判例全文 line
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【事件名】パチスロ機の特許侵害事件
【年月日】平成14年3月19日
 東京地裁 平成11年(ワ)第13360号 特許権に基づく製造販売禁止等請求事件
 (平成13年12月10日 口頭弁論終結)

判決
原告 アルゼ株式会社
訴訟代理人弁護士 升永英俊
同 松本司
同 大島崇志
同 戸田泉
訴訟復代理人弁護士 荒井裕樹
同 岩坪哲
同 森末尚孝
補佐人弁理士 廣瀬邦夫
被告 株式会社ネット
訴訟代理人弁護士 冨田浩也
同 東野修次
補佐人弁理士 中井信宏
被告補助参加人 日本電動式遊技機特許株式会社
訴訟代理人弁護士 島田康男
補佐人弁理士 紺野正幸


主文
1 被告は、原告に対し、9億8870万円及びこれに対する平成11年6月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを3分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4 この判決は1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、原告に対し、18億2116万5027円及びこれに対する平成11年6月25日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
3 仮執行宣言
第2 事案の概要
 本件は、後記特許権を有する原告が、被告に対し、被告の製造・販売する製品は、原告の特許権の技術的範囲に属するとして、損害賠償の支払を求めている事案である。
1 争いのない事実
(1) 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有している。なお、本件特許権は、ユニバーサル販売株式会社がもと保有していたが、同社は株式会社ユニバーサルテクノス(原告の旧商号)に吸収合併された。
ア 特許番号 第1855980号
 発明の名称 スロットマシン
 出願年月日 昭和63年3月18日
 出願公告年月日 平成5年10月18日
 登録年月日 平成6年7月7日
イ 上記特許権に係る願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。本判決末尾添付の特許公報(以下「本件公報」という。)参照)の特許請求の範囲請求項1の記載は次のとおりである。
 「表示窓内にそれぞれ所定の図柄を表示する複数のリールを乱数値に応じて停止するように制御する制御装置を備えたスロットマシンにおいて、前記制御装置は遊技中特定の条件が達成された時には予め定めたゲーム回数分、前記乱数値に応じた停止制御を中止するように構成したことを特徴とするスロットマシン。」
ウ 同じく請求項2の記載は次のとおりである(以下、この発明を「本件特許発明」という。)
 「前記制御装置が複数のリールの一部についてのみ前記停止制御を中止し、他のリールに対しては一定の停止制御を行うことを特徴とする請求項1記載のスロットマシン。」。
(2) 本件特許発明の構成要件を分説すれば、次のとおりである(以下、それぞれを「構成要件A」のようにいう。)。
A 表示窓内にそれぞれ所定の図柄を表示する複数のリールを乱数値に応じて停止するように制御する制御装置を備えている
B 前記制御装置は遊技中特定の条件が達成された時には予め定めたゲーム回数分、複数のリールの一部についてのみ前記乱数値に応じた停止制御を中止し、他のリールに対しては一定の停止制御を行う
C スロットマシン
(3) 被告は、別紙被告製品目録記載のイ号物件、ロ号物件及びハ号物件(以下、これらを併せて「被告製品」と総称する。)を、業として製造・販売していた。イ号物件と、ロ号物件・ハ号物件とは、デザインを除き、イ号物件において使用されている停止位置決定表が、ロ号物件及びハ号物件にないだけで、制御の仕方は同じである。また、ロ号物件とハ号物件とは、デザイン、図柄、当選役、後記チャレンジタイムのゲーム数(ロ号物件では60ゲームであるのに対して、ハ号物件では80ゲームである。)が異なる点以外は同じである。したがって、イ号ないしハ号物件の構成については、最も単純なハ号物件のそれのみを別紙ハ号物件説明書において示す。ハ号物件の構成は、同説明書記載のとおりである(ただし、一部構成に争いがあるので、原告・被告双方の提出に係るものを添付し、争いのある部分は行の上部に横線を付した。図面のうち、第4図及び第5図も争いがあるので、原告・被告双方の提出するものを添付した。)。
(4) 被告は、イ号ないしハ号物件を、合計7779台販売した。
(5) 被告補助参加人は、パチンコ型スロットマシン(以下「パチスロ機」という。)をめぐる特許権等の知的財産権(以下「特許権等」という。)の管理について、いわゆるパテント・プール方式による管理を行っていた。これは、特許権等の保有者が、その保有する特許権等を、被告補助参加人に対し、多数のパチスロ機製造業者への再実施許諾権付きで、実施許諾するというものである。そして、再実施許諾を受けた業者からの実施料の徴収は、被告補助参加人により発行された証紙を、パチスロ機製造業者が製造台数分購入して、パチスロ機に貼付するという方法によりされていた。
 特許権等の保有者と被告補助参加人との間では、再実施許諾の特約がついた実施許諾契約書(以下、年度を特定せず「契約書」という。)が取り交わされており、契約書には、特許権等の番号や名称が記載された目録が添付されている。被告補助参加人とパチスロ機製造業者との間では、契約書は作成されず、製造業者が被告補助参加人から証紙を購入することによって、再実施許諾がなされたものとみなされる。
 原告は、少なくともその保有する特許権等の一部について、被告補助参加人との間で再実施権付与特約付きの実施許諾契約を締結していた。そして、原告と被告補助参加人との間の平成8年4月1日作成の契約書(対象期間は平成8年4月1日から平成9年3月31日。甲25)の目録には、本件特許権は記載されていない。
2 争点
(1) 被告製品が本件特許発明の技術的範囲に属し、同製品の製造・販売が本件特許権を侵害するか。なかでも、
ア 被告製品が構成要件Aを充足するかどうか。すなわち、被告製品がリールを乱数値に応じて停止するように制御しているか(争点1)。
イ 被告製品が構成要件B及びCを充足するかどうか(争点2)。
(2) 本件特許権に無効事由があり、本訴請求は権利濫用に当たるか(争点3)。
(3) 原告が本件特許権を被告補助参加人に実施許諾し、被告は被告補助参加人から再実施許諾を受けたか(争点4)。
(4) 原告の損害(争点5)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告製品が構成要件Aを充足するかどうか。すなわち、被告製品がリールを乱数値に応じて停止するように制御しているか)について
(1) 原告の主張
ア 乱数値に応じた停止制御とは、4コマ制御(当選絵柄の引込処理及び不当選絵柄の回避処理を、ストップボタンを押した時点の最短停止絵柄から最大4コマ滑る範囲内で行う制御をいう。)を前提にした乱数値に応じた停止制御をいうもので、いかなる場合も当選役が必ず成立しなければならないとする制御ではない。
イ 4コマ制御を前提にした乱数値に応じた停止制御は、本件特許権の出願前、本件特許発明が属する技術分野で周知・慣用となっている技術であり、本件明細書にも記載されているし(本件公報7欄21行〜26行及び第2図)、特開昭59−186580号公報(甲10)にも記載されている(引込処理につき同公開特許公報(6)頁、回避処理(蹴飛ばし処理ともいう。)につき同公開特許公報(9)頁)。
ウ 遊技機の認定及び型式の検定等に関する国家公安委員会規則(昭和60年2月12日国家公安委員会規則第4号。以下「遊技機規則」という。)6条別表第5の例えば(1)(ヘ)「回胴の回転は、回転停止装置を作動させるためのボタン‥(中略)‥を操作した後、190ms以内に停止するものであること」などの規定は、4コマ制御を前提にしたものである。
エ 被告製品の充足性
(ア) 例えば、イ号物件の通常ゲーム(後記チャレンジタイム中以外の一般遊技。以下「通常ゲーム」という。)の低期待値の場合で説明すると(別紙イ号物件目録の表1−1参照)、
@ 0〜320の乱数が抽出されて「ザインバーグ」役に当選すると、「ザインバーグ」役に入賞するか、4コマ制御があるため外れとなる。他の入賞役は成立しない。
A 他の入賞役についても上記と同じである。
B 5184〜16383の乱数が抽出されると、ストップボタンをどのようなタイミングで押しても、どの役にも入賞することはない。
(イ) 上記はロ号、ハ号物件でも同様である。すなわち、被告製品の通常ゲーム時では、抽出された乱数に対応する特定の入賞役のみが成立する。外れの乱数が抽出されたときは外れとなり、他の入賞役は成立しない(不当選絵柄の禁則処理)。
(ウ) よって、被告製品の通常ゲームでのリールの停止制御は、構成要件Aを充足する。
(2) 被告の主張
 構成要件Aにいう「乱数値に応じた停止制御」とは、抽出された乱数値によって、リールの停止位置が決定されるよう制御し、リールの停止位置は遊技者がストップボタンの操作のタイミングに影響されず、技術介入性のないリールの制御方法をいう(乱数値による完全制御)。すなわち、乱数値に基づく抽選の結果のみによってリールの停止位置が決定される装置を指す。本件明細書にも、従来技術の問題点は、技術介入性がない点であることが記載されている(本件公報1欄22行〜2欄2行、2欄11行〜18行)。
 被告製品においては、停止位置の決定は、乱数値に基づく抽選の結果のみによってされるわけでなく、常に乱数値に基づく抽選の結果(停止可能役と停止禁止役の決定)と遊技者のストップボタンの操作のタイミングの双方によってされている。
 したがって、被告製品においては「乱数値に応じた停止制御」はされておらず、被告製品は、構成要件Aを充足しない。
2 争点2(被告製品は構成要件B及びCを充足するか)について
(1) 原告の主張
ア 「遊技中特定の条件が達成された時」について
 被告製品は、通常ゲームにおいてビッグボーナス(以下「BB」という。通常ゲーム中に出るボーナスで、「7」等の所定の絵柄が揃う(入賞する)と、まず所定枚数のメダルの払出しがあり、一般入賞及びボーナスインの確率が高められた最高30回の一般遊技において、最高3回又は2回のレギュラーボーナスが行える役。ビッグチャンスともいう。)に当選し、かつチャレンジタイム(以下「CT」という。一定の条件下で、すべてのリールもしくは一部のリールを無制御にして遊技者の停止ボタンの操作によって一定の役を揃えることができる遊技を行えるようにして、遊技者がより技量を発揮できるようにしたゲーム。甲11)突入にも当選した後、イ号物件では「赤7」又は「ヒロト」絵柄の三つ揃いの達成により、BBゲームが終了し、擬似抽選(演出用ランプであるスピンラックインジケータが点滅し、効果音出力用スピーカから効果音が鳴るなどして、遊技者にはあたかもCTに突入するか否かを抽選しているように見せること。実際には、CTに突入するか否かは、既に乱数抽出の段階で決定されているので、真実の抽選ではない。)の後、自動的にCTが開始する。ロ号、ハ号物件では、絵柄は多少異なるが、制御の仕方は同じなので、イ号物件と同様に考えることができる。
 上記は本件特許発明の「遊技中特定の条件が達成された時」を充足する。
イ 「他のリールに対しては一定の停止制御を行う」について
(ア) 意義
 乱数値に応じた停止制御を中止するリール以外のリールについては、乱数値に応じた停止制御ではないが、特定の入賞役の絵柄を有効ライン上に引込処理するような、ある程度の停止制御をすることである。
 その理由は、本件明細書において、「まず、第1ストップボタン5Lがオンしたとき第1表示窓2Lの中央表示位置から4コマ以内に特定のシンボル(例えばオレンジ)があれば、そのシンボルが表示されるように第1リール3Lを停止させる。次に、第2ストップボタン5Cがオンしたときは、やはり第2表示窓2Cの中央表示位置から4コマ以内に第1表示窓2Lに表示されているシンボルと同じものがあれば、そのシンボルが入賞ライン上に表示されるように第2リール3Cを停止させる。‥(中略)‥すなわち、第1リールと第2リールについてはある程度の停止制御を行い」と記載されている(本件公報6欄26行〜39行)。
(イ) 被告製品の作動(第1リール、第2リールの停止制御)
 例えば、イ号物件で説明すると、
@ 0〜16383の乱数のうち、2836〜5183(うち2836〜5080は「リプレイ」(以下「RP」という。コインを投入しなくても、次ゲームを今回のゲームと同じ賭け枚数で行えるという役をいう。)、うち5081〜5170はBB、5171〜5183はレギュラーボーナス(以下「RB」という。通常ゲーム中に出るボーナスで、機種ごとに決められた絵柄が揃うと、まず所定枚数のメダルの払出しがあり、次から最高12回の1枚賭けJACゲームの間に最高8回の15枚の払出しを受け得る役。)以外の乱数が抽出されると、
A 第1リール(1番目にストップボタンを押したリール。以下、同様の意味で「第2リール」及び「第3リール」の語を用いる。)及び第2リールは、優先絵柄(「ザインバーグ」、「ブルース」、「チェリー」の順)が、有効ライン上に極力テンパイ(リールを2個停止させた時点で何らかの絵柄が有効ライン上に2つ揃っていること。三つ揃いとなって入賞する手前の状態をいう。)するように制御されている。
 すなわち、停止制御テーブル(停止位置決定表14等のテーブル)は、表示窓に表示される3つの絵柄の組合せ21種すべてにおいて、ストップボタン操作のタイミングで停止(即止め)するか、1〜3コマ滑らせるかの滑りコマ数(4コマ以内のコマ数)を記憶しているところ、遊技者がストップボタン操作の時点で表示窓に表示される3つの絵柄の組合せ(実際にはその組合せを下段絵柄番号で代表させている)と、停止制御テーブルの記憶内容とを照合し、滑りコマ数の記憶内容に従って即止めするか、1〜3コマ滑らせる処理がなされて第1リールは停止される。
 第2リールの停止制御も第1リールの停止制御と同様で、停止制御テーブルは第1リールの有効ライン上に停止した絵柄の組合せとの関係において、第2リールの3つの絵柄の組合せ21種すべてにおいて、前記優先絵柄が極力テンパイするように第2リールを即止めするか、1〜3コマ(4コマ以内)滑らせるかの滑りコマ数を記憶しており、この記憶内容に従って、第2リールの停止を制御している。
(ウ) 充足性
 第1リール、第2リールについては、通常ゲームの乱数値に応じた停止制御ではないが、特定の入賞役の絵柄を有効ライン上に引込処理するような、ある程度の停止制御をする。
 よって、被告製品の第1リール、第2リールの停止制御は、構成要件Bの「他のリールに対しては一定の停止制御を行う」を充足する。
ウ 「複数のリールの一部についてのみ前記乱数値に応じた停止制御を中止」について
(ア) 意義
 一部のリールの停止位置を、遊技者による停止操作のタイミングで決定することをいう。すなわち、被告製品でいうと引込処理をしないこと、又は引込処理も回避処理もしないことである。
 その理由は、本件明細書に、「本発明のスロットマシンにおいては、特定の条件が達成されてリールの停止制御が中止されている間、回転しているリールの停止位置は遊技者の停止操作のタイミングで決定されるので、熟練者と非熟練者との間に差が生ずる。」(本件公報3欄11行〜15行)及び「そして、第3リール3Rの停止位置については制御せず、第3ストップボタン5Rがオンしたタイミングで停止させる。‥(中略)‥第3リールについては全くフリーに(遊技者の停止操作のタイミングで)停止させる。」(同6欄31行〜41行)と記載されているからである。
(イ) 被告製品の作動(第3リールの停止制御)
@ 原則
T 上記のように0〜16383の乱数のうち、2836〜5183以外の乱数が抽出されると、
U 第3リールは、ストップボタンを押したタイミングで即止まりする。
V その結果、上記のように例えば321は通常ゲームでは「ブルース」役に対応する乱数であり、また例えば10000は通常ゲームでは外れに対応する乱数であるが、いずれの場合でも、上記の第1、第2リールの停止位置とも関係して、「ザインバーグ」役、「ブルース」役、「チェリー」役に入賞することもあれば、外れとなることもある。
A 例外
T 0〜16383の乱数のうち、2836〜5183以外の乱数が抽出されたときで、第3リールをストップボタンを押したタイミングで停止させたなら、BB役、RB役又はRP役が成立する場合は、リールを1コマ滑らせて停止させるという回避処理をする。単純な確率でいうと、このような回避処理がされるのは、9261(1リール21絵柄の3リール分の組合せ(21×21×21))分の160の確率であるが、実際の遊技では、遊技者にRBとBBの乱数が抽出されていないことが告知されるから、初めから揃うはずもないこれら役を敢えて揃えようとする者はいない。
U 2836〜5080のRP役に対応する乱数が抽出されたときは、通常ゲームと同じく、RP役のみの成立を許す4コマ制御を前提にした乱数値に応じた停止制御(引込み及び回避制御)がされる。
V なお5081〜5170の乱数が抽出されたときは、抽出された時点でCTゲームは終了する。また、5071〜5183のRB役に対応する乱数が抽出されたときは、抽出された時点でCTゲームは中断する(ただし、ロ号、ハ号物件にはRB役はない。)。
 上記T及びUの例外は、遊技機規則を遵守するために生じたものである。すなわち、まず例外Uについて述べると、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風営法」という。)2条1項は、「この法律において『風俗営業』とは、次の各号のいずれかに該当する営業をいう。」と規定した上で、同項7号において「まあじやん屋、ぱちんこ屋その他設備を設けて客に射幸心をそそるおそれのある遊技をさせる営業」を掲げている。
 そして、同項7号に規定する営業については、同法4条4項において「第2条第1号第7号の営業(ぱちんこ屋その他政令で定めるものに限る。)については、公安委員会は、当該営業に係る営業所に設置される遊技機が著しく客の射幸心をそそるおそれがあるものとして国家公安委員会規則で定める基準に該当するものであるときは、当該営業を許可しないことができる。」と規定されている。平成2年8月31日改正の遊技機規則(国家公安委員会規則第6号)は、上記「著しく客の射幸心をそそるおそれがある」遊技機の例示として、「1分間におおむね400円の遊技料金に相当する数を超える数の遊技メダルを使用して遊技をさせることができる性能を有する遊技機」との基準を盛り込んでいる。コイン1枚は20円であり(同規則29条2ロ)、1分間におおむね400円程度(コイン20枚)の消費に抑えるには、1ゲームで最大枚数である3枚投入することを前提にし、かつ払出枚数を加味すると1分間12ゲーム程度のゲーム回数に抑える必要がある。ところが平成4年から現在まで製造されるようになったゲーム機(4号機という。)になる前から、1ゲームの最短遊技時間(消費時間)が4.1秒とされていたため、最も早く遊技すると、1分間では最大14ゲーム程度消化されることになり、400円で可能なゲーム回数を超え、400円以上投資しないと1分間遊技できなくなる。そこで、1分間に2回の割合、すなわち約7ゲームに1回程度再遊技役(RP)を設け、1分間で12ゲーム分のコイン(400円)しか消費できないようにしたのである。
 次に、例外Tについては、BBは遊技機規則別表第5(1)ホ(役物連続作動増加装置(BB)の性能に関する規格)及び同表第5(1)ヘ(ロ)「役物連続作動増加装置以外の役物の作動を容易にするための特別の装置を設けないものであること」との規定を満足すべきことから、所定の低い当選確率を堅持する必要があるから、前記のような例外とされている。
(ウ) 充足性
 第3リールについては、遊技者がストップボタンを押した時点で即止まりするのが原則である。通常ゲームのように、抽出された乱数に対応する特定の入賞役のみが成立し、又は抽出された乱数が外れの範囲の乱数である場合は外れとなるようにリールが停止するという乱数値に応じた停止制御はされていない。
 上記(イ)Aの例外はあるが、いずれも遊技機規則を遵守するために生じた例外にすぎない。被告も、ハ号物件等のリーフレットに「CT中は最後(3番目)に止めるリールが瞬時にSTOP!」と明記しているとおり、第3リールがストップボタンを押したタイミングで停止することを前面に打ち出している。
 よって、被告物件の第3リールの停止は、本件発明の構成要件Bの「複数のリールの一部についてのみ前記乱数値に応じた停止制御を中止」を充足する。
エ 「予め定めたゲーム回数分」について
(ア) 意義
 この要件は、そのゲーム回数分が必ずしも連続している必要はないというべきである。その理由は、乱数値に応じた停止制御をして平等性を図る通常ゲームと、これを中止して技術介入性を図る特定条件が達成されたときを分ける意味でゲーム回数が規定されているにすぎないからである。本件明細書には、次のように記載されている。
 「本発明のスロットマシンにおいては、特定の条件が達成されてリールの停止制御が中止されている間、回転しているリールの停止位置は遊技者による停止操作のタイミングで決定されるので、熟練者と非熟練者との間に差が生ずる。すなわち、遊技者の熟練度に応じた結果となり、熟練者にとってはコイン取得率が若干高くなってゲ一ムの魅力が増す。一方、熟練者でない者にとっても、ある一定のコイン取得率は確保されるので、魅力がそがれることはない。また、上記の停止制御を複数のリールの一部についてのみ中止し、他のリールに対しては一定の停止制御を行うことにより、熟練者にとって更に有利な結果が得られるものとなる。」(本件公報3欄11行〜24行)
 「熟練者にとっては、ある範囲でその熟練度に応じた結果が得られてゲームの魅力が向上する一方、熟練者でない者にとっても、ある一定のコインの払い出し率が確保される。これにより、技術介入性と平等性が調和して各遊技者の熟練度に応じたゲームができるという効果が得られる。」(同8欄21行〜27行)
(イ) 被告製品のゲーム回数と充足性
 例えば、イ号物件で説明すると、CTゲームは予め90ゲームで終了するように設定されているが、そのうち、RP役及びRB役に対応する乱数が抽出されたゲームを除くと、その「予め定めたゲーム回数分」とは、77.6回である。
 この点は、ロ号物件及びハ号物件においても、同様である。
 よって、被告製品は、構成要件Bの「予め定めたゲーム回数分」を充足する。
エ 作用効果
(ア) 本件特許発明の作用効果
 本件明細書には、次のように記載されている。
@ 作用
 「本発明のスロットマシンにおいては、特定の条件が達成されてリールの停止制御が中止されている間、回転しているリールの停止位置は遊技者による停止操作のタイミングで決定されるので、熟練者と非熟練者との間に差が生ずる。すなわち、遊技者の熟練度に応じた結果となり、熟練者にとってはコイン取得率が若干高くなってゲームの魅力が増す。一方、熟練者でない者にとっても、ある一定のコイン獲得率は確保されるので、魅力がそがれることはない。また、上記の停止制御を複数のリールの一部についてのみ中止し、他のリールに対しては一定の停止制御を行うことにより、熟練者にとって更に有利な結果が得られるものとなる。」(本件公報3欄11行〜24行)
A 効果
 「熟練者にとっては、ある範囲でその熟練度に応じた結果が得られてゲームの魅力が向上する一方、熟練者でない者にとっても、ある一定のコインの払い出し率が確保される。これにより、技術介入性と平等性が調和して各遊技者の熟練度に応じたゲームができるという効果が得られる。」(同8欄21行〜27行)
(イ) 被告製品の作用効果
@ 被告製品は、例えばイ号物件では、CTゲーム中は、0〜2835及び5184〜16383の広い乱数範囲において、第1、第2リールの停止については、所定の優先絵柄を極力テンパイさせる一定の引込処理がされ、第3リールの停止については、いかなる絵柄の引込処理も一切されず、しかも「ザインバーグ」役、「ブルース」役、「チェリー」役の3種の一般入賞絵柄に対する回避処理も一切されず、即止めするのが基本となるため、熟練者は配当の大きな「ザインバーグ」役(10枚役)、あるいはこれと、「チェリー」役(3枚役)との重複的な入賞等を勝ち取ることができて獲得メダルを増やすことができ、非熟練者に差をつけることができる。
 他方、非熟練者も通常ゲーム中は、抽出された乱数に対応する特定の入賞役が成立するので、一定のメダルの払出率が‥‥確保される。
 これらの点は、ロ号物件及びハ号物件においても同様である。
A 上記作用効果は、日本電動式遊技機工業協同組合(以下「日電協」という。)より警察庁生活安全局生活環境課宛の文書(甲11)の「1 概要」において、CTの作用効果について、「これにチャレンジタイム(CTと称します。)という遊技者がより技量を発揮できる新しい方式を採用させていただきたい。この方式の発生条件は、役物連続動作増加装置(BB)の作動終了等3ヶ所を契機として、すべての回胴、若しくは一部の回胴を無制御にして遊技者の停止ボタンの操作によってBB、役物連続作動装置(RB)、役物(SB)及び再遊技以外の入賞図柄を有効ライン上に揃えることができる遊技をおこなえるものであります。そして、この終了の条件は、次のBBに当選した場合等3ヶ所といたします。」「これを、変更の概要に記しましたとおり、BB、RB、SB及び再遊技以外の入賞図柄を有効ライン上に揃えることができる遊技を設けることによってさらに遊技者の技量の介入ができるようになります。」と記載されているとおりである。
(ウ) よって、イ号物件ないしハ号物件のいずれも、通常時の平等性とCT時の技術介入性を調和させたパチスロ機であって、本件特許発明の作用効果を奏するものである。
オ 構成要件Cについて
 本件特許発明にいう「スロットマシン」とは、パチスロ機を意味する。本件明細書に、「代表的な遊技機の1つであるスロットマシンは、遊技者のスタート操作で複数のリールを回転させ、停止ボタン操作によりそれらの回転が停止した時各リールに対応する表示窓に表示されるシンボル(図柄)が特定の組合せ(当たり)になると所定枚数のコインを払い出す」(本件公報1欄17行〜22行)と記載されているようなスロットマシンとはパチスロ機以外には存在しないし、このことは当業者には周知の事実である。
(2) 被告及び被告補助参加人の主張
 被告製品においては、CTゲーム中でも通常ゲーム時と同様に乱数抽選を行い、その結果(停止可能役と停止禁止役をいう)に遊技者のストップボタン操作のタイミングを加味してリールの停止位置を決定しており、リールの停止制御が無制御となることはない。したがって、構成要件Bを充足しない。その理由は、次のとおりである。
ア 「遊技中特定の条件が達成された時」について
(ア) 被告製品では、特定の条件が達成された場合にゲーム態様が変化し、CTゲームに移行する。したがって、CTゲームへの移行を「遊技中特定の条件が達成された時」として捉えることは可能である。
(イ) しかしながら、「遊技中特定の条件が達成された時」という要件は、「予め定めたゲーム回数分」「複数のリールの一部についてのみ前記乱数値に応じた停止制御を中止し」「他のリールに対しては一定の停止制御を行う」という構成要件の一部であり、原告の主張は、「特定の条件が達成された時」以外の部分を無視している。つまり、「特定の条件が達成された時」の部分ではCTゲームへの移行を問題にしながら、他の部分ではCTゲーム中に乱数による抽選で特定の乱数が抽出された場合を前提にしており、原告の主張は整合性に欠ける。
 また、ゲーム途中でのCTゲーム中の複合役の当選を「特定の条件の達成」と捉えることは、「ゲーム回数分」という枠に当てはまらず、1ゲームという概念を無視している。
(ウ) CTゲームの本質は、制御方法の変化でなく、それまでになかった複合役という新たな当選役を設けた点にあるのであって、原告の主張は誤りである。本件特許発明は、乱数値に応じた停止制御を中止し、フリーにリールを止めることによって技術介入性を高めるものであるのに対し、CT機は、通常ゲームと同様の乱数抽選による停止制御において複合役を導入し、乱数抽選で複合役に当選した場合のみ、遊技者の技量によって複合役に該当する当選役を停止させることができるものであり、本件特許発明とCT機は本質的に異なる。
イ 「予め定めたゲーム回数分」について
(ア) 意義
 「予め定めたゲーム回数分」とは、遊技者が事前に(特定の条件が達成された時点で)認識できる形で連続して定まったゲーム回数をいう。
(イ) 理由
