、市販のレコードからリッピングして作成したものもある反面、アマチュアバンドが自ら演奏・録音したものをMP3形式の電子データに変換した上で、オンライン上などで無償で配布しているものもあり、その中には、再配布は自由と謳っているものも少なくない(乙第2号証)。
 また、MP3技術は、会話などを録音してオンライン上で配布するためにも利用されている(乙第3号証)。1分あたり100kb程度で収まることから、会話や演説等のデータをオンライン上で配布するために用いるには極めて有益な技術であるといえる。
(3) このように、債権者が公衆送信権ないし送信可能化権を有する電子ファイルというのは、本件サービスにおいてファイル情報が登録されている電子ファイルのごく一部を構成するに過ぎない。
(4) なお、債権者らは、「MP3は、ほとんどの場合、市販のCD等に収録されているレコード音楽を複製するために用いられており、現に、本件サービスの利用者が検索した結果として表示されるMP3ファイルのほとんどすべてには、それが市販のCD等を複製したファイルであることを示すタイトルが付されている」と主張する(6〜7頁)。しかし、MP3形式の電子ファイルが、アマチュアバンドの楽曲発表のために使用されたり、会話を録音・配布するために用いられる例も多々あることは既に述べたとおりである。
 また、前記C氏の作成の「『ファイルローグ』調査報告書(公開されているMP3ファイルの中で違法送信物の占める割合に関する調査)」(甲第4号証の2)によれば、平成13年12月6日午後3時から午後5時までの間本件システムを利用して拡張子を「mp3」とするものを検索した結果として得られた30600ファイルのうち100ファイルおきに抽出したファイルについて、社団法人日本レコード協会の職員5名が調査員となって、ファイル名及びファイルパス名から明らかに権利侵害物と判別できるファイル、権利侵害物と判別しかねるファイル、明らかに権利侵害物でないとの判別できるファイルを評価分類したところ、「明らかに権利侵害物と判別できるファイル」と判別しなかった調査員が一人でもいたファイルは26ファイルしかなかったとする。しかし、社団法人日本レコード協会は、債権者らで構成する利益代表団体であるから、その者による調査が適切になされた保証はない。また、上記調査員は、「ファイル名又はファイルパス名中に著名アーティスト名又は楽曲名が含まれるものについては、明らかに権利侵害物と判断できる」として評価分類しているが、そのような判断基準自体に問題がある(例えば、No.61のファイル(ファイル名:「Overseas Call.mp3」、ファイルパス名:「My Music」)のように、単に「国際電話」を表す「Overseas Call」という単語がファイル名に使用されているというだけで、上記調査員は全員「ファイル名及びファイルパス名から明らかに権利侵害物と判別できるファイル」と評価分類してしまっている。日本レコード協会では、「Overseas Call」という単語を楽曲名とするようなアマチュアバンドは現れないとの自信を持っているようであるが、その自信がどこから来るのかは一切不明である。)。
(5) 仮に、本件システムが始動した直後である上記調査期間においては、本件システムを介して送受信されるMP3形式の電子ファイルのほとんどが市販音楽CDの複製物であったとしても、そのことを前提に本件システムの違法性を斟酌するのは妥当ではない。ナップスター事件連邦控訴審判決がまさに指摘するとおり、システムの将来性を無視して現在の使用のみを分析の対象とするのは適切ではないのである(甲第14号証訳文16頁)。
三 債務者の複製・送信可能化主体性
1 債権者らは、本件サービスの提供者である債務者も、本件著作隣接権侵害行為の主体として、債権者の差止請求権に服すべき地位にあると主張する(9頁)。その理由として、債権者らは、(1)債権者が本件著作隣接権侵害行為の実現において中核かつ不可欠な役割を果たしていること、(2)債務者の行為は著作隣接権侵害行為を必然的に惹起するものであること、(3)債務者が本件著作隣接権侵害行為を認識・認容していること、(4)債務者が本件著作権隣接権侵害行為による利益を取得していること、(5)本件著作隣接権侵害の結果が極めて重大であること、(6)債務者が著作隣接権侵害の状態を発生させ、かつこれを防止しうる唯一の地位にあること、(7)侵害結果防止のためには、債務者に侵害結果防止措置をとらせることが必要不可欠であり、かつそれが適切・可能であることの7点をあげる(もっとも、債権者らは、利用主体性に関する主張と教唆・幇助責任の主張とを混在させているため、上記のうち、どれとどれを利用主体性の要件事実として摘示し、どれとどれを教唆・幇助責任の要件事実として摘示しているのかは明らかではない。)。
2 実際に著作物等の利用行為を行っている者以外を規範的に利用行為主体と認定した裁判例としては、最判昭和63年3月15日民集42巻3号199頁〔クラブキャッツアイ事件最高裁判決〕等があり、認定しなかった裁判例として大阪地判平成9年7月17日判タ973号203頁〔ネオジオ事件地裁判決〕等がある。
 クラブキャッツアイ事件最高裁判決によれば、規範的に利用行為主体性を認めるためには、(1)実際の利用者による利用を管理していること、及び、(2)当該利用行為により利益を上げることを意図していたことの2点が必要とされている。その上で、最高裁は、カラオケ装置を設置したスナックに関して、管理性の要件については、「客は、上告人らと無関係に歌唱しているわけではなく、上告人らの従業員による歌唱の勧誘、上告人らの備え置いたカラオケテープの範囲内での選曲、上告人らの設置したカラオケ装置の従業員による操作を通じて、上告人らの管理のもとに歌唱しているものと解される」と判示するとともに、図利性の要件については、「上告人らは、客の歌唱をも店の営業政策の一環として取り入れ、これを利用していわゆるカラオケスナックとしての雰囲気を醸成し、かかる雰囲気を好む客の来集を図って営業上の利益を増大させることを意図したというべきである」と判示している。また、東京高裁平成11年7月13日判タ1019号281頁〔カラオケボックス事件高裁判決〕において裁判所は、管理性の要件について、「本件店舗のカラオケ歌唱用の各部屋においては、顧客が各部屋に設置されたカラオケ装置を操作し、再生された伴奏音楽に合わせて歌唱することによって、管理著作物の演奏が行われていることが認められるところ、控訴人らは各部屋にカラオケ装置と共に楽曲索引を備え置いて顧客の選曲の便に供し、また顧客の求めに応じて従業員がカラオケ装置を操作して操作方法を教示するなどし、顧客は指定された部屋において定められた時間に応じた料金を支払い、再生された伴奏音楽に合わせて歌唱し、歌唱する曲目は控訴人らが用意したカラオケソフトに収納されている範囲に限られることなどからすれば、顧客による歌唱は、本件店舗の経営者である控訴人らの管理の下で行われているというべきであ」ると判示している。
 他方、ネオジオ事件地裁判決は、「被告がユーザーを手足ないし道具として利用して右映画の著作物たる本件ゲームソフトウェアを上映せしめている旨主張するのであるが、被告がユーザーを手足ないし道具として利用して本件ゲームソフトウェアを上映せしめているとして、被告自ら本件ゲームソフトウェアを上映しているのと同視できるためには、単に被告製品を購入したユーザーがその購入目的からして必然的に被告製品を使用して本件ゲームソフトウェアを上映するに至ることが明らかであるというだけでは足りず、被告において、被告製品をユーザーに販売した後も、ユーザーが被告製品を使用して本件ゲームソフトウェアを上映することについて何らかの管理・支配を及ぼしていること、及び被告が被告製品を販売する目的がユーザーをして本件ゲームソフトウェアを上映させることそれ自体により利益を得ることにあることが必要であると解するのが相当である」と判示した上で、管理性の要件については、「被告製品を購入したユーザーは、これを被告の管理・支配の全く及ばない自宅等に持ち帰り、被告の意思に関わりなくユーザー自身の自由意思をもって被告製品を本件ゲーム機本体に接続して本件ゲームソフトウェアを上映するのであって、本件全証拠によるも、ユーザーが被告製品を使用して本件ゲームソフトウェアを上映することについて被告が何らかの管理・支配を及ぼしていると認めることはできない」と判示し、図利性の要件については、「原告は、被告製品を購入する対価は、観衆たるユーザーが本件ゲームソフトウェアの対戦モードのゲームストーリーの展開を楽しむために支払う料金の一括前払いに該当する(から、「営利を目的としない」上映には当たらない)旨主張するが、被告製品の価格は本件ゲームソフトウェアの上映の対価そのものである、あるいはこれが被告製品の価格のうちに含まれていると認めるに足りる証拠はなく、かえって、ユーザーが被告製品を購入する時点では、既に購入済みの本件ゲームソフトウェアがある場合を除き、本件ゲームソフトウェアのうちどのゲームソフトウェアを購入し、これを上映するかは具体的に確定しておらず、将来原告によって販売されることがあるべき本件ゲームソフトウェアの種類も確定していないといわざるを得ないから、被告がその価格に本件ゲームソフトウェアの対価を含ましめることは不可能というべきであり、また、被告製品を販売した後は、被告製品を使用して本件ゲームソフトウェアの上映がどの程度なされるかは、今後の被告製品の販売数量の見通しに関する資料にはなるとしても、原則として被告に何らの利害ももたらさないものと考えられるから、被告製品の価格について、製造原価その他の必要経費に適当な利潤を上乗せした金額の他に、本件ゲームソフトウェアの上映の対価が加算されているということはできない」として、「被告が被告製品を販売する目的がユーザーをして本件ゲームソフトウェアを上映させることそれ自体により利益を得ることにあることも、これを認めるに足りる証拠はない」と判示している。
3 債権者らの上記主張のうち、管理性の要件に関する主張と思われるのは(1)であり、図利性の要件に関する主張と思われるものは(4)であるから、これらについて以下論ずる。
(1) まず、債権者らは、「債権者が本件著作隣接権侵害行為の実現において中核かつ不可欠な役割を果たしている」と判断した理由の1つとして、「クライアントコンピュータの「共有フォルダ」内に蔵置されたファイルは、それのみでは他のクライアントコンピュータに送受信されることはなく、債務者が配布するクライアントソフト及び債務者が管理・運営するファイルローグサーバの機能との連携によって初めて、しかもその方法によってのみ、公衆に送信可能な状態となるのであり、かつ、送信の必然な結果として受信側クライアントコンピュータに複製が生ずる」と主張する。
 しかし、上記主張は、既に事実の認識として間違っている。本件クライアントソフトによりあるフォルダを「共有フォルダ」に指定しても、当該フォルダ及び当該フォルダに蔵置されているファイル自体に何らかの変化が生じるわけではない。本件クライアントソフトにより本件サーバコンピュータに送信されるカタログデータにおいて、爾後、当該フォルダ内に蔵置されているファイルが「送信を許可されたファイル」であると記録されるだけにすぎない。したがって、本件クライアントソフトにより「共有フォルダ」として指定されたフォルダ内に蔵置されたファイルを、GNUTELLAやWinMX等の、他のP2P間のファイル送受信ソフトにより、公衆に送信可能な状態におくことは、簡単である(実際、本件クライアント・ソフトとWinMXを同時に起動させ、同じフォルダを「共有フォルダ」に指定することは可能である。)。したがって、債務者は、「債権者が本件著作隣接権侵害行為の実現において・・・不可欠な役割を果たしている」とはそもそもいえない。
(2) また、債権者らは、「債権者が本件著作隣接権侵害行為の実現において中核かつ不可欠な役割を果たしている」と判断した理由の1つとして、「債務者は、その配布するクライアントソフトの機能によってクライアントコンピュータをファイルローグサーバに自動的に接続させ、それに接続されている全てのクライアントコンピュータの「共有フォルダ」内に蔵置されている全ファイルの所在、名称等の情報を自動的に読みとってこれを独占排他的にリアルタイムで管理し、かつ、そのファイル情報を同時にファイルローグサーバに接続されている他のクライアントのみに提供して、全クライアントコンピュータの「共有フォルダ」内に蔵置されているファイルの中から入手希望のファイルを選択させて、その送受信を発生させている。すなわち、送信可能化や複製行為が行われるときは、必ずクライアントソフトをインストールした送信側と受信側のクライアントコンピュータが債務者の運用するファイルローグサーバに接続され、リアルタイムでのネットワークが形成され、その内部間においてのみファイルの送受信及び複製が行われている。」(10頁)と主張し、上記点に鑑みれば、「クライアントコンピュータに蔵置されたファイルと、ファイルローグサーバにおけるファイル情報のリアルタイムでの管理及び提供の機能とがクライアントソフトの働きによって連結され、その連結によって機能する『自動公衆送信装置』が構成されているというべきであり、本件サービスによる本件レコードの送信可能化・・・は、クライアントソフトを配布するとともにファイルサーバを支配・管理している債務者と利用者との共同行為であるというべきである」と主張する。しかし、ファイルローグ・サーバが関与しているのは、受信用コンピュータに特定のファイルのファイル名、ファイルパス名、ユーザーID名ならびにそのユーザーのIPアドレス等のデータを送信するところまでであって、そこから先の部分、すなわち、受信用コンピュータから送信用コンピュータに特定のファイルを特定のIPアドレスへ送信するようにとの指令を発信し、この指令を受信した送信用コンピューターが特定のファイルを受信用コンピュータのIPアドレスに向けて送信するという場面においてはファイルローグ・サーバは何も関与していない。偶々本件クライアントソフトは特定のファイルを検索してそのファイルに関するカタログデータを入手するまでの過程とそのカタログデータをもとに個人間でファイルの送受信を行う過程とを1つのソフトウェアで処理しているので混同されやすいが、技術的には、送信者側で本件クライアントソフトを用いて送信を許可したファイルについて、ファイルローグサーバから受信したカタログデータをもとに、これを直接ダウンロードできるような別個のソフトウェアを開発するも可能であるから、債権者らの上記主張はそもそも前提事実において間違っているというべきである。
(3) また、仮に「「クライアントコンピュータに蔵置されたファイルと、ファイルローグサーバにおけるファイル情報のリアルタイムでの管理及び提供の機能とがクライアントソフトの働きによって連結され、その連結によって機能する『自動公衆送信装置』が構成されている」としても、本件レコードをMP3化した電子ファイルが収蔵されているまさにそのフォルダを「共有フォルダ」に指定することによって、送信可能化(情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加えること(著作権法2条1項9号の5のイ))を行ったのは、まさに当該利用者であって債務者ではない。また、「共有フォルダ」に本件レコードをMP3化した電子ファイルを収蔵することによって、送信可能化(公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置・・・の公衆送信用記録媒体に情報を記録すること。著作権法2条1項9号の5のイ)したのも、まさに当該利用者であって債務者ではない。さらに、「ログイン時にファイルリストをアップロードしない」というオプションを「ON」にしていなかった場合は、その直前の利用時に「「共有フォルダ」」としていたフォルダを公衆送信用記録媒体とする送信可能化行為(著作権法2条1項9号の5のロ)が行われるが、この場合の送信可能化行為は、「公衆の用に供されている電気通信回線への接続(配線、自動公衆送信装置の始動、送受信用プログラムの起動その他の一連の行為により行われる場合には、当該一連の行為のうち最後のものをいう。)を行うこと」であるから、本件クライアント・ソフトを起動させることがこれに当たるが、本件クライアントソフトを起動させる行為を行っているのは、まさに利用者(提供者)に他ならない。
 そして、利用者が「共有フォルダ」に蔵置して送信可能化するファイルは、債務者が予め指定したものに限られるという実態はなければ、また、本件レコードをMP3化した電子ファイルを蔵置したフォルダを「共有フォルダ」に指定するように債務者が勧誘した事実もなければ、本件レコードをMP3化した電子ファイルを「共有フォルダ」に蔵置するよう勧誘した事実もなければ、本件レコードをMP3化した電子ファイルを蔵置したフォルダが「共有フォルダ」として指定されたままの状態で本件クライアントソフトを起動させるように債務者が勧誘した事実もない。また、債務者は、利用者の求めに応じて従業員に本件クライアントソフトを操作させて利用者に操作方法を教えるようなサービスも行っていない(そもそも、ユーザーサポートすら満足に行っていない。)。また、利用者は、本件クライアントソフトをダウンロードした後、自宅等において、債務者の意思に関わりなく利用者自身の自由意思をもって本件クライアントソフトを起動したり、本件クライアントソフトにより任意のフォルダを共有ファイルとして指定するのである。
 以上の点に鑑みれば、利用者による送信可能化行為が、債務者の管理の下で行われていると認めることは到底できないというべきである。
 同様に、利用者が「ダウンロード」コマンド及び「保存」コマンドを実行することにより受信用ディスクに複製される電子ファイルは債務者があらかじめ指定したものに限られるという実態はなければ(そのとき本件サーバ・コンピュータに接続されている送信用コンピュータの「共有フォルダ」に蔵置されているものに限られているのであり、どのファイルが「共有フォルダ」に蔵置されるか、債務者は一切管理していない。)、また、本件レコードをMP3化した電子ファイルを送信ないし保存するように債務者が勧誘した事実もなければ、利用者の求めに応じて従業員に本件クライアントソフトを操作させて利用者に操作方法を教えるようなサービスも行っていない。したがって、利用者による複製行為が、債権者の管理の下で行われていると認めることもやはりできない。
(4) 債権者らは、「債務者が本件著作権隣接権侵害行為による利益を取得している」と考える理由の1つとして、インターネット広告代理会社であるバリューコマース株式会社及び他1社と契約することにより広告収入を得ていること掲げる。しかし、バリューコマース株式会社及び他1社は、本件レコードをMP3化した電子ファイルを利用者が送信可能化したことに対して広告料を債務者に支払うわけではないので、債務者がファイルローグシステムを運営する目的が「利用者をして 本件レコードをMP3化した電子ファイルを送信可能化されることそれ自体により利益を得ること」ないし「本件レコードをMP3化した電子ファイルを受信用ディスクに複製することそれ自体により利益を得ること」にあると認めることはできない。
 また、債権者らは、「債務者が本件著作権隣接権侵害行為による利益を取得している」と考える理由の1つとして、「最終的には(本件サービスの)有料化を検討している」と述べていたことを掲げているが、一般に、有料化を検討しただけでは利益を取得することはできない。債務者もその例外ではない。
(5) また、債権者らは、「債務者が本件著作権隣接権侵害行為による利益を取得している」と考える理由の1つとして、「本件サービスの利用者の拡大が債務者の利益につながるところ、本来であれば有償でしか取得できない本件レコードのファイルが本件サービスを利用することによって無償、大量かつ容易に取得できることによる吸引力によって利用者の拡大が図られるのであるから、債務者は、本件著作隣接権侵害行為の拡大によって利益を取得するものである」と主張する。しかし、債務者は、利用規約において、「■禁止事項 あなたは、以下の行為、事項を行わないことに合意します。/(a) 著作権、著作隣接権、名誉権、プライバシー権その他第三者の権利を侵害するファイルを送信可能な状態とすること」と規定しており、さらにノーティス・アンド・テイクダウン手続きを採用する旨宣言し、具体的な手続き規定まで設けることによって、「本来であれば有償でしか取得できない・・・ファイルが本件サービスを利用することによって無償、大量かつ容易に取得できることによる吸引力によって利用者の拡大」を図るという営業政策を採らないことを明らかに宣言している。実際、債務者の上記営業姿勢もあって、「本来であれば有償でしか取得できない・・・ファイル」を「無償、大量かつ容易に取得」することを望む者のほとんどがWinMXを利用しているのが実情である。それはさて措くとしても、クラブキャッツアイ事件において当該カラオケスナックの顧客のほとんどは、社団法人日本音楽著作権協会の管理著作物を歌唱することを目的として集まってくるのであり、顧客による社団法人日本音楽著作権協会の管理著作物の歌唱なしには集客が見込めないと考えられる一方、本件サービスの利用者が送信を許可したファイルのうち、何らかの音声をMP3形式にて記録した電子ファイルの割合は、社団法人日本レコード協会の調査によっても約15%程度であり、本件レコードをMP3化した電子ファイルは更にそのうちのごく一部にすぎない。債務者にとって、「本件レコードのファイルが本件サービスを利用することによって無償、大量かつ容易に取得できることによる吸引力」など、とるにたりないのであって、「本件サービス拡大のためには不可欠」と認識する筋合いはないというべきである。債務者は、日本国内においてブロードバンド化が進展するとともに、マルチメディア・パソコンが家庭やオフィスに普及するようになったときに、例えば、個人がデジタルビデオ等で撮った画像を友人等にオンラインを通じて配布するような社会の到来に備えて、その環境づくりをしている(そのような動画データはファイルサイズが極めて大きいため、インターネット・サービス・プロバイダから提供を受けたサーバー領域にアップロードする方法や、電子メールに添付ファイルとして送付する方法では、サーバの負荷が大きくなりすぎていわゆるパンク状態に陥ることが当然に予想されており、サーバの負荷を軽減しつつ大容量のファイルを円滑に流通させるための仕組みとしてP2P技術に大きな期待が集まっているのである。)のであって、債権者らが想定するような近視眼的な利益を図っているわけではない(乙第4号証)。「燕雀安くんぞ鴻鵠の志を知らんや」とはよくいったものである。
