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【事件名】チラシのイラスト事件
【年月日】平成14年3月1日
 京都地裁 平成12年(ワ)第2116号 損害賠償請求事件(以下「本訴事件」という。)
 /平成13年(ワ)第1791号 売掛代金請求反訴事件(以下「反訴事件」という。)
 (口頭弁論終結日 平成13年11月12日)

判決
本訴事件原告・反訴事件被告(以下「原告」という。) 株式会社アド・コム
訴訟代理人弁護士 竹下義樹
同 北村純子
同 吉田雄大
本訴事件被告・反訴事件原告(以下「被告」という。) 大日本印刷株式会社
訴訟代理人弁護士 相馬功
同 杉田禎浩
本訴事件被告(以下「被告」という。) 生活協同組合おおさかパルコープ
訴訟代理人弁護士 乕田喜代隆
同 稲田堅太郎
同 江野尻正明
同 中島宏治


主文
1 被告生活協同組合おおさかパルコープは、原告に対し、193万7726円及びこれに対する平成12年8月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告大日本印刷株式会社は、原告に対し、4万1200円及びこれに対する平成10年6月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 被告大日本印刷株式会社の反訴を却下する。
5 訴訟費用は、本訴事件中原告と被告生活協同組合おおさかパルコープの間に生じたものについてはこれを10分し、その1を同被告の負担とし、その余を原告の負担とし、原告と被告大日本印刷株式会社の間で生じたものについては、これを20分し、その1を同被告の負担とし、その余を原告の負担とし、反訴事件については被告大日本印刷株式会社の負担とする。
6 この判決の1、2項は仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
(本訴事件)
1 被告らは、連帯して、原告に対し、1627万3128円及びこれに対する平成12年8月22日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 被告大日本印刷株式会社は、原告に対し、20万円及びこれに対する平成10年6月9日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用中、請求1項に係る部分は被告らの、2項に係る部分は被告大日本印刷株式会社の負担とする。
4 1、2項につき仮執行宣言
(反訴事件)
1 原告は、被告に対し、89万4600円及びこれに対する平成11年7月6日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 反訴にかかる訴訟費用は原告の負担とする。
3 1項につき仮執行宣言
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本訴事件は、@原告が、被告生活協同組合おおさかパルコープ(以下「被告コープ」という。)から商品チラシの印刷を受注した被告大日本印刷株式会社(以下「被告大日本印刷」という。)の著作権侵害ないし不正競争行為について被告らに抗議したところ、被告らが共同して原告の取引先に圧力をかけ、取引を停止させたとして、原告が、被告らに対し、不法行為に基づく損害賠償として、1627万3128円及びこれに対する平成12年8月22日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の連帯支払を求め、A被告大日本印刷が上記商品チラシに関して著作権侵害又は不正競争行為を行ったとして、原告が、被告大日本印刷に対し、著作権侵害の不法行為ないし不正競争防止法4条本文に基づく損害賠償として、20万円及びこれに対する不法行為ないし不正競争の日以降である平成10年6月9日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。
 反訴事件は、被告大日本印刷が、原告に対し、米袋の売掛代金89万4600円及びこれに対する弁済期の翌日である平成11年7月6日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。
2 基本的事実関係
(1) 当事者(当事者間に争いがない。)
 原告は、宣伝計画の企画・立案・実施等を業とする株式会社である。
 被告大日本印刷は、製版、印刷及び製本並びにこれらの製品の販売等を業とする株式会社である。
 被告コープは、組合員の生活に必要な物資を購入し、もしくはこれを加工し又は生産して組合員に供給することを業とする生活協同組合であり、大阪かわち市民生活協同組合(以下「かわち生協」という。)ほか2つの生活協同組合が合併して組織を変更したものである。
(2) 原告と被告コープの取引状況及び本件紛争の発生(甲20、乙3、弁論の全趣旨)
ア 従前の取引状況
 原告は、昭和60年ころ、かわち生協からチラシの制作注文を受け、以後取引を続けてきた。
 原告は、平成6年及び平成7年に、被告コープの情報チラシである「びすけっと」の制作販売を受注した。「びすけっと」は、被告コープのサービス事業部が発行する、旅行・住宅・くらし・共済・保険等の週刊情報誌である。
イ 被告大日本印刷の参入
 被告大日本印刷は、平成7年の「びすけっと」制作の入札に参加した。この年は原告が落札し、原告は被告大日本印刷に印刷を下請させた。
 被告大日本印刷は、平成8年にも「びすけっと」の入札に参加し、落札した。
 原告は「びすけっと」の仕事は失ったが、被告コープから、同被告にふとん関係の商品を納入している株式会社なとり産業(以下「なとり産業」という。)及びふとんの丸洗い等の役務を提供している株式会社白光(以下「白光」という。)を紹介され、両社から、被告コープに納入する単発のチラシの印刷を受注した。