 「特定の条件が達成された時」に乱数値に応じた停止制御を行って平等性を図るゲームから、これを中止して技術介入性を図る特殊ゲームへと移行し、「予め定めたゲーム回数分」とは特殊ゲームのゲーム数の回数を予め定めるという形で通常時と区別するために設けられた要件である。したがって、特殊ゲームは「特定の条件が達成された時」から予め定めたゲーム回数分連続して行わなければならない。少なくとも、遊技者が技術介入性が図られるゲームであることが認識できる必要がある。
(ウ) 原告の主張に対する反論
 原告は、被告製品ではCTゲーム中に複合役に当選する回数が77.6回であるとして、ゲーム回数が定められていると主張する。
 「予め定めたゲーム回数分」とは、「特定の条件が達成された時には予め定めたゲーム回数分」という要件なのであるから、CTゲーム中の複合役の当選を問題にするのであれば、「特定の条件が達成された時」とはCTゲーム中の複合役に当選した時ということになり、「予め定めたゲーム回数」とは1ゲームとなり、「特定の条件が達成された時」に関する原告の主張と矛盾する。
 CTゲームは、BBの当選、コインの純増枚数が一定数に達した時点でも終了し、また、RBの当選により中断するのであるから、CTゲームのゲーム数も、CTゲーム中に複合役に当選する回数も定まっておらず、平均77.6回という回数は間違っている。
ウ 「複数のリールの一部についてのみ前記乱数値に応じた停止制御を中止し」について
(ア) 「前記乱数値に応じた停止制御を中止し」の意義
 「前記乱数値に応じた停止制御の中止」とは、「乱数値に応じた停止制御を止め、他の制御も行わずに無制御とし、その結果、リールの停止位置が遊技者によるストップボタン操作のタイミングで決定されることをいう。
(イ) 理由
@ 「中止」という文言から、「乱数値に応じた停止制御」を止めることは明らかで、「変更」とは文言上明らかに異なる。
A 「他のリールに対しては一定の停止制御を行う」こととの対比から「複数のリールの一部」については、何らの制御をも行わない、つまり無制御とすることは明らかである。
B 本件明細書にも、「特定の条件が達成されてリールの停止制御が中止されている間、回転しているリールの停止位置は遊技者による停止操作のタイミングで決定される」(本件公報3欄11行〜14行)と記載されている。
C 本件明細書の実施例の記載においても、「所定のゲーム回数(例えば10ゲーム)の期間、回転リールの停止制御を中止する。すなわち、遊技者がストップボタン5L、5C、5Rを押したタイミングでリールの回転を停止させるようにする。」(本件公報5欄17行〜21行)と説明されており、「複数のリールの一部」については、何らの制御をも行わないことが「中止」の内容であり、その結果、遊技者がストップボタンを押したタイミングでリールの回転が停止することが説明されている。
D さらに、本件明細書の実施例の記載において、「第3リールについては全くフリーに(遊技者によるストップボタン操作のタイミングで)停止させる。」(本件公報6欄39行〜41行)と説明されており、「中止」とは「無制御」、すなわち遊技者によるストップボタン操作のタイミングでリールを停止させることであることが説明されている。
(ウ) 「中止」に関する原告の主張に対する反論
@ 原告は「中止」とは、遊技者によるストップボタン操作のタイミングでリールの停止位置を決定することであることを認めながら、他方で、「すなわち、被告製品でいうと引込処理をしないこと、又は引込処理とともに回避処理もしないことである。」としており、前段と後段の内容が明らかにずれている。
A 「中止」とは、遊技者によるストップボタン操作のタイミングでリールの停止位置を決定することであることは明らかである。
B 上記原告の主張の「すなわち」以下の部分は、被告の主張する「乱数値に応じた停止制御」の不完全実施、つまり完全には乱数値に応じたシンボルで停止しないことをその内容としており、原告の主張する「乱数値に応じた停止制御」の内容と矛盾する。
C 原告主張の「中止」は、無制御と「一定の停止制御」の双方を含んでおり、「中止」と「一定の停止制御」を区別している特許請求の範囲の記載と明らかに矛盾する。
(エ) 被告製品の作動
@ CTゲーム中、0〜16383の乱数のうち、2836〜5183の乱数が抽出された場合には、停止制御は「中止」していない(原告も認めている。)。
A CTゲーム中、0〜16383の乱数のうち、2836〜5183以外の乱数が抽出されると、「ザインバーグ」役、「ブルース」役、「チェリー」役を当選役とする複合役に当選し、遊技者によるストップボタン操作のタイミングでこれらの当選役は入賞が可能となるが、当選役以外の役は回避要素の作動により入賞しない。
B CTゲーム中、複合役に当選した場合に、遊技者によるストップボタン操作のタイミングによっては「ザインバーグ」役、「ブルース」役、「チェリー」役のいずれかに入賞することもしないこともあるが、通常ゲーム中にある当選役に当選した場合でも、当選役が入賞することもしないこともあり、この点でCTゲームと通常ゲームで差異はない。
(オ) 被告製品の作動に関する原告の主張に対する反論
@ 被告製品の作動に関する原告の主張は、無制御を前提にしていないため、充足性を検討する前提として意味がない。
A 原告は、通常ゲーム中の乱数抽選の結果とそれに基づく引込回避要素の作動状況及び入賞の有無とCTゲームにおけるそれを比較して、CTゲーム中に複合役に当選した場合には通常ゲームにおける同一乱数値の場合とリールの停止状況が異なり、通常ゲーム中の制御が中止されていると主張する。しかし、原告の上記主張は、CTゲームと通常ゲームで異なる確率テーブルが使用されていることを無視しており、意味をなさない。
B 原告の主張によれば、停止制御を「中止」している間に乱数抽選を行っていることになるが、そのこと自体矛盾している。
C 被告製品の作動に関する原告の「原則」「例外」という位置付けは根拠がない。結果的に遊技者によるストップボタン操作のタイミングでリールが停止する場合を原則、停止制御によってコマずれが発生する場合を例外と位置付けているにすぎない。通常ゲームでも同様の位置付けは可能である。本件特許発明は、停止制御のメカニズムに関する発明であり、結果としての現象面と混同してはならない。
D また、原告は、遊技者によるストップボタン操作のタイミングでリールの停止位置を決定すること、すなわち即止まりすることが停止制御の中止と考えているようだが、現象面でリールが即止まりするか否かと停止制御のメカニズムとして無制御になっているか否かは別個の問題であり、引込要素、回避要素の作動する制御がなされていることにより、結果として即止まりすることがあったとしても、停止制御を中止していることにならず、制御されていることに変わりはない。被告製品のパンフレットや紹介した雑誌に、「リールが瞬時にストップする」と記載されているからといって、これはCTゲーム中に複合役に当選した場合にリールが瞬時にストップすることが増加することからそのように記載されたにすぎず、制御の中止を意味しない。通常ゲームでも、結果的にリールが瞬時にストップすることは多々ある。
E このように、被告製品においては、リールの停止制御が「中止」することはない。
(カ) 被告製品の充足性
 以上のとおり、被告製品においては、CTゲーム中でも通常ゲーム時と同様に乱数抽選を行い、その結果(停止可能役と停止禁止役をいう)に遊技者のストップボタン操作のタイミングを加味してリールの停止位置を決定しており、リールの停止制御が無制御となることはない。したがって、上記要件を充足しない。
エ 「他のリールに対しては一定の停止制御を行う」について
(ア) 「一定の停止制御」の意義
 「一定の停止制御」とは、「乱数値に応じた停止制御」以外の乱数抽選とは無関係な停止制御をいう。
(イ) 理由
 本件特許発明においては、「乱数値に応じた停止制御」とは別に、「一定の停止制御」という用語が用いられており、内容的にも「乱数値に応じた停止制御」とは異なる制御であることが前提とされている。
(ウ) 被告製品の作動について
 被告製品においては、CTゲーム中でも第1及び第2リールは通常ゲーム時と同様に「引込み・回避組合せ制御」がされており、複合役を設定した関係で複合役内部での優先順位が付いた点以外は、停止制御の内容は全く変わっていない。
(エ) 被告製品の作動に関する原告の主張に対する反論
@ 原告の主張は、CTゲーム中に複合役に当選した場合の説明にすぎず、「特定の条件が達成された時」、すなわちCTゲーム中の説明でない。
A 原告の主張する「一定の停止制御」の内容は、原告の主張する「乱数値に応じた停止制御」の内容と同じであり、原告は両者を混同している。
B 原告が引用する実施例の説明では、乱数抽選による結果に関係なく「特定のシンボル」が例示されているが、原告の被告製品の作動についての説明では、乱数抽選による当選役が問題となっており、両者には根本的な違いがあり、原告は「乱数値に応じた停止制御」と「一定の停止制御」とを明らかに混同している。
 よって、被告製品はいずれも構成要件Bを充足しない。
オ 本件特許発明の作用効果と被告製品の相違
 被告製品においては、常に「引込回避組合せ制御」が行われており、リールの停止位置は一貫して乱数抽選の結果と遊技者のストップボタン操作のタイミングによって決定されており、乱数抽選の結果を無視してされることも、遊技者のストップボタン操作のタイミングのみによって決定されることもない。「乱数値に応じた停止制御」も「無制御」もない。CTゲーム中に乱数抽選の結果によっては引込要素の作動が変化するが、乱数抽選の結果と遊技者のストップボタン操作のタイミングの両者によって決定されており、その一方のみでリールの停止位置が決定されることはなく、多様な「引込回避組合せ制御」の枠内で、異なる確率テーブルを用いて内容を変化させたものである。
 CTの本質は、一般入賞役全部を当選役とする複合役を設定した点にあり、完全制御を基本にしながら一定の条件の下で無制御とする本件特許発明とはその本質が全く異なる。
カ 構成要件Cの「スロットマシン」について
 スロットマシンと回胴式遊技機(パチスロ機)とは明らかに異なる機械であり、被告製品はいずれも構成要件Cを充足しない。
3 争点3(本件特許権に無効事由があり、本訴請求は権利濫用に当たるか)について
(1) 被告の主張
ア 本件特許発明には進歩性がなく、明らかな無効事由が存するから、本件特許権に基づく権利行使は権利の濫用に当たる。
イ 構成要件Aに関し、本件明細書には、従来技術として、「現在使用されているスロットマシンでは、回転しているリールの停止位置は機械の内部で電子的に発生する乱数値に基づいて決定される。」(本件公報1欄22行〜25行)との記載がある。また、構成要件Bのうち、「乱数値に応じた停止制御の中止」に関しては、やはり本件明細書に、「これは、回転しているリールを遊技者が停止ボタンを押したタイミングで停止させるようにした場合には、遊技者の熟練者によってゲームの勝ち負けが決定され」(本件公報2欄3行〜6行)との記載がある。これらから明らかなように、「乱数値に応じた停止制御」も「無制御」も、いずれも本件特許権の出願前に公知の技術である。さらに、構成要件Bのうち「特定の条件が達成された時には予め定めたゲーム数」についてゲーム態様を変化させるという技術も、BBなどにおいて採用されていた技術であり、本件特許権の出願前に公知の技術である。
 このように、本件特許発明を構成する上記各構成は、いずれも本件特許権の出願時に公知の技術であり、本件特許発明は、単にこれらの公知技術を組み合せたものにすぎない。本件特許発明は各公知技術の総和以上の効果が得られるとは認められず、当業者が出願時において極めて容易に推考することができた技術であり、進歩性を欠き、無効である。
(2) 原告の主張
 被告の主張は、侵害論の蒸し返しにすぎず、上記主張が提出された、損害関係の審理の段階においては、もはや許されないものである。
4 争点4(原告が本件特許権を被告補助参加人に実施許諾し、それにより被告は被告補助参加人から再実施許諾を受けたか)について
(1) 被告及び被告補助参加人の主張
 原告は、本件特許権につき、被告補助参加人に対し、再実施権付与付き実施権設定契約を締結し、被告補助参加人は同契約に基づき、被告に対し本件特許権の実施を再許諾したから、被告が本件特許権を実施しているとしても、適法な実施である。
ア 被告補助参加人は、パチスロ機業界において、特許権等を保有する者から再実施許諾権付与付きで実施許諾を得て、パチスロ機製造業者に対して有償で再実施許諾して、その実施料を特許権等の保有者に還元することを業とする会社である。
 現在のパチスロ機の基になるスロットマシンは昭和52年ころ登場し、風営法の認可の下で登場したのは昭和55年ころであるが、そのころから、パチスロ機製造業者の間で、特許権、実用新案権をめぐる紛争が頻発した。そのため、業界におけるその種の紛争を調整するために、昭和59年3月に現在の被告補助参加人代表者であるAを代表者とする日本電動遊技機特許株式会社(後に、日本電動特許株式会社と商号変更)が設立された。その後、同種の業務を行う会社として、平成2年3月には警察庁出身のBを代表者とする全国回胴遊技機特許株式会社が、その2年後には現在の原告代表者であるC(以下「C」という。)を代表者とする電動式特許株式会社がそれぞれ設立されたため、一時は同業3社が鼎立した。この3社がパチスロ機製造業界における上記のような紛争の調整を行ったがうまくいかず、かえって3社が主導権争いを演じることになり、混乱した。このような状態を解消するために被告補助参加人が設立され、特許権等の管理を行う会社を被告補助参加人に一本化することとして、3社は解散した。被告補助参加人には、それまでの上記3社に参加していたパチスロ機製造業者が概ね参加し、原告も、40株を出資して被告補助参加人の株主となった。Cも被告補助参加人の取締役となった。
イ パチスロ機をめぐる特許権等の管理について被告補助参加人の行う方法は、いわゆるパテント・プール方式というもので、特許権等の保有者が、その保有する特許権等を、被告補助参加人に対し、多数のパチスロ機製造業者への再実施許諾権付きで実施許諾するというものである。そして、再実施許諾を受けた業者からの実施料の徴収は、遊技機に貼付する証紙を被告補助参加人が発行し、パチスロ機製造業者が製造台数分の証紙を購入するという方法によりされていた。この方法は、従前の3社で行われていた方法と同じである。Cが代表者を務めていた電動式特許株式会社においても同様の方法が採られていた。この証紙の代金1枚2000円から、1000円を実施料として、特許権等の保有者の側に、特許権等の使用状況を考慮して支払う。特許権等の保有者の側に支払われる実施料の算定は、再実施許諾の対象となる特許権等の個数に応じてされている。
ウ 実施許諾の対象となる特許権等は、出願中のもの及び将来登録されるものも含め、特許権等の保有者が有するすべての知的財産権である。このことを明確に記載した原告と被告補助参加人との間の契約書は存在しないが、以下のとおり、当事者双方及び関係者とも、このことを当然の前提として行動している。
@ 合意書(丙13)
 特許会社一本化に先だって、日本電動特許株式会社(代表者は現在の被告補助参加人代表者)と全国回胴遊技機特許株式会社(代表者B)との間で交わされた合意書である。1項には、日本電動特許と全国回胴遊技機特許は、各自が所有又は管理する工業所有権に関する諸権利(特許権、実用新案権、商標権、その他一切の権利であって、出願中のもの及び将来登録されるものを含む。)について、これらを相互に利用し、自由に実施することができることが合意されている。また、3項には、日本電動特許及び全国回胴遊技機特許に参加する各社は、それぞれ日本電動特許又は全国回胴遊技機特許の発行する従前の証紙を貼ることにより、両社の管理する特許権等を自由に使用し実施することができる旨合意されている(合意書3項)。
A 「特許会社一元化に関する合意書」(丙14)
 従来の特許会社3社の一本化に当たっては、原告及びCは、パチスロ機製造業者の団体である日電協の代表世話人として「特許会社一元化に関する合意書」に署名するとともに、電動式特許株式会社の代表取締役として署名している。
B 発起人会議事録(丙15)
 Cは、被告補助参加人の発起人として、同社の設立に中心的役割を果たしている。
 発起人議事録によれば、被告補助参加人への一元化において、特許権等の保有者、特許会社及び参加会社の相互関係並びに対象となる特許権等の範囲について、従来の方法、範囲を格別変更することは行われていない。したがって、対象となる特許権等の範囲は、現在登録されているものの他、出願中のもの及び将来登録されるものを含むものである。
C 原告発行の「新株式発行並びに株式売出届出目論見書」(丙10)
 同目論見書には、「第3 事業の概況等に関する特別記載事項 2.保有工業所有権の管理について
 当社及びパチスロ機メーカーの多くは、日本電動式遊技機工業協同組合(以下『日電協』という。)に加入しております。日電協の組合員は、自社保有工業所有権の管理運用を、日本電動式遊技機特許梶i以下『日電特許』という。)にて行い、その工業所有権の使用については、日電特許との間で実施許諾に関する契約書を締結したメーカーに認めることになっております。」(8頁)との記載がある。
D 記者会見における発言(丙11)
 丙11は、Cが、パチスロ機業界の業界紙の記者を招いて開いた記者会見(以下「本件記者会見」という。)における録音テープを、原告が反訳したものである(以下「反訳書」という。)。
 Cは、本件記者会見において、日電特許による特許の管理運営についての質問に対して、次のように答えている。
 「もう、管理運営は任せていません。」、「日電特許が許諾を受けて、再許諾を各メーカーにやっていったというのは、過去の流れなんです。ですから、平成9年度までの実績の中では、そういうことがあったということです。」(反訳書3頁1行〜4行)
 「日電特許という存在があるから、誤解をしているんだと思います。あそこに入っていると、パテントの問題はクリアになるんだと。仲間意識みたいな形で、あの存在があるんです。」、「以前はそのとおりだったんです。その延長上からきているということは、多少影響し合っているとは思います。」(反訳書13頁20行〜24行)
E 弁護士松本司の高砂電器産業株式会社宛の書面(丙28)
 同弁護士は、別件東京地方裁判所平成12年(ワ)第3701号事件(実施料(証紙購入代金のこと)返還請求訴訟)及び本件における原告アルゼの訴訟代理人である。丙28の日付は平成9年5月21日であり、その記載内容に照らして、同弁護士が原告の代理人として作成し、高砂電器産業に宛てたものであるが、その中には、「従いまして、実施許諾を受ける会社は、従来どおり、すべての権利の実施が可能で、1台あたり合計2000円の実施料を支払うという、従来の方法と全く変更はないことになります。また、証紙も実施料の徴収も日電特許がするのですから、実際上は変化はありません。」との記載がある。
 丙30は原告が被告その他の実施許諾契約を結んでいた各社に送りつけた「通常実施権設定暫定契約書案」であり、丙29はそれに付されていた書面であるが、これらを参照すると、丙28の上記記載から、本件実施許諾契約関係において、実施許諾が認められる特許権等は、特許権等の保有者の有する特許権、実用新案権、商標権、その他一切の権利で、出願中のもの及び将来登録されるものを含むものであることは明白であり、その契約関係形成の目的に照らして参加者全員(少なくとも本件原告を含む。)が了解していたものである。
エ 原告は、実施許諾の対象は、被告補助参加人と原告との間に締結されている契約書に添付されている工業所有権等目録に記載された権利に限定されると主張するが、誤りである。
 被告補助参加人と原告との間において作成されている契約書に添付されている特許権等の目録は、証紙代金2000円のうち1000円を特許権等の保有者に案分して支払うにつき、算定の対象として基礎ポイントを与えられた特許権等を掲げたものにすぎず、実施許諾の対象を目録記載の特許権等に限定するものではない。したがって、各年度によって変更があるのは当然である。従前実施されていた特許権等(技術)であっても、機種が変更されれば、実施されなくなるということはあるのであり、同様に、機種の変更に伴って、従来実施されていなかった特許権等(技術)が、新たに実施されるようになることもあるのである。それに伴って、案分金額算定の対象となる特許権等も変更されるのである。
 実施許諾の対象となる特許権等は、出願中のもの及び将来登録されるものも含め、特許権等の保有者が有するすべての知的財産権であるからこそ、本件実施許諾契約に参加している各パチスロ機製造業者は、証紙をパチスロ機に貼付して被告補助参加人から再実施許諾を受ければ、特許権侵害問題は発生しないと説明を受けており、これにより、パチスロ機の製造販売に専念できるのである。被告はこれにより、証紙をパチスロ機に貼付してきた。各パチスロ機製造業者は、他のパチスロ機製造業者との間で直接にどのパチスロ機がどの発明を実施しているかなどの協議や交渉を行ったこともない。被告補助参加人発行の証紙に、再実施許諾の対象となる特許権の目録は添付されていないし、被告補助参加人が同目録を作成、公表したこともない。
オ 本件特許権は、昭和63年3月18日に出願され、平成5年10月18日に公告、平成6年7月7日に登録されている。原告が、本件特許発明が各パチスロ機製造業者(再実施権者)によって実施されているから案分額算定の対象とするようにとの申入れをしたのは、平成7年7月であるから(丙20、21)、平成6年3月31日付けの契約書(期間は平成6年4月1日〜平成7年3月31日。甲26)、及び平成8年3月29日付けの契約書(同じく平成7年4月1日〜平成8年3月31日。甲27)の目録に記載されていないのは、当然といえる。
 また、本件特許権は、平成5年10月18日に公告されているのであるから、その時点で被告補助参加人に申入れをすることは可能だったはずであるが、原告がそれをしなかったのは、各製造業者の製造販売する機種が本件特許発明を実施するものでないことを知っていたからである。同様に、平成6年7月7日に登録されているから、その時に申入れをすることもできたはずであるが、原告は、各製造業者の製造販売する機種が本件特許発明を実施するものでないことを知っていたので、申入れをしなかったのである。平成7年7月に上記申入れをしたのは、そのころ各製造業者の製造販売する機種が変更され、原告が、本件特許発明を実施しているといえるのではないかと考えたからである。しかしながら、各製造業者は、その製造販売する機種に本件特許発明を実施しているとは認めず、案分実施料算定の対象とすることに同意しなかった。そこで、被告補助参加人も案分実施料算定の対象としないことにし、原告もこれに同意した。したがって、平成8年4月1日付けの契約書(期間は平成8年4月1日〜平成9年3月31日。甲25)添付の目録には、本件特許権が記載されていないのである。
 原告が平成8年4月1日付けの契約書において、本件特許権を案分実施料算定の対象としないことに同意していたことは、同契約書に基づいて算定された同期間分の案分実施料の支払を受領していることからも明白である。さらに、本件特許権を案分実施料算定の対象としていない平成9年4月1日〜平成10年3月31日の期間についても、原告は、本件実施許諾契約関係が終了したと主張しながら、案分による実施料を受領している。
カ 平成9年初めころから、原告代表者が、パテントプール方式を解消して、参加メーカーと特許権等の保有者との個別契約によることを主張し始め、同年6月11日の被告補助参加人の取締役会、同月18日の株主総会でもこの件が話し合われたが、話はまとまらなかった。それで原告は、パテントプール方式の終了を主張して、特許権侵害訴訟を次々提起しており、本件もその一つである。
(2) 原告の主張
 原告は、本件特許権を実施許諾していない。
ア 実施許諾をした特許権等の範囲は、原告と被告補助参加人の間の実施許諾契約書(甲25)とその添付の目録により一義的に定まる。同契約書1条1項は、「甲(原告。ただし旧商号)は乙(被告補助参加人)に対して、別紙目録記載の工業所有権等について、本契約の条項に従い通常実施権を許諾する。」と定めており、これがすべてである。
イ 仮に、本件特許権も実施許諾の対象に含まれるとすると、本件特許権に抵触する機種は、平成10年3月に初めて市場に登場したので、本件実施契約締結日よりも2年も前に、将来新たに開発するかもしれないパチスロ機が抵触するかもしれない特許につき、原告と被告補助参加人が実施許諾契約を締結することになる。そして、被告補助参加人が、原告に対し、将来使うどうかわからない特許権等について、実施料を1台当たり509円という具体的な額で定め、支払うことを合意したことになるが、このようなことはきわめて不自然である。
ウ 原告は、パチスロ機に関するもの以外にも多数の工業所有権等を有しており、これらが明確な合意によらずすべて実施許諾の対象となるというのでは、プロパテントの時代に逆行する。
5 争点5(原告の損害)について
(1) 原告の主張
 原告は、次のとおり、特許法102条1項に基づき損害賠償を求める。
ア 被告製品の販売台数
 被告による被告製品の販売台数が7779台であることに、争いはない。
イ 実施能力
 被告による被告製品の総販売台数は前記のとおり7779台である。原告の平成10年4月1日〜平成11年3月31日の事業年度のパチスロ機総製造販売台数は27万6928台である。被告の被告製品の総販売台数は、原告のパチスロ機総製造販売台数の約2.8%にすぎないので、原告は、被告製品の総販売台数につき実施能力を有する。
ウ 単位数量当たりの利益の額
(1) 原告の商品の販売価格
 本件において、特許法102条1項にいう「特許権者が当該侵害がなければ販売することができた物」は、本件特許発明の実施品であるところの原告の商品「ウルフエムX」(以下「原告商品ウルフ」という。)及び「チェリー12X」(以下「原告商品チェリー」といい、両者を併せて「原告商品」と総称する。)である。
 原告商品ウルフの平均販売価格は33万3632円、原告商品チェリーのそれは33万5264円である。これは、両商品の全製造台数から算定したものである。両商品の平均販売価格は、33万4267円である。
 (2,201×333,632+1,403×335,264)÷(2,201+1,403)=334,267
(2) 変動経費
 特許法102条1項の「利益」は、限界利益を指すと解すべきであるから、変動経費のみが売上金額から控除されるべきである。
@ 製造原価
 原告商品ウルフの製造原価は9万1463円、原告商品チェリーのそれは8万8983円である。その平均製造原価は9万0498円である。
 (2,201×91,463+1,403×88,983)÷(2,201+1,403)≒90,498
A 広告宣伝費
 原告商品ウルフ及び同チェリーの各機種について費やされた販売促進物品の費用は、それぞれ180万2000円である。1台当たりの金額は1000円である。
 (1,802,000+1,802,000)÷(2,201+1,403)=1,000
B 販売費
 人件費については、営業部門の人件費のうち、「販売インセンティブ」のみが変動経費に該当する。その金額は、原告の損益計算書によれば、10億6531万8328円である。
 そのほか、変動費である経費としては、販売手数料と運搬費があり、その金額は、原告の損益計算書によれば、それぞれ4億2309万0784円と9820万9793円である。販売手数料は原告が直販する場合にのみ生じる費用である。また、販売されたパチスロ機の運送費は、購入者たるパチンコホールが負担するので、運搬費には含まれていない。
 これらを、原告の総売上中、原告商品ウルフ及びBの売上げの占める割合で除すると、1台当たりの金額は、5291円である。
 (1,065,318,328+423,090,784+98,209,793)×(334,267×3,604÷100,240,715,186)÷3,604≒5,291
C ロイヤリティ
 ロイヤリティは、いずれも1台当たり日電協証紙代1365円、日電特許証紙代2000円で、合計3365円である。
 上記@ないしCを合計すると、変動費たる経費の合計は、1台当たり、10万0154円となる。
(3) 1台当たりの利益の額
 上記の金額を前提として「単位数量当たりの利益の額」を計算すると、原告商品ウルフ及び同チェリーの1台当たりの利益の額は平均23万4113円となる。
 334,267−100,154=234,113
エ 損害額
 以上によれば、原告の損害額は、少なくとも18億2116万5027円となる。
 234,113(円)×7,779(台)=1,821,165,027
(2) 被告及び被告補助参加人の主張
ア 「実施の能力」について