(6) また、債権者らは、「債務者が本件著作権隣接権侵害行為による利益を取得している」と考える理由の1つとして、「そもそも債務者は営利法人であり、本件サービスが営利を目的とするものであることは明らかである」と主張している。しかし、営利法人だから、全ての業務が直接的な利益取得目的で行われるというわけではなく、反対に、社団法人だからといって、すべからく欲得抜きで行動しているというわけでもない。法人の種類によって図利目的の有無を判断できると債権者らが考えているとしたら、到底信じがたいというべきである(ちなみに、ネオジオ事件地裁判決で図利目的なしと認定された「ホリ電機株式会社」は営利法人である。)。
四 債務者の教唆・幇助責任の有無
1 はじめに
 債務者は「ファイルローグ」システムの利用者による著作隣接権侵害を教唆・幇助した者として共同不法行為責任を負うか否かを判断するにあたっては、(1)「ファイルローグ」システムの利用者による利用行為は著作隣接権侵害行為にあたるのか、あたるとすればどのような場合かをまず論じ、ついで、(2)仮にシステム利用者の行為が著作隣接権に該当する場合があるとして、債務者が上記利用行為に対し教唆・幇助責任を負うのかを論ずることとする。
2 利用者(提供者)の送信用コンピュータにおける複製権侵害
(1) 債権者らは、「本件レコードの複製物であるMP3ファイルをクライアントコンピュータの「共有フォルダ」に蔵置することは、本件レコードをクライアントコンピュータのハードディスク等の記憶媒体に複製する行為に該当する」と主張する(7頁)。確かに、本件レコードをMP3化した電子ファイルを、他人にダウンロードさせるために、「共有フォルダ」に新たにコピーする場合には、そのようにいえるかもしれない。しかし、自分のコンピュータにインストールされているMP3プレイヤーで聴くために、本件レコードをMP3化した電子ファイルを保存する行為自体は、著作権法102条1項により準用される著作権法30条1項により、著作隣接権者の許諾を得ずとも、そもそも合法な行為である。また、ウィンドウズ系のOSにおいては、同一ボリューム内の他のフォルダにファイルを「移動」させる場合は、当該ファイルに関するディレクトリエントリを変更しているにすぎず、当該ファイルに記録されたデータ自体を複製しているわけではないから、自分のコンピュータにインストールされているMP3プレイヤーで聴くために本件レコードをMP3化して保存した電子ファイルを、同一ボリューム内にある「共有フォルダ」に「移動」する行為は、そもそも「複製」に該当しない。
(2) また、債権者は、仮に本件レコードをMP3化した電子ファイルを保存する行為自体は、著作権法102条1項により準用される著作権法30条1項により適法だとしても、それを「共有フォルダ」に蔵置してファイルローグサーバに接続すれば、不特定多数の者に送信可能な状態にして「公衆に提示」(102条4項)したことになるから、「共有フォルダ」に蔵置したファイルは全て債権者らの著作隣接権(複製権)を侵害するものとなる旨主張する(7頁)ので、この点を検討する。
 著作権法102条4項1号は、「第一項において準用する第三十条第一項・・・に定める目的以外の目的のために、これらの規定の適用を受けて作成された実演等の複製物・・・複製物によって当該実演、当該レコードに係る音若しくは当該放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像を公衆に提示した者」は「第九十一条第一項、第九十六条、第九十八条又は第百条の二の録音、録画又は複製を行ったものとみなす。」と定める。すなわち、著作権法102条4項1号は、私的利用目的で作成した複製物「によって」レコードに係る音等を公衆に提示した場合に、複製を行ったものとみなすという規定である。同条項が適用されるためには、「レコードに係る音等」が、私的利用目的で作成した複製物自体によって、公衆に提示される必要があるのである。しかし、受信者に提示される音は、送信者が私的利用目的で作成した複製物(受信用コンピュータに接続された外部記憶装置)により提示されるのではなく、受信者が私的利用目的で作成した複製物(受信用コンピュータに接続された外部記憶装置)により提示されるのである。したがって、私的利用目的で作成したMP3形式の音楽ファイルを「共有フォルダ」に蔵置したままファイルローグサーバに接続をしても、著作権法104条4項1号のみなし複製規定の適用を受けることはなく、複製行為がなされたとみなされることはないというべきである。
3 利用者(提供者)の送信用コンピュータにおける送信可能化権侵害
(1) 債権者らは、利用者(提供者)が「共有フォルダ」にファイルを蔵置する行為は「公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に情報を記録すること」であるから、著作権法2条1項9の5号にいう「送信可能化」にあたる旨主張する(8頁)ので、以下検討する。
(2) イ号の「送信可能化」とは、「公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置(公衆の用に供する電気通信回線に接続することにより、その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分(以下この号において「公衆送信用記録媒体」という。)に記録され、又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置をいう。以下同じ。)の公衆送信用記録媒体に情報を記録し、情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え、若しくは情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に変換し、又は当該自動公衆送信装置に情報を入力すること」により、「自動公衆送信しうるようにすること」をいう。
 ここで、「自動公衆送信」とは「公衆送信のうち、公衆からの求めに応じ自動的に行うもの(放送又は有線放送に該当するものを除く。)」をいい、「公衆送信」とは「公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信(有線電気通信設備で、その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その構内が二以上の者の占有に属している場合には、同一の者の占有に属する区域内)にあるものによる送信(プログラムの著作物の送信を除く。)を除く。)を行うこと」をいう。したがって、(自動)公衆送信ないし送信可能化が行われたといえるためには、公衆によって直接受信されることを目的として行為者がその行為をなすことが不可欠である。
(3) 著作権法上「公衆」とは、特定かつ多数の者を含むものとされている(著作権法2条3項)から、多数人であれば「公衆」にあたることは争いの余地がない。したがって、多数人によって直接受信されることを目的として、特定のフォルダを「共有フォルダ」として指定した場合、この「共有フォルダ」内に本件レコードをMP3化した電子ファイルを蔵置する行為が「送信可能化」にあたることは否定しがたい。
(4) 他方、現実社会での友人、親戚、同僚等の特定少数人によって直接受信されることを目的として特定のフォルダを「共有フォルダ」として指定した場合、この「共有フォルダ」内に本件レコードをMP3化した電子ファイルを蔵置する行為は、「公衆によって直接受信されることを目的として」なされたものとは言い難いから、「送信可能化」にあたらないことも間違いない。
(5) では、本件クライアント・ソフト等を利用して行われるリアルタイム・チャット等を介して知り合った特定の人物によって直接受信されることを目的として特定のフォルダを「共有フォルダ」として指定した場合、この「共有フォルダ」内に本件レコードをMP3化した電子ファイルを蔵置する行為はどうであろうか。
 日常用語例としての「公衆」とは不特定かつ多数人をいうのであり、著作権法においては、2条3項により、特定多数人も「公衆」に含まれることとされたとする見解に立てば、著作権法上の「公衆」とは結局「多数人」のことをいうことになるから、あくまで少数人によって直接受信されることを目的とする上記行為は、「送信可能化」にはあたらないということになる。
 日常用語例としての「公衆」とは不特定人又は多数人をいうのであり、著作権法2条3項は、特定多数人も「公衆」にあたるのだということを確認的に規定したのだという見解に立てば、不特定人であれば、少数人(極端な話をすれば一人であっても)「公衆」にあたるということになる。すると、ここでは、リアルタイムチャットなどを介して知り合った特定のユーザーIDの持ち主というのが提供者から見て「特定人」にあたるのか「不特定人」にあたるのかということが問題となる。
 債権者らは、「本件サービスは、誰でも、自由に設定したID、パスワード及びメールアドレス(それも虚偽のものでも受理される)のみを入力することで直ちに利用可能となるから、本件サービスによりファイルの受信を受ける者は『不特定人』である」と主張する(7頁)。しかしながら、我が国においては一般に、戸籍上の名称や住民票上の住所等を確認することなしに、他者と社会的に接触することが少なくない。いまだ相手の戸籍上の名称や住民票上の住所等を確認しないままに恋に落ちることだって少なくはない(むしろ、その方が普通である。)。この場合、相手の戸籍上の名称や住民票上の住所等を確認していないからという理由で、この相手は自己にとってはいまだ「不特定人」にすぎないとするのは、あまりに日常用語例に反している。むしろ、民法上の「特定物」概念との類推でいうならば、行為者において相手の人物の個性に着目して行為がなされるときその相手は「特定人」であり、一定の種類に属する人であれば誰でもよいという認識で行為がなされるときはその相手は「不特定人」となると考えるのが相当である。
 すると、「本件クライアント・ソフト等を利用して行われるリアルタイム・チャット等を介して知り合った特定の人物」に受信されることを目的として特定のフォルダを「共有フォルダ」として指定した場合、この「共有フォルダ」内に本件レコードをMP3化した電子ファイルを蔵置する場合、提供者は特定のユーザーIDを名乗る人物の個性に着目していることは明らかである。したがって、提供者からみて、この「特定のユーザーIDを名乗る人物」は、「特定人」にあたる。よって、少数ないし一人の「特定のユーザーIDを名乗る人物」が直接受信することを目的として送信ディスク中の特定のフォルダを「共有フォルダ」として指定した場合、この「共有フォルダ」内に本件レコードをMP3化した電子ファイルを蔵置する行為は、「公衆によって直接受信されることを目的として」なされたものとは言い難いから、「送信可能化」にあたらないというべきである。
(6) このように、同じ「送信用ディスク中の特定のフォルダを『共有フォルダ』として指定した場合、この『共有フォルダ』内に本件レコードをMP3化した電子ファイルを蔵置する行為」であっても、提供者の主観によって、「送信可能化」に該当したりしなかったりする。なお、送信可能化にあたる場合すなわち多数人によって直接受信させることを目的としている場合、ファイル名は、ファイルの内容を反映した名前が付けられることが多いと予想されるが、送信可能化にあたらない場合は、必ずしもファイルの内容を反映するような名前を付ける必要は乏しいからファイルの内容とは無関係な名前が付けられてるケースも多いと予想できるものの、かといって送信を許可するにあたって、ファイル内容とは無関係なファイル名に変更するという頭が回らない者も少なからずいるとも予想されるから、ファイルの内容が反映されているかのごとく見える名前が付されたファイルだからといって、送信可能化の対象となっているとはかならずしもいえないのである(なお、同時にダウンロードできる人数が1人に制限され、かつ、特定のユーザーIDを有する者に優先権が設定され、その者がダウンロード中であるなど、他のユーザーが当該ファイルをダウンロードすることが物理的にできない場合であっても、検索結果画面には当該ファイルに関するデータは表示される。)。
4 提供者による受信側のクライアントコンピュータにおける複製
(1) 債権者らは、「本件サービスによって他のクライアントコンピュータからダウンロードされたファイルは、受信側のクライアントコンピュータに自動的に蔵置(複製)されているところ、当該複製は、送信可能化権侵害行為の必然的な結果として発生するものであり、既定の状態では受信側のクライアントコンピュータの共有フォルダ内に蔵置(複製)され、更に再送信可能な状態におかれるから、そこに蔵置されたファイルは、送信側のクライアントコンピュータの共有フォルダに蔵置されたファイルと同様、私的使用には該当しない本件レコードの違法複製物である」と主張する(8頁)ので、以下検討する。
(2) しかし、あるファイルを送信可能化したとしても、受信者の側でそのファイルをダウンロードしなければ、そもそも受信用コンピュータに接続された記憶装置にそのファイルが複製されることはない。したがって、受信用ディスクへの複製が「送信可能化権侵害行為の必然的な結果として発生するもの」とする債権者らの主張は、そもそもおかしい(実際問題としていっても、例えば、浜口庫之助が作詞作曲し、田代美代子が実演する「愛して愛して愛しちゃったの」が送信可能化されたからといって、必然的にダウンロードされるといえるかは大いに疑問である。)。
 あるいは、債権者らは、送信可能化ではなく、送信可能化により可能となった自動公衆送信の必然的な結果として受信用ディスクへの複製が発生するといいたいのかもしれない。しかし、それも間違っている。受信者においてファイル受信用アプリケーションとして本件クライアントソフトを使用している場合には、確かに、送信用コンピュータから送信を受けたファイルデータは、自動的に受信用コンピュータに接続された記憶装置に格納される。しかしそれは、本件クライアント・ソフトがむしろプライベート・ムービーのような巨大ファイルの送受信に使用されることを視野に入れて開発されたためたまたまそうなっているだけであって、MP3形式の音楽ファイルのような比較的容量の小さいファイルの送受信を中心に受信用クライアントソフトを開発するのであれば、送信用コンピュータから送信されたファイルデータを一旦RAMに蓄積することとし、RAMに蓄積されているファイルデータを直接再生して内容を確認した後に、ディスクに保存するかどうかを受信者が決定できるようにした方が便利であり、またそのようなことは技術的には不可能ではない。したがって、少なくとも送信側からみたときには、自動公衆送信がなされたのち受信側ディスクへの複製が発生するということは「必然的」であるとは到底いえないのであり、受信側ディスクへの複製がなされるかどうかの主導権はもっぱら受信者が握っているのである。送信者は、せいぜい受信者が電子ファイルを受信できるように環境整備を行ったにすぎない。
 また、「共有フォルダ」に蔵置されている具体的な電子ファイルを受信用ディスクに複製するかどうかを最終的に決定するのは、「ダウンロード」コマンド及び「保存」コマンドを実行した受信者であって、受信者が前記コマンドを実行した後は、送信者を含めた誰も、当該ファイルの複製に向けられた行動を何も行っていないのであるから、受信側ディスクへのファイルの複製を行ったのは受信者であると考えるのが素直である。
 したがって、債権者らは上記主張により、受信側のクライアントコンピュータにファイルが複製されることは提供者による複製権侵害にあたると主張したいのか、受信者による複製権侵害にあたると主張したいのか、文面からは定かにわからないが、仮に前者だとすれば、その主張には無理があるというべきである。
5 受信者による受信側のクライアントコンピュータにおける複製
(1) 債権者らは、「本件サービスによって他のクライアントコンピュータからダウンロードされたファイルは、受信側のクライアントコンピュータに自動的に蔵置(複製)されているところ、当該複製は、送信可能化権侵害行為の必然的な結果として発生するものであり、既定の状態では受信側のクライアントコンピュータの共有フォルダ内に蔵置(複製)され、更に再送信可能な状態におかれるから、そこに蔵置されたファイルは、送信側のクライアントコンピュータの共有フォルダに蔵置されたファイルと同様、私的使用には該当しない本件レコードの違法複製物である」と主張する(8頁)。債権者らは上記主張により、受信側のクライアントコンピュータにファイルが複製されることは提供者による複製権侵害にあたると主張したいのか、受信者による複製権侵害にあたると主張したいのか、文面からは定かにわからないが、仮に後者だとしても、その主張には無理がある。
(2) まず、受信者においては、受信用ディスク内の任意のフォルダ内に受信したファイルを蔵置(複製)することができるのであって、必ずしも「受信側のクライアントコンピュータの共有フォルダ内に蔵置(複製)され、更に再送信可能な状態におかれる」とはいえない。また、著作権法30条1項が適用されるため要求されるのは、複製を行うにあたって、新たに作成した複製物を「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的」としていることのみ(但し、同項各号に該当する場合を除く。)である。したがって、受信者が自らのコンピュータ又は携帯用MP3プレイヤーで音楽等を聞く目的で受信したファイルを受信用ディスク内に蔵置した場合、受信したファイルを「共有フォルダ」以外のフォルダに蔵置したときはもちろん、さらに再送信されることを意識することなく漫然と受信したファイルを「共有フォルダ」に収蔵したときであっても、ファイルの複製行為は私的使用を目的として行われている以上、著作権法30条1項の適用をためらう理由はない。
(3) したがって、少なくとも、受信者が自らのコンピュータ又は携帯用MP3プレイヤーで音楽等を聞く目的で受信したファイルを受信用ディスク内に蔵置した場合には、右蔵置(複製)行為は、著作権(著作隣接権)侵害とはなり得ないというべきである。
6 債務者の教唆責任
(1) では、本件サービスの利用者の一部が本件システムで送受信される電子ファイルのごく一部である本件レコードをMP3化した電子ファイルを「公衆」により直接受信される目的で「共有フォルダ」に蔵置して債権者らの著作隣接権(送信可能化権)を侵害する行為について、債務者はこれを教唆したものとして共同不法行為責任を負うのであろうか。
(2) 債務者は、本件システムの利用者に対し、本件レコードをMP3化した電子ファイルを、「公衆」により直接受信させることを目的として「共有フォルダ」に蔵置するように唆したことはない。却って、債務者は、前述のとおり、利用規約の中で「■禁止事項 あなたは、以下の行為、事項を行わないことに合意します。/(a) 著作権、著作隣接権、名誉権、プライバシー権その他第三者の権利を侵害するファイルを送信可能な状態とすること」と規定し、これに同意したものに対してのみ本件クライアントソフトをダウンロードさせているのである。したがって、債務者が、本件システムの利用者に対し、債権者らの著作隣接権を侵害する行為を教唆していないことは明らかである。
(3) なお、本件システムを利用した電子ファイルの送受信の中に他人の著作隣接権を侵害する行為が混在していることを抽象的に知りつつ本件システムを利用した電子ファイルの送受信の利用・促進を促したとしても、これが利用者による著作隣接権侵害行為の教唆行為にあたらないことは、個人によるウェブページの中に他人の著作権・著作隣接権を侵害するものが混在していることを抽象的に知りつつ個人にウェブページの作成・アップロードを推奨する行為が著作権・著作隣接権侵害行為の教唆行為にあたらないのと同様に、明らかである。教唆行為は、個別の権利侵害行為に向けられることが必要だからである。