ウ 被告大日本印刷の行為
 上記落札の後、被告大日本印刷が制作した「びすけっと」には、2回にわたり、原告が受注していた「びすけっと」に使用され、また、その後原告がなとり産業や白光の受注で印刷していたふとん関連チラシに使用されていたのと同じ人物画(以下「本件イラスト」という。)のカットが使用されていた。
エ 原告と被告らの協議
 原告は、平成10年5月、被告大日本印刷が制作している「びすけっと」が本件イラストについての原告の著作権を侵害していると申し入れ、原告と被告らは、平成10年6月15日、協議する機会をもった(以下「本件協議」という。)。
(3) 反訴請求原因(当事者間に争いがない。)
ア 被告大日本印刷は、平成11年4月21日から同年5月20日までの間、原告の発注により、米袋各種を製作して納品した。
イ 上記売掛代金は合計89万4600円であり、その支払期日は平成11年7月5日である。
(4) 本訴及び反訴事件の訴訟経緯(顕著)
 本訴事件は平成12年8月4日提起され、同年9月28日に第1回口頭弁論が開かれ、その後、原・被告らの主張が一応出揃い、平成13年5月7日の第5回口頭弁論期日において原告代表者及び被告コープ申請の証人2人の証拠決定がされたところ、平成13年7月2日付で反訴事件が提起され、同月12日の第6回口頭弁論期日で反訴状が陳述された。同口頭弁論期日において、被告大日本印刷の反訴請求債権に対し、原告が支払猶予の抗弁と相殺契約の抗弁を主張し、被告コープ申請の証人2名の証人尋問が実施され、また、被告大日本印刷申請にかかる証人2人の証拠決定がされた。そして、平成13年8月2日の第7回口頭弁論期日において原告代表者本人尋問及び被告大日本印刷申請の証人2名の証人尋問が実施され、同年9月25日の第8回口頭弁論期日では、原告が反訴請求債権に対し、訴訟上の相殺の抗弁を提出した。さらに、平成13年11月12日の第9回口頭弁論期日において、被告大日本印刷が反訴請求債権と同一債権を自働債権として、本訴請求債権中、同被告に対する著作権侵害ないし不正競争防止法違反に基づく請求債権20万円と対当額で相殺する旨の抗弁を提出した。
3 争点
T 本訴事件について
(1) 被告大日本印刷の「びすけっと」印刷に関する著作権侵害又は不正競争行為の成否
ア 本件イラストの著作権の帰属
イ 同被告による本件イラストの使用が不正競争防止法2条1項3号の商品形態模倣行為に該当するか。
ウ 同被告の著作権侵害行為ないし不正競争行為についての故意・過失の有無
(2) 被告らの不法行為の成否(被告コープは、なとり産業及び白光に対し、原告との取引をやめるよう不当な圧力をかけ、被告大日本印刷はこれに関与したか。)
(3) 被告らが損害賠償義務を負う場合に、原告に賠償すべき損害の額(著作権侵害ないし不正競争行為に基づく損害賠償請求について、年6分の遅延損害金を付すことの当否を含む)
(4) 被告大日本印刷の主張する相殺の抗弁は二重起訴に該当し許されないか。
U 反訴事件について
(1) 反訴の適法性
(2) 原告の抗弁(支払猶予の合意、相殺・相殺契約)の成否
第3 争点に関する当事者の主張
T 本訴事件について
1 争点(1)(被告大日本印刷の「びすけっと」印刷に関する著作権侵害又は不正競争行為の成否)について
(1) 本件イラストの著作権の帰属
原告の主張
 以下のとおり、本件イラストの著作権は原告に帰属し、少なくとも、原告はその独占的通常実施権を有するところ、被告大日本印刷はこれを「びすけっと」において無断使用した。
ア 原告は、本件イラストをA(以下「A」という。)に発注して制作させたところ、本件イラストは原告ないしAの精神作業の発現であり、かつ、独創性を有している。
イ Aは、原告に対し、本件イラストの原画自体を提供し、原告はこれを管理しているから、その著作権は原告に帰属する。そうでないとしても、Aから独占的通常実施権の設定を受けたものというべきである。
被告らの主張
ア 本件イラストは、被告コープの依頼で被告コープの業務のためにのみ使用することになっていたところ、本件イラストは、ふとん関連チラシと一体として、ふとんの洗い、打ち直しには資源を再利用して地球環境に負荷を与えないとする被告コープの思想を表しているものである。このような事実関係のもとでは、本件イラストの著作権は被告コープに移転したものというべきである(被告コープの不法行為に関連する主張)。
イ そうでないとしても、本件イラストの著作権はAが有している。このことは、原告が本件イラストを他用途に転用するときこれをAに通知するとの原告代表者の認識からも裏付けられる。
ウ 仮に、本件イラストの原画の所有権が原告に移転したとしても、それは本件イラストの著作権が原告に移転することを意味しない。また、原告は、Aに対し、本件イラストの債権的利用請求権(非独占的通常実施権)を有するにすぎない。
(2) 被告大日本印刷による本件イラストの使用が不正競争防止法2条1項3号の商品形態模倣行為に該当するか
原告の主張
ア 被告大日本印刷による本件イラストの冒用は、本件イラストの流用により「びすけっと」の制作コストを切りつめ、早期に「びすけっと」を制作するためにされたものである。すなわち、同被告は、原告が本件イラストの開発に費やした労力ないし費用の成果を、完全にただ取りしたものであり、本件イラストの形態を模倣したものといえる。
イ 著作物の隷属的模倣行為と、商品形態模倣行為を排他的に考える必要はなく、不正競争防止法と著作権法の重畳的適用は成立し得る。
被告大日本印刷の主張
 不正競争防止法2条1項3号の商品とは、それ自体取引の対象となるものを意味するから、本件イラストはこれに該当しない。