 パチスロ機は、風営法との関係で、すべて保通協(財団法人保安電子通信技術協会)の型式試験及び地方公安委員会の型式検定に合格しなければホールが購入することはない。CT機は平成9年末ころに自主規制の規格が整い、その規格に基づいて各製造業者が保通協の型式試験等を受けることが可能となった。そして各製造業者は、CT機の開発を行い、平成10年2月ころから、被告や訴外サミー株式会社(以下「サミー」という。)がCT機の製造販売を開始した。しかし原告はCT機を型式試験に合格させることができず、同年10月中旬ころになってようやく合格させることができた。したがって、同年10月中旬ころまでは、原告に「実施の能力」がなかったことは明らかであるから、原告は、せいぜい特許法102条3項に基づく実施料相当額の請求ができるにとどまる。
 また、原告が実施の能力があったが販売予定がなかったというのであれば、原告商品はいずれも、同年10月中旬以前に販売された被告製品との関係では、「特許権者が当該侵害がなければ販売することができた物」に当たらないことになる。原告商品の販売開始の遅れは、実施の能力がなかったか販売予定がなかったかのいずれかにほかならない。
イ 原告商品ウルフ及び同チェリーについて
 原告商品ウルフ及び同チェリーは、特許法102条1項にいう「特許権者が当該侵害がなければ販売することができた物」に当たらない。パチスロ機は、パチンコホールにおいて、短くて2週間、長くて2か月で入れ替えられており、平均して約1年4か月の間にホールのパチスロ機すべてが入れ替えられるという短命な商品である。したがって、同一時期に販売されているパチスロ機のみが市場で競合し、販売時期が1か月もずれていれば、市場での競合はあり得ないのである。別紙「アルゼ製品・ネット製品月別販売台数一覧」記載のとおり、原告商品の販売が開始された平成10年10月中旬の2か月前である同年8月までに販売された被告製品4846台については市場で競合することがあり得ず、被告製品の需要が原告商品に向かうということがないため、特許法102条1項にいう「特許権者が当該侵害がなければ販売することができた物」に当たらない。
ウ 原告の主張する各費目について
(ア) 平均販売価格、製造原価及び販売費について
 原告商品ウルフ及び同チェリーの平均販売価格、製造原価及び販売費は、原告準備書面(6)と同(14)とで数値が異なっており、信用できない。
(イ) ロイヤルティ
 原告の有価証券報告書記載の支払ロイヤルティ4972円及び組合証紙代1394円の合計6366円がパチスロ機1台当たりの経費となるというべきである。
(ウ) 広告宣伝費
 原告の有価証券報告書に従って、原告の販売した商品1台当たりの広告宣伝費を算出すると、3467円となる。
エ 原告が被告製品の販売数量の全部又は一部を販売できなかったとする事情について
(ア) 市場開拓
 CT機は平成10年2月ころから登場したが、当初市場に認知されておらず、ファンにCT機がいかに面白いかを理解、認知してもらうことが必要だった。被告は、同年2月に開催されたパチンコパチスロ産業フェアにイ号物件を展示して大々的にCT機の広告宣伝を行った。それと並行してファン雑誌、業界紙への広告宣伝、製品の説明ビデオを配布し、パチンコホールに営業マンを派遣してファンに直接CT機の面白さを説明し、CT機が市場に認知・定着されるよう努力を行った。その結果、被告製品が販売できたのである。このような努力を行っていない原告には、原告商品を販売できたとはいえない。
(イ) 価格差
 原告商品がホールに販売される際の価格は35万円が基本で、多少の値引きがされている。この価格は、直販か代理店方式かという販売方式によって差はない。
 被告は、不正改造等の介入余地をなくすために代理店を排除し、業界で唯一定価制を採用する等、流通コストを削って、25万円という低価格を実現している。さらに、被告製品を引き続いて購入する顧客のために、いったん販売した製品を引き取って中身を入れ替えて販売するリフォームシステム(1年間に2回の買換えに限って適用される。)、買換えが2回を超えた場合に適用されるエコノミーシステムなどにより、パチンコホールへの販売価格は定価の半額ほどになる。パチンコホールは、前記のようにたびたびパチスロ機の入替えをしなければならず、他方各製造業者からは年間200もの機種が販売されるため、ホールが自ら、ファンの吸引力に優れていて稼働率が高くなる機械を選ぶことはできない。必然的に同じ製造業者の製品を選ぶことになるが、価格を重視して購入しているのが現実である。ホールが被告製品を購入した最大の要因は低価格にあり、被告製品が販売された数量について、被告製品の2倍から3倍もの価格の原告商品が販売されたということはあり得ない。
 なお、この低価格は、仮に被告製品が特許権侵害品だとしても、そのこととは全く関わりがない。原告商品は他の原告の商品と同じ価格であるし、被告製品も他の被告の製品と同じ価格である。これは、CT機が日電協の自主規制規格品であるからである。
(ウ) 原告商品のシェア
 被告製品と販売時期が重なっていた原告商品についても、被告製品のすべてに代わって原告商品が販売され得たということはない。ホールがパチスロ機を購入するに当たっては、その当時販売されているすべてのパチスロ機から選択するのであり、被告製品の代わりに原告商品を選択する必然性はない。むしろ当時はCT機は認知されておらず敬遠される傾向にあった。平成10年に販売されたパチスロ機は77万5019台であるところ、このうち原告商品の占める割合は3604台でわずか0.465%にすぎない。被告製品と販売時期が重なっていた平成10年10月から平成11年1月までの4か月に絞っても、1.395%にすぎない。このような原告商品のシェアからすると、販売時期を問題にしないのであれば、被告製品が販売されていなかったとしても、被告製品の販売数量7779台のうち0.465%の36台の原告商品が、販売時期を問題にするのであれば平成10年10月以降販売された被告製品2784台のうち1.395%の38台の原告商品が、販売されていたと考えられるにすぎない。
オ 寄与率
 被告製品が本件特許発明の実施品であるとしても、本件特許発明は被告製品のうち付加的な一部分に用いられているにすぎず、また被告製品は基本的部分において本件特許発明以外の多数の特許権等を使用しており、寄与率が参酌されるべきである。
(ア) スペック
 スペックとは出玉率のことであり、遊技機規則にその範囲が定められている。コイン払出枚数に大きく影響する要素としては、従来から同規則別表5にあるとおり、通常ゲーム中の小役、RB、BBなどがあったが、スペックはこれらの要素をどのような確率で組み合せるかによって決定される。CTは、BB中の通常ゲームと同様に、小役複合役の当選確率を大幅に上げた通常ゲームを規定回数行う期間であり、RBなどの他の要素と組み合せて、CT機におけるスペックが決定されることになる。ホールがパチスロ機を機種選定するに当たっては、スペックも1つの判断材料となるが、上記の要素がどのような確率で組み合わされているかが重要であり、CTの有無によってスペックの優劣が決定されるわけではない。このように、CTは被告製品の全体にかかるものでなく、スペックの構成要素の一部にすぎない。
(イ) パチスロ機1台に使用されている特許権
 パチスロ機1台には多数の特許権が使用されており、例えば被告補助参加人のパテントプールのリストには、各製造業者等の保有する特許権等が合計で100件記載されている。被告製品には、本件特許権を除き、20件の特許権等が使用されている。したがって、本件特許権の被告製品における寄与率は5パーセントを上回ることはない。
(ウ) デザイン、キャラクター、リール絵柄、照明、音楽等
 パチスロはファン層が10代、20代に拡大していることから、パチスロ機のデザイン、見た目のインパクトが非常に重要な構成要素となっている。認知度の高いキャラクターとタイアップした機種が増加し、また、音響効果も重要となっている。同時期に登場したCT機の中で最も多い台数が販売されたサミーの「ウルトラマン倶楽部3」は、ウルトラマンという親しみやすいキャラクターを用いたほか、カラータイマーでCT中の残りゲームが少ないことを知らせるなど、デザイン、演出面で最も優れている。被告製品も、これほどではないが、イ号及びロ号物件では、コミック雑誌に登場するキャラクターを採用し、スピンラックインジケーターというランプでCT突入の擬似抽選をしたり、CT中の純増枚数を表示するなど、CTに対するメダル獲得の期待を盛り上げる演出が施されている。また、派手な照明・色彩を施し、リーチ目は一直線でわかりやすくしてあり、ロ号物件では目押しをより容易にするため、CT中に狙うべき絵柄(チェリー)を2コマ並べ、透過光を施すなどそれなりの演出、デザインが施されている。ハ号物件でも、カボチャの親しみやすいキャラクターを用い、CT中に狙うべき絵柄(ハロウィン)を3コマ並べ、リール絵柄の幅を拡大し、目押しをさらに容易にするなどのほか、ロ号物件と同様の演出を施している。
 これに対し、原告商品はいずれもキャラクターを使用しておらず、原告商品ウルフが単調なブルー、同チェリーが単調な赤を基調としたデザインで、ファンに対してアピールする要素がなく、ホール内で他の機種と並べて設置された場合には地味で、それだけで集客力を下げてしまうおそれがある。リーチ目の掲示はあるが、出現は少なく、目押しをしやすくするには、被告のロ号物件をまねて狙うべき絵柄(チェリー)を2コマ並べているだけで、他には特に演出も施されていない。このような製品だから、原告のシェアとブランド力をもってしても、イ号及びロ号物件の登場後、ハ号物件の登場前に原告商品ウルフで2201台、同チェリーで1403台しか販売されていない。
(エ) CT機について
 CT機は平成10年に新しく市場に登場した機種であるが、スペックの構成要素の一部が他の機種と異なるだけで、通常のパチスロ機と異ならない。それゆえ、パチスロ機の市場の中で、特にCT機のみの市場が形成されるということもなく、CT機の販売状況を見ても、販売状況は不規則であるということができる。
 パチスロはメダルの獲得を目指すものであるから、メダルの大量獲得につながらなければ意味がない。リールの制御方法を変化させて技術介入性が高まったところで、メダルの大量獲得につながらなければ、遊技者にとって、BBやRBなどの大量獲得と比較して全く魅力がないことになる。CT機がメダルの大量獲得を前提にしていたことは明白である。CTはBBやRBに次ぐいわば第3のボーナスともいえる。
 原告は、雑誌記事を根拠に、被告製品がCT機だから販売できた、CT機だからホールが購入したと主張するが、次々と新機種が販売されるため、雑誌記事もエスカレートする傾向にあり、誇大表現がされている。単にCT機だから販売できたというのでは、数多くあるCT機の中から被告製品を選択した理由を説明することはできない。原告は、スペック、デザイン、ゲーム性を中心に商品価値が形成され、メーカーのブランド力、取引実績、費用対効果等を総合検討のうえ、ホールが導入機種を決定するという現実を無視している。
 なお、原告商品が販売された後、業界シェアわずか3.4%の被告が、ハ号物件を2792台販売したこと、また平成11年3月から販売されたエレクトロコインジャパン社の「アステカ」が10万台もの大ヒットになったことからも、CT機に対する需要をサミー又は被告(殊にイ号、ロ号物件)が奪い尽くしたとはいえないことは明らかである。
カ 集団的契約関係に基づく主張
 原告、被告補助参加人及び被告補助参加人に参加している各製造業者による集団的契約関係は現在も存続している。特許権等の保有者は、被告補助参加人との実施許諾契約関係においては、その所有する特許権等について案分実施料を支払うように請求できるのであり、話合いがまとまらなかった場合は、裁判所に各製造業者が当該特許権を実施しているかの判断を求め、案分実施料を支払うように求めることができるというべきである。各製造業者メーカーが当該特許権を実施しているということになれは、当該特許権について案分実施料の支払を請求することができるのである。
 本件特許権についても同様である。本件特許権が各製造業者によって実施されているということになれば、本件特許権を案分実施料算定の対象とすべきだったということになるのである。
 本件においては、仮に被告製品が本件特許権に抵触するものであっても、被告補助参加人を中心とする上記の実施許諾契約関係の下においては、原告は、同契約関係に基づいて特許権等の保有者に支払われる案分実施料を得ることができるだけである。同契約関係の下において支払われる案分実施料が契約関係外において支払われる実施許諾料よりも低廉であるとしても、自己の意思により契約関係を形成した以上、その約定に従うのは契約法上当然である。契約関係にありながら契約外の基準による支払を求めるのは失当である。また、本件実施許諾契約関係の下において、原告アルゼに案分実施料を支払うのは被告補助参加人である。
 したがって原告は、被告補助参加人に対し、本件特許権の分の案分実施料の支払を求め得るにとどまる。被告に損害賠償を求めるのは失当である。
 仮にそうでないとしても、このような状況下で、パテントプールの構成員である各製造業者には、一部の特許権がパテントプールから除外されていることについての何らの通知もされていないから、被告が本件特許権が実施許諾されていると信ずることについて過失はない。したがって、被告に損害賠償責任はない。
キ 権利濫用
 本件においては、原告がパテントプールの終了に固執し、被告補助参加人との協議を拒んでいたため、本件特許権が実施許諾されているか否かにつき協議の機会がなく、明確な実施料の合意(実施許諾)がされなかったにすぎないのだから、上記実施許諾契約関係の下においては、原告が、同契約関係において請求可能である案分実施料を超えて特許法102条1項に基づき損害賠償を請求することは権利濫用に当たるというべきである。
(3) 原告の再反論
ア 特許法102条1項にいう実施の能力は潜在的能力をもって足りる。被告が被告製品を販売していた侵害期間中に、原告は本件特許権の実施品であるパチスロ機を販売する予定があり、実際に上記侵害期間に一部重なるほど極めて近接した時期に原告は原告商品を製造・販売していたのであるから、実施の能力を有していたというべきである。型式試験の問題も無関係な事柄である。
イ 被告は、本件特許権は被告製品全体の付加的な一部にのみ用いられているにすぎないこと、被告製品は基本的部分において多数の特許権を使用していることを根拠に寄与率5%を上回らないと主張する。しかし、CT機は、本件特許権を実施しなければ実現不可能な機種であるから、CT機能はまさにCT機の商品価値全体を構成するものである。
ウ 被告製品に他に多数の特許権が使用されていたとしても、本件特許権以外の特許権が被告製品の商品価値の一部を構成するものでなければ、寄与率として考慮する必要がない。
エ 被告は、被告製品の商品価値や価格、パチスロ機の商品サイクル等について縷々主張するが、これらの事実は、被告が本件特許権を侵害して侵害物件を譲渡する際の事情にすぎない。被告は、CT機を1台たりとも原告の許諾なくして日本国内で販売することができなかったのであり、被告の主張はCT機が原告しか販売することのできないものであるという特許法102条1項の大前提を無視した議論であり、失当である。
オ CT機能は、遊技者の技術介入性を認めることに特徴を有するところ、被告の主張する、目押しのしやすいリール設計などの事実は、このCT機能を生かすための企画、設計であり、CT機能が被告製品の顧客誘因力そのものであることを裏付ける。「大量メダル獲得可能な機種であったこと」も同様である。
 被告の主張する事実は、いずれも本件特許権の商品価値とは全く関わりがない。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(被告製品が構成要件Aを充足するかどうか。すなわち、被告製品がリールを乱数値に応じて停止するように制御しているか)について
(1) 本件明細書には、従来技術の説明として、「現在使用されているスロットマシンでは、回転しているリールの停止位置は機械の内部で電子的に発生する乱数値に基づいて決定される。すなわち、リールの回転が停止した時には乱数値に応じたシンボルの組合せが表示されるようにリールの停止制御が行われる。」(本件公報1欄22行〜2欄2行)、「完全に乱数値でリールの停止を決定するスロットマシンでは、どの遊技者がゲームをしても、その結果としてのコイン払い出し率は同じで、遊技者の熟練度が高くなればなるほどその技術が反映しない結果となり、遊技に対する魅力がそがれてしまう。」(同2欄11行〜18行)という記載があり、これらの記載からは、一見、本件特許発明は、発生した乱数値に基づいて完全にリールの停止位置が決定される装置であるかのようにも、見える。
 しかし、他方、本件明細書には、本件特許発明の実施例として、「上記の『大ヒットフラグ』が立っていない場合又は所定ゲーム回数に達した場合には、通常のリール駆動及び停止制御を行う。‥(中略)‥各ストップボタン5L、5C、5Rがオンになった時、上記の判定した乱数値に応じたシンボルが各表示窓の中央表示位置から4コマ以内にあれば、そのシンボルが表示されるように各リール3L、3C、3Rを停止させる停止制御を行う。」(同7欄12行〜26行)との記載もあり、シンボルが4コマ以内にあるときには引込処理を行うことが記載されている。そうすると、「リールを乱数値に応じて停止するように制御する制御装置」とは、発生した乱数値で完全にリールの停止位置が決定される装置のみならず、発生した乱数値に応じたシンボルが所定コマ数以内の位置にあれば、そのシンボルが表示されるようにリールを停止させる装置、すなわち所定コマ数以内の引込処理を行う装置も含まれると解するのが相当である。
 また、この乱数値に応じた停止制御において、所定コマ数以内の引込処理及び回避処理を行うことは、特開昭59−186580号公報(甲9)にも記載されており、本件特許権の出願時には公知の技術であったものであり、この点に照らしても、上記のように解するのが相当である。
(2) 前記争いのない事実における別紙ハ号物件説明書の第4図によれば、被告製品はいずれも、通常ゲームでは、3つのリールすべての停止について、5コマ以内の引込処理を行っているから(回避処理も行っており、乱数で抽選された以外の入賞役が成立することはない。)、リールを乱数値に応じた停止制御を行っているということができる。
 したがって、被告製品はいずれも、構成要件Aを充足する。
 被告は、構成要件Aを、乱数による抽選結果のみによりリールの停止位置が決定される制御装置と解し、5コマ制御を行う被告製品がこれを充足しないと主張するが、上記のとおり、所定コマ数以内の引込処理(及び回避処理)を行うことは公知技術であり、このような処理をすることも「乱数値に応じた停止制御」に含めて解すべきものである。被告の主張は、採用できない。
2 争点2(被告製品は構成要件Bを充足するか)について
(1) 「遊技中特定の条件が達成された時」について
 前記争いのない事実における別紙ハ号物件説明書によれば、被告製品は、通常ゲームにおいて、BBに当選し、かつCTにも当選した場合、BBゲームが終了した後に自動的にCTが開始する。これは、本件特許発明の「遊技中特定の条件が達成された時」に該当するということができる。なお、CTゲームへの移行が「遊技中特定の条件が達成された時」と捉えることができること自体は、被告も認めるところである。
(2) 「他のリールに対しては一定の停止制御を行う」について
ア 「他のリールに対しては一定の停止制御を行う」の意義について
 本件明細書には、「まず、第1ストップボタン5Lがオンしたとき第1表示窓2Lの中央表示位置から4コマ以内に特定のシンボル(例えばオレンジ)があれば、そのシンボルが表示されるように第1リール3Lを停止させる。次に、第2ストップボタン5Cがオンしたときは、やはり第2表示窓2Cの中央表示位置から4コマ以内に第1表示窓2Lに表示されているシンボルと同じものがあれば、そのシンボルが入賞ライン上に表示されるように第2リール3Cを停止させる。‥(中略)‥すなわち、第1リールと第2リールについてはある程度の停止制御を行い」(本件公報6欄26行〜39行)との記載がある。
 ここには、特定の入賞役の絵柄を有効ライン上に4コマ以内で引込処理するような、停止制御をすることが記載されている。そうすると、「他のリールに対しては一定の停止制御を行う」とは、乱数値に応じた停止制御を中止するリール以外のリールについては、「乱数値に応じた停止制御」ではないが、特定の入賞役の絵柄を有効ライン上に引込処理するような、停止制御をすることを意味していると解される。
イ 被告製品の作動について
 弁論の全趣旨によれば、被告製品は、例えばイ号物件では、CTゲーム中、0〜16383の乱数のうち、2836〜5183以外の乱数が抽出されると(85.7%の確率)、第1リール及び第2リールは、「ザインバーグ」役、「ブルース」役、「チェリー」役の順でこの絵柄が有効ライン上に停止するように4コマ以内の引込処理を行っている。他方、2836〜5183の乱数が抽出されると(14.3%の確率)、すなわち、BB役、RB役、RP役の場合は、乱数値に対応する絵柄に4コマ以内の引込処理を行っており、乱数値に応じた停止制御を行っているが、これは例外であって、付加的な構成にすぎないと考えられる。すなわち、BCについては、これに当選するとCTが終了し、RBについては、これに当選するとCTが中断するから、これらをCT中と同等に考えることはできないし、RPについては、前記第3(争点に関する当事者の主張)2(1)ウ(イ)Aに掲記した遊技機規則を遵守するために必要とされた例外であるから、やむをえないものであって、これら例外があることによって、「停止制御を中止」していない、ということはできない。なお、ロ号及びハ号物件もこれと同様であるが、ロ号及びハ号物件にはRB役はないので、RB役に関する例外は存しないということになる。
ウ したがって、被告製品は、CT中においては、原則として第1及び第2リールについては、通常ゲームの乱数値に応じた停止制御とは異なる、特定の入賞役の絵柄を有効ライン上に停止するように引込処理を行っている。これは、「一定の停止制御を行う」の要件に当たるということができる。この点は、被告による被告製品の構成の特定によっても変わりがない。
(3) 「複数のリールの一部についてのみ前記乱数値に応じた停止制御を中止」について
ア 「停止制御を中止」の意義
 本件明細書には、実施例として、「この時は、所定のゲーム回数(例えば10ゲーム)の期間、回転リールの停止制御を中止する。すなわち、遊技者がストップボタン5L、5C、5Rを押したタイミングでリールの回転を停止させるようにする。」(本件公報5欄17行〜21行)、「そして、第3リール3Rの停止については制御せず、第3ストップボタン5Rがオンしたタイミングで停止させる。すなわち、‥(中略)‥第3リールについては全くフリーに(遊技者によるストップボタン操作のタイミングで)停止させる。」(同6欄35行〜41行)との記載がある。
 これら記載からすると、上記要件は、リールを遊技者によるストップボタン操作のタイミングで停止させることと考えられる。
 さらに、上記1に記載したように、構成要件Aの「乱数値に応じた停止制御」とは、所定コマ数(例えば4コマ)以内の引込処理を含むと考えられるから、この要件の「停止制御を中止」は、リールの停止制御において、乱数値に対応する絵柄の所定コマ数以内の引込処理を行わないことをも意味すると解される。
イ 被告製品について
 弁論の全趣旨によれば、被告製品は、例えばイ号物件では、別紙イ号物件説明書表4によれば、CTにおいて、85.7%の確率({16383−(5183−2836)}÷16383×100)で、0〜16383の乱数のうち2836〜5183以外の乱数が抽出されると、第3リールについても、いかなる絵柄の引込制御も行うことなく停止する。すなわち、各リールは、第3リールについて、下記の例外的に回避処理が必要な場合を除いて、ストップボタンを押した時点の最短停止絵柄で即止まりする。
 2836〜5183の乱数が抽出された場合(14.3%の確率。)、すなわちBB、RB及びRPの場合は、乱数値に対応する絵柄に4コマ以内の引込制御を行っており、乱数値に応じた停止制御を行っているが、これは上記(2)イに記載したのと同様な例外であって、付加的な構成にすぎないと考えられる。
 この点は、ロ号物件及びハ号物件においても同様である。この点は、被告による被告製品の構成の特定によっても変わりがない。
 なお、ハ号物件のリーフレット(甲19)においても、「CT中は最後(3番目)に止めるリールが瞬時にSTOP!」などと記載されており、第3リールがストップボタンを押したタイミングで停止することが前面に打ち出されていることが認められる。
ウ 被告は、被告製品においては、BB中の通常ゲーム、ボーナスゲームあるいはCT中のいずれも、通常ゲームと同様に乱数値を抽出してその乱数値に応じて停止制御が行われており、原告が主張するある特定条件においても、他の条件の場合と同様の停止制御を常に行っているので、停止制御の中止をしていないと主張する。また、「他のリールに対しては一定の停止制御を行う」との「停止制御」とは、乱数を用いない停止制御を指すところ、被告製品においては、3つのリールは一貫して乱数を用いた停止制御がされており、乱数を用いない停止制御がされることはないと主張する。
 しかしながら、上記イに認定したように、被告製品は、CT中は、例えばイ号物件では、0〜16383の乱数のうち2836〜5183以外の乱数が抽出されると、第1リール及び第2リールについては、前記のような引込制御のみを行い、第3リールについては、引込制御を行うことなく、例外的な回避処理を除いて、ストップボタンを押した時点の最短停止絵柄で即止まりするのであって、これは他のリールに対しては一定の制御を行い、一部のリールについては制御を中止したものということができる。被告の主張は、採用し難い。
 加えて、停止制御の中止については、被告製品はいずれも、CT機であることを売り物にしているところ、日電協より警察庁生活安全局生活環境課宛の文書(甲11)の「1 概要」において、CTの作用効果について、「これにチャレンジタイム(CTと称します。)という遊技者がより技量を発揮できる新しい方式を採用させていただきたい。この方式の発生条件は、役物連続動作増加装置(BB)の作動終了等3ヶ所を契機として、すべての回胴、若しくは一部の回胴を無制御にして遊技者の停止ボタンの操作によってBB、役物連続作動装置(RB)、役物(SB)及び再遊技以外の入賞図柄を有効ライン上に揃えることができる遊技をおこなえるものであります。」とある。さらに、「3 内容」において、「ウ 第三停止を無制御にする場合」「(ア) 第一及び第二停止の回胴を引込み制御、第三停止の回胴を無制御とする」「d 第三停止の回胴の停止ボタンが操作されると、その時点で回胴を停止させます。 ただし、BB、RB、SB及び再遊技は抽選を行うため、これらの作動図柄が入賞有効ライン上に揃わないように制御を行います。」とあり、被告製品はこのdの方式(No.4の方式)であると考えられる。このことからも、被告製品は、CT中においては、CT中は原則として第1リール及び第2リールについては引込制御を行い、第3リールについては、無制御にしているものであると認められ、上記被告の主張は採用できない。
(3) 「予め定めたゲーム回数分」について
 被告製品は、例えばハ号物件では、被告の別紙ハ号物件説明書の「4 コインの払出」(3)で、「チャレンジタイムはゲーム数が80ゲームを超えた場合、コインの純増枚数が200枚を超えた場合又は抽出された乱数値が『ビッグボーナス』役の範囲であった場合に終了し、通常ゲームに戻る。」となっており、予め定められた80ゲームで、CTが終了する。このゲーム数は、イ号物件では90ゲームで、ロ号物件では60ゲームである。したがって、被告製品においては、いずれも予め定めた上記回数でチャレンジタイムが終了するのであって、上記要件を充足する。ゲーム回数以外の要因でCTが終了することは、この充足性に影響しないというべきである。
 以上(1)ないし(3)により、被告製品は構成要件Bを充足する。
(4) 構成要件Cについて
ア 本件明細書には、「代表的な遊技機の1つであるスロットマシンは、遊技者のスタート操作で複数のリールを回転させ、停止ボタン操作によりそれらの回転が停止した時各リールに対応する表示窓に表示されるシンボル(図柄)が特定の組合せ(当たり)になると所定枚数のコインを払い出すもの」(本件公報1欄17行〜22行)との記載がある。ここにいうような定義を充たすものは本件特許発明にいう「スロットマシン」であるということができる。
イ 被告製品は、例えばイ号物件についていえば、被告の答弁書別紙イ号物件説明書に、「遊技者がレバースイッチを叩くと、リール3L、3C、3Rが回転を開始し、ストップボタンスイッチ5L、5C、5Rを各押すと、停止制御手段16が各リール3L、3C、3Rを停止させる。リール3L、3C、3Rが停止すると、入賞ライン上に当選役絵柄が並んで入賞しているか否かが入賞判定手段18によって判別される。」(同説明書の三「被告製品イの作動」2)、「‥‥リール3L、3C、3Rが停止すると、入賞判定手段18により、有効ライン上に停止した図柄の揃いに対して入賞判定テーブル17に基づく入賞判定が行われ、入賞していれば、右記2で説明した入賞役に対する枚数のコインが払い出される。」(同じく三「被告製品イの作動」4「コインの払出」)と記載されている。これが上記の「スロットマシン」であることは明らかである。ロ号及びハ号物件も同様である。したがって、被告製品は構成要件Cを充足する。