 また、債務者は、本件サービスの個々の利用者が著作隣接権を侵害する行為を行うことを具体的に認識していたわけではないから、故意による幇助を行ったともいえない(利用者の中に他人の権利侵害行為を行うものも存在しているという程度の認識で幇助の故意が認められていたのでは、債務者のみならず、インターネット・サービス・プロバイダも、NTT各社も、コンピュータメーカーも、インターネット接続用のソフトウェアを提供するソフトハウスも、みな廃業せざるを得ない。)。
7 債務者の幇助責任
 では、本件サービスの利用者の一部が本件システムで送受信される電子ファイルのごく一部である本件レコードをMP3化した電子ファイルを「公衆」により直接受信される目的で「共有フォルダ」に蔵置して債権者らの著作隣接権(送信可能化権)を侵害する行為について、債務者はこれを幇助したものとして共同不法行為責任を負うのであろうか。
 債務者は、個々の利用者がいかなる内容のファイルをいかなる目的で「共有ファイル」に蔵置したかを全く関知していないから、利用者による上記行為を「故意に」幇助していないことは明らかである(利用者の中に他人の権利侵害行為を行うものも存在しているという程度の認識で幇助の故意が認められていたのでは、債務者のみならず、インターネット・サービス・プロバイダも、NTT各社も、コンピュータメーカーも、インターネット接続用のソフトウェアを提供するソフトハウスも、みな故意責任を問われ、責任者が刑事罰を受ける虞すら生ずるから、これらの通信に関与する業種は廃業せざるを得ない。そこに待っているのは、市民は何らの通信手段も利用できない暗黒の社会である。債権者らの著作隣接権というものが、そのような暗黒社会の将来を甘受してでも守らなければならないものとは到底思えない。)。
8 では、債務者による上記送信可能化行為を過失により幇助したものとして共同不法行為責任を負うことはありうるのであろうか、以下検討する。
(1) 最判平成13年3月2日民集55巻2号185頁〔カラオケリース事件最高裁判決〕は、道具等の提供者に対し、当該道具等を用いた他人による著作権侵害行為について共同不法行為責任を負わせるための要件としては、(1)当該道具等が著作権侵害を発生させる蓋然性が高いこと、(2)当該道具等を提供することによって営業上の利益を得ていること、(3)当該道具の利用者が第三者の著作権を侵害しないような態様で当該道具等を利用する率が必ずしも高くないことが公知の事実であり、著作権侵害が行われる蓋然性を予見すべきであったこと、(4)著作権侵害回避のための措置を講ずることが容易に可能であったことを挙げている。特に注目すべきは、上記最高裁判例においては、「カラオケリース業者は、著作物使用許諾契約を締結し又は申込みをしたかを容易に確認することができ、これによって著作権侵害回避のための措置を講ずることが可能である」として、著作権侵害回避のための具体的措置を提示した上で、これを怠ったカラオケリース業者に対し、共同不法行為責任を負わせている。不法行為に関する通説的な見解によれば、不法行為責任が認められるためには、結果の予見可能性だけでなく、結果回避可能性の存在が必要であるから、最高裁の上記判示は誠に正当なものというべきである。
(2) 平成13年11月30日に交付され、平成14年4月1日に施行予定である特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第3条1項は、「特定電気通信による情報の流通により他人の権利が侵害されたときは、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下この項において「関係役務提供者」という。)は、これによって生じた損害については、権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能な場合であって、次の各号のいずれかに該当するときでなければ、賠償の責めに任じない。ただし、当該関係役務提供者が当該権利を侵害した情報の発信者である場合は、この限りでない。/一 当該関係役務提供者が当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていたとき。/二 当該関係役務提供者が、当該特定電気通信による情報の流通を知っていた場合であって、当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき。」と定め、「当該関係役務提供者が当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていたとき」であっても、「権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能な場合」でなければ、「特定電気通信による情報の流通により他人の権利が侵害されたとき」にこれによって生じた損害について賠償責任を負わない旨を定めている。そして、同法が新設された趣旨を考えれば、ここでいう「権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置」には、「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務」を適法なものを含めて包括的に停止させることが含まれないことは明らかであり、かつ、条文構造から、当該関係役務提供者の責任を追求しようという側に、「権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能」であったことの主張・立証責任があることも明らかである。このように、「特定電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者」ですら、他人の権利を侵害されていることを知っていたとしても、(特定電気通信役務の包括的な停止以外に)「権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置」が技術的に可能であることが立証されなければ、当該権利侵害行為によって生じた損害を賠償する責任を負わない。だとすれば、特定の情報の流通により他人の権利が侵害されることについての関与の度合いが特定電気通信役務提供者よりも遙かに低いハイブリッド型P2Pシステムにおける中央サーバの管理者や、違法な送信可能化行為のためにも使用するソフトウェアの提供者等においては、当該システムないしソフトウェアによる情報の流通によって他人の権利が侵害されることを知っていたとしても、少なくとも「権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能」であったことが具体的に主張・立証されなければ、損害賠償責任等を負う必要がないことは明らかである。
(3) このように特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第3条1項及びカラオケリース事件最高裁判決を斟酌するならば、利用者が「別紙レコード目録1ないし19記載の各レコードにつき、自己が運営する『ファイルローグ』・・・という名称の電子ファイル交換サービスにおいて、送信可能化ないし複製したこと」を債務者が幇助したとして債務者に責任を負わせるためには、利用者による送信可能化ないし複製という結果を回避することが容易であったことが最低限必要である。
(4) そこで、債権者らが求めるような、「別紙レコード目録1ないし19記載の各レコードにつき、自己が運営する『ファイルローグ』・・・という名称の電子ファイル交換サービスにおいて、MP3・・・形式によって複製された電子ファイルの送受信の対象とし」ないという結果回避行為(但し、「適法な電子ファイルの送受信をも含めて停止させる」というものを除く。)が容易に可能といえるのかを以下検討する
@ 上記各レコードについてMP3形式によって複製された電子ファイル(以下、「コピーファイル」という。)を本件サービスを介した電子ファイルの送受信の対象としないためには、(1)本件サーバ・コンピュータにおいて受信用コンピュータからの指示したがって行う検索においてコピーファイルは検出されないようにするか、(2)受信用コンピュータにおいてコピーファイルについては送信要求を送信用コンピュータに向けて送信できないようにするか、(3)送信用コンピュータにおいて受信用コンピュータからの送信要求にもかかわらず、コピーファイルを受信用コンピュータに向けて送信できないようにするか、しなければならない。これらの何れかが実現されるためには、本件サーバ・コンピュータ又は、受信用コンピュータ、送信用コンピュータにおいて、上記各処理を行うに際して、処理の対象となる電子ファイルがコピー・ファイルであるか否かを判別できることが必要である。
A 既に述べたとおり、本件サービスにおいては、送信用コンピュータから本件サーバ・コンピュータに送られてくる「共有フォルダ」に蔵置された電子ファイルに関する情報は、ファイル名、ファイルパス名、ファイルサイズ、及び提供者のIDといった程度のものであって、その電子ファイルにどのようなデータが格納されているのかという情報は全く送られてこない。したがって、本件サーバ・コンピュータに、「共有フォルダ」に蔵置されている具体的な電子ファイルについて、それがコピーファイルであるか否かを判断させることは、そもそも不可能である。本件サーバ・コンピュータにおいて個々のファイルがコピーファイルか否かを判別する術を持たない以上、個別ファイルに関する情報について本件サーバ・コンピュータより提供を受けるしかない受信側コンピュータにおいても、送信要求を行う電子ファイルがコピーファイルか否かを判別することは不可能といわざるを得ない。
 これに対し、送信用コンピュータは、「共有フォルダ」内に蔵置された各ファイルを直接取り扱うことができるから、送信用コンピュータにおいて、「共有フォルダ」内に蔵置された各ファイルと本件各レコードとをマッチングするシステムが構築可能であれば、あるいは、受信者からの送信要求があってもコピーファイルの送信をできないようにするシステムが可能かもしれない。しかし、それを可能とするためには、本件各レコードを含む市販の音楽レコードに収録された楽曲のうち著作隣接権者において送信可能化を望まない全ての楽曲についての音声パターンを記録したデータファイルを、本件クライアント・ソフトダウンロード時に一緒にダウンロードさせることが最低限不可欠であるが、そのようなことがおよそ可能とも思えない。また、音声ファイルをMP3形式にて複製する際には、社団法人日本レコード協会も「CD並の音質」との表現は自粛せよ、表現するならば「CDの約10分の1のデータ量でそれなりの音質」とせよと要求する(乙第5号証)程度に、情報量が希薄化してしまっている(しかも、どの程度情報を希薄化させるか(すなわち「圧縮率」をどの程度とするか」は、音声ファイルをMP3形式にて複製処理を行うものの任意に委ねられており、ある特定の音声情報をMP3形式にて複製して作成された電子ファイルと一口にいっても、デジタル的には、たくさんの種類があり得るのである。)。したがって、仮に本件各レコードを含む市販の音楽レコードに収録された楽曲のうち著作隣接権者において送信可能化を望まない全ての楽曲についての音声パターンを記録したデータファイルを本件クライアント・ソフトダウンロード時に一緒にダウンロードさせて、本件クライアント・ソフトにより、送信を要求されたファイルが上記データファイルに記録された音声パターンと一致するかマッチング処理を行ったとしても、当該ファイルがコピーファイルか否かを判別することはやはり不可能というべきである。
B では、ファイル名(ファイルパス名を含む。)から、コピーファイルか否かを判別することはできるであろうか。
 音楽CDに記録されている音楽データをMP3形式に変換するソフトウェアは、マイクロソフトやソニー、アップル等の大企業により開発されたものから、フリーウェア作家が開発したようなものまで多種多彩であるが、それらのソフトウェアの大部分は、MP3化した電子ファイルについて、元となる音楽データの題名、著作者名、実演家とは無縁のファイル名を付けることができる仕様となっている。したがって、例えば、別紙レコード目録6記載のレコード(実演家名:宇多田ヒカル、タイトル名:traveling、レコード製作者:東芝EMI)について、極端な話しをすれば、「0000000000.mp3」というファイル名を付けることもできる。
 また、受信者が容易に検索できるように元となる音楽データに関連のある文字列をファイル名とするとしても、その可能性は極めて広範囲にわたる。例えば、上記レコードについて「ヒッキー_とら.mp3」という名称を付けたって検索する人はするであろうし、「宇多田_トラベリング」ならなお分かりやすいし、「2001_Single_traveling」でも構わない。そのような符丁のようなファイル名はさて措き、「宇多田ヒカル」「traveling」というふたつの文字列を含むファイル名に話しを限定したとしても、申立書添付の資料6及び7にリストアップされているものだけでも、「宇多田ヒカル-traveling.mp3」「宇多田ヒカル-traveling 02 traveling-PLANITb remix-mp3」「traveling-宇多田ヒカル.mp3」等があり、その他、「宇多田ヒカル_traveling.mp3」、「traveling 宇多田ヒカル.mp3」、「宇多田ヒカル traveling.mp3」、「宇多田ヒカル single traveling.mp3」、「宇多田ヒカル_single_traveling.mp3」、「traveling_宇多田ヒカル.mp3」、「traveling _ 宇多田ヒカル.mp3」、「Single_2001_traveling 宇多田ヒカル.mp3」等々、時間さえいただければ、いくらでも列挙することができる。「ファイルパス(フォルダ)名まで使用すれば、「『宇多田ヒカル』/『traveling.mp3』」、「『藤圭子&宇多田ヒカル』/『traveling.mp3』」等々様々な組み合わせが考えられるところである。もっとも、「宇多田ヒカル」の楽曲については、「宇多田ヒカル」、「宇多田」で検索すればいいではないかと思うかもしれない。「宇多田」のような稀少姓だとそうかもしれないが(とはいえ、「宇多田ヒカル」のみが「宇多田姓」を名乗っているわけではない。他の「宇多田」姓のミュージシャンの可能性を奪っていいものだろうか)、別紙レコード目録4のレコード(実演家名:山本譲二、タイトル名:みちのくひとり旅、レコード製作者:株式会社テイチクエンタテインメント)の場合は、「山本」で検索して引っかかったら全部排除するというわけにはいかない。さらに、別紙レコード目録19のレコード(実演家名:Two Ball Loo、タイトル名:No More、レコード製作者:株式会社トライエム)の場合は、さらに複雑である。グループ名が複数の英単語(フランス語単語だったりする場合もあるが)の場合に、これをファイル名にどう読み込むかについては、命名者ごとに様々なパターンがある(例えば、「Two Ball Loo」については、「Two Ball Loo」、「Two_Ball_Loo」、「TwoBallLoo」等がまず簡単に思い浮かぶし、かといって、これらを構成する個々の単語(例えば「Two」や「Ball」等を検索して検出された電子ファイルを全て本件サーバ・コンピュータ内の検索用データベースから排除するとなると、「Two Ball Loo」とは無関係の多くの電子ファイルが検索用データベースから排除されるおそれがある。)。さらにいえば、「ツー・ボール・ルー」あるいは「トゥー・ボール・ルー」とカタカナ標記する場合も十分あり得るのである。)。
 例えば、「 これらのファイル名等は、人間の目で見ると、頭の中で意味性を斟酌した上で判別をしているので、これらはほぼ同じものを指しているように判断されるのであるが、コンピュータはこれらを単なる文字列としてマッチングしていくのであるから、ファイル名によりコピーファイルを検出して、本件サービスを介したコピーファイルの送受信を未然に防ごうとおもったら、当該レコードをMP3化する際にファイル名として付けられるであろう可能性のある文字列の組み合わせを全てマッチング処理に組み込まなければならない。しかし、宇多田ヒカルの「traveling」だけだって膨大な組み合わせがあることは上記のとおりであるが、この処理を市販される全てのレコードについて行おうと思ったら、天文学的な数のマッチング処理が要求されることになり(ちなみに、日本レコード協会作成の「日本のレコード産業2001」(乙第6号証)平成12年のオーディオレコードの種類別生産カタログ数をみると、平成12年には、8cmCDシングルが10929タイトル、12cmCDシングルが3517タイトル、12cmCDアルバムが88206タイトル生産されており、8cmCDシングル1枚に3曲、12cmCDシングル1枚に5曲、12cmCDアルバム1枚に15曲が収録されているとして計算すると、平成12年中に約137万曲もの楽曲が生産されていることになる。これらの楽曲全てのマッチング処理を行うだけでも、実際問題としていえば、たった1つの電子ファイルしか蔵置されていないフォルダが「共有ファイル」として指定されただけで、本件サーバ・コンピュータの処理能力を大きく超えてしまうことは明らかである。
 他方で、ファイル名のみから安直に「このファイルはコピーファイルに違いない」と判断してしまうと、コピーファイルではない電子ファイルの送受信をも阻害してしまう危険性もある。アメリカ合衆国において「メタリカ」というヘビメタバンドが自己の著作権を侵害しているというナップスターのユーザー(約31万7000名)の名前を特定してナップスターに送りつけた件では、3万人以上のユーザーが宣誓供述書を提出して異議の申し立てを行っている(乙第7号証)。アメリカ法上宣誓供述書で虚偽の事実を申し述べたときは偽証罪が適用されることを考えると、宣誓供述書により異議の申し立てを行ったユーザーの大部分は真実メタリカの著作権を侵害する電子ファイルを『共有フォルダ』に蔵置していないものと予想されるが、そうだとすると、先駆的なケースであり、慎重に行われたであろうことが予想されるメタリカのケースであっても、約1割程度のユーザーに「冤罪」を被せてしまったのである。
 以上の点に鑑みれば、ファイル名をもって、コピーファイルか否かを判別することによって、コピーファイルを本件サービスを介したファイルの送受信を対象から外すという試みはうまくいきそうにない。
 加えていえば、同じコピーファイルを「共有フォルダ」に蔵置してこれをP2P間で送信可能とするとしても、「公衆によって受信されることを目的」とするか否かという行為者の主観によって、それが「送信可能化」行為に当たるか否かが変わってしまうのであるが、「ファイル名」等をキーにマッチングを行っただけでは、この行為者の主観は判別し得ない。
C したがって、「別紙レコード目録1ないし19記載の各レコードにつき、自己が運営する『ファイルローグ』・・・という名称の電子ファイル交換サービスにおいて、MP3・・・形式によって複製された電子ファイルの送受信の対象とし」ないという結果回避行為(但し、「適法な電子ファイルの送受信をも含めて停止させる」というものを除く。)は、容易に可能であるとは到底いえないのであって、結果回避可能性がない以上、債務者に(過失による)幇助責任があるとはいえないというべきである。
D なお、この点に関し債権者らは、「また、債務者は、本件サービスの全体を把握し、管理・運営する立場にあるから、債務者が著作隣接権侵害の停止又は防止措置を講ずることは可能である。/すなわち、本件サービスによる著作隣接権侵害の結果を防止するためには、債務者に侵害結果防止措置をとらせることが必要不可欠であるとともに、それが可能なのである」(16頁)と抽象的に主張するだけで、いかにしたら可能なのか具体的に述べるところがない。また、債権者らは、「本件レコードをMP3形式により圧縮して複製したファイルの本件サービスにおける送受信の対象としないことを実現する具体的方法は債務者において講ずる必要があ」ると主張する(17頁)。しかし、「本件レコードをMP3形式により圧縮して複製したファイルの本件サービスにおける送受信の対象としないことを実現る具体的方法」を何ら提示せずして、どうして、本件レコードをMP3形式により圧縮して複製したファイルが本件サービスにおいて送受信の対象となることによって行われる著作隣接権侵害の停止又は防止措置を講ずることが可能であると言い切れるのであろうか、債務者の理解の範囲を超えている。