(3) 被告大日本印刷の著作権侵害ないし不正競争行為についての故意・過失の有無
原告の主張
ア 被告大日本印刷は、平成7年に「びすけっと」の印刷を原告から下請しており、本件イラストの著作権について十分知り得る立場にあった。
イ 同被告が制作した「びすけっと」は、本件イラストについて、印刷粒子の荒れが目立つものであり、原版から作成せず、印刷物から複製した場合に特有の「モアレ現象」がみられた。さらに、色彩の濁りや裏写りなどもあったから、同被告が本件イラストが複製であることを認識していなかったはずはない。
ウ 同被告は、被告コープから本件イラストの原画の提供も受けておらず、2週間連続で侵害行為を行っており、著作権侵害について故意があったことは明らかである。
被告大日本印刷の主張
ア 被告大日本印刷と被告コープは、平成8年以来、取引により信頼関係を形成してきたところ、「びすけっと」には本件イラスト以外に高度な創作性を感じさせる著名キャラクターのイラストや、タレントの写真が使用されていたが、それらについては適正に処理されていることが被告コープから示唆されており、被告大日本印刷としては安堵感をもっていた。
イ 平成10年3月19日、被告コープにおいて、被告コープのB課長(以下「B」という。)と被告大日本印刷の関連会社である株式会社DNPメディアクリエイト関西(以下「DNPメディアクリエイト関西」という。)のCディレクター(以下「C」という。)とが「びすけっと 5−2」の制作打ち合わせを行った。その際、Cは、Bから、掲載原稿として、以前被告コープが発行したとされるチラシ印刷物そのもの(刷本)を刷本分解(既に印刷されている刷本を直接印刷用画像データに変換する)のための原稿として受領した。その際、Cは、Bから、当該チラシに掲載されているイラストを使用してもよい旨の明確な回答を得ている。
ウ 以上のことから、被告大日本印刷には故意・過失は存在しない。
2 争点(2)(被告らの不法行為の成否ー被告コープは、原告の取引先に原告と取引をやめるよう不当な圧力をかけ、被告大日本印刷はこれに関与したか)について
原告の主張
(1) 原告と被告コープの取引について
 原告と被告コープの取引は、景気の影響は受けながらも、順調に進んできた。ところが、被告大日本印刷は、平成7年の「びすけっと」の入札に参加してきた。この年は原告が落札したものの、原告としては、大企業である被告大日本印刷が参入してきたことに危惧を抱いた。そのため、原告は、被告大日本印刷との競合を避けるため、印刷業者をあえて被告大日本印刷に変更したのである。しかし、被告大日本印刷は、平成8年も「びすけっと」の入札に参加し、落札してしまった。
(2) 本件協議について
 本件協議において、被告らの対応は全く誠意のないものであった。
 原告代表者は、大企業の手段を選ばない利益至上主義は問題であり、今回の著作権侵害行為についても、被告大日本印刷が手段を選ばない利益至上主義から、大手の強みで中小の仕事を荒らしている旨、指摘した。
 なお、被告コープは、原告代表者が、「場合によっては今入っているチラシ(7月3日納品・同月13日発行予定の、白光発注にかかるふとんの丸洗いの単発チラシのこと)の仕事があるが、あれぐらいは知れているのでストップする」と恫喝した旨主張するが、原告代表者は、原告と被告コープの信頼関係回復を第一に考え、「今回の著作権侵害は悪質であるので、うやむやに済ませてしまうと、問題の再発は容易に予想できるところである。きちんと解決しておかない限り、今後の仕事ができなくなるおそれがあるので、真相の究明をしっかり行ってもらいたい」旨述べたにすぎない。
(3) 被告らの不法行為(取引妨害)
 ところが、Bは、平成10年9月ころ、なとり産業及び白光に対し、原告を「ややこしい会社」ないし「裁判を起こすような会社」とした上で、原告とは取引しない方がいい旨述べ、暗に原告との取引をやめるように圧力をかけた。これを受け、なとり産業と白光は、原告との取引を中止してしまった。
 上記行為は、直接的には被告コープの一課長が行ったものであるが、上記の経緯からすれば、被告らは共同の意思で、あるいは相通じて、これを行ったことが明らかである。
被告コープの主張
(1) 原告と被告コープの取引について
ア 原告と被告コープの取引は、原告に対して継続的に発注することを約したものではない。被告コープ発足当時は、宣伝物で一定の取引があったが、商品関係ニュースや組合員向け資料の改善統合の中で、原告との取引は減少していった。
イ 被告コープは、「びすけっと」について平成6年度から入札を行うことにしたところ、原告が落札した。しかし、原告は前回までの業者である寺崎商会に比べ、社員の力量が弱く、企画アドバイスや効果的な紙面作りの点で満足のいくものではなかった。さらに印刷ミスもあり、被告コープにおいて改善を要請していた。
 平成7年に被告大日本印刷が入札に参加したが、被告コープは、原告が上記指摘した点を改善することを前提として原告に発注した。平成8年は被告大日本印刷が受注したが、公正な入札、落札の結果である。
ウ その後、被告コープは、原告に対し、単発のチラシ(被告コープのサービス事業部の販売促進やキャンペーン等に対応した不定期の情報誌。その作成は、直接被告コープが行うものと、取引業者が行うものがある。)等を発注していた。
(2) 本件協議について
ア 原告は、平成10年5月、被告コープに対し、被告大日本印刷による「びすけっと」のふとんの宣伝に使用したカットは、被告コープが原告に依頼して作成し、ふとん関連チラシに使用していたカットを無断で使用したものであると申し出た。