 以上によれば、被告製品はいずれも、本件特許発明の技術的範囲に属するものと認められる。
3 争点3(本件特許権に無効事由があり、本訴請求は権利濫用に当たるか)について
 被告は、本件特許発明が公知技術の寄せ集めであり、本件特許権は出願時の公知技術から当業者が容易に推考し得たものであるから進歩性がなく無効であると主張する。
 被告は、本件特許発明における「乱数値に応じた停止制御」、(「乱数値に応じた停止制御を中止」して)「無制御」とすること、「遊技中特定の条件が達成された時」に「予め定めたゲーム回数分」ゲーム態様に変化を付けること、はいずれも、本件特許権の出願時に公知の技術であったと主張する。しかし、被告からこの点に関する立証は一切されておらず、本件全証拠によっても、これらが本件特許権の出願時に公知の技術であったとは認められない。また、発明は、各構成部分が有機的に結合して所定の作用効果を生み出すものであるから、仮に特許発明の構成部分のそれぞれは公知の技術であったとしても、その組合せに従来技術にない新たな作用効果を創出することがあり得るものである。発明の構成部分が公知技術であることから直ちに発明自体がその総和を出ないものであるとして本件特許権の無効をいう被告の主張は、この点からも、失当である。
4 争点4(原告が本件特許権を被告補助参加人に実施許諾し、それにより被告は被告補助参加人から再実施許諾を受けたか)について
(1) 前記争いのない事実に証拠(甲6ないし8、甲25ないし27、乙10ないし21、丙2、丙3、丙5ないし38、丙42ないし47。書証の枝番号は省略する。)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
ア 被告補助参加人は、パチスロ機業界において、パチスロ機等に関する特許権等につき、これを保有する者から再実施許諾権付きで実施許諾を得た上で、同業界の製造業者に対して有償で再実施許諾し、その実施料を特許権者等に還元することを主たる業務としている。原告は、パチスロ機の製造を行うとともに、本件特許権を始めとするパチスロ機関連の多数の特許権等を保有している。
 パチスロ機には、多数の特許権等が用いられており、現在のようなパチスロ機が登場して以来、特許権等の侵害の問題をどのように解決するかがパチスロ機製造業界における大きな課題であった。そのため、被告補助参加人のような業種の会社が早くから登場し、特許権等の紛争の解決に当たってきた。そして、一時はこの種の会社三社が鼎立したこともあったが(そのうち1社は、原告代表者であるCが代表者を務める電動式特許株式会社であった。)、三者間で主導権争いを演じるのみで、問題の適切な解決に至らなかった。被告補助参加人は、このような状態を解決して特許権等管理会社を一元化する目的で、平成5年に設立された。
イ 被告補助参加人の調整方法は、いわゆるパテントプール方式というものである。被告補助参加人に参加している特許権等の保有者は、少なくとも一定数の特許権等を拠出し、被告補助参加人に対して再実施許諾権付きで実施許諾をする。この契約は書面で行われており、毎年4月1日から翌年3月31日まで対象期間を1年間として締結されているが、契約書所定の解除事由その他契約を継続し難い特段の事由のない限り契約の更新を拒否できないとの条項が置かれており、毎年更新されている。
 被告補助参加人に参加しているパチスロ機製造業者は、被告補助参加人が上記のような契約により保有者から実施許諾を受けている特許権等につき、被告補助参加人から再実施許諾を得て、これを実施する。具体的には、パチスロ機製造業者は、被告補助参加人から1枚2000円で証紙を購入し、これをその製造に係るパチスロ機に貼付するものであるが、各パチスロ機製造業者がどの特許権等を使用しているかは、主として各製造業者の申告によっている。保有者から実施許諾された特許権等のうち具体的にどの権利が使用されているかは、各製造業者と特許権等の保有者の双方が参加する被告補助参加人の委員会で裁定される。被告補助参加人は、上記申告等に基づき、特許権等の使用実績により、上記2000円の半分の1000円を財源として、個別の特許権等の保有者に対する配分額を決定している。
 本件特許権は、原告と補助参加人との間の平成8年4月1日作成の契約書(対象期間は平成8年4月1日から平成9年3月31日。甲25)の目録にも、それ以前の契約書の目録にも記載されておらず、被告補助参加人から原告に対して本件特許権の実施料の支払がされたことはない。
 各パチスロ機製造業者は、被告補助参加人から証紙を購入して貼付している限り、自己の製造するパチスロ機に用いられる特許権等については被告補助参加人から再実施許諾されているものとして、行動していた。被告も、被告補助参加人から上記証紙を購入して、被告製品に貼付していた。
ウ 原告は、被告補助参加人が再実施許諾している特許権等につき、原告がその多くを保有しているにもかかわらず、原告に対する実施料の支払額が低いと考え、これに不満を抱いていた。また、パチスロ機製造業者がどの特許権等を使用しているかが、主としてパチスロ機製造業者の自己申告によっているため、特許権等の保有者の側では自己の有する特許権等が使用されていると考えていても、製造業者からの申告がされない限り被告補助参加人が実施料の支払をしないことにも不満を抱いていた。そこで、平成9年6月にパチンコ機製造業者の間での同様のパテントプール制度につき、公正取引委員会から独禁法違反の勧告がされたことを契機に、受取実施料の額を増やすことや権利関係を明確にすることを企図して、被告補助参加人のパテントプール方式によるのでなく、個々の特許権等保有者がパチスロ機製造業者との間で個別に直接契約を締結する方法に切り換えるべきであるとの持論を展開するようになった。そして、被告を始めとするパチスロ機製造業者に対して、個別の直接契約の締結を申し入れるものとして、「通常実施権設定暫定契約書案」を送付した。
エ その後、原告は、被告補助参加人との間の再実施許諾権付き実施許諾契約が平成9年3月31日をもって合意解除により終了したと主張するようになり、その結果、原告の保有する特許権等については、もはや被告補助参加人に実施許諾していないとの見解を主張している。このため、原告と被告補助参加人間の契約書は、平成8年4月1日付けのもの(対象期間は平成8年4月1日〜平成9年3月31日)以降は作成されないままとなっている。そして、原告は、原告の保有する本件特許権を被告のイ号製品が使用していると考えたことから、被告に対し、本件特許権を使用しているかどうかを問い合わせた。これに対して被告は、使用していない旨回答した。そこで、原告は、被告に対して、本件訴訟を提起した。
(2) 上記認定事実を前提として判断するに、当裁判所は、実施許諾契約が存在することにより被告の本件特許発明の実施は適法であるとの被告及び被告補助参加人の主張は、採用できないものと考える。その理由は、次のとおりである。
ア まず第1に、原告の主張するように、原告が被告補助参加人との間で締結した実施許諾契約書においては、1条1項に、「甲(原告。ただし、旧商号)は乙(被告補助参加人)に対して、別紙目録記載の工業所有権等について、本契約の条項に従い通常実施権を許諾する。」と定められており、これは平成6年3月31日付けの契約書(対象期間は平成6年4月1日〜平成7年3月31日)、平成8年3月29日付けの契約書(同じく平成7年4月1日〜平成8年3月31日)、平成8年4月1日付けの契約書(同じく平成8年4月1日〜平成9年3月31日)のすべてに共通している。同条項は、実施許諾の対象となる特許権等が、同契約書添付の目録の範囲に限定されることを明らかにしている。本件特許権は、昭和63年3月18日に出願され、平成5年10月18日に出願公告、平成6年7月7日に設定登録されているのだから、仮に実施許諾の対象となっていたのであれば、平成6年3月31日付けの契約書はともかく、平成8年3月29日付けの契約書及び同年4月1日付けの契約書の目録には記載されていてしかるべきである。しかるに、上記の各契約書の目録に記載されていないのであるから、本件特許権が実施許諾の対象となっていたと認めることはできない。
 被告及び被告補助参加人は、実施許諾の対象となる特許権等は、出願中のもの及び将来登録されるものも含め、特許権等の保有者が有するすべての知的財産権であると主張する。しかしながら、被告及び被告補助参加人が主張することは、上記契約書の明文に明らかに反するものである。また、被告及び被告補助参加人が主張するような内容を記載した契約書、覚書、あるいは議事録といった書面は、一切存在しない。上記認定の被告補助参加人設立の経緯に照らしても、パチスロ機製造業界において特許権等は重要な意味を有していたものであり、そのような重要な権利について、被告及び被告補助参観人の主張するような義務を保有者に負担させるのであれば、何らかの書面が作成されているのが当然であり、この点に照らしても、被告及び被告補助参加人の上記主張は採用することができない。
イ また、被告及び被告補助参加人が主張するように、被告補助参加人と原告との間で作成されている契約書に添付されている特許権等の目録が証紙代金の一部を特許権等の保有者に案分して支払うにつき算定の対象として基礎ポイントを与えられた特許権等を掲げたものであるとしても、上記認定のように、各パチスロ機製造業者がどの特許権等を使用しているかは、各製造業者の申告によっており、被告補助参加人はこの申告に基づいて特許権等の保有者に対する配分額を算定していたものである。そして、本件特許権については、被告その他の各製造業者から、これを実施している旨の申告がなく、本件特許権を対象とする実施料の案分支払もされていなかったというのである。被告自身も、被告補助参加人に対し、本件特許権を実施している旨の申告をしておらず、原告からの本件特許権を使用しているのではないかとの問い合わせに対し、使用していない旨回答していた。そして、本件訴訟においても、主位的には、本件特許権を実施していないと主張して争っている。
 このような事実関係の下において、本件特許権について、被告補助参加人が実施許諾を受け、被告が再実施許諾を受けたとは、到底認定することができない。本件特許権について実施許諾がされたといえるためには、上記の事実関係の下においては、少なくとも、被告の側からの本件特許権を実施している旨の申告があり、本件特許権が原告に支払われる案分実施料の算定に組み込まれていたことを要するものというべきである。
 以上によれば、本件特許権につき被告が被告補助参加人を介して実施許諾を受けていた旨の、被告及び被告補助参加人の主張は、採用することができない。
5 争点5(原告の損害)について
(1) 特許法102条1項の趣旨について
 本件において、原告は、特許法102条1項に基づく損害賠償を請求している。
 特許法102条1項は、特許権者が故意又は過失により自己の特許権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは、その譲渡した物の数量に、特許権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、特許権者の実施の能力を超えない限度において、特許権者が受けた損害の額とすることができる旨を規定する。
 特許法102条1項は、排他的独占権という特許権の本質に基づき、特許権を侵害する製品(以下「侵害品」ということがある。)と特許権者の製品(以下「権利者製品」ということがある。)が市場において補完関係に立つという擬制の下に設けられた規定というべきである。すなわち、そもそも特許権は、技術を独占的に実施する権利であるから、当該技術を利用した製品は特許権者しか販売できないはずであって、特許発明の実施品は市場において代替性を欠くものとしてとらえられるべきであり、このような考え方に基づき侵害品と権利者製品とは市場において補完関係に立つという擬制の下に、同項は設けられたものである。
 このような前提の下においては、侵害品の販売による損害は、特許権者の市場機会の喪失としてとらえられるべきものであり、侵害品の販売は、当該販売時における特許権者の市場機会を直接奪うだけでなく、購入者の下において侵害品の使用等が継続されることにより、特許権者のそれ以降の市場機会をも喪失させるものである。
 したがって、同項にいう「実施の能力」については、これを侵害品の販売時に厳密に対応する時期における具体的な製造能力、販売能力をいうものと解することはできず、特許権者において、金融機関等から融資を受けて設備投資を行うなどして、当該特許権の存続期間内に一定量の製品の製造、販売を行う潜在的能力を備えている場合には、原則として、「実施の能力」を有するものと解するのが相当である(また、侵害者が侵害品を市場に大量に販売したことにより、特許権者が権利者製品の製造販売についての設備投資を差し控えざるを得ない場合があることを考慮すれば、同項にいう「実施の能力」を上記のように解さないと、特許権者の適切な救済に欠ける結果となろう。)。
 特許法102条1項にいう「侵害の行為がなければ販売することができた物」とは、侵害に係る特許権を実施するものであって、侵害品と市場において排他的な関係に立つ製品を意味するものである。
 上記のとおり、「実施の能力」が、必ずしも侵害品販売時に厳密に対応する時期における具体的な製造販売能力を意味するものではなく、侵害品の販売により影響を受ける権利者製品の販売が、侵害品販売時に対応する時期におけるものにとどまらないことに照らせば、同項にいう「侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額」についても、侵害品の販売時に厳密に対応する時期における具体的な利益の額を意味するものではなく、侵害品の販売により影響を受ける販売時期を通じての平均的な利益額と解するのが相当であり、また、「単位数量当たりの利益の額」は、仮に特許権者において侵害品の販売数量に対応する数量の権利者製品を追加的に製造販売したとすれば、当該追加的製造販売により得られたであろう利益の単位数量当たりの額(すなわち、追加的製造販売により得られたであろう売上額から追加的に製造販売するために要したであろう追加的費用(費用の増加分)を控除した額を、追加的製造販売数量で除した単位数量当たりの額)と解すべきである。このように特許法102条1項にいう「単位数量当たりの利益の額」が仮定的な金額であることを考慮すると、その金額は、厳密に算定できるものではなく、ある程度の概算額として算定される性質のものと解するのが相当である。
 具体的な事案において、特許権者が侵害品の販売時に厳密に対応する時期において現実に権利者製品の製造販売を行っている場合には、当該時期における権利者製品の単位数量当たりの現実の利益額を斟酌して、特許法102条1項にいう「単位数量当たりの利益の額」を算定することが相当であるが、この場合においても、この利益額が上記のような性質を有する仮定的な金額であることに照らせば、「単位数量当たりの利益の額」は、必ずしも、当該時期における現実の利益額と一致するものではなく、現実の利益額は、同項にいう「単位数量当たりの利益の額」を認定する上での一応の目安にすぎないというべきである。
 他方、特許法102条1項はただし書において、侵害品の譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものと規定しているが、前述のように本項を、排他的独占権という特許権の本質に基づき、侵害品と権利者製品が市場において補完関係に立つという擬制の下に設けられた規定と解し、侵害品の販売による損害を特許権者の市場機会の喪失ととらえる立場に立つときには、侵害者の営業努力(具体的には、侵害者の広告等の営業努力、市場開発努力や、独自の販売形態、企業規模、ブランドイメージ等が侵害品の販売促進に寄与したこと、侵害品の販売価格が低廉であったこと、侵害品の性能が優れていたこと、侵害品において当該特許発明の実施部分以外に売上げに結び付く特徴が存在したこと等)や、市場に侵害品以外の代替品や競合品が存在したことなどをもって、同項ただし書にいう「販売することができないとする事情」に該当すると解することはできない。
 すなわち、特許法102条1項の適用に当たっては、権利者製品は、特許発明の実施品として特徴付けられているものであり、侵害品は、まさに当該特許発明の実施品である故をもって、市場において権利者の市場機会を奪うものとされているのである。言い換えれば、侵害者の販売する製品(侵害品)は、特許権者の特許権を侵害することによって初めて製品として存在することが可能となったものであり、当該特許発明の実施品であるからこそ、権利者製品と競合するものとして、市場において権利者製品を排除して取引者・需要者により購入されたのである。侵害品の販売に侵害者の営業努力等があずかっていたとしても、特許権者としては、仮に侵害品の販売期間と対応する期間内には不可能であるとしても、これに引き続く期間を併せれば侵害品の販売数量に対応する権利者製品を販売できたはずであり、仮に侵害品が他に独自の優れた特徴を有していたとしても、あくまでも特許発明の実施品としての特徴を備えていたからこそ、権利者製品と競合するものとしてこれを排除して取引者・需要者に購入されたというべきであり、侵害者が侵害品を低廉な価格で販売した(あるいは無償で配布した)としても、特許発明の実施品であったからこそ権利者製品を排除して取引者・需要者に入手されたものである。しかも、これらの場合には、いずれも、侵害品が取引者・需要者の手に渡った結果として、それと同数の権利者製品の需要が失われているのであるから、仮に、営業努力等により侵害者による侵害行為が急であったり、取引者・需要者において、侵害品を購入する動機として、特許発明の実施品であるという点に加えて、何らかの点(付加的機能や低価格)が存在したとしても、そのような事情は、特許権者の損害額を減額する理由とはならないというべきである。また、市場において侵害品以外に権利者製品と競合する代替品が存在していたとしても、侵害者は、そのような競合製品の存在にかかわらず、これとの競争の下で一定の数量の侵害品を販売し得たのであるから、権利者製品も特許発明の実施品という点で侵害品と同一の性能を有する以上、特許権者においても、同一の条件の下で、これと同一の数量の権利者製品の販売が可能であったというべきである。
 このように、上記の各事情は、そもそも市場における侵害品と権利者製品との補完関係の擬制の下で本項の規定を設けるに当たって捨象されたものであるから、これらの事情をもって「販売することができないとする事情」に該当するということはできないが、市場において侵害品と権利者製品が補完関係にあるということを前提としても、なお、権利者が市場機会を喪失したと評価できないような事情があるときには、そのような事情は、「販売することができないとする事情」に該当するものというべきである。すなわち、侵害品がその性質上限定された期間内においてのみ需要され、当該期間内に消費されるものである場合(例えば、侵害品が生鮮食料品であるような場合)には、侵害品の販売により特許権者が喪失した市場機会は、侵害品の販売時期に対応する期間に限定されることになるから、侵害者により抗弁としてこのような事情が主張立証された場合には、特許権者は再抗弁として、侵害品の販売時期に厳密に対応する時期又はこれと直近する時期に、侵害品の販売数量と同数量の権利者製品を販売する能力を実際に有していたことを、主張立証しなければならないこととなる。また、侵害者が抗弁として、侵害品が販売された後に法令等により当該特許発明の実施品の販売が規制されたことや新技術の開発により当該特許発明が陳腐化したことを主張立証した場合には、特許権者は再抗弁として、このような規制前又は新技術を実施した代替品の発売前に侵害品と同数量の権利者製品を販売する能力を実際に有していたことを、主張立証しなければならないというべきである。
(2) 本件における検討
 以上を前提に、本件における損害額について検討する。
ア 被告製品の販売台数
 被告による被告製品の販売台数が、イ号、ロ号及びハ号を合計して7779台であることは、争いがない。
イ 原告の実施能力
 まず、原告の実施能力については、上記のとおり、特許法102条1項にいう「実施の能力」は、当該特許権の存続期間内に一定量の製品の製造、販売を行う潜在的能力を備えていれば具備されると解されるところ、本件においては、証拠(乙22)及び弁論の全趣旨によれば、原告は平成10年当時年間二十数万台のパチスロ機の製造能力を有し、パチスロ機の市場において三十数%の占有率を有していたことが認められるから、原告が同項にいう「実施の能力」を備えていたことは明らかというべきである。
ウ 単位数量当たりの利益の額
 前述のとおり、特許法102条1項にいう「単位数量当たりの利益の額」は、仮に特許権者において侵害品の販売数量に対応する数量の権利者製品を追加的に製造販売したとすれば、当該追加的製造販売により得られたであろう利益の単位数量当たりの額(すなわち、追加的製造販売により得られたであろう売上額から追加的に製造販売するために要したであろう追加的費用(費用の増加分)を控除した額を、追加的製造販売数量で除した単位数量当たりの額)と解すべきである。
 これを本件についてみると、次のとおりである。
(ア) 原告の商品の販売価格
 前述のとおり、特許法102条1項にいう「侵害の行為がなければ販売することができた物」は、侵害に係る特許権を実施するものであって、侵害品と市場において排他的な関係に立つ製品を意味するものであるところ、本件においては、弁論の全趣旨によれば、本件特許発明の実施品であり、被告製品と同じころ販売されていた同じCT機である原告の商品「ウルフエムX」(原告商品ウルフ)及び「チェリー12X」(原告商品チェリー)は、これに当たるものと認められる。
 これらの原告商品の販売価格は、個別の販売先や販売時期によって若干異なり、完全に同一価格ではないが、証拠(甲36ないし39)によれば、原告商品ウルフの平均販売価格は、33万3632円、原告商品チェリーのそれは、33万5264円であることが認められる。したがって、両商品の平均販売価格は、33万4267円となる。
 (2,201×333,632+1,403×335,264)÷(2,201+1,403)=334,267
(イ) 原告商品の経費
@ 製造原価
 証拠(甲30及び31、甲50ないし54、甲57及び58、書証の枝番号は省略する。)及び弁論の全趣旨によれば、原告商品ウルフについては、(a)平成10年10月度に1371台製造され、その原価(組立工賃含む。以下同じ。)の合計は1億2782万0984円であって、1台当たり製造原価は約9万3232円であったこと、(b)同年11月度には703台製造され、その原価の合計は6227万3744円であって、1台当たり製造原価は約8万8583円であったこと、(c)同年12月度には122台製造され、その原価の合計は1078万4241円であって、1台当たり製造原価は約8万8395円であったこと、(d)平成11年1月度には6台製造され、その原価の合計は52万3046円であって、1台当たり製造原価は約8万7174円であったこと、が認められる。したがって、原告商品ウルフの全製造台数2202台の製造原価平均は1台当たり9万1463円であると認められる。
 同様に、上記証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告商品チェリーについては、(a)平成10年10月度に128台製造され、その原価の合計は1204万2078円であって、1台当たり製造原価は約9万4079円であったこと、(b)同年11月度には909台製造され、その原価の合計は8133万1087円であって、1台当たり製造原価は約8万9473円であったこと、(c)同年12月度には367台製造され、その原価の合計は3156万2202円であって、1台当たり製造原価は約8万6001円であったこと、(d)平成11年1月度には11台製造され、その原価の合計は97万4959円であって、1台当たり製造原価は約8万8633円であったこと、が認められる。したがって、原告商品チェリーの全製造台数1415台の製造原価平均は1台当たり8万8983円であると認められる。
 以上によれば、原告商品ウルフ及び同チェリーの平均製造原価は9万0498円となる。
 (2,201×91,463+1,403×88,983)÷(2,201+1,403)≒90,498
A 広告宣伝費
 一般的にいえば、宣伝広告費は、その性質上、特定の商品について一定の宣伝広告が必要であるにしても、商品の販売数量が増加した場合にそれに応じて広告宣伝の量を増加しなければならないといったものではない。
 したがって、一般的にいえば、広告宣伝費は、原告商品を追加的に製造販売するに当たって追加的に支出が必要となる費用ということはできず、控除の対象とはならない。
 しかしながら、本件においては、原告は、原告商品ウルフ及び同チェリーの販売に当たって販売促進物品を利用しているところ、このような物品(景品)は、その性質上、商品の販売数量に応じた数量を必要とするものであるから、控除の対象となるものというべきである。
 弁論の全趣旨によれば、原告商品ウルフ及び同チェリーの販売に当たって使用された販売促進物品の費用は各商品180万2000円であり、合計360万4000円であるから、1台当たり1000円となる。
 (1,802,000+1,802,000)÷(2,201+1,403)=1,000
B 販売費
 証拠(甲33。平成10年度における原告の損益計算書)によれば、人件費のうち、営業部門の人件費の「販売インセンティブ」の金額が、10億6531万8328円であること、販売手数料が4億2309万0784円、運搬費の金額が9820万9793円であることがそれぞれ認められる。
 これらを、原告の総売上中、原告商品ウルフ及び同チェリーの売上げの占める割合で除すると、1台当たりの金額は、5291円となる。
 (1,065,318,328+423,090,784+98,209,793)×(334,267×3,604÷100,240,715,186)÷3,604≒5,291
C ロイヤリティ
 弁論の全趣旨によれば、原告の支払っているロイヤリティは、いずれも1台当たり日電協証紙代1365円、日電特許証紙代2000円で、合計3365円であると認められる。
 以上によれば、原告商品について販売金額から控除すべき費用は、1台当たり10万0154円となる
 90,498+1,000+5,291+3,365=100,154
(ウ) 寄与率
 原告商品はパチスロ機であるところ、証拠(乙24)及び弁論の全趣旨によれば、パチスロ機は、多くの部品や要素から構成されているが、そのそれぞれの部分に、本件特許権以外にも多数の特許権等の工業所有権が使用されていることが認められる。現に原告商品についても、これに使用されている特許権等の実施料として1台当たり3365円(日電協証紙代1365円、日電特許証紙代2000円の合計額)を支払っているものである。
 しかし、本件特許発明が、パチスロ機に遊技者が技量を発揮できるCTという新しい方式を導入するものであって、従来のパチスロ機にない魅力を付与するものであることなどの事情を考慮すれば、原告商品の利益額中の本件特許発明に対応する額は、80%をもって相当とするというべきである。
(エ) 小括
 上記(1)ないし(3)により計算された数額により「単位数量当たりの利益の額」を計算すると、本件特許権に対応する原告商品ウルフ及び同チェリーの1台当たりの利益の額は、18万7290円となる。
 (334,267−100,154)×0.8=187,290
エ 特許法102条1項ただし書に該当する事情
(ア) 被告及び被告補助参加人は、被告は被告製品の販売に当たってCT機を市場に認知させるための努力を行い、また、被告製品はキャラクター、リール絵柄、証明・色彩、音楽等において原告商品にない独自の特徴を有していたものであり、かつ、原告商品より価格も低額であったから、被告製品と同数の原告商品の販売が可能であったとはいえず、また、平成10年当時における原告CT機の市場占有率に照らせば、被告製品の代わりに原告が販売可能であったCT機の台数は36台ないし38台にとどまると主張する。
 しかしながら、特許法102条1項を、排他的独占権という特許権の本質に基づき、侵害品と権利者製品が市場において補完関係に立つという擬制の下に設けられた規定と解し、侵害品の販売による損害を特許権者の市場機会の喪失ととらえる立場に立つときには、侵害者の営業努力、侵害製品の性能の優秀性や価格の低廉等をもって、同項ただし書にいう「販売することができないとする事情」に該当すると解することはできないのは、前に説示したとおりである。