E また、債務者は、本件サービスを始動した当初から、本件サービスを利用したファイルの送受信により自己の権利を侵害された者を救済するために、「ノーティス・アンド・テイクダウン」手続きを定めている。これは、自己の権利侵害する電子ファイルのファイル名及びユーザーIDを特定し、かつどのような権利が侵害されたのか等を特定した申立てがなされれば、被申立者にも告知聴聞の機会を与えている故に即時にというわけにはいかないが、会員資格の剥奪等の処分を行うことにより、今後当該権利を侵害するような電子ファイルが送受信されることを防止するものである。しかし、債権者らは、この手続きでは不十分だと一言で切り捨てるのみで、ではどこが不十分なのかを具体的に指摘することもしない。もちろん、この手続きに従った申立てをしたことすらない。
 また、債務者は、債権者らを会員とする社団法人日本レコード協会から、平成13年12月3日付の内容証明郵便により、「当協会は、貴社に対し、本日書留郵便(引受番号 119−10−39103−2)にて貴社宛に発送したCD−Rに記載の各音楽CDにつき、これらをMP3ファイルに圧縮したファイルの不特定人間での交換を、事前に遮断する措置(既に交換に供されているファイルについてはそのファイルが不特定人への送信可能状態が発生する前にそれを阻止する措置。)を直ちに講ずるように要請」されたため、「そのようなファイルの交換を事前に遮断する措置を講ずるためには、レコード会社名、曲名、アーティスト名を入力すれば、当該CDに記録された音楽情報をMP3ファイルに圧縮したファイルを自動的に検出してくれる技術があることが不可欠ですが、弊社といたしましては、そのような技術が存在することを知りません。」ので、平成13年12月10日付内容証明郵便にて「上記検出技術をご存じでしたら、ご教示いただきますようお願いいたします。」と素直に教えを請い、「弊社の技術スタッフと相談して、引受番号106−40−21653−2の書留郵便にて弊社に送付したCD−Rに収録した管理著作物を含む貴協会ホームページで公開している全ての管理著作物に関する違法なファイルの交換を事前に遮断する措置を講ぜよとの要請に応ずるか否か、応ずるとすればいつまでに措置を講ずるかを回答」しようとしていたのであるが、その後、何の連絡もないまま、1ヶ月半以上の月日が経ち、突然このような仮処分の申立てを受けるに至ったのである。
(5) 他方、東京地判平成9年5月26日判時1610号22頁〔ニフティサーブ現代思想フォーラム事件地裁判決〕において裁判所は、「シスオペに対し、条理に基づいて、その運営・管理するフォーラムに書き込まれる発言の内容を常時監視し、積極的に右のような発言がないかを探知したり、全ての発言の問題性を検討したりというような重い作為義務を負わせるのは、相当でな」く、「その運営・管理するフォーラムに、他人の名誉を毀損することを具体的に知ったと認められる場合」に初めて、「当該シスオペには、その地位と権限に照らし、そのものの名誉が不当に害されることがないよう必要な措置をとるべき条理上の作為義務」が生ずるものと判示している。また、東京地判平成11年9月24日判時1707号139頁〔都立大学事件地裁判決〕において裁判所は、「名誉毀損行為は、犯罪行為であり、私法上も違法な行為ではあるが、基本的には被害者と加害者の両名のみが利害関係を有する当事者であり、当事者以外の一般人の利益を害するおそれも少なく、管理者においては当該文書が名誉毀損にあたるかどうかの判断も困難なことも多いものである。このような点を考慮すると、加害者でも被害者でもないネットワークの管理者に対して、名誉毀損行為の被害者に被害が発生することを防止すべき私法上の義務を負わせることは、原則として適当ではないものというべきである」とし、「ネットワークの管理者が名誉毀損文書が発信されていることを現実に発生した事実であると認識した場合においても、右発信を妨げるべき義務を被害者に対する関係においても負うのは、名誉毀損文書に該当すること、加害行為の態様が極めて悪質であること及び被害の程度も甚大であることが一見して明白であるような極めて例外的な場合に限られるというべきである」と判示している。
 これらの裁判例からは、自らが管理する情報送受信サービスにおいて、第三者の権利を侵害する情報が送信されていることを具体的に知っており、かつ、その送信されている情報が第三者の権利を侵害するものであることされていること、侵害行為の態様が極めて悪質であること、及び、被害の程度が甚大であることが一見して明白であるような極めて例外的な場合でなければ、そもそも係る情報の送受信を阻止する義務を負わないということがわかる(なお、著作権・著作隣接権侵害行為もまた、犯罪行為であり、私法上も違法な行為ではあるが、基本的には被害者と加害者の両名のみが利害関係を有する当事者であり、当事者以外の一般人の利益を害するおそれも少なく、当該電子ファイルが著作権・著作隣接権侵害にあたるかどうかの判断も困難なことが多いのであるから、上記法理は、著作権・著作隣接権侵害行為がなされたときにもやはり妥当するというべきであろう。)。
 したがって、利用者間で送受信される具体的な電子ファイルが債権者らの権利を侵害するかどうかを具体的に知っているわけではない債務者が、債権者らの権利を侵害する電子ファイルの送受信がなされることがないよう未然に防止措置を取る義務はそもそもないというべきである。
五 差止請求権の不存在
1 著作権法第112条1項は、「著作者、著作権者、出版権者又は著作隣接権者は、その著作者人格権、著作権、出版権又は著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。」と定める。この場合、侵害者において、故意又は過失があることすら要件とされていない。
2 しかし、債務者の行為(本件サービスにより、特定の電子ファイルの受信を望む者に、その電子ファイルに関する情報(ファイル名、ファイルサイズ、所有者のユーザーID、IPアドレス等)を提供すること、並びに、P2P間の電子ファイルの送受信にも活用できるソフトウェアをアップロードしたこと)自体が、著作権等を侵害するわけではない。著作権等を侵害するのは、あくまで、公衆に直接受信されることを目的として、本件レコードをMP3形式にて複製したファイルを「共有フォルダ」に蔵置するなどする個々の利用者である(規範的に評価したとしても、債務者が、「公衆に直接受信されることを目的として、本件レコードをMP3形式にて複製したファイルを『共有フォルダ』に蔵置する」行為主体たりえないことは既に述べたとおりである。)。したがって、債務者は、「著作者、著作権者、出版権者又は著作隣接権者は、その著作者人格権、著作権、出版権又は著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」に当たらないから、そもそも差止め請求の相手方たり得ない。
3 なお、債権者らは、「少なくとも教唆・幇助により本件著作隣接権侵害行為に積極的に荷担してこれを惹起せしめるものとして、本件レコードをMP3形式により圧縮して複製したファイルを、本件サービスにおいて送受信の対象によるとしてはならないことを命じられるべきである」と主張するので、この点につき、以下検討する。
 債権者らの上記主張は、著作権法112条1項にいう「著作者人格権、著作権、出版権又は著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」には、第三者の著作権侵害行為を教唆又は幇助した者も含まれるという解釈を前提とする。しかし、(1)著作権法112条1項は文言上差止請求権行使の相手方を「その著作者人格権、著作権、出版権又は著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」に限定していること、(2)著作権法112条1項の差止請求権は、被請求者の故意又は過失をがあることすら問わない強力な権利であるところ、第三者による著作権等侵害行為を客観的に惹起し、補助し、又は容易ならしめる行為が全て差止請求の対象となるのだとすると、その範囲は過度に広範囲となり、われわれの日常生活すら脅かされる事態に至る虞があること(例えば、債権者らは、パソコンメーカーに対し、パソコンの製造・販売の差止めすら要求できることになる。)、(3)日本の著作権法は、特許法上の間接侵害(特許法101条2号)のような規定も、アメリカ著作権法上の寄与侵害のような規定もあえて置いていないこと(平成11年12月の「著作権審議会第1小委員会審議のまとめ」によれば、著作権審議会の「専門部会においては、積極否認の特則の導入、新たな損害額算定ルールの創設、三倍賠償制度の導入、弁護士費用の敗訴者負担、間接侵害規定の導入、侵害罪の非親告罪化及び懲役刑の引き上げについて検討されたが、結論を得るまでには至っていない。このうち、特に積極否認の特則の導入及び損害額算定ルールの創設については、今後の侵害行為の態様の変化や司法実務の動向を踏まえながら、引き続き積極的に検討を行うことが適当である」とされており、結局、間接侵害規定を設けるということはコンセンサスを得られなかったのである。)等の点に鑑みれば、著作権法112条1項にいう「著作者人格権、著作権、出版権又は著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」には、第三者の著作権侵害行為を教唆又は幇助した者は含まれないと解するべきである。
 なお、念のために付言すると、特許法101条1号の間接侵害の規定は、「特許が物の発明についてされている場合において、業として、その物の生産にのみ使用する物を生産し、譲渡し、貸し渡し、若しくは輸入し、又は譲渡若しくは貸し渡しの申出をする行為」は「特許権又は専用実施権を侵害するとみなす」とする規定であり、すなわち、その物が他の用途にも使用される場合には、間接侵害は成立しないものとされている。これらの「行為を放置しておくと侵害を誘発する蓋然性が極めて高く、かつ侵害が生じてからはそれを捕捉することが困難となることが多いため」(中山信弘「工業所有権法(上)特許法〔第2版〕」421頁)、特許権「の効力の実効性を実質的に確保するため」にはこれらの行為を規制する必要があるとしても、「他の用途にも利用できるものを間接侵害の対象とするならば、それは予備的ないしは幇助的な行為以外の行為、すなわち特許権とは関係のない行為も侵害行為とされてしまい、特許権の不当な拡張ということになる」(中山信弘・前掲422頁)からである。すると、本件サービスは、「本件レコードをMP3形式に圧縮して複製した電子ファイル」以外の電子ファイルの送受信に際しても利用されている(債権者らの調査によっても、MP3形式のファイルは、本件サーバ・コンピュータがカタログデータを保有する電子ファイルの約15パーセントを占めるにすぎない。)のであるから、間接侵害に関する特許法101条の規定を著作権法にも類推適用したとしても、債務者が間接侵害者と認定される可能性はない。
3(ママ) したがって、債務者は、債権者らによる著作権法112条1項の差止め請求の相手方たりえないことは明らかである。
六 被保全権利についてのまとめ
 よって、債権者らが債務者に対し著作隣接権侵害行為の差止め請求権を有することはいまだ疎明されていないというべきである。したがって、本件仮処分の申立ては、即刻却下されるべきである。
第三 申立ての理由中の「保全の必要性」に関する反論
一 債権者らは、「MP3形式のファイルにより本件サービスにおいて『交換』されているファイル数は常時数万曲から10万曲にものぼり、現実に大量のレコード複製物であるファイルが不特定多数の者に送信されている(甲4の1ないし3)。このような著作隣接権侵害は、日々刻々と発生し、莫大な被害が生じているのであり、かかる状況が継続するならば、債権者らを含む多くのレコード会社の存続は不可能となり、良質の音楽を提供し続けることは不可能になる。それは我が国の音楽文化の衰退を意味する。/よって仮処分命令によるのでなければ、本案判決において勝訴しても、被害の回復をはかることができない。」と主張するので、この点について以下検討する。
二 債権者らは、およそデータ読解能力に乏しいか、あえてデータを曲解しているものと思われる。甲4の1ないし3において提示されたデータは、せいぜい、同時に本件サーバ・コンピュータ内に接続されている送信用コンピュータ内の「共有フォルダ」内に蔵置された、ファイル名が「.mp3」で終わるファイルの総数を示すにすぎない。ここから、「MP3形式のファイルにより本件サービスにおいて『交換』されているファイル数は常時数万曲から10万曲にものぼ」ることを読みとることは不可能である(送信を許可されているファイル=送信されているファイル、ではない。)。なお、本件サーバ・コンピュータは、受信用コンピュータからの指示に従って検索した結果検出された全てのファイルのカタログデータを受信用コンピュータに送信するところで役割を終えており、そのカタログデータを使用してなされるファイルの送受信には一切関与していないため、実際にどの程度の電子ファイルが送受信されているかを債務者は全く把握していない。)。
三1 また、本件レコードが送信可能化されること自体は、債権者らを含む多くのレコード会社の存続を不可能とはしない。本件レコードを含む多くのレコードが送信可能化されることですら、それ自体が、債権者らを含むレコード会社の存続を不可能とするわけではない。債権者らを含む多くのレコード会社は、自ら送信可能化し、あるいは第三者に送信可能化を許諾して許諾料を得ることを収入の柱の1つとはしていないからである。
2 あるいは、本件レコードを含む多くのレコードが送信可能化されること「によって」、本件レコードを含む多くのレコードが消費者から購入されなくなるという動向が顕著にあるとすれば、あるいは、「債権者らを含む多くのレコード会社の存続は不可能とな」るといえるかもしれないので、以下検討する。
(1) 社団法人日本レコード協会作成の「日本のレコード産業2001」によれば、レコードの生産数量は、平成9年の約4億8071万枚をピークに年々減り続けている。社団法人日本レコード協会作成の「2001年12月レコード生産実績」(乙第10号証)によれば、平成13年度のレコードの生産数量は約3億8508万枚であり、平成4年度の生産数量約3億7314万枚を若干上回る水準にまで落ち込んでいる。このレコード生産数量の減少は、本件サービスの利用者による送信可能化行為が横行していることにその原因を求めることができるのであろうか。
(2) 債務者が本件サービスを始動したのは平成13年11月1日からであるのに対し、レコード生産枚数の減少は遅くとも平成10年には始まっており、平成10年から平成11年にかけては、約7.4%も、生産枚数の現象が生じている。このことは、レコード生産枚数の減少と本件サービスとの間に関係がないことを推認させるものといえる。
(3) 前記「日本のレコード産業2001」によれば、男女とも、推定マーケットシェアは20代が圧倒的であり(男性:25.3%、女性19.4%)、30代は20代よりかなり落ちる(男性:9.4%、女性:5.3%)。そこで、レコードを一番多く購入するであろう世代を20〜25歳と仮定して、その人数を比較してみる(OngakuNet.comが平成13年9月に行った「CDショップに関するアンケート」(乙第11号証)においても、「CD店に最も行っていた頃の年齢」として一番回答が多かったのは男女とも20〜24歳である。)。総務庁統計局統計センターがインターネット上で公表する「年齢別人口」(乙第12号証)によれば、平成2年度、平成7年度、平成12年度の20〜25歳人口はそれぞれ約1055万人、1178万人、1004万人であり、平成12年度に19〜24歳であった者全員が平成13年度には20〜25歳になると仮定すると、その数は約973万人である。すると、平成7年から平成13年にかけて、20〜25歳人口は約17.4%減少していることがわかる。平成7年から平成13年にかけてのレコード生産枚数の減少率が約17.3%であることを考えると、20〜25歳人口の減少と、レコード生産枚数の減少は平仄がとれているともいえる。
 なお、総務省統計局統計センターが公表する「労働力調査(速報)平成13年12月結果の概要」(乙第13号証)によれば、平成7年度の15歳〜24歳男性の完全失業率は6.1%、女性の完全失業率は6.1%であるのに対し、平成12年度の15歳〜24歳男性の完全失業率は10.4%、女性の完全失業率は7.9%、平成13年度の15歳〜24歳男性の完全失業率は10.4%、女性の完全失業率は8.7%とのことである。一般に完全失業者はそうでないものより購買力が低下していることを考慮するならば、レコード等を購入するゆとりはより低下しているとすら予想できる。
(4) また、平成2年ころからシングルレコード(CDを含む。)の生産枚数が飛躍的に増大した原因の一つに、人気アーティストの最新曲をいち早く覚えてカラオケボックス等で歌うために、特に若い世代が発売直後にシングルレコードを買い求めたということが挙げられるのは公知の事実である。しかし、このように新作需要を支えていた「カラオケ」需要が、平成8年ころから顕著に減少している(全国カラオケ事業者協会作成の「カラオケ業界の概要と市場規模」(乙第14号証)によれば、カラオケ人口は、平成8年度が前年度比2.7%減、平成9年度はほぼ1.1%減にとどまったものの、平成10年度は6.4%、平成11年度は4.0%、平成12年度は4.0%も前年に比べて減少しており、平成7年から平成12年にかけて、約16.2%も減少している。)。
(5) また、シングルCDについていえば、従前8cmCDが主流だったのが、平成11年から平成12年にかけて、12cmCD(マキシシングル)が主流になっていった(8cmCDの新譜数は平成8年以降、2540、2431、2659、1795、909タイトルと推移しているのに対し、マキシシングルの新譜数は平成8年以降371、428、599、1225、1760タイトルと推移している。これをみると、平成11年に入って急激にマキシシングルの新譜数が増加し、他方8cmCDの新譜数は激減している。)。多くの消費者にとって、シングルCDを購入する動機は主に、音楽番組やテレビコマーシャルなどでプロモートされているメインの楽曲をフルコーラスで聞くことにあるから、8cmCDから12cmCDに移行することによりカップリング曲が増えたことにはさしたるメリットはなく、その分定価が500円から1000円に上昇するというデメリットが発生した。そのため、シングルCDの生産枚数は、平成11年から12年にかけて6.7%減少し、12年から13年にかけて20%減少している。なお、平成10年度は12cmCDをアルバムとマキシシングルとに分けて生産数量の取っていないためシングルCDとマキシシングルの生産数量の合計はわからないが、平成10年度の8cmCDの生産数量と平成11年のシングルCDとマキシシングルの生産数量の合計を比較しても、約4.4%も減少している。これは、製品一つあたりの単価が上昇すれば売上げ個数は減少するという当たり前の現象を反映しているにすぎない。
(6) そもそもレコードの新譜数自体が減少している。前記「日本のレコード産業2001」によれば、平成8年をピークに減り続けている(正確に言うと、平成10年度は微増しているが。)。平成8年のレコード新譜数は2万1300タイトルであったのが、平成12年にはわずか1万5756タイトルしかない。わずか4年の間に、約26%も減少している。これでは売り上げ枚数が落ちるのは当然である。
(7) さらにいうならば、本件サービスが始動した平成13年11月以前から、良質の音楽が提供されなくなっていったからこそ、消費者の購入意欲が大幅に減少していった。TBSは、平成13年12月ころ、その開設するウェブサイトにおいて、「バトルトーク on the web」というタイトルで、「“2001年、ミリオンセラーはたった4曲”で考える。/J−POPは低迷の一途をたどっていると思いますか?それとも、捨てたものではないと思いますか?」という問いかけを広く市民に対して行った。そして、市民から寄せられた声(乙第15号証)の多くは、楽曲の質の低下を指摘するものであった(「インターネット上の違法コピー」の存在が原因であるとする市民はごく数人であり、そのごくわずかな市民はいずれも、「嘉門達夫のヒット曲の替え歌」をもCD売上げ激減の原因と指摘する程度のものである。)。
(8) 以上の点に鑑みると、確かにレコードの生産数量は確かに減少しているものの、レコード生産数量の減少傾向は、本件サービスを介して市販のレコードをMP3形式により圧縮して複製した電子ファイルが送受信される以前より連綿と続いていること、及び、レコード生産数量の長期的な下落傾向の要因は、本件サービスを介したMP3ファイルの送受信以外に求めることができることがわかる。したがって、本件サービスを介したMP3ファイルの送受信がなされたからと行って、そのことによってレコードの売り上げが落ちるとはいえない。したがって、債権者らが本訴を提起し、これが確定するまでの間に、本件仮処分により本件サービスを利用したファイルの送受信を停止させなければ、債権者らを含む多くのレコード会社の存続が不可能となり、良質の音楽を提供し続けることが不可能になるということもなければ、逆に、本件仮処分により本件サービスを停止しさせさえすれば、債権者らを含む多くのレコード会社の存続が可能となり、良質の音楽を提供し続けることが可能になるということもない。
