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【事件名】自動車整備用システムソフトの無断複製事件
【年月日】平成14年3月28日
 東京地裁 平成8年(ワ)第10047号 損害賠償等請求事件(甲事件)
 /平成8年(ワ)第25582号 不正競争行為差止請求事件(乙事件)
 (口頭弁論終結の日 平成14年3月8日)

判決
甲事件原告(乙事件被告) 翼システム株式会社
訴訟代理人弁護士 宮下佳之
同 道下崇
同 岡田誠
甲事件被告(乙事件原告) 株式会社システムジャパン
訴訟代理人弁護士 安江邦治


主文
1 甲事件被告(乙事件原告)は、甲事件原告(乙事件被告)に対し、5613万2135円及びこれに対する平成8年11月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 甲事件原告(乙事件被告)のその余の請求を棄却する。
3 乙事件原告(甲事件被告)の請求を棄却する。
4 訴訟費用は、甲事件乙事件を通じて、これを10分し、その1を甲事件被告(乙事件原告)の負担とし、その余を甲事件原告(乙事件被告)の負担とする。
5 この判決の第1項は仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
(甲事件)
1 被告は、別紙物件目録記載の製品を、製造し、販売し、その他頒布してはならない。
2 被告は、原告に対し、金9億5000万円及びこれに対する平成8年6月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(乙事件)
 被告は、別紙不正競争目録記載の事実の告知又は流布をしてはならない。
第2 事案の概要
1 争いのない事実等
(1)ア 甲事件原告(乙事件被告)(以下、単に「原告」という。)は、コンピュータ、オフィスオートメーション機器及び通信機器の販売及び賃貸並びにコンピュータのソフトウェアの開発、販売及び賃貸等を業とする株式会社である。
イ 甲事件被告(乙事件原告)(以下、単に「被告」という。)は、ビデオ機器、コンピュータの販売、ビデオ機器のレンタル、リース及び修理並びにビデオソフト・コンピュータソフトの企画、編集、製作、販売、レンタル及びリース等を業とする株式会社である。
(2) 原告は、昭和61年、自動車整備業用システムである「スーパーフロントマン」(以下、「原告システム」という。)を開発した(甲25、弁論の全趣旨)。
 原告システムは、自動車整備業者において、見積書、作業指示書、納品書等の作成が容易にできるほか、顧客や車両等に関する入力データをデータベース化し、顧客管理やダイレクトメールの発送等に活用できるように構成されたものであるが、日本国内において実在する四輪自動車(以下「実在の自動車」という。)に関する一定の情報を収録したデータベースである「諸元マスター」を構成要素としている(甲1、25、弁論の全趣旨)。
 原告は、平成6年ころ、諸元マスターの平成6年度版(以下「本件データベース」という。)を作成し、同年6月ころ、その販売を開始した(甲27、56、検甲4、弁論の全趣旨)。
(3) 被告は、昭和61年3月ころから、自動車整備業用システムである「トムキャット」(以下「被告システム」という。)を製造販売している(乙62、乙事件甲1、弁論の全趣旨)。
 被告システムは、自動車整備業者において、見積書、作業指示書等の作成が容易にできるほか、顧客や車両に関する入力データをデータベース化し、顧客管理等に活用できるように構成されたものであり、実在の自動車に関する一定の情報を収録したデータベース(以下、「被告データベース」という。)がその構成要素となっている(甲2、弁論の全趣旨)。
3 本件のうち、甲事件は、原告が、「被告は、本件データベースを複製しているところ、この複製は、本件データベースの著作権を侵害するか又は不法行為を構成する。」と主張して、被告システムの製造等の差止め及び損害賠償を求める事案であり、乙事件は、被告が、「原告が被告の取引先等に虚偽事実を告知した。」と主張し、虚偽事実の告知等の差止めを求める事案である。
第3 争点及び争点に対する当事者の主張
1 争点
(1) 本件データベースの著作物性
(2) 被告が本件データベースないしその車両データを複製したかどうか
(3) 被告が本件データベースの車両データを複製したことが不法行為に当たるかどうか
(4) 原告の損害