 この点に照らせば、被告及び被告補助参加人の主張する上記内容は、いずれも同項ただし書にいう「販売することができないとする事情」に該当するものではない。被告及び被告補助参加人の上記主張は、採用できない。
(イ) しかしながら他方、前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば、パチンコホールにおいては、同業者間において激しい新機種導入競争が行われており、一般的にパチスロ機については頻繁に新台との入替えが行われていることが認められる。
 そして、本件においては、別紙「アルゼ製品・ネット製品月別販売台数一覧」記載のとおり、被告製品のうちイ号物件は平成10年3月から、ロ号物件は同年5月から、ハ号物件は同年11月からそれぞれ販売されたものであるが、他方、原告商品はいずれも平成10年10月から販売されたものである。
 そうすると、被告製品のうちイ号物件及びロ号物件については、CT機であることを理由としてパチンコホールにおける本来のパチスロ機の更新時期に先駆けて購入されたなど、新たな需要を掘り起こしたものがあるにしても(これらの分については、原告商品の後日の販売を妨げたという擬制が成立し得る。)、一部にはパチンコホールにおける定期的なパチスロ機の新台入替え需要に基づいて購入されたものが含まれていることは否定できない。原告商品販売開始前のイ号物件及びロ号物件の販売数のうち、このような定期の新台入替えとして購入された需要に対応するものについては、仮にイ号物件又はロ号物件が販売されていなかったとしても、パチンコホールにおいて当時の定期的な入替え計画に従って同時期に別機種のパチスロ機が購入されていたはずであるから、その時点において原告商品が販売されていなかったのであれば、イ号物件又はロ号物件に代わって原告商品が販売できたはずであると擬制することは、不可能である。
 すなわち、原告商品の販売に先立って販売されたイ号物件及びロ号物件については、CT機としての性能を理由としてパチンコホールにおける需要を喚起し、後日における原告商品の販売に影響を与えたと擬制される部分が存在するにしても、少なくとも部分的には、CT機であることとは無関係にパチンコホールにおける定期的な新台入替え需要に対応するものとして販売されたものが含まれているというべきであるが、後者については、原告においてこれに対応する原告商品を「販売することができなかった事情」が存在するというべきである。
 そして、前記認定事実において、イ号物件及びロ号物件の販売時期及び販売数量を同時期における他のパチスロ機と比較するなど、諸般の事情を総合するときには、イ号物件については同年9月までの販売数1856台のうち少なくとも1000台、ロ号物件については同年9月までの販売数3129台のうち少なくとも1500台については、パチンコホールにおける定期的な新台入替え需要に対応するものとして販売されたもので、後日における原告商品の販売に影響したものではないと認めるのが相当である。
(3) 損害額のまとめ
 上記によれば、本件において、原告が被告に対し、特許法102条1項に基づいて賠償を請求することができる損害額は、本件特許権に対応する原告商品ウルフ及び同チェリーの1台当たりの利益の額18万7290円に被告製品の販売数量5279台(イ号物件のうち856台、ロ号物件のうち1631台及びハ号物件の全数2792台の合計)を乗じた9億8870万円と認めるのが相当である(前述のとおり、特許法102条1項の損害額がその性質上概算額であることに照らし、1万円未満は切り捨てる。)。
 187,290×(856+1631+2792)=988,703,910
6 被告及び被告補助参加人のその余の主張について
 また、被告及び被告補助参加人は、原告や被告補助参加人らによって形成された実施許諾契約関係が存在している限り、原告は、本件特許権に関して、被告補助参加人に対して案分実施料の支払を求めることができるにとどまり、被告に対して特許権侵害を理由とする損害賠償を請求することはできないと主張する。
 被告及び被告補助参加人の上記主張は、結局のところ、本件特許権について被告が被告補助参加人の下における実施許諾契約関係を介して再実施許諾を受けているという前記抗弁を繰り返すものであって、本件特許権が被告のいう再実施許諾関係の下における許諾の対象となっていない場合に、これと別個の独立した抗弁たり得るものとはいえない。
 既に説示したとおり(上記4参照)、本件特許権は、許諾の対象となっているものではなく、上記実施許諾契約は、これに参加している特許権等の保有者の保有する、出願中のもの及び将来登録されるものも含め、すべての知的財産権を実施許諾の対象としているとは認めることはできず、特許権等の保有者は、その保有するすべての知的財産権を許諾の対象としているものではない。被告及び被告補助参加人の主張するところは、許諾の対象とされていない権利を許諾の対象とされている権利と同等に扱うことを求めるものであって、到底採用することはできない。
 同様の理由により、上記のような事情を根拠にする被告及び補助参加人の権利濫用の主張も、採用できない。
7 結論
 以上によれば、原告の本訴請求は9億8870万円及びこれに対する侵害行為の後である平成11年6月25日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 三村量一
 裁判官 村越啓悦
 裁判官 青木孝之


(別紙)
 被告製品目録イ号物件第1〜3図表1〜5ロ号物件第1〜3図表1〜4ハ号物件(原告提出)ハ号物件説明書第1図第2図−1、2第3〜5図表1〜4(被告提出)ハ号物件説明書第4図第5図
 
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【事件名】パチスロ機の特許侵害事件
【年月日】平成14年3月19日
 東京地裁 平成11年(ワ)第23945号 特許権に基づく損害賠償請求事件
 (平成13年11月12日 口頭弁論終結)

判決
原告 アルゼ株式会社
訴訟代理人弁護士 升永英俊
同 松本司
同 大島崇志
同 戸田泉
訴訟復代理人弁護士 江口雄一郎
同 荒井裕樹
同 上山浩
補佐人弁理士 廣瀬邦夫
被告 サミー株式会社
訴訟代理人弁護士 牧義行
同 近藤義徳
同 飯田秀郷
同 栗宇一樹
同 秋野卓生
同 早稲本和徳
同 久保田伸
同 七字賢彦
補佐人弁理士 米山淑幸
同 黒田博道
被告補助参加人 日本電動式遊技機特許株式会社
訴訟代理人弁護士 島田康男
補佐人弁理士 紺野正幸


主文
1 被告は、原告に対し、74億1668万円及びこれに対する平成11年10月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを4分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4 この判決は1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、原告に対し、100億6685万9000円及びこれに対する平成11年10月30日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
3 仮執行宣言
第2 事案の概要
 本件は、後記特許権を有する原告が、被告に対し、被告の製造・販売する製品は、原告の特許権の技術的範囲に属するとして、損害賠償の支払を求めている事案である。
1 争いのない事実
(1) 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有している。なお、本件特許権は、ユニバーサル販売株式会社がもと保有していたが、同社は、原告(当時の商号は株式会社ユニバーサルテクノス)に吸収合併された。
ア 特許番号 第1855980号
 発明の名称 スロットマシン
 出願年月日 昭和63年3月18日
 出願公告年月日 平成5年10月18日
 登録年月日 平成6年7月7日
イ 上記特許権に係る願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。本判決末尾添付の特許公報(以下「本件公報」という。)参照)の特許請求の範囲請求項1の記載は次のとおりである(以下、この発明を「本件特許発明」という。)。
 「表示窓内にそれぞれ所定の図柄を表示する複数のリールを乱数値に応じて停止するように制御する制御装置を備えたスロットマシンにおいて、前記制御装置は遊技中特定の条件が達成された時には予め定めたゲーム回数分、前記乱数値に応じた停止制御を中止するように構成したことを特徴とするスロットマシン。」
(2) 上記発明の構成要件を分説すれば、次のとおりである(以下、それぞれを「構成要件A」のようにいう。)。
A 表示窓内にそれぞれ所定の図柄を表示する複数のリールを乱数値に応じて停止するように制御する制御装置を備えている
B 前記制御装置は遊技中特定の条件が達成された時には予め定めたゲーム回数分、前記乱数値に応じた停止制御を中止する
C スロットマシン
(3) 被告は、別紙被告製品目録記載のイ号物件及びロ号物件(以下、併せて「被告製品」と総称する。)を、業として製造・販売している。イ号物件及びロ号物件の構成は、それぞれ別紙イ号物件及びロ号物件説明書記載のとおりである。
(4) 被告は、平成10年3月からイ号物件を少なくとも3万4000台、同年11月からロ号物件を少なくとも9000台販売した。
(5) 被告補助参加人は、パチンコ型スロットマシン(以下「パチスロ機」という。)をめぐる特許権等の知的財産権(以下「特許権等」という。)の管理について、いわゆるパテント・プール方式による管理を行っていた。これは、特許権等の保有者が、その保有する特許権等を、被告補助参加人に対し、多数のパチスロ機製造業者への再実施許諾権付きで、実施許諾するというものである。そして、再実施許諾を受けた業者からの実施料の徴収は、被告補助参加人により発行された証紙を、パチスロ機製造業者が製造台数分購入して、パチスロ機に貼付するという方法によりされていた。
 特許権等の保有者と被告補助参加人との間では、再実施許諾の特約がついた実施許諾契約書(以下、年度を特定せず「契約書」という。)が取り交わされており、契約書には、特許権等の番号や名称が記載された目録が添付されている。被告補助参加人とパチスロ機製造業者との間では、契約書は作成されず、製造業者が被告補助参加人から証紙を購入することによって、再実施許諾がなされたものとみなされる。
 原告は、少なくともその保有する特許権等の一部について、被告補助参加人との間で再実施権付与特約付きの実施許諾契約を締結していた。そして、原告と被告補助参加人との間の平成8年4月1日作成の契約書(対象期間は平成8年4月1日から平成9年3月31日。甲18)の目録には、本件特許権は記載されていない。
2 争点
(1) 被告製品が本件特許発明の技術的範囲に属し、同製品の製造・販売が本件特許権を侵害するか。なかでも、
ア 被告製品が構成要件Aを充足するかどうか。すなわち、被告製品がリールを乱数値に応じて停止するように制御しているか(争点1)。
イ 被告製品が構成要件Bを充足するかどうか(争点2)。
(2) 本件特許権に無効事由があり、本訴請求は権利濫用に当たるか(争点3)。
(3) 原告が本件特許権を被告補助参加人に実施許諾し、被告は被告補助参加人から再実施許諾を受けたか(争点4)。
(4) 原告の損害等(争点5)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告製品が構成要件Aを充足するかどうか。すなわち、被告製品がリールを乱数値に応じて停止するように制御しているか)について
(1) 原告の主張
ア 乱数値に応じた停止制御とは、4コマ制御(当選絵柄の引込処理及び不当選絵柄の回避処理を、ストップボタンを押した時点の最短停止絵柄から最大4コマ滑る範囲内で行う制御をいう。)を前提にした乱数値に応じた停止制御をいうもので、いかなる場合も当選役が必ず成立しなければならないとする制御ではない。
イ 4コマ制御を前提にした乱数値に応じた停止制御は、本件特許権の出願前、本件特許発明が属する技術分野で周知・慣用となっている技術であり、本件明細書にも記載されている(本件公報7欄21行〜26行及び第2図)し、特開昭59−186580号公報(甲10)にも記載されている(引込処理につき同公報(6)頁、回避処理(蹴飛ばし処理ともいう。)につき同公報(9)頁)。
ウ 遊技機の認定及び型式の検定等に関する国家公安委員会規則(昭和60年2月12日国家公安委員会規則第4号。以下「遊技機規則」という。)6条別表第5の例えば(1)(ヘ)「回胴の回転は、回転停止装置を作動させるためのボタン‥(中略)‥を操作した後、190ms以内に停止するものであること」などの規定は、4コマ制御を前提にしたものである。
エ 被告製品の充足性
(ア) 例えば、イ号物件の通常ゲーム(後記チャレンジタイム中以外の一般遊技。以下「通常ゲーム」という。)の低確率の場合で説明すると(別紙イ号物件説明書の第3図−2参照)、
@ 13168〜16247の乱数が抽出されてバルタン星人役に当選すると、バルタン星人役に入賞するか、4コマ制御があるため外れとなる。他の入賞役は成立しない。
A 他の入賞役についても上記と同じである。
B 0〜10808の乱数が抽出されると、ストップボタンをどのようなタイミングで押しても、どの役にも入賞することはない。
(イ) 上記はロ号物件でも同様である。すなわち、被告製品の通常ゲーム時では、抽出された乱数に対応する特定の入賞役のみが成立する。外れの乱数が抽出されたときは外れとなり、他の入賞役は成立しない(不当選絵柄の禁則処理)。
(ウ) よって、被告製品の通常ゲームでのリールの停止制御は、構成要件Aを充足する。
(2) 被告の主張
 被告製品においては、乱数値に基づく抽選の結果に応じたリールの停止が行われる場合と行われない場合がある。抽選によって当たり役があることになった場合(この結果に基づいて、一義的にこの役が必ず発生するのであれば、乱数値に基づく抽選の結果に応じてリールを停止する制御をしていることになるが)であっても、ストップボタンの操作のタイミングによっては、当たった役が成立しないことがある(このときは、乱数値に基づく抽選の結果に応じてリールを停止していない。)。したがって、被告製品は、構成要件Aを充足しない。
2 争点2(被告製品は構成要件Bを充足するか)について
(1) 原告の主張
ア 「遊技中特定の条件が達成された時」について
 被告製品は、通常ゲームにおいてビッグチャンス(以下「BC」という。通常ゲーム中に出るボーナスで、「7」等の所定の絵柄が揃う(入賞する)と、まず所定枚数のメダルの払出しがあり、一般入賞及びボーナスインの確率が高められた最高30回の一般遊技において、最高3回又は2回のレギュラーボーナスが行える役。ビッグボーナスともいう。)に当選し、かつチャレンジタイム(以下「CT」という。一定の条件下で、すべてのリールもしくは一部のリールを無制御にして遊技者の停止ボタンの操作によって一定の役を揃えることができる遊技を行えるようにして、遊技者がより技量を発揮できるようにしたゲーム。甲7)突入にも当選した後、イ号物件では「赤7」絵柄の三つ揃いの達成、BCゲームの終了の後、自動的にCTが開始し、ロ号物件では「赤7」又は「黄7」絵柄の三つ揃いの達成、BCゲームの終了、擬似抽選(各種演出用ランプ類が点滅し、効果音出力用スピーカから効果音が鳴るなどして、遊技者にはあたかもCTに突入するか否かを抽選しているように見せること。実際には、CTに突入するか否かは、既にそれ以前の段階で決定されているので、真実の抽選ではない。)の後、自動的にCTが開始する。
 上記は本件特許発明の「遊技中特定の条件が達成された時」を充足する。
イ 「前記乱数値に応じた停止制御を中止」について
(ア) 「乱数値に応じた停止制御を中止する」の意義は、リールの停止位置を、遊技者による停止操作のタイミングで決定することをいう。すなわち、被告製品でいうと引込処理をしないこと、又は引込処理も回避処理もしないことである。
 そのことは、本件明細書に「本発明のスロットマシンにおいては、特定の条件が達成されてリールの停止制御が中止されている間、回転しているリールの停止位置は遊技者の停止操作のタイミングで決定されるので、熟練者と非熟練者との間に差が生ずる。」(本件公報3欄11行〜15行)と記載されていることからも、明らかである。
(イ) 被告製品の作動
 例えば、イ号物件のCT複合役(別紙イ号及びロ号物件説明書のフロー図における符号Aのルートをいう。複合役とは、同時に2種類の役が成立したものをいう。)における各リールの停止で説明すると、通常ゲームと異なり、0〜14024の乱数範囲(以下「CT複合役の範囲」という。ロ号物件においては、0〜14051の乱数範囲)において、
@ 第1リール(1番目にストップボタンを押したリール。以下、同趣旨で第2リール、第3リールという。)については、いかなる絵柄の引込制御も回避制御もされず、ストップボタンを押した時点の最短停止絵柄で即止まりする。
A 第2リールについても、第1リールと同じく、ストップボタンを押した時点の最短停止絵柄で即止まりする。
B 第3リールについては、いかなる絵柄の引込制御も一切されず、BC及び「リプレイ」(以下「RP」という。コインを投入しなくても、次ゲームを今回のゲームと同じ賭け枚数で行えるという役をいう。)のいずれかの入賞絵柄の完成を阻止する以外は、「バルタン星人」、「レッドキング」、「黒オビチェリー」、「チェリー」の以上の一般入賞絵柄に対する回避制御も一切されない。
(ウ) 通常ゲームとの比較
@ CT複合役の範囲においては、当選か外れかの区別はなく、通常ゲームでは「外れ」となる範囲の乱数が抽出されても、「チェリー」、「黒オビチェリー」、「レッドキング」、「バルタン星人」の一般入賞絵柄に対する回避制御は一切されず、これらいずれの一般入賞役の単独又は一定の重複的な入賞も許される。
A さらに、通常ゲームの「バルタン星人」、「レッドキング」、「黒オビチェリー」、「チェリー」の各当選範囲の大きさに相当する乱数範囲は、すべてCT複合役の範囲に組み入れられ、同様に「バルタン星人」、「レッドキング」、「黒オビチェリー」、「チェリー」のいずれの一般入賞役の単独又は一定の重複的な入賞も許される。
 例えば、別紙イ号物件説明書の第3図−2において、13500という乱数が抽出された場合、通常ゲームの低確率時はバルタン星人役の当選ということでバルタン星人役のみの成立を許し、バルタン星人役以外の入賞の成立を回避する。また、通常ゲームの高確率時はチェリー役の当選ということでチェリー役のみの成立を許し、チェリー役以外の入賞の成立を回避する。
 ところがCT中は、バルタン星人役でも、レッドキング役でも、黒オビチェリー役でも、チェリー役でもいずれの一般入賞役の単独又は一定の重複的な入賞も許される。
(エ) 例外
@ CT複合役の乱数値が抽出された場合の例外(例外aという。)
 前記のようにCT複合役の範囲の乱数値(0〜14024)が抽出された場合であっても、第2リールの停止までにBC(「赤7」、「青7」)及びRP(「ウルトラマン倶楽部」)のいずれかの絵柄がテンパイ(リールを2個停止させた時点で何らかの絵柄が有効ライン上に2つ揃っていること。三つ揃いとなって入賞する手前の状態をいう。)した場合、第3リールの停止においてストップボタンを押したタイミングで該リールを停止させると上記各入賞役が成立してしまうときには、該リールを原則1コマ分滑らせて、該入賞役の成立を回避する。
 この回避制御が働くのは、9261通り(1リール21絵柄の3リール分の組合せ(21×21×21))の全停止操作タイミングのうち、3枚賭け条件下で550通りにすぎない。
A RP当選時の例外(例外bという。)
 14139〜16383の範囲の乱数が抽出されてRPに当選すると、全リールにおいて通常時と同じRP役のみの成立を許す引込制御とRP役以外の入賞の成立を回避する制御がされる。
B なお、14025〜14138の範囲の乱数が抽出されてBC役に当選すると、当選ゲームにおいて全リールは通常時と同じBC役のみの成立を許す引込制御とBC役以外の入賞の成立を回避する制御がされるが、この乱数が抽出されたBCゲーム当選以降、CTは終了するため、このケースはCT中のリール停止制御の例外には該当しない。
C 以上の例外a及びbは、いずれもCT中も遊技機規則を遵守するために生じたものである。すなわち、まず例外bについては、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風営法」という。)2条1項は、「この法律において『風俗営業』とは、次の各号のいずれかに該当する営業をいう。」と規定した上で、同項7号において「まあじやん屋、ぱちんこ屋その他設備を設けて客に射幸心をそそるおそれのある遊技をさせる営業」を掲げている。
 そして、同項7号に規定する営業については、同法4条4項において「第2条第1号第7号の営業(ぱちんこ屋その他政令で定めるものに限る。)については、公安委員会は、当該営業に係る営業所に設置される遊技機が著しく客の射幸心をそそるおそれがあるものとして国家公安委員会規則で定める基準に該当するものであるときは、当該営業を許可しないことができる。」と規定されている。平成2年8月31日改正の遊技機規則(国家公安委員会規則第6号)は、上記「著しく客の射幸心をそそるおそれがある」遊技機の例示として、「1分間におおむね400円の遊技料金に相当する数を超える数の遊技メダルを使用して遊技をさせることができる性能を有する遊技機」との基準を盛り込んでいる。コイン1枚は20円であり(同規則29条2ロ)、1分間におおむね400円程度(コイン20枚)の消費に抑えるには、1ゲームで最大枚数である3枚投入することを前提にし、かつ払出枚数を加味すると1分間12ゲーム程度のゲーム回数に抑える必要がある。ところが平成4年から現在まで製造されるようになったゲーム機(4号機という。)になる前から、1ゲームの最短遊技時間(消費時間)が4.1秒とされていたため、最も早く遊技すると、1分間では最大14ゲーム程度消化されることになり、400円で可能なゲーム回数を超え、400円以上投資しないと1分間遊技できなくなる。そこで、1分間に2回の割合、すなわち約7ゲームに1回程度再遊技役(RP)を設け、1分間で12ゲーム分のコイン(400円)しか消費できないようにしたのである。
 次に、例外aについては、BCは遊技機規則別表第5(1)ホ(役物連続作動増加装置(BC)の性能に関する規格)及び同表第5(1)ヘ(ロ)「役物連続作動増加装置以外の役物の作動を容易にするための特別の装置を設けないものであること」との規定を満足すべきことから、所定の低い当選確率を堅持する必要があるから、前記のような例外とされている。
(オ) 上記要件の充足性
 前記例外a及びbがあっても、
@ 前記のとおり、0〜14024の、CT複合役の広い乱数範囲において、第1、第2リールの停止については必ずストップボタンを押した時点の最短停止絵柄で即止まりし、第3リールの停止については、いかなる絵柄の引込制御もされず、しかも、RP及びBCを除く一般入賞絵柄に対する回避制御もされず、ストップボタンを押した時点の最短停止絵柄で即止まりするのが基本となる。
 すなわち、第1〜第3の全リールが無制御となり、全リールがストップボタンを押したら即停止するのが基本である。
A 第3リールの停止において即止まりせずに、RP、BCのいずれかの絵柄に対して回避制御が働くのは、9261通りの全停止操作タイミングのうち、550通りと少ない。しかも、RPとBCについてはCT中に遊技者が自由に揃えることができないことは、各種攻略雑誌等により遊技者に周知徹底されており、初めから揃うはずもないこれら役を敢えて揃えようとする者は考えにくい。つまり、実際の遊技では上記回避制御が働くケースは極めて少なく、現実は「全リールが無制御となり、全リールがストップボタンを押したら即停止する」ということができる。
B このことは、被告自身、イ号物件リーフレットに「CT中は打ち方によって獲得枚数大幅アップ!全リール無制御でねらい打ち可能。(ボーナス・リプレイ図柄を除く)」と、また、ロ号物件リーフレットでも「CT中は全てのリールがボタンを押したら即停止する。」と各説明しているとおりである。
C よって、被告物件のリールの停止は、本件発明の構成要件Bの「前記乱数値に応じた停止制御を中止」を充足する。
ウ 「予め定めたゲーム回数分」について
(ア) 意義
 この要件は、そのゲーム回数分が必ずしも連続している必要はないというべきである。その理由は、乱数値に応じた停止制御をして平等性を図る通常ゲームと、これを中止して技術介入性を図る特定条件が達成されたときを分ける意味でゲーム回数が規定されているにすぎないからである。本件明細書には、次のように記載されている。
 「本発明のスロットマシンにおいては、特定の条件が達成されてリールの停止制御が中止されている間、回転しているリールの停止位置は遊技者による停止操作のタイミングで決定されるので、熟練者と非熟練者との間に差が生ずる。すなわち、遊技者の熟練度に応じた結果となり、熟練者にとってはコイン取得率が若干高くなってゲ一ムの魅力が増す。一方、熟練者でない者にとっても、ある一定のコイン取得率は確保されるので、魅力がそがれることはない。また、上記の停止制御を複数のリールの一部についてのみ中止し、他のリールに対しては一定の停止制御を行うことにより、熟練者にとって更に有利な結果が得られるものとなる。」(本件公報3欄11行〜24行)
 「熟練者にとっては、ある範囲でその熟練度に応じた結果が得られてゲームの魅力が向上する一方、熟練者でない者にとっても、ある一定のコインの払い出し率が確保される。これにより、技術介入性と平等性が調和して各遊技者の熟練度に応じたゲームができるという効果が得られる。」(同8欄21行〜27行)
(イ) 被告製品のゲーム回数と充足性
 例えば、イ号物件で説明すると、CTゲームは予め99ゲームで終了するように設定されているが、そのうち、RP役に対応する乱数が抽出されたゲームを除くと、その「予め定めたゲーム回数分」とは、85.4回である。
 よって、被告製品は、構成要件Bの「予め定めたゲーム回数分」を充足する。
エ 作用効果
(ア) 本件特許発明の作用効果
 本件明細書には、次のように記載されている。
@ 作用
 「本発明のスロットマシンにおいては、特定の条件が達成されてリールの停止制御が中止されている間、回転しているリールの停止位置は遊技者による停止操作のタイミングで決定されるので、熟練者と非熟練者との間に差が生ずる。すなわち、遊技者の熟練度に応じた結果となり、熟練者にとってはコイン取得率が若干高くなってゲームの魅力が増す。一方、熟練者でない者にとっても、ある一定のコイン獲得率は確保されるので、魅力がそがれることはない。また、上記の停止制御を複数のリールの一部についてのみ中止し、他のリールに対しては一定の停止制御を行うことにより、熟練者にとって更に有利な結果が得られるものとなる。」(本件公報3欄11行〜24行)
A 効果
 「熟練者にとっては、ある範囲でその熟練度に応じた結果が得られてゲームの魅力が向上する一方、熟練者でない者にとっても、ある一定のコインの払い出し率が確保される。これにより、技術介入性と平等性が調和して各遊技者の熟練度に応じたゲームができるという効果が得られる。」(同8欄21行〜27行)
(イ) 被告製品の作用効果
@ 被告製品はCT複合役の範囲では、第1、第2リールは必ず即止まりし、第3リールは原則即止まりすることにより、熟練者は配当の大きな役の絵柄(イ号物件では「黒オビチェリー」や「レッドキング」、ロ号物件では「JAPAN」や「赤7-JAPAN-JAPAN」)をねらい打ちし、うまくその入賞を勝ち取って獲得メダルを増やすことができ、非熟練者に差をつけることができる。
 そして、たとえ風営法上の要請により、前記イ(エ)の例外があったとしても、熟練者が享受し得る上記CT中の技術介入性による利点が損なわれるものではない。
A 上記作用効果は、日本電動式遊技機工業協同組合(以下「日電協」という。)より警察庁生活安全局生活環境課宛の文書(甲7)の「1 概要」において、CTの作用効果について、「これにチャレンジタイム(CTと称します。)という遊技者がより技量を発揮できる新しい方式を採用させていただきたい。この方式の発生条件は、役物連続動作増加装置(BB)の作動終了等3ヶ所を契機として、すべての回胴、若しくは一部の回胴を無制御にして遊技者の停止ボタンの操作によってBB、役物連続作動装置(RB)、役物(SB)及び再遊技以外の入賞図柄を有効ライン上に揃えることができる遊技をおこなえるものであります。そして、この終了の条件は、次のBBに当選した場合等3ヶ所といたします。」と記載されているとおりである。
(ウ) よって、イ号物件及びロ号物件のいずれも、通常時の平等性とCT時の技術介入性を調和させたパチスロ機であって、本件特許発明の作用効果を奏するものである。