3 このように本訴が確定する以前に本件仮処分命令により本件サービスを停止させる必然性は乏しいのに対し、本訴が確定する以前に本件仮処分命令により本件サービスを介したファイルの送受信を停止させると、我が国では、事実上ハイブリッド型のP2P間ファイル送受信システムの開発・運営は事実上道を絶たれることになる。その結果、我が国では、回線のブロードバンド化は進んでも、サーバがその負担に耐えきれず、プライベートムービーその他大容量の電子ファイルの流通は滞らざるを得ないことになるのである。
第四 本件申立の背景事実
一 自由主義経済を基本原理とする我が国においては、権利を侵害する者を探索し、侵害行為をやめさせ、あるいはさらなる侵害行為の発生を防ぐための措置を取るべき第一義的な存在は権利者自身である。如何に権利者といえども、一私人に対し、第三者が自己の権利を侵害するのを防止するための措置を取るように当然に要求することはできないし、そのような措置を取らなかったからといって、第三者による権利侵害により生じた当然に損害を賠償するように要求することはできない(最判平成5年2月25日判時1456号53頁〔横田基地騒音公害訴訟最高裁判決〕は、「上告人が米軍機の離発着等の差止めを請求するのは、被上告人に対してその支配の及ばない第三者の行為の差止めを請求するものというべきであるから、本件差止め請求は、その余の点について判断するまでもなく、主張自体失当として棄却を免れない」、「騒音等による被害防止のため被上告人独自で採り得る対策が可能であることを理由に被上告人に対して本件差止請求をすることができると主張するが、上告人らの主張する被害を直接に生じさせている者が米軍であって、被上告人ではないことは前示のとおりであるから、被上告人は被害防止の措置を取るべき法的立場にはなく、右主張は失当である」と判示しており、自らの支配の及ばない第三者の行為の差止めを請求したり、被害を直接に生じさせているわけではない者に被害防止措置を取るように請求したりすることは主張自体失当であることを示している。)。まさに「自分の権利は自分で守る」のが基本原則なのである。第三者により侵害される権利が著作権・著作隣接権だからといって、この理は変わらない。
二 汎用的な利便性のある物・サービスは、同時に、第三者による権利侵害行為にも用いられる可能性を必然的に有している。特定の種類の権利侵害行為が特定の物・サービスのみによって行われる場合、当該物・サービスの提供を禁止すれば、当該権利侵害行為を防止できるかもしれない。まさに「違法行為を根幹から絶つ」ことができるかもしれない。権利者としては、個々の侵害者を相手方として権利侵害をやめさせ、あるいは、責任をとらせる手間を省くことができる。「自分の権利は自分で守る」責任を自ら果たさずとも、他人に押しつけることができる。
 しかし、その場合には、当該物・サービスが有している汎用的な利便性は犠牲にされることになる。まして、当該種類の権利侵害行為が特定の物・サービス以外のサービスによっても行われている場合には、当該物・サービスの提供を禁止しても、当該権利侵害行為を防止することはできず、当該物・サービスが有している汎用的な利便性を犠牲にするだけに終わる。したがって、汎用性な利便性のある物・サービスの提供自体を禁止するということは、許されていない(例えば、特許法101条に定める間接侵害の規定は「業として、その物の生産にのみ使用する物を生産し、譲渡し、貸し渡し、若しくは輸入し、又は譲渡若しくは貸し渡しの申出をする行為」のみに使用される物の生産等を禁止するが、特許実施品の生産に使用される以外の用途があるものの生産等は、権利侵害とはみなさない旨明文で定めている。)。だから、我々は現在、包丁を使用することも、自動車を使用することも、マッチやライターを使用することもできず、また、電話を使用することも、ファックスを使用することも、インターネットを使用することも、コンピュータを使用することも許されている。第三者による権利侵害行為にも用いられ得る物・サービスは禁止されるべきであるとするならば、我々は、包丁を使用して料理することも、自動車に乗って移動することも、マッチやライターを使用して火をおこすこともできず、また、電話やファックスやインターネットを使用して互いの交流を図ることもできないし、コンピュータを使用して様々な創作活動を行うこともできくなってしまう。そのような「権利者栄えて文化が滅ぶ」未来の到来を望む者など誰もいないであろう。
三 債権者らの要求というのは、結局、債権者らが著作隣接権を有するレコードについて、本件サービスを利用して第三者が送信可能化及び複製を行っているから、「違法行為を根幹から絶つ」ために、言い換えれば、権利者が楽して自らの権利の侵害を防止するために、本件サービスを中止せよということに尽きる。本件サービスがもたらす汎用的な利便性など一顧だにしていない。P2P技術の未来を奪うことに何の躊躇も感じていない。債権者らの要求は、所詮は、「権利者栄えて文化が滅ぶ」未来の到来をも厭わない、傲慢なものといわざるを得ない。しかも、債権者らが日本から抹殺しようとしているP2P技術というのは、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター所長であるD氏をして「21世紀のコミュニケーションの中核になっていくだろう」と言わしめた極めて将来性のある、重要技術なのである(乙第8号証)。
四 しかも、債権者らの要求が聞き入れられ、本件サービスが停止され、本件サービスのようなハイブリッド型P2Pファイル送受信システムをこの世から抹殺したところで、P2P間のファイル送受信は抹殺できそうにない。P2P間のファイル送受信の主流は、もはや中央サーバでファイルのカタログ情報を登録・検索することを要しない透過型P2Pシステムに移行しているからである。日本では、P2P間での著作権者の許諾のない電子ファイルの送受信は、本件サービスの開始前も開始後も、WinMXというソフトウェアを用いてなされるのが主流であり、WinMXにおいては、検索用の中央サーバを必要としない。したがって、本件サービスを停止させてみたところで、「違法行為を根幹から絶つ」ことにはならない。
五 また、「ZDNetJAPAN NEWS」において平成13年12月5日に報じられた「なぜ、“2人”のWinMXユーザーが逮捕されたのか?」という報道」(乙第9号証)によれば、社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)では、「WinMXに限らずファイル交換ソフトを利用した著作権侵害行為を発見し、監視に必要な情報を自動で収集してくるシステム」が平成13年度中には稼働する予定であり、「このシステムで収集されたデータをISPに提供し、ユーザーに対して、著作権侵害行為を止めるよう呼びかけてもらう計画」とのことである。日本レコード協会とACCSは協力関係にあるのであるから、ACCSから上記技術ないし収集した情報の提供を受けて、債務者が用意するノーティス・アンド・テイクダウン手続きを利用すれば、あるいは本件サービスを利用した著作権侵害行為を防止するのに役立てるかもしれないが、未だそのような行動はとられていない(なお、同記事によれば、「ACCSでは日本MMOに協力を要請していく方針だ。」とのことであるが、いまだに協力要請はない。社団法人日本レコード協会にしても、社団法人日本音楽著作権協会にしても、社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会にしても、「営利法人」である民間企業を見下して上から命令するような「要請」を行うだけで、利用者による著作権侵害を防ぐためにしてもらいたいこととやってもかまわないこととの間の隙間を埋めていこうという、協調の精神は全く見られない。)。
六 このように、債権者らの要求は、自ら侵害行為者に対し侵害行為の停止を求めるのは面倒くさいから、侵害行為にも利用されている一民間企業のサービスを根こそぎ止めてしまえという、いわば、怠惰かつ傲慢な精神に支えられたものであるということが、本件サービスを停止させるべきか否かを論ずるにあたっての基本的な視点として捉えられるべきである。
七 なお、債権者らは、本件申立書の21頁から27頁まで8頁にわたり蕩々とアメリカにおけるナップスター裁判の解説を行っている。その努力を褒めてあげることは吝かではないが、アメリカ法と異なり、寄与侵害や代位責任という考え方が、制定法のみならず、判例法上においても認められていない我が国の裁判において、寄与侵害責任や代位責任が認められたにすぎないナップスター裁判を延々と論ずる意味を見いだすことはできないし、米国著作権法が適用されるわけではない本件裁判において、参考にする余地があるとも思えない(我が国は独立国であるから、我が国の裁判所が米国の裁判例に従わなければならない理由はない。)。
 ちなみに、債権者らは、未だに、本件サービス上で「利用可能な当該作品を含む一つ又は複数のファイル名」も、債権者らが「所有又は支配する被侵害権利の証明書」も債務者に対して提示していない。すなわち、債権者らは、ナップスター裁判を参考にすべきと裁判所に迫りはするが、自らはナップスター裁判において差戻後の連邦地裁命令により全米レコード産業に求められたことすら行っていないのである。


別紙 「債務者第1回準備書面」の「第二及び第六」
第二 送信可能化行為の主体について
一1 著作物等が自動公衆送信されるためには、様々な設備・環境等が介在している場合が多く、それゆえ、「送信可能化行為を行ったのは誰か」ということが問題となりうる。そこで、加戸守行「著作権法逐条講義(第三版)」(著作権情報センター・平13)は、「(1)送信可能化について侵害の責任を問われるべき者については、自動公衆送信し得る状態にない著作物や実演、レコードを『自動公衆送信し得る』状態にしたのは誰か、という観点から判断されるべきもの」であり、「(2)上記の考え方から、ある著作物が送信可能化されて自動公衆送信が行われる過程で、当該送信を仲介する通信設備において形式上「イ」に該当する現象が生ずることがあり得るが、この場合、その通信施設を単に設置、管理、運営する者については、単に設備の運営等を行っているにすぎないと解される限りにおいては、当該著作物等について送信可能化に関する責任を問われるものではないと解され」、「また、同様に、いわゆるネットワーク・プロバイダーなど、自動公衆送信装置の設置、管理、運営等を行う者については、情報の記録やネットワークへの接続等を単純に依頼を受けて機械的に行うだけであれば、通常、自ら著作物等を送信可能化しようとするための行為とは考えられないことから、その限りにおいて、送信可能化に関する権利侵害の責任を問われるものではないと解される」としている(加戸・前掲42頁)。
 すなわち、自動公衆送信を可能とするインフラが存在することを前提に、そのインフラを使用することによってある特定の著作物等を自動公衆送信しようとする者が現れたとしても、すでに存在するインフラが機械的に作動することによって自動公衆送信か可能となったことについて、インフラの設置、管理、運営を行う者は、送信可能化に関する権利侵害の責任を負わないとするのが、常識的な考え方なのである。
2 債務者もまた送信可能化の行為主体であると債権者が考える根拠は、債権者準備書面1の4〜7頁を見る限り、「送信可能化に到る契機を与えているのは送信側ユーザーであるとしても、その契機に呼応して上記一連の行為を行い、その結果として、『情報が記録された記憶媒体』・・・を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加えること・・・により現実に自動公衆送信し得る状態におくことを実現しているのは債務者であるから、債務者の行為が送信側ユーザーの行為と一体不可分となって『送信可能化』が行われているというべきである」との点に集約されている。E教授も、鑑定意見書5頁において、「送信側の利用者の行為だけでは、送信可能化は達成されえない。ファイルローグサーバがあって初めて、自動公衆送信装置が完成し、送信可能化を実現しうるのである。そして、ファイルローグサーバを管理しているのは債務者である。ゆえに、債務者も、送信側の利用者とともに、送信可能化をなしている者の一人であると観念することができる」と述べるが、これも同趣旨というべきであろう。
3 しかし、送信側ユーザーの「接続」ボタンのクリックという「契機」に呼応した本件サーバの一連の動作が、結果として「『情報が記録された記憶媒体』・・・を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加えること」に仮になったとしても、それは所詮「情報の記録やネットワークへの接続等を単純に依頼を受けて機械的に行うだけ」なのであるから、加戸守行氏も述べるとおり、自ら著作物等を送信可能化するための行為とは考えられないのであり、したがって、送信可能化に関する権利侵害の責任を問われるものではないというべきである。
二1 また、債権者は、「以下に説明する通り、『共有ファイル』に蔵置されるファイルに対して債務者が実質的な支配・管理をしている」(7頁)と主張するので、この点も一応検討する。
2 しかし、第2の2の(3)をみても、「『共有ファイル』に蔵置されるファイルに対して債務者が実質的な支配・管理をしている」ことを説明している部分はない。
3 あるいは債権者は、「本件サービスが、本件レコードを含む多数の市販CDを複製したMP3ファイルが匿名性を守られた不特定多数のユーザーによって大量に選択されて送信可能化されることを当然に予定し、これを営業の一部として取り込んで」おり、「個々具体的なファイルの選択を送信側ユーザーが行っているとしても、これは本件サービス自体が予定し、又は本件サービスに内在する危険が因果の流れにより実現したものである」という点をもって、「『共有ファイル』に蔵置されるファイルに対して債務者が実質的な支配・管理をしている」とする根拠の1つとしているのかもしれない。確かに、債務者は、そのようなユーザーが現れることをも予測していたからこそ、会員規約において、第三者の権利を侵害するために本件サービスを利用することを禁止するとともに、権利を侵害された者に対しては「ノーティス・アンド・テイクダウン」手続きを用意し、可能な限り救済措置をとることとしたのである。しかし、このように本件サービスを第三者の権利を侵害するために利用する者が現れることを予想しつつサービスの提供を中止しなかったということが、なぜ「『共有ファイル』に蔵置されるファイルに対して債務者が実質的な支配・管理をしている」ということになるのかは、一切不明である。
 なお、汎用的な利便性を有する商品ないしサービスの提供者において、その商品ないしサービスが第三者の権利を侵害する行為にも使用され得ることを予測ないし認識しつつも、商品ないしサービスの提供を断念しないということは通常である(この点は、NTT各社の電話サービスや、インターネット・サービス・プロバイダのISPサービスやパーソナル・コンピュータの製造・販売事業等においても、同様である。)。商品ないしサービスの提供者は、自己が提供する商品ないしサービスが、利用者によって違法行為に利用されることを未然に防ぐ義務を一般的に負っていないからである。商品ないしサービスの提供者にそのような義務を負わせてしまうと、当該商品ないしサービスを多数人に提供しつつ、当該商品ないしサービスを一切違法行為に利用させないということは実際問題として不可能であるため、結局その商品ないしサービスを多数人に提供する事業自体を断念せざるを得なくなるからである。そうなれば、汎用的な利便性を有する商品ないしサービスは新たに提供されることがなくなり、社会は進歩をやめることになろう。レコード会社や日本音楽著作権協会の方々が手抜きをすることを可能とするために払う代償としては大きすぎるというべきであろう。
4 なお、債権者は、債務者のサイトにおける「自分のほしいファイルを世界中の仲間と交換します」という言葉から、「相互に無関係なユーザーによって『自分のほしい』ファイルとして『共有』されるのは、広く一般の人々の需要を満たしうる情報であることが当然の前提となる」ため、「本件サービスが世界中の人々によって『交換』されることを予定している一般の人々の需要を満たしうる情報とは、ほぼ例外なく著作権や著作隣接権によって保護されている著作物であり、しかも音楽を記録するMP3形式が用いられる場合には、そのほとんどすべてが本件レコードのように商業的利用のために創作・製作される有名な音楽著作物やレコードにほかならない」と主張する。そのことと、「『共有ファイル』に蔵置されるファイルに対して債務者が実質的な支配・管理をしている」か否かという点の間には何らの関係もないことはひとまず措いて、以下反論する。
 インターネット上で音声ファイルや動画ファイルが広く送受信されるようになったのはまだ最近のことであるが、音声ファイルや動画ファイルと比べて遥かにファイル容量が小さいテキストファイル、HTMLファイル、画像ファイル、PDFファイル、オンラインソフトファイル等は、これまでもインターネット上で広く送受信されてきた。インターネットの商用利用に先行するパソコン通信全盛期より、商業的利用のために創作・製作される有名な著作物の流通が少なかったためか、一般の市民が営利目的ではなしに創作したこれらファイルが大量に公開されており、多くの市民がこれらのファイルをダウンロードするなどして利用している。このように、商業的利用のために創作・製作された著作物ではなく、むしろ一般の市民が自分の興味の赴くままに創作した作品群はしばしば、相互に無関係なユーザーにとって「自分のほしい」ファイルに十分なりうるものであるし、むしろ、相互に情報なり作品なりを交換することによって相互に無関係なユーザー同士が関係性を構築することだって珍しいことではない(自らネット社会に没入したことのない人には理解できないかもしれないが、そこでは匿名性というのは関係性を築く上で大きな支障にはならない。)。
 この画像ファイル、PDFファイル、オンラインソフトファイル等で行われてきた、相互に無関係なユーザー間で行われる著作権・著作隣接権を侵害することのないファイルの送受信が、音声ファイル等について起こりえないと考えるのは不自然としかいいようがない。仮に、現在はオリジナルの音声ファイル等を製作するコストが高いために一般の市民が非商業的に創作した音声ファイル等が送受信されているケースは少ないとしても、コンピュータ機器等の急激な発展により、一般の市民が気軽に音声ファイル等を創作し、インターネット上に流布するような社会はもう目の前に来ているというべきである。債務者はそのような社会の到来に備えて(むしろ、正確にはそのような社会がすでに到来しつつあるとの認識の下に)本件サービスを始めているのである。そこでは、「音楽を記録するMP3形式が用いられる場合には、そのほとんどすべてが本件レコードのように商業的利用のために創作・製作される有名な音楽著作物やレコードにほかならない」ということにはならないのであって、ハードディスク・レコーディングにより一般の人々が作成した音声ファイルがMP3形式のファイルとしてインターネットを介して広く送受信されることも日常となるのである。債権者はあたかも音声ファイルの世界はいつまでもプロの牙城たりうると考えているかのごとくであるが、それは我が国の一般市民のクリエイティビティを馬鹿にした話である。
 なお、既に講演(<http://www.crest.sccs.chukyo-u.ac.jp/sankobunken/kouen.html>、<http://www.ichinoseki.ac.jp/soudan/iida_DL.html>、<http://www.jaist.ac.jp/~fuji/denki/denki.html>)や発表会(<http://www.hoops.ne.jp/~monto2000/kek48/kek48.htm>)の様子をMP3形式のファイルで発表することはさほど珍しくなくなってきている。教育相談に対する回答をMP3形式で配布しているサイトもある(<http://www.okako.com/soudan/>)。著作権の保護期間が経過していることが明らかな賛美歌を発表しているサイトもある(<http://www.hi-ho.ne.jp/luke_tokita/worship.html>)。また、機器メーカーも、子供の声を録音してMP3化した上で、メール上で配布したり、ホームページで公開したりすることを推奨したりもしている。
 債権者を含む音楽著作物・楽曲の中間搾取者が、P2P間のファイル送受信システムは、市販の音楽CDをMP3形式にて複製した音楽ファイルの送受信に用いるためのものであると声高に喧伝しなければ、本件システムを利用して送受信されるMP3ファイルも、このような違法ではないものの割合が徐々に高まっていることが予想される。