(5) 原告が被告の取引先等に虚偽事実を告知したかどうか
2 争点(1)ないし(3)に関する当事者の主張は、当裁判所が平成13年5月25日に言い渡した中間判決(以下「中間判決」という。なお、本判決の略語は、中間判決と同一である。)記載のとおりである。
3 争点(4)及び(5)についての当事者の主張
(1) 争点(4)について 
(原告の主張)
 原告は、被告が本件データベースを複製したデータベースを含む被告システムを販売したことにより、次のとおり損害を被った。
ア 被告が本件データベースを複製したデータベースを含む被告システムを販売した期間
 被告は、平成6年12月11日ころ、本件データベースを複製しデータベースを鏑木自動車に販売したことが推認できるから、被告は、遅くとも平成7年1月初めには、本件データベースを複製したデータベースを含む被告システムの販売を開始し、被告がデータベースを無料で更新した平成8年10月末ころまでは、本件データベースを複製したデータベースを含む被告システムの販売を行っていたものである。
イ 原告のマーケットシェアによる逸失利益の算定
(ア) 原告は、日本全国において原告システムの販売を行っているところ、被告が本件データベースを複製したデータベースを含む被告システムを販売した地域内のユーザーも原告システムを容易に購入することができたものであり、この被告システムは、原告システムと同様の機能を有しているから、原告は、被告がこの被告システムを販売したことにより、被告がこの被告システムを販売したユーザーのうち、原告のマーケットシェアに相当する数のユーザーについては、原告が原告システムを販売する機会を失った。したがって、原告は、「平成7年1月から平成8年10月までの被告システムの販売台数」×「原告のマーケットシェア」×「原告のシステム1台当たりの利益額」によって算定される額の損害を被った。
 平成6年4月から平成8年9月までの被告システムの販売台数は、683台であるところ、これから、平成6年4月から平成6年12月までの被告システムの販売台数179.5台(平成6年4月から平成7年9月までの被告システムの販売台数の月平均19.94に9を乗じた数)を除くと、平成7年1月から平成8年9月までの21か月の被告システムの販売台数は、503.5台となるから、平成7年1月から平成8年10月までの22か月の被告システムの販売台数は、527.48台(503.5台÷21×22)となる。
 原告の自動車整備業界における顧客管理及び経営処理システム市場におけるマーケットシェアは、37.1パーセントである。
 原告が平成7年5月から平成8年10月までの間に新規顧客に原告システムを販売したことによる粗利益の1台当たりの平均金額は、233万6267円であるから、これが原告のシステム1台当たりの値引きを考慮しない場合の利益額となるが、後記エのとおり、原告は平成7年1月から平成8年10月までに8888万1391円の値引きを余儀なくされ、原告のシステム1台当たりの平均値引き額は、3万5504円となるから、この値引きを考慮した場合の原告の利益額は、237万1771円となる。
 以上により逸失利益額を算定すると、4億6414万3915円(237万1771円×527.48×0.371)となる。
(イ) 原告システムの販売に伴い、多くのユーザーは、原告との間で、システム保守契約を締結している。したがって、原告は、原告システムの販売機会を失ったことに伴い、システム保守契約の締結により得べかりし利益を失った。
 その額は、「平成7年1月から平成8年10月までの被告システムの販売台数」×「原告のマーケットシェア」×「原告のシステムのユーザーのうちシステム保守契約を締結するユーザーの割合」×「原告がシステム保守契約によって得るユーザー一人当たりの利益額」によって算定される。
 平成7年1月から平成8年10月までの間に原告と原告システムの購入等の取引をした原告の顧客は3421社であるが、このうち、平成13年4月末日においても、21パーセントを超える722社が保守料の支払を継続しており、722社から支払われた保守料の額は、1社平均月額7393円である。そうすると、原告のシステムのユーザーのうち、少なくとも21パーセントのユーザーがシステム保守契約を締結し、少なくともリース期間である6年間は、月額7393円以上の保守料(合計53万2296円)の支払を行うものということができる。
 以上により逸失利益額を算定すると、2187万5219円(53万2296円×527.48×0.371×0.21)となる。
