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【事件名】業界誌の記事内容改変事件
【年月日】平成14年3月28日
 東京地裁 平成10年(ワ)第13294号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結の日 平成13年12月27日)

判決
原告 株式会社アイイーピー
原告 A
原告ら訴訟代理人弁護士 小泉征一郎
被告 株式会社ビューティビジネス
訴訟代理人弁護士 鏡健也


主文
1 原告らの請求を、いずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 原告株式会社アイイーピー(以下「原告会社」という。)の請求
 被告は、原告会社に対し、1080万円及びこれに対する平成10年7月18日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告A(以下「原告A」という。)の請求
 被告は、原告Aに対し、600万円及びこれに対する平成10年7月18日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件における原告らの主張は、被告からの依頼に基づいて、原告会社が美容業界誌「プロフェッショナル東京」(以下「本誌」という。)の第20号(以下「本号」という。)を編集し、原告会社の代表者である原告Aが、本号中の株式会社田谷に関する記事を執筆したところ、@被告が同記事中の文章表現や説明文の配置等を改変し、本号を増刷して株式会社田谷に販売した行為が、原告会社が本号について有する編集著作権及び著作者人格権を侵害し、原告Aが同記事について有する著作権及び著作者人格権を侵害するものであり、A本号中のタイトルロゴ・目次レイアウト等を、被告が、原告会社が編集を担当していない本号の後の号において引き続き本誌に使用した行為が、原告会社に対する債務不履行又は不当利得に該当するとして、損害賠償等の支払を求めるものである。これに対して、被告は、本件記事の文章表現や配置等の変更は、取材先である株式会社田谷の要請に基づくものであり、これに基づいて被告は記事中の文章等を変更する権限を有していたなどと主張して、争っている。
1 前提となる事実(各文末尾に証拠を掲げた事実のほかは、争いがない。)
(1)原告会社は、企画・編集・デザイン等の制作を業とする会社であり、原告Aは、原告会社の代表取締役である。被告は、美容業界紙の出版を業とする会社である。
(2)被告は、平成4年秋号を第1号として、美容業界紙である本誌を発行してきた。本誌は、季刊誌であり、年4回発行されている。本誌の第1号から第10号までは、被告の従業員であるBが編集していたが、第11号(平成7年春号)から第20号(平成9年夏秋号)である本号までは、被告の依頼に基づき、原告会社が編集に携わった(甲3、5、23)。
(3)本号の20頁ないし45頁、132頁及び133頁には、「美容室 TAYA」チェーンを展開する株式会社田谷及びその代表取締役であるCの特集記事(以下「本件記事」という。)が掲載されていた(甲1)。本号は、当初、1200部印刷されたが、その後、800部増刷され(甲31)、そのうち600部が株式会社田谷に販売された(原告本人兼原告会社代表者A、被告代表者)。被告は、増刷の際、表紙における本件記事の見出しや本件記事中の文章表現及びその配置の一部を、別紙変更一覧表記載のとおり改変した(甲1、2)。
(4)本号において使用されている別紙@の雑誌タイトル「PROFESSIONAL TOKYO」のロゴ、別紙Aの冒頭頁上部に「PROFESSIONAL TOKYO」のロゴを配し、各頁の左半分に写真を、右半分に内容を表示するなどした目次全体のレイアウト、別紙Bの「NEWS」及び別紙Cの「ESSAY」のデザインを、被告は、本誌の第21号及び第22号において使用した。
2 争点
(1)被告が、表紙における本件記事の見出しや本件記事中の文章表現及びその配置の一部を改変した上で本号を増刷したことが、原告会社の著作者人格権及び編集著作権を侵害するか(争点1)
(2)被告が、本件記事中の文章表現及びその配置の一部を改変した上で本号を増刷したことが、原告Aの著作者人格権及び著作権を侵害するか(争点2)
(3)本号において使用されている別紙@の雑誌タイトル「PROFESSIONAL TOKYO」のロゴ、別紙Aの冒頭頁上部に「PROFESSIONAL TOKYO」のロゴを配し、各頁の左半分に写真を、右半分に内容を表示するなどした目次頁のレイアウト、別紙Bの「NEWS」及び別紙Cの「ESSAY」のロゴを、被告が本誌の第21号及び第22号において使用したことが、原告会社に対する債務不履行又は不当利得に該当するか(争点3)
(4)原告会社及び原告Aの被った損害額等(争点4)
3 争点に関する当事者の主張
(1)争点1(原告会社の著作者人格権及び編集著作権の侵害の成否)
【原告会社の主張】
 被告は、本号の増刷に際し、本件記事に関して、別紙変更一覧表「著作権侵害の主張」欄に△を付した箇所(No.1,32〜35の部分)について、本件記事についての表紙中の見出しを変更したり、本件記事中の商品説明文を削除したりその配置を変えたりしたが、これらは、原告会社の有する編集著作物についての著作者人格権を侵害する。
@ 表紙の見出しは、編集者が一番強調したい記事の内容について、知恵を絞って読者にアピールするようなタイトルを付けたものであるから、別紙変更一覧表No.1記載部分(以下「表紙の見出し部分」という。)のとおりこれを無断で改変したことは、著作者人格権(同一性保持権)を侵害する。
A 本件記事中の商品説明文の配置等は、原告会社代表者が作成した文章について、編集者である原告会社代表者がその選択又は配列を考えたものであるから、別紙変更一覧表No.32〜35記載部分(以下「化粧品説明文部分」という。)のとおりこれを無断で削除したり、配列を変えたりしたことは、著作者人格権を侵害する。
 また、原告会社は、本号を定期購読者用及び一般書店での販売用の雑誌として編集した。被告は、このような本号を、株式会社田谷のパンフレット用に増刷して同社に販売した。これは、原告会社の有する編集著作権(複製権)を侵害する。
【被告の主張】
ア 本号について、原告会社が編集著作権を有することは、否認する。
イ 原告会社は、本号の制作を請け負ってこれを被告に納入した時点で、本号に係る編集著作権を被告に譲渡した。