5 また、債権者は、「債務者は、本件サービスがアマチュアバンドの発表の場にも用いられると主張するが、そのような発表の場なのであれば、バンドのメンバーや楽曲の紹介等を伴うことにより、知らないバンド、知らない曲であってもともかく聞いてみようとする動機を形成させるものでなければ、発表の場としての意味がない。ファイル名(ファイルパス名)のみによっては内容を推知することができない無名楽曲・無名アマチュアバンドのファイルを、本件サービスにおいて受信側がわざわざ時間をかけてダウンロードしようとする動機の形成は行われない」と主張する。
 しかし、「まずダウンロードし、まず聞いてみよう」という先駆的なリスナーにとっては、その楽曲なり演奏者なりが無名であることは、さしたる妨げになるものではない。そして、先駆的なリスナーは、その楽曲がよいものであると感ずれば、しばしばその楽曲を口コミで(といっても最近はメーリングリストや自分のホームページなどを通じてということになろうが)推奨する傾向があり、この推奨を信じた他のリスナーもその楽曲をダウンロードし、聞いてみようという気持ちになるのである(これは、ftp方式によりオンラインソフトがダウンロードされていたころに似ている。「info−mac」等現存するftpサイトに、ftp用アプリケーションでアクセスするとわかることであるが、そこで表示されるのはファイル名(ファイルパス名)のみ(正確にはアップロードされた日時とファイルサイズは表示される)であって、ファイル名(ファイルパス名)から推し量れる程度しか内容はわからない。しかし、「まずダウンロードし、まず使用してみよう」という先駆的なユーザーのおかげで、優れたオンラインソフトが、広く市民の間に流通するようになっていったのである。)。
 このことは、既存のレコード(音楽CDを含む)による楽曲の発表と比べて大きなアドバンテージが、無名バンドにとってあることは明らかである。普通のレコードショップは無名のアマチュアバンドの作品をなかなか置いてくれないし、仮に置いてくれたとしても、視聴コーナーのブースに接続された再生機器にそのレコードをセットしてくれることはまずあり得ない(視聴コーナーでは、著名アーティストによる新譜か、大手レコードメーカーが売り出しに力を入れている新人アーティストの楽曲しか視聴できないのが通常である。)。そのため、リスナーは、仮にレコードショップでそのレコードを発見したとしても、アーティスト名と楽曲名程度しか知り得ないのであって、その内容を推知することはできない。したがって、リスナーがその内容を覚知するためには、そのレコードをまず購入して、これを持ち帰ってから、自宅等にある再生機によってこれを再生するより他にない。しかし、そのためには、そのレコードを購入するためには先に代価を支払わなければならない。これは先駆的なリスナーにその楽曲を「まず聞いてみよう」という気持ちを起こさせる上で大きな妨げとなるのである(なお、レコードショップに行っても内容を推知することができないのでまず聞いてみようと意欲がわかないというのは、何も無名のアマチュアバンドによる楽曲に限ったことではない。例えば、レコードショップに行って、田代美代子の「愛して愛して愛しちゃったのよ」がどのような内容なのかを購入する前に推知することは、実際問題困難である。)。
 以上により、債権者の上記主張は、利用者の立場を忘れ、また、現在の音楽流通の現状をふまえない見解であって、そもそも現実離れしたものというべきであろう。
4(ママ) また、債権者は、「以上のような本件サービスの特徴から見ても、本件サービスは、通常の手段によって適法にそれらの情報を取得するには対価を支払うことが必要な有名楽曲等のファイルを無料で入手できるようにすることに本質的機能及び目的であるものであ」ると主張する。しかし、債権者が上記のように判断する前提が間違っていることは既に述べたとおりである。更に付け加えるならば、本件サービスは、アメリカのナップスタートは異なり、MP3ファイルのユーザー間の送受信に用いられるようにすることを本質的機能及び目的としているわけではない。債務者の代表者である訴外A氏は、もともと動画関係の仕事をしてきたこともあって、動画ファイルが送受信されることを主に念頭に置いていたのである。また、本件システム自体、音楽CD等の楽曲をMP3形式で複製した電子ファイルの送受信に用いられることにあわせた構造になっていない。一曲3〜4分程度の楽曲をMP3形式で複製した電子ファイルの容量は、変換ソフト及びその設定にもよるが、およそ4〜5MB程度であり、少なくとも債務者が本件検索サービスを開始した平成13年11月の時点では、比較的小規模のファイルと評されるものであった。このようなファイルの送受信に用いることができればよいのであれば、受信側コンピュータにおいては、送信側コンピュータから受信した電子情報を一時的にRAMに蔵置して、受信側ユーザーの好みに応じて、一旦視聴して中身を確認してからハードディスク等に保存するかどうかを決定するようにした方が明らかにスマートである。しかし、それをしなかったのは、債務者において、音楽CD等の楽曲をMP3形式で複製した電子ファイルの送受信に用いられることを目的として本件サービスを開始したわけではなかったからである。また、ナップスターやWinMXが、アーティスト名やタイトル名で検索できるようにシステム構築されているのに対して、本件システムはそのような機能を有していない。それは、そもそも債務者において、音楽CD等の楽曲をMP3形式で複製した電子ファイルの送受信に用いられることを目的としていなかったからである。
 また、債権者は、本件サービスは、「著作権・著作隣接権を侵害するファイルの送信を当然の前提とし、これを予定したものであることが明らかである」と主張するが、この主張が誤りであることはこれまで述べたところからも明らかである。債務者は、汎用的な利便性を有するハイブリッド型P2Pファイル送受信システムの日本における可能性を追求することに主眼があったのであり、むしろ、著作権・著作隣接権を侵害するファイルの送受信に本件システムが利用されること自体を迷惑に思っているのであり、そのことは利用規約により第三者の権利を侵害するファイルの送受信に本件サービスを利用することを禁止するとともに、ノーティス・アンド・テイクダウン手続きによって、本件サービスを利用して第三者の権利を侵害するファイルの送信がなされた場合には、当該第三者と協力して、当該利用者に対し、当該第三者の権利を侵害するファイルの送信に本件サービスを利用することをやめさせるべくしかるべき措置をとることを宣言していることからも明らかである。
 結局のところ、債務者が提供するソフトウェア及び検索サービスは、P2P間のファイル送受信一般について汎用的な利便性を有するものであるから、他の情報インフラの担い手と同様、それが利用者によって違法な行為にも用いられる可能性があることまでは予見していたものの、違法な行為に用いられることを事前に回避する方法は見いだせなかったため、違法な行為に用いられることを事前に回避する措置を講ずることなくサービスを開始したというにすぎない。このことをもって、「著作権・著作隣接権を侵害するファイルの送信を当然の前提とし、これを予定した」と表現するのであれば、インターネット・サービス・プロバイダやブロードバンド事業者、あるいはNTT等もまさに「著作権・著作隣接権を侵害するファイルの送信を当然の前提とし、これを予定した」と表現できることになろう。しかし、それが非常識な表現であることは今更いうまでもない。
三 図利・加害目的の不存在
1 債権者は、「債務者は、このような本件サービスの提供を主たる営業行為とするものであり、かつ、バリューコマース株式会社他1社と契約することにより、本件サービスの提供によって現実に利益を得ているから、たとえ本件レコードの送信可能化の一つ一つから直接利益を得るのではなくとも、本件著作隣接権侵害行為により利益を得ることを目的としているというに十分である」(11頁)と主張する。しかしながら、この図利性の要件は、純粋客観的には利用行為を主体的に行っていない者に対し、規範的に利用行為主体性を認めることを正当化するための要件であるから、自己の支配下において第三者に著作権・著作隣接権侵害行為をなさしめる動機がまさに当該経済的利益を得ることにあるといえるほどの強い結びつきが、第三者による侵害行為と利得との間にあることが不可欠である。しかしながら、バリューコマース株式会社他1社から受ける広告収入と利用者による著作隣接権侵害行為との間にそのような強い結びつきはない。
 そもそも広告料収入を得たいがために本件サービスを行うのであれば、もっとたくさんのバナー広告をトップページに貼るのが合理的であって、債務者がそのようにしないのは広告料収入を得ること自体に興味がなかったからである(債務者が債務者サイトのトップページにバリューコマース社のバナー広告を貼ったのは、アクセス数を把握したかったからであって、それ以上のものではない。)。または、広告料収入を得たいがために本件サービスを行うのであれば、たくさんのアクセス数を確保するために、サーバを増強するなどの措置を講ずるはずである。しかし、債務者は、最低限度のサーバ環境で本件サービスを開始し、その後サーバの脆弱性故にアクセス数が増えてもこれを裁ききれない状態になっていることを認識していながら、サーバの増強等の措置を講じていない。すなわち、債務者は、たくさんの広告料収入を得ようとして本件サービスを開始したところ当てが外れてこれまで数万円程度しか広告料収入を得られていないというのではなく、そもそもたくさんの広告料収入を得ることを目的としていないのである。
2 また、債権者は、「本件レコードを含む多数の市販CDを複製したMP3ファイルなど、本来であれば有償でしか取得できないコンテンツを複製したファイルが多数送信可能化されることは、本件サービスの利用者を増大させてその経済的利用価値を高め、それによって債務者の利益の拡大が図られる」(11頁)と主張する。しかし、それは事実と異なる。
 本件サービスはもともと収入を得る目的で運用していないため、利用者が増えても経済的利用価値が高まることはない。債務者が本件サービスを開始した平成13年10月の時点では、B2Cサービスについては、バナー広告の広告料を勘定に入れてみてもそれ自体では採算がとれないことはもはや常識となっており、利用者数が増えたところでどうということはない(そのため、債務者は、本件サービス開始後、サーバの増強などの措置を行っておらず、利用者数が増える余地はない。)。この点、巨額の広告料収入が見込める民間のテレビ・ラジオ放送と同格に扱うことはできない。
 なお、債権者は、「クラブキャッツアイ事件において最高裁の認めた図利目的も、歌唱それ自体による利益ではなく、それによって客の来集を図り、店の雰囲気作りをすることによって利益を得る目的である」と主張する。しかし、クラブキャッツアイ事件最高裁判決においては、店に集まる客を演奏(歌唱)の聞き手として擬制的に捉えているため、そのような判示をしているが、カラオケスナックにおいて客は歌唱をするためにそのスナックに通い、カラオケ機器に直接硬貨を投じたり、料金が通常よりも高めに設定されていることを知りつつ飲食品を購入することによって人前で伴奏付で歌唱できるような環境を整えてくれたことに対する対価を支払っているのである。これに対し、バリューコマース社等は、本件サービスの利用者が本件レコードをMP3形式にて複製した電子ファイルを送受信の対象としてくれたことの対価として、広告料を支払っているわけではないから、クラブキャッツアイの場合と同列に取り扱うことは許されない。
3 また、債権者は、「債務者は本件サービスの提供を主たる営業内容としている」のであり、「主たる営業行為が別にあって付随的に本件サービスを提供しているのならばともかく、主たる営業内容が利益取得の目的でないとは考えられない」(12頁)と主張するが、それは近視眼的な物の見方である。
 債務者は、P2P技術を将来的に業務の柱とすることを想定はしているものの、ファイルローグ自体を営業の柱とする意図はない(ネットビジネスに携わるものの間では、Webを主体としたB2Cサービスが営業の柱となるという幻想は、既に数年前に消滅している。)。
4 また、債権者は、「債務者代表者の言動に照らしても、そのような送信可能化を営業目的として積極的に意図していることは明らかであ」るとする。しかし、インタビュー記事等においては、むしろインタビュー記事をまとめた人間の思想又は感情が強く反映し(情報の取捨選択は断片的かつ恣意的であり、また、発言の要旨も取材者の意図にあうようにまとめられる)、必ずしも発言者の思想又は感情が正確に表現されないということは公知の事実である(したがって、インタビュー記事の著作権は、記事の作成者にあるものとされている。)。
 また、債権者は、「A氏は、本件サービス開始直後にテレビ放送(TBS)に出演し、少なくとも1年間で100万曲は交換されるとの見通しをもっているとの発言もしているが、これはまさに、本件サービスによって債権者らの楽曲が大量に送受信されることを認識し、それを意図していることを債務者自らが表明するようなものである」と主張する(申立書13頁)。A氏の発言は、正確には、「少なくとも1年間で、まあ10万人くらいはいるでしょうね。まあ100万曲くらいは、あの交換されるんじゃないかなと」というものであって、これは、ファイルローグを利用して、音楽ファイルがどの程度共有されるのだろうかという趣旨の質問に対し、A氏が予測を述べたに過ぎない。これをどのように読んだら、本件サービスによって債権者らの楽曲が大量に送受信されることを認識し、それを意図していることを債務者自らが表明しているように読めるのか、債務者には理解しがたい。予測と意図とは違うのである。「明日は雨が降るんじゃないかなあ」という発言は「明日は雨を降らせよう」という意図を表明しているようなものとは到底いえないし、警察等が「今後は、交通事故による高齢者の死者数が増加する見通し」を表明したからといって、「交通事故による高齢者の死者数を増加させよう」という意図を表明していることにならないのと同様である。
5 また、債権者は、「本件サービスではユーザーの匿名性が確保されている」(13頁)というが、インターネット上で入会手続きを完結させるシステムでは、ユーザーの実名を確実に把握することはそもそも現実的ではなく、一般的に行われていない(有料サービスのときに、クレジット番号とともにカードの名義を把握するというのがせいぜいである。)。また、債権者は、「同一人が次から次へとIDを自由に変えていくことができ、むしろそれが債務者によって推奨されているとすらいえる」と主張する。確かに、次から次へとIDを変えることはできるが、債務者がそれを推奨しているとするのは邪推というよりない。債権者は、「ユーザーはたとえ違法行為を発見されても別のIDを用いて何ら支障なく違法行為を継続することができるから、利用規約で『著作権・著作隣接権を侵害するファイルを送信可能な状態とすることを禁止する』旨を形式的に定めてみても何の実効性もないことが火を見るより明らかである」と主張する。しかし、何の実効性もないというのは言い過ぎである。少なくとも、本件システムは、違法行為に利用されることを予定するものではないことを知らしめているのであって、一定の抑止力はあると推定できる(その分、違法なファイルの送受信は、日本では主にWinMXによってなされている。)。債権者は、「債務者自身もこの利用規約が実際に守られるなどとはゆめゆめ思っていまい」と主張する。確かに全ての利用者が利用規約を守るとは思っていない(だから、「ノーティス・アンド・テイクダウン手続き」を設けているのである。)が、他方多くの利用者は利用規約を守るのではないかとは思っている。顧客を見たら泥棒と思う業界もあってもよいが、そう思わない業界もあることを、債権者は理解すべきである。
6 また、債権者は、「『ノーティス・アンド・テイクダウン』手続きは、送信されるコンテンツの大部分が適法なものであって、違法な送信可能化が例外的にしか発生しない場合(インターネット・サービス・プロバイダの場合等)には合理性を持つが、本件におけるMP3ファイルの送受信のように、著作権・著作隣接権を侵害する送信可能化が大量に発生することを当然に予定しており、現実にも違法な送信可能化が大量に発生しており、しかも権利者側が自らの権利侵害物を網羅的に発見することが不可能な・・・サービスを提供する場合には、同手続きを定めていることがサービス提供者を免責する理由にはならない」と主張する。
 しかし、本件サービスを利用して送受信されるファイルの中に著作権・著作隣接権を侵害するものも含まれるとは予想していたが、その大部分が違法なものとなるであろうということは予定しておらず、実際、債権者の調査によっても、本件サービスを利用して送受信されるファイルの大部分が著作権・著作隣接権を侵害するものということにはなっていない(インターネット・サービス・プロバイダにおける「送信されるコンテンツ」のうちの「違法な送信可能化」の割合と、本件サービスの利用者による「MP3ファイルの送受信」における「著作権・著作隣接権を侵害する送信可能化」の割合とを対比して、インターネット・サービス・プロバイダに適用される法理が債務者には適用されないと結論付けるのは、まやかしといわざるを得まい。)。また、インターネット上にアップロードされている違法複製物にしても、権利者側が網羅的に発見することが可能なわけではない。
 このように債権者の主張はそもそも前提事実において誤りないしまやかしがあるのであるが、その点をひとまず措いたとしても、債権者の上記主張には法律上の根拠がない。
 債権者は、「侵害行為は送信可能化が行われた段階で発生しているのであり、侵害行為が権利者によって発見され、事後的に指摘を受けた段階で侵害行為を停止すればその責任が消滅するのであれば、およそ著作権・著作隣接権侵害行為はやり放題となってしまう」と主張する。本件サービスや、インターネット・サービス・プロバイダ等が提供するレンタルサーバ等を利用して著作権・著作隣接権を侵害するようなファイルを送信可能化した具体的な利用者の責任も消滅するのであればそのようにいえるのかもしれない。しかし、債務者はそのようなことを主張しているわけではない。「ノーティス・アンド・テイクダウン」手続きは、積極的に具体的な権利侵害行為を行った利用者を免責するものではそもそもないので、債権者の心配は杞憂にすぎない。
7 債権者はまた、「『ノーティス・アンド・テイクダウン』手続による免責を正当と考えるには、侵害結果の発見と通知をなす負担を権利者に負わせ、その発見・通知ができない限り、現実に発生する侵害結果を権利者に受忍させることの合理的な根拠が存在しなければならない」(13〜14頁)と主張するが、債権者のこの主張にもまた法律上の根拠がない具体的な権利侵害行為を発見する第一義的な責任が権利者にあり、権利者がこれを発見できない場合に、その不利益は権利者が甘受するというのは、自由な市民社会では当たり前のことである。他人による他人の権利を侵害する行為の発生を事前に阻止する義務を当然に負わせるという思考は、一般的ではない。
 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律3条においては、「当該特定電気通信による情報の流通」を知らない場合にはそもそも関係役務提供者が賠償責任を負うことはない(ここでいう「情報の流通」を知らないとは、当該特定電気通信により何らかの情報が流通していることを知らないということを意味するのではなく、他人の権利を侵害する具体的な情報が流通していることを知らないことを意味している。なぜなら、この要件が設けられた趣旨は、「自ら提供する役務により問題とされている情報が流通していることを知らない場合であっても、それを知るべき注意義務があるとされると、特定電気通信役務提供者は、膨大な情報のすべてについて監視しなければならなくなり、過度の負担となる場合が生じるだけでなく、結果として、責任を問われることをおそれて過度に削除してしまう等、表現の自由との関係で問題が生じるおそれがある」ために「その情報が流通していることを知らない場合には、特定電気通信役務提供者は、責任を問われないことを明確化し」た点にあるからである(大村真一他「『特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律』について」コピライト2002年3月号24頁)。そして、この規定は、サービス提供者において著作権・著作隣接権侵害行為に利用されることを予想していたか否か、違法な送信可能化が例外的にしか発生していないか否か、サービス提供者において権利侵害の発生を阻止ないし減少させる合理的な努力がなされているか否か、権利者にとって侵害結果の発見と通知をなすことが合理的に可能であるか否か、送信側ユーザーに対する直接の法的措置が可能であるか否かは、一切要件の中に取り込んでいない。すなわち、債権者が「ノーティス・アンド・テイクダウン」手続による免責を正当と考えるのに必要な事情として列挙した各事情は、実際には、「ノーティス・アンド・テイクダウン」手続による免責とは全く関係のないものなのである。一般に、オンラインで流通している大量のファイルのうちどのファイルが他人の権利を侵害するものなのかをもっとも効率的に探知しうるのは権利者自身であると解されており、「ノーティス・アンド・テイクダウン」手続きにおいては、一般に、当該ファイルが自己の権利を侵害するものであることを示す資料を権利者自身が提示することすら求められているのである。