イ これに対応するための本件協議の席において、原告代表者は、「これは著作権の問題ではない。大日本印刷は、これまで中小の印刷会社が係わってきた生協陣営への拡大に乗り出してきている。大日本印刷は、生協から手を引くべき。成り行きによっては世論に訴える。弁護士にも相談するが、新聞や議員に訴えることも考えている。パルコープの仕事はもらいたいが、主張すべきことは主張する。場合によっては、今入っているチラシの仕事があるが、あれぐらいは知れているのでストップする。」と恫喝した。
ウ 仮に、ふとんの丸洗いのチラシがストップされると、業者がふとん関連の注文を受けることはできないし、組合員に組織的な混乱が起こり、Bが責任を持つべき事業計画(年間実績約4000万円中、ふとん関連の実績は約1500万円で4割を占めている。)が大幅に狂う。Bは、何としても計画通りにふとんの丸洗いのチラシを入れなければならないと気が気ではなかった。しかも、原告の要求は、実質的には、大日本印刷と手を切り「びすけっと」を原告に発注せよというもので、被告コープには到底受け入れられるものではない。
エ Bは、上記のような事態を回避するために、なとり産業と白光に電話をし、なとり産業に対しては、「アドコムともめている。もし、なとり産業の方で別の印刷会社とつながりがあるなら、そちらの方でパルコープのチラシを作ってもらえないか。」と、白光に対しては、「著作権問題でもめている。そんなことはないと思うけど、もしまたチラシをストップすると言われたら、非常に大変なんで、困るんで、できたら今後のチラシについては、別の印刷業者に頼んでもらえないか。」と、それぞれ1回だけ話したのである。
(3) 原告の被告大日本印刷排除の意図について
ア 原告は、平成10年度の「びすけっと」の受注について、価格を書いた見積書と白紙の見積書を同封し、被告コープの指示通りの価格で受けるので発注してほしいと申し入れてきたことがある。
イ 原告と被告コープが平成11年2月、3月に話合いをもった際、原告代表者は、金額の高い「びすけっと」の仕事がほしい、ふとん関連のチラシの仕事も戻ってくるのは難しいと思うが、被告コープからふとん業者に仕事を出すように伝えてもらうだけでよい旨述べている。
ウ 原告と被告コープの平成11年3月6日の話合いの際、原告代表者は、「いろいろ経過があるにせよ、実質的にはどれだけ見返りが最終的に取れるかだ。やはり見返りとしては『びすけっと』だ。」と述べて「びすけっと」の仕事を要求し、被告コープが被告大日本印刷を切る理由はない旨指摘したのに対しては、著作権問題で切ればよい旨述べた。
(4) Bの行為の違法性について
 上記事実経緯からすれば、原告は、前記のとおり、本件イラストの著作権が被告コープに帰属するにもかかわらず、その著作権侵害に藉口して、被告大日本印刷を被告コープとの取引から排除しようとしたものであり、Bは、これに対して、ふとん関連チラシがストップするような事態を回避するための対策を講じたもので正当な行動である。少なくとも、違法性判断については、原告が上記のとおり、ふとんの丸洗いのチラシのストップをちらつかせつつ、「びすけっと」の受注再開を画策していたことが十分に考慮されるべきである。
(5) 取引停止との因果関係について
 なとり産業や白光は、被告コープの意見に従わなければならない従属的関係にはない。両社が原告との取引を打ち切ったのは、価格の問題によるものである。
被告大日本印刷の主張
 被告大日本印刷は、Bの行為に関与していない。
 同被告は、原告がなとり産業や白光と取引を行うことについて利害関係を有しておらず、これを停止させる必要性は全くない。
3 争点(3)(被告らが損害賠償義務を負う場合に、原告に賠償すべき損害の額《著作権侵害ないし不正競争行為に基づく損害賠償請求について、年6分の遅延損害金を付すことの当否を含む》)について
原告の主張
(1) 取引先喪失による損害について
ア 原告はなとり産業に対しては、平成9年9月から平成10年8月までの1年間で2486万3240円の売上があったところ、平成8年9月から平成10年8月までの2年間の粗利益は960万2342円であった。
 白光に対しては、平成9年8月から平成10年8月までの1年1か月間(なお、期間中実際に取引があった月は3か月にすぎないので、後記損害額の試算に際しては、約1年間として計算している。)で207万7350円の売上があったところ、原告の粗利益は、概ね販売価格の3割である。
イ 被告らによる圧力の結果、原告と白光及びなとり産業の取引は平成10年9月には途絶えている。
ウ 原告が新たな取引先を開拓し、軌道に乗せるためには、約3年程度の期間を要する。
エ したがって、原告の損害(逸失利益)は1672万3128円となる。(計算式:(9602342円÷2年+2077350円×0.3)×3年=16723128円)
(2) 著作権侵害ないし不正競争防止法違反による損害について
ア 原告は、本件イラストのデザインの対価として、Aに対し35万円を支払った。ただし、この価格設定については、原告からAに継続的にデザインを依頼してきたことが背景にあり(原告とAの間では年間100万円弱の取引がある。)、一からデザインを行うとすれば、対価は60万円を下らない。
イ 本件イラストは、「びすけっと」全体のイメージ作りのため極めて大きな役割を果たしており、著作権法114条2項の「…著作権…の行使につき受けるべき金銭の額」については、商品販売価格の25パーセントとみるべきである。
ウ 原告が被告コープから請け負っていた際の「びすけっと」制作代金は、標準的なB4版4頁で一部当たり5円15銭であり、発行部数は概ね16ないし20万部程度であった。
エ 以上から、著作権法114条2項による損害は20万円を下らない。不正競争防止法5条1項、2項2号による損害も同様である。
(3) 著作権侵害ないし不正競争行為に基づく損害賠償請求について、年6分の遅延損害金を付する根拠