(2) 被告及び被告補助参加人の主張
ア 以下では、
 符号C (別紙イ号物件説明書及び同ロ号物件説明書のフロー図における符号をいう。以下同じ。)通常ゲーム中で当たり
 符号D 通常ゲーム中、抽選ではずれ
 の場合における制御を「制御T」という。
 他方、
 符号B CTゲーム中、BC又はRPに該当
 符号A CTゲーム中、BC又はRP以外に該当
 の場合における制御を「制御U」という。
イ 被告製品においては、制御T、Uのいずれの場合を問わず、
@ 乱数値が取得され、
A 当該乱数値がRAMに記憶され、
B 乱数値がRAMから読み出され、
C 抽選が行われ、
D 抽選結果に基づき絵柄が「停止制御用絵柄データ」として記憶され、
E ストップボタンが押された時点で、前記記憶された「停止制御用絵柄データ」に基づき、停止絵柄候補が選択され、「停止可能/不可フラグ用データ」に記憶され、
F 「停止可能/不可フラグ用データ」中から停止絵柄が決定され、
G 停止絵柄がRAMに記憶され、
H 各リール停止処理
I 全部のリールが停止するまで、EないしHを繰り返す処理
 という制御を常に行っているから、被告製品がいずれも構成要件Bを充足しないことが明らかである。
ウ 原告は、被告製品において、制御Uの場合が、「遊技中特定の条件が達成された時」に該当すると主張する。しかし、制御T及び制御Uは同一の制御であるから、仮に制御Uが何らかの理由によって「前記乱数値に応じた停止制御」であるとしても、制御Uにおいてはいかなる意味においても「前記乱数値に応じた停止制御」の中止をしていない。
エ 「制御」について
 原告が(1)で主張する「前記乱数値に応じた停止制御」は、「当選絵柄の引込処理及び不当選絵柄の回避処理をストップボタンを押した時点の最短停止絵柄から最大4コマ滑る範囲内で行うという内容を実現したい」という単なる目的を述べているにすぎない。このような目的に適合するように、対象となっているスロットマシンに一定の操作を加え、当該目的に適合する状態を保持させることが「制御」である。換言すれば、構成要件Aにおける「表示窓内にそれぞれ所定の図柄を表示する複数のリールを乱数値に応じて停止するように制御する」という表現によって特定される「制御」は、その目的は「表示窓内にそれぞれ所定の図柄を表示する複数のリールを乱数値に応じて停止するようにすること」であって、かかる目的に適合するようにスロットマシンを操作することが、当該特定された「制御」ということになる。そしてこの「制御」は、具体的な方法としては何ら特定されていないから、かかる目的に適合するようなあらゆる制御方法が、この制御に該当することになる。
 原告は、構成要件Bの「前記乱数値に応じた停止制御を中止」の解釈を、「リールの停止位置は、遊技者による停止操作のタイミングで決定すること」と主張するが、これは、上記「表示窓内にそれぞれ所定の図柄を表示する複数のリールを乱数値に応じて停止するように制御する」ことを中止することの結果、すなわち本件特許発明の効果そのものであって、「中止」そのものを特定するものでない。また、同じく原告の主張する「被告製品でいうと、絵柄抽選によって当選した絵柄を表示窓の所定位置に停止させ(引込処理)ようとしないこと、又はこのような絵柄抽選によって当選した絵柄を表示窓の所定位置に停止させ(引込処理)ようとしないこととともに絵柄抽選によって当選しなかった絵柄を表示窓の所定位置に停止させないこと(回避処理)もしないこと」は、明らかに目的を指称しているにすぎない。
 原告は、被告製品が、「ストップボタンを押した時点の最短停止絵柄で即止まりするのが基本である」から、「前記乱数値に応じた停止制御を中止」していると主張するが、これは発明の効果が同一であれば、その構成も同一であると主張していることであり、論外である。
オ 制御Uにおけるフロー図Aの場合、第1リール又は第2リールは、乱数値の結果である「停止制御用絵柄データ」に基づき、停止絵柄候補が選択され、「停止絵柄候補中から最小移動による停止絵柄決定」(A310−3)によって処理され、各リールが停止処理されるのである。その結果、あたかも原告が主張する、いわゆる「即止め」又は「目押し」を実現したかのような様相を呈する場合があるが(このような様相を呈することを目的として制御しているということもできる。)、そのような場合であっても、実際は、他の場合と全く同様の制御系統でリールを停止させているにすぎないのである。
 なお、「各リール停止処理」(A312等)では、絵柄が正しく正面を向いて停止することと、RAMに記憶された停止絵柄で停止することの2つの処理を行っている。RAMに記憶された停止絵柄に対応するときには、その位置で停止パルスを出力して停止させる。また、RAMに記憶された停止絵柄でないときには、次の絵柄が正しく正面を向いているタイミングで停止絵柄か否かを順次判断する。そして、停止絵柄であるときには、停止パルスを出力して停止させる。このように、制御UのAの場合でも、「乱数値に応じた停止制御」を他の場合と全く同様に行っていることが明らかである。
カ よって、被告製品はいずれも構成要件Bを充足しない。
3 争点3(本件特許権に無効事由があり、本訴請求は権利濫用に当たるか)について
(1) 被告の主張
ア 本件特許発明には新規性がなく、明らかな無効事由が存するから、本件特許権に基づく権利行使は権利の濫用である。
イ 実開昭60−37380号公報には、次のような構成の特徴を有する考案が記載されている。
a 表示窓内にそれぞれ所定の絵柄を表示する3個のリールを備え、通常ゲームにおいて、第1、第2の2個のリールを、乱数発生器によるランダム値に応じて停止するように制御する制御装置を備えたスロットマシンである。
b1 前記制御装置は遊技中、例えば表示窓内の入賞ラインに絵柄「ピエロ」が3個並ぶような特定の条件が達成されると副次的ゲーム(ボーナスゲーム)が予め決定された回数分行われ、その後は通常ゲームに戻る。
b2 前記ボーナスゲームにおいては、第1、第2リールは回転しないから、乱数発生器によるランダム値に応じてリールを停止しようとする制御装置は作動しない。第3リールは遊技者が第3リールストップボタンを操作して任意停止をする。
c スロットマシンである。
ウ 前記公開公報の考案の構成の特徴と本件特許発明の構成要件との対比
(ア) 前記考案の構成の特徴aは、本件特許発明の構成要件Aと同一である。
(イ) 前記考案の構成の特徴b1及びb2は、本件特許発明の構成要件Bと同一である。ボーナスゲーム中は、制御装置が作動しないから、第1、第2リールに関する停止制御をすることはなく、停止制御を中止することに相当する。
(ウ) 前記考案の構成の特徴cは、本件特許発明の構成要件Cと同一である。
 したがって、前記考案の構成の特徴と、本件特許発明の構成要件とは同一であり、本件特許発明の構成の全部が、前記考案に開示されていることは明らかである。よって、本件特許発明には新規性がなく、明らかな無効事由が存する。
(2) 原告の主張
 本件特許発明は、少なくとも「複数のリール」、「乱数値」、「乱数値に応じた停止制御を中止」の構成に関し、前記公開公報の考案と相違している。
ア 「乱数値」について
 前記考案においては、「通常ゲーム」時(ここにいう「通常ゲーム」は、前記考案にいう「ボーナスゲーム」に対応する「通常ゲーム」であって、「CT」に対応する「通常ゲーム」ではない。)、第1、第2リールの停止に乱数値が関与しているが、その乱数値は、2個のリールを駆動するパルスモータのそれぞれの自動停止に用いる2個の乱数値である。さらに、前記公開公報の考案では、第1、第2リールが接続されているモータ制御部は乱数発生器に接続されているが、第3リールのモータ制御部は乱数発生器に接続されていないので、「通常ゲーム」時には、入賞を決定する3本のリールのうちの2本のリール(第1、第2リール)についてだけ、それも別々の独立した2つの乱数値に応じて自動停止の位置が決定され、しかも第3リールは、常に乱数値とは無関係に停止される。
 これに対し、本件特許発明の乱数値は、入賞判定用の乱数値、すなわちどの入賞を許し又は外れにするかという、3個のリールの各停止絵柄を決めるものであり、前記考案の乱数値とは全く性質の異なるものである。
イ 「複数のリール」について
 前記考案には、「通常ゲーム」時、3個のリールのうちの2個のリールについてのみ乱数値に応じて停止するように制御する制御装置が開示されている。これに対し、本件特許発明は、入賞を決定するリールすべてを乱数値に応じて停止するように制御する制御装置を備えており、前記考案とは異なる。
ウ 「乱数値に応じた停止制御を中止」について
 前記考案における停止制御の中止は、「ボーナスゲーム」時、第3リールのみ回転し、第1、第2リールは初めから回転しないというものである。被告は、この点を捉え、これが本件特許発明における「前記乱数値に応じた停止制御を中止」することに相当すると主張する。しかし、このような構成では、技術介入性を発揮させることはできない。本件特許発明の構成要件Bにおける「前記乱数値に応じた停止制御を中止」は、構成要件Aの平等性と対比される技術介入性を達成するために、どの入賞を許し又は外れにするかを乱数値に応じて決めていた処理を中止し、熟練者が腕前を発揮できるようにしたものであるから、前記考案とは全く性質の異なるものである。
 したがって、本件特許発明の構成は前記考案には開示されておらず、前記考案の存在によって本件特許発明の新規性がないことにはならない。
4 争点4(原告が本件特許権を被告補助参加人に実施許諾し、被告は被告補助参加人から再実施許諾を受けたか)について
(1) 被告及び被告補助参加人の主張(仮定抗弁)
 原告は、本件特許権につき、被告補助参加人に対し、再実施許諾権付き実施権許諾契約を締結し、被告補助参加人は同契約に基づき、被告に対し本件特許権の実施を再許諾したから、被告が本件特許権を実施しているとしても、適法な実施である。
ア 被告補助参加人は、パチスロ機業界において、特許権等の工業所有権を保有する者から再実施許諾権付与特約付きで実施許諾を得て、同業界の製造業者に対して有償で再実施許諾して、その実施料を特許権等の保有者に還元することを業とする会社である。
 現在のパチスロ機の基になるスロットマシンは昭和52年ころ登場し、風営法の認可の下で登場したのは昭和55年ころであるが、そのころから、パチスロ機製造業者の間で、特許権、実用新案権をめぐる紛争が頻発した。そのため、業界におけるその種の紛争を調整するために、昭和59年3月に現在の被告補助参加人代表者であるAを代表者とする日本電動遊技機特許株式会社(後に、日本電動特許株式会社と商号変更)が設立された。その後、同種の業務を行う会社として、平成2年3月には警察庁出身のBを代表者とする全国回胴遊技機特許株式会社が、その2年後には現在の原告代表者であるC(以下「C」という。)を代表者とする電動式特許株式会社がそれぞれ設立されたため、一時は同業3社が鼎立した。この3社がパチスロ機製造業界における上記のような紛争の調整を行ったがうまくいかず、かえって3社が主導権争いを演じることになり、混乱した。このような状態を解消するために被告補助参加人が設立され、特許権等の管理を行う会社を被告補助参加人に一本化することとして、3社は解散した。被告補助参加人には、それまでの上記3社に参加していたパチスロ機製造業者が概ね参加し、原告も、40株を出資して被告補助参加人の株主となった。Cも被告補助参加人の取締役となった。
イ パチスロ機をめぐる特許権等の管理について被告補助参加人の行う方法は、いわゆるパテント・プール方式というもので、特許権等の保有者が、その保有する特許権等を、被告補助参加人に対し、多数のパチスロ機製造業者への再実施許諾権付きで実施許諾するというものである。そして、再実施許諾を受けた業者からの実施料の徴収は、遊技機に貼付する証紙を被告補助参加人が発行し、パチスロ機製造業者が製造台数分の証紙を購入するという方法によりされていた。この方法は、従前の3社で行われていた方法と同じである。Cが代表者を務めていた電動式特許株式会社においても同様の方法が採られていた。この証紙の代金1枚2000円から、1000円を実施料として、特許権等の保有者の側に、特許権等の使用状況を考慮して支払う。特許権等の保有者の側に支払われる実施料の額は、再実施許諾の対象となる特許権等の個数に応じて算定されている。
ウ 実施許諾の対象となる特許権等は、出願中のもの及び将来登録されるものも含め、特許権等の保有者が有するすべての知的財産権である。このことを明確に記載した原告と被告補助参加人との間の契約書は存在しないが、以下のとおり、当事者双方及び関係者とも、このことを当然の前提として行動している。
@ 合意書(丙13)
 特許会社一本化に先だって、日本電動特許株式会社(代表者は現在の被告補助参加人代表者)と全国回胴遊技機特許株式会社(代表者B)との間で交わされた合意書である。1項には、日本電動特許と全国回胴遊技機特許は、各自が所有又は管理する工業所有権に関する諸権利(特許権、実用新案権、商標権その他一切の権利であって、出願中のもの及び将来登録されるものを含む。)について、これらを相互に利用し、自由に実施することができることが合意されている。また、3項には、日本電動特許及び全国回胴遊技機特許に参加する各社は、それぞれ日本電動特許又は全国回胴遊技機特許の発行する従前の証紙を貼ることにより、両社の管理する特許権等を自由に使用し実施することができる旨合意されている(合意書3項)。
A 「特許会社一元化に関する合意書」(丙14)
 従来の特許会社3社の一本化に当たっては、原告及びCは、パチスロ機製造業者の団体である日電協の代表世話人として「特許会社一元化に関する合意書」に署名するとともに、電動式特許株式会社の代表取締役として署名している。
B 発起人会議事録(丙15)
 Cは、被告補助参加人の発起人として、同社の設立に中心的役割を果たしている。
 発起人会議事録によれば、被告補助参加人への一元化において、特許権等の保有者、特許管理会社及び参加各社の相互関係並びに対象となる特許権等の範囲について、従来の方法、範囲を格別変更することは行われていない。したがって、対象となる特許権等の範囲は、現在登録されているものの他、出願中のもの及び将来登録されるものを含むものである。
C 原告発行の「新株式発行並びに株式売出届出目論見書」(丙10)
 同目論見書には、「第3 事業の概況等に関する特別記載事項 2.保有工業所有権の管理について
 当社及びパチスロ機メーカーの多くは、日本電動式遊技機工業協同組合(以下『日電協』という。)に加入しております。日電協の組合員は、自社保有工業所有権の管理運用を、日本電動式遊技機特許梶i以下『日電特許』という。)にて行い、その工業所有権の使用については、日電特許との間で実施許諾に関する契約書を締結したメーカーに認めることになっております。」(8頁)との記載がある。
D 記者会見における発言(丙11)
 丙11は、Cが、パチスロ機業界の業界紙の記者を招いて開いた記者会見(以下「本件記者会見」という。)における録音テープを、原告が反訳したものである(以下「反訳書」という。)。
 Cは、本件記者会見において、日電特許による特許の管理運営についての質問に対して、次のように答えている。
 「もう、管理運営は任せていません。」、「日電特許が許諾を受けて、再許諾を各メーカーにやっていったというのは、過去の流れなんです。ですから、平成9年度までの実績の中では、そういうことがあったということです。」(反訳書3頁1行〜4行)
 「日電特許という存在があるから、誤解をしているんだと思います。あそこに入っていると、パテントの問題はクリアになるんだと。仲間意識みたいな形で、あの存在があるんです。」、「以前はそのとおりだったんです。その延長上からきているということは、多少影響し合っているとは思います。」(反訳書13頁20行〜24行)
E 弁護士松本司の高砂電器産業株式会社宛の書面(丙28)
 同弁護士は、別件東京地方裁判所平成12年(ワ)第3701号事件(実施料(証紙購入代金のこと)返還請求訴訟)及び本件における原告アルゼの訴訟代理人である。丙28の日付は平成9年5月21日であり、その記載内容に照らして、同弁護士が原告の代理人として作成し、高砂電器産業に宛てたものであるが、その中には、「従いまして、実施許諾を受ける会社は、従来どおり、すべての権利の実施が可能で、1台あたり合計2000円の実施料を支払うという、従来の方法と全く変更はないことになります。また、証紙も実施料の徴収も日電特許がするのですから、実際上は変化はありません。」との記載がある。
 また、丙30は原告が被告その他の実施許諾契約を結んでいた各社に送りつけた「通常実施権設定暫定契約書案」であり、丙29はそれに付されていた書面であるが、これらを参照すると、丙28の上記記載から、本件におけるパテントプール方式による実施許諾契約関係において、実施許諾の対象とされている特許権等は、特許権等の保有者の有する特許権、実用新案権、商標権、その他一切の権利で、出願中のもの及び将来登録されるものを含むものであることは明白であり、その契約関係形成の目的に照らしても、本件における実施許諾契約関係における参加者全員(少なくとも本件原告を含む。)が了解していたものである。
エ 原告は、実施許諾の対象は、被告補助参加人と原告との間に締結されている契約書に添付されている工業所有権等目録に記載された権利に限定されると主張するが、誤りである。
 被告補助参加人と原告との間において作成されている契約書に添付されている特許権等の目録は、証紙代金2000円のうち1000円を特許権等の保有者に案分して支払うにつき、算定の対象として基礎ポイントを与えられた特許権等を掲げたものにすぎず、実施許諾の対象を目録記載の特許権等に限定するものではない。したがって、各年度によって変更があるのは当然である。従前実施されていた特許権等(技術)であっても、機種が変更されれば、実施されなくなるということはあるのであり、同様に、機種の変更に伴って、従来実施されていなかった特許権等(技術)が、新たに実施されるようになることもあるのである。それに伴って、案分金額算定の対象となる特許権等も変更されるのである。
オ 本件特許権は、昭和63年3月18日に出願され、平成5年10月18日に公告、平成6年7月7日に登録されている。原告が、本件特許発明が各パチスロ機製造業者(再実施権者)によって実施されているから案分額算定の対象とするようにとの申入れをしたのは、平成7年7月であるから(丙20、21)、平成6年3月31日付けの契約書(対象期間は平成6年4月1日〜平成7年3月31日。甲19)、及び平成8年3月29日付けの契約書(同じく平成7年4月1日〜平成8年3月31日。甲20)の目録に記載されていないのは、当然といえる。
 また、本件特許権は、平成5年10月18日に出願公告されているのであるから、その時点で被告補助参加人に申入れをすることは可能だったはずであるが、原告がそれをしなかったのは、各製造業者の製造販売する機種が本件特許発明を実施するものでないことを知っていたからである。同様に、平成6年7月7日に登録されているから、その時に申入れをすることもできたはずであるが、原告は、各製造業者の製造販売する機種が本件特許発明を実施するものでないことを知っていたので、申入れをしなかったのである。平成7年7月に上記申入れをしたのは、そのころ各製造業者の製造販売する機種が変更され、原告が、本件特許発明を実施しているといえるのではないかと考えたからである。しかしながら、各製造業者は、その製造販売する機種に本件特許発明を実施しているとは認めず、案分実施料算定の対象とすることに同意しなかった。そこで、被告補助参加人も案分実施料算定の対象としないことにし、原告もこれに同意した。したがって、平成8年4月1日付けの契約書(対象期間は平成8年4月1日〜平成9年3月31日。甲18)添付の目録には、本件特許権が記載されていないのである。
 原告が平成8年4月1日付けの契約書において、本件特許権を案分実施料算定の対象としないことに同意していたことは、同契約書に基づいて算定された同期間分の案分実施料の支払を受領していることからも明白である。さらに、本件特許権を案分実施料算定の対象としていない平成9年4月1日〜平成10年3月31日の期間についても、原告は、本件実施許諾契約関係が終了したと主張しながら、案分による実施料を受領している。
カ 平成9年初めころから、原告代表者が、パテントプール方式を解消して、参加メーカーと特許権等の保有者との個別契約によることを主張し始め、同年6月11日の被告補助参加人の取締役会、同月18日の株主総会でもこの件が話し合われたが、話はまとまらなかった。それで原告は、パテントプール方式の終了を主張して、特許権侵害訴訟を次々提起しており、本件もその一つである。
(2) 原告の主張
 原告は、本件特許権を実施許諾していない。
ア 実施許諾をした特許権等の範囲は、原告と被告補助参加人の間の実施許諾契約書(甲18)とその添付の目録により一義的に定まる。同契約書1条1項には、「甲(原告。ただし、旧商号)は乙(被告補助参加人)に対して、別紙目録記載の工業所有権等について、本契約の条項に従い通常実施権を許諾する。」と定められており、これがすべてである。
イ 仮に、本件特許権も実施許諾の対象に含まれるとすると、本件特許権に抵触する機種は、平成10年3月に初めて市場に登場したので、本件実施契約締結日よりも2年も前に、将来新たに開発するかもしれないパチスロ機が抵触するかもしれない特許につき、原告と被告補助参加人が実施許諾契約を締結することになる。そして、被告補助参加人が、原告に対し、将来使うかどうかわからない特許権等について、実施料を1台当たり509円という具体的な額で定め、その支払を合意したことになるが、このようなことはきわめて不自然である。
ウ 原告は、パチスロ機に関するもの以外にも多数の工業所有権等を有しており、これらが明確な合意によらずすべて実施許諾の対象となるというのでは、プロパテントの時代に逆行する。
5 争点5(原告の損害等)について
(1) 原告の主張
 原告は、次のとおり、特許法102条1項に基づき損害賠償を求める。
ア 被告製品の販売台数
 被告による被告製品の販売台数が合計4万3000台であることに、争いはない。
イ 原告の実施能力
 被告による被告製品の総販売台数は前記のとおり4万3000台である。原告の平成10年4月1日〜平成11年3月31日の事業年度のパチスロ機総製造販売台数は27万6928台である。被告の被告製品の総販売台数は、原告のパチスロ機総製造販売台数の15.5%にすぎないので、原告は、被告製品の総販売台数につき実施能力を有する。
ウ 単位数量当たりの利益の額
(1) 原告の商品の販売価格
 本件において、特許法102条1項にいう「特許権者が当該侵害がなければ販売することができた物」は、本件特許発明の実施品であるところの原告の商品「ウルフエムX」(以下「原告商品ウルフ」という。)及び「チェリー12X」(以下「原告商品チェリー」といい、両者を併せて「原告商品」と総称する。)である。
 原告商品ウルフの平均販売価格は33万3632円、原告商品チェリーのそれは33万5264円である。これは、両商品の全製造台数から算定したものである。両商品の平均販売価格は、33万4267円である。
 (2,201×333,632+1,403×335,264)÷(2,201+1,403)=334,267
(2) 変動経費
 特許法102条1項の「利益」は、限界利益を指すと解すべきであるから、変動経費のみが売上金額から控除されるべきである。
@ 製造原価
 原告商品ウルフの製造原価は9万1463円、原告商品チェリーのそれは8万8983円である。その平均製造原価は9万0498円である。
 (2,201×91,463+1,403×88,983)÷(2,201+1,403)≒90,498
A 広告宣伝費
 原告商品ウルフ及び同チェリーの各機種について費やされた販売促進物品の費用は、それぞれ180万2000円である。1台当たりの金額は1000円である。
 (1,802,000+1,802,000)÷(2,201+1,403)=1,000
B 販売費
 人件費については、営業部門の人件費のうち、「販売インセンティブ」のみが変動経費に該当する。その金額は、原告の損益計算書によれば、10億6531万8328円である。
 そのほか、変動費である経費としては、販売手数料と運搬費があり、その金額は、原告の損益計算書によれば、それぞれ4億2309万0784円と9820万9793円である。販売手数料は原告が直販する場合にのみ生じる費用である。また、販売されたパチスロ機の運送費は、購入者たるパチンコホールが負担するので、運搬費には含まれていない。
 これらを、原告の総売上中、原告商品ウルフ及びBの売上げの占める割合で除すると、1台当たりの金額は、5291円である。
 (1,065,318,328+423,090,784+98,209,793)×(334,267×3,604÷100,240,715,186)÷3,604≒5,291
C ロイヤリティ
 ロイヤリティは、いずれも1台当たり日電協証紙代1365円、日電特許証紙代2000円で、合計3365円である。
 上記@ないしCを合計すると、変動費たる経費の合計は、1台当たり、10万0154円となる。
(3) 1台当たりの利益の額
 上記の金額を前提として「単位数量当たりの利益の額」を計算すると、原告商品ウルフ及び同チェリーの1台当たりの利益の額は平均23万4113円となる。
 334,267−100,154=234,113
エ 損害額
 以上によれば、原告の損害額は、少なくとも100億6685万9000円となる。
 234,113(円)×43,000(台)=10,066,859,000
(2) 被告及び被告補助参加人の主張
ア 原告の生産能力
 平成6年以降、パチスロ機の市場は急速に拡大しており、原告の生産実績も平成9年度以降、急伸していた(詳細は被告準備書面(16)を参照。)。当時原告の生産能力は、年間24万台で、平成11年7月の新工場稼働開始により36万台に増加する予定であった。原告の生産実績は、平成10年度には既に生産能力を超えた27万7102台であって、平成9年から10年にかけては既に飽和状態であったのであり、新工場の稼働開始による生産能力の増強によっても、パチスロ機遊技場の拡大に伴う増産に追いつくのがせい一杯で、それ以上の余力はなかった。しかも、原告は、CT機がすべて本件特許発明の技術的範囲に属すると主張するのであるが、市場において販売されたCT機は、原告の生産能力をはるかに超えており、これを原告が肩代わりすることは不可能であった。したがって、被告の譲渡した数量は、原告の実施の能力を超えており、原告はこの分を自己の損害として賠償を求めることはできない。
イ 原告の販売能力
 仮に、原告が平成10年ころパチスロ機を増産する能力を有していたとしても、当時の原告のパチスロ機の市場占有率は約40%であったから、被告製品の販売数量のうち、原告が販売することができたのはそのシェア分とすべきである。
ウ 単位数量当たりの利益の額
(ア) 特許法102条1項の「利益」は、限界利益でなく、純利益を指すと解すべきである。特許法102条1項及びその基礎となる民法709条は、現実に被った損害を賠償せしめるものであるところ、特許法102条1項は権利者の逸失利益相当損害額の立証を容易にするにとどまり、何ら制裁的意味を持つものでない。権利者の本来の逸失利益相当損害額は、必要経費を控除した純利益なのであり、これ以上の金額の賠償を請求できる理由はない。学説上も純利益説が通説である。
(イ) 仮に限界利益説を採るとしても、人件費が変動経費に組み入れられていないのは誤りである。
(ウ) 原告の主張する各費目について
@ 平均販売価格について
 原告商品ウルフ及び同チェリーの平均販売価格を立証する書証として原告が提出する証拠(甲27、28、38、39)を分析すると、別表1のとおり、原告商品ウルフでは代行店価格が直販価格より7万2571円も低いのに対し、原告商品チェリーでは逆に代行店価格が直販価格より1万1974円も高いことになる。代理店に販売する場合には、直販価格よりも低廉にならざるを得ないから、原告商品チェリーのそれは不自然である。
A 変動経費について
a 開発費について
 原告は、原告商品ウルフ及び同チェリーについて、開発費を変動経費に含めていない。しかし、パチスロ機においては、キャラクターの採否、音響効果、基本仕様実現のためのプログラミング、市場調査等主として当該製品に独自のゲーム性を付与するための企画・設計・実施に要する費用である開発費の多寡が売上げの多寡を決定付けるものであるので、多額の開発費を要する。被告製品においてもイ号物件では約4600万円、ロ号物件では約2900万円の開発費を投入している。原告においても、原告商品ウルフ及び同チェリーについて、多額の開発費を投入しているはずであるから、これを算入すべきである。
b 製造原価について