(ウ) (ア)と(イ)を合計すると、4億8601万9134円となる。
ウ 原告システムと被告システムとの実際の競合件数による逸失利益の算定
(ア) 原告システムと被告システムとの売込みが実際に競合し、その結果、ユーザーが本件データベースを複製したデータベースを含む被告システムを購入した場合には、原告は、直接原告システムを販売する機会及びシステム保守契約を締結する機会を失ったものである。
 したがって、原告は、「平成7年1月から平成8年10月までの被告システムの販売台数のうち、原告システムと売込みが実際に競合した件数」×「原告のシステム1台当たりの利益額」によって算定される額の損害並びに「平成7年1月から平成8年10月までの被告システムの販売台数のうち、原告システムと売込みが実際に競合した件数」×「原告のシステムのユーザーのうちシステム保守契約を締結するユーザーの割合」×「原告がシステム保守契約によって得るユーザー一人当たりの利益」によって算定される額の損害を被った。
(イ) 平成6年4月から平成8年5月10日まで(25.3か月)の間に、原告システムと被告システムとの売込みが実際に競合し、その結果、ユーザーが被告システムを購入した件数は、67件であるから、平成7年1月から平成8年10月まで(22か月)の被告システムの販売台数のうち、原告システムと売込みが実際に競合した件数は、58件(67件÷25.3×22)となる。原告のシステム1台当たりの値引きを考慮した場合の利益額は、前記イ(ア)のとおり237万1771円であるから、原告の逸失利益額は、1億3756万2718円(237万1771円×58)となる。
 また、原告は、上記のとおり原告システムの販売機会を失ったことに伴い、システム保守契約の締結により得べかりし利益を失ったものであり、その額は、前記イ(イ)の数値により、648万3365円(53万2296円×58×0.21)となる。
(ウ) (ア)と(イ)を合計すると、1億4404万6083円となる。
エ 値引きによる損害
 原告は、被告システムとの売込みの競合により、実際に販売することができたユーザーについても、値引きをせざるを得ず、値引き額相当の損害を被った。
 平成6年4月から平成8年5月10日まで(25.3か月)の間に、原告システムと被告システムとの売込みが実際に競合し、その結果、値引きせざるを得なくなった金額の合計は、1億0221万3600円であるから、平成7年1月から平成8年10月まで(22か月)において、原告システムと被告システムとの売込みが実際に競合し、その結果、値引きせざるを得なくなった金額の合計は、8888万1391円(1億0221万3600円÷25.3×22)となる。
オ 以上のイないしエにより、主位的に、イとエの合計5億7490万0525円、予備的に、ウとエの合計2億3292万7474円を請求する。
カ 弁護士費用
 6000万円
(被告の主張)
 原告の主張は争う。
ア 原告は、中間判決で認定された3件を除いては、被告が、いつ、どこで、どのような不法行為を行ったかについて、何ら具体的に主張立証していないから、これら3件以外については、不法行為の成立は認められない。
イ 被告が、遅くとも平成7年1月初めには、本件データベースを複製したデータベースを含む被告システムの販売を開始していたことについては、何らの合理的根拠もない。
ウ 本件訴訟で対象とされているのは、型式類別データベースであって、システムそのものではない。したがって、システムそのものに関する利益を基準として、原告の逸失利益を算定することはできない。
エ 型式類別データベースは、システム全体の販売に影響を及ぼす程度には重要なものではない。
(5) 争点(5)について
(被告の主張)
ア 原告は、原告取締役、原告従業員等を、被告の顧客、取引先に赴かせて、別紙不正競争目録記載の事実を告知、流布する行為をさせている。
イ 別紙不正競争目録記載の事実は、いずれも被告の営業上の信用を害する虚偽の事実であるから、原告の行為は、不正競争防止法2条1項14号に該当する。
ウ したがって、上記行為の差止めを求める。
(原告の主張)
 被告の主張は争う。
第4 裁判所の判断
1 争点(1)ないし(3)に関する裁判所の判断は、中間判決記載のとおりである。
2 争点(4)について
(1) 被告が本件データベースを複製したものを組み込んだデータベースを含む被告システムを販売した期間