ウ 本号における表紙の見出し部分は、単に株式会社田谷の平成9年9月中旬の株式の店頭公開を伝えるものにすぎないから、編集著作権を認めるに足りる創作性がない部分である。
エ 別紙変更一覧表のように、本号ないし本件記事のうちの一部分を取り出して、編集著作権侵害を主張することは失当である。
オ 本号については、原告会社のみならず被告も編集を行う権限があった。被告は、同権限に基づいて、原告会社の原稿のうち表紙の見出し部分及び化粧品説明文部分を変更したものであるから、原告会社の編集著作権の侵害には該当しない。このことは、甲1(本号)の13頁上欄に、編集人として被告代表者、原告会社代表者の各氏名が記載されていることからも裏付けられる。また、被告は、平成4年8月、本誌を創刊し、平成7年の第10号に至るまで編集を行い、すでに基本的編集スタイルを確立していた。第11号から本号に至るまでは、原告会社も編集に携わったが、その間の編集も従前の第10号までの基本的編集スタイルの枠内でなされていた。このことも、上記を裏付ける。
カ 本号の場合のように、取材先である株式会社田谷から文章の配列等について訂正の申入れがあり、その申入れの内容が正当と認められ、これについて原告会社の意向を確かめることができない事情がある場合は、委託者である被告は、株式会社田谷の同訂正申入れに基づいて、受託者である原告の記事の一部を改変して増刷することができる権限を有していたというべきであり、又は、そのような場合に記事の一部を変更して増刷することについては原告会社の明示又は黙示の承諾があったというべきである。
 仮にそうでないとしても、本件記事の改変及び増刷は、緊急事務管理に該当するというべきである。
 本件において、被告が本号の表紙の見出し部分及び化粧品説明文部分を改変した行為は、株式会社田谷の訂正の申入れのとおりに訂正したものであるところ、これらの各訂正は、証券取引法及び薬事法の規定に照らしてやむを得ないと認められるもの(著作権法20条2項4号の「やむを得ないと認められる改変」にも該当する。)であり、さらに、化粧品説明文部分のうち別紙変更一覧表No.32,33の部分は、化粧品の瓶の写真と対応する説明文との位置関係が一致していないという誤りもあったから、株式会社田谷の同訂正申入れの内容は正当であった。具体的には、以下のとおりである。
(ア) 表紙見出し部分は、株式会社田谷の店頭公開の案内に関するものである。そして、株式会社田谷が同部分の訂正を求めた理由は、インサイダー取引に該当するおそれがあるというものであり、証券取引法の規定に配慮したものであるところ、同法の規定に照らせば以下のとおりの事情が認められるから、株式会社田谷の訂正申入れの内容は正当であった。
 すなわち、株式会社田谷は、平成9年9月に株式の店頭公開を行うべく手続を進めていた。そして、証券取引法の当時の規定によれば、株式の店頭公開をしようとする者は、大蔵大臣にその旨届出をし、同届出が効力を生じた後でなければ、株式の募集や売出しを行うことができないところ、本号が発行された時点では、いまだ大蔵大臣に対する届出が効力を生じていなかったから、美容界向け雑誌に店頭公開の案内を掲載することは、法で禁じられているはずの時点で株式の募集や売出しを行っていると受け取られるおそれがあった。
 また、株式会社田谷は、本誌を美容業界関係者が集まるパーティで配布する予定であったが、仮に平成9年9月中に店頭公開ができなかったときは、有価証券売買につき虚偽の表示をしたとみなされるおそれがあり、また、届出が発効しなかったときは、有価証券の売出しにつき風説を流布したものと受け取られるおそれがあった。
 さらに、証券取引法によれば、株式を売り付ける場合には、あらかじめ新株発行目論見書を交付することが必要とされており、それ以外の株価を騰貴させるような文書の頒布は禁止されていたところ、上記パーティで店頭公開の案内が載った本誌を配布する行為が、同目論見書以外の、株式の売り付けを意図し店頭公開予定の株価を騰貴させるような文書を頒布したものと受け取られるおそれがあった。
(イ) 化粧品説明文部分は、株式会社田谷の使用する化粧品を紹介したものであるが、この部分においては、原告会社作成の記事では化粧品と対応する説明文の位置を間違えていたため、配置を変更して誤りを正し(別紙変更一覧表のうち、No.32「クラリファイング シャンプー」の部分とNo.33「リーブ・イン・コンディショナー」の部分)、または、化粧品の知識のない原告Aが執筆した説明文が正確でないため、該当部分を削除した(別紙変更一覧表のうち、No.34「DeFrizz」の部分とNo.35「ブリリアント」の部分)にすぎないから、株式会社田谷の訂正申入れの内容は正当であった。
キ 原告会社代表者は、事後に表紙見出し部分及び化粧品説明文部分の変更及び変更後の本号の増刷について承諾し、異議を述べなかったから、原告会社は編集著作権及び著作者人格権の侵害を主張できない。
【原告会社の再反論】
ア 被告の主張はいずれも否認する。
イ 被告は本号について編集する権限は有していなかったから、被告が同権限に基づいて本件記事の文章表現や配列等を改変することはできない。また、編集著作権は、実際にだれが創作的に編集したかという事実に基づいて決せられるものであり、本号に「発行人」「編集人」としてだれの氏名が記載されているかということとは別個の問題である。
ウ 被告は、被告が行った記事内容の改変は、原告会社との間の明示又は黙示の合意に基づくものであると主張するが、かかる合意は存在しないから、同主張は失当である。また、被告の主張によれば、編集制作を委託した場合に、委託者は常に編集物の文章表現まで改ざんをする権限があることになり、不合理である。
エ 被告は、本号の化粧品説明文部分について、原告会社作成の記事では化粧品と対応する説明文の配置を間違えていたため、配置を変更して誤りを正したにすぎないと主張するが、誤解である。甲1(変更前の本号)によれば、「クラリファイング シャンプー」の説明文が、「CLARIFYING SHAMPOO」とラベルが読める化粧品の瓶の上にあり、「リーブ・イン・コンディショナー」の説明文が、「LEAVE in CONDITIONER」とラベルが読める化粧品の瓶の上にあるから、これらの説明文の配置は、もともと正しかったものである。 また、DeFrizzの説明文とブリリアントの説明文が甲2(変更後の本号)では削除されているが、これもその説明文が誤っているということではなく、説明文の対象となっている各化粧品を株式会社田谷が取り扱わないことになったので、自社のパンフレットとして使用するために該当する説明文部分の削除を求め、被告が削除したものである。