 原告商品ウルフ及び同チェリーの製造原価については不明であるから争う。ちなみに、被告製品の平均製造原価は10万2638円である。
c 広告宣伝費
 原告の損益計算書によれば、平成10年度(1998年度)における原告の広告宣伝費は、10億1652万6928円であり、これを全製造台数27万6928台で除すれば、1台当たり広告宣伝費は3670円となる。少なくともこの金額が変動費として控除されるべきである。
B 変動費の上昇
 上記のとおり、原告は被告の譲渡数量を生産し販売する能力を有しておらず、これを原告の損害とすることができないというべきであるが、仮に、原告が被告の譲渡数量を生産し販売する能力を有するとしても、実際に生産する際には、増産数量に見合った労務費、設備費の上昇は避けられず、販売に際しては販売手数料、販売奨励金が上昇することが確実である。原告の総製造販売台数全体の変動経費は明らかでないが、仮に製品の売上単価及び変動費比率が均一であると仮定すれば、少なくとも原告の総製造販売台数の変動経費を基礎として15.5%の変動費上昇が認められるべきである。
エ 特許法102条1項ただし書の主張@(原告の市場占有率)
 上記のとおり、仮に原告が平成10年ころパチスロ機を増産する能力を有していたとしても、被告製品の販売数量のうち、原告が販売することができたのは当時の原告のシェア分40%というべきである。よって、特許法102条1項ただし書により、その60%を減ずるべきである。
オ 特許法102条1項ただし書の主張A(原告のCT機企画開発力)
 また、同時期に販売されたCT機の中で、別表2のように、原告商品ウルフ及び同チェリーの台数は極めて少なく、被告製品の後記のような特徴も有していない。このことは原告がこの種パチスロ機の商品企画力を有していなかったことを裏付けるのであって、この点からも、原告のCT機の市場占有率を超える譲渡数量は、原告において販売することができなかったというべきである。
 すなわち、パチスロ機の顧客誘因力は、視覚的魅力(起用されるキャラクター、絵柄配置等)、聴覚的魅力(ゲーム中に流れる音楽、効果音等)、大量メダル獲得可能性(基本スペック等)等の複合的な要因によって決定付けられるものであり、CT機であることは、それら多数の要因のうちの1つにすぎない。これら要因は、実際にゲームを行いあるいは雑誌を介してプレイヤーに認知されるものであるところ、同一シリーズの機種であることあるいは当該機種がある機種の後継機であることは、上記要因に関する顧客の認知を容易にする。
(ア) イ号物件の特徴
@ ヒット機種と同様の人気キャラクターを使用したこと
 イ号物件は、人気機種であった被告製パチスロ機「ウルトラセブン」の後継機種であり、同機種と同様のキャラクターを使用して顧客認知度を高めたことが販売台数の増加につながった。
A リール絵柄が見やすく目押ししやすいこと
 イ号物件は、1リール絵柄のみで入賞となる当たり役に見やすい絵柄(黒帯チェリー)を採用してメダルの獲得を容易にし、顧客ニーズに応えたことで販売台数の増加につながった。
B 大当たり予告(リーチ目)が多様でわかりやすいこと
 イ号物件は、大当たり予告(リーチ目)が約2000通りあり、前記「ウルトラセブン」で好評を博したわかりやすいリーチ目を含めたことも販売台数の増加につながった。
C 大量メダル獲得可能な機種であったこと
 イ号物件は、大量のメダル獲得を可能にする基本仕様を有しており、CT機の比較において1位にランクされるなどその仕様について高い評価を得ていた。
(イ) ロ号物件の特徴
@ イ号物件の後継機種であること
 ロ号物件は、被告のCT機第二弾であり、人気機種であったイ号物件と同様のキャラクターを使用していないものの、その後継機種として顧客の期待度、認知度が高かった。
A 視聴覚的演出を工夫したこと
 ロ号物件は、サウンドとリールバックライトの演出に工夫を凝らし、Dの「2億4千万の瞳」のメロディーを使用し、洗練されたゲーム性を実現したことも評価されている。
カ 集団的契約関係論に基づく主張
 原告、被告補助参加人及び被告補助参加人に参加している各製造業者による集団的契約関係は現在も存続している。特許権等の保有者は、被告補助参加人との実施許諾契約に基づきその所有する特許権等について案分実施料を支払うように請求できるのであり、話し合いがまとまらなかった場合は、裁判所に各製造業者が当該特許権を実施しているかの判断を求め、案分実施料を支払うように求めることができるというべきである。各製造業者が当該特許権を実施しているということになれば、当該特許権について案分実施料の支払を請求することができるのである。
 本件特許権についても同様である。本件特許権が各製造業者によって実施されているということになれば、本件特許権を案分実施料算定の対象とするべきだったということになるのである。
 本件においては、仮に被告製品が本件特許権に抵触するものであっても、本件における集団的契約関係の下においては、実施許諾契約に基づいて特許権等の保有者に支払われる案分実施料を得ることができるだけである。同契約関係の下において支払われる案分実施料が契約関係外において支払われる実施許諾料よりも低廉であるとしても、自己の意思により契約関係を形成した以上、その約定に従うのは契約法上当然である。契約関係にありながら契約外の基準による支払を求めるのは失当である。また、本件実施許諾契約関係の下において、原告に案分実施料を支払うのは被告補助参加人である。
 したがって原告は、被告補助参加人に対して本件特許権の分の案分実施料の支払を求め得るにとどまる。被告に損害賠償を求めるのは失当である。
キ 権利濫用
 また、上記実施許諾契約関係の下においては、原告が、同契約関係において請求可能である案分実施料を超えて、特許法102条1項に基づき損害賠償を請求することは権利濫用に当たるというべきである。
(3) 原告の再反論
 被告は、特許法102条1項ただし書の主張として、パチスロ機の顧客誘因力は複合的な要因によって形成されるものであり、CT機であることはそれらの要因のうちの1つにすぎないという。
ア しかし、CT機は本件特許権を実施しなければ実現不可能な機種であるから、被告製品に対する需要は、本件特許権の実施により初めて充たされる。そうであれば、被告製品の譲渡数量は本件特許権の実施により初めて可能となった譲渡数量であり、本件においては、侵害物件につき譲渡数量の「一部又は全部を特許権者が販売することができない事情」は何ら認められない。
イ また、被告の前記主張は具体的根拠を示したものでなく、被告製品に対する需要が原告製CT機に向かわないという相当因果関係を立証するものではない。
ウ CT機能は、遊技者の技術介入性を認めることに特徴を有するところ、被告の主張する顧客誘因力である「リール絵柄が見やすく目押ししやすいこと」は、このCT機能を生かすための企画、設計であり、CT機能が被告製品の顧客誘因力そのものであることを裏付ける。「大量メダル獲得可能な機種であったこと」も同様である。
 いずれにしても、本件において、特許法102条1項ただし書にいう、侵害物件の譲渡数量の「一部又は全部を特許権者が販売することができない事情」は、何ら立証されていない。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(被告製品が構成要件Aを充足するかどうか。すなわち、被告製品がリールを乱数値に応じて停止するように制御しているか)について
(1) 本件明細書には、従来技術の説明として、「現在使用されているスロットマシンでは、回転しているリールの停止位置は機械の内部で電子的に発生する乱数値に基づいて決定される。すなわち、リールの回転が停止した時には乱数値に応じたシンボルの組合せが表示されるようにリールの停止制御が行われる。」(本件公報1欄22行〜2欄2行)、「完全に乱数値でリールの停止を決定するスロットマシンでは、どの遊技者がゲームをしても、その結果としてのコイン払い出し率は同じで、遊技者の熟練度が高くなればなるほどその技術が反映しない結果となり、遊技に対する魅力がそがれてしまう。」(同2欄11行〜18行)という記載があり、これらの記載からは、一見、本件特許発明は、発生した乱数値に基づいて完全にリールの停止位置が決定される装置であるかのようにも見える。
 しかし、他方、本件明細書には、本件特許発明の実施例として、「上記の『大ヒットフラグ』が立っていない場合又は所定ゲーム回数に達した場合には、通常のリール駆動及び停止制御を行う。‥(中略)‥各ストップボタン5L、5C、5Rがオンになった時、上記の判定した乱数値に応じたシンボルが各表示窓の中央表示位置から4コマ以内にあれば、そのシンボルが表示されるように各リール3L、3C、3Rを停止させる停止制御を行う。」(同7欄12行〜26行)との記載もあり、シンボルが4コマ以内にあるときには引込処理を行うことが記載されている。そうすると、「リールを乱数値に応じて停止するように制御する制御装置」とは、発生した乱数値で完全にリールの停止位置が決定される装置のみならず、発生した乱数値に応じたシンボルが所定コマ数以内の位置にあれば、そのシンボルが表示されるようにリールを停止させる装置、すなわち所定コマ数以内の引込処理を行う装置も含まれると解するのが相当である。
 また、この乱数値に応じた停止制御において、所定コマ数以内の引込処理及び回避処理を行うことは、特開昭59−186580号公報(甲10)にも記載されており、本件特許権の出願時には公知の技術であったものであり、この点に照らしても、上記のように解するのが相当である。
(2) 前記争いのない事実における別紙イ号物件説明書及び同ロ号物件説明書(以下「別紙イ号及びロ号物件説明書」と総称する)によれば、被告製品はいずれも、通常ゲームでは、3つのリールすべての停止について、5コマ以内の引込処理を行っているから(回避処理も行っており、乱数で抽選された以外の入賞役が成立することはない。)、リールを乱数値に応じた停止制御を行っているということができる。
 したがって、被告製品はいずれも、構成要件Aを充足する。
 被告は、構成要件Aを、乱数による抽選結果のみによりリールの停止位置が決定される制御装置と解し、5コマ制御を行う被告製品がこれを充足しないと主張するが、上記のとおり、所定コマ数以内の引込処理(及び回避処理)を行うことは公知技術であり、このような処理をすることも「乱数値に応じた停止制御」に含めて解すべきものである。被告の主張は、採用できない。
2 争点2(被告製品は構成要件Bを充足するか)について
(1) 「遊技中特定の条件が達成された時」について
 前記争いのない事実における別紙イ号及びロ号物件説明書によれば、被告製品は、通常ゲーム(別紙イ号及びロ号物件説明書のフロー図における符号Cのルート)において、BCに当選し、かつCTにも当選した場合、BCゲームが終了した後に自動的にCTが開始する。これは、本件特許発明の「遊技中特定の条件が達成された時」に該当するということができる。
(2) 「前記乱数値に応じた停止制御を中止」について
ア 本件明細書には、本件特許発明の実施例について、「この時は、所定のゲーム回数(例えば10ゲーム)の期間、回転リールの停止制御を中止する。すなわち、遊技者がストップボタン5L、5C、5Rを押したタイミングでリールの回転を停止させるようにする。」(本件公報5欄17行〜21行)、「そして、第3リール3Rの停止については制御せず、第3ストップボタン5Rがオンしたタイミングで停止させる。すなわち、‥(中略)‥第3リールについては全くフリーに(遊技者によるストップボタン操作のタイミングで)停止させる。」(同6欄35行〜41行)との記載がある。
 これらの記載からすれば、上記要件は、リールを遊技者によるストップボタン操作のタイミングで停止させることと解するのが相当である。
 さらに、上記1に記載したように、構成要件Aの「乱数値に応じた停止制御」とは、所定コマ数(例えば4コマ)以内の引込処理を含むと考えられるから、この要件の「停止制御を中止」は、リールの停止制御において、乱数値に対応する絵柄の所定コマ数以内の引込処理を行わないことをも意味すると解される。
イ 被告製品について
 被告製品は、例えばロ号物件では、別紙ロ号物件説明書の第3図−2及びフロー図(符号Aのルート)によれば、CTにおいて、85.8%の確率(14051÷16383×100)で、0〜16383の乱数のうち0〜14051の乱数(CT複合役の範囲)が抽出されると、第1リール及び第2リールについては、いかなる絵柄の引込制御も回避制御も行うことなく、ストップボタンを押した時点の最短停止絵柄で即止まりする。第3リールについても、いかなる絵柄の引込制御も行うことなく停止する。すなわち、各リールは、第3リールについて、下記の例外的に回避処理が必要な場合を除いて、ストップボタンを押した時点の最短停止絵柄で即止まりする。
 14052〜16383の乱数が抽出された場合(14.2%の確率。フロー図の符号Bのルート)、BC及びRPの場合は、乱数値に対応する絵柄に5コマ以内の引込制御を行っており、乱数値に応じた停止制御を行っているが、これは例外であって、付加的な構成にすぎないと考えられる。すなわち、BCについては、これに当選するとCTが終了することが認められる(A401)から、CT中と同等に考えることはできないし、RPについては、前記第3(争点に関する当事者の主張)2(1)イ(エ)Cに掲記した遊技機規則を遵守するために必要とされた例外であるから、やむをえないものであって、これら例外があることによって、「停止制御を中止」していない、ということはできない。
 上記の点は、イ号物件においても同様である。
 したがって、被告製品は、CTにおいては、原則として第1ないし第3リールについては、乱数値に対応する絵柄への引込処理を行っておらず、遊技者によるストップボタン操作のタイミングで停止させているから、これは、「前記乱数値に応じた停止制御を中止」の要件を充足するということができる。
 なお、被告製品のリーフレット(甲16、甲17)においても、「CT中は打ち方によって獲得枚数大幅アップ!全リールねらい打ち可能。(ボーナス・リプレイ図柄を除く)」(イ号物件)、「CT中は全てのリールがボタンを押したら即停止する。」(ロ号物件)などと記載されており、被告製品の売り込みに当たって、すべてのリールがストップボタンを押したタイミングで即停止することが、中心的な機能として強調されていることが認められる。
ウ 被告は、被告製品においては、ゲームの全部を通じて乱数値を抽出してその乱数値に応じた一連の電子的・機械的操作が行われており、原告が主張するある特定条件においても、他の条件の場合と同様の停止制御を常に行っているので、停止制御の中止をしていないと主張する。そして、フロー図の符号Aの場合、第1リール又は第2リールは、乱数値の結果である「停止制御用絵柄データ」に基づき、停止絵柄候補が選択され、「停止絵柄候補中から最小移動による停止絵柄決定」(A310−3)によって処理され、各リールが停止処理されるので、原告が主張する、いわゆる「即止め」又は「目押し」を実現したかのような様相を呈する場合があっても、実際は、他の場合と全く同様の制御系統でリールを停止させているにすぎないと主張する。
 しかしながら、上記イに認定したように、被告製品は、例えばロ号物件では、0〜14051の乱数が抽出されると、第1リール及び第2リールについては、引込制御も回避制御も行うことなく、ストップボタンを押した時点の最短停止絵柄で即止まりし、第3リールについても、引込制御を行うことなく停止するものであり、各リールは、第3リールについての例外的な回避処理を除いて、ストップボタンを押した時点の最短停止絵柄で即止まりするのであるから、この被告の主張は採用し難い。加えて、被告製品はいずれも、CT機であることを売り物にしているところ、日電協から警察庁生活安全局生活環境課あてに提出された文書(甲7)には、「1 概要」において、CTの作用効果について、「これにチャレンジタイム(CTと称します。)という遊技者がより技量を発揮できる新しい方式を採用させていただきたい。この方式の発生条件は、役物連続動作増加装置(BB)の作動終了等3ヶ所を契機として、すべての回胴、若しくは一部の回胴を無制御にして遊技者の停止ボタンの操作によってBB、役物連続作動装置(RB)、役物(SB)及び再遊技以外の入賞図柄を有効ライン上に揃えることができる遊技をおこなえるものであります。」と記載されており、CT機においては、CT中はリールを無制御にするものであることがうたわれているのであるから、被告製品がCT中もリールの制御を行っているとの被告の主張は採用できない。
(3) 「予め定めたゲーム回数分」について
 被告製品は、例えばロ号物件では、別紙ロ号物件説明書のフロー図(符号A及び符号Bのルート)によれば、ステップA403(B403)で、「チャレンジタイムの遊技が99回を超えたか?」となっており、Yesの場合には、「チャレンジタイムフラグオフ」(ステップA404(B404))となっていて、チャレンジタイムが終了する。したがって、被告製品においては、予め定めた上記回数でチャレンジタイムが終了するのであって、上記要件を充足する。
 上記の点は、イ号物件においても同様である。
 以上(1)ないし(3)によれば、被告製品は、構成要件Bを充足する。
 したがって、被告製品は、本件特許発明の技術的範囲に属すると認められる。
3 争点3(本件特許権に無効事由があり、本訴請求は権利濫用に当たるか)について
(1) 被告は、実開昭60−37380号公報(乙1)に本件特許発明の構成がすべて開示されているから、本件特許権は新規性がなく無効であると主張する。
(2) 上記公開実用新案公報には、次のような構成の特徴を有する考案が記載されている。
a 表示窓内にそれぞれ所定の絵柄を表示する3個のリールを備え、通常ゲームにおいて、第1、第2の2個のリールを、乱数発生器によるランダム値に応じて停止するように制御する制御装置を備えたスロットマシンである。
b1 前記制御装置は遊技中、例えば表示窓内の入賞ラインに絵柄「ピエロ」が3個並ぶような特定の条件が達成されると副次的ゲーム(ボーナスゲーム)が予め決定された回数分行われ、その後は通常ゲームに戻る。
b2 前記ボーナスゲームにおいては、第1、第2リールは回転しないから、乱数発生器によるランダム値に応じてリールを停止しようとする制御装置は作動しない。第3リールは遊技者が第3リールストップボタンを操作して任意停止をする。
c スロットマシンである。
(3) 上記a及びb1は、本件特許発明中に含まれる構成と同じであるところ、上記公開実用新案公報の「考案の詳細な説明」欄には、考案の目的につき、次のように記載されている。
 「従来のスロットマシンにおいては、‥(中略)‥例えば3個のリールを回転させ、ストップボタン操作などによって各リールが停止した際に入賞ライン上に停止している各リールの絵柄の組合せによって入賞の判定がなされる。このような従来のスロットマシンでは上述のような単発的ゲームのみを対象としており、若干ゲーム性に欠けるきらいがあった。本考案は上述した実情に鑑み、スロットマシンのゲーム性をさらに高めることを目的とする。このため本考案においては、停止された複数個のリールの絵柄が特定の組み合わせになると、いわゆる通常のゲームとは異なる副次的ゲーム(以下「ボーナスゲーム」という。)のチャンスが与えられるようにする。しかもこのボーナスゲームは通常のゲームよりも入賞率が高く設定されると共に、このボーナスゲームの実行可能回数の決定もゲームの一要素に盛り込むことによって、極めてゲーム性に富んだものとなる。」(同公報2頁9行〜3頁8行)
(4) 他方、本件明細書の「考案の詳細な説明」欄には、従来の技術の説明として、次のように記載されている。
 「現在使用されているスロットマシンでは、回転しているリールの停止位置は機械の内部で電子的に発生する乱数値に基づいて決定される。すなわち、リールの回転が停止した時には乱数値に応じたシンボルの組合せが表示されるようにリールの停止制御が行われる。」(本件公報1欄22行〜2欄2行)
 「完全に乱数値でリールの停止を決定するスロットマシンでは、どの遊技者がゲームをしても、その結果としてのコイン払い出し率は同じで、遊技者の熟練度が高くなればなるほどその技術が反映しない結果となり、遊技に対する魅力がそがれてしまう。」(同2欄11行〜18行)
 そして、本件特許発明の作用として、次のように記載されている。
 「本発明のスロットマシンにおいては、特定の条件が達成されてリールの停止制御が中止されている間、回転しているリールの停止位置は遊技者による停止操作のタイミングで決定されるので、熟練者と非熟練者との間に差が生ずる。すなわち、遊技者の熟練度に応じた結果となり、熟練者にとってはコイン取得率が若干高くなってゲ一ムの魅力が増す。一方、熟練者でない者にとっても、ある一定のコイン取得率は確保されるので、魅力がそがれることはない。また、上記の停止制御を複数のリールの一部についてのみ中止し、他のリールに対しては一定の停止制御を行うことにより、熟練者にとって更に有利な結果が得られるものとなる。」(同3欄11行〜24行)
 「熟練者にとっては、ある範囲でその熟練度に応じた結果が得られてゲームの魅力が向上する一方、熟練者でない者にとっても、ある一定のコインの払い出し率が確保される。これにより、技術介入性と平等性が調和して各遊技者の熟練度に応じたゲームができるという効果が得られる。」(同8欄21行〜27行)
(5) 上記の各記載を比較すると、実開昭60−37380号公報の考案においては、乱数値に基づいてリールの停止位置を決定することにより、平等性を実現し、熟練者でない者にもある一定のコインの払い出し率を確保することへの言及はあっても、一部技術介入性を導入して、これにより各遊技者の熟練度に応じたゲームができるという効果が得られるようにするという思想は全く見られない。なるほど、上記考案にも通常ゲームとは異なる副次的ゲーム(ボーナスゲーム)が導入され、実施例では、ボーナスゲームで第3リールがゆっくり回転し、ストップボタンを操作するタイミングで停止させるいわゆる目押しがしやすくなっており、一見すると本件特許発明に似るかのようであるが、これはあくまでも変化を付けてゲーム性に富んだゲームにする目的のものであって、各遊技者の熟練度に応じたゲームができるようにしたものではない。さらに、上記考案では、目押しのできる第3リールは、もともと通常ゲームでも乱数値に基づく停止位置の決定がされておらず(その意味では、平等性の実現さえ達成されていないともいえる。)、ボーナスゲームで目押しが可能であっても、それは本件特許発明にいう「乱数値に基づくリールの停止制御を中止」したからではない。
 このように、上記考案では、本件特許発明における、通常ゲームでは乱数値に基づいてリールの停止位置を決定することにより平等性を実現し、通常ゲームでない場合には停止制御を一部のリールについて中止して技術介入性を導入し、技術介入性と平等性を調和させるという思想は全く開示されておらず、全く別個の発明といわなければならない。したがって、上記公開実用新案公報に本件特許発明が開示されているということはできず、本件特許発明が明らかに無効であるとはいえない。
4 争点4(原告が本件特許権を被告補助参加人に実施許諾し、それにより被告は被告補助参加人から再実施許諾を受けたか)について
(1) 前記争いのない事実に証拠(甲5、甲18ないし20、乙2ないし25、丙2ないし37、丙40。書証の枝番号は省略する。)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
ア 被告補助参加人は、パチスロ機業界において、パチスロ機等に関する特許権等につき、これを保有する者から再実施許諾権付きで実施許諾を得た上で、同業界の製造業者に対して有償で再実施許諾し、その実施料を特許権者等に還元することを主たる業務としている。原告は、パチスロ機の製造を行うとともに、本件特許権を始めとするパチスロ機関連の多数の特許権等を保有している。
 パチスロ機には、多数の特許権等が用いられており、現在のようなパチスロ機が登場して以来、特許権等の侵害の問題をどのように解決するかがパチスロ機製造業界における大きな課題であった。そのため、被告補助参加人のような業種の会社が早くから登場し、特許権等の紛争の解決に当たってきた。そして、一時はこの種の会社三社が鼎立したこともあったが(そのうち1社は、原告代表者であるCが代表者を務める電動式特許株式会社であった。)、三者間で主導権争いを演じるのみで、問題の適切な解決に至らなかった。被告補助参加人は、このような状態を解決して特許権等管理会社を一元化する目的で、平成5年に設立された。
イ 被告補助参加人の調整方法は、いわゆるパテントプール方式というものである。被告補助参加人に参加している特許権等の保有者は、少なくとも一定数の特許権等を拠出し、被告補助参加人に対して再実施許諾権付きで実施許諾をする。この契約は書面で行われており、毎年4月1日から翌年3月31日まで対象期間を1年間として締結されているが、契約書所定の解除事由その他契約を継続し難い特段の事由のない限り契約の更新を拒否できないとの条項が置かれており、毎年更新されている。
 被告補助参加人に参加しているパチスロ機製造業者は、被告補助参加人が上記のような契約により保有者から実施許諾を受けている特許権等につき、被告補助参加人から再実施許諾を得て、これを実施する。具体的には、パチスロ機製造業者は、被告補助参加人から1枚2000円で証紙を購入し、これをその製造に係るパチスロ機に貼付するものであるが、各パチスロ機製造業者がどの特許権等を使用しているかは、主として各製造業者の申告によっている。保有者から実施許諾された特許権等のうち具体的にどの権利が使用されているかは、各製造業者と特許権等の保有者の双方が参加する被告補助参加人の委員会で裁定される。被告補助参加人は、上記申告等に基づき、特許権等の使用実績により、上記2000円の半分の1000円を財源として、個別の特許権等の保有者に対する配分額を決定している。
 本件特許権は、原告と補助参加人との間の平成8年4月1日作成の契約書(対象期間は平成8年4月1日から平成9年3月31日。甲18)の目録にも、それ以前の契約書の目録にも記載されておらず、被告補助参加人から原告に対して本件特許権の実施料の支払がされたことはない。
 各パチスロ機製造業者は、被告補助参加人から証紙を購入して貼付している限り、自己の製造するパチスロ機に用いられる特許権等については被告補助参加人から再実施許諾されているものとして、行動していた。被告も、被告補助参加人から上記証紙を購入して、被告製品に貼付していた。
ウ 原告は、被告補助参加人が再実施許諾している特許権等につき、原告がその多くを保有しているにもかかわらず、原告に対する実施料の支払額が低いと考え、これに不満を抱いていた。また、パチスロ機製造業者がどの特許権等を使用しているかが、主としてパチスロ機製造業者の自己申告によっているため、特許権等の保有者の側では自己の有する特許権等が使用されていると考えていても、製造業者からの申告がされない限り被告補助参加人が実施料の支払をしないことにも不満を抱いていた。そこで、平成9年6月にパチンコ機製造業者の間での同様のパテントプール制度につき、公正取引委員会から独禁法違反の勧告がされたことを契機に、受取実施料の額を増やすことや権利関係を明確にすることを企図して、被告補助参加人のパテントプール方式によるのでなく、個々の特許権等保有者がパチスロ機製造業者との間で個別に直接契約を締結する方法に切り換えるべきであるとの持論を展開するようになった。そして、被告を始めとするパチスロ機製造業者に対して、個別の直接契約の締結を申し入れるものとして、「通常実施権設定暫定契約書案」を送付した。
エ その後、原告は、被告補助参加人との間の再実施許諾権付き実施許諾契約が平成9年3月31日をもって合意解除により終了したと主張するようになり、その結果、原告の保有する特許権等については、もはや被告補助参加人に実施許諾していないとの見解を主張している。このため、原告と被告補助参加人間の契約書は、平成8年4月1日付けのもの(対象期間は平成8年4月1日〜平成9年3月31日)以降は作成されないままとなっている。そして、原告は、原告の保有する本件特許権を被告のイ号製品が使用していると考えたことから、被告に対し、本件特許権を使用しているかどうかを問い合わせた。これに対して被告は、いったんはイ号製品が本件特許権を使用しているかどうか検討中であるから期間の猶予をもらいたい旨回答したものの、その後は応答がなかった。そこで、原告は、被告に対して、本件訴訟を提起した。
(2) 上記認定事実を前提として判断するに、当裁判所は、実施許諾契約が存在することにより被告の本件特許発明の実施は適法であるとの被告及び被告補助参加人の主張は、採用できないものと考える。その理由は、次のとおりである。