ア 中間判決で認定したとおり、被告は、鏑木自動車、大谷自動車、富士モータースに対して、本件データベースを複製したものを組み込んだデータベースを販売したことが認められるが、中間判決で認定したとおり、これらの各社以外の被告システムのデーターベースにおいても、本件データベースのダミーデータが発見されていること、鏑木自動車、大谷自動車、富士モータースが、他の被告の顧客とは異なるデータベースの提供を受ける事情は特に認められないことからすると、鏑木自動車、大谷自動車、富士モータースが上記被告データベースの提供を受けたのと同時期に被告からデータベースを含む被告システムを購入した顧客には、これらの3社と同様のデータベースが販売されたものと推認することができ、これを覆すに足りる証拠はない。
イ 証拠(甲36、検甲1)と弁論の全趣旨によると、Aが平成8年9月28日に鏑木自動車において複製した被告システムのプログラム実行ファイルの日付は、平成6年12月10日であったことが認められるところ、中間判決で認定した事実に証拠(乙34、80、95、103、検甲1、5)を総合すると、被告は、平成9年10月28日に鏑木自動車に、平成8年11月6日に富士モータースに、それぞれ被告データベースを無料で納入したが、その際には、システムのプログラムも更新され、実行ファイルは、新たな日付のものに書き換えられたこと、被告は、平成6年4月に、平成6年4月改訂データベースを鏑木自動車に納入したが、その際には、システムのプログラムの更新も行われ、実行ファイルは、新たな日付のものに書き換えられたこと、以上の事実が認められるから、データベースの更新の際には、システムのプログラムの変更も同時に行われ、実行ファイルは、新たな日付のものに書き換えられる可能性が高いものと認められる。そして、以上述べたところに、被告は、本件データベースを複製したものを組み込んだデータベースを鏑木自動車に販売した時期について明らかにすることができるにもかかわらず、その点について何ら主張立証しないことを弁論の全趣旨として考慮すると、被告は、平成7年1月ころまでには、本件データベースを複製したものを組み込んだデータベースを鏑木自動車に販売したものと認められる。なお、証拠(乙105)によると、被告は、平成6年12月27日に、鏑木自動車に対して、被告システムのバージョンアップ版を販売したことが認められるが、そのことから、直ちに被告が鏑木自動車に対して同時期にデータベースを改訂したものを販売したことが否定されるわけではないし、また、証拠(乙54)によると、被告は、小林自動車株式会社に対して、システムのプログラムの更新とデータベースの更新を別々の時期にしたことが認められるが、この事実も上記認定を覆すに足りるものではない。
 中間判決で認定した事実に証拠(乙80)と弁論の全趣旨を総合すると、被告は、平成8年3月ころに、本件データベースを複製したものを組み込んだデータベースを含む被告システムを富士モータースに販売したことが認められる。
 本訴(甲事件)は、平成8年5月30日に提起され、同年6月10日に被告に訴状が送達されたことは、記録上明らかである。また、中間判決で認定したとおり、被告は、平成9年10月28日に鏑木自動車に、平成8年11月6日に富士モータースに、同月8日に大谷自動車に、それぞれ被告データベースを無料で納入したことが認められる。
ウ 以上のア、イの事実に、被告は、本件データベースを複製したものを組み込んだデータベースを販売していた期間について明らかにすることができるにもかかわらず、その点について何ら主張立証しないことを弁論の全趣旨として考慮すると、被告は、原告主張のとおり、上記のとおり鏑木自動車に販売した平成7年1月から、上記のとおり富士モータースや大谷自動車に無料で納入した直前である平成8年10月までの間において、本件データベースを複製したものを組み込んだデータベースを含む被告システムを販売していたものと認められる。
(2) 原告のマーケットシェアによる逸失利益の算定
 原告は、被告が本件データベースを複製したデータベースを含む被告システムを販売したことにより、被告がこの被告システムを販売したユーザーのうち、原告のマーケットシェアに相当する数のユーザーについては、原告が原告システムを販売する機会を失ったと主張する。