(2)争点2(原告Aの著作者人格権及び著作権侵害の成否)
【原告Aの主張】
 本件記事の文章は、商品の説明文を含めてすべて原告Aが創作した。しかるに、被告は、本号の増刷に際して、本件記事のうち、別紙変更一覧表「著作権侵害の主張」欄に◎印を付した箇所(No.11,12,31〜33,39の部分)について、同表記載のとおり文章を改変した。これらは、原告Aの有する著作者人格権の侵害に該当する。
 そして、被告は、このような本件記事が掲載された本号を、株式会社田谷のパンフレット用に増刷して同社に販売した。これは、原告Aの有する著作権(複製権)の侵害に該当する。
【被告の主張】
ア 別紙一覧表のうちNo.11,12,31〜33,39の部分は、いずれも創作性がないから、原告Aは著作権を有さず、著作者人格権も有しない。すなわち、No.11,12の部分は、株式会社田谷の店頭公開について伝えるものであるから、文章の内容からして創作性はないし、No.31〜33の部分は、原告Aは株式会社田谷からの資料に基づいて作成したものであるから、創作性はない。また、No.39の部分も、株式会社田谷の経営する美容室(TAYA INTERNATIONAL 原宿店)の案内記事にすぎないから、文章の内容に照らし創作性はない。
イ 原告Aは、本号の制作を請け負ってこれを被告に納入した時点で、本号に係る著作権を被告に譲渡した。
ウ 被告に対し、本誌の取材先である株式会社田谷から文章等について訂正の申入れがあり、その申入れの内容が正当と認められ、これについて原告会社の意向を確かめることができない事情がある場合は、委託者である被告は、株式会社田谷の同訂正申入れに基づいて、受託者である原告会社の編集物を構成する本件記事の文章表現等の一部を改変して増刷することができる権限を有していたというべきであり、又は、そのような場合に本件記事の文章表現等の一部を改変して増刷することについて原告Aの明示又は黙示の承諾があったというべきである。
 仮にそうでないとしても、本件記事の改変及び増刷は、緊急事務管理に該当するというべきである。
 本件において、被告が本件記事のうち別紙変更一覧表「著作権侵害の主張」欄に◎印を付した箇所(No.11,12,31〜33,39)について、同表記載のとおり文章を改変した行為は、株式会社田谷の訂正の申入れのとおりに訂正したものであるところ、これらの各訂正は、証券取引法及び薬事法の規定に照らしてやむを得ないと認められるもの(著作権法20条2項4号の「やむを得ないと認められる改変」にも該当する。)であるから、株式会社田谷の同訂正申入れの内容は正当であった。具体的には、以下のとおりである。
(ア) 別紙変更一覧表のNo.11,12の部分は、株式会社田谷の店頭公開の案内に関するものである。そして、株式会社田谷が同部分の訂正を求めた理由は、インサイダー取引に該当するおそれがあるというものであり、証券取引法の規定に配慮したものであるところ、前記(1)の被告の主張のカ(ア)のとおりの事情があったから、同法の規定に照らし、株式会社田谷の訂正申入れの内容は正当であった。
(イ) 別紙変更一覧表のNo.31〜33の部分は、株式会社田谷の使用する化粧品を紹介する説明文の部分である。しかるに、この部分を執筆した原告Aは、化粧品についてその成分の内容や製造販売に関する知識がないから、そうした知識のない者が書いた説明文をそのまま本号に掲載することは、化粧品の案内文にも成分の表示・製品番号等の記載を必要とし、虚偽又は誇大な記事を記述することなどを禁じた薬事法の規定の趣旨に沿わない。したがって、同部分について、化粧品を実際に使用する株式会社田谷から訂正申入れがあったとき、被告は、薬事法の規定の趣旨を尊重して、株式会社田谷の申入れに応ぜざるを得なかった。
エ 原告Aは、事後に別紙変更一覧表のうちNo.11,12,31〜33,39の部分の改変及び増刷について承諾し、異議を述べなかったから、原告Aは著作者人格権及び著作権の侵害を主張できない。
オ 原告Aは、被告に対し、原告会社の請求に重ねて二重に請求することはできない。
【原告Aの再反論】
 被告は、別紙変更一覧表No.31〜33の部分については、原告Aは株式会社田谷からの資料に基づいて作成したから創作性がないと主張するが、この部分の執筆に当たって株式会社田谷から提供された資料はなく、すべて原告Aが独創的に創作した文章であるから、被告の主張は失当である。また、甲1(変更前の本号)をみれば、別紙変更一覧表No.39の部分は、単なる案内文ではなく、美的センスによって作成されており創作性を有することは明らかである。
 さらに、被告は、別紙変更一覧表No.11,12,31〜33,39の部分の改変について、原告Aの明示又は黙示の合意があったと主張するが、かかる合意は存在しないから、同主張は失当である。また、被告の主張によれば、編集制作を委託した場合に、委託者は常に編集物の文章表現まで改ざんをする権限があることになり、不合理である。
 被告は、原告Aは原告会社の請求に重ねて二重に請求することはできないと主張するが、失当である。
(3)争点3(被告によるタイトルロゴ、レイアウト等の使用継続行為の、原告会社に対する債務不履行又は不当利得の成否)
【原告会社の主張】
ア 債務不履行
 原告会社は、被告から、本誌第11号以降、編集制作を請け負ったが、その際、新たに別紙@の「PROFESSIONAL TOKYO」のタイトルロゴ、別紙Aの目次全体のレイアウト、別紙Bの「NEWS」、別紙Cの「ESSAY」のデザイン(以下、別紙@〜Cを併せて「本件タイトルロゴ等」という。)を制作した(本件タイトルロゴ等は被告と共同で制作したものとの被告の主張は、事実に反する。)。
 別紙@の「PROFESSIONAL TOKYO」のタイトルロゴが、本誌第11号より前の号のもの(甲27)と全く異なること、別紙Aの目次頁全体のレイアウトも、本誌第11号より前の号のもの(甲27)と全く異なることは、一見して明らかであるから、これらのタイトルロゴ・レイアウトの独自性は優に認められる。別紙Bの「ESSAY」のデザインについても同様であり、別紙Cの「NEWS」については、本誌第10号まではそもそも使用されていなかった。