 被告大日本印刷が、原告に著作権が帰属する本件イラストを、自社が請け負って制作した印刷物に用いることは、業として行ったものであり、商行為であることは明らかである(商法502条6号、503条、52条1項)。
 そして、それ自体が不法行為であるから、遅延損害金は商事法定利率年6分によるべきである。
被告大日本印刷の主張
 本件においては、著作権の侵害者たるべき者と、被侵害者たるべき者は、本件イラストの複製行為について何の取引関係もない。
 また、合目的的な取引行為である商行為と、加害者の意図しない効果が生じる過失不法行為には本質的な違いがある。
 行為者の目的、それに応じた法律効果、利害関係人の期待、関心、不法行為法の目的等を具体的に本件イラストの使用に当てはめれば、これを商行為とみることはできない。
4 争点(4)(被告大日本印刷の主張する相殺の抗弁は二重起訴に該当し許されないか)について
被告大日本印刷の主張
 反訴は、本訴の防御の方法と関連する請求を目的とするものである。したがって、自働債権の存否について既判力が生じるとはいえ、相殺の抗弁の認定と反訴の裁判の矛盾抵触を招くおそれもなく、訴訟経済にも反しないため、民訴法142条に反しない。
U 反訴事件について
1 争点(1)(反訴の適法性)について
原告の主張
(1) 被告大日本印刷の反訴請求は、単なる売掛代金の請求(それも、「びすけっと」とは別個の米袋の売掛代金)であり、本訴の目的である請求又は防御の方法とは一切関連しない。
(2) また、反訴提起の時期は、争点整理が終了し、人証の実施の段階に入ってからであって、訴訟手続を著しく遅滞させる。
被告大日本印刷の主張
(1) 反訴の提起については、本訴の目的である請求又は防御方法(被告大日本印刷の相殺の抗弁)と関連している。
(2) 反訴請求債権の成立自体明白であること、原告の支払猶予ないし相殺合意の抗弁は曖昧であり、訴訟上の相殺の自働債権として主張するものは主張自体失当であることからすれば、反訴が著しく訴訟手続を遅延させるおそれもない。
2 争点(2)(原告の抗弁《支払猶予の合意、相殺・相殺契約》の成否)について
原告の主張
(1) 被告大日本印刷から納品される米袋には、誤配、遅配、仕上げ不良などが多々あった。
 また、原告が、突然の注文に対応できるよう米袋の完成品をストックするよう被告大日本印刷に求めていたのに、被告大日本印刷はこれをしなかった。
 このような被告大日本印刷のミスにより、原告は注文主からの値引き要求に応じざるを得なかった。
(2) このような事情があったために、原告は、被告大日本印刷の担当者に対し、「改善がみられないので、ペナルティを課す。金額については同被告に一任するが、具体的金額の提示があるまで、売掛代金については支払をストップする」旨申し向けた。これに対し、被告大日本印刷からはペナルティの額についての提案はなく、売掛代金の請求もなかったことから、原告としては、支払猶予ないし相殺契約が成立したものと考えていた。
(3) 原告が注文主からの値引き要求に応じざるを得なかったことによる損害(平成11年5月から1年内)50万円、原告が注文主から信頼を失い、注文を受けられなくなったり注文が減少したことによる損害100万円(ただし、平成11年6月から1年間と前年度の注文を比較した減少額の一部)を自働債権として、訴訟上の相殺をする。
第4 争点に対する判断
T 本訴事件について
1 争点(1)(被告大日本印刷の「びすけっと」印刷に関する著作権侵害又は不正競争行為の成否)について
(1)(本件イラストの著作権の帰属)について
ア 証拠(甲8の1・2、9、16の1ないし6、17、18、原告代表者本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、被告コープないしその下請業者から「びすけっと」や広告チラシ等の受注を受けた際、その制作のために、被告コープ用の人物画のイラストの制作をAに依頼し、Aはこれに応じて甲16の1ないし6記載の本件イラストを制作したが、用途によって人物の姿態等に若干の違いがあり、例えば、ふとんの丸洗いに関しては、甲16の1のイラストが制作されたこと、そして、原告からAに、平成9年3月21日、「パルコープ・ふとんの丸洗いチラシ」B4の2枚分名目で10万円、イラスト代名目で5万円が支払われ、平成10年5月11日、「生協ふとんうちなおし」のラフ・B3の2枚分名目で15万円が、イラスト代名目で5万円が支払われ、これらの支払と引換に本件イラストの原画そのものが原告に引き渡されていること、原告とA間に、本件イラストの原画の所有権及び著作権の処理についての明示的な合意はなく、原告は、業界慣行に照らし、本件イラストを被告コープのふとんのチラシ以外の全く異なる用途に使用する場合は、Aの了解を得る必要があるとの認識であったが、実際にはそのような事態はこれまでなかったことが認められる。
イ 上記事実関係によれば、本件イラストについて具体的表現行為をしたのはAであるから、本件イラストについては原始的にはAが著作権を有していたものと認められるが(なお、本件イラストが創作性を有することについては、その創作性の程度についてはともかく、当事者間に実質的に争いはない。)、イラスト代名目を含んで一括して金員が支払われていること、返還時期についての定めがあるとうかがわれないことからすれば、本件イラストの原画の所有権は原告に譲渡されたものと認めるのが相当である。