 なお、債権者は、「債務者は、本件サービスにおいて『交換』されているMP3ファイルの送信可能化のほとんどすべてが違法であることを当然知っているのに」云々と主張するが、債務者は、そのようなことは確認していない。また、債権者は、債務者は「その実態を何ら自主的に改善しようとはしていない」と主張するが、債務者は債権者からの内容証明郵便による通知に対して、違法なファイルと違法でないファイル等を自動的に峻別する方法があったら教えて欲しいと素直に教えを請いているのであり、遵法的な利用を妨げることなくなし得ることがあれば改善することをも示しているのであって、上記主張は実態にあっていない。また、「実態を何ら自主的に改善しようとしていない」ということから、「利用規約の上記定め及び『ノーティス・アンド・テイクダウン』手続の制定は、債務者が著作権・著作隣接権侵害の意図を有していることを隠蔽するための敏法に過ぎない」という憶測が導き出されるのか、一切不明である。債務者は、本サービス開始時に、利用者による正当な情報発信を阻害しない範囲で、利用者による権利侵害を救済する方策として考えられる限りのシステムを構築しているのであり、実行可能な具体的な改善提案がなされない以上、自主的に改善のしようがないというだけのことである。
8 仮処分申立書に記載された「本件サービスの利用者の拡大が債務者の利益につながるところ、本来であれば有償でしか取得できない本件レコードのファイルが本件サービスを利用することによって無償、大量かつ容易に取得できることによる吸引力によって利用者の拡大が図られるのであるから、債務者は、本件著作隣接権侵害行為の拡大によって利益を取得するものである」との債権者の主張に対し、債務者は答弁書において、「クラブキャッツアイ事件において当該カラオケスナックの顧客のほとんどは、社団法人日本音楽著作権協会の管理著作物を歌唱することを目的として集まってくるのであり、顧客による社団法人日本音楽著作権協会の管理著作物の歌唱なしには集客が見込めないと考えられる一方、本件サービスの利用者が送信を許可したファイルのうち、何らかの音声をMP3形式にて記録した電子ファイルの割合は、社団法人日本レコード協会の調査によっても約15 %程度であり、本件レコードをMP3化した電子ファイルは更にそのうちのごく一部にすぎない。債務者にとって、『本件レコードのファイルが本件サービスを利用することによって無償、大量かつ容易に取得できることによる吸引力』など、とるにたりないのであって、『本件サービス拡大のためには不可欠』と認識する筋合いはないというべきである。」と反論した。これに対して、債権者は、「そもそも本件において債権者らが求めているのは、MP3ファイルによる送受信の差止にすぎず、サービス全体の停止ではないから、議論の対象となるべきは、MP3ファイル形式における送受信において、他人の著作権・著作隣接権侵害となるべきものがどれだけの比重を占めるかであって、本件サービス全体における比重ではない」と再反論する。しかし、これが反論として的を外していることは以上の議論の流れからも明らかである。債務者は、本件レコードをMP3化した電子ファイルのみを自動的に峻別する方法があるならば教えてほしいと日本レコード協会等に回答しているのであり、そのような方法があるならば、その方法を組み込むことによって、本件システムを利用した電子ファイルの送受信の対象から本件レコードをMP3化した電子ファイルを除外すべくシステムの再構築を検討することは厭わないのである。
9 債権者は、「仮に本件サービス全体における比重を議論するとしても、本件サービスが一般に需要のある有名楽曲のファイルの送信可能化を予定したものである」(15頁)と性懲りもなく述べているが、本件サービスが有名楽曲のファイルの送信可能化にも利用されうるであろうことを予測はしていたが、予定していたわけではないことは既に述べたとおりである。
 また債権者は、「債務者が本件レコードを含む市販CDをMP3方式により複製したものを無料で取得できることを本件サービスの『目玉』にしていることは、本件申立書12頁以下に記載した事情からも明らかである」と主張する。まず、債務者代表者はそのようなことを何ら述べていない。「コピーを防げない以上コンテンツ業界は大量生産方式からコンサートなど生の製品で付加価値を生むビジネスモデルに移行すべき」などの言い古された一般論に過ぎない(そのことはGNUTELLAやFREENETなどが開発されて以降、もはや当たり前の考え方になってしまっている。)。それに、本件サービス開始前にどのような発言をしていようとそれはあまり意味を持たない。少なくとも本件サービスを開始する段階では、違法なファイルの流通に利用されることはできることならば避けるべきであるという方針のもとで本件サービスを開始することとしたのであり、それ故にノーティス・アンド・テイクダウン続きを採用したり、利用規約を設けて利用者が違法なファイルの送受信に本件システムを利用しないように注意するなどしているのである。本サービスによって債権者らのレコードが大量に送受信されることを積極的な目標とするのであれば、最初から、著作権者・著作隣接権者の権利が日本ほど強くない国において、現地の人を代表者とする会社を設立して、本件サービスを行えばよいだけのことである。また、「MP3ファイルに関していえば、債務者が本件サービスを開始する以前にアメリカ合衆国におけるナップスター訴訟等によって、ファイル交換行為のほとんどが著作権・著作隣接権を侵害している状況にあることが広く認知されて」いる(申立書13頁)と主張するが、ネット社会のあり方は国によって地域によって大いに異なるし、またネット社会の変化のスピードは驚くほど早く1年前の常識はもちろん、数ヶ月前の常識ですら今の常識とはかけ離れているものである。したがって、ナップスター裁判のときのアメリカの状況から、平成13年10月の日本の状況を推定することは正しくない。また、通信インフラというものはある程度将来を見越してシステムを設計すべきものであるから、今の利用状況のみに拘泥することは正しくない(このことは、ナップスター裁判における米国連邦控訴審判決も指摘するとおりである。)。債権者は、債務者が本件サービスの対象からMP3ファイルを除外しようとしていないことをもって、「債務者は、ナップスター等が違法なファイル交換が行われたが故に大流行したのを目の当たりにして、同様のサービスによって利得を得ようと企てたものと考えざるを得ない」とするが、これはとんでもない邪推であって、Webサイト上のMP3ファイルについては、以前はそれこそ市販CDをMP3方式により複製したものが中心であったが、徐々にアマチュアバンドやインディーズ系バンドが自主制作した楽曲をMP3化したものがアップロードされるようになってきている。また、アメリカでは、全世界で2600万枚のCDを既に売り上げている「Offspring」等の著名バンドがプロモーション活動のために自らの楽曲をMP3化した電子ファイルを無償で提供するなどしており(Offspringはもともとナップスター擁護派のアーティストであるから、無償で提供したMP3ファイルが本件サービスを利用してP2P間で送受信されることを拒むとは考えがたい。)。このような状況の下では、オンライン上で送受信されるMP3ファイルが全て違法なものであるとは思えないし、まして近い将来においても全て違法なものばかりという状況が続くとも思えない。むしろ、本件サービスを利用すれば市販CDをMP3方式により複製したものを送受信しても債権者には把握できないと債権者が喧伝すればするほどそのような不埒なユーザーの割合が高まるのであって、債務者にとっても迷惑な話である。また、債権者は、本件サービス開始直後のTBSの取材における債務者代表者の言動を問題視するが、ここにおいても、A氏は、本件サービスを利用して市販CDをMP3方式により複製したものを送受信することを望むかのような発言をしておらず、むしろ、本件サービスをナップスターと同様のものとして報道したいというTBSの取材記者の意図に抗して、本件システムは「音楽に限定されない」のであって、ユーザー次第で有効な使い方ができるということを述べているのである。社団法人日本音楽著作権協会や社団法人日本レコード協会、そしてマスコミ各社が、本件サービスを、市販CDをMP3方式により複製したMP3ファイルを交換するためのものとして位置づけたがっているだけのことである。
 また、債権者は、「債務者が本件サービスのユーザーに対して本件サービスの利用の仕方を説明しているWebサイトであるhttp://www.filerogue.net/help/でも、最初に拡張子一覧が掲載されているが、その拡張子の一番上に表記されているのはMP3であり、かつこの拡張子が音楽に用いられることが説明されている」(15頁)ということから「MP3形式による音楽の交換が本件サービスの中心的な目的であることがここでもみて取れる」と主張する。そのたくましい想像力には感心せざるを得ない。しかし、それは間違っている。標準的な拡張子を縦に並べて説明するためには、どれかが一番上に表示されなければならないところ、たまたまMP3を一番上に表記しただけのことである。
 また債権者は、「単純にアップロードされているファイル数では、MP3ファイルが15%程度であるが、顧客吸引力の点では、有名楽曲を複製したMP3ファイルを多数ダウンロードできるという点が本件サービスに対するユーザーからみての大きな魅力となっている」と主張するが、相変わらず、根拠がない。有名楽曲を複製したMP3ファイルを多数ダウンロードできるということでいうならば、本件サービス以前に、WinMX等を経由して行えたのであるから、そのようなことはユーザーにとって大した魅力ではない。
9(ママ) さらに債権者は、「本件サービスにおいてMP3ファイルによる本件レコードの送受信が『とるにたらない』ものであるならば、MP3ファイルの送信の大部分が著作権・著作隣接権侵害であるから、本件サービスの対象からMP3ファイルを除外すればよいのであるが、債務者は決してそうしようとしない」と主張する。っしかし、市民から市民への情報発信をサポートする情報インフラの担い手としては、違法ではない情報の発信をなるべく阻害したくないと考えるのは当然のことである。したがって、現在及び近い将来において全てが著作権・著作隣接権侵害であるMP3ファイルの送信そのものを全て阻止することに、債務者が積極的でないのは当然のことである。また、ある電子ファイルがMP3ファイルであるか否かを自動的に判別するアルゴリズムはいまだ開発されておらず、MP3ファイルのみを送信の対象から除外することも不可能である(著作権・著作隣接権侵害であると知った上で有名楽曲を複製したMP3ファイルを送信可能化する確信犯に対し、拡張子に関して何となく受け入れられているルール(MP3ファイルについては拡張子を「.mp3」とする)の遵守を期待することはできまい。)。このように債務者が本件サービスの対象からMP3ファイルを除外しないというのは、市民から市民への情報発信をサポートする情報インフラの担い手として当然のことであって(実際、大手インターネット・サービス・プロバイダなどにおいても、MP3ファイルを送受信の対象とすること自体を禁止しているところはない。)、そのことをもって「本件サービスのユーザーにとっての魅力が本件レコード等を複製したMP3ファイルを無料で取得できるところにあり、それが本件サービスの『目玉』の一つになって利用者が増大することで債務者が利益を得ているにほかならない」とするのは、まさに邪推といわざるを得ない。
10(ママ) また、債権者は、「クラブキャッツアイ事件最高裁判決やネオジオ事件地裁判決は、本件サービスにおける「送信可能化」の主体を議論するに際しては、事案が異なり、両事件の理論構成をもとに本件における反論を行うことは、議論がかみ合わない」のであって、「本件においては、ユーザーの行為を観念できなくなるほどに債権者がユーザーに対して強い管理・支配を及ぼしている必要はな」く、「債務者は、現実の著作隣接権侵害行為の惹起を予定し、これを営業行為として織り込んだ本件サービスを提供し、かつ現実の送信可能化を実現する中核的かつ不可欠な行為を自ら行っているのであるから、刑法にいう『間接正犯』の概念を持ち出すまでもなく、本件著作隣接権侵害につき、その主体であるというに十分である」と主張する(16〜17頁)。
 しかし、個々のファイルの「送信可能化」を実現する中核部分を担っている債務者自身の主体的な行為であると債権者が主張する「債務者によるファイル情報の取得、個々のファイル情報のデータベースとしての統合・管理、検索リクエストに応じた形式への加工及び他のユーザーに対する排他的提供並びに好みのファイルを選択してダウンロードする機会の提供」等は、仮に債務者が管理する本件サーバを含めたシステム全体を「自動公衆送信装置」と捉える債権者の独自説に従うとしても、自動公衆送信装置の設置、管理、運営等を行う債務者が利用者からの依頼を単純に受けて機械的に行っているものに過ぎないのであって、これをもって、自ら著作物等を送信可能化しようとするための行為とは通常考えられないのであって、その限りにおいて送信可能化に関する権利侵害の責任を問われるものではないことは既に述べたとおりである。
 また、債権者は、「クラブキャッツアイ事件最高裁判決やネオジオ事件地裁判決は、いずれも、客が行為主体であるとすれば客の行為が適法なものとなる事案であったが、本件では送信側ユーザーの行為は明らかに違法である」との「点においてクラブキャッツアイ事件及びネオジオ事件の各事案との相違がある」(17頁)から、「本件においては、ユーザーの行為を観念できなくなるほどに債権者がユーザーに対して強い管理・支配を及ぼしている必要はな」く、「刑法にいう『間接正犯』の概念を持ち出すまでもなく、本件著作隣接権侵害につき、その主体であるというに十分である」(17頁)と主張する。この論理は意味不明である。普通は、クラブキャッツアイ事件等においては客観的・物理的な行為者である客を演奏行為の主体とすると違法行為の主体がいなくなるのでカラオケスナック経営者を演奏行為の主体として擬制せざるを得なかったが、本件においては、客観的・物理的な行為者であるユーザーを送信可能化行為の主体とすればよいのであるから、客観的・物理的な行為者でないものを送信可能化行為の主体と擬制する必要はないというふうに論理展開されるべきである。
11(ママ) また、債権者は、「受信側ユーザーのパソコンにおける複製については、クラブキャッツアイ事件の判断によっても、債権者を行為主体と認めるべきことは明らかである」(17頁)と主張する。そこで改めてクラブキャッツアイ事件最高裁判決で示された基準をみると、
(i) 上告人らの従業員による歌唱の勧誘、
(ii) 上告人らの備え置いたカラオケテー(ママ)
(iii) 上告人らの設置したカラオケ装置の従業員による操作を通じて、
 上告人らの管理のもとに歌唱しているものと解されること、
 及び、
(iv) 上告人らは、客の歌唱をも店の営業政策の一環として取り入れ、これを利用していわゆるカラオケスナックとしての雰囲気を醸成し、かかる雰囲気を好む客の来集を図つて営業上の利益を増大させることを意図していたことをもって、客による歌唱も、著作権法上の規律の観点からは上告人らによる歌唱と同視しうるとしたのである。このことを前提に、債権者が18頁おいて列挙した・ないし・の事情について検討する。・は上記(1)ないし(iv)とは何の関係もない。・もまた、上記(1)ないし(iv)とは何の関係もない。・もまた、上記(1)ないし(iv)とは何の関係もない(債務者は、どのファイルを受信側ユーザーによる複製の対象とするかについて、何の関与も行っていない。)。・もまた、上記(1)ないし(iv)とは何の関係もない。・は上記(iv)に相当するといいたいのかもしれないが、債務者は、アクセス数が増えることによって特段の経済的利益を受けることを意図しているわけではないことは既に何度も述べたとおりである。
 他方、上記(i)に相当する事情は主張されていない(債権者は「本件サービスはそもそも専らダウンロードを目的として提供されているものであり、ラジオ放送などとは異なりダウンロードと複製とは不可分一体として生じるのであるから、本件サービスの提供自体が複製の勧誘にあたると解される」(19頁)と主張するが、その程度のことで「勧誘」の存在が認められるのならば、クラブキャッツアイ事件においても、スナック内にカラオケ装置が使用可能な状態で置いてあることを認定すれば足りたであろう。実際には、その程度のことでスナックの経営者に演奏主体性を擬制することは明らかに行き過ぎであるため、最高裁判決では、「ホステス等従業員において・・・客に曲目の索引リストとマイクを渡して歌唱を勧め」たことをあえて事実摘示しているのである(カラオケが設置されているスナック等の飲食店において、ホステス等が客に対し当該カラオケ装置で伴奏を上演することが可能な楽曲を歌唱するように勧誘するときは客に曲目の索引リストを渡すことによってこれを行うのが通常形態であることは公知の事実である。)。また、本件サービスでは、多種多様な電子ファイルが受信側ユーザーによってダウンロードされるのに利用されることを目的として提供されているのであって、本件レコードをMP3形式にて複製した電子ファイルがダウンロードされることを目的として提供されているのではなく、したがって、本件サービスの提供自体が、本件レコードをMP3形式にて複製した電子ファイルの複製の勧誘にあたらないことは明らかである。)。また、上記(ii)に相当する事情も主張されていない(カセットテープ方式のカラオケ装置を使用したカラオケスナックの場合、いかなる楽曲が収録されているテープを備え置くかは、カラオケスナックの経営者が積極的に選択しうるを決定することができる。そして、カラオケスナックの経営者は、このカセットテープの選択によって、客による歌唱の対象となる楽曲の範囲を積極的にコントロールすることができる。その意味で、カラオケスナックの経営者は客による歌唱を管理していたといえなくもない。これに対し、債務者は、受信側ユーザーによる複製の対象となる電子ファイルの範囲を具体的にコントロールすることができていない。)。また、上記(iii)に相当する事情も主張されていない。したがって、クラブキャッツアイ事件最高裁判決の判断手法に従った場合、受信側ユーザーの複製行為を債務者の行為と同視できないことは明らかである。
 また、債権者は、「債務者は、『利用者の求めに応じて従業員に本件クライアントソフトを操作させて利用者に操作方法を教えるようなサービスも行っていない』と主張するが・・・本件サービスにおいても、HELP画面及びFAQ画面を設けて、ユーザーからファイル交換に至るまでの方法を懇切丁寧に説明している」と主張する(19頁)。しかし、一般的・抽象的に機械の操作方法に関する説明を用意しているというだけでは、受信側ユーザーによる複製行為を債務者自身による複製行為と同視するには足りないのである。商品・サービスの提供者が、多数のユーザーに対し、その操作方法等に関する説明を一般的・抽象的に行うなどということは当たり前のことであって、そのことをもって、ユーザーが商品・サービスの提供者の管理下において当該商品・サービスを利用していると認めることは到底できないからである。
12(ママ) なお、茶園茂樹=青江秀史「インターネットと著作権法」234頁(高橋和之=松井茂記編『インターネットと法(第2版)』(有斐閣・平13)所収)は、「ユーザによる公衆送信や複製はYが構築するシステムの中で行われるものではあるが、Yは、ユーザの個々の行為をコントロールしているわけではないから、公衆送信や複製の行為主体であると解することは困難である」としている。また、ナップスターに関する米国連邦裁判所は、そもそもナップスター社が直接侵害者であることを全く前提としていない。E教授のように、著作権者・著作隣接権者の権益が実現されるためであれば、第三者の権利ないし自由が過剰に制約されても構わないという見解に立たない限り、債権者を複製ないし送信可能化の行為主体とみることはできないというべきであろう。
第六 回避可能性
一 債権者は、「本件仮処分は債務者の著作権侵害行為の差止めを請求するものであって、損害賠償を請求するものではないから」、債務者による「債務者には回避可能性がないという趣旨の主張」は的はずれであると主張する(39頁)。しかし、この債権者の主張は、二重の意味において間違っている。
 まず、本件仮処分においては、本件レコードの複製物の複製物をMP3形式により圧縮して複製したファイルを、本システムの送信側ユーザーが、本件システムによるファイルの送受信の対象とすることを回避できるかという回避可能性の有無は、本件仮処分の申立ての趣旨の実行可能性の有無に直結する問題である。実行可能性のない仮処分を認めても意味はない。何人も不可能なことを行う義務はない(民法415条後段参照)のである。