 このように原告会社が新たに制作したタイトルロゴ・目次のレイアウト等(本件タイトルロゴ等)については、本誌を原告会社が編集制作する限りにおいて使用されるものであり、原告会社が編集制作をしなくなった後において、後継の編集者がこれらの本件タイトルロゴ等を当然に引き続いて使用できるものではない。引き続き使用するためには、雑誌編集制作業界の常識からいって、本件タイトルロゴ等の買取り等の手続が必要なのであり、本件においても、原告会社と被告との間で、本件タイトルロゴ等の買取り等の手続を経ない限り、そのまま使用を継続することはしないとの合意があった。しかるに、被告は同合意に反して、本件タイトルロゴ等の買取り等の手続を経ないまま、引き続き本誌第21号、第22号において使用した。これは、債務不履行に該当する。
イ 不当利得
 被告は、原告会社が作成した本件タイトルロゴ等を含んだ本誌を販売し、それら本件タイトルロゴ等の良さをアピールして広告を集め、利益を得ている。そのような場合に、専門のデザイナーである原告会社が作成した本件タイトルロゴ等を無料で使用することは、法律上の原因なくデザイン制作費の出費を免れ、同額の利益を得ていることになる。一方、デザイナーである原告会社としては、通常支払を受けるべきデザイン制作費相当額の損失を受けているといわなければならない。
ウ 原告会社は、上記債務不履行に基づく損害賠償請求及び不当利得返還請求を、選択的に主張する。
【被告の主張】
 本件タイトルロゴ等を原告会社が制作したとの主張は、否認する。本件タイトルロゴ等は、原告会社と被告が共同で制作したものである。
 原告会社の本件タイトルロゴ等は、それ以前の号の本誌のデザイン等と比べて別物と認識される程の独自性はない。別紙@のタイトルデザイン及び別紙Bのデザインは、以前の号の書体を変えたものにすぎないし、別紙Aの目次のレイアウトも、以前の号と比べて独自性はない。
 また、被告は、原告会社との契約に基づき、本件タイトルロゴ等に関する権利を取得している。このことは、原告会社と被告とが調印した制作確認書(甲3)において、1号当たりの制作費としてすべて込みで200万円を支払う約束になっており、その内訳として、デザイン費50万円と記載されていることからも裏付けられる。
(4)争点4(損害額等)
【原告らの主張】
ア 原告会社
(ア) 原告会社の著作者人格権の侵害に係る損害額(慰謝料)としては300万円が、原告会社の編集著作権の侵害に係る損害額としては300万円がそれぞれ相当である。
(イ) 別紙@の「PROFESSIONAL TOKYO」のロゴの使用に係る損害額(利得額)は400万円、別紙Aの目次のレイアウトの使用に係る損害額(利得額)は40万円、別紙Bの「NEWS」と別紙Cの「ESSAY」のデザインの使用に係る損害額(利得額)は併せて40万円がそれぞれ相当である(いずれも、本誌第21、22号の2号分について請求する。)。根拠は以下のとおりである。
@ 別紙@の「PROFESSIONAL TOKYO」のロゴの使用料相当損害額(利得額)は、原告会社の料金表(甲8)のうち、「【CT関係】ブランド・ロゴタイプデザイン費3,500,000円〜50,000,000円」の部分に該当するから、期限後の無断継続使用という実態に鑑み、損害額(利得額)としては400万円(1号当たり200万円)が相当である。
A 別紙Aの目次のレイアウトの使用料相当損害額(利得額)は、原告会社の料金表(甲8)のうち、「【編集物制作費】雑誌・新聞等2,500,000円〜50,000,000円」の部分に該当するところ、本件の目次のレイアウトは3頁にすぎないので、損害額(利得額)としては40万円(1号当たり20万円)が相当である。
B 別紙Bの「NEWS」と別紙Cの「ESSAY」のデザインの使用に係る損害額(利得額)は、原告会社の料金表(甲8)のうち、「【イラスト/ロゴ/題字等制作費】小型印刷物使用150,000円〜3,500,000円」の部分に該当するから、期限後の無断継続使用という実態に鑑み、損害額(利得額)としては併せて40万円(1号当たり20万円)が相当である。
イ 原告A
 原告Aの著作者人格権の侵害に係る損害額としては300万円が、原告Aの著作権の侵害に係る損害額としては300万円がそれぞれ相当である。
【被告の主張】
 原告らの主張は否認し、争う。
第3 当裁判所の判断
1 前記前提となる事実及び以下の各文末尾掲記の証拠並びに弁論の全趣旨によれば、原告会社と被告との間の最初の契約書の記載内容、原告会社と被告とが契約関係にある間の事実経過、本号における記事等の訂正に至る経緯について、以下の事実が認められる。
(1)原告会社と被告との間の最初の契約書の記載内容
 被告は、平成7年1月30日、原告会社に対し、本誌第11号(平成7年春号)の制作を依頼した(甲3)。被告と原告会社との間で、同日付けで「制作確認書」(甲3)が調印されたが、同確認書には、「題名」欄に「プロフェッショナル東京95年春号制作作業」、「内容」欄に「企画編集/デザイン/撮影/印刷管理」、「金額」欄に「編集費500,000円、デザイン費500,000円、撮影料200,000円、依頼原稿料200,000円、写真・資料使用料200,000円、撮影諸経費200,000円、取材諸雑費200,000円、合計2,000,000円(消費税含む)」と記載され、「摘要」欄に「6)」として、「本誌の定価は1995年春号より、1800円とし、発行人D、編集人Aの新体制でスタートする。」と記載されている。
(2)原告会社と被告とが契約関係にある間の事実経過
ア 原告会社が、被告との契約に基づいてその編集に携わった本誌の第11号から本号(第20号)に至るまで、その目次の上欄には、「発行人/D」という記載のほかに、「編集人/D・E」との記載(「D」は被告代表者であり、「E」は原告会社代表者のペンネームである。)がある(甲1、2、9、乙12、原告本人兼原告会社代表者A)。被告代表者は、1年に約10回ある美容業界の雑誌の編集長会議に本誌の編集長として出席したり、本誌の「エッセイ」、「ニュース」の取材先と折衝したり、広告やタイアップ記事を取ってきたりするなどの活動を行い、雑誌に使用する写真の選択や記事の内容等については原告会社代表者が担当していた(原告A本人兼原告会社代表者、被告代表者)。
イ 原告会社は、本誌第11号(平成7年春号)の編集及び制作については、被告と相談、話合いの上で行った(原告A本人兼原告会社代表者)。また、原告会社は、本誌第12号(平成7年夏秋号)の編集の過程では、被告代表者が同号で特集する「シュウ ウエムラ」ことFと親しいこともあって、被告と話をして編集を進めた(原告A本人兼原告会社代表者、被告代表者)。