 これに加え、本件イラストは、もっぱら、原告が被告コープの「びすけっと」や他の広告チラシの印刷に用いるために制作され、それ以外の用途は実際上想定されていなかったものと推測されること、実際上も、本件イラストの複製は排他的に原告においてされていることからすれば、本件イラストの著作権そのものも原告に譲渡されたと認めるのが相当といえる。 原告は、本件イラストを被告コープのふとんのチラシ以外の全く異なる用途に使用する場合は、Aの了解を得る必要があるとの認識であったことは上記のとおりであるが、これは、本件イラストがもっぱら被告コープのふとんのチラシにその用途に合わせて使用することを前提に製作されたものであるため、他の用途に用いる場合は、対価の点を含め再協議の必要があるというものにすぎないと考えられるから、本件イラストの著作権が譲渡されたとの上記認定と矛盾しないというべきである。
ウ なお、被告らは、本件イラストは、被告コープの依頼で同被告の業務のためにのみ使用することになっていたことや本件イラストは、ふとん関連チラシと一体として、資源を再利用して地球環境に負荷を与えないとする被告コープの思想を表しているものであり、原告は本件イラストの著作権を保有して使用する利益を有しないことを理由に、本件イラストの著作権は被告コープに移転した旨主張する。しかし、同主張の趣旨自体明確でなく、仮に著作権がAから被告コープに移転したとの主張であるとすれば、これを認めるに足りる証拠はないし、原告から被告コープに移転したとの主張であるとしても、原告が被告コープからふとん関連の仕事を継続して受注していく上で本件イラストを保有する利益を有することは明らかであって、その他に、原告から同被告に対して著作権が譲渡されたことを認めるに足りる証拠はないから、やはり採用することはできない。
エ 以上のとおりであるから、被告大日本印刷が「びすけっと」に本件イラストを原告に無断で使用した行為は原告の著作権(複製権)侵害に該当するものといえる。
(2)(被告大日本印刷による本件イラストの使用が不正競争防止法2条1項3号の商品形態模倣に該当するか)について
 不正競争防止法2条1項3号にいう「商品」は市場において取引対象とされるものというと解されるところ、本件イラストは、それ自体が取引対象とされるものではなく、その複製が付されたチラシ、広告等が取引対象となるというべきであるから、被告大日本印刷による本件イラストの使用は、同法の商品形態模倣行為に該当するということはできない。
(3)(被告大日本印刷の著作権侵害ないし不正競争行為についての故意・過失の有無)について
ア 証拠(乙3、4、丙3、4、証人D《以下「証人D」という。》、同B《以下「証人B」という。》、同E、同C《以下「証人C」という。》)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(ア) 被告大日本印刷が「びすけっと」の印刷を受注することが決定した後の平成8年2月ころ、被告コープにおいて、同被告側からはBら、被告大日本印刷の100パーセント出資子会社であるDNPメディアクリエイト関西からはCらが出席して、「びすけっと」制作についての打ち合わせがもたれた。この席で、DNPメディアクリエイト関西側では、被告コープ側に対し、イラストや著名人の写真については、使用の許可のあるものを原稿として貰いたい旨申し入れたが、そこでは主として著名なキャラクター(ディズニーのキャラクターなど)のイラストが想定されていた。
(イ) 被告コープにおいては、ふとん関連の広告に関しては、同被告が発行する週刊情報誌の「びすけっと」とは別に、下請業者(なとり産業及び白光)が原告に印刷を発注する単発のチラシによっても行っていた。しかし、平成10年4月発行予定のふとんの丸洗いの単発チラシの枠が取れなかったことから、被告コープは、従前のチラシを参考にして、これを「びすけっと」に取り込むこととした。被告コープとしては、宣伝媒体が違うだけで宣伝内容は同じなので支障がないと考えたものである。
 そして、平成10年3月19日、被告コープにおいて、BとCが「びすけっと」5月2週号についての制作打ち合わせを行ったが、その際、Bは、Cに対し、掲載原稿として、以前被告コープが原告に注文して発行したふとん関係のチラシ(本件イラストも掲載されている。)そのもの(刷本)を刷本分解のための原稿として渡した。CがBに対し、「これ使ってもいいのですか」と聞くと、Bは、この内容で「びすけっと」に掲載するようにと答えた。
イ 上記認定事実に照らして検討するに、被告大日本印刷は、印刷業者としてイラスト等の著作権の取扱には慎重であるべきところ、担当者であるCは、Bに対し、本件イラストの掲載されたチラシを刷本として使用することの了解を得たのみで、本件イラストについての著作権者やその使用の許諾について確認することもなく、上記チラシからの複製という方法で本件イラストを使用したのである。さらに、同被告は、平成7年には、原告から「びすけっと」の印刷を下請していたのであるから、本件イラストの著作権が原告に帰属する可能性があることについては知り得る立場にあったといえる。そうすると、被告大日本印刷は、本件イラストに関する著作権侵害行為について過失があるといわざるを得ない。
 被告大日本印刷は、同被告と被告コープは、平成8年以来、取引により信頼関係を形成してきたところ、「びすけっと」には本件イラスト以外に高度な創作性を感じさせる著名キャラクターのイラストや、タレントの写真が使用されていたが、それらについては適正に処理されていることが被告コープから示唆されていたから過失がない旨を主張する。しかし、仮に、そのような一般的信頼関係があったとしても、個別事案である本件イラストに関する著作権侵害行為についての過失を否定するには足りないというべきである。
2 争点(2)(被告らの不法行為の成否《被告コープは、なとり産業及び白光に対し、原告との取引をやめるよう不当な圧力をかけたか。被告大日本印刷はこれに関与したか。)について