 また、債権者は、債務者の行為はユーザーによる著作隣接権侵害行為の幇助にあたるとして、著作権法112条1項に基づく差止請求を行っているところ、幇助責任が認められるためには、適法な利用を妨げることなく、違法な利用をされることを回避することが可能であったことが不可欠である。自らが提供する商品・サービスが違法行為にも用いられる蓋然性があることを知りつつ当該商品・サービスを提供した場合には、適法な利用を妨げることなく違法な利用を回避することが不可能であったとしても、損害賠償義務を負ったり、差止請求に服さなければならないとしたら、もはや汎用的な利便性を有する商品・サービスを提供することはできなくなるが、それは社会的妥当性を明らかに欠くのである。債権者の主張は結局のところ、第三者による著作隣接権侵害行為に何らかの形で寄与しているものは、適法な利用を妨げてでも、第三者による著作隣接権侵害行為を阻止すべきとするものであるが、「著作隣接権」という一財産権のために、市民による適法な表現の手段をも奪ってしまおうとするその思考方法は、もはや「著作権ファシズム」と呼ぶに値するであろう。
二1 債権者は、「債務者は、本件サービスの全体を把握し、管理・運営しているのであるから、本件サービスによる著作権侵害の発生を防止することは可能である」(39頁)と主張する。しかし、債務者が、本件サービスの利用者がいかなる内容のファイルを送受信するかについて全く把握していないこと、P2P間のファイル送受信システムにおいてはハイブリッド型であっても送受信されるファイルの内容を中央サーバの管理者が把握することは原理的に不可能であることは既に述べたとおりである。
2 債権者は、「債務者において、ファイルローグサーバに接続中のクライアントコンピュータの『共有フォルダ』内に蔵置されているファイルが別紙楽曲リスト記載の本件レコードの複製物をMP3形式により圧縮して複製したファイルであるかどうかを確認し、利用者がファイル交換の前提としてファイル検索を行った際に、本件レコードの複製物でないファイルのみが検索結果として表示されるようにファイルローグサーバ又はクライアントソフトの仕様を変更するという方法がある」と主張する(39頁)。しかし、以下に述べるとおり、このようなことは到底実現不可能である。
i) ファイルの内容がどのようなものであるかを確認するためには、当該ファイル全体を一旦RAMに読み込むことが不可欠である。したがって、仮に債務者が運営する中央サーバにてファイルの内容の確認作業を行うのだとすると、送信側コンピュータがファイルローグサーバに接続すると同時に、「共有フォルダ」内に蔵置されている全ファイルを、送信側コンピュータからファイルローグサーバにダウンロードすることが必要となるが、そのようなことをすれば回線がパンクしかねないこと並びにそのような大量のファイルを保存する記憶装置を購入又は借り受けるには天文学的な費用がかかり、実際的ではないことは明らかである。
ii) また、仮に、天文学的な費用をかけてそのような大容量の記憶装置を購入又は借り受け、かつ、他のインターネット利用者の迷惑を顧みずに「共有フォルダ」内に蔵置された全ファイルをダウンロードしたとしても、これが本件レコードの複製物をMP3形式により圧縮して複製したファイルであるかどうかを確認するためには、ファイルローグサーバ内に本件レコードの複製物をMP3形式により圧縮して複製したファイルを蔵置した上で、これと対比する作業を行わなければならない。しかも、同じレコードをMP3化するとしても、MP3化するソフトウェア及びその設定によりさまざまな種類の電子ファイルが生成されるのであるから、これら1つのレコードごとに膨大な種類のMP3ファイルを生成し(この作業自体、著作権・著作隣接権侵害とされる可能性がある上、利用者が送受信する可能性があるというだけで聞きたくもないCDを買わされることになるのも非常に辛い。)、サーバに蓄積した上で、「共有フォルダ」からダウンロードしてきた全ての電子ファイルと、これらMP3ファイルとを逐一参照していくことが必要となる。そのような作業が実際になしえないものであることは火を見るよりも明らかである。
iii) 他方、クライアントソフトを仕様を変更することで、クライアント・コンピュータの側で本件レコードの複製物をMP3形式により圧縮して複製したファイルを検索結果として表示させないことが可能となるかといえば、これも事実上不可能といわなければならない。これを実現するためには、送信側コンピュータに、「共有フォルダ」に蔵置されている電子ファイルと、ファイルローグサーバに蔵置されている本件レコードをMP3化した電子ファイルとを照合させる必要があり、そのためには、ファイルローグサーバに蔵置されている本件レコードをMP3化した電子ファイルを全てファイルローグサーバから送信側コンピュータにダウンロードすることが必要であるが、債権者が著作隣接権を有している楽曲全てにつきこれをMP3化した電子ファイルを蓄積するほどの記憶装置を一般ユーザーが有していないのは公知の事実であって、そのような電子ファイルを全部ダウンロードさせて、それらの電子ファイルのいずれともマッチングしないということを「共有フォルダ」に蔵置されている全ての電子ファイルにつき照らし合わせるというのは、そもそも不可能である。また、いかにクライアントコンピュータに照合させるためとはいえ、債権者が著作隣接権を有している楽曲全てにつきこれをMP3化した電子ファイルをユーザーにダウンロードさせること行為は送信可能化権侵害にあたる危険が高いといえる。
iv) 債権者は、「債務者は、本件レコードの複製物であるかどうかを、正確にかつ自動的に判別するソフトウェアが開発されていないと主張して、自らの行為を正当化しようとするが、この主張は回避可能性がないことを根拠付けるものではないから、主張自体失当である」と主張する(39〜40頁)。
 債務者は、「本件レコードの複製物であるかどうかを、正確にかつ自動的に判別するソフトウェアが開発されていない」と主張したのではなく、日本レコード協会から債務者に送付されたCD−Rに記載の各音楽CDをMP3ファイルに圧縮したファイルの交換を事前に遮断する措置を講ぜよとの日本レコード協会からの要請に応ずるためには、レコード会社名、曲名、アーティスト名(交換を事前に遮断すべきファイルの情報として日本レコード協会から提供を受けたのはそれだけである。)を入力すれば、当該CDに記録された音楽情報をMP3ファイルに圧縮したファイルに圧縮したファイルを自動的に検出してくれる技術があることが不可欠であるが、債務者はそのような技術があることを知らないので、ご教示いただきたいと申し入れたのである(甲第10号証)。債務者は、常にできることとできないことを明示して、できることには協力しましょうと申し向けているのである。それを拒んでいるのは、債権者の側なのである。
 そして、日本レコード協会からはレコード会社名、曲名、アーティスト名が入力されたCSVファイルを収蔵したCD−Rを送付されたに過ぎない状況で、レコード会社名、曲名、アーティスト名(交換を事前に遮断すべきファイルの情報として日本レコード協会から提供を受けたのはそれだけである。)を入力すれば、当該CDに記録された音楽情報をMP3ファイルに圧縮したファイルを自動的に検出してくれる技術がなければ、これら音楽CDをMP3ファイルに圧縮したファイルの交換を事前に遮断する措置を講ずることなど不可能であることは、容易にわかることである。仮にそのような技術がなくとも音楽CDをMP3ファイルに圧縮したファイルの交換を事前に遮断する措置を講ずることが可能だというのであれば、その方法を債務者に指し示せばよいのである。債権者の真の目的が、違法なMP3ファイルの送受信を防ぐことにあるのならば、おそらくそうするはずである。レコード会社を中抜きにしてアーティストとファンを直接結びつけることになりかねないP2P技術自体を潰す気ならば、そのような技術を知っていても教えないで、むしろP2P間のファイル送受信をサポートするサービス自体をやめるように圧力を加えるのが合理的であるが、債務者は債権者がそこまで悪辣な精神の持ち主ではあるまいと思っているので、債権者自身、当該CDに記録された音楽情報をMP3ファイルに圧縮したファイルを自動的に検出する技術を知らないのだと思っている。
 また、債権者の上記主張は、本件レコードの複製物であるかどうかを、正確にかつ自動的に判別する技術などなくても、本件システムが、本件レコードの複製物の送受信に用いられることを事前に防ぐことができるとするものと捉えられなくもない。しかし、送受信の対象とすべきファイルとすべきでないファイルとを峻別する技術なしに、送受信の対象とすべきでないファイルを送受信の対象から除外することが可能だなどというオカルト的なことをいわれても、オカルトの信奉者ではない債務者には対処のしようがない。
3 また、債権者は、「利用者によるファイル検索の際、MP3ファイルを検索結果として表示されないようにファイルローグサーバ又はクライアントソフトの仕様を変更すれば足り、これは技術的に困難なことではない」と主張する。
i) しかし、当該ファイルがMP3ファイルなのか否かを判断する技術はない。Windows系のアプリケーションソフトでは、拡張子が「.mp3」となっているものをMP3ファイルだと推定して取り扱っているに過ぎない。Windows系OSにおいて、ファイル名はファイル内容によって何らの制限を受けておらず、MP3ファイルについて「.mp3」以外の拡張子を付けても何の問題もないこと、ファイル名はいつでも変更でき、また、一定の規則に従って自動的にファイル名を変更することを可能とするソフトウェアも広く出回っていることを考えると、拡張子が「.mp3」となっているファイルを検索結果として表示されないようにしてみたところで、意味があるとは思えない(利用規約で第三者の権利を侵害するようなファイルの送受信をやめるように謳われていてもこれに反して債権者の権利を侵害するようなファイルの送受信を行うような一部ユーザーが、「.mp3」という拡張子の付されたファイルは検索結果として表示されないように債務者のシステムが変更されたときに、「ファイル名に関する暗黙のルール」を遵守して、MP3ファイルを「共有フォルダ」に蔵置したMP3ファイルに「.mp3」というファイル名を付しておくと考えるのは、あまりにもナイーブというべきであろう。
ii) また、利用者によるファイル検索の際、MP3ファイルを検索結果として表示されないような「措置を選択すると、他人の権利侵害とはならないファイルの送受信もできない事態が理論的には生じ得るが、現に本件サービスにおける検索結果として表示されるMP3ファイルのほとんどすべてに本件レコードを含む市販CD等の違法複製物であることを示す表示がなされていることを考慮すれば、決して債務者に対して過大な負担を強いるものとは言えない」と主張する。しかし、仮に債権者の調査が「やらせ」「さくら」等を利用しないものであったとしても、債権者の調査結果は、本件システムの立上げ当初は、拡張子が「.mp3」であるファイルについては著作隣接権を侵害しないような形で送受信の供する利用者が少なかったということを意味するに過ぎず、将来にわたって、本件システムを拡張子が「.mp3」であるファイルについては著作隣接権を侵害しないような形で送受信の供する利用者が少ないままで終わるということを意味しない。むしろ、パソコン通信にせよ、インターネットにせよ、新しい情報通信サービスが立ち上がった当初は、違法又は社会的に推奨されない用途に役立つものとして取り上げられるも、そのことが推進力の1つとなって普及し始めるや、これを合法的かつ社会的に推奨されるべき用途に役立てるものが次々と現れたのであって、P2P間の「.mp3」を拡張子とするファイルの送受信についても同様のことが言えると考えるのが相当である。実際、平成10年ころからインターネットサービスプロバイダが利用者に対し提供するレンタルサーバには著作者・著作隣接権者の許諾を得ない違法なMP3ファイルが多くアップロードされてきたが、次第に、アマチュアバンドやインディーズバンドが自らの演奏を収録した楽曲のMP3ファイルがネット上にアップロードされるようになってきている。では、そうなるまでの間、インターネットサービスプロバイダは、違法なMP3ファイルを瞬時に検索してこれを公衆送信できなくなるようなプログラムを開発して違法なMP3ファイルの送受信を遮断したのかといえばそうではなく、又、MP3ファイル(または、拡張子が「.mp3」であるファイル)全ての送受信を遮断したのかといえばそうでもない。むしろ、インターネット・サービス・プロバイダがこぞって、MP3ファイルの送受信全てを遮断していたとすれば、MP3技術が合法的に活用されることはなかったというべきであろう。インターネット法に詳しい平野晋氏は、国際商事法務27巻7号853頁において、「ホーム・ビデオなどの先例が示しているように、新たな技術が出現する度にコンテンツ・プロバイダーは既得権の危機にさらされ、司法や立法による利害調整を要求してきたが、たとえコンテンツ・プロバイダの主張が通らずとも、結局は新たな技術の普及が新たな市場を生み出して、当事者全てにとってのWin-Winな状態が生ずるとの指摘もあ」り、また、「MP3/Rioが、インディーズ系などの弱小あるいは無名アーティストにとってユーザーに訴求するための有用な技術であることも忘れてはならない」と述べている。このことは十分に斟酌されるべきである。
iii) また、債権者は、「利用者の送信するファイルが違法なものかどうか確認するすべがないシステムを自ら作り上げておいて」(40頁)云々と債務者を非難する。しかし、中央サーバが把握する情報量を少なくすることによってP2P間のファイルの送受信を円滑化するというのは、ハイブリッド型P2Pシステムの中核をなす考え方であるから、これを否定することは、ハイブリッド型P2Pシステム自体を否定するに等しい。さらにいうならば、債権者の主張というのは、市民間の情報送信に携わる者は、自ら提供するサービスを経由する情報が第三者の権利を侵害するものかどうかを逐一確認し、第三者の権利を侵害する情報は全て送受信の対象から外さなければならないのであって、自ら提供するサービスを経由する情報が第三者の権利を侵害するものかどうかを確認することができないのであれば、そのようなサービスそれ自体を中断すべきとするものであるが、これは結局のところ、多数の市民が利用可能な情報送信サービスそれ自体を否定する考え方といえよう。多くの市民が利用可能な情報送信サービスをサポートする業者のうち、送信される情報の適・違法性を瞬時に判断し、違法な情報についてその送信を遮断するすべをもたないというのは債務者に特徴的なものではなく、むしろ全ての情報送信サービス・サポート業者に共通するものであり(例えば、NTTのような高度な技術と巨大な資本力を有する企業であっても、送信される情報の適・違法性を瞬時に判断し、違法な情報についてその送信を遮断する等の措置を講じていないことは公知の事実である。)、そのことをもって「違法複製物を交換の対象とすることを織り込んでシステムを作り上げた」と見るのは、物の見方が歪んでいるとしかいいようがない。
iv) 債権者は、「利用者の送信するファイルが違法なものかどうか確認するすべがないシステムを自ら作り上げておいて・・・今度は、違法ファイルを極めて精密にしかも手軽に選別する方法がないから、自己には著作隣接権侵害を回避する方法がないなどと主張するものであり、このような主張が許されないことは明らかである」(40〜41頁)というが、明らかでも何でもない。
 債務者は、他方で、違法ではないファイルの送受信を不当に拒めば利用者から抗議を受ける立場にあるのであり、また、債務者の個人的な利害を度外視するとしても、違法ではないファイルの送受信が不当に制約されることになれば善良なる市民の「表現の送り手」たる地位が侵害されることになるのであって、これを十分に慮る必要があるのである。この点、善良な市民の利益など意に介する必要がなく、自己の利益を追求するためであれば、他者の自由、他者の人権、他者の利益などどうなっても構わないと考える債権者とは立場が異なるのである。債務者としては、違法ではないファイルの送受信を不当に妨げることは避けないといけないので、違法ファイルとそうでないファイルとのふるい分けの手段を必要としているのである。
 なお、債権者は債務者が求めている選別方法が「精密」に過ぎると非難しているようであるが、それは債権者の要求が精密なものである(本件レコードをMP3形式で複製した電子ファイル全てについて、送受信の対象から外すように要求している。)以上やむを得ないというべきであろう。また、債権者は債務者が求めている選別方法が「手軽」なものであると非難しているようであるが、事前に、包括的に、違法ファイルを送受信の対象から外すためには、コンピュータが自動的に処理できるような選別アルゴリズムを開発する必要があることは明らかであり、また、それは1つ1つのファイルの違法性の判断を瞬時に行えるようなものでなければ、市民間の大量の情報送受信サポートサービスに組み入れることができないことも明らかである。債権者は、送受信される電子ファイルの違法性を、事後的に、債務者を責める目的で調べているに過ぎないから、実際に送受信されるファイルのごく一部について、これを目視して、内容をダウンロードし、再生し、ファイル名等から複製元である楽曲の種類をある程度見当つけた上で、これと再生された音声とを聞き比べて、その違法性の有無を判断すれば足りるが、実際に送受信されるファイル全部について、送受信される前にその違法性の有無を判断する場合は、そのようなゆとりはないのである。
v) また、債権者は、「利用者は元となる音楽データの題名、著作者名、実演家とは無縁のファイル名・・・を付けることができる」と債務者は主張するが、「受信側ユーザーが自分のほしいファイルであると判断してダウンロードを決意するのは、ファイル名(ファイルパス名)によってそれが自分の求めている内容のものであるとすることができるからであ」って、「ファイルの内容を推知することができないファイル名(ファイルパス名)では、そもそもダウンロードされることがない」と主張するが、それは単なる債権者の憶測に過ぎない。アップロードされるファイルに関する情報は、ファイルローグシステムの中だけで交換されるのではない。インスタント・メッセンジャー等によって個別にファイル名に関する情報が伝えられることもあり得るし、(ファイル名によるフィルタリングが行われた場合には)フィルタリングを回避するためにファイル名の付け方に関して一種の準則のようなものがユーザー間に成立することだって考えられる(例えば、「宇多田」は全て「歌打」と置き換えるという準則が債務者の知らないところで成立した場合には、ファイル名をキーとしたフィルタリングは全く意味をなさない。)。
vi) また、債権者は、「本件サービスにおけるMP3ファイルにおいて送信可能化がほとんどすべて違法であることに鑑みれば、『ある音楽データを思わせる内容のファイル名であっても、実際にコピーファイルとは断定できない』という問題は考慮に値しない」(41頁)とか「仮に『宇多田ヒカル traveling』とファイル名なのに実際には自作自演の音楽であるという場合があり得るとしても、そのようなファイル名を敢えて付けているファイルの送信可能化をしないことにしたところで不都合はない」と主張するが、事後的にみて外側から文句を付けているだけの債権者にとっては不都合はなくとも、本件サービスの提供者たる債務者としてはそうはいかない。特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律3条2項は、「権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由」がある場合には情報送信を防止する措置をとっても情報発信者に対する損害賠償義務を免責される旨規定するが、「誤った削除等の措置が行われると、発信者の表現の自由が侵害されることともなりかねないため、要件はできる限り厳格にする必要がある」(大村真一他「『特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律』について」コピライト2002年3月号27頁のであり、債権者が送りつけてきた楽曲リストに含まれる楽曲のタイトルを構成する文字列がファイル名に含まれているというだけで、「権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由」があるといえるのかは、疑問なしとはしない(例えば、「宇多田ヒカル traveling」ではなく、「2001 traveling」というファイル名が付けられている場合等)。
vii) 以上の点に鑑みれば、債権者の請求は、自己の権利が保全されるのであれば、第三者の権利などどうなってもよい、という身勝手なものであって、到底認められるものではないことは明らかである。
viii) このように、本件レコードをMP3形式にて複製した電子ファイルを本件サーバによる検索サービスの対象から外すなどして本件システムを利用したファイルの送受信の対象とすることはできないか、又は、そのためには関係ない情報の流通を大量に遮断するしかないことが明らかである。
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