 しかし、証拠(乙100)と弁論の全趣旨によると、顧客は、どのような自動車整備業用システムを購入するかを、自動車に関する情報を収録したデータベースのみならず、ソフトウェアの機能、ハードウェアの仕様、営業担当者の対応やアフターサービスの良し悪し等のいろいろな事情を総合して決することが認められるから、被告が本件データベースを複製したデータベースを含む被告システムを販売していなかったならば、原告のマーケットシェアに相当する数のユーザーについては、原告が原告システムを販売することができたとは認められない。
 証拠(甲84、90ないし92)によると、原告が全国の支店及び営業所に通達を発して原告システムと被告システムが競合した事例を調査したところ、平成6年4月から平成8年5月10日まで(25.3か月)の間において219件あり、このうち、被告システムが受注した件数は67件であったことが認められる。これを、平成7年1月から平成8年10月までの22か月に換算すると、58件となる。これに対し、原告が主張するマーケットシェアに基づく原告システムが販売できなかった数は、平成7年1月から平成8年10月までの22か月の被告システムの販売台数527.48台にマーケットシェア37.1パーセントを乗じた約195台となり、大きな違いがある。このことは、原告のマーケットシェアに基づいて、原告が原告システムを販売することができなかった数を算定することが適切でないことを示しているといえる。
 したがって、原告が主張するように、原告のマーケットシェアに基づいて、原告が原告システムを販売することができなかった数を算定することはできない。
(3) 原告システムと被告システムとの実際の競合件数による逸失利益の算定
ア 上記(2)認定のとおり、原告が全国の支店及び営業所に通達を発して原告システムと被告システムが競合した事例を調査したところ、平成6年4月から平成8年5月10日まで(25.3か月)の間において219件あり、このうち、被告システムが受注した件数は67件であったのであり、これを、平成7年1月から平成8年10月までの22か月に換算すると、58件となることが認められる。
イ 上記(2)認定のとおり、顧客は、どのような自動車整備業用システムを購入するかを、自動車に関する情報を収録したデータベースのみならず、ソフトウェアの機能、ハードウェアの仕様、営業担当者の対応やアフターサービスの良し悪し等のいろいろな事情を総合して決することが認められるから、被告が本件データベースを複製したデータベースを含む被告システムを販売していなかったならば、上記アの58件すべてについて、原告が原告システムを販売することができたとまでは認められない。
 しかし、上記のとおり、自動車に関する情報を収録したデータベースについても、どのような自動車整備業用システムを購入するかにおいて考慮される主な要素の一つであることからすると、被告が本件データベースを複製したデータベースを含む被告システムを販売していなかったならば、上記アの58件のうち一定数は、原告が原告システムを販売することができたものと認められる。そして、その数については、民事訴訟法248条により、上記アの58件の40パーセントに当たる23件と認める。
 データベースが、システムの一部にすぎないことは、被告主張のとおりであるが、上記の件数は、被告が本件データベースを複製したものを含む被告システムを販売したことと因果関係が認められる原告の販売機会の喪失のみを認定した件数であるから、これに、原告が得ることができた1台当たりの利益額を乗じて原告の損害額を算定することとし、寄与率による減額等は行わない。
 なお、本件については、中間判決で述べたとおり、著作権侵害は認められないので、同法114条を適用又は類推適用する余地はない。また、原告は、特許法102条1項を類推適用すべきであるとも主張するが、本件について同項を類推適用すべき理由はない。
ウ 証拠(甲83、93、106)によると、原告が平成7年5月から平成8年10月まで(18か月)の間に新規顧客に原告システムを販売した1973件について、販売価格(値引き後のもの)から、ハードウェアの原価(原告においては定価の70ないし80パーセントとしているので、その金額による)、データメインテナンス契約が締結された場合におけるデータメインテナンスサービスの原価(原告においては契約料金の50パーセントとしているので、その金額による)、ソフトウェアをカスタマイズした場合における外注費、伝票等を顧客に無料で提供した場合における費用、販売奨励金等を控除した粗利益の1台当たりの平均金額は、233万6267円であることが認められる。ソフトウェアの開発費は、原告が実際に販売した台数に加えて上記イの台数を販売する際に更に必要な費用とはいえないから、控除するのは相当ではないし、一般的な販売経費も同様の理由で控除しないこととする。