ウ 原告会社代表者は、次第に各号の編集方針や内容について被告に相談しなくなった(被告代表者、原告A本人兼原告会社代表者)。被告は、原告会社に対して平成7年11月8日付け書簡(甲4)を送り、販売部数が当初期待を大きく下回っていること、今後について契約延長の可否も含めて話し合いをしたいこと、を伝えた。これを受けて、同年12月8日、被告代表者と原告会社代表者との間で話し合いが持たれ、その際の合意に基づき、被告は原告会社に対し、平成7年12月13日付け書簡(甲5)を送付して、本誌第15号(平成8年4月15日号)、第16号(平成8年7月15日号)、第17号(平成8年10月15日号)、第18号(平成9年1月15日号)の編集及び制作を委託した。同書簡(甲5)は、「『プロフェッショナル東京』編集及び制作依頼の件」と題され、依頼の内容として、上記の本誌第15号ないし第18号の「企画編集、デザイン、撮影、印刷管理」と記載され、金額として、「1号につき2,000,000円(消費税を含む)」、「その他」として、「@編集人(A)は発行人(D)に対し、各号の編集方針内容につき説明し合意を得ること、A美容業界の特殊な人間関係を考慮して編集人(A)は発行人(D)に編集政策方針、及びそれらの過程状況につき齟齬のないように報告連絡相談を行うこと、B編集人は販売部数の増加を考慮した編集を心がけること、C編集人は広告・企画収入の増加を考慮した編集を心がけること」と記載されている。原告会社及び被告は、本誌第19号以降についても、これと同様の条件で被告が原告会社に対してその編集、制作を委託することを合意した(原告A本人兼原告会社代表者)。
エ 原告会社は、1号当たり200万円の報酬の中から個々の記事の執筆者に原稿料を支払っており、その額は1号当たり合計約15万〜25万円であった。ただし、原告Aは、原告会社から給与の支払を受けるだけで、それ以外に記事の執筆者として原告会社から原稿料を受け取ったことはなかった(原告A本人兼原告会社代表者)。
オ 本誌の発行部数は、第11号が1000部、第12号(Fの特集号)が3000部、第13号が1100部、第14号が2000部、第15号が不明、第16号が1100部、第17、18号が各1400部、第19号が1200部であった(甲24)。
 このように、第12号(3000部)、第14号(2000部)のときのように1200部を大きく上回る場合があったが、その場合でも、被告から原告会社に支払われる金額は200万円であり、原告会社が割増し分の請求をしたことはなかった(原告A本人兼原告会社代表者)。
 一方、本誌の売上部数は、第11号が約850部、第12号が約1280部、第13号が約830部、第14号が約730部、第15号が約820部、第16号が約730部、第17号が約830部、第18号が約520部、第19号が約450部であった(甲24)。
カ 本誌の発行部数は、発行元である被告において決定していた。実際の手続においても、発行部数は、最終的に、被告の担当者であるGが印刷所に連絡するという形をとっていた(原告本人兼原告会社代表者A、被告代表者)。
(3)本号における記事等の訂正に至る経緯
ア 原告会社代表者は、本号の特集記事として、「美容室 TAYA」チェーンを展開する株式会社田谷をとりあげることに決め、同社を取材した。そして、本号を編集制作して印刷会社に直接原稿を持ち込み、刷り上がった本号第1刷(甲1)を平成9年7月14日に自分の事務所で見て、翌15日、米国ニューヨークに出発した。株式会社田谷は、本件記事の原稿を事前に見せるように原告会社に要請していたが、原告会社代表者は、時間的余裕がないとしてこれを断っていた。そのため、本件記事について、被告及び株式会社田谷が、事前に原稿を見てその内容を確認する機会はなかった(甲16、26、乙5、10、17、原告A本人兼原告会社代表者)。
イ 株式会社田谷は、折から株式の店頭公開を予定しており、そのための会社説明会を平成9年7月30日に予定していたが、同説明会における資料の一環として本号を使用することを考え、そのために本号600部を購入する意向であることを被告に伝えていた。株式会社田谷としては、上記のような購入の目的から上記600部については、同月29日までの納品を必須条件と考えていた(乙5、22、24)。
ウ 原告会社から送付された本号第1刷を見て、本件記事中に多くの誤りのあることに気づいた株式会社田谷は、訂正を求めるために原告会社代表者に連絡をとろうとしたが、原告会社代表者の所在が不明であったことから、同年7月17日に被告の担当者である栗原に電話をして、本件記事の訂正を求めた。その電話の内容は、本号の特集記事に多くの誤りがあり大変怒っている、刷り直さない限り600部は買わない、というものであった。株式会社田谷から指摘された誤りの中には、同社の代表的な美容師を紹介している写真頁で人物写真に他の美容師の名前が付されている(別紙変更一覧表No.17記載部分)など、美容業界での被告の信用が失墜しかねないような重大な誤りが含まれていた。また、株式会社田谷としては、9月に店頭公開、という趣旨の表現が、事前に一部の人に対して利益を与えるような形になり、インサイダー取引のようになってしまうので、証券取引法上の問題を生じかねず、大変な迷惑を被るという指摘もされていた。被告代表者は、これは何があっても刷り直さなければならないと思い、株式会社Cの代表取締役であるCに対して直接電話を入れ、大変なミスを起こして申し訳ないと謝った。その結果、Cは、被告会社とは長い付き合いなので、直してもらえるのであれば買いましょうと述べるに至った。株式会社田谷からの訂正の要請は、別紙変更一覧表記載の44箇所に上っていた(甲10、11、16、乙2の1〜10、乙3の1〜3、乙5、22、24、被告代表者)。