(1) 証拠(甲11、20、乙3、4、証人D、同B、原告代表者本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 原告代表者は、平成10年5月、被告コープに対し、被告大日本印刷による「びすけっと」のふとんの宣伝に使用したカットは、原告がふとん関連チラシに使用していたカットを無断で使用したものである旨申し入れ、本件協議の開催を要求した。
イ 原告代表者は、同年6月15日開催の本件協議において、「これは著作権の問題ではない。大日本印刷は、これまで中小の印刷会社が係わってきた生協陣営への拡大に乗り出してきている。大日本印刷は、生協から手を引くべきである。成り行きによっては世論に訴える。弁護士にも相談するが、新聞や議員に訴えることも考えている。パルコープの仕事は貰いたいが、主張すべきことは主張する。」旨を述べ、さらに、被告らの担当者に対し、著作権侵害の責任を1週間以内に明確にするように迫り、場合によっては、現在、被告コープから入っている仕事を止めざるをえない旨を発言した。
ウ 原告代表者のいう上記「現在入っている仕事」は、原告が白光から受けていたふとん丸洗いのチラシの仕事(7月3日納品・同月13日発行予定)であったが、Bは、これがストップされると、白光がふとん関連の注文を受けることはできず、組合員にも混乱を生ずると危惧し、本件協議の直後、白光にチラシに関して何か起こっていないか確認したが、白光からは、特に何もないとの返事であった。
エ 上記のふとん丸洗いのチラシは予定通り納入されたが、B及び担当部長のDは、原告の意図は、「びすけっと」の仕事を被告大日本印刷から奪い返すことにあり、今後実際に仕事を止めるようなこともやりかねないから、今後、ふとんチラシの仕事を原告に任せることはできないと判断した。そして、BはDと相談の上、白光及びなとり産業に電話し、白光に対しては、「著作権問題でもめている。そんなことはないと思うけど、もしまたチラシをストップすると言われたら、非常に大変なんで、困るんで、できたら今後のチラシについては、別の印刷業者に頼んでもらえないか。」と、なとり産業に対しては、「アドコムともめている。もし、なとり産業の方で別の印刷会社とつながりがあるなら、そちらの方でパルコープのチラシを作ってもらえないか。」と、それぞれ1回申し入れた。
(2) 上記認定事実に照らして検討するに、Bの上記の白光及びなとり産業に対する申入行為は被告コープの組織的な意思決定に基づくものであると評価すべきところ、これは、納入業者に対する影響力を認識しながら、原告への発注をやめさせる意図を持って申入をし、その目的を達したものであるから、原告に対する営業妨害的行為というべきであって不法行為を構成するといわざるを得ない。
 被告コープは、なとり産業や白光は、被告コープの意見に従わなければならない従属的関係にはなく、両社が原告との取引を打ち切ったのは、価格の問題によるものである旨主張するが、被告コープに商品や役務を納入する業者であるなとり産業や白光が、同被告の意向に無関心であり得るはずがないし、また、Bが取引停止を申し入れた後両社そろって価格を理由に取引を打ち切るというような偶然は想定し難いところであるから、同被告の上記主張は採用できない。
(3) 被告コープは、Bの行為は、ふとん関連チラシがストップするような事態を避けるための正当行為であって違法性が阻却される旨主張するので検討する。
 上記各証拠及び乙2の1ないし5によれば、原告は、平成10年の「びすけっと」の入札について、価格を書いた見積書と白紙の見積書を同封し、規制緩和等により大企業が生協にも進出してきていることによる苦境を述べ、アンフェアーではあるがとしながら自己への発注を求め、なお、被告コープの指示の価格で受注したいと申し添えるという営業活動をしていること、原告と被告コープの平成11年3月6日の話合いでは、原告代表者が、「びすけっと」及び単発チラシの仕事のいずれもなくなったので見返りがほしい、やはり、単価的にも「びすけっと」がほしい旨述べ、被告コープが被告大日本印刷を切る理由はない旨指摘したのに対しては、著作権問題で切ればよい旨示唆したことの各事実が認められる。
 以上の事実によれば、原告は、一貫して「びすけっと」を再度受注することを強く希望し、そのためにはなりふり構わぬ営業活動をし、また、本件イラスト問題も同要求と絡めて問題としたものといえ、これを考慮すれば、BないしDが、原告の意図が「びすけっと」の仕事を被告大日本印刷から奪い返すことにあり、原告はそのためには、今後実際にふとん関連の単発チラシの仕事を止めるようなこともやりかねないと考えたこと自体には一定の合理性があるといえる。しかし、原告が白光から受けていたふとん丸洗いのチラシの仕事(平成10年7月3日納品・同月13日発行予定)については、予定どおり納入されたところからすれば、その後に、ふとん関連チラシの納入確保の方法として、原告に事前に警告することもなく、なとり産業や白光に原告との取引停止を求める方法をとらなければならない客観的状況にあったとはいえず、Bの申入の違法性を否定することはできない。
(4) 原告は、被告らの共謀を主張するが、被告大日本印刷が被告コープの行為に関与したことを認めるに足りる証拠はない上、被告大日本印刷は、単発チラシの発行について利害関係を有しないから(原告との取引打切後、なとり産業も白光も、被告大日本印刷に発注したわけではない。甲11、証人B)、同被告の関与を事実上推測することもできない。
3 争点(3)(被告らが損害賠償義務を負う場合に、原告に賠償すべき損害の額《著作権侵害ないし不正競争行為に基づく損害賠償請求について、年6分の遅延損害金を付すことの当否を含む》)について
(1) 取引先喪失による損害について
 甲4ないし7(枝番を含む。)によれば、原告はなとり産業に対しては、平成9年9月から平成10年8月までの1年間で2486万3240円の売上があり、白光に対しては、平成9年8月から平成10年8月までの1年1か月間(ただし、実際に取引があったのは3か月である。)で207万7350円の売上があったことが認められる。