 証拠(甲83、93ないし99、108)と弁論の全趣旨によると、原告から原告システムを購入した顧客は、搬入設置料等として、38万円ないし47万円を支払うこと、これは、コンピュータの搬入設置、ソフトウェアのインストール、導入指導に関する費用として支払うものであること、上記販売価格には、搬入設置料等が含まれていること、以上の事実が認められる。上記認定のとおり、原告において、データメインテナンス契約の契約料金の50パーセントをデータメインテナンスサービスの原価としていること(甲106には、実際の費用は、50パーセントを下回る旨の記載があるが、この記載のみでは、50パーセントを下回るものと認めることはできず、他にこの事実を認めるに足りる証拠はない)を考慮して、上記搬入設置料等についても、38万円ないし47万円の平均額の50パーセントに当たる21万2500円を原価として控除することとする。
 そうすると、原告が原告システムを販売したことによる1台当たりの利益額は、上記233万6267円から21万2500円を控除した212万3767円と認められる。
 以上により逸失利益額を算定すると、4884万6641円(212万3767円×23)となる。
 なお、後記(4)のとおり、値引きについては、被告の行為によるものかどうか明らかでないので、考慮しないこととする。
エ 証拠(甲83)と弁論の全趣旨によると、原告システムの販売に伴い、多くのユーザーは、原告との間で、システム保守契約を締結していること、したがって、原告は、原告システムの販売機会を失ったことに伴い、システム保守契約の締結の機会も失うこと、平成7年1月から平成8年10月までの間に原告と原告システムの購入等の取引をした原告の顧客は3421社であるが、このうち、平成13年4月末日においても、21パーセントを超える722社が保守料の支払を継続しており、722社から支払われた保守料の額は、1社平均月額7393円であること、少なくとも、リース期間である6年間は、システム保守契約を継続する顧客が多いこと、以上の事実が認められる。そうすると、原告のシステムのユーザーのうち、少なくとも21パーセントのユーザーが6年間原告との間でシステム保守契約を締結し月額平均7393円(6年間で53万2296円)の保守料を支払うことが認められる。
 上記ウ認定のとおり、原告において、データメインテナンス契約の契約料金の50パーセントをデータメインテナンスサービスの原価としていることを考慮して、上記保守料の50パーセントが、システム保守契約の締結により、原告が得られる利益であると認められる。
 以上により逸失利益額を算定すると、128万5494円(53万2296円÷2×23×0.21)となる。
(4) 値引きによる損害
 原告は、被告システムとの売込みの競合により、実際に販売することができたユーザーについても、値引きをせざるを得ず、値引き額相当の損害を被ったと主張する。
 証拠(甲84、105)によると、平成6年4月から平成8年5月10日まで(25.3か月)の間に、原告システムと被告システムとの売込みが競合した場合に、原告が値引きをして原告システムを販売した事例があったことが認められる。そして、甲84添付の回答書には、原告システムと被告システムとの売込みが競合し原告が受注した場合に、原告が値引きをした事例が記載されており、甲105の下取申請書には、原告が値引きした事情が記載されている。しかしながら、値引きは、原告と顧客との交渉過程においていろいろな事情によってされるものと考えられるから、原告システムと被告システムとの売込みが競合した場合に、原告が値引きをしたからといって、それが直ちに被告システムの販売によるものと認めることはできないし、ましてや、その被告システムに本件データベースを複製したデータベースが含まれていることによるかどうかは不明であるというほかない。