エ 被告代表者は、このような事態を受けて、まず最初に原告会社代表者に連絡をとろうと考えたが、原告会社代表者は米国における連絡先を被告に告げておらず、また、原告会社の事務所には従業員等はおらず、留守番電話が置かれているだけであった。被告代表者は、原告会社代表者が鐘紡の仕事で米国に行くと言っていたことを思い出し、鐘紡の広報部に電話をして、鐘紡の仕事で原告会社代表者が米国に行っているので、連絡先を教えてほしいと頼んだが、鐘紡の回答は、原告会社代表者には仕事を頼んでいないとのことであった。八方手を尽くして原告会社代表者の居場所を探したにもかかわらず、米国滞在中の原告会社代表者と連絡をとることができなかったことから、被告代表者は、原告会社の事務所の留守番電話に、大変なことが起きたから連絡をほしい、インサイダー取引で大変なことになる、との伝言を録音した。一方、前記のとおり、株式会社田谷の購入する600部については、7月29日までの納品を必須条件としていたため、これに間に合わせるためには、同月18日中に訂正箇所と訂正内容を印刷業者に伝えなければならず、事態は切迫していた。こうした経緯を受けて、被告代表者は、やむなく、自ら、別紙変更一覧表記載の44箇所について、株式会社田谷の要請のとおり訂正して、本号第2刷(甲2)を完成させた(甲16、乙5、被告代表者。原告本人兼原告会社代表者Aの上記認定と異なる趣旨の供述は、甲10、11、16、乙5、24、被告代表者に照らし、採用することができない。)。
オ 原告会社代表者は、被告代表者が留守番電話に録音した内容を聞いたことなどから本件記事について何か重大な問題が起こったことを知り、平成9年7月23日に米国から帰国した際、成田空港から直接株式会社田谷に赴いて同社の担当者と話をした。その際、原告会社代表者は、本件記事中の誤りについて陳謝した上で、本号及び本件記事についての別紙変更一覧表記載の訂正内容を確認した(甲11、26、乙24、原告本人兼原告会社代表者A、弁論の全趣旨。原告本人兼原告会社代表者Aの上記認定と異なる趣旨の供述は、甲10〔株式会社田谷の担当者から原告会社代表者宛の平成9年7月17日付けFAX送信書〕、甲11〔株式会社田谷の担当者から被告代表者宛の平成9年7月25日付けFAX送信書。乙24は同じもの〕の記載に照らし、採用することができない。)。
カ その後、原告会社ないし原告Aから、被告に対して、被告が本号及び本件記事について別紙変更一覧表記載のとおりの変更を行ったことについて、抗議等はされていない(被告代表者、原告本人兼原告会社代表者A)。
2 争点1(原告会社の著作者人格権及び編集著作権の侵害の成否)について
(1)上記の認定事実を前提として、原告会社の著作者人格権及び編集著作権侵害の成否について判断する。
 著作権法12条1項は、「編集物(データベースに該当するものを除く。以下同じ。)でその素材の選択又は配列によって創作性を有するものは、著作物として保護する。」と規定するところ、編集著作物に該当する具体的な編集物に記載、表現されているもののすべてが編集著作権の対象となるものではなく、編集著作権の対象として、その選択、配列の創作性が問題とされる素材が何であるかは、具体的な事案に即して当該編集物の性質、内容によって定まるものである。そして、定期刊行物である雑誌についていえば、編集著作権は、個別の記事を構成する文章や写真の著作権と区別して観念することができるものであるところ、この場合に編集著作権の対象となるのは、当該号全体を通じての主題(特集号など)を決定し、掲載する記事やグラビア等の写真の主題を定め、掲載する個別の記事、写真、イラスト等を取捨選択して、その配列等を決定するという編集者の知的創作活動の結果としての、雑誌における全体的構成、記事、写真等の選択、配列であるというべきである。
 これを本件についてみると、本誌は、季刊の美容業界誌であり、本件との関係において、本号で選択・配列の創作性の素材として編集著作権の対象となるのは、「美容室 TAYA」チェーンを展開する株式会社田谷及びその代表取締役であるCを紹介する内容の記事を特集記事として雑誌の中核となる部分に一定の頁数を配し、同社の履歴、Cの経歴等、同社の代表的美容師の経歴等を説明し、同社の美容室において使用されている化粧品やその経営に係る各美容室(サロン)を紹介する内容の記事及びこれらに関する写真を配列した点にあるものというべきである。すなわち、本号における本件特集記事は、株式会社田谷を対象とする特集であることを示す扉頁(本号20頁)以下、同社の履歴(同21頁)、Cの経歴・人物(同22、23頁)、同社を代表する3人の美容師の経歴等(同24〜29頁)、同社の作品である髪型(同26〜43頁)、同社の美容室において使用されている化粧品(同44、45頁)及びその経営に係る各美容室(サロン)(同132、133頁)を文章及び写真により紹介するものであるが、これらの一定の主題の下にまとめられた文章及び写真の、選択及び配列に編集著作物としての創作性が認められるものということができる。したがって、記事中の個々の文章表現や個別の写真に付された説明文の表現内容、配置等は、編集著作権の対象となるものではない。
 そうすると、本件において原告会社が編集著作物についての著作者人格権及び編集著作権の侵害として主張する改変部分については、いずれも、個々の文章表現や個別の写真に付された説明文の表現内容、配置に関するものであって、編集著作物の対象としての素材の選択・配列を改変するものではないから、そもそも編集著作物についての著作者人格権の侵害や編集著作権の侵害を問題とする余地はないというべきである。
 すなわち、本号の表紙見出し部分の改変(別紙変更一覧表No.1)は、株式会社田谷の店頭公開の案内記事の一環として表紙に見出しとして、「特集/九月の美酒と風 美容室TAYA、9月中旬株式の店頭公開!! 業界初サロンを企業にした三代目 C。」と記載してあったものから、「9月」及び「美容室TAYA、9月中旬株式の店頭公開!!」の部分を削除したという点であるが、このような改変は、個別の文章の表現に関するものであって、編集著作権の対象となる素材の選択・配列を改変するものではないから、編集著作物についての著作者人格権の侵害や編集著作権の侵害が問題となるものではない。また、化粧品説明文部分の改変(別紙変更一覧表No.32〜33,35)も、株式会社田谷の美容室において使用されている化粧品を紹介する記事において一部の化粧品の写真に付された説明文につき、その配置を変更し(同一覧表のうち、No.32「クラリファイング シャンプー」の部分とNo.33「リーブ・イン・コンディショナー」の部分)、あるいは削除した(同一覧表のうち、No.34「DeFrizz」の部分とNo.35「ブリリアント」の部分)という点も、選択、配列の創作性が問題とされる素材には当たらない個別の写真に付された説明文の表現内容、配置に関するものであって、編集著作物についての著作者人格権の侵害や編集著作権の侵害が問題となるものではない。
 したがって、原告会社のいう編集著作物についての著作者人格権侵害の主張は、そもそも編集著作権の対象にならない部分に関するものであるから、原告会社の主張はこの点においてすでに失当である。