 また、原告が他社から依頼を受け、原告方において企画デザインから製版まですべて行う場合の原告の利益は、概ね販売価格の1割8分程度であるが、なとり産業に対しては、平成8年9月から平成10年8月までの2年間で、960万2342円の粗利益を上げていることが認められる(甲10、原告代表者本人)。
 次に、原告の逸失利益期間を検討するに、なとり産業については、原告との間に従前から良好な継続的取引関係があったから(甲11、原告代表者本人)、ある程度長期間の取引が見込めるといえ、2年を相当とするが(弁論の全趣旨)、白光との関係は余り密接ではなく、取引量も少なく、白光は従前から原告に対して価格についての申入もしており、原告代表者自身、白光が取引を打ちきることは仕方がないと考えていること(原告代表者本人)を考慮すれば、3か月を相当とする(弁論の全趣旨)。
 そうすると、取引停止による原告の損害は968万8631円(円未満切捨て)となる。(計算式:960万2342円+207万7350円×3/13×0.18=968万8631円)
 ところで、上記争点(2)について認定したところによれば、Bがなとり産業や白光に取引停止を求めたのは、本件協議の席で原告代表者が、場合によっては、現在入っている仕事を止めざるをえないと発言したことが発端となっているといえる。これに対する被告コープの対応は行き過ぎであり、違法性は認められるが、原告代表者の言動は交渉の一環としても著しく不相当であり(原告代表者は、本気にされるとは思わなかった旨本人尋問で供述するが、無責任な供述というよりほかはない。)、損害の発生について過失があるものとして、8割の過失相殺を認める。そうすると、過失相殺後の上記損害は193万7726円(円未満切捨て)となる。
(2) 著作権侵害による損害について
 本件イラストは、著名なキャラクターとは異なり、それ自体で顧客吸引力を有するものではない。また、本件においては、単発チラシの枠が取れなかったため、たまたま「びすけっと」に掲載されたという経緯があることからすれば、著作権法114条2項の「…その著作権…の行使につき通常受けるべき金銭の額」は、商品販売価格の2パーセントとするのを相当と認める。
 甲19の1ないし16によれば、原告が被告コープから請け負っていた際の「びすけっと」制作代金は、標準的なB4版4頁で一部当たり5円15銭であり、発行部数は概ね16万ないし20万部程度であったことが認められるところ、20万部を基礎として計算すると、著作権法114条2項による損害は4万1200円となる。(計算式:5.15円×200000(部)×0.02×2(回)=4万1200円)
(3) 著作権侵害に基づく損害賠償請求について、年6分の遅延損害金を付すことについて
 原告は、被告大日本印刷が、原告に著作権が帰属する本件イラストを、自社が請け負って制作した印刷物に用いることは、業として行ったものであり、商行為であることは明らかであるとし、それ自体が不法行為であるから、遅延損害金は商事法定利率年6分によるべきである旨主張する。
 しかし、商法514条の趣旨は、企業取引である商行為の当事者間において資金が効率よく運用されるのが通常であることに基づくものであるから、ここでいう「商行為によって生じた債務」は、商行為の目的とする法律効果として生じた債務ないしこれと同一性を有する債務を意味するというべきであり、原告の主張は理由がない。
4 争点(4)(被告大日本印刷の主張する相殺の抗弁は二重起訴に該当し許されないか。)について
 被告大日本印刷の相殺の抗弁の自働債権は、反訴請求債権と同一(その割合的一部)である。そして、同抗弁の提出時点において、反訴事件が係属している以上、民訴法142条に反するものとして却下を免れない。
U 反訴事件について
1 争点(1)(反訴の適法性)について
(1) 本訴が取引妨害ないし著作権侵害に基づく損害賠償請求であるのに対し、反訴請求は、これと無関係の米袋の売掛代金請求であるから、本訴の目的である請求又は防御の方法との関連性は認め難い。
 被告大日本印刷は、本訴の防御方法(被告大日本印刷の相殺の抗弁)と関連する旨主張する。しかし、反訴状が陳述されたのは、平成13年7月12日の第6回口頭弁論期日であるところ、被告大日本印刷の相殺の抗弁が主張されたのは、平成13年11月12日の第9回口頭弁論期日においてであり、反訴提起の時点では、上記相殺の抗弁は提出されていないから、同被告の主張は理由がない。
(2) 次に、反訴提起の時期について検討するに、前記「基本的事実関係(4) 本訴及び反訴事件の訴訟経緯」によれば、反訴は、本訴事件の基本的な主張が出揃い、人証の実施の段階に入ってから提起されたものであるところ、反訴請求原因については争いがないが、これに対する原告の抗弁が被告大日本印刷が主張するように証拠調べを要するまでもなく明らかに理由がないものとはいえず、この点についての証拠調べの必要性も否定し難いことからすれば、反訴提起は訴訟手続を著しく遅滞させる可能性が大きいというべきである。
(3) よって、反訴提起は不適法というべきである。
 したがって、争点(2)については判断を要しない。
V 結論
 よって、原告の本訴請求は主文1、2項の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却し、被告大日本印刷の反訴は不適法であるので却下することとする。

京都地方裁判所民事第2部
 裁判長裁判官 赤西芳文
 裁判官 本吉弘行
 裁判官 矢作泰幸
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