ア まず第1に、原告の主張するように、原告が被告補助参加人との間で締結した実施許諾契約書においては、1条1項に、「甲(原告。ただし、旧商号)は乙(被告補助参加人)に対して、別紙目録記載の工業所有権等について、本契約の条項に従い通常実施権を許諾する。」と定められており、これは平成6年3月31日付けの契約書(対象期間は平成6年4月1日〜平成7年3月31日)、平成8年3月29日付けの契約書(同じく平成7年4月1日〜平成8年3月31日)、平成8年4月1日付けの契約書(同じく平成8年4月1日〜平成9年3月31日)のすべてに共通している。同条項は、実施許諾の対象となる特許権等が、同契約書添付の目録の範囲に限定されることを明らかにしている。本件特許権は、昭和63年3月18日に出願され、平成5年10月18日に出願公告、平成6年7月7日に設定登録されているのだから、仮に実施許諾の対象となっていたのであれば、平成6年3月31日付けの契約書はともかく、平成8年3月29日付けの契約書及び同年4月1日付けの契約書の目録には記載されていてしかるべきである。しかるに、上記の各契約書の目録に記載されていないのであるから、本件特許権が実施許諾の対象となっていたと認めることはできない。
 被告及び被告補助参加人は、実施許諾の対象となる特許権等は、出願中のもの及び将来登録されるものも含め、特許権等の保有者が有するすべての知的財産権であると主張する。しかしながら、被告及び被告補助参加人が主張することは、上記契約書の明文に明らかに反するものである。また、被告及び被告補助参加人が主張するような内容を記載した契約書、覚書、あるいは議事録といった書面は、一切存在しない。上記認定の被告補助参加人設立の経緯に照らしても、パチスロ機製造業界において特許権等は重要な意味を有していたものであり、そのような重要な権利について、被告及び被告補助参加人の主張するような義務を保有者に負担させるのであれば、何らかの書面が作成されているのが当然であり、この点に照らしても、被告及び被告補助参加人の上記主張は採用することができない。
イ また、被告及び被告補助参加人が主張するように、被告補助参加人と原告との間で作成されている契約書に添付されている特許権等の目録が証紙代金の一部を特許権等の保有者に案分して支払うにつき算定の対象として基礎ポイントを与えられた特許権等を掲げたものであるとしても、上記認定のように、各パチスロ機製造業者がどの特許権等を使用しているかは、各製造業者の申告によっており、被告補助参加人はこの申告に基づいて特許権等の保有者に対する配分額を算定していたものである。そして、本件特許権については、被告その他の各製造業者から、これを実施している旨の申告がなく、本件特許権を対象とする実施料の案分支払もされていなかったというのである。被告自身も、被告補助参加人に対し、本件特許権を実施している旨の申告をしておらず、原告からの本件特許権を使用しているのではないかとの問い合わせに対し、いったんは検討中である旨回答したものの、その後は格別の応答をしていなかった。そして、本件訴訟においても、主位的には、本件特許権を実施していないと主張して争っている。
 このような事実関係の下において、本件特許権について、被告補助参加人が実施許諾を受け、被告が再実施許諾を受けたとは、到底認定することができない。本件特許権について実施許諾がされたといえるためには、上記の事実関係の下においては、少なくとも、被告の側からの本件特許権を実施している旨の申告があり、本件特許権が原告に支払われる案分実施料の算定に組み込まれていたことを要するものというべきである。
 以上によれば、本件特許権につき被告が被告補助参加人を介して実施許諾を受けていた旨の、被告及び被告補助参加人の主張は、採用することができない。
5 争点5(原告の損害)について
(1) 特許法102条1項の趣旨について
 本件において、原告は、特許法102条1項に基づく損害賠償を請求している。
 特許法102条1項は、特許権者が故意又は過失により自己の特許権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは、その譲渡した物の数量に、特許権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、特許権者の実施の能力を超えない限度において、特許権者が受けた損害の額とすることができる旨を規定する。
 特許法102条1項は、排他的独占権という特許権の本質に基づき、特許権を侵害する製品(以下「侵害品」ということがある。)と特許権者の製品(以下「権利者製品」ということがある。)が市場において補完関係に立つという擬制の下に設けられた規定というべきである。すなわち、そもそも特許権は、技術を独占的に実施する権利であるから、当該技術を利用した製品は特許権者しか販売できないはずであって、特許発明の実施品は市場において代替性を欠くものとしてとらえられるべきであり、このような考え方に基づき侵害品と権利者製品とは市場において補完関係に立つという擬制の下に、同項は設けられたものである。
 このような前提の下においては、侵害品の販売による損害は、特許権者の市場機会の喪失としてとらえられるべきものであり、侵害品の販売は、当該販売時における特許権者の市場機会を直接奪うだけでなく、購入者の下において侵害品の使用等が継続されることにより、特許権者のそれ以降の市場機会をも喪失させるものである。
 したがって、同項にいう「実施の能力」については、これを侵害品の販売時に厳密に対応する時期における具体的な製造能力、販売能力をいうものと解することはできず、特許権者において、金融機関等から融資を受けて設備投資を行うなどして、当該特許権の存続期間内に一定量の製品の製造、販売を行う潜在的能力を備えている場合には、原則として、「実施の能力」を有するものと解するのが相当である(また、侵害者が侵害品を市場に大量に販売したことにより、特許権者が権利者製品の製造販売についての設備投資を差し控えざるを得ない場合があることを考慮すれば、同項にいう「実施の能力」を上記のように解さないと、特許権者の適切な救済に欠ける結果となろう。)。
 特許法102条1項にいう「侵害の行為がなければ販売することができた物」とは、侵害に係る特許権を実施するものであって、侵害品と市場において排他的な関係に立つ製品を意味するものである。
 上記のとおり、「実施の能力」が、必ずしも侵害品販売時に厳密に対応する時期における具体的な製造販売能力を意味するものではなく、侵害品の販売により影響を受ける権利者製品の販売が、侵害品販売時に対応する時期におけるものにとどまらないことに照らせば、同項にいう「侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額」についても、侵害品の販売時に厳密に対応する時期における具体的な利益の額を意味するものではなく、侵害品の販売により影響を受ける販売時期を通じての平均的な利益額と解するのが相当であり、また、「単位数量当たりの利益の額」は、仮に特許権者において侵害品の販売数量に対応する数量の権利者製品を追加的に製造販売したとすれば、当該追加的製造販売により得られたであろう利益の単位数量当たりの額(すなわち、追加的製造販売により得られたであろう売上額から追加的に製造販売するために要したであろう追加的費用(費用の増加分)を控除した額を、追加的製造販売数量で除した単位数量当たりの額)と解すべきである。このように特許法102条1項にいう「単位数量当たりの利益の額」が仮定的な金額であることを考慮すると、その金額は、厳密に算定できるものではなく、ある程度の概算額として算定される性質のものと解するのが相当である。
 具体的な事案において、特許権者が侵害品の販売時に厳密に対応する時期において現実に権利者製品の製造販売を行っている場合には、当該時期における権利者製品の単位数量当たりの現実の利益額を斟酌して、特許法102条1項にいう「単位数量当たりの利益の額」を算定することが相当であるが、この場合においても、この利益額が上記のような性質を有する仮定的な金額であることに照らせば、「単位数量当たりの利益の額」は、必ずしも、当該時期における現実の利益額と一致するものではなく、現実の利益額は、同項にいう「単位数量当たりの利益の額」を認定する上での一応の目安にすぎないというべきである。
 他方、特許法102条1項はただし書において、侵害品の譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものと規定しているが、前述のように本項を、排他的独占権という特許権の本質に基づき、侵害品と権利者製品が市場において補完関係に立つという擬制の下に設けられた規定と解し、侵害品の販売による損害を特許権者の市場機会の喪失ととらえる立場に立つときには、侵害者の営業努力(具体的には、侵害者の広告等の営業努力、市場開発努力や、独自の販売形態、企業規模、ブランドイメージ等が侵害品の販売促進に寄与したこと、侵害品の販売価格が低廉であったこと、侵害品の性能が優れていたこと、侵害品において当該特許発明の実施部分以外に売上げに結び付く特徴が存在したこと等)や、市場に侵害品以外の代替品や競合品が存在したことなどをもって、同項ただし書にいう「販売することができないとする事情」に該当すると解することはできない。
 すなわち、特許法102条1項の適用に当たっては、権利者製品は、特許発明の実施品として特徴付けられているものであり、侵害品は、まさに当該特許発明の実施品である故をもって、市場において権利者の市場機会を奪うものとされているのである。言い換えれば、侵害者の販売する製品(侵害品)は、特許権者の特許権を侵害することによって初めて製品として存在することが可能となったものであり、当該特許発明の実施品であるからこそ、権利者製品と競合するものとして、市場において権利者製品を排除して取引者・需要者により購入されたのである。侵害品の販売に侵害者の営業努力等があずかっていたとしても、特許権者としては、仮に侵害品の販売期間と対応する期間内には不可能であるとしても、これに引き続く期間を併せれば侵害品の販売数量に対応する権利者製品を販売できたはずであり、仮に侵害品が他に独自の優れた特徴を有していたとしても、あくまでも特許発明の実施品としての特徴を備えていたからこそ、権利者製品と競合するものとしてこれを排除して取引者・需要者に購入されたというべきであり、侵害者が侵害品を低廉な価格で販売した(あるいは無償で配布した)としても、特許発明の実施品であったからこそ権利者製品を排除して取引者・需要者に入手されたものである。しかも、これらの場合には、いずれも、侵害品が取引者・需要者の手に渡った結果として、それと同数の権利者製品の需要が失われているのであるから、仮に、営業努力等により侵害者による侵害行為が急であったり、取引者・需要者において、侵害品を購入する動機として、特許発明の実施品であるという点に加えて、何らかの点(付加的機能や低価格)が存在したとしても、そのような事情は、特許権者の損害額を減額する理由とはならないというべきである。また、市場において侵害品以外に権利者製品と競合する代替品が存在していたとしても、侵害者は、そのような競合製品の存在にかかわらず、これとの競争の下で一定の数量の侵害品を販売し得たのであるから、権利者製品も特許発明の実施品という点で侵害品と同一の性能を有する以上、特許権者においても、同一の条件の下で、これと同一の数量の権利者製品の販売が可能であったというべきである。
 このように、上記の各事情は、そもそも市場における侵害品と権利者製品との補完関係の擬制の下で本項の規定を設けるに当たって捨象されたものであるから、これらの事情をもって「販売することができないとする事情」に該当するということはできないが、市場において侵害品と権利者製品が補完関係にあるということを前提としても、なお、権利者が市場機会を喪失したと評価できないような事情があるときには、そのような事情は、「販売することができないとする事情」に該当するものというべきである。すなわち、侵害品がその性質上限定された期間内においてのみ需要され、当該期間内に消費されるものである場合(例えば、侵害品が生鮮食料品であるような場合)には、侵害品の販売により特許権者が喪失した市場機会は、侵害品の販売時期に対応する期間に限定されることになるから、侵害者により抗弁としてこのような事情が主張立証された場合には、特許権者は再抗弁として、侵害品の販売時期に厳密に対応する時期又はこれと直近する時期に、侵害品の販売数量と同数量の権利者製品を販売する能力を実際に有していたことを、主張立証しなければならないこととなる。また、侵害者が抗弁として、侵害品が販売された後に法令等により当該特許発明の実施品の販売が規制されたことや新技術の開発により当該特許発明が陳腐化したことを主張立証した場合には、特許権者は再抗弁として、このような規制前又は新技術を実施した代替品の発売前に侵害品と同数量の権利者製品を販売する能力を実際に有していたことを、主張立証しなければならないというべきである。
(2) 本件における検討
 以上を前提に、本件における損害額について検討する。
ア 被告製品の販売台数
 被告による被告製品の販売台数が合計4万3000台であることは、争いがない。
イ 原告の実施能力
 まず、原告の実施能力については、上記のとおり、特許法102条1項にいう「実施の能力」は、当該特許権の存続期間内に一定量の製品の製造、販売を行う潜在的能力を備えていれば具備されると解されるところ、本件においては、原告は平成10年当時年間二十数万台のパチスロ機の製造能力を有し、パチスロ機の市場において約40%の占有率を有していた(これらの事実は当事者間に争いがない。)というのであるから、原告が同項にいう「実施の能力」を備えていたことは明らかというべきである。
ウ 単位数量当たりの利益の額
 前述のとおり、特許法102条1項にいう「単位数量当たりの利益の額」は、仮に特許権者において侵害品の販売数量に対応する数量の権利者製品を追加的に製造販売したとすれば、当該追加的製造販売により得られたであろう利益の単位数量当たりの額(すなわち、追加的製造販売により得られたであろう売上額から追加的に製造販売するために要したであろう追加的費用(費用の増加分)を控除した額を、追加的製造販売数量で除した単位数量当たりの額)と解すべきである。
 これを本件についてみると、次のとおりである。
(ア) 原告の商品の販売価格
 前述のとおり、特許法102条1項にいう「侵害の行為がなければ販売することができた物」は、侵害に係る特許権を実施するものであって、侵害品と市場において排他的な関係に立つ製品を意味するものであるところ、本件においては、弁論の全趣旨によれば、本件特許発明の実施品であり、被告製品と同じころ販売されていた同じCT機である原告の商品「ウルフエムX」(原告商品ウルフ)及び「チェリー12X」(原告商品チェリー)は、これに当たるものと認められる。
 これらの原告商品の販売価格は、個別の販売先や販売時期によって若干異なり、完全に同一価格ではないが、証拠(甲27ないし30)によれば、原告商品ウルフの平均販売価格は、33万3632円、原告商品チェリーのそれは、33万5264円であることが認められる。したがって、両商品の平均販売価格は、33万4267円となる。
 (2,201×333,632+1,403×335,264)÷(2,201+1,403)=334,267
(イ) 原告商品の経費
@ 製造原価
 証拠(甲23及び24、甲40ないし46、書証の枝番号は省略する。)及び弁論の全趣旨によれば、原告商品ウルフについては、(a)平成10年10月度に1371台製造され、その原価(組立工賃含む。以下同じ。)の合計は1億2782万0984円であって、1台当たり製造原価は約9万3232円であったこと、(b)同年11月度には703台製造され、その原価の合計は6227万3744円であって、1台当たり製造原価は約8万8583円であったこと、(c)同年12月度には122台製造され、その原価の合計は1078万4241円であって、1台当たり製造原価は約8万8395円であったこと、(d)平成11年1月度には6台製造され、その原価の合計は52万3046円であって、1台当たり製造原価は約8万7174円であったこと、が認められる。したがって、原告商品ウルフの全製造台数2202台の製造原価平均は1台当たり9万1463円であると認められる。
 同様に、上記証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告商品チェリーについては、(a)平成10年10月度に128台製造され、その原価の合計は1204万2078円であって、1台当たり製造原価は約9万4079円であったこと、(b)同年11月度には909台製造され、その原価の合計は8133万1087円であって、1台当たり製造原価は約8万9473円であったこと、(c)同年12月度には367台製造され、その原価の合計は3156万2202円であって、1台当たり製造原価は約8万6001円であったこと、(d)平成11年1月度には11台製造され、その原価の合計は97万4959円であって、1台当たり製造原価は約8万8633円であったこと、が認められる。したがって、原告商品チェリーの全製造台数1415台の製造原価平均は1台当たり8万8983円であると認められる。
 以上によれば、原告商品ウルフ及び同チェリーの平均製造原価は9万0498円となる。
 (2,201×91,463+1,403×88,983)÷(2,201+1,403)≒90,498
A 広告宣伝費
 一般的にいえば、宣伝広告費は、その性質上、特定の商品について一定の宣伝広告が必要であるにしても、商品の販売数量が増加した場合にそれに応じて広告宣伝の量を増加しなければならないといったものではない。
 したがって、一般的にいえば、広告宣伝費は、原告商品を追加的に製造販売するに当たって追加的に支出が必要となる費用ということはできず、控除の対象とはならない。
 しかしながら、本件においては、原告は、原告商品ウルフ及び同チェリーの販売に当たって販売促進物品を利用しているところ、このような物品(景品)は、その性質上、商品の販売数量に応じた数量を必要とするものであるから、控除の対象となるものというべきである。
 弁論の全趣旨によれば、原告商品ウルフ及び同チェリーの販売に当たって使用された販売促進物品の費用は各商品180万2000円であり、合計360万4000円であるから、1台当たり1000円となる。
 (1,802,000+1,802,000)÷(2,201+1,403)=1,000
B 販売費
 証拠(甲26。平成10年度における原告の損益計算書)によれば、人件費のうち、営業部門の人件費の「販売インセンティブ」の金額が、10億6531万8328円であること、販売手数料が4億2309万0784円、運搬費の金額が9820万9793円であることがそれぞれ認められる。
 これらを、原告の総売上中、原告商品ウルフ及び同チェリーの売上げの占める割合で除すると、1台当たりの金額は5291円となる。
 (1,065,318,328+423,090,784+98,209,793)×(334,267×3,604÷100,240,715,186)÷3,604≒5,291
C ロイヤリティ
 弁論の全趣旨によれば、原告の支払っているロイヤリティは、いずれも1台当たり日電協証紙代1365円、日電特許証紙代2000円で、合計3365円であると認められる。
 以上によれば、原告商品について販売金額から控除すべき費用は、1台当たり10万0154円となる
 90,498+1,000+5,291+3,365=100,154
 なお、被告及び被告補助参加人は開発費を控除すべきものであると主張するが、開発費は、原告商品を追加的に製造販売するに当たって追加的に支出が必要となる費用ということはできず、控除の対象とはならない。
 また、被告及び被告補助参加人は、原告の平成10年当時における製造能力に照らせば、被告製品と同数の原告商品を追加的に製造するためには一定の経費の増加が確実であるとして、15.5%の変動経費の増加を控除すべきであると主張する。しかし、前に説示したとおり、特許法102条1項にいう「侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額」は、侵害品の販売時に厳密に対応する時期における具体的な利益の額を意味するものではなく、侵害品の販売により影響を受ける販売時期を通じて侵害品の販売数量に対応する数量の権利者製品の追加的な製造販売をした場合を想定した仮定的な金額である。被告及び被告補助参加人の上記主張は、そもそも「単位数量当たりの利益の額」について誤った理解を前提とするものである上、変動費用の増加として主張する内容は抽象的なものにとどまり、具体的に検討可能なものではない。原告商品の販売金額から控除すべき費用は、上記の項目の費用で尽きているというべきであり、被告及び被告補助参加人の主張は、採用できない。
(ウ) 寄与率
 原告商品はパチスロ機であるところ、前記認定の事実によれば、パチスロ機には多数の特許権等が用いられているものであり、現に原告商品についても、これに使用されている特許権等の実施料として1台当たり3365円(日電協証紙代1365円、日電特許証紙代2000円の合計額)を支払っているものである。
 そうすると、本件特許発明が、パチスロ機に遊技者が技量を発揮できるCTという新しい方式を導入するものであって、従来のパチスロ機にない魅力を付与し、パチンコホールへの顧客動員に寄与するものであるという点を考慮するとしても、原告商品の利益額中の本件特許発明に対応する額は、80%を超えるものではないというべきである。
(エ) 小括
 上記(1)ないし(3)により計算された数額により「単位数量当たりの利益の額」を計算すると、本件特許権に対応する原告商品ウルフ及び同チェリーの1台当たりの利益の額は、18万7290円となる。
 (334,267−100,154)×0.8=187,290
エ 特許法102条1項ただし書に該当する事情
(ア) 被告及び被告補助参加人は、平成10年当時における原告の市場占有率に照らせば、被告製品の販売数量のうち原告が販売できたのは原告の市場占有率に応じた40%にとどまるものであり、また、被告製品はキャラクター、絵柄配置、音楽等において原告商品にない独自の特徴を有していたものであるから、この点に照らしても、原告の市場占有率を超えた販売は原告においてできなかったと主張する。
 しかしながら、特許法102条1項を、排他的独占権という特許権の本質に基づき、侵害品と権利者製品が市場において補完関係に立つという擬制の下に設けられた規定と解し、侵害品の販売による損害を特許権者の市場機会の喪失ととらえる立場に立つときには、侵害者の営業努力や、市場における代替品や競合品の存在をもって、同項ただし書にいう「販売することができないとする事情」に該当すると解することはできないのは、前に説示したとおりである。
 この点に照らせば、被告及び被告補助参加人の主張する内容は、いずれも同項ただし書にいう「販売することができないとする事情」に該当するものではない。被告及び被告補助参加人の主張は、採用できない。
(イ) しかしながら他方、前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば、パチンコホールにおいては、同業者間において激しい新機種導入競争が行われており、一般的にパチスロ機については頻繁に新台との入替えが行われていることが認められる。
 そして、本件においては、別表2の記載のとおり、被告製品のうちイ号物件は平成10年3月から販売されたものであり、その後継機種であるロ号物件は同年11月から販売されたものであるが、他方、原告商品はいずれも平成10年10月から販売されたものである。
 そうすると、被告製品のうちイ号物件については、CT機であることを理由としてパチンコホールにおける本来のパチスロ機の更新時期に先駆けて購入されたなど、新たな需要を掘り起こしたものがあるにしても(この分については、原告商品の後日の販売を妨げたという擬制が成立し得る。)、一部にはパチンコホールにおける定期的なパチスロ機の新台入替え需要に基づいて購入されたものが含まれていることは否定できない。原告商品販売開始前のイ号物件の販売数のうち、このような定期の新台入替えとして購入された需要に対応するものについては、仮にイ号物件が販売されていなかったとしてもパチンコホールにおいて当時の定期的な入替え計画に従って同時期に別機種のパチスロ機が購入されていたはずであるから、その時点において原告商品が販売されていなかったのであれば、イ号物件に代わって原告商品が販売できたはずであると擬制することは、不可能である。
 すなわち、原告商品の販売に先立って販売されたイ号物件については、CT機としての性能を理由としてパチンコホールにおける需要を喚起し、後日における原告商品の販売に影響を与えたと擬制される部分がその多くを占めているにしても、少なくとも一部分には、CT機であることとは無関係にパチンコホールにおける定期的な新台入替え需要に対応するものとして販売されたものが含まれているというべきであるが、後者については、原告においてこれに対応する原告商品を「販売することができなかった事情」が存在するというべきである。
 そして、前記認定事実において、イ号物件の販売時期及び販売数量を同時期における他のパチスロ機と比較するなど、諸般の事情を総合するときには、イ号物件の販売数3万4000台のうち、少なくともその10%に当たる3400台については、パチンコホールにおける定期的な新台入替え需要に対応するものとして販売されたもので、後日における原告商品の販売に影響したものではないと認めるのが相当である。
 なお、この点は、被告において明確に主張しているものではないが、被告製品及び原告商品がパチスロ機であるという事実から(この事実は、当事者双方から主張されている争いのない事実である。)、その性質上当然に導かれる事情であるから、裁判所としては、考慮の対象とすることができるものと解する。
(3) 損害額のまとめ
 上記によれば、本件において、原告が被告に対し、特許法102条1項に基づいて賠償を請求することができる損害額は、本件特許権に対応する原告商品ウルフ及び同チェリーの1台当たりの利益の額18万7290円に被告製品の販売数量3万9600台(イ号物件のうち3万0600台及びロ号物件の全数9000台の合計)を乗じた74億1668万円と認めるのが相当である(前述のとおり、特許法102条1項の損害額がその性質上概算額であることに照らし、1万円未満は切り捨てる。)。
 187,290×(34,000×0.9+9000)=7,416,684,000
6 被告及び被告補助参加人のその余の主張について
 また、被告及び被告補助参加人は、原告や被告補助参加人らによって形成された実施許諾契約関係が存在している限り、原告は、本件特許権に関して、被告補助参加人に対して案分実施料の支払を求めることができるにとどまり、被告に対して特許権侵害を理由とする損害賠償を請求することはできないと主張する。
 被告及び被告補助参加人の上記主張は、結局のところ、本件特許権について被告が被告補助参加人の下における実施許諾契約関係を介して再実施許諾を受けているという前記抗弁を繰り返すものであって、本件特許権が被告のいう再実施許諾関係の下における許諾の対象となっていない場合に、これと別個の独立した抗弁たり得るものとはいえない。
 既に説示したとおり(上記4参照)、本件特許権は、許諾の対象となっているものではなく、上記実施許諾契約は、これに参加している特許権等の保有者の保有する、出願中のもの及び将来登録されるものも含め、すべての知的財産権を実施許諾の対象としているとは認めることはできず、特許権等の保有者は、その保有するすべての知的財産権を許諾の対象としているものではない。被告及び被告補助参加人の主張するところは、許諾の対象とされていない権利を許諾の対象とされている権利と同等に扱うことを求めるものであって、到底採用することはできない。
 同様の理由により、上記のような事情を根拠にする被告及び補助参加人の権利濫用の主張も、採用できない。
7 結論
 以上によれば、原告の本訴請求は74億1668万円及びこれに対する侵害行為の後である平成11年10月30日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 三村量一
 裁判官 村越啓悦
 裁判官 青木孝之


被告製品目録
1 イ号物件
 製品名を「ウルトラマン倶楽部3」とするパチンコ型スロットマシン
 その構成は、別紙イ号物件説明書のとおり
2 ロ号製品
 製品名を「ジャパン2」とするパチンコ型スロットマシン
 その構成は、別紙ロ号物件説明書のとおり

 イ号物件説明書第1図第2図−1第2図−2第3図−1〜3(A)−1、2、(B)−1、2、(C)−1、2、(D)−1、2ロ号物件説明書第1図第2図−1第2図−2第3図−1〜3(A)−1、2、(B)−1、2、(C)−1、2、(D)−1、2別表1、2
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