もっとも、具体的な事情によっては、被告が本件データベースを複製したデータベースを含む被告システムを販売していることによって原告が原告システムの値引きを余儀なくされたと認めることができる場合もあろうが、上記回答書には、値引きの金額が記載されているのみであるし、甲105の下取申請書には、被告システムとの売込みが競合し原告が受注した場合に、原告が値引きをしたことが記載されているものの、証拠(甲110、乙111)に照らして検討すると、データベースが含まれていない被告システムとの競合を理由とする事例があったり、それほど競合が現実化していないと認められる事例があったり、値引きについて被告システムとの競合以外の事情が存したことが認められる事例があったり、被告の価格が記載されていない事例があったり、他に競合する会社があることが記載されていたりするのであり、競合以外の理由による平均的な値引き額についての立証もないから、いまだ上記具体的な事情が存するとまで認めることはできないし、その他、そのような事情を認めるに足りる証拠はない。また、以上述べたところからすると、民事訴訟法248条により算定することもできない。
 したがって、原告主張の値引きによる損害は、認めることができない。
(5) 弁護士費用
 本訴の提起及び追行に要した弁護士費用として、被告の不法行為と相当因果関係にある損害額は、600万円が相当である。
3 争点(5)について
(1) 原告の行為について
ア 証拠(乙事件甲2、6)と弁論の全趣旨によると、原告の従業員が、Bに対し、平成8年8月19日ころ、被告が原告のデータベースのデータを盗んでいる旨述べたことが認められるが、中間判決で認定したとおり、被告は、本件データベースのデータを複製したことが認められるから、上記従業員が述べた事実が虚偽であるとは認められない。
イ 証拠(乙事件甲3、7)と弁論の全趣旨によると、原告の従業員が、有限会社神谷モータースに対し、平成8年6月11日ころ、被告の経営状態が悪い旨述べたことが認められるが、上記従業員が述べた事実が虚偽であることを認める証拠はない。また、仮に、この事実が虚偽であるとしても、原告の従業員が上記事実を述べてから5年以上が経過していることからすると、原告の従業員が同様の事実を告知又は流布するおそれがあるとは認められない。
ウ 証拠(乙事件甲4、8)と弁論の全趣旨によると、原告の従業員が、Cに対し、平成8年6月12日ころ、「システムジャパンはあと3か月もするとおもしろいことになる。」「3か月間は支払わないほうがよい。」と述べたこと、Cが、この従業員に対し、おもしろいこととはどういう意味か尋ねたところ、この従業員は明確に返答しなかったこと、以上の事実が認められる。このように述べたのみでは、その意味することが不明であって、Cもその意味を理解できなかったものと認められるから、このように述べたことが被告の営業上の信用を害する虚偽事実の告知又は流布に当たるとは認められない。
エ 被告は、原告の販売代理店であるDが、Eに対し、別紙不正競争目録4及び5記載の事実を述べたと主張するが、原告取締役又は従業員がこの行為に関与したことを認める証拠はない。
オ その他、原告が、被告の顧客、取引先に対して、別紙不正競争目録記載の事実の告知、流布する行為をしたことを認めるに足りる証拠はない。
(2) 以上によると、乙事件の請求は、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。
4 結論
 以上の次第で、甲事件の請求のうち、差止請求は、原告が主張する著作権侵害は認められず、不法行為に基づく差止請求は認める余地がないから、理由がなく、損害賠償請求は、5613万2135円及びこれに対する平成8年11月1日(不法行為の期間の最終日である平成8年10月31日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。乙事件の請求は理由がない。
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 森義之
 裁判官 岡口基一
 裁判官 男澤聡子


(別紙)
物件目録
製品名 トムキャット
種類 自動車整備業・板金塗装業用コンピュータシステム
製作者 株式会社システムジャパン

(別紙)
不正競争目録
1 システムジャパン社は翼のデータを盗用している。
2 システムジャパンは経営状態が悪く危ない。
3 システムジャパンはおもしろいことになるので、お金は支払わない方がよい。
4 東京海上は、システムジャパンとの提携をやめて翼社に一本化する。
5 システムジャパンの工数は、日整連の工数とは違う。
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日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/