(2)以上によれば、原告会社の著作者人格権の侵害を理由とする請求は理由がないが、念のため、本号について被告が編集権ないし原告会社との事前の明示又は黙示の承諾に基づき訂正する権限を有していたかどうかについても判断する。
 なるほど、前記認定事実によれば、当初の制作確認書(甲3)に「発行人D、編集人Aの新体制でスタートする。」と記載されていたこと、各号の記事の執筆者に対しては原告会社が200万円の報酬の中から原稿料を支払っていたこと、各号の内容については実際上原告会社が決定していたことなどの点が見受けられる。しかしながら、他方、各号には編集人として原告会社代表者と並んで被告代表者が記載されており、平成7年12月13日付けの原告会社宛て書簡(甲5)には、原告会社代表者は被告代表者に対して各号の編集方針内容につき説明して合意を得た上、編集過程の状況につき報告連絡相談を行うべきことが記載されているものであり、実際、原告会社は、本誌第11号(平成7年春号)について、被告と相談・話合いの上で編集及び制作を行い、また、第12号(平成7年夏秋号。シュウウエムラ特集号)についても、被告との話合いをしながら編集を進めていた。また、被告代表者は、1年に約10回ある美容業界誌の編集長会議に本誌の編集長として出席したり、本誌の「エッセイ」や「ニュース」の取材先と折衝したり、広告やタイアップ記事を取ったりなどの対外的な場面で編集の活動を行っていた。
 これらの事実に照らせば、原告会社と被告との間では、被告は本誌各号の内容について、原告会社から報告説明を受けて同意を与える立場にあったというべきであり、このような立場にあることに伴って、やむを得ない場合には必要な限度で原告会社による原稿についてこれを訂正する権限をも有していたと認めるのが相当である。各号の編集において実際には専ら原告会社がその内容を決定することが多かったとしても、それは被告が上記の権限を行使せず、事実上、原告会社に編集内容を任せていたものというべきであり、被告が上記権限を有していたとの認定を妨げるものではない。
 そして、美容業界誌においては、一般に、特定の取材先についての特集記事を掲載する場合には、事前に原稿ないしゲラ刷りを取材先に渡して内容に誤りがないかどうか確認してもらうことが行われていたところ(甲16、被告代表者)、前記認定のとおり、本号については、株式会社田谷からの要求があったにもかかわらず、原告会社は本件記事について原稿ないしゲラ刷りの段階で確認を求めることをせず、その結果、本件記事について美容師の名前を取り違えるなどの多くの誤りを生じ、被告は株式会社田谷から訂正を要求されるに至ったものであり、加えて、原告会社代表者が被告に連絡先を伝えないまま渡米してしまったことから、被告としては原告会社代表者の了承を得ることが不可能であったのであるから、このような場合に被告において本号のうち株式会社田谷から指摘された部分について訂正を行ったのは、前記のようなあらかじめ原告会社との間で合意された権限の範囲内におけるものというべきである。なお、訂正箇所の中には、株式会社田谷の指摘が誤っており、本来訂正を必要としなかった部分(別紙変更一覧表No.32,33の部分)が含まれているが、前記のような切迫した状況の下においては、これを含めた訂正を行った点をもって、原告会社との関係で被告の行為を違法ということはできない。
 また、前記認定のとおり、原告会社代表者は、平成9年7月23日に米国から帰国した際に株式会社田谷に赴いて、本件記事中の誤りについて陳謝した上で、本号についての別紙変更一覧表記載の訂正内容を確認したが、その際異議を述べず、また、その後も被告に対して異議を述べていないのであるから、原告は本号について別紙変更一覧表記載の訂正がされたことを事後的にも承諾したものと認めるのが相当である。
 以上によれば、編集著作物についての著作者人格権の侵害をいう原告会社の主張は、いずれにしても理由がない。
(3)原告会社は、被告が本号を株式会社田谷のパンフレット用に増刷したことが、原告会社の編集著作権(複製権)侵害に該当すると主張する。しかし、前記認定事実によれば、そもそも本誌の発行部数は、発行元である被告において決定していたもので、本誌の発行部数の増減にかかわらず原告会社には編集制作の報酬として一定額(200万円)が支払われていたものである。加えて、美容業界誌においては、特集記事の取材先の企業等にまとまった部数を宣伝広告用に購入してもらうことが一般的に行われていたものであるところ、本誌においても、第12号(シュウウエムラ特集号)がFにより宣伝広告用に1000部購入されたことがあるのであって、本号についても株式会社田谷により広告宣伝用にまとまった部数の購入がされることを取材の時点から想定していたと認められる(甲16、原告A本人兼原告会社代表者、被告代表者、弁論の全趣旨)。
 したがって、編集著作権(複製権)の侵害をいう原告会社の主張も、理由がない。
3 争点2(原告Aの著作者人格権及び著作権侵害の成否)について
(1)原告Aは、被告が本号の増刷に際して、本件記事のうち、別紙変更一覧表「著作権侵害の主張」欄に◎印を付した箇所(No.11,12,31〜33,39の部分)について、同表記載のとおり文章を変更した行為が、原告Aの有する著作者人格権の侵害に該当する、と主張する。
 そこで検討するに、原告Aが著作者人格権侵害をいう上記部分は、いずれも著作物性を認めるに足りる創作性を有しないというべきである。すなわち、別紙変更一覧表No.11,12の部分は、株式会社田谷の平成9年9月の店頭公開予定という事実について伝えるものであり、だれが表現してもこのような文章にならざるを得ず、「9月」をとりあげて表現した点をもって創作性を有すると認めることもできない。また、同No.31〜33の部分は、化粧品の説明文という実用的な内容の文章である上、原告Aは、同部分については、化粧品についてのパンフレットを参考に、文章自体も一部引用してこれを作成したことが認められ(原告本人兼原告会社代表者A、弁論の全趣旨)、たとえ原告Aが同部分につき加筆して文章を作成したとしても、同原告により著作物性を認めるに足りる創作性が付加されたと認めることはできない。No.39の部分も、株式会社田谷の経営する美容室(TAYA INTERNATIONAL 原宿店)について、所在地、電話番号、店長名、スタッフ数、料金、営業時間等の事項を記載したにすぎないから著作物性を認めることはできない。
 したがって、原告Aのいう著作者人格権侵害の主張は、そもそも著作権の対象にならない部分に関するものであるから、原告Aの主張はこの点においてすでに失当である。
(2)以上によれば、原告Aの著作者人格権の侵害を理由とする請求は理由がないが、念のため、付言すれば、上記の認定事実によれば、原告Aは、原告会社代表者としての立場としてのみならず、少なくとも本号における同人の執筆に係る記事については、執筆者個人としても、被告がやむを得ない場合には必要な限度で記事の内容を訂正する権限を有することを承諾していたと認められるから、原告Aの主張する前記各部分(別紙変更一覧表No.11,12,31〜33,39の部分)についての被告による訂正は、あらかじめ同原告との間で合意された権限の範囲内におけるものというべきである。
 また、前記の帰国後に株式会社田谷を訪ねた際の原告Aの行動等によれば、原告Aは、執筆者個人としても本号について別紙変更一覧表記載の訂正がされたことを事後的にも承諾したものと認めるのが相当である。
 以上によれば、著作者人格権の侵害をいう原告Aの主張は、いずれにしても理由がない。
(3)また、被告が本号を株式会社田谷のパンフレット用に増刷したことが、原告Aの著作権(複製権)侵害に該当するという同原告の主張も、上記2(3)に説示したところと同様の理由により、失当というべきである。
4 争点3(本件タイトルロゴ等についての債務不履行、不当利得の成否)について
 前記前提となる事実及び証拠(甲3、5、23、27、原告本人兼原告会社代表者A)並びに弁論の全趣旨によれば、本件において、本誌第21号、第22号において被告が使用したことをもって債務不履行ないし不当利得に該当すると原告会社が主張しているところの本件タイトルロゴ等については、別紙@の「PROFESSIONAL TOKYO」のタイトルロゴは、ゴシック体の英文字を若干変化させたものであり、別紙Bの「NEWS」及び別紙Cの「ESSAY」のデザインは、円形の図形にゴシック体ないし活字体の英文字を重ねたものであり、いずれも工業デザインの範疇に属するものであって、美的鑑賞の対象となるに足りる美的特性を備えるものではないから、美的観点からの創作性を有するものということはできず、別紙Aの目次全体のレイアウトもまた、冒頭頁上部に「PROFESSIONAL TOKYO」のロゴを配し、各頁の左半分に写真を、右半分に内容を表示するなどしたというもので、目次のレイアウトとしてはありふれたものである。したがって、本件タイトルロゴ等は、いずれも著作権法上の著作物に該当するものということはできない。もっとも、このような著作物性を欠くロゴ、レイアウト等であっても、契約により対価を支払ってその制作を依頼することは行われているものであり、現に、本件においても、前記認定のとおり、原告会社は、被告の依頼により本誌第11号を制作し、その際、本件タイトルロゴ等を制作したものであるが、同号の制作に当たって被告との間で取り交わされた平成7年1月30日付け「制作確認書」(甲3)には作業内容の中に「デザイン」が含まれるものとされ、対価としても「デザイン費」として50万円が挙げられているものである。
 本件タイトルロゴ等については、このうち別紙@のタイトルロゴについてはある程度の特徴を認めることができるものの、別紙Bの「NEWS」、同Cの「ESSAY」の各デザイン及び別紙Aの目次のレイアウトはいずれも見るべき特徴もない、ありふれたものであって、これらを併せても制作にさほどの困難も伴わないものと認められる。それにもかかわらず、本誌第11号の制作の報酬の総額200万円の4分の1にも当たる50万円の金額が「デザイン費」として計上されていることを考慮すると、本件タイトルロゴ等については、これらを制作し、いわゆる「買取り」としてこれらに関するすべての権利を被告に移転することの対価を含むものとして、上記「デザイン費」が支払われたものと認定するのが相当である。本誌第11号については、それまで被告社内の担当者によりなされていた本誌の編集制作作業を初めて外部に委託するものであり、また、原告会社ないし原告会社代表者はそれまで雑誌編集の実績を有するものではなかったから、編集制作作業を原告会社に委託すること自体が、被告にとっては冒険的な試みであり、したがって、仮に原告会社に対する編集制作の委託が同号限りとなっても、原告会社によって制作された本誌のロゴ、レイアウト、デザイン等をその後の号において引き続き使用するために、これらを「買取り」の対象とすることには、合理性があった。他方、原告会社としても従来実績のない雑誌編集の分野の仕事を新たに引き受けるのであるから、このようなロゴ、デザインの「買取り」の趣旨での合意に応じたとしても不自然ではない。また、上記のように本件タイトルロゴ等がありふれた特徴しか有さず、容易に制作できるものであったことに照らせば、甲8(原告会社の料金表)及び甲29(広告制作料金基準表)を考慮しても、50万円という金額は、本件タイトルロゴ等の買取りの対価として首肯し得る金額と認められる。
 なお、本誌については、その後の第12号ないし第20号についても、第11号と同様に制作の対価として1号当たり200万円が被告から原告会社に対して支払われており、また、第15号ないし第18号の制作に関して被告から原告会社に宛てた平成7年12月13日付けの書簡(甲5)には依頼の内容として、「企画編集、デザイン、撮影、印刷管理」と記載されているものではあるが、この点については、上記書簡の依頼内容の記載は報酬額の内訳としての格別の意味を有するものではなく、これを要するに、第12号以降の制作に当たっても、被告が制作の報酬の総額として第11号と同額を支払うことを約したというだけのことであり、これらの事情があるからといって、本誌の第12号以降において本件タイトルロゴ等を使用することについて被告から原告会社に対価が支払われていたものと認めることはできない。
 そうすると、本誌第21号、第22号において被告が引き続き本件タイトルロゴ等を使用した行為が、原告会社との関係で債務不履行又は不当利得に当たるという原告会社の主張は、その前提を欠き、失当である。
5 結論
 以上によれば、原告らの請求は、いずれも理由がないので、棄却すべきものである。
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 三村量一
 裁判官 和久田道雄
 裁判官 田中